人工衛星の運用に欠かせない要素の一つがアンテナだ。資金を投入しリスクを背負って打ち上げた人工衛星も、地上で電波を送受信するアンテナを確保できなければ運用できない。この衛星用アンテナのシェアリング事業を手がけるインフォステラが、シリーズAラウンドで8億円を調達した。航空宇宙分野のスタートアップを中心に投資活動を展開するAirbus Venturesがリードインベスターとなり、早稲田大学発のベンチャーキャピタルであるウエルインベストメント、D4V、Sony Innovation Fund、そして既存投資家であるフリークアウト・ホールディングス、500 Startups Japanの6社を引受先とする第三者割当増資を実施した。出資比率は非開示。
調達した資金の使途は事業開発と人員拡充である。同社は自社開発の通信機器の開発と生産を予定しており、そのための資金に使う。同社CEOの倉原直美氏は「ソフトウェアエンジニアはすぐにでも増やしたい」と語る。例えばアドテクやゲームインフラ分野のスキルは宇宙分野でも活用できるそうだ。
同社はアンテナシェアリングプラットフォーム「StellarStation」のプロトタイプを完成させ、事業化直前の段階にある。倉原CEOは次のように話す。「宇宙ビジネスには、ロケット、衛星、地上設備の3つが欠かせない。ロケットや衛星ではスタートアップがいくつか出ているが、地上設備は参入が少ない」。同社はおそらく世界初となるクラウド型のアンテナシェアリング事業を目指す。その概要を把握するには以下の動画をどうぞ。
倉原氏は、もともとロケットを作りたくて宇宙開発の道を志したが、東京大学で超小型人工衛星「ほどよし」のプロジェクトで地上システムの開発マネージャーを体験した。起業した背景として、やはり東京大学発の超小型人工衛星スタートアップであるアクセルスペースなどの先行するこの分野のスタートアップの存在が刺激になった。「起業した時点では、アンテナシェアリングは必要だという確信があった」。宇宙開発分野を経験した起業家ならではの着眼点といえる。
今回の増資とともに社外取締役に加わったLewis Pinault氏(Airbus VenturesのManaging Investment Partner)が発表資料に寄せたコメントは、同社のビジネスの可能性をうまく要約しているので一部引用したい。「周回衛星打ち上げ数の増加や宇宙から得られるデータの重要性が増している現状において、それを支える地上側のアンテナが需要の急増に間に合っていない。一方、他社の衛星が上を飛ぶ間、ほとんどの時間その地上アンテナは待機状態となっている。インフォステラはこの状況を劇的に変える。彼らは世界中の何百ものアンテナを何千機もの衛星の運用のために活用することができる。アンテナの所有者の待機時間を減少させ、利益を向上させる。そしてリアルタイムのネットワークコントロールを得ることで、誰もが衛星運用者になり得る」。
人工衛星を運用するためのアンテナをシェアリングプラットフォームの枠組みにより使いやすくし、人工衛星運用者、アンテナ所有者、インフォステラと当事者全員が得をするビジネスモデルを目指す形といえる。
2018年にプラットフォームをリリース、事業展開へ
同社が目指すビジネスについては2016年10月のシードラウンド資金調達の記事でも説明した。当時はハードウェア(同社仕様の専用通信機を開発)とソフトウェアの開発が進行中の段階だったが、1年近くが経過し、同社の衛星アンテナシェアリングプラットフォームのプロトタイプは完成した。間もなくクローズ試験を開始する。クローズ試験では大学発のCubeSat(超小型人工衛星)プロジェクトのように密にコミュニケーションを取ってフィードバックをもえらえる顧客を対象とする方向とのことだ。同社のサービスプラットフォームは、2018年早々に正式リリースする予定だ。
その後の事業展開にあたり、倉原CEOが有望なユースケースとして挙げるのは、(1)地球観測(Earth Observation)、(2) 船舶自動識別システム(S-AIS)、(3)航空機の放送型自動従属監視(ADS-B)である。超小型人工衛星は気象情報や農業などの目的で地球観測に用いられる例が多く、最も初期のユースケースはこの分野となる。船舶と航空機は無線通信による自動識別が義務付けられているが、この分野でも大幅な通信需要の増加が見込まれているとのことだ。
インフォステラの事業は、クラウドサービスにより衛星との通信機会をシェアし、急増する超小型人工衛星の通信需要への対応を図る。宇宙ビジネスに注目する人は増えているが、宇宙開発は地上設備なしには進まない。地上設備のリソースの中でボトルネックとなるアンテナに注目した同社の挑戦に期待したい。