Google I/O:デザインでもAppleに対抗へ―ユニバーサル・デザイン言語、Material Design発表

Googleは昨日(米国時間6/26)のGoogle I/Oカンファレンスで、Material Designという新しいユニバーサル・デザイン言語を発表した。これは次世代のAndroid OS、“L”シリーズの重要な部分となる。Googleによれば、このデザインは「モバイル、タブレット、デスクトップ、そしてそれ以上」のデバイスに統一的なルックアンドフィールを与えるという。

「われわれは、ピクセルが色だけでなく奥行きも持っていたらどうなるか想像してみた。また状況に応じてテクスチャーを変えられるような素材があったらどうだろうと考えてみた。これがMaterial Designを開発するきっかけになった」とAndroid OSのユーザー体験の責任者、Matias Durateは語った。

新デザインにはシステムフォント、Robotoのアップデート版、大胆なカラースキーム、滑らかなアニメーションなども含まれている。

DurateはI/Oキーノートで概要を説明したが、詳細はgoogle.com/designで公開されている。Googleのプラットフォームで開発を行うデベロッパーはすべてこのフレームワークを利用することを求められる。これによってアプリは作動するデバイスを問わずすべて統一感のあるルックアンドフィールを持つことになる。この役割はAppleがMacとiOSのデベロッパーに課しているガイドラインに似ている。

Google自身が率先してこの新デザインを用い、モバイルとデスクトップの双方でGmailやカレンダーなどフラグシップ・アプリのアップデートに取り組んでいる。先月、Gmaiの開発中の新デザインが一部のブログでリークされたことを覚えている読者もいるだろう。シンプルでクリアなあのデザインがMaterial Designを用いたものだった。

オープンソースのフレームワーク、Polymer去年のGoogle I/Oで登場したが、今回もデベロッパーがMaterial Designと共に利用すべきツールとして紹介された。Polymerは 対話性に優れたウェブサイトを素早く構築できるプロトタイピング・ツールで、カスタマイズ可能なさまざまなエレメントがライブラリーとして用意されている。GoogleがQuantum Paperというコードネームで準備している包括的なデザインのアップデートについてはわれわれもこの記事で詳しく紹介している。

Google Designのウェブサイトによれば、Material Designの目的は以下のようなものだ。

  • 古典的なビジュアルなグッドデザインとテクノロジーのイノベーションを統合する
  • プラットフォームの種類、デバイスのサイズにかかわらず統一的なUIシステムを構築する。モバイル対応はもっとも重要な要素だが、タッチ、音声、マウス、キーボードなども主要入力手段して包含される。

Googleは新デザイン「紙とインクのデザインの優れた前例を参考としながら最新のテクノロジーを応用し、想像力を働かせて魔法に近づける」ものだとしている。

Material Designの各要素は「印刷ベースのタイポグラフィーの伝統に従い、慎重に計算されたカラースキーム、画面をいっぱいの裁ち落としの画像、多様なフォント、意図的に残された空白などを用い、ユーザーに強い印象を与える没入的な視覚インターフェイスを構築する」のだという。

もう一つの重要な要素はアニメーションだが、Googleはその利用にあたっては、「アニメーションは適切な場面ではっきりした意味を持つように用いられ、ユーザーの注意を引きつけ、ストーリーの連続性を確保するために役立てられる」べきだとしている。

Appleは以前からデベロッパーに対して厳格なデザインガイドラインを課し、消費者にAppleは優れたデザインを提供するというイメージを強く植え付けるのに成功している。今後GoogleはAppleとデザインの品質でも競争していこうとするのだろう。

Appleは逆にクラウドなどGoogleの優勢な分野の強化を図っている。情報源によればGoogleは自分たちのインフラ面での優勢よりAppleのデザイン面での優勢の方が大きいのではないかと考えてこうしたAppleの動きに神経を尖らせているという。Material DesignでGoogleがデザインの抜本的改良に乗り出した背景にはこういう事情もありそうだ。

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


Google I/O:ビジネス向けクラウド・ストレージ、Drive For Workは月額10ドルで容量無制限

今朝(米国時間6/25)開会したI/Oデベロッパー・カンファンレンスで、Googleはドライブをメジャー・アップデートしたのに加えて、Drive for Workを発表した。これはビジネス向けのクラウドストレージと生産性ツールのスイートで、セキュリティも大幅に強化されている。また特筆すべき特長は、保存容量が無制限であることだ。

しかしGoogleの動向を注意深く追っていたものにとってはショックではない。Googleは今年に入ってドライブの料金を大幅に引き下げた。この際、ドライブのプロダクト・マネジメントの責任者、Scott Johnstonは私の取材に答えて「企業のIT部門は今後ストレージ容量の心配をする必要がなくなる」と語った。

ユーザー1人当たり月額10ドルというDrive for Workの登場で、IT部門はストレージ容量だけでなく料金の心配もする必要がなくなったといえるだろう。またアップロード可能なファイルサイズの最大限を5TBに引き上げたことでもGoogleが「容量無制限」に真剣に取り組んでいることが分かる。正気の人間なら5TBのファイルをGoogleドライブにアップロードしようとは(当面)考えないだろうが、やろうと思えば出来るというのは心強い。

ユーザー1人月額5ドルの既存のGoogle Apps for Businessアカウントも存続される。

容量無制限というのがやはりいちばん人目を引くが、Drive for Workにはそれ以外にもビジネス・ユースに不可欠な多くの機能が用意されている。たとえばGoogle Apps Vaultは法の定めや会計業務のため、改ざんがないことを証明できるかたちでメールその他のデータを保管する機能だ。

またDrive for Workの管理者にはどのユーザーがいつ、どのファイルにアクセスしたかを確認できる監査機能が提供される。またGoogle はAudit APIを公開したので、企業は独自の監査ダッシュボードを作成できる。

Googleによれば、Drive for Workは大企業に対し、SSAE 16/ISAE 3402 Type II、SOC 2-audit、ISO 27001、Safe Harbor Privacy Principlesなどのコンプライアンスと監査のレベルを提供できるという。まだ医療分野のHIPAAのような業種別のセキュリティー要求もサポートする。

アクセス・コントロールは企業ごとの必要に応じてきめ細かく設定できる。たとえば一部のユーザーをファイル同期の対象から除外するようなことも可能だ。

Johnstonは「Drive for Workは、大企業向けのVaultのような機能を含め、スモールビジネスから中小企業まであらゆる企業のニーズに応えられるサービスとなっている。企業が成長した場合に必要になるような機能もそろっているので安心だ」と強調した。

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Google I/O:ドライブがQuickoffice統合でネーティブOffice互換に、暗号化もサポート

今朝(米国時間6/25)開会したデベロッパー・カンファレンスGoogle I/OでGoogleはクラウド・サービスのGoogleドライブをアップデートし、大幅な改良を加えた。これにともない、Googleドキュメント、スプレッドシート、スライドなどの生産性ツールにも新機能が加えられた。

中でも重要なのはQuickofficeのドライブへの統合だ。

QuickofficeはGoogleが2年前に買収したテクノロジーで、モバイル向けOffice互換の生産性アプリだが、今回Googleドライブに統合された。これによりMicrosoftのWord、Excel、PowerPointのファイルをネーティブ・モードでGoogleドライブで開き、編集することができる。この機能はスンダル・ピチャイ上級副社長が1年以上前にあと3ヶ月くらいでリリースすると予告していたものだ。

QuickofficeはGoogleのネーティブ・クライアント・テクノロジーを用いてChromeブラウザ内で高速のレンダリングを行う。そのためQuickofficeは当面Chromeだけでしか作動しない。GoogleはAndroid版、iOS版のQuickofficeを開発中だが、リリースまでにはまだ少々待つ必要がある。

QuickoffficeのGoogleドライブへの統合に伴い、スタンドアローンのQuickofficeアプリは役割を終え、近く消えることになる。先週、私はGoogle ドライブのプロダクト・マネジメント・ディレクター、Scott Johnsonに取材し、QuickofficeをGoogle Driveに統合するのになぜこれほど長い時間がかかったかのか尋ねた。Johnsonは「まったくベースが異なるコードを統合してGoogleドライブのような規模で作動させるようにするのは難しい作業だ。またドライブは現在非常に多くのプラットフォームで動いている。すべてのプラットフォームとデバイスで正しく作動するよう確認する必要があった」と答えた。

新バージョンのGoogleドライブを開くとルックアンドフィールが大きく変わったことに気づく。Johnstonは「ウェブ・アプリをデスクトップ・アプリにできるかぎり近づけ、どちらでもユーザー体験が変わらないようにするのが目的だ」と述べた。

これ以外にもいろいろな変更があるが、たとえば“Shared with me”〔共有アイテム〕というフォルダーはシンプルに“incoming.”という名前になった。ドライブのツールバーもシンプルになると同時にアップロード・ダイアログを消し、アップロードをドラグ&ドロップに統一した。

もうひとつの便利な改良はドライブ内のファイルをデフォールトのアプリケーションで開けるようになったことだ。たとえばドライブに保存していたPhotoshopファイルを開くと自動的にPhotoshopが立ち上がる。小さな変更だが、これもウェブとデスクトップの差を意識しないですむという方向への一歩だ。

また「更新情報」タブがモバイルのドライブにも付け加えられた。リンクの共有もワンタップでできるようになった。Johnstonによればアップロードの速度も改良されたという。

セキュリティも大きく改善された。ユーザーはローカル、通信経路、Googleのサーバーのすべてでドキュメントを暗号化しておくことができる ようになった。

〔日本版〕6/26朝現在、日本にはまだGoogleドライブのアップデートはリリースされていない。

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ワールドカップの最新ゴールのアニメGIFをツイートする「ReplayLastGoal」

TechCrunchらしくない話題かも知れないが、ブラジルワールドカップを楽しんでいる人に便利なTwitterアカウントを紹介しよう。@ReplayLastGoalというのがそれで、ワールドカップでの最新ゴールシーンのビデオやアニメGIFをツイートしてくれるボットだ。これはなかなか便利ではなかろうか。得点経過などを知る方法はいくつもあるが、このボットをフォローしておけば、得点シーンを見ながら経過を知ることができるのだ。

@Storify(2013年に@Livefyreに買収された)の共同ファウンダーであるXavier Dammanによるオープンソースプロジェクトで、1週間ほど前に登場してフォロワーを増やしつつあるようだ。

「試合が仕事時間中に行わるので、テレビでも見ることができないのです。それでこのTwitter Botの開発を思い立ちました」とDammanは言っている。「ゴールが入ったときにスコアをツイートするボットはありましたが、そのシーンを見たいと思ったのです。それで仕事外の時間を使って作ってみたというわけです」。

ボットは試合のライブストリームを20秒間記録し続けている。そしてゴールが生まれれば記録した映像を単独のビデオ化して、そこからアニメGIF化してツイートするという仕組みだ。ちょうどTwitterにアニメGIFの投稿ができるようになったところで、まさにタイムリーなプロダクトだといえる。

商用のプロジェクトではないので、ソースコードもオープンになっている。たとえば野球などで同様のサービスを作る人も出てくるのではなかろうか。

ところで、FIFAはこうした動きに、もっと目を向けるべきだと思うのだがどうだろう。放映権というのはあまりに面倒な仕組みであるようにも思うのだ。

(Photo Credit: Eser Karadağ /Flickr CC)

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(翻訳:Maeda, H


I/O 2014開催近づく―Googleデベロッパー・カンファレンスのテーマはデザインとウェアラブル

今年もGoogleの大掛かりなデベロッパー・イベントの開催が近づいてきた。多くの読者がこの2日にわたるイベント〔日本時間6/26-6/27〕で何が発表されるのか興味をお持ちだろう。

今年のGoogleはアプリのデベロッパーだけでなく、デザイナーやマーケッターにもGoogleの戦略に関する詳細な情報を伝えようと力を入れているようだ。しかし一般エンド・ユーザーに直接関連する発表も数多く用意されているらしい。

Android Wear

事情に通じた情報源によれば、今年のI/Oの重要なテーマの一つはGoogleが今年3月に発表したAndroid Wearだという。このプラットフォームはスマートウォッチなどウェラブル・デバイスのためのAndroid OSの拡張機能だ。

メーカー数社がAndroid Wearを利用したスマートウォッチをデビューさせようとしている。なかでもMotorolaとLGはこの夏にMoto360 とLG G Watchをそれぞれローンチさせると発表している。暦の上ではすでに夏だから、I/Oでこれらのプロダクトが正式にお披露目されるのはまず間違いない。同時にAndroidWearの詳細についても多くのことを知ることになりそうだ。

Android車載システム

Appleは今年に入ってiOSの車載システム、CarPlayの普及に大いに力を入れている。当然、Googleも独自の車載モバイル・システムでAppleにに対抗してくるはずだ。1月に概要が発表され、GM、Audi、Hyundaiと提携しているものの、Android車載システムについてはまだ具体的な情報がほとんどない。しかし今年中にいくつかの新車種に搭載されるという。

GoogleはこのAndroid車載システムについて近く大規模なプレスイベントを計画しているらしい。

Android TV、ホームAndroid

今年、GoogleはIoT〔モノのインターネット〕などを通じてAndroidを通常のモバイル・デバイス以外の分野に拡張することに全力を挙げている。Goolge TVなどがその一例だが、Android TVプロジェクトも進行中といわれる。これもI/Oで発表されるかもしれない。

Android TVはGoogle TVとは異なりアプリ自身の機能よりもコンテンツに主題があると言われている。ただし具体的な内容はまったく分かっていない。Googleは最近子会社のNestを通じてDropcamを買収した。Nestは急速にホーム・オートメーションのハブに成長しつつある。Nest関連の発表もあるだろう。同時にGoogleのプラットフォームを利用したサードパーティーのプロダクトの紹介もあるかもしれない。

Android 5.0

Androidの新バージョンが今回のカンファレンスで発表される可能性は低いかもしれないが、それがどんなものになりそうかヒントがつかめるかもしれない。最近報じられたQuantum PaperはAndroidアプリに新しい統一的UIを導入しようとする野心的なプロジェクトで、Polymerは再利用可能なそのインターフェイス要素だという。

Quantum PaperとPolymerはAndroidアプリばかりでなく、iOSやGoogle独自のハードウェアも含めたさまざまなデバイスのインターフェイスの新しいデザイン・ガイドラインとなるようだ。今年、Googleはデザインの改良と統一化に全力を挙げるものとみられる。

デベロッパーの再定義

当然ながらソフトウェアのデベロッパーを中心とするものの、Googleは今年のI/Oではターゲットしてデザイナーやマーケッターにも重点が置かれるようだ。つまりアプリを開発して流通させるプロセスに関わる人々全てを対象とするということらしい。

われわれは現地取材を行い、ライブ・ブログも含めて報告する予定だ。

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【告知】アキバでやるEngadgetの週末イベントに、Pepperやドローンがやって来る

TechCrunch Japan読者ならEngadgetをご覧の方も多いと思う。本国アメリカでは、この2つのメディアは特に仲が良いということはないが、日本ではAOL Japan傘下ということで東京・秋葉原のオフィスに両編集部が入っていることから、実は机を並べて記事を書いていたりする。新しいデバイスが発表されると、ぼくはいつも背後に座っているEngadgetシニアエディターであるIttousaiをつかまえて、ひとしきりギークトークをやるのが好きだったりする。

TechCrunch西村:あー、Lytroの新しいやつ! 期待してた技術なのに残念。こんな製品、売れっこないっすよねー
Engadget Ittousai:なに言ってるんですかっ! わたしは買いますよ、モチロン
西村:使い道ナシ! ニッチもニッチ! ドニッチ!
Ittousai:何を言ってるんですか! △?※+%!!!
西村:それより、もう遅いし中華でも食いに行きましょうよ
Ittousai:ファッ!? △?※+%!!!
西村:この間の鶏肉レタス、うまかったっすねー
Ittousai:△?※+%!!!

さて、その、いわば姉妹誌のEngadget Japaneseがこの週末に秋葉原でガジェット系イベント「Engadget Fes 2014」を行うので、TechCrunch読者にも是非ご紹介したい。

Engadget Fes 2014は6月28日土曜日のお昼12時から、東京・秋葉原(中央通りの端っこ、最寄りは末広町駅)にある「アーツ千代田3331」で開催される。参加費は5000円、小学生以下は無料なのでご家族連れでも是非どうぞ(チケット購入はこちら)。先日発表されたばかりのソフトバンクのロボ君「Pepper」が何人か来るらしいし、第1回全日本クアッドコプター選手権なるものが開催されるとかで、TechCrunch読者的にも遊びに来るといろいろ発見があるものと思う(クワッドコプターって、ドローンのことです。念のため)。Ittousaiを含むEngadgetスタッフも参加しているので、お立ち寄りのさいは是非スタッフにも声をかけてみて頂ければと思う。TechCrunchのぼくも参加予定だ。

ぼくが気になっている見どころとしては、ほかにも、

技適マークの疑問、アナタに代わって総務省に聞きます
トークセッション:JINSのメガネ型ウェアラブル『JINS MEME』実演決定
Surface Pro 3を展示決定
明和電機ライブについて

なんかがある。当日の詳しい情報は、会場図&タイムテーブルから確認できる。それぞれの出し物の詳しい説明は、Engadget Fesの関連記事一覧からたどることができる。まだチケットは若干の残りがあるようなので、土曜日のお出かけ先を決めていない人は検討してみてはいかがだろうか


Amazon、 独自スマートフォンFireを発表―3Dヘッドトラッキング機能を備えて199ドルから

今朝(米国時間6/18)、Amazonの最初のスマートフォン、Fireが登場した。ジェフ・ベゾスはプレスイベントで「これはAmazonプライムの会員向けのスマートフォンだ」と述べた。

FireはAT&Tの独占販売で2年間の契約で199ドルから。今日から予約を受け付ける。またFireには無料で1年間のAmazonプライム会員となれる特典が付く。現在、プライム会費は年間99ドルなのでこれは相当に魅力的な価格だ。

一見したところではFireは現在市場に出まわっている無数のスマートフォンと変わりはないように見える。しかし、Fireにはユーザーの顔の位置を認識する秘密の機能がある。Fireの表側の四隅にはそれぞれ赤外線カメラが埋め込まれており、ユーザーの顔位置に応じて前代未聞の3D効果を生み出す。ただし3Dといっても画像が飛び出して見えるという普通の意味の立体視ではない。

ヘッドトラッキング・テクノロジーによってユーザーの顔とFireとの相対的位置関係に応じた画面が表示される。つまりFireのスクリーンという窓を通して現実の空間を眺めているようなイリュージョンが生じる。この3D効果がAmazon Fireに注意を引くための単なるギミックで終わるのか、スマートフォンの次世代UIになるのかは今後を見なければならない。

Fireは4.7インチのIPS液晶ディスプレイ、手ブレ防止、f2.0レンズ付き13メガピクセルのリアカメラ、クアドコア2.2GHzチップ、Adreno330グラフィックス、2GBのRAMを備える。最新のAndroidフラグシップモデルほどのスペックではないが、快適に利用するには十分な能力がありそうだ。

Amazonはヘッドトラッキング3DシステムをDynamic Perspectiveと呼んでいる。毎秒60フレームのスピードで3D画像が再描画される。3D表示されるレイヤーは他のレイヤーの下に表示される。ユーザーはアイコンの下に3D画像を見る。4台のカメラは極めて広角のレンズを備えている。赤外線カメラなので非常に暗い場所でも空間認識は機能する。

Dynamic Perspectiveは単に3D表示ができるだけでなく、Fireを傾けるジェスチャーによって自動的に表示をスクロールさせることもできる。

以前にわれわれが報じたとおり、Amazonはデベロッパーに対してDynamic Perspective向けのSDKを用意している。われわれが取材したAmazon社員によると、Amazonはデベロッパーがこのテクノロジーを利用してアプリを作るようになることを熱望しているという。

AmazonがFireをプライム会員のために作ったというのは文字通りの意味だ。Fire TVと同様、Fireスマートフォンもプライム会員になった際に登録したユーザー情報が予め入力された状態でユーザーに対して発送される。結局のところFireの狙いはAmazonの上得意により多くの商品を買ってもらうことだ。Kindle Fireと同様、ユーザー個人向にカスタマイズされたサポート・サービス、MaydayがFireスマートフォンにも用意される。

さらにFireにはFireflyというオリジナル機能がある。これはカメラで電話番号、映画、本、ゲーム、CD、食品などを撮影すると、その商品が何であるか認識するシステムだ。Fireスマートフォンのユーザーは現実世界で目にしたものをカメラで撮影するだけで即座にAmazonから買うことができる。AmazonにとってFireflyは非常に強力なマーケティング・ツールとなりそうだ。

Fireスマートフォンは側面のボリューム・コントロールの下にFirefly専用のボタンを備えている。

Fireflyは芸術作品を見るとWikipediaで情報を検索してくれる。音楽を聞くと音楽アプリを起動してその音楽を再生する。テレビ番組を見ると、Amazonでそのシーンを探し出す。ベゾスは「Fireflyは1億種類のアイテムを認識できる」と豪語した。Fireflyのデベロッパー向けSDKも公開される予定だ。

またFireのユーザーはAmazonのクラウド・ドライブに容量無制限で写真をバックアップできる。 高性能なカメラとあいまって、Amazonは写真好きなユーザーの取り込みを狙っているようだ。

またFireにはPandora、Spotify、iHeartRadioその他人気のある音楽ストリーミング・アプリがプレロードされている。ユーザーはAmazon Prime Musicの現在のところ貧弱なライブラリーに我慢する必要はないわけだ。

TechCrunchではAmazonoの独自スマートフォンについて9ヶ月前から多くの情報を得てきた。ヘッドトラッキング機能ユーザー向け独自機能についてもスクープしている。われわれは3Dヘッドトラッキング機能がOmronのOkao Vison顔認識テクノロジーを利用していることも突き止めた。またAT&Tがキャリヤとして独占販売権を手に入れたことも報じている。今回のAmazonの発表の内容の大部分はTechCrunchがすでにつかんでいたといえる。

〔日本版:「信頼を生む方法: 1. 困難なことをきちんとやり遂げる。2. それを繰り返す。」というお気に入りのモットーを説くベゾス。イベントのライブ・ブログに写真多数。〕

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Appleマップの迷走続く―WWDCでマップのアップデートがなかった理由は?

Appleは先週のWWDCでプロダクト全般にわたって大規模なアップデートを行った。4000以上の新しいAPI新プログラミング言語、意欲的な新クラウドサービスを始めとして、エンドユーザー向けからデベロッパー向けに至るまで多数の改良が発表された。

しかしその中でほとんど手がつかなかった部門がある。マップだ。

ほとんど、というのは中国で提供されているマップの改良というニュースはあったからだ。われわれの情報源によると「今回のiOS8に間に合わなかった改良がいくつかある」という。Appleはマップについて、もっと抜本的なアップデートを準備していたのだという。

鳴り物入りでGoogleマップと決別して以来2年になるが、Appleは依然としてマップで苦闘を続けている。

Appleは将来の計画を前もって発表しないのが伝統だが、WWDCの前に9to5Macはマップのアップデートについてかなり詳細な情報を掲載していた。

それによると、地図データの信頼性の向上、ユーザーにとって興味ある地点情報の追加、高速道路や空港などの地図ラベルの改善、インターフェイスの簡素化、ユーザーの現在位置付近のバス、地下鉄、鉄道の乗換案内等々が発表されるはずだった。

ある情報源は間に合わなかった理由は人事問題だとした。「デベロッパーが多数Appleを辞めたことがマップの改良がiOS 8のリリースに間に合わなかった理由だ」という。別の情報源は、「この遅延は人事問題よりもむしろプロジェクト管理、エンジニアリング管理の失敗のせいだ。タスクの割り振りがまずくて、デベロッパーはプロジェクトからプロジェクトへと右往左往させられた」とする。

マップはAppleにとっていわくつきの分野だ。2012年のWWDCでAppleは強大な(かつ極めて信頼性の高い)Googleマップを切り捨てて、独自に開発したマップを公開した。

ところがこれはAppleとしては極めて珍しい大失敗に終わった。データの信頼性は低く、奇怪なレンダリングがあちこちで発見されてユーザーを面食らわせた。CEOのTim Cookdは公式に謝罪し、改善を約束する破目に陥った。

事実、Appleはこの2年間、地図とナビゲーション関連のテクノロジーと人材を確保すべく大いに努力してきた。2013年にAppleが買収したと判明している13社のうち5社は地図関連だった。BroadMapEmbarkHopStop(この2社は乗換案内)に加えて、先週には位置情報のソーシャル検索エンジンのSpotsetterも買収している。

しかしこの間、ライバルも立ち止まっていたわけではない。Googleはすばらしい出来栄えのiOS向けGoogleマップ・アプリをリリースしたし、MapBoxはデベロッパーが地図データを活用することを助けるツールを多数発表した。またNokiaは携帯電話ビジネスをMicrosoftに売却した後、残された地図とナビゲーション・サービスに全力を注いでいる。

しかし多少の遅れはあるにせよAppleもいつまでも出遅れてはいないだろう。

Appleとしてもそうせざるを得ない。モバイル化の進展と共にマップの重要性はかつてないほど高まっている。今や検索の重要な柱となった位置情報を処理するプラットフォームはマップだ。WWDCでAppleは位置情報を利用するアプリが68万種類もAppStoreに登録されていると発表した。これらのアプリにはソーシャル、ゲーム、フィットネス、ヘルス、トラベルなどさまざまなジャンルに加えて、当然のことだが、ナビゲーションが含まれている。

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Amazon、6月19日〔日本時間〕にイベント開催―3D視線トラッキングのスマートフォンの発表か

昨年10月、われわれはAmazonがひとひねりした新スマートフォンを開発中だというニュースをお伝えした。複数のカメラを利用してユーザーの目を追跡し、傾きを検出して適切な表示を行う3Dユーザーインターフェイスが搭載されるということだった。

先ほど、Amazonは6月18日〔日本時間6月19日〕に製品ローンチのプレスイベントを開催するとツイートした。いろいろ総合して考えると、今回のイベントは問題のスマートフォンの発表会のようだ。

Amazon’s tweet:

〔ツイート〕 6月18日にシアトルでファウンダー、ジェフ・ベゾスが登場するローンチ・イベントを開催します。参加希望者はこのリンクへ。

ツイート本文には発表の内容が明かされていないが、YouTubeに行って添付のビデオの説明を読むと、まず「われわれの新しいデバイスの発表に興味があれば」云々と書いてある。

おまけにビデオには人々が何かを手に持って頭をあちこちにかしげて「おや、私の動きについてくる!」などといって驚いている様子が写っている。というわけで3Dトラッキング・スマートフォンの発表と考えて間違いないだろう。

ツイートのリンクをクリックしてイベントへの応募ページを開くと、デベロッパーの場合、「ジャイロ、加速度計、コンパスその他のセンサーを使ってイノベーティブな開発をした経験があるか、新しいタイプのセンサーを使った開発に興味があるか」などを尋ねられる。

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Apple、iOS 8をデベロッパー向けに即時公開―一般ユーザー向けリリースはこの秋

今日(米国時間6/2)の午前中のWWDCイベントで、Appleが発表した次期のモバイルOS、iOS 8が一般ユーザー向けにリリースされるのはこの秋となる。

一方デベロッパーは今日からさっそくダウンロードが可能だ。また新しいデスクトップ版OS、OS X Yosemiteも公開された。Appleが一般公開に先立ってOSのベータ版を公開するのはこれが初めてだ。

iOS 8に盛り込まれた数多くの新機能についてはこちらを参照。またiOS 8にアップデート可能なデバイスは下の写真のとおり。

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iOS 8発表―通知、写真、クラウド同期、キーボード、ヘルス・アプリなど重要な新機能が多数

昨年、AppleはiOS史上最大のアップデートを実施した。今年、進化はさらに新たな段階を迎えた。ジョニー・アイブのチームはユーザーからのフィードバックに耳を傾け、機能を深めていく時間が十分にあったはずだ。ついにiOS 8が登場した。

WWDCでの発表は続いており、われわれは現在も取材中だ。この後もWWDC関連記事をアップするのでお読みいただきたい。

AppleはまずiOS 8の概要を説明した。以下、その要点を報告する。

通知センター: 大きな変更があった。通知が対話的になり、下にスワイプするとメッセージにすぐに返事ができるようになった。この機能はロックスクリーンでも有効だ。OS X Mavericksの対話的通知によく似ている。

ダブルタップで「お気に入り」の相手を表示できる。日頃よく連絡を取り合っている相手がすぐに探せる。

iPadのSafariの場合、右上隅のタブ・ボタンをクリックするとタブ表示に切り替わる。 これは今回同時に発表されたOS X Yosemite搭載版と同じだ。

メールを書いているときに、下スワイプする受信トレイにジャンプできる機能が加わった。メールを書きながら関連のメールをチェックできる。終わったら画面下をタップすると編集中のメールに戻れる。

クイック・タイプ:iOS 8では新しいキーボードが搭載された。このキーボードでは初めてキーワード候補が表示されるようになった。これはコンテキスト感知タイプで、ユーザーが以前に入力した単語を自動的に候補として表示する。

しかもこのキーボードは会話の相手が誰であるかをコンテキストとして考慮に入れる。これによって入力される単語の候補を予測する精度がアップしているという(チャットの相手が上司か恋人かで会話の内容も大きく変わる)。

連続性(Continuity): これはiOS 8からOS X YosemiteまでAppleの全ソフトウェア・エコシステムの新たな核ともなるべき機能だ。iPHone、iPad、Macは常にお互いの存在を意識するようになる。ユーザーはどんな作業をしている場合でも、一つのデバイスから別のデバイスにごく簡単に移動できる。

たとえばMacでメールを書いているとしよう。iPhoneの左下隅に小さなアイコンが現れる。ユーザーが上スワイプすると、さきほどまでコンピュータで書いていたメールの下書きが表示され、編集を継続できる。逆にiPhoneからMacにも同様に移動できる。

iMessage: iPhoneで一番よく使われるアプリの一つだろう。これにも改良が加えられた。

グループ・メッセージの場合、Facebookメッセージのようにスレッドに名前を付けられるようになった。またスレッドに新たな相手を追加したり、既存の相手を削除したり、また個別に相手を指定して一時的にメッセージを受け取らないようにすることもできるようになった。

また音声メッセージ機能が追加された。入力窓の右側にある小さなビーコンを左にスワイプすればよい。また通知センターに表示されたメッセージに音声で返信したい場合はiPhoneを耳に当てるだけでよい。

もうひとつ重要な点は、音声、ビデオのメッセージの場合、一定時間後に自動的に削除されるように設定できることだ。

ヘルス(Health): われわれはAppleがヘルス関連の発表をすることを予期していたが、アプリの名前がシンプルに「ヘルス」となるとは思わなかった。このアプリは、iOSを利用したヘルス・アプリをひとまとめに登録し、バックグラウンドで動作させるためのプラットフォームだ。ユーザーはヘルス関連のアプリの操作やデータの閲覧をすべてここから行える。

ヘルス・アプリにはHealthKitと呼ばれるSDKが用意されており、デベロッパーだけでなく、医療機関などもアプリを開発できる。

ファミリー共有:これもiOS 8の重要な新機能だ。ユーザーは家族が所有するすべてのデバイスを同期できる(ただし単一のクレジットカードに関連付けられている必要がある)。ファミリー共有を設定すると、コンテンツ、カレンダー、リマインダー、連絡相手などが全デバイスで自動的に同期するようになる。また家族所有のデバイスの位置を追跡できる。これはよく忘れ物をする子供を持つ親にはありがたい機能だ。

しかしファミリー共有機能でいちばん重要なのは子供がお金を使うのをチェックできることだ。子供の買い物のせいでとんでもない額の料金支払に青くなる心配はもうない。子供がiTunesとAppStoreでなにかを買おうとすると、両親のデバイスに承認を求める通知が行く。

写真:

これまでAppleの写真ギャラリーには最大1000枚までした保存できず、それ以上の写真を保管したければ、Macに移動するしかなかった。今回AppleはiTunesがユーザーの音楽と映画を保管するように、ユーザーの写真とビデオをクラウドに保管し、どのデバイスからでもアクセスできる機能を提供した。

また写真にアクセスできるだけでなく、ビデオと写真に対して驚くほど高度な編集ができるようになった。もちろん編集結果もすべてのデバイスで同期する。

また写真アプリの検索機能を大幅に強化した。また最近撮った写真、最近見た写真が候補として優先的に表示されるようになった。

また写真アプリの全体的なデザインもかなり変化した。写真の余白スペースが広くなったところなども含めてYosemiteに似た印象だ。.

Siri: こちらも大きなバージョンアップがあった。「ヘイ、Siri」と呼びかけるだけで、デバイスに触れることなく起動できる。私はSiriが登場したときからこの機能がサポートされるのを切望していた。またSiriはShazamと連携するようになり、iTunesで買い物をしたり22カ国語でディクテーションができるようになった。

デベロッパー:

今年はデベロッパー向けの新機能も数多く提供された。TouchIDによる認証はすでにサードパーティーのデベロッパーに公開されているが、今回はキーボード・アプリをAppStoreに登録できるようになった。これでSwypeもiOSデバイスについに登場するかもしれない。カメラのAPIも公開されたのでサードパーティー・アプリによってカメラをマニュアルで細かくコントロールできるようになりそうだ。

今回公開されたHomeKitも大変興味深い。HomeKitはApple版のホームオートメーションのプラットフォームだ。デベロッパーはHomekitを利用してモノのインターネット(IoT)をコントロールし、iOSベースのさまざまなホームオートメーション・アプリを開発できる。 Siriと組み合わせると、たとえば「もう寝る!」とiPhoneに呼びかけるだけでエアコンの温度設定を下げ、家中の電気を消すなど、さまざまな就寝準備が一度に命令できるようなるかもしれない。

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「Hosting Meetup @ Google」を開催しました!

Google は 5 月 15 日、ホスティング サービスの運営者のみなさまを対象にしたイベント「Hosting Meetup @ Google」を開催しました。今回は、そのイベントの様子をご紹介します。


ブログなどのホスティング サービスは、低コストで簡単に利用できることから広く利用されています。一方で、その利便性を悪用し、Google のウェブマスター向けガイドラインに違反するようなスパム目的に利用されるケースがあることもわかっています。

今回のイベントは、こうした背景から、Google 検索と相性のよいホスティング サービスの運営について考えることを目的として実施しました。

当日は、ウェブマスター ツールや構造化データ、複数デバイス対応などに関して、Google 検索と相性の良いホスティング サービス運営のためのヒントのご紹介と、ホスティング サービス上でよく見られるウェブマスター向けガイドライン違反(ウェブ スパム)について、その傾向や対処方法などをお話しました。



ホスティング サービスからウェブ スパムがなくなり、かつ、Google 検索と相性の良いサイト構築を心がけていただくことで、Google がホスティング上のサイトを見つけやすくなり、より多くの検索ユーザーがそうしたサイトを訪問する可能性が高まります。

そのための具体的なアクションとしては、

ウェブ スパムの削減について関連ヘルプ記事
  • スパム ポリシーの制定・見直し
  • スパムへの対処(サイトの自動生成の禁止。Captcha の導入、違反箇所の修正方法、スパム サイトへの対処方法など)
  • ユーザーへの啓蒙
  • ウェブマスター ツールをユーザーが利用できるようにする
Google と相性の良いサイトの構築のヒント
  • ウェブマスター ツールの活用
  • 構造化データの導入
  • 適切な複数デバイス対応
こういった内容をぜひサービスの運営に取り入れていただき、Google 検索と相性のよいサービスの運営を行っていただければと思います。

ホスティング サービスの運営者の方々からも Google のウェブマスター向けガイドラインについてのご質問や、スパムへの対処方法のベスト プラクティスについてのご質問など、数多くのご質問をいただき、非常に有意義な意見交換をすることができました。

ご参加いただきましたみなさま、ありがとうございました!


また、今回イベントに参加できなかったホスティング サービスのみなさまのために、同一の内容をテーマとしたウェブマスター ハングアウトを実施いたしますので、ぜひご参加ください。

イベント詳細
2014 年 6 月 10 日 12 時 ~ 12 時 30 分

あわせてホスティング サービスの運営者のみなさまを対象とした情報をまとめたサイトを設けました。今回のイベントでお話した内容や、関連する情報についてまとめて掲載しておりますのでぜひご覧ください。

今後も、ウェブマスター ハングアウトやGoogle+ Webmaster Japan コミュニティなどを通してウェブマスターのみなさまの疑問にお答えしたり、交流を図っていきたいと思いますので、ぜひご参加ください!

Google サーチ クオリティ チーム

Apple、WWDC 2014カンファレンスのキーノートをライブ中継―日本時間6月3日午前2時から

今日(米国時間5/27)、Appleは今年のWWDC(Worldwide Developers Conference)のキーノートを太平洋時間で6月2日午前10時〔日本時間で6月3日午前2時〕からライブでストリーミング配信すると発表した。Appleは特別イベントのライブ中継をいつでも行うわけではない。また中継を行う場合でもこれほど早くからそのことを告知するのは今回が初めてだ。その意味でも興味深い展開だ。

Appleは今回のカンファレンスの目玉が何になるのかは発表していない。しかし「エキサイティングな発表がある」と予告している。TechCrunchもこのカンファレンスには出席する予定だ。おそらく、iOS 8、OS X 10.9.3、それにいくつかの新しいハードウェアが発表されると思われる。噂では健康モニタとホームオートメーションの分野での発表があるという。いずれにせよ、重要なニュースが満載のカンファレンスになることは間違いないだろう。

Appleは今回のカンファレンスないしキーノートがデベロッパーを対象としているとは述べなかった(実際、カンファレンスの名称としてもWWDCという頭文字のみを用いている)。 つまり、消費者、一般ユーザー対象のニュースも期待できるということだ。なおストリーミングの再生にはOS Xの場合はSafari 4以降、iOSの場合4.2以降、Windowsの場合はQuickTime 7が必要とされる。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


Kickstarterのようにプロジェクト調達が楽? 「3年前までそう思ってました」Cerevo岩佐氏

すでに別に記事にしているとおり、札幌で開催中のInfinity Ventures Summit 2014 Sprintのパネルディスカッションで、ハードウェアスタートアップの現場にいる4人のパネラーが、日本でハードウェアスタートアップをやる理由について議論した。

このパネルの最中、聴衆でありながら積極的に議論をしていた家電スタートアップのCerevo代表の岩佐琢磨氏が、ハードウェアスタートアップのファイナンスについて「プロジェクト単位か、会社単位か?」という点について興味深い持論を展開していた。

Cerevoは経営体制の変更と社員を約4倍にするということを昨日発表したばかりだが、takram desigin engineering代表の田川欣哉氏が「プロジェクト単位のファイナンスのほうが楽ですよね?」と水を向けると、岩佐氏はこう切り返した。

「3年前まで、そう思っていました。最初のファイナンスはシードも入れて1.2ミリオン(約1.2億円) 。そのときはワンプロダクトで、これが売れなきゃ終わりっていう感じだった」

2008年頃、ハードウェアスタートアップはプロダクトに投資するということはあっても、会社としての投資を受けるということは日本では難しかったと振り返る。そうしたこともあって、当初はプロダクトで投資を受けるプロダクト・ファイナンスだったが、今では「コーポレートファイナンスでいいと思っている」という。

Cerevoは、単体でUtream生放送をする「Live Shell Pro」やタブレットでライブ配信の映像スイッチをする「LiveWedge」など、市場自体はニッチだが、グローバルで見れば十分な規模となるような「グローバル・ニッチ」でやっていける手応えをここ2年ほど感じてるという。

「昨日、韓国の映像系イベントに行っていたんですが、ぼくらのファンが会場でCerevo製品を売ってくれたりしているんですね。あれ? オレたち卸してないよって」

Cerevoの個別製品というようりも、そのブランドにファンが付いているという。かつて「ソニーだったらワクワクするものを作ってくれるはず」というイメージがあったように、再び30年でグルっと回って、コーポレート単位のブランドで戦うのが有利ではないかという論点だ。最近、Kickstarterがプロジェクト・ファイナンスの典型として多くの華々しい成功が出てきているように見えるが、岩佐氏によれば、実際にはKickstarterから出てくるスタートアップの多くがブランドやコーポレートとして離陸していくところで苦労しているのだそうだ。

この岩佐氏のコメントに対して、「ひとりメーカー」のBsize代表取締役社長の八木啓太氏は、「ほかの産業だと、音楽にしても、ファッションにしても、ブランドを応援して、好きになって、そのコミュニティーの住人になりたいっていうのが大きい。ユーザーにコミットできるかというのが大事だと思っている。ハードウェアも同じ。繰り返せるかが重要と思っている」と応じた。Bsizeはたった一人の家電ベンチャーとして、最初はデザイン性に優れたLED照明をリリースしたが、その後も、木材を使っていて部屋に溶け込むワイレス充電器「REST」を2つ目のプロダクトとして発売。現在は、ソニーやパナソニックの技術者も入り、3つ目のプロダクトを準備しているという。「これまで家電は大きな投資をして、それを回収するビジネス。今は小ロットでスモールスタートできるようになったことが大きい」。

今後、Cerevoは人員を4倍に拡大してウェアラブルデバイスも開発すると発表したばかりだが、現在主力の映像系プロシューマ向け製品だけでなく、多様な製品ジャンルについて「グローバル・ニッチ」の開拓を進めていくことになりそうだ。


ヤフーが大赤字でも「2時間配送」にこだわる理由


ネットショッピングで翌日配送や当日配送といった「短時間配送」は当たり前。もっと早く欲しいというニーズを満たすためにヤフーが5月8日に試験的に始めたのが、注文後2時間以内に商品を届けるYahoo!ショッピングの「すぐつく」だ(関連記事はこちら)。アメリカだけでなく日本でもにわかに注目が集まる「数時間配送」だが、なぜヤフーはこのジャンルに参入したのか。札幌で開催中のInfinity Ventures Summit2014 Sprint(IVS)でヤフー執行役員の小澤隆生氏がその狙いを語った。

すぐつくは、巨大な物流拠点から配送する従来型の物流ではなく、近隣にある実店舗から利用者に直接商品を届けることで「2時間配送」を実現する。実証実験では東京・豊洲のスーパーマーケットなど3店舗と提携している。この動きには、ブロガーのやまもといちろう氏が「戸別配送を手がけたチェーン店は死屍累々」などと指摘。この点について小澤氏は「はっきりイイましょう。大赤字です」と言い放った上で、すぐつくを始めた理由を次のように話した。

なぜやっているかというと、やっぱり商流の中に1枚入るのが重要なんですよ。どこの誰が何をいくらで買ったかがわかれば、広告配信に使える。地元のスーパーはチラシを打っているけれど、その間に僕らが入る。そうすると、チラシのビジネスが取れるかもしれない。プラットフォームになるには、いかに砂時計の真ん中を作り出して取るか。購入の直前、家までのラストワンマイルをいかに取るか。

これは喋りたくなかったなあ……と反省気味の小澤氏だったが、話は止まらずさらに続いた。

どんなに赤字でもこの情報が欲しい。どこの誰が何をいくらで買っているかがわかれば、ヤフーとしては広告配信に使えるデータになる。こうした情報は今までスーパーマーケットしか取れていなかったのですが、すぐつくはリアルの購入に完全に食い込んでいるんですよ。そういうことをやろうとしているのは、言うつもりがなかったんえすけどねえ。ECで考えると、ヤフーや楽天は販売店が自由に使えるプラットフォームになりがち。でも私としては、楽天と同じ戦いをしても難しいし、つまらないので、砂時計の真ん中をギュッと掴む。


日本にハードウェアスタートアップの芽はあるか? IVSで当事者たちが議論

テク業界にいるとIoTという言葉を聞かない日がないぐらい、ハードウェアのスタートアップに注目が集まっている。日本にもいくつも登場してきているが、果たして日本はハードウェアプロダクトで起業するのに向いているのだろうか? 輝かしかった電機系製造メーカー時代が不調をきたして長いが、次世代のハードウェア企業が出てくる土壌はあるのだろうか?

今日札幌で始まったInfinity Ventures Summit 2014 Sprintのパネルディスカッションの中盤、モデレーターを務めたITジャーナリスト林信行氏が発した問いかけに、ハードウェアスタートアップの現場にいる4人のパネラーが回答した。

まず最初にこの問いに答えたのは、優しい明かりと独特のミニマルなフォルムを持つLED照明「STORKE」で2011年に起業し、「ひとりメーカー」で知られるBsize代表取締役社長の八木啓太氏。

「日本にハードウェアスタートアップの芽はいっぱいあると思います。何年か前まで日本の製造業は世間を席巻していましたよね。その企業群の下には工場がいっぱいあった。町工場がいい技術を持っています。彼らはまだデジタル化されていなくて、ネットとも繋がっていないという問題があります。だけど、Bsizeは、町工場とコラボしながら高度な製品を提供できていると思う。日本は町工場が優れていて、ハードウェアスタートアップをアクセラレートすることができる」

「ネットと繋がっていない」と八木氏が指摘するのは、たとえば起業時の次のような経験のこと。元々八木氏は富士フィルムで医療機器の設計や開発を行っていた。レントゲンや、胎児の超音波エコー検査機などを担当していた。そんなとき、ある商社の担当者がLEDを紹介してくれた。手術灯にどうですか、と。このLEDモジュールを富士フィルムは不採用とした。八木氏は、自宅でプロトタイプを作ってみて、「これはいいな、量産すれば売れる。1年間、1000万円あればできる」と、会社を辞めて全財産をはたいて作り始めた。こういうLEDモジュールはネットで検索しても出てこない。その後、町工場の協力を得てプロトタイピングを進めたが、どこの町工場が良い加工技術を持っているかということについても、詳しいヒトに聞くしかないのが現状という。一方、Bsize創業時はハードウェアスタートアップ一般に吹く追い風を背景としている。「電子基板も電灯自体も設計は無料のCADソフトを使っている。いまはデータを送れば基盤にして送り返してくれるサービスもある。3Dプリンタもあり、完全に家内制手工業で最初は作った」。2014年現在はソニーやパナソニックの技術者を採用しているが、「ひとりメーカー」と呼ばれるように、今の時代は個人で家電スタートアップをすることもできるのだと改めて指摘した。

日本にハードウェアスタートアップの芽はあるか? 次にこの問いに答えたのは、ユカイ工学代表の青木俊介氏だ。ユカイ工学は、実は多くのスタートアップ企業のプロトタイピングを請け負うなど、関係者の間では裏方としても知られる。たとえば、テレパシー・ワンの最初のモックアップや、スマフォでロック・解除ができる南京錠の「loocks」(ルークス)などは、ユカイ工学が請け負ったそうだ。大企業とのコラボも多くこなすユカイ工学の青木氏は、実は創業時に本社を置く場所を日本を選んだ理由を次のように話す。

「今の会社を作る前には中国に住んでいました。中国で会社を作ることもできたんですが、そうしなかった。日本社会には凄くいい製品がたくさんある。住んでる人が、いい暮らしをしている。そういうところでこそ、いちばん良い物って生まれるはず。大量生産するだけなら、中国にいたほうが有利かもしれません。でもプロダクトって、みんながいいなって思うような、ライフスタイルと結び付いているので、(今の中国からは)良い物って生まれないと思う。米国西海岸って、まさにそうなんだと思うんですね。夏休み中サーフィンをしている人がいる場所だから、GoProが生まれてくる」

パネルディスカッションの聴衆側にいたハードウェアスタートアップのCerevo代表取締役の岩佐琢磨氏が、会場から同様の意見を投げ入れた。

「豊かな国で作るべきというのはぼくも言ってます。世界でいちばん巨大家電メーカーが多い国は、どこですか? 韓国にはサムスンがあるかもしれないけど、それだけ。家電業界に従事してる人の数がいちばん多いのはどこか? それは日本です。(製品は)人が作るもの。優秀な人がいる国が強いと思うんですよね。先ほどネットで検索しても出てこないって言ってましたけど、確かにそう。出てこない。結局、人の中にノウハウが眠っている。そういう人の数がいちばん多い国って日本ですよ。いまCerevoの売上は、すでに半分が海外だけど、本社を国外に動かす気はないですね」

ロボットの向けの汎用の制御ソフトウェアを開発するスタートアップ、V-Sido代表の吉崎航氏は、ちょっと違うアングルからの回答を持っていた。

「(新しい技術は)ちゃんと使ってる姿が想像できるのが重要だと思ってる。スマフォって使うのがイメージしづらい。最後までガラケー使ってた人たちってそういう人たちだったわけですよね。使ってみたら、何だ案外使えるじゃんと。じゃあ、ロボットがいる生活に馴染む、そういう生活が思い描けるのはっていうと日本人。世界で最もロボットアニメを見ている国民」

V-Sidoはマウスや身振りで人型を動かせるロボットのための「ロボット用のOS」。ロボットは物理的実装ごとに重心やアームの自由度が違うが、V-Sidoを間に入れると、種類の違いを超えて動作を直接的にロボットに伝えて操ることができる。「人間の動きを見ているので、人間が動かしているように見えるけど、実際は人間の動きに合わせてロボットが動いてあげている。大小のロボットが同じバイナリで動く」(吉崎氏)という。V-Sidoで動くロボットの動画が会場に流れると聴衆から歓声が湧いた。

吉崎氏は「ロボットの開発競争が始まった」という。愛知万博を始め、日本国内では過去に何度か(あるいは何度も?)ロボットブームがあって、そのたびにブームは去った。しかし「今回はホンモノ」という。GoogleがAndroidの次にやろうとしていることの1つがロボットで、一挙に7社の買収が話題になることもあったように、世界中が「そろそろ作ってみるか」という状況にあるからだ。その吉崎氏が目指すのは「用途を狭めない、全ての分野でロボットが活躍できる下地を作ること」。今だと、すでに工事現場のショベルカーのような重機をヒューマノイドロボットで操作するという検証を始めていたりするそうだ。人型だから応用範囲は広い。ひょっとすると自分の分野でも活躍するロボットがあるのではないかと想像できる国民が全国にいるのが日本、ということだろう。

ロボットの開発はまだ売れる段階にない。これはロボット開発の課題が人間を作るのに近いからで、ソフトウェアも力学もネットワークも人工知能もと多岐にわたる専門知識が必要になるが、そういうものを全て併せ持つ企業はまだ存在しないからだという。一方、V-SidoはPCにおける汎用OSのようなものを作ることで、誰もが全ての開発をする必要がない世界を作るという。

ハードウェアのプロトタイプやテクノロジーを使った空間演出などデザイン面から企業とのコラボやコンサルティングを多く手がけるtakram desigin engineering代表の田川欣哉氏も、創業時の会社設立の地として、明示的に東京を選択したという。

「どこで会社やるか悩んで、シリコンバレーじゃなく東京にした。それはハードウェアから離れたくなかったから。インテグレーションをやるのは東京がいいな、と。日本人の特性として、いろんな物事をすりあわせて作るって好きというのがありますよね。ハードウェアを作れる国に日帰りで行けるっていうことも含めて東京が良かった」

田川氏は、ネットやソフトウェアが必ずしも得意でない上の世代の製造業の人々ときちんとコミュニケーションする新しい世代が出てきてムードが変わってくると、アメリカとはニュアンスの違うものが出てくるのではないか、という。


Disrupt キーノート―Google Xの責任者、Astro Tellerがテクノロジーの理想のあり方を語る

Astro TellerがTechCrunch Disrupt NYでキーノート講演を行った。TellerはGoogleのムーンショット・プロジェクト〔月旅行のような遠大な計画〕を進めるGoogle Xの責任者だ。このチームは自動走行車、Project LoonGoogle Glassなどを開発している。しかしTellerがキーノートで語ったビジョンは意外なものだった。

Tellerによると、テクノロジーにおける真のイノベーションというのはわれわれの生活の中でまったくそれと気づかづに使えるようなものでなくてはならないという。Tellerはその例として自動車のブレーキのABSシステムを取り上げた。ドライバーがABS装着車のブレーキを踏むとき、実はブレーキそのものを作動させているのではなく、ある種のロボットに指示を出しているのだ、という。

「これこそすばらしいテクノロジーだ。ユーザーは一切面倒なことをする必要がない。やりたいことするだけでよい。日常生活の中でテクノロジーにこのレベルの不可視性を獲得“させることがわれわれの最終的目標だ。それは生活に溶け込み、自らの存在を消してしまう。そのようなテクノロジーは『あなたがそれをする必要はない。私が代わってそれをする』と語る」とTellerは述べた。

いちいち持ちあるく必要がなくなったとき電話は素晴らしいものになる。

Tellerによれば、「現在われわれはテクノロジーといえば、スマートフォン、ノートパソコン、スマートウォッチなどのことだと考える。現在のテクノロジーは人間の認識力を強化するというより、むしろ妨げている。それは生活の中に無用な煩わしさを持ち込んでいる。電話というテクノロジーはデザインやバッテリー駆動時間が改良されたからといって本質的に良いものになるわけではない。いちいち持ちあるく必要がなくなったとき電話は素晴らしいものになる」という。

これがGoogle Xのさまざまなプロジェクトの背後にあるビジョンだ。ある意味、反テクノロジー的なアプローチといえる。Google Xチームは「テクノロジーは自らを背景に消し去ったときにもっとも効果的なものとなる」と考えている。

邪魔なテクノロジーを消し去るためにどのようにテクノロジーを利用したらよいかをわれわれは追求している。われわれはみなたいへんな労力をかけて自動車の運転を習う。そして運転しながらメッセージを入力したりブリトー食べたりメークを直したりする。その結果、アメリカでは交通事故で毎年3万人もの人々が死亡している。

自動車は将来、すべてGoogle Xが開発しているような自動走行車に置き換えられるはずだ。われわれは過去を振り返って、自動車をいちいち人間が操縦していたことを不思議に思うようになるに違いない。

次にTellerはウェアラブル・テクノロジーについて語った。Google Glassについては「ユーザーを現実から引き離し、上の空にさせる」という批判をよく聞く。ではTeller自身はどう考えているのか?

「理想的な世界ではユーザーはユーザーインターフェースを意識さえしないですむ。ユーザーがユーザーインターフェースを意識するのは何らかの事情でそれが作動を停止したときだけだ。そういうテクノロジーは人間性を減らすのではなく豊富にする」とTellerは主張する。

Google Xはそういう未来を探り、創りだすための活動だという。「しかしテクノロジーをそのような不可視性のレベルにまで高めるための前途はまだ遠い。われわれはテクノロジーを意識させないテクノロジーを生み出すことにはまだ成功していない」とTellerは結論した。

〔日本版:アストロ・テラーは本名Eric Teller。コンピュータ科学者、起業家、作家。2010年からGoogle Xの責任者を務めている。祖父は水爆開発やスターウォーズ計画に大きな貢献をしたハンガリー生まれの科学者エドワード・テラー。知性と人格を獲得したプログラムとプラグラマーの女性との心の交流を描いた異色のSF小説は日本語にも翻訳されている。〕

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


TechCrunch Hackathon Osakaでニッポンのレゴマインドストーム「Studino」を見た!

すでに別記事で最優秀賞と優秀賞をご報告したように、TechCrunch Japanは先日、大阪市と共催という形で大阪でハッカソンを開催した。この記事では最優秀賞、優秀賞に入選しなかったものの、デバイスなどを提供していただいた企業から副賞を贈られたサービス名(チーム名)と、そのプロダクト概要を紹介する。いずれも明確な課題意識を前面に押し出していて、ハッカソンの初日に講演したMoffの高萩昭範氏のいう「課題が発見できるかどうか重要」というアドバイスに従ったものだったと言えそうだ。

・inter”FACE”(KMNWK)

表情に連動して動くオモチャ。オモチャに向かって笑うとブロックでできた小さなロボが床で転がり出す。デモではオモチャではなくスマフォに対して笑うというものだったが、デモ担当者が頑張って何度か微笑みかけるとステージ上でコロンとオモチャが転がった。というだけのデモなのだが、ハッカソンなので大変に盛り上がった。子どもがやればカワイイだろうなとか、「笑顔」を独居老人が冷蔵庫を開けるためのキーとして使うことで笑顔を日常に取り入れるというのも、ありかもなという感じで制作したチームも審査員らも盛り上がった。さらにデモでは怒った顔、ドヤ顔も認識し、それぞれに合わせた反応をオモチャロボが見せた。

笑うと転がるオモチャのinterFACE

interFACEの顔認識はPUXのAPIを使い、オモチャ部分は「Studuino」というプロダクトを利用していた。Studinoというのは大阪の知育玩具メーカー、Artecの提供だったのだが、これは「日本版レゴマインドストーム」とうべき製品シリーズだ。レゴと違って、組み方の自由度が高い立方体のブロックを使うのが特徴の1つ。立方体ブロックを中心に、三角形(三角柱)や直方体のブロック、サーボモーター、ギヤボックス、ブザー、音センサーなどを組み合わせられるほか、Arduino互換の基板も搭載可能。開発言語に、MIT発の教育用GUIプログラミング言語「Scratch」が使えるというスグレモノだ。Scratchは制御構造や分岐も使える本格的プログラミング言語という側面もある。そこでStudinoでは「Scratchはまだ早い」という段階の子どもや初心者でも使えるようにと、独自のアイコン・プログラミング環境も提供している。Studinoでは一般的なArduinoの開発環境とCを使った開発も可能で、アイコンプログラミングをCへコンパイルした結果をさらに編集するといった開発もできるのだそうだ。

・秘密のささやき(4M)

チーム4Mが作った「秘密のささやき」はコップ式のデバイスだった。街中にあるポスターに近づけると、写真に写った顔を認識をして、アイドルなどの声が吐息混じりで聞こえるというプロダクト(サービス)だ。デモを見る前も、見た後も、応用としてはぼくは文字通りドン引きだったのだが、コップの中に、カメラとファン(吐息に聞こえるように気流を作る)、LED、mbedとRasberryPiを詰め込み、声のデータはAmazon EC2に入れて、PUXの顔認識APIと結び付けるというレベルの高い実装をたった2日でデモ可能なレベルに持っていったハック力には脱帽。

デモは個人的にドン引きだったが実装は高度

ちなみに今回のハッカソンではARM社にmbed(エンベッドと読む)を提供頂いたのだが「センサーの入力を受け付けてデバイスを制御」といった以上の複雑なことをするためには、Arduinoよりもmbedのようなデバイスのほうが向いているようだ。Arduinoが生のインターフェイスをCの無限ループで扱うのに対して、mbedはよりOSぽくなっていて、複数プロセス生成ができるほか、各種ペリフェラルはAPIで抽象化されていてC++で開発できるそうだ。ファブレスのARMの製品なのでmbedは単一製品のことではなく、4社から提供されている共通仕様を満たすデバイス群のこと。モノクロ液晶や加速度センサー、BLE、有線/無線LANまで搭載され、32ビットプロセッサを搭載する「全部入り」というようなデバイスもある。開発も、Webブラウザ上にGUIの開発環境があってコンパイルはクラウドの向こう側で行ってバイナリをUSBでマスストレージとして認識されるmbedに転送するだけという、組み込みぽくないモダンさ。

ARMのmbedは最近種類も増えてきてるそう

・COM × TV(MB4)

視聴者と視聴者がテレビを介して手軽にコミニュケーションを取れるサービス。テレビの前の状況をセンサーで読み取ることで、状況に適したコミニュケーションを提供する。オムロンの顔認識センサーと、NTTドコモの音声認識APIを使っていて、テキスト入力ではなく、声でコミュニケーションするデモを行った。

・Music Power!(ながお)

顔を動画撮影し、表情から感情を読み取る。その感情に合わせた音楽を届けるサービス。感情の読み取りに使ったオムロンのデバイスと、感情を2次元のマップ上に100種に分類して楽曲データに紐付けているGracenoteのAPIを変換する実装に工夫あり。楽曲そのものはYouTubeで再生。

・見守りプレイヤー(見守り隊)

独居老人など見守りが必要な家庭の洗面台、冷蔵庫、テレビなど1日に何度も接触するポイントに設置された画像センサーによって、そのときどきの気分に合わせた音楽を配信するサービス。見守りする管理者側に気分情報の配信を行うほか、緊急時には異常アラートを通知。こうした見守りデバイスやサービスはすでにあるが、「見られてる感」という導者側の心理的抵抗を取り除くという課題に注目している点がユニーク。

・feesic(マウロ・ゴメス)

日中離れ離れで生活する親子(母子)をつなぐコミュニケーションサービス。幼稚園など離れている子どもの感情をセンサーで読み取り、それを音楽として母親に提供。BGMとして流すことで、例えば家事をしながら子どもと同じ気持ちで生活することができる。

・リアル・ソーシャル・曲がり角(RSM)

「まるでドラマのワンシーンのように曲がり角で男女が出逢うことができます」というコンセプトで、あまりIoTと関係はないが、位置情報や楽曲解析APIを使って、スマフォを持った2人が曲がり角で出会う演出をするサービス。寸劇ありのネタ系デモで、会場では最もウケた発表の1つ。

・Head Scratch(ヘッドスクラッチ)

近接通信を利用した音楽交換アプリケーションサービス。自分の聴いてる音楽を人に聞いてほしいとか、逆に、あの人の聴いてる音楽を知りたいというときに、再生中の音楽を同期させるサービス。

・DIVE(PS4)

音楽のムードに合わせたビジュアルコンテンツや、ビートに合わせたエレクトリックスティミュレーションを提供するデバイス。エレクトリックスティミュレーションというのは、気取った言い方だが、実際はオムロンの低周波治療器を腕に巻き付けて、ビートに合わせてピクピク来るとうもの。音をAPIに投げることで、楽曲やCM情報を返してくれるのがGracenoteが提供しいてるAPIだが、最近は新たに楽曲解析APIというものを提供していて、曲のイントロ、Aメロ、Bメロといったセグメントを分析した結果を教えてくれるサービスがあるそうだ。DIVEはこれを応用。派手なビジュアル演出は、エコライザーの発展形という印象もあった。

・Nerma e Doll(ぱっくす)

「ネルマエドール」と読むそうだ。「寝る直前までディスプレイを見続けてしまう生活習慣を改善する」という課題からスタートしたプロダクト。PUXが提供する顔認識や音声認識・合成が可能な小型ロボ、「Rapiro」を使った実装。ポイントは、ユーザー側でなく、モノのほうから語りかけることで会話のきっかけを提供すること、会話後の寝る前に音楽を流すことで、入眠の雰囲気と時間を生み出すこと、という。デモでは、ちょっと認識に課題が感じられて「孤独さを緩和させる」はずが、何となくシラーっとした寂寥感が漂った気もしなくはないが、「眠りに落ちる前までディスプレイを見続けてしまって、入眠障害を抱えている」という多くの現代人が密かに悩んでいそうな問題に対して「音」で切り込んだ点は素晴らしいと思う。


Android直挿しボードでIoTの可能性も見えた!? TechCrunch Hackathonの優秀作品を紹介

TechCrunch Japanは大阪市との共催で4月12日、13日の2日間にわたって大阪でハッカソンを開催した。イベントには約50人の開発者やデザイナが集まり、12チームに分かれてプロダクト作りを行ったのだが、これが結構「大阪な感じ」だった。

どう大阪だったのかと言えば、プロダクト発表のデモで、いきなりボケ満載の寸劇が始まるのは当然として、例えばステージに登壇した新生チームに「このチームのプロダクトリーダーは誰ですか?」と問えば、「はーい!」と5人が一斉に手を挙げてしまうだとか、チームビルディングがなかなか終わらないなと思って話を聞けば、「オレはこれが作りたい」「オレのアイデアはこれだ」というのが噛み合わず、「だったらキミはキミの道を行けばええやんか、オレはオレがやりたいことをやる」という感じでまとまらなかったりしたといった具合。

大阪・梅田にある大阪イノベーションハブに50人ほどが集まった

2日間でチームビルディング、アイデア出し、実装を行った

デバイスを扱うハッカソン。中にはロボを扱うチームも

全国各地でハッカソン主催の経験があり、今回の運営にも協力して頂いていたMashup Award実行委員会の伴野智樹氏によれば、「やっぱり大阪は違いますね……。東京だったらさっさと譲り合うところです」と苦笑いしていた。形式そのものに対する慣れがなかったということもあったかもしれないが、大阪人のDNAというようなものを感じたハッカソンではあった。リーダーシップの欠如が日本社会の宿痾のように言われる昨今、頼もしい話ではないか。

さて、今回のハッカソンは多くのデバイスメーカーやサービス提供企業の協力を得て「IoTの可能性を探る」というテーマで行った。開催告知記事に書いたように裏のテーマは「MVP」。結果としては、12チームとも明確な課題意識と、ぼんやりした可能性を広げすぎずにシャープなフォーカスを持ったプロトタイプ実装を行ったという意味で興味深いイベントになったと思う。

ポスターや展示用ディスプレイを「見た人」の数をグラフ化

審査の結果、最優秀賞は福本晋也氏(エンジニア)と安川達朗(エンジニア)による作品「ポスタライズ」とさせていただいた。

ポスタライズは、ポスターなどの印刷物が、実際にどれだけ見られたかを計測・解析するプロダクトだ。ネット系のサービスでは、利用者が何をどれぐらい見ているか、どう行動したのかというのは数値化して計測できる。オフラインのポスターなどはそうではないので効果測定が難しい。これを解決するために、ポスターに対して額縁のような形でデバイスを付加して顔認識を行う、というのがポスタライズのアイデアだ。顔の角度認識の技術を使って「見た」ことを特定する。収集したデータは時系列のデータとしてデータベースに保存してグラフ化する。利用したのは、オムロンが最近評価用モジュールとして提供している人認識モジュールの「HVC」というデバイスだ。

優勝したポスタライズは、ポスターの枠として顔認識モジュールを実装するアイデア

実際のデモでは、チラッとポスターに視線をやるとブラウザ上に実装された集計用の折れ線グラフにピコンと「1ビュー」のぶんだけ山型に表示されるという素朴なものだったのだが、これは2つの意味でIoTの未来を感じさせてくれるデモだった、というのがぼくを含めた審査員たちの意見だ。

審査員の1人で、みやこキャピタル ベンチャーパートナーの藤原健真氏はポスタライズがデジタルサイネージでないところに可能性を感じると指摘した。実は藤原氏自身、最初の起業が街中に設置する大きなデジタルサイネージ事業だったそうだ(後に売却)。非常に高価なデジタルサイネージのソリューションは、すでに世に出ている製品も少なくないし、性別や年齢を推定して推薦ドリンクを切り替える自動販売機なんていうものもある。しかし、ポスタライズは、小さく、既存の紙ベースのポスターや展示物にアタッチするデバイスでしかない。

オムロンは、元々こうしたソリューションで使われるエンジンを企業向けに提供している。HVCは、それをモジュール化したところがミソで、まだ3月に発表したばかり。ハッカソンで使った評価用ボードは約7万円とお高いが、量産すれば数千円の前半になるという(もちろん出荷数次第)。とすれば、BLEモジュールをくっつけてショーウィンドウの食品サンプルに埋め込むという未来も薄っすら想像できる。カフェであれば、どのスイーツに目を留めて顧客は入店しているのか、というようなことが計測可能になるかもしれない……、という会話がその場で生まれて来たのは、まさに今回のハッカソンの趣旨である「IoTの未来を探るためのMVP実装」だったと思う。

ちなみにオムロンのHVCは、今回のハッカソンでは大人気のデバイスだった。手のひらに乗る小さなモジュールながらカメラ付きで10種類のアルゴリズムが使える。3月20日に発売したばかりで、今のところ企業向けにしか売っていないのが惜しい。人間や顔を認識し、「どちらを向いてるか / 誰なのか / 視線の方向 / 年齢・性別推定 / 手検出 / 表情(5種類、信頼度あり)」などを数値で取り出せる。

オムロンの手のひらに乗る小型顔認識モジュールは10種のアルゴリズム搭載

アルコールセンサーをiPhoneに繋げて遊ぶ「DrunkenMaster」

優秀賞は「DrunkenMaster」(ドランケンマスター)を作ったチーム、Drunker5に贈らせて頂いた。DrunkenMasterは、呼気中のアルコール濃度を検出するセンサーをiPhoneにアタッチした酔っぱらい向けのゲームだ。ポイントは2つある。1つはアルコールセンサーのようなデバイスを、極めて容易にiPhoneに付ける仕組みを提供する「PocketDuino」(このデバイスも大阪発だ)の可能性が垣間見れたこと、もう1つは、遊び心からビジネスのタネが生まれて来そうと思えたことだ。

正直に書くと、Drunken5のチームが初日に「お酒とSNS」とホワイトボードに書いているのを見て、ぼくは「あちゃー」と思っていた。なんか面白そうだからという理由で作ってみて、結局なんだかよく分からないプロダクトができてくる、というのは良くあること。ところが実際に出てきたものは、ドラクエ風の画面を備えたシンプルながらも完成度の高いゲームだった。

DrunkenMasterは一定量以上のアルコールを摂取していないと、そもそもログインができない。そして、ゲーム内容といえば酔うほどに難易度の上がりそうな認知能力テスト系。スライムの絵のあるカードに書かれた色の名前を即座に答える(タッチする)というだけのことだが、「青」とか「赤」と書かれた色の名前と実際のカードの色が一致しない。酔うほどに成績が落ちるわけだが、この路線には確かにお酒の場を盛り上げそうな何かがあるという予感を感じさせるのに十分なデモだった。若者のアルコール離れや、年々落ち込むビールの売上といった課題を抱える酒造メーカーや飲食チェーンが導入して、ネットワーク越しに参加型のキャンペーンを展開するなどアイデアは広がりそうだ。

DrunkenMasterはアルコールセンサーを使った酔っぱらいのためのスマフォゲーム

実際にビールを飲んで試す審査員の久下玄氏(Coiney,Incプロダクトストラテジスト)

「iPhone+センサー」のプロトタイピングのハードルを下げる「PocketDuino」

DrunkenMasterはモバイルゲームとして画面デザインがよく出来ていた。デザイナーのセンスということもモチロンあると思うが、限られた開発時間の中でアプリの作り込みに時間をかけられたことも大きかったのではないかと思う。これはセンサーをiPhoneにアタッチして計測値を取得するという部分を、PocketDuinoに任せられたからではないかと思う。

PocketDuinoはAndroidのUSB端子に直接挿せるArduino

アルコールセンサーを付けたPocketDuino。手軽にプロトタイピングできる

PocketDuinoで使えるセンサー類。各数百円。火炎センサーなんていうのもある

PocketDuinoは4月10日にIndiegogoでクラウドファンディングのキャンペーンを開始したばかりの大阪発の開発者向けボードだ。簡単にいうとAndroidのUSB端子に直接挿すことのできるArduinoだ。USB端子形状はmicro-B。Arduino Pro Miniとピン互換なので既存の多くのデバイスが利用できる。開発しているのはソフト・ハードウェアのエンジニア2名、Webエンジニア1名からなる大阪発のPhysicaloidプロジェクトチームだ。

Arduinoという開発ボードが、IoTやMakerムーブメントにおいて重要な役割を果たしているのはご存じの通りだが、Arduino自身はインプットを受け取ってアウトプットをするだけの素のコンピュータのようなところがある。組み込みデバイスで使うぶんにはこれで良くて、そこにLEDのような表示デバイスをつけたり、センサーからの入力を繋げたりしてデバイスのプロトタイプを作っていく。一方、PocketDuinoはスマフォを前提とすることで、開発のハードルを大きく引き下げたのがポイント。スマフォにはディスプレイもユーザーインターフェースもネットワークも全部ある。まさに今回のハッカソンででてきたDrunkenMasterのようなプロトタイプの開発とフィールドテストのサイクルを速く回すのに好都合だというのが、PocketDuinoの開発をリードする鈴木圭佑氏の説明だ。Pysicaloidプロジェクトでは、PocketDuinoというミニボードを提供するだけでなく、Androidアプリ開発者向けにJavaで書かれたライブラリもオープンソースで提供する。これまでArduinoで必須だったC言語による開発でなく、Android開発者が使い慣れたJavaで対応センサーを使った開発ができるのがポイントで、例えばアルコールセンサーや距離センサー、温度・湿度センサー、火炎センサー、心拍センサーといったデバイスから値を読み出すのが、3行ほどのコードで書ける。もう少し具体的に言うと、センサーごとに用意されているデバイスのクラスをインスタンス化して使うというオブジェクト指向っぽい開発ができるということだ。ハンダごてもブレッドボードもC言語もなしに、Android開発者なら手軽にIoTを試せる。ちなみにセンサー類は数百円程度だそうだ。

PocketDuinoの値段はボード1個にユニバーサル基板がついて39ドル、ユニバーサル基板5枚とアルコールセンサー基板1個が付くもので55ドル。PocketDuinoのコンセプトは「自分の作ったIoTプロトタイプを気軽に持ち歩いてカフェや飲み屋の席で見せて楽しむこと」だそうで、今回のハッカソンで出てきたDrunkenMasterはまさに狙い通りの応用だったと思う。

ちょっと記事が長くなってきたので、ほかの10チームの作品については別記事で。


「苦痛を感じるほどの課題はあるか?」、MoffがハッカソンからHWスタートアップで起業するまで

告知通り、TechCrunch Japanは大阪市と共催で先週末の2日間、大阪でハッカソンを開催した。ハッカソン初日冒頭にはウェアラブルなスマート・トイ「Moff」代表取締役 高萩昭範氏が参加者向けに20分ほどのトークを行った。高萩氏の話は「ハッカソンからスタートアップ企業として起業するまで」の1つの体験談として起業家志望の予備軍にとって示唆に富むものだったと思うのでお伝えしたい(Moff自体については、こちらの記事をどうぞ)

高萩氏は京都大学法学部を卒業後、経営コンサル企業のA.T.カーニーと、メルセデス・ベンツ商品企画部のプロダクトマネージャーを経て、2013年にハッカソンで知り合った仲間とともにMoffを起業している。元々自分でWebサービスを作ったりするなど起業に関心があったというが、本当に起業する最初のキッカケとなったのはハッカソンだったという。

2013年1月に大阪市が主催した「ものアプリハッカソン」で、たまたま主催者側が役割(企画、エンジニア、デザイナー)に応じて決めたチームの仲間が、実はいまMoffチームのコアにいるメンバーなのだという。

ハッカソンでプロトタイプを作ってから、実際のハードウェア製品を作るようになるまでの道のりはどんなものなのか? 「ハッカソン後に待ち受けていること」として高萩氏は次のように語った。

「ハードウェア・スタートアップというのはモバイルアプリなんかと違ってお金がかかるんですね。しかもプロトタイプと製品とでは全然違う。どうやって工場を見つけるの? どうやって仕様を決めるの? 各種認証ってどうするの? 生産過程でロスが出たらどう改善していくの? 在庫管理どうすんの? 会社潰れたらどうなるの? ユーザーが怪我したらどうする? アメリカで裁判起こされたらどうなんの?」。多くのことを考えてクリアしていく必要がある。ただ、多くの関門があるものの、こうしたことは「事業として成り立つという確信があれば、なんとかなる」とも言う。

では、事業として成り立つ確信はどこから来るのか?

「最初、Moffは基板むき出しのプロトタイプを学童保育に持っていったんですね。無茶苦茶完成度が低かった。子どもってめっちゃ厳しいじゃないですか。だから、どんな反応するのかなってビビってたんですよ。ところが、いざデバイスを出して遊ばせてみた瞬間に、もうバカ騒ぎですよ。みんなが取り合うように遊んだんです。遊び終わった後に、これ、ほしいんですけど売ってくださいというんです。パパに買ってもらうと。4000円なら買うという親も出てきた。そのときに、あ、これはイケるなと思った」

ハッカソンでできたチームとして高萩氏らは最初から腕に巻き付けるスマート・トイのMoffを作っていたわけではない。最初はカエルの人形をスマフォに繋いだコミュニケーション系のプロダクトを作っていた。このカエルのプロダクトにしてもMoffにしても、そこには共通する問題意識があった。「画面ばかり見つめるUIじゃない、もっと優しいインターフェースがあっていいのではないか、家族のコミュニケーションの問題を解決したい」という思いがあったという。

ただ、カエルには市場性がなかった。

「それなりに課題だけど、苦痛があるほどの課題じゃないということだったんです。カエルを買いますかっていうと、買わない。だから、ぼくらはカエルを捨てたんです」

「結局、苦痛を感じているほどの課題があるのかどうか、ということです。解決策にお金を払うかどうか。そもそもその課題って本当にあるんだっけ、という話で、課題があるかどうかです。困ってるんだよねー、という程度では全然だめ。課題を発見できるかどうかが重要だと思ってます」

カエルからMoffへ、というのはいわゆるピボットだが、それは容易なことではなかったと高萩氏は言う。新プロダクトを思い付くよりも先にカエルを捨てることを決めたというが、悶々と悩む時期が1カ月ほどあったという。たまたまハッカソンで出会ったメンバーが集まった「即席チーム」という側面があったからだ。2013年1月末のハッカソンの後、3月に海外のピッチコンテストに出ることを決めてからはチームが一丸となれたが、一旦そのプロダクトを失えば求心力やモーメンタムを失いかねないと思ったからだ。

「ピボットすりゃいいじゃんって言うけど、そんなに簡単じゃない。何のためにチームが集まってるのか? 何を作るのか? という話です」。作るべきものを失ったとき、各メンバーの向かいたい方向性が違えばチームがバラバラになる。Moffはそうならなかった。「そもそも、なぜぼくらがチームとなったのかというと、それは画面インターフェースって人間に優しくないよねという問題意識を共有してたから。それから家族をテーマにという課題意識。画面インターフェースの常識を変えたいという課題意識は一致してたのでチームが続いたんです」

Moffのアイデアを得て、その市場性を検証するために40家族ほどにインタビューをしたという。そうした中から子ども部屋に関する「苦痛を感じるほどの課題」を見つけた。

それは例えば「子どもが、ずっとタブレット画面ばかり見ていてヘドが出る」という母親の声だったり、「部屋にオモチャが溢れかえっている。子どもは直ぐに飽きるのに捨てられない」という父親の声だった。

インタビューを繰り返していくうちに見出したのは「子どもはオモチャに直ぐ飽きるが、捨てるのはエコじゃない」「顔を合わせるコミュニケーション、フィジカルな遊びを実現したい」という(親が持つ)子ども部屋に関する2つの課題だったという。そして調べてみると、世界的にオモチャ市場は変革期にあることも分かった。米国2.2兆円市場、日本6700億円という大きな市場で、創造を楽しむオモチャというジャンルは今後も30%の成長性があるということなどから、Moffのアイデアに至ったという。そして投資家などと話をしていく中で分かってきたのは、ハードウェア単体ではダメで、ソフトウェアで儲ける仕組みというのがあるということだった。そしてKickstarterでキャンペーンを開始し、2万ドルの目標に対して48時間で7万8871ドル、1157人の支援者を集めた。「これなら市場やニーズがあると思い、製造する決心をした」。Moffは2014年7月に出荷予定だ。

これは高萩氏自身も認めていることだが、Moffは順調な滑り出しとはいえ、まだハードウェアスタートアップとして「成功」といえる段階にはない。しかし、会社員がハッカソンに参加したことをキッカケにして、ハードウェアでスタートアップを起業し、最初の登竜門ともいえるKickstarterでキャンペーンが成功して一般発売へ近づいているというのは、起業家志望の人にとって参考になる話ではないかと思う。

そうそう、Moff自体はスマート・トイということでオモチャだが、高萩氏の問題意識は「画面UIではないものを提供したい」というもの。ただ、課題ありきでなければ普及もビジネス化もないという認識からMoffに取り組んでるという。Moffが一定数以上に普及して多くの家に転がっている状態になれば、そのユーザーベースを起点にして身振りによるインターフェースを使ったオモチャ以外の応用を提供したい、と話している。