自動車ローン借り換えのMotoRefiが9.4億円を調達し、返済に苦しむ人の利用拡大を図る

連邦準備銀行の集めたデータは、アメリカ人が1兆2000億ドル(約132兆円)の自動車ローンを背負っていることを示している。そしてその借金は借り換えが可能だが、この選択肢を知らない人が多く、また知っている人にとっても手続は複雑だ。

MotoRefiは、2017年にVCのQED Investorsから生まれたフィンテックのスタートアップで、最も有利な利率を見つけて、元の貸し手に返済して車両の所有者変更をするまで手続をすべて引き受ける自動車ローン借り換えプラットフォームをつくった。

このほど同社は、同社のプラットフォームをスケールアップして多くの人々に使ってもらうために、シリーズAラウンドで860万ドル(約9億4000万円)の資金を獲得した。ラウンドをリードしたのはAccompliceとLink Ventures。Motley Fool Ventures、CMFG Ventures(CUNA Mutual Groupの一部)およびGainglesも参加した。同ラウンドは、MotoRefiが2019年3月に発表した470万ドル(約5億2000万円)のシードラウンドに続くものだ。

MotoRefiには取締役として、Link Venturesのマネージングディレクター、Rob Chaplinsky(ロブ・チャプリンスキー)氏、および元Uber幹部で新しいVC会社、Construct Capitalの共同ファウンダーであるRachel Holt(レイチェル・ホルト)氏の2名が新たに加わる。

アメリカにおける自動車ローンの負債は学生ローンと同じだ、とMotoRefiのCEO Kevin Bennett(ケビン・ベネット)氏は言う。そしてマイカー保有者のほとんどは自動車ローンを借り換えるという選択肢そのものを知らない、と付け加えた。2017年のハリス世論調査によると、アメリカ人で自動車ローンを借り換えられることを知っていたのは47%だった。

「住宅ローンはあれこれ見て回るのに自動車ローンになるとクルマを買ったディーラーで組む人がほとんどであり、その利率は人為的に高い。一方、信用組合の自動車ローンはすばらしいが、消費者とつながる手段を持っていない」とベネット氏は最近のインタビューで語る。

MotoRefiが狙いをつけたのがそこだ。ベネット氏は、MotoRefiのプラットフォームは顧客の自動車ローンの支払いを平均100ドル(約1万1000円)減らすことができるという。

MotoRefi auto loan refinancing product

MotoRefiの初期の投資家であるホルト氏は、Uber在籍中にドライバーたちが抱える自動車ローンの金額を目の当たりにした。ディーラーはクルマの販売ではなく、融資で儲けているとホルト氏は言う。「私はこの問題を知り、解決しようとしているスタートアップを探していた」

米国の自動車ローン市場の規模は、TransUnionによるとおよそ400億ドル(約4兆4000億円)。しかし、この市場は2倍にも3倍にもなりうると、TransUnion Financial Serviceサミットで公開されたデータは示唆している。このチャンスが、Lending Treeなどの会社が自動車ローン借り換えサービスを立ち上げるきっかけになった。

MotoRefiは、新たな貸し手やパートナーを追加してすでにスケールアップを始めているとベネット氏は言う。今回調達した資金は、従業員を増やし、自社のテクノロジー・プラットフォームにさらなる投資を行うために用いられる。

同社は2020年1月にも、Progressive and Chimeと協同で別のパイロットプログラムを立ち上げた。Prime and Chimeは、顧客に直接借り換え融資を提供するほか、QED Investorsが支援するCredit Karmとの提携プログラムも実施している。

画像クレジット:Michael H / Getty Images under a license.

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

無料で使える請求管理サービス「INVOY」が正式公開、運営はクラウドファクタリングのOLTA

つい先日、新生銀行と10億円規模の出資会社を共同で設立して新たな座組みでクラウドファクタリングサービスの提供を始めたOLTA。昨年以降25億円の調達や金融機関・スタートアップ企業との連携などを次々と発表し、急ピッチで事業を拡大してきた同社から今度は別の切り口のニュースだ。

OLTAは2月18日、これまで2年間に渡ってベータ版として提供してきたクラウド請求管理サービス「INVOY(インボイ)」を正式ローンチした。

INVOYはOLTAの子会社であるFINUXが2018年2月にスタートしたプロダクトだ。もともとOLTAでは中小事業者の資金繰りの課題を改善するべく、2017年10月にクラウドファクタリングサービスを開始。その中で多くのユーザーが請求書作業に対して「非効率」「分かりにくい」「有料」などの課題感を抱えていることを知り、解決策として子会社を立ち上げINVOYの提供を始めた。

同サービスは2年間で約4万ユーザーを獲得し、請求書の累計発行枚数は約16.2万枚、累計発行金額は約480億円に及ぶ。

請求書に加えて見積書/納品書/領収書を作成する機能のほか、INVOY上から取引先にメールで請求書を送信する機能やワンクリック郵送機能、取引先管理機能などを搭載。特に請求書の作成に関しては、画面に沿って上から順に項目を埋めていくだけで簡単に請求書が完成する仕組みなど、慣れていないユーザーでも使いやすい設計になっている。

とはいえ、機能面自体はかなりシンプルなものだ。この領域では「Misoca」や「board」、「MakeLeaps」を始めすでに複数のプロダクトが存在するほか、マネーフォワードやfreeeが展開するクラウド会計ソフトにも請求書の発行・管理サービスが備わっている。

細かい違いはあれど、少し触ってみた限りでは他のプロダクトにはないクリティカルな機能がINVOYに搭載されているわけではないように思えた。

むしろユーザーにとっては価格面の違いが大きい。クラウド請求管理サービスの多くはそもそも有料でないと使えないか、無料だと機能や作成できる請求書の数が限定される。たとえば僕は数年前からMisocaユーザーだけれど、無料プランだと1ヶ月間に作成できる請求書は5通まで。6通以上作成したい場合やチームで使いたい場合は月額数百円からの有料プラン(15通作成できるプランが月契約で800円 / 年契約で8000円)に加入する必要がある。

一方でINVOYの場合はほとんどのユーザーが基本機能を全て無料で使える。厳密には1ヶ月間の発行額が10億円を超えたり、発行枚数が5000枚を超える場合はエンタープライズプランとなるので例外だが、フリーランスや少人数のチームでこれに該当するケースは稀だろう。

実際のところ無料で利用できる点に魅力を感じてINVOYを使い始めたユーザーも多いそう。これが実現できるのはOLTAがクラウドファクタリングという別のマネタイズポイントを持っているからだ。

「請求管理サービスにおいての1番の対抗馬はExcelだ。特に日本の場合、ExcelがプリインストールされているPCも多いため(Excelを)お金を払って使っているという感覚が少ない。だからこそExcelで請求書を作るのも無料であり、請求管理サービスに対してお金を払うことに抵抗がある人もいる」

「INVOYはOLTAにおいて“入り口”のような位置付けでもあり、GoogleにおけるGmailなどにも近いかもしれない。(請求書の管理を通じて)経営の実態を把握できるツールとして使ってもらう中で、運転資金を調達するニーズが出てくればファクタリングの仕組みを提供することもできる。INVOYの基本的な機能単体でマネタイズすることは考えていない」(OLTA取締役CSOの武田修一氏)

これまでOLTAでは事業の軸となる「クラウドファクタリングの社会実装」を重要テーマに掲げてきた。そのために積極的に他社と連携してきたわけだけれど、他社に依存しすぎるのではなく自分たちでも関連するプロダクト群を作りたいという考えは当初からあったという。

INVOYはその第一弾と捉えることもできるだろう。当面は「請求書発行ツールとしていかに便利に使ってもらうか」を重視し、収支管理ダッシュボードや品質管理マスタ、口座連携などの仕組みを取り入れていく計画。ゆくゆくはOLTAのクラウドファクタリングとの連携も視野に入っている。

OLTAとしてはINVOYに続くようなプロダクトを今後自社で開発していく可能性もありえるとしつつ、引き続き他社サービスとの連携も積極的に実施していくとのこと。それはINVOY以外の請求書管理ツールとの連携においても同様のスタンスだ。

ちなみにあえて子会社経由で運営している理由については、INVOYの立ち上げ時はOLTA自体もまだステルスでひっそりとサービス提供していたため、“得体の知れない金融事業者”と見られる可能性があったことが大きく影響しているそう。当初から子会社として切り分け、着々とプロダクトを磨いてきた。

なお同サービスはフリーランスユーザーの利用も見込んでいたこともあり、業務委託のフリーランスメンバーが中心となって開発。「フリーランスがフリーランスのために作ってきた」側面もあるとのことだった。

ピアボーナスを用いた新たな“従業員寄付体験”でSDGs推進企業を後押し、UniposとREADYFORがタッグ

ピアボーナスサービスを展開するUniposとクラウドファンディング事業を運営するREADYFORは2月18日、従業員が「Unipos」上で獲得したピアボーナスをSDGs活動を行う団体へ寄付できる「SDGsプラン」の提供をスタートした。

知っている人も多いかもしれないがUniposについて簡単に説明しておくと、同サービスでは業務中の良い行動に対して従業員間で感謝のメッセージとともに「ポイント」を送り合う。もらったポイントはピアボーナスとして給与などの報酬に変換できるのが特徴だ。

たとえば資料作りを手伝ってもらったり、企画の相談に乗ってもらったり。そんな時にタイムライン上で“ありがとう”というメッセージと合わせて、ポイントを送る。もしくはタイムラインに流れてきた別のメンバーの投稿に対して“拍手(いいね!のような仕組み)”をすることでポイントを送ることも可能だ。

メッセージとポイントの送付はタイムラインを介して行われるため、メンバーの影での貢献が可視化されやすくなり、メンバー間・部門間の連携強化やバリューの浸透にも繋がる。そんな効果を見込んで、スタートアップから大手企業まで340社以上がUniposを活用している。

さて、ここからが今回スタートしたSDGsプランの話だ。今までのUniposではもらったポイントは報酬に変換する仕組みだったが、SDGsプランを活用するとそのポイントを自分が選んだ寄付先へ寄付することができるようになる。

Uniposを導入する企業は最初にポイントの配当方法をインセンティブプラン(従来のプラン)とSDGsプランから選ぶ。SDGsプランの場合はあらかじめ自社に最適な寄付先をいくつかピックアップしておき、各メンバーはその候補の中から自分の共感した団体へ寄付をする仕組みだ。寄付先の団体からは活動レポートが送られてくるため、自分が届けたピアボーナスのインパクトもわかる。

企業ごとの寄付先の選定については、これまで1万件以上のクラウドファンディングプロジェクトを支援してきたREADYFORが同社のデータベースやノウハウを活用してサポート。これによって企業は自社の事業や理念にマッチした寄付先をスムーズに見つけられるだけでなく、Uniposを使って従業員を巻き込みながらSDGs活動を推進できる。

寄付先についてはジャパンハートやカタリバ、フローレンス、Learning for Allなどの特定非営利活動法人をはじめ、さまざまな領域の団体から選べるとのことだ。

ピアボーナスを用いた新しい従業員寄付体験の創出へ

Unipos代表取締役社長の斉藤知明氏(写真左)とREADYFOR代表取締役CEOの米良はるか氏(写真右)

2016年1月に持続可能な開発目標(SDGs)が発表されてから4年、日本国内でもSDGsへの取り組みに関する話をよく耳にするようになった。

SDGsに対する考え方や取り組み方は企業ごとにも異なるが、UniposとしてはSDGsを「単に社会にとって善い行いをする」ことではなく、それが「組織の成長」にも繋がる状態、最終的に社会と組織と個人全ての成長を促進するような取り組みだと捉えているそうだ。

「今までUniposでは自分の頑張りがチームや会社への貢献に繋がっていくことが実感できることで、互いの信頼関係が向上する仕組みを提供してきた。今回はそこに社会が加わり、『個人の貢献がチームへの貢献、会社への貢献だけでなく社会への貢献にも繋がる』仕組みを作っていきたいと考えている」(Unipos代表取締役社長の斉藤知明氏)

Uniposでは昨年11月からドイツで先行してSDGsプランの試験導入を進めてきた。たとえばドイツのコンクリート会社では、従業員がピアボーナスを使って植林団体へ寄付をした事例がある。この会社の事業は成長していて社会の役にも立っている反面、CO2の排出量が多くサステナビリティの点を気にするメンバーもいたそう。Uniposがメンバーの日頃の行動が企業・社会それぞれへの貢献に結びつくことを示した一例と言えるだろう。

この仕組みを広げていく上で重要になるのが「従業員が支援したいと思えて、なおかつ会社の成長にも繋がるような団体が寄付先として選定されていること」(斉藤氏)であり、今回UniposがREADYFORとタッグを組んだ理由もまさにそこだ。

日本には膨大な数のNPO団体が存在するため、各団体の活動や実績を見極めた上で、企業ごとに適切な団体をピックアップすることは簡単ではない。クラウドファンディングの支援を通じて様々な団体と付き合ってきたREADYFORが“企業と団体の橋渡し役”を担うことで、企業の負担を増やすことなく、ピアボーナスを軸とした新しい従業員寄付体験を実現することができるという。

そのREADYFORは昨年7月に始めた「READYFOR SDGs」によって、企業とSDGs活動のマッチングを進めてきた。同社代表取締役CEOの米良はるか氏の話では、企業の担当者とやりとりをしている過程で「従業員の中でのSDGsの認知が低い」という課題を聞く機会が何度もあったようだ。

特に大企業では社内の理解を得ることが物事を上手く進めていく上でも不可欠なため、「SDGsや社会課題を知るための取り組みに社員全体を巻き込みたい」という要望が強いという。

「(Uniposのピアボーナスの仕組みによって)チームへの貢献やメンバーへの感謝が寄付に繋がるといったように、個人の負担が少ない形の寄付体験を作ることで、従業員に社会課題や社会貢献を身近に感じてもらうきっかけになる。企業にとっても、入りやすいSDGsの取り組みになると考えている」(米良氏)

両社によると欧米諸国では従業員寄付の仕組みを導入する企業が増えているそう。従業員が自分で興味のある団体を選び、主体的に寄付できるサービスも「Yourcause」、「Catalyzer」、「Smartsimple」、「Salesforce Philanthropy Cloud」を始め続々と台頭しているという。

日本ではまだこれといったサービスがないだけに、UniposのピアボーナスとREADYFORのネットワークをミックスさせた新しい寄付体験がどのように広まっていくのか、今後に注目だ。

OLがたったひとりで下着D2Cブランドを起業、2つのマーケティング戦略

商品入荷後、1日で完売したD2Cランジェリーブランドがある。IT企業でエンジニアとして働いていたOLの「仕事中のブラジャーの締め付けがストレスだった」という悩みをきっかけに作ったノンワイヤーブラ専門のランジェリーブランド「BELLE MACARON(ベルマカロン)」だ。

ノンワイヤーブラとは、ワイヤーによる締めつけがなく、着心地よく着られるブラジャーのこと。BELLE MACARONは着け心地だけでなく見た目もこだわり、レースを基調とした女性らしいデザインなのも特徴だ。

経営もアパレル業界も未経験だったOLがどのように人気ブランドを作り上げたのだろうか。BELLE MACARONを販売するashlynの代表、小島未紅(こじまみく)氏に話を聞いた。

給湯室で商社や工場に電話をかける日々がはじまる

小島未紅氏:1991年生まれ。立教大学法学部卒業後に新卒で大手IT企業に入社。入社3年目に自身のブラジャーの悩みと市場のブラジャーに疑問を感じて2016年にashlynを創業する。ブラジャーの開発に奔走し、2017年にランジェリーブランドBELLE MACARONをローンチした。

小島さんが「起業しよう」と思い行動に出たのは2016年2月。まだOLとしてIT企業で働いているときだった。

「まずは仕事終わりや休みの日に、インターネットで下着の製造や企業に関する情報を集めました。調べていくうちにブラジャーを製造する工場を見つけることが必要だとわかったので、お昼休みに給湯室でひたすらテレアポをしていました」

並行して資金調達にも動き出す。資金調達先は銀行やVCではなく、クラウドファンディングだった。

「CAMPFIREで製作費30万円を集めるクラウドファンディングをしました。クラウドファンディングは資金集めだけでなく商品についても知ってもらえる機会になるから、toCサービスとの相性がいいと思ったんです」(小島氏)

とはいえ、クラウドファンディング自体も初めてだったという小島さん。まずは成功しているプロジェクトを独学で分析し、自分のプロジェクトに落とし込んだという。また、CAMPFIREではプロジェクトを成功させるため、一つのプロジェクトに対し一人の担当者がアサインされる。それをフル活用し、担当者とはプロジェクトのタイトルやサムネ画像、ページ全体のラフ案など細かな調整まで密に相談した。これがクラウドファンディングを成功させた大きな理由の一つだと語る。

「クラウドファンディングを成功させた実績により、500万円の創業融資を受けることができたのも事業を進める追い風になりました」(小島氏)

クオリティを底上げしたのはテレアポで出会ったランジェリーデザイナー

事業構想から半年後、資金調達で経営の目処が立ったため、働いていた会社を正式に退社。しかし、予算とクオリティの見合う工場探しに苦戦する。

「価格を抑えるためにアジア圏にあるいくつかの工場に試作を依頼したのですが、自分が着たいと思える物にはならずで……。最終的に国内の工場で職人さんに作ってもらうことにしました。トライアンドエラーを繰り返したため時間はかかりましたが、『国内産の高品質』という売り出し方をすることができたので、結果的にはよかったと思います」(小島氏)

事業を進めていくうちに、「アパレルを製造するには商社と取引する必要がある」ということを知った。

「アパレルを流通させるには商社と取引することが必要だ、というのけっこうあとから知りました(笑)。商品の製造と並行して片っ端からテレアポを開始。ガチャ切りをされることはザラだったのですが、ある企業から『ランジェリーを作りたいなら会わせたい人がいる』と、ランジェリーデザイナーの方を紹介していただきました」(小島氏)

紹介されたランジェリーデザイナーは、なんと日本を代表するアパレルブランドの元デザイナーだった。小島さんのビジョンに共感し、破格の価格でアドバイザーに就任することに。デザイン面だけでなく流通や品質管理のアドバイスを担当してくれたため、納得のいく商品を完成させることができた。

マーケティング戦略(1)Twitterでターゲットに合う情報を発信

2018年11月、ついにノンワイヤーのランジェリーブランドBELLE MACARONの商品が発売される。その際に立ちはだかったのが販促・マーケティングの壁だった。

「すでにクラウドファンディングで注目をされており、かつ日本初のノンワイヤーブラ専門のブランドということもあいまって、最初の売り上げは好調でした。ですが、ブランドとしては継続的な売り上げを立てなくてはなりません。ネットショップのモールに出店したり、ウェブ広告を出したりしたのですが、商品の魅力を届けられず、ほかの商品に埋もれてしまうことが課題になりました」(小島氏)

そこで力を入れたのがSNSマーケティング。最初はInstagramを主戦場にしていた。しかし、商品が1種類しかないため写真のバリエーションを見せることができず、コーディネート数がコンテンツになるInstagramではリーチに時間がかかってしまう。そこで次に試したのがTwitterだ。

「BELLE MACARONは、着心地・デザイン・品質が特徴のブランド。それらをデザインとテキストで紹介するようにしました。また、女性が下着で悩んでいることを取り上げ、その解決策を提案する投稿もしました。つまり、自分自身がメディアとなり、消費者に刺さるコンテンツを発信するようにしたんですその結果、新色を発売したり再入荷するたびに完売するブランドに成長しました」(小島氏)

マーケティング戦略(2)リピート率を上げた手書きのクリスマスカード

カスタマーサクセスを強化し、リピート率アップさせたのも、売り上げを伸ばした要因のひとつ。通常、ランジェリーブランドのリピート率は10〜15%と言われているが、BELLE MACARONのリピート率は25%以上だ。

「SNSで商品を発信してくれた人にはDMでお礼を送ったり、コーポレートサイトの問い合わせに連絡をくれた人には100%返信したりするなど、細かなサポートは私がすべて対応しています。自信のある商品を売り、自分が消費者目線だったら嬉しいと思うことをするようにしたら、リピート率だけでなく、購入単価も上がってきました」(小島氏)

また、マーケティング施策において効果が高いメルマガにも「消費者目線」を取り入れた。

「メルマガは顧客に自社ブランドを定期的に思い出してもらうために必要な施策です。しかし、メルマガを好きではない人も多いですよね。私も自分が求めていない情報を一方的に送られてきたら、いやだなと思ってしまいます。そこで考えたのが『手書きのクリスマスカード』です」(小島氏)

リピーター100人に手書きでお礼を書いたクリスマスカードを送付。すると、SNS上で「手紙が届いてうれしい」と口コミをしてくれたり、「自分のクリスマスプレゼント用に購入した」という声が届いたりするなどのリアクションが届き、手応えを感じたという。

2016年の着想から4年経ち2度目のクラウドファンディングも成功させ、新色も発売するなど順調に成長しているBELLE MACARON。最後に、今後の展開を聞いた。

「今は勢いがあるのは、SNSでのバズが後押ししているからだと考えます。今後はサイズやデザインのバリエーションを増やして、よりニーズに合う商品を作り、短期的ではなく長く愛されるものを作りたいです。また、ここにくるまで色々な方に協力していただきましたが、基本的はずっとひとりでやってきました。これからは組織を作り、メンバーも増やしていきたいと思います」(小島氏)

グルメSNS「シンクロライフ」が「giftee」と連携、貯めた暗号通貨でeギフト購入が可能に

ユーザーレビュー投稿や加盟店利用で暗号通貨が貯まる、グルメSNS「シンクロライフ」を運営するGINKANは2月18日、ギフティが提供する「giftee for Business」と連携したことを発表。連携により、シンクロライフのアプリ内で貯めた暗号通貨「シンクロコイン(SYC)」で、コンビニやマッサージなど、7ブランド・24商品のeギフト購入が可能になった。また対象ブランドの実店舗でアプリ内のチケットを示して、eギフトを利用することもできるようになっている。

シンクロライフはグルメSNSとして、レストランの口コミ投稿・閲覧機能のほか、AIが口コミを分析してユーザーの嗜好に合ったレストランをレコメンドする機能を備える。シンクロライフでシンクロコインを集めるには、「1. レビュー投稿やレストラン情報作成などによる、SNSへの貢献」「2. 加盟店で支払った飲食代金からの還元(1〜5%、キャンペーン時最大20%)」といった方法がある。現在の加盟店は首都圏を中心に200店舗超。2020年内に3000店舗に拡大する予定だという。

これまでは、ユーザーは集めたシンクロコインの使いどころがなかったのだが、今回の連携で「サーティワン アイスクリーム」「上島珈琲店」など、下の画像にある7つのブランドでeギフトの購入が可能になった。

eギフトは自分で商品交換して利用することもできるが、人にプレゼントもできる。取扱商品は「giftee for Business」のラインアップから、および新規開拓により順次ブランドを追加していく予定だという。

なお、ギフト購入に必要なシンクロコインは、市場取引レートによって一定期間ごとに変動する。ユーザーは従来通り、アプリ内のウォレットにシンクロコインを貯めたまま、価値変動を待つこともできる。GINKANでは今後、ほかにもシンクロコインが利用できる範囲を広げていくもくろみだ。

TCLのスライド式ディスプレイ採用スマホの画像がリーク

米国時間2月17日朝、2020年のモバイル・ワールド・コングレス(MWC)で発表されるはずだったと思われる製品の写真が明らかになった。MWCはコロナウイルスの懸念でキャンセルになったが、ニュースは続いている。

中国のTCLがいくつかの「新しい」タイプのスマートフォンを披露する計画だったことは我々も把握していたが、その1つがCNETに掲載された。デバイスはスライド式のようなディスプレイを備えており、それによりスクリーンを拡大し、普通のスマホをタブレットのようにすることができる。

TCLは2019年のMWCでフォルダブル端末を発表したが、そのデバイスは厚いガラスケースに入っていた。フォルダブル端末が不安なスタートを切ったことを考えると、マーケット投入を急がないというTCLの決定は正しいものだった。

リーク画像の情報元は、このデバイスがMWCでデビューする予定だったと語っているが、実際のところ画像がレンダリングされているものであることから、その技術の完成度を判断するのは難しい。あえて推測するとしたら、ガラスケース内に展示されるいるというのがベストシナリオだろう。自動車メーカーは実際に製品化するかどうかわからない初期コンセプトを発表するが、このところスマホメーカーはそうした動きをまねる傾向にあるようだ。この場合、「プロトタイプ」という言葉がぴったりとくるだろう。

いずれにしろ、TCLはこの画像についてTechCrunchに対しコメントは出さず、キャンセルされたMWCに代わってきちんとした写真を発表するのかどうかについても答えなかった。

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(翻訳:Mizoguchi

SpaceXが60基のStarlinkミニ通信衛星打ち上げは成功、ブースター回収は失敗

 

SpaceXはミニ通信衛星60基を軌道に投入した。SpacXのStarlinkは大量の小型衛星で世界をカバーしインターネット接続を提供しようとするシステムだ。60基ずつの打ち上げは今回で5回目の成功となり、これで300基の衛星を軌道に投入したことになる。Starlink衛星は今年だけで3回の打ち上げとなる。SpaceXは世界最大の商用衛星通信運用会社となった。

Starlinkプロジェクトは低軌道にある大量の小型衛星を利用するもので、次々に飛来する衛星がインターネット接続を引き継ぐことにより遠隔地を含めて全世界のユーザーに低コストで高速な接続を提供しようとしている。当面の目標は、2020年中にアメリカとカナダのユーザーをカバーすることだという。その後、衛星群の数の増加とともにサービスを世界各地に拡大する予定だ。

SpaceXがSarlinkで用いた打ち上げ方法は多少変わっている。ロケットの2段目は1回噴射して楕円軌道に入った後、同種の衛星打ち上げミッションよりずっと早く衛星を放出する。衛星はそれぞれのスラスターを噴射して所定の軌道に移る。これは複雑な運動となるがSpaceXによると燃料その他の打ち上げコストを大きく節約できるという。

2月18日の打ち上げはStarlinkシステムを稼働に向けて前進させただけでなく、SapceXにとって今後大きな意味を持つ再利用テクノロジーの改善も目的だった。1段目のFalcon 9ブースターは2019年すでに3回飛行しており、利用回数だけでなく、再利用に要する期間も前回の飛行からわずか62日とSpaceXとして最短だった。

SpaceXは今回もブースターを地上回収しようとしたが(成功していれば50回目の回収となった)、残念ながら失敗した。ブースターは着地のための減速噴射までは予定どおりだったものの、中継ビデオを見ると、ブースターは着地点を大きく外れて海に落下したようだ。SpaceXの前回の回収失敗はFalcon Heavyの中央ブースターが計画どおりに作動しなかったためだった。それ以外のケースでは回収は成功している。「ブースターは海に落下したものの、十分に減速されており破壊されていなかったため再利用の可能性はある」とSpaceXは述べている。

またSpaceXはカーゴベイを覆うフェアリングの回収も試みており、前回は二分割のフェアリングの片方を専用回収船のネットでキャッチすることに成功した。今回、SpaceXは大西洋上に専用船を2隻航行させフェアリングを2個とも回収する試みを行っているのでSpaceXから発表がありしだいその模様をアップデートしたい。

Starlink衛星の打ち上げはこの後も引き続き行われる予定だ。3月にも次の発射が計画されているという。

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滑川海彦@Facebook

旅先の体験もAIが提案、「AVA Travel」が楽天グループの「Voyagin」と連携

AI旅行提案サービス「AVA Travel(アバトラベル)」を運営するAVA Intelligence(アバインテリジェンス)は2月18日、楽天グループのVoyagin(ボヤジン)が運営する現地アクティビティの予約サービス「Voyagin」との連携を開始した。

AVA Travelは2019年8月にベータ版としてリリースされた、AIを活用した旅行サービスだ。ユーザーへの質問をもとに、性格や旅行に求めることを判断し、おすすめの旅行先を提案する。2019年12月には、ホテル・航空券の予約サービス「エクスペディア」と連携。AVA Travel内で航空券やホテルの検索・閲覧が可能となったほか、AIがユーザーに合わせて、ホテルをおすすめ順で表示する機能も搭載した。

一方のVoyaginは、アジアを中心に、世界200都市以上のツアー、チケット、レストランなどの旅行体験を予約することができるサービスだ。2012年末にスタートしたこのサービスは、2015年7月、買収により楽天グループに参入している。今回の連携により、AVA Travelでは、旅行の行き先やホテルだけでなく、現地でユーザーが楽しめそうなアクティビティについても、AIが提案できるようになった。

旅行先でのアクティビティをホテル・航空券の情報とあわせて提供し、予約できるサービスとしては、老舗の「TripAdvisor」などもある。AVA Travelの場合は、自分が旅行で重視するポイントが買い物なのか、食事なのか、はたまた歴史的建造物の見学なのか、といったところを勘案して、行き先候補も含めてプランが提案され、予約できる点が面白いところだろう。

ズボラ旅 by こころから」なども、旅行先での体験を重視し、行先の提案から宿泊先、交通手段まで案内してくれるところは、AVA Travelと似ている。ズボラ旅では、チャットを通じた相談で旅行にまつわる面倒さを解決しようとしているが、AVA Travelでは最初のステップはAIが担い、行き先候補や体験すべきアクティビティをある程度絞り込んだ上で、後半はユーザーが選ぶ形を採っている。

現在、AVA Travelが対応している旅行先は海外のみだが、AVA Intelligence代表取締役の宮崎祐一氏は、今春にも国内旅行の提案サービスを展開していく予定だと述べている。また国内のアクティビティ予約サービスとの連携についても検討を進めているということだった。地域の歴史ガイドや、文化を体験するツアーなど、同じ国内でも普段なかなか知ることのできない日本を、改めて知る機会になるなら楽しみだ。

観光客を35倍にした熊野古道の完璧なコンテンツマーケティング

熊野古道をご存知だろうか? 紀伊半島にある熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)へと通じる参詣道で、道は三重県、奈良県、和歌山県、大阪府に跨る。2004年に世界遺産に認定された。 一時は1,000人ほどしか […]

2019年のスマートスピーカー出荷量は70%アップの1億4690万台で新記録

2019年の世界のスマートスピーカー市場は対前年比70%拡大し、1億4690万台の出荷だったとStrategy Analyticsが発表した。アメリカでは依然Amazonが大きくリードしているものの、世界では中国メーカーの進出が目立った。

もちろん世界市場でもトップはAmazon Echoであり、2019年のシェアは26.2%だった。ただしこれは2018年の33.7%というシェアからはダウンしている。Amazonがダウンした分をGoogleが奪ったというわけではなく、Googleも2018年の25.9%というシェアを2019年には20.3%に落としていた。

このようなトレンドはあるものの、AmazonとGoogleが北米、ヨーロッパ市場のリーダーである状況は変わっておらず、合計シェアは4分の3を超えている。

3位から5位は中国のBaidu、Alibaba、Xiaomiで、それぞれシェアを拡大している。Appleは 4.7%という低いシェアで引き続き6位にとどまった。

統計数値を眺めるとやはり第4四半期の成績が良かったが、これはクリスマス商戦でメーカーが入門機の価格を大きく引き下げたためだ。首位のAmazonは1580万台、2位のGoogleが1390万台を出荷している。中国のBaiduが590万台で3位だった。

第4四半期におけるスマートスピーカーの出荷は合計5570万台と過去最高を記録した。この好調さはアメリカとヨーロッパのクリスマス商戦が追い風となっている。またレポートによれば、Googleは新製品の投入、部品供給が軌道に乘ったこと、マーケティングの成功などによりスマートスピーカービジネスが大きく改善されたという。

Strategy Analyticsのディレクター、David Watkins(デビッド・ワトキンス)氏はレポートを発表した際の声明で「スマートスピーカーに対する消費者の需要は2019年第4四半期でもまったく減少を見せず、クリスマス商戦に新たに投入された新機種も好調だった。新機能が追加され、音質も改善されたことと合わせ、出荷は新記録を達成した。世界中の消費者はGoogle、Amazon、Baidu、Alibabaなどの主要ブランドが競って提供した『お得なセールス』に魅了された。中でもGoogleはYouTubeやSpotifyなどのサービスと提携してデバイスを無料配布するという大胆なプロモーションを展開した」と述べている。

現在、新型コロナウィルス感染症が需要、供給の双方に陰を落としているものの、Strategy Analyticsは2020年も通年でスマートスピーカーが記録を更新するだろうとみている。

レポート全文はこちらから

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滑川海彦@Facebook

ジェフ・ベゾス氏が1.1兆円の気候変動対策基金を発表

世界で最も富裕な人間の1人であるAmazonのファウンダーJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏が、気候変動問題に取り組むために100億ドル(約1兆1000億円)の基金創設を、世界最大のソーシャルメディアプラットフォームの1つInstagramで発表した。

米国時間2月17日朝の投稿でベゾス氏は、Bezos Earth Fund(ベゾス・アース基金)が「科学者や活動家、NGOなどの自然を守り、保護するための真剣な取り組み」に資金を提供すると明らかにした。

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Today, I’m thrilled to announce I am launching the Bezos Earth Fund.⁣⁣⁣ ⁣⁣⁣ Climate change is the biggest threat to our planet. I want to work alongside others both to amplify known ways and to explore new ways of fighting the devastating impact of climate change on this planet we all share. This global initiative will fund scientists, activists, NGOs — any effort that offers a real possibility to help preserve and protect the natural world. We can save Earth. It’s going to take collective action from big companies, small companies, nation states, global organizations, and individuals. ⁣⁣⁣ ⁣⁣⁣ I’m committing $10 billion to start and will begin issuing grants this summer. Earth is the one thing we all have in common — let’s protect it, together.⁣⁣⁣ ⁣⁣⁣ – Jeff

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ベゾス氏はすでにBreakthrough Energy Venturesに出資している。これは、気候変動を抑制し、化石燃料の使用やエネルギー生産、食糧生産、製造などの産業分野での二酸化炭素排出量を減らすテクノロジーの開発に資金を提供することをミッションとしているファンドだ。

新しい基金がAmazonと関係するのかについては触れられていない。同社の広報によると、資金はベゾス氏の個人資産から出されており、ベゾス氏がすでに設立している基金とは別のものとなる。

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(翻訳:Mizoguchi

書評:映画『メッセージ』原作者テッド・チャンが問いかける自由意志の意味

今回のTechCrunchブッククラブは、テッド・チャンの『予期される未来』(What’s Expected of Us)を取り上げる

今回の非公式TechCrunchブッククラブ(ニュースサイクルのおかげで現在1週間のお休み中だ。すぐに追いつくことができるだろうか!?)は、とても短いストーリーである『予期される未来』(What’s Expected of Us)を取り上げる。これはテッド・チャンの短編集『息吹』(Exhalation)所収の3番目の作品だ。ブッククラブに遅れをとっていた1人だったとしても、焦る必要はない。たったの4ページしかないからだ。この記事を読み終わるより早く、その短編を読み終わることができるだろう。

そしてまだ読んでいないとしたら、ブッククラブの1つ前の記事もぜひ読んで欲しい、そこでは最初の(やや長めの)短編2つ(宿命を巡る美しい物語の『商人と錬金術師の門』、ならびに気候変動や人びとと社会のつながりなどについて語る重要で繊細な物語である『息吹』)について取り上げている。

本記事の後半では、より長いストーリー『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』(ヒューゴー賞、ローカス賞、星雲賞受賞)も取り上げる —— この記事では読み進める中で生じたいくつかの疑問を挙げている。

いくつかの簡単なメモ

  • 話に参加したい場合は、気軽に読者の感想をdanny+bookclub@techcrunch.com宛にメールを送って欲しい。あるいはRedditまたはTwitterのディスカッションに参加してもらうのもいい。
  • こちらにある非公式ブッククラブの記事をのぞいて欲しい。このページには、書評カテゴリ専用のRSSフィードも組み込まれている(投稿量はとても少ない)。
  • 本記事のコメントセクションへの投稿も歓迎だ。

『予期される未来』(What’s Expected of Us)

私たちはまだ作品集『息吹』(Exhalation)の3つの物語を取り上げたに過ぎないが、これらの異なる物語を繋ぐものが見え始めている、技術的決定論で徐々に満たされつつある人生における運命の意味以上に、重要なものはないというテーマだ。

チャンは、私たちの運命がすでに決まっていることを証明するような、新しい技術たちを前提に置いて書くことが大好きだ。 『商人と錬金術師の門』(The Merchant and the Alchemist’s Gate)では、そこを通るものが時間を前後に旅することができるテレポートゲートを登場させたが、一方で『予期される未来』の中では、ボタンが押された時点での1秒過去に向けて光信号を送る「予言機」というデバイスが登場する。これよって利用者はデバイスのLEDが明るく輝いたときには未来がもう決まっているという事実に向き合うことになる。

この2つのストーリーにはある種の対称性があるが、私にとって興味深いのは、それらの結論が互いにどのように異なっているかだ。 『商人と錬金術師の門』でチェンは、運命は決まっているかもしれないし、タイムマシンがもしあったとしても過去を変えて未来に影響を与えることはできないかもしれないが、本質的には旅そのものに意味があるのだと主張している。過去は確かに不変かもしれないが、過去の理解には高い順応性があり、自身と他人の以前の行動の文脈を理解することが、多くの点で存在における肝心なポイントなのだ。

しかし『予期される未来』が描くのは、予言機が生み出す、人びとの無気力が広がるディストピアだ。ここに描かれているのは、わずかな時間を遡って信号を送るシンプルなデバイスに過ぎないが、自由意志が本質的に神話に過ぎないという圧倒的な証拠を示しているのだ。これは多くの人、少なくとも一部の人にとっては、カタレプシー(強硬症、自発的な動きが行えなくなること)となり完全に食欲をなくしてしまうのに十分なことなのだ。

Extra Crunch寄稿者のEliot Peper(エリオット・ペパー)は時折寄せるフィクションレビューに、チャンの解決策の中に示された、彼のお気に入りの一節を取り上げている。

「自由意志を持っているふりをしろ。たとえそうではないとことを知っていても、自分の決断に意味があるかのようにふるまうことがもっとも重要だ。現実がどうなのかは重要じゃない。重要なのはなにを信じるかだ。そして、目覚めたコーマを避ける唯一の方法は、うそを信じることだ。いまや文明の存続は、自己欺瞞にかかっている。いやもしかしたら、昔からずっとそうだったのかもしれないが」(早川書房刊『息吹』(大森望訳)所収『予期される未来』より引用)。

現実のベールの背後にある緻密な決定論を科学が明らかにして行く中で、より良い未来を築くためには、その反対を信じることがますます重要になる。自由意志への信念は、参政権を持つことと同じだ。それは私たちの人生をかたちづくる目に見えないシステムに立ち向かうために、変化の機会を生み出し、私たちを刺激する希望の火花なのだ。

ペパーはこの物語の核心的なメッセージを捉えているが、率直に言って、自己欺瞞を続けるのは簡単ではない(自分の製品について投資家を説得しようとしたことがある、完璧に自信がないスタートアップ創業者なら、そのことを教えてくれるだろう)。「すべてが重要なものではないというふりをする」と言うのは1つのやり方だが、もちろん実際には重要なことはあるし、誰もが本質的にその欺瞞を認め理解している。それは物事を成し遂げるために人為的な締め切りを設定するような、まやかし的自助努力のようなものだが、まさにその非常に人為的な点であることこそが、効果が出ない理由なのだ。チャンが「予言機」について書いているように「その後、予言機に対する関心を失ったように見えたとしても、それが保つ意味を忘れてしまえる人間はいない。それからの数週間で、未来が変更不可能であるということの持つ意味がだんだん身にしみてくる」のだ(上記書籍から引用)。運命は私たちの魂の中に閉じ込められている。

しかしチェンは、人によってこの認識に対して、異なる反応を示すことを指摘している。カタレプシーになるものもいるが、物語の中には他の経過をたどるものもいることが暗示されている。もちろん、そうした他の経過もすべて、予言機がやってくる前に定まっているものなのだ ―― 運命や運命自体の知識にどのように立ち向かうかについても、自分の運命を選べる者はいない。

だが、そうした選択の自由が与えられていないとしても、私たちは先に進まなければならない。構造的には、物語は過去に遡るかたちで語られる(これも『商人と錬金術師の門』に似ている)。未来のエージェントが予言機の未来についての警告を、時を遡って送ってくるのだ。そしたメッセージで何かを変えられるのかという疑問に、未来のエージェントは「いいえ」と答える。だが最後にこう付け加えるのだ「なのにどうしてわたしはこんなことをしたのか?なぜなら、そうするよりほかに選択の余地がなかったからだ」(上記書籍から引用)と。

つまり、実際にすべてが事前に決定されていた可能性があるのだ。人生のすべてを変えることはできないのかもしれない。それでも、私たちは生きている限り前進するつもりだし、すでに決められている行動であったとしてもそれを行うつもりだ。おそらくそのためには、自己欺瞞となんとか折り合っていく必要があるだろう。あるいは、そもそも行為を選択できるかどうかに関係なく、目の前のアクションにひたすら一所懸命に取り組めばよいだけなのかもしれない。

『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』(The Lifecycle of Software Objects)

短編集所収の次の作品は、もう少し広範に渡っている。仮想世界や、その中で私たちが育成する実体、そしてそれが人間としての私たちにどのような意味を持っているかに関して触れている内容だ。この物語を読んでいく中で、考えることを迫る問いかけについて挙げておくことにする。

  • 何かを愛するとはどういう意味なのだろうか? (人間の)子どもだということで私たちは愛を理解しているが、AIを愛することはできるだろうか? 彫像のような無生物を愛することはできるか? 私たちの愛がそれ以上は及ばなくなる境界線はあるのだろうか?
  • 実体を感じさせるものは何か? 他者から与えられた経験が必要だろうか、それともその感覚はどこからともなく生み出すことができるのだろうか?
  • チャンは、さまざまな状況で時間を早送りする。AI学習を促進するための特別な場所を使ったり、プロットにおける人間のキャラクター自身の時間も進める場合がある。この物語の文脈における時間の意味は何だろう? 時間と経験の概念はどのように相互作用しているのだろうか?
  • 著者は、知的な存在としての文脈におけるAIの「人権」をめぐる法的問題に関して、触れてはいるものの深くは掘り下げていない。これらの「実体」(AI)がどのような権利を持っているかを、私たちはどのように考えるべきなのだろうか? 読者の意見を最もよく代表しているのは、どのキャラクターだろうか?
  • 意識、感覚、独立などの概念は、どのように定義できるのだろうか? チャンがこれらの定義の境界を示しているように見えるのは、物語のどの要素だろうか?
  • プロットの中心的な主題の1つは、AIの金銭と収益性への挑戦だ。AIが判断される観点は、人間に提供する有益性だろうか、あるいはAIが独自の世界と文化を作る能力の観点からだろうか? これらのコンピュータープログラムができることの文脈の中で「成功」(非常に広く考えて)について私たちはどう考えるのだろう?
  • 私たちが「不気味の谷」を超えて、ますます多くの技術が私たちの感情的な心と結びつくにつれて、人間による共感は今後数年間でどのように変わっていくのだろう? これは最終的には人類の進化なのだろうか、それとも今後数年間で克服すべき課題というだけなのだろうか?

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(翻訳:sako)

顔認識スタートアップのClearview AIがイリノイ州法違反で集団訴訟に発展

つい2週間前、Facebookは米国イリノイ州のプライバシー法違反を巡る裁判で和解に達した。和解金は5.5億ドルという巨額だった。そして米国時間2月14日、数百万件のデータのスクレーピングと分析を行っていることを臆することなく認めて物議を醸しているスタートアップのClearview AIが、同様の違反行為で新たな訴訟の標的になった。

今年Clearviewは、Twitter、Facebook、Instagramなどの公開データを大規模に濫用することを前提としたビジネスモデルで波紋を呼んだ。もしあなたの顔がウェブスクレーパーや公開APIから見えるところにあれば、Clearvierはそれをすでに手に入れているか、なんとかして手に入れて顔認識システムに送り込んで分析する。ひとつだけ問題がある。その行為はイリノイ州では違法であり、無視すれば危険を招くことをFacebookは知った。

関連記事:Facebook will pay $550 million to settle class action lawsuit over privacy violations

2月13日に起こされたその訴訟は複数のイリノイ州民を代表するもので、「Clearviewは原告の生体情報(イリノイ州住民ほぼすべての生体情報だった)を積極的に収集、保存、および利用し、通知することも、書面による了解を得ることも、データ保持ポリシーを公表することもなかった」と主張している。Buzzfeed Newsが最初に報じた。

それだけではない。その生体情報は多くの警察機関にライセンスされ、その中にはイリノイ州自身の警察も含まれている。これらはすべて、2008年に制定された生体情報プライバシー法に違反している疑いがある。同法は驚くほど将来を見据えたもので、別の裁判を戦ったFacebookを含む、これを骨抜きにしようとする業界の試みに対する抵抗力もある。

Clearviewの拠点があるニューヨークで提訴された本訴訟は、現在まだごく早い段階にあり、割り当てられた判事は1名のみで、召喚状が送られたのはClearviewおよび同社のサービスを警察機関に販売する仲介業者であるCDW Governmentだけだ。現時点で結果は予測できないが、Facebook裁判の成功とふたつの裁判の類似性、顔認識システムによる写真の無断自動使用を踏まえると想像はつく。

規模の予測は難しく、BIPA(生体認証情報プライバシー法)に保護されている写真の分析の数や方法については、Clearviewの発表に大きく依存している。仮にClearvierがイリノイ州市民の全情報を直ちに削除したとしても、過去の行為について責任を問われる可能性は高い。Facebookの判例で連邦判事は、「顔認識技術を使って了解なく(今回の争点である)顔テンプレートを開発することは、個人の私的生活と利益を侵害する」と裁定した。よって違法である。これは強固な前例であり、類似性は明白だ。ただし、否定されないという意味ではない。

訴状の全文も公開されている。

画像クレジット:Stegerphoto / Getty Images

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Sony Innovation Fundが日本、米国、EUに続きインド拠点強化、出資企業同士の連携も進める

ソニーグループでスタートアップなどへの投資業務を担当しているCVCであるSony Innovation Fundは2月17日、都内で発表会を開催。Sony Innovation Fund本体(1号ファンド)と大和証券グループの大和キャピタル・ホールディングスとの合弁会社であるInnovation Growth Ventures(2号ファンド)の現状と成果について説明した。

Sony Innovation Fundの投資・運営責任者およびInnovation Growth Ventures 代表取締役を務める土川元氏

発表会には、Sony Innovation Fundの投資・運営責任者およびInnovation Growth Ventures 代表取締役を務める土川元氏が登壇した。同氏は、日本興業銀行、メリルリンチを経てソニーに入社。ソニーではIR部門長やM&A部門長兼事業開発部門長を務めていた人物。Sony Innovation Fundの投資・運営責任者に就任する前の2014年〜2016年にはソニーモバイルのCSOとして社内の構造改革を担当していた。

Sony Innovation Fundではこれまで6000社のスクリーニングを実施し、2000社以上の候補企業と面談したうえで、約60社のスタートアップに出資している。出資の決定については、ソニー社内に投資委員会を設けており、土川氏のほか、ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明氏、AIロボティクスビジネス担当執行役員の川西 泉氏、知的財産。事業開発プラットフォーム担当常務の御供俊元氏、R&Dセンター研究開発担当の執行役員である服部雅之氏、R&Dセンター担当執行役戦略補佐の平山照峰氏の6名が名を連ねる。

2016年7月に設立されたSony Innovation Fundの1号ファンドは、ソニー本体のポートフォリオを利用したファンド。ファンド規模は100億円、1社あたりの最大投資額は3億円として、主にシードやシリーズAといったアーリーステージのスタートアップへ投資している。具体的には、自動運転技術を開発してるティアフォーや、世界各地の場所を3ワードで指し示すジオコーディング技術を擁する英国拠点のwhat3words、たこ焼きなどの調理ロボット開発を手掛けるコネクテッドロボティクス、ロボアドバイザーのウェルスナビなど、TechCrunch読者におなじみの企業も多い。

what3wordsのCEOであるChris Sheldrick(クリス・シェルドリック)氏は昨年のTechCrunch Tokyo 2019にも登壇した

ティアフォーの創業者でCTO、Autoware Foundationの理事長を務める加藤真平氏もTechCrunch Tokyo 2019に登壇

2号ファンド(Sony Innovation Fund by IGV)は、ソニーと大和証券グループが50%ずつ出資したInnovation Growth VenturesをGPとするファンド。ファンド規模は160億円、1社あたりの出資額は最大10億円で、主にミドル、レイターステージのスタートアップへ投資する。具体的には、医療系ドローン開発のMATTERNET(マターネット)、香りセンサーを開発するアロマビット、インドのバンガロール拠点で同国でのレンタカーサービスを展開するZoomcarなどへ出資している。なお、MATTERNETとアロマビットの2社は1号ファンドでも投資実績がある。土川氏よると、1号、2号ファンドの切り分けは企業価値50億円が分岐点とのこと。MATTERNETは、米宅配大手のUPSと連携して医療サンプルの空輸などを手掛けている。アロマビットは、匂いを解析するスタートアップで、同氏によるとこの分野をやりきっているスタートアップは少ないことから2号ファンドでの投資も決めたそうだ。

関連記事
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Sony Innovation Fundでは注目する分野に対しては「面」での投資を進めており、モビリティー分野では自動運転、カーシェア・ライドシェア、新興国対応、物流、エッジコンピューティング、インフォテインメントなどに幅広く投資している。メディカルでは、有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズ(メディカルアンメットニーズ)、検査・先進治療、医療物流などのスタートアップを支援しているそうだ。

スタートアップとの協業事例としては、共同研究できる企業、ソニーの顧客になりそうな企業、バックオフィス業務を支援する企業と、ソニーのリソースを活用した事業を展開している。具体的には、ウェルスナビはソニー銀行と連携しているほか、LittlstarのVR動画ビューアーであるVR CinemaはPlayStaton 4に搭載されている。what3wordsはインドでレンタカーサービスを展開するZoomcarとの連携を深めている。

今年の注目分野としては土川氏は、ドローンとメディカル、スポーツの3分野を挙げた。ドローンは前述のMATTERNETなどの躍進、メディカルとスポーツはカバー範囲が重なることも多い点で注目しているとのこと。また、現在Sony Innovation Fundの拠点は、本社機能を有する東京のほか、シリコンバレーとニューヨークの北米、ロンドン、ドイツ、イタリアのEU、中東ではイスラエルにあるが。今後はインド拠点の強化を目指すとのこと。なお、東南アジアやアフリカへの投資についてはまた体制が整っていないとのこと。地域別の投資実績としては、件数では日本が41%、米国が37%、EUが18%、イスラエルが2%、その他2%。投資額では、日本が33%、米国が28%、EUが30%、イスラエルが2%、その他7%となっている。

コンテンツ連動型広告のGumGumが24億円調達、M&A戦略を追求へ

GumGum(ガムガム)は、既存投資家であるMorgan Stanley Expansion Capital、NEAからスピンアウトしたNewView Capital、Upfront Venturesから合計2200万ドル(約24億円)を調達したことを発表した。CEOのPhil Schraeder(フィル・シュレーダー)氏は、調達した資金で積極的な買収戦略を追求すると述べた。

今回のシリーズDは、同社がシリーズCで2600万ドル(約28億円)を調達してから5年近く経つ。シュレーダー氏は、同社の「コアビジネスは何年も黒字だ。今や当社が望む成長のスピードによって、収益性の『オンとオフ』を切り替えることができるようになった」と語った。

「過去、M&Aや買収を行ったことはないが、今後は取り組むことになる」と同氏は述べた。「当社は、驚異的で、強力な、収益性の高いバランスシート、チーム、市場での存在感を築き上げた。これらを加速、成長させたい」

シュレーダー氏はGumGumに10年近く在籍しており、財務担当副社長としてスタートした後、COO、CFO、社長を経験した。昨年、共同創業者のOphir Tanz(オフィール・タンツ)氏が歯科医業界に特化したスピンアウトのPearl(パール)の経営のために退任した後、シュレーダー氏がついにCEOに就任した。

米国カリフォルニア州サンタモニカを拠点とするGumGumは2008年の創業。チームは、画像コンテンツを識別し、画像にあわせて適切な広告を配信するコンピュータービジョンテクノロジーを開発した。

これはシュレーダー氏が言うコアビジネスであり、同社はこれを基盤にしてスポーツのスポンサーシップや動画広告などの新しい分野に進出するという。動画広告はSprint(スプリント)などのブランドですでにテストされており、今年第2四半期により広い範囲でリリースする予定だ。

同社は最近、Verity for Publishersも立ち上げた。これは、自然言語処理とコンピュータービジョンの両方を駆使してページのコンテンツを分析し、広告を掲載してもブランドを毀損しないページであること、広告主に関連したページであることを確認するものだ。

シュレーダー氏はここでも、GumGumが画像分析を基盤としていることにはなお重要性があると主張する。単純なキーワード検出では避けられないページがあるからだ。例えば、写真があれば「シュートする」という話題が暴力を伴う悲惨な事件における「銃撃」ではなくバスケットボールの「シュート」関するものであるとVerifyが判定できる。GumGumは、今年後半にVerity for Brandsという同様の広告主向けプロダクトも立ち上げる予定だ。

シュレーダー氏は、消費者を追跡対象とする方法として特にCookieの有用性が低下するにつれ、広告主にとってこの種のオンラインコンテンツの理解がますます重要になると主張している。

「ページのコンテンツを活用したより良いユーザー体験、広告の肯定的な見方を取り戻す統合的広告は、業界にとって有用なものになるはずだ」と同氏は述べた。

同社はまた、Lisa Licht(リサ・リヒト)氏を取締役に任命したことを発表した。リヒト氏は、以前はLive Nation EntertainmentのCMOを務め、現在はAllBright、Illumination Animation、Metrograph、Exploding Kittenをクライアントに抱えるコンサルタント会社を経営している。

「今がGumGumを支援する理想的なタイミングだと思う」とリヒト氏は声明で述べた。「同社は前年比成長率で市場を上回っており、収益性も維持している。デジタルコンテンツ連動広告は今、明らかに転機を迎えている。GumGumにはすでに十分な優位性があり、同社のビジネス全体の成功に貢献し、この分野でのリード拡大を支援できることを楽しみにしている」

画像クレジット:GumGum

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(翻訳:Mizoguchi

チームの生産性を高めるツール開発のRangeが6.6億円調達

ご存知だろうか。このところベンチャー投資家は職場を支えるソフトウェアに熱を上げている。中でもチームの協調を強める生産性ツールに投資先としての人気が沸騰しているようだ。General Catalyst、First Round Capital、Bloomberg Beta、Biz Stone、Ellen Paoといった一流投資会社とエンジェルのグループも、新しい生産性スタートアップであるRange(レンジ)の支援に自信を抱いている。

このツールは、小さなチームの協調を支援し、親密感を高め、互いの仕事を確認し合えるようにする。まさに、これを売りにするスタートアップは非常に多いが、Rangeの強みは、元Mediumのエンジニアリング責任者のDan Pupius(ダン・パピウス)氏、Mediumでピープルオペレーションを担当していたJennifer Dennard(ジェニファー・デナード)氏、GVのデザインパートナーだったBraden Kowitz(ブラデン・コウィッツ)氏という創設者チームにあるようだ。同社は彼らの人脈から、最初に顧客ネットワークを構築した。そこには、Twitter、Carta、Mozillaのチームや、彼らの取り組みに資金援助をしているベンチャー投資家たちが含まれている。

サンフランシスコを拠点とする彼らは、顧客ベース拡大のための、General Catalyst主導のシードラウンド600万ドル(約6億6000万円)を獲得したと私に話してくれた。私はZoomで、このじつに好意的な共同創設者チームの話を聞き、その製品を彼らが内部でどのように使っていたかを知ることができた。

「私はGoogleを辞めて(エヴァン・ウィリアムズ、ビズ・ストーンとともに)Mediumに移りました。そこで、さまざまな組織的慣行を検証し、なぜ企業は規模が大きくなると業績が悪くなるのか、その問題を防ぐためにMediumで新しい管理手法を実践できないか、その答を必死に探りました」とパピウス氏はTechCrunchに話した。「その過程で、私たちは社内用のツールを開発し始めました。そのときこのソフトウェアは、組織の数多くのプロセスや価値の解読を専門に行うツールになり得ると、薄々感じたのです。そして、Mediumでの私の在職期間が近づくのに合わせて、ブラデンとジェニファーに再び連絡をとり、一緒にこの問題に取り組むことを決めました」。

この製品の核となるのは、スタンドアップ・ミーティングに少しだけ置き換わるものだ。各ユーザーに毎朝何をしているかを記入させる。それを現在の大きなプロジェクトにタグ付けすることで、すべてが互いに関連付けされ、設定されたRangeチームのメンバー間で閲覧が可能になる。こうした製品が求められる裏で、Slackの大きな欠点が浮かびあがる。Slackでは、スレッドを使ったとしても、コミュニケーションを要約した形で整理するのがとても難しい。Slackを更新するごとに、重要な内容はどんどん上に押しやられ、履歴の中に埋もれてしまう。とくにリモートワークを行う人間にとっては致命的だ。

登録を行えば、Rangeはチームの目的やミーティング、さらにチームの構成まで管理してくれる。この製品は、Google Docs、Google Calendar、Slack、Asana、Jira、GitHub、Trello、Quip、Figmaなどさまざまなツールと統合でき、この混合システムの中に新しい生産性ソフトウェアを追加しても、情報がひとつのソフトウェアの中で孤立してしまわないようにできる。 価格はスタートアップに優しい設定になっていて、10人以下のチームなら無料で利用でき、月14ドルで1人追加できる。大きな組織になれば料金設定はさらに柔軟になる。

組織の観点からするとRangeはNotionと比較されやすいだろう。しかし、自由度に制限があるぶん、ずっとスムーズに使える感じがする。Rangeのユニークな特徴のひとつに、ホーム画面の上部にOKRや分析結果が表示される代わりに、毎日チームの結束を強めるための質問が現れ、今の気分を絵文字で示すよう求められるというものがある。くだらないことのように見えるが、Rangeではちょっとした自己観察によって、雰囲気的にチームがより親密になることを期待している。これは、通常の協調ソフトウェアにはできないことだ。

「人々は本当にすごい仕事をしていながら、互いにそれを語り合っていないことに、私たちは気付きました」と、デナード氏はTechCrunchに話した。「そのため、人々のコミュニティー作りに実際に貢献できることが、私たちの企業としての強みなのです」。

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(翻訳:金井哲夫)

JR東日本スタートアップが品川駅にSTARTUP_STATIONをオープン、nanoblock版高輪新駅やリサイクルTシャツを展示

JR東日本スタートアップは2月17日、JR品川駅中央改札口付近の駅構内に「STARTUP_STATION in 品川駅」を2月23日までの期間限定でオープンした。JR東日本グループのビジネス創造活動「JR東日本スタートアッププログラム2019」の採択企業である、日本環境設計とヘラルボニーの作品を展示している。

日本環境設計は、衣類やプラスチックなどのリサイクル開発を手掛ける2007年1月設立の企業で、日本マクドナルドとのリサイクルパートナー契約を結んでいる。マクドナルドでは、全国のマクドナルドからハッピーセットに含まれるおもちゃを回収してトレイなどに再生するリサイクル企画「マックでおもちゃリサイクル」を実施中で、2019年度は回収期間を拡大したことで、2018年度の127万個の約2.7倍となる約340万個の回収に成功している。

日本環境設計では、マクドナルドが回収したこれらのおもちゃからリサイクルされたnanoblockを活用して、3月14日にJR山手線の品川〜田町間に暫定開業する高輪ゲートウェイ駅のジオラマをSTARTUP_STATION in 品川駅に展示。

さらに同社は、再生ポリエステルによるコットンライクな生地を使ったオリジナルTシャツを来場者が制作できるイベントも同時開催する。

また、知的障がいを持つアーティストのデザインを取り入れたヘラルボニーの「SDGs Tシャツ」(2500円)も購入可能だ。なお、SDGs Tシャツの売上の一部はアーティストに還元される。

全医療データの統合を目指すサンフランシスコ拠点のスタートアップInnovaccer

医療分野で働くテクノロジー企業にとって至高の目標は、全医療データのゲートウェイになることだ。EpicやCernerといった伝統的データプロバイダーは、病院ネットワークにアプローチしてデータをかき集めようと試みている。Google(グーグル)やSalesforce(セールスフォース)も関心を持っている。誰もが医者や病院のための医療データの整備と管理の元締めになりたがっているのだ。米国サンフランシスコのスタートアップで最近7000万ドル(約76億8700万円)を調達したInnovaccer(イノベッカー)もその1つ。

今回出資したのは、Steadview Capital、Tiger Global、Dragoneer、Westbridge Capital、アプダビの投資会社であるMubadala Capital、Microsoft(マイクロソフト)の投資部門であるM12。いずれも資金力がある投資家だが、Innovaccerは病院や医療システムの分野でデータ分析とデータ管理プラットフォームでかなりの実績を上げている。

同社のソフトウェアは、CernerとEpicが生成した医療記録や保険会社、薬局などのデータを集約し、より総合的な患者情報を作りだすと同社は説明する。同社によると、2014年の創立以来、Innovaccerは380万人の患者の医療情報を提供し、医療管理システムの費用を4億ドル以上節約してきたとのこと。

「医療を患者中心にし、情報を整理しアクセスしやすくするためにはやるべきことがまだたくさんある。受診プロセス全体を通じて、患者のデータをシームレスに利用できるようにすることが重要だ」とInnovaccerの共同創業者でCEOのAbhinav Shashank(アビナフ・シャシャン)氏が声明で語ってる。「Innovaccerは素晴らしい顧客が関わっているデータの共用が可能な医療情報システムを利用できる幸運に恵まれた。医療業務を手助けするためのビジョンには、オープンでつながっているテクノロジーのフレームワークが必要だ。我々は、その変革を推進する顧客たちにテクノロジープラットフォームを提供する最先端で働けることを大いに喜んでいる」。

同社のテクノロジーは、200以上のAPIを通じて、健康保険、初期治療提供者、薬局、研究所、病院などからデータを集め、それを2万5000カ所の医療機関に提供している。この数値を今後数年のうちに、医療記録1億件以上、医療機関50万カ所以上へと増やすことが望みだ。壮大なゴールだが、それは25億ドルのヘッジファンドであるSeadview Capitalの創業者であるRavi Mehta(ラビ・メタ)氏の心に訴えるものだった。

「つながっているケアフレームワークと、最先端のデータ集約・分析プラットフォームを組み合わせることによって、彼らは患者記録を統合し、医療チームが患者治療の新しいレベルを達成できるようにした」とメタ氏は言った。「我々は,これによって最大限の効率が得られ、よりよい治療が可能になり、将来の医療費全体の削減に役立つと信じている」。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Google for Startups Acceleratorが国内でスタート、空やRevcommが選出

Googleは2月17日、Google for Startups Acceleratorの参加企業9社を発表した。このアクセラレータープログラムは、AI技術を活用した有望なスタートアップ企業に、Googleによる技術・組織運営などの幅広い分野にまたがる専門サポート提供するというもの。具体的には、同社社員15名以上からなるチームによる支援、企業や製品に関する大枠な戦略策定のサポート、Google for Startups Campusの利用、資本投資なしのサポート、Googleのメンター(育成・指導)など。Google for Startups Campusは、同社が昨年に日本法人の拠点を六本木から渋谷に移した際に開設された。

関連記事:Googleがスタートアップ支援の「Google for Startups Campus」を東京・渋谷ストリームに年内オープン

アクセラレータープログラムに参加するスタートアップは以下の9社。ホテルなどに向けてシーズンや曜日に応じた適切な価格設定を自動化する、いわゆるダイナミックプライジングサービスなどを開発・提供する空、AIとIP電話を活用して電話営業の効率化を図る「MiiTel」を開発・提供するRevCommなどが選ばれている。空はTechCrunch Tokyo 2017、RevCommはTechCrunch Tokyo 2019のスタートアップバトルで最優秀賞を獲得した企業だ。

  • エルピクセル : AI医療画像診断の支援技術を提供
  • カラクリ:顧客対応・カスタマーサポートのオートメーションサービスを提供
  • Singular Perturbations(シンギュラー パータベーションズ):最適なパトロール経路/安全な経路の策定・警備人員計画・犯罪要因分析などの犯罪リスクヘッジソリューションを提供
  • Selan(セラン):子どものお迎えと英語教育を同時に解決するサービスを提供
  • :ホテルの予約や市場データを元に料金設定業務を最適化し、収益創出の仕組み化を促進するサービスを提供
  • チャネルトーク:CX用のチャットツールと実店舗のアナリティクスサービスを提供
  • バオバブ:学習データ(アノテーション)作成サービスを提供
  • LeapMind(リープマインド):組み込みDeep Learning導入に向けたサービスを提供
  • RevComm(レブコム):電話営業・顧客対応を人工知能で可視化して、生産性向上を実現するクラウドIP電話を提供

「ストリーミング戦争」の正体:Disney、Netflix、Amazon、Appleなど各社徹底解説

編集部注:本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説するPodcast「Off Topic」が投稿したnote記事の転載だ。

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。普段は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。これまでは、日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきました。普段は、Off Topicのポッドキャストでも発信してますが、前回の記事が好評だったので、今回は「ストリーミングサービス事情」について記事にしてみました。

はじめに

2019年から2020年にかけて多くのプレイヤーが参入してくるストリーミング事業。Netflix、Amazon、HBO、Huluなどプレイヤーがいるなか、昨年11月にはDisney+、さらにAppleがApple TV+も登場。2020年はHBO Max、NBCUniversalが自社ストリーミングサービスのリリースを予定しており、元Disney会長のJeffery Katzenbergが始めた「Quibi」もリリース予定と、競合がかなり増えている。

このストリーミング戦争のポイントは、Netflix以外のプレイヤーはコンテンツやストリーミングでマネタイズする気がなく、ストリーミングはただ一つのユーザー獲得・ロイヤリティーチャネルでしかないことだ。利益率がより高い各社エコシステムへ導く戦争となっている。

これをDisney+が一番上手にやっているため、まずはDisney+の話から紹介し、続いて他社プレイヤー(Amazon Prime、Apple TV+、HBO Max)、最後にNetflixの状況について紹介していきたい。

TLDR

まずは、各プレイヤーと全体の流れのポイントをまとめると:

・「ストリーミング戦争」は存在しない。ストリーミングをきっかけに各社(Netflix以外)はユーザーを自社エコシステムに入れて別でマネタイズしている
・現段階では、Disney+とこれからリリースされるHBO Maxがパワープレイヤーに見える
・Netflixは5〜10年後には無くなっているかもしれないが、グローバルでは優位性はまだある
・Netflix/Spotifyのようなピュアプレーは厳しいビジネスになるかもしれない

Disney+(ディズニー・プラス)とは

Disney+(ディズニー・プラス)はDisneyの自社ストリーミングサービスで、Disney、Pixar、Marvel、Star WarsなどDisneyの作品を月額課金で見放題のストリーミングサービス。

価格は月額7ドルだが、3年契約は月額4ドル。Verizon利用ユーザーは1年間無料。競合のNetflixの月額13ドル(一番人気プランが)と高く感じる。

Disneyが大きなリスクをとってストリーミングを始めた理由は?

Disneyは「世界のトップメディア企業」といっても過言ではない。過去10年のDisneyの実績を振り返ると:

・$1B以上の売上を達成した映画を25作(他社を合計して13作)
・$2B以上の売上を達成した映画を3作(他社は0作)
・歴代最高売上の映画を製作
・10年中8年は年間のトップ映画を製作
・Baby Yodaを作ったw

圧倒的なコンテンツ力は、Star WarsやMarvel、Foxなど有名IPを買収したからでもあるが、本当にすごいのは、上手に自社エコシステムへ取り組んでいること。
これまでのビジネスモデルは、AmazonやNetflixへコンテンツの放映権を渡す形で、フィーだけでも約$5Bの売上とほぼ粗利。では、そのDisneyはなぜ大きなリスクを取って自社ストリーミングサービスを始めたのか?

2017年7月、Disneyはストリーミング技術を持っているBAM Technologiesを$3.75Bの時価総額で買収した。今回、オリジナルコンテンツ制作のために何千億円と払い、さらにNetflixや他社ストリーミングサービスからDisneyコンテンツを引き戻すためにも大金を払っている。

今回のDisneyの行動を見ると、社運を賭けたようにDisney+を推している風に見える。逆に言うと、失敗するとかなりDisney全体・株価に影響することになるだろう。

Disney+の戦略 Disney-as-a-Service

Disney+の安いプランで月額4ドルと聞くと、Disneyは儲ける気がなさそうに見えるが、事実儲ける気がない。
つまり、低価格設定はユーザー獲得のためであり、小売業界でも同じことが起きたように直接(ダイレクト)にユーザーと関係を作りたいのだ。今まで映画館やテレビ、Netflixなど他社のプラットフォームでは取得できなかった、顧客の趣味嗜好がわかるようになる。例えば、どのDisneyキャラクターや作品が好きかがわかるようになり、コンテンツやマーチャンダイズの判断はもちろん、Disney商品や体験のクロスプロモーションが可能となる。

このクロスプロモーション戦略は、最近のDisneyが考えているものではなく、創業者のウォルト・ディズニー氏本人も考えていたことだった。最初のテーマパークが作られた1年後に描かれた戦略の中心にはコンテンツスタジオがあり、テレビや音楽、漫画、雑誌などに繋がり、そこから全てのビジネスがマーチャンダイズ事業とテーマパーク事業に繋がっていくと50年前以上前から生み出していた。

たしかに、Disney+の値段を4ドル値上げして一人当たりから追加で毎年50ドル取るより、一人でも多く$1,000の年間パスや$5,000の家族クルージング旅行を買ってもらった方が儲かる。この戦略はすでにDisneyは映画で行っている。2018年だけでDisney Parks and Resort部門(テーマパーク事業)は映画部門の2倍の売上と1.5倍の粗利を出している。Disneyのアセットをフル活用するには、自社でストリーミングサービスを持つしかなかった。Disneyはこの個人データの価値を圧倒的に評価しているため、ストリーミング事業なんて無料で提供しても問題ないのだ。

今のDisneyのアセットを見ると、過去ウォルト・ディズニー氏が描いたチャネルやIPが変わったかもしれないが、テーマパーク事業自体はあいかわらず強い。

Disneyテーマパークの2018年売上が$20B、営業利益率が18%、年々10%成長。代行品がないため、価格弾力性が小さい。LTV/CACも良い数字になっているだろうし、メディアより遥かにマネタイズが出来るビジネス。

このコンテンツ力、そしてコンテンツをより単価の高いオフライン事業や体験事業に流し込む戦略は正に「Disney-as-a-Service」と言えるだろう。

他社にはできないDisney+の強みとは?

まず、他社ストリーミングサービスと比較して明確にプロダクトの強みを伝えられている。Disney+は知名度はあったが、それでもDisneyは何を提供するかを常に表現するようにしていた。アメリカではDisney+ロゴだけではなく、『Disney + Pixar + Marvel + Star Wars + National Geographic」と記載がほぼ必ずあった。

これは明確にどのコンテンツを提供できるかを上手く伝えていて、さらにStar Warsの新番組「The Mandalorian」をプロモーションする広告でも他のIPブランドを並べている。簡単に見えるが、これは競合は上手く出来ていない。

Apple TV+は何を提供して、何で欲しいと思う?同じくHBO MaxやNetflixは何を提供する?Disney+ほど明確にIPを並べる会社が今までなかったからこそ、Disney+の強みが明らかに見える。

さらに、運も少し良かったかもしれないが、「The Mandalorian」というヒット作品を出せたのは、Disney+の強みになった。Disneyコンテンツは人気だが、新しいヒット作品が無ければここまで成功はしなかったはず。The Mandalorianと作中に登場する新キャラクター「Baby Yoda」が大きなインパクトを与えたのは間違えない。

さらに、子供向けのコンテンツが強いのは良い優位性になる。HBO Maxも良い勝負をしてくるとは思うが、Disneyはやはり子供向けのコンテンツが多い。子供が見たいコンテンツは中々親は断ることが出来ないし、さらに子供は何回も見てくれる。Disney+のオリジナルコンテンツとライセンス予算は圧倒的に他社とは少なかったが、強く見えるのは何回も見たいコンテンツを選んでいるから。大人は「アイリッシュマン」を一度しか見ないかもしれないが、子供たちは「Mr.インクレディブル2」を何度も見る。

良いコンテンツが揃っているが、コンテンツ数を見るとNetflixや他社とは少ない。来年の中旬ぐらいで見るコンテンツが無くなってユーザーがエンゲージしなくなる可能性もあると計算して3年契約のパターンを出してきたと思う。そのためDisney+を更新する判断は数年後になり、そのタイミングでは十分なコンテンツ量を貯められる時間稼ぎの技。

ザ・シンプソンズという有名ショートアニメの大きな影響

Disneyは自社コンテンツ以外の購入もしたが、その中でも最も高額だったのはシンプソンズのライセンスだ。シンプソンズの独占契約だけでも毎年$125M〜$150M払っていると言われている。

ただ、Disney+内ではシンプソンズが圧倒的に人気になったせいで、Disney+の新しい広告では「+The Simpsons」を入れるようにした。

実際にDisney+の初期に一番見られていた番組はThe Mandalorianとシンプソンズ。それはシンプソンズというコンテンツがストリーミングと相性がいいからだ。

アベンジャーズやStar Warsも実際観られているが、視聴可能時間数はシンプソンズと比べてとても低い。それは、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)を全部見るには48時間かかるが、シンプソンズは250時間。シンプソンズは集中して見るケースと裏で半分聞いているだけでもフィットする番組。特にアメリカ人は日本人がラジオを聴いたりするように、シンプソンズのような軽いコンテンツを半分雑音として聞いたりする人もいる。

あらゆる手を使った、Disney+の本気のプロモーション

Disney+は1日目で1,000万人の登録者がいた中、多くはオーガニックで入ってきたと言われているが、実際はローンチ6週間前からたくさんのキャンペーンしていた。9月〜12月だけで$250M使ったと言われている。

Disneyが保有しているABCのテレビ番組「Dancing with the Stars」でも何度もプロモーションされ、フロリダのDisney Worldも広告だらけだったらしい。

Disney店舗の従業員もTシャツに登録用のQRコードをつけたり、テレビでの天気予報中にもプロモーションするように手掛けている。

さらに、Verizonとの提携によって1,700万人に1年間無料アカウントを発行した。

Disney+を成功させられたのも、会社全体としてDisney+を一番重要視することを判断したから。会社としてオフライン店舗、クルーズ船、テレビ番組との連携、さらに2018年リリースする予定だった映画もわざと遅らせてDisney+で配信するようにした。

これからさらにDisneyはDisney+を推してくるための戦略予想は以下だ:

・マーベルの漫画アプリはDisney+ユーザーに無料にする
・Disney年間パスを持っているユーザーはDisney+が無料に付いてくる
さらに、Disney+のリスクのパートでも話したが、DisneyはNetflixや他社ストリーミングサービスからDisneyコンテンツを買い戻している。他のサービスとのライセンス契約をしていたため、アメリカではMCU(マーベル映画)の全23作中、6作しかDisney+にしか出ないと言われていた。でもDisney+がローンチした時は23作中、16作を見ることが出来た。これはライセンスを買い戻したということだが、このコストは偉大な物だったはずだが、マーベルのほとんどを見れる価値の方がDisneyに取っては重要だった。

 Disney+の現状と実績

TechCrunchがSensor Towerのデータを公表したものだとTikTokより倍以上ダウンロードされ、2019年Q4ではアプリランキングのトップを示したとのこと。

合計4,100万ダウンロード、モバイルからだけで$97.2Mの売上を達成。12月だけで1,350万ダウンロード、モバイル売上が$43.9M。これは他社ストリーミングサービスのローンチと比較しても圧倒的な差がある。Disney+の次にでかいローンチをしたのはHBO Nowで、それがたったの$23.7Mの売上しか達成しなかった。

どれだけ他社ストリーミングサービスと比較してダウンロードされたのかが明らかなグラフはこちら:

さらに、Apptopiaによるとローンチした最初に一ヶ月間の間では1,000万人のDAUがいて、セッション時間もNetflixより5.8%長く、Amazon Prime Videoより7.8%長かった。

YouGovのアンケート結果でも、76%のユーザーがDisney+を5点満点中4か5をつけていた。Netflixだと74%、Amazon Prime Videoは66%、Huluは64%、Apple TV+は48%。特にDisney+の使いやすさが評価されたらしい。

Amazon Prime Video 「ゴールデングローブ賞を取れば、靴がもっと売れる」

Amazon Prime Video(アマゾンプライム・ビデオ)、はユーザーがAmazon Primeに入っていれば無料。そう考えると現在で、1億世帯がAmazon Prime Videoが使えることになる。Amazon CEOのジェフ・ベゾス氏は、「Amazon Prime Videoはコンテンツではなく、EC/Amazon本業へ繋げる戦略」だと2016年のRecodeインタビューで語っている。「Golden Globe賞を勝てば靴をもっと売れる。Prime Videoを見ているPrimeメンバーはトライアルから課金する確度が高く、Annual Subscriptionを更新する確度が高い。」

実際にその動画はこちらで見れる:

AmazonはわざとAmazon Prime VideoをAmazon Primeより高い値段にしている。なぜなら、少しでもAmazon Primeへ入ってくれる理由を上げるためであれば、コンテンツを無料で配信してもROIが十分だと計算しているからだ。実際に2018年の調査を見ると、11%はAmazon Primeに入った一番の理由はPrime Video。

それでAmazon Primeに誘導させて、もっとユーザーにものを買わせて、購入データと動画視聴データを元によりターゲティングした商品レコメンドを出来るようにしている。実際にこのデータの活用したのは去年末にAmazonが出したパーソナライズされたカタログ。

Amazon Prime Videoはコンテンツを利用したユーザー獲得の戦略でしかない。Amazon社内で計算した結果、Amazonのヒット作品The Man in the High CastleのPrimeへの新規ユーザー獲得コストは一人当たり63ドル。Amazon Prime自体は毎年99ドルかかるので、それだけでも良いCACだと思う。

Amazon社内では重要KPI「Cost per first stream」がある。これはAmazon Primeに入ったユーザーが一番最初に見る番組を評価している。計算方法は:

(番組Aの製作費 + 番組Aのマーケティング費用)/ Amazon Primeに入って初めて見た番組が番組Aだったユーザー数

Cost per streamは低い方が良く、Amazonからするとどの番組がPrimeへの加入を上げているのかをコスパベースで見れる。これはNetflixでも後ほど説明するが、Netflixも似た指標を持っている。

2017年だが過去にリークされたAmazonの社内データはこちら(S1 = シーズン1):

Apple TV+は、iOSエコシステムとApple製品を買わせるためにある

AppleのアプローチはAmazonと似ている。Appleはテレビ市場なんて興味なく、AppleはiOSのエコシステムにしか興味がない。今だとAppleデバイスを購入したユーザーは1年間Apple TV+に無料アクセスできる。さらにApple Music、TV+、Newsなどを今年バンドルして安く売る噂が出てきている。これはやはりApple商品とiOSエコシステムにユーザーを取り入れるためとしか思えない。

Appleはかなり著名人を集めてオリジナルコンテンツを作っているが、今のところは評判があまりよくない。特に外部IPを取り入れてないので、全てオリジナルだが、ヒット作品は今のところないため、あまり見られてない印象。Apple TV+は特に事業的にはインパクトはあまりなかったとApple CFOが言っている。ただ、Ampere Analysisによるとアメリカだけで3,000万人以上がApple TV+に登録されているとのこと。これは新規Appleデバイス購入者が1年間Apple TV+を無料でもらえるからかもしれないが、2019年4Qでデビューしたオリジナルシリーズのトップ10の中の6作がApple TV+のものだったらしい。

本当に見られているかは少し疑問があるが、Apple TV+も今後どう動くかは見てみたい。

AT&T/HBO Max:デジタルサービスのクロスプロモーション

AT&TがHBO親会社Time Warnerを11兆円で買収したコアな理由はAT&Tユーザーに対してHBO Maxを無償で与えてAT&Tのコア事業(インターネット、電話キャリア)を伸ばす・リテンションさせるため。AT&TとしてはHBO Maxは良くあるキャリアの無料特典にしかすぎない。

AT&Tは2025年までに5,000億円の粗利をHBO Maxは出すと言っているが、それをするために5,000億円かける予定で、さらに自社ビジネスとカニバってしまうので、実際にHBO Maxの粗利を本気で見ているとは思えない。さらにユーザー離脱以外に個人データを取得して他のデジタルサービスのクロスプロモーション、分析・広告事業にも色々展開できる。

HBO Maxの良いポイントは良いIPを揃え始めていることだ。特に良いのが20分以下のコンテンツを多く集めていること。短め尚且つ何回も見れるコンテンツを集めるのはストリーミングサービスの利用率が上がる(Disney+でシンプソンズが人気のように)。HBO Maxが獲得したIPと払った放映権はどれも高額で有名だ。サウスパーク($500M)、リック・アンド・モーティ(数百億円想定)、フレンズ(5年間で$425M)、Big Bang Theory($1B以上の噂)、Adult Swim、Crunchyroll、カートゥンネットワークなどが含まれる。

特にアニメコンテンツを重要視しているHBO Maxは正しい選択だと感じる。子供は何回も同じテレビ番組を繰り返して見るし、さらに大人に人気のアニメ(サウスパーク、リック・アンド・モーティ)やあらゆる世代からの人気アニメ(カートゥンネットワーク)を集めているのはミレニアルやY世代を囲い込む戦略に違いない。そして、ここ5年ぐらいで急成長している日本のアニメコンテンツの放映権を持っているCrunchyrollとも提携。

そして、ジブリまでHBO Maxに入ることを決めた。2019年の初めではオンラインでは絶対にジブリを見ることはないと言っていたジブリ側だが、2019年秋にHBO Maxが放映権を取得したと発表。こちらも数百億円支払ってもおかしくないと思われるが、面白いのはディズニーと組んでたジブリがHBO Maxと提携したこと。

ストリーミングの先駆者 Netflix アメリカ市場では苦戦中

Netflixのユーザー成長率はかなり株価を影響しているが、アメリカではここ最近は伸びていない。2019年は一時期ユーザー数がアメリカで減ったせいで、株価がかなり下がった時期もあった。その主な理由は競合が増えていること、Netflixが保有していた外部ライセンス(人気IPのFriends、The Office)などが別のストリーミングサービスと独占契約していること、オリジナル番組で大ヒットしているコンテンツが少ないからだと思われる。

アジア市場に先手を打ちたいNetflix

Netflixの強みは海外市場をちゃんと取れていること。競合が少なく、他社より良いコンテンツを出していて、それは数年変わらないと予想している。加えて、そこからの売上をアメリカに投資できる良い仕組みを作っている。

ただ、難しいのは価格設定。アメリカのユーザーはNetflixは安いと思っているが、インドや東南アジアだと毎月10ドルは少し高いかもしれない。その影響もあってインド、マレーシア、シンガポール、インドネシアでは月額3ドルのスマホのみのプランも出している。

さらにNetflixは各地域でもオリジナルコンテンツにとてもお金をかけている。インドだけで$400M以上。インドネシアだと、ライター向けのワークショップをLAとジャカルタでNetflixが主催している。Disney+、HBO Max、その他ストリーミングサービスがアメリカにフォーカスしている中、Netflixは海外にフォーカスしているのは正しい戦略なのかもしれない。

Netflixオリジナルコンテンツの現状

Netflixがオリジナル番組に多くの予算をかけ始めてから、アメリカ内で「誰でもNetflix番組」を持てるとジョークになった。

2019年にオリジナル番組に$15.3B使ったNetflixは今年$17Bの予算を予定。

2018年のオリジナル番組は全体の予算の85%を占めているので、オリジナルがどれだけ重要か明確だ。過去は他社IPのライセンス契約が大事だったが、ストリーミング企業が増えている中でそのIPがNetflixで見れないようになっている。

実際にNetflixで人気のコンテンツ「The Office」や「フレンズ」は、他社から独占契約されてしまった。そうなるとオリジナル番組を作らなくてはならない。オリジナルコンテンツへ投資を過去からしているおかげで、昔だと圧倒的に外部IPに頼ってたのが、NetflixオリジナルIPの価値が4年ほどでほぼゼロから$6Bまで上がった。

3年前にマーベルのシビル・ウォーなどの映画の原作を作ったコミック出版社のMillarworldを買収するなど、コンテンツクリエイターへの投資が加速するだろう。

もちろん人気外部IPをキープできるのであればNetflixはやっているが、今だと高くなっている。The OfficeだけでNetflixは数百億円出す予定だったが、それでも取れなかった。Friendsを去年Netflixで載せるだけで$100Mかかった。

ただ、実際これだけオリジナルに投資してもまだライセンス外部IPの方が見られている。合計視聴時間の3分の2が外部コンテンツ。

NetflixだとHouse of Cards、Stranger Things、Orange is the New Blackなどのヒット作品はあるが、何回も見るヒット作品が少ない。フレンズやSeinfeldは何回も見るため、視聴時間からするとオリジナル作品が少ないのもわかる気がする。

Netflixのコンテンツは、本当にデータドリブンなのか?

近年Netflixはデータ活用してコンテンツ制作やレコメンドするので有名だが、実は創業時からデータの重要性を謳っていた。最初にどれだけDVDをストックするかを決めるときも創業時にジョインしたMitch Loweさんの経験データを使って決めていた。

事実、Netflixは各番組の価値をトラッキングしている。トラッキングしているKPIは各番組がどれだけ新規ユーザーを連れてくるか、そして既存ユーザーのリテンションを影響しているか。これを社内では「Adjusted Viewer Share」と呼んでいる。Adjusted Viewer Shareとは視聴者を単純にカウントしているだけではなく、サブスク登録して24時間以内に番組を見たユーザーと数週間ぶりにNetflix番組を見てなかったユーザーが視聴したユーザーをより高いウェイト・評価を与えている。逆にNetflixを普段見ているユーザーの評価は低い。これを28日サイクルでトラッキングしている。

このAdjusted Viewer Shareと番組の予算を組み合わせてスコアリングしている数字「Efficiency Score」が社内の人たちによると一番重要視されているKPI。この数字を見て番組が成功したかを決めるらしい。

Netflixは人気番組でも2シーズン目の後に番組を終わらせることが多い。社内データで解ったのは、最初の2シーズンが新しいユーザーを獲得するのに一番効果的らしい。3シーズン目以降はあまり新規獲得に繋がらない。

ただ、ストリーミング戦争でデータを活用してより良い番組を制作できるのは間違っている。既にいろんな数字は見ているはず。実際にNetflixがデータ活用した「House of Cards」も結局イギリスで人気だった類似シリーズとアカデミー主演受賞者のKevin Spacey、有名監督David Fincherを組み合わしているので、それは上手くことは予想できるはず。

実際に、Netflix Chief Content OfficerのTed Sarandos氏も徐々にデータの重要性をトーンダウンしていると取材で公言している:

・2015年:「判断軸の7割はデータ、3割は上からの指示」
・2018年:「判断軸の3割はデータ、7割は勘」
・2019年:「判断軸の2割はデータ、8割は勘」

子供向けコンテンツに弱いNetflix

Disney+リリース直後にNetflixがスポンジ・ボブなど人気アニメ番組を出している「Nickelodeon」とオリジナルアニメコンテンツ制作の提携を発表。

提携の重要案件はスポンジ・ボブのスピンオフシリーズ。約$200Mほど払ったと噂されているて、スポンジ・ボブ以外は人気シリーズのティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズの制作もする。

ストリーミング戦争の中でNetflixが子供に圧倒的に支持されるコンテンツがなかった
・Disney+:Pixar、Marvel、Star Warsの自社コンテンツ
・HBO Max:Sesame Streetのライセンス、ジブリ、カートゥンネットワーク、Crunchyroll(アニメ)

Netflixは過去子供向けのコンテンツ制作していたが、Disney+とHBO Maxと比較するとかなり弱い。これを考えるとNickelodeonとの提携はわかりやすい = 良いIP取得のためだ。

これで90年代の子供向けアニメ番組トップ3(Disney、カートゥンネットワーク、Nickelodeon)がストリーミングされる時代になった。ただ、この三つの中だと圧倒的にカートゥンネットワークが強かった印象。

HBO Maxはみんな大好きな「Game of Thrones」だけじゃなくなくなり、『子供向け番組が得意なHBO Max』になるかもしれない。Disney+もMarvelでかなり使われるが、TV番組系だとSesame Street、カートゥンネットワーク、Crunchyrollのライナップは強すぎる。

気になるのはNickelodeonがViacomの子会社なこと。Viacomは自社ストリーミングサービスをリリース予定、さらにアメリカ放送ネットワーク企業のCBSとの合併も考えている中、CBSも自社ストリーミングサービスを出す。Netflixは制作費の負担を含めて、かなり大金を出したはず。

若者の支持率が高いNetflix、しかし油断はできない?

YouTube TVが出た影響でGen Zの中で初めてYouTubeがNetflixよりもストリーミングで人気になったが、それでもかなり若者層には人気だ。ただ、2018年から少しずつだがNetflixでの視聴時間割合が徐々に減っているのだ。

Netflixのインフラの強み

Disney+が開始初日に接続障害が起きた理由の一部はインフラに問題があった。Netflixはというと、自社のCDNを開発し、世界中に自社サーバーを立ち上げて、そのサーバーに人気番組のコピーを入れている。Netflixは1.58億人のグローバルユーザーをサーバーを世界中にばらまく事によってStranger Thingsの新しいシーズンが出た時の需要に応えられるようにしている。

ストリーミング以外の別のマネタイズ方法が必要?

これだけオリジナルコンテンツに投資しても、新規登録ユーザー数が足らないと以前取締役会で説明したNetflix。今の売上とコストを見ると、圧倒的にコストの上がっているスピードが高い。

売上を上げるためにNetflixは値段を上げなければいけなかった。しかも、ユーザー獲得コストもどんどん上がっている。

毎月13ドル払っているアメリカのユーザーのペイバック期間は4年(今後アメリカでのユーザー数成長率が下がるとさらに上がる)。

これを見ると、Netflixは他の方法でユーザー単価を上げる、別の方法でマネタイズを考えないといけない。そこでNetflixは、IPのグッズ商品化やテーマパークを考えているらしい。テーマパークは元々自社で作ると言ってたが、コスト的に合わなかったためユニバーサルスタジオでStranger Thingsのハロウェン企画・イベントなどを数年試している。グッズもやはりStranger Thingsのものはかなり売れている。

ただ、広告を絶対やらないと話しているNetflixはかなり損をしている気がする。Stranger Thingsで出るものは90年代のレファレンスするものが多く、それで他社が設けている。例えばコカコーラの失敗した商品のNew CokeがStranger Thingsに出た時に、コカコーラはNew Cokeの限定版を出して、かなり売れたに違いないが、恐らく一円もNetflixに入ってきてない。

グッズ化するにはヒット作品じゃなければいけないし、Netflixのヒット作品を見ると基本的にグッズ化するようなものではない。そうすると他のマネタイズ方法は他社(Disney、Apple、Amazonなど)の方が圧倒的に優位性を持っているのに違いない。

ブラックホースなるか?謎に包まれたQuibi(クイビー)

Quibi(クイビー)はモバイル専門の動画配信サービス。ドリームスワーク・アニメーションの元CEOのJeffrey Katzenbergと元eBayと元HPのCEOのMeg Whitmanが作った会社。サービスリリース前になんと$1.4B調達している。

Quibiの特徴は全ての動画が10分以下。Netflixなどストリーミング系の会社はテレビやデスクトップ向けのコンテンツを提供している中、Quibiの作戦はモバイルメインでのコンテンツ配信すること。名前のQuibiも「Quick」と「Bites」を混ぜて出来た。

2020年4月6日リリース予定。サブスク型で、広告付きは月額$5、広告なしだと月額$8。クリスシー・テイゲン、スティーブン・スピルバーグ、ジェニファー・ロペスなどと一緒にコンテンツ制作を発表。さらにP&Gなど大手との広告案件も獲得済み。

中身があまり公開されていない中、唯一出ているのはTurnstyle技術。動画を見ている間にスマホを縦か横に向きを変えると違う見方に瞬時に変わる。

これをやるにはストリーミングと圧縮技術が必要。番組制作での撮影・編集は必ず縦型と横型でされている。制作側はQuibiに二つ動画と別の音声データを送り、それがシンクされてストリームされるようになる。ストリーミング中は見てない方の動画は解像度を下げて同時再生されていて、向きを変えるとそっちの解像度が高くなるように設定されてある。そのため通常の動画よりたった1.2倍のデータしか使わない。

Turnstyleが人気になるにはそれをフル活用するコンテンツが必要。ある番組では主人公がスマホを見るシーンがあるので、その動画を見ているユーザーがスマホを縦にするとまるで主人公の携帯をそのまま見ているようになるらしい。逆にアクションになるとスマホの向きを横にするように勧められるらしい。

ここでそもそもの疑問点が出る:コンテンツ見ている間にそんなにユーザーはスマホの向きを変えたいと思うか?実態はまだわからないが、Quibiはこの技術・体験が他社との差別化ポイントとして出しているのは間違えない。

Quibiのコンテンツは3つの種類がある:

・一つはハリウッドスターなどを活用した「Lighthouse」
・二つ目はニュースに特化して毎日見れる「Daily Essentials」
・三つ目はその間のクオリティーの「Quick Bites」

その中でもDaily Essentialsの影響でユーザーが毎日見てくれるようになると主張している。

Lighthouseコンテンツは映画フォーマットにイノベーションを及ぼすもの。実際にはLighthouseコンテンツは映画と同じもの。映画をチャプター分けして毎週一部リリースする形(いわゆる漫画・アニメと似ている)。なので2時間の映画を12チャプター(12週)にかけて出す形となる。

Lighthouseコンテンツの制作費はGame of Thronesと同じぐらい。1分間で約$125K、1エピソードが$7.5Mぐらい。Quick Bitesコンテンツは1分で$20Kから$50K、Daily Essentialsは1分で$5Kから$10Kぐらいの製作費用らしい。この製作費はテレビ・映画業界と似たレベルのもの。Jeffrey Katzenbergはあえてテレビ・映画業界と同じ製作費にしている。彼としてはNetflixよりも、そもそものテレビ・映画のフォーマットを変えようとしている。

平日だけで毎日3時間の新しいコンテンツを出す予定。それだけの新しいコンテンツを出せば高いDAUを保てると信じている。1年目で175作のオリジナル番組、8,5000エピソードをリリース予定だそう。

ローンチまでは感や経験を活用して、その後はデータで全て決める。最初にどうやってローンチするか、何作リリースするか、配信スケジュールなどはJeffrey Katzenbergの知見を使ってやるが、4月7日(リリース直後)はMeg Whitmanの得意とするデータ活用して判断をするとのこと。

しかし、アメリカだと既に上手くいかない声が上がっている。ストリーミング事業は難しいのでその理由も分かるが、まだ情報が少ない中で判断はしにくいと思う。

直近で$400M調達していて、合計$1.4Bほど調達しているが、社内ではコンテンツ制作とプロモーションだけで$1.5Bかかると言う話も出てきている。Quibiはサブスクで伸びていくが、社内計画だと1年目に$260Mの売上、2年目に$700Mの売上になるとのこと。さらに、1年目の広告分は既に売り始めていて、そこから$150Mほどの売上が出るとのこと。サブスクの売上が思った以上上がらなければもう一度資金調達が必要になるかも。

しかも今回の$400M資金調達では前回参加した投資家のViacomやNBCUniversalが参加してない。これはあまり良い印象にはならない。1年で750万人のサブスク登録を目指しているとのこと。そのうち200万人はほぼ確定:アメリカ電話キャリア会社T-Mobileと提携して、彼らのユーザーは1年間無料でQuibiを使える。

新しいストリーミングサービスが入るのには難しい理由:課題解決型のサービスが少ないから

実際にストリーミング事業の需要は数年前に起きたものだが、今多くの大手ブランドがサービスリリースしているのは彼ら的に今やる必要性があるからだけで、あまりユーザーのことを考えてない。

Netflixは過去にあった課題(良いアクセス、値段、体験)を解決したのでファーストムーバーとして成長した。ファーストムーバーだったため、今の課題を解決しなくても十分使われる。

Huluが伸びた理由は低コストであったことと過去ネットに載ってなかったテレビ番組の再放送を出せたので需要の満たした。Amazonは無料でのコンテンツ提供と複数社からのコンテンツのアグリゲーションをして簡単なUI、配信体験を届けたのが良かった。HBOなどプレミアムネットワークはトップティアナコンテンツを提供することで優位性を保っている。

上記プレイヤーは初期でこの領域に入ったので課題解決を明確に出来た。今後も課題解決型なソリューションも出てくると思うが、そんなに多くはないと思う。

ほとんどのユーザーは追加料金(Disney+)でディズニーコンテンツを別に見たくない。出来ればNetflixで見たいと思っている。ただDisneyのような特化型ブランディングやその他コンテンツ・体験・特化型UIへの連携が出来るブランドに対してユーザーは価値を感じるかもしれない。

問題はその他プレイヤー。Netflix、Amazon、Apple TV、Hulu、Disney+、HBO以外のサービスは何の課題を解決する?何故人が欲しがるのか?それとも見たい番組と独占契約したから仕方がなく、そして恐らく短期的に課金・視聴しているだけでは?

無料のAVOD(広告付きストリーミングサービス)は解決ではない。無料で提供する方がユーザーが使ってくれるハードルが下がって見えるが、特に新しい課題を解決してない。4つ〜6つのストリーミングサービスを使っているユーザーがもう一つのサービスに登録するところまで行かない。

メディアに対してお金を払わない文化 = ピュアメディアが厳しい

アメリカ人はメディア・エンタメが好きだ。平均的に毎日5時間半の動画を視聴、2時間半の音楽を聞いている。仕事中、運転中、エクササイズ中、どの時でも何かしらメディアと触れ合っているが、その割にはコンテンツにお金をかけてない。

メディアの中だと、現在世界で一番お金が使われているカテゴリーはテレビで約30兆円ぐらい。ただ、60億人が2.5時間のテレビを見ていると考えると、コスパが良すぎる。それは音楽、映画、ストリーミング、ゲームも同じ状況となっている

しかも値段上げをユーザーがかなり嫌う。普通に考えるとケーブルテレビで月間450時間テレビを見る家族が80ドル払うのは良いディールだと思うが、誰も払いたくないと言う。SpotifyやApple Musicも年間120ドルで広告無しで4,000万曲へのアクセス権を持ってる。毎月90時間サービスを使っている中だとコスパが半端なく良いが、それでもユーザーはメディアに対してお金を払いたくない。New York Timesは新聞紙として最大手と言われているが、時価総額が5,000億円ぐらいしかない。

これを理解している企業たちは、メディアコンテンツを効率よく他の領域、商品、カテゴリーに誘導してユニットエコノミクスを成立させなければいけない。これはストリーミング戦争の裏に隠れている「エコシステム戦争」と言う新しいビジネスモデル。

結論

業界としてはNetflixがファーストムーバーだったが、今だとビジネスモデル的には一番遅れているかもしれない。ここ10年ぐらいでレガシーメディアから見るとNetflixは一番イノベーションを起こしていて、デジタル世代で一番進んでいたビジネスモデルを持つ会社だった。ただ、今見るとそのビジネスモデルは時代遅れかもしれない。

Netflixの市場規模は30兆円のコンテンツビジネス。彼らは動画広告をやらないので、それだけでも20兆円のビジネスチャンスの機会損失している。Quibiもこの市場を狙っているが、そのほかの会社はここではなく、別の方法でマネタイズをしている。コンテンツをフックにしてユーザー獲得する方法を取ってしまうと、そこから売上ゼロでも投資を莫大にしていく。実際にDisneyやAmazonはそうしている。ピュアメディアだけだとほぼ確実にプライシングで負ける。Netflixは値段を上げている中、Disneyは値段を下げているのを見るとそれが明らか。今後Netflixがピュアプレーであり続けるのか、今後Netflixがどう対抗していくのかが見所になる。

そうなるとNetflixが勝つ方法はコンテンツ、いわゆる自社アセットになる。ヒット作品、もしくは外部IPの独占契約を締結すること。Netflixが直近でジブリと締結したのも、去年$500M以上払ってSeinfeldの放映権を取ったのも、重要IPを確保する重要性をNetflixは理解しているから。結局コンテンツ勝負になると思われるが、ストリーミングで勝つには以下コンテンツが必要になってくる:

・有名コンテンツ・シリーズ:Stranger Things、マーベル映画など
・年代別コンテンツ(特に子供向け):カートゥンネットワーク、ジブリ、スポンジ・ボブなど
・ながら観できるもの:シンプソンズ、Big Bang Theory、フレンズなど

コンテンツのラインアップを見ると現状はDisney+とHBO Maxがリードしている風に見える。Disney+はシンプソンズ、Pixar、Marvel、Star Warsを持っている。特にシンプソンズは大量のコンテンツと、仕事しながら裏で聞けるライトなコンテンツ。後はDisney+は今の所The Mandalorianにベットして、今後はMarvel系の番組が出てくるので、人気度は落ちない。HBO Maxは子供番組が意外と揃っている:セサミストリート、カートゥンネットワーク、Crunchyroll、ジブリ。

結局家族で買うサービスとかだとこの2社が強い。その理由でDisney+がリリースされた1日後にNetflixはNickelodeonと提携を発表、彼らも必死に子供向けのコンテンツ制作をしている。ただ、ユーザー数ではNetflixが圧倒的にリードしているので、ここ5年で潰れるとかはないはず。Disney+も5年後の予想はまだ今のNetflixを抜いてないので、Netflixは今現在のユーザーのデータや他のマネタイズ方法を考える時間は少しある。

最後に、この記事には全く触れなかったが、Netflixやその他ストリーミングサービスにはもう1社競合がいる。それはSNSやゲーム、そして特にアメリカでは「Fortnite(フォートナイト)」。実際にNetflixの株主総会でも代表がFortniteを競合として指名した。結局これはアテンション戦争であり、アメリカの若者層は今圧倒的にFortniteにハマっている。そのアテンションを使ってマネタイズ方法が各社違うだけ。

Fortniteを作るEpic Gamesも実はゲーム以上の世界観を作ろうとしているが、それはまた別記事で説明させていただきますので、お楽しみにしてください!

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Written by Tetsuro(@tmiyatake1) | Edited by Miki (@mikirepo)

引用元

・https://www.theinformation.com/articles/netflix-plays-new-role-budget-conscious
・https://www.theinformation.com/articles/at-netflix-speed-is-key
・https://www.theinformation.com/articles/how-iger-broke-disneys-netflix-addiction
・https://www.multichannel.com/news/netflix-wont-be-hurt-by-disney-plus-and-other-svod-launches
・https://www.theinformation.com/articles/netflix-races-to-make-more-originals-as-studios-pull-back
・https://www.yahoo.com/lifestyle/experts-disney-streaming-kill-netflix-194842719.html
・https://www.vox.com/2019/4/12/18307539/disney-streaming-launch-cost-billions-netflix-strategy-change
・https://www.vox.com/recode/2019/11/12/20959837/streaming-wars-10-lessons-matthew-ball-alex-kruglov-disney-apple-amazon-netflix
・https://www.economist.com/prospero/2019/11/11/what-is-the-endgame-for-disney-
・https://www.matthewball.vc/all/minedmedia
・https://www.matthewball.vc/all/minedmedia
・https://www.statista.com/chart/10311/netflix-subscriptions-usa-international/
・https://www.wsj.com/articles/netflix-subscribers-fall-slightly-short-of-expectations-11571257175
・https://www.deseret.com/entertainment/2020/1/16/21069282/netflix-spending-billions-streaming
・https://www.vox.com/2018/12/21/18139817/netflix-most-popular-shows-friends-office-greys-anatomy-parks-recreation-streaming-tv
・https://www.forbes.com/sites/greatspeculations/2019/07/19/netflixs-original-content-strategy-is-failing/#28fd4d713607
・https://variety.com/2018/digital/news/netflix-original-spending-85-percent-1202809623/
・https://variety.com/2019/digital/news/netflix-orange-is-the-new-black-stranger-things-most-poular-1203267573/
・https://www.theinformation.com/articles/netflixs-asia-growth-challenge-trading-price-for-volume
・https://www.nj.com/entertainment/2019/05/new-coke-was-a-disaster-stranger-things-is-bringing-it-back-because-old-fails-never-say-die.html
・https://fourweekmba.com/amazon-prime-revenue-model/
・https://ew.com/tv/2019/10/29/rick-and-morty-south-park-hbo-max/
・https://www.theverge.com/2019/10/17/20919325/studio-ghibli-stream-hbo-max-spirited-away-kikis-delivery-service-my-neighbor-totoro
・https://www.forbes.com/sites/lisettevoytko/2019/10/18/south-park-reportedly-nearing-500-million-streaming-deal/#29d8c06851e2
・https://www.theverge.com/2019/9/17/20870140/big-bang-theory-hbo-max-streaming-exclusive-worth-billion-seinfeld-netflix-friends-the-office
・https://live.recode.net/jeff-bezos-2016-code/
・https://techcrunch.com/2020/01/14/disney-was-the-most-downloaded-app-in-the-u-s-in-q4-2019/
・https://www.fool.com/investing/2020/01/15/disney-plus-has-made-100-million-from-subscribers.aspx
・https://sensortower.com/blog/top-apps-games-publishers-2019
・https://sensortower.com/ios/US/disney/app/disney/1446075923/overview
・https://www.fool.com/investing/2020/01/15/disney-plus-has-made-100-million-from-subscribers.aspx