ディズニーのボブ・アイガー氏がCEOを辞任、後任はボブ・チャペック氏

Walt Disney Companyの発表によれば、 長年にわたってディズニーグループの指揮を執ってきたBobt Iger(ボブ・アイガー)氏がCEOを辞任し、Bob Chapek(ボブ・チャペック)氏がその職を引き継いだという。

アイガー氏は、大型企業買収を含むアグレッシブなメディア戦略によってディズニーを業界屈指の高収益な企業に成長させた。ボブ・チャペック氏は長くディズニーグループの経営陣に加わっており、最近はDisney Parks, Experiences and Productsの会長だった。

アップデート: アイガー氏の社員向けメールを追加した(元記事参照

新しい CEO に任命されたチャペック氏はディズニーのテーマパーク事業の責任者だが、賛否両論ある人物だ。 チャペック氏はディズニー内で「価値のエンジニアリング」と呼ばれる一連の動きを主導したことで知られる。これは大勢のクールな人材をカットしたことを表す婉曲語法だ。現在まで長く人気が続くディズニーのアトラクションやプロダクトは「想像力豊かな人々に腕を振るわせよう」というアイガー氏の戦略によって生まれたものだが、チャペック氏はむしろ予算至上主義者として知られる。Twitterではディズニーの新CEO就任によって、テーマパーク事業部における予算がカットが起こるのではないかと早くも予想されている。

チャペック氏のCEO昇格に伴い、空席となったテーマパーク事業部の責任者にはWalt Disney Worldの元トップ、Josh D’Amaro(ジョッシュ・ダマロ)氏が適任だろう。ダマロ氏はディズニー内部、ことにテーマパーク事業部できわめて人望が高い。ただし支持者間でその理由が正反対だったりするため、この点がダマロ氏の責任者就任を妨げるかもしれない。

今回のCEO交代については、まだよくわからないことがいくつかある。アイガー氏は36カ月のCEO任期延長を受けていたが、そのうちまだ14カ月を残している。しかも辞任が発表されたタイミングも通常予測される四半期決算発表の電話会議中ではなかった。最近のディズニーの決算は好調を続けているが、新型コロナウイルス感染症の突発は中国におけるテーマパクの閉鎖をもたらし、ディズニーの経営にとって現在はきわめて重要な時期となっている。

それだけにこの時期のアイガー氏の辞任について憶測が飛び交っており、関係者はその理由が会社にとってあまり深刻なものでないことを願っている。今後何か新しい情報が入り次第記事をアップデートする予定だ。

2005年以降のアイガー氏のCEO任期中にディズニーは映画、テーマパーク、その他のエンターテインメント事業において大胆な戦略を取り、業績を大きく伸ばしてきた。2019年後半にスタートしたストリーミングサービスであるDisney+は、市場の予想を超える大成功を収めている。また713億ドル(約7兆8744億円)という空前の額で21st Century Fox(21世紀フォックス)の映画、テレビ事業を買収したことも記憶に新しい。

アイガー氏は10年前のMarvel Entertainment も主導している。「スター・ウォーズ」と「インディー・ジョーンズ」を持つLucasfilm(ルーカスフィルム)の買収もアイガー氏が指揮したものだ。一時冷え込んでいたAppleのSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏との関係を立て直し、ジョブズ氏が1986年に創立したアニメーションスタジオのPixarの買収を実現させたこともアイガー氏の功績だろう。

こうした大型買収を含むアグレッシブな拡大戦略がディズニーをメディア業界において現在のようなリーダーの地位につけた。

【略】

また我々も報じたように、Disney+は2650万人ものサブスクリプションを集めている。なおアイガー氏はCEOを退いた後も2021年いっぱい エグゼクティブ・チェアマンとして留まるとディズニーは発表している。

この稿の執筆にあたって、アイガー氏とチャペック氏のCEO交代の事情、評価についてMatthew Panzarino(マシュー・パンサリーノ)編集長に協力してもらった。

画像: Allen J. Schaben/Los Angeles Times (opens in a new window)/ Getty Images

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滑川海彦@Facebook

“副業型クラウドキッチン”で飲食店のキッチン稼働率を上げる「クラウドフランチャイズ 」が資金調達

飲食店のアイドルタイムと人気のフードデリバリーブランドを繋ぐ「クラウドフランチャイズ」事業を展開するCLOUD FRANCHISEは2月26日、THE SEED、野口圭登氏、西尾健太郎氏を引受先とする資金調達を実施したことを明らかにした。具体的な金額は非公開だが、数千万円規模の調達になるという。

ここ数年、「クラウドキッチン」と呼ばれるネット注文特化型のキッチンしか保有しない店舗や、デリバリーに注力した「ゴーストレストラン」タイプの飲食店に注目が集まっている。日本国内でもUber Eatsを含むデリバリープラットフォームの広がりに伴い、デリバリー専業ないしデリバリーを主力とした飲食店が登場し始めた。

CLOUD FRANCHISEではその中でも人気を集めるフードデリバリーブランドと、キッチンの稼働率を上げたい飲食店をフランチャイズのスキームを用いて繋ぐことで双方の成長を後押しする。

飲食店の空き時間をクラウドキッチンに変える

具体的には飲食店の空き時間にフードデリバリーブランドを導入し、飲食店スタッフがデリバリーメニューを調理した上でUber Eatsなどを通じて顧客に届ける。たとえば夜だけ営業をしている焼肉屋や居酒屋が、お昼の空き時間を使って“副業的に”ゴーストレストランを経営するようなイメージだ。

デリバリー用のメニューは冷凍もしくは冷却(チル化)された状態で飲食店に届き、電子レンジで温めたりなど簡単な調理だけで完成するため飲食店側の負担が少ないのが特徴。飲食店は空き時間で新たな収益源を作れる。

一方のデリバリーブランドにとってはフランチャイズ形式を採用しているため、自社ブランドの店舗をコストを抑えながらスピーディーに拡大できるのがメリットだ。各飲食店が自社のクラウドキッチンとしてデリバリー拠点の役割を果たすため、複数のエリアに一気に進出することもできる。

CLOUD FRANCHISEは両者をマッチングする立場だが、マッチングといってもWeb上でプラットフォームを提供している訳ではなく、現在は1つ1つの飲食店とブランドを手動で繋いでいる。販売データやUber Eatsなどのプラットフォーム上で公開されているデータを分析し、エリアごとの特性などを見極めた上で、どの飲食店にどのブランド(メニュー)を導入するかを決めているそうだ。

「キッチンスペースや冷蔵庫などの大きさなど飲食店側の設備の特徴に加えて、たとえばカレーがよく売れるエリアなどエリアごとの特性も踏まえて提案している。あくまで本業に支障が出ない範囲という前提で、最初はだいたい5つのメニューで毎日20食の注文が入るようなイメージで導入してもらっている」(CLOUD FRANCHISE代表取締役の桑原竣亮氏)

年内に100店舗以上の出店目指す

現在ベースとなっている副業キッチンプランではCLOUD FRANCHISEが仕入れ費用(ブランド側からメニューを購入する費用)を負担するため、飲食店側の初期費用や手数料などはゼロ。実際に売れた金額の内15%が飲食店に支払われ、残りの85%からデリバリープラットフォームの手数料や仕入れコストを引いた金額が同社の収益となる仕組みだ。

仮に月の売上が100万円だったとすると、飲食店に入ってくるお金は15万円になる計算。これが大きいか小さいかは飲食店ごとによっても捉え方が変わってきそうだけれど、ある店舗では撤退を検討しているタイミングでサービスを導入したところ「導入初月で100万円の売上を達成できたために運営の継続に繋がった」事例もあるとのこと。

桑原氏の話では特に小規模な飲食店や一等地から少し離れた店舗などには相性が良い反面、大規模な駅近くの一等地などの飲食店とは合わずメインターゲットにはならないという。

現時点では究極のブロッコリーと鶏胸肉など複数のブランドと都内を中心に約10店舗の飲食店が集まっている状況。今回の資金調達では主に人材採用を強化し、飲食店数を年内に100店舗以上へ拡大することを目指す。

CLOUD FRANCHISEは2018年4月の創業。代表の桑原氏が最初にビジネスに触れたのは10代の頃にライフネット生命保険創業者の出口治明氏らの講演会を企画・運営したこと。その後インスタグラマーのアパレルブランド作りを支援する事業を立ち上げ、売却を経験した。

これまでの事業を通じて人のブランドやIPを適切な形で届けることができれば多くの人に喜んでもらえることを体感したそうで、それが今回の事業にも繋がっている。「強いIPを最大限活かせる事業を考えた時に行き着いたのがフランチャイズのモデル。中でも1番参入しやすいと感じたのがフードデリバリーだったため、クラウドキッチンやゴーストレストランの文脈からスタートした」(桑原氏)

HPがXeroxによる敵対的買収回避のために数千億円規模の配当を株主に提案

HP(旧Hewlett Parckardから分割した、もう1つの上場企業であるHewlett Packard Enterprise、略称HPEと混同しないように)は、自分よりずっと小さなXeroxによる敵対的買収を回避すべく、投資家に数十億ドル(数千億円)という配当を約束しようとしている。

この報酬を手にするために投資家がすべきなのは、買収を拒否することだけだ。

株主宛ての書簡で、HPはXeroxの提案を「無責任な資本構造」を引き起こす「偽りの価値交換」であり「誇張されたシナジー」を謳っていると指摘している。独立性が維持された場合にHPが株主に約束しているものは以下の通りだ。

  • 会計2020~2022年度(参考までにHPの2020年Q1は2020年1月31日締めだった)の期間に約160億ドル(約1兆7600億円)の「投資利益」を得られる。同社によるとこの数字はHPの現在の時価総額の「約50%に当たる」。TechCrunchは、このニュースが「知られた後」、株価が上昇する前に、この評価を正しいと認識している。
  • この投資利益はいくつかの部分からなる。まず、会社の株式再取得プログラムを150億ドル(1兆6550億円)に増額する(従来は50億ドル、日本円で5521億円)。具体的には、HPは「今後12カ月間に少なくとも80億ドル(約8834億円)の株を買い戻す」意志があることを会計2020年度の株主総会後に表明している。同社はさらに「長期的資本利益の目標をフリーキャッシュフロー100%」とし、株式購入および配当支払いの増額を可能にする(HPは1株当りの配当増加を少なくとも売上に連動させる意志がある)。

上の説明が外国語のように感じたならば、少々噛み砕いてみよう。HPが投資家に対して言っているのは、会社が生み出すキャッシュは「すべて」株主への報酬に使うつもりだということだ。これは、買い戻し(将来の利益を少ない株数に濃縮し、保有株式の価値を高める)および配当(HPの稼ぎに応じて株主への支払いを増やす)のかたちで行われ、その一部はコスト削減(現金生成と利益の増加)によって賄われる。

つまり、HPは以下のように言っている。

「どうか私たちをXeroxに売らないでください。そうしてくれたら、全力を尽くしてみなさんにお金を差し上げます」

HPの株価は本稿執筆時点(米国時間2月26日午前1時)で6%上がり、旧HPの消費者向けスピンアウトである同社の時価総額はほぼ340億ドル(約3兆7537億円)になった。投資家が会社のために何を選ぶのかは結果を待つしかない。そこで、なぜこうなったのかを考えてみたい。

今日までの道のり

どうしてこうなったのか、不思議に思うだろう。すべては2019年の秋、XeroxがHPと合併したいと表明し、270億ドル(約2兆9808億円)で自分よりずっと大きい会社を買う提案を出したことから始まった。 当時TechCrunchはこう書いた

この買収話で不思議なのは、ゼロックスの時価総額が80億ドル(約8700億円)をわずかに超える程度なのに対し、HPは290億ドル(約3兆1500億円)とそれよりはるかに大きいこと。いわば、カナリアが猫に襲いかかるような話だ。

HPは敵対的買収のアイデアが始めから気に入らず、すぐにいがみ合いが始まり、両社は公然と論争した。HPの取締役会は全会一致でXeroxの提案を拒否した。HPは買収提案の金銭的基盤が「極めて条件が多く不確定」であると指摘した。さらに同社は、提案の攻撃的な性格にも不快感をおぼえ、Xeroxは「適切な情報を与えることなく楽観的な条件の組み合わせを強要しようとしている」と語った。

そのわずか1日後、Xeroxは反論し、同社は取締役会を迂回するために買収をHP株主に直接提案しようと、公開文書に「我々はHP株主と直接交渉し、HP取締役会が正しい決断を下し、この魅力的な機会を追求するよう協力を求めるつもりだ」と書いた。

2020年に入っても騙し合いは続き、1月にXeroxは、先の同社の提案を拒否した取締役全員を置き換える都合のよい取締役候補を推薦した。そして最近、株主に買収賛成の票を投じさせるべくXeroxは提示額を340億ドル(約3兆7537億円)、1株当り24ドル(約2649円)へと吊り上げた。

XeroxはHPの大株主と会話を続けていると書いていて、これがHPの注意を引いたとみられ、その結果HPの直近の株主への提案は、断るのが難しいほど魅力的なものだった。HPの次期株主総会は4月に行われ、そこで最終的な顛末が決まる。

関連記事:HP買収を諦めないゼロックスが提示額を1株24ドルに引き上げ

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

外国人労働者のビザ取得をサポートするone visaが「GovTechカオスマップ 2020」を公開

オンラインによるビザ申請、管理支援サービス「one visa(ワンビザ)」を提供するone visaは2月26日、「GovTech(ガブテック)」に関連した領域におけるサービスのカオスマップを公開した。

one visaいわく、「政府(Government)」と「技術(Technology)」を組み合わせたGovTechという造語が日本で使われ始めたのは2013年ごろ。同社はGovTechを「行政と市民・事業者の利便性を高めるテクノロジー」と定義している。

GovTechと類似、またはクロスーバーしているXTech領域には、CivicTech、RegTech、LegalTechなどがある。CivicTechは市⺠の視点、RegTechは規制の視点、LegalTechは法律の視点、といった具合に、それぞれ視点が異なっている。詳しくは一般財団法人日本情報経済社会推進協会の資料を参考に。

今回のカオスマップでは、one visaなどビザ申請や管理を支援するサービスに加え、行政手続きの効率化を目指す「Graffer(グラファー)」、AI-CON(アイコン)シリーズで知られるGVA Techの「AI-CON登記」、cotobox(コトボックス)によるオンライン商標登録サービス「Cotobox」から、政治コミュニティアプリの「PoliPoli(ポリポリ)」まで幅広く紹介されている。

one visaは2018年12月、学習機会提供、ビザ取得、定住支援までを一気通貫で行う「海外人材来日・定住支援サービス」をスタート。ビザ取得時に収集する情報を基軸とした信用スコアリングを行い、海外人材に独自の与信を付与し、クレジットカードの発行や家賃保証など、これまで外国籍の人材による利用が困難だった金融サービスの提供を目指している。

同社が提供するような外国籍人材の在留資格に関連するサービスも、「近年の在留外国籍人材の増加、それに伴う手続きの煩雑さから、今後ますます需要が高まることが予想される」(one visa)。

Web上のすべての求人から個々人に合うキャリアを提案、LAPRASが今夏に新サービスローンチへ

真剣に転職を考える際、多くの人が登録するであろう転職エージェントサービス。まずはキャリアアドバイザーとの面談を通じて具体的な条件や自身の志向性をクリアにした後、候補先となる企業の提案を受けるのが通常の流れだ。

一方でHR Tech企業のLAPRASが開発に乗り出した「Matching Intelligence」はこの“キャリアエージェントによる面談”をシステム化した上で、Web上に公開されている求人情報を集め、その中から個人個人に合った求人を提案する。いわば同社が磨いてきたテクノロジーとデータを軸にキャリアコンサルティングの仕組みをアップデートしようという試みだ。

LAPRASでは2月26日、同社にとって新事業となるMatching Intelligenceの開発を本格化し、今夏を目処にローンチする計画であることを明らかにした。

機械学習とクロリーング技術でキャリアコンサルティングを自動化

TechCrunch Tokyo2017のファイナリストでもあるLAPRAS(当時の社名はscouty)は、個人向けのスキル可視化サービス「LAPRAS」や企業向けのヘッドハンティングサービス「LAPRAS SCOUT」など人材領域で複数のサービスを展開するスタートアップだ。

特徴の1つはオープンデータを収集するための「クローリング技術」。個人向けのLAPRASではエンジニアの情報を集めるのに使っていたこの技術を、Matching IntelligenceにおいてはWeb上の求人情報を収集するのに転用。集めてきた求人をLAPRASのポートフォリオやWebアンケートの結果と照らし合わせ、機械学習を活用してマッチングする。

サービスの流れ自体はシンプルだ。転職を考えているユーザーはまず、オンラインのアンケートに答える。たとえば転職を考えた理由や企業を選ぶポイントの優先順位、希望の勤務形態、興味のある分野、希望年収、好みのカルチャーなど。これはキャリアアドバイザーとの面談でよく聞かれる内容をアンケートに落とし込んだものだと思ってもらえればいい。

Matching Intelligenceではこの回答結果とLAPRASに蓄積されたスキルや志向性データを解析し、Web上の求人情報の中から相性が良さそうなものをピックアップして提案する。ユーザーが提案内容に対してフィードバックを行うことで、その結果がどんどん学習されて提案精度が向上する仕組みだ。

今回本格的に開発に着手する前段階として、LAPRASでは社内でプロトタイプを作り仮説検証を行った。複数のエージェントに協力してもらって標準的な質問事項を洗い出し、共通するものや重要なものを抽出。Googleフォームでアンケートを作り社内エンジニアに回答してもらった上で、実際にクローリングしてきた求人情報を1人数件ずつ提案し、その会社に面談に行きたいかどうかをチェックしてもらったという。

LAPRAS代表取締役の島田寛基氏によると1回目の提案時には面談に行きたい率の平均が約37%だったが、複数回のフィードバックを繰り返すことで最終的に約60%ほどまで精度が改善したそう。磨きこめばプロダクトとして世の中に出せる手応えもあったため、力を入れて開発に取り組むことを決めた。

今後は社外での実証実験を経て、夏頃のサービス化を予定しているとのこと。まずはLAPRAS上で転職意思が高いと表明しているユーザーに対してサービス内でアンケートを実施し、企業のレコメンドやマッチングを進めていく計画。従来のエージェントは担当者が1人ずつ面談を行っていたが、この工程にテクノロジーを入れることでマッチングの効率や精度をあげていく狙いだ。

最も自分に合った求人情報が提案されるサービス目指す

これまでLAPRASではLAPRAS SCOUTやフリーランス・副業エンジニア紹介サービスの「LAPRAS Freelance」を通じてエンジニアと企業のマッチングを図ってきたが、現状では企業側からアプローチをするものが中心。ユーザー側からアクションする手段は自身の転職意欲を示すことくらいに留まる。

要はスカウトサービスであるが故に企業側に依存する部分が多く、特に転職意欲が高まっている個人のニーズを十分に満たせていない側面もあった。また企業の中には採用活動をサポートしてくれるエージェントの仕組みを求める声もあり、スカウトサービスとエージェント型のサービスの両方が必要との結論に達したそうだ。

LAPRASによると、従来の転職エージェントサービスでは自社が契約している企業の採用募集しか取り扱わないため、選択肢が限定され求職者にマッチした募集が他にあっても紹介できないことがあった。加えて多くのサービスが成果報酬モデルを採用していることもあり、一部では本人の志向性を考慮せず給料が高い企業に求職者を押し込むようなエージェントも存在する。

Matching Intelligenceが目指すのは機械学習による解析とクローリング技術によってこれらの課題を解決し「ミスマッチな転職」をなくすことだ。

最終的には「提案の精度」が大きなポイントになるが、個人のスキルや志向性についてはLAPRASで蓄積してきたデータを活かせるのが強み。もう一方の求人情報に関しても“求人票には書かれていない”企業のフェーズやカルチャーなどの情報を補完的に収集することで、マッチングの精度を高めていくという。

「やりたいことはオープンデータや(Webアンケートなどの)クローズドデータを活用しながら、その人に合った求人情報をマッチングすること。いわゆるAIエージェントの概念自体はすでに存在するが、マッチングの部分を研究していくことで最も良い提案ができるサービスを目指す」(島田氏)

Linuxエッジデバイスへの無線アップデート提供を狙うDeviceplane

Y Combinator Winter 2020クラスのメンバーであるDeviceplane(デバイスプレーン)は、エッジで運用されているLinuxデバイスの管理、監視、および更新を行うためのオープンソースツールセットを開発している。

「私たちは、ネットワークの接続性、SSHアクセス、リモートアップデートの調整と展開、ホスティング、アプリケーションの監視とアクセス、セキュリティ制御など、すべての企業が直面している難しいインフラストラクチャの問題を解決します。これは完全なオープンソースで、Apacheライセンスの下で利用可能です。自分でホストすることも、ホストされたバージョンを実行することも可能です」と、同社の創業者でCEOのJosh Curl(ジョシュ・カール)氏はTechCrunchに語った。

彼はこのシステムがロボット、家電、ドローン、自動運転車、さらには医療機器などの、さまざまなハードウェア上で動作することを期待している。

ソフトウェアエンジニアリングのバックグラウンドを持つカール氏は、興味を持ったあと、ほとんどの企業が自社開発のソリューションを採用していることに気がついた。そして彼は、この問題を調査した後、こうしたデバイスを管理、監視、そしてアップデートするために必要なインフラストラクチャ資源のセットは、業界を問わずそれほど変わらないことを発見したと述べた。

無線(Over-the-Air、OTA)アップデートは、エッジデバイスの主たる懸念事項であるデバイスを安全に保つことに対して、大きな部分を占める。「セキュリティは挑戦的であり、そのセキュリティの中核の1つは、ただアップデートできる能力があるか否かにかかっています。なので、動いているものに不具合を起こすことを恐れて企業としてアップデートをためらったり、アップデートを行うための正しいインフラストラクチャを持っていなかったりする場合には、ますますアップデートに対して慎重になってしまい、結果として開発スピードが遅くなってしまいます」とカール氏は語る。

顧客はDeviceplaneのAPIへ、Wi-Fi、携帯電話回線またはEthernet経由で接続することができる。他者がそれを悪用するのではという懸念に対しては、カール氏は彼らのソフトウェアが各デバイスになりすましが難しいユニークなIDを割り当てていると答えた。

「デバイスにはDeviceplaneからIDが割り当てられ、このIDがDeviceplaneのAPI呼び出しを行うことを許可します。このIDへのアクセスキーはデバイスにのみ保存されているため、このデバイスに物理的にアクセスしない限り、デバイスのなりすましを行うことはできません。

「仮に誰かがこのIDになりすますことができたとしても、彼らは悪意あるコードを対象デバイス上に展開することはできません。デバイスは、自身で実行しているソフトウェアを制御するためのアクセス権を決して持つことはありません。これは、開発者がデバイスへのアップデートをプッシュすることによってのみ行うことができるのです」とカール氏は説明した。

同社は、ホストされたバージョンとインストールされたバージョンのソフトウェアの両方をオープンソースとして提供する予定であり、彼はそれが重要だと考えている。彼は、より複雑なインストールを行う企業を支援することで収益を上げることを望んでいるが、ソフトウェアをオープンソースとして提供することで、開発者の関心を高め、プロジェクトを中心としたコミュニティの構築に役立つと考えている。

YCへの参加については、カール氏は過去にプログラムを経験した友人がいて、彼にも参加を勧めたのだと言う。カール氏は、そのコミュニティに参加することを、彼のビジネスを構築する手段の1つだと考えている。「YCネットワークに入ること、そして将来的にはそのネットワークを活用できることに興奮しています。YCは、これまでにDeviceplaneの顧客になることができる多くの企業に投資してきました、そのことは私たちの前進を加速してくれることでしょう」

カール氏はその時点での総ダウンロード数を把握していなかったが、まだ会社を設立しようとしている初期段階のスタートアップだ。同社は厄介な問題の解決を支援しながら、関心を引くためにオープンソースモデルを使用している。

トップ画像クレジット: Busakorn Pongparnit / Getty Images

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(翻訳:sako)

新型コロナウイルス感染拡大懸念でNY株価が全面安、テックやSaaSで下げ大きく

欧州やアジア、中東で拡大している新型コロナウイルス感染の影響を懸念し、米国時間2月24日の米国株式市場は大きく下げて始まった。中でもテック株の下げ幅が顕著だ。株安の原因は明らか。週末に欧州や中国以外のアジアの国での患者数が急激に増え、ウイルス拡散を抑制するという望みが打ち砕かれることにりそうだからだ。

投資家らはグローバルでの流行と経済への影響を注視していることから、感染拡大は市場を揺るがした。中国は今週後半にも主要な経済指標を発表する見込みで、その内容は芳しいものではないとエコノミストはみている。

The Guardian(ガーディアン)の報道によると、中国の習近平主席は週末にコロナウイルスは「経済と社会にかなり大きな影響をもたらした」と話した。「中国政府はすでに中国全土の事業所へのダメージを最小限にするための方策をとっている」とも述べた。

一方、欧州では国際通貨基金(IMF)専務理事のKirstalina Georgieva(クリスタリナ・ゲオルギエヴァ)氏は「振興マーケット経済がコロナウイルスによって直面するかもしれない打撃を和らげるために、IMFは対策を講じる用意ができている」と話した。「COVID-19封じ込めと経済への影響を抑制するにはグローバルの協力が不可欠で、流行が長引き広範にわたればなおさらだ」とガーディアン紙にはある。

そうした警告が米国の株式市場を揺るがした。ダウ工業株30種平均は大きく下げて始まった。2月24日朝の主要インデックスは以下のとおりだ。

  • ダウ・ジョーンズ工業指数:マイナス2.92%、または846.17ポイント
  • S&P 500:マイナス2.73% またはマイナス91.18ポイント
  • ナスダック:マイナス3.57%またはマイナス336.69ポイント

テック業界をみると、我々のお気に入りのSaaSやクラウドの指数はマイナス2.98%だ。SaaS株は2月24日のマーケットにおいて最も価値のある公開株。そのため他の株に比べて上下する幅が大きい。明らかに本日は価値を下げていて、これはこの分野にとってかなり強力なサインになっている。

株価も本日は全面安だろう。これは今年上場を考えているAsanaAirbnbなどの企業にとって、そしてSquareやHP、Box、Salesforceなど今週決算を発表する企業にとっても悪いニュースだ。マーケットが不調なときに上場したい企業はない。売り出し価格を決めるのが難しくなり、圧力がかかって新規株式公開会社が受け入れ難いバリュエーションになる。決算を発表する企業にとっては、悲観論や恐怖が渦巻くマーケットでは注目を集めることはできない。

商況だけで済む話ではない。部品調達で中国に頼っているメーカーは部品供給不足に陥ることが予想され、短期的に製品やサービスの販売に影響を及ぼすかもしれない。中国にある工場は多くの労働者が隔離されているために閉鎖されていて、それは世界経済に大きな影響を及ぼす。状況が変わればさらに大きな影響が出てくるだろうが、少なくとも今週、全体的に悪い方向へとスタートを切った。

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(翻訳:Mizoguchi

家電の“お試しレンタル”で拡大、1500種類のモノをレンタルできる「Rentio」が10億円調達

カメラ・家電のレンタルサービス「Rentio」を手がけるレンティオは2月25日、複数の投資家からのエクイティ出資と、りそな銀行などからのデットファイナンスを合わせて総額で10億円を調達したことを明らかにした。

レンティオにとって4度目となる今回の資金調達ではグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)、W ventures、SMBCベンチャーキャピタル、コンビの4社が投資家として参画。GCPとW venturesに関しては前回からの追加投資となり、そのほかANRI、有安伸宏氏、East Ventures、メルカリ、アドウェイズが既存投資家に名を連ねる。

レンティオでは調達した資金を活用して人材採用を強化するほか、在庫の拡充やマーケティングへの投資、物流面のアップグレードを進めていく計画だ。

イベント時の短期レンタルから家電のお試しまで幅広い用途に対応

Rentioはカメラや家電など1500種類以上のモノを扱うレンタルプラットフォームだ。

一口にモノのレンタルと言っても用途は幅広い。Rentioには3泊4日からモノを借りられる短期のレンタルに加えて、月額制の長期レンタル、一定期間使用し続けると商品が手に入る「もらえるレンタル」、追加料金を支払うことで短期レンタルした商品を購入できる「そのまま購入」など複数の選択肢が用意されている。

旅行や運動会など特別な日に一眼レフを借りたい時、もしくは高価な家電を購入する前に“お試しレンタル”したい時には短期のレンタルがもってこい。使ってみた結果、実際に欲しいと思ったらそのまま購入してもOKだ。

家電のお試しレンタルという観点では、一部の商品はもらえるレンタルにも対応する。これは気になる家電を実際に数ヶ月間使ってみてから、その商品を返すか、もらうかを選択できるサービス。たとえばロボット掃除機のルンバの場合、最低3ヶ月使えばいつでも返品ができ、12ヶ月間使い続ければ商品が手に入る。昨年12月からは大物家電(LG styler)の提供も始めた。

家電の分割払いに近しいが、使ってみて気に入らなければ返却できるのが最大のポイント。そのためレンティオ代表取締役の三輪謙二朗氏は「途中で返せる(やめれる)分割払い」という表現もしていた。

また「ベビーカーを1年間だけ使いたい」など中長期に渡って使い続けたいモノの場合は月額プランとの相性が良い。たとえばベビーカーにおいては月額3000円で複数の商品を乗り換えられるサブスク型のサービスも提供。子どもの成長に合わせて適切なベビーカーを使い分けることができる。

2015年のサービスローンチ時は短期レンタルのみだったが、商品を拡充するとともにレンタルの選択肢を広げながらサービスを拡大してきた。現在Rentioではカメラや家電を中心に1500種類以上、約2万点の在庫を保有し、累計の注文件数は20万件を突破。月商は1億円を超え、毎月1万3000〜4000件の商品を貸し出すほどの規模に成長している。

「買う前に1回試したい」ニーズを掴み成長

面白いのが「家電メーカーとの関係性の変化」だ。メーカーの視点だとレンタルをすることで購入者の数が減ってしまう恐れもあり、三輪氏の話でもサービス開始当初はそのような反応が多かったそうだ。ただ共同で取り組みを進めていく中で「レンタルやサブスクが最終的にはメーカーのプラスになり、同じ方向を向いてやっていけることが実証できてきた」という。

たとえばある家電メーカーのイヤホンの例を紹介しよう。家電製品を買うか検討した後、実際に購入に至るのはごく一部の消費者にすぎない。このスピーカーの場合はCVRにするとだいたい3%ほど、100人のうち3人が実際に購入するようなイメージだ。

そこで残りの97%に対してメルマガなどで「レンタル」の選択肢を提示してみたところ、約30%がレンタルを体験。さらにそのうちの30%が商品を買ってくれたという。

「商材によっても違いはあるが、レンタルは購入の邪魔をするものではなく、購入のチャンスを広げてくれる存在だということを示せてきている。ユーザーにとっても『買う前に1回試しに使ってみたい』というニーズは強い。Rentio上でも購入検討時のお試しレンタルの割合がどんどん増えていて、実際に試して納得した上で商品を買うという消費行動が広がりつつある」(三輪氏)

特に高単価で付加価値の高い製品や、使ってみないと何とも言えない製品の場合はお試しニーズが強い。以前TechCrunchでも紹介したルンバのサブスク(返せる分割払いタイプ)もまさにその一例だ。ルンバの場合は家具やレイアウトによっても使い勝手が変わってくるので、自宅で使ってみて初めてわかることも多いだろう。

それだけにいきなり数万円を払って一か八か購入するというのは「ハードルが高い」と感じる人もいるはずで、「合わなければ返せる」という選択肢の存在は大きい。それがきっかけとなり、これまでルンバの購入経験がないユーザーにもアプローチできているそう。ヒアリングの結果ではほとんどのユーザーがそのまま使い続けたい(購入したい)と答えたという。

レンティオでは特にここ1年ほどメーカーと連携しながら「試してから買う」選択肢を広げている。もらえるレンタルに加え、昨年9月にはそのまま購入をスタート。レンタル後にそのまま購入する割合は今のところ平均で数%だが、商品によっては10〜15%に及ぶものも出てきた。

並行して十数のメーカーとはレベニューシェアモデルの取り組みも実施。購入されにくいタイプの商品であっても、レンタルされるごとにメーカーに収益が分配されるモデルも作っている。

強固なオペレーション武器にさらなる事業拡大へ

レンティオは2015年4月の創業。楽天出身の三輪氏が、EC事業を展開するベンチャー企業を経て立ち上げた。

ちなみにレンタル事業を選んだきっかけの1つは、三輪氏が友人の結婚式でお笑い芸人のたむらけんじさんのモノマネをするために「獅子舞とサングラスとふんどしをレンタルした」こと。1回しか使わないため購入ではなくレンタルを選んだが、同じように特別な機会のためにモノをレンタルしたいという需要はあるのではないかとRentioを始めたそうだ。

レンティオ代表取締役の三輪謙二朗氏。同社のオフィスは物流倉庫も兼ねていて、Rentioで扱う商品も多くがここに保管されている

当初は一時的なモノの需要にフォーカスした3泊4日の短期レンタルサービスとしてスタート。2015年10月にANRIから出資を受けて以降、複数回の調達を実施しながら着々とサービスを磨いてきた。

現在メーカーと連携した新たな取り組みに次々とチャレンジできるのも、当初から行ってきた短期レンタルで安定的な基盤を築けているからこそ。それを支えるのが裏側の強固なオペレーションだ。

レンティオでは商品管理システムを自社で開発し、各在庫ごとに「いつ、どのようにレンタルされてきたのか」「これまでにいくら利益を生み出してきたのか」を全て細かく把握できる仕組みを構築。たとえば旧型のモデルなどでも値段を変えたり、サイト内での露出の仕方を調整することで不稼働在庫を減らす工夫を重ねてきた。その結果として現在でも月間の在庫回転率は90%を維持している。

「自分たちにとっての在庫回転率はホテルの空室率と同じでとても重要な指標。眠っている資産をいかに減らせるかを常に考えている。単品管理ができているから、商品が足りなくなった段階で仕入れをするので仕入れの無駄も減らせる。数値を見ながら値段や露出場所を工夫していくことで、商品によっては古いモデルでも新型のモデルと同じくらい借りてもらえている」(三輪氏)

レンタルサービスにおいては在庫回転率と同様に盗難率も1つのポイントになってくるが、こちらも社内の独自DBや自動判別の仕組みを用いて1%以下に抑えることができているという。

今後レンティオではこの基盤を軸として、さらなる事業拡大を目指していく計画。冒頭でも触れた通り組織体制の強化を進めるほか、商品の拡充や物流面・マーケティング面にも投資をする。

「今まではモノを使いたいと思った時、『利用するために所有する』か『我慢する』か2つの選択肢しかなかった。レンティオとしてはその間の選択肢となるようなサービスを提供していくことが目標。その1つとして『試して買う』ことが当たり前になれば、本当に良い商品だけが売れるようになり、結果として良い製品を作っているメーカーがしっかり評価されることにも繋がる。そういった世界観を広げていきたい」(三輪氏)

Petnetのスマート自動給餌器が1週間停止、同社の顧客対応にも大きな不満の声

Petcoなどの投資家が支援するスマート自動給餌器のPetnetで最近、第2世代製モデルのSmartFeedersにおける1週間のシステム障害があった。このスタートアップのカスタマーサービスは、SmartFeedersとアプリの機能が回復したと先週末にツイートしたが、Petnetの不十分な対応は多くの顧客を失望、あるいは混乱させ続けている。

Petnetは米国時間2月14日、同社の第2世代モデルのSmartFeedersに影響するシステム障害を調査中であると、初めて発表した。同社のツイートによると、SmartFeedersは予定通りに餌やりができているとしているが、何人かの顧客は給餌できていない、あるいはスケジュールどおりに給餌しなかったと回答した。

2月19日、Petnetは「サービス停止に関して、サードパーティのサービスプロバイダと緊密に連携して対応している」と述べ、2月22日にSmartFeedersがオンラインに復帰すると発表した。

この間、顧客はTwitterやFacebookでの質問に対する同社の回答不足に、不満を述べた。同社のサポートメールと、CEOを務めるCarlos Herrera氏(カルロス・エレーラ)氏へのメッセージを送ることができなかった。

TechCrunchもメールで連絡を取ろうとしたが、送信失敗の通知が届いた。彼らのツイッターアカウントに送ったメッセージも返信がなかった。同社には再度、コメントを求めている。

Petnetは2020年1月にも、同様のシステム障害を経験している。

Crunchbaseによれば、Petnet.ioは2012年の創業以来、Petcoが率いるシリーズAを含めて1490万ドル(約17億円)を調達している。

Petnetによるサービス停止解消発表前の週末にTechCrunchに送られた声明の中で、同社の関係者は「我々PetcoはPetnetの小規模で受動的な投資家だが、当社は同社の運営には関与しておらず、また現在起こっているシステム停止についての情報も持っていない」と述べている。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

南米の投資家の間でホテル投資が人気

南米の大手ベンチャーキャピタル投資家たちの一部が、現在ホテルチェーンを支援している。

実際、コロンビア最大のホテルチェーンであるAyendaが、新しい調達ラウンドで870万ドル(約9億7000万円)を調達した。

Kaszek Venturesが主導したこのラウンドは、コロンビアおよび周辺地域における、Ayendaの継続的な拡大をサポートすることになる。このホテルチェーンは、既にコロンビア国内で150のホテルを運営しており、最近の発表によればペルーにも進出を果たした。

資金は、Kaszek VenturesおよびIrelandia Aviation、Kairos、Altabix、そしてBWG Venturesなどの戦略的投資家たちから調達した。

2018年に設立された同社は、現在コロンビア内にそのブランド名の下で4500室以上を運営し、国内最大のホテルチェーンとなっている。

ベンチャーファームによる実店舗チェーンへの投資は、北米よりも新興市場ではるかに一般的だ。Ayendaへは、ソフトバンクグループがインドのホテルチェーンOyoに対して行った大きな賭けや、昨年末にLvYue Groupに対してTencent(テンセント)、Sequoia China、Baidu Capital、そしてGoldman Sachsたちが投資した(発表によれば)「数億ドル規模」(数百億円規模)の投資行動を反映したものだ。

「私たちは大きな産業を再定義しようとする企業を探しているのですが、そこで出会ったのがAyendaだったのです。彼らはこの地域で、前例のない方法でホテル業界を変えようとしているのです」と語るのはKaszek VenturesのパートナーであるNicolas Berman(ニコラス・バーマン)氏だ。

Ayendaは、フランチャイズシステムを通じて独立したホテルと連携し、ホテルの稼働率とサービスを向上させている。ホテルは、チェーンへの参加を申請し、営業開始の承認を受ける前に、最大30日間の審査プロセスを経る必要がある。

アイルランド航空のマネージングパートナーであるDeclan Ryan(デクラン・ライアン)氏は、次のように述べている。「最高のコストパフォーマンスの下に幅広いホテルの選択肢を提供することで、利用客はより頻繁に移動し、経済を活性化させてくれます」。

同社は、2020年にそのホテルに、100万人以上のゲストを迎えられることを期待している。客室は、アメニティと24時間体制のカスタマーサポートチームを含め、1泊20ドルで提供されている。

Oyoの話は、ホテルチェーンへのベンチャー投資拡大を検討している企業にとって、警告を発する物語かもしれない。かつて高く持ち上げられたこの企業は、私たちが書いたように、厳しい批判の対象となってきた。

New York Times(NYT)は、インドのテクノロジーコミュニティで注目を集めている、ハイテク採用の低予算ホテルチェーンOyoに関する詳細なレポートを公開した。NYTの記事では、Oyoは無認可の部屋を提供し、その感心できない慣行の中でも特に、トラブルを抑止するために警察官を買収していたと書かれている。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドからの数十億ドルに支えられたOyoが、インド版WeWorkになるかどうかが真の懸念材料である。インドのスタートアップエコシステムは、r成長しシリコンバレーの競合相手とぶつかるようになるにつれて、多くの障壁に直面する可能性がある。

トップ画像クレジット:inxt /Shutterstock

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(翻訳:sako)

サンフランシスコやマウンテンビューをインターネット上に構築する「リモート」アクセラレーターのPioneerとは?

ベイエリアの創業者達はリモートワークに取り憑かれている。シリコンバレーでは人材獲得に必要なプレミアムが暴騰し、事業のコストが急激に増加しているからだ。リモートワークを利用すれば、そうしたプレミアムを払わずに、資金や事業機会のネットワークにアクセスできるかもしれない。

Daniel Gross(ダニエル・グロス)氏は、シリコンバレーで得られる経営資源について誰よりも深く理解している。エルサレム生まれの同氏はY Combinator(ワイコンビネーター)の初期の成功例だ。YCに参加したAIスタートアップは、23歳のときApple(アップル)に4000万〜6000万ドル(約44億円〜66億円)で売却した。グロス氏はアップルで機械学習担当のディレクターを務めた後、YCにパートナーとして復帰した。

28歳のグロス氏は現在、自身のスタートアップであるPioneer(パイオニア)とともに、「リモート」(働く場所に関係なくさまざまな経営資源にアクセスすること)の未来のために、スタートアップアクセラレータモデルの改良に取り組んでいる。同氏はMarc Andreessen(マーク・アンドリーセン)氏とStripe(ストライプ)から支援を受け、シリコンバレー以外ではほぼ手に入らない資金調達手段や人材ネットワークへのアクセスを創業者に提供したいと考えている。

「ソフトウェアが世界を食っているように、『リモート』も大企業が形成される過程だけでなく、おそらくベンチャーの資金調達でも地球を食い尽くそうとしている」とグロス氏はTechCrunchのインタビューで語った。「Pioneerが行っている実験は、サンフランシスコやマウンテンビューといった都市をインターネット上に構築する試みだ」。

マーク・アンドリーセン氏はPioneerに初期から投資している

その高い目標を達成するために、スタートアップを立ち上げてから18カ月間でグロス氏が手を加えるべきことは多岐にわたった。プログラムの方式をReddit(レディット)のような賞金をかけたオンラインコンテストから「フルリモートスタートアップジェネレーター」と同氏が呼ぶものに変更し、創業者が会社設立後にリモートでY Combinatorに応募したりPioneerから資金を調達できるようにした。

「Pioneerは自然発生的にオンラインアクセラレーターの一種として活用され始めた」とグロス氏は言う。「それを新たな業務として立ち上げることを決心した。ゆくゆくは会社になるような取り組みに対し、資金を提供する仕事だ」。

Pioneerはすでに100人以上の創業者を支援している。創業者のソリューションには、リモートで働くメンバーで構成されるチームのための製品であるThere、デスクトップアプリジェネレーターのToDesktop、ソフトウェア検索エンジンのMetacodeなどがある。

Pioneerはこの取り組みを通して、さまざまな経営資源にアクセスしにくい国や地域の創業者らにその機会を提供したいと考えている。だが、シリコンバレーの他の投資家と同様、同社が支援する女性創業者の数は男性より少ない。同社のブログによると、同社が資金支援した起業家のうち女性は15%未満だ。

「当社は過小評価されている人々を探し出し、資金や助言を提供するためのエンジンだ。その多くは女性だと思われる。我々は常に女性創業者の意識を高める方法を考えている。当社はコミュニティと協力して女性の地位向上に取り組んでいる」とグロス氏はメールで答えた。「FrontのMathilde Collin(マチルド・コリン)氏やShippo(シッポ)のLaura Behrens Wu(ローラ・ベーレンス・ウー)氏のよう創業者が世界中に存在する可能性があり、当社はそうした創業者を発掘したいと思っている」。

Pioneerのリモートプログラムにおけるライブストリームディスカッションの1コマ

Pioneerのこうした動きの背景にはリモートワークとコミュニケーションツールの台頭があるが、真の要因はアーリーステージ向け投資の競争激化だ。メガベンチャーキャピタルファンドは人気のスタートアップへのプレシード投資を巡りしのぎを削っている。Y Combinatorに参加するスタートアップのサイズも大型化しているため、アクセラレーターが入り込む余地がほとんどない。アーリーステージのスタートアップ投資の世界が混み合ってくるにつれ、投資家はよりクリエイティブになる必要がある。グロス氏と彼を支援する投資家にとって、Pioneerはパイプラインの早い段階でディールフローを捉える機会でもある。

グロス氏自身のエンジェル投資家としてのポートフォリオには、GitHub、Figma、Uber、Gusto、Notion、Opendoor、Cruise Automation、Coinbaseなど、そうそうたるスタートアップが名を連ねる。

グロス氏によると当初は、Pioneerのプログラムに参加した創業者が資金調達に進むと、同社は最大10万ドル(約1100万円)を投資する権利を持っていた。だが会社設立に至るのは受賞者のわずか30%だった。Pioneer「2.0」では、参加者が会社持分の1%をPioneerに付与すれば1カ月のリモートプログラムに参加できる、という形を目指している。同社はその1%に対してキャッシュを拠出しないが、創業者のスタートアップ設立を支援し、専門家のネットワークを介してガイダンスを提供し、10万ドル(約1100万円)相当のクラウドクレジットや、創業者に対面での様々な機会を提供するためのサンフランシスコへの往復チケットなどの充実した特典をつける。

最大の進化は、プログラムを終了した創業者に用意する投資制度だ。Pioneerがスタートアップの事業の進捗に満足した場合、プログラム終了時にPioneerから直接資金調達するオプションを与える。創業者は2万〜100万ドル(約220万〜1億1000万円)の3つの金額から選択できる。

グロス氏は、Pioneerのポートフォリオ拡大で中心となっている投資額は2万ドル(約220万円)だと明らかにした。同社は投資と運営費用の両方を、グロス氏自身、アンドリーセン氏、ストライプからの調達資金(金額未公開)によって賄っている。同氏によると、同社がもっと大規模な投資をする場合に備えて追加で資金提供する用意がある投資家がいるようだが、あまりにも早期に多額の調達を行うことには慎重だと述べた。「過大な資金調達のマイナス面もよく知っている。当社は堅実かつ機敏にいきたい」とグロス氏は語った。

グロス氏はY Combinatorに取って代わろうとするつもりはない。選択肢が豊富にある創業者にとって、Pioneerからの投資は必ずしも最も魅力的ではないかもしれないと認識している。Y Combinatorはスタートアップに15万ドル(約1700万円)を投資して7%の株式を獲得する。一方Pioneerからの2万ドル(約220万円)の投資に対し、創業者は会社持分の5%を渡すだけではなく、最初にアクセラレータープログラムに参加する際にさらに1%を渡す必要がある。それにもかかわらず同氏は、素晴らしいアイデアを持つ多くの創業者にこの仕組みを利用してほしいと考えている。

「S&P 500に入るような会社ではないものの、Pythonスクリプトの段階でもがいているような素晴らしい会社がたくさんあると思う」

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(翻訳:Mizoguchi

ゲーム業界に注力する投資会社Bitkraftが2号ファンドを立ち上げ、ゲーマーで元GS副社長も参加

eスポーツ、ビデオゲーム、そしてそれらを支えるイノベーションたちは、現在テクノロジーの世界の文化的および商業的構造の中心を占めている。

投資会社Bitkraft Esports Venturesにとって、こうした関心の高まりは、コンソールとコントローラーの世界を遥かに超越する可能性を持つ、娯楽の変革や技術の開発を行うビジネスへの投資を行う、巨大なチャンスであることを意味している。

投資家たちも徐々に、その流れに一緒に乗ろうとしている。同社の計画に精通する筋からの情報によれば、2017年に4000万ドル(約45億円)の1号ファンドを立ち上げた同社は、およそ1億4000万ドル(約157億円)の新しいファンドをほどなく立ち上げる予定だ。

Bitkraftは、広報担当者を通して、2019年中にはeスポーツとデジタルエンターテインメント関連で25の投資案件に5000万ドル(約56億円)を投資したことを認めた。そのうち21件は同社が主導したものである。

Bitkraftの今回のはるかに大きい新ファンドの立ち上げは、同社の関心がゲームやeスポーツをはるかに超える技術やサービス(もちろん出発点は似たような場所だが)を網羅し始めたために行われている。

新しい資本プールの立ち上げに加えて、同社はまた、ゴールドマンサックスの投資銀行部門の元副社長であり、2003年にはBlizzardのDiablo II PCゲームの第1位にランキングされたeスポーツプレーヤーでもあるMoritz Baier-Lentz(モリッツ・ベア=レンツ)氏を新しいパートナーとして迎えた。

ゴールドマン在職中、ベア=レンツ氏は、Dellによる670億ドル(約7兆5000億円)でのEMCの買収や、IBMによる340億ドル(約3兆8000億円)でのRedHatの買収に取り組んでいた。

ベンチャーキャピタル、特にゲームの場合には、数字はそこまで大きくはならないものの、投資家たちがその可能性を認識するにつれて、ゲーム業界周辺ではますます大きなベットが行われるようになっている。Esports Observerによれば、2019年にeスポーツ業界に行われた投資は約20億ドル(約2200億円)で、その前年である2018年に投資された45億ドル(約5000億円)という驚くべき数字に比べれば半分にも満たなかった。

Bessemer Venture PartnersのEthan Kurzweil(イーサン・カーツワイル)氏は、2018年に TechCrunchに対して次のように語っている。

「ゲームは現在、米国で最大のエンターテインメント形態の1つで、年間1000億ドル(約11兆円)以上が支出されていて、これはテレビなどの他の主要なメディアを上回っています。ゲームはソーシャルネットワークの新しい形態で、『ゲームに勝つ』という構図以外でも、友人や家族と時間を過ごすことができるのです」

1000億ドル(約11兆円)以上という数字は、特にeスポーツ投資の定義が補助領域やより広い分野へと広がる中では、成長しているカテゴリーとして決して見劣りするものではない。

Bitkraftにとって、それは「インターネットとゲームの中で生まれたが、それ以上の適用範囲を持っている」投資を意味している、とベア=レンツ氏は言う。「私たちがより広いレベルで本当に見ていること、そしてチームとしての勝負所として考えているのは、合成現実(synthetic reality)の出現なのです。(その場所こそが)将来性と成長、そして私たちの投資家へのリターンを期待している場所なのです」。

Bitkraftの新しいパートナーであるモリッツ・ベア=レンツ氏

ベア=レンツ氏は、この合成現実を物理的世界とデジタル世界のほぼシームレスな融合と呼んでいる。これには、仮想現実と拡張現実を可能にするテクノロジーと、それらの周りに構築されるゲームや、没入型のあるいはインタラクティブなストーリーが含まれている。

BITKRAFT Esports Venturesの創業ジェネラルパートナーであるJens Hilgers(イエンス・ヒルガース)氏は声明で「モリッツには私たちの文化、情熱、そして野望を共有してもらっています。そして世界で最も優れた投資会社の1つから、とてつもない投資経験を持ち込んでもらえました」と述べている。また「さらには、彼は真のコアゲーマーであり、多様なBITKRAFTチームに最適な人物なのです。ニューヨークにおける彼の存在によって、私たちはまた、ゲームとeスポーツのための今日最もエキサイティングで発展している都市の1つで、地理的拡大を行うこともできるのです」と述べている。

ゴールドマン在職中に、ベア=レンツ氏は、同社のグローバルeスポーツとゲーム関連事業開発を手助けしていた。彼は頻繁に、個人顧客や大企業からのeスポーツ現象に投資する方法についての問い合わせを受け続けていた。

興味深いことに、eスポーツに焦点を当てた投資会社として、Bitkraftが投資しない分野の1つはeスポーツチームそのものだ。その代わりに彼らは、ゲームを可能にするすべてのものに焦点を当てている。「私たちはより幅広いアプローチを取っています。そして健全なeスポーツ業界のバックボーンで成功するものに投資しています」とベア=レンツ氏は述べている。

さまざまなゲーム開発スタジオへの、多数の投資に加えて、同社はインタラクティブオーディオ環境を作成するSpatial、ゲーム用に最適化されたプライベート高速ネットワークを開発するNetwork Next、そして触覚技術開発のLofeltも支援している。

「ゲームは技術革新の推進力で、ゲームが人間と機械のより良い相互作用を可能にしてくれるのです」と、ベア=レンツ氏は語る。「私たちは、ゲームとゲームコンテンツを、合成現実のより広い波の原動力と考えています。それはゲーム、スポーツ、そしてインタラクティブメディアに及びます。(しかし)私たちはそれをただエンターテインメントとしてだけ見ているのではありません。そこには、私たちが物理的世界とデジタル世界を超越したときに開かれる、経済的および社会的利益があるのです。私はそれを、インターネットの進化だと考えています」

トップ画像クレジット: Mark J. Terrill / AP

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(翻訳:sako)

新型コロナウイルスの流行で2020年のPC出荷台数は減少へ

新型コロナウイルスの流行によって、2020年に全世界で出荷されるPCの台数は、少なくとも3.3%、多ければ9%減少する可能性があると、調査会社Canalysが、米国時間2月20日の夕方にこれまでの予想を修正するかたちでクライアントに報告した。

画像クレジット:Drew Angerer/Getty Images

報告によると、PCの出荷台数は、2020年の第1四半期に10.1%から20.6%の範囲で減少するという予測となっている。第2四半期にも影響は続き、出荷台数は8.9%(Canalysによるベストケースのシナリオ)から23.4%(同ワーストケースのシナリオ)の間で減少することが予想されるという。

ベストケースのシナリオでは、新型コロナウイルスが流行しても、2020年に3億8200万台が出荷されるとしている。これは、2019年の3億9600万台と比較して3.4%の減少だ。

ワーストケースの場合は、落ち込みはもっと大きくなり、2020年の出荷は、約3億6200万台となる。2019年より8.5%減少だ。

「ベストケースのシナリオの場合、生産レベルは2020年4月までにフル稼働の状態に戻ると予想しているので、前半の2つの四半期にメーカーから販売店への出荷が受ける影響が最も強くなります。第3四半期および第4四半期には市場も回復すると考えています」と、Canalysは述べている。

「したがって、世界のPC市場の出荷台数は、2020年には前年比で3.4%の減少に留まるのです。内訳は第1四半期は10%、第2四半期は9%の減少としています。PC市場での供給は、第3四半期までに正常化されると考えます。1年単位では、Canalysは、2021年以降には、世界のPC市場が徐々に回復し始めると予想しています」

ワーストケースのシナリオでは、2020年6月までは生産レベルがフル稼働状態には戻らないと仮定している。「このシナリオの仮定では、中国における生産および需要レベルの回復には、さらに時間がかかり、その結果として第2四半期にも、第1四半期と同程度の影響を見込んでいます。市場が回復するのは、2020年第4四半期までかかると見ているのです」

いずれのシナリオでも、最も大きな影響を受けるのは、世界最大のPC市場の1つである中国だ。最悪のシナリオについて「このシナリオでは、2020年には中国市場が大きな影響を受け、2019年と比べて12%も減少し、その後の安定化にはさらに長い時間がかかります。2021年の予想は、ベストケースのシナリオと比較して、出荷台数で600万台ほど低く見積もっています。中国の2021年から2024年までの予想CAGR(複合年間成長率)は6.3%となっています」と、Canalysは述べている。

中国は、生産とサプライチェーンのグローバルハブだ。新型コロナウイルスの影響を封じ込めようとして、まず旧正月の公式な祝日を延長した。その後、厳しい移動制限を課して市民の安全を確保しようと努めてきた。「これにより、オフラインの小売の流通が大幅に減少し、消費者による購入が劇的に減少しました」と、Canalysのアナリストは述べた。

新型コロナウイルスの流行は、部品の供給不足ももたらしている。たとえばプリント基板やメモリなどは、中国だけでなく他の市場でも不足している。「同様にチャンネルパートナーも、この2週間で主要なPCベンダーから通告を受けています。それによると、PCの出荷と交換部品の調達に、最長で14週もかかるということです。これは、パートナーの所在地にもよりますが、通常の配送に要する時間の3倍にもなります」と、Canalysはいう。

「アジア太平洋地域の技術ベンダーとチャンネルパートナーは、COVID-19(新型コロナウイルス)の、突然の流行に対処するという、予期していなかった課題に直面しています。今回の危機は、1月中旬の段階でも、まったく予想されていませんでした。ほとんどの指導者が2020年に予想していたのは、政治的な不安定と自然災害による混乱で、伝染病ではありませんでした」と、Canalysのアナリスト、Sharon Hiu(シャロン・ヒウ)氏は、また別のレポートで述べている。

今回の流行はスマートフォン、自動車、テレビ、スマートスピーカー、ビデオゲーム機など、かなり多くの産業に影響を与えている

Apple(アップル)の主要な製造業者あるFoxconn(フォックスコン)は、米国時間2月20日、2020年の収益は武漢の新型コロナウイルスによって影響を受けると述べた。同社によるとインド、ベトナム、メキシコの工場はすでにフル稼働しており、他の国々での生産拡大を計画しているという。

2月のはじめにアップルは、2020年3月までの四半期には、収益の見通しを満たせそうにないと発表した。その原因は、iPhoneの供給の制約と、中国における店舗の閉鎖による需要の低迷にあるという。

アップルは、広く噂されている低価格版iPhoneの本格的な生産のスケジュールを延期すると予想されている。その一方で、既存のモデルの在庫は、4月あるいはそれ以降まで品薄になるという予想を、米国時間2月19日にNikkei Asian Reviewが公表している

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

eコマースプラットフォームShopifyがFacebookのデジタル通貨Libra運営団体に加盟

eBayやVisa、Stripe、その他の有名企業などはFacebook(フェイスブック)が主導するデジタル通貨Libra(リブラ)を見捨てたが、Libra運用団体は米国時間2月21日、Shopify(ショッピファイ)という新たな加盟社を得た。eコマースプラットフォームのShopifyはLibra Associationの会員になる。少なくとも1000万ドル(約11億円)を拠出し、Libra取引の結節点となる。

現在は国際規制当局の懸念がLibra展開を阻んでいるが、もしその懸念をLibraが和らげることができたら、Shopifyはクレジットカードの手数料を払うことなく決済を処理する手段を得ることになる。Libraでは手数料ゼロ、もしくはほぼゼロとなる見込みだ。Shopify、そしてShopifyのプラットフォームでオンラインショップを運営する100万もの業者は節約できることになるかもしれない。

ShopifyはLibra Associationへの加盟の理由として、業者の手数料抑制のサポートと発展途上国への商業機会の提供を挙げた。「世界の金融インフラの大半はインターネットコマースのスケールやニーズに対応するようにつくられていない」とShopifyはいう。以下に、発表の最も重要な箇所を掲載する。

我々のミッションはすべての人にとってコマースをより良いものにすることであり、そのためにお金や銀行業務がさらに良いものになる世界の一部として、コマースをいかに改善していくか考えることに多くの時間を費やしている。Libra Associationのメンバーとして、業者やあらゆる消費者にお金が回り、またサポートできるようにする決済ネットワークを構築するために社を挙げて取り組んでいる。我々のミッションはプラットフォームで100万を超える業者の起業家としての旅をサポートするというものだった。これは、透明性のある手数料や資本へのアクセス、業者の顧客データのセキュリティとプライバシーを確かなものにすることを意味する。世界中のさらに多くの起業家を力づけるインフラを構築したい。

Libra AssociationのメンバーとしてShopifyはバリデーションを行うオペレーターになり、Libra Association評議会の投票権を得る。そして少なくとも1000万ドル(約11億1600万円)の投資をするLibraが稼ぐ利子の配当金をもらうことができる。

Libra Associationは当局の調査を受けている最中の10月に、一連のメンバーがプロジェクトを見捨て、多くのeコマース専門の会社を失った。そこにはVisaやMastercardといった従来型の決済企業や、 StripeやPayPalなどのオンライン決済企業、eBayのようなマーケットプレイスが含まれる。こうした動きは、人々がデジタル通貨を使うのに十分な場所を確保するために、果たしてLibraが適したパートナーを得られるかという疑念を引き起こした。

Libraが安全であると当局に納得させようと、FacebookはFacebook PayやWhatsApp Payといった従来の銀行送金やクレジットカードに頼ってきた決済手段に取り組んできた。

ShopifyのCEO、Tobi Lutke(トビ・リュトケ)氏は「お金や銀行業務がさらに良いものになる世界の一部としてコマースをいかに改善していくか考えることに、Shopifyは多くの時間を費やしてきた。だからこそ我々はLibra Associationのメンバーになることを決めた」とツイートした。

「Shopify(ショップ含む)をLibra Associationに迎えられることを誇りに思う。おおよそ175カ国にまたがる100万超の事業者を抱える多国籍コマースプラットフォームとして、Shopifyは Libraプロジェクトに多大なる知見や専門性をもたらす」とLibra Associationの政策・広報責任者のDante Disparte(ダンテ・ディスパート)氏は書いている。「Shopifyは、安全で透明性のある、そして消費者フレンドリーなグローバル決済の実行に向けて取り組んでいるLibra Associationの積極的なグループに加わった」

直近の雇用もまた、2者をさらに結びつけた。Facebookの決済プラットフォームと宣伝チームを率いた前プロダクトマネジャーKaz Nejatian(カズ・ネジャティアン)氏は2019年9月にShopifyの副社長兼マネー担当GMになった。

発展途上国では時として確保するのが難しい従来型の銀行口座がなければ、eコマースショップの運営はかなり難しく、不可能かもしれない。Libraではそうした業者がかなりのクレジットカード手数料なしにすぐに決済できるLibra Walletを確保できる。理論的にはローカルの実在店舗やATMで、その地で流通している貨幣で現金を引き出すことができる。

Shopifyのクレジットカードリーダー

それらの一部が実現するにしても、Libra Associationはテロリストが資金を洗浄したり、人々のプライバシーを損なったり、グローバル金融システムにおいて国のパワーを弱めたりすることはない、と米政府やEUを納得させる必要がある。フランスのBruno Le Maire(ブリュノ・ル・メール)財務相は「国々の金融自主権は金の民営化という危機に直面している。我々は欧州でのLibraの開発を認めることはできない」と述べた。

Libraは当初、2020年の開始が予定されていた。

Libra Associationのメンバーは以下の通りだ。

現在:FacebookのCalibra、Shopify、PayU、Farfetch、Lyft、Spotify、Uber、Illiad SA、Anchorage、Bison Trails、Coinbase、Xapo、Andreessen Horowitz、Union Square Ventures、Breakthrough Initiatives、Ribbit Capital、Thrive Capital、Creative Destruction Lab、Kiva、Mercy Corps、Women’s World Banking

前メンバー:Vodafone、Visa、Mastercard、Stripe、PayPal、Mercado Pago、Bookings Holdings、eBay

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(翻訳:Mizoguchi

フランスのScalewayが専用サーバーのラインアップを一新、クラウドへの統合を展望

フランスのクラウドホスティング企業であるScaleway(スケールウェイ)が専用サーバーの構成をアップデートし、新しい名前を与えた。専用サーバー(Dedicated Servers)は新しいものではないが、今でも多くの顧客がパフォーマンスの安定性と低料金という2点で専用サーバーに依存している。

Scalewayは本来、フランスの通信企業であるIliad(イーリアス)のホスティングとデータセンター部門のOnline.netでのクラウドサービスのブランド名だ。Online.net専用サーバーのDediboxは2005年に大ヒットした。サーバーのレンタルは月額料金が30ユーロ、メモリー1GB、100Mbpsの無制限帯域、そして160GBのストレージが提供された。

今見ると笑えるほど非力だが、Dediboxは専用サーバーを表す代名詞のようにポピュラーになった。そしてその後Online.netは、Scalewayというブランドでパブリッククラウドサービスを立ち上げ、クラウドのインスタンスとオブジェクトストレージ、ブロックストレージ、マネージドデータベースなどを提供した。

そして、専用サーバーよりもクラウドサービスに明るい将来性がある、という時代になってきて、Scalewayの方がメインのブランドになった。その専用サーバーのラインアップは、今ではScaleway Dediboxと呼ばれている。名前が変わっただけでなく、Scalewayはその専用サーバーを同社のパブリッククラウドサービスに統合しようとしている。トラフィックが増えたユーザーは自分の専用サーバーにロードバランサーやクラウドインスタンスを組み合わせることができるし、またScalewayのマネージドデータベースサービスを専用サーバーに組み合わせてもいい。

専用サーバーの構成は100とおり以上もあると思うが、料金は月額8.99ユーロから始まり、それはメモリー4GB、ストレージ1TB、1GHzのIntel CPUだ。メモリー384GB、4TBのNVMeストレージ、IntelのXeon Gold CPUという構成なら、月額439.99ユーロになる。

Scalewayは今10万台のサーバーを動かし、顧客は150か国におよぶ。また専用サーバーに代わるものとして、ベアメタルのクラウドインスタンスも提供している。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

元メルペイ松本氏が手がけるキャッシュレスカフェが麻布十番に開店、月額3800円のコーヒーサブスク機能も

バリスタが丁寧に抽出したスペシャルティコーヒーとこだわりのホットサンドを、専用アプリから事前に注文しておくことで決済や待ち時間のストレスなくスムーズに受け取れる——そんな今風のカフェが本日2月21日、麻布十番にオープンした。

このカフェの名前は「TAILORED CAFE(テイラード カフェ)」、仕掛け人は松本龍祐氏だ。スタートアップ界隈の人にはもはや説明不要かもしれないけれど、松本氏は2012年にヤフーが買収したコミュニティファクトリーの創業者であり、2015年5月にメルカリへ参画後はソウゾウの代表取締役やメルペイの取締役CPOを務めた。

その松本氏が昨年メルペイを離れた後に立ち上げたのがTAILORED CAFEを運営するカンカクだ。同社では昨年8月に北参道にて「KITASANDO COFFEE」をスタート。今回麻布十番に開設したカフェはそれに続く2つ目の店舗となる。

アプリで事前注文すれば待ち時間なし、特徴は月額3800円のサブスク

両店舗に共通するのは、専用のモバイルアプリと連動したOMO(Online Merges with Offline)型であること。店頭で注文することもできるが、アプリ上でドリンクやフードメニューを事前注文しておけば、店舗では待ち時間も決済の手間もない。なお完全キャッシュレスシステムのため、店頭で決済する場合はQRコード決済アプリや電子マネー、クレジットカードなどを用いる。

目玉機能は今回新たにアプリに搭載された月額3800円のメンバーシップだ。これは月額3800円を払えば通常1杯400円のスペシャルティコーヒーが飲み放題になるサブスクプランのような機能。加入すればそのほかのドリンクメニューも全品200円引きで注文できる。

サブスク機能はどの店舗でも使えるため、現在は北参道と麻布十番の2店舗だが今後店舗が増えるほど対象となる場所も増える。しかも今のところは「1日に1杯まで」といった上限もなく、まさに飲み放題だ。

今回のタイミングでは実装されていないものの、“テイラード”という名の通り個人の好みに合わせてコーヒーやフードをカスタマイズできる「パーソナライズ機能」も春頃に搭載する計画。コーヒー豆などの素材に加えてミルクやトッピングを細かくアプリ上で設定し、7万通りを超える種類の中から自分の好みの商品を選べるようになるという。

「自分自身がオフィスビルで働いて、毎日のようにカフェに通っていた中で感じた課題を解消したいという思いが根本にある。本当はカフェラテが好きだけど、人がたくさん並んでいて待ち時間が気になるからアイスコーヒーを頼んだり、毎日通っていると気づいたら月に何万円も使っていたり。無駄な待ち時間は無くしたいし、毎日飲むなら美味しいコーヒーを定額で飲めた方がいい。そんな考えを取り入れた」(松本氏)

TAILORED CAFEは麻布十番駅や赤羽橋駅から徒歩数分の場所にあり、エウレカやC CHANNEL、Rettyなども入居する大型のオフィスビルのすぐ近くだ。メインターゲットはIT業界を始めとしたビジネスパーソン。たとえば美容や健康に気を使う人向けに「MCTオイル」をオプションで加えるなど、ビジネスパーソンのニーズに合わせて味以外のカスタマイズにも対応していく予定だ。

とはいえ味が美味しくなければ誰も頻繁に通いたいとは思わないだろう。カンカクのカフェでは味にもこだわり、旬なコーヒー産地を選び新鮮なコーヒー豆をセレクト。オペレーション部分ではテクノロジーを導入して常に高いクオリティを担保できるようにしている。

たとえばラテを入れる場合、ボタンを押すだけで豆が必ず20gぴったりになるようにエスプレッソマシーンの下に秤をつけて微調整もできるように設計。その豆をマシーンに入れる前にギュッと押しかためる工程では、常に10kgの圧力で押されるように手作業ではなく機械化した。

「その時々によってブレが生じないように定量化できる部分は徹底的に定量化しつつ、味には直接関係ないかもしれないが接客やラテアートのように人がやることでプラスアルファの価値が生まれる部分は人が担当している」(松本氏)

麻布十番の「TAILORED CAFE」は1Fが注文スペース、2Fがイートインスペース(20席ほど)となっている。全座席にはコンセントを設置しているそうで、Wi-Fiも使える。

リアルなビジネスにはまだまだ変革の余地がある

それにしてもコミュニティファクトリー時代に開発した「DECOPIC」を筆頭に、これまで複数のC向けアプリを手がけてきた松本氏が次のチャレンジとしてリアルなカフェを選んだのはなぜか。

「メルペイの準備中に中国や東南アジアなどのスーパーアプリを複数研究する中で、急速に成長しているプラットフォームの中核を担うのはやはり決済だと感じていた。一方で決済はコモディティ化しやすい領域。その中でプラットフォームとしてどう戦っていくかを考えたときに、自分の強みも活かして決済と紐づくキラーコンテンツを作りたいと思った」(松本氏)

モバイル決済を使い倒すようなサービスを作るのであれば、利用頻度が高く「高トランザクションで低単価なもの」が適している。そう考えて開発したものの1つがシェアサイクルの「メルチャリ」だったそうだ。

事業を模索する中で、最終的には自身でチャレンジしたい気持ちが抑えきれず、独立を決断。領域を決める際に松本氏が重視したのが「オフライン」かつ「毎日使うサービス」であることだった。アプリに例えるなら「MAUではなくDAU」を追っていくような分野だ。

「今はSNSやLINEなどが普及して多くの人がインターネットありきで生活をしているのに、それでもリアルとネットの世界は分断されていて、何か意思決定する際にもスマホ経由でできないことも多い。リアルビジネスにはオンラインを融合することで変革できる余地がたくさん残されていると感じていたし、そこを1つずつ解決していくと、世の中の生産性を上げることにも繋がる」

「毎日行く店のポイントカードならまだしも、たまにしか行かない店のポイントカードを常に持ち歩きたいと思う人はほとんどいない。アプリをインストールしてもらうこと、会員登録をして使ってもらうこともそれと同じこと。そこには心理的なハードルがあり、乗り越えてもらうためには毎日触れるようなサービスが最適。その観点で複数の選択肢を考える中で、最終的には自分自身が毎日のように利用していて、1番やれそうな感覚のあったカフェを選んだ」(松本氏)

インターネットと融合した新たなカフェの創出へ

2019年8月にオープンした「KITASANDO COFFEE」

領域を定めてからは中国の「luckin coffee(ラッキンコーヒー)」や米国の「Cafe X」などを現地で視察。カフェ以外にも注目されているリテール事業者の現場を自らの目で確かめてきた。

松本氏によると実は当初「luckin coffeeの日本版」のような事業を考えていたそう。ただ視察を繰り返す中で国ごとの違いや特性を感じ、日本で同様のモデルを採用するのではなく別のアプローチに切り替えたという。

「中国の場合はスターバックスより安いコーヒーチェーンが存在しないことに加え、日本に比べて既存のスーパーやコンビニの質も高くなく、数自体も足りない。一方で日本の場合は低価格のコーヒーチェーンも複数存在する上に、安くて美味しいコンビニコーヒーの存在が大きい」(松本氏)

luckin coffeeの仕組み自体も優れたものではあるが、中国で爆発的に普及したのは国内の小売環境などが大きく影響しているというのが松本氏の見立て。luckin coffeeの場合はデリバリーの比率も高いが日本の人件費で同じように拡大するのは難しいし、キャッシュレスの文脈でもモバイルペイメントが広く浸透している中国とは状況が異なる。

実際に1号店舗となるKITASANDO COFFEEでは、安さを重視するのではなく豆や製法にこだわり味も追求。アプリからの注文を推奨するものの店頭での注文・決済も受け付け、デリバリーに関してはUber Eatsを通じて対応する形をとった。

今回新たに実装したメンバーシップや今後実装予定のパーソナライズ機能も日本で新しいモデルのカフェを広げていくために当初から構想していたもの。特にメンバーシップは事業モデルを確立させる上でも1つのカギとなりそうだ。

「サブスクをやることで遠くからでもお客さんが通ってきてくれたり、必ずしも大きな通りに面していなくても定期的に人が入ってきたりといったことを実証できれば、新しい価値を生み出せたと言える。そこまでいけばビジネスとしてもPMF(プロダクトマーケットフィット)に近づいた状態だ」(松本氏)

松本氏は学生時代に起業してカフェを経営した経験もある。その時に楽しかったのも今回カフェを選んだ1つの理由になったそうだが、特に固執することなく今後は別の領域に進出することも検討しているそうだ

まずは既存の2店舗を軸にパーソナライズ機能に向けた開発や体制整備を進める計画。今後はポップアップ型の店舗などを検討しているほか、中長期的には新規の出店に加えカフェ以外の領域に進出することも視野に入れている。

「インターネットとリアルを掛け合わせた取り組みをやっていくというのが会社としてのテーマ。サービスの視点ではニューリテールがキーワードになるかもしれないし、既存の産業にインターネットを組み込むという文脈ではDXにもなる。ネットとリアルを融合させることで心地いい体験を生み出せる領域はまだまだたくさんあるので、そこで大きなチャレンジをしていきたい」(松本氏)

Airbnb、Uberから学ぶマーケットプレイスの作り方(1)マーケットプレイスを制限する

編集部注:本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説するPodcast「Off Topic」が投稿したnote記事の転載だ。Off Topicは4月10日に大賞が発表されるJAPAN PODCAST AWARDS 2019にノミネートされている!

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。普段は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。これまでは、日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきました。Off Topicのポッドキャストでも発信してます。noteも不定期で更新しているので、他の記事もよかったら読んでみて下さい。

はじめに

米国スタートアップ業界で話題になっていた元Airbnbのグロース担当のLenny Rachitskyさん「マーケットプレイスの作り方」の記事を翻訳しました。Lennyさんから直接許可を頂いたので、今回は10パートのパート①をお送りしたいと思います。

本シリーズは、大きく3つのフェーズに分けての構成です:

1) フェーズ1:ニワトリとタマゴ問題について
・マーケットプレイスを制限すること(←今回の記事)
・サプライ側かデマンド側、どちらにまず集中するべきか?
・初期サプライの伸ばし方
・エンドユーザーの伸ばし方
2) フェーズ2:マーケットプレイスのスケールの仕方
・サプライ側とデマンド側のどちらが伸び悩んでいるかをどう判断するべき?
・スケール時のグロース戦略
・クオリティー担保戦略
・学び・やり直すと何を変える?
3) フェーズ3:マーケットプレイスの進化させる方法
・「Managed」(管理された)マーケットプレイスへの進化する方法とは?
・新規事業の追加方法

今回のテーマは、ニワトリとタマゴ問題のなかでも「マーケットプレイスを制限すること」について紹介する。

そもそも「マーケットプレイス」とは何か?

マーケットプレイスとは、デマンド(何かを欲しがっている人)をサプライ(何かを持っている人)に繋げて、その間に金銭取引が起きること。

マーケットプレイス企業とは、サプライもプロダクト/サービスも自社で抱えてなく、間の取引の管理などを行なっているだけのことだ。マーケットプレイス事業の目的は、サプライ側とデマンド側が効率良くマッチ出来て取引が取引が出来ること。

マーケットプレイスの代表的な企業は、以下だ。
Airbnb、Uber、Lyft、Alibaba、eBay、Etsy、Hipcamp、Doordash、Caviar、Rover、Postmates、Thumbtack、TaskRabbit、Craigslist

反対に、マーケットプレイスではないスタートアップは、
Delta Airlines(自社のサプライを抱えている)YouTube(金銭取引がない)Slack(サプライがない)

なぜマーケットプレイスは良いビジネスなのか?

マーケットプレイスは、良いビジネスだと言える。ポイントは5個だ。

1. ネットワーク効果
2. 参入障壁
3. 効率性
4. スケーラビリティ
5. 事業の柔軟性が高い

・ネットワーク効果
ユーザーが増えるほど、もしくはより使いやすい/安くなるほど、よりユーザーが増える(Lyft/Uberが良い事例)

・参入障壁が高くなる
ネットワーク効果が成立し始めると参入障壁が高くなる。今だとホテルはAirbnbに対抗できなくなっている。

・効率性が高い
サプライ(在庫)がない分、より安く、効率良くオペレーションを回せる。ホテル事業とAirbnb事業はそこで大きくコストの差が生まれている。

・スケーラビリティ
サプライ(在庫)がない分、スケールしやすい。ドッグホテルとRover(ドッグシッターと飼い主のマーケットプレイス)を比較すると、在庫コストや設置コストを考えなくて良いので、Roverの方がスケールしやすい。

・事業の柔軟性が高い
サプライ(在庫)がない分、ピボットしやすくなる。Uber BlackがUber Xへの事業展開した時も、自社で在庫を買わなくて済んだから早く一般向けの事業が展開できた。

マーケットプレイスの「ニワトリとタマゴ問題」

マーケットプレイスを始めるときに、最初のグロースサイクルを成立させるるのは大変だ。サプライ側もしくはデマンド側の片方を先にマーケットプレイスにコミットしてもらわなければ何も生まれない。

上の表は、制限をつけるための参考のチートシートだ。成功したほとんどの会社はマーケットプレイスに制限をつけいる。インタビューした会社の1社を除いて、マス向けへの成長の前にまずは自分のターゲットを絞っていた。制限というのは、地域別、もしくはカテゴリー別。サプライ側とデマンド側が同じ場所にある必要があれば、制限はほぼ必ず地域別。

ここでわかるのは、大きく事業を伸ばすためには、まずは小さくスタートすること。上記のリストは、左から地域別、カテゴリ別、制限をかけなかったマーケットプレイス企業にわけられている。

地域別で制限をかけたマーケットプレイス事例集

ここで、サプライとデマンドが直接会うプロダクトで、地域で制限をつけてグロースさせた例を紹介しようと思う。

事例1:Rover(ドッグシッターのマーケットプレイス)
「シアトルでスタートし、しばらくはそこだけにフォーカスした。シアトルは我々にとって最適なマーケットだったよ。犬が好きな人がたくさんいるし、テック系の人も多くいて旅行や出張に来る町でもある。しかも、Amazonが異常にドッグフレンドリー。アメリカでシアトルほどドッグフレンドリーな場所はないだろうね。このおかげでプロダクトの最適化が出来た。」— David Rosenthal氏(ex-Rover, GP at Wave Capital)

事例2:Airbnb(宿泊施設・民宿を貸し出すサービス)
「創業者が初期にニューヨークに集中した。同じようにAirbnbがグローバル展開をスタートした2011年には、地域をピックアップし、そこにひたすらフォーカスを当てた。」— Kati Schmidt氏(ex-airbnb)

事例3:Uber(配車アプリ
「新しいマーケットを開拓するプレイブックをAustin Geidt氏がリードしていたLauncherチームが作った。まずはサプライ側。目標は30人以上のドライバー獲得、1車あたりの到着時間を15分以内にする事。」— Andrew Chen氏(ex-growth at Uber, GP at a16z)

事例4:OpenTable(レストランのオンライン予約サービス)
「一つの地域に一定のレストランを確保した時に、OpenTableを使うバリューを顧客が感じていくれた事を学んだよ。レストランの密度が大事だった。大まかなルールだったのが、一つの町で50〜100店舗を獲得できればユーザーががっかりしなくなった事。」— Mike Xenakis氏(ex-SVP of Product at OpenTable)

事例5:Instacart(食料品の即日配達サービス)
「初期マーケットは需要がありそうな場所を選んでいた。例えば、冬が寒いシカゴとか。高い世帯収入、車が少ない世帯、頻繁に変わる天気な場所はデリバリーを欲しがる傾向にあった。」— Max Mullen氏(co-founder Instacart)

事例6:Breather(オンデマンドワークスペースサービス)
「1取引の合計時間が低かったので、『近さ』が大事だった(平均1取引は2時間ぐらいの部屋予約)。フラットアイアンビルみたいな高密度な場所だと予約可能なスペースを増やすとすぐにブッキングされていた。明らかなPMFだった。使われている時間や場所を見て、完コピしただけ。新しい事や、新しい町に行くのは間違い。まずは同じことを繰り返せるか?使ってくれたユーザーの次の場所も確保できるか?どうやって取引価格を倍にできるかを見るべき。新しいことはやらなくて良い。」— Julien Smith氏(co-founder of Breather)

事例7:Zillow(不動産売買マーケットプレイス)
「マーケットプレイスを始めた時には住宅ローンの金利レートを匿名でリアルタイムなおかつ正確に出すサービスはなかった。なので小さい市場から初めて、住宅ローン会社やブローカーにひたすらメールしてレートをマニュアルで毎日入力していた。」— Nate Moch氏(VP at Zillow)

カテゴリ別で制限をかけたマーケットプレイス事例集

事例1:TaskRabbit(お手伝い系マーケットプレイス)
「最初から幅広いことをやっていたが、一番人気カテゴリーでの流動性をかなり見ていた(便利屋、家事代行、引っ越し代行など)。需要に合う高いクオリティのサプライ側を用意するようにフォーカスしたよ。」— Jamie Viggiano氏(ex-marketing at TaskRabbit, CMO at Fuel Capital)

事例2:Eventbrite(イベント作成・管理サービス)
「コアなユースケースを見つけてトラクションを伸ばした。Eventbriteの場合、それはテック系ミートアップとカンファレンスだった。徐々にEventbriteの名前のサービスからの招待を見ることが普通になった。初期トラクションで一番伸びた分野なので、最初に集中させたよ。」— Brian Rothenberg氏(ex-growth at Eventbrite and TaskRabbit, Partner at defy)

事例3:Etsy
「最初は3つのカテゴリーの物しか売れなかった。それはビンテージ商品、クラフト用品、手作り用品だけ。」— Dan McKinley氏(ex-Etsy, Principal Engineer at MailChimp)

制限を一切かけなかったThumbtack

Thumbtack(サービスマーケットプレイス)
「通常のやり方は、Amazonが本でやったようにカテゴリーで制限をかけるか、YelpがSFでやったように地域で制限をかけるのが普通。我々は逆に最初から全カテゴリーと全地域に行ったので、長いごと資金調達できなかった。絶対上手くいかないと山ほど言われたが、我々の攻めていた領域の利用頻度を増やす必要があったので、この戦略をとったんだ。家で部屋のペンキ作業は数年に一回しか呼ばないので、それを最終的に年間8回から12回の利用頻度に増やしたのは浅く、広く地域とカテゴリーを取りに行くことだった。これをやらなければ我々は生き延びなかったと思う。」— Sander Daniels氏(co-founder of Thumbtack)

この記事の注意事項

・事例の成功した一番の理由はグロース戦略ではなく、単純にPMF(Product Market Fit)が成立していたから
・過去の戦略は今は使えないもの
・この記事は過去を思い出してもらったインタビューのまとめなので、記憶が曖昧かもしれない

最後に、この記事に貢献してくれた人を見てみよう

・Andrew Chen (ex-growth at Uber, GP at a16z)
・Babak Nivi (co-founder of AngelList)
・Benjamin Lauzier (ex-growth at Lyft, Director of Product at Thumbtack)
・Brian Rothenberg (ex-growth at Eventbrite and TaskRabbit, Partner at defy)
・Casey Winters (ex-growth at GrubHub, CPO at Eventbrite)
・Dan Hockenmaier (ex-growth at Thumbtack, founder of Basis One)
・Dan McKinley (ex-Etsy, Principal Engineer at MailChimp)
・David Rosenthal (ex-Rover, GP at Wave Capital)
・Georg Bauser (ex-Airbnb, CEO of Expansion Partners)
・Gilad Horev (VP Product at Eventbrite)
・Gokul Rajaram (Caviar Lead)
・Gustaf Alströmer (ex-growth at Airbnb, partner at YC)
・Hunter Walk (partner at Homebrew)
・Jamie Viggiano (ex-marketing at TaskRabbit, CMO at Fuel Capital)
・Julien Smith (co-founder of Breather)
・Kati Schmidt (ex-Airbnb)
・Max Mullen (co-founder Instacart)
・Micah Moreau (VP Growth at DoorDash)
・Mike Duboe (ex-growth at Stitch Fix, investor at Greylock)
・Mike Xenakis (ex-SVP of Product at OpenTable, Lecturer at Kellogg School of Management)
・Nickey Skarstad (ex-Director of Product at Etsy, VP of Product at The Wing)
・Nate Moch (VP at Zillow)
・Sander Daniels (co-founder of Thumbtack)
・Tal Raviv (growth at Patreon)
・Tamara Mendelsohn (VP and GM at Eventbrite)

次回は、米国最大級のマーケットプレイスが、どうやってサプライ側とデマンド側にフォーカスするのを決めたかをご紹介したいと思います。

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Written by Lenny Rachitsky (@lennysan) | Translated by Tetsuro (@tmiyatake1) | Edited by Miki (@mikirepo)

AIが数秒で契約書をレビューする「LegalForce」が10億円を調達、導入企業は250社を突破

AIを活用した契約書レビュー支援サービス「LegalForce」を提供するLegalForceは2月21日、WiLなど複数の投資家から総額10億円を調達したことを明らかにした。

LegalForceにとっては2018年に実施したシリーズAに続くシリーズBラウンドという位置付けで、同社の累計調達額は約16億円となる。なお今回新規の投資家はWiLのみ。エンジェル投資家を除く全ての既存投資家が本ラウンドで追加投資を行った。投資家リストは以下の通りだ。

  • WiL
  • ジャフコ
  • 三菱UFJキャピタル
  • SMBCベンチャーキャピタル
  • みずほキャピタル
  • ドリームインキュベータ
  • 京都大学イノベーションキャピタル

契約書のリスクを数秒でチェック、導入企業社数は250社超え

LegalForceはAIを含むテクノロジーの活用によって、契約書のレビューやそれに紐づく業務を効率化するプロダクトだ。

細かい機能については昨年4月の正式ローンチ時に紹介したのでそちらを参照してもらえればと思うけれど、軸となる契約書レビュー機能だけでなく、過去の契約書をデータベース化して有効活用できるようにする「ナレッジマネジメント」の仕組みも備える。

LegalForceではWordやPDFの契約書をアップロードして契約の類型と自社の立場を選択するだけで、数秒〜数十秒後にはリスクを洗い出し、不利な条文や欠落条項を指摘。リスクのある部分については確認すべきポイントとともに修正文例を表示する。正式ローンチ後のアップデートとして「なぜこの論点を確認した方がいいのか」を解説してくれる機能も加わった。

レビュー前の画面。過去の似ている契約書やひな形と差分を比較することもできる

実際のレビュー結果。確認した方がいい箇所がハイライトされ、コメントや修正文例、解説が表示される

現在は業務委託契約を含めて22類型をカバーするほか、英語の契約書への対応も進めている。今の所はNDAに限られるものの「英語の契約書をアップロードすれば問題点は日本語で解説し、修正文例は英語で表示する」こともできるようになった。

レビュー画面では自社のデータベース(ライブラリ)に保存されている類似の契約書と照らし合わせて差分を表示したり、自社の用途に合わせてレビューの重要度をカスタマイズすることが可能。これらの機能を法務担当者や弁護士が使い慣れた“Word”でも同じように使えるのも大きな特徴だ。

Wordのアドイン機能を使うことで、普段から使っているWord上でそのままレビューや条文検索ができる

料金は月額10万円からの定額制で、現在までに250社以上の法務部や法律事務所が導入済み。業界問わず幅広い企業で使われていて、顧客の4割近くが上場企業だという。

今後はナレッジマネジメント機能と英文対応を強化へ

LegalForceのメンバー。中央が森・濱田松本法律事務所出身で代表取締役CEOを務める角田望氏。

LegalForce代表取締役CEOの角田望氏によると昨年4月の正式ローンチ以降、細かいものも含めて40以上のアップデートを実施してきたという。上述したもの以外だと民法改正への対応や法律の専門家が作成したひな形(LegalForceライブラリ)の追加、OCR機能の強化などがその一例だ。

レビュー精度の向上と対応類型の拡充も含めてプロダクトが進化したことで「以前はトライアル後に正式導入には至らなかった企業と契約に繋がるケースも出てきている」とのこと。導入企業社数の拡大だけでなく、規模の大きい企業や法律事務所が複数アカウントを契約するなどボリュームの大きい顧客も増えているそうだ。

今回の資金調達はこの勢いをさらに加速させるべく人材採用を強化することが主な目的となるが、特に今後は2つの領域にリソースを投下していく。

1つは英文契約書への対応だ。「留学経験がある人ならストレスなく読めるが、それでも日本語のものに比べると時間がかかる。慣れていない人だと数倍〜10倍くらいの時間が必要になり負担も大きい」と角田氏が話すように、英文契約書のレビューに対するニーズは高い。

そしてもう1つがナレッジマネジメント機能の拡張。これまでもLegalForceではライブラリという形で、社内の契約書をデータベースとして蓄積できる仕組みを提供してきた。これによって契約書をアップロードしておけば、キーワードに応じて条文単位で欲しい情報を引っ張ってきたり、同じような契約書と比較しながら重要な論点を確かめたりすることができる。

データベースでは自社で保有する過去の契約書だけでなく、LegalForce側で用意したひな形(LegalForceライブラリ)も含めて横断検索・活用ができる

「レビューした契約書自体に価値があるというのが自分たちの考え方。共有フォルダを作れば過去の契約書を共有して蓄積することまではできたが、それを有効活用するのは難しかった。LegalForceではファイルをアップロードするだけで情報が整理され、必要な時に資産として活用できる。共有・蓄積のストレスを軽減しつつ、活用の幅を広げていきたい」(角田氏)

たとえば過去に誰かが同様の契約書を作ってレビューしていれば、それはとても重要な参考資料になる。ただし他の人がどんな契約書をレビューしたかを全て把握するのは困難な上に、ファイルの数が増えてくれば探し出すのも大変だった。レビューを効率化するだけでなく「人間だけでは気づけない、たどり着けない自社に眠るナレッジ」に素早くアクセスできるのもLegalForceの強みの1つだ。

今後はこのナレッジマネジメント機能をアップデートしていく計画で、直近ではバージョン管理機能を搭載する予定とのこと。機能追加に加え、新しいプロダクトラインとして締結した契約書を効率よく管理できる仕組みも開発中だという。

「今まではレビューをメインにしていたが、自分たちがやりたいのは法務業務を総合的に支援すること。現在のレビュー機能だけでは十分ではないので、レビュー業務から派生するナレッジマネジメント機能などにも拡張していくことで、法務担当者や弁護士への提供価値をあげていきたい」(角田氏)

堅実ではあるが成長の遅いスタートアップはこの先どうなるか?

さまざまなプログラミング言語に対するコーディングクラスを提供している、米国ニューヨークに拠点を置くオンラインインタラクティブプラットフォームのCodecademyは、目立たない企業だ。創業者のZach Sims(ザック・シムズ)氏が、まだコロンビア大学の学生だった2011年に会社を創業してから、同社は堅実に運営を続けてきた。それは多くの人が知っていて、利用もしてきたブランドだが、耳目を集める資金調達ラウンドは行わず、またニュース価値のあるレイオフもなしに着実に成長して来たために、この90人の会社が日頃プレスの注目を集めることはほぼない。

それはシムズ氏にとっては気になることではない。私たちはシムズ氏と先週話をする機会を持ったが、それは最近若いライバルのLambda Schoolが行った4800万ドル(約53億円)の資金調達という、シムズ氏にとってはあまりうれしくないニュースの直後のことだった。ちなみにこれまでCodecademyが調達してきたのは総額で4250万ドル(約47億円)である。シムズ氏は、彼の会社は順調に進み続けていると語る。

ここでの問題は、それがVCたちにとって「いい」かどうかの問題が、ますます大きくなってきているということだ。実際、Codecademy は、多くのスタートアップたちが現在直面しているものと同様に、スマートで堅実だが、大きく成長しているビジネスではないという厄介な立場にあり、それが次のステップに対する疑問を投げかけている。

私たちが最後にシムズ氏と話したのはおよそ2年前だが、当時それまで意味のある収益をどのように生み出すかで長年苦労してきたCodecademyは、2つのプレミアム製品を開始したばかりだった。それらの1つであるCodecademy Proは、コーディングの基礎に加えて、機械学習やデータ分析を含む最大10領域をより深く学ぶためために月に40ドル(約4500円)(または年間240ドル(約2万7000円)を喜んで払いたいひとのためのコースだ。シムズ氏は、これは軌道に乗っていると言うものの、その詳細について語ることは拒んだ。

ウェブサイト開発、プログラミング、もしくはデータサイエンスのいずれかに6〜10週間学習者を没頭させるようにデザインされた2つ目の製品「Codecademy Pro Intensive」は、その後廃止されている。

どんな人が有料ユーザーなのだろうか?シムズ氏によれば、そうした人たちは2種類に分かれる傾向があるという。1つは単発のスキルセットを学ぶ人たちで、おそらくウェブサイトを作るために切羽詰まっている人たちだ。そしてもう1つは、現在職には就いているものの、昇格もしくは転職を考えており、Codecademyに週に数時間費やすことがそれを実現するための手段だと考える人たちである。およそ60%が米国の居住者で、残りはインドやブラジルを含む様々な場所の人たちだ。コーディングスキルの必要性は「米国に限られる現象ではありません」とシムズは指摘する。

シムズ氏は、Codecademyの価格設定を考えると、投資の回収はかなり迅速行えるだろうと口にした。比較として挙げるなら、一部のオンプレミスコーディングスクールの中には、年間2万ドル(約220万円)以上を請求するものもある。これはたいそうな金額だが、そうしたスクールは利用者が参加しやすくするために事前の徴収は行わずに、就職した後の給与の中から一定の割合で徴収する。

当然ながらCodecademyは主にオンラインで運営されているため、そこで認識されている欠点についてときおり批判されている。ある顧客(自称コンピューターサイエンス専攻)は12月に思慮深いレビュー を投稿しているが、そこには「プログラマーであるということは、単に構文を覚えられるということ以上のものだ」と書いている。確かにCodecademyは「達成しやすい中毒性のあるひと口サイズの学習」を通じて「多くの学習者にコンピューターサイエンスの基礎」を伝えてきたものの、このレビュアーはそれは「プログラマーのマインドセット」の育成には不十分だと書いている。

とはいえ、十分な数の人たちがCodecademyの提供する膨大な数のコンテンツに価値を見出したおかげで、同社は最近重要なマイルストーンに到達した。現在はキャッシュフローが黒字になったのだ。昨年は収益を2倍にした。

シムズ氏はこの結果を当然のこととして誇りにしており、「持続性と利益性が高い成長を続け、ビジネスに再投資可能な現金を生み出しているコーディングプラットフォームは、ほとんどありません」と語る。

Codecademyは最初から変わらない追い風を受けている。コーディングスクールに対してはより広く懐疑的な見方が広まっているが、ソフトウェアの設計、実装、修正、そしてセキュリティ実現の能力は、ますます重要になっている。手ごろか価格の関連教育を受けられることは、相変わらず魅力的な提案のままなのだ。

これは同社が消費者に対して提供を続けているものであり、企業の場合は、Codecademy型のコースを従業員に対して提供し始めているのではないかと私たちは推測している。Codecademyはすでにコースのまとめ売りを行っているが、シムズ氏は、2020年に力を入れたいのは、従業員に対して教育特典を提供したいと考える企業とのタイアップだと語っている。

同様に投資家の喜ぶ絵を描くつもりなのかどうかは、明らかではない。シムズ氏に対して、より広意味での資金調達について尋ねたところ、回答は拒否された。

確かに、先週の「ポートフォリオの肥大化」を扱った記事で説明したように、後期ラウンドは成立させることが難しくなってきている。その理由は、近年VCたちがこれまでにない速さで、新しいスタートアップに注ぎ込むための資金を大量に集めているからだ。そして、彼らはそのすべての資本からリターンを得るために、「次の有望株」を見つける必要に迫られている。

これにより、着実に成長している多くの企業が、今のところ自分のことは自分で面倒をみる状況になっている。

その結果がどうなるかは、まだ誰にもわからない。Codecademyの黒字化したキャッシュフローは、その答を出す期限を引き伸ばしてくれるだろう。

トップ画像クレジット:scyther5 / Getty Images

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(翻訳:sako)

メルカリがMAU1500万人の二次流通データを、マルイや@cosme、アパレルECの一次流通データと連携へ

メルカリは2月20日、事業戦略などを説明する同社初の事業戦略発表会「Mercari Conference 2020」で、同社が持つ数十億円規模の商品データ、月間1500万人を超える利用者の属性・行動データを活用する取り組みについて、同社執行役員VP of Business Operationsの野辺一也氏が登壇・発表した。

「CONNECT」のポーズ。メルペイの「OPENNESS」のポーズに近い印象だ

同氏は「CONNECT」をコンセプトに、パートナー企業との連携を通じた出品施策の拡大、データ連携を通じた一次流通と二次流通の融合について説明。マルイ、バニッシュ・スタンダード、アイスタイルが持つ一次流通販売データと連携する。

マルイとは、ECサイト「マルイウェブチャネル」とデータを連携。ユーザーがメルカリで検索した結果に、マルイウェブチャネルの商品を表示することが可能になる。またマルイウェブチャネルで購入した商品をメルカリの「持ち物リスト」と連携して簡単に出品できる仕組みを整える。

バニッシュ・スタンダードは「STAFF START」と呼ばれるコーディネート投稿機能を中心とした販促支援サービスを提供しており、メルカリは同サービスを導入しているたアパレルECのデータを活用できるようになる。具体的には、アパレルメーカーが持っているコーディネート画像を利用した提案が可能になるほか、メルカリからアパレルECへの送客を今春から開始する。初期パートナーとして、アダストリア、パル、ベイクルーズを予定しており、各ECサイトでユーザーが探している服と類似のものがメルカリにある場合に提案する機能なども想定されている。

アイスタイルとは、同社が運営するコスメ・美容の総合サイト「@cosme」の商品データやユーザーの閲覧データ、ECストア「@cosme SHOPPING」や化粧品専門のリアル店舗「@cosme STORE」の購買データを連携。メルカリでの商品別取引数や平均価格等の統計情報とまとめて分析できるようになる。これにより化粧品メーカーは、メルカリでの閲覧、検索、購入履歴等を基にした、販促メニューや販促ソリューションの開発が可能になる。また、メルカリと@cosmeのIDを連携し、双方の情報を共有する。

そのほか、NTTドコモのdアカウントとの連携も改めて発表された。将来的にはdポイント加盟店での購入履歴をメルカリと連携して出品しやすくするほか、全国のドコモショップに無人配送拠点である「メルカリポスト」や梱包資材の設置を広げていく。