おとぎ話に見たUXの落とし穴

UXとは何でしょうか?とにかくユーザーに分かりやすく、簡単にすることと考えている方は多いかもしれません。しかし改めて考えてみると、明確に答えるのは難しいのではないでしょうか。シンプル至上主義のUXへのアンチテーゼを、皆さんご存知「赤ずきん」の話を通してみてみましょう。– SEO Japan

The invisible problem with fairy tale experiences

2017年のUXLxでのAxbom氏のキーノートはこちら(英語)

昔々あるところに、リール―という女の子がいた。
しかし、いつも古くてボロボロな赤いずきんを被っていたので、皆は彼女のことを「赤ずきん」と呼んでいた。
そんな彼女もいつも被っている赤ずきんに飽きてしまった。そう、彼女はイメチェンをしようとしているのである。
彼女は初めて自分のおばあちゃんのところを訪れようとしていて、いい感じの緑ずきんを買いたいと考えている。

緑ずきん

彼女は素晴らしい検索エンジンを使い、すぐに「オオカミのウール」というサイトを見つけた。するとどうだろう。トップページに完璧なずきんがあるではないか!
彼女はすぐにクリックをした。住所は自動で入力され、支払いはPayPalのアカウントに請求され、あっという間に緑のずきんを注文することができた。購入に要したのはたったの3クリックであった!

Úlfur’s Woolies

3クリック

しかし、後から伝書鳩が運んできた確認メッセージを読むと、法外な送料がかかるうえ、ずきんの到着がおばあちゃんの家に行く日に間に合わないということにリール―は気づいた。

何が問題だったのだろうか?ウェブサイトはとてもうまく機能したし、すべてのユーザビリティテストがユーザーはしっかりとタスクを完了したとしている。そして、コンバージョン率も右肩上がりである。

ではなぜリール―は悲しんでいるのだろうか?

悲しむリール―

我々の最も一般的なUXの考え方は簡単に説明できる。
ユーザーがAからBに行きたがっているとする。良いユーザー体験を提供することで、ユーザーは喜びを感じ、最高の場合、興奮した状態でターゲットへまっしぐらに向かう。

それゆえ、我々は成功をするのだ。

ux-happy

一方で、疑いやフラストレーション、混乱や驚きを感じたらユーザーは落胆するだろう。

ux-sad

明らかにこれは我々が恐れていることであり、我々があつれきやバリアと呼んでいるものである。ユーザーがゴールを達成するのための妨げとなるバリアである。

できれば、すべり台のように、ポイントAから入りポイントBまでスムーズに滑走できるようにあるべきだ。

しかし物事が簡単に進むとき、我々の脳はどのようになっているのだろうか?直感的にシンプルだと感じるほど、簡単であると脳はどのような反応をしているのだろうか?
脳はオートパイロットモードへと切り替えるのである。脳にエネルギーの消費を抑制させるのだ。そしてこれはとても効率的である。例えばあなたの仕事が、お風呂のスイッチを押すだけなどならば脳はこうなる。
しかし、その決断が自分の身を左右するとなったら、この状態は良くない。

autopilot

Amazonの1-Click注文は使ったことがあるだろうか?1つのボタンで本を購入することができるのである。たった1回のクリックだ。もしこの機能がほとんど感じることができないほど自然に実装されたらどうなるだろう?きっとたくさんの本を購入してしまうだろう。私は新しい本の噂を耳にしてもがリストには書かなくなった。Amazonのウェブサイトに行って「1-Clickで今すぐ買う」ボタンを押すようになったのだ。これはとても興奮した!支払いがクレジットカードから行われ本が出荷されるまで、本当に1クリックで完結してしまったのだ。

1clickorder

しかしこれは管理が難しく、最終的には高くついてしまった。
手元に20冊の本と20枚のレシートがあることに気づいた時、この機能をオフにした。

もちろんAmazonからしてみればこれはものすごい収益を生み出すだろう。しかしいつからUXの専門家はコンバージョンのコンサルタントになったのだろうか?

UXデザイナーは、いつA/Bテストや目的の素早い達成にのみに注力するCRO専門家になったのか?

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縦軸:収益
横軸:購入者の爬虫類脳の使用率
※爬虫類脳=生命活動や本能を司る脳の一部分

私がじっくりと考えてほしいのは、ユーザーとどのような約束をしたかである。我々UXを生業としている者は、我々が携わっているどのようなシステムもユーザーのためを思っていると言う。我々は人々のために良い世界を作っているのだ、とすら言いたいと思っている。

私はUXで働くことの原動力となるのは人間中心主義であると知っている。残念ながら我々の多くはそれを守れていないようだが。。

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とくにユーザーが簡単に従える体験フローにばかりに注力しているのならば、重要な情報を顧客に隠した、売り手だけが喜ぶようなページを作っている危険があると認識した方が良いであろう。

シンプル化の中で、ユーザーがどのように落胆するかの例を提示しよう。

mathem-english

スウェーデンには素晴らしいMathem.seという食料品店がある。ここでは、たまに牛乳6リットルで、70クローナなどお得に購入することができる。

3リットルのミルクを買い物カートに追加する簡単な方法は、購入ボタンを3回押すことである。ウェブサイトはとても早く効率的で、常連客にとってこれはルーチンになっている。

上記でのセール中であっても、(セールだろうが、セールじゃなかろうが)写真は同様の1リットルのミルクを表示している。私は70-80%の認識を視覚情報から行っていることもあり、3リットルのミルクを購入するために3回ボタンを押した。

しかしMathemが親切に初期の注文数を6にしてくれているため、このボタンを3回押すと18リットルの牛乳が配達されてくる。

これはとても早くてシンプルだ。私のいら立ちは配達される時にピークを迎える。

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私がスウェーデンのオンラインヘルスサービスに参加していた時、我々はとても素晴らしいあるサービスに注目していた。これは間違いなくユーザーに感謝されているようなサービスであっただろう。「精神科医に聞いてみよう」というサービスで、我々はユーザーがもっとこのサービスを使いやすくなるようにした。しかしながら、それによりすべての質問に対して返答がなかなか返せなくなってしまった。結果として、多くの人が精神科医からの回答を待たなければならない、という優れていないユーザー体験を提供してしまう事になった。

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私が会社を立ち上げた時、SEB銀行は模範的な申し込みフォームを設置していた。申し込みを完了するまでには15秒しか要さなかった。彼らからの返答はなく、結局利用はしなかったが。

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UXの領域にいる我々のような者の多くは、Gerry McGovernのHSBCの住宅ローンに関する話を引用する。フォームの入力項目を17個から3つに減らし、フォーム経由での住宅ローンの申し込みは倍になった。

しかし、我々は人々がローンを借りられて本当に幸せになっているかは知らない。
どれくらいの人が返済能力以上に借りてしまっている人は、どこか他のところで自分の状況にあった良いアドバイスなどを受けれているのだろうか?

物事はどこまで簡単にしても良いのか?
例えば、高利の住宅ローンをテキストメッセージだけで、誰でも簡単に借りれるように最適化を続けることは良いことなのだろうか?誰でもボタンを押せば何でも買えてしまうような、あまりにも全てが簡単な世の中になったら、どうなってしまうのだろう?思慮をせずに、我々はクリックをし、最悪の場合トラブルに巻き込まれるだろう。我々はそのようなことにはなって欲しくはないと思っているはずだ。

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我々は認知障害を抱えている女性に対して、彼女が使ったこともないようなケータイ電話のプランを売りつける営業マンのような振る舞いをしてはいけないし、すべきではない。シンプル化を目指す上ではこのような考えとは距離をとるべきだ。

人間は複雑である。人生では様々なことが断続的に起き続けている。我々は、次から次へと終わりのない選択肢にさらされているのである。もちろんシンプルであることは良いことであるし、我々はたくさんのショートカットをして、脳に休息の機会を与えることもある。しかし、我々は価値観を持ち、目標をもって生きているのである。

我々は価値観や目標に悪い影響があると、気分が悪くなる。UXに携わる者はこれを頭に留めなければならない

現代のリスクは、デジタルサービスが20世紀代に他の業界と同様の道を辿っているということだ。我々は裏で実際に行われていることの手がかりとなるようなことを隠して、取引を行っているのである。

UX業界ではみなクリエイターであり、同じ未来を目指しているのである。石油業界、繊維業界そして食品業界…これらの業界は皆、激しい批判にさらされている。しかし、もちろんこれらの業界の生産者は、人類の豊かさに貢献しているつもりであり、自分が正しい方向に進んでいると信じていた。

食品業界は、最終的にそれがどのような健康的な悪影響があるとしても、かわいらしいパッケージを使い商品を魅力的に見せた。
トラのキャラクターを採用し、「33%砂糖をカット」と銘打つことで、収益は成長した。

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全てのウェブサイトが同じような見た目になり、障害を排除し続け、人々に考えることをやめさせた先に、どのような世界が待っているのだろうか?

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きっと自分が正しい道を辿っているのか、確認をしなくなるような世界である。

正しい道?

自分自身の行動を振り返る機会が制限されたことにより失望するような世界を作り出してしまっている

そもそも、リール―の本当の目的は何だろうか?緑のずきんを買う事ではない。彼女のおばあちゃんに服を見せ、自分自身の再定義をし、赤ずきんを卒業することだ。

本当の目的

オートパイロットモードを切ることができたのならば、どのようなことが実現できるのだろうか?

恐らくリール―は、自分が正しい道の途中にいるのかを考える機会を得ることが出来たであろう。もちろん満足できるような経験は必要であるが、これで目標を達成したと勘違いしてはいけない。

我々は考える機会を与えるのである。これは日常生活にそれとなく介入し、賢明な判断の助けとなるものを強調してくれるのである。

リール―の場合であれば、小さいオオカミがいるのである。

小さいオオカミ

良いあつれきや障害の例を挙げさせてもらいたい。
つい最近、なぜ見出しを大文字にしているのかという質問を受けた。サイトの他のところでは大文字にしていないにも関わらずだ。この質問に対しての回答は、規範を破りたいからということである。ユーザーに違う反応をさせ、見出しにより注目を集めることが目的であった。

でも、それは一貫したユーザー体験ではないのではないか?

秘密を教えよう。一貫したユーザー体験は「脳を停止させるスイッチ」なのだ。

良い障害はガイダンスを与える。しかし、目立つものは特定しなければならない。
重要なことが気づきやすければ良いことである

時にローディングのアニメーションを、本当は(技術面から厳密にいうと)流す必要が無いのに表示させることがあるだろう。私はユーザーに、彼らの努力の効果があるという明確なシグナルを送りたいのである。彼らは自身の行動に対してのフィードバックを得て、多くの新しい情報の固まりを浴びる前に考える時間をとることが出来るのだ。「視覚的な障害」を見せることで、一つの障害を突破し、次の目的地への途中であることを示すのである。

これは、人々に対して自分自身の行動について反芻させるシチュエーションである。

ロードアニメーション

人々には達成感が必要なのである。障害を乗り越え自由になるのだ。これこそが経験である。良い体験のために障害を作り出す人を他に知っているだろうか?ゲームデザイナーである。

ここまで話してきたが、一番良い例は最後にとっておいた。数週間前コーチングのための部屋を借りるために「The Coaching House」に登録した。すべてオンラインで行われ、登録プロセスには3日間要した。冗談ではなく長い登録手順だった。しかしとても良いものでもあった。何より、利用規約で該当箇所を見つけたため割引を受けられたのである。

最後には、パスワードを受け取るためにビデオを見なければならなかったのである!パスワードは1文字ずつ与えられ、2分間のインターバルでは顧客の責任について話し始めたのである。いつでもギブアップはできたが、私はしなかった。彼らの提供するものが欲しかったのである。最終的に、The Coaching Houseは自分たちが欲しい、よく読み、モチベーションが高く、購入機会も豊富で、行動力のある顧客を手にすることが出来たのである。

全員を捕まえる

登録フォームをデザインしている人が考えているようなこととは対照に、読者の方はすべての人を捕まえて顧客にしたいわけではない思う。成功するためには、顧客やステークホルダーが誰であり、どうすれば彼らを助けられるのかを理解しなければならない。それこそがビジネスプランの何たるかである。皆を捕まえようとすれば、時間とお金を浪費させるだけの人を捕まえてしまう可能性も上がってしまうのである。払い戻し、フラストレーション、立腹、サポート部門などが日常的に良く使う言葉になってしまう。

成功するためには、ロイヤリティがどこにあるかを明確に把握しておかなければならない。「顧客とともにある」と答える前に、これは視野が狭いということも伝えておこう。

ユーザー、組織、目標、状況

あなたのロイヤリティは組織や、目標や状況にもあるのである。リール―が目標を達成することで得られる価値を他の人にも見せなければならない。

foundation for future disappointment

ユーザーの考えの助けとなるものを隠せば、更なる利益を生み出せるかもしれない。しかし、将来的な失望の土台を築いてしまっているのである。これは相互の興味に基づく関係性ではない。ユーザーが自身の価値観や目標の文脈で、提供されるサービスなどを考慮する時間をとる助けをするという、プロフェッショナルとしての約束の上にはないものだ。

respect for the real goal

ユーザーがもつ本当の目標やユーザーが目標に到達する権利をリスペクトすることで、結果への理解度が高い状態での選択を助ける障害を与えることが出来るのである。

障害を取り除くだけでなく、与えることで、我々UXの専門家は良い世界に貢献していると言えるのである。

良い世界

そうすることで、これからも幸せに生きていくことが出来るであろう。


この記事は、Axbom氏のブログに掲載された「The invisible problem with fairy tale experiences」を翻訳した内容です。


国の違いなのか、極端なサービスの例もあるな(笑)という印象ですが、目先の利便性だけではなく、ユーザーの長期的な目標達成まで見据えてサービスの構築を行うのが、本当の意味でユーザーファーストなのでしょうね。
— SEO Japan

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投稿者:

SEO Japan

002年開設、アイオイクスによる日本初のSEOポータル。SEOに関する最新情報記事を多数配信。SEOサービスはもちろん、高機能LPOツール&コンサルティング、次世代SEOに欠かせないインフォグラフィックを活用したコンテンツマーケティング等も提供。 SEOブログながら、ウェブマーケ全般。アドテク、ソーシャル、スタートアップ、インフォグラフィック等。