CLO(Card Linked Offer)事業を展開するFinTechスタートアップのカンム。同社は7月11日、VISAのプリペイドカード「Vandle」を今夏中にも発行することを明らかにした。クレジットカードの加盟店で利用できるプリペイドカードは、KDDIの「au WALLET」(Master)やLINEの「LINE Pay カード」(JCB)などの登場によってユーザーの認知も高まっている存在。スタートアップがこれを提供する意図はどこにあるのだろうか。
その前にカンムについてご紹介しておこう。同社の設立は2011年。シード期に独立系ベンチャーキャピタルのEast VenturesおよびANRIから、2015年末にアドウェイズ、iSGSインベストメントワークス、フリークアウト、三菱UFJキャピタル、TLMから合計1億2500万円の資金を調達している。
カンムでは2013年からは大手クレジットカード会社のクレディセゾンと提携してCLO事業を展開してきた。CLOとは、クレジットカードの利用履歴をもとに、カード会員の属性に最適な各種の割引情報や優待情報を提供するというもの。現在は大手小売店やEC、保険などの領域のクライアントを中心に取り扱い、送客手数料や送客後の成果報酬によって収益を得ている。カンム代表取締役社長の八巻渉氏によると、すでに事業単体で単月黒字化を達成している状況という。だが一方で課題もある。提携カード会社と直接契約している加盟店以外はCLOを利用できない(ざっくり言うと、カード決済において、イシュアー(カード発行者)とアクワイアラ(加盟店)が異なる場合は、決済に関する情報の一部を確認できないことがあり、最適なオファーを提案できない)ほか、オファーUIをカスタマイズできない(クレジットカードのオンラインサービス上で固定のバナーを提供する程度)という課題があった。これを解決するためには自らが決済情報を把握でき、かつさまざまな形でカード会員にオファーを提案できるプラットフォームを築く必要がある。これがカンムがプリペイドカード発行に至る経緯だ。
Vandleは、あらかじめ金額をチャージしておけば、VISAのカードが使える店舗・インターネット決済どこでも利用可能なプリペイドカードだ。あらかじめチャージする必要があるため、年齢制限や与信審査も必要ない。専用のアプリをインストールし、会員登録さえすればすぐにカード番号をが付与されてECの決済に利用できる。決済情報はリアルタイムに通知されるほか、今日いくら使ったか? 今週いくら使ったか?といったデータをアプリ上で表示する機能も用意する。
アプリ上からはバナー広告を一掃。CLOを用いて、ユーザーが興味あるであろう情報だけを提供するという。具体的には、行ったことある店舗の情報が関連付けて表示される、そのカードが店舗のポイントカードの代わりになるといったようなものになるという。また、Vandleは企業などが独自ブランドでプリペイドカードを発行することも可能となっている。あくまで例だが、出資するiSGSインベストメントワークスの親会社であるアイスタイルが、「@cosmeプリペイドカード」を発行することだって可能なわけだ。さらに言えば、自社サービス上で提供するポイントと、Vandleを通じた独自プリペイドカードを組み合わせることができれば、ネットとリアル両方で利用できる新たなポイントサービスを生み出し、また裏側では様々な決済データをもとに、より精度の高いCLOを実現できる。どこまでの範囲での話かはさておき、カンムではすでに複数の大手企業との提携を進めているところだという。
カンムではまた、今回の発表に合わせて、決済やマーケティング関連の3つの特許も取得している。今後はCLOで培ってきた決済データ解析の強みを活かして、自社で与信モデルを開発。独自のクレジットカードも発行する予定だという。この新しい与信モデルでは、既存の与信方法ではカードを作れなかった層にもクレジット機能を提供していく予定。