モバイルさえ飲み込むVR/AR市場、2020年には1500億ドルの市場規模に

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編集部記 :Tim Merelは、Digi-Capitalのマネージングディレクターである。

仮想現実(VR)と拡張現実(AR)はとてもエキサイティングな分野だ。Google Glassが一時の脚光を浴びて去っていき、FacebookはOculusを20億ドルで買収し、GoogleはMagic Leapに5億4200万ドルを投じた。MicrosoftにはHoloLensがあるのも忘れてはいけない。現在、アーリーステージのプラットフォームやアプリが登場しているが2015年における拡張現実と仮想現実の市場は、言うなればiPhoneが登場する前のスマートフォン市場に似ている。誰かがプレゼンで「最後にもう一つ」と言って、みんなを説得してしまうような「これぞ未来!」と思えるものの発表を心待ちにしている。

今の時点でVR/ARの市場規模を数値的に表すのは難しい。分析できるほどの情報が集まっていないからだ。この記事では成長方法についても記述していくが、以下の分析結果は来年以降VR/ARが新しい市場を育てる可能性、そして既存の市場を吸収する可能性についての予測をベースとしている。

ARは火星から、VRは金星からやってきた

VRとAR、双方とも高解像度の3D映像とステレオ音響を再生できるヘッドセットがつきものだが、VRとARには大きな違いがある。 VRは閉鎖的で没入する空間を提供するのに対し、ARは部分的に没入する形で、空間も開放されている。つまり、ARを見ながら周囲を見たり、ARを透かして見ることができる。VRでは仮想空間の中にユーザーが入り込むが、ARはユーザーのいる現実世界に部分的に仮想空間を当て込み、拡張する。

些細な違いだと思うかもしれないが、この違いこそARをVR、そしてスマートフォン、タブレット市場を凌駕する存在に押し上げるかもしれない。Apple、Google、Microsoft、Facebookなどの企業から、そのヒントがいくつか出ている。

それぞれの得意分野は?

VRはゲームや3D映画に向いている。そもそもそれ用に開発されたのだ。ただしVRでの体験は、自宅のリビングルームやオフィスで、座って体験するのが前提条件だ。周りが見えないヘッドセットを街中で着けて歩いていたら、色々な物にぶつかってしまう。この技術はとても素晴らしいものであることは間違いなく、何千万というゲームコンソールやPC、MMOゲーム愛好者、2D映画より3D映画が好きな人がVRの登場を待ち望んでいる。さらには、医療、軍関係、教育といったニッチな分野の法人ユーザーもこの技術に関心を寄せている。すでにUnity、Valve、Razerといった先行する企業のサービスに、アプリやゲームのエコシステムが出来つつある。

ARのゲームも楽しいだろうが、完全な没入感を味わえるVRほどではないかもしれない。これはモバイルゲーム対コンソールゲームの違いのようだと言える。ゲーマーにとっては弱点ともいえるこのARの特徴は、反対に言えば、私たちの生活におけるモバイルのような役回りとなり、何億人ものユーザーを獲得できる可能性がある。ARは、いつでも、何をしていても体験することができるのだ。VRがコンソール(例えば、Oculus)を装着するのに対し、ARは半透明なモバイルデバイス(Magic Leap、HoloLens)を装着するのに似ている。

メガネ型スマホ

ARは様々な分野を横断しているモバイルのような役目になるだろう。そして、まだ見ぬサービスを媒介するようにもなるだろう。例えばARを、ARを通じた「aコマース」(電子商取引を表すeコマース、モバイルコマースを表すmコマースの新たな従兄弟分だ。)、通話、ウェブの閲覧、従来の2Dと3Dでの映画やテレビのストリーミング、法人向けアプリ、広告、コンシューマーアプリ、ゲーム、テーマパークの乗り物などに活用できるだろう。今のAR技術でのデモではゲームが大きく取り上げられているが、ゲームユーザーはARの潜在的なユーザーの一部に過ぎない。分野ごとの分析はここから見てほしい。

どの程度のお金になるのか

私たちは2020年までにAR/VRの市場は1500億ドル規模になると予測している。ARが一番多くの割合を占めるだろう。私たちはARは1200億ドル規模、VRは300億ドル規模であると予測した。

ARVR Forecast

どこからこの金額が生まれるのか?

VRの主要市場はゲームと3D映画、そしてニッチな法人ユーザーから構成されると私たちは考えている。VRはコンソールゲームと同じくらいの価格で手に入り、想定ユーザー数は何千万人規模となる。コンシューマー向けのソフトウェアとサービス市場は、既存のゲーム、映画、テーマパークと類似するようになると予想した。通話や通信市場はVRでは、大きく拓かれることはないと考えた。法人からの価値ある収入は見込めるだろうが、通話や通信はARに取り込まれると考えている。

ARの市場は、スマートフォンやタブレット市場に類似するだろう。ハードウェアの価格は、既存のスマートフォンやタブレット程度で、ユーザー数は億単位に上ると予測した。ハードウェアを製作するメーカーに大規模な収益が見込まれるだろう。

ARのソフトウェアとサービス市場は現在のモバイル市場と似てくるだろう。どちらも他の市場を吸収しながら成長していく。ARのユーザーベースは、テレビや映画、法人、広告、FacebookやUberやClash of Clansといったゲームなどのコンシューマー向けアプリを製作する者にとって重要な収入源となる。AmazonやAlibabaにとってはマスに商品を訴求できる全く新しいプラットフォームに映るはずだ。このような企業、そしてこれから市場に参入するであろう革新的なアプリの登場によって、モバイルの通話と通信ネットワークを展開するビジネスは巨万の富を得ることとなる。誰かがモバイルデータの送受信のために料金を支払う必要があるのだ。

2016年からの各セクターにおける成長予測の詳細は ここから確認できる。下の図は、2020年の市場がどのようになっているかの予想を表したものだ。私たちは継続的にデータを集め、より正確な予測を随時出していく予定だ。この市場の行く末について議論が活性化することを期待している。

ARVR 2020

現実的な問題

仮想空間の実現には課題もまだある。VRのアプリで乗り物酔いを起こす人もいるし、Google Glassはプライバシーの問題で多くの批判と議論を巻き起こした。この分野の市場が現実のものとなるためには、まだ技術的な改良が必要であるし、さらに社会に受け入れられるために解決しなければならない問題もある。

最後にもう一つ

巨大企業の道筋にはそれぞれ利点と欠点がある。FacebookはOculusに先行投資したことでVRでは勝利を収めることができるかもしれないが、より大きい市場となるであろうARを物にすることはできないかもしれない。GoogleはGoogle Glassの教訓を持ってMagic Leapの可能性に投資した。MicrosoftはHololensで一度Appleに奪われた栄光を取り戻すことができるかもしれない。そしてAppleに関しては、プレゼンで「最後にもう一つ」と言い出す日を心待ちにしている。

全分析結果はここから見てほしい。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

セキュリティが気になるならオンプレミスよりクラウドを選ぶべき

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一般的に、自社のデータセンターはオンプレミスの方が安全でセキュリティが高いと言われてきた。しかし、ここ2年の間に起きた情報漏洩の事件を思い出してほしい。例えば、AnthemSony、 JPMorganやTargetの事件だ。これらは全てオンプレミスのデータセンターからの情報漏洩でクラウドからではなかった。

クラウドサービスの管理が行き届いているなら、自社のデータセンターよりクラウド上の情報の方が安全だと言えるだろう。なぜなら、Amazon、Google、SalesforceやBoxはセキュリティ対策に尽力している。セキュリティの穴はビジネス全体に大打撃を与えることを理解しているからだ。

クラウドサービスを提供する会社から、情報漏洩に関する大事件を聞かないのはそれが理由だろう。クラウドからの情報漏洩で思い当たるのはジェニファー・ローレンスの写真の漏洩やその他セレブに関するものだが、オンプレミスでのハッキング行為ほど注目を集め、大規模な問題に発展した情報漏洩をクラウドでは聞いたことがない。

管理する側の感覚の問題もあるだろう。オンプレミスのデーターセンターの方が安全なように感じるのだ。だが、本当にそうなのだろうか?

どちらの方が安全か

第一にクラウドサービスを提供する企業に比べ、いくつかの例外を除き、ほとんどの企業はセキリティ対策にリソースを費やしていない。

彼らの本業はセキュリティ対策とは関連が薄いのだ。少なくとも直接的には関係していない。CEOにとっても大抵の場合、セキュリティ対策が最優先事項ではない。注目を浴びるほど大規模にハッキングされることは恥ずかしく、経済的な損失も大きいが、彼らの本業はお客様にサービスや商品を提供することなのだ。

David Cowanは、Bessemer Venture Partnersで90年代からセキュリティ関連企業に投資を行っている。彼曰く、多くの企業はセキュリティについて考えておらず、Sonyも例外ではなかったと言う。

「Sonyも最新技術を活用したビジネスを行っていますが、SonyはGoogleやAmazonではないのです。彼らは、映画を作り、映画を作ることに卓越した人たちを採用しています。彼らの事業の根幹はそこにあるのです。データや認証やセキュリティについては考えていないのです。」

Cowanは、だからと言ってクラウドの方が安全だとは言い切れないが、GoogleやAmazonのようにクラウドサービスを提供してきた経験のある会社のサービスの方が既存のデータセンターより安全である可能性は高いと言う。多様なクラウドサービスがある今、それぞれのセキュリティへの対応レベルが異なっているのが問題であるとも話した。

「GoogleやAmazonに全ての情報を置いてはいません。複数のサイトに分散して置いています」と彼は言った。そして問題は、それぞれのサービスのセキュリティレベルが同じではないということを指摘した。

データの権限は誰にあるのか?

クラウドコンピューティングの問題の一つは、誰がデータの権限を持っているかということだ。もし行政がやってきて情報開示を求めたら、クラウドサービスを提供する企業は、ユーザーが開示してほしくない場合でも情報を提供しなければならないのだろうか。ここのルールはまだ明確ではない。いくつかのクラウドサービスのベンダーはこの問題に取り組んでいる。

数ヶ月前、BoxはEnterprise Key Managementというプロダクトをリリースした。これを利用する法人は情報の権限を全て掌握できるこようになる。Boxに置いた情報は、暗号化キーを保有しているオーナーにしか利用することができない。つまりBoxは、行政に情報開示を求められても、全て暗号化されているため、情報を提供することはできない。行政は直接ユーザーに情報開示を要請する必要がある。

Cowanがクラウドサービスのセキュリティについて指摘したように、全てのクラウドサービスがBoxのような機能を備えているわけではない。このような機能がない場合、事態は混迷する。Googleのようなクラウドサービスは、常にユーザーの情報開示を求められていて、Googleは会社としてどのように対応していくかを検討しなければならない。

Electronic Frontier Foundationは、オンラインベンダーが行政の要請を受けた場合のユーザーへのサポート体制についての年間報告書を公表した。全てではないが、ほとんどのサービスが情報を開示するには令状が必要だ。しかし残念ながら、過去の報告書を見ると全てに適応しているとは言えない。2013年の報告書でもこのことが確認できる。

EFFは、主なクラウドサービスの暗号化の状況を知ることのできる年間報告書も作成している。ユーザーのデータの保存時と送受信時にどれだけ守られているかを知ることができる。

データを分散させる

Sonyでの情報漏洩事件について考えてみよう。Sonyのシステムは一つに集約されていたため、ハッカーがSonyのセキュリティを突破して、Eメール、公開前の映画、さらにはパートナーシップ契約の内容まで何でも手にすることができた。ひどい話だ。もしデータが複数のクラウドサービス上に分散していたのなら、1つのサービスに侵入されたとしても、失うのはそのサービスに保管されている情報だけになる。

私は、昨年のTechCrunch Disrupt San FranciscoのStartup AlleyでCloudAlloyという会社と話をした。彼らはリスクを分散させるというアイディアを形にしている。CloudAlloyは、ファイルをパーツに分け、それぞれを複数の異なるサーバーに保存することを考えた。ファイルを開きたいときは、サーバーに分散されたファイルを呼び出す。この方法でもファイルを開くのに遅滞はなく、ハッカーが一つのサーバーに侵入したとしてもそこにあるのはファイルの一部分で、その情報には意味がないということになる。

データの保管場所を分散させておくことで、1つの保管場所がハックされたとしても、全てのデータが奪われる危険性が低くなる。このアプローチはとても理にかなっている。

しかし、どのアプローチにおいても人が介在している限り、抜け穴がないとは限らない。問題は必ず起きるのだ。ハッカーは、フィッシング詐欺組織を作ったり、強力な攻撃を行ったりすることで、個人のアカウントをハックできることがジェニファー・ローレンスの事件で証明された。

自社保有のデータセンターにも弱点があり、オンサイトでデータを保持していることが安全であるとは限らない。むしろ危険だと言える。クラウドは、今ある選択肢の中で最も希望のあるものだ。クラウドコンピューティングが誕生したその日から、クラウドに向けられた批判はセキュリティ面に関してだったことを考えると、皮肉な状況と言える。しかし今の所、クラウドが一番安全であり、ここに賭けるべきだということには変わりない。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

ポルノとセックスは別物。インターネットはもっと「セックス」を許容すべきだ

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「Meerkatの特殊機能を最大限活用しているのは、おそらくアマチュア・ポルノ写真家である」、とThe Economistは冷やかに観察してMeerkat対Periscopeの戦いの分析を終えた。「ポルノには新たなビデオテクノロジーを促進してきた長い歴史がある」。たしかに。ポルノは常にテクノロジーの先端にいる。しかし、セックスはどうか?

数ヵ月前、私はCindy Gallopと同席した。広告の達人からセックス・テクノロジー・スタートアップのファウンダーに転じ、数年前にTED史上最も記憶に残るトークを披露した女性だ(そして世界最高のTwitter bio欄を持つ)。Gallopは彼女以外に殆ど誰も信じていない破壊的概念を訴えようとした。「IT業界、およびインターネット全般は、もっとセックスを許容すべきである」。

おそらく殆ど矛盾語法のように感じるだろう。何しろ、インターネットにセックスが蔓延していることは誰もが知っている。”Rule 34″[あらゆる存在にはそのポルノが存在する]。Alexaのグローバルサイト・トップ500見て、ポルノを流布しているものがいくつあるか数えてみてほしい。

…しかしあれは〈ポルノ〉だ。Gallopは、インターネット ― そしてIT業界全体 ― がもっと〈セックス〉を扱うべきだと頑なに信じている。両者は決して同じではない。セックスは厄介で楽しくて衝動的で私的だ。ポルノはそのいずれでもない。セックスの前には、熱烈な同意と性病予防と避妊がある、あるいはあるべきだ。ポルノにはどれもない。セックスは人間に関わるものである。ポルノは概して体に関わる傾向にある。

そこに何か間違いがあるということではない。Gallopのスローガンの一つは、「ポルノ賛成。セックス賛成。違いを知ることに賛成」である。これは若い人々が混乱する違いだ。彼女はこう言う。「ポルノと性教育の間には埋められていない大きな隙間がある…今や子供たちは6~8歳でポルノに遭遇し始める[もっと早い場合もある]。だから彼女の『トーク』は、『セックスは本来そんなものではない』を強調する(このNew York Times同じテーマの記事も参照されたい)。

ポルノではない性的コンテンツ(およびセックス関連テクノロジー)を要求することが、そんなに過激だろうか? ある意味、イエスだ。インターネット ― およびIT業界全体 ― は事実上2つの孤立した領地に分極している:「ポルノ」対「非性的コンテンツ」だ。両者の中間には殆どあるいは全く入る隙がない。ごくわずかでも性的なものは(一般に)ポルノと考えられ、「信用ある」会社からは汚れた物として扱われる。The Daily Beastがこう論ぢている:「現在のIT環境は、スタートアップとアプリに推進加速され、あらゆる分野において破壊が奨励されている ― セックスを除いて」。

Gallopの設立したスタートアップ、Make Love Not Pornは、社会的に許容され共有可能な性的コンテンツのためのプラットフォームを意図している ― そこにはコミュニティーが作った露骨な内容のコンテンツが大量に置かれている。しかし、「小さな文字で書かれた注意書きには『アダルト向けコンテンツはない』と書かれている」。彼女がサイトを立ち上げ運営するために外部インフラを設定するだけでも巨大な苦闘だった。支払い処理業者は彼女を拒否した。ビデオホスティングサイトは彼女を拒否した。誰一人として、どんな形にせよ性的コンテンツに関わりたがらない。

この問題を、大いに有害で大いに誤解されているポルノ業界の責任にするのは簡単だ。簡単だが、おそらく間違っている。私がGallopに、セックスが殆ど触れてはならないビジネス分野になっているのは、ポルノが水を汚したからなのか、それともわれわれの社会における、セックスに対するしばしば歪曲され、偽善的で、混乱した姿勢の問題なのかを尋ねたところ、彼女は一瞬もためらうことなく「後者」だと答えた。

そしてIT業界の殆どが、セックスに触れようともしない。「Marry Meekerはインターネットでナンバーワンの利用について語ろうとしない」とGallopは非難する、「それが紛れもなく膨大な金を生む分野」であるという事実があるにも関わらず。

うそだと思うなら、映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」の世界的大ヒットを見てほしい ― ひどく問題を抱えた作品であるにもかかわらずだ。クラウドファンドされたEvaを見てほしい。社会的に許容されたセックスは巨大な市場だ。さらに興味深いことに、それは巨大な〈新〉市場である。

Gallopは、ファウンダーにふさわしい大きな野望を持っている。「セックスのカーンアカデミー」になり、次に「セックスのY Combinator」になることだ。しかし、これは単なる野望ではなく個人的使命であることが彼女の話からわかる。「私は何千人もの人からメールを受取り、そこには彼らの生活で最も私的な部分が描かれている…私はこれに対して個人的責任を感じている」と彼女は言う。「私たちは人類の幸福に関わるビジネスをしている。恥かしさの撲滅を加速させたい」。高潔な目標である。業界全体が早く追いつくことを私は願う。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

テクノロジーはトルコを未来へとつなぐ道

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編集部注:本稿のライター、Metehan Oguzは、トルコ遺産団体評議員で、Oguz ConsultingのCEO。

IT情報通でも知らない人が多いかもしれないが、テクノロジーのリーダーとして出現しつつある新たな国がある。トルコの急速な経済成長は、世界的経済不況の中でさえ、堅牢な銀行システムから医療改革まであらゆるものを作ろうとする世界の何十という国々のモデルとなっている。この成長も注目に値するが、同国はさらに楽しみな時期への準備を整えた。IT企業と国産イノベーションの急増だ。

若い、「つながっている」世代によって、トルコは発明の発信源、および投資の標的になりつつある。国民の半数が30歳以下というトルコの推定大学卒業率は、イタリアを上回っている。人口の84%がモバイル機器を所有し、1100万人以上のトルコ人が今年初めてスマートフォンを買うと予想されている。最新データによると、トルコのFacebookユーザー数は3000万人以上で、これはフランスやドイツよりも多い。

若い世代とテクノロジーの急成長は、トルコが旧テクノロジーを飛び越していることを意味しており、多くの人々がバンキングやショッピングに、デスクトップではなくモバイル端末を利用している。トルコのEコマースにおけるモバイル端末利用は世界第3位で、トルコ人の400万人以上がモバイルバンキングを利用している。

企業は、国内外資を問わず、既にこの状況を利用している。昨年のトルコでトップ3の急成長企業は、モバイルあるいはネット支払いを柱にしている。国際的投資会社はトルコ企業の支援を始め、地元のエンジェル投資家やベンチャーキャピタル会社は既に新しいスタートアップを支援している

例えば、212 Cpital Partnersは最近3000万ドルの投資を行い、ドバイ拠点のAbraaj Groupは2007年以来トルコに8億ドル以上を投資して、現在5億ドルの同国専用ファンドを募集中だ。新しいスタートアップの多くは、日替りクーポン相乗りサービス食料品配達サービスのように、他で成功を収めたモデルを模倣している。一方、トルコ市場を賄うべく独自のアイデアを革新するスタートアップもいる。

例えば食品配送サービスのYemek Sepetiは、4400万ドルの資金を調達し、現在UAE、オマーン、カタール、サウジアラビア、レバノン、およびギリシャで運営している。トルコ版AirbnbのFlat4Dayは、71ヵ国に進出し、350万ドル以上の資金を調達した。Ininalもまた成功したスタートアップの一つで、クレジットカードを持たない若者に、国内20万箇所で利用できるプリペイドカードを提供した。2014年12月時点で、同社は2012年末の設立以来100万以上のカードを発行した。

スタートアップだけがトルコのつながっている社会の恩恵に浴しているのではない。多くの既存企業がこの国に大きなチャンスを見出している。最近Spotifyは、Vodafone Turkeyと提携してトルコでプレミアムサービスを提供することを発表した。他にも、GittiGidiyor.comに2億ドル以上で買収されたeBayやAmazon.com等の米国企業は、トルコのオンライン小売業の株を購入する形で、トルコ市場に参入している。また、南米拠点企業のNaspersは、トルコのオンラインファッション販売サイト、Markafoniを昨年買収した。

こうした投資は引き起こしたのが、オンライン小売分野の驚異的成長であり、Abraaj Groupによると、2007年以来店舗ベースの小売店よりも7倍速く成長している。

こうしたスタートアップやIT企業の成長は、政府による投資と奨励制度にも後押しされている。トルコ政府は一連の「テクノパーク」を構築し、企業の誘致と支援のために税額控除を施行して運用費用を削減することによって、ITセクターへの投資を促進している。この施設で開発されたソフトウェアは、所得税および法人税が免除され、あらゆる売上から付加価値税も免除される。

トルコの文化と歴史もこの成長を加速してきた。トルコ人は会社を起こして経営することの困難さをよく知っている。トルコ企業の97%は中小企業から成り、労働人口の80%がそこで働いている。

東西に挟まれた同国の地理的位置は、スタートアップや多国籍企業に格好の土壌を与える。世界中多くの大都市からわずかな飛行時間で来られることから、トルコで運営する企業はアジア、ヨーロッパ両市場に出入りし、ビジネスの英知に触れることかできる。

その地理的事情は多くの面で有利に働く一方、トルコ近隣国における不安定の増大は、投資家の間で懸念の材料となっている。しかし、安全保障問題は隣国国境の範囲内にとどまっており、地域に問題を抱えつつも、トルコ経済は順調に伸び続けている。

トルコ経済に対する評論は、エネルギーと基幹設備分野に大きく焦点を当てているが、抜け目のない投資家は、新たな成長分野としてITセクターに目を転じている。世界で最も革新的な企業の多くが既にトルコに投資しており、開花しつつあるスタートアップ経済は今後の投資を誘発するばかりだ。その起業家精神、既に成長中の経済、強力な通信基盤、そして魅力ある大きな市場と共に、トルコは地域および国際的イノベーションの中心地となろうとしている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

人工知能の最前線―人間の脳を真似るコンピューター

編集部注:この原稿はNTTデータの樋口晋也氏による寄稿だ。樋口氏はこれまで音声認識、コールセンター関連技術、SDN/OpenFlowと呼ばれるネットワーク技術の研究開発に従事してきた。近年は、情報社会の近未来を展望するNTT DATA Technology Foresightの技術リサーチを統括する立場にあり、ITに限らない幅広い調査レポートを公開している。また、樋口氏は金融、流通、製造、通信、国防などさまざまな顧客に最新動向を伝えるエバンジェリストとして活躍している。

「人工知能は原子力より危険」
「10年以内に現在の職の半分を人工知能が奪う」
「人類を超える速度で人工知能が科学技術を進化させる」

最近、このような話を聞くことが多い。この背景には、人間の脳のメカニズムを真似することで高い性能を発揮する人工知能の存在があるのだが、実際に人工知能技術の最前線について知っている人はそれほど多くはないだろう。本稿では、人工知能に関する最新の研究事例について解説を行う。そして、ビジネスの現状や人工知能が将来に与える影響についても触れたいと思う。

意味を理解し、自ら考える力を持ち始めたコンピューター

人工知能の実現には様々な技術が利用されているが、特に最近注目を集めているのはディープラーニングと呼ばれる人間の脳のメカニズムを参考にした技術だ。ディープラーニングはコンピューターの顔認識性能を人間と同レベルにまで向上させるなどの成果をあげている。

なぜ、ディープラーニングは高い性能を発揮できるのだろうか。それは、コンピューターが概念や意味を理解する力を獲得したからだと言われている。人間は長い生活の中で「生物は生きている」「人間は2本足で歩く」というような概念を獲得していく。これと同じようにコンピューターが多くのデータから「画像に写る物体の見分け方」や「日本語と英語の違い」を学べるようになってきた。これまでは人間がコンピューターに物体の見分け方を教えていたが、それが完全に自動化され、最近では「日本語の良し悪し」のような感覚的なものまでコンピューターが扱えるようになってきている。

ディープラーニングにより研究の内容も質的に変化している。最近の研究では、人工知能にプログラムコードを与えるだけで「繰り返しなどの制御文」や「掛け算や足し算の意味」を自動で理解させることに成功している(論文PDF)。2014年には人工知能に人間の短期記憶をもたせるニューラルチューリングマシンと呼ばれる技術が登場し、人工知能が自分で考えた結論を脳内に記憶することができるようになった。この技術は将来、人工知能に論理的な思考能力を与える可能性があり、多くの研究者に注目されている。人工知能にゲームの画面映像と得点情報のみを与えるだけで、人工知能が自身の力でルールを理解し、人間に近い得点をたたきだす研究も存在する。この研究では人間が睡眠中に記憶を定着させる仕組みを人工知能に適用することで、人工知能がゲームのルールを理解するスピードを格段に向上させることに成功した点が注目されている。

Google、Facebook、TwitterなどがAI関連企業を次々と買収

ビジネスを根本から変革しかねない人工知能技術をめぐり、各社の主導権争いが激化している。Googleは2013年3月にディープラーニングの創始者であるヒントン教授が設立したDNNresearch社を買収し、2014年にもDeepMind社を買収している。TwitterやYahoo!も人工知能ベンチャーを買収しており、中国検索サービス大手の百度(Baidu)やFacebookはシリコンバレーに人工知能研究のラボを立ち上げたほか、直近では自社イベントでその成果をお披露目したりもしている。昨年は人材確保を目的とした買収が頻繁に行われていたが、最近は少々落ち着きつつある。

近年、人工知能を活用したさまざまなサービスが提供され始めている。ディープラーニングを実際のサービスに適用している例として有名なのはAppleやMicrosoftで、この2社は音声認識にディープラーニングを適用していると言われている。Googleも画像検索や音声認識にディープラーニングを活用している。

人工知能が料理の新レシピを生むなど、創造的仕事でも活躍

人工知能は単純作業を効率化するだけではなく、人間の創造性や感性を扱う領域でも利用が拡大している。人工知能に画像と文章を提供するだけで自動的にウェブサイトをデザインしてくれるサービスは2015年春にリリースされる予定だ。他にもロゴを自動でデザインする人工知能や作曲を行う人工知能が存在する。ただし、ビジネスにおいて人工知能という言葉はバズワード化しているため、必ずしもディープラーニングを利用しているとは限らないことには注意が必要だ。今後のビジネスではコンピューターが作成したコンテンツを人間が手直しすることで効率化を行い、創造的な仕事を多数並行して進めるのが当たり前になるだろう。

人工知能には、よい意味で人間の常識がない。既に料理の世界では人工知能により斬新なレシピが提案され、将棋では新しい定石が生み出されている。将棋の世界では、人工知能がプロ棋士を超えつつあるため、人工知能はプロの指し手を学ぶのではなく、自己対戦から新しい知識を得る方向に進化している。チェスではプロ選手と人工知能の対戦ではなく、プロ選手と人工知能が協力して戦うような新しい対戦スタイルが実現されている。このように、今後は人工知能が新しい流行を創りだしていくと考えられる。

人工知能は社会に良い影響を与えるのか?

人工知能は人間でいえば脳にあたる。つまり、人間が行うあらゆる行動の支援に人工知能技術を適用できると言える。人工知能により自動運転車が悪路走行などに柔軟に対応できるようになれば、社会のインフラとして根付いていくだろう。コスト削減圧力の高い物流の世界は、それほど遠くない将来に自動運転車により自動化されると思われる。現在の技術レベルでは、言葉の意味理解や感情把握などの人間的な分析については、まだまだ人間がコンピューターに勝っている。そこで、人工知能に言語や感情を分析させるのではなく、まずはモノが発するデータを分析させようとする潮流も生まれている。全てがインターネットにつながり、データ収集が可能になることをIoE(Internet of Everything)と呼ぶが、その世界では人工知能技術の適用に大きな期待が寄せられているのだ。

人工知能はビジネスだけではなく社会にも影響を与えていくだろう。これまで政治などの世界では少数意見が見逃される問題があったが、技術が進展していけば、人工知能がネット上の意見の類似点や相違点を可視化し、社会が見える化される可能性もでてくる。少数意見にきちんとスポットライトがあたれば、世論形成にも影響を与えると想定される。オセロの世界では、人工知能が人間の理解を超える手を指すことを「神の手」と呼んでいるが、これと同じことが政治の世界でも生じる可能性がある。人工知能が一般市民に理解できない「神の政策」を提示した場合に、社会がその意見に従うのかどうか、というのは興味深いテーマであろう。

人間の価値観が過去の経験から形作られるのであれば、人工知能が人間の創造性を超えるものを生み出す可能性もでてくる。ピカソの絵をみて素晴らしいと感じるにはある程度の絵画の知識が必要だと筆者は感じている。おふくろの味が懐かしく感じるのも過去の経験が価値観に影響を与えている例だろう。逆に言えば、過去のデータを分析することで新規性があり、かつ心に響くものを人工知能が生み出せる可能性がある。このように価値観の面でも人工知能は人間に影響を与えるようになると考えられる。大量の個人データを収集できれば、亡くなった人の人格を仮想的によみがえらせるサービスなど、技術の発展に合わせ現在では予想もつかないサービスが次々に生み出されていくだろう。そして、過去の経験からこれを許容できない人が現れ、新しいサービスの是非をめぐり、社会的な論争が行われると予測される。

人工知能がもたらす新たな課題

ビジネスで人工知能を利用する場合、いかにデータを集めるかという問題がある。人工知能を動かすには大量のデータが必要になり、たとえ多くのデータを持っていたとしても、それを使えるように整形するには多くのコストがかかる。データが個人情報であれば、取り扱いにも注意が必要だ。ディープラーニングには演算量の問題も存在する。この問題への対応としては、グラフィックボードを人工知能の処理に流用する方法や特定処理を高速に演算可能なFPGAプロセッサを利用する方法など、さまざまな高速化の工夫が行われている。

社会的な問題としては、やはり失業が注目されるだろう。ロボットに高度な人工知能が搭載されれば、工場のオートメーション化が今以上に進み、多くの失業者を生むことが懸念される。iPhoneなどの製造で有名なFoxconn社がGoogleと協力して組立用ロボットを開発するなど注目の動きもいくつか存在する。もう一つ心配な点はテロへの応用だ。例えば100台のドローンに人工知能と爆発物が搭載され、ターゲットの顔を認識し、自動で追尾する様子は恐怖以外のなにものでもない。人工知能の装置が小型化されれば、このような悪用も簡単になる。

技術の進化は基本的に人間の能力を高める方向に働く。人間が高度な技術を手にすれば、良いことも、悪いことも簡単に行える。筆者は、変にマイナスの部分だけをみて将来を恐れるのではなく、しっかりと現在の技術動向を理解していくことが重要だと考えている。そして、過渡期には人工知能が悪用される場合もあると思うが、最終的には格差の解消や相互理解に利用され、社会をよりよくしてくれると信じている。

誰も教えてくれないけれど、これを読めば分かるビットコインの仕組みと可能性

Bitcoin

編集部注この原稿は朝山貴生氏(@takaoasayama)による寄稿である。朝山氏はビットコインと国産暗号通貨のモナーコインを扱う国内向け取引所の「Zaif Exchange」(ザイフ)を2015年3月初旬にオープンしたテックビューロの創業者で代表取締役。暗号通貨関連サービスを開始、運用している立場から書かれた解説記事だという点は留意してほしいのだが、一方で、表層的な理解だけで「胡散臭い」と遠巻きに眺めているだけにするには、暗号通貨やブロックチェーンは、あまりにも重要な技術トレンドだ。以下の原稿を読めばその理由がわかるだろう。ネットに載せるには、かなり長い文章だが、ブックマークしておいて後でじっくり読んでほしい。現在の銀行間の送金システムから説き起こしているので、これまで技術用語の多さにビットコイン入門ができていなかった人でも分かりやすくなっている思う。意見や質問などがあれば、コメント欄に書くか、@jptechcrunch@takaoasayamaまでお知らせいただければと思う。

ビットコインは本当に怪しくて危険なのか?

2014年、日本のメディアでも華々しくデビューを果たしたビットコイン(Bitcoin)。しかしその登場シーンは、ビットコイン取引所Mt.Gox(マウントゴックス)の破綻という最悪のニュース。同社は日本に本社を置くにもかかわらず、当時は世界最大のビットコイン取引所だった。そのMt. Gox社が、約490億円相当ものビットコインを「盗まれた」と宣言し、その事がたちまちメディアを賑わせた。

Mt. Gox事件の真相は闇の中であり、いまだに各国の機関において調査が継続している。しかし、当初からはっきりしている事実はただ一つ。これは単に、ユーザーのビットコインを預かっていた取引所であるMt. Goxが破綻しただけであり、ビットコイン自体には何ら問題がないということだ。しかし、それから1年以上経った今でも、日本のメディアでは依然ビットコインにネガティブなイメージがつきまとう。

ところが、それら「怪しい」、「盗まれてしまう」、「消えてしまう」、「信用できない」といったイメージは全くの誤解だ。むしろビットコインは「取引は全て透明性が高く」、「盗むことは非常に困難」であり、「消したくとも消せない」もの。そしてある意味一般的な通貨や銀行よりも「信用できる」ものなのである。ただし法定通貨に対しての、金よりも激しいとされるその価格変動性(ボラティリティ)を除いては、という条件付きだが。

ビットコイン本来の素晴らしさを証明しようと、ビットコイン擁護派がイメージ回復のためにどれほど躍起しようとも、その利点を説明するためには常に技術的なボキャブラリーが欠かせず、それが更に印象を悪くするという悪循環を生んでいる。中でも、ビットコイン自体が生み出した「暗号通貨(Crypto Currency)」という言葉が示すとおり、その根幹となる「ブロックチェーン技術」を説明するためには「暗号」という言葉が避けて通れない。この、「暗号」という言葉が「怪しい空気」を醸しだし、一般人とビットコインとを隔てる溝をより深くする。

と、以上冒頭の4パラグラフだけでも「意味がわからん!タイトル詐欺ではないか!」と、続きを読むことをためらう方もおられるに違いない。

実際に私自身も、この何年間にも渡って、ビットコインをできるだけ簡単に説明する方法をずっと考えてきては諦めることを繰り返していた。そして今までにも日本語で、「これを読めばわかる」的な記事もいくつも出てきてはいるが、やはり一般的に理解されるようなレベルの内容ではなかった。

どうしても、難解な用語とその説明を避けて通れないのだ。

しかし何年も考え続けてみるもので、突如深夜の入浴時にその説明法に関するアイデアがわき出した。

ロールプレイで理解しやすくなる

その時、私がビットコインを説明する方法として思いついたのが「ロールプレイ」だった。

まずは、あえてビットコインの根幹となる暗号技術についての詳細を端折ることにより、その原理と仕組みを比喩的に理解してもらおうという作戦だ。要するに、一番売りである技術的セールスポイントをまずなかったことにして、概要を理解したあとでそこを埋めるという、ビットコイン推進派としては回り道な啓蒙戦術だ。

しかし技術用語を無視するとしても、「P2Pネットワーク」やら「Proof of Work」(後ほど説明)やらといった、ビットコインをビットコインたるものにする特徴の説明が非常に難しい。そこを架空の「役割」を持ったキャラクターが存在する世界で考えることによって、難しい技術用語が苦手な人にも想像しやすくしようと考えたのだ。

ここから続きを読んで頂ければ、あなたにもビットコインがどういうものなのかを理解して頂けるに違いない。そう願う。

では早速その「ロールプレイ」の世界に行ってみよう。

一般的な銀行とお金の仕組み

実は、全く知識のない人にビットコインを説明する際に、「銀行」や「日本円」といった法定通貨と比較することは逆効果である。

当然、それらの比較自体は有効な手段なのだが、原理を説明せずにそれらの違いを話そうすると「それ、電子マネーみたいなものやん?どこが違うの?」で片付けられてしまうのだ。最悪の場合は「中央管理者がいない? それって信用できるどころか逆に不安やん?」と気まずい雰囲気の中そこで話が終わる。

しかし、今日はあなたが遂にビットコインの原理を理解する日だ。従ってその比較は有効だ。まずは一般的なお金や銀行の世界を、それぞれの役割を担った「ロールプレイ」の世界で見てみよう。

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通常、お金は国=政府(Dくん政府)が発行している。Cくん銀行は、Dくん政府の許可をもらって銀行業を営んでいる。

AさんもBくんも、Cくん銀行に審査を受けて、それに合格した上で「銀行口座」を持っている。

AさんやBくんが預けた現金は、実際に元帳上にはその金額が残高として載ってるが、実はCくん銀行がEさんなどに貸し付けて利息を受け取っている。Cくんはその利息やその他の手数料で生計を立てているのだ。

ある日BくんがAさんに1,000円を振り込んだ(振り替え)。通帳の残高は振込手数料が取られて8,500円に減ったが、その実態は、単にCくんが元帳で「Bくんの残高が1,500円減った」ことと、「Aさんの残高が1,000円増えた」ことを書き込んだだけだ。その差分の500円は、元帳に書き込む手数料としてCくんのものになる。

これが一般的な銀行だが、もしあなたがBくんである場合、ここで起こっていることの全ては日々当たり前に行われている行為であり、一連のお金の流れは「信用するに足りる」話に聞こえるだろう。誰かに1,000円振り込んだら、相手にお金が入って、自分のお金が減る。そして手数料が取られる。引き出せば現金がATMから出てくる。なんて日常的な話なのだろうか。

その当たり前の話が通じるのは、財政が比較的安定した、日本を含む一部の近代国家における銀行の話。世の中には国民が銀行を信用しない国もある。以下では、そのような財政が破綻した国家とその銀行のような、預金リスクが最大である環境を想定して書いてみよう。

あなたの銀行残高は本当に存在するのか?

では、本当にあなた(Bくん)の残高8,500円は銀行に存在しているのか?もしそうでない場合は、誰かが保証してくれるのか?

事実として、銀行に預けられた現金のほとんどはそこにはない。銀行は、なんと預かっている合計金額よりも大きい金額を外に貸し出すことができるのだから。

実際、この銀行という仕組みはあなた(Bくん)が、お金を発行するDくん政府と、銀行を営むCくんを信用しているという前提において成り立っているのだ。

「銀行が信用できなくてどうする?」

そう思われる方も多いだろうが、日本でも1金融機関1預金者あたり、1,000万円までが保護される仕組み(ペイオフ)が導入されていることはご存知だろう。ペイオフ解禁で補償額が制限されてしまったものの、このような仕組みがあるだけでもまだ恵まれている。米国も同様のFRB制度が設けられているが、こんな制度さえない国家も山ほどある。

ようするに、お金を借りているEさん達が一斉にCくん銀行からの借金を踏み倒したり、Cくんがそもそも銀行の経営に失敗した場合、あなた(Bくん)のお金はなくなってしまう可能性があるということだ。

その場合、あなたの通帳に残高データはあっても、銀行にはもうそのお金さえもないのかも知れない。

銀行の残高データは消えてなくならないのか?

次に、違う切り口から極端な例を考えてみよう。

ある日誰かが、Cくんの管理する銀行の元帳に火をつけた。Cくんは念のため、バックアップとして常に3冊同じ記録をつけて、別々の場所に保管していた。しかしそれらもなぜか同時に火を付けられた。

その場合、あなた(Bくん)のお金(残高)はどうなる?

そう。消えてなくなる。記録、すなわち残高のデータが消えてなくなってしまうからだ。

現実世界にあてはめると、「もしあなたがお金を預ける銀行が管理する全サーバーが一斉に爆撃されたらどうなる?」と言ったところだろうか。

現実社会ではまずそんなことが起こる確率は低いし、先進的な銀行では当然のことながらサーバーも複数箇所に分散して管理してている。

ではこんな場合はどうだろう?

本当に銀行は信用できるのか?

Cくん銀行自体が私利私欲のために、あなた(Bくん)の知らないうちに、その残高である8,500円を元帳上でこっそり自分の名義に書き換えた。その場合、あなたの残高は当然消える。Cくんによる、いわゆる業務上横領である。

さすがに、現代の金融機関システムをそんな風にアクセス権限を飛び越えて違法に操作することは難しいが、今日でも銀行員が預金者の金を横領するなどいう古典的な事件はたびたび起こっている。

その場合、損失を銀行がカバーしてあなたの残高に戻すわけだが、人手を介する業務プロセスがゼロとならない限り、そう言った横領事件が世の中からなくなることがない。

あなたも、今までに友達と人生ゲームをプレイしたことがあるならこんな経験があるに違いない。銀行役をしていたプレイヤーが、ずるをして自分の手元のキャッシュをこっそり増やしたり、トイレに行っているプレイヤーのキャッシュを悪戯でくすねる。それを見つけた他のプレイヤーが怒る。あれが現実にも起こりうる言うことだ。

銀行は大丈夫だ。預金なんてなくならない。実は私も以前はそうだろうと考えていた。しかし、15年以上も前のことであるが、突然欧州の某国で、とある銀行に預けている残高をいきなり半分にされた。たった一通の通知を封書で送りつけられるだけで。銀行が破綻して、残高の半分を再建の原資に回すというのだ。当然、その国には日本のペイオフのような制度はなかった。

人が運営して経営している以上、銀行というシステムには必ずこのようなことが起こりうると言うことだ。

では、国なら信用できるのか?

もし、Dくん政府が国の財政政策で失敗したらどうなるだろう?Dくんがお金を発行しまくったらどうなるだろう?預金の消失を免れ、銀行の残高データは変わらずとも、あなた(Bくん)のお金はただの紙切れになるかも知れない。例えば、缶コーヒーが1本1万円になるかもしれない。

「そんなの、金の純度を下げてでもコインを作りまくった、古代ローマ帝国の話じゃあるまいし」と思われるかも知れない。しかしこの21世紀にも、現実として数多くの国が金融危機に陥っている。近年だけでも、ギリシャ、アルゼンチン、キプロス、その他多数。そんなとき、あなたがCくん銀行に詰め寄って残高を現金化しようとしてもシャッターを閉められ、もし一部を現金化できても日々その価値が下がり、紙くず同然になってしまう可能性だってある。

銀行を信用するしない以前に、国もしくはそれが発行する通貨が破綻してしまっては元も子もない。

ちなみに、皮肉なことにそんな財政破綻しているような国々で特にビットコインの利用が激増している。キプロスでは学費をビットコインで払えるし、アルゼンチンではコンビニでペソをビットコインに両替できる。

さて、以上までの、既存の国家やお金、銀行で起こりうる問題をざっとまとめ直すと以下の通りとなる。

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「中央集権」で、誰か人間が運営管理している限り、既存の法定通貨や銀行のシステムではこのような問題が発生する可能性があるというのが事実だ。

さて、私が今日したいのは、日本円や日本の銀行でこんな問題が起こりうるかどうかの議論ではない。繰り返すが、これは金融リスク、預金リスクが最大の環境で実際に起こりうる最悪の問題を「ロールプレイ」した結果のまとめである。

ここまでは、あくまでも既存金融システムに潜んだリスクを理解するための前置き。以上を踏まえた上で、ここからやっとビットコインの仕組みを見てみよう。

ビットコインは単なる電子マネーではなく決済システムだ

まずビットコインは、本当はいわゆる「通貨」ではなく、「電子マネー決済システム」だ。違うことを言う人もいるが、これはビットコインを発明したナカモトサトシの論文タイトルと序章にも書かれている事実だ(これは後ほど紹介)。

ビットコインというのは、何か物理的なものが誰かから誰かに渡っているわけではなく、誰にいくつ発行され、誰から誰にいくら支払われたかのデータを記録する仕組みだ。ところが、その名称だけではなく、単位自体もビットコイン(よくBTCと略される)と呼ばれるから話がややこしくなる。

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よくビットコインは「暗号通貨」と言われるが、それは実際に通貨のように使えるから便宜上そう呼んでいるに過ぎない。そして、お偉い学者さんの間でも、いまだにビットコインが通貨であるかどうかの議論が続いている。

実際あなたが日本で使う電子マネーも、同じ決済システムの一種である。その場合はあなたがチャージすると、現金と等価交換でその金額が残高としてどこかに記録され、コンビニで使えばコンビニにその残高が移行したとして記録される。どこかにEdyやSuicaなんていうコインが置いてあるわけではない。

繰り返しになるが、ビットコインも「Bitcoin」というコインが存在していて、誰かがそれを管理しているなんてわけではない。ビットコインはお金ではなく、決済システムだと言うことをまず覚えておこう。

「ビットコインも現金で買うんじゃないの?」という問いへの答えは「イエス」だが、それはあくまでも勝手に第三者が現在のバリューで売買するサービスを提供しているだけだ。だからビットコインは常時価格が変動する。それに対して一般的な電子マネーは、サービス運営者がその買い取り自体を手数料ビジネスとしている。上のコンビニの例で言えば、客から支払われた電子マネーを、手数料を差し引いて買い戻す訳である。

しかし、ビットコインはEdyやSuicaみたいな電子マネーとは「全く違う」。根本的な思想からして違うのだ。

ビットコインはオープンだ

実は、ビットコインはソフトウェアだ。そして、それは「オープンソース」という仕組みで、プログラムの中身(ソースコード)がそのまま一般公開されている。要するに、誰もが中身を見て、無料でインストールできる。

「さっき、ビットコインは決済システムって言ったやん?」

そう。ビットコインは中身が丸見えで、誰でもインストールできる決済システムのソフトウェアだ(インストールについての話は後ほど)。

中身が丸見え、ということは、プログラムが読める(書ける)世界中のエンジニアが、その中身に不正が潜んでいるかどうかも自由に精査できると言うこと。

では、そのプログラムは誰が作っているのか? というと、世界中の有志であるエンジニア達だ。しかも、世界でトップレベルの人材が集まっていると言っても過言ではない。

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かつて銀行システムの黎明期に、システム開発者が全ての計算を「切り捨て」にして、端数を全部自分の口座に入れていた不正が発生したことがあるとかないとか。そんな不正がビットコインでは不可能だと言うことだ。

銀行システムの場合、開発を請け負う業者が徹底的に不具合を精査して、運営に差し支えないようしらみつぶしにつぶす。ビットコインだと、世界中の有志であるスゴ腕エンジニア達がそれをつぶす。

あなたが使っている電子マネーや銀行のシステムが、その中身を「公開」しているなんて聞いたことがあるだろうか?そんなことはセキュリティー上絶対にあり得ない。

ビットコインは全てが公開されているから、世界中の誰にでも精査や監査ができて、「仕組み自体には不正がない」と言い切れる、「信用できる」決済システムなのである。これはOSやサーバー、セキュリティ関連のソフトウェアといったインターネットを支える基盤技術で、オープンソースのものが成功していることとも無関係ではない。不特定多数の人の目にさらされて、常時改訂を繰り返しているからこそ信用できるのだ。

発行量までオープン

一般的なお金では、その法定通貨という名が表すとおり、国が発行して流通をコントロールしているということだった。よって、国が財政に失敗したり、通貨を発行しすぎたりすると、お金の価値がどんどんと下がってしまう可能性もある。

しかし、ビットコインでは先ほど説明したとおり、全てのプログラムが無償で一般公開されている。その中には、なんとビットコイン自体が発行される量までが最初から組み込まれており、そのルールまでもが全てオープンに公開されている。

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ビットコインでは、公開された2009年から毎日ほぼ10分ごとに発行されているが、およそ4年ごとにその発行量が半減し、合計2,100万ビットコインを上限とすることが最初から決まっている。

2015年3月時点で既にもうその半数以上が発行されているが、また2年後である2017年に発行量が半減する。

次第にその発行量は少なくなり、ビットコイン自体の価値が陳腐化しないように計算されている。

日本円や米ドルのように、中央管理する誰かが発行量や流通量を決めて価値をコントロールしているわけではなく、ビットコインは最初からこの先どのように発行されていくかが明記されているという、極めて「透明性が高く」、健全な仕組みなのだ。

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では、誰がそのソフトウェアを何に入れて、何のための動かしてるのか?

その疑問は先送りにして、アカウント(口座)の概念をまず見てみよう。

ビットコインのアカウントは自分で勝手に開く

先述の通り、銀行で口座を開設するには、あなたは印鑑を押し、身分証明書を提出して開設を申し込まなければならない。

銀行はあなたが反社会的勢力でないかどうか、過去にその銀行で問題を起こしたことがないかどうかなどを調べた上で、あなたの口座を開くかどうかを決める。言い換えれば、「あんたなんかには口座を開いてやらない」と拒否されることがあるということ。全くの誤解で口座が開けない、なんてこともある。

実は、ビットコインには管理者がいない。その説明も後回しだが、ビットコインには「口座の開設」という概念がないのだ。当然管理者がいないので審査なんてあり得ない。「僕、ビットコインの口座開きたいんだけど、方法を教えてください」。そんな質問に、「勝手に自分でいつでも開けるでしょ?」と、ちょっと詳しい気取りの人からそんな冷たい答えが帰ってくる理由はここにある。

ビットコインではあなたの(口座番号にあたる)アドレスは、あなたがそれを勝手に自分のものと決めて使い始めることによってあなたのものになる。

言わば「今日からこれが俺のアドレスや!」と勝手に宣言するのだ。

ではどうやって?

ビットコインのアドレスは一人100万個でも持てる暗号鍵

世の中には「乱数」という言葉があるのをご存じだろうか?その名の通り、「ランダム」に発生させた数字である。ビットコインの暗証番号にあたる文字列は、その乱数を元にして作られる。

実際の乱数はプログラムが発生させるのだが、めちゃくちゃ乱暴に端折って例えると、ビットコインでは70回ほど10面サイコロを振った数字を出して、それを文字列に変換したものがまずあなたの「暗証番号」にあたるものになる。正式名称は「秘密鍵(Private Key)」。色んな形式があるが、使いやすい形式では最終的に「5」から始まる51文字の英数字に変換されている。

例えば、こんな感じ。「5Kb8kLf9zgWQnogidDA76MzPL6TsZZY36hWXMssSzNydYXYB9KF」
(残念ながら私の秘密鍵ではありませんのであしからず)

その秘密鍵を難しい暗号プログラムに通すと、それが「1」か「3」で始まる26文字から35文字の文字列になる。しかも、間違えられにくいように(??)見分けにくい小文字の「l(エル)」と大文字の「I」、数字の「0」と大文字の「O(オー)」は含まれない状態で。これは、飛行機の座席で「I」と「1」が見分けにくいから「I」席が存在しないのと同じ感じだ(笑)。こちらの文字列の正式名称が「公開鍵(Public Key)」。しかし通常は「ビットコイン・アドレス」(Bitcoin Address)と呼ばれる。これがあなたの「口座番号」にあたる。

例えば、こんな感じ。「1P95EfkCvo6HcPN21eVc3aPvzxqEjjGtQy」
(送金を是非お待ちしております(笑))

この「暗証番号」にあたる「秘密鍵」からは、そのプログラムを通せば誰でも「口座番号」にあたるまったく同じ「公開鍵」が作れる。しかし一方通行なのでその逆はできない。「公開鍵」から「秘密鍵」は推測できない。

ちょっと難しい説明になってしまったが、完全に理解する必要はない。ビットコインの根幹には、この「公開鍵暗号」という技術が使われていることだけ頭の片隅に置いておこう(後でもう一度簡単に説明する)。

ここで言いたかったのは、ビットコインの利用においてはこの「秘密鍵」が絶対的な存在だということ。もしこれが他人に渡れば、自動的に「公開鍵=アドレス」を教えることになるのは当然のこと、秘密鍵を持つ人物はそのアドレスにある残高を全て自由に送金することができてしまう。

冒頭でも触れたMt. Goxの破綻。それも、何万という客から預かっているビットコインを管理する秘密鍵が直接犯人の手に渡ったか、もしくはそれを操作する仕組みに違法にアクセスされたか、そのどちらかが起こったと言うことになる。
もともと個人情報を紐付けた「所有権」が存在しないので、「秘密鍵」が他人に知られた時点で、コントロールを失う。これについては自己責任だ。

そこが銀行口座とは違う。その残高や送金を誰も保証してくれない。

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もう一つ注目すべきポイントは、実は技術的な話を端折ってさらっと簡単に「10面サイコロを70回振る」と表現した部分。これは要するに、70桁以上の数字が無作為に作られて、変換されてあなたの「秘密鍵」になるということ。

アドレスとして使えるその数は、星の数ほどの組み合わせがあって、計算上あまりにもバリエーションが多すぎて他人のそれとダブることはない。そんな原理で、ビットコインのアドレスは作られる。

例えば、76桁の数字だとこんな感じ。
「5,738,109,574,369,060,248,638,013,835,744,990,135,867,462,664,001,844,289,011,300,385,771,209,384,756」

世界人口が72.5億人だといわれているが、その数字でもこれだけにしかならない。
「7,250,000,000」

どう見ても他人と数字がダブる桁数には見えない。

従って、このアドレスはプログラムを通したら誰でも簡単に作れてしまう。一人当たり、いくつでも作れてしまう。だから、もし必要ならばあなたは100万ビットコインアドレスだって持てる!

では、そのアカウント間の送金はどうやって動くのだろう?

ビットコインは元帳までオープン

送金の仕組みを見る前に、金融システムに必須な元帳の仕組みを覗いてみよう。冒頭で見た銀行の概念を、根底から覆す仕組みがここに登場する。

ビットコインでは、元帳の内容まで全てオープンなのだ。しかも、スタートした2009年から全ての支払い記録(トランザクション)が誰にでも入手できて閲覧することができてしまう。この部分だけでも、もう金融システムとしては非常識きわまりない。

ここで、先ほど後回しにした「ビットコインのインストール」についての話が登場する。

ソフトウェアとしてのビットコインは、そのルールに従って様々なバージョンが作られており、色んなハードウェアで動かせる。PCはもちろんのこと、専用機もあるし、やろうと思えばあなたが持っているスマートフォンで動かすことだって可能だ。

実際にソフトウェアとしてのビットコインを自分のPCにインストールすると、2009年から始まったその何十ギガバイトという元帳データをダウンロードして同期することから始まり、ひどい場合にはそのデータ同期には数日以上もかかる(ただし元帳データを同期しないようにもできる)。

「そんなことしたら、僕の支払いがみんなに丸見えで、プライバシーもくそもないやん!」

そう考えるのはごく自然だが、先ほど説明したとおり、ビットコインには個人情報は一切関係ない。存在するのは、ランダムに作られた無数の「アドレス」だけ。その元帳には、「どのアドレスからどのアドレスにいくらビットコインが送金されたか」だけしか書かれていない。

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よく、ビットコインは「違法なビジネスに使われやすい」とか「匿名で送金できる怪しいシステム」と言われる。実際にアドレス間のやりとりだけで成り立っているからそう言われるのは仕方ないのだが、アドレス間の送金は全て記録されていて、一般に公開されているのである。

もし、あなたがAさんとBくんの「アドレス(公開鍵)」を知っていて、BくんがAさんに送金した場合、その元帳を検索すれば、その支払いの時間と金額について知ることができる。

それが、冒頭に言った「ビットコインの透明性が高い」理由だ。

これって、よく聞くビットコインのイメージである「匿名性」と相反するように聞こえないだろうか?

ビットコインは、アドレスの所有者については「匿名性」が高く、アドレス同士のトランザクションについては「透明性」が高いのである。

よく「ビットコインがマネーロンダリングを容易にする」などと言われるのだが、アドレスを個人情報と結びつけることが困難なだけで、送金された内容を見るには、時間さえ掛ければ全てその記録から追いかけられるのである。その点では、既存の金融機関を駆使したマネーロンダリングに比べれば、よほどトレースしやすいと言える。銀行間のマネーローンダリングであれば、わざわざ経由した銀行全てに開示命令を持って、それぞれ個別に情報を取らなければならないのだから。

ビットコインで多額のマネーロンダリングを行っても、大金はどこかで現金にするしかない。アドレス間でぐるぐるたらい回しにしてから、デルのPCをビットコイン建てで大量に買い付けても(アメリカではデルもビットコインで払える)、売却と現金化が大変だしそこで足が付く。現行のマネーロンダリングでさえ、犯人の検挙には入り口と出口、中継地点となる口座での個人情報との紐付けが必須だ。知識と手順、手間の問題だけで、結局、ビットコインを使ったマネーロンダリングの検挙と、手間はそう変わらない。

一部のお偉い方達は、理解が難しいビットコインを怪しく思い、必要以上に危機感を感じているというわけだ。

ただしビットコインの場合も、複雑に送金を繰り返して追いかけにくくするようなサービスは存在している。ビットコインもあくまでもツールであり、実際の金融機関と同じく、そこに寄ってきて悪用する嗅覚の鋭い犯罪者がいるというだけの話。

いずれにせよ、銀行の仕組みではその元帳の公開など絶対にあり得ない。むしろセキュリティ上あってはならない。ビットコインでは、それが公開される前提で作られている仕組みだということだ。ビットコインはこのように、「極めて透明性が高い仕組み」であることを覚えていて欲しい。

中央管理者がいない?

ビットコイン推進派があなたにアピールしてくるとき、「中央管理者いないんだぞ!」や「非中央化されてるんだぞ!」、果てには「Decentralizedやで!」など謎めいた言葉を投げかけてくるだろう。必死なその言葉が宗教的に聞こえてしまうこともあるかもしれない。

実はビットコインの送金を理解するのに必須なのは「非中央化(Decentralization)」の理解。しかし、あなたの頭に浮かぶごく自然な疑問は「管理者がいなくて、金融サービスが動くわけないやん」ということ。

ここでは一旦その「Decentraなんとか」のことは忘れよう。

乱暴に言い換えれば、ビットコインは「ネットワーク参加者全員が管理」しているのだ。

冒頭の銀行の説明では、Cくんが銀行を管理運営していた。バックアップの元帳を別の複数箇所に管理していようが、これは「中央管理(Centralized)されている」と言う。法律や規制はあれど、Cくんの気持ち一つで不正や横領どころかサービス閉鎖も自由なのだから。

しかし、「ビットコインはオープンである」と説明したところで出てきたように、ビットコインは誰でも無料でダウンロード出来てしまう。すなわち、それを動かせば、誰でもビットコインの管理者(正しくは管理者ではないけれどその説明は後ほど)になることができるということ。

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では誰が、何の目的でわざわざそんなソフトウェアを入れて動かすのか?

ただのボランティアなのか?そしてそんな管理者もいない無秩序に聞こえる世界で、どうやって送金の仕組みが動くのか?それを解き明かすために、再びロールプレイの世界を見てみよう。しかも、前回よりは遥かにドラマティックな展開を見せるロールプレイを、さらにそのプレイヤー達に近い視点から。

ビットコインは少数点第何位まである?

今回は、BくんからAさんに1,000円ではなく、0.1BTC(ビットコインの略)を送金する場合で考えてみる。

「ん? ちょっと待った!0.1BTC? 少数点あるやん?」

そう。実はビットコインの最小単位は1ではない。日本円にも、かつては1/100円である「銭」という単位があった。

ビットコインの最小は0.00000001(=1億分の1)BTC。1ビットコインは2015年3月25日現在約3万円だから、最小単位を円に換算すると0.0003円ほどだ。この最小単位を、ビットコインの発明者のナカモトサトシに敬意を表してビットコイン業界(笑)では慣習的に1 Satoshiと呼ぶ。

しかし、実際にはビットコインで送金できる最小金額は仕様上5,460 Satoshiとなっており、この金額未満はDust(くず)と呼ばれる。日本円に換算すると約1.638円だ。この額以上であれば送金が可能なので、ビットコインは充分に魅力的な少額決済が可能なシステムとも言える。

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クレジットカードは送金(決済)のコストが高いので、10円なんて死んでも決済したくない。(元々クレジットカード決済事業を営んでいた私から見て、これはホンネの表現)。特に日本では大赤字になる。銀行は振込手数料さえ支払えば10円でも振り込んでくれるが、さすがに利用者の割に合わない。

さて、話がそれたが、BくんからAさんへの送金がどう処理されるかに視点を戻そう。ちなみに先ほどの円換算で言うと、約3,000円ほどの送金である。
「ビットコイン・ネットワーク」の参加者が送金処理を請け負う

ソフトウェアであるビットコインは誰でも無料で入手して、インストールすることができることは既に説明した。そのソフトウェアをインストールしていると、誰でもすぐに「ビットコイン・ネットワーク」に参加することができる。今日からあなたでもできる。

その参加者は、「ビットコイン・ネットワーク」上で他人の送金決済の承認を担うノード(node=接続ポイント)の一つとなるのだ(このノードと言う言葉もよく使われるので覚えてしまおう)。

では、そのネットワーク参加者(ノード)の間で何が起こっているのか。

ここでは、Oくん、Pくん、Qくんがソフトウェアであるビットコインを動かしていて、ネットワークに参加しているとしよう。わかりやすいように、PCではなくスマホ上でソフトウェアとしてのビットコインを動かしていることにする。3人ともスマホはインターネットにつながっている。この3人は立派な「ビットコイン・ネットワーク」上のノードだ。

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送金したい者は、インターネットにつながっている、いずれかのノードにその旨を伝えればよい。それだけで直ちに送金処理が始まる。
全ての送金依頼は「公開鍵暗号」で「電子署名」される

では、BくんがAさんに0.1BTCを送金したい場合はどうすればよいか?

Bくんは、先述の自分の(暗証番号にあたる)「秘密鍵」を使って、自分のアドレスからAさんのアドレスに対して0.1BTC送金したい、という情報をそのネットワークに流す。

ここでは、わかりやすくするために、Aさんのアドレスは「xxxxxxxx」、Bくんのアドレスは「yyyyyyyy」ということにしておこう

ややこしい暗号技術の話は端折る約束だが、簡単に説明すると「秘密鍵」を使った電子署名は、その「秘密鍵」を知っている人間にしかできない。これで作った「(Bくんのアドレス)yyyyyyyyから(Aさんのアドレス)xxxxxxxxに送金したい」という情報は、yyyyyyyyの「秘密鍵」を握るBくんにしか作れないのである。

しかし、他人からはBくんの「公開鍵」を使えば、これはBくんが作ったものだとちゃんと確認できる。しかも、この場合Bくんの「公開鍵」はBくんのビットコインアドレスそのものだから、それをそのまま使えば「これはちゃんとBくん本人が作った送金リクエストだ!」と本人確認できてしまう。

アドレスの作り方を説明したところから出てきたこの「公開鍵暗号」という仕組みは、「電子署名」という名の本人確認ができてしまう非常に便利な仕組みなのだ。

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通常の銀行送金の場合であれば、インターネット上でつながった銀行のウェブサイトにそのパスワードを入力せねばならない。だから、PCに怪しいマルウェアが仕込まれていたりすれば、パスワードが第三者に漏れて残高を盗まれる可能性も高まる。実は日本だけでも、一般預金者がそんな被害を年間何十億円も被っている

ところがビットコイン送金で必要なこの電子署名は、インターネットにつながっていない端末でも署名することができる。いったん署名した情報は他の誰にも改ざんできないから、安全に依頼ができるというわけだ。

それこそ、インターネット接続を切ったスマホでまず電子署名して、それからその署名したファイルを他の端末に移して送金リクエストを出すことだってできる。こんなにも安全な送金依頼方法は、既存の金融システムではまずありえない。

ビットコインはP2P電子マネー

さてBくんは、早速その送金リクエストの情報をOくんのノードに投げた。

「yyyyyyyy(Bくんのアドレス)からxxxxxxxx(Aさんのアドレス)に
0.1BTCを送金 by yyyyyyyy(電子署名済)」

そして、一つのノード(Oくん)に送り込んだ送金リクエストは、インターネットでつながった全部のノードに一気に広がる。

ここで初めて、ビットコイン好きな人からよく聞かされる言葉である「P2P(Peer to Peer)」が理解しやすくなる。

オンラインバンキングのように利用者が一斉に一カ所に用意された中央サーバーに接続する(「クライアント・サーバー方式」と呼ぶ)のではなく、それぞれのノードが蜘蛛の巣のようにインターネット上でつながって、個々のノード同士がが情報を交換するから、この仕組みを「P2P方式」と呼ぶ。

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図の右側では、BくんもGくんも両方同じCくん銀行のサーバーに接続している。しかし、図の左側のビットコインでは、手元で作った送金リクエストファイルを、好きなノードに投げるだけで良い。

よく知られているソフトウェアでは、インターネット電話のSkypeがこのP2P接続で成り立っている。音声を、無数にいる利用者の端末を都合良くつないで経由するのだ。

そこで見て欲しいのが、前の方で紹介を約束していた、ビットコインの発明者であるナカモトサトシの論文タイトルだ。

「Satoshi Nakamoto(中本 哲史)(2008)
Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System
(ビットコイン:P2P電子マネーシステム)」

タイトルに入れるほど、この「P2P」の仕組みがビットコインにとって大事だと言うこと。なのでこれは今のうちに頭に入れておこう。

ではBくんの送金に話を戻そう。

O君のスマホはそのBくんのリクエストを受け取った。すぐにO君が入れているソフトウェア版のビットコインは、そのリクエストが正しいものなのかを検証する。O君のスマホは過去全部の元帳データを持っている。だから、B君のアドレスが支払うに十分な残高を持っているかどうかもすぐに分かる。

これは正当な支払いリクエストだ。そのことが分かった瞬間、O君のスマホは「ビットコイン・ネットワーク」に参加している全員にも、先ほど出てきた「P2P接続」を利用してリクエストを配信する。当然PくんもQくんもそれを受け取ることになる。

これは、O君個人の意思ではなく、スマホに入っているソフトウェアとしてのビットコイン(覚えなくて良いが、通常デーモンと呼ばれる)に組み込まれている絶対ルールなのだ。ネットワーク参加者は、平等にそのリクエスト情報を受け取ることができる。

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では、ここでみんなに広がったB君の支払いリクエストについて、その情報を「ビットコイン・ネットワーク」上で「正式に支払い済」として採用するにはどうすれば良いのか?

それは、この新しいリクエストを新しいページに書き込み、そのページを元帳の最後のページにのり付けすればよいのだ。そうすれば、Bくんの送金は正規の元帳に記されたトランザクションデータの一つとなるはず。

Oくんは、早速新しいページを用意して、そこに書き込んだ。

「yyyyyyyy(Bくんのアドレス)からマイナス0.1BTC。xxxxxxxx(Aさんのアドレス)にプラス0.1BTC」

しかし、誰でも単にこのページを正規の元帳の最後にのり付けすれば良いというものではない。そんなのが有りなら、それこそ不正し放題の世界だ。

物事にはルールがある。ビットコインもしかり。のり付けする権利を得るのは、たった一人だ。

そしてバトルの火蓋が切って落とされる

そうだ。ここでついにビットコイン・ネットワークの真相を明かそうではないか。

この新しいページを既存の元帳に正式な1ページとして追加するには、実は参加者(ノード)全員が参加するバトルに勝たねばならないのだ!

よくみると、手元の元帳の最後のページには謎の暗号文字が書かれている。

「お題:00LhRlQs8A」
(実際にはもっと文字数が多いのだが、ここではわかりやすく短くしてある。)

Oくんはその文字列をスマホカメラで読み込んだ。スマホ画面には、その文字列が現れ、その下に「ノンス(nonce=使い捨てのランダムな値)」という空欄と送信ボタン、そしてさらにその下に「計算結果」という空欄の合計3行が表示された。

ちなみに「ノンス」は、ひたすらランダムな文字列を生成して放り込む。正解の計算結果を出すためだけに使われる、使い捨ての項目を意味する。

画面が表示されると、突然Oくんは画面の連打を始めた!ひたすら連打する度に「ノンス」の欄に意味不明な文字列が表示され、計算結果の欄にも意味不明な文字列が表示された。そして画面に大きな赤い「×」が「はずれ」の文字と共に表示されている。

その赤い「×」がでた瞬間に同じボタンを叩く、Oくんは気が狂ったように、ひたすらそれだけを繰り返す。

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Pくん、Qくんも同様だ。Oくんに負けずと、無心にスマホ画面上のボタンを連打している。その度に、3人の画面には赤い「×はずれ」が表示されるばかりだ。

そして10分後……。

Pくんの画面に、今までの赤い「×はずれ」とは違う青い「○正解」という文字が表示された。

「正解!勝者zzzzzzzz(Pくんのアドレス)!
おめでとうございます!
頭の『00』がそろいました!
賞金、25ビットコイン!
(30,000円換算でなんと750,000円)」

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勝者のPくんは休む暇もなく、自分が先ほど書いた新しいページの最後に、スマホ画面の「計算結果」という欄に表示された文字列を書き込んだ。

「お題:00ue7EGxpV」

さらに、自分のアドレス残高に賞金の25ビットコインを追加するよう自らページに書き込んだ。

「zzzzzzzz(Pくんのアドレス)にプラス25ビットコイン」

そして、糊でそのページを元帳の最後に貼り付け、新しいページの撮影をして、ビットコイン・ネットワークに送信した。

それと同時に、Oくん、Qくんの画面にもメッセージが表示された。

「Game Over!」
「残念、勝者はzzzzzzzz(Pくんのアドレス)でした」
「zzzzzzzzが導き出した正解を検証してから、新規ページに書き写してそれを元帳に足しなさい」

バトルの敗者となったOくんとQくんは、Pくんから送られてきた正式な新しいページをまず検証する。Pくんが不正をしていないか確認するためだ。

バトルに使うアプリはどれも、同じ「ノンス」を入力すると一方通行で同じ計算結果を算出するから、検証は簡単だ。Pくんがもし不正をしていれば、違う答えが出るからだ。

これは、参加者(ノード)全員が、その他の全員が不正しないよう勝者を360度監視するバトルなのだ。

Oくん、Qくんは、Pくんの答え=「ノンス」が正しいことを確認したので、自分たちが書いたページの下書きを破り捨てた。新しい用紙に勝者Pくんから送られてきたページの内容をそのまま書き写し、元帳の最後に貼り付けた。これでPくんの新規ページが正式に承認されたことになる。

当然その元帳の最新ページには「BくんからAさんへの送金」、「Pくんが勝ち取った賞金」、「新しいお題」の全てが記録されている。

これで、一連の送金手順がひと通り完結することになる。Bくんからは、Aさんに正式に0.1ビットコインが支払われたことになった。

そして、Pくんは何故か賞金25ビットコインも受け取った。

さて、いきなり賞金付きのパズルバトルなんて、ここでは一体何が起こってるというのだろうか?

新規発行ビットコインを賭けた欲望バトル、それが採掘

じつは、Oくん、Pくん、Qくんが参加していたのは、賞金を巡る果てしないパズルバトルだった。

そのルールというのは以下の通りだ。

  1. まず新しく「ビットコイン・ネットワーク」に投げられてきた送金リクエストの中から、好きな物を自分で選んで新しいページに書き込む。
    この場合、「(Bくんの)アドレスyyyyyyyyからマイナス0.1BTC。(Aさんの)アドレスxxxxxxxxにプラス0.1BTC」
  2. リクエストを新規ページに書き終わったら、手元にある元帳の最後のページにある「お題」という文字をスマホで読み込む。
    この場合、「00LhRlQs8A」がそれにあたる。
  3. すると、スマホでパズルバトルが始まる。元のお題の文字列に対して、「ノンス(nonce=使い捨てのランダムな値)」というランダムな文字列がボタン叩く度に表示され、その2つの文字列が暗号プログラムに通されて「計算結果」の欄が算出される。
  4. ボタンをひたすら叩き、約10分後に「計算結果」の欄に最初の2文字が「00」になる結果を一番最初に表示した者が勝者となる!
  5. 勝者には、賞金として25BTCものビットコインが新規に発行される!
  6. 勝者は、自分が書いた新しいページに算出された計算結果=新しいお題を書き込み、自分の残高にも25BTCを書き足してから元帳の最後に貼り付ける。この場合、「(Pくんの)アドレスzzzzzzzzにプラス25BTC」
  7. 勝者は、そのページを撮影し、ネットワークに流す。
  8. 他のプレイヤーは、勝者の「ノンス」を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する。ぶつけた「ノンス」の数(計算力)をもって投票権とし、51%以上のプレイヤーが正しいとすればよし。
  9. 検証の結果、敗者は失敗したページを破って捨て、プレイヤー全員は勝者が作った新しいページを、正式に採用(承認)する。
    これで1ページ分の送金が完了し、休みなく次のバトルへと進む!

すなわち、元帳の正規ページをのり付けするために開催される、この無謀な総当たり連打バトルに勝った者に、新規のビットコインが発行される仕組みになっていたのだ。

注目すべきはルールその8。

「他のプレイヤーは、勝者の『ノンス』を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する」

実はここにも、ビットコインのアドレス作成の箇所で学んだ、一方通行の暗号方式が使われている。Pくんがかなりの苦労を伴って算出した正解である「ノンス」。しかし一旦誰かがその正解を導き出せば、あとは誰がその「ノンス」を使っても、同じ計算結果が出る。

と言うことは、OくんとQくんがPくんの答えを検証するためには、その正解の「ノンス」を同じ暗号プログラムに放り込むだけ。それで一発で完了する。

これが冒頭でチラ見せした、ビットコインで重要な「Proof of Work(PoW)」という概念なのだが、詳しくはまた後ほど。

ここでもう一度、冒頭で説明した一般的な通貨を思い出して欲しい。それら法定通貨は、国=政府が勝手に発行量や流通量を決めてコントロールする。我々国民は、いくらどのように発行されているのかさえ気にしない。

しかしビットコインでは、決められた発行量がこのバトル勝者に発行される。ビットコインの発行量を説明した時に、「約4年ごとに発行量が半減される」と説明した。実はこれはわかりやすいようにい言い換えただけだった。これを正しく言い換えると、「10分ごとに勝者が発表されるバトルにおいて、21万バトル(ページ)ごとに支払われる賞金が半減される」となる。

すなわち、2015年現在25BTC支払われているものが、2017年には12.5BTCに半減されると言うことだ。そして2021年にはそれが6.25BTCになる。

この新規発行されるビットコインは、支払いリクエストの承認作業をするためにバトルに参加するプレイヤー(マイナー=採掘者)達への賞金としてのみ用意されている。

ビットコインを手に入れるには3つの方法しかない。買うか、もらうか、それとも自分で採掘するかだ。このバトルがその3つめにあたる。

あなたもよく、ビットコインに関してこの「発掘」や「採掘」、「mining(=採掘)」という言葉を聞いてきただろう。これは、「コイン=金」という発想から、連想される「採掘」という言葉を採用しただけの話で、本当は土を掘る行為でも何でもない。もうおわかりのように、それは新規発行される賞金のビットコインを賭けた、欲望によって成り立つ暗号パズルバトルだったのだ。それが「ビットコイン採掘行為」の実態である!

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ただし、ここまでの内容はわかりやすくするためにかなりデフォルメしてある。

実際には人が無心に画面を叩くわけでもなく、決まった暗号方式でひたすらコンピュータや専用機がノンスを総当たりでぶつけながら計算し続けているし、元帳のページも決まった方式でデータを整えて用意しなければならない。そして元帳1ページあたりにはかなりの量のトランザクション(送金リクエスト)が記載できる。

これら全ての行程はビットコインの仕様として詳細が決められており、人を介さず全自動で、かつ、とてつもない速さで処理されている。

さて、このバトルでは、ソフトウェアであるビットコインに組み込まれているルールが絶対だ。しかし、ここでもそれを逆手に取る者がいる。

実は、この採掘バトルでは、上記のルールさえ守れば「総当たり連打するための武器は問わない」のだ。
採算を賭け武器も場所も問わないバトル、それが採掘

Oくん、Pくん、Qくんは日本に住んでおり、かろうじて賞金総額(新規発行された獲得ビットコイン)が食費(消費電力の電気代)を上回って生活している。「腹が減っては戦はできぬ」のだ。

そこに、Sさん、Tさん、Uさんが参加してきた。しかも、Sさん、Tさん、Uさんは資金も潤沢で高級な「画面連打専用強化ギブス」を購入してバトルに備えてきた。

この「ギブス」は、ひたすらボタンを連打するマシーン。手でボタンを叩く何百倍もの速さで画面上のボタンをたたくことが可能だ。

ただ実は、この「ギブス」を使うと、使わないOくん達に比べて何倍も速く腹が減る(電力を消費する)。そこが唯一の難点だ。しかし、食費(電気代)が遥かに安い中国在住のSさん達には問題ない。電気代が馬鹿高い日本に住むOくん達よりも、高いコスト効率で賞金稼ぎに専念できるため、高いギブスのコストも十分に回収できるのだ。

この例えが、まさに近年のビットコイン採掘バトルを象徴している。電気代や土地代の安い中国では、部屋どころか工場を丸ごと専用採掘機(ASICと呼ぶ)専用のデータセンターに改造し、巨大な水冷装置でそのコンピュータを冷やしながら日々大量のビットコインを採掘している。

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ビットコイン採掘競争がグローバル規模で激しくなればなるほど、我々電気代の高い近代国家(当然日本は一番不利な方)に住む採掘者にとっては、参加するには採算の合わないバトルへと変貌している。

ここで、鋭い人には一つの疑念が浮かぶ。

採掘バトルの厳しさも自動で調節するビットコイン

「先ほど、ルールでは1バトルにおいて、約10分後に勝者が生まれると言っていた。これだけルール無用のバトラーが数多く参入してきたら、1バトルあたりの合計連打数がどんどん増えて、1バトルに要する時間も10分よりどんどん短くなっていくのでは?」

全くその通り、しかし、ソフトウェアであるビットコインはそれも自動的に制御している。

先ほどのルールに出てきたお題である「00LhRlQs8A」。計算結果はこのお題と同じく最初の2桁がゼロであれば勝利、となっていた。しかし、バトル参加者が増加して、合計の連打ペースがどんどん上がってくると、ソフトウェアであるビットコインはこのルールを自動的に変更する。

すなわち、1バトルあたりの時間がちょうど10分になるように、そろわなければならない頭のゼロの桁数を増減させるのである。バトル参加者の連打が増えれば、ゼロの桁数を増やす。連打が減れば桁数も減らす。これが、実に2,016バトル(ページ)ごとに自動的に調整される。

実際のビットコインでは、この例で出したものより遥かに文字数が多く、揃えなければならないゼロの桁数も現在は16桁前後である。これを総当たり戦で正しいノンスを割り出すには、とんでもない計算能力が必要になる。その計算力についての詳細は、また後ほど説明する。

「Bitcoinの決済には10分かかる」と耳にされたこともあるかもしれないが、その10分という数字はここに由来するというわけだ。

厳密に言うとすれば、ビットコインの採掘では、1バトルの時間制限が10分に設定されているのではなく、10分でバトルが終了して勝者が生まれるようにルール自体が自動的に調整されていたのだ。これにより、元帳のページは平均して10分に1ページずつ増えていくことになる。

ビットコインの決済手数料とは?

「ビットコインの送金手数料は銀行のそれに比べて遥かに安い」とよく言われる。しかし、「無料で送金できる」という者もいる。

一体何が正しいのだろう?

正解は、「両方とも正しい」である。

例えば、BくんとAさんに加えてもう一組、GくんとFさんが同時に0.1BTCを送金したい、とリクエストしたとしよう。

Bくんはケチで、手数料を払いたくない。そこで、送金時に「手数料0」としてリクエストに署名して「ビットコイン・ネットワーク」に送信した。

ところが、GくんはFさんに同じ0.1BTCを送金する際、0.001BTC(約30円)を手数料として含めて署名し、「ビットコイン・ネットワーク」に送信した。

そう、ビットコインでは、送金リクエスト時に好きな分だけ送金手数料を上乗せしてリクエストできる。例えば、1BTCを送金するために100BTCの手数料を支払うことも可能だ。もったいないけど。

カード決済のように受け側(商店側)が手数料を負担するのではなく、日本の銀行振り込みのように支払側が手数料を設定する。

ここで、採掘バトルのルールをもう一度見てみよう。ルールその1にこうある。

「新しく『ビットコイン・ネットワーク』に投げられてきた送金リクエストの中から、《好きな物を自分で選んで》新しいページに書き込む。」

実は、ビットコイン・ネットワークに投げられた送金リクエストは、各ノードにある「プール」と呼ばれる場所に一旦保留される。新規ページに自分が承認したいリクエストを書き込む際に、採掘者は自分が「好きなものをプールから自由に選べる」というわけだ。

ではもし、BくんGくん両方の送金リクエストが届いた時点で、採掘バトラーPくんのページには、もう既に最後の1リクエスト分しか書き込むスペースが残っていない場合はどうするだろうか?

答えは簡単である。Pくんは、手数料ゼロのBくんの送金リクエストを蹴って、手数料0.001BTCのG君の送金リクエストを書き込んでからバトルに参加する。

その結果Bくんのリクエストは、今回のバトルでは無視されてプールに放置されてしまった。次のバトルでページにとり上げられるのを待つしかない。

こんなことが起こる理由は明白だ。自分が採掘バトルに勝って元帳の正規新ページに採用された場合、そこに載せた送金リクエストの手数料全てが合算されて自分のものとなるという取り決めがあるからだ。

Pくんにとって、タダよりも0.001BTCの手数料の方が貴重だ。ちりも積もれば山となる。それに、時々送金の設定をミスって手数料1BTCなんてのも送られてくる。この話、実際に起こりがちだから手数料収入も馬鹿にならない。

勝者には、賞金である実に25BTCという大金が与えられるが、それ意外にも、この手数料収入が上乗せされて発生する仕組みになっているというわけだ。

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ちょっとビットコインを勉強した人から、こんなことを聞かれることが多い。とくにビットコインのあらを探す反対派の人達から。

「ビットコインの発行量、すなわち採掘者の報酬が4年ごとに半減するなら、採掘のインセンティブと魅力が下がっていって、どうせ将来はビットコインの仕組み自体が機能しなくなって破綻するんだろ?」

確かに先述の通り、2017年には報酬が25BTCから12.5BTCへと半減し、2021年には6.25BTC、2025年には3.125BTCとなる。しかし「ビットコイン・ネットワーク」は、年を増すごとに「採掘インセンティブ重視」から「送金手数料(トランザクション・フィー)インセンティブ重視」の、より純粋な決済ネットワークへとシフトしていくだけである。

ナカモトサトシ先生は、そんな誰もが思いつくような懸念について、最初から思いつかないほどの馬鹿ではない。

ちなみに、ビットコインの「送金手数料が安い」というのも事実だ。上記の0.001(約30円)でなくとも、0.0001BTC(約3円)も支払えば、充分に短い時間で送金が承認される。

現在の一般的な海外送金を考えてみて欲しい。数万円を送金するだけでも何千円もの手数料を支払い、長い場合には送金先に着金するまで2日3日かかる。大企業がどれだけ交渉しても、その料金は800円程までにしか下がらない。

さらには送金金額が非常に多い場合、銀行は1日2日分の金利を稼ぐためにわざと外部への送金を遅らせるということまで平気でやってのける(日本の銀行は知らないが、私は欧米の銀行で過去よくやられた)。最近では一般消費者向けの海外送金手数料も下がってきたが、ビットコインとは桁がまだ3つくらい違う。

そんなしがらみや無駄なコストが一切なしに、10分もあれば少額でも世界のどこにでも送金できてしまうのがビットコインである。

いや、実際にはビットコインが海外に送金されるわけではないので、厳密に言えば世界中どこにいる相手にでも、10分もあれば残高の権利を移行できる、としておこう。

手数料ゼロで送金できるのも真実

「では、手数料ゼロの送金リクエストは採掘者に損なので、永遠に無視し続けられるのでは?」

ビットコインでは、そんなことも想定してルールが作られていた。さすがナカモトサトシ師匠。

実は、先ほどのバトルのルールその2では、とある詳細を割愛していた。それがこれだ。

「なお、新規ページ上には決まった分だけの特別スペースを確保しておき、その分を『手数料が極めて小さくても承認されずに一定時間以上が経過しているなど、陳腐化しそうな送金リクエスト』で必ず埋めること」

儲かるトランザクションを優先することは自由だが、儲からないが時間が経過しているトランザクションも一定量は優先して載せねばならないという特別ルール。

これにより、時間がかかっても原理的には漏れなく送金リクエストは処理される。

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手数料をゼロとしてリクエストしたビットコインの送金が、当日には全く完了しないのにもかかわらず、数日後の忘れた頃に承認される現象はこれに起因している。

従って、「ビットコインは手数料ゼロで送金できる」というのも正しいと言うわけだ。

純粋な、採掘者の欲望の優先順位で成り立っている「ビットコイン・ネットワーク」。ここは「早く送金の処理をされたければ、手数料は高く払え」という現金な資本主義の世界なのである。

不正や破綻が困難なビットコイン

もう一度、「ロールプレイ」における銀行とお金の仕組みを思い出そう。あの金融リスクや預金リスクが高いことを想定した世界では、不正や破綻を起こすのは簡単だった。

そもそもお金の流通量をコントロールするDくん政府が財政でミスを犯すか、Cくん銀行が同様に経営でミスを犯す、もしくは故意に客の残高を操作するだけで、あなた(Bくん)の持っているお金の価値が紙くず同然になったり、銀行残高がいきなり半減したりする可能性があるという話だった(そう言えば実際に現実社会で半減された経験者は私だった)。

では、ビットコインではどうなのか?

採掘バトルのルールその8を見るとこうある。

「他のプレイヤーは、勝者の『ノンス』を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する。ぶつけた『ノンス』の数(計算力)をもって投票権とし、51%以上のプレイヤーが正しいとすればよし」

すなわち、誰かが全く嘘の「ノンス」でバトルに勝ったふりをしても、ビットコインの360度監視多数決ネットワークでは他の採掘者には一切誤魔化しは認められない。

ではどうすれば不正ができるのか?原理は簡単で、51%以上の投票権を掌握した上で嘘のページを正式に元帳に採用すれば良いのだ。

これを、ビットコインの世界では「51%アタック」と呼ぶ。

ちなみに、この「ノンス」は暗号の関数を通って算出された文字列であるため、多くの場合は「ハッシュ(Hash)」と呼ばれる。したがって、元帳最後のページに載ってる「お題」もハッシュと呼ばれる。なのでここからは「ハッシュ」という言葉を覚えて使おう。

実際には今この瞬間も、恐ろしい数の採掘者達によって、恐ろしい数のハッシュが総当たり採掘バトルにぶつけられている。

このハッシュがぶつけられている(バトルの喩え話で言えば連打されている)単位を、1秒間あたりのハッシュ数を使って、「GH/s(Giga Hash per Second=1秒辺りのハッシュ数/1,000)」で表す。まるでドラクエの呪文のような言葉だ。「ギガハッシュ!」

2013年3月半ば現在で言うと、この数字はおよそ35万GH/sである。それをちゃんとした数字で表すとこうなる:

350,000,000,000GH/s = 1秒間あたり3,500億ハッシュ

この数値を、ビットコインの世界では「ハッシュ・レート」と呼ぶ。

新規発行されるビットコインを巡って、これだけのハッシュが総当りで毎秒試されているのだ。

もしあなたがビットコインで不正をしたい場合は、ルールその8に従って、51%以上となる秒間1,785億以上ものハッシュ・レートをぶつける環境を用意せねばならない。

しかもそれは、現在動いている採掘ノードを乗っ取った場合の話。新規で参入して不正を働くには、既存の秒間3,500億ハッシュを49%以下に抑えるために、実に秒間3,643億ハッシュもの計算能力が必要となる。

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そうすれば、嘘の送金を承認することが可能になり、自分で勝手に大量の採掘報酬を受け取ることもできる。

しかし、そんなことは現実問題として到底不可能だ。

ビットコイン・ネットワークは、すでにそれぐらい巨大なサイズにまで成長している。現実的に、ビットコインの元帳を意図的に書き換えることはもう不可能であることをおわかり頂けたはずだ。

さて、これを聞いて、データやサービスの信頼性が高いのはこの時点でどちらと思われるだろうか?あなたが知ってるお金や銀行?それともビットコイン?

完全破壊が不可能なビットコイン

もう一度しつこく、「ロールプレイ」の世界の銀行とお金の仕組みを振り返ろう。

Cくん銀行で、あなたの銀行残高データを破壊するのには、その銀行が管理している元帳(実際にはデータを記録してるサーバー)を全て破壊すれば良い。

いくらバックアップとして冗長化され、複数箇所に分散してデータが保存されているとは言え、これは中央管理者によって中央管理されている「Centralizedな環境」と表現される。

それに対してビットコインはどうだろう?

ビットコインでは、採掘バトルに参加しているコンピュータに加え、ソフトウェアであるビットコインを稼働させている全てのコンピュータ内の全てに元帳データが保存されている(実際には、元帳データを持たないものもあるが、ここではいったん無視)。

すなわち、ビットコインであなたの残高データを破壊するには、それらネットワークに参加する全てのコンピュータをほぼ同時に破壊するしかない。でなければまた新たに生まれたノードに元帳がコピーされる。

「ビットコイン・ネットワーク」に参加しているコンピュータは、それこそ世界中に無数に散在している。中国の田舎にある巨大な採掘工場から、日本のとある会社員宅の押し入れの中まで。それを全て、しかもほぼ同時に破壊するなんてことはもう到底不可能な話だ。

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前項のとおり「データを改ざんできない」どころか、「データを破壊したくともできない」。それが、ビットコインの実態だ。

ここでもう一度同じ質問を投げかけよう。データの信頼性が高いのはどちらだろう?あなたが知ってる銀行?それともビットコイン?

ビットコインだけに起こるデータの不整合と解決法

では、ビットコイン・ネットワークに参加するコンピュータの全ては、ずれもなく常に完璧に同じ元帳データを保有しているのか?

実は、それがそうではないことが時々発生する。

とある勝者が勝利を宣言したと同時に、他の採掘者もほぼ同時に勝利を宣言したらどうなるか。そのデータはほぼ同時に無数のコンピュータに伝搬を始める。

そして、それぞれが一部のノードに承認されてしまうことがある。ノードたちが正解を検証する前に二人共が勝者としてデータが出回っている状態だ。

その場合はどうなるのか?ひどい場合は、複数ページにわたって、「ビットコイン・ネットワーク」が分裂して、それぞれを正しいものとして扱ってしまうことがある。

これを、元帳のFork(分岐)と呼ぶ。

分岐といえども、元帳に複数枚ずつページがぶら下がる訳ではない。ネットワーク内で、2種類の中身が異なった元帳が正しいとされて、同時期に二重に存在してしまう感じだ。

実際、1年に数度は、実に40分間ほど(4ページ)にもわたってこのForkが発生することがある。

ではそうなってしまったあと、どちらの元帳が正しいと判断すればよいのだろうか?

実は、そのルールもビットコイン自体に組み込まれている。さすがナカモトサトシはんやで。それは……

「元帳は長い(分厚い)ほうが常に正しい」である。

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きわめてシンプルで潔いルールだ!すなわち、ページ数が長く伸びている方が正しいとされ、短いほうが破棄されるのである。

よく、ビットコイン関連のサービスで、「あなたの入金を確定するには最低6認証必要です」と言ったような表現を見かける。これは、6認証すなわち6ページも元帳が進めば、もうFork(分岐)してその支払いが取消になることはなく、それ以降は改ざんの恐れもなく、支払いが100%確定するだろうということである。

ビットコインの世界では、これが最も確実な回収リスクの回避方法である。

Decentralized(非中央化)された世界

もうこれであなたにも、ビットコインには銀行や国と言ったような、中央管理のための管理者自体が存在しないどころか、全くその必要さえないこと、そしてそれらが存在せずともトランザクションの信用性とデータの冗長性が客観的に保てることも理解して頂いたはずだ。

破ることができない絶対ルールは、最初からソフトウェアとしてのビットコインに組み込まれており、全ての送金承認プロセスは、ネットワーク上に無数に存在するノードが賞金のためにその役割を担う。

この「Decentralized」なビットコイン・ネットワークは、詳しい仕様を見れば見るほど、なぜか「生物の仕様」や「宇宙の仕様」を見ているかのように思えてくる。

各ノードが知性を持ってルールに則った自律活動をし、それら無数のノードが互いにP2P接続し、「新規発行されるビットコインを得る」という共通の欲望をエネルギー源として活動している。

ノードが得たインセンティブが活動コスト(電気代)を上回ればその活動は拡大し、下回れば活動を止める。

世界のどこかでノードが消滅していく傍ら、どこか別の場所でさらにノードが生まれる。

採掘者である個々のノードは、経済的な(採掘能力的な)格差は別として、数学的に平等にその労働に対して報酬獲得のチャンスを得る。

この「ビットコイン・ネットワーク」はとても有機的というか、生物的な集合体(コレクティブ)であるかのようにも感じられる。

この自由で誰にも縛られない「Decentralized(非中央化)」された世界が、世界中のリバタリアン達の支持を得て、ギーク以外のもう一つの文化圏としてビットコインが普及するきっかけとなった。

その証拠に、ビットコインはシリコンバレーなどの活動値が盛んな地域だけではなく、片田舎で開催される小規模なリバタリアンのお祭りなどでも使える。まさに、ビットコインは21世紀仕様のデジタル・ヒッピー・マネーだ。

そしてこの「Decentralized」という言葉は、今やビットコインを語るに欠かせない重要なキーワードの一つとなっている。

ブロックチェーンとはなんぞや?

「ちょっと待った」

ビットコインを勉強したことのある方であれば、冒頭でちょこっと触れただけのあのフレーズが気になっているに違いない。

それが、ビットコインにまつわるキーワードの中で最も重要な「ブロックチェーン」である。

「Decentralized」が理念であれば、「ブロックチェーン」は設計や規律と言ったところだろうか。

しかし、ここまで読んだあなたには、一発で「ブロックチェーン」の意味が理解できる。次の2文を読めば、もう「ブロックチェーン」の全貌を知ることになる。

ここまでに散々登場した「元帳の1ページ」単位が、ビットコインでは「ブロック」と呼ばれる。そして、そのブロックがつながった状態の「元帳」を、「ブロックチェーン」と呼ぶ。

それだけである。

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ここまでの文章において、「ページ」を「ブロック」に、「元帳」を「ブロックチェーン」に置き換えても、全て話が通る(銀行の部分を除く)。

図解ではあたかも直方体の「ブロック」として表現したが、本来は単なる容量と書式が決まったデータの塊である。その名前が「ブロック」であるから、わかりやすくこのようなブロックのつながりや、単なる正方形のつながりとして表現される事が多い。

よく聞く「ブロックチェーン」が、こんなにも理解が簡単だったのかと驚かれることだろう。当然、技術的な仕様は難解であるが、コンセプトが「元帳」であることが分かっていれば理解しやすいはずだ。名前というものは、知らないフレーズが使われているだけで、敬遠しがちになり、全く意味がわからないものになるのだ。

なお、この「ブロックチェーン」は、単にこの元帳の仕組みを指すだけではなく、先ほどの暗号ハッシュを用いた採掘バトルの仕組みや、トランザクション承認の仕組み、「Decentralized」されて、P2Pネットワークとして稼働している仕組みも含めてそう呼ぶことが多い。

ブロックチェーンの「Proof of Work」

そして、そこでの採掘バトルに採用されている評価概念が、冒頭に出てきた「Proof of Work(PoW)」と呼ばれるものだ。「回り道ができずコストがかかる単純行為」をしたという事実を使って、仕事をしたということを証明する仕組みを指す。

変な例かも知れないが、例えば広大な野原で四つ葉のクローバーを見つけた人に対して、10分に一つ完成するおにぎりを渡すとしよう。

おにぎりを得るには、ひたすら野原を這いずり回るという行為でクローバーを見つけるしかない。しかしおにぎりを渡す側は、その仕事を評価するには参加者が取ってきた四つ葉のクローバーを見て確認するだけで良い。参加者がより数多くのおにぎりを得るには、仲間を連れてきて人数を増やすしかない。

すでに学んだように、参加人数が増えても10分に一回おにぎりを渡すには、ゲームのルール(難易度)を調整すれば良い。「よし、今からおにぎりは四つ葉ではなく五つ葉のクローバーに与えられる」と。

「ブロックチェーン」では、暗号技術を使ってこの「Proof of Work」を実装している。ランダムな「ノンス」を一つ前のブロックにあるハッシュと併せて、一方通行の暗号アルゴリズムに放り込めば出てくる計算結果の頭のゼロがそろっていれば当たり。評価するには当たったノンスをもう一度そのアルゴリズムに通すだけ。

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ビットコインでは、その正解となったハッシュが、次のブロックで採掘する際の問いのハッシュとして使われる。これが永久に続き、ブロックが鎖(チェーン)のようにつながって伸びていく。

この仕組みでは、ハッシュが一定の計算コストを持って仕事の証明になることから、「Hashcash」と呼ばれていて、メールのスパムを防止する仕組みなどにも使われている。スパマーは、メールを送るたびに一定の計算で仕事したことを証明せねばならないから、何億通もメールを送るのに計算能力をかなり消費してコストがかかってしまう。しかしメールを受けた側は一発で検証できる、という仕組み。

それを、金融システムにおけるトランザクション承認プロセスに応用したナカモトサトシさんかっこいい。

将来有望なブロックチェーン

これらを含めた全ての仕組みがあまりにも画期的であり、信頼性が高いため、様々な分野で「ブロックチェーン」の仕組が採用され始めている。

実際、IBMが「ブロックチェーン技術」をIoT(物のインターネット)や主要通貨の決済システムに採用を進めており、あのIntelまでもがついに暗号通貨関連の研究者を募集している。

本当にこのビットコインの「ブロックチェーン技術」が、一般的に思われているように「怪しい」、「信用出来ない」、「データが改ざんされてしまう」ような技術であれば、先進的なテクノロジー企業がそれを参考に、採用して新しいプラットフォームをつくろうとするはずがないだろう。

「ブロックチェーン」を用いれば、改ざんできない透明性の高いプラットフォームができあがる。それを世界で初めて、決済プラットフォームとして実働させ、証明したのが「ビットコイン」なのである。

そして様々な大小の問題を乗り越えながら、ビットコインは2009年から止まらずに立派に稼働している。

ビットコインの真の姿

もう、まとめる必要さえないかも知れない。

しかし最後にもう一度、冒頭で私が宣言したビットコインの真の特性を思い出してほしい。私は、ビットコインは「消したくとも消せない」と書いた。

2008年11月7日午前9時30分36秒(PST)。実際にビットコインが稼働するよりも前の日付だ。この日、とある暗号関係のメーリングリストに送られて来た質問に対して、ビットコインの未来の姿を予言する返答を返した人物がいた。

「Yes, (you will not find a solution to political problems in cryptography) but we can win a major battle in the arms race and gain a new territory of freedom for several years.
そうだ。(我々は暗号技術における政治的な問題の解決法は見いだせないだろう。)しかし、我々は激しい戦いにおいて大勝利を収め、数年間は新しい自由の領地を得るだろう。

Governments are good at cutting off the heads of a centrally controlled
networks like Napster, but pure P2P networks like Gnutella and Tor seem to be holding their own.
各国政府は、中央管理されたNapsterのようなネットワークを遮断することは得意だが、GnutellaやTorのような純粋なP2Pネットワークはまだそれに屈していないようだ。

Satoshi
哲史

Satoshi Nakamoto Fri, 07 Nov 2008 09:30:36 -0800
The Cryptography Mailing List
Re: Bitcoin P2P e-cash paperより」

そう。発明者ナカモトサトシは、「Decentralized」なP2P方式で、「力を持った第三者にも首が落とせない」前提でビットコインを作った。そしてそれは今も独自の経済圏、すなわち彼のいう「自由の領地」を拡大し続けている。

ここでは最低「数年間は」と謙遜気味に書いているものの、すでに6年間以上に渡って、「ブロックチェーン」はあらゆる圧力や問題に屈さず、人々の経済活動を刻み続けているのだ。

「ビットコインは『取引は全て透明性が高く』、『盗むことは非常に困難』であり、『消したくとも消せない』もの。そしてある意味一般的な通貨よりも『信用できる』ものなのである」

ビットコインの原理を理解した今、冒頭で宣言したこの言葉に偽りはあっただろうか?

念のため、ここで最後にビットコインの特徴をもう一度まとめておこう。

tb-bitcoin21

『不正』、『破綻』、『盗難』、『消失』

そんな言葉は、ビットコイン自身にではなく、Mt. Goxなどの、盗難や破綻による被害を発生させた取引所やサービスに向けるべきものである。ビットコインは消えていないし、消せない。

『怪しい』『不正送金』『マネーロンダリング』

そんな言葉は、ビットコイン自身にではなく、それを時代に先駆けて活用している犯罪者に向けるべきものである。まさに殺人事件における、罪のない鋭い包丁。ビットコインも同様に、あくまでも単に鋭すぎる決済ツールなのである。

最後に

ついにビットコインの原理を知って、あなたはどう感じられただろうか?

もし、あなたがテクノロジー産業に従事しているにもかかわらず、今日これを読んでもビットコインの原理について理解ができなかった場合は、あなたと暗号通貨やブロックチェーン技術とは相当相性が悪いのかもしれない。

と言っても、この先一切ビットコインを使わなくとも、あなたに何か問題が起こるわけでもない。ただ、大きな可能性を秘めた新しい分野を一つ見逃すことになる。

しかし、まったく無の状態からこれを読んでビットコインに興味を持った方や、今日まで抱いていたビットコインのネガティブなイメージを払拭できた方、そしてビットコインの革命性に感銘を覚えた方には、この先に広がるさらに大きな世界の可能性について何かを感じて頂けたはずだ。

2008年に謎の人物ナカモトサトシの論文として発表されたこのビットコインは、実にこれほどまでに、世界のトップエンジニアや研究者たちが熱狂するに値する斬新な仕組みなのである。

そしてこの「ブロックチェーン」技術の利用は、単なる決済システムにとどまらない。また、何百ものビットコインクローンである他の暗号通貨(Altcoinと呼ばれる)の根幹技術としてのみ使われている訳でもない。

その他にも、全ての電子契約やプログラムをブロックチェーン上に乗せるという壮大な「Etherium」というプラットフォームや、オープンな電子トークン株式市場を実現している「CounterParty」、現実に存在する金融資産を同価で取引できる「BitShares」、消せない特性を利用してデータ記録に特化した「Factom」など、Bitcoin 2.0と呼ばれる分野がこの「ブロックチェーン技術」を応用し、既に国境を越えて世界中に広がり始めているのだ。

日本が、世界各国に比べ、ビットコイン自体への理解と受容に数年以上も出遅れる中、そこから派生した理念と技術は、国境を超えて既存の仕組みを着実に侵食している。

ここで、今までのものと大きく状況が違うのは、この「ブロックチェーン」技術を用いたプラットフォームは、ナカモトサトシが予言したように、一政府の圧力や法律、一個人の思惑では原理的に潰すことができないということだ。

そして、それらが日本に攻め入る日も近い。我々も、否が応でもそれを受け入れなければならない日を想定して、日本からもイニシアティブを取るべく準備を進めねばならないだろう。

なぜなら、そのパイオニアであるビットコインでさえも、止めたくても、もう誰にも止められないのだから。

テック企業と政府の官民恊働プロジェクトの行く末


編集部記Nicole Cookは、Dwollaの戦略的パートナーシップ部門のディレクターであり、そこで同社の政府向けプログラムを率いている。

テック業界と政府は水と油のようだ。前者は、強引で、強気でリスクを恐れない。後者は、思慮深く、動きは遅いが慎重だ。しかし、スタンフォード大学で開催されたホワイトハウス主催のサイバーセキュリティーサミットを始め、この両者の協力関係は、公衆衛生の向上や金融の分野で見られ始めている。双方は、お互いから学ぶべきことがたくさんある。重要なのは、お互いを避けるのではなく、それぞれの違いを認識することだ。

協力すべき理由

テクノロジー業界に身を置いていると、私たちが世界を変えていると思いがちだが、テック企業が一年を通して人々に与える影響より、公的機関の方がより市民の毎日の生活に大きな影響を与えている。

彼らが大規模な政策を実行できるのはすごいことだ。(テクノロジー業界とは違い、間違うことは許されないが)なぜなら、難しい問題に対してもコンセンサスを築き上げる力があるからだ。最近行われたネットワーク中立性に関するディベートが良い事例だ。賛否両論あふれるこの議題に対し、公開討論の場を設けることで連邦通信委員会(FCC)は結論を探った。ここでFCCは、様々な立場からのそれぞれの意見を汲み取り、個人的にはアメリカにとって最も有益となる結論を出すことにつながったと考えている。

政府が素晴らしい仕事ができるのは事実だが、彼らには、フットワークの軽いテクノロジー企業のように、素早く、力強いイノベーションを起こすようには作られていない。政府が何か新しいことを開発するサイクルは何年もかかるものだが、例えばそれがシリコンバレーの企業だったら4週間ごとに見直すことができるのだ。

お互いの強みを活かす

政府が民間企業のようにテクノロジーをすぐに取り入れるのは現実的ではないが、政府は物事を俯瞰し、テクノロジーが解決すべき重要な課題を認識できる立ち位置にある。特に州や自治体レベルでは、予算が厳しく、イノベーションが必要だと感じる問題は多々ある。私が住むアイオワ州の例にとってみよう。ここでは、興味深いコラボレーションが行われている。

彼らが大規模な政策を実行できるのはすごいことだ。なぜなら、難しい問題に対してもコンセンサスを築き上げる力があるからだ。

例えばアイオワ州は、昨年から、運転免許証をデジタル化する試みを始めた。これは全米でも取り入れるのが早かった。この試みにより州は、プロセスを簡潔にすることでコストを削減できるといった有益な点とプライバシーやロジスティックスについての課題を検討し、納税者に提案する。これを実現させるためには、民間企業をパートナーとして迎える必要があることをアイオワ州議会は認識した。まだ、試みが始まってから日は浅いが、その努力は少なからず結果に結びついている。

アイオワ州は他にも電子決済の分野で先陣を切ってきた。市民は公的機関を利用する際の料金の支払い方法がもっと簡単になることを望んでいることに州は3年前から理解していた。今では、資産などの機密情報を守りながら、何千もの支払いを処理できるようになり、納税者の節約にもなった。更に、このような比較的小さい市場での成功事例を受けて、連邦政府も 全国規模でこのアプローチを取り入れることについて検討を始めた。

大きな計画を実現するためのコラボレーション

テクノロジーは、政治そのものを変えてしまう程の力を秘めている。機能レベルの話では、政府の情報を保管したり、アクセスしたりする作業を現代の用途に則するために MicrosoftのAzureが導入された。Azureは、安全なクラウドプラットフォームとして初めて自治体、州政府、連邦政府に採用された。

インフラにおいても、シアトルやニューヨークの自治体は、超高速ブロードバンドを街に導入するために、大手テクノロジー企業と組んでいる。このような取り組みには、公的機関と民間企業の双方の協力が必要不可欠だ。

連邦政府も官民協働に力を入れている。 Cooperative Research and Development Agreements、 通称CRADAsは、民間企業に投資し、イノベーションを加速させる取り組みだ。CRADAsは、公共において有益なものだが、ビジネスとして成り立つには長い期間を必要とするテクノロジーを開発する民間企業が、国立保健研究機構や国防省のサポートを得られるようにする。

CRADAsは現在、がん治療、衛星からのデータ解析、電気自動車を一日走行させる軽量で効率の高いバッテリーの開発を行っている。これもまた、両者の限界を知り、お互いの助けを求めたことで実現したことだ。

金融セクターで起きていること

金融セクターでのコラボレーションほど、象徴的な官民協働はないかもしれない。連邦準備銀行は、取引の処理のスピードを向上させようとしている。これを現実のものとするためには、今日のテクノロジーと、40年にも渡ってこの機関が信頼を得てきた保守的なアプローチを融合させ、適切に実行していくことが重要である。

今のこの金融ネットワークは、1970年代のテクノロジーを元にしている。悪意のある者を退ける対策も、現代のものより洗練されてはいないし、実際に使用している人から見ても手続きが不条理だと感じる。設立から何十年も経った今、初めて公的機関と民間企業のトップが今後どのように変えていくかについて話し合いをしているのだ。

テクノロジーは、政治そのものを変えてしまう程の力を秘めている。

これを実現するためには、真のリーダーシップとコラボレーションが必要だ。毎日何万人ものアメリカ国民がこの機関の滞りない運用を頼りにしているのだから。アメリカの金融ネットワークを簡潔にすることは、中小企業から多国籍企業まで、そしてそこに関わる、全ての人、全ての物に影響を及ぼす。直接的に影響がある人だけに関わらず、このことは、国内の最も優秀で賢い人の知見を必要とする。

公的機関、民間企業、有識者や、国際コミュニティーのパートナーと協力し、連邦政府は、それぞれの良いところを活かして最良の物を作ろうとしている。Dwollaもこのエコシステムを一部を担うことを目指している。政府が構造的な変革を起こすには、それぞれのヴィジョンやテクノロジーの専門知識、そしてスキルを統合し、このような大規模な実装を担う専門家と最低限のリスクで実行に移すことが求められる。

他のいかなる関係性と同様、テクノロジー業界と政府がこのような課題やその他の問題で上手く協力関係を築いて、取り組んでいけるかは、時間が教えてくれることだろう。しかし、このチャンスは大きい。お互いが価値を最大限発揮できる強みのある分野に集中するとともに、それぞれができないことに関しては、互いの協力が得られるのだ。とても良いことだとは思わないか?

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook


なぜ創造的職業の社会的地位は高くないのか?


Matt Burnsが書いた、先週彼の息子が学校で遭遇した状況は、米国内のほぼどこででも起き得ることだ。学校の職業体験の日、彼の7歳の息子は将来ゲームデザイナーになりたいと先生に言った。先生の反応は熱狂的どころか彼の夢を否定するものであり、それより本物の職業につくようにと息子に言った。

私はこの話が極めて稀なことだと思いたいが、そうではない。メーカー(作り手)は、クリエイターから科学者、プログラマーに至るまで、アメリカにおける社会的地位が他の専門職より依然として低い。誰もが起業家精神を賛えるが、自分の子供や家族がそれを目指すことを望む人は少ない ― べイエリアの中心地でさえも。

創造性は趣味か職業か

創造的経済は主流となるはずあり、専門家はわれわれに対して、子供たちの創造的才能を育み労働市場のオートメーション化と戦うべきだと説く。しかしこの国の高等学校を見ると、ことごとく焦点はものづくり以外に当てられている。工作の時間、アートスタジオ、エレクトロニクス実験室、そして学校新聞は消えつつあり、高いレベルのコンピューターサイエンスはもやは高学力生徒向けカリキュラムに含まれていない

こうした変化が起きている純粋な実施上の理由はいくらでもある。予算削減は国中の公立学校を襲い、教師はテストや説明責任に対する圧力の高まりによって、創造的科目以外に費す時間を増やすことを強いられている。

しかし、そうした理由だけでは「作ること」に対する敬意が未だに高まらないことを説明できない。作る人々に対する偏見を調べるために、文化をより深く堀り下げてみる必要がある。例えば、アメリカのテレビを見てみよう。医者や警察官や弁護士に関する番組はずっと前から数多くあるが、「メーカー」についてはどうか?シリコンバレーからは、パロディー番組2つと、コメディー番組のThe Big Bang Theoryが生まれたが、いずれもオタクに同情的でかなり面白いものの、最悪のステレオタイプがいじられているように思える。

アメリカのデレビ界は、趣味としての創造性と職業としての創造性を隔てる動かしがたい溝を表している。学校カリキュラムには創造性のための時間があり、教師や教育委員会も肯定的で協力的であるが、その協力は、ひとたび生徒が自分の好きなことを職業にしたいと言うと完全に萎えていく。

信じられないなら、高校の、いや大学のキャリア開発センターに立ち寄ってみるといい。オピニオンリーダーたちは長年にわたり、人々を職種でラベル付けすることを止め「自分の仕事をデザイン」するよう薦めてきた。しかし、それを現実にするための支援を求めると、投資銀行や経営コンサルタント等の職業リストを渡される。

創造性とリスク

未だにわれわれの社会は、何らかのリスクを伴う職業に対して強い偏見を持っている。急激な変化がもたらした経済不安は、職業を選ぶ際の保守性を助長する ― それはまさしく最も革新的になるべき時なのだが。製品を開発し、インターネットのツールを使って売り出すのに今ほど適した時期はないが、経済全般への恐怖が社会を麻痺させ、最も安全な選択肢を推奨させる。

教師が「本物の職業に就け」と言う時、彼らは正にこれを言っている。法曹、会計、そして医療は市場の変動に影響されないことから安全と考えられている。人々は経済の状態によらず病気になり、会社は常に貸借対照表を計算しなければならない。

公正を期して言うと、経済の変化があまりに速いため、インターネットがいかに一部の専門職を破壊したかが、社会的地位に反映されていない。例えば、法曹界は今も自信をもって推奨される職業だが、世界的経済不況以来この業界の労働市場は驚くべき破壊を受けている

物を作るためのツールはもはや高価でなくごく一部の富裕層の手を離れた。誰でも音楽を作り、小説や記事を出版し、ソフトウェアを書くことができる。3Dプリンティングは自分だけの物理的品物を作る障壁さえ下げ、今後さらに安くなることが期待されている。

しかし、われわれはツールを使いやすくはしたが、キャリア形成を簡単にはできていない。クリエイティブ市場のほぼすべては、労働経済学者が言うトーナメント・モデルであり、勝てるチャンスは小さいが、その業種のトップに登りつめれば取り分は膨大である。

国でトップの音楽アーティストは本物の大富豪であり、トップのデザイナーやプログラマーも同様だ。しかし、取り分は適切に分配されておらず、ミュージシャンやゲームデザイナーの中央値の人たちでさえ、自分たちの仕事を職業というより情熱プロジェクトとして受け入れざるを得ないことがある。

認識を変え、リスクを変える

われわれは2通りの方法でこれに取り組まなくてはならない。第一に、どうすれば「メーカー」になれるかを示し、その職種が十分現実的であり、さらには利益を生む可能性があるようなロールモデルを、もっと育成する必要がある。今の経済は変化が著しく古いルールは従来のように適用できない。そうした職業を選ぶことが、学生にとって、さらには親にとっても心地よく感じられる事例が必要だ。

第二に、そして最も重要なのは、そうした職業が直面するリスクへの取り組みだ。われわれはその一部をクラウドファンディングによって実現している。KickstarterやIndiegogo等のサイトを通じて資金を集める手段が提供されている。しかし、長期にわたるリスクを軽減するしくみはまだ作られていない。創造性のために市場の回復力を高めるにはどうすればよいのだろうか? PatreonやBandcampのような、定期購読サービスは理想的な一歩だが、できることはまだ山ほどある。

社会はまだリスクへのアプローチを変えようとしていないが、創造的職業に就くことに対する認識と実際のリスクを変えることはわれわれにもできる。メーカーが「本物の職業ではない」と言われる子供がいてはならない。われわれの経済は、創造性を支援することだけでなく、もっと多くの創造性を必要としている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


体験的イスラエル・スタートアップ論―国全体がスタートアップを盛り立てている

編集部:Omar Téllezは公共交通機関乗り換え案内アプリのMoovit のプレジデント。それ以前はSynchronoss Technlogiesの幹部。

最初にベングリオン国際空港に着いたときのことを私は決して忘れないだろう。

ニューヨークのJFK空港から12時間の長旅の後で入管の行列に並んだときだった。「MoovitのTシャツを着ている人、前へ出てください」と声をかけられた。一瞬私はやっかいごとに巻き込まれたのかと思った。しかし入管の係官は訛りの強い英語で「イスラエルへようこそ! われわれはスタートアップを誇りにしています。世界の人にイスラエルはハイテクのパワーハウスだと知ってもらいたいのです」と言った。係官はパスポートを返し、手を振って私を通らせた。

私は行列に並ぶ時間を1時間は節約できただろう。しかしそれより、入国管理局までもがスタートアップのエコシステムを盛り上げようと努力している国に来たことを知って興奮した。私はMovitのロゴ入りTシャツを着てきたことに感謝した。

イスラエルが「スタートアップ・ネイション」と呼ばれるのは不思議はないと私はタクシーを拾いながら思った。

Uri Levineはシリコンバレーでの親しい友人で、ソーシャルカーナビのWazeのファウンダーだ。「Wazeの公共交通機関バージョンを作ったクレージーな2人組に会いにイスラエルに来ないか」と私を誘ったのがUriだった。UriはそのMoovitというスタートアップの取締役を務めており、国際展開を図ろうとしているところだった。

私もイスラエルがスタートアップの盛んな国だとは知っていたが、イスラエルのハイテク・ベンチャー・キャピタルの規模は人口当たりで世界最大であることは知らなかった。後で知ってさらに驚いたのだが、過去5年間のイスラエルのハイテク・スタートアップのエグジットは980%も成長し、2014年には総額92億ドルにも達していた(MobileyeViber、Wazeなどが大型エグジットの例だ)。

私もイスラエルがスタートアップの盛んな国だとは知っていたが、イスラエルのハイテク・ベンチャー・キャピタルの規模は人口当たりで世界最大であることは知らなかった。

イスラエルのスタートアップと仕事をするのは非常に面白いが、同時に学習曲線もかなり急だ。

仕事をやり遂げる執念、強烈な平等主義と実績主義、文化的民族的背景の多様性などはイスラエルのスタートアップ・エコシステムの大きな長所だろう。

しかしどのエコシステムにしてもそうだが、修整すべき課題も多々ある。たとえば直接的すぎるコミュニケーションのスタイル、他の主要市場と7時間から10時間の時差があること、国内市場の狭さとある種の「島国性」から来る資本調達の困難さなどだ。

一方で明るい発見もあった。イスラエル在住チームとのカンファレンス・コールを何回か繰り返した後、とうとうchutzpah(チュツパ=ずぶとさ、厚かましさ)というイディッシュ語の意味を理解できた。カンファレンス・コール中に外でロケット弾攻撃を警告するサイレンが鳴り、チームはそのつど防空壕に避難して会議を続けた。興味深いのは、イスラエル・チームはこのことを特に大きなリスクとは考えていないことだった。「しなければならないことはするだけだ。これについては以上」というのが彼らの態度のようだった。

私はその後、ニューヨークで数インチの雪が積もっただけで会議がキャンセルされることに我慢がならなくなってきた。なにがあろうとやりぬく精神こそ、NASDAQに70社ものイスラエルの企業が上場されている理由に違いない。ちなみに70社というのはEU、日本、韓国、中国の上場会社を合計したよりも多いのだ。

イスラエル国防軍はこの国に「ものごとをぼやかす」ことを恥とし、同時に権威に対して健全な冷笑を浴びせる精神を植えつけた。プロダクト検討会議で誰かが「こんな馬鹿げたアイディアは見たことも聞いたこともない。最低だ!」と叫ぶのを聞いて息を飲んだり顔を赤くしたりするようでは、彼らといっしょに働くにはチュツパがたりなすぎるというわけだ。

ニューヨークサンフランシスコの会議でプロダクト・マネージャーがそんなことを怒鳴ったらあたりは気まずい沈黙に包まれ、会議は早々にお開きになるだろう。しかしテルアビブでは、こうした反応は大いに歓迎され、ただちにエネルギッシュな議論のジュウジツ試合が始まる。

要はチーム全員が最後により優れたプロダクトを生み出そうとしているのだ。それと、正直に言えば、イスラエルでは単に議論する楽しみのために議論を吹きかけるという傾向もないではない。これはいわば国民的スポーツなのだ。

テルアビブのロスチャイルド通り―地中海沿岸でいちばんトレンディーな地区の一つ―のバーに入ると、この国の多様性を肌で感じることができる。私は半径2メーターで4、5種類の民族的背景の人々によって7ヶ国語が話されているのを聞いた。radius.

It’s no wonder that with over 4,000 startups in the Greater Tel Aviv area, Israel is ranked 1st in the world for innovative capacity in 2014 by the IMD Global Competitiveness Yearbook.

スペイン語、ポルトガル語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語のネーティブ・スピーカーで、頭がよく、勤勉で、テクノロジーに詳しい人々がここにはたくさんいる。たとえば2年以内に45ヵ国の500都市にサービスを拡大したいなどという試みを可能にする人的資源はイスラエル以外ではまず見つかるまい。

だからこそテルアビブ圏に4000社のスタートアップが存在し、2014版のIMD Global Competitiveness Yearbookでイスラエルがイノベーション能力で世界のナンバーワンに位置づけられたのだ。

もっともいくら慣れようとしてもイスラエルに飛んで取締役会に出ようとすると時差ボケだけは治らない。同様に、イスラエルのスタートアップと共同作業する上で時差の問題はコミュニケーションの障害として残る。テルアビブとサンフランシスコ、ニューヨーク、パリ、サンパウロ、マドリッドを結んでテレビ会議を始めようとすればどれかの都市は真夜中にならざるを得ない。議題を事前にきちんと整理しておくこと、Googleハングアウトの操作に慣れておくことが必須だ。

またベンチャーキャピタルについていえば、A、Bラウンドくらいの初期の資金調達は比較的容易だが、それ以後の大型資金調達となると、シリコンバレーを頼る必要が出てくる。

実際Dun & Bradstreetのレポートによれば、運用資産が10億ドル以上のイスラエルのベンチャーキャピタルはPitangoとStar Venturesの2社しかない。しかしSequoiaのようなシリコンバレーの名門ベンチャーキャピタルがイスラエルのHerzliyaにオフィスを構え、現地に積極的に投資していることを知って私は驚いた。 だがシリコンバレーには「われわれはイスラエルのスタートアップには投資しない」というポリシーのベンチャーキャピタルも存在する。

イスラエルへの投資で最大の困難は国内人口がニューヨーク市より少なく、世界展開をしなければ成功が確保できないことだろう。このことはイスラエル国民もよく認識している。いずれにせよイスラエルのスタートアップのやり方は強引で独断と偏見に満ちているかもしれないが、嘘や政治的駆け引きはなく、なにより物事を手早く進める能力では世界の追随を許さないのだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


私はこうしてパテント・トロル(特許ゴロ)を撃退した―みんな立ち上がれ!

編集部: Chris Hullsは家族向けSNSのLife360の共同ファウンダー、CEO

いじめと戦うのは中学でおしまいかと思っていた。大人しくおくてだった私は小さい頃、かっこうのいじめの的だった。しかしある日、敢然と反撃するともう誰からもいじめを受けることはなくなった。それがまた始まったのだ。私はテクノロジー起業家として新たないじめに直面した。パテント・トロル(特許ゴロ)だ。

これは法律の抜け穴を巧みに利用し、他人の成功にたかって生き血を吸おうとする貪欲非道なヒル的存在である。 こいつらは無用ないし無効な特許を盾にとって「ライセンス料」を取り立てようとする。

学校のいじめと同様、たいていの人はいじめを恐れて反撃しない。ほとんどの場合、連中に金を払う方が訴訟より安くつくからだ。

去年の5月、私の会社、Life360が5000万ドルの資金を調達すると同時にパテント・トロルに襲われた。

このケースでわれわれを特許権侵害で訴えてきたのはAdvanced Ground Information Systems Inc.(AGIS)という会社で、最初はパテント・トロルであるかどうかはきりしなかったが、その行動はパテント・トロルそっくりだった。この会社を調べてみるとまともな会社にしてはおかしな点がいろいろ浮かび上がった。LinkedInに登録した社員が一人もいない。本社がフロリダのビーチの家だ。

AGISの主張によれば、地図の上にユーザーの位置をマーカーで表示したり、スマートフォンの位置情報をSNSに利用したりすればすべて彼らの特許の侵害になるという。

給料日に強盗に襲われたようなものだ。それまでにトロルと示談したことはあったが、私はもう黙っていないぞと決意した。いじめに屈すれば、さらなるいじめの標的になるだけだ。背中に「私はカモ」ですというドル印をつけて歩き回るようなものだ。

そこで「金を払うかサービスを停止しろ」という要求に対して私はこう答えた。

クソ野郎どの:

われわれは弁護士と相談しながら問題を調査している。そちらのいう金曜日の最終期日までに金を払うことはできない。弁護士と相談した後で迅速に対応するつもりだ。

今晩のところはあなた方にカルマが報いる〔自業自得の目に遭う〕ことを願っておこう。

クリス

私の言葉づかいはだいぶ過激だったが、意味は明白に通じた。われわれはすぐに連邦裁判所で顔を合わせることになった。連中は和解を望んだが、私は「1ドルたりとも支払う気はない。すべての特許をすべてのスタートアップに対して無料で公開するか、そうでなければわれわれはそちらのすべての特許の無効を申し立てる」と答えた。

AGISはわれわれがブラフをかませているのだろうと思ったらしい。大間違いだ。先週、陪審員が決定を下した。特許権侵害の訴えはすべて退けられた。トロルは死んだ。

トロルとの対決で私は3つの非伝統的戦略を取った。トロルに襲われた会社は参考にしていただきたい。

それで必ず勝てるという保証はできないが、「いいなりに和解金を払うつもりはない」という強いメッセージを伝えることはできる。それがトロルどもにとっては痛いのだ。他のトロルにもあなたが従順な被害者ではいないということを伝えることができる。

情報の公開

パテント・トロルやその後押しをする法律事務所にとって、自分たちの存在や活動が公けにされるぐらい嫌なことはない。だまって金を払ってくれることを望んでいる。われわれはAGIS Inc.とKenyon and Kenyon LLP法律事務所の弁護士、Mark Hannemann、Thomas Makinが陰に隠れることを許さなかった。訴訟の継続中、われわれは有力メディアや業界で影響力のある人々に向けてトロルどもの役割を公表した。

情報と資源の共有

AGISに襲われている他の会社を助けるためにわれわれはAGISの主張を無効にするためにわれわれが収集した情報を公開し、いわば訴訟をオープンソース化した。さらに調達資金が2500万ドル以下で同様の問題でAGISに訴えられている会社に対しては無料で訴訟援助を申し出た。これはAGISの主張に根拠がないことに広く注目を集めさせると同時に、われわれを訴えればトロルの他の訴訟にも悪影響が及ぶことを知らせるのが目的だった。

腹を据えてやり通す

これは正と邪の戦いだ。それだからやりがいがある。正義のために戦っているのだということをしっかり腹に据えておかねばならない。いささかおもはゆい言い方のような気がするかもしれないが、状況が苦しくなってきたときにこの自覚は大きな差を生む。

「訴訟は金が掛かり過ぎる、それより少額で和解した方が得だ」と勧める人もいた。しかしそれはおそろしく近視眼的な見方だ。トロルのいいなりにならず、断固として戦って撃退したという記録は他のトロルに狙われる危険性を大きく下げるのだ。

たしかにコストのかかる対処法ではあるが、われわれの強硬策が正解だった有力な証拠がある。AGISが特許権侵害の訴訟を起こした後、われわれはさらに2件の特許権侵害の通告を受けたが、AGISが壊滅的な敗北を喫したのを見ると、どちらも取り下げられた。

起業家、ベンチャーキャピタリスト、その他テクノロジー・コミュニティーの皆さんにお願いする。どうか和解に逃げないで欲しい。NewEggのLee Cheng、Findthebestの Kevin O’Connor たちに加わり、断固としてノーと言って欲しい。多くの被害者が立って反撃すればいじめはなくなる。テクノロジー・コミュニティーの宿痾ともいうべきパテン・トロルといういじめも同じだ。

画像: EFF Photos/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


ベンチャーキャピタルはメディア系スタートアップが嫌いなのか


編集部記: James Brooknerは、Station 12でメディアとエンターテイメント分野を担当するベンチャーキャピタリストだ。彼は、イギリスやヨーロッパのシリーズAやグロース段階の企業を注視している。

「コンテンツを作る人を雇っているなら、ベンチャーキャピタルと話すことはできない」。BuzzFeedのCEOであるJonah Perettiは、このような話とは無縁だろう。彼には、きっと多くのVCが投資したがっていた筈だ。しかし、彼は過去に多くの人からこの台詞を聞かされてきた。2006年にスタートアップの資金調達先を探していたころ、VCを怖じ気づかせるのに「コンテンツ」という単語一つで十分だということに彼は気がついた。

「私たちが事業を始めた頃の投資家は、ジャーナリストや報道、そしてその他のコンテンツを作るプロが関わる、いかなる事業にも投資したがりませんでした」。Perettiは昨年、そう話した。「皆、口を揃えて言うのです。コンテンツを作る人を雇っているなら、ベンチャーキャピタルと話すことはできない、と」。しかし10年近く経った今となっては、状況は大きく変わった。すでに、4回に渡るラウンドで累計4600万ドルを調達し、昨年の夏には、突然VCのAndreessen Horowitzから5000万ドルの出資を受けたことを発表した。

一体何が起きたのか?以前は、コンテンツを主軸としたビジネスにあんなにも消極的だったのに、何が彼らの考えを改めさせたのだろう?最初に彼らが懸念してことから掘り下げよう。Perettiが資金調達を開始してから間もなく理解した通り、当時VCは人をリスクだと捉えていた。コンテンツが主軸のビジネスは、安全な投資だと信じられてきたことへのアンチテーゼだった。一つのソフトウェアを作成し、それをスケールさせれば良いのではなく、コンテンツは人が継続して作らなければならない。一つ制作したら、また次を制作する繰り返しが求められる。

多くのVCにとって、これは馴染みのあるものではなかった。彼らの多くは、コンテンツ、エンターテイメント、メディアビジネスの経験が乏しかったのだ。IntelやPayPalといった巨大なテクノロジー企業を創業して得た利益を元にVCを始めたのなら、彼らの得意分野ではないコンテンツ中心のスタートアップに投資するのを躊躇うのは理解できる話だ。

今では、メディア分野の理解が深まった人が投資家としての機能を果たすようになってきた。これにより、コンテンツにフォーカスした事業の起業家が資金調達を行える良い環境が整ってきた。

世界規模でみると、事例はたくさんある。BuzzFeedのほかには、Vice Media、Contently、NowThis News、Upworthy、Business Insiderや、コンテンツベースのビジネスのホストを行うサービスなどが、近年VCによる大型投資を受けている。ポイントは、コンテンツを消費する人が増え、その影響力が強まったことだ。VCは、プロダクト、デザイン、ハードウェア、ソフトウェア、アルゴリズムを展開する企業だけでなく、かつては投資を避けてきたコンテンツベースのビジネスの起業家に目を向けるようになった。

スマートフォン、タブレット、コンピューター、テレビがどこでも使えるようになった。それに伴い、動画、オーディオ、文章といったコンテンツがどこからでもアクセスできるようになった。それはスケールするのが簡単になり、それらの価値を高めることにつながった。この時代のコンシューマーは、好きな時に好きなコンテンツにアクセスできることを求めている。この流れに乗るメディア企業(とそれに投資するVC)が利益を生み出し始めている。

少し前までのVCは、コンテンツは既に飽和状態にあり、作るのは簡単だが、オーディエンスを作るのは難しいと考えていた。しかし彼らは気がついた。コンテンツをシェアすることがとても簡単になり、投資家の目に魅力的に映る。同時にそれはコンシューマーがコンテンツの品質の指標となることを意味している。核心となるアイディアが強く、それが正しい形で伝わった時、事業は成功する。

インターネットとデバイスの多様化と浸透により、コンテンツの消費がしやすくなった。これにより、新興メディア企業はニッチなアイディアを世界中にいる特定のターゲットに届けることができ、世界規模のビジネスに発展することができた。例えば、Complex Mediaは、スニーカーとトレーナーの収集、インディーズ音楽といった多様な内容をカバーしている。また、The Dodoは、動物の話だけを特集している。このように、以前までは訴求することが難しいと思われていた内容でも成立するということを示す事例はたくさんある。

VCは、コンテンツ企業の成功はヒット作が出るか否かにかかっていることを示すために、Rovio(Angry Birds)やKing(Candy Crush)といったゲーム開発企業の成功を引き合いに出す。投資家の為にも投資利益を上げるため、B2Bビジネスと比較すると、VCはコンテンツビジネスに対し、ウイナー・テイク・オールの立ち位置を確立できる事業内容を求めることが多い。コンテンツビジネスの成果がB2Bのビジネスより、当たるか当たらないかの賭けに見えるのは事実だが、コンテンツビジネスに投資をして育てることは、コンシューマー向けインターネットビジネスと共通している部分もある。

RovioやKingのような企業は、SnapchatやFacebookのように成長してきた。ヒット作を作り、そのロイヤリティで続ければ良いといった単純な話ではないのだ。製品は継続的なイノベーションと開発を必要とし、素晴らしい価値を提供するプロダクトを作るには、ユーザー視点で製品を作り込んでいかなければならない。そのように考えると、コンテンツビジネスもVCがかつて投資してきたB2C向けの企業とさほど変わらず、VCもその事実に気が付いてきた。

この変化は、VCに限らず大手テクノロジー企業にも見られる。例えば、Netflixだ。彼らは長い間、他の企業が開発したコンテンツを配信してきたが、2011年に、House of Cardsというコンテンツをプロデュース、開発するために資金を投じた。これは、動画配信市場に重要な意味を持つ出来事だ。

注目を集めるコンテンツを作ることは、プラットフォームにとって、ユーザーを獲得して離さず、利益を出すための秘訣として捉えられるようになった。だからAmazon PrimeやNetflixが、自社の番組の開発に乗り出しているのだ。私たちも、イギリスにはコンテンツのプロデュースの成功事例があることから、この分野に着目している。ただ、ここに投資して利益を得るには専門的な知識が必要不可欠だ。

Amazon Prime、Xiaomi、Yahooやその他大勢の企業も、先陣を切った企業に倣い、コンテンツへの開発投資を始めた。彼らにとってそれが有益なら、VCにとっても有益である。コンテンツの重要性は年々増し、コンテンツプロデューサーやアグリゲーターは、テック業界において重要なプレーヤーになった。彼らを追って、VCは知識を付け、流れに追いついてきている。このトレンドが後退する兆候はまだ見られないので、更に多くのVCが参戦することだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook


成功するスタートアップの陰にメンターあり


編集部記: Rhett Morrisは、Endeavorの調査研究を担うEndeavor Insightのディレクターである。Endeavorは強い影響力を持つ世界中の起業家を支援する非営利団体である。

「投資家向けのピッチは最低でも200回は見直しました」先日フォウンダーの一人が私にそう言った。彼女は先月、シードラウンドの資金調達を達成するまで、出資の可能性のありそうな投資家50人以上と面会していた。この話を大げさだと思う人もいるだろうが、このようなことは珍しいことではない。

起業家は、エンジェル投資家やベンチャーキャピタリストから資金調達を行うのに何百時間もかけている。このような活動が会社にとって重要であることは言うまでもないが、スタートアップに関する新しい研究データからすると、ファウンダーは今ままで見落とされていた活動についても時間をかけるべきだということが分かってきた。それは、素晴らしいメンターを探すということだ。このシンプルな戦略は他のどのような戦略よりも成功確率を高める可能性を秘めている。

成功したファウンダーの秘訣を探る

私たちのチームは昨年、テック業界の何千もの企業について研究した。その中でも特にニューヨークのテック企業に注目した。なぜなら今では世界で二番目に大きいテクノロジーのハブ都市になるほど、2003年から2013年におけるニューヨークのテック企業の成長が著しかったからだ。この調査の目的は、ローカルなテック企業が成功した理由を探ることである。

私たちの分析は、CrunchBase、 AngelListとLinkedInから得られた情報を集約し、更に700名近いファウンダーへのインタビューから得られた内容に基づいている。ニューヨークのファウンダーたちは累計で一ヶ月以上もの時間を私たちの調査に費やしてくれた。このようにして集められたデータは、一つの起業家コミュニティーを表す世界最大のデータベースとなった。

スタートアップの成功の秘訣と言われているようなこと、例えば大学に通っている頃から会社を始めるといったことは、その後に目立った違いを生み出してはいなかった。このようなスタートアップに関する迷信についての検証でも興味深い結果が得られた。しかし成功企業とそのファウンダーに見られた行動の検証では、それを上回る面白い発見があった。

起業家のアドバンテージを生むもの

ニューヨークのテック企業の膨大なデータ量で、今までにない分析方法が可能となった。同じ街の同じ分野で同じ年にローンチした企業を「類似グループ」としてまとめた。各グループの中から、下記の条件を一つ以上満たした企業を「トップパフォーフマンス」企業とした。

  • 売却に成功:1億ドル以上でのエグジットを達成
  • 投資家へのアピール:資金調達額が類似グループの上位10%内
  • 内部のスケール具合:従業員の数が類似グループで上位10%内

この条件を一つでも満たした企業は、研究対象となったニューヨークの全テック企業の13%だった。「トップパフォーフマンス」に分類された企業の中には、Gilt Groupe、Huffington Post、 MongoDB、 Shutterstock やTumblrなどがあった。

ニューヨークのテック業界内の成功している企業を分析すると面白いパターンがみつかった。このようなスタートアップを率いている起業家の多くは、他の成功している企業のファウンダーとの個人的なつながりを持っていたのだ。

中でも最も強い影響を持っていたのはメンターの存在だった。例えば高いパフォーマンスを出しているEtsyのChad DickersonやFlatiron HealthのNat Turnerは、成功している起業家であるFlickrのCaterina Fakeや、AppNexusのBrain O’Kelleyをメンターとしていた。

このようなつながりは強力だ。下の図を見てほしい。成功している起業家のメンターがいる場合、それらのテック企業の33%は「トップパフォーマンス」に分類されていた。他のニューヨークに拠点を置くテック企業のパフォーマンスと比べると、その成果は3倍以上だ。

このメンターシップのパターンはニューヨーク以外の起業家でも見られる。Steve Jobsが亡くなったとき、Mark Zuckerburgは、Appleのファウンダーは偉大なメンターであったと話している。DropboxのファウンダーのDrew HoustonとArash Ferdowsiのメンターは、シリコンバレーで成功を手にしたシリアルアントレプレナーのAliとHadi Partoviだ。

メンターの効果は何も起業だけに限らない。他の分野においても、良いメンターに師事した学徒のパフォーマンスが向上することが研究で分かっている。しかし、企業のパフォーマンスを比較すると、適切なメンターがいる場合とそうでない場合の差は歴然であり、スタートアップにとってメンターの価値は非常に高いと言える。

メンターとメンターシップを最大限活かす

Endeavorは、20以上の国で、急成長する企業を率いる1000人もの起業家をサポートしてきた。ファウンダーと投資家をつなぐこと、そして彼らに適切なトレーニングを提供することが主な活動である。それと共に、ファウンダーと経験豊富な起業家や重役を担ってきた人をつなぎ、メンターシップの場を提供してきた。このメンターシップにより、Endeavorネットワークの企業の平均成長率が、年60%以上も向上した。企業のいくつかは上場あるいは、1億ドル以上のエグジットに成功している。

ファウンダーがメンターとの関係を築くために覚えておきたいことが3つある。

ポイント1:メンターのクオリティーが大事。

メンターがいるだけでは充分ではない。あなたの企業を成功させたいなら、そのレベルに到達する方法を知っているメンターが必要だ。既にテック業界で成功を収めたメンターは、若いスタートアップが類似グループの企業より結果が残せる可能性を3倍高める。成功していない、クオリティーの低いメンターの影響は、ずっと低い。

ポイント2:メンターシップの効果は、継続的な関係を築くことで得られる。

私たちのニューヨークの研究では、成功している企業のファウンダーは、3回以上メンターと面会している。私たちの起業家をサポートする事業でも、定期的に会うことが重要なことが分かっている。Endeavorのネットワークに加入した新しいファウンダーには、複数のメンターからなるアドバイザリーボードを付ける。四半期に1度は必ず面会の機会を作るためだ。

ポイント3:素晴らしいメンターには、ビジネスにおける最重要な課題を相談する

メンターの才能を最大限活用することが重要だ。今回の研究でも、ファウンダーは自身の企業で起きている重大な問題についてメンターに相談していた。素晴らしいメンターは、同時に忙しい人でもある。ファウンダーは、メンターの時間と専門分野を最大限に活かし、問題の解決の糸口を探すべきだろう。

さらに詳しい情報については、こちらを見てほしい。ニューヨークのテクノロジーセクターの研究を助けてくれたMike Goodwin、そしてこのプロジェクトにアドバイスをくれたGlobal Entrepreneurship Research Networkのメンバーに感謝いたします。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook


アンチ テクノロジーの波があなたの街に押し寄せる日も近い


最近私は、クローン技術が暴走する内容のOrphan Black というテレビドラマを見ている。人道から外れた科学者たちと、テクノロジーを忌み嫌う信心深い人との対立を描いている番組だ。

テレビ番組やSF小説を真に受けるのは危険なことではあるが、凄まじい速さで進化するテクノロジーに不安を抱く人が増えるのは確実であり、その兆候も既に表れている。テクノロジーに対するスタンスは人それぞれだ。

テクノロジーに不安を抱くのは、それはいつも社会より一歩先を行く存在であること、そして全員が、既にあるテクノロジーを完全には把握できないことが関係している。スマートフォンのマナーや心の中までシェアする潮流に対し、社会的なルールもまだ確立されていない。

運転中にメッセージを送ったり、歩きながら夢中でスマホをいじったり、電車内にも関わらず大声で通話をする人もいる。ミーティングや映画館で着信音を消すことすらできない者もいる。

他には到底許されない行為もある。昨年、ボストンの地下鉄で女性のスカートの中を盗撮した 男が逮捕された。市民は憤ったが、裁判所は男の犯罪行為を裁くことができなかった。今まで起きたことがない問題だったために、この行為を罰する法令がなかったのだ。幸いにも、マサチューセッツ州議会のこの件について早急な対応を行い、新しいテクノロジーに関する条例を制定した。

テックの中心地サンフランシスコを揺らす

アメリカのテクノロジーの中心地、サンフランシスコでは既にテクノロジーへの強い反発が見られている。それはこの動きが他にも広がっていく兆候なのかもしれない。シリコンバレーの高給の仕事を求める知識労働者がこの地に流れ込むほど、家賃は上昇し、高級レストランが乱立した。それらの影響で追い出された人の怒りは募るばかりだ。ついには公共のバス停を使用しているとし、GoogleやFacebookのバスを攻撃する人まで現れた。

アンチテクノロジーという正義の名の元、私の同僚Kyle Russellは、付けていたGoogle Glassをはぎ取らる ということも起きた。

テクノロジーにより変革が起きた業界の人も良い顔をしない。Uberが営業している地域のタクシードライバーはUberに度々抗議 してきた。彼らがUberのドライバーに対し暴力的な行為を働いたこともある。Airbnbのレンタルサービスに関しても、他のテナントや近隣住民から抗議 を受けている。似たような抗議は後を絶たない。

私は先週オースチンでタクシーに乗った。私の仕事がテクノロジー関連のジャーナリストだと知ると、運転手はUberがいかに彼の生活にダメージを与えたかを記事で伝えるべきだと話した。目的地に着くまで彼はUberへの不満を述べていた。彼のコントロールできないテクノロジーの波は、彼の生活に深刻な影響を与えていた。

私たちは理解できないものに恐れを抱く

先週オースチンで行われたアンチロボットの集会をレポートした。この集会が行われた真意については疑義があり、調査した結果、アプリの宣伝を兼ねていたことが分かった。このグループのスポークスマンと話をしたところ、彼が制作したデートアプリに注目を集めるために行ったことは認めたが、同時にアンチロボットの流れがあるということも事実だと語った。

彼らは、テクノロジー、特に人工知能やロボットの分野が急速に発展していることを真剣に憂慮し、その考えを伝えたいとしている。オースチンで行われた人工知能への反発は、Elon Muskの発言に後押しされたとも考えられる。Elon Muskは、 1月に「Keep AI beneficial (人工知能を有益なものに留める)」という名の団体に1000万ドルを寄付している。団体の意図は分からないが、この団体名に触発された人もいるのだろう。

19世紀に織物の仕事が減少したことへの抗議活動として、工業用の機器を破壊していたラッダイトのように、テクノロジーが発展している分野でも同様の反対運動が生まれてくるのかもしれない。

ラッダイトも学んだ通り、私たちはテクノロジーは誰も待ってくれないことを知っている。私たちが何を言おうと、何をしようと、進化し続けるのだ。そして、テクノロジーは私たちの理解を超え、正しい扱い方を学ぶのが後手に回るかもしれない。そうなれば、様々なテクノロジーへの批判が噴出することになるだろう。

テクノロジーに対する反感は既に芽生えている。テクノロジーが私たちの生活に入り込み、私たちの仕事を取って代わり、優秀になればなる程、反対運動も大きくなるだろう。私たちは、テクノロジーの進化と同時に、法律の制定やマナーを浸透させていくことが必要になる。

社会が最終的にこの変化に適応することは間違いない。しかし、私たちがそれのもたらす変化を受け入れる余裕がないほどテクノロジーが冷徹に進化を続けるなら、どこかでそれを解決するまで、反対運動が止むことはないだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook


インターネットでフラット化した世界のこれから


編集部注記: Alec Oxenford は、アメリカでオンラインのグローバル広告掲示板を運営する OLXのファウンダーである。

インターネットは急速に世界をフラットにし、経済における役割も以前とは異なるものとなっている。新興国でのインターネットの普及が進み、それに伴いインターネット関連の起業も相次いでいる。インド、中国、南アメリカ、アフリカでは既に大きく成長したスタートアップが誕生している。Alibabaはその中でも突出している企業ではあるが、他にもこのような企業はたくさんある。

しかし、先進国がこのような企業とそれらが地盤とする新興市場に注意を向けることは少ない。(Alibabaの数ヶ月にも及ぶ大規模な広報活動を持ってしてもだ。)多くの起業家にとってこれは朗報ではあるが、先進国の人はこれを機に目を覚まさなければならない。

AlibabaのIPOで興味深かったのは、予想通りの成功を収めたということもあるが、2014年までアメリカや他の地域でもAlibabaを知る人があまりに少なかったことだ。周知の通り、Alibabaは巨大な企業だ。15年前からビジネスを続け、去年は1日の売上が90億ドルを記録 したこともある。

アメリカでほぼ注目されていない企業が、歴史上最も大きいIPOを行えたのにはどのような背景があったのか?これはきっとAlibabaに限ることではないだろう。Alibabaのような成功は世界のテクノロジーセクターの何を表しているのか?

この質問の根底には、これからこの議論をますます重要なものにする一つの事実がある。それは、モバイルの普及により何万もの人がインターネットを利用できる ようになってきたこと、そしてFacebookのInternet.org のように世界中にインターネットを普及させようとする活動が行われてることで、相対的にアメリカのインターネットにおける存在感が小さくなっているということだ。

国際連合の情報と通信技術の専門機関である国際電気通信連合によると、現在モバイルブロードバンドのサブスクリプション数における新興国が占める割合は55% であり、2008年の20%から激増した。このレポートでは、モバイル端末のサブスクリプション数は、全世界の人口数に迫りつつあるとも報告している。それは一人が複数の端末を所有しているという理由だけではない筈だ。

アメリカは何故これに注目すべきなのか。それは、Alibaba、Tencent、Flipkart、Snapdeal、Baidu、Justdial、Mercadolibreのような企業がアメリカ市場以外の所で誕生し、ここまで成長することができたのは、アメリカの企業が残した市場のチャンスを見逃さなかったからだ。

人口が2億人に迫りつつあるナイジェリアは、 アフリカ最大のテクノロジーの中心地になろうとしている。しかし、不可解なことに、今までを振り返ってもこの急成長中のテクノロジーセクターに投資しているのは10社しかいないという話も聞く。一方で、Uberを見てみると、30以上の投資家の支援を受けている。いかに偏っているかが分かるだろう。

特定の市場にフォーカスし、勢いのある企業は何故アメリカ市場に進出することには積極的でないのか?より良い質問は、何故、他の企業は時間とリソースを投資して、ナイジェリア、インド、ブラジルといった急成長する市場で事業を展開しないのか?このような市場には潜在的な成長の機会も多く、既に発展したアメリカや西ヨーロッパの市場より低い競争率の中で、高い利益が見込める場合が多いだろう。

自国の市場を、例えばバンガロールの市場より理解しているという考えがこのような状況を生んでいるのだろう。確かに、この考え方は自然であるし論理的である。しかし、私は新興市場におけるコンシューマーの動きを観察したり、実際に足を運んだりすることに多くの時間を費やして感じたことがある。それは、良く言われていることでもあるが、私たちコンシューマーの行動は驚くほど似通っているということだ。つまり皆基本的な要因に影響されて行動するのだ。ボストンの人とブエノスアイレスにいる私とでは物事の優先順位は異なるだろう。例えば、サッカーへの関心とかだ。しかし私たちは皆、生活の質を良くしたいという共通した思いがあるのは間違いないだろう。この思いは特にEコマースでのインターネット上の行動の誘因となる。

このような事実は、統一が進む世界の経済とテクノロジーセクターにとってどのような意味を持つのだろうか?インターネットの初期の段階では、AOLやYahooといったweb 1.0を代表するインターネット企業がアメリカ市場を席巻した。インターネットは次第に成熟し、現在はインターネットの第二段階であると言える。ここでは、Facebook、Google、YouTube、Appleが瞬く間に巨大企業へと発展し、初めて真のグローバルなインターネット企業となった。

では、第三段階ではどうなるのだろうか。Alibabaのような多国籍プレイヤーがアメリカのコンシューマーを獲得する為にアメリカ国内の企業と市場を争うようになる日は近いだろう。この動きはまだ進んではいないし、GoolgeやAmazonといったアメリカに地盤を築いている企業と張り合うのは難しいことではある。しかし、今後アメリカを席巻するインターネットプラットフォームが新興市場から生まれる可能性は多いにあるだろう。

インターネットはあなたが思うよりもずっとフラットにチャンスを与えるのだ。

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(翻訳:Nozomi Okuma / facebook


18金のApple Watchは理想的な大馬鹿者発見器

編集部: ケビン・ローズ(Kevin Rose)はDiggのファウンダー、 ベンチャーキャピタリスト、North TechnologiesのCEO であり、ニュース・アグレゲーターWatchvilleの開発者でもある。

私はアナログ腕時計のコレクターで、自他ともに認めるAppleファンだ。そこで私もApple Watch Edition(EditionというのはAppleが発明した「金」という意味のマーケティング用語)を好きになろうと努めた。しかし私にはApple Watch Editonに含有する金の価格(1トロイ・オンスの18金は900ドル程度)以上の価値があるとはどうにも思えないのだ。

テクノロジー愛好家としてもコレクターとしても魅力を感じない。少し詳しく説明してみよう。

テクノロジー愛好家として

テクノロジー愛好家の小切手帳は最新テクノロジーに飛びついたときに流した血で真っ赤だ。

Watch Editionがテクノロジー愛好家にとって魅力的であるためには、もっとハイテクである必要がある。これほど高価なモデルなら、安価なモデルにないセンサーが付加されているとか、ディスプレイがさらに高精細度だとか、コストの関係で大量生産モデルでは実現できなかった機能が採用されているべきだ。そういう付加価値があってこそテクノロジー愛好家は法外な出費を自分に納得させることができる。RetinaディスプレイがMacBookに採用されたとき、われわれがそれに飛びついたのは、画面の美しさそのものよりむしろそれが最新のハイテクだったからだ。

残念ながらWatch Editionにはそういう特長は一切見られない。金側であるという以外、内部は安いモデルと全く同一だ。それで値段は7000ドル高くなっている。

コレクターとして

腕時計のコレクターが求めるのは、語り伝える価値のある職人技のストーリーだ。われわれは何十年にもわたって時を刻む時計を作るために注がれた職人の技を愛する。

こういうストーリーを売る広告としてパテック・フィリップは「あなたはパテック・フィリップを所有するのではありません。あなたはパテック・フィリップを次の世代に伝えるためにその面倒を見るのです」と宣言している。

Apple Watch Editionは次世代まで残るのだろうか?

腕時計コレクターとして私がEdtionを欲しくなるためには、Appleは外部だけでなく内部にももっと洗練された高度な素材と製造技法を用いる必要がある。特に耐久性は重要だ。テクノロジーそのものとして時代遅れになっても、私の孫のために時計としてはきちんと機能してもらいたい。古いiPodのようにクローゼットの隅に放り出されて埃をかぶっているのでは困る。

たとえば、裏蓋も透明なサファイアガラスにして内部を見せるというのもよいだろう。FPJourne Eleganteのデジタル版だ。内部が見えるようにして、そこに特別な機能が組み込まれているのが見えればコレクション価値がアップする。

しかし現在のところ、349ドル版とまったく同じ内部機構の時計が金側になったとたんに1万ドル以上になる。コレクション価値をどこに見い出せばいいのか?

時計師のロジャー・スミスが偉大な時計師、故ジョージ・ダニエルズ博士(同軸エスケープメントの発明者)について語った言葉がコレクション価値について的確に述べている。

「コレクターがダニエルズの腕時計を買うのは、ダニエルズがその時計を完成させるまでに払った努力の歳月だけを買うのではない。コレクターはダニエルズがかくも偉大な時計を作り出す偉大な時計師になるまで払った自己犠牲の積み重ねを買うのだ」

中国で大量生産されたデバイスからそうした偉大な職人技、そのオーラを感じることはない。コレクターズアイテムにはこのオーラが必須だ。.

ゴールド愛好家に売る

Appleはファッションブランドになる必要はない。なるべくたくさんの腕時計が売れるようにすることを目的にすべきだろう。ゴールド(素材ではなく色)はファッション界ではトレンドのようんだ。それならゴールドの腕時計が多くの消費者の手にわたるようなテクノロジーの開発に努力すべきではなかったのか? たとえば「これまでよりも10倍丈夫なゴールド・コーティング」には大きな価値があるだろう。私ならそのアップグレードに500ドルから1000ドル出してもいい。しかし数年もすれば使い捨てになるようなデバイスに18金無垢のケースは要らない。

さて困った。私にはWatch Editionが誰をターゲットにしているのか想像がつかない。

最新のハイテクでもなければコレクターズアイテムとしての価値もないとすると、唯一残された価値は自分には金があると見せびらかすことだけになる。それなら中国の一部では十分な数が売れるのかもしれない( (ヒツジ年だということを忘れずに)。ドバイも市場として思いつく。

しかしそれ以外の地域では、Watch Editionは女優のアナ・ケンドリックがツイートしたような役割しか果たさないのではいかと思う。:

Appleがそういうイメージを喜ぶのかどうか私には謎だ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


Apple Watchイベント前夜。歴史はAppleに味方する


Appleは明日(米国時間3/9)小さな発表を行う。おそらくご存じだろう。それはApple Watchと呼ばれ、明日は大きな一日になる。当然のことながら、過去の製品デビューと同様発表前には様々な噂が飛び交い、どれほど成功するか失敗するかその中間なのかという声が聞こえてくる。。

実は、今の感覚は2010年にiPadが発表された前日とよく似ている。山ほどの憶測が溢れ、多くの人々が(私を含め、と言わねばなるまい)、ポケットの中にiPhoneがあるのに誰がタブレットを必要とするのか疑問を呈した。もちろんみんなが間違い、あのデバイスがコンピューティングを永遠に変えることになることを予言できなかった。

大きなタッチスクリーンからキーボードを取り除いた時、誰も予想しなかったことが起きた。消費者にとって、大きなタッチスクリーンはコンテンツと向き合う新しい方法を提供してくれた。ビジネスにおいては、顧客と話しながらタッチしたりスワイプしたできるので、デバイスは溶けてなくなり、それはノートパソコンではあり得ないことだった。

それはソフトウェアがどう動くかに対する期待さえ変え、消費者向け製品をITシステムで活用する、「コンシューマライゼーション」を促進した。2012年、私はCITEworldでiPadの与えるインパクトについての記事にこう書いた

「このデバイスのエレガンスと使いやすさ ― そして3年以内に1億台以上売れた驚きの人気 ― は、エンタープライズソフトウェアの設計者に、ソフトウェアとの向き合い方を再検討させるに至った」

TechCrunchのMatthew Panzarinoは、Apple Watchが人々の腕にはめられた時、同じ力学が働くと考えている。彼は、Apple Watchがモバイル端末とのつきあい方を変え、スマートフォンは多くの時間、ポケットの中に入れたままになると信じている。不器用にスマホの画面に見入る代わりに、さりげなく腕に一瞥をくれるだけになる。それは、iPadがわれわれの仕事のやり方を変え、iPhoneが携帯電話に対する考え方を変えたのとよく似ている。

NPDによると、Samsungは生まれたばかりのスマートウォッチ市場を支配し、78%の売上シェアを占めている。Pebbleが18%で大差の2位につけている。SmartWatch Groupの報告によると、これはSamsungが80万台、Pebbleが30万台売れた計算になる。

先週Mobile World Congressの会場を歩き回ったとき、多くの電話機メーカーや時計メーカーがスマートウォッチを出しているのを見たが、一般市場の心を把んだものは未だない。これらのテバイスが市場に大きな影響を与えていないのなら、どうしてAppleにそれ以上のことができるのかと言うのが世間一般の通念だ。

TechRadarはこれを、よくできた製品だが誰も必要としないとまで言っている。

たしかにそういう見方もあるだろうが、MP3プレーヤーであれ、スマートフォンであり、タブレットであれ、Appleが何かに注目した時、おそらくわれわれも注目すべきであることを歴史が示している。

Apple Watchがヒットするか外れるかを予測するのは不可能だ。しかし、疑わしきは会社の利益にの原則で考える価値はある。TechCrunchのJohn Biggsは、大胆にも、Appleは最初の1ヵ月で100台を売ると予測した。

私の予測はこうだ。Appleは前四半期だけでiPhoneを7500万台売った。その10%がApple Watchを買うとすれば ― 私はさほど大胆な予想だと考えていない ― Appleは今四半期に750万台のウォッチを売る。

これまで何年にもわたって、われわれは最新デバイスをいち早く手にしようと行列に(時には数日間)並ぶApple信者たちの不条理な行動を目の当たりにしてきた。好奇心だけからでも、あの連中の何パーセントかがこのデバイスを買っても不思議ではない。そしてiPhone市場のサイズを考えれば、それは数百万台に換算される。

Appleもいつかは失敗する、Apple Watchがその時だと嘲笑する人は、もちろんいるだろう。しかし私が思うに、市場におけるAppleの勢いはそれが起きるにはあまりにも大きく、たとえわずかなヒットでも大きな成功になる。今回もAppleの勝利を予想する。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


どうした、Google?

Googleよ、どうした?Androidの売上は落ちている。Chromeは肥大化した大食らいになった。アナリストは君たちのことを新たなMicrosoft、いやもっとひどく新たなYahoo!とまで呼んでいる。そして何にもまして、君たちは我々の信頼を裏切った。今までGoogleは特別な存在だった。少なくともそう信じていた。しかし、今は日々ただの巨大企業になりつつある。

厳しい言い方に聞こえるなら、Zoe Keatingの騒動を見て欲しい:

YouTubeはKeatingに対して、呑むか辞めるかの条件を提示し、そのいくつかを彼女は受け入れられなかった。いくつかの条件は、理解に苦しむものでもあった… 今ー Keatingのブログ記事に続いた公開ディベートの後 ーYouTubeはそれを、Keatingにとって比較的単純な選択だと説明している。… これらの回答は以前YouTubeからKeatingに提示された(そして彼女が書き起こした)契約内容と矛盾しており、契約条件の変更と解釈できる。

最大限好意的に見ても、Googleの著しく紛らわしく高圧的な対話姿勢は責められるべきだ。それは、長年(当然)指摘されてきたことでもある。しかし、Jamie Zawinskiは、こう説明する:

Googleは、Google Plusの時と同じ戦略をとっているように見える。新たなサーヒスを作って実力で競争するかわりに、恣意的に持ち上げて人々にサインアップを強要する。違うのは、今回のケースで強要されているのがエンドユーザーではなく著作権保有者だという点だ(今のところは!)。

企業が図書館の仕事をしても信用するな」という意見もある:

Googleがその過去を捨てるにつれ、インターネット・アーカイブ屋たちが我々の集合記憶の保存に参入してきた… Googleグループは、事実上終わっている … Google News Archivesは終わった … 公共の利益のために過去を保存するプロジェクトは、決して大きな収益事業ではない。かつてのGoogleはそれを知っていても気にする様子はなかった … 過去を保存することへの意欲は、20%自由時間、Google Labs、そして闇雲な実験の精神と共に死んだ。

あるいはVICEが言うように:「検索会社であるGoogleは、自らのインターネットアーカイブの検索を困難にした」。

Googleは2月16日にGTalkを閉鎖し、ユーザーにHangoutsへの切り替えを強制する」:

あの良き時代を覚えているだろうか、10年前、誰もがGoogleのやることすべてを賞賛した頃を。

… おそらく私は、その答えの一つか二つを知っている。

Googleは長年、風変わりな白鳥のような会社だ。外から見れば、10億台のAndroidフォンがYouTubeビデオを再生し、比類なき検索エンジン、さらにはGoogle Xの奇跡と不可能を可能にするプロジェクトの数々、 軍から救い出された,ロボット犬、そしてSpaceX資金調査つラウンドまで、すべてが苦もなく進んでいる。人はこれを最高のGoogleと呼ぶ。しかし、水面下を見ると、巨大な広告マシンが最高のGoogleを賞賛の的へと推し進めるために、水かきを必死にバタつかせてもがいている。これを、悪財のGoogleと呼ぼう。.

あの揚げ足取りのアナリスト連中にとって、悪財のGoogleは未だに巨大な金を生む機械であり、これと最高のGoogleの両方が、何千人もの賢い人々の生計を維持している(情報開示:複数の個人的友人を含む)。私はGoogleが今後直面するヒジネスチャレンジを克服していくことを心から期待してやまない。

しかし、もはや私はこれに関してあまり良い結果を期待していない。

われわれは最高のGoogleを見ることに慣れきってしまったが、最近になって悪財Googleを無視することが益々難しくなってきた。何故か?そんなもの必要なさそうに思えるのに。しかし悪財Googleは、今でも最高のGoogleに資金を送り込んでいるのだ。いったいあの黄金の最盛期のGoogle、われわれの知っている、われわれの愛したGoogleにいったい何が起きたのか。

StratecheryのBen Thompsonの言うことは真実だ:今のGoogleは、90年代のMicrosoftをまさに彷彿とさせる。どちらも、無限の難攻不落の金のなる木を持っていた。しかし、その金を月ロケットに使う代わりに、Microsoftは大いに嫌われる企業捕食者になり、内紛とMicrosoft BobやWindows VIstaといった恐怖のために膨大な時間と金を無駄にした」。なぜGoogleはあの甘い悪の誘惑に乗ってしまったのか?なぜ、マウンテンビューは新たなレドモンドになる危機に瀕しているのか。

Why indeed. It turns out that Google is literally the new Microsoft:
実際何故なのか?要するに、実はGoogleが〈まさしく〉新しいMicrosoftだからだ。

(ここで言っているのは下級エンジニアだけの話ではない。元Google Plus責任者のVic Gundotraが、元Microsoft幹部だったという事実で、大方説明できるだろう)

これは、Googleがなぜ、私が思うに、ゆっくりとしかし確実にわれわれの信頼を失いつつあるかも説明している。昨今、Googleと触れ合うとき、自分が話しているのは最高のGoogleなのか、悪財Googleなのか、それとも、その信念と価値はレドモンドで生まれ、その結果特徴の多くは ー そして内紛も ー 最高のGoogleよりも悪財Googleとよく似ている元Microsoft社員なのか、わからない。

Appleについて何が好きかを話しても、Appleの苦情を延々と述べても、返ってくる内容はいつも想像がつく(豪華なベルベットの手袋に包まれた、優美なチタン製の拳)。しかし最近のGoogleは、聞く耳を持たず、それぞれが個別の倫理観と個性を持つ百の頭のヒドラへと断片化しつつあるように見える。しかし、もし信頼と素晴らしさ ー 「邪悪になるな!」「不可能を可能に」ー がこれほどまでGoogleブランドに浸透していなければ、さほど大きな問題とは感じられなかっただろう ー そのブランドも、私には年々少しづつ色あせて感じるのだが。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


Appleは近々音楽ストリーミングに参入する―しかしSpotifyなどライバルにもチャンスはある

Appleが大規模な音楽ストリーミング事業を準備中であるのは間違いない。TechCrunchのJosh Constine記者も書いていたように、Appleはテイラー・スウィフトの所属するレコードレーベルBig Machineを買収することさえ検討しているようだ。Dr. DreとBeatsを傘下に収めたAppleがストリーミング・ビジネスに参入すればまさにモンスター級の存在となるだろう。それではSpotifyのような既存のプレイヤーは道端に掃き捨てられてしまうのだろうか?

AppleやFacebook、Googleなどの巨人が新しいテクノロジー分野に興味を示すと、既存の小規模な事業者は逃げるしかない―でなければ踏み潰されてしまう、というのがこれまでの常識だった。

今回もライバルはAppleの動きを慎重に見定める必要があることは確かだ。しかしAppleのストリーミング・サービスの市場制覇がすでに保証されているわけではない。Appleのやることだからといってすべてスラムダンクとなりはしない。

私自身、iPhone、iPad、MacBook Airを所有しているが、だからといって自動的にAppleのストリーミング・サービスに乗り換えようとは思わない。私はこの2年ほど毎日potifyを使っている。昨年は月額10ドルでCMなし、聞き放題のサービスを契約した。聞きたい曲がすべて入っているわけではないが、十分多数の楽曲が聞ける。

Appleがはるかに満足度の高いサービスを提供してくれるのでなければわざわざ乗り換える気にはならない。もしAppleがサービスのプラットフォームにiTunesのソフトウェアを使うのであれば、それは大きな足かせになるだろう。iTunesはAppleの音楽サービスのアキレスの踵ともいうべき弱点だ。私自身は避けられるものなら避けたい。

iTunesストアはまた別の話で、すでに私のクレジットカード情報を保管している。しかしiTunesはわれわれが音楽ファイルをいちいち買っていた時代に構築されたプラットフォームだ。Appleはまずこのプラットフォームを「定額制の聞き放題のストリーミング」に改めることを迫られている。Beatsを32億ドルで買収してからかなりの時間が経つが、この投資から最大の利益を上げるためには音楽ストリーミング・ビジネスへの参入を避けるわけにはいかないだろる。.

シェア獲得の筋道

Appleは一度の大胆なキャンペーンに賭けず、何度かにわけたキャンペーンでシェアを獲得しようとするだろう。傘下のBeats、そしてスーパースターのDr. Dreと音楽界の伝説的プロデューサー、ジミー・アイオヴィンの影響力を最大限に活かすだろう。

同時にAppleは膨大なキャッシュにものを言わせて、ミュージシャンに有利な契約を提示し、料金も低く抑えるかもしれない。Beatsのヘッドフォンをストリーミング・サービスと巧みに組み合わせることも考えられる。

当初から成功できなくても、Appleには無尽蔵の資金があるから、サービスを拡充、運営していくことには何の問題もないはずだ。

Pingという大失敗

ただし、Appleが触れるものは常に黄金に変わるというわけではない。数年前にAppleが音楽ソーシャルネットワーク事業を立ち上げたことを読者は記憶しているだろうか? 覚えていないとしてもやむを得ない。そのPingはごく短命で印象に残らない存在だった。Pingは2010年にスティーブ・ジョブズ自身の華々しいプレゼンと共に立ち上げられた

当時TechCrunchの記者だったM.G. Seiglerはこう書いている。

「(Pingは)FacebookとTwitterとiTunesを合わせたような存在だ。ただし、Facebookでもないし、Twitterでもない。Pingは音楽に特化したソーシャルネットワークだ」とジョブズは説明する。その規模は驚くべきものだ。すでに23ヵ国に1億6000万人のユーザーがいる―iPhoneとiPod touchのiTunesストアの一部としてすでにアプリはインストールずみだ。

だがほとんどのユーザーはPingを無視した。2012年9月にPingは死んだ

Appleの膨大なリソースをもってしてもPingは大失敗に終わった。もちろんAppleはこの失敗から多くの教訓を得ただろうし、ストリーミング・ビジネスの参入の際にそうした教訓が役立つことだろう。

Spotifyその他には依然として優位性がある

根本的な問題は、Appleがいかに努力しようと、それはAppleのサービスだという点にある。Spotify等はクロスプラットフォームのサービスだという点に重要な優位性がある。世界のスマートフォンの80%はAndroidなのだ。

Spotifyはレッドツェッペリンやメタリカなどの有力な独占コンテンツを持つ他に、エージェントを介さず直接契約するミュージシャンを最近、多数ひきつけるようになっている。当然ながらこうしたフリー・ミュージシャンは多数のサービスが競争することを望んでいる。

Spotifyは小規模なストリーミング・サービスを買収することで体質強化を図るだろうと私は予想している。Appleという巨人の参入は市場の集中化を進めることになるだろう。

もうひとつ重要なのは、音楽ストリーミング市場は巨大であり、複数のプレイヤーが存在する余地が十分あるという点だ。Appleが独自のストリーミング・サービスを開始したからといって、その分だけライバルのビジネスが奪われるというものではない。モバイル・サービスの市場全体と同様、ストリーミング・サービスも向こう数年にわたって急成長を続けるはずだ。それに忘れてはならないが、複数のサービスと契約する消費者も決して少なくないだろう。

Appleの参入に関連してひとつだけ確実なのは、プレイヤー間の競争が激しくなるということだ。これは消費者にとって大きな利益となる。消費者はコンテンツ、価格、プラットフォームなどさまざまな要素を考慮して好みのサービスを選ぶことができるようになる。

Appleはストリーミング・サービス参入にあたって、Beatsなど有力なリソースを傘下に持っているが、 Pingの失敗が教えるとおり、腕力だけでは成功できない。ユーザーから選ばれるためにはAppleも他のライバル同様、努力を積み重ねていく必要がある。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


これまでの検索は終り、モバイルで新たなスタートを切る

編集部注:本稿のライター、 David Seniorは、Lowdownappのファウンダー・CEO。

Yahooが始めたとき、それはウェブの新しいサイトの階層化されたディレクトリーにすぎなかった ― 「今日のクールなサイト!」というのが実際のところだった。しかし、ウェブの成長はそんなやり方で最新状態を保つことをたちまち不可能にした。数が指数関数的に増えるにつれ、〈今日〉のクールなサイトは、1時間、1分、あるいは1秒のサイトにならざるを得なくなった。

すぐにディレクトリーでは不足になり、検索がやってきた。AltaVista(若い読者は親に聞くこと)等のサイトは、ページに出現する重要なテキストの出現回数に応じてサイトをランクづけした。これはたちまち悪玉SEO第一波の餌食になった ― テキストを詰め込んだページが検索結果の上位に来た。

そしてGoogleは、科学論文における「引用の原則」 ― 多く引用されているものほど重要であるはず ― を採用した。そしてGoogleの質の高い検索結果は初期のウェブを席巻した。その後の歴史はご存じの通りだ。モバイル ― 特にモバイルの近代を迎えるまでは。

今われわれはスマートフォンで殆どの時間をブラウザーではなくアプリで過ごしている。ComScoreの2014年5月モバイルアプリレポートによると、米国ユーザーは60%の時間をモバイルに費し(2013年は50%)、その85%はアプリの中にいることがわかった。

人々はモバイルでも検索する ― しかしComScoreのデータを見ると、任意の月にモバイルでGoogle検索を利用しているのは米国ユーザーの約半分にすぎない。それはモバイルでGoogleが使いにくいからか? もちろん違う。それは、たとえ位置情報があったとしても、Googleの検索エンジンはわれわれが聞くような質問の答を知らないからだ。次の打ち合わせで会う人物の経歴は? 次の打ち合わせまでの時間は? どんなメモを書いてあったか? 最後に会ったのはいつか? 何時に出発しなければならないか? 近くに評判のいいレストランはあるか? あるいは、もしかしたら、このFacebookで集めたイベントには他に誰が来るのか? どうすればわかるのか?

これらは、狭くて奥の深い検索テーマだ。それぞれの答を得るためには山ほど検索しなければならない。しかしアプリはその情報を知っている。これから会う人のことを知りたい? LinkedInを見ればよい ― そしてその会社の詳細は、DueDil等のサイトで見つかる。打ち合わせの場所や所要時間? もちろんマップアプリだ。そこで話す内容は? もちろんあなたのDropboxアカウントに本管された書類の中だ。

現代のスマートフォンに基づく世界において、ウェブ検索をすることは、まるで〈今日のサイト〉を見ているように時代遅れなものに感じる。

代わりに大挙してやってくるのが、ソーシャルグラフ ― ビジネスであれパーソナルであれ ― を利用して、われわれが今まさに必要としている物事に合わせた検索結果をもたらしてくれるスマートアプリだ。

それは検索の新しい形態であり、その出現は遅すぎた。ウェブページのランキングを決める最良の方法が「引用」方式であることが、今になってみれば誰にでもわかるように、今ある山ほどのアプリへの答が、もっとアプリを増やすことではないことはすぐに明らかになるだろう。それは、すべてを取りまとめる単独のアプリ ― われわれの忙しい生活のゲシュタルト的ビューを与えてくれるアプリだ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


マイクロファクトリー:製造業へのインターネット適用は第三の産業革命を起こす

編集部: John B. Rogersはマイクロファクトリー方式で自動車を3Dプリントして製造販売するLocal Motorsの共同ファウンダー、CEO。同社はアリゾナ州チャンドラー、テネシー州 ノックスビル、ネバダ州ラスベガスに所在する。

アメリカの製造業に新たな未来を開く動きが始まっている。

MakerBotTechShopKickstarterのようや会社は、伝統的な産業化による製造業と雇用のモデルと、現在広まりつつあるフラットでネットワーク化した世界における製造と雇用モデルとの乖離を埋めるための重要な架け橋の役割を果たそうとしている。

先進国における製造業の未来を考えるにはその財務、資金調達と実際の製造プロセス、双方の新たなモデルを必要とする。その一つがマイクロファクトリーだ。

われわれの会社、Local Motorsでは、「ローカル企業がビッグになるにはそのローカルをビッグにしなければならない」と言い習わしている。世界でもっとも人口密度が高く、購買力も高い地域で大型のハードウェア製造(家電製品や自動車など)を開始すれば、意味のあるレベルの雇用を提供すると同時に、そのコミュニティーのニーズに迅速に反応しつつ、プロダクトの開発速度を大幅にアップできる。

私は中国で3年過ごし、Foxconnが作り上げた巨大工場について詳しくまなんだ。それ自体が都市であるFoxconn工場では靴箱に入る程度の大きさのものであれば、文字通りありとあらゆる電子製品を製造することができる。製造、保管、出荷のプロセスすべてが簡単だ。しかし、靴箱サイズよりずっと大きいプロダクトを大量生産しようとすると、Foxconnのような便利な施設は少ない。ましてそれに必要な資金を得るチャンネルはほとんどないといってよい。製造に必要なツールも部品も高価であり、流通も難しい。すべてが高いコストがかかり、一つのjミスが命取りとなりかねない。

しかし未来に向けて明るい展望も存在する。われわれは「第三の産業革命」ともいうべき新たなエコシステムの確立に向けて起業家の努力が実を結び始めている.

歴史を振り返る

ジェニー紡績機が蒸気機関と結びついて最初の産業革命が始まった。ジェームズ・ハーグリーブズが紡績機械を発明しなかったら衣類の大量生産は不可能だった。20世紀に入るとヘンリー・フォードが流れ作業による製造ラインを備えた巨大工場を完成させ、複雑な機械の大量生産に道を開いた。.蒸気機関はやがて石油を燃料とする内燃機関に置換えられた。この第二の産業革命はトヨタ自動車のカイゼン・プロセス、つまり組織的かつ絶え間ない品質改善の努力によって完成の域に達した。そしてリーン・マニュファクチャーやシックス・シグマなどの高度な品質管理手法を産みだしている。

われわれが第三の産業革命と呼ぶのは、最近登場し始めた「インターネットを適用されたプロダクト」を指している(いささか使い古された感のある「モノのインターネット」より広い概念だ)。ここで「インターネットの適用」と呼ぶのは、「リアルタイムでの情報へのアクセス」、「産業用製造ツールの低価格化」、「有効な法的保護の提供」の3つの側面を意味している。

ローカルの起業家がグルーバルな巨大企業と同じ土俵で戦えるフラットで分散的な経済が第三の産業革命の特長だ。これを可能にするのは、伝統、慣例にとらわれない柔軟な発想と、そうしたイディアを即時に世界的に共有できるプラットフォームの存在だ。

即時かつ広汎な情報へのアクセス

たとえば私がMakerbotのクラウドソース・ライブラリ、ThingiverseからドアのグロメットのSTLファイルをダウンロードすれば、数時間後には3Dプリンターからその実物が出力され、われわれの自動車のドアに組み付けることができる。われわれのコミュニティーでは常に誰かが新しいアイディアを出して、それが共有されている。GE AppliancesはFirstBuildというマイクロファクトリーを建設した。目的は世界中の才能ある人々のアイディアに対して開かれたハードウェア工場だ。

製造ツールの低価格化

マイクロファクトリー方式のメーカーは高価な産業用ツールを低コストで利用できるようになった。TechShopなどを通じて強力なコンピュータ・パワーと産業用3D プリンターを時間借りできる。Cathedral Leasingなどを通じてリースも可能だ。

またアメリカ・エネルギー省のオークリッジ国立研究所ではORNL Manufacturing Demonstration Facilityという野心的プロジェクトで、研究者と民間企業が共同してスーパーコンピュータにアクセスし、最先端の製造でくのロジーを開発、実証する試みが進んでいる。

製造プロセスのクラウドソース化、資金調達のクラウドファンディング化によって、ハードウェア、ソフトウェアを問わず、製造業にに必要な当初資金は大幅に低下しつつある。

有効な法的保護

現在、アメリカではユーザーが生んだ知的所有権に対するさまざまな保護と調整の仕組みが整備されている。Creative CommonsMITGNU のようなオープンソース・ライセンスはマイクロ・ファクトリーが安心して広汎な既存の知的財産を利用し、改良してさらに共有する道を開いた。

マイクロファクトリー

マイクロファクトリーは、その小さいサイズ、高いアクセス性、必要な資金の少なさという重要な意義を備えている。

靴箱より大きいハードウェアをマイクロファクトリー方式で製造するなら、その成功の可能性は高い。なぜならデザインのクラウドソースと3Dプリンターを駆使するマイクロファクトリーはアイディアを形にするスピードが伝統的メーカーより格段に速いからだ。

クラウドソースは、即座に世界中の能力ある人々の知恵を借りることを可能にする。クラウドソーシングを理由すればエンジニアリング上のどんな難問でもきわめて短時間で解決可能だ。3Dプリンターは製造過程を高速化するだけでなく素材の利用効率が高く、結果的に無駄を出さない。これよって製造に必要なスペース、原材料が大幅に削減され、事業立ち上げのための資金も少なくてすむ。

マイクロファクトリーは伝統的製造業に比べて効率的なので環境負荷も低く抑えられる。消費地に接近しているため輸送、流通のコストも小さく、消費者の反応を即座に感じとって製品改良に活かすことができる。.

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+