デジタル配信が、インディーズ映画の観客を変える


編集部注:David Larkinは、映画の検索・キューサービスで映画マーケティング、分析のプラットフォームでもある、GoWatchit.comのファウンダー・CEO。The Sundance Instituteのパートナーも務める。

自己表現を奨励するカルチャー、低利息の余剰資産を大量に生みだす経済、ムーアの法則のように1ドル当たり性能が改善される生産技術、デジタルメディアのオンデマンド配信の普及、文系卒業生の慢性的就職難。以上を組み合わせると何が起きるか。映画の本数が増える

Sundance映画祭には、毎年約4000作品の応募があるが、上演枠は120ほどしかない。短編映画はさらに狭き門だ。2014年、短編の候補作品は2倍以上あったのに、選出されたのは半数だった。

その120本の中には、多くの注目を集める作品もある。今年のアカデミー賞候補、BoyhoodWhiplashはSundanceで初上映された。

初めて映画を作る者にとっては、上映される作品数の少なさだけでなく、“Sundance Kid”本人(ロバート・レッドフォード)がいる会場で、誰かに注目されることの難しさという意味でも、激しい競争に曝される。

よって、友達や家族に映画を作りたいと言って金を借りようとすれば、必然的にこう聞かれる。「そもそも誰があなたの作ったインディー映画を見に行くの?」

元気を出してほしい、勝算はある。Sundance Instituteは、映画と観衆をつなぐ手助けをしている。その一環として、昨年の長編映画全作品を追跡した、Sundance class of 2014を作った。

Liam Bolukは、デジタル技術の普及がいかに映画業界の経済をひっくり返したかを分析した。過渡期のどの産業とも同じように、新しいプレーヤーが出現しつつある。

RADiUS-TWCThe OrchardAmplify、およびBroadgreenといった会社は、伝統的コスト構造や組織図に縛られていない ― そしてデジタルツールを巧みに使って観衆を集めている。そしてSundance InstituteのJoseph Beyer、Chris Horton、およびMissy Laney率いるアーティストサービスプログラムは、映画製作者が配給計画を立て、実行するための強力な社内リソースを構成した。

より多くの映画が配給されるようになった ― ただし、それを喜ばない人々もいる。

映画製作は、芸術とビジネスの奇妙な融合であり、それぞれの映画は芸術作品になることを熱望するビジネスであると同時に、ビジネスになることを願う芸術作品である。

Sundanceでは、芸術性が強調され、それはあるべき姿である。

この精神に基づき、われわれの関心事は映画がどれだけ稼いだかではなく ― 大成功したものもあるが ― 作られた映画の何本が見られたかにある。

その答は? 殆どだ。

*データ提供元:GoWatchIt

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


ネット中立性問題、ショートメッセージ(SMS)も巻き込む


編集部注:Nic Denholmは、SMSマーケティング・プラットフォーム、FireTextのコンテンツ・コンサルタント。

インターネットの中立性は、昨年のIT業界で最大の話題の一つだった。ジョン・オリバーはこれを茶化して、FCCのコメント欄を二階層インターネットへの反対意見で埋め尽くすよう嘆願した(その結果サイトはクラッシュした)。

これまでのところ議論の焦点は、ISP[インターネットプロバイダー]が、配信するデータの種類によって扱いに差をつけることが許されるかどうかだ。ネット階層化への主な反対者は、Netflix、YouTubeといった、大量のリッチコンテンツをユーザーに配信している会社で、料金を値上げしたり(前者の場合)、広告を増やしたり(後者の場合)したくない。

当然のことながら視聴者は彼らの側につき、ブロードバンド業者や一部の自由主義政治家らを相手取って、この〈必然的〉負けいくさを戦っている。「必然的」と言ったのは、民衆の大多数が反対してもなお、ISPはすべてのトラフィックを平等に扱わなくてはならないとする以前の裁定を、上級裁判所がくつがえすには不足だからだ。

こうした注目にもかかわらず、アメリカ人の大部分は「ネット中立性」が何を意味するのか皆目見当がついていない。最近のPewの調査によると、アメリカ人の40%は、その概念を理解していないか、全く聞いたこともないという。

「中立性」と「SMS」の関係となると、理解している人はいっそう少ない。マサチューセッツ州ケンブリッジで企業向けテキストメッセージサービを提供するHeyWire Businessは、その関係を思いがけない形で知ることとなった。昨年の4月3日まで、HeyWireは企業がフリーダイアルでテキストメッセージを受け取るサービスを楽しく提供していた。そしてそのすべてが止まった。エラーメッセージも、警告もなく ― ただ何千というテキストが宛先に届かなかった。

Verizonに問い合わせたところ、テキストメッセージの配信を続けたければ、新たな料金体系と規則に従う必要があることを伝えられた。HeyWireは、Verizonが同社の運用形態に対して不公正な制御 ― 同社は「ネット中立性」に反すると考えている ― をしていると主張している

現時点で、ネット中立性に全く関心のない1億2500万人のアメリカ人たちは、それ以上関心を持ちそうにない。それは複雑である。複雑なものは退屈である。それを踏まえつつ、なぜSMSとブロードバンドの提供が、十把一からげになってしまったかを簡単に説明する。

基本的に、モバイルサービスは2つの要素にわけられる。音声通話とインターネットだ。音声部分は1934年の通信法によって保護されている。インターネット関係サービスはそうではない。ユーザーからより多くの金を引き出すために、サービスプロバイダーはSMSをインターネットの旗の下に置くことにした。可能だったからだ。

キャリアはテキストメッセージを、事実上思い通りの値段で売る権利を有している。これは法外な料金を課すことができるだけでなく、ユーザーが見るコンテンツを取り締ることもできることを意味している。これが中立性推進者を心配させている。

現在FCCは、ネット中立性規制を、家庭およびビジネスブロードバンドに適用することを考えている。民主党議員らは、付加料金を支払った者を優先的に扱う有料優先化を禁止する法案を推進している。決議は2月26日に行われる。公正でオープンなインターネットを擁護する人たちは、大型キャリアが顧客を踏みつけにすることを防ぐ結果を望んでいる。

HeyWire等の会社に経験を踏まえれば、テキストメッセージングも大義に加えられるべきだ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


デジタル時代の「記憶喪失」に備えよう

編集部注本稿執筆者のKevin SkobacはSS+KのDigital Strategy and Innovation部門のシニアバイスプレジデントであり、またインハウスでインキュベーションを担当するSS+K Labsの共同ファウンダーでもある。

私たちは、何年にもわたって「デジタルメディア革命」とでもいうべきものの波に乗っかって過ごしてきた。多くのイノベーションが生まれたし、かつてはできなかったことができるようになった。消費の楽しみや創造の楽しみも味わうことができた。面白いことが次々に生まれ、テック時代の楽しさがさまざまに提示されてきた。私たちは、こうした流れがいったいどういう現実に繋がるのかを考えることもなく、敢えて言えば流されつつ過ごしてきた。そして、いつの間にか思いもよらなかった現実を受け入れざるを得ないような時代になってしまいつつあるようなのだ。

たとえば「写真」が被った変化を考えてみよう。カメラがデジタル化することにより、私たちの撮る写真は十枚単位から百枚単位に増えることとなった。さらにスマートフォンに高性能カメラが搭載されるようになり、撮影枚数は年間で千枚単位にも増加した。

毎日写真を撮り続け、そしてGoogleに自動でバックアップしたり、あるいはInstagramやFacebookのタイムラインに投稿したりもする。但し投稿した写真を振り返るような機会は減りつつあるように思う。そして写真は千枚単位から万枚単位で溜まっていくこととなる。私についてみても、Google+には今日までに68000枚の写真がアーカイブされている。

自動でバックアップできることにより、写真を「整理」したり「印刷」しておくような必要性もなくなった。但し、昔に撮影した写真(お気に入りの家族スナップなど)を探しだすのが、とてもむずかしくなってしまったように思うのだ。デジタル時代になり、「干し草の山の中から針を探す」(look for a needle in a haystack)ことが一層難しくなったのではなかろうか。

確かに「どこか」に保存してあるはずなのだ。しかしそれを見つけ出すための手段がない。整理のためのメタデータを付しておいたにしても、そもそもどこにその情報を保管しているのかがわからなくなってしまうのだ。Google+や、その他のすばらしい自動バックアップサービスの便利さはあるにしても、あるいはそれがためにむしろ、自分の判断による、意図的な取り扱いというものが重要になってきているのではなかろうか。

写真以外のものについても、さらにひどい状況に陥りつつあるように思う。多くの人は日々の日記やメモをジオシティーズやLive Journal、あるいはブログないしTwitter/Facebookに移管した。そのおかげでより細かい事象を記録に残すようにもなった。ただ、そうした記録がいろいろな場所/記事に分割されることとなり、自らの情報であるにも関わらず、制御不能といった状況になっている面もあるようなのだ。

さらにFacebookやTwitterで、これまでに投稿した記事の全体的検索ができるようになったのもつい最近のことだ。それまではそこにあることがわかっていながらも探しだすことが難しかった。さらに、いろいろな情報を記録しておいたサイトが消滅したりすることも、「チャレンジ」を旨とするスタートアップカルチャーの中では日常茶飯事だ。

もちろんそうした状況をなんとかしようとするサービスも生まれてきている。たとえばInternet Archiveなどは非常に面白いサービスを提供していると言えるだろう。いったんウェブ上に公開されたものの、いつの間にか停止されてしまったようなサイトの情報などを、利益度外視でライブラリ化しようとするサービスだ。

あるいはTimehopなども、過去に投稿したコンテンツを掘り起こして、既に記憶のかなたに去ってしまった出来事を思い出させてくれるサービスとして人気を集めている。1年前から5年前までにソーシャルネットワークに投稿したコンテンツを、テキスト版のダイジェストとして通知っしてくれるのだ。

しかし、さまざまなサービスに投稿したコンテンツは、それぞれサービス運営企業の今後次第によってどうなるかはわからないわけで、特定のサービスにコンテンツ管理を任せるというのはあり得ない選択肢だ。自ら投稿したコンテンツについては自ら管理していくことが必要だ。それがすなわち自らのアイデンティティを守ることにつながる。

まず必要なのは、十分に信頼できるサービスにコンテンツをバックアップしておくというのが、最初の第一歩だ。そのためには、たとえばIFTTTが大いに役立つことだろう。ソーシャルネットワークに何か投稿するたびに、そのコンテンツをどこかにバックアップするというシステムを構築することができる。

MediumQuoraといったサービスが流行していて多くの人が使っているが、そうした場合も自らホスティングするサーバーにコンテンツをバックアップしておくというのが、商用サービスの運命に依存しないためのひとつの方法だろう。

デジタル革命は、私たちに多くのメリットをもたらしてくれた。過去とは比較にならないレベルで、さまざまなコンテンツを作成したり消費したりすることができるようになった。あるいは、そのコンテンツに対して双方向で働きかけることも容易になっている。さらに、デジタルなデータが「永遠」に残るような感じを持っている人も多いことと思う。しかし徐々に欠点も見えつつある。デジタルを信頼するあまり、大切なデータがあっという間に消え去ってしまうような悲劇にも遭遇するようになった。私たちは、私たちの記録を自身で管理するための、何らかの手法を確立すべきときにきていると思うのだ。

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(翻訳:Maeda, H


2015年、教師は生徒のスマホ中毒を受け入れる


編集部注:Joe Mathewsonは、学習プラットフォーム、Fireflyを14歳の時に設立した。

昨今の教育技術の躍進は目覚しい。EverspringUdemyといった企業への多額の投資もあった2014年は、教育テクノロジーにとって最大の年だったと言えるだろう。しかし、本当にすごいことが起きるのはこれからだ。2015年には、このめまぐるしい分野に何がおこるのだろう?

テクノロジーが教室の一部になる

もちろん教室には何十年も前からパソコンが導入されているが、2014年には、多くの学校が教育と学習の一部として、ごく自然に取り入れるようになった。多くの学校が様々な製品やサービスを試行するにつれ、教師や生徒たちはテクノロジーの可能性への関心を高めていった。

次の年は、各教育機関が意志を統一して、今後数年間の導入方針を固めるときだ。そうすれば、テクノロジーは学習プロセスを補足するものではなく、教育の本質的な部分になっていくだろう。

クラウドが真価を発揮する

クラウドベースのテクノロジーは急速に普及している。しかし、教育分野はこの機会を利用することに関して他の分野に遅れをとっている。今年は、教育関係者がようやくその潜在力を活用しはじめるだろう。文書の保管、ウェブメールの管理、その他クラウドベースの学習管理システムを始めとする教室に特化したサービスが利用され始める。学校自身が予算を管理するようになり、自治体が予算削減を図るようになれば、多くの学校がクラウドソリューションへと移行していくだろう。これによって大幅に出費が軽減され、学校はテクノロジーよりも教育に専念できるようになる。

高まる要求

多くの教育者が、つながった教室のためのテクノロジーを使うようになると、より一層洗練されたソリューションへの要求が高まってくる。

実際、多くの教師は日常生活で、極めて効果的だが容易に使えるウェブツールに慣れている。今後彼らは、学校でも同じ環境の導入を訴え、教育を既成の消費者向け製品に無理やりあてがうことを拒むようになる。

生徒の携帯電話は禁止ではなく受け入れる

スマートフォンは、人々の交流のしかたを根本的に変えた。最近の調査によると、多くの人々が1日に100回あまりメールをチェックしているという。教師たちは若者たちの行動様式を認識しているが、この波に逆らうことは不毛であり、生徒たちがこれほど感情移入している道具の使用を禁止することは、逆効果である。

英国で行われた教室内で生徒にモバイル端末を与える実験によると、彼らの学習意欲、集中度、成績は向上した。今後同様の結果が増えてくれば、より多くの教師が、モバイル機器を禁止するのではなく活用するようになるだろう。

キュレーションが重要になる

英国のニック・ギブ教育大臣は最近、学校における教科書の「ルネサンス」を提唱した。たしかにインターネットは、紙の書物に対して厳しい戦いを仕掛けており、動きの早い分野に関する最新情報を届けている。しかし私は、この結果何十年にもわたって書物が提供してきた編集や 情報収集の重要性が見直されるだろうと考えている。

優れた編集者の権威は、生徒がどのコンテンツを信じるべきかの判断を助ける。 溢れかえる情報が生徒たちを溺れさせようとする2015年には、一つの真実が決定的な意味を持つことを、多くの人々が認識するだろう。これは、印刷書物の復活を意味するのではなく、デジタルで提供される知識に対する新たな敬意の発見である。

親はテクノロジーで子供の情熱を補う

親は子供の学習や発達の進展を、オンラインで見ることを要求しつつある。2015年の熱心な親たちは、学習、研究、そして宿題に役立つあらゆる教育テクノロジーを知り、利用することに専心するだろう。。

しかしテクノロジーの導入は、子供たちが心から魅せられる方法でなされることが重要だ。このためには、子供たちが何に最も関心があるか ー プログラミングであれ詩であれ ー を見極め、その関心事を見るための新しいレンズを与え、想像をかきたてるコンテンツを探求させることが何よりの方法だろう。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


ディズニーやナイキに見る、大企業がアクセラレータで成功するためのキーワード

編集部注:この原稿はScrum Venturesの宮田拓弥氏による寄稿である。宮田氏は日本と米国でソフトウェア、モバイルなどのスタートアップを複数起業。2009年ミクシィのアライアンス担当役員に就任し、その後 mixi America CEO を務める。2013年にScrum Venturesを設立。サンフランシスコをベースに、シリコンバレーのスタートアップへの投資、アジア市場への参入支援を行っている。

Disney Acceleratorのデモデー(筆者撮影)

 
「部長、そろそろうちの会社もアクセラレータを始めた方がいいんじゃないでしょうか?」

こうした会話が世界中で行われているのではないかと思うくらい、さまざまな大企業がアクセラレータを始めた、もしくは計画しているという話を耳にする。事実、企業が主体となって行うベンチャーキャピタル、いわゆるCVC (Corporate Venture Capital)の規模は近年拡大を続けており、米国では2014年の3Qに過去最大の投資額(9億9360万ドル)となり、スタートアップへの投資額全体の10%にも達している。スタートアップが生み出すイノベーションを取り込もうと多くの大企業が必死に取り組んでいる様子が伺える。

私は、アーリーステージのベンチャーキャピタルとして、そのソーシング(投資先企業の発掘)の一環として、毎月1つか2つのアクセラレータのデモデー(支援企業の発表会)に参加をしている。その経験から、本稿では大企業が運営するアクセラレータの「トレンド」、そしてその「成功のキーワード」をご紹介したい。

ディズニーからナイキまで

日本では、携帯キャリアのKDDIが2011年からいち早くアクセラレータに取り組んでいるが、近年でもNTTドコモや学研、オムロンなど、新たにアクセラレータをスタートするというニュースも多い。

一方、米国では昨年くらいから大企業によるアクセラレータの動きが加速している。ディズニー、マイクロソフト、スプリント、ナイキ、クアルコム、カプラン、RGAなど様々な業種、業態の大企業が争うようにアクセラレータの運営を開始している。

「総花型」から「特化型」へ

2005年に設立され、DropboxやAirbnbなどを生み出したY-Combinatorに代表される「アクセラレータ」という業種であるが、元々は「テクノロジースタートアップ全般」を対象にするアクセラレータが多かった。その後、雨後のタケノコのようにアクセラレータそのものの数が増えたことと、テクノロジースタートアップがカバーする領域が非常に多様化したことなどを背景として、ここ数年は「特化型」のアクセラレータが増加している。具体的にはヘルスケアに特化したRockHealth 、教育に特化したImagine K-12、エンタープライズに特化したAlchemist、IoTに特化したLemnos Labsなどがある。総花的なアクセラレータはすでに淘汰が急速に始まっており、今後この「特化型」のトレンドはさらに進行していくものと考えている。

「アクセラレータ支援企業」の存在

冒頭にも述べたように多くの大企業でアクセラレータの展開が検討されている状況であるが、そこで問題となるのが「どうやって運営するのか?」という点だ。ディズニーやクアルコムにそう言う人材が最初からいたのか? それとも、新たに採用したのか?

そういうした大企業の悩みに答えているのが、「アクセラレータ支援企業」の存在だ。

米国で代表的な「アクセラレータ支援企業」は、コロラド州ボルダーに本拠を置くTechStarsだ。ナイキやディズニーなど、近年成功を収めている大企業アクセラレータの多くはTechStarsが仕掛けたものだ。TechStarsは2006年に、Y-Combinatorなどと同様に専業アクセラレータとしてスタートしたが、近年支援事業に力を入れている。

TechStarsの支援内容は非常に幅広く、基本的にアクセラレータ運営に必要な業務のすべてを担ってくれる。必要となる予算はかなり大きいと聞いているが、ウェブサイトの構築・運用、支援先企業の募集、審査、メンタリング、デモデー運営など通常3カ月の運営期間に必要な作業のほとんどがマニュアル化されている。ウン億円を支払ってTechStarsとパートナーシップを組めば、どんな大企業でもすぐにアクセラレータをスタートできるというわけだ。日本では、私がアドバイザーを務めるアーキタイプ社などが同様のサービスを提供している。

成功のための「3つのキーワード」

最後に、数多くの大企業によるアクセラレータを見て来た立場から、成功のためのキーワードを3つご紹介したい。

①「アセットへのアクセス」

数多くのアクセラレータがある中で、成功した先輩起業家が運営するアクセラレータでなく、なぜ大企業を選ぶのか?そのシンプルな答えは、スタートアップにはない、数多くの既存アセット(資産)が大企業にあるからだ。それは、販売チャネル、コンテンツ、ブランド、キャラクター、技術、特許、人材、設備など、企業によって様々だ。

今年、ディズニーがスタートしたアクセラレータ、「Disney Accelerator」は、ディズニーが持つ様々なキャラクターやコンテンツを、採択企業が自由に使ってよいと謳ったことで話題となった。実際に、デモデーでは、多くのキャラクターやディズニーランドなど、スタートアップであれば誰もが実現したいと思えるパートナーシップがすでに実現していた。

「自分たちがもつどんなアセットがスタートアップにとって魅力的か?」そこからアクセラレータの検討を始めてもいいのかもしれない。

②「トップのコミットメント」

アクセラレータやCVCなどは、新規事業の一環として一部の部署が主導して行われることも多いと思う。しかしながら、それでは会社全体でその重要性が理解されず、うまくいかないことも多い。一方で、最近はCEOや経営陣が自らアクセラレータにコミットし、積極的にスタートアップのイノベーションを取り込もうとする例を見かける。

例えば、昨年スタートした広告代理店、RGAによるIoT特化型のアクセラレータ、RGA Acceleratorでは、CEO自らがデモデーのオープニングに登場し、趣旨や意気込みを説明していた。「スタートアップのイノベーションを本気で取り込む」という外側に向けての強いメッセージになると同時に、前述の「アセットへのアクセス」という大企業としてはなかなか難しいテーマも、トップもコミットして進めることで実現が可能になるという側面もあるのかもしれない。

RGA Acceleratorのデモデー(筆者撮影)

③「レイターステージ」

通常、アクセラレータというと「創業間もないスタートアップ」を対象にすることが多い。だが最近は、Y-CombinatorがQ&A大手のQuaraをバッチに加えたり、Disney Accleratorでもすでに大きな実績のあるロボットの企業、Spheroなどがバッチに加わっていた。

アクセラレータの意義の一つは、まだ形になっていない新しいアイディアを3カ月という短期間でものにするというものであるが、当然うまくいかないことも多い。一方で、すでに実績のあるレイターステージの企業であれば、そうしたリスクもなく、大企業側のアセットを提供することで大きな成果も期待できる。つまり、最初からパートナーシップとしての成果を狙いながらバッチに加えるという訳だ。こうしたパートナーシップドリブンのアクセラレータというのも、大企業が主導する形としては今後増えて行く形態のような気がしている。

大企業のイノベーションにスタートアップとの連携は不可避

私はサンフランシスコを中心に投資活動を行っているが、ニューヨークやロスアンゼルスにも多くの投資先企業がおり、非常に重要視している。それはサンフランシスコに限らず、かつて大企業に行っていたような優秀な人材がこぞってスタートアップをスタートしているからであり、その流れは加速することはあっても逆戻りすることはないと感じているからである。

「うちの社内の技術の方が優れている」
「そんなの社内で同じことできるじゃないか」
「うちの事業と競合するかもしれない」

大企業の中でスタートアップとの取り組みにはまだまだ反対意見も多いかもしれない。ただ、今後の大企業のイノベーションにはスタートアップとの連携は不可避だ。ぜひ、御社でも経営陣を巻き込み、スタートアップのイノベーションを取り込む活動をスタートしてはいかがだろうか? 本稿が少しでも参考になれば幸いである。


エンタープライズ・インターネット、2015年のトレンド、トップ10

編集部:この記事の執筆者、Alison Wagonfeld はEmergence Capitalのオペレーティング・パートナー

われわれのEmergence Capitalは、ファウンダー、マーク・ベニオフ、デビッド・サックスといったビジョナリーを通じて、Salesforce.comやYammerのような画期的なエンタープライズ・クラウド・サービスに投資するチャンスを得てきた。こうしたサービスは世界中で次世代のビジネスのインフラを作っている。2015年が近づいてきたのを機会に、われわれが投資を考えているエンタープライズ・ソフトウェアの最新のトレンドのトップ10をご紹介しよう。

未来を予測するにあたって、Emergenceでは5人のパートナー、Gordon RitterJason GreenBrian JacobsKevin SpainSanti Subotovskyが長時間のディスカッションを行った。

1. 垂直に特化した特定業種向けクラウド・アプリケーション(インダストリー・クラウド)が普及する

この10年間、ソフトウェアが汎用化(水平化)を進めてきた。Salesforce,、Yammer、Boxなど、すべて業種を問わずに利用できる。これに対してわれわれは次の10年は特定の業種の特定の課題を解決することに特化する「垂直化」、あるいはインダストリー・クラウドが進むと考えている。

2. 企業は有料のエンタープライズ・モバイル・アプリを利用し始める

Appleが口火を切ったスマートフォン革命によって、モバイル・コンピューティングがビジネス分野にも広く利用されるようになった。しかし現在のモバイル・アプリにはまだビジネス・ユースのためには欠けている部分が多い。

われわれのゼネラル・パートナー、Kevin Spainは最近開催されたエンタープライズ・モバイル・フォーラムで次のように述べた。「世界に非デスクワークの労働者が25億人も存在する。これらの人々にモバイル・ビジネス・ネットワークを提供するのは巨大なチャンスだ。ユーザー1人あたり年40ドルの売上があれば新たな1000億ドル市場が誕生する。2015年にはモバイル・ビジネス・アプリケーション市場の売上が急速に伸びると予想する」。

3. コンシューマー向けテクノロジーが引き続きエンタープライズに越境してくる

われわれはコンシューマ向けサービスとエンタープライズ・サービスの融合を図るのを得意としている(たとえばFacebook -> Yammer)。ゼネラル・パートナーのJason Greenはこの傾向が2015には一層加速すると考えている。「エンタープライズ・テクノロジーはコンシューマ向け分野で起きているイノベーションに遅れを取らないよう努力しなければならない。Facebookも新しいビジネス向けプロダクト、Facebook@Workをテスト中だ。ウェアラブルデバイスの一部もビジネス利用が始まるだろう。私はiPadがタブレットのビジネス化に果たしたのと同じような役割をApple Watchがスマートウォッチの世界で果たすのではないかと考えている」。

4. IoT〔モノのインターネット〕は標準化が進み、コンシューマ、ビジネス両分野で実用化が本格化する

エンタープライズIoTの潜在市場は巨大だ。 ゼネラル・パートナーのBrian Jacobsはこの分野でも2015年に大きな進展があると見ている。「1年後には、納得性の高いユースケースが実現しているだろう。キラー・アプリの登場と共に普及は急速化する」。別のゼネラル・パートナー、Kevin Spainは「ドローンや各種の無人機(UAV)とセンサー・テクノロジーがエンタープライズ市場にも導入されるだろう。これによって農業、電力などの社会インフラ、不動産など、従来データ収集をきわめて高価で時間のかか航空機に頼っていた業界にイノベーションが起きる」。

Google Glassはまだコンシューマ製品としてはブレークしていないが、2015年には産業用途で数多くの有力な応用が生まれるだろう。特に医療分野が注目だ。患者を診察、処置中の医師はひんぱんに両手がふさがった状態でさまざまなデータにアクセスする必要がある。ゼネラル・パートナーのKevin Spainは「Google Glassでカルテを見られるAugmedixを利用した医師は口をそろえてこれなしではやっていけないと語っている。医師たちはカルテ処理の効率化で日に2時間も節約でき、その時間を患者の診察に向けられるようになった」

6. Bitcoinにも効果的なユースケースが現れ、アメリカ国外にも普及し始める

パートナーのSanti Subotovskyは「2015年はBitcoinにとって大きな転機となる。すでに基本的インフラは整備されている。2015年にはBitcoinをプラットフォームとして多くのアプリが開発されるだろう。アメリカ以外の国でも何百人もの起業家がBitcoinアプリの開発に取り組んでいる。2015年にはその中からキラー・アプリが登場するだろう」考えている。

7. 「UIなし」の生産性ツールへの第一歩

ゼネラル・パートナーのGordon Ritterは「伝統的な意味でのユーザー・インタフェースは次第に背景に消えていくだろう」と考えている。「われわれがデータを入力するためにキーを叩いたりタップしたりしている時間は無駄に使われている時間だ。生産性ツールが本当に生産性を高めるためには入力方法のイノベーションが必要だ。最小限の時間と労力で最大限のデータを正確に入力できるテクノロジーが必要だ。2015年にはそうした「UIなし」の生産性ツールへの第一歩が踏み出されるだろう」という。

8. 2015年にはベンチャーキャピタルの利益率が最高となるだろう

現在シリコンバレーはバブルであるのかという議論に決着はついていないが、われわれは2015年はベンチャーキャピタルにとって過去最高の年となるだろうと予測している。ゼネラル・パートナーのJason Greenは「マーケットの反応は良い。テクノロジー業界には基本的にまだ大きな発展の余地がある。リスクを取る余裕もここしばらく見られなかったほど拡大している」と言う。ゼネラル・パートナー、Brian Jacobsも「株式上場は好調だ。 来年は新分野のソフトウェア企業の成熟にともなって集中化が起き、M&A市場も活性化するだろう」と同意する。

9. 100億ドルが新たなスタンダード

スタートアップの会社評価額の水準が適正かどうかについては議論があるが、今や10億ドルの評価額は当たり前になっている。ゼネラル・パートナー、Jason Green: は「ちょっとクレージーだが、2015年にはユニコーン〔大成功したスタートアップ〕と呼ばれるためには10億ドルではなく、100億ドルの評価を受ける必要があるようになるのではないか」と述べた。

10. 描写的URL (.photography、 .wineなど)が普及する

2015年にはインターネットのドメイン名が拡大され、伝統的な.com、.net、.org、国名略号に加えて、さまざまな描写的ドメイン名が一般化するだろう。2014年に数百の新しいドメイン名がリリースされた。2015年にはGoogleやDonutsのサービスを通じて、こうした業種に特化した多様なURLを多くの企業が採用するだろう。

〔日本版:現在利用可能なTLDリスト。ちなみに地名TLDには.tokyo、.osaka .kyoto、.nagoyaが含まれる〕

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


29年前、Microsoftは上場申請書中でおそるおそるWindowsなる新製品に言及

Microsoftは今から29年前、1985年11月20日にWindowsをリリースした。Microsoftは1986年3月13日に上場している。つまりMicrosoftは最初のWindowsを市場に送り出して数カ月後に株式も公開したわけだ。

今日まで私はWindowsと上場がこれほど近い時期に行われたとは気づいていなかった。もっとも私はそのころまだ生まれていなかったのだが。

それはともかく、MicrosoftのS-1(上場申請書)を読むと愉快な文章に行き当たる。今日の巨大企業がまだごく小さかった頃を後知恵という利点を生かして回顧するのはなかなか面白い。

MicrosoftのS-1ではその後30年以上にわたってテクノロジーの世界に絶大な影響を与えることになる新製品を次のように説明している。

1985年11月20日にMicrosoftはMicrosoft MS-DOSオペレーティング・システム上で作動するグラフィカル・オペーレティング環境であるMicrosoft Windowsを出荷した。MS-DOSのエクステンションであるMicrosoft Windowsはキーボード、スクリーン、プリンターなどのハードウェアを制御する。この製品はアプリケーション・プログラムを、個々のビデオその他出力装置とは独立に、標準的あるいいはグラフィカルに表現することを可能にする。 Microsoftはサードパーティーのソフトウェア開発者に対し、Micorosoft Windowsのグラフィカル・インタフェースを利用したアプリケーションの開発を推奨している。Lotus Developmentは最近、Windows上で作動するアプリケーションの開発に興味を示している。Microsoft自身の新しいアプリケーション・ソフトウェアは今後Microsoft Windowsベースとなる。現時点ではMicrosoft Windowsが市場においてどの程度の普及をみせるかまだ推測することはできない。

なるほど。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


モノのインターネットは、単なる新しいオモチャではない

編集部注: Marc CanterInterfaceのCEO。Interfaceはモノのインターネット向けのパーソナライズド・アプリ/体験を、簡単に作るための新しいオーサリングシステムを開発している。

モノのインターネット(IoT:Internet of Things)は、最新かつ最大のバズワードであり、IT企業、製造会社、大型小売店から医療業界まであらゆる大型プレーヤーが、IoTを次の大ブームであると宣言している。それぞれの業界が、小さな低消費電力スマートデバイスあるいはセンサーの活用方法を探りつつ、それぞれの未来製品戦略の中にIoTを組み入れている。

業界はIoTに興奮するあまり、口角泡を飛ばす勢いのヒステリー状態に陥っている ― 例えばCiscoにいたっては、呼び名を “Internet of Everything”[あらゆるモノのインターネット]にしようと試みている。Ciscoが何かの名前を変えようとする時は(「ヒューマンネットワーク」の時と同じように)、何か悪いことが起きるとわかっている。

Qualcommは複数のIoTプラットフォームを持ち、Intelは独自の標準を打ち出し、AppleとGoogleはその囲い込み戦争を再演している ― いずれもわれわれの予想通りだ。

かつての主要技術トレンドと同じく、IoTは、展示会やカンファレンス、アクセラレーター、ベンチャー基金、さらには地域のミートアップやDIY共同作業スペース等、様々な機会を生み出してきた。そして、McKinsey、Accenture、KPMG以下、あらゆるコンサルティング会社が、今やIoT部門を持ちその営業している。

私にとって最大の驚きは、一般人にとってのIoTの利益が何であるか ― そしてIoTそのもの ― の明確な定義が完全に欠けていることだ。

世間にはすでにIoTに対する否定的態度が見られるが ― Google Glassとそのろくでなしユーザーに対する拒絶反応であれ、フィットネス端末の放置率50%以上という数字であれ ― 今も売れていると同時に放置されている。

消費者は、機械同志の通信(M2Mと呼ばれることもある)やクラウド自体を理解しておらず、ターミネーターに出てくるスカイネットの一種か何かだと思っている。NSAのスパイ行為に対する大衆の反応を踏まえると、IoTの根本的課題は、平均的消費者の心理の中に基本的信頼感を植えつけることにあると私は考える。

しかしIoTの本当の問題は、人々がこれをピカピカのおもちゃと考えていて、万能の、世界を変える、未来に備えるものであるという、その真の姿に気付いていないことだ。

IoTを単なる「もう一つのニュートレンド」と見ることは、未来の可能性を見過ごすことになりかねない。可能性はそれよりはるかに大きい ― 正直なところ私は、驚くべき可能性を持つ物事が正しく理解されずに「単なる新しいトレンドかブーム」として扱われるところを見るのにうんざりしている。

魔法のような技術が(ユーザーの活動や行動パターンに基づく)リアル世界データと組み合わさった時、そこには必ず「スマート」な未来のソリューション新時代への兆候が見られるはずだ。

分散ネットワーク環境で同期化組織化による相互運用を行う技術プラットフォームは、私のようなソフトウェア人の刺激を大いにかき立てる ― しかし、同時にこの流行語ベースの集合的ヒステリー行動が心配になることもある。

私はIoTを、あらゆる現代テクノロジーの頂点であり、オンライン技術とリアル世界の統合をようやく実現するものであると考えている。

エンドユーザーとそれを取り巻く世界のコンテキストを理解することによって、今われわれは本当の、「媒介された対話」、リアルタイムの介入と支援、日常体験のオンライン補助、そして遂には「コンテキスト対応」したアプリを作ることができる。。

この急成長する「コンテキストの時代」(ロバート・スコーブルとシェル・イスライルが同名の著書でそう呼んでいる)に関していちばんワクワクさせられる物事が何かを、われわれはまた知らない。たしかに未来は不透明で漠然としているが、それがスマートウォッチやリストバンド(あるいはスマートホーム)に始まる一連のテクノロジーに基づくものになることは間違いない。コンテキストのある最新データを(クラウドの中の)「知能」に送り込むと、このデータが分析されリアルタイムでコンテキストに対応した体験が生み出される。きっとそんな世界だ。

こうした体験は、モバイルデバイスとソーシャルグラフの友達、同僚、家族らと共に作られ、デジタルコンテンツのストリーミングも入ってくるだろう。それは、単なるピカピカのニュートレンドをはるかに越えるものだ。

私の頭のに中は新しいタイプのソリューションと創造体験があふれているが、IoTにはモバイルアプリとソーシャルなつながりも必要であることを私は知っている。そして、デジタルメディアとストリーミングコンテンツも忘れてはならない。

というわけで、今後IoTという言葉を聞いた時には、必ずその本来の意味を考え、たまたま何兆ドルもの価値を持った単なるニュートレンドではないことを思い出してほしい。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


必読! 最新シリコンバレー・スタートアップ用語解説

スタートアップの若者たちと話していると、ちがうよ、われわれはオンデマンド食品宅配スペースのSaaSプレイヤーだよ、などというので、この世界独特の用語があることに気づく。部外者にはちんぷんかんぷんだ。

そこでTechCrunchは起業家初心者や一般読者のためにこのピジン英語の主要な語彙を解説してみようと思う。

前置きはそのぐらいにして、さっそく本論に入ろう。

Acqui-hire〔アクイ・ハイヤー、買収採用〕 – 2000年代中頃にGoogleが発明した優秀な人材の獲得手法。大きな会社が小さなチームのメンバーは優秀だが、追求しているアイディアはバカバカしいと考えたときに実施されることが多い。signing bonus〔採用ボーナス、支度金〕と呼ばれることもある。

Cashflow Positive〔キャッシュフロー・ポジティブ〕 – 一定期間に出ていった金より入ってきた金の方が多いこと。

Pivot〔ピボット〕 – それまでの方針がうまくいかないことを発見したときに起きる現象。シカゴ大学の大学院で公共政策を学んでいたアンドルー・メイソンがスタートさせたThe Pointというオンライン政治フォーラムが、試しにピザの共同購入割引の広告を掲載したのがきっかけでGrouponが生まれたことなどが典型的な例。

SaaS — 金を損する方法の一つ

Pre-Money Valuation〔資金調達実施前評価額〕 – 適当にでっちあげた数字

Post-Money Valuation〔資金調達実施後評価額〕 – 資金調達後にベンチャーキャピタリストと話し合ってでっち上げた数字。バーンレイト〔利益が出る前に資本を消費する割合〕にご注意。

「広報分野に経験あり」 – 「何人かのジャーナリストのメアドを知っています」

Exit〔エグジット〕 – 起業家にとって良いエグジットと悪いエグジットがある。資金を使い果たさないうちに他の会社が買収してくれたら(アクイ・ハイヤー を含む)良いエグジット。ベンチャーキャピタリストの取り分を除いたら後は何も残らないのが悪いエグジット。

「私は連続起業家だ」 – アイディアを2つ実行に移したがどちらも失敗した。

Space〔スペース〕 – フィールドとか分野とかいう代わりに起業家たちはなぜかスペースとい言いたがる。そして自分たちのことをプレイヤーと呼ぶ。競争の激しい分野で特によく聞かれる言い方だ。理由は不明。

VC – 1) ベンチャーキャピタリスト。富裕な個人や機関投資家から資金を集め、手数料を取ってスタートアップに投資する人々。 2) 高純度Opium(阿片)の組織的流通業者。(次項参照)。

Opium〔阿片〕 – OPM 、Other People’s Money〔他人の金〕の略。きわめて中毒性の高い物質だが、無くなるまではまったく注意も敬意も払われない。〔この2項は阿片(オーピアム)とOPM(オーピーエム)のダジャレ〕

「われわれの状態はすばらしい」 – たいていの場合、すばらしくない。

SF / The Valley〔サンフランシスコ/シリコンバレー〕 – ベンチャー・キャピタリストやテクノロジー界の論客が起業家はすべからく引っ越してくるべきだと主張するテクノロジーの聖地。

「われわれは週500%のペースで成長している」 — 先週のユーザーは1人だったが、今日は5人だ。

「現在出資は求めていない」 — 現在出資を求めている。

UI/UX – UI(ユーザー・インタフェース)、UX(ユーザー・エクスペリエンス)の短縮語。多くの場合、デザイン能力に不自由な起業家が根本的に美しくない自分たちのプロダクトを描写する用語。「『ピザ映画専用VHSテープ復活』アプリにはわれわれのデザイン担当のものすごいUI/UXの才能がつぎ込まれている」などという。

「われわれはデザイン志向のチームだ」われわれはコードを書くのは苦手だ。

非GAAP基準で黒字 — たいして利益の出てない会社がよくこう主張する。株式報酬費用などを除外した利益の算定には往々にして問題が隠されている。

「私はビジネス担当だ」 – グロース・ハッキングの項参照

重力 — シリコンバレーに存在しない力

3200万ドルのシリーズA資金調達ラウンド – たいてい失敗する

グロース・ハッキング – セールスとマーケティング関係の活動。「ハッキング」と呼ばれるのはコードの書けない人々もシリコンバレーでは「ハッカー」と呼ばれたがるため。

「われわれの粗利益率は非常に高い。SaaS事業への大胆な投資も将来の成長の加速を約束する」 — われわれは赤字だ。

「われわれはSaaS事業の拡大を踏まえて目一杯アクセルを踏み込んでいる。わが社のこの分野で最高の成長をさらに加速するために追加投資を求めているところだ」 — すみません、前回の金は使い果たしてしまいました。もっとください。

「やったぜ!(We’re Crushing It!) – 何をやったのかは知らないが、まず確実にやられたのは夢と投資家の金。.

というわけで、お役にたてただろうか?.

画像:Bryce Durbin

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


起業家に必要なのは高いIQよりパターン認識能力

編集部注:この原稿は藤原健真氏(プロフィール)による寄稿である。藤原氏は京都大学のベンチャー・ファンド(2号ファンド)の運営を行うみやこキャピタルのベンチャー・パートナーで、シリコンバレー発の起業家育成プログラム&スタートアップ・アクセラレーター「ファウンダー・インスティテュート関西」(FI関西)の運営者だ。FI関西の取り組みについては、過去にTechCrunchでも取り上げている。(関連記事:卒業率わずか25%、シリコンバレー発の「マジでガチ」な起業家育成プログラムがすごい

 

スタートアップが生き残るためには優れた起業家の存在が不可欠だが、この「優れた起業家」の条件については、これまで明確な定義がなかった。

これを定義しようと、シリコンバレー発の起業家育成プログラム&スタートアップ・アクセラレーター「ファウンダー・インスティテュート関西」が興味深いインフォグラフィックを作成したので、ご紹介しよう。

ファウンダー・インスティテュートでは、過去5年にわたり起業家に適正テストを受けさせており、その数は今日までに実に2万人にものぼる。これらの起業家が卒業後にスタートアップを創業し、その後の各社のパフォーマンスを追跡する形でデータを収集した。

ちなみに、ファウンダー・インスティテュートで創業されたスタートアップの数は今日時点で 1310社となっているため、Y Combinatorや500 Startupsなどのシリコンバレーの他のアクセラレータと比べても、そのデータ数は圧倒的に多い。調査結果の正確性を確保するには十分な数字だろう。

調査結果は下記のインフォグラフィックの通り。なかなか興味深い内容なので、じっくりと読み込んでもらいたい。

まず驚くことに、テクロノジー系スタートアッップでは起業家の年齢は若いほど有利だと言われているが、実はそうではないことが分かった。調査結果では、最も高いパフォーマンスを出しているスタートアップの起業家は、社会人として10年以上の業務経験や専門知識を有している人物が多いことが示された。適正年齢は28歳以上で、最もアドバンテージがあるのは34歳という結果が出た。これは意外と思う人も多いのではないだろうか。

さらに驚くことに、優れた起業家と I.Q.(知能指数) の間には「全く何の関係もない」ことが分かった。これも一般的には「I.Q.が高い=頭が良い=ビジネスが得意」と捉えられがちだが、実は優れた起業家に必要なものは I.Q.ではなく、パターン認識であることが明確になった。

パターン認識とは、失敗体験を素早く解析して同じ過ちを繰り返さない、成功体験であれば同じ成功が繰り返し発生するための仕組みを素早く作り上げるスキルである。優れた起業家には、この「パターン認識能力」が長けている人物が多いことが分かった。なので、ファウンダー・インスティテュートでは、この結果を受けて、起業家の適正テストから I.Q.評価の取り除くことにした。これに加えて「オープンマインド」や「許容性」といった資質も重要であることも添えておこう。

逆にダメな起業家の条件の定義もある。利己的で攻撃的、つまりエゴ丸出しの起業家は、周囲からの賛同や理解が得られにくく、常に自分の元から人が去っていく状況を作り出してしまう傾向がある。情緒不安定、ナルシストといった性格の持ち主もダメな起業家の条件に当てはまる。

いかがだっただろうか。自分がこれまでに経験してきたスタートアップ世界に当てはまるところはあっただろうか。ぜひ感想を聞かせてもらいたい。


中国政府がiOSをハック―Appleは外部のセキュリティー専門家と協力すべきだ

編集部: この記事は、Triumfantの社長、CEOのJohn Priscoの執筆。

エンタープライズ向けモバイル・セキュリティー企業のLacoon Mobile Securityの専門家は、iPhone、iPadから通話記録、メッセージ、写真、パスワードその他の情報を盗むことができるXsserと呼ばれるマルウェアを発見した。このニュースは国際的に大きな反響を巻き起こした。というのも、このマルウェアは中国政府が香港の民主化運動を監視するためにに作成、運用していると見られるからだ。

中国政府は以前にもデータを盗み、偽情報を広めようとするハッカー活動で非難されている。間違いなく今後も同様の活動を繰り返すだろう。しかし政治的な議論はさておき、ここにはテクノロジー上の重要な問題が含まれている。Appleはこの問題を直視する必要がある。

Xsserは今後も現れてくるモバイル・マルウェアの一つの例にすぎない。社員が私用のデバイスを業務に使ういわゆるBYOD(Bring Your Own Device)が広がる中、モバイルOSのセキュリティーが保護されていなければ大惨事が起きる。現在、Apple OSのユーザーはその閉鎖性のために必要なレベルの保護が受けられないままだ。私はAppleが外部のセキュリティー専門家、企業と協力して次世代のサイバー攻撃に備えるべきだと考える。

Appleの意図に悪いところはなかった。Appleはすべてをクローズドにしてきた。デベロッパー・コミュニティーに対しても、アプリの登録にあたっても厳格な統制を敷いてきた。その結果Appleはブランドの純粋さを守り、また最近までこの秘密主義がマルウェア攻撃に対する一定の防壁の役割を果たしてきた。しかし、魔神はAppleの壜から出てしまった。

これに対してGoogleは外部のセキュリティー企業と協力関係を築いてきた。セキュリティー専門家は、Androidの場合、OSレベルで必要な分析を行い、問題点を発見できる。AppleのiOSではそれは不可能だ。iOSには高い防壁が設けられアクセスを許さない。AppWrapperを通じてアプリを調査することしかできない。OSレベルでのアンチ・マルウェア・アプリを開発することは不可能なので、iOSのユーザーはそのレベルでの保護を受けられない。

ハッカーは(国家に支援されると否とを問わず)現実の存在だ。どんなシステムであれ、マルウェアによって攻撃されることは避けられない。世界最大のモバイル・デバイスのメーカーが外部の専門家によるユーザーの保護を拒否している現状では、BYODは極めて危険な方針というしかない。 Xsserはその危険を具体化するひとつの例にすぎない。さらに悪質なマルウェアが今後も数多く登場してくるだろう。

Appleはもはや不可侵の領域ではない。Appleがそのことを自覚することが強く望まれる。AppleはiOSをめぐる現実に目覚めねばらない。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


Google Inboxを使ってみた―優れたアプリだが、まだGmailからの全面移行には踏み切れず

編集部:この記事はBrian Clayの執筆。Clayはユタ州に住むテクノロジーライター、テクノロジー・エンスージアスト。結婚して2年目で、ノースカロライナ州出身。

数週間前にGoogleの新しいメール・アプリInboxを入手できた。たいへん優れたアプリだと思ったが、いくつかの問題を発見したため、まだ私のメインのメール・アプリとはなっていない。

まず良いニュースから。

UIはオリジナルのGmailアプリよりむしろ洗練されており動作も速いだ。Nexus 6のような巨大なデバイスを使っている場合、片手操作が楽だ。たとえばメールを読んでいてinboxに戻るには上にスワイプするだけでよい。Inboxは私が最後にメールを出した相手を覚えていて、次にメールを作成するときに宛先候補のトップに表示してくれるのも便利だ。

やや疑問が残る機能はバンドルというメールの自動区分だ。Inboxは着信したメールを自動的にカテゴリーに振り分ける。フライトの確認メールが来ると自動的に「トラベル」というバンドルに入れられる。プリセットのバンドルはトラベルの他にショッピング、ファイナンス、ソーシャル、アップデート、フォーラム、プロモーションと7種類用意されている。ユーザーも独自に定義したバンドルを作成して追加できる。ママから毎日メールが届くなら、それは受信トレイではなくアップデートのバンドルに直行する。

私は全部のメールをまとめて一覧したい。こうしたばらばらのバンドルをいちいち開くのはかなり面倒である。そこで私は今のところバンドル機能をオフにしている。

一方、一定時間後にメールを再表示してくれる「スヌーズ」機能はすばらしい。私はサードパーティーのスヌーズ・プラグインを使っているが、メールアプリに内蔵されていればもちろん便利だ。ロケーション・ベースのスヌーズ機能は非常に役に立つ。

デスクトップ版のInboxもオリジナルのGmailより直感的に使える優れたUIデザインだと思う。特にハングアウトとの連携はオリジナルGmailの1000倍も良い。

ところがInboxには不満を感じる部分もいくつかある。

最大の問題は、@gmail.comのアドレス宛のメールしか扱えないことだ。つまり仕事上のメール・アドレス宛に来たメールを開くにはどうしてもオリジナルのGmailアプリに行く必要がある。そうなると2つの別々のアプリから着信通知が来ることになりわずらわしい。オリジナルのGmail 5.0でサポートされるようになったPOP3やIMAPをInboxがサポートする計画があるのかどうか不明だ。

もうひとつ、大量のメールを受け取るユーザーにとって困るのが、「全て選択」の機能がないことだ。この機能はGmailアプリにもないが、デスクトップのGmailにはある。Inboxではデスクトップにもアプリにも「全て選択」がない。

私はInboxとGmail 5.0のパフォーマンスを簡単に比較してみた。Moto XをWi-Fi接続状態で、一週間分にわたって、送受信にかかる時間、ロード時間、クラッシュ回数 を測り結果をグラフにまとめてみた。〔スライドショーは原文参照。Inboxの方が送受信、ロード時間とも多くかかる。クラッシュ回数はInboxがやや多いが双方とも回数が少ないので有意差があるとはいえない。〕

Inboxの利点は大きいので、私は仕事用のアドレス宛のメールがInboxで受け取れるようになり次第、こちらをメインのメールアプリとして使ってもいいと考えている。残念ながらそれまではGmailを使い続けなければならないようだ。

*グラフはDataHeroを利用。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


ウェアラブルを巡る神話と誤解について

編集部注::本稿執筆者のHamid Farzanehは、現在SensoplexのCEOを務める。30年間にわたり、いくつかの上場・非上場企業を率いてきた経験を持つ。

ウェアラブルが人間の能力を拡張し、自分の身体に関するデータはいつでも確認可能となり、そしてさまざまなモノがネットで繋がるようになる。世界には無限のセンサーが溢れるようになる……

誰もがそんな話をしている。技術革新が次に何をもたらすのか、多くの人が興味を持ってみつめているところであるわけだ。もちろん単なる誇大妄想的なアイデアも数多くあることだろう。しかしたとえそうではあっても、30年間をシリコンバレーにて半導体やセンサーを扱ってきた筆者から見て、今がエキサイティングな時代であることは間違いない。

もちろん、エキサイティングであるので、すべてが興味深い、有益なデバイスであるということにはならない。マーケットは急速に拡大中ではあるが、マーケットから消えていくものの方が多いはずだ。センサーの性能は向上し続けているものの、しかしまるで的はずれな、つまらないエクスペリエンスを提供するウェアラブルもあるようだ。そうしたなかで、フィットネス系ウェアラブルを購入した人の40%が、1ヶ月ないし2ヶ月後にはデバイスを全く使わなくなってしまうのだという調査もあるそうだ。

ウェアラブルについては、まだまだ問題が山積みになっているというのが、現在の状況だ。

そのような中、思いつきやSF小説などに基づいて、ウェアラブルに対する期待ばかりが高まってしまっているということもある。これは不幸なことだ。これにより、参入のハードルが上がってしまったと考える企業も多いことだろう。あるいは、こうした期待感を逆手にとって、クラウドファンディングなどで期待ばかりを煽るプロダクトもある。期待に応えられるのなら良いのだが、中途半端なプロダクトを世に出して、ウェアラブルというジャンル全体についての期待を裏切ってしまうというようなこともあるようだ。ウェアラブルは確かに可能性に満ちている。しかし(だからこそ)現状をきちんと理解して、空想科学的な期待を抱かせないようにする努力も必要なのではないかと考える。

そのようなことを念頭に、本稿ではウェアラブルデバイスに纏わる「現実」について若干のメモを残しておこうと思う。ウェアラブルについてのミスリーディングを無くしたいという思いもある。

バッテリー問題

ハードウェアには根本的なルールがある。サイズが小さいほどエネルギー的には効率的になるという性質だ。但し、そのエネルギーを供給するバッテリー自体はその逆だ。サイズが大きいほど、多くのエネルギーを供給できる。さらに、ウェアラブルには新規性やセンサーの正確性が求められ、一層のパワーを必要とするようになってきている。このことがプロダクトのマーケティング部門やインダストリアル・デザインの担当者、ないしデバイスエンジニアにジレンマ(や、しばしば衝突)をもたらすことに繋がってしまっている。

現在のバッテリー技術のもとでは、加速度計に加えて何かのセンサーを搭載しようとするならば、少なくとも2、3日に1度は充電が必要となる。加えて、こうしたバッテリーはそれなりの大きさもあり、デバイス内に存在する貴重なスペースすら奪ってしまうことにもなっている。

ジャイロスコープに心拍計(LEDおよびフォトダイオードを使う)などのセンサーと、ディスプレイを備えたApple Watchのようなプロダクトの場合、毎日の充電も欠かせなくなる。もりろんAppleは、毎日の充電を必要とするデバイスが増えることは好ましくないと考えているようではある。いちいち線をつないで充電させていては、せっかくのプロダクトも使ってもらえなくなるかもしれない。そこでApple Watchについては非接触で充電できるようにし、きちんと持ち運んでもらえるようにと気を配っている。もちろん400ドル以上の価格や、ある意味でステータスシンボルにもなり得るデバイスであり、少々の手間があっても人々は持ち歩くのかもしれない。

電池の問題については、紙のように薄い「フィルムバッテリー」に期待している人も多いことだろう。しかしバッテリー容量は物理的な容積によって定まるのが現在の技術的状況であり、フィルムバッテリーがウェアラブルに革命をもたらすという状況は期待できない(少なくともMITの実験室レベルでなく、市場に出せるレベルでのブレイクスルーが必要だ)。

今のところ、歩数計以上の機能を求めるならば、毎日の充電が必要となるというレベルにある。

インビジブルなウェアラブル

ひと目を引かないことが、ウェアラブルプロダクトの成功条件であると指摘する人は多い。ひと目みただけで、何らかのウェアラブルを装着していると見えないことが大事だというわけだ。そうした考えに基づいて、入れ墨タイプ、印刷タイプ、スタンプサイズ、あるいは体内埋め込み型のセンサーないしデバイスなどが登場してきている。New York Timesでも、近未来に人体埋め込み型センサーが実用化する時代がくるのではないかという記事を掲載している。

ただ、センサーそのものでは何も成し得ないことも意識しておくべきだろう。センサーは小型化して、どのようなデバイスにも組み込み可能となりつつある。しかし、センサーはあくまでもデータを集めるだけの役割しかもたないのだ。そのデータを処理し、送信するためには何らかの仕組みが必要となるのだ。もちろん、その「処理」にもエネルギーが必要で、言うまでもなくデータの送信にも(数ミリ単位ならいざしらず)エネルギーを必要とする。加えて、データ送信前にはデータをどこかに保存しておいたりという機能も必要で、そこでも当然パワーを喰うことになる。

いかに小さかろうがデータ処理のためのプロセッサーやワイヤレスデータ送信モジュールを加えれば、その分、基板上のスペースを消費する。そして「目立たない」デバイスを作ることはますます困難になる。スマートウォッチの存在を知っていれば、誰もがスマートウォッチであろうとすぐにわかるようなものしか作れなくなる。期待される薄型デバイスには、十分な容量のバッテリーを搭載することなどできなくなってしまう。

フレキシブル画面や印刷タイプのセンサーというのは、確かにクールなものだと思う。しかしそうしたパーツを使った、インビジブルなウェアラブルは、まだ現実の期待に応えることはできていないのだ。

オルタナティブ・バッテリー

さらにバッテリーにフォーカスしよう。既存のバッテリーが十分な要求を満たしてくれないのであれば、他の手段を探してみるというのは自然な流れだ。たとえばソーラーパネルや、何らかの運動を電気に変える仕組み、ないし熱を使ったエネルギーについて検討が為されてきた。あるいは顎の動き(噛む動作)を用いてエネルギーを生み出そうという試みも為されている。

しかし、いずれの手法についても、現在のところは実用にはいたっていない。一般的な太陽光発電についてみても、必要な電力を生み出すためのサイズや、効率性の問題がまったく解決されていない(そもそもウェアラブルデバイスがどれほどの太陽光を受け取ることができるというのだ)。圧電素子を用いて顎の動きや腕の動き、ないし足の動きをエネルギーに変換しようといっても、やはり効率性の面で実用には至っていない。

温度変化による発電については、セ氏10度以上の温度変化がなければ、必要なエネルギーを生み出すことはできない。これは吹雪の中でビデオストリームを行おうという場合でしか考えられないような状況だ。

技術は確かに進化しているのだろう。しかし、ここ数年のうちに実用可能となるような技術は見当たらないのが実際のところだ。

mHealth(モバイル・ヘルス)に関する過剰な期待

ウェアラブルが進化することにより、血圧や血糖値を簡単に測定できる医療用デバイスにも注目が集まっている。

驚く人も多いと思うが、センサービジネスでは、こうしたmHealth分野が最も大きなマーケットとなってきている。たとえば血糖値の測定ということについていえば、年間100億ドルの市場規模をもつ。研究も進み、針を刺して調べることなく血糖値を示すこともできるようになってきている。肌に光を投射して、血流の状況などを把握することにより、各種データを取得することが可能となりつつある。確かにこうした技術は素晴らしいものだ。ただ、R&Dの進化にかかわらず、現在のところではFDAの基準を満たすようなデータを取得することはできないでいるのだ。

血中酸素濃度を測定したり、皮膚反応を測るようなデバイスは増加しつつある。しかし光学方式による血圧測定などについては、今のところまだ研究室レベルのものなのだ。既に一般的となりつつある心拍測定技術についても、まだまだ医療分野からのニーズには応えられずにいる。正確な測定を行うためには、さまざまなノイズを排除する必要があるが、既存のコンシューマーデバイスでは、いろいろな動きによるノイズを排除できずにいるのだ。そもそも手首の太さは人それぞれだし、またそれぞれの骨格により血管の通り方も異なり、そうした状況に市販デバイスで対応するのは非常に難しいことなのだ。

この分野における進化は誰もが望むところのものだ。しかし機械が進化を遂げても、既存の医療機器メーカーとの対立が予測される。そうした対立を超えて普及していくためには、まだまだ多くの時間を必要とすることだろう。

ファッションおよびワークアウト

そろそろ最後にしよう。ファッション面での動きについて見ておきたい。いろいろなファッションブランドがスマートリング、ネックレス、筋力センサー付きのシャツ、あるいはデジタルスクリーンを備えたドレスなどを、市場に提供しようとしている。こうした動きを「イノベーション」と呼ぶことは可能だろう。しかしファッションやジュエリー分野への進出には、思った以上の困難がある。

たとえば、宝石にせよ衣服にせよ、普通は2日続けて同じ物を身に纏うことはない。スマート機能搭載の無骨な指輪を毎日しようと思わない人は多いだろう。取り外し自在な衣服用センサーがあったところで、毎日新しい服に付け替えることに抵抗を感じる人も多いことだろう。すなわち、洋服やアクセサリーをスマート化しようとすることについては、克服しなければならない課題が数多く存在するのだ。

もっといえば衣服は洗濯する必要がある。現在のウェアラブルが主に対象としているワークアウト用の衣服については、とくにその必要性が高い。さらに、洗濯機と電子デバイスの相性は、おせじにも良いと言えないのが現状だ。寒い季節であっても手洗いを強いられることになるかもしれない。そうしたことを面倒だと思う人には、ウェアラブルはあり得ない選択となってしまうわけだ。

既に多くの有用なデバイスが登場しているし、また、これからも一層便利なウェアラブルが登場してくるはずだ。これまでには想像も出来なかったような技術をひっさげてデビューしてくるところも多いだろう。ただ、他の産業における場合と同様、R&Dにはお金も時間もかかる。

進化の真っ最中であるデバイスに夢を見るのは悪いことではない。但し、現在の技術からして不可能なことが存在することも、意識には留めておきたい。

Featured Image:Bryce Durbin

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(翻訳:Maeda, H


Webサミットで見た、未だに大きいスティーブ・ジョブズの影


今週ダブリンで行われたWeb Summitに参加していた私は、没後3年以上が過ぎた今も、われわれはAppleの共同ファウンダー、スティーブ・ジョブズに取り付かれていると思わずにいられなかった。当時の彼を知っていたり、ましてや彼とミーティングをしたことのある人がいれば、インタビュアーは必ずそれについて聞きたがる。

TechCrunchでさえ、ジョブズの未公開写真で追想にふけるくらいだ。ジョブズと何らかのつながりのある人には需要があるようだ。例えば、元Apple CEOのジョン・スカリー。彼は1983年、ジョブズに誘われてAppleに入ったことで有名だが、蜜月時代は短命に終り、失意のジョブズは会社を去り1985年にNeXT Computersを立ち上げた。スカリーはAppleに来る前、経営者として成功していた。彼は11年後に黒字のAppleを去り、その後20年間にも様々なことをしてきたが、それを知る機会はない。

誰もが知りたいのは、スティーブがどんな人間だったのか、そして彼がジョズブを会社から追い出したことだけだ(本人は反論しているが)。その事実から30年近くたった今も、人々はそれを話題にし、当時の社内政治を詳細に分析しては、何が起きたのかをスカリーに尋ねる。彼は関係によって有名であるわけで、奇妙な力が働いている。

しかし、ジョブズについて聞かれたのはスカリーだけではなかった。DropboxのDrew Houstonは、2009年に彼がジョブズと会った1度のミーティングこついて質問された。彼がこれについて話したのは初めてではなかった。常に聞かれていると言ってもよい。なぜか? それは、われわれがあの男の話を聞きたいからだ。Houstonにとって、自分の会社を買いたがっていた英雄とミーティングは、あらゆる意味で非現実的体験だった。しかし、彼は売るためにそこへ行ったのではなく、話は先に進まなかった。なぜならHoustonが今週Web Summitの壇上で話したように、会社を売りたくないなら、会社を売るためのミーティングには参加すべきではないからだ。買収話はそれで終ったが、5年後にわれわれは、Houstonがあの男と会話をしたというだけの理由で、今も話を聞きたがっている。

Web Summitの最終セッションで、U2のリードボーカル、ボノが、House of Cardsのプロデューサー、Dana Brunetti、SoundCloudの共同ファウンダー、Wahlforssと共にパネル討論に参加した。そこではもちろん多くの業界トークが交されたが、モデレーターを務めていたNew York TimesのDavid Carrは、ボノに7年前彼がジョブズとフランスで会った時の話を聞かずにはいられなかった。ジョブズに、iTunesはスプレットシートみたいだと言ったという有名な話だ。ボノは、あれほどデザインにこだわっていたジョブズが、iTunesをもっと美しくしなかったことに驚いていた。正直なところ私に言わせれば、iTunesのルックスは数ある問題の中で最も小さなものだが、とにかく彼はジョブズと直接顔を合わせているので、世界はそれについて聞きたかったのである。

ジョブズは3年以上前に死んだが、IT業界に対する彼の影響は今後も長く続くに違いない。そしてWeb Summitが何かの兆候であるなら、この業界に多大なインパクトを与えた男に関する話を聞きたいというわれわれの欲求もまた、続くに違いない。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


シリコンバレーや東京にできない「地方スタートアップ」の戦い方とは

編集部注:この原稿は藤原健真氏(プロフィール)による寄稿である。藤原氏は京都大学のベンチャー・ファンド(2号ファンド)の運営を行うみやこキャピタルのベンチャー・パートナーで、シリコンバレー発の起業家育成プログラム&スタートアップ・アクセラレーター「ファウンダー・インスティテュート関西」(FI関西)の運営者だ。FI関西の取り組みについては、過去にTechCrunchでも取り上げている。(関連記事:卒業率わずか25%、シリコンバレー発の「マジでガチ」な起業家育成プログラムがすごい

スタートアップにおける地方創生

「地方創生」というキーワードを新聞やテレビで最近よく目にするようになりましたが、スタートアップにおける地方創生と聞いて、みなさん何を想像するでしょうか?

人によっては、地方に移住して起業することを想像される方もいるでしょう。モノ作りや農業など、地方の強みを後押しする助成金のことを想像される方もいるでしょう。すでに地方でスタートアップされている方は、地元での雇用創出がそれにあたるかもしれません。

京都という地方都市で、ベンチャー・キャピタルの仕事に携わらせて頂いて1年余りが経過しました。そんな短い経験ながら自分が見てきた「地方でスタートアップする現実と可能性」について、今回は触れてみたいと思います。

まず始めに簡単な自己紹介から。

京都のお隣、滋賀の高校を卒業後、18歳で単身渡米。カリフォルニア州立大学でコンピューター科学を専攻し、卒業後は株式会社ソニー・コンピューターエンタテインメントに入社。エンジニアとしてゲーム機PlayStationの開発に3年ほど携わりました。

その後、アメリカ留学時代の仲間たちと一緒にITとハードウェアを扱うベンチャー企業を東京で数社創業。そこではいずれもCTOという肩書きでした。30代後半に差し掛かるタイミングで、生まれ育った関西に戻ることを決意。結婚を経て家族を持ち、京都に根をおろすことになりました。

そんな折、京都大学のベンチャーファンド(2号ファンド)の立ち上げの話を頂いたのが、今から2年前の2012年の夏。それ以来、自分がいま所属するベンチャー・キャピタルである、みやこキャピタルに籍を置かせて頂いています。

実は関西に戻った当初は、現在のような活動をやろうとは考えておらず、ましてやVCの仕事をするとは想像もしていませんでした。一方で、関西のスタートアップを取り巻く環境に対する理解が深まるにつれて、アメリカ西海岸や東京にあって、関西に足りないものが明確に見えてくるようになりました。

関西には尖った人材や優れた技術がたくさん存在しているにも関わらず、それらがベンチャー企業の創出や強みに十分に活かされていない。この現状をなんとか改善したいという想いが、今の自分のモチベーションになっています。

地方でしか出来ない戦い方を実践する

さて、今回のタイトルである「地方でスタートアップする現実と可能性」ですが、いわゆる「地方都市に第2のシリコンバレーを作ろう」といった類いの話ではありません。むしろ、その逆で「シリコンバレーや東京に出来ない戦い方を地方で実践しよう」といった内容に近いかもしれません。

色々な戦い方がある中で、自分がいま最も注目しているのが、大学で産まれた技術を使って事業を立ち上げる大学発シーズの活用です。同じような言葉に「大学発ベンチャー」というものがありますが、こちらは大学に所属している研究者や学生が会社を作るというイメージが強いため、あえて自分は「大学発シーズの活用」という言い方をするようにしています。

ご存知の通り、関西を含む地方には多くの大学や教育機関が存在していますが、日本では大学発シーズを使ったベンチャー企業の成功事例は、海外に比べてまだまだ少ないように思います。

海外ではスタンフォード大学の教授自らが出資して学生に起業させたGoogleなど、自分たちの生活の身近なところに、その成功事例の影響が及んできています。なぜ、日本ではこういった成功事例が少ないのでしょうか。

投資先に見る「大学発シーズ」の活用事例

現在弊社で投資・支援させて頂いているベンチャー企業に、京都大学のiPS細胞技術を使ったiHeart Japanという会社があります。みなさんもご存知のiPS細胞ですが、その中でも特に心臓疾患に対する次世代医療を実現しようとしているバイオ系ベンチャー企業です。

バイオ系ベンチャー企業はR&Dにかかる時間や費用が、通常のベンチャー企業のそれよりもかなり大きいことから、大学発シーズの活用事例としてよく挙げられます。同社もまさに京大発のシーズを活用することで、他のベンチャー企業にはない強みを得て事業化を試みています。

では、バイオの専門家でないと大学発シーズは活用できないのかと言えば、そうでもありません。同じく先日、東京大学のベンチャー・キャピタルであるUTECを含むVC3社で共同投資させて頂いたお金のデザインは、ITx金融という分野で大学発シーズを活用しようとしています。

FinanceとTechnologyをあわせてFinTech系ベンチャー企業などと呼んだりしますが、同社は京都大学教授で資産運用研究者の第一人者である加藤康之先生の協力を得て、これもまた他のベンチャー企業にはない強みを自社サービスに取り入れようとしています。

さらにもう1社、弊社で支援させて頂いているIT系ベンチャー企業のNOTAも京都大学の石田・松原研究室との共同研究や協業を行っています。同社はGyazoという静止画・動画の瞬間共有サービスを運営しており、現在世界中で800万人のユーザーを抱えています。Gyazoの開発メンバーの多くは現役京大生や京大卒業生で構成されていて、コアメンバーとして慶應義塾大学の増井俊之教授も参画されています。

上記の3社は、弊社の支援先ということで今回紹介させて頂きましたが、共通しているのは何かしらの形で大学発のシーズや大学の人材を活用して自社の強みにしている、ということです。と、ここまで言うと「優れた技術を大学で見つけて事業化すれば強みにつながるのか」と安易に結論づけされる方もいますが、それでは一昔前の技術・知財先行型大学発ベンチャーのムーブメントと何ら変わりありません。

お金を払ってくれる人がどれだけいるのか

大切なのは、その技術を使って産み出されるプロダクト・サービスに対して、お金を払ってくれる人がどれだけいるのか、という視点で大学発シーズを見るということだと思います。逆にお金を払ってくれる人がいなければ、どんなに優れた技術も事業としては継続できなくなり、結果、世の中にインパクトを与えることもできません。

スタートアップの世界ではProduct-Market Fit(顧客が抱える問題を正しく解決して、顧客から対価が得られている状態)の是非が非常に重要ですが、大学発シーズを利用したベンチャー企業においても、今後はこの考え方が日本でも当たり前になるのではないでしょうか。

では翻って、こういった顧客目線でのプロダクト・サービス開発を今まで散々実践してきたのは誰かと言えば、それはやはり起業家であって、スタートアップであるわけです。そして起業家とスタートアップは、アメリカ西海岸や東京だけでなく、当然地方にもたくさんいます。しかし、地方にいる起業家やスタートアップの中には、なぜかアメリカ西海岸や東京と「同じような戦い方」をされる方が意外に多いのも事実です。

これが今回のタイトルである「地方でスタートアップする現実と可能性」の『現実』の部分です。つまり、自分の住んでいる土地の強みを最大限活かせていないのではないか、という主張です。

地方のスタートアップは観光ビジネスと同じ

地方でスタートアップするということは、観光ビジネスを立ち上げることと似ていて、その土地でしか得られないリソースを使って差別化なり勝負するということだと考えています。

人口たった150万人の地方都市である京都に、なぜ年間5,000万人もの観光客が訪れるのかといえば、それは京都にしかないものがそこにあるから来るわけです。それと同じ考え方を地方のベンチャー企業にも当てはめれば、他社がマネできない『圧倒的な』強みを取り入れられるのではないでしょうか。

これまで1年に渡って多くの研究者の方々や、起業検討中の学生の方々とディスカッションさせて頂きましたが、おおむね彼らの課題は共通していたように思います。それは「事業化を支援してくれるベンチャー経験者が身近にいない」というものです。

一方で、地方のスタートアップの方々に話を聞くと「大きな事業につながりそうなネタがない」「ネットだけで実現できるサービスにはそろそろ限界を感じている」「ビジネスも人材も東京一極集中で地方は不利」といった声が多くあったように思います。

これが、後半の『可能性』につながる話になります。この可能性とは、地方におけるアカデミアとスタートアップの間のギャップのことを指しており、これを埋めることが地方にしかできない戦い方の1つになるのではないかと考えています。

これまで、地方のスタートアップはあくまで自前主義で、大学との共同研究などというものは大企業がやるもの、と考えていた節があったように思います。自分が話をさせて頂いた研究者の方々の中には、「自分は気象学の専門家だが、ビッグデータが得意なIT専門家がいれば事業化の可能性がさらに高まるのに」といった声もあり、なぜスタートアップはこういう所にもっと積極的に出て行かないのかと思うことが多々ありました。

あえて語弊を恐れずに言えば、ウェブブラウザやスマホの中だけで起こせるイノベーションは、もうほぼ限界に達していると自分は考えています。実際問題、現在リリースされているIT系サービスはどんどんニッチなってきており、コンシューマー向けサービスに至っては、もはや広告費をどれだけ投入できるかという勝負に集約されているところもあります。最近のIoTムーブメントは、そういった「ネットサービスの行き詰まり感」を反映しているところもあるのではないでしょうか。

アカデミアとスタートアップが一緒になる方法

ズバリ、次の3つだと考えています。

1、アカデミアでの起業家教育
2、起業を志す人が集まる場所
3、成功事例

1番目の起業家教育については、例えば京都大学ではGlobal Technology Entrepreneurship Program(GTEP)という名前で今年の秋から本格的な起業家教育プログラムを開始しています。いわゆるMBAのような座学ではなく、プロトタイプ(試作品)を作り、実際の市場で仮説検証と顧客開発を行い、最後のデモデーで成果を披露するというGTEPのやり方は、民間のスタートアップ・アクセラレーターのそれに近いものがあります。

GTEPは、文部科学省のEDGEプログラムの一環で、京都大学の他にも大阪大学、立命館大学、奈良先端科学技術大学院大学、滋賀医科大学、大阪府立大学などの地方大学でも同様のプログラムが開催されることになっています。

2番目の人が集まる場所は、関西で言えば2013年4月に開業したグランフロント大阪と同時に開設された大阪イノベーションハブ(通称OIH)が間違いなくそれにあたるかと思います。OIHでは、ほぼ毎日ハッカソンや起業に関するイベントが開催されています。福岡で言えば、最近オープンしたスタートアップカフェが、その機能を担うものと期待されています。

ということで、1番目と2番目はどの地方でも意識の高い人がトップダウンでやれば実現できる類いのものですが、3番目の成功事例だけは、これは関係者全員でゼロから作り出すしかありません。自分が拠点にしている関西は、すでに1番目と2番目はクリアしているため、いよいよ3番目の成功事例をこれから作り出すフェーズに入りつつあります。

大学発のシーズや大学の人材を活用して、世の中に大きなインパクトを与えるベンチャー企業が1社創出されれば、冒頭で述べた日本での成功事例の少なさはおのずと解消されてくると考えています。そして、そう遠くない時期にそれが達成されると感じています。

いかがでしたでしょうか。もちろん大学発シーズを活用することだけが、地方での唯一の戦い方ではありませんが、その土地にしかないリソースを使って差別化を行うという意味では、参考になったのではないかと思います。

日本の活力は地方から。ぜひ実現していきましょう。


人は人工知能と恋することができるのか

編集部注:この原稿は経営共創基盤(IGPI) パートナー・マネージングディレクターでIGPIシンガポールCEOの塩野誠氏による寄稿だ。塩野氏はこれまで、ゴールドマン・サックス証券、ベイン&カンパニー、ライブドア、自身での起業を通じて、国内外の事業開発やM&Aアドバイザリー、資金調達、ベンチャー企業投資に従事。テクノロジーセクターを中心に企業への戦略アドバイスを実施してきた。そんな塩野氏に、遺伝子、人工知能、ロボットをテーマにした近未来予測をしてもらった。第2回目の本稿では、国内でも様々な分野で話題の人工知能について解説してもらう。なお塩野氏は東京大学の松尾豊准教授と共著で「東大准教授に教わる「人工知能って、そんなことまでできるんですか?」を10月に上梓する予定だ。

ジョニー・デップの脳がサイバー空間にコピーされ人工知能として拡張していくという映画「トランセンデンス」、声だけの人工知能OSと恋に落ちる映画「her/世界でひとつの彼女」はご覧になっただろうか?どちらも日本では2014年に公開された映画だ。人工知能は古くからSFの定番だったが、あなたの周りを人工知能入りのロボットが掃除しているかも知れない今日では、人工知能も身近な存在となってきた。

たとえスカーレット・ヨハンソンが声だけの出演でも、スパイク・ジョーンズのアカデミー賞を受賞した脚本が素晴らしいherだが、日本はニンテンドーDS向けソフトの「ラブプラス」で先行していたし、ゲームの中の彼女と一緒に泊まれる旅館さえあった。スパイク・ジョーンズは日本の新しい風習を知って脚本を書いたのだろうか?

herのような対話型の人工知能はiPhoneのSiriを想像してもらえばいい。英語で「今夜、空いてる?」と聞けば「あなたのためなら、いつでも」と答えてくれるアルゴリズムだ。こうした対話型人工知能もどきの歴史は古く、実は1960年代からあった。「もどき」と言ったのは人工知能学者達の間に「何をもって真の人工知能か?」という争いが絶えないからだ。

今から約50年前に存在した人工知能もどきは「イライザ(ELIZA)」と言った。イライザは非常に短いプログラムだったが、現象としては恐るべき能力を発揮した。「あなたのことが好きです」と言うと、「私のことじゃなくて、私たちはあなたについて話しているのよ」と答え、もう一度「あなたのことが好きです」と言うと、「同じことを言って、他の答えを期待しているの?」と返してくるのだ。プログラムの基本設計はあなたの上司にも似た質問の単語を含んだ質問返しとなっていた。

当時の人はこの短いプログラムである人工無能を、コンピュータだと分からなかった人もいたようだ。それどころか、対話を続けることで癒される者さえ現れたのだ。興味のある人は今もネットのどこかにいるイライザに質問をささやいてみるといい。この現象は「イライザ効果」という言葉も生み出した。そう考えると、人間のコミュニケーションの本質とは何なのかを再考する気にもなってくる。2014年現在においては、ツイッターで友達だと思っていた人がbotだったというところだろうか。万が一、botに対して感情を感じ、相手にも感情があると思っていたら、自分の人間としての資質を問い直したくなるだろう。

人工知能の出したものを「人間がどう解釈するか?」は流行のニュースキュレーションサービスの世界でも重要な課題だ。人間が欲しいと思う情報は2つの相反するものだ。1 つは自分の属するコミュニティの7割程度の人が知っていて自分がまだ知らない情報。2つ目は普通だったら自分からは知ろうとしないセレンディピティのある情報。これらの情報は人間の期待値を前もってコントロールしておかないと、「そんなの知っている」または「そんなの自分に関係ない」となるものだ。どんなに複雑なフィードバックを持った人工知能だろうが、どんなに単純なプログラムだろうが、そのアウトプットの価値は人間の解釈次第だ。「ピタゴラスイッチ」を想像してもらえればいい、どんなに複雑な機構があっても、アウトプットは変わらないかも知れない。人間相手の設計では期待値コントロールが必要だ。人間は情報がインプットされると感情を持つからだ。

そう、「感情」は人工知能におけるみんなの深遠な疑問だ。ソフトバンクの発売したロボット、Pepper君も感情認識するという。創造主たる神は人間を神のかたちにお創りになられたというが、このつるりとした頭のロボットは人間のような感情を持っているのだろうか? 感情を語るには感情の定義から入らなければならない。ここではシンプルに感情を「気づき」の1つだと仮定してみよう。人間のように「あの人が大好き」や「助けてくれて有難う」といった気づきだ。

こうした気づきも人間の脳内の微弱な0と1の電気信号には違いないが、人工知能にとっては難題だ。「好き」と3回言われたら、バイブレーションして「私も大好き」と言い返すという原始的な設計は感情とは言い難いからだ。3回、好きと言われたら感情の閾(しきい)値を越えるというのは設計者の思想やエゴに過ぎないだろう。こうした設計はルールベースと呼ばれる。こうしたアルゴリズムは予期せぬイベントが起こると停止してしまう。一方で人工知能は予期せぬイベントが起きたらその結果を検証しフィードバックして、アルゴリズムを修正する。この学習プロセスが人工知能の特徴だ。人工知能による機械学習はデータからコンピュータ自身が特徴を見出してパターン化し、新しいインプットに対し予測を行うものだ。どんなに原始的なルールベースだろうがイライザのように人間側が人工知能に感情があると認識したら、感情があると言えるかも知れないし、高度な機械学習があっても人間っぽさは感じにくいかも知れない。これは外形的な判断によるものだ。

人工知能と人間の両方を見えなくしておき、第三者の人間にコミュニケーションさせ、どちらが機械かを当てるという実験、チューリングテストは実際に行われている。感情があるか否かの議論、これは演技法のようなものだ、女優が戦地にいく男性と別れを惜しんで涙を流しているシーンだとしても、その女優が本当は子供の頃に死んだ犬のことを思い出して泣いているかも知れず、それは外形からはわからない。「インターネット上では誰もあなたが犬かどうかわからない」ということだって言われるし、最近では(アニメ「攻殻機動隊」の)草薙素子も米軍情報部のエージェントが人工知能だとわからなかった。外形的に人工知能のような人間と、人間のような人工知能だったらあなたはどちらと付き合いたいだろうか?

現在の技術では無理があるが、何世代にもわたって人工知能に学習をさせることが出来れば、感情を持たせることが可能かも知れない。設計者がアルゴリズムに書くのは生き物のように「生存本能」や「種の保存の優先」という程度にしよう。複数の人工知能をシミュレーション世界の中に入れて群れを作ってみるのだ。危機に対して助け合うような相互依存や協調的行動が生存確率を高めるのであれば、自己生成的なパターンが現れ、インセンティブ設計として、「助け合うと生き残れる=うれしい」となるかも知れない。

ただ人間が初期設定を行わない「教師無し」の状態から人間のような進化をする可能性は低いだろう。なぜなら、人工知能が「死ぬこと」や「物理的な身体が傷つく」ことについて生身の人間と同じように考えるとは限らないからだ。人工知能が常に要求してくるのは「電源」かも知れないのだ。冒頭に挙げたトランセンデンスでもモーガン・フリーマンが人工知能に「自己認識があると証明出来るか?」と問うシーンがあったが、自己生成的に人工知能がここに到達するまでは限りなく遠いだろう。SFの世界だが、むしろトランセンデンスのような精神転送や” Whole Brain Emulation”の方がまだ可能性があるかも知れない。これは前回の遺伝子の寄稿の時にも登場した技術的特異点(Technological Singularity)のグルであるレイ・カーツワイルがその可能性を唱えている。デカルトの「Cogito ergo sum(我思う故に我在り)」はコピーされた脳に当てはまるのだろうか?

物理的身体を持たずにオンライン上にいる人工知能に人間と同じ身体性を求めるのは酷だ。映画のherでも人工知能の「彼女(her)」に「君は同時に何人と話をしているんだ?」と主人公の男性が憤るシーンがあった。彼女の答えは8000人を越えていた。好きな相手に対し、自分以外から学習して欲しくないと思うのは人間固有の感情だろう、ネットの海は広く、人工知能は学習し続ける。人工知能はそういう設計がなければ人間の独占欲は理解できない。夜のお店で横に座ってお酒を注いでくれる人間もタイムチャージベースで恋人をクラウド化したものかも知れないし、人工知能は人間とは違うことに慣れた方がいいだろう。論理的には人工知能は他の人工知能と記憶を共有、同期したり、過去の古いバージョンに戻ってコミュニケーションしたりと、一方向の時間の流れの中にいる人間とは次元の感覚が異なるはずだ。そのうちこの部分も「人間らしさ」を求める場合は論点となってくるだろう。

現在のビジネスの観点から言えば、人間とコミュニケーションする人工知能にとって情報収集は必須だ。データサイエンスがウェブの爆発的なデータ増加と共に飛躍したように、各家庭に入った人工知能も様々なセンサを使ってデータを集めてはクラウドにアップロードして解析を行い、学習していくだろう。Pepper君もデータベースと連携をすると言っているし、誰もが約3200億円という買収金額に驚いたグーグルのNest買収もデータ収集の為の布石だろう。Nestはサーモスタット(室内温度調節器)だが、昔からのサーモスタットではないのだ、かつてのiPodの設計者がつくったNestには通信用のZigBeeモジュールも内蔵されている。

大量に収集されたデータは何に使われるのだろう。人工知能が大規模なデータから新しい相関関係を見つけ出すかも知れない。人工知能の「気づき」について、現在の技術レベルでは、膨大なデータを与えて、これまた膨大なコンピューティングパワーを使って猫の顔を判別するところまでは来ている。冗長で膨大なデータから、自動的に特徴を抽出するアルゴリズムであり、ディープラーニングと呼ばれる。猫の件はグーグルが世界に先駆けて開発した。ディープラーニングが人工知能の発展に与える影響は極めて大きい。例えばサインインの時に出てくる、人間しか認識出来ないとされる歪んだアルファベットをVacarious社のアルゴリズムは90%の確率で認識することが出来る。このCAPTCHAと呼ばれる歪んだアルファベットの認識は人工知能が人間のように振る舞うための試金石の一つだ。サンフランシスコのスタートアップであるVacarious社はインターネット業界のスーパースター達のお気に入りだ、ジェフ・ベゾス、マーク・ベニオフ、ジェリー・ヤンらが同社に出資している。米国ではディープラーニングの専門家を巡って、Google、Facebook、Microsoftが争奪戦を繰り広げている。人材獲得のための買収、つまりAcqui-hiringが最も起こりやすい分野といえるだろう。

人間がコンピュータである人工知能より優れている点は、判断に必要な情報のみを瞬時に決定出来るところだ。これは「フレーム問題」と呼ばれ、人間だったら「コップを取る」というのは簡単だが、コンピュータはコップの材質、内容物の成分、部屋の温度まで検討してしまうかも知れない。また、人間はとても少ないサンプル数でパターン認識をして判断できる。もちろん人間特有の思い込みもあるだろうが、子供の言語爆発期のように、何千、何万という猫のパターンを見た経験がなくても、猫がいれば認識し、「猫」と声に出し指さすことができる。これをコンピュータに学習させるには数多くのサンプル数が必要となる。こうした特徴抽出は人間の得意とする「気づき」だが、将来的には人工知能も人間に追いついて来るかも知れない。それまでは人間がアルゴリズムの中で教師として目的設定をする方が容易である。パラメータ設定を人間がするということだが、実際のビジネスにおいてはここに大きな論点がある。

自動運転の車の前に、子供と老人が飛び出してきた、自動運転カーは子供の方に進めば老人が助かる、老人側に進めば子供が助かる。その時のアルゴリズムの設定は? 子供と老人ではどちらの重要度のウエイトを高くしておくのか? こうした“マイケル・サンデル的”な(正義を考える)状況において、パラメータ設定の果たす責任は極めて大きい。「好き」と3回言われたら「私も大好き」と返すパラメータとは深刻さが異なる。自動運転カーにとってはただの障害物も、それは人間なのだ。もしも自動運転カーに人間用ハンドルが無かったら、後ろでLINEに夢中だった乗客は結果回避義務が無いため無過失状態となり、車の製造者が製造物責任を問われるのだろうか? しかし、そもそも命の重さのようなパラメータは誰が決めることが出来るのか?アシモフのロボット3原則があったが、ビジネスにおいてメーカーがそういったことを考える時期が来ている。このアルゴリズムのパラメータ設定を行うのは神の役割を担うエンジニアで良いのか?

人工知能を考えることは人間自身について再考することであり、今まで可視化されずに見過ごしてきた社会の問いについて考えることだ。冒頭にあるように筆者は人工知能の権威である東大の松尾教授と共著を上梓する予定なので楽しみにしていただきたい。本文の内容も松尾豊氏との対話から大きな示唆を受けたものだ。本連載、最終回はロボットについて書かせていただく。

photo by
Saad Faruque


ビッグデータ分析には直感とサイエンスの双方が必要

編集部: この記事はSteven Hillionの寄稿。HillionはAlpine Data Labsの共同ファウンダーであり、同社のエンタープライズ向けビッグデータ分析プラットフォームの開発責任者である。Alpineを起業する以前は、Siebel 、Greenplumなどでエンジニアのチーム責任者を務めていた。

現在、データは今までにない規模とスピードで動いている。これを分析にするにはきわめて高度なハード、ソフトを必要とする。ではビッグデータ分析が登場してからは昔ながらの「直感」は無用となったのだろうか? データは「進め」と言っているのに経営者の直感は「待て」だったときにはどうすればいいのだろう?

私のような人間―数学とテクノロジーの専門家―がこういうと意外に聞こえるかもしれないが、私はビジネスマネージャーはデータに加えて直感を重視しなければならないと強く信じている。

一部の人々は所与のデータ・セットから適切なモデルを組み立てるには数学とマシンパワーさえあれば十分だというように考えがちだ。しかしデータの機械処理だけでビジネス上の適切な意思決定ができるなどというのは愚かしい考えだ。データ・サイエンスでは分析と直感は車の両輪であり、互いに他を必要としている。

そもそも直感は分析を方向づける。分析の結果は何もないところからいきなり現れるわけではない。まず観察に基づいた何らかの直感があり、そこから構築された仮説を検証するためにコンピュータによる数値処理が行われる。またデータ・サイエンティストがどんな数値処理の手法を用いるかについても直感が導きとなる。どのデータが本質的に重要なのか? どの変数が、どの過程が意味があるのか? どれが原因でどれが結果らしく思えるか? どのモデルがいちばん適切か? こうしたことはすべて直感が関係してくる。

次に分析が直感に根拠を与える。 教師なし(unsupervised)モデリングは、一見しただけでは不明な関連やパターンを巨大なデータ・セットから探し出すことができる。分析は単なる観察では発見が不可能であり、時には直感に反するような方向を探索するきっかけを与える。ビジネス運営者の経験に基づく直感とデータ・サイエンティストの分析が適切に補いあわなければ必ず問題が発生する。

いくつか私が経験した例を紹介しよう。

あるチームは銀行の一般個人顧客について、口座を閉じそうな顧客を事前に予測するモデルを作ろうとしていた。しかし生成されたデータからはそれらしいパターンが発見できそうになかった。預金、ローン、クレジットカード、すべての分野を通じて顧客が解約する兆候らしきものは見つからなかった。顧客の預金引き出しやクレジットカードによる消費のパターンに特に変化はみられないのに、突然に解約が行われる。

しかし銀行チームが顧客のセグメントごとにさらにデータを詳しく検討していくうちに、あるアナリストの直感が貴重な発見をもたらした。彼女はある顧客セグメントに注目した。このセグメントは平均より飛びぬけて多額のローンを組んでおり、契約期間も長いなど、いくつの特異な属性を示しており、全体として顧客価値が極め高かった。 アナリストはこのセグメントの顧客はスモールビジネスのオーナーではないかと思いついた。そして個別の顧客情報を確認するとそのとおりだった。

アナリストは「これらのオーナーたちは一般個人向けのローンやクレジットカードよりも有利なスモールビジネス向け融資の仕組みがあることを知らないのではないか?」と考えた。そこでこうした高価値顧客を発見し、適切な金融商品を売り込むことにプロジェクトの目標が急遽、変更された。チームは.さらにデータ分析を続け、特定のセグメントの顧客に特化したセールスを行った場合の効果を検証した。その結果、セグメントごとにカスタマイズした金融商品の売り込みは効果があることが明らかになった。

データにいかに数値処理を加えてもこの結果―あるセグメントの顧客はスモールビジネスのオーナーである―は出て来なかったに違いない。ビジネスの経験に基づくこうした直感とデータ処理が統合されるときわめて価値ある結果がもたらされる。

こうした例でも明らかなように、ビジネス経験に基づく直感はデータ分析の決定的に重要な部分だ。にも関わらず、データ分析でビジネス側の経験者がプロセスから排除され、最後に結論だけを知らされるという例があまりにも多い。ビジネス・サイドの知識を持つメンバーをプロセスの当初から招き入れることが絶対に必要だ。私は、チームのプロセスをこうした線に沿って改革し、生データをレビューするもっとも早い段階からすべてのメンバーが参加するようにした。

われわれが経験したもう一つの例では、クライアントは巨大飲料会社だった。日本におけるセールスを予測するというのが彼らの依頼だった。われわれは経済動向と価格を変数として来年の売れ行きを予測するモデルを作った。クライアントは「売れ行きは景気に正比例するはずだ」とわれわれに告げた。日本の景気が徐々に回復すればそれに比例してソフトドリンクの売上も伸びるというわけだ。

クライアントはモデル中の景気の変数として日経平均を用いるよう要請してきた。このモデルは当初は適切な予測をするように見えた。しかし翌年入って時間が経つに連れてモデルは馬鹿げた予測を出し始めた。これは日経平均が当初予想した範囲の上限を超えて上昇したため、モデルが破綻したのだとわかった。もっと優秀なモデル設計者だったら、そもそも日経平均を変数に組み入れるような危険なことはしなかっただろう。

直感が重要な場合も多い。同時にデータサイエンスではモデリングの限界を知る慎重さが必要だ。われわれは清涼飲料水の売上予測モデルから日経平均を外した。するとモデルはうまく作動するようになり、翌年のマーケティング戦略の立案に重要な役割を果たすことができた。

データサイエンティスト側とビジネス実務側の間にはとかく緊張が生まれやすい。データ分析の結果が直感に反するように思える場合―たとえば派手なマーケティング・キャンペーンの効果がゼロに近いなどという結果が出たときには特にそうだ。われわれデータサイエンティストは往々にしてテーブルの向こうに座ったクライアントのマーケテティング担当者から「いったい全体、そんあ数字はどこから出て来たんだ?」と詰問される。

しかし私はこうしたやりとりは非常に重要だと考えている。数学と科学的分析はビジネス側の疑問に正しく答えることができなくてはならない。あるときはデータ分析の結果が直感が間違っていることを明らかにする。しかしあるときはデータ分析の欠陥を直感が明らかにすることがある。こうして直感と分析があい補っていくのが理想だ。

カット画像:Shutterstock USER Stocksnapper (IMAGE HAS BEEN MODIFIED)

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


中国共産党が支援するBaidu、検閲を国際舞台へ

編集部注: Elizabeth Coatesは、中国における人権およびインターネット検閲の研究者。

中国の検索巨人Baiduは、先週ブラジル市場に参入し、ポルトガル語にローカライズした検索エンジン、Baidu Buscaを提供開始した。これは、同サイトにとって2番目の海外版(日本語サイトは2007年に公開)であり、さらにエジプトおよびタイ版も計画している。

中国共産党の熱烈な支援を受けるBaiduは、アメリカ企業の優位性に挑戦する中国IT巨人の一社だ。

IT企業の世界進出を支援することは、中国指導部にとって経済的計算によるものだけではない(ただし、実際に得るものも大きい)。より重要なのは、政治的見返りと国際世論に影響を与える機会だ。中国国家インターネット情報室のWang Xiujun副主任は、「わが党とわが国の未来」は「思想的侵攻の戦い」の勝利にかかっていると言う。国家に好意的な中国インターネット企業は、思想の世界戦争における中心的存在であると見なされている。

そう考えれば、、ポルトガル語版Baiduが、中国指導部にとって微妙な話題の検索結果を厳しく検閲することは驚くに当たらない。

ポルトガル語版のGoogleとBaiduとで検索結果を比較してみよう。Google.br.comでは、戦車男(”o homem do tanque”)を検索すると、1989年に天安門広場へ向かう戦車の行く手を遮る孤立した反抗者の、写真やドキュメンタリビデオ、ニュース記事等が見つかる。

同じ検索をbr.Baidu.comで行うと、無名のブログやスパンデックスを纏った音楽アンサンブルのYouTubeページが見つかる。結果のトップはエジプトについてだ ― 天安門広場ではない。同じ内容の画像検索結果は、Tシャツの写真だ。そして、Googleが280万件の結果を返したのに対してBaiduはわずか5万件だった。

時として、Baiduの検索結果は、共産党のニュースソースのみからなる、極度に選別されたホワイトリストに基づいて生成されていると思われる。

Googleで “Falun Gong”(法輪功)を検索すると、瞑想の画像やブラジル及び国際法輪功ウェブサイト、さらには中国政府による人権侵害の説明へのリンクが生成される。

Baidu Buscaは全くの別世界であり、わずか66件しか検索結果を返さない(Googleは130万件)。その一つ一つが、国家が運営する人民日報へのリンクで、「法輪功の反人道性の決定的証拠」あるいは「法輪功、精神的アヘン」などの見出しが掲載さられている。中には、血の中傷にも似た、法輪功の施術者たちを恐怖の殺人者と糾弾する記事もあれば、国が認めた拘留者への拷問や虐待に関する記事を否定することに特化したページもある。

もし、Baiduが検索の国際市場の確保に成功すれば、われわれが中国について何を知り、どう考えるかに影響を与える強力なプラットフォームを持つことになる。しかし、もし同社の日本における経験が何らかの兆候であるなら、それは起こりそうにない。2007年の開業以来、Baidu Japanは毎年損失を出し続けている。日本政府は、同社製プログラムがユーザーにスパイ行為をしていると警告しており、YahooやGoogleに挑戦するには程遠い状況だ。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook


GoogleやAmazonも参入、熾烈を極める米国の即日配達ビジネス、日本の可能性は?

編集部注:この原稿は内藤聡氏(@satoruitter)による寄稿である。内藤氏はEast Venturesアソシエートで、海外のテクノロジー情報を発信するブログ「シリコンバレーによろしく」を書くテクノロジー・ブロガーだ。

昨今、ベイエリア(サンフランシスコからシリコンバレーを含む一帯)ではオンデマンド系のプロダクトを目にする機会が増えてきました。オンデマンド系のプロダクトとは、消費者が必要なモノやサービスを必要な分だけ即座に購入・利用できるといった形式のビジネスで、P2Pの低価格タクシー配車サービスのuberXや、家事代行サービスのHomejoyなどが代表的な例です。また、消費者のみならず、労働者(サービス提供側)も必要な時に必要な分だけ働けるということが、この分野をオンデマンドと呼ぶ所以になっています。

そんなオンデマンド系ビジネスの中でも、とりわけオンデマンドECの分野が注目を集めており、InstacartやPostmates、SpoonRocketなどのスタートアップからGoogle、eBay、Amazonといった大手企業までがこの分野に進出しています。

今回は、米国におけるオンデマンドEC分野の主要プロダクトを紹介した後に、この分野の今後と、日本での可能性について言及していきたいと思います。

オンデマンドECとは?

オンデマンドECとは、注文された商品を最短で1時間以内(フード系であれば数十分以内)、遅くとも当日に配達するといったビジネスを指します。食品、日用品、料理のデリバリーなどが主要な分野です。

ベイエリアでオンデマンドECが台頭した背景

ベイエリアでこの分野のプロダクトが台頭してきた背景として、ベイエリアの不便な消費環境とスマートフォンの普及の2点が考えられます。

まず、ベイエリアの消費環境ですが、日本の都市部のように徒歩圏内にコンビニやスーパーが存在しないので、日々の買い物がとても億劫に感じます。食品や日用品は大量に買い貯めすることが主な消費習慣で、必要に応じてコンビニでちょこっと何かを購入するといったことができません。また、日用品をAmazonなどで購入する際も、日本のように物流インフラが整っていないため、通常配達で数週間、Amazonプライムでさえ在庫の場所によっては到着までに数日かかるのが当たり前です。

食事に関しても、日本の都市部のように少し歩けば美味しい飲食店が見つかるといった地理的環境ではないため、外食ひとつをとってもそれなりの移動を必要とします。それゆえ、自宅にいながらデリバリーを利用して食事を取る、いわゆる中食のスタイルが日本以上に好まれているように感じます。上記のような環境的な不便さを解決するための手段として、現在オンデマンドECが多くの人に受け入れられつつあるのです。

次に、スマートフォンの普及がオンデマンドECの台頭要因になったという点です。ユーザーがモバイルを通じて時間と場所を問わず商品を閲覧・注文できるようになったことや、配送状況をリアルタイムでトラッキングできることなど消費者視点の利便性向上はもちろんありますが、それ以上に労働者側の人間が1人1台モバイルを持つようになった時代背景が大きな要因であると考えます。

オンデマンド系のサービスは、配達を仕事とするパートタイムのスタッフが好きな時間に必要な分だけ働くといった仕組みが主流です。そして、彼らはタイムカードを切る代わりに、専用のアプリを立ち上げることで仕事を開始します。このように、彼らがスマートフォン経由で注文を受け取り、商品を配達するというサービスを提供できるのは、多くの働き手がスマートフォンを所有している今の時代だから機能しているのだと考えます。上記のような端末の普及がオンデマンド系のプロダクトの提供を可能にした大きな要因と言えるでしょう。

オンデマンドECの主要分野は食品、日用品、料理

続いて、オンデマンドECの分野における主要プロダクトを紹介していきます。なお、オンデマンド系のサービスは、自分で在庫を持つ形式(リテイラー型)と、在庫を持たず自前のスタッフが商品を配達する形式(ロジスティック型)がありますが、ここでは一括りでオンデマンドECとします。

Instacart

Instacartは、食品の分野に特化したオンデマンドECです。注文が入ると、Shoppersと呼ばれるパートタイムのスタッフがSafewayやWhole Foodなどのスーパーに出向いて商品を購入・配達してくれるというもの。最短1時間以内で配達してくれる上に時間指定もできるため、主婦を中心に人気を集めているアプリです。1時間以内の配達だと送料が$5.99(約600円)、2時間以上であれば$3.99(約400円)といった価格設定。年間$99(約1万円)のInstacart Expressに加入することで$35(約3500円)以上の買い物の送料が無料になります。Instacartは通常の料金より30%程度水増しして販売し利益を上げているという意見もありますが、現在は店頭価格と同様の価格の商品を見かけることが多く、各リテイラーから売上に応じてコミッションを取る形式に変更したのかもしれません。

Postmates

Postmatesは、近所のレストランやスーパーの商品を何でも最短で1時間以内に配達してくれるデリバリーサービスです。他のプロダクトと違い24時間利用できます。Postmates側がレストランのメニューやスーパーの商品等の情報を収集しており、ユーザーはその中から欲しい商品を選ぶだけで注文を完了させることができます。欲しい商品がPostmates上にない場合は、メモ形式で商品名とその説明を文章で記入し注文することが可能。商品はPostmateというメッセンジャーバイクに乗ったスタッフが配達します。料金は1回につき$5(約500円)の基本料に加え、購入額の9%と移動距離から計算された追加手数料がかかります。

WunWun

WunWunは、どんな商品でも基本的に無料で配達してくれるデリバリーサービスです。現在はマンハッタンとブルックリンでのみサービスを提供しています。注文を受付ける最低購入金額は$10(約1000円)。ビジネスモデルは、商品を購入したリテイラーや、その商品のメーカーにコミッションフィーを請求するといったもの。

Google Shopping ExpresseBay Now

Google Shopping ExpressとeBay Nowは、電化製品やアパレルなどの商品を最短で1時間以内に配達してくれるオンデマンドECです。Instacartが食品に特化しているのに対して、GoogleとeBayは、Best Buy(家電)やOffice Depot(オフィス用品)、Walgreen(ドラッグストア)、Uben Outfitters(アパレル)などで販売されている日用品を取り扱っています。Googleは1回の配達につき$4.99(約500円)で最低購入金額は要求しない一方、eBayは1回の配送料は$5(約500円)で、$25(約2500円)から注文を受け付けています。

AmazonFresh

AmazonFreshは、食品のデリバリーサービスです。大手で唯一、生鮮食品・加工食品の分野をカバーしています。年間$299(約3万円)のAmazonFresh会員に加入することで、無料で商品を即日配達してくれるといったもの。最低購入額が$35(約3500円)に設定されていますが、本やDVDといったAmazonで販売している通常の商品も合計額に加算できる仕組みになっており、食品以外の商品も抱き合わせて購入させたい狙いが伺えます。今後は、ローカルのレストランや食品小売店(パンや惣菜等)の商品の販売をマーケットプレイス形式で拡大させていくようです。

CaviaZestyDoorDash

オンデマンド系ECの分野で、特に注目されているのがフードデリバリーです。各プレイヤーが各々の基準でレストランをキュレーションし、その店舗のメニューを宅配するといったもの。Caviaは地元の人気レストラン、Zestyは健康志向のメニューを提供しています。また、多くのサービスがサンフランシスコ(ベイエリア北部)で提供されている一方で、DoorDashはサンノゼやパロアルトといったサウスベイ(ベイエリア南部)に特化しており、地理的に差別化を図っているようです。

SpoonRocketSprigMunchery

キュレーション型のものとは別に、自前でシェフを雇う、もしくはシェフと提携して料理を提供するプレイヤーも存在します。SpoonRocketは、日本のbento.jpのようなサービスで、自前で製造した料理を注文から最短15分以内で配達するといったサービスをランチの時間限定で提供しています。料理の選択肢は4つしかなく(内容は毎日変更)、価格は送料込みで一律$8(約800円)。Sprigも同様に、食材にこだわった料理を注文から最短で20分以内に届けるサービスをランチとディナーの時間に提供しています。またMuncheryは、一流シェフの料理を自宅で楽しめるというコンセプトのもと、有名シェフと提携して$10(約1000円)前後の料理を調理・配達しています。『俺のフレンチ・レストラン』のデリバリー版と説明すると分かりやすいかもしれません。

オンデマンドECの今後と日本での可能性

上記のように、現在では食品、日用品、料理といったジャンルを中心に数々のプレイヤーがオンデマンドECの分野でサービスを提供しています。そして今後も、主に以下の3つの形式でスタートアップが新たにこの分野に参入する余地があると考えています。

1つ目は、提供する商品を特定の分野に絞ることで品揃えの幅を広げ、ユーザー体験を向上させる形式。アルコールの販売に特化したMinibarDrizlyが良い例です。

2つ目は、同業者がまだカバーしていない地域でいち早くサービスを開始し市場を獲得する形式。サービスの提供地域をサウスベイに絞っているDoorDashや、シアトルに特化しているPeachなどが良い例です。

3つ目は、購入方法に差別的要素を加えるといった形式。例えば、深夜帯の配達に特化したものや、共同購入を可能にさせるスタートアップが出てくるかもしれません。

一方、日本でオンデマンドEC系のビジネスがスケールするのかといった点も気になるところです。先述したように、日用品や食事を購入するのが億劫な米国ベイエリアとは違い、日本ではコンビニやスーパー、レストランが充実しており、いつでも徒歩圏内で必要な食品や日用品、おいしい食事を手に入れることができるため、この手のサービスにおいて、日本に米国ほど強い需要はないかもしれません。

しかし、既存のコンビニやスーパー、一部のレストランがデリバリーのサービスを提供していることから分かるように、買い物に行く時間や労力を節約したいビジネスパーソンや高齢者、主婦などが一定数存在するのも事実です。コンビニや近所のレストラン、またネットスーパーとは異なった形のユーザー体験を提供することができれば、日本でも評価額$1B(1000億円)には届かなくとも数百億円規模のビジネスになる可能性は十分にあると思います。Muncheryのように、行列のできるレストランの料理をハイエンド向けに提供するフードデリバリーや、人口密度の高い日本の都市部では、配達よりもテイクアウトに特化した事前注文型のECなどに需要がありそうです。

日米問わず、今後もオンデマンドECの分野から目が離せません。


BMW vs Tesla:イノベーターのジレンマのリアル版

編集部注: 本稿のライター、Peter YaredはSaphoのファウンダー・CTOで、元CBS InteractiveのCTO/CIO。

Jill Leporeは、自身のNew Yorkerの記事で破壊的イノベーションに疑問を呈し、シリコンバレーで波紋を呼んだ。彼女は、既存の大企業が生き残り、小さな進歩を繰り返すことによって破壊的テクノロジーを呑み込んでいくと推測する。幸い、われわれには生きている実験台がある。BMWの新電気自動車 i3は、伝統的メーカーがTeslaを前に、イノベーションのジレンマに直面する現在進行形のケーススタディーだ。

Elon Muskは、未来の量産電気自動車の標準をこう定義した ― 価格は4万ドル前後、航行距離は200マイルで、BMW 3シリーズに対抗する。この大胆なゴールを達成するべく、Teslaは「ギガ工場」を作ってバッテリーを高効率低コストで生産し、その夢を現実にする計画に投資している。投資家は、Teslaがその規模を達成した時には市場を支配することに賭けている。まだ年間3万5000台しか生産していないにもかかわらず、時価総額は280億ドルに上る。Muskが、近日発売の大衆車 Model 3を、BMW 3シリーズと直接比較しているのは興味深い。現在BMWは新しいi3を、米国市場に限定的に投入しているだけだ。

BMW対Teslaの戦いからは、多くの有益な教訓を得ることができる。自動車は目に見える製品であり、販売戦術も非常に透明だからだ。

ブランド

車名に “3″ が入っているものの、i3 は明らかにBMWの3シリーズではない。車長は60cmも短かく、むしろBMW 1シリーズの仲間に入れるべきだ。i3の80~100マイルという航行距離は、Nissan LeafやChevrolet Volt等と同等であり、Tesla Model Sのようなテクノロジーの奇蹟とは比較にならない。

その制約にもかかわらず、i3は明らかに共感を呼び、レビューでの評価も高く、先月TrueCarで急騰した価格からも、米国内での高い初期需要がうかがえる。BMWは3シリーズのブランドを効果的に(誤)使用しており、テクノロジーの進歩に合わせて、車体を伸ばしたり航行距離を延ばすなどの機能追加が可能だ。

教訓:伝統的メーカーは、誤った製品名を付けることによってブランドを活用できる。新興企業が直接特定のモデルを比較対象にしている時はなおさら。

Tesla Model 3 (Estimated) BMW i3 BMW 320
Passengers 5 5 5
Range ~200 miles on electric 80-100 miles on electric, 185 miles with gas range extender(Total hack!) 380-576 miles on gas
Base Price ~$40,000 $41,350 $32,750
0-60 N/A 7.2 seconds 7.1 seconds
Dimensions ~182” long x ~71” wide (Matching BMW 3 series) 157” long x 70” wide (Not even close to a 3 series!) 182” long x 71” wide
Availability 2017 2014 2014

テクノロジー

BMWは、完全電動車のプラットフォーム構築に莫大なリソースを注ぎ込んでおり、消費者にいた早く価値を提供するためには、過去のテクノロジーを融合することも厭わない。対照的に、Mercedesは、提携の道を選び、近く発売する電気自動車の駆動部およびバッテリー技術をTeslaから購入している。BMW、Mercedes共に、自動パーキングや高速道路で車線を守り車間距離を一定に保つクルーズコントロール等、高度な車両技術においてはTeslaをはるかに凌いでいる。

バッテリー技術の進化を待つことなく、中価格帯で200マイルを走る電気自動車を作るために、BMWはオプションとして「レンジエクステンダー」を販売している。これはバッテリー動力の5%を維持できる2気筒のオートバイ用エンジンで、航行距離を80マイル延長する。レンジエクステンダーは、バッテリーを充電するものであり駆動はしないので、i3はハイブリッド車ではないが、レンジエクステンダーは常に給油可能なため、動力を失うことがない。これは実に巧妙なしくみだが、よく考えられており競争力がある。BMWの技術者は、このアイデアを思いついた時、ほくそ笑んだに違いない。

このi3によって、BMWは、都市ドライバーや平均的通勤者といった、時折遠出にも使うが、充電ステーションのことを考えたくない人々に、「十分良くできた」高級電気自動車を提供した。

教訓:伝統的メーカーは、新技術を自社の旧技術と混ぜこぜにして、新たなライバルを蹴落とそうとすることが多い。

生産台数

Teslaは、最初の製品を2006年に発売し、2014年には3万5000台のModel Sセダンを売ろうとしている。2014年後半で約1万7500台だ。BMWは2014年にi3を発売し、今年前半に6000台のi3を主にヨーロッパ市場で売った。現在3~6ヵ月待ちの状態だ。需要の急騰を受け、BMWは生産量を年間2万台に引き上げ、現在1日に100台、年間3万台以上のペースで製造している。伝統的メーカーが出荷初年度に、高級電気自動車分野でTeslaを抜きつつあるという事実は、Teslaの優れた製品と何年もの市場におけるリードを踏まえると、驚くべきことだ。

教訓:伝統的企業が技術を融合させると、大量生産が可能になる。

販売

Teslaが旧態依然のディーラー網モデルを破壊しようとしているのに対し、BMWはその広大なディーラー網を活用して世界中の消費者につながっている。また消費者は、TrueCarBeepi等のサービスを使って、新車や下取りの価格を、ディーラーと交渉せずに済ませることもできる。BMWは、多額の報奨金によって、消費者に購入を促すこともできる。自動車メーカーとディーラーたちは、Teslaと戦うために、法規制で足止めをさせ市場参入を制限しようとしている。

教訓:イノベーターは、伝統的企業の巨大で動きの鈍い販売チャネルを過少評価すべきでない。

市場参入

Teslaは、ハイエンド車で市場に参入する必要があった。長い航行距離を可能にするバッテリーを使用しつつ、気まぐれな投資家のために利益を確保するためだ。大衆向けの中価格帯車が可能になる何年も前のことだった。BMWの体力は、中間市場に参入し、翌年i8スーパーカーで米国の超ハイエンドに進むことを可能にした。BMWにとって、特徴ある都市向けのi3は、事実上BMWのイノベーションとグリーンな未来の動く広告塔であり、優位に立つために原価割れで売ることさえ可能だ。

Teslaのハイエンドファースト戦略には、Tesla Sがかなり大型で都市環境に向かないというリスクもある ― BMW 7シリーズより幅が広く、長さはほぼ同じ。大型の高級4ドアセダンは、35歳以上のアッパーミドルクラスの男性が典型的購入者であり、その層は、残念ながら最も流行に敏感な人々ではないことを認めざるを得ない。BMWは、徹底的に市場を研究し、i3の先進的デザインとより小型な都市向けサイズ、そして実証済みの若者層にアピールするブランドによって、流行に敏感な若い都市型人間をターゲットにした。

教訓:伝統的メーカーは、しばしば様々な市場セグメントを持ち、スケールメリットを生かして、新興企業の計画を出し抜く。

本当に破壊されているのは誰か?

大きな疑問は、電気自動車が破壊しようとしているのは、果たしてどの業界なのかである。当初、伝統的自動車メーカーは、電気自動車の挑戦に対抗できないと思われた。彼らはハイブリッド車を広く採用し、今やそこそこ競争力のある電気自動車を販売し、水素燃料電池の実験も続けている。広い視点で見ると、ExxonMobilとChevronの方が、BMWとChevroletよりも、電気自動車に破壊されているのかもしれない。

Elon Muskは起業家のヒーローであり、乗用車、宇宙飛行、および電力業界を同時に破壊しようとしている。これらの業界にいる伝統的企業のいくつかは、ある時点で目を覚まし、積極的に対応する必要があるかもしれない。Muskにとって幸運なことに、United Launch Allianceは、BMWがTeslaに対するほどには、SpaceXに対して敏速ではない。

情報開示:筆者は、Tesla Model Xの待ち行列の6250番目にいる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook