[寄稿]事例でわかる、BtoBサイトのSEO戦略

BtoB企業のマーケティング支援を行う才流(サイル)のコンサルタント黒須です。

「ネット検索」が人々にとってもはや当たり前の昨今。それに伴い、SEOの方法は様々な書籍やブログなどで解説されているものの、BtoBマーケティングに限ったものはそう多くありません。

その数少ないBtoB向けSEOの解説コンテンツも、

・htmlタグの活用方法
・コンテンツを作ることの大切さ

といった表面的な戦術レベルの議論に終始しており、

・オウンドメディアを運営する必要はあるのか
・どのようなキーワードの対策を行い、どのようなLPを用意すべきなのか。

こうした点が整理されていない感じていました。

私自身が経営者やマーケターであれば事例に関心が行くので、今回は参考企業の事例をベースに、BtoBマーケティングにおけるSEO戦略を解説します。

先に結論をまとめると、BtoBマーケティングでのSEOの方針はビジネスモデルとウェブサイトの目的によってとるべき戦略が変わってきます。

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詳しく解説しましょう。

単品ソフトウェア販売のビジネス

一般的にBtoBビジネスにおけるウェブサイトの役割は、営業に引き渡すリードの獲得という意味合いが強いです。

ただし、低単価の単品ソフトウェア販売やSaaSビジネスは、営業にそこまでコストをかけられないため、ウェブサイトの役割にリードの獲得からクロージングまでの要素が求められる力学が働きます。

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例えば個人向け会計ソフト「freee」、勤怠管理クラウドサービス「ジョブカン」などの月額1万円未満のウェブサイトを見るとfreeeは決済まで、ジョブカンは30日間の無料体験ができるようになっており、営業が行うクロージングやデモ画面によるプレゼン、請求機能をウェブサイト上で代行しているのがわかります。

こういったケースにおけるSEOのポイントはこの3つになります。

①アカウント発行につながるキーワードの特定
②キーワードで集客するためのコンテンツ制作
③SEOとCVRを担保するライティング

キーワードの特定方法はいくつかありますが、基本はリスティングでCVするキーワードをピックアップしていきましょう。

そこでポイントになるのが、「ランディングページをどうするか」です。

freeeのケースであれば、キーワード「会計ソフト」であれば商品ページがランディングページに該当します。しかし、キーワード「確定申告」で商品ページを対策すると、そのキーワードで検索する顧客が求める情報とページの内容が合致しないため、効果は上がりません。

この場合はキーワードに対応した専用のページを作り、ハウツーや基礎情報を掲載するほうがSEOの成功確率は上がります。

それはなぜか?

一例として、「勤怠管理」というキーワードの検索結果を見てみましょう。

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検索結果を見てもらうとわかりますが、「勤怠管理」というキーワードに対して製品を紹介するページよりも、

製品を比較する記事
勤怠管理そのものを説明する記事

が多く表示されているのがわかります。

キーワードによって変わるのですが、これは昨今の検索エンジンは企業の製品やサービスを紹介するページよりも、中立的なハウツー情報を好む傾向にあるためです。

以上のことから、
製品ページで特定キーワードを狙う
・製品ページでカバーできないキーワードは、キーワード別に記事を用意する
というSEO戦略をおすすめします。

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次に、記事を用意する際のポイントについて解説します。

①顧客がキーワードで検索する際に知りたいことと、他のサイトでは触れられていない独自性のある情報を伝える
②できれば専門家が顔出しで書く。難しければ監修を依頼する
③記事が検索結果の上位に表示されたタイミングで自社サービスを使ってもらうためのセールストークを追記する

以上が基本的な流れで、特に③が重要です。

記事を増やしてSEOがうまくいき、検索エンジン経由の流入が増えたものの、肝心のアカウント発行やリード獲得がうまくいかない、というのはよくある話です。

これを解決するためには、記事の下部に自社サービスを伝える文章が必要になります。

よくバナーで自社サービスへの導線を用意する方法がありますが、よくても数%しかクリックされないため、おすすめできません。

ポイントは記事が続いているように見せながら、自然と自社サービスの話に移行するように設計することです。

参考として、アディッシュの下記記事を一読してください。

チャットボット(Chatbot)とは【人工知能との関係、開発の方法】

途中から「チャットボット選びの肝は「ツールの実操作の確認」と「Bot作成が素早くできること」という見出しが入り、自社サービスの説明がスタートしているのがわかります。

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こういったライティングは真似すべきです。

高単価商材を展開する際の参考事例

高単価商材におけるウェブサイトの目的は、営業に引き渡す「リード獲得」です。

営業がクライアントからヒアリングをしてクロージングにつなげるため、なるべく多くの顧客情報をSEO経由で集め、インサイドセールスチームがリードをふるいにかけ商談につながる有効リードを作る、これが基本的な流れです。

そのため、SEOのキーワードは多少関心を広めにとっても問題ありません。

しかし、必ずしもSEOによる集客のためにオウンドメディアを作る必要はありません。

なぜなら、多くの企業にとってメディア運営は専門外であり、

・作った記事が面白いものにならない
・ゴールがなく、メンバーが疲弊する

といった状況に陥り、うまくいかないことのほうが多いからです。

例えば、センサーメーカーのキーエンスでは、「センサー iot」というキーワードのSEO対策に成功しています。そのランディングページを見ると、freeeのような豆知識を掲載した情報サイトを作っているのがわかります。

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※参照:https://www.keyence.co.jp/ss/general/iot-casestudy/merit/introduction.jsp

サイトの情報も

・センサーのメリット
・IoT活用事例
・対応商品一覧

といった形で、顧客にとって役立つ情報が体系的にまとまっているため、継続的に更新をかける必要もありませんし、SNSでシェアされるための企画編集要素もいりません。

キーエンスはこういった情報サイトを30近く運営しており、各サイト個別にCTAメッセージを表示させてリード獲得を狙っています。

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「SEO対策のためにオウンドメディアを検討しているが、そもそも運営できる自信がない」という企業におすすめしたいSEO戦略です。

マッチングメディアやECの事例

代表的なマッチングメディアやECとして、「ボクシル」や「MonotaRO」が参考になります。

こちらのビジネスモデルにおけるSEO戦略については、既存の書籍やブログでかなり解説されており、そもそもこうした領域の情報が役立つビジネスモデルは少数であるため、ここでは解説しません。

「MonotaRO」のようなECサイトを運営されている方は、こちらの書籍が非常に参考になるので一読をおすすめします。

いちばんやさしい新しいSEOの教本 人気講師が教える検索に強いサイトの作り方 「いちばんやさしい教本」

最後に、そもそもオウンドメディアとはの話

オウンドメディアとはWikipediaによると「自社発行の広報誌やパンフレット、インターネットの自社ウェブサイト・ブログなど、企業や組織自らが所有し、消費者に向けて発信する媒体を指す」と書かれています。

この定義だとコーポレートサイトも該当しますが、本記事でのオウンドメディアとは「認知や具体的なビジネス成果(資料請求などのリード)を得るための企業発信のウェブ媒体」を想定しています。

そのため、メディア単体で事業を行っているウェブサイト(ボクシルやMonotaRO、MERY、etc)は対象外です。

再度、個人向け会計ソフト「freee」を例に解説します。

・経営ハッカー(https://keiei.freee.co.jp/
→目的:認知獲得
・基礎知識(https://www.freee.co.jp/kb/
→ビジネス成果獲得

同社では2つのメディアを運営していますが、ほとんどの企業にとって「経営ハッカー」のようなコンテンツリッチなオウンドメディアを運営する必要はありません。

それでも「オウンドメディアを運営したい!」という企業は以下のポイントを抑えた上で運営することで、その成功確率を上げることができるでしょう。

☑競合がいない
☑社内に向いてる人間がいる
– インターネット好き
– その人間の書くものが面白い(役に立つ)
☑目的がリードorアカウント獲得ではなく認知獲得

競合がいないことは言わずもがなですよね。

特に不動産や人材などのジャンルはすでに多くの会社も実施しているため、差別化が非常に困難です。メディアを見た方に対して新しい印象を与えられません。

また、オウンドメディアのプロジェクトは誰が旗を振るかで成果が大きく変わってきます。

社内で良い意味でインターネットに年中入り浸っている人がいて、その人の書くものが面白いのは、オウンドメディアを成功させるための最低条件だと思います。

スマートニュースがスマQというオウンドメディアを2019年にスタートさせましたが、もともとlivedoorディレクターブログというメディアを立ち上げた方が発起人になっています。

この方自身も、livedoorディレクターブログ時代に記事を書いており、バズっている記事を書いています。

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※はてなブックマークが2,000以上集まっている

オウンドメディア運営はインターネット上でどのようなコンテンツを出せばどれくらいの関心が集まるか、なんとなくわかるといった感覚が必要です。しかし、この感覚を教えることは困難なので、そういった能力のある方が社内にいるか、確認したほうが良いです。

まとめ

今回伝えたかったことは、大きく以下の2点です。

①SEOの方針はビジネスモデル別の「ウェブサイトの目的」によって、とるべき戦略が変わる
②SEOのために必ずしもオウンドメディアは必要ない

今後のオウンドメディア運営で、ぜひ今回紹介した事例を参考にしてください。

 

著者紹介

黒須 敏行(くろす としゆき)
黒須 敏行(くろす としゆき) 株式会社才流 コンサルタント

1983年生まれ、早稲田大学商学部卒業。2006年にIT系会社に入社しコンサルタントとしてマーケティング改善案件に携わる。ラクスル、ベネッセなどの顧客を担当し、SEO経由のMAUを月間200万純増、クライアントの新規年間粗利2億創出などの成果を出す。Web Designingの連載や様々な企業のビジネスモデルやマーケティングを分析した「ちびクロの細かすぎて伝わらないノート」を通して情報を発信中。twitterアカウントはこちら@kurosutoshiyuki

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