音声インターフェースがビジネス向けに進出中

会社の会議にAmazon Echo(要するに音声操作デバイス)を持っていく、というシナリオはどうだろうか? つまり今月の南部地区での売上の数字が必要になったとしよう。今までならノートパソコンを開き、Excelを忙しく操作することになったはずだが、その代わりにEchoに尋ねるだけでいい。デバイスは即座に数字を答えてくれる。

ビジネス・シーンの主流になるにはまだ距離があるとはいえ、こういうシナリオは次第に現実化しつつある。

Amazon Echo(やGoogle Home Mini)が普及するにつれ、人々はコンピューターを音声で操作することに慣れてきた。過去の例に照らしても、消費者の態度に大きな変化をもたらすような現象は、やがて、ビジネスの場にも現れることが確実だ。

キーボード、タッチスクリーンに加えて音声も利用するAIセールス・ツールのTactのCEO、Chuck Ganapathiによれば、「われわれが利用するデバイスに革新が起きている。今後は音声を利用することが理にかなった方向だ」という。「スマートフォンにマウスは付属していない。電話するときにいちいちキーボードで入力しようとは思わないだろう。スマートウォッチもそうだ。それどころかAlexaデバイスにはスクリーンも必要ない。デバイスとのコミュンケーションはこれまでに比べてはるかに直感的になる」とGanapathはいう。

先月末のAWS re:InventカンファレンスのキーノートでAmazonの最高技術責任者、ワーナー・ヴォーゲルズは「われわれはこれまでテクノロジー上の制約のせいでコンピューターとのコミュンケーションがひどく不便なものになっていた」と指摘した。Googleで何かを検索しようとすればキーワードをタイプ入力するしかなかった、それしか方法がなかったからだ、ヴォーゲルズはいう。

「今後のデジタル・システムとのインターフェースは機械の都合が優先されることはなく、人間が中心となっていく。人間が自然に持つ能力を中心としたインターフェースをデジタル・システムに設けることで環境のあらゆる部分が活性化される」という。

Amazonはもちろんこの方向を後押しすることに熱心だ。re:InventではAlexa for Businessがクラウド・サービスとして発表された。もちろん他のクラウド企業も音声機能をデベロッパーに提供し始めている。 ビジネス・サービスやアプリに音声サービスを組み込みたいからだ。

AmazonがAlexa for Businessで初めてビジネス・シーンを直接のターゲットする動きを示したのに対し、他のスタートアップはこれより早く、Echoをビジネスに統合する実験を行っている。たとえば、ビジネス・インテリジェンスとアナリティクスのツールを提供するSisense2016年6月に早くもEchoをインターフェースに採用している。

しかし大手クラウド事業者が提供するサービスがいかに魅力的でも、社内データを外部に出すことを好まない企業も多い。このことはさる11月にCiscoがSpark向けにVoice Assistant for Sparkを提供したことでも明らかだ。企業がインハウスで音声を利用できるようにするこのテクノロジーは5月に1.25億ドルで買収したMindMeldが開発したもので、ビジネスの会議で一般に必要とされるタスクを音声で命令できるようにするのが狙いだ。

また11月にはビジネス向け音声駆動ソフトとハードを開発するスタートアップのRoxyは220万ドルのシード資金を得ている。同社はまず手始めに接客を重要な要素とするサービス産業をターゲットとしている。もちろんRoxyの狙いはサービス産業にとどまるものではないが、同社が最初に得た貴重な教訓は、社内情報をAmazon、Google、Apple、Microsoftのような大手外部企業に渡そうとしない会社も多いということだった。多くの会社は顧客データや顧客とのやりとりを社内のみに留めておこうとする。こうしたニーズに対してRoxyが提供する音声インターフェースは有力なソリューションとなるだろう。【略】

2018年を迎えてこうした実験は有力クラウド事業者のサービスとしても、スタートアップ企業の独自のソフトウェアとしてもも数多く出てくるだろう。もちろんキーボードとマウスがいきなり無用となるということではない。しかし音声が便利な場面で音声をインターフェースに利用するというのは自然な成り行きだ。多くの場面で音声はタイプの手間を省き、コンピューターとのコミュンケーションをさらに自然なものとするだろう。

画像: Mark Cacovic/Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

あなたの2017年のInstagramベスト9写真は?

ここ数日、Instagramの新しい年末トレンドに気付いていたかも知れない。もしそうなら、2017bestnine.comというウェブサイトを見てみよう。2017年に最も「いいね!」のついたあなたの写真を自動的に集めて、コラージュを作成してくれるサイトだ。

このサイトが始まってからしばらく経つので、多くの人びとが既にこのツールをご存知だろう。とはいえ、このBest Nineゲームが初めての人もいると思うので、説明を書いておこう。

まず、Instagramプロフィールが「公開」である必要がある。プライベートに設定している場合は、Best Nineがそこにアクセスして魔法を行えるように、ちょっとの間公開に切り替える必要がある。プロフィールを公開モードにしたら、 2017 Best Nineへ行き、InstagramのIDを入力しよう。

数秒後(サイトへのトラフィックによっては数分後)、Best Nineサービスは、2017年のベスト9の写真から作られたコラージュ写真を表示する。

表示される”original version”には、”Thank you for your likes!”というキャプションが含まれ、トップにはハッシュタグ#2017bestnineが付いていいる。また、写真のみのバージョン(”Photo only version”)を選択することも、2016年のベスト9をチェックアウトすることも可能だ。

最終版はこんな感じだ:

これで、2017年はお終いだ(この記事が書かれているの米国時間12月31日)。それではみなさん、あけましておめでとう!

(訳注:サービスの提供元M-gramが、2017bestnineというアプリをiOS, Android用に出しているが、このウェブ版でもできることはほぼ変わらない)。

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(翻訳:sako)

FEATURED IMAGE: JAAP ARRIENS/NURPHOTO/GETTY IMAGES

ハイパースケールなデータセンターは2017年に世界中で390、その44%はアメリカに集中

“スーパー”を超えた“ハイパー”なスケールの事業者といえば、AmazonやApple、Facebook、Googleなど、大規模なコンピューティング能力を備える必要のある巨大な企業のことで、彼らが使っている高度な専用データセンターは、数も限られている、と一般的には思われているだろう。しかしSynergy Researchの最近の調査によると、2017年は世界中でハイパースケールなデータセンターが一挙にどっと増えた年だった。そして2018年にはそれが沈静化する、という兆しもない。

Synergyの報告によると、この年は世界中に390あまりのWebスケールの*データセンターを抱えた状態で終わる。その稼働がとくに活発なのはGoogleである。中国のTencentやBaiduも、今年ハイパースケールなデータセンターを建設した。しかしその大半はまだアメリカにあり、全体の44%を占める。二位の中国が8%、日本とイギリスが6%、オーストラリアとドイツが各5%だ。〔*: Webスケール, web-scale, Web全域を到達対象とする〕

Synergyの調査報告では、1位から24位までの上位24社のハイパースケールな企業が、一社平均で16のデータセンターを保有している〔16×24=384、384/390=98.5%〕。最上位集団に属するAmazon/AWS, Microsoft, IBM, そしてGoogleは各社がそれぞれ、世界中に45以上のデータセンターを持っている。

ハイパースケールの明確な定義はないが、たとえばIDCの説では、サーバーが5000台以上、床面積10000平方フィート(約900平方メートル)以上、となる。しかしSynergyの定義では、サーバーの台数が数十万台、ときには数百万台の事業者だ。

これらの事業者は大量のコンピューティングニーズを賄(まかな)うために、装備を自作ないし特注することが多い。彼らはハードウェアもソフトウェアもカスタムデザインにして、コンピューティングのあらゆる側面を自分で完全にコントロールしようとする。すべては、効率を最大化するためだ。大規模で高効率、それが彼らの目指すところだ。

それを実現するためには、往々にして細部に亙る構成の自由のない既成品のハードウェアは使えない。そして、そういう自作ないし特注のサーバーおよびネットワーキングハードウェアを大量に使って巨大なデータセンターを運用できる企業は、当然ながら最上位の数社に限られてくる。

この、われわれが簡単に会員にはなれないクラブの成長が続くかぎり、世界中でハイパースケールなプレゼンスがさらに大きくなり、Synergyによると今すでに、彼らの69の新たな大規模データセンターが建設ないし計画されている。今年390と報告されたハイパースケールなデータセンターは、2019年の終わりには500を超えている、とSynegyは予測している。

〔訳注: この記事ではハイパースケール(hyperscale)という形容詞がデータセンターを形容したり、事業者を形容したりと、二股的に使用されている。〕

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

今日からAppleのiPhoneバッテリー交換は29ドル――性能劣化問題で事実上の謝罪

保証期間切れのiPhoneバッテリーを29ドルで交換するというAppleの約束が実行に移された。iPhone 6以降でバッテリー問題を抱えているユーザーが対象となる。Appleでは 当初特別価格でのバッテリー交換プログラムの開始時期を1月後半としていたが前倒しになった。Appleがバッテリー劣化によりiPhoneの旧モデルの性能を低下させているという問題を認めたことから、同社に対して激しい非難の声が上がっていた。

先週末TechCrunchに送られたコメントでAppleは「われわれは準備にまだ少し時間を必要とする。顧客に対する〔修理費用の〕引き下げはただちに実施する。ただし交換用バッテリーの供給は当初多少制限されるものと思われる」と述べていた。

つまりユーザーとしてはかっこうの機会を逃すな、ということだ。保証が切れた機種のバッテリー交換で50ドルのディスカウントというのはAppleとしては稀な公の謝罪とみていい。大勢のユーザーがこのチャンスにバッテリーを交換し、iPhoneの旧モデルの寿命を少し伸ばすことになるだろう。ライバル・メーカーはこのスキャンダルを最大限に活用しようとしている。Samsung、HTC、LG、Motorolaなど主要なライバルは一斉に「われわれはバッテリーに関してこうした〔計画的劣化という〕手法を採っていない」と主張している。

昨日、iFixitはこのニュースを受けて、iPhone用バッテリー交換キットの価格を29ドルに下げた。これはAppleのバッテリー交換費用と同額だが、iFixitのバッテリー交換キットの売れ行きは急上昇しているという。iFixitはAppleのバッテリー交換ブログラムでは待ち時間が長くなる可能性があることを注文殺到の理由に上げている。

実際、iPhoneの性能を計画的に低下させることを許したAppleの透明性の欠如した体質に加え、同社も認めているように、当初交換用バッテリーの供給が十分でない可能性があること、またAppleのジーニアスバーの予約を取らねばならないことがユーザーに大きなフラストレーションをもたらしている。また今日以前にバッテリー交換を申し込んでいる場合は50ドルの割引は適用されない。

とはいえ、バッテリー交換価格の大幅割引はよいことだ。あとはサプライチェーンが十分な量を供給できることを祈りたい。Appleではバッテリー交換に関してサイトに詳細を掲載している。

〔日本版〕Appleの日本サイトにはまだ特に発表がないもよう。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

Google Assistantでコントロールする電動アシスト自転車10日間のクロスカントリーでCESに来場

CESに行くための悪い方法がある。たとえばこれ…自転車で10日かけてクロスカントリーをやりながら行くこと。それは、中西部の氷点下の気温の中を1週間あまり、毎日17時間、ペダルを漕ぎ続ける行程だ。しかもCESは1月初旬。会場のラスベガスですら、氷点下になる時期だ。

でもこの新しい電動自転車にローンチ前に試乗するシナリオとしては、ふさわしいのではないか。それだけでなく、Googleが資金を出すパブリシティのためのスタントとしても有効だろう。派手な発売イベントが好きな企業だね。Google Assistantという、これまでギークっぽかったシステムを、年頭のでっかい消費者電子製品ショウで披露する段取りとしても、演出効果満点だろう。

ElectronのGen 2 Wheelが実際に発表されたのは数か月前だ。そして今では、799ドルの予約購入を同社のサイトで受け付けている(Best Buyでも近く売り出すらしい)。話題はGoogle Assistantに集中するが、ただしそれは、消費者製品のイベントCESでは新顔だ。そして自転車本体が2月に発売されても、そのとき、実装されているGoogle Assistantのシステムはまだベータなのだ。

Googleは、Assistantをスマートフォンとスマートスピーカーで終わらせたくない。だからElectronを(つまり自転車を)パートナーにしたかったのだ。スマートアシスタントを実装するデバイスとして、自転車は相当おもしろいだろう。最初に提案されていた、いろんなスマートホーム製品なんかよりも、ずっと似合っている。

ElectronのVP James Parkerはこう言う: “Googleと協働してAssistantを統合したときは、ユーザー体験をできるかぎり単純にすることと、音声技術を自転車に乗ることにどうやって統合すべきか、という点がとくに難しくておもしろかった。自動車にはすでに、優れたコマンドの技術がある。それを自転車に応用できる機会が十分にある、と考えている”。

Electron Wheelは、すでにいろいろある、前輪に取り付ける自転車用アドオンとほぼ同じ機構だ。同社によると、インストールは1分で終わり、あとはWheelを前輪のスポークに取り付けるだけだ。そしてセンサーをマジックテープでペダルにつける。たったのこれだけだ。

デフォルトのモードでは、システムは傾斜センサーを使って上(のぼ)り坂あることを検出し、電動アシストをonにする。Electronのアプリでアシストのレベルをカスタマイズできるが、スマートフォンをハンドルバーに取り付けて使うのは、ちょっと厳しい。そこで、Google Assistantの出番となる。

Wheel自身にマイクロフォンはない(いずれ付くと思うが)から、マイクロフォンを自分の近くに置く必要がある。そして“OK Google, start bike ride”と命令すれば、Wheelがonになり、Electronのアプリが計測を始める。それ以降は、Assistantに命じてアシストのレベルを調節したり、バッテリーの残量を知ったり、計測したデータを報告させたりできる。

この記事の冒頭で述べた、Wheelのクロスカントリーの旅は12月31日の朝に始まり、ライダーのMax Lippeがニューヨークマンハッタンのユニオンスクエアからスタートする。彼は1日に17時間自転車に乗り、うまくいけば10日後にCESに到着する。Wheelは一回の充電で最大50マイルの電動アシストができる。しかしじっと充電を待つわけではないので、チームのサポートにより、頻繁な電池交換が必要だろう。

チームのスタッフは1台のバンに乗り、6台のWheelを用意して、それらを次々と充電していく。すべてが計画どおりいけば、彼はラスベガスに1月10日、CESの二日目に着く。



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Facebookのソリューションズエンジニアリングチームは、広告主たちと共にツールやインフラを構築している

Facebookの広告ビジネスに関するストーリーは、何十億というユーザー何百万人もの広告主、またはGoogle以外の競合相手に対する大きな優位性などに集中しがちである。

しかし、Facebookによれば、近年のサクセスストーリーの1つには、比較的少数のエンジニアのグループが関わっていると言う。実際、それは最初たった1人のエンジニアから始まったものだ。そのエンジニアの名はVatsal Mehta。Facebookのソリューションズエンジニアリングの責任者であり、現在は100人以上のチームを率いている。このチームは、より効果的なキャンペーンをFacebook上で(しばしばそのAPIを使って)行うために、必要な技術とフレームワークを、広告主たちと協力して構築している。

Mehtaは、2010年に初めてこの仕事を開始したときには、モバイル(BlackBerryが依然としてメジャープレーヤーだった)と、Facebook(ニュースフィードにまだ広告を導入していない)を取り巻く風景は、どちらも全く違った光景だったと語った。同社は当時モバイルにシフトするための大転換を行っていた時期だった。そして広告主たちもその変化を乗り越えようと努力していた時期だったのだ。「例えば、旅行会社たちは、モバイル広告を通して顧客にリーチするチームをまだ確立できていませんでした。私たちは、企業たちがモバイル広告を増強するためのインフラを構築することを助ける方向に、投資を行わなければならないことは理解していました。そこで私は企業たちに対して支援を提供できるようなチームを開始したのです」とMehtaは語った。

どんなデジタルメディアビジネスでも、その最も大規模な広告主に対しては、何らかのレベルの技術支援を行うことが期待されているだろう。しかしソリューションズエンジニアリングチームは、実際に製品を作ってしまうのだ。

たとえば、このチームはFacebookのダイナミック広告フォーマット(それぞれのユーザーの興味やアクティビティに基づいて、異なる製品の広告を表示する)の作成にも関わった。Mehtaによれば、ダイナミック広告は最初、ドイツのハンブルグで出会った広告主から聞かされた不満に触発されたものだったと言う。その後彼はFacebook広告チームと協力してプロトタイプを作成し、最終的にはより洗練されたプロダクトとして仕上げ、より広い範囲に展開した。

全てのクライアントが新しい広告フォーマットを求めているわけではないだろう――Mehtaのチームは、顧客たちが単に既存のツールを効果的に使えるように助けるだけのこともある。しかし、Facebook内の他のチームと協力して、何か新しいものを作っていくという別のオプションも、常にテーブルに載せられている。

Vatsal Mehta

チームが実際に何をしているかを、私がより良く理解できるようにするために、Facebookは私を、オンラインリサイクルストアthredUPの最高マーケティング責任者、Anthony Marinoに紹介した。Marinoによれば、2016年にFacebookのソリューションエンジニアリングチームと話し始めたときには、大きな課題があったのだという。すなわち絶えず変化するthredUPの在庫に対応して、どのように広告を使うべきかというものだ。

「thredUPは、毎時間追加される無数の新しいアイテムのために、サイトが常に更新されています」と彼は語った。「私たちは、商品やアパレルの流れを観察しました、それはまるでニュースサイトのようでした…私たちはその処理を自動化する方法を見出さなければならなかったのです。そう、そして衣服の異なる品質や特徴が取り込めたとして、今度はそれらを適切な人の目の前に表示するには、どうすれば良いのでしょうか?」。

それを可能にするために、FacebookはthredUPと連携して、thredUPのリアルタイム製品カタログと連携したダイナミック広告を立ち上げた。システムは機械学習を使用してターゲット設定をさらに改善して行く。例えば、ユーザーたちに対して、異なる時間帯に異なる種類の広告を表示するのだ。anth

「まず最初に、Facebookが適切な人たちを連れてきました」とMarinoは語る。彼は、Facebookと協力して、2つのシステムの間に「新しい広告プロダクト、新しいデータパイプライン」を作り出した方法を説明した。「同じ部屋には、プロダクト担当者や、運用担当者もいました。私たちはデータ整合レベル、そしてビジネスプロセスレベルでの統合を行うことが可能だったのです」。

これは実際に、thredUPがFacebook上でより多くの広告を購入することに繋がったのだろうか?両社は同社の広告支出についての数字を開示していないが、その中にはthredUPがCriteoからFacebookのダイナミック広告へに切り替える費用も含まれている。Marinoは私に対して「Facebookのソリューションズエンジニアリングチームと働くことによって、お金をより効率的に使うことができるようになりました。そのためにマーケティング予算を有効に使うことができるようになって、より多くの顧客たちをthredUP.comへと導くことができるようになりました」と語った。

チームは、他にもMichael Kors、Edmunds、The New York Times、Gilt、そしてZyngaなどの顧客とも協力してきた。また、Smartly、Kenshoo、Marin Software、Adobe、Social Code、Nanigansのような、Facebook上での広告を購入するツールを提供する企業とも協力している。モバイルゲーム会社のMachine Zoneは、同社がソリューションズエンジニアリングチームの協力で作り上げた、Facebookの広告購入システムがあまりに良くできていたために、Cognantという新しいビジネスを開始した。

Facebookによれば、ソリューションエンジニアリングチームと協力している顧客は、広告費用に対する収益率が平均100%上昇するとのことだ。

フェイスブック

もちろん、Facebookは財政的には格段に優れた状態を続けているが、ロシアが選挙妨害努力の一環として偽情報を広げるために、同社が何らかの役割を果たしていたのではないかという疑いに対する、政府による調査の下で[/1}、世間から強い疑いの目を向けられている。広告側では、Facebookは、特定の広告主からのすべての広告キャンペーンを見る機能や、連邦選挙に関連する広告のアーカイブ機能などの新しい広告透明性機能を発表した。

私がこの話題を持ち出したとき、Facebookはこれらの変更やより広い政治的環境は、ソリューションズエンジニアリングチームの日々の作業には全く影響を与えていないと答えた。チームはより現場に近い場所で、広告主たちが新しいことを行うことを支援しているのだ。

2018年に何が起きるかについて、Mehtaは以下のように語った:

私たちがクライアントを支援する際に費やす時間がますます増えている分野の1つは、より多くの機械学習をソリューションに組み込み、テクノロジーを通じて効率を向上させることです。このことには、インターフェイスに対する様々な人手による調整なしに、顧客を支援できる、より良い最適化ツールの構築も含まれます。私たちはこれを、来年の事業全体にわたる膨大な投資領域と見ています。

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(翻訳:sako)

AWSの成長にかげりなし

AWSにとって、今年はあらゆる意味で成功した年だった。同社は、大きなマーケットシェアを握る既存勢力には通常見られないような、エネルギーと新しい分野むけの投資によって、まるでスタートアップのような姿勢を継続している。

その1年の出来はどの位のものだっただろうか?Synergy Researchの調査よれば、これまでのところ同社は、35%のマーケットシェアを握るカテゴリリーダーであり続けている。Microsoftのシェアは11%で、2番手につけている。しかし、AWSの成長率は四半期ごとに40%を超えているのだ。巨大なマーケットシェアを占めたときに、そのような大きな成長率を維持することがどんなに難しいかを考えれば、この数字は驚異的なものだ。

「2017年は市場全体で40%の成長が見込まれていますが、AWSのような規模のビジネスが、一貫して収益を40%以上伸ばしているのを見るのは少々驚きです」と語るのは、Synergy Research Groupの主任アナリスト・リサーチディレクター、John Dinsdaleである。

2017年度に報告された3つの四半期の同社の業績は、第1四半期の36億ドルから第2四半期には41億ドルに増加し、第3四半期には45億ドルとなった。これで14四半期連続で成長を続けて来ている。16四半期連続になる可能性もあったのだが、2014年の第1ならびに第2四半期にやや減少した時期があった。

この快進撃の理由の一部は、そもそもクラウドマーケットそのものが急速に成長しているという事実に帰すことができるだろう。すべてのクラウド企業たちは、パイが拡大するにつれて急速に成長している。クラウドコンピューティングは、過去数年の間にはまだ辿り着けていなかった、マーケットによる受け入れ地点に到達し、それがマーケット全体の成長をもたらしたのだ。Amazonはその成長の恩恵を受け続けている。

座して敵を待つことはしない

おそらく普通なら、IaaS(サービスとしてのインフラストラクチャー)マーケットを10年以上も前に定義する際に、大きな役割を果たしたAmazonのような会社が、そろそろ守りの姿勢に入ったとしても不思議はないだろう。非常に成功した企業が、そのマーケット優位性を守ろうと、安全でより慎重なアプローチをとることは珍しくない。しかし同社の場合はまるで逆なのだ。

守りの姿勢どころか、その成長する提供サービスリストに、膨大な新サービスをひたすら追加し続けているのだ。今月初めに開催された、AWSの年次ユーザーカンファレンスである、re:Inventにおいて、Amazonは熱狂的なペースで発表を続けていた。そのときに、私は以下のように書いている:

カバー範囲の広さの感覚を、読者に得てもらうために、今週のTechCrunchはこのイベントに関連した25の記事を掲載した――しかし到底全ての話題をカバーできてはいない。インフラストラクチャー市場での圧倒的優位にも関わらず、AWSはただ座して競合が追いつくのを待つつもりはないことを、明確に示しているのだ。

またre:Invent後にも、シングルサインオン市場への参入を発表して私たちを驚かせた。

2018年に向かう中で、このペースが続くことを疑う理由はほとんどない。同社のCEOであるJeff Bezosが、座して競争を待ったことは一度もないのだ。彼は常に彼の会社が顧客を見つめ続け、顧客が何を求めているかを知り、それらを与えることを目指している。来年もマーケットが加速し続ける中で、Amazonはこれまでのように、1ミリもその持ち分を譲ること無く、マーケットの一角を切り取り続けることだろう。

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(翻訳:sako)

今日からiMac Proをストアで買える、お値段は4999ドルから

Appleの超強力機iMac Proが同社のオンラインストアに登場したのは、クリスマスの直前だった。そして今度は、お店で現物を見て触って買いたいという人のために、各地のストアで売られることになった。店頭に出たことに今朝最初に気づいたのはMacRumorsだが、Appleのこのページへ行ってご自分のzipコードを入力すれば、いちばん近いお店がわかる。

4999ドルからというお値段は、レジの行列に並びながら衝動買いするには向いていないが、でも同社の、かねてから定評のあるオールインワンパッケージのプロフェッショナルバージョンだから迫力は十分だ。公式のローンチのときしばらく触ってみた本誌のMatthew Panzarinoは、これを“デベロッパーへのラブレター”と呼び、“今のマシンと基本的にはまったく同じ筐体にiMacのすごいパフォーマンスを収めて、それを色などのお化粧で新しく見せることのアホらしさに、Appleはやっと気づいたのだ”、と言っている。

Mac Proが今だに忘れられた存在のようになっている中でAppleは、AIO(オールインワン)デスクトップのフォームファクタにフォーカスして、4Kビデオの編集やVRコンテンツの制作など、CPUを極端に酷使する仕事に使いたいと考えているユーザーのために、クレイジーなほどに贅沢なハイエンドスペックを提供する。そんなiMac Proが表しているのは、Appleのコンピューターの長年の中核的ユーザーベースであったデベロッパーやクリエイティブの連中に、再びその顔を向けたことだ。それは近年、MicrosoftがSurface系列で取り込もうとねらっている人たちだ。

このコンピューターのApple Storeにおける品揃えは、かなり充実していると思われるが、すべての店にすべての構成がある、とは限らないから、事前に確認すべきだ。そしてもちろん、4999+ドルは厳しい、とお思いの方のためには、すでにSpace Grayの限定版アクセサリの、ばかばかしいほど暴騰した中古市場が、すでにあるようだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

企業のPR事業の分析プラットホームTrendKiteが新たに$11Mを調達、アーンドメディアの価値を強調

企業のPR業務を助けるTrendKiteが、新たに1100万ドルの資金を調達して、2017年を終えようとしている。

テキサス州オースチンに本社を置く同社によると、現在同社は毎日420万件の記事を分析して、企業や広告/マーケティング代理店が行っているPR努力の効果を測定している。たとえば、その会社名が登場する記事が何人の人の目にとまっているか、ブランド認知度のアップにいちばん貢献した記事はどれか、などなど。

TrendKiteの売上は前年比100%増以上の増加率で成長している。顧客には、Mondeléz International, Nike, Deltaなどが名を連ねる。同社によると、今回の資金は主に新たな製品開発に向けられる。同社の目標は、“CMOやCRM、およびマーケティング自動化ソフトウェアにとって必須のPRソフトウェアになること”だ。

しかし昨今のマーケティングの世界では、広告や自己メディアに比べて“アーンドメディア(earned media)”(得られたメディア==他のメディアに載ること)の効果がもてはやされるけれど、現アメリカ大統領による執拗なメディア攻撃や、各人が自分の殻や偏見の中に閉じこもる傾向の中では、その説も怪しくなっている。

こんな逆風の中でTrendKiteはどうやって生き延びていくのか。CEOのErik Huddlestonによると、上の二つの問題は、主に政治の領域に限られている。彼は曰く、“日頃から人気と信頼のあるライターや個人などによる、よく考えぬかれたレビューの方が、バナー広告やマーケティング的コピーよりもずっと強力だ”。

でも、偏見やいわれなき攻撃が、政治の世界以外にも広がったら、どうするのか?

Huddlestonの見解は: “もしそうなれば、TrendKiteのようなプラットホームの、より正しい記事やジャーナリストを見つけ出す能力が、ますます重要になる。メディアの世界は、何らかの偏向によって汚染されればされるほど、ターゲットにフォーカスした正しい清流の価値が目立ってくるんだ。これからのマーケティングは、そんなメディアを見つけ出し、味方につけていく努力がブランドイメージの向上のためにも重要だ。それは、企業のマーケティング部には手に負えない仕事だろう”。

今回のラウンドでTrendKiteの総調達額は4600万ドルあまりになる。ラウンドをリードした投資家Harmony Partnersは、ほかにもChartbeat, mParticle, Postmatesなどをそのポートフォリオに擁している。

Harmony Partnersのファウンダーで常勤役員パートナーのMark Lotkeは、声明文でこう述べている: “TrendKiteの高成長と優れた能力、そしてアーンドメディアが購買の意思決定者にとってますます重要になっている現在の市場機会を見れば、それ〔rendKiteへの投資〕はHarmony Venture Partnersにとって自明の選択である”。

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iFixitはAppleのお詫び料金に合わせて電池交換を29ドルに値下げ、Apple未対応の機種も

iFixitが、修理に関するAppleのポリシーを好感したことはない。それどころかAppleのガジェットは同社のサイトにおいてつねに、修理適性で低い得点をいただいていた。その同社が今日(米国時間12/29)は、当の巨大テクノロジー企業に対しまた辛辣な姿勢を見せ、その電池交換キットを29ドルに値下げした。それはAppleがiPhoneの低速化ポリシーに対する一種の慰謝料として、保証期間切れの電池交換に設定した料金と同額だ。

ご存知のようにAppleは、今週の初めから煮え湯を飲まされていた。同社は、電池の古いiPhoneの動作速度を落としたことを認め、それに関する透明性の欠如を詫びた。

同社がめったに発表することのない公開詫び状には、こう書かれている: “約1年前のiOS 10.2.1において弊社は、電源管理部分のアップデートを行い、iPhone 6, iPhone 6 Plus, iPhone 6s, iPhone 6s Plus, およびiPhone SEにおけるピーク負荷時の予期せざるシャットダウンを防ごうとした。しかしこれらの変更そのものが感知されることはなくても、場合によってはユーザーが、それまでよりも長いアプリの立ち上げ時間や、そのほかの性能劣化を経験することがありえる”。

iFixitによると、このお詫びがニュースで知れ渡って以来、電池交換の注文がそれまでの3倍に跳ね上がった。同社はAppleの情報公開の姿勢に対しお世辞を言うとともに、予防的な電池交換を熱心にユーザーに勧めた。

iFixitに電池交換を頼んでも安くはならないが、ちょっと頑張るだけでGenius Barの待ち行列に並ばずにすむし、さらに彼らの手にiPhoneを渡したあとの待ち時間にいらいらすることもない。しかもiFixitは、Appleが対応しない古い機種の電池も安く提供している。

今、Samsung, HTC, Motorola, LGなどのAndroid勢力は、これを宣伝の好機としてとらえ、Appleのように古い機種のスピードを下げたりしませんよ、と訴求している。

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Netflixのウィル・スミス主演の『ブライト』、最初の3日で1100万人が視聴――ニールセンが発表

Netflixはウィル・スミス主演のアクションSF、ブライト(Bright)の製作に9000万ドルかけたという。このシリーズは警官コンビものと近未来ファンタジーを融合させるという思い切ったテーマで、業界では「大きな賭けだが成功するか?」と注目が集まっていた。このほどNielsenが発表したリサーチの数字によると、放映開始後3日間のアメリカにおける視聴者は1100万に上っていたという。

Nielsenはこの10月にNetflixのオーディエンスを調査に含める計画を発表していた。その後発表されたところでは、ストレンジャーシングス・シーズン2(Stranger Things 2)の放映開始から3日間の視聴者は1580万人だった。一方ザ・クラウン・シーズン2(The Crown 2)は同期間で300万人にとどまった。

NetflixではNielsenの数字に対して「全視聴者の一部を計測しているに過ぎない」と批判しているものの、Netflix自体は視聴率データをまったく発表していない。

ブライトについて、Nielsenでは「視聴者のうち700万人は18歳から49歳、 56%は男性、44%が女性」だったとしている。

Netflix初主演となるウィル・スミスはロサンゼルス市警の警官でジョエル・エドガートン(巧妙な「オーク」のメークをしている)とコンビを組み、ノオミ・ラパスが悪役だ。ウィル・スミスはスーサイド・スクワッドのデビッド・エアー監督と再びコンビを組むことになった。スーサイド・スクワッド同様、批評家のコメントは最悪だ。IndieWireのDavid Ehrlich、 「本質的にひどい作品とけなしている。実は私もTechCrunchが今度始めた毎週ストリーミング作品を批評するポッドキャスト、Original Contentでこの作品を取り上げようと思っているが、とりあえず、こう言っておきたい。ブライトはひどい作品かもしれないが、スーサイド・スクワッドほど悪くはない。

ともあれ批評家がいくら悪口を言おうと、視聴者が作品をチェックしてみる妨げにはならなかった。ブライトがこの先も引き続いて視聴者を引き寄せることができるかどうかは今後明らかになるだろう。しかしNetflixでは早くもシーズン2の製作にOKを出している。.

画像: Netflix

〔日本版〕ブライトは日本でもストリーミング中。人名はNetfilix日本版にカタカナ表記があるものはそれによった。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

AmazonはFire TVのYouTubeアプリをアップデートしてユーザーをWebブラウザーに誘導

AmazonとGoogleの確執はしつこく続いている。今日(米国時間12/28)は、もともとGoogleが、YouTubeを取り去るのは2018年の1月だと言っていたFire TVから、早くもYouTubeが消えた。しかしFire TVのオーナーの多くが気づいたと思うが、今日そのYouTubeアプリを立ち上げようとすると、Webブラウザーを使えば“YouTubeやそのほかの何百万ものWebサイト”を見ることを選べる、というお知らせが出る(下図)。そしてボタンをクリックすれば、AmazonのSilkブラウザーかまたはFirefoxのどちらかを選べる。

消費者に迷惑をかけている両社間の不和は、数年前にさかのぼる。

Googleは、Amazonの反競争的な性格が気に入らない。Amazonは、スマートスピーカーやメディアプレーヤーなど、自社製品と競合するハードウェアをAmazonのネットショップ上で売ってくれないのだ。つまり、自社製品と競合するデバイスは、1台たりとも在庫を持とうとしない。それらは、Apple TV, Chromecast, Google Home,などなどだ。Amazonは、自社のEchoスピーカーやFire TVを売りたいからだ。

ただしAmazonとAppleは最近協議して、Apple TVをAmazonに復帰させ、そしてAmazonのPrime VideoアプリをApple TVに載せた

一方AmazonとGoogleの議論は今月初めに快方に向かい、ChromecastとChromecast Ultraが Amazon.comに再登場した。が、それもまた、今では降ろされている。

ほかにも今係争中の問題としては、Amazonが同社のEcho ShowデバイスにAmazon独自のYouTubeプレイヤーを搭載し、Googleに無断でその主な機能のいくつかを省略した。この件での両社のやり合いとしては、まずGoogleがそのプレイヤーからのYouTubeアクセスを拒否し、するとAmazonはひそかに、YouTubeのWebバージョンをEcho Showに載せた

これに対してGoogleは今月、Fire TVも含むAmazonのハードウェア製品から全面的にYouTubeへのアクセスができないようにする、と宣言した。Echo Showのその新しいプレーヤーはただちにYouTubeアクセスが不能になったが、しかしFire TVは2017年年内にかぎりYouTubeの視聴が許された。

しかし今日みたいに、Googleが自分が決めた締め切りすら守らないのは異常だ。どうやら、ユーザーにはYouTubeをWebブラウザーから見てもらう、という変化は、Googleの主導というより、Amazon自身が率先したようだ。

そのことを傍証するかのように、AFTVNews.comの記事やRedditのコメントによると、今Fire TVにYouTubeアプリをロードしようとすると、相変わらず警告メッセージが表示される(下図)。

上図: 警告画面; 画像提供 – AFTVNews.com

Googleのスケジュールに先駆けてYouTubeユーザーをWebブラウザーにリダイレクトするAmazonの方針が、全ユーザーに行き渡ったのか、それは分からない。Cord Cutter Newsの記事によると、ブラウザーをFire TVにインストールしている人しかブラウザー選択(Silk/Firefox)画面(下図)は出ない、という。しかしアプリのコードをデコンパイルした人によると、ブラウザーをインストールしていなくてもWebブラウザーが指示されるようになったそうだ。

本誌編集部には新旧両世代のFire TVが計2台あるが、ブラウザー選択画面は今日初めて見た。世界中のユーザーの多くが、同じことをツイートしている:

AmazonとGoogleにコメントを求めたが、Googleは無言、Amazonはこんな声明をくれた:

“FirefoxやSilkのようなWebブラウザーを使ってYouTubeとそのほかの何百万ものWebサイトにアクセスできることを、確言できます”。

アメリカではRokuが、ストリーミングデバイスのトップセラーだ。こんなややこしい話は、Rokuにはないからね。

競合する二社の、リーズナブルな解をいつまでも見つけられない、この時間的に長過ぎる無能ぶりに、消費者が翻弄されるのはもうたくさんだ。疎外されっぱなしの顧客の多くは、いずれRokuの方へ行っちゃうだろうから、両社の係争は彼ら自身を傷つけているだけだ。

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LGもスマートスピーカー戦線に参加、その中身はGoogle Assistantだが音質が売り

LGの今朝(米国時間12/28)の発表によると、同社は2018年の新製品として、Google Assistantを実装したスマートスピーカーを発売する。そのLG ThinQと呼ばれる製品は、Googleが最近ローンチしたハイエンド機Google Home Maxに似ている。LG自身によるセールスポイントは、まずMeridian Audioの技術を採用してロスレスで高解像度のオーディオを実装したこと。Google Assistantの機能によりスマートホームデバイスをコントロールできること。またLG自身の音声アプリケーションにより、同社のThinQ系列のスマートホーム器具をコントロールすることだ。

ThinQスマートホーム器具には、スマート冷蔵庫や皿洗い機、洗濯機、乾燥機、そして掃除機も含まれる

これらをコントロールしたいときは、ThinQスピーカーにこう命じる: “OK Google, talk to LG, turn on the air purifier”(OK Google、LGに言って空気清浄機を動かしてよ)。これらのコマンドは、ぜひぜひ、もっと単純化すべきだよ!

現状ではあまり詳しい情報を提供していないが、来月のCES 2018で完全な情報開示を行うそうだ。音声とオーディオの技術の詳細、そしていちばん重要なのは、価格だ。

スマートスピーカーも種類が増えてきて、AmazonのEcho系列、Google Homeの系列、音質を重視したSonos One、Appleが近く出すHomePodといろいろある。お値段が分からないと、LGのThinQがどのへんに位置するのかも分からない。

今日LGは、ほかにもいくつかの新製品を発表した。たとえばサウンドバーのSK10Y、ポータブルなBluetoothスピーカーPKシリーズなどだ。

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細胞と組織が自然に発達発育していく能力をプログラミングして簡単に生物機械(バイオマシン)を作れそうだ

生物学とテクノロジーの境界は、研究者たちが両者間の相似性を次々と発見していくに伴い、ますます薄れつつある。今日(米国時間12/28)彼らが発見したのは、細胞中にパターンをプログラミングすることによって生きてる組織をハックすることが、比較的容易にできる、ということだ。それらの組織は、成長するに伴い、鉢、コイル、箱など、プログラミングされたとおりの形になっていくのだ。

上図の画像は、結果の一部だ。たとえば右下のオブジェクトは、組み立て式家具のように自分で自分を折りたたんでキューブ(立方体)になる。

生きた細胞から、生体にそのまま移植できるマシンを作ることは、長年の研究テーマだった。でもそれらの形の成形は、型(かた)を使ったり、3Dプリンターを使ったりする方法がもっぱらで、組織自体が目的の形に‘成長’していくことは、不可能だった。

しかしここでご紹介するテクニックでは、細胞はほぼふつうに成長していくが、その過程でDNA-programmed Assembly of Cells (DPAC)(DNAをプログラミングした細胞組み立て)と呼ばれる技法により、成長をガイドする。細胞そのものは正常に発達していき、プログラミングされたDNAは細胞自身の中にはない。しかし、それがある種のテンプレートになることによって、成長する細胞の形を変えていく。

ペーパーの図版は、事前に描いたパターンにより指定した形の折りたたみ構造を作れることを示している。

DNAのパターンに基づいて成長する組織の層が、自然にカーブしたり、折りたたまれたりして、目的の形になっていく(上図)。

この研究のペーパーを書いたZev Gartnerは、こう言っている: “このアイデアがあっさりと有効であることにも驚いたし、細胞の振る舞いがすごく単純なことにも驚いた。細胞の発達が、技術者がそこに絵を描くバイオ工学のキャンバスのようなものになるし、発達という本来は複雑な過程を、シンプルな工学的原理に還元できる。科学者たちは基本的な生物学の理解を深め、最終的にはそれをコントロールできるようになる”。

これもやはり、自然に逆らうよりも自然と協働した方がうまくいく、という例のひとつだろう。細胞が自然にやることをそのまま利用して、やりたいことを自然にやらせる。結果が前もって分かる(predictable)だけでなく、単純に実現する。このテクニックは最終的には生物機械の作成工程に使われるだろうし、医学のためのさまざまな構造物も作れるだろう。

この研究を行ったのは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のチームで、ペーパーは今日(米国時間12/28)、Developmental Cell誌に載った

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トランプ大統領のウェブサイトに、オバマ氏を責めるメッセージが隠されていた

ソースコードに隠されたイースターエッグの好きな人にはかなりいい話。Washington Postのデータレポーター、Christopher IngrahamがTwitterで見つけた情報によると、トランプ政権と共和党のウェブサイトに、オバマ氏のゴルフ好きに関するジョークの入ったコードが埋め込まれているという。

ソースコードを確認したところ、たしかにあった。「Oops!何か問題が起きた。オバマと違ってわれわれは問題の修正に務めている…ゴルフコース上ではなく」。見つかったのは、action.donaldjtrump.com のサイトで、 たとえばこのオバマに取りつかれた「就任年支持率調査」などをホストしている。donaldtrump.comのページにはない。

Ingrahamaが指摘しているように、これはGOP.comトップページを含む共和党の公式サイトにもある。いずれの例もこのオバマジョークはこの404エラーメッセージとセットになっている、「ヒラリー・クリントンとこのリンクの共通点は何か?どちらも完全の壊れている」。オバマとクリントンに対する侮辱はいずれもトランプ支持者の雰囲気を醸しだすもので、フロイト心理学における投影ではない。
挙げ句の果てにこのコードはそれ自身壊れていて、イコール記号が2つあるべきところが1つになっている。うっかりミス? あるいは、世界はこの非常によくできたジョークに恵まれていなかったのかもしれない。

[実際にこのメッセージが表示されることはない。Javascriptにエラーがある…比較(==)の代わりに代入(=)になっているので、どんなエラーでも404メッセージが表示される]

Thanks, Obama!

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GoogleのタブレットPixel Cが引退してその座を最新のPixelbookに譲る

今朝(米国時間12/28)のAndroid Policeによると、Googleは同社のオンラインストアにおけるPixel Cの販売を停止した。同社の好評だったタブレットの、とくに発表もない、しかし予想できなくもなかったご最後により、Googleの今後の最新製品に場所を譲った形だ。

Googleが本誌TechCrunchに確認したところによると、販売の停止はそのデバイスの製品寿命の終わりでもある。ただし、ハードウェアのサポートは今後もずっと続けるそうだ。

同社がくれた声明はこう言っている: “ハードウェア製品がわずか数年で廃番になることは、よくあることであり、今回弊社はPixel Cを引退させ、その販売を停止する。ただし、同製品のアップデートとサポートは継続し、最近のAndroid 8.0へのアップデートも行うので、顧客はご自分のデバイスを今後も引き続き、最良の状態に維持できる”。

そして当然ながらこの声明は、重要な画竜点睛、すなわちChromebook高級機への言及を忘れていない: “弊社がこのたび新たにローンチしたGoogle Pixelbookは、ラップトップとタブレットの長所を併合して、多機能なデバイスを求める需要に応えている”。

本誌のFrederic Lardinoisは2015年にこのタブレットを高く評価しながらも、“その市場は小さいだろう”と述べている。Googleブランドのデバイスは、どれもそうみたいで、いわば同社はマーケットシェアの小さなかけらをめぐって、自分自身と競合しているのだ。

CからPixelbookへのシフトは、近年の業界の大きなトレンドである、単機から多様機(コンバーチブル)への移行にも沿っている。Pixelbookは単機のタブレットほどスリムではないから、ユーザーは何かを我慢しなければならないかもしれないが、でもタブレットの代替機として十分使い物になるし、コンピューターとしての機能は豊富だ。

ただしお値段は、Pixel Cの599ドル(+キーボード)に対しPixelbookの最低価格は999ドルだ。未来の、より多機能になったタブレットは、お値段もそれ相応なのだ。

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誰も教えてくれないけれど、これを読めば分かるビットコインの仕組みと可能性

編集部注この原稿は朝山貴生氏(@takaoasayama)による寄稿で、2015年5月に掲載したものを一部アップデートしたものとなる。最近ではビットコインに関する記事も増えたが、その概念から詳細に解説しているものはそう多くはない。この年末年始に改めて仮想通貨について学びたい読者にとって、普遍的な価値がある内容だと考えている。なお朝山氏はビットコインと国産暗号通貨のモナーコインを扱う国内向け取引所の「Zaif Exchange」(ザイフ)を2015年3月初旬にオープンしたテックビューロの創業者で代表取締役。2017年10月にはICOによって100億円以上の資金調達を行っている。

ビットコインは本当に怪しくて危険なのか?

2014年、日本のメディアでも華々しくデビューを果たしたビットコイン(Bitcoin)。しかしその登場シーンは、ビットコイン取引所Mt.Gox(マウントゴックス)の破綻という最悪のニュース。同社は日本に本社を置くにもかかわらず、当時は世界最大のビットコイン取引所だった。そのMt. Gox社が、約490億円相当ものビットコインを「盗まれた」と宣言し、その事がたちまちメディアを賑わせた(編集注:債権者は約2万4700人、債権総額は2兆6000億円超となった。一方でビットコインの価格高騰を受けて債権者は2017年11月、東京地裁に同社の民事再生手続きを申し立てた)。

Mt. Gox事件の真相は闇の中であり、いまだに各国の機関において調査が継続している。しかし、当初からはっきりしている事実はただ一つ。これは単に、ユーザーのビットコインを預かっていた取引所であるMt. Goxが破綻しただけであり、ビットコイン自体には何ら問題がないということだ。しかし、それから1年以上経った今でも、日本のメディアでは依然ビットコインにネガティブなイメージがつきまとう。

ところが、それら「怪しい」、「盗まれてしまう」、「消えてしまう」、「信用できない」といったイメージは全くの誤解だ。むしろビットコインは「取引は全て透明性が高く」、「盗むことは非常に困難」であり、「消したくとも消せない」もの。そしてある意味一般的な通貨や銀行よりも「信用できる」ものなのである。ただし法定通貨に対しての、金よりも激しいとされるその価格変動性(ボラティリティ)を除いては、という条件付きだが。

ビットコイン本来の素晴らしさを証明しようと、ビットコイン擁護派がイメージ回復のためにどれほど躍起しようとも、その利点を説明するためには常に技術的なボキャブラリーが欠かせず、それが更に印象を悪くするという悪循環を生んでいる。中でも、ビットコイン自体が生み出した「暗号通貨(Crypto Currency)」という言葉が示すとおり、その根幹となる「ブロックチェーン技術」を説明するためには「暗号」という言葉が避けて通れない。この、「暗号」という言葉が「怪しい空気」を醸しだし、一般人とビットコインとを隔てる溝をより深くする。

と、以上冒頭の4パラグラフだけでも「意味がわからん!タイトル詐欺ではないか!」と、続きを読むことをためらう方もおられるに違いない。

実際に私自身も、この何年間にも渡って、ビットコインをできるだけ簡単に説明する方法をずっと考えてきては諦めることを繰り返していた。そして今までにも日本語で、「これを読めばわかる」的な記事もいくつも出てきてはいるが、やはり一般的に理解されるようなレベルの内容ではなかった。

どうしても、難解な用語とその説明を避けて通れないのだ。

しかし何年も考え続けてみるもので、突如深夜の入浴時にその説明法に関するアイデアがわき出した。

ロールプレイで理解しやすくなる

その時、私がビットコインを説明する方法として思いついたのが「ロールプレイ」だった。

まずは、あえてビットコインの根幹となる暗号技術についての詳細を端折ることにより、その原理と仕組みを比喩的に理解してもらおうという作戦だ。要するに、一番売りである技術的セールスポイントをまずなかったことにして、概要を理解したあとでそこを埋めるという、ビットコイン推進派としては回り道な啓蒙戦術だ。

しかし技術用語を無視するとしても、「P2Pネットワーク」やら「Proof of Work」(後ほど説明)やらといった、ビットコインをビットコインたるものにする特徴の説明が非常に難しい。そこを架空の「役割」を持ったキャラクターが存在する世界で考えることによって、難しい技術用語が苦手な人にも想像しやすくしようと考えたのだ。

ここから続きを読んで頂ければ、あなたにもビットコインがどういうものなのかを理解して頂けるに違いない。そう願う。

では早速その「ロールプレイ」の世界に行ってみよう。

一般的な銀行とお金の仕組み

実は、全く知識のない人にビットコインを説明する際に、「銀行」や「日本円」といった法定通貨と比較することは逆効果である。

当然、それらの比較自体は有効な手段なのだが、原理を説明せずにそれらの違いを話そうすると「それ、電子マネーみたいなものやん?どこが違うの?」で片付けられてしまうのだ。最悪の場合は「中央管理者がいない? それって信用できるどころか逆に不安やん?」と気まずい雰囲気の中そこで話が終わる。

しかし、今日はあなたが遂にビットコインの原理を理解する日だ。従ってその比較は有効だ。まずは一般的なお金や銀行の世界を、それぞれの役割を担った「ロールプレイ」の世界で見てみよう。

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通常、お金は国=政府(Dくん政府)が発行している。Cくん銀行は、Dくん政府の許可をもらって銀行業を営んでいる。

AさんもBくんも、Cくん銀行に審査を受けて、それに合格した上で「銀行口座」を持っている。

AさんやBくんが預けた現金は、実際に元帳上にはその金額が残高として載ってるが、実はCくん銀行がEさんなどに貸し付けて利息を受け取っている。Cくんはその利息やその他の手数料で生計を立てているのだ。

ある日BくんがAさんに1,000円を振り込んだ(振り替え)。通帳の残高は振込手数料が取られて8,500円に減ったが、その実態は、単にCくんが元帳で「Bくんの残高が1,500円減った」ことと、「Aさんの残高が1,000円増えた」ことを書き込んだだけだ。その差分の500円は、元帳に書き込む手数料としてCくんのものになる。

これが一般的な銀行だが、もしあなたがBくんである場合、ここで起こっていることの全ては日々当たり前に行われている行為であり、一連のお金の流れは「信用するに足りる」話に聞こえるだろう。誰かに1,000円振り込んだら、相手にお金が入って、自分のお金が減る。そして手数料が取られる。引き出せば現金がATMから出てくる。なんて日常的な話なのだろうか。

その当たり前の話が通じるのは、財政が比較的安定した、日本を含む一部の近代国家における銀行の話。世の中には国民が銀行を信用しない国もある。以下では、そのような財政が破綻した国家とその銀行のような、預金リスクが最大である環境を想定して書いてみよう。

あなたの銀行残高は本当に存在するのか?

では、本当にあなた(Bくん)の残高8,500円は銀行に存在しているのか?もしそうでない場合は、誰かが保証してくれるのか?

事実として、銀行に預けられた現金のほとんどはそこにはない。銀行は、なんと預かっている合計金額よりも大きい金額を外に貸し出すことができるのだから。

実際、この銀行という仕組みはあなた(Bくん)が、お金を発行するDくん政府と、銀行を営むCくんを信用しているという前提において成り立っているのだ。

「銀行が信用できなくてどうする?」

そう思われる方も多いだろうが、日本でも1金融機関1預金者あたり、1,000万円までが保護される仕組み(ペイオフ)が導入されていることはご存知だろう。ペイオフ解禁で補償額が制限されてしまったものの、このような仕組みがあるだけでもまだ恵まれている。米国も同様のFRB制度が設けられているが、こんな制度さえない国家も山ほどある。

ようするに、お金を借りているEさん達が一斉にCくん銀行からの借金を踏み倒したり、Cくんがそもそも銀行の経営に失敗した場合、あなた(Bくん)のお金はなくなってしまう可能性があるということだ。

その場合、あなたの通帳に残高データはあっても、銀行にはもうそのお金さえもないのかも知れない。

銀行の残高データは消えてなくならないのか?

次に、違う切り口から極端な例を考えてみよう。

ある日誰かが、Cくんの管理する銀行の元帳に火をつけた。Cくんは念のため、バックアップとして常に3冊同じ記録をつけて、別々の場所に保管していた。しかしそれらもなぜか同時に火を付けられた。

その場合、あなた(Bくん)のお金(残高)はどうなる?

そう。消えてなくなる。記録、すなわち残高のデータが消えてなくなってしまうからだ。

現実世界にあてはめると、「もしあなたがお金を預ける銀行が管理する全サーバーが一斉に爆撃されたらどうなる?」と言ったところだろうか。

現実社会ではまずそんなことが起こる確率は低いし、先進的な銀行では当然のことながらサーバーも複数箇所に分散して管理してている。

ではこんな場合はどうだろう?

本当に銀行は信用できるのか?

Cくん銀行自体が私利私欲のために、あなた(Bくん)の知らないうちに、その残高である8,500円を元帳上でこっそり自分の名義に書き換えた。その場合、あなたの残高は当然消える。Cくんによる、いわゆる業務上横領である。

さすがに、現代の金融機関システムをそんな風にアクセス権限を飛び越えて違法に操作することは難しいが、今日でも銀行員が預金者の金を横領するなどいう古典的な事件はたびたび起こっている。

その場合、損失を銀行がカバーしてあなたの残高に戻すわけだが、人手を介する業務プロセスがゼロとならない限り、そう言った横領事件が世の中からなくなることがない。

あなたも、今までに友達と人生ゲームをプレイしたことがあるならこんな経験があるに違いない。銀行役をしていたプレイヤーが、ずるをして自分の手元のキャッシュをこっそり増やしたり、トイレに行っているプレイヤーのキャッシュを悪戯でくすねる。それを見つけた他のプレイヤーが怒る。あれが現実にも起こりうる言うことだ。

銀行は大丈夫だ。預金なんてなくならない。実は私も以前はそうだろうと考えていた。しかし、15年以上も前のことであるが、突然欧州の某国で、とある銀行に預けている残高をいきなり半分にされた。たった一通の通知を封書で送りつけられるだけで。銀行が破綻して、残高の半分を再建の原資に回すというのだ。当然、その国には日本のペイオフのような制度はなかった。

人が運営して経営している以上、銀行というシステムには必ずこのようなことが起こりうると言うことだ。

では、国なら信用できるのか?

もし、Dくん政府が国の財政政策で失敗したらどうなるだろう?Dくんがお金を発行しまくったらどうなるだろう?預金の消失を免れ、銀行の残高データは変わらずとも、あなた(Bくん)のお金はただの紙切れになるかも知れない。例えば、缶コーヒーが1本1万円になるかもしれない。

「そんなの、金の純度を下げてでもコインを作りまくった、古代ローマ帝国の話じゃあるまいし」と思われるかも知れない。しかしこの21世紀にも、現実として数多くの国が金融危機に陥っている。近年だけでも、ギリシャ、アルゼンチン、キプロス、その他多数。そんなとき、あなたがCくん銀行に詰め寄って残高を現金化しようとしてもシャッターを閉められ、もし一部を現金化できても日々その価値が下がり、紙くず同然になってしまう可能性だってある。

銀行を信用するしない以前に、国もしくはそれが発行する通貨が破綻してしまっては元も子もない。

ちなみに、皮肉なことにそんな財政破綻しているような国々で特にビットコインの利用が激増している。キプロスでは学費をビットコインで払えるし、アルゼンチンではコンビニでペソをビットコインに両替できる。

さて、以上までの、既存の国家やお金、銀行で起こりうる問題をざっとまとめ直すと以下の通りとなる。

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「中央集権」で、誰か人間が運営管理している限り、既存の法定通貨や銀行のシステムではこのような問題が発生する可能性があるというのが事実だ。

さて、私が今日したいのは、日本円や日本の銀行でこんな問題が起こりうるかどうかの議論ではない。繰り返すが、これは金融リスク、預金リスクが最大の環境で実際に起こりうる最悪の問題を「ロールプレイ」した結果のまとめである。

ここまでは、あくまでも既存金融システムに潜んだリスクを理解するための前置き。以上を踏まえた上で、ここからやっとビットコインの仕組みを見てみよう。

ビットコインは単なる電子マネーではなく決済システムだ

まずビットコインは、本当はいわゆる「通貨」ではなく、「電子マネー決済システム」だ。違うことを言う人もいるが、これはビットコインを発明したナカモトサトシの論文タイトルと序章にも書かれている事実だ(これは後ほど紹介)。

ビットコインというのは、何か物理的なものが誰かから誰かに渡っているわけではなく、誰にいくつ発行され、誰から誰にいくら支払われたかのデータを記録する仕組みだ。ところが、その名称だけではなく、単位自体もビットコイン(よくBTCと略される)と呼ばれるから話がややこしくなる。

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よくビットコインは「暗号通貨」と言われるが、それは実際に通貨のように使えるから便宜上そう呼んでいるに過ぎない。そして、お偉い学者さんの間でも、いまだにビットコインが通貨であるかどうかの議論が続いている(編集注:日本では2017年4月にいわゆる仮想通貨法が施行され、法定通貨ではないが、支払手段の1つと定義された)。

実際あなたが日本で使う電子マネーも、同じ決済システムの一種である。その場合はあなたがチャージすると、現金と等価交換でその金額が残高としてどこかに記録され、コンビニで使えばコンビニにその残高が移行したとして記録される。どこかにEdyやSuicaなんていうコインが置いてあるわけではない。

繰り返しになるが、ビットコインも「Bitcoin」というコインが存在していて、誰かがそれを管理しているなんてわけではない。ビットコインはお金ではなく、決済システムだと言うことをまず覚えておこう。

「ビットコインも現金で買うんじゃないの?」という問いへの答えは「イエス」だが、それはあくまでも勝手に第三者が現在のバリューで売買するサービスを提供しているだけだ。だからビットコインは常時価格が変動する。それに対して一般的な電子マネーは、サービス運営者がその買い取り自体を手数料ビジネスとしている。上のコンビニの例で言えば、客から支払われた電子マネーを、手数料を差し引いて買い戻す訳である。

しかし、ビットコインはEdyやSuicaみたいな電子マネーとは「全く違う」。根本的な思想からして違うのだ。

ビットコインはオープンだ

実は、ビットコインはソフトウェアだ。そして、それは「オープンソース」という仕組みで、プログラムの中身(ソースコード)がそのまま一般公開されている。要するに、誰もが中身を見て、無料でインストールできる。

「さっき、ビットコインは決済システムって言ったやん?」

そう。ビットコインは中身が丸見えで、誰でもインストールできる決済システムのソフトウェアだ(インストールについての話は後ほど)。

中身が丸見え、ということは、プログラムが読める(書ける)世界中のエンジニアが、その中身に不正が潜んでいるかどうかも自由に精査できると言うこと。

では、そのプログラムは誰が作っているのか? というと、世界中の有志であるエンジニア達だ。しかも、世界でトップレベルの人材が集まっていると言っても過言ではない。

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かつて銀行システムの黎明期に、システム開発者が全ての計算を「切り捨て」にして、端数を全部自分の口座に入れていた不正が発生したことがあるとかないとか。そんな不正がビットコインでは不可能だと言うことだ。

銀行システムの場合、開発を請け負う業者が徹底的に不具合を精査して、運営に差し支えないようしらみつぶしにつぶす。ビットコインだと、世界中の有志であるスゴ腕エンジニア達がそれをつぶす。

あなたが使っている電子マネーや銀行のシステムが、その中身を「公開」しているなんて聞いたことがあるだろうか?そんなことはセキュリティー上絶対にあり得ない。

ビットコインは全てが公開されているから、世界中の誰にでも精査や監査ができて、「仕組み自体には不正がない」と言い切れる、「信用できる」決済システムなのである。これはOSやサーバー、セキュリティ関連のソフトウェアといったインターネットを支える基盤技術で、オープンソースのものが成功していることとも無関係ではない。不特定多数の人の目にさらされて、常時改訂を繰り返しているからこそ信用できるのだ。

発行量までオープン

一般的なお金では、その法定通貨という名が表すとおり、国が発行して流通をコントロールしているということだった。よって、国が財政に失敗したり、通貨を発行しすぎたりすると、お金の価値がどんどんと下がってしまう可能性もある。

しかし、ビットコインでは先ほど説明したとおり、全てのプログラムが無償で一般公開されている。その中には、なんとビットコイン自体が発行される量までが最初から組み込まれており、そのルールまでもが全てオープンに公開されている。

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ビットコインでは、公開された2009年から毎日ほぼ10分ごとに発行されているが、およそ4年ごとにその発行量が半減し、合計2,100万ビットコインを上限とすることが最初から決まっている。

2015年3月時点で既にもうその半数以上が発行されているが、また2年後である2017年に発行量が半減する。

次第にその発行量は少なくなり、ビットコイン自体の価値が陳腐化しないように計算されている。

日本円や米ドルのように、中央管理する誰かが発行量や流通量を決めて価値をコントロールしているわけではなく、ビットコインは最初からこの先どのように発行されていくかが明記されているという、極めて「透明性が高く」、健全な仕組みなのだ。

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では、誰がそのソフトウェアを何に入れて、何のための動かしてるのか?

その疑問は先送りにして、アカウント(口座)の概念をまず見てみよう。

ビットコインのアカウントは自分で勝手に開く

先述の通り、銀行で口座を開設するには、あなたは印鑑を押し、身分証明書を提出して開設を申し込まなければならない。

銀行はあなたが反社会的勢力でないかどうか、過去にその銀行で問題を起こしたことがないかどうかなどを調べた上で、あなたの口座を開くかどうかを決める。言い換えれば、「あんたなんかには口座を開いてやらない」と拒否されることがあるということ。全くの誤解で口座が開けない、なんてこともある。

実は、ビットコインには管理者がいない。その説明も後回しだが、ビットコインには「口座の開設」という概念がないのだ。当然管理者がいないので審査なんてあり得ない。「僕、ビットコインの口座開きたいんだけど、方法を教えてください」。そんな質問に、「勝手に自分でいつでも開けるでしょ?」と、ちょっと詳しい気取りの人からそんな冷たい答えが帰ってくる理由はここにある。

ビットコインではあなたの(口座番号にあたる)アドレスは、あなたがそれを勝手に自分のものと決めて使い始めることによってあなたのものになる。

言わば「今日からこれが俺のアドレスや!」と勝手に宣言するのだ。

ではどうやって?

ビットコインのアドレスは一人100万個でも持てる暗号鍵

世の中には「乱数」という言葉があるのをご存じだろうか?その名の通り、「ランダム」に発生させた数字である。ビットコインの暗証番号にあたる文字列は、その乱数を元にして作られる。

実際の乱数はプログラムが発生させるのだが、めちゃくちゃ乱暴に端折って例えると、ビットコインでは70回ほど10面サイコロを振った数字を出して、それを文字列に変換したものがまずあなたの「暗証番号」にあたるものになる。正式名称は「秘密鍵(Private Key)」。色んな形式があるが、どれも最終的に英数字に変換されている。

例えば、こんな感じ。「5Kb8kLf9zgWQnogidDA76MzPL6TsZZY36hWXMssSzNydYXYB9KF」
(残念ながら私の秘密鍵ではありませんのであしからず)

その秘密鍵を難しい暗号プログラムに通すと、それが「1」か「3」で始まる26文字から35文字の文字列になる。しかも、間違えられにくいように(??)見分けにくい小文字の「l(エル)」と大文字の「I」、数字の「0」と大文字の「O(オー)」は含まれない状態で。これは、飛行機の座席で「I」と「1」が見分けにくいから「I」席が存在しないのと同じ感じだ(笑)。こちらの文字列の正式名称が「公開鍵(Public Key)」。しかし通常は「ビットコイン・アドレス」(Bitcoin Address)と呼ばれる。これがあなたの「口座番号」にあたる。

例えば、こんな感じ。「1P95EfkCvo6HcPN21eVc3aPvzxqEjjGtQy」
(送金を是非お待ちしております(笑))

この「暗証番号」にあたる「秘密鍵」からは、そのプログラムを通せば誰でも「口座番号」にあたるまったく同じ「公開鍵」が作れる。しかし一方通行なのでその逆はできない。「公開鍵」から「秘密鍵」は推測できない。

ちょっと難しい説明になってしまったが、完全に理解する必要はない。ビットコインの根幹には、この「公開鍵暗号」という技術が使われていることだけ頭の片隅に置いておこう(後でもう一度簡単に説明する)。

ここで言いたかったのは、ビットコインの利用においてはこの「秘密鍵」が絶対的な存在だということ。もしこれが他人に渡れば、自動的に「公開鍵=アドレス」を教えることになるのは当然のこと、秘密鍵を持つ人物はそのアドレスにある残高を全て自由に送金することができてしまう。

冒頭でも触れたMt. Goxの破綻。それも、何万という客から預かっているビットコインを管理する秘密鍵が直接犯人の手に渡ったか、もしくはそれを操作する仕組みに違法にアクセスされたか、そのどちらかが起こったと言うことになる。
もともと個人情報を紐付けた「所有権」が存在しないので、「秘密鍵」が他人に知られた時点で、コントロールを失う。これについては自己責任だ。

そこが銀行口座とは違う。その残高や送金を誰も保証してくれない。

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もう一つ注目すべきポイントは、実は技術的な話を端折ってさらっと簡単に「10面サイコロを70回振る」と表現した部分。これは要するに、70桁以上の数字が無作為に作られて、変換されてあなたの「秘密鍵」になるということ。

アドレスとして使えるその数は、星の数ほどの組み合わせがあって、計算上あまりにもバリエーションが多すぎて他人のそれとダブることはない。そんな原理で、ビットコインのアドレスは作られる。

例えば、76桁の数字だとこんな感じ。

「5,738,109,574,369,060,248,638,013,835,744,990,135,867,462,664,001,844,289,011,300,385,771,209,384,756」

世界人口が72.5億人だといわれているが、その数字でもこれだけにしかならない。
「7,250,000,000」

どう見ても他人と数字がダブる桁数には見えない。

従って、このアドレスはプログラムを通したら誰でも簡単に作れてしまう。一人当たり、いくつでも作れてしまう。だから、もし必要ならばあなたは100万ビットコインアドレスだって持てる!

では、そのアカウント間の送金はどうやって動くのだろう?

ビットコインは元帳までオープン

送金の仕組みを見る前に、金融システムに必須な元帳の仕組みを覗いてみよう。冒頭で見た銀行の概念を、根底から覆す仕組みがここに登場する。

ビットコインでは、元帳の内容まで全てオープンなのだ。しかも、スタートした2009年から全ての支払い記録(トランザクション)が誰にでも入手できて閲覧することができてしまう。この部分だけでも、もう金融システムとしては非常識きわまりない。

ここで、先ほど後回しにした「ビットコインのインストール」についての話が登場する。

ソフトウェアとしてのビットコインは、そのルールに従って様々なバージョンが作られており、色んなハードウェアで動かせる。PCはもちろんのこと、専用機もあるし、やろうと思えばあなたが持っているスマートフォンで動かすことだって可能だ。

実際にソフトウェアとしてのビットコインを自分のPCにインストールすると、2009年から始まったその何十ギガバイトという元帳データをダウンロードして同期することから始まり、ひどい場合にはそのデータ同期には数日以上もかかる(ただし元帳データを同期しないようにもできる)。

「そんなことしたら、僕の支払いがみんなに丸見えで、プライバシーもくそもないやん!」

そう考えるのはごく自然だが、先ほど説明したとおり、ビットコインには個人情報は一切関係ない。存在するのは、ランダムに作られた無数の「アドレス」だけ。その元帳には、「どのアドレスからどのアドレスにいくらビットコインが送金されたか」だけしか書かれていない。

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よく、ビットコインは「違法なビジネスに使われやすい」とか「匿名で送金できる怪しいシステム」と言われる。実際にアドレス間のやりとりだけで成り立っているからそう言われるのは仕方ないのだが、アドレス間の送金は全て記録されていて、一般に公開されているのである。

もし、あなたがAさんとBくんの「アドレス(公開鍵)」を知っていて、BくんがAさんに送金した場合、その元帳を検索すれば、その支払いの時間と金額について知ることができる。

それが、冒頭に言った「ビットコインの透明性が高い」理由だ。

これって、よく聞くビットコインのイメージである「匿名性」と相反するように聞こえないだろうか?

ビットコインは、アドレスの所有者については「匿名性」が高く、アドレス同士のトランザクションについては「透明性」が高いのである。

よく「ビットコインがマネーロンダリングを容易にする」などと言われるのだが、アドレスを個人情報と結びつけることが困難なだけで、送金された内容を見るには、時間さえ掛ければ全てその記録から追いかけられるのである。その点では、既存の金融機関を駆使したマネーロンダリングに比べれば、よほどトレースしやすいと言える。銀行間のマネーローンダリングであれば、わざわざ経由した銀行全てに開示命令を持って、それぞれ個別に情報を取らなければならないのだから。

ビットコインで多額のマネーロンダリングを行っても、大金はどこかで現金にするしかない。アドレス間でぐるぐるたらい回しにしてから、デルのPCをビットコイン建てで大量に買い付けても(アメリカではデルもビットコインで払える)、売却と現金化が大変だしそこで足が付く。現行のマネーロンダリングでさえ、犯人の検挙には入り口と出口、中継地点となる口座での個人情報との紐付けが必須だ。知識と手順、手間の問題だけで、結局、ビットコインを使ったマネーロンダリングの検挙と、手間はそう変わらない。

一部のお偉い方達は、理解が難しいビットコインを怪しく思い、必要以上に危機感を感じているというわけだ。

ただしビットコインの場合も、複雑に送金を繰り返して追いかけにくくするようなサービスは存在している。ビットコインもあくまでもツールであり、実際の金融機関と同じく、そこに寄ってきて悪用する嗅覚の鋭い犯罪者がいるというだけの話。

いずれにせよ、銀行の仕組みではその元帳の公開など絶対にあり得ない。むしろセキュリティ上あってはならない。ビットコインでは、それが公開される前提で作られている仕組みだということだ。ビットコインはこのように、「極めて透明性が高い仕組み」であることを覚えていて欲しい。

中央管理者がいない?

ビットコイン推進派があなたにアピールしてくるとき、「中央管理者いないんだぞ!」や「非中央化されてるんだぞ!」、果てには「Decentralizedやで!」など謎めいた言葉を投げかけてくるだろう。必死なその言葉が宗教的に聞こえてしまうこともあるかもしれない。

実はビットコインの送金を理解するのに必須なのは「非中央化(Decentralization)」の理解。しかし、あなたの頭に浮かぶごく自然な疑問は「管理者がいなくて、金融サービスが動くわけないやん」ということ。

ここでは一旦その「Decentraなんとか」のことは忘れよう。

乱暴に言い換えれば、ビットコインは「ネットワーク参加者全員が管理」しているのだ。

冒頭の銀行の説明では、Cくんが銀行を管理運営していた。バックアップの元帳を別の複数箇所に管理していようが、これは「中央管理(Centralized)されている」と言う。法律や規制はあれど、Cくんの気持ち一つで不正や横領どころかサービス閉鎖も自由なのだから。

しかし、「ビットコインはオープンである」と説明したところで出てきたように、ビットコインは誰でも無料でダウンロード出来てしまう。すなわち、それを動かせば、誰でもビットコインの管理者(正しくは管理者ではないけれどその説明は後ほど)になることができるということ。

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では誰が、何の目的でわざわざそんなソフトウェアを入れて動かすのか?

ただのボランティアなのか?そしてそんな管理者もいない無秩序に聞こえる世界で、どうやって送金の仕組みが動くのか?それを解き明かすために、再びロールプレイの世界を見てみよう。しかも、前回よりは遥かにドラマティックな展開を見せるロールプレイを、さらにそのプレイヤー達に近い視点から。

ビットコインは少数点第何位まである?

今回は、BくんからAさんに1,000円ではなく、0.1BTC(ビットコインの略)を送金する場合で考えてみる。

「ん? ちょっと待った!0.1BTC? 少数点あるやん?」

そう。実はビットコインの最小単位は1ではない。日本円にも、かつては1/100円である「銭」という単位があった。

ビットコインの最小は0.00000001(=1億分の1)BTC。1ビットコインは2015年3月25日現在約3万円だから、最小単位を円に換算すると0.0003円ほどだ(編集注:2017年12月28日時点で170万円弱、実に60倍近くだ)。この最小単位を、ビットコインの発明者のナカモトサトシに敬意を表してビットコイン業界(笑)では慣習的に1 Satoshiと呼ぶ。

しかし、実際にはビットコインで送金できる最小金額は仕様上5,460 Satoshiとなっており、この金額未満はDust(くず)と呼ばれる。日本円に換算すると約1.638円だ。この額以上であれば送金が可能なので、ビットコインは充分に魅力的な少額決済が可能なシステムとも言える。

クレジットカードは送金(決済)のコストが高いので、10円なんて死んでも決済したくない。(元々クレジットカード決済事業を営んでいた私から見て、これはホンネの表現)。特に日本では大赤字になる。銀行は振込手数料さえ支払えば10円でも振り込んでくれるが、さすがに利用者の割に合わない。

さて、話がそれたが、BくんからAさんへの送金がどう処理されるかに視点を戻そう。ちなみに先ほどの円換算で言うと、約3,000円ほどの送金である。

「ビットコイン・ネットワーク」の参加者が送金処理を請け負う

ソフトウェアであるビットコインは誰でも無料で入手して、インストールすることができることは既に説明した。そのソフトウェアをインストールしていると、誰でもすぐに「ビットコイン・ネットワーク」に参加することができる。今日からあなたでもできる。

その参加者は、「ビットコイン・ネットワーク」上で他人の送金決済の承認を担うノード(node=接続ポイント)の一つとなるのだ(このノードと言う言葉もよく使われるので覚えてしまおう)。

では、そのネットワーク参加者(ノード)の間で何が起こっているのか。

ここでは、Oくん、Pくん、Qくんがソフトウェアであるビットコインを動かしていて、ネットワークに参加しているとしよう。わかりやすいように、PCではなくスマホ上でソフトウェアとしてのビットコインを動かしていることにする。3人ともスマホはインターネットにつながっている。この3人は立派な「ビットコイン・ネットワーク」上のノードだ。

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送金したい者は、インターネットにつながっている、いずれかのノードにその旨を伝えればよい。それだけで直ちに送金処理が始まる。

全ての送金依頼は「公開鍵暗号」で「電子署名」される

では、BくんがAさんに0.1BTCを送金したい場合はどうすればよいか?

Bくんは、先述の自分の(暗証番号にあたる)「秘密鍵」を使って、自分のアドレスからAさんのアドレスに対して0.1BTC送金したい、という情報をそのネットワークに流す。

ここでは、わかりやすくするために、Aさんのアドレスは「xxxxxxxx」、Bくんのアドレスは「yyyyyyyy」ということにしておこう。

ややこしい暗号技術の話は端折る約束だが、簡単に説明すると「秘密鍵」を使った電子署名は、その「秘密鍵」を知っている人間にしかできない。これで作った「(Bくんのアドレス)yyyyyyyyから(Aさんのアドレス)xxxxxxxxに送金したい」という情報は、yyyyyyyyの「秘密鍵」を握るBくんにしか作れないのである。

しかし、他人からはBくんの「公開鍵」を使えば、これはBくんが作ったものだとちゃんと確認できる。しかも、この場合Bくんの「公開鍵」はBくんのビットコインアドレスそのものだから、それをそのまま使えば「これはちゃんとBくん本人が作った送金リクエストだ!」と本人確認できてしまう。

アドレスの作り方を説明したところから出てきたこの「公開鍵暗号」という仕組みは、「電子署名」という名の本人確認ができてしまう非常に便利な仕組みなのだ。

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通常の銀行送金の場合であれば、インターネット上でつながった銀行のウェブサイトにそのパスワードを入力せねばならない。だから、PCに怪しいマルウェアが仕込まれていたりすれば、パスワードが第三者に漏れて残高を盗まれる可能性も高まる。実は日本だけでも、一般預金者がそんな被害を年間何十億円も被っている

ところがビットコイン送金で必要なこの電子署名は、インターネットにつながっていない端末でも署名することができる。いったん署名した情報は他の誰にも改ざんできないから、安全に依頼ができるというわけだ。

それこそ、インターネット接続を切ったスマホでまず電子署名して、それからその署名したファイルを他の端末に移して送金リクエストを出すことだってできる。こんなにも安全な送金依頼方法は、既存の金融システムではまずありえない。

ビットコインはP2P電子マネー

さてBくんは、早速その送金リクエストの情報をOくんのノードに投げた。

「yyyyyyyy(Bくんのアドレス)からxxxxxxxx(Aさんのアドレス)に
0.1BTCを送金 by yyyyyyyy(電子署名済)」

そして、一つのノード(Oくん)に送り込んだ送金リクエストは、インターネットでつながった全部のノードに一気に広がる。

ここで初めて、ビットコイン好きな人からよく聞かされる言葉である「P2P(Peer to Peer)」が理解しやすくなる。

オンラインバンキングのように利用者が一斉に一カ所に用意された中央サーバーに接続する(「クライアント・サーバー方式」と呼ぶ)のではなく、それぞれのノードが蜘蛛の巣のようにインターネット上でつながって、個々のノード同士がが情報を交換するから、この仕組みを「P2P方式」と呼ぶ。

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図の右側では、BくんもGくんも両方同じCくん銀行のサーバーに接続している。しかし、図の左側のビットコインでは、手元で作った送金リクエストファイルを、好きなノードに投げるだけで良い。

よく知られているソフトウェアでは、インターネット電話のSkypeがこのP2P接続で成り立っている。音声を、無数にいる利用者の端末を都合良くつないで経由するのだ。

そこで見て欲しいのが、前の方で紹介を約束していた、ビットコインの発明者であるナカモトサトシの論文タイトルだ。

「Satoshi Nakamoto(中本 哲史)(2008)
Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System
(ビットコイン:P2P電子マネーシステム)」

タイトルに入れるほど、この「P2P」の仕組みがビットコインにとって大事だと言うこと。なのでこれは今のうちに頭に入れておこう。

ではBくんの送金に話を戻そう。

O君のスマホはそのBくんのリクエストを受け取った。すぐにO君が入れているソフトウェア版のビットコインは、そのリクエストが正しいものなのかを検証する。O君のスマホは過去全部の元帳データを持っている。だから、B君のアドレスが支払うに十分な残高を持っているかどうかもすぐに分かる。

これは正当な支払いリクエストだ。そのことが分かった瞬間、O君のスマホは「ビットコイン・ネットワーク」に参加している全員にも、先ほど出てきた「P2P接続」を利用してリクエストを配信する。当然PくんもQくんもそれを受け取ることになる。

これは、O君個人の意思ではなく、スマホに入っているソフトウェアとしてのビットコイン(覚えなくて良いが、通常デーモンと呼ばれる)に組み込まれている絶対ルールなのだ。ネットワーク参加者は、平等にそのリクエスト情報を受け取ることができる。

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では、ここでみんなに広がったB君の支払いリクエストについて、その情報を「ビットコイン・ネットワーク」上で「正式に支払い済」として採用するにはどうすれば良いのか?

それは、この新しいリクエストを新しいページに書き込み、そのページを元帳の最後のページにのり付けすればよいのだ。そうすれば、Bくんの送金は正規の元帳に記されたトランザクションデータの一つとなるはず。

Oくんは、早速新しいページを用意して、そこに書き込んだ。

「yyyyyyyy(Bくんのアドレス)からマイナス0.1BTC。xxxxxxxx(Aさんのアドレス)にプラス0.1BTC」

しかし、誰でも単にこのページを正規の元帳の最後にのり付けすれば良いというものではない。そんなのが有りなら、それこそ不正し放題の世界だ。

物事にはルールがある。ビットコインもしかり。のり付けする権利を得るのは、たった一人だ。

そしてバトルの火蓋が切って落とされる

そうだ。ここでついにビットコイン・ネットワークの真相を明かそうではないか。

この新しいページを既存の元帳に正式な1ページとして追加するには、実は参加者(ノード)全員が参加するバトルに勝たねばならないのだ!

よくみると、手元の元帳の最後のページには謎の暗号文字が書かれている。

「お題:00LhRlQs8A」
(実際にはもっと文字数が多いのだが、ここではわかりやすく短くしてある。)

Oくんはその文字列をスマホカメラで読み込んだ。スマホ画面には、その文字列が現れ、その下に「ノンス(nonce=使い捨てのランダムな値)」という空欄と送信ボタン、そしてさらにその下に「計算結果」という空欄の合計3行が表示された。

ちなみに「ノンス」は、ひたすらランダムな文字列を生成して放り込む。正解の計算結果を出すためだけに使われる、使い捨ての項目を意味する。

画面が表示されると、突然Oくんは画面の連打を始めた!ひたすら連打する度に「ノンス」の欄に意味不明な文字列が表示され、計算結果の欄にも意味不明な文字列が表示された。そして画面に大きな赤い「×」が「はずれ」の文字と共に表示されている。

その赤い「×」がでた瞬間に同じボタンを叩く、Oくんは気が狂ったように、ひたすらそれだけを繰り返す。

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Pくん、Qくんも同様だ。Oくんに負けずと、無心にスマホ画面上のボタンを連打している。その度に、3人の画面には赤い「×はずれ」が表示されるばかりだ。

そして10分後……。

Pくんの画面に、今までの赤い「×はずれ」とは違う青い「○正解」という文字が表示された。

「正解!勝者zzzzzzzz(Pくんのアドレス)!
おめでとうございます!
頭の『00』がそろいました!
賞金、25ビットコイン!
(30,000円換算でなんと750,000円)」

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勝者のPくんは休む暇もなく、自分が先ほど書いた新しいページの最後に、スマホ画面の「計算結果」という欄に表示された文字列を書き込んだ。

「お題:00ue7EGxpV」

さらに、自分のアドレス残高に賞金の25ビットコインを追加するよう自らページに書き込んだ。

「zzzzzzzz(Pくんのアドレス)にプラス25ビットコイン」

そして、糊でそのページを元帳の最後に貼り付け、新しいページの撮影をして、ビットコイン・ネットワークに送信した。

それと同時に、Oくん、Qくんの画面にもメッセージが表示された。

「Game Over!」
「残念、勝者はzzzzzzzz(Pくんのアドレス)でした」
「zzzzzzzzが導き出した正解を検証してから、新規ページに書き写してそれを元帳に足しなさい」

バトルの敗者となったOくんとQくんは、Pくんから送られてきた正式な新しいページをまず検証する。Pくんが不正をしていないか確認するためだ。

バトルに使うアプリはどれも、同じ「ノンス」を入力すると一方通行で同じ計算結果を算出するから、検証は簡単だ。Pくんがもし不正をしていれば、違う答えが出るからだ。

これは、参加者(ノード)全員が、その他の全員が不正しないよう勝者を360度監視するバトルなのだ。

Oくん、Qくんは、Pくんの答え=「ノンス」が正しいことを確認したので、自分たちが書いたページの下書きを破り捨てた。新しい用紙に勝者Pくんから送られてきたページの内容をそのまま書き写し、元帳の最後に貼り付けた。これでPくんの新規ページが正式に承認されたことになる。

当然その元帳の最新ページには「BくんからAさんへの送金」、「Pくんが勝ち取った賞金」、「新しいお題」の全てが記録されている。

これで、一連の送金手順がひと通り完結することになる。Bくんからは、Aさんに正式に0.1ビットコインが支払われたことになった。

そして、Pくんは何故か賞金25ビットコインも受け取った。

さて、いきなり賞金付きのパズルバトルなんて、ここでは一体何が起こってるというのだろうか?

新規発行ビットコインを賭けた欲望バトル、それが採掘

じつは、Oくん、Pくん、Qくんが参加していたのは、賞金を巡る果てしないパズルバトルだった。

そのルールというのは以下の通りだ。

  1. まず新しく「ビットコイン・ネットワーク」に投げられてきた送金リクエストの中から、好きな物を自分で選んで新しいページに書き込む。
    この場合、「(Bくんの)アドレスyyyyyyyyからマイナス0.1BTC。(Aさんの)アドレスxxxxxxxxにプラス0.1BTC」
  2. リクエストを新規ページに書き終わったら、手元にある元帳の最後のページにある「お題」という文字をスマホで読み込む。
    この場合、「00LhRlQs8A」がそれにあたる。
  3. すると、スマホでパズルバトルが始まる。元のお題の文字列に対して、「ノンス(nonce=使い捨てのランダムな値)」というランダムな文字列がボタン叩く度に表示され、その2つの文字列が暗号プログラムに通されて「計算結果」の欄が算出される。
  4. ボタンをひたすら叩き、約10分後に「計算結果」の欄に最初の2文字が「00」になる結果を一番最初に表示した者が勝者となる!
  5. 勝者には、賞金として25BTCものビットコインが新規に発行される!
  6. 勝者は、自分が書いた新しいページに算出された計算結果=新しいお題を書き込み、自分の残高にも25BTCを書き足してから元帳の最後に貼り付ける。この場合、「(Pくんの)アドレスzzzzzzzzにプラス25BTC」
  7. 勝者は、そのページを撮影し、ネットワークに流す。
  8. 他のプレイヤーは、勝者の「ノンス」を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する。ぶつけた「ノンス」の数(計算力)をもって投票権とし、51%以上のプレイヤーが正しいとすればよし。
  9. 検証の結果、敗者は失敗したページを破って捨て、プレイヤー全員は勝者が作った新しいページを、正式に採用(承認)する。
    これで1ページ分の送金が完了し、休みなく次のバトルへと進む!

すなわち、元帳の正規ページをのり付けするために開催される、この無謀な総当たり連打バトルに勝った者に、新規のビットコインが発行される仕組みになっていたのだ。

注目すべきはルールその8。

「他のプレイヤーは、勝者の『ノンス』を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する」

実はここにも、ビットコインのアドレス作成の箇所で学んだ、一方通行の暗号方式が使われている。Pくんがかなりの苦労を伴って算出した正解である「ノンス」。しかし一旦誰かがその正解を導き出せば、あとは誰がその「ノンス」を使っても、同じ計算結果が出る。

と言うことは、OくんとQくんがPくんの答えを検証するためには、その正解の「ノンス」を同じ暗号プログラムに放り込むだけ。それで一発で完了する。

これが冒頭でチラ見せした、ビットコインで重要な「Proof of Work(PoW)」という概念なのだが、詳しくはまた後ほど。

ここでもう一度、冒頭で説明した一般的な通貨を思い出して欲しい。それら法定通貨は、国=政府が勝手に発行量や流通量を決めてコントロールする。我々国民は、いくらどのように発行されているのかさえ気にしない。

しかしビットコインでは、決められた発行量がこのバトル勝者に発行される。ビットコインの発行量を説明した時に、「約4年ごとに発行量が半減される」と説明した。実はこれはわかりやすいようにい言い換えただけだった。これを正しく言い換えると、「10分ごとに勝者が発表されるバトルにおいて、21万バトル(ページ)ごとに支払われる賞金が半減される」となる。

すなわち、2015年現在25BTC支払われているものが、2017年には12.5BTCに半減されると言うことだ。そして2021年にはそれが6.25BTCになる。

この新規発行されるビットコインは、支払いリクエストの承認作業をするためにバトルに参加するプレイヤー(マイナー=採掘者)達への賞金としてのみ用意されている。

ビットコインを手に入れるには3つの方法しかない。買うか、もらうか、それとも自分で採掘するかだ。このバトルがその3つめにあたる。

あなたもよく、ビットコインに関してこの「発掘」や「採掘」、「mining(=採掘)」という言葉を聞いてきただろう。これは、「コイン=金」という発想から、連想される「採掘」という言葉を採用しただけの話で、本当は土を掘る行為でも何でもない。もうおわかりのように、それは新規発行される賞金のビットコインを賭けた、欲望によって成り立つ暗号パズルバトルだったのだ。それが「ビットコイン採掘行為」の実態である!

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ただし、ここまでの内容はわかりやすくするためにかなりデフォルメしてある。

実際には人が無心に画面を叩くわけでもなく、決まった暗号方式でひたすらコンピュータや専用機がノンスを総当たりでぶつけながら計算し続けているし、元帳のページも決まった方式でデータを整えて用意しなければならない。そして元帳1ページあたりにはかなりの量のトランザクション(送金リクエスト)が記載できる。

これら全ての行程はビットコインの仕様として詳細が決められており、人を介さず全自動で、かつ、とてつもない速さで処理されている。

さて、このバトルでは、ソフトウェアであるビットコインに組み込まれているルールが絶対だ。しかし、ここでもそれを逆手に取る者がいる。

実は、この採掘バトルでは、上記のルールさえ守れば「総当たり連打するための武器は問わない」のだ。

採算を賭け武器も場所も問わないバトル、それが採掘

Oくん、Pくん、Qくんは日本に住んでおり、かろうじて賞金総額(新規発行された獲得ビットコイン)が食費(消費電力の電気代)を上回って生活している。「腹が減っては戦はできぬ」のだ。

そこに、Sさん、Tさん、Uさんが参加してきた。しかも、Sさん、Tさん、Uさんは資金も潤沢で高級な「画面連打専用強化ギブス」を購入してバトルに備えてきた。

この「ギブス」は、ひたすらボタンを連打するマシーン。手でボタンを叩く何百倍もの速さで画面上のボタンをたたくことが可能だ。

ただ実は、この「ギブス」を使うと、使わないOくん達に比べて何倍も速く腹が減る(電力を消費する)。そこが唯一の難点だ。しかし、食費(電気代)が遥かに安い中国在住のSさん達には問題ない。電気代が馬鹿高い日本に住むOくん達よりも、高いコスト効率で賞金稼ぎに専念できるため、高いギブスのコストも十分に回収できるのだ。

この例えが、まさに近年のビットコイン採掘バトルを象徴している。電気代や土地代の安い中国では、部屋どころか工場を丸ごと専用採掘機(ASICと呼ぶ)専用のデータセンターに改造し、巨大な水冷装置でそのコンピュータを冷やしながら日々大量のビットコインを採掘している。

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ビットコイン採掘競争がグローバル規模で激しくなればなるほど、我々電気代の高い近代国家(当然日本は一番不利な方)に住む採掘者にとっては、参加するには採算の合わないバトルへと変貌している。

ここで、鋭い人には一つの疑念が浮かぶ。

採掘バトルの厳しさも自動で調節するビットコイン

「先ほど、ルールでは1バトルにおいて、約10分後に勝者が生まれると言っていた。これだけルール無用のバトラーが数多く参入してきたら、1バトルあたりの合計連打数がどんどん増えて、1バトルに要する時間も10分よりどんどん短くなっていくのでは?」

全くその通り、しかし、ソフトウェアであるビットコインはそれも自動的に制御している。

先ほどのルールに出てきたお題である「00LhRlQs8A」。計算結果はこのお題と同じく最初の2桁がゼロであれば勝利、となっていた。しかし、バトル参加者が増加して、合計の連打ペースがどんどん上がってくると、ソフトウェアであるビットコインはこのルールを自動的に変更する。

すなわち、1バトルあたりの時間がちょうど10分になるように、そろわなければならない頭のゼロの桁数を増減させるのである。バトル参加者の連打が増えれば、ゼロの桁数を増やす。連打が減れば桁数も減らす。これが、実に2,016バトル(ページ)ごとに自動的に調整される。

実際のビットコインでは、この例で出したものより遥かに文字数が多く、揃えなければならないゼロの桁数も現在は16桁前後である。これを総当たり戦で正しいノンスを割り出すには、とんでもない計算能力が必要になる。その計算力についての詳細は、また後ほど説明する。

「Bitcoinの決済には10分かかる」と耳にされたこともあるかもしれないが、その10分という数字はここに由来するというわけだ。

厳密に言うとすれば、ビットコインの採掘では、1バトルの時間制限が10分に設定されているのではなく、10分でバトルが終了して勝者が生まれるようにルール自体が自動的に調整されていたのだ。これにより、元帳のページは平均して10分に1ページずつ増えていくことになる。

ビットコインの決済手数料とは?

「ビットコインの送金手数料は銀行のそれに比べて遥かに安い」とよく言われる。しかし、「無料で送金できる」という者もいる。

一体何が正しいのだろう?

正解は、「両方とも正しい」である。

例えば、BくんとAさんに加えてもう一組、GくんとFさんが同時に0.1BTCを送金したい、とリクエストしたとしよう。

Bくんはケチで、手数料を払いたくない。そこで、送金時に「手数料0」としてリクエストに署名して「ビットコイン・ネットワーク」に送信した。

ところが、GくんはFさんに同じ0.1BTCを送金する際、0.001BTC(約30円)を手数料として含めて署名し、「ビットコイン・ネットワーク」に送信した。

そう、ビットコインでは、送金リクエスト時に好きな分だけ送金手数料を上乗せしてリクエストできる。例えば、1BTCを送金するために100BTCの手数料を支払うことも可能だ。もったいないけど。

カード決済のように受け側(商店側)が手数料を負担するのではなく、日本の銀行振り込みのように支払側が手数料を設定する。

ここで、採掘バトルのルールをもう一度見てみよう。ルールその1にこうある。

「新しく『ビットコイン・ネットワーク』に投げられてきた送金リクエストの中から、《好きな物を自分で選んで》新しいページに書き込む。」

実は、ビットコイン・ネットワークに投げられた送金リクエストは、各ノードにある「プール」と呼ばれる場所に一旦保留される。新規ページに自分が承認したいリクエストを書き込む際に、採掘者は自分が「好きなものをプールから自由に選べる」というわけだ。

ではもし、BくんGくん両方の送金リクエストが届いた時点で、採掘バトラーPくんのページには、もう既に最後の1リクエスト分しか書き込むスペースが残っていない場合はどうするだろうか?

答えは簡単である。Pくんは、手数料ゼロのBくんの送金リクエストを蹴って、手数料0.001BTCのG君の送金リクエストを書き込んでからバトルに参加する。

その結果Bくんのリクエストは、今回のバトルでは無視されてプールに放置されてしまった。次のバトルでページにとり上げられるのを待つしかない。

こんなことが起こる理由は明白だ。自分が採掘バトルに勝って元帳の正規新ページに採用された場合、そこに載せた送金リクエストの手数料全てが合算されて自分のものとなるという取り決めがあるからだ。

Pくんにとって、タダよりも0.001BTCの手数料の方が貴重だ。ちりも積もれば山となる。それに、時々送金の設定をミスって手数料1BTCなんてのも送られてくる。この話、実際に起こりがちだから手数料収入も馬鹿にならない。

勝者には、賞金である実に25BTCという大金が与えられるが、それ意外にも、この手数料収入が上乗せされて発生する仕組みになっているというわけだ。

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ちょっとビットコインを勉強した人から、こんなことを聞かれることが多い。とくにビットコインのあらを探す反対派の人達から。

「ビットコインの発行量、すなわち採掘者の報酬が4年ごとに半減するなら、採掘のインセンティブと魅力が下がっていって、どうせ将来はビットコインの仕組み自体が機能しなくなって破綻するんだろ?」

確かに先述の通り、2017年には報酬が25BTCから12.5BTCへと半減し、2021年には6.25BTC、2025年には3.125BTCとなる。しかし「ビットコイン・ネットワーク」は、年を増すごとに「採掘インセンティブ重視」から「送金手数料(トランザクション・フィー)インセンティブ重視」の、より純粋な決済ネットワークへとシフトしていくだけである。

ナカモトサトシ先生は、そんな誰もが思いつくような懸念について、最初から思いつかないほどの馬鹿ではない。

ちなみに、ビットコインの「送金手数料が安い」というのも事実だ。上記の0.001(約30円)でなくとも、0.0001BTC(約3円)も支払えば、充分に短い時間で送金が承認される。

現在の一般的な海外送金を考えてみて欲しい。数万円を送金するだけでも何千円もの手数料を支払い、長い場合には送金先に着金するまで2日3日かかる。大企業がどれだけ交渉しても、その料金は800円程までにしか下がらない。

さらには送金金額が非常に多い場合、銀行は1日2日分の金利を稼ぐためにわざと外部への送金を遅らせるということまで平気でやってのける(日本の銀行は知らないが、私は欧米の銀行で過去よくやられた)。最近では一般消費者向けの海外送金手数料も下がってきたが、ビットコインとは桁がまだ3つくらい違う。

そんなしがらみや無駄なコストが一切なしに、10分もあれば少額でも世界のどこにでも送金できてしまうのがビットコインである。

いや、実際にはビットコインが海外に送金されるわけではないので、厳密に言えば世界中どこにいる相手にでも、10分もあれば残高の権利を移行できる、としておこう。

手数料ゼロで送金できるのも真実

「では、手数料ゼロの送金リクエストは採掘者に損なので、永遠に無視し続けられるのでは?」

ビットコインでは、そんなことも想定してルールが作られていた。さすがナカモトサトシ師匠。

実は、先ほどのバトルのルールその2では、とある詳細を割愛していた。それがこれだ。

「なお、新規ページ上には決まった分だけの特別スペースを確保しておき、その分を『手数料が極めて小さくても承認されずに一定時間以上が経過しているなど、陳腐化しそうな送金リクエスト』で必ず埋めること」

儲かるトランザクションを優先することは自由だが、儲からないが時間が経過しているトランザクションも一定量は優先して載せねばならないという特別ルール。

これにより、時間がかかっても原理的には漏れなく送金リクエストは処理される。

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手数料をゼロとしてリクエストしたビットコインの送金が、当日には全く完了しないのにもかかわらず、数日後の忘れた頃に承認される現象はこれに起因している。

従って、「ビットコインは手数料ゼロで送金できる」というのも正しいと言うわけだ。

純粋な、採掘者の欲望の優先順位で成り立っている「ビットコイン・ネットワーク」。ここは「早く送金の処理をされたければ、手数料は高く払え」という現金な資本主義の世界なのである。

不正や破綻が困難なビットコイン

もう一度、「ロールプレイ」における銀行とお金の仕組みを思い出そう。あの金融リスクや預金リスクが高いことを想定した世界では、不正や破綻を起こすのは簡単だった。

そもそもお金の流通量をコントロールするDくん政府が財政でミスを犯すか、Cくん銀行が同様に経営でミスを犯す、もしくは故意に客の残高を操作するだけで、あなた(Bくん)の持っているお金の価値が紙くず同然になったり、銀行残高がいきなり半減したりする可能性があるという話だった(そう言えば実際に現実社会で半減された経験者は私だった)。

では、ビットコインではどうなのか?

採掘バトルのルールその8を見るとこうある。

「他のプレイヤーは、勝者の『ノンス』を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する。ぶつけた『ノンス』の数(計算力)をもって投票権とし、51%以上のプレイヤーが正しいとすればよし」

すなわち、誰かが全く嘘の「ノンス」でバトルに勝ったふりをしても、ビットコインの360度監視多数決ネットワークでは他の採掘者には一切誤魔化しは認められない。

ではどうすれば不正ができるのか?原理は簡単で、51%以上の投票権を掌握した上で嘘のページを正式に元帳に採用すれば良いのだ。

これを、ビットコインの世界では「51%アタック」と呼ぶ。

ちなみに、この「ノンス」は暗号の関数を通って算出された文字列であるため、多くの場合は「ハッシュ(Hash)」と呼ばれる。したがって、元帳最後のページに載ってる「お題」もハッシュと呼ばれる。なのでここからは「ハッシュ」という言葉を覚えて使おう。

実際には今この瞬間も、恐ろしい数の採掘者達によって、恐ろしい数のハッシュが総当たり採掘バトルにぶつけられている。

このハッシュがぶつけられている(バトルの喩え話で言えば連打されている)単位を、1秒間あたりのハッシュ数を使って、「GH/s(Giga Hash per Second=1秒辺りのハッシュ数/1,000)」で表す。まるでドラクエの呪文のような言葉だ。「ギガハッシュ!」

2013年3月半ば現在で言うと、この数字はおよそ35万GH/sである。それをちゃんとした数字で表すとこうなる:

350,000,000,000GH/s = 1秒間あたり3,500億ハッシュ

この数値を、ビットコインの世界では「ハッシュ・レート」と呼ぶ。

新規発行されるビットコインを巡って、これだけのハッシュが総当りで毎秒試されているのだ。

もしあなたがビットコインで不正をしたい場合は、ルールその8に従って、51%以上となる秒間1,785億以上ものハッシュ・レートをぶつける環境を用意せねばならない。

しかもそれは、現在動いている採掘ノードを乗っ取った場合の話。新規で参入して不正を働くには、既存の秒間3,500億ハッシュを49%以下に抑えるために、実に秒間3,643億ハッシュもの計算能力が必要となる。

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そうすれば、自分が支払い済みのトランザクションを改変するなど、ビットコインの正常な動作を妨ることができる。

しかし、そんなことは現実問題として到底不可能だ。

ビットコイン・ネットワークは、すでにそれぐらい巨大なサイズにまで成長している。現実的に、ビットコインの元帳を意図的に書き換えることはもう不可能であることをおわかり頂けたはずだ。

さて、これを聞いて、データやサービスの信頼性が高いのはこの時点でどちらと思われるだろうか?あなたが知ってるお金や銀行?それともビットコイン?

完全破壊が不可能なビットコイン

もう一度しつこく、「ロールプレイ」の世界の銀行とお金の仕組みを振り返ろう。

Cくん銀行で、あなたの銀行残高データを破壊するのには、その銀行が管理している元帳(実際にはデータを記録してるサーバー)を全て破壊すれば良い。

いくらバックアップとして冗長化され、複数箇所に分散してデータが保存されているとは言え、これは中央管理者によって中央管理されている「Centralizedな環境」と表現される。

それに対してビットコインはどうだろう?

ビットコインでは、採掘バトルに参加しているコンピュータに加え、ソフトウェアであるビットコインを稼働させている全てのコンピュータ内の全てに元帳データが保存されている(実際には、元帳データを持たないものもあるが、ここではいったん無視)。

すなわち、ビットコインであなたの残高データを破壊するには、それらネットワークに参加する全てのコンピュータをほぼ同時に破壊するしかない。でなければまた新たに生まれたノードに元帳がコピーされる。

「ビットコイン・ネットワーク」に参加しているコンピュータは、それこそ世界中に無数に散在している。中国の田舎にある巨大な採掘工場から、日本のとある会社員宅の押し入れの中まで。それを全て、しかもほぼ同時に破壊するなんてことはもう到底不可能な話だ。

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前項のとおり「データを改ざんできない」どころか、「データを破壊したくともできない」。それが、ビットコインの実態だ。

ここでもう一度同じ質問を投げかけよう。データの信頼性が高いのはどちらだろう?あなたが知ってる銀行?それともビットコイン?

ビットコインだけに起こるデータの不整合と解決法

では、ビットコイン・ネットワークに参加するコンピュータの全ては、ずれもなく常に完璧に同じ元帳データを保有しているのか?

実は、それがそうではないことが時々発生する。

とある勝者が勝利を宣言したと同時に、他の採掘者もほぼ同時に勝利を宣言したらどうなるか。そのデータはほぼ同時に無数のコンピュータに伝搬を始める。

そして、それぞれが一部のノードに承認されてしまうことがある。ノードたちが正解を検証する前に二人共が勝者としてデータが出回っている状態だ。

その場合はどうなるのか?ひどい場合は、複数ページにわたって、「ビットコイン・ネットワーク」が分裂して、それぞれを正しいものとして扱ってしまうことがある。

これを、元帳のFork(分岐)と呼ぶ。

分岐といえども、元帳に複数枚ずつページがぶら下がる訳ではない。ネットワーク内で、2種類の中身が異なった元帳が正しいとされて、同時期に二重に存在してしまう感じだ。

実際、1年に数度は、実に40分間ほど(4ページ)にもわたってこのForkが発生することがある。

ではそうなってしまったあと、どちらの元帳が正しいと判断すればよいのだろうか?

実は、そのルールもビットコイン自体に組み込まれている。さすがナカモトサトシはんやで。それは……

「元帳は長い(分厚い)ほうが常に正しい」である。

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きわめてシンプルで潔いルールだ!すなわち、ページ数が長く伸びている方が正しいとされ、短いほうが破棄されるのである。

よく、ビットコイン関連のサービスで、「あなたの入金を確定するには最低6認証必要です」と言ったような表現を見かける。これは、6認証すなわち6ページも元帳が進めば、もうFork(分岐)してその支払いが取消になることはなく、それ以降は改ざんの恐れもなく、支払いが100%確定するだろうということである。

ビットコインの世界では、これが最も確実な回収リスクの回避方法である。

Decentralized(非中央化)された世界

もうこれであなたにも、ビットコインには銀行や国と言ったような、中央管理のための管理者自体が存在しないどころか、全くその必要さえないこと、そしてそれらが存在せずともトランザクションの信用性とデータの冗長性が客観的に保てることも理解して頂いたはずだ。

破ることができない絶対ルールは、最初からソフトウェアとしてのビットコインに組み込まれており、全ての送金承認プロセスは、ネットワーク上に無数に存在するノードが賞金のためにその役割を担う。

この「Decentralized」なビットコイン・ネットワークは、詳しい仕様を見れば見るほど、なぜか「生物の仕様」や「宇宙の仕様」を見ているかのように思えてくる。

各ノードが知性を持ってルールに則った自律活動をし、それら無数のノードが互いにP2P接続し、「新規発行されるビットコインを得る」という共通の欲望をエネルギー源として活動している。

ノードが得たインセンティブが活動コスト(電気代)を上回ればその活動は拡大し、下回れば活動を止める。

世界のどこかでノードが消滅していく傍ら、どこか別の場所でさらにノードが生まれる。

採掘者である個々のノードは、経済的な(採掘能力的な)格差は別として、数学的に平等にその労働に対して報酬獲得のチャンスを得る。

この「ビットコイン・ネットワーク」はとても有機的というか、生物的な集合体(コレクティブ)であるかのようにも感じられる。

この自由で誰にも縛られない「Decentralized(非中央化)」された世界が、世界中のリバタリアン達の支持を得て、ギーク以外のもう一つの文化圏としてビットコインが普及するきっかけとなった。

その証拠に、ビットコインはシリコンバレーなどの活動値が盛んな地域だけではなく、片田舎で開催される小規模なリバタリアンのお祭りなどでも使える。まさに、ビットコインは21世紀仕様のデジタル・ヒッピー・マネーだ。

そしてこの「Decentralized」という言葉は、今やビットコインを語るに欠かせない重要なキーワードの一つとなっている。

ブロックチェーンとはなんぞや?

「ちょっと待った」

ビットコインを勉強したことのある方であれば、冒頭でちょこっと触れただけのあのフレーズが気になっているに違いない。

それが、ビットコインにまつわるキーワードの中で最も重要な「ブロックチェーン」である。

「Decentralized」が理念であれば、「ブロックチェーン」は設計や規律と言ったところだろうか。

しかし、ここまで読んだあなたには、一発で「ブロックチェーン」の意味が理解できる。次の2文を読めば、もう「ブロックチェーン」の全貌を知ることになる。

ここまでに散々登場した「元帳の1ページ」単位が、ビットコインでは「ブロック」と呼ばれる。そして、そのブロックがつながった状態の「元帳」を、「ブロックチェーン」と呼ぶ。

それだけである。

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ここまでの文章において、「ページ」を「ブロック」に、「元帳」を「ブロックチェーン」に置き換えても、全て話が通る(銀行の部分を除く)。

図解ではあたかも直方体の「ブロック」として表現したが、本来は単なる容量と書式が決まったデータの塊である。その名前が「ブロック」であるから、わかりやすくこのようなブロックのつながりや、単なる正方形のつながりとして表現される事が多い。

よく聞く「ブロックチェーン」が、こんなにも理解が簡単だったのかと驚かれることだろう。当然、技術的な仕様は難解であるが、コンセプトが「元帳」であることが分かっていれば理解しやすいはずだ。名前というものは、知らないフレーズが使われているだけで、敬遠しがちになり、全く意味がわからないものになるのだ。

なお、この「ブロックチェーン」は、単にこの元帳の仕組みを指すだけではなく、先ほどの暗号ハッシュを用いた採掘バトルの仕組みや、トランザクション承認の仕組み、「Decentralized」されて、P2Pネットワークとして稼働している仕組みも含めてそう呼ぶことが多い。

ブロックチェーンの「Proof of Work」

そして、そこでの採掘バトルに採用されている評価概念が、冒頭に出てきた「Proof of Work(PoW)」と呼ばれるものだ。「回り道ができずコストがかかる単純行為」をしたという事実を使って、仕事をしたということを証明する仕組みを指す。

変な例かも知れないが、例えば広大な野原で四つ葉のクローバーを見つけた人に対して、10分に一つ完成するおにぎりを渡すとしよう。

おにぎりを得るには、ひたすら野原を這いずり回るという行為でクローバーを見つけるしかない。しかしおにぎりを渡す側は、その仕事を評価するには参加者が取ってきた四つ葉のクローバーを見て確認するだけで良い。参加者がより数多くのおにぎりを得るには、仲間を連れてきて人数を増やすしかない。

すでに学んだように、参加人数が増えても10分に一回おにぎりを渡すには、ゲームのルール(難易度)を調整すれば良い。「よし、今からおにぎりは四つ葉ではなく五つ葉のクローバーに与えられる」と。

「ブロックチェーン」では、暗号技術を使ってこの「Proof of Work」を実装している。ランダムな「ノンス」を一つ前のブロックにあるハッシュと併せて、一方通行の暗号アルゴリズムに放り込めば出てくる計算結果の頭のゼロがそろっていれば当たり。評価するには当たったノンスをもう一度そのアルゴリズムに通すだけ。

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ビットコインでは、その正解となったハッシュが、次のブロックで採掘する際の問いのハッシュとして使われる。これが永久に続き、ブロックが鎖(チェーン)のようにつながって伸びていく。

この仕組みでは、ハッシュが一定の計算コストを持って仕事の証明になることから、「Hashcash」と呼ばれていて、メールのスパムを防止する仕組みなどにも使われている。スパマーは、メールを送るたびに一定の計算で仕事したことを証明せねばならないから、何億通もメールを送るのに計算能力をかなり消費してコストがかかってしまう。しかしメールを受けた側は一発で検証できる、という仕組み。

それを、金融システムにおけるトランザクション承認プロセスに応用したナカモトサトシさんかっこいい。

将来有望なブロックチェーン

これらを含めた全ての仕組みがあまりにも画期的であり、信頼性が高いため、様々な分野で「ブロックチェーン」の仕組が採用され始めている。

実際、IBMが「ブロックチェーン技術」をIoT(物のインターネット)や主要通貨の決済システムに採用を進めており、あのIntelまでもがついに暗号通貨関連の研究者を募集している。

本当にこのビットコインの「ブロックチェーン技術」が、一般的に思われているように「怪しい」、「信用出来ない」、「データが改ざんされてしまう」ような技術であれば、先進的なテクノロジー企業がそれを参考に、採用して新しいプラットフォームをつくろうとするはずがないだろう。

「ブロックチェーン」を用いれば、改ざんできない透明性の高いプラットフォームができあがる。それを世界で初めて、決済プラットフォームとして実働させ、証明したのが「ビットコイン」なのである。

そして様々な大小の問題を乗り越えながら、ビットコインは2009年から止まらずに立派に稼働している。

ビットコインの真の姿

もう、まとめる必要さえないかも知れない。

しかし最後にもう一度、冒頭で私が宣言したビットコインの真の特性を思い出してほしい。私は、ビットコインは「消したくとも消せない」と書いた。

2008年11月7日午前9時30分36秒(PST)。実際にビットコインが稼働するよりも前の日付だ。この日、とある暗号関係のメーリングリストに送られて来た質問に対して、ビットコインの未来の姿を予言する返答を返した人物がいた。

「Yes, (you will not find a solution to political problems in cryptography) but we can win a major battle in the arms race and gain a new territory of freedom for several years.
そうだ。(我々は暗号技術における政治的な問題の解決法は見いだせないだろう。)しかし、我々は激しい戦いにおいて大勝利を収め、数年間は新しい自由の領地を得るだろう。

Governments are good at cutting off the heads of a centrally controlled
networks like Napster, but pure P2P networks like Gnutella and Tor seem to be holding their own.
各国政府は、中央管理されたNapsterのようなネットワークを遮断することは得意だが、GnutellaやTorのような純粋なP2Pネットワークはまだそれに屈していないようだ。

Satoshi
哲史

Satoshi Nakamoto Fri, 07 Nov 2008 09:30:36 -0800
The Cryptography Mailing List
Re: Bitcoin P2P e-cash paperより」

そう。発明者ナカモトサトシは、「Decentralized」なP2P方式で、「力を持った第三者にも首が落とせない」前提でビットコインを作った。そしてそれは今も独自の経済圏、すなわち彼のいう「自由の領地」を拡大し続けている。

ここでは最低「数年間は」と謙遜気味に書いているものの、すでに6年間以上に渡って、「ブロックチェーン」はあらゆる圧力や問題に屈さず、人々の経済活動を刻み続けているのだ。

「ビットコインは『取引は全て透明性が高く』、『盗むことは非常に困難』であり、『消したくとも消せない』もの。そしてある意味一般的な通貨よりも『信用できる』ものなのである」

ビットコインの原理を理解した今、冒頭で宣言したこの言葉に偽りはあっただろうか?

念のため、ここで最後にビットコインの特徴をもう一度まとめておこう。

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『不正』、『破綻』、『盗難』、『消失』

そんな言葉は、ビットコイン自身にではなく、Mt. Goxなどの、盗難や破綻による被害を発生させた取引所やサービスに向けるべきものである。ビットコインは消えていないし、消せない。

『怪しい』『不正送金』『マネーロンダリング』

そんな言葉は、ビットコイン自身にではなく、それを時代に先駆けて活用している犯罪者に向けるべきものである。まさに殺人事件における、罪のない鋭い包丁。ビットコインも同様に、あくまでも単に鋭すぎる決済ツールなのである。

最後に

ついにビットコインの原理を知って、あなたはどう感じられただろうか?

もし、あなたがテクノロジー産業に従事しているにもかかわらず、今日これを読んでもビットコインの原理について理解ができなかった場合は、あなたと暗号通貨やブロックチェーン技術とは相当相性が悪いのかもしれない。

と言っても、この先一切ビットコインを使わなくとも、あなたに何か問題が起こるわけでもない。ただ、大きな可能性を秘めた新しい分野を一つ見逃すことになる。

しかし、まったく無の状態からこれを読んでビットコインに興味を持った方や、今日まで抱いていたビットコインのネガティブなイメージを払拭できた方、そしてビットコインの革命性に感銘を覚えた方には、この先に広がるさらに大きな世界の可能性について何かを感じて頂けたはずだ。

2008年に謎の人物ナカモトサトシの論文として発表されたこのビットコインは、実にこれほどまでに、世界のトップエンジニアや研究者たちが熱狂するに値する斬新な仕組みなのである。

そしてこの「ブロックチェーン」技術の利用は、単なる決済システムにとどまらない。また、何百ものビットコインクローンである他の暗号通貨(Altcoinと呼ばれる)の根幹技術としてのみ使われている訳でもない。

その他にも、全ての電子契約やプログラムをブロックチェーン上に乗せるという壮大な「Etherium」というプラットフォームや、オープンな電子トークン株式市場を実現している「CounterParty」、現実に存在する金融資産を同価で取引できる「BitShares」、消せない特性を利用してデータ記録に特化した「Factom」など、Bitcoin 2.0と呼ばれる分野がこの「ブロックチェーン技術」を応用し、既に国境を越えて世界中に広がり始めているのだ。

日本が、世界各国に比べ、ビットコイン自体への理解と受容に数年以上も出遅れる中、そこから派生した理念と技術は、国境を超えて既存の仕組みを着実に侵食している。

ここで、今までのものと大きく状況が違うのは、この「ブロックチェーン」技術を用いたプラットフォームは、ナカモトサトシが予言したように、一政府の圧力や法律、一個人の思惑では原理的に潰すことができないということだ。

そして、それらが日本に攻め入る日も近い。我々も、否が応でもそれを受け入れなければならない日を想定して、日本からもイニシアティブを取るべく準備を進めねばならないだろう。

なぜなら、そのパイオニアであるビットコインでさえも、止めたくても、もう誰にも止められないのだから。

ロスコスモス、衛星打ち上げ失敗は初歩的エラーとの説を否定――ロシアの宇宙ビジネスには打撃

先月、ロシアはアムール州に新たに建設されたヴォストチヌイ宇宙基地から多数の衛星を積んだロケットを打ち上げたが軌道投入に失敗した。このほどロシアの宇宙開発組織ロスコスモスが発表したところによると、この失敗はこれに先立ってロシアのドミトリー・ロゴジン副首相が示唆していたのとは異なり、初歩的なプログラミング・エラーによるものではないという。

11月28日の打ち上げはロシアの宇宙事業にとって重要なビジネスで、4500万ドル相当のロシアの気象衛星Meteor-M No. 1およびNo.2に加えて18基の小型衛星を搭載していた(SpaceNewsのリスト)。この打ち上げはヴォストチヌイ基地からは2回目で、前回の打ち上げは1年半以上前のことだった。

Soyuz-2.1Bロケットの発射自体は正常に見えたものの、数時間後にロスコスモスはMeteor-Mが「所定の軌道上にないためコンタクトを取れなくなった」と発表した。その後、ロケットの2段目とペイロードの衛星はすべて太平洋上で失われたことが確認された。

当然ながら、何億ドルもの損失に「いったい何が起きたのか?」という声が起きた。ロスコスモスのアレクサンドル・イワノフは「ソフトウェア・アルゴリズムに誤りがあり、新しいヴォストチヌイ発射基地の位置とが予期せぬ複合を招いた」と説明した。

ところが昨日、国営テレビ、Rossiya 24のインタビューでロゴジン副首相が思いがけないヒューマン・エラー説を述べた。

Reutersによれば、「あのロケットは打ち上げ地点が(カザフスタンの)バイコヌール宇宙基地に設定されていた。打ち上げ地点の設定が誤っていた」と述べた。

これが本当ならロシアの宇宙事業には大恥辱だ。バイコヌールはロシアの主要な宇宙基地だが、何千キロも東のヴォストチヌイで発射されるロケットにバイコヌールの位置が入力されたというのも驚きなら、その間違いが最後まで訂正されなかったとすればそれ以上に大きな問題だ。ロスコスモスが異例に早く反応してロゴジンの主張に反駁したのもそれが理由だろう。

RIA Novostiの記事(原文ロシア語、RTの英訳による)によれば

今回の飛行ミッションはすべてヴォストチヌイ・スペースドロームを基準としており、実証済みの方法により専門家がチェックを行った。今回の事故の原因は、ヴォストチヌイ宇宙基地の特異性による[もので]既存のいかなる数学的モデルによっても予測不可能だった。

要するに「衛星打ち上げは難しい。しかしわれわれは間抜けの集まりではない」というこだろう。ロスコスモスは衛星打ち上げで最近まで成功を繰り返しており、発射位置というような初歩的なミスで失敗するというのは辻褄が合わない。どんな高度な数学モデルも失敗することはあるだろう。

しかしたとえそうであっても、この失敗はロシアの宇宙事業にとって高くついた。失敗の原因を巡る今回のような論争も決して好感を与えない。全体としてロスコスモスに対する信頼感は大きく低下した。SpaceXのような民間宇宙企業が衛星打ち上げを連続して成功させている状況を考えると、、先月の失敗はこれまで多額の収益をもたらしてたきたロシアの宇宙事業に対する深刻な打撃となりかねない。

画像:: Roscosmos

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

iOS、CASHにカッシーニ――2017年TechCrunch JPで最も読まれた記事TOP10

2017年もあと残りわずか。今年は各社コネクテッド・スピーカーの発売や話題をさらったVALUやBANKなど国内サービスの躍進、スタートアップの買収や資金調達など、編集部には連日、たくさんのニュースが舞い込んだ。2017年の最後に、今年TechCrunch Japanで最も読まれた記事トップ10を振り返りたいと思う(ランキングの対象は、今年掲出した記事のみ)。では、早速見てみよう。

2017年6月、光本勇介氏氏率いるバンクは、“目の前のアイテムを一瞬でキャッシュ(現金)に変えられる”とうたうレンディングアプリ「CASH」をローンチ。写真を取るだけの手軽さから一気に火が着き、ローンチ後16時間でサービスを一時停止する事態となった。その16時間でのアイテムのキャッシュ化総額は、3億6629万3200円に上った。

2017年11月、ファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイは採寸用ボディースーツ「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」を発表。伸縮センサーを内蔵したスールを着ると体の寸法を瞬時に採寸できる。採寸データはZOZOTOWNとプライベートブランド「ZOZO」で活用する予定だ。ただ12月26日時点で、プライベートブランドの方はローンチは遅れているとスタートトゥデイの代表取締役社長、前澤友作氏は伝えている。

採寸データを活用することで、ファッションECでの最大の悩み「これ、サイズ入るかな?」問題が改善されそうだ。

10位にも登場したバンクだが、「CASH」のサービスローンチからわずか2ヶ月弱でDMM.com傘下に入ることを決めた。買収金額は70億円。DMM.comグループ会長の亀山敬司氏がバンクの光本氏に直接メッセージを送り、翌日の食事に誘って買収の提案を行ったという。このスピード感とフットワークの軽さには驚いた。

左からバンク代表取締役兼CEOの光本勇介氏、DMM.com代表取締役社長の片桐孝憲氏

 

7位にAmazonの2017年第2四半期、決算発表の記事がランクイン。AWSは年間100億ドル以上を稼ぎ出すビジネスに成長し、昨年同期比42%増だった。けれどAmazonは、次の四半期には赤字に戻るかもしれないと予告し、積極投資を続ける姿勢だ。

「ポケモンGO」が日本でローンチしたのは2016年7月のことだ。それから1年経ったがポケモンGOの人気は根強い。伝説のポケモン、フリーザー、ファイヤー、サンダーがゲットできるイベント情報が今年の第6位だった。

カッシーニ・ホイヘンスは、1997年10月15日にケープカナベラルから土星探査へと向かった。それから約20年の間、木星や土星、土星の衛星を撮影し続け、ついに2017年9月、カッシーニはその任務を終え、土星の大気に突入し、消滅した。カッシーニが捉えた神秘的な惑星もさることながら、土星に突入する瞬間の写真はぐっと迫るものがある。

2017年11月、ユーザー名に「root」と入力するだけで、誰でもMacに誰でもログインできるバグが見つかった。Appleはバグが発覚した翌日にはパッチをリリースしている。

フリマアプリを提供する「メルカリ」もCASHの躍進に注目していた(CASHは当初レンディングアプリとしてスタートしたが、2017年6月に一時サービスを停止した後、8月にブランド品の買取に特化して事業を再開した)。2017年11月、メルカリはCASHと対抗する即時買取サービス「メルカリNOW」を発表。メルカリは、メルカリのアプリ内から「メルカリNOW」を利用できるようにし、ユーザーに買取のオプションを提供する。

メルカリは今年世界1億ダウンロードを達成し、アプリの機能追加に加え新規事業にも積極的に打って出ている。例えば、ライブコマース機能「メルカリチャンネル」の追加や来春にはスキルシェアサービス「teacha」もリリース予定だ。12月22日には、新領域へチャレンジに向けて研究開発を強化するための研究開発組織「mercari R4D(メルカリ アールフォーディー)」の設立を発表した。

タイトルを見るだけで痒くなるのだけれど、Alphabet傘下のVerilyはボルバキア菌に感染した蚊でジカ熱の感染を防ぎたい考えだ。ボルバキア菌に感染した雄の蚊が雌と交配すると感染し、卵子を発生不能にするという。この蚊は、2013年に初めてカリフォルニア州フレズノに入ってきて、既存生態系の一部ではない。そのため、蚊がいなくなることによる弊害はないとしている。

感染症がなくなるのは良いけれど、生き物や生態系に介入するのは不測の事態が起きそうで怖いという反響があり、ざわざわする内容の記事が本年の第2位だった。

2017年9月、AppleはiPhone 8、iPhone 8 Plus、iPhone Xを発表。それに続いて、iOS 11をリリースした。コントロールセンサーやスクリーンショットの編集、QRコードの読み取り機能など、隠れたiOS 11の小技の紹介記事が2017年もっとも読まれた記事だった。毎日使っていても、これができるなんて知らなかった!なんて機能も多いかもしれない。

マネーフォワード、ブロックチェーンや仮想通貨関連新サービス開発に向けてラボ立ち上げ

個人向け家計管理ツールの「マネーフォワード」や自動貯金アプリの「しらたま」などを提供するマネーフォワードは12月29日、ブロックチェーン技術や仮想通貨を活用した送金・決済領域の研究を目的とした「MF ブロックチェーン・仮想通貨ラボ」を設立したと発表した。

2012年に創業して以来、個人向けと企業向けにさまざまなタイプの金融サービスを提供してきたマネーフォワード。同社がこれまで注力してきたのは、“お金の見える化と経営の見える化“だった。そのうちに、マネーフォワードは「個人間および企業間の送金・決済領域において、既存の金融システムでは解決できない課題が存在している」ことに気づく。同社がその解決策として期待するのがブロックチェーン技術だ。

日本は全世界におけるビットコイン取引高の大部分を占めるなど、仮想通貨先進国として知られている。マネーフォワードは、「日本はFintechの市場規模では世界に遅れを取ってきたが、仮想通貨・ブロックチェーン分野では世界に先進できる可能性をもつ」と語る。

MF ブロックチェーン・仮想通貨ラボを設立することにより、マネーフォワードはブロックチェーン技術を活用した新サービスの開発に着手する。その具体的な内容はまだ分からないものの、同社から入手した資料によれば、個人間と企業間、そして国をまたぐ海外送金にかかる手数料を削減すること、そして、送金にかかるストレスを軽減することがこの新サービスの目標となるようだ。

写真左より、執行役員CTOの中出匠哉氏、執行役員 渉外・事業開発担当の神田潤一氏

研究開発の中心となるのは、2017年12月に執行役員と渉外・事業開発担当に就任した神田潤一氏、そして執行役員CTOの中出匠哉氏の2人だ。神田氏は日本銀行と金融庁を経てマネーフォワードに入社した人物。ブロックチェーン技術や仮想通貨の分野は規制がいまだ不十分という声も聞かれるなか、新サービス構築にあたって必要となるであろう各省庁との“会話”では神田氏がキーマンとなる。

同社は今回の研究機関設立にともない、ブロックチェーン技術に興味・関心をもつ人材の採用を進めるとともに、仮想通貨交換業者登録を検討するとしている。