続々と登場しているマッチングアプリ。近年はスタートアップに加え、リクルートやサイバーエージェントといった大手IT企業もこぞって参入。サービスの種類もずいぶんと増えてきたように思う。サイバーエージェント子会社で「タップル誕生」を運営するマッチングエージェントが公開する市場規模の予測を見ても、成長市場として今後さらに伸びていくことが予想されている。
すでに複数のサービスが乱立している状態ではあるが、市場が伸びていけば新たな切り口のサービスも増えていくのだろう。まさにミクシィグループのクトも、これからこの成長市場に挑む1社だ。同社は10月10日、価値観診断をもとに相性が良い相手をマッチングする「Pancy」をリリースした。
Pancyの特徴は外見やステータスをもとに相手を判断しがちな既存のサービスとは異なり、内面にフォーカスして相性を診断、マッチングするという点。軸となっているのはお互いの「価値観」だ。
テストマーケティングで掴んだ、新たなマッチングアプリの可能性
「既存のマッチングアプリを見たときに、3000人から『いいね(コミュニケーションのきっかけとなる異性からのアクション)』を貰えるような人気者と30くらいしか貰えない人が混在していて、なぜこんなに格差が生まれているのか疑問に思った。その理由の1つに、従来のアプリではどうしても見た目やステータスだけで選んでしまっていることがある。そこで内面を重視したマッチングアプリを作ってみてはどうかと考えた」(クト代表取締役の松浦想氏)
仮に相手との相性が事前にわかっていた場合、いいねを押す際の意思決定に何らかの影響を及ぼすのだろうか。実際に松浦氏が20~30人の男性にテストしたところ、約6割の男性が外見やステータスよりも「相性がいい」と言われた人にいいねをすると答えたそうだ。この結果を受けて松浦氏は、内面にフォーカスし相性を軸としたマッチングアプリに可能性を感じ、開発に踏み切った。
30問の価値観診断からユーザーごとの相性を分析
ところで相性がいい、悪いというのは何を基準に決めるのだろうか? 松浦氏が着目したのは“価値観”だ。
「恋愛や結婚に関するアンケート結果などを見ていても、異性と付き合う上で『価値観』を重視する人が多いことがわかった。『性格』『性格や価値観』とまとめられているケースもあるものの、複数のデータを見ている限りでは、性格よりも価値観の一致の方が重要だと考えた。そのため性格診断ではなく、価値観診断をベースにしている」(松浦氏)
Pancyを開くと最初に30問の価値観診断が始まる。この価値観診断の質が相性を決める肝となるわけだが、クトでは累計1000万人の診断データを保有する企業とタッグを組み、膨大なデータを元に価値観を分析。
その分析結果に好きなことや趣味の共通点、アプリ内の行動履歴なども加味した上で、相性のいい異性を人工知能でレコメンドするというのがPancyの仕組みだ。
1ヶ月ほどベータ版を運用したところ、いい感触をつかめているという。「相性が高いほどマッチング率(双方がいいねを押す確率)も高く、相性が90%以上の場合平均とは2倍近くマッチングするという結果がでた。同様にマッチング後にメッセージを送る確率も相性が高ければ上がっていく傾向にある」(松浦氏)
ユーザーごとに最適なメッセージを分析、提案する機能も検討
クト代表の松浦氏はもともと新卒でウノウに入社。その後ウノウがZyngaに買収されてできたZynga Japanを経て、チケットキャンプを運営するフンザの立ち上げに加わった。現在はPancyの事業をやるにあたり、2017年5月に新設されたクトの代表取締役に就任している。
診断が切り替わるタイミングの細かい設計など「いかにユーザーが診断中にドロップしないか」を考える際は、ソーシャルゲーム開発の経験が生きているそうだ。
現時点ではPancyユーザーの80%が関東、関西エリアということで、まずはこれらのエリアにフォーカスして運用。今後Android版やウェブ版もリリースし、全国や海外展開も視野に入れていくという。機能面では機械学習を活用した新たな機能も開発する予定だ。
「マッチングした相手に対して『どのようなメッセージを送るとよいか』を過去のデータから分析、例文をレコメンドするなど、新しい出会いをサポートする機能を開発していきたい」(松浦氏)
ちなみにクトと同じミクシィグループのDiverseは「YYC」「Poiboy」「swish」とすでに複数のマッチングアプリを手がけている。同社のサービスを含め競合についてはどう考えているのだろうか。松浦氏に聞いてみたところ、以下のような回答をもらった。
「確かに有名なサービスも多いが、市場が継続的に伸びていることに加え、マッチングアプリは複数のアプリを並行して使っているユーザーも多い。新しい切り口であれば今からでも遅くはないと考えた。グループ内のサービスについては、ものすごく意識しているということはない。グループ全体としてこの市場は成長市場という認識がある。だからその中で棲みわけながらやっていければと考えている」(松浦氏)