“下膳ロボ”で飲食店の片付けを自動化、Google出身エンジニア創業のスマイルロボティクスが資金調達

人手不足の深刻な飲食店の課題をロボットやテクノロジーで解決する——最近はこの領域に取り組むテックカンパニーが増えてきた。

たとえば過去に何度か取り上げたコネクテッドロボティクスは“たこ焼きロボ”を含む調理ロボットを開発するスタートアップ。ほかにも調理や食器洗い、接客(無人カフェなど)といったように、それぞれの工程において作業を支援したり自動化するプロダクトが国内でも登場している。

今回紹介するスマイルロボティクスもその1社だ。同社が現在開発しているのは食後の食器を自動で回収してきてくれる“下膳ロボット”。アームを搭載して片付けを完全自動化しようというプロダクトはまだ世の中に存在しておらず、その実用化を目指している。

そんなスマイルロボティクスは1月30日、ANRIとディープコアより総額4500万円の資金調達を実施したことを明らかにした。今後ロボットの研究開発を加速させるために人材採用を強化するほか、複数の飲食店にてロボット導入の実証実験を進めていく計画だ。

テーブルまで移動してきてロボットがアームで食器を回収

スマイルロボティクスが手がけるプロダクトについては、実物を見てもらうのが手っ取り早いだろう。以下はプロトタイプのデモ動画だ。

あくまで開発段階のものではあるけれど、実現しようとしているのは動画のように「テーブルまで移動してきて食器をアームで回収し、バックヤードまで運んでくれるロボット」。スマイルロボティクス代表取締役の小倉崇氏の話では回収した食器をシンクにつける、もしくは食洗機にセットするところまでも視野には入れているという。

アームの付いていないロボットであればすでに存在するが、アーム付きとなると技術的な難易度も上がる。特にネックになるのが「認識技術と安全性の部分」(小倉氏)だ。

人が食事を終えた後の食卓は食器の位置や状態もバラバラ。その状況を正しく認識して適切に回収作業を行うのは、単純な作業を自動化することに比べて難しい。またお客さんの近くをロボットが移動していくわけなので、安全性も担保しなければならない。

スマイルロボティクスではディープラーニングをベースにしたAI認識技術や3Dセンサーといったテクノロジーをフル活用しつつ、多様な環境で動かすことができ、なおかつ安全にスピーディーに片付けを行うロボットの開発を目指している。

JSK出身、元SCHAFTのエンジニア達が挑む下膳の自動化

小倉氏はロボットの研究開発で有名な東京大学の情報システム工学研究室(JSK)出身だ。その後トヨタを経て、2014年に二足歩行ロボットを手がけるSCHAFTに加わった。同社は前年にGoogleに買収されていたので、Alphabet傘下のX(旧Google X)内でロボット開発を続けていた。

そのSCHAFTプロジェクトが2018年に解散したこともあり、自身で事業を立ち上げるべく2019年にGoogleを退職。同年6月にスマイルロボティクスを設立している。

ちなみに創業後すぐにジョインした椛澤光隆氏と小林一也氏もJSK出身で元SCHAFTのメンバー。スマイルロボティクスはバリバリのロボットエンジニア集団というわけだ。

スマイルロボティクスのメンバー(前列)と投資家であるANRIとディープコアのメンバー(後列)。前列左から小林一也氏、小倉崇氏、椛澤光隆氏。最前列は開発中のプロトタイプ

下膳をロボットで完全自動化すると聞くとロマンを感じるけれど、最初は小倉氏の「自宅の食卓の片付けが大変なので、自動化させたい」という個人的なペインがきっかけ。前職時代から自宅に作業ロボットを置いて片付けを効率化する実験もやっていたという。

「いざ起業すると決めた時にあれを本格的にやりたいなと思ったが、(価格などの面で)家庭向けに販売するのは難しい。それならB2Bはどうかと思い調査やヒアリングをしたところ、興味を示してくれる企業が複数いたので可能性を感じた」(小倉氏)

起業当初はカフェの業務自動化やラーメンを自動で作る機械など、周囲のニーズを参考にいろいろなロボットを作ってみることから始めたそう。ただそれらは比較的簡単に作れてしまうものも多く、自分たちではやらないことを決めた。

「ビジネスが得意な人たちが容易に参入できる領域では不利なので、技術的に難易度が高くないことは自分たちのチームでやるべきではないなと。その点、アーム付きの移動するロボットを作り一般の人もいる場所へ導入していくというのは、ものすごくチャレンジング。自分が知る限りはまだ誰も実現していないからこそ、自分たちの強みを活かせる」

「また個人的にはロボットを工場から身近なものへどんどん近づけたいという思いをずっと持っていた。飲食では普通の人が入ってこない調理場は工場に近く、その調理場とお客さんをつなぐ下膳はちょうど中間的な位置付けで自分のやりたいことにも合致する。従来は調理場にこもりがちだったロボットを、もう一歩、人がいるところへ進出させていきたい」(小倉氏)

複数の飲食チェーンから引き合い、今後は実証実験へ

飲食店の業務を「キッチン」と「ホール」に分けた場合、キッチンの中でも調理や盛り付けの工程にはすでにいくつものプレイヤーが参入している。加えて小倉氏によると「ロボット技術というよりは調理器具に近く、自分たちの専門からは少し外れるイメージ」だという。

一方でホールに関しては、飲食店に話を聞くと「接客にはこだわりがありできれば人の手でやりたい」という声も多かった。そんな中で自動化に対する反応が1番良かったのが下膳だ。

「どの飲食店も人手不足に困っている反面、自動化したり、セルフにしたりすることに抵抗がある業務も多い。ただ下膳に関しては基本的に人がやっても大きな付加価値を出しづらい領域。そこに人手をかけるよりは、自動化することで他の仕事にもっと人の力を使いたいというニーズがあることがわかってきた」(小倉氏)

特に1店舗当たり10人ほどが働いている中規模〜大規模な飲食店は相性がいいと考えているそう。人手不足な上に今後新規の採用が難しくなる中で、下膳を自動化することによって業務負担を減らしたいというニーズは大きい。国内に約60万店ある飲食店のうちだいたい20%は10人以上が働いてる店舗であり、まずはここがメインのターゲットになりそうだ。

現在すでに数十〜数百店舗を持つ大手ファミレスチェーンやファストフード店、寿司チェーン、ラーメンチェーン、大手介護施設などと話を進めている状況で、今後実証実験に取り組む予定。1番早いところでは5月ごろのスタートを目処に検討しているという。

面白いのは飲食チェーンが多い中で介護施設も含まれていること。介護施設でも入居者の状態に合わせた食事を提供しているが、できれば下膳よりも食事のサポートやコミュニケーションにスタッフの時間を使いたいという思いがある。下膳の自動化ニーズは必ずしも飲食店に限ったものではないのかもしれない。

とはいえ、現時点ではまだまだプロトタイプを開発しているフェーズ。まずは今回調達した資金を人材採用の強化とロボットの開発に投資し、プロダクトをアップグレードした上で実証実験に取り組んでいく。

小倉氏は笑いながら「もしかしたらいつの間にかアームがなくなっているかもしれない」と話していたけれど、それは冗談としてもプロダクトの仕様やターゲットとする顧、具体的な価格などは現時点でカチッと固めすぎず現場のニーズを確かめながら柔軟に対応していく方針だ。

「ロボットはどこまでいってもハードウェアから離れらないので、本当に高品質なものを作るためにはハードウェアを自分たちで押さえる必要があると思っている。時間はかかるかもしれないが、将来的にはAppleみたいにハードウェアとソフトウェアがものすごい強い結合をすることで、めちゃくちゃ品質の高いものを生み出すようなチャレンジをしていきたい」(小倉氏)