「Win-Win-Winは業界への大切なメッセージ」 ― 日本の宿泊権利売買サービスCansellが4000万円を調達

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日頃たまった疲れを癒やすために、休暇を利用して旅行にでかけるという人も多いことだろう。

しかし時間をかけて計画した旅行でも、急な用事やアクシデントでキャンセルせざるを得ないこともある。せっかく楽しみにしていた旅行が無くなるだけでも悲しいことだが、それに追い打ちをかけるように、キャンセル料の支払いという悲しみもある。

日本のCansellは、そのキャンセル料の負担を軽減してくれるスタートアップだ。Cansellは本日、株式会社DGインキュベーション、株式会社カカクコム、大和企業投資株式会社、株式会社イノベンチャーを引受先とする第三者割当増資を実施し、総額4000万円を調達したと発表した。

Win-Win-Win

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「Cansell」では、キャンセルせざるを得なくなった宿泊予約の権利を売買することが可能だ。

ユーザーは宿泊予約の権利を第三者に販売することで、キャンセル料を支払う場合にくらべて費用を節約できる可能性がある。一方で、権利の購入者は通常より安い宿泊料でホテルに泊まることができ、ホテル側も通常の宿泊料金を受け取れるというメリットがある。転売目的の出品を防ぐため、ユーザーは購入価格以上で権利を出品することができない仕組みだ。2016年9月15日のプレビュー版公開はTechCrunch Japanでも紹介している。

このように、CansellのビジネスモデルはWin-Win-Winの構造をもつ。この点は代表の山下恭平氏が特に大事にしているサービスのメッセージだという。

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Cansell代表の山下恭平氏

「業界からの反発が気になるところだったが、意外にも業界からつつかれることはなかった。逆に、宿泊施設や旅行業者などから何か一緒にやりたいという声もあった。やはり、ホテルとユーザーを含めたWin-Win-Winの関係を、サービスがもつ大切なメッセージとして出していたのが大きいと思う。このサービスはホテル側の理解も得られないと本格的な成長は難しいと考えているので、今後は積極的にコミュニケーションをとっていきたい」と山下氏は話す。

プレビュー版での出品頻度は2日に1回程度とのこと。この数字について山下氏は、「積極的なPR活動を行っていないのもあるが、出品数はまだまだ」とコメントしている。ただ、サービスの認知度は口コミベースで少しずつ広がりを見せているようだ。たとえば先日、フリーランスライターの塩谷舞(通称しおたん)氏がCansellについてつぶやいたツイートが4000回近くリツートされたという。

Cansellは今回の資金を利用して、エンジニアの確保とPR活動の強化をはかる。Cansellは去年10月からブロガー向けアフィリエイト・プログラムの提供を開始しており、人気ブロガーのイケダハヤト氏が記事を執筆するなど一定の効果はあったと山下氏は話す。

「旅行」をテーマにしたシナジーも

山下氏によれば、Cansellへの出品案件で多いのは沖縄などリゾート地の宿泊権利だそうだ。さらに、宿泊日が1ヶ月ほど先の案件が多い。つまり、都心部へのビジネス出張が急にキャンセルになってしまったという案件よりも、国内旅行や地方のライブイベントなどで予約した宿泊権利が出品されるケースが多いようだ。予約時の購入単価は5万円から6万円ほどで、その約3割引で出品される。

プレビュー版で分かった傾向を踏まえて、今後は「旅行」というテーマに沿った新機能なども期待できるかもしれない。

今回の調達ラウンドをリードしたのはデジタルガレージ(DG)グループのDGインキューベーションだ。今回の出資に参加したカカクコムもDGグループの一員である。デジタルガレージは2015年6月にシンガポールLCO社と資本業務提携を結び、海外旅行アプリ・プラットフォームの提供を開始している。そのため、今後はDGグループとCansellとのシナジーにも期待できそうだ。

同様に、株式会社イノベンチャーはメーカーの新商品や余剰在庫を利用したサンプリング業務を展開している。Cansellと同じく2次流通市場を領域とする企業だけあって、こちらでも何らかのシナジーが生まれる可能性がある。

Cansellは今年4月にも正式版の公開を目指す。正式版では宿泊施設ごとに紹介ページを設け、そこに出品案件をひも付けする機能や、お気に入りのホテルの宿泊権利が出品されたことを通知する機能、ホテルのレビューシステムなどの新機能を追加する予定だ。

オンライン不動産のietty、「チャットコマース」の運用、導入サービスを開始——来店者数2倍の実績も

ietty代表取締役社長の小川泰平氏(左)と取締役COOの内田孝輔氏

ietty代表取締役社長の小川泰平氏(左)と取締役COOの内田孝輔氏

2016年、IT業界で話題になったテーマの1つに「チャットボット」がある。LINEやFacebook Messangerでおなじみのチャット型のUIと、人工知能(と人力)による会話を組み合わせることで、ユーザーはまるでリアルに対話しているのと同じように語りながら、目的のアイテムを検索したり購入したりできるなんて話だ。LINEやfacebookなどがAPIを公開したことも、このテーマが注目を集めるきっかけとなった。「ボット」ということで人工知能とセットで語られることも多いが、このチャットUI自体が、短いテキストでやり取りするスマートフォンのコミュニケーションと相性が良く、ユーザーがコミュニケーションを通じて目的にたどり着きやすくなるという話も聞くことも多い。

そんなチャットボット、チャット型のUIを実際の事業に使っている国内スタートアップとして名前が挙がることが多いのが、オンライン不動産仲介サービス「ietty」を展開するiettyだ。同社は2012年2月の設立以降、ユーザーが望む不動産物件の条件をあらかじめ入力しておき、それにマッチする物件をサービス側(人力およびAI)がチャット上で提案、ユーザーとの会話によって部屋決めができるというサービスを展開してきた。当時はそんな言葉すらなかったが、まさに「チャットボット」をセールスに使ったサービスだ。同社によると、現在月間数百人がiettyのチャットUIを通じて賃貸仲介物件を契約しているという。

そんなiettyは1月16日、これまでのノウハウを生かして、チャット型の接客サービスの導入および運用支援ソリューションの提供を開始することを明らかにした。このサービスでは、会話型コマースの導入に向けた自社サービスの調査から、運用プロセスの設計、チャットの導入、運用までをiettyがワンストップで行う。料金は応相談となっているが、数千万円規模のフルパッケージを提案するだけでなく、数百万円で導入検証を行う試験的なプランも想定しているという。

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また、今回のソリューション提供に先駆けてiettyの管理システムを強化。今回のソリューション事業でクライアントに提供していくと同時に、不動産業界以外のノウハウも蓄積していき、クラウド型のサービスとして単体で展開することも検討しているという。

「これまで、コールセンター業務を行う会社などがカスタマーサポートのアウトソーシング事業を展開してきたが、我々はチャットを通じてカスタマーサポートではなく、セールスを行うことができる。すでに実績を上げているし、チャットボットが万能ではないことも知っている」(ietty代表取締役社長の小川泰平氏)。「カスタマーサポートにチャットを導入すると、質問には答えるが、営業ができない。我々は営業組織としてのマネジメント体制を作ってきた。会話型サービスの成果が上がっていない、導入したいけど分からない、そういった人達に、まずは小さくPDCAを回すところから提案していく」(ソリューション事業を担当するietty取締役COOの内田孝輔氏)

すでに第1号案件として中古車販売・買取の「ガリバー」を運営するIDOMとの取り組みがスタートしているが、来店アポイントに繋がった登録ユーザーが2週間で倍近くになったという好事例も出ているという。

もちろんiettyでは既存の不動産仲介事業は継続して展開していくとのことだが、ソリューション事業では、将来的カスタマーサポートセンターならぬ、チャットセンターを立ち上げることも計画中だという。その人員確保には、2016年5月に資本業務提携を行った人材会社のプロスとも協力していく。

IDOMの事例。画面右側にあるチャットを通じて、来店者数が2倍になったという

ChefやAnsible以外のクラウド管理ツールが必要なワケ―、Mobingiが2.5億円のシリーズA調達

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クラウドやサーバー群の管理・自動化のツールといえば、ChefやAnsible、Terraformなど、すでにたくさんある。Dockerのようなコンテナ型仮想化ツールの普及と相まって、ますますクラウド上のシステムは柔軟でプログラマブルになってきている。ツールや言語といった好みの違いはあるにせよ、今さらクラウド管理ツールが他に必要なように思えないという人もいるのではないだろうか。

日本を拠点に創業したスタートアップ企業Mobingi(モビンギ)のクラウド管理SaaSは、ジャンルとしてはChefに似ているものの、全く違うビジネスモデルとターゲットユーザー層の組み合わせを想定していて、企業が持つアプリのライフサイクル全体を管理するプラットフォーム作りを始めている。

クラウドのデスクトップを作る

2015年にMobingiを創業したWayland Zhang(張卓)氏は「クラウド・コンピューティングのデスクトップを作っている」と狙いを説明する。

「既存のAnsible、Chef、Dockerなどのツールは全て開発者をターゲットにしています。アプリのライフサイクル全体をやろうと思うと複数ツールを組み合わせる必要がありますし、それらを使いこなすための、非常に優秀なエンジニアが必要になります」

「今のクラウドコンピューティングには画面がありません。Windows以前のMS-DOSのようなもので、文字でコマンドを打ち込んでいる状態です。われわれMobingiが作りたいのはクラウドにとってのWindowsデスクトップのようなものです」

ChefやDockerなどは、すべてAPIがあってプログラマブルだから抽象化や自動化の恩恵が得られる。ただ、ターゲットはガチのソフトウェア・エンジニアやインフラ技術者だけだ。OSSプロジェクトとして人気があり、とてもうまくコミュニティーによる開発が回っているように見えるが、ビジネスモデルとターゲット層を考えると、違うモデルがあるべきなのではないか―、というのがMobingiの言い分だ。

クラウドの潜在ユーザー層は現在よりずっと広い。自社でソフトウェア開発をしている企業やエンジニアでも「実際にはVMすら立ち上げられないのが現実」(Wayland氏)とユーザー層もある。ちょうどCUIがGUIとなってユーザー層が一気に増えたPCと似た議論だ。

面白いのは、Mobingiはクラウドのノウハウを持たないとか、ネット系の技術力が不足している層だけがターゲットではないということだ。すでにクラウドのノウハウを持っているネット系企業も対象で、特に新規事業を立ち上げるときに必要なクラウドリソースの調達といった場面では、「やれば自分たちでできるとしてもMobingiのようなツールを使うようになっていくだろう」という。小窓ラインインターフェイスを使いこなすソフトウェアエンジニアであっても場面によってはGUIを使うというのに似た話かもしれない。

Mobingiは具体的プロダクトとして、AWSなどパブリッククラウドのデプロイ、環境セットアップ、アプリの自動スケール、監視、ログ分析などの運用、をWebベースのUIで提供する「mobingi Cloud SaaS」を提供する。例えば、AWS利用の場合の自動スケーリングではインスタンス起動リージョンやインスタンスサイズ、スケールさせるサーバー数の上限・下限を決めるなどポリシー設定しておけば、Elastic Load Balancer、VPCなど必要な機能を自動で設定してくれる。AWSには需給に応じて利用料が変わるスポットインスタンスというVMがあるが、これをうまく利用してコスト削減を自動化するSpot Optimizer機能も提供する。ライフサイクル自動化では、Docker、GitHub、Jenkins、Travis、Fluentd、Datadog、Mackerelを利用できる。mobingi SaaSはパブリッククラウドのほかに、OpenStack、vSphere、CloudFoundry、Kubernets、Apache Mesosなどプライベートクラウドも含めて複数のクラウドを同じUI/UXで管理できる。顧客データセンターのオンプレミス環境でMobingiを運用できるエンタープライズ版も提供する。SIerがMobingiを使ってシステム開発をして、それを顧客に売ることもできるという。

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開発者と利用する企業ユーザーは別

Mobingiのターゲットユーザーは意思決定権(決裁権)を持つビジネスパーソンや開発チームやプロジェクトのリーダーたちだという。こうしたユーザーはChefやDockerを直接扱えない。ChefやDockerは素晴らしいソフトウェアでオープンソースプロジェクトとしても成功している。しかし収益をあげるビジネスモデルは、今のところまだ良く分からない。開発者に愛されても、それがそのままビジネスになるとは限らない。むしろ、Red HatがLinuxでやったように、あるいはGitHub Enterpriseがgitに対して果たした役割のように、ビジネスモデルの変革が必要なのだというのがWayland氏の言い分だ。

Mobingiはオープンなプラットフォームとして提供する。Mobingi利用者側の企業には開発者もいて、自分たちのニーズに必要な「アド・オン」などを開発する。監視やロギングなどのツールだ。こうした開発面はオープンソースコミュニティーモデルで行う。開発者のインセンティブとして、もちろん自社利益ということもあるが、プラットフォームへの貢献や承認欲求、自己表現、技術力の分かりやすい示し方といったことになる。プロジェクトで認められるとイベント講演への招待もあるだろう、とMobingiのWayland氏はいう。Mobingiは「エンジニア=ビジネス=プラットフォーム」という三角形のモデルということで、OSSプロジェクトの良さを持ちつつ最初からビジネスを取り込む試みということのようだ。

これはセールスフォースのクラウド開発プラットフォームに近い考え方だ。実際、セールスフォース傘下のPaaS、Herouも2015年からHeroku Enterpriseと企業向けサービスを出すなど、単に開発者に愛されるだけでなく、ビジネスパーソンたちに顔を向けた仕組みをリリースするなどマネタイズを模索している。

日本に法人を戻して2.5億円の追加資金調達

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Mobingi創業者のWayland Zhang(張卓)氏

Mobingi創業者のWayland氏は中国・瀋陽生まれの33歳のエンジニア起業家だ。高校生だった18歳からカナダ在住だったそう。カナダの大学在学中だった2004年にストリーミング動画サービスを立ち上げて月商8000ドルまで成長させたり、中国のSNS向け広告プラットフォームを立ち上げて2009年に売却。さらにゲームエンジンのスタートアップ企業を起業して2013年に日本企業へ売却するなど、起業家として成功を重ねてきた。日本企業へ売却した関係から日本の顧客と接点があり、Mobingiのニーズに気づいたという。

当初Mobingiの法人は日本で設立。チームメンバーも日本人が多い。ただ、米500 Startupsからのシード投資を受けたことからいったん本社を米国を移動した経緯がある。今日1月16日には既存投資家であるアーキタイプベンチャーズ、Draper Nexus Venturesから追加でシリーズAラウンドとして2億5000万円の資金調達を明らかにし、このタイミングで再び法人を日本に移した形だ。Mobingiメンバーは現在11人で、8人がエンジニア。Mobingi SaaSの登録アカウント数は2000。800〜1000がアクティブユーザーだ。有料版を利用しているのは20数社で、顧客には富士通、ヤマダ電機などが含まれる。

日本のクラウド普及は、他国に比べて結構進んでいて、AWSの売上の10%程度は日本。「中国は2、3年遅れている。いずれ中国のクラウド市場も狙いたいが、まずは日本企業の中国進出や、その逆をやりたい」とWayland氏は話している。

ニンテンドースイッチは3月3日発売、日本での価格は2万9980円に——予約は1月21日より

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2016年秋に発表された任天堂の次世代ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」の詳細がいよいよ明らかになった。任天堂は1月13日、東京にてイベント「Nintendo Switch プレゼンテーション 2017」を開催。同時にオンラインでの動画配信を行った。発表によると発売は3月3日。日本のほか、米国、カナダ、欧州各国、オーストラリア、香港などでの同日発売となる。希望小売価格は2万9980円。(米国では299.99ドル)。日本での予約は1月21日から各種店頭で受け付ける。すでに開発が発表されていた任天堂のタイトル「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」もNintendo Switch版、Wii U版ともに3月3日に発売する。

据え置きゲーム機ながら、本体にモニターを完備、コントローラー部分を中心の接続部から左右に分離できるのは既報(こちらこちら)の通り。今回発表されたコントローラーの正式名称は「Joy-Con(ジョイコン)」。このjoy-Conと、液晶パネルを備えた本体部を組み合わせてさまざまなプレイスタイルを実現している。テレビと本体を接続して、コントローラーでプレイする通常の「TVモード」や、本体部とコントローラーを直接接続して携帯端末として利用する「携帯モード」、本体部の液晶にゲーム画面を表示し、コントローラーの左右部分を2人のプレーヤーがそれぞれ利用する「テーブルモード」などを想定する。

本体のバッテリー持ち時間はゲームにより2.5〜6時間程度。USB-C端末を通じて、プレイしながらACアダプタや携帯バッテリーで充電をすることも可能。また本体液晶は静電容量式タッチパネルとなっている。Wi-Fiを搭載するほか、最大8台までのローカルでの接続も可能だ。

Joy-Conは押し込み可能なアナログスティックやA、B、X、Y、L、Rといったボタンのほか、HOMEボタン、画面キャプチャーのボタンを備える。当初は静止画のキャプチャーを撮り、SNSにシェアできるが、将来的には動画キャプチャーにも対応する予定だ。また加速度センサー、ジャイロセンサーも左右のJoy-Conに備えるほか、もののかたちを認識するカメラ、臨場感のある触覚を提供する「HD振動」といった新しいセンサーを備える。

コントローラーは通常の黒色に加えて、蛍光色の赤と青を用意。またJoy Conの接続レール部分に差し込むストラップも各色販売する。

もちろん対戦やボイスチャットなどのオンラインサービスも提供予定だ。オンラインサービスは当面無料だが、2017年秋以降は有料化する予定。なおこれまでのゲーム機にあったリージョンロック(地域ごとに起動できるゲームソフトの制限をかけること)はかけないという。

ゲームソフトのラインナップも続々発表されている。左右のJoy-Conをそれぞれ使って体感操作をする格闘ゲーム「ARMS」(今夏発売)、画面ではなく一緒に遊ぶ相手の目や動作を見てプレイするゲーム「1-2-Switch」、人気シューティングゲームの続編「スプラトゥーン2」(今夏販売)や人気アクションゲームシリーズの「スーパーマリオ オデッセイ」(今冬発売)、モノリスソフトの「ゼノブレイド2」(2017年発売)、コーエーテクモホールディングスの「ファイヤーエムブレム無双」といったゲームタイトルのほか、50社を超えるソフトメーカーが80タイトルのゲームを開発中だという。

任天堂と言えば最近ではディー・エヌ・エー(DeNA)との提携を契機にスマートフォンアプリにも本格進出したことが話題。2016年末リリースした「スーパーマリオラン」でも注目を集めた。

ただ販売台数で見ると、現行機である「Wii U」は1336万台(2016年9月末時点)。同じく据え置き型ゲーム機であるソニー・インタラクティブエンタテインメントの「プレイステーション 4」の販売台数は5000万台(2016年11月発売の「プレイステーション 4 Pro」を含む)ということで、Nintendo Switchがどこまでこの状況を巻き返すのかは気になるところ。一方で株式市場は今回の発表を冷静に見ているようだ。任天堂の株価はは前日比1450円安(-5.75%)の2万3750円で取引を終了している。

宮崎県産の野菜を1時間で都内に届ける「VEGERY」が正式ローンチ、東京・根津にはリアル店舗も

ベジオベジコ代表取締役社長の平林聡一朗氏(左)とVEGEO VEGECO 根津店長の杉本恭佑氏(右)

ベジオベジコ代表取締役社長の平林聡一朗氏(左)とVEGEO VEGECO 根津店長の杉本恭佑氏(右)

TechCrunchの読者であれば、日用品のデリバリーサービスである「Instacart」については聞いたことがあるだろう。ユーザーがオンラインで注文した日用品を、Shopperと呼ばれるクラウドソーサーがスーパーで購入してユーザーのもとにすぐ届けてくれるサービスだ。また2016年には日本でもフードデリバリーサービスの「UberEATS」が上陸した。こちらもUberが集めたクラウドソーサーが、ユーザーの注文した飲食店の料理を自転車やバイクを使って届けてくれるというものだ。

これらのサービスは普段、クラウドソーシングのように余剰リソースを用いた「シェアリングエコノミー」という観点で語られることが多いが、もう1つ重要なのは、注文してすぐにモノを届けてくれるという「オンデマンド」を実現したデリバリーサービスであるということだ。今日はそんなオンデマンドなデリバリーサービスがスタートしたので紹介したい。ベジオベジコは1月13日、野菜を中心とした生鮮食品のデリバリーサービス「VEGERY」の正式サービスを開始した。App Storeより無料で専用アプリをダウンロードできる。

VEGERYは同社が直接契約した農家が生産する宮崎産の野菜を中心とした生鮮食品のデリバリーサービス。ユーザーがアプリ上で野菜を選択し、届けて欲しい時間帯(最短で約1時間)を選択すれば、同社のスタッフがその時間帯に自宅まで野菜を届けてくれるというもの。商品代に加えて390円の送料がかかる。

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「VEGERY」のアプリ。グッドパッチがUIを担当した

2016年11月からステルスでサービスを開始。サービスが好調だったことから(ノンプロモーションながら1カ月以内のリピート率が30%。毎週商品を買うユーザーが全体の25%。コンバージョン(ここではアプリを立ち上げて購入する割合を指す)は10%、単価で3000〜4000円という数字が出ているのだそう)本日正式なサービスローンチに至った。

ローンチ時点では約90種類の野菜および加工品を販売する。サービス提供エリアは渋谷区、世田谷区、港区、目黒区の一部のエリア。渋谷に自社の配送のセンターを立ち上げており、約15人のスタッフが、自転車やバイクで配送を行う体制を作った。4月をめどに都内23区をカバーし、Androidアプリもリリースする予定だという。

VEGERYのローンチにあわせて、東京・根津にリアル店舗(超オシャレな八百屋だ)「VEGEO VEGECO 根津」もオープンしている。また、B Dash Ventures、ドーガン・ベータ、宮崎太陽キャピタルからシードマネーを調達したことも明らかにしている。金額は非公開としているが、1億円程度とみられている。

ベジオベジコではこのシードマネーをもとに、都内の配送センターや宮崎での集配体制など物流オペレーションを自前で(ただし宮崎〜東京の配送については運送会社と提携)構築しているという。

ベジオベジコはECサイト構築などを手がけるアラタナと、同社が立ち上がった宮崎県の地元企業との合弁で2011年にスタートした会社(当時の社名は「あらたな村」)だ。代表取締役社長の平林聡一朗氏はアラタナのインターン経験を経て、3年前に代表に就任。VEGERYの前身である宮崎県産野菜の定期購入サービスを開始した。その後アラタナは2015年3月にスタートトゥデイの子会社となったが、そのタイミングで株式の一部をアラタナ代表取締役社長の濵渦伸次氏が個人で譲受。グループから独立して事業を展開してきた。

当初は「スムージー用の宮崎県産野菜」とうたい定期購入サービスを展開していたベジオベジコ。芸能人やモデルなども利用していたそうだが、よりスケール感のあるビジネスを検討した結果がこのVEGERYなのだそう。「日本はコンビニエンスストアもどこにでもあって便利だが、いざ東京で新鮮な野菜を買うのはなかなか難しい。宅配サービスもあるが時間がかかるし、欲しい野菜だけ買えない。Instacart的に『欲しいモノだけ1時間で届く』というサービスができないか考えていた」(平林氏)

ビジネスのスケールを考慮し、物流まわりのオペレーションも自前で整えた。実はデリバリーサービスの多くは、利益を出すのが非常に難しいという。原価率3割程度のピザの宅配ならまだしも、原価率6割、7割のネットスーパーでマネタイズしようとすると厳しくなる。スタートアップとしては大きな投資が必要となるが、将来的なスケールやコストを考慮し、自前で物流サービスを構築するというのが最良だと判断したという。

また、根津にオープンしたリアル店舗も今日から営業中だ。インテリアデザイン監修をワンダーウォールの片山正通氏、ロゴ等のキービジュアルをアートディレクターの平林奈緒美氏が担当した。リアル店舗はブランディングの意味合いも強いようだが、今後は店舗を拠点に配達エリアを拡大することなども検討しているという。

海外を見れば「Amazon Fresh」のような生鮮食品の即時デリバリーサービスも登場しているが、VEGERYではまず野菜の種類を拡充し、その後食肉など取り扱い領域を拡大していく予定だという。ベジオベジコでは当面の目標として月商1億円という数字を掲げている。

VEGEO VEGECO 根津の店内に並ぶ野菜

VEGEO VEGECO 根津の店内に並ぶ野菜

ヘルスケアスタートアップのFiNCが20億円を調達 ーーAI活用の新アプリ開発に注力

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法人向けのウェルネス経営サービス「FiNC for Business」、個人向けのダイエットプログラム「FiNCダイエット家庭教師」などを手がけるFiNCは1月13日、カゴメ、第一生命保険、未来創生ファンド(トヨタ自動車・三井住友銀行などが主要投資家のベンチャー投資ファンド)、明治安田生命保険相互会社、ロート製薬および個人投資家から合計20億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

調達した資金は人工知能(AI)領域へのさらなる投資や、2017年内にリリース予定のコンシューマー向けウェルネス・ヘルスケアプラットフォームアプリ「FiNC」の開発およびマーケティングに充てるとしている。

最近ではフィットネス用ウェアラブルデバイス大手のFitbitとの連携を皮切りにカゴメ、東京急行電鉄との連携も発表するなど、法人向けサービスの展開を積極的に推し進めていたFiNC。各サービスでのユーザー数や売上高などは非公開としているが、売上高の比率は法人、個人向け事業でそれぞれ半々程度だという。

新アプリのFiNCは、人工知能を活用したパーソナルヘルスケアアプリ。“キレイになれる キレイが続く”がコンセプトとなっており、人工知能による専属コーチ(AIパーソナルコーチ)が、個人に最適化されたヘルシーレシピやフィットネスプログラムを教えてくれるという。また、著名人や専門家、友人のフォロー機能も搭載予定とのことで、フォローした人たちから美容・健康に役立つ情報やアドバイスが得られるとしてる。サービスは無料で利用できる予定。新アプリの開発を通じて、法人向けサービス(BtoBtoEで提供する従業員向け健康管理アプリ)の機能強化も図るとしている。

先行して提供しているFiNCダイエット家庭教師などもすでにAIを活用してユーザーに対するコーチングを行っているが、今後は食事の画像解析、姿勢の画像解析、フィットネスプログラムのリコメンド機能の精度向上などを通じてAI領域の強化も進める。これにより、ユーザーのお悩み、症状、ライフスタイル、体重・睡眠・歩数などのデータを複合的に解析。コーチングの精度向上を狙っていく。

 

既存事業の成長は、未来に価値を生み出さない——Y Combinatorユニス氏

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2016年11月17日〜18日にかけて渋谷ヒカリエで開催された「TechCrunch Tokyo 2016」の2日目朝、「シリコンバレーの最前線ー増える大企業との提携・買収」と題したセッションが行われた。シリコンバレーを語るのに欠かせない著名アクセラレーター・Y CombinatorのパートナーのQasar Younis(キャサー・ユニス)氏と、Scrum Venturesゼネラル・パートナーの宮田拓弥氏が登壇した。

Y Combinatorは2005年に設立されたシリコンバレーのアクセラレーターで、スタートアップに投資を行い、3カ月のプログラムを通じて、様々な支援を行っている。最終日にはDEMO DAYが開催され、他の投資家へプレゼンし、資金調達を行っている。プログラムの卒業生には、Airbnb、Dropboxなど世界的に活躍するスタートアップがいくつもある。ユニス氏自身も起業家で、顧客と店主を結び、店に対しフィードバックメッセージを送信できるサービス「TalkBin」を2010年にGoogleに売却した経験があり、またY Combinatorのプログラムにも2011年に参加するなど、起業家のバックグラウンドを持つ。

一方、Scrum Venturesは2013年に設立された、サンフランシスコを拠点をおくベンチャーキャピタル。幅広い分野のスタートアップ50社以上に投資し、またアメリカのスタートアップのアジア進出の支援も行っている。宮田氏も元起業家で、日本とアメリカでエグジットを経験しており、自分に似た著名人を教えてくれるサービス「顔ちぇき!」を提供するジェイマジックの創業者で、その後2009年にモバイルファクトリーへ売却している。

この元起業家であり、現在はシリコンバレーを代表する投資家が、シリコンバレーの動向と〜について語った。

基準は「エンジニアリングのタレントがあるところ」

Scrum Venturesゼネラル・パートナーの宮田拓弥氏(左)とY CombinatorのパートナーのQasar Younis(キャサー・ユニス)氏(右)

Scrum Venturesゼネラル・パートナーの宮田拓弥氏(左)とY CombinatorのパートナーのQasar Younis(キャサー・ユニス)氏(右)

Y Combinatorは前述の通り、多くの成功したスタートアップを生み出している。今やシリコンバレーに限らず、全世界のスタートアップが応募しており、その応募数は6000〜7000に及ぶという。その中から約500社へインタビューを行い、約100社がプログラムに参加でき、「ファンディングは10分で決めている」という。

ここ2〜3年で、更に参加するスタートアップの多様化が進んでいるように感じられる。応募は全世界から受け付けており、実際に国やバックグラウンドは関係なく、またテクノロジー企業だけでもないが、ユニス氏は選考基準について、「エンジニアリングのタレントがあるところ」と述べた。また「YCモデルを他の地域で展開しないのか?」という宮田氏の質問に対しては、「中国、インドでは考えているが、エコシステムが異なるので、現地にオフィスを構えてやる必要がある」と話した。

現在、Y Combinatorのメンバーはパートナー(編集注:VCにおけるパートナーとは、投資担当者を指す)が18人、スタッフが20人。ユニス氏自身は、2013年からY Combinatorでスタートアップへ関わり、2014年に正式にパートナーに就任しているが、この時期に組織が強化され、メンバーが増えたという。ユニス氏自身が「私たちもスタートアップだ」と話していた。

内部組織を強化しながら、更にスタートアップエコシステム構築を進めるY Combinatorが、2015年7月に発表した「YC Fellowship」についての話題を宮田氏が投げかけた。TechCrunchの読者であればご存知かもしれないが、YC Fellowshipとは、8週間のプログラムでまだプロダクトがないスタートアップに対して、助成金(株式を取得せずに提供される)を与えるもの。従来プログラムとの違いは、対象がアイデア段階のスタートアップであること、プログラム期間が短いこと、助成金があること、またシリコンバレーへの移住が必須でないことが挙げられる。

ユニス氏はYC Fellowship開始の背景を、「昔に比べて、Y Combinatorに入るのも難しくなってきたことと、入る前から起業家が成長できる場を作ること」と話す。幅を広げるという意味で、規模は年間200社程度を想定しており、リモートで支援、教育を行うという。インターラクティブにしていきたいと言いながらも、規模が大きいだけに、難しさは見える。なお通常でもパートナー1人あたり、15社程度を担当しているという。

既存事業の成長は、未来に価値を生み出さない

近年、日本で注目されている大手企業とスタートアップの連携について、シリコンバレーに目を向けると、同じように大き動きがいくつもある。自動運転システム開発を手がけるCruiseのGMによる買収、ライドシェアの通勤バンを運営するChariot(宮田氏のScrum Venturesの投資先でもある)のフォードによる買収などが挙げられる。

これら大手企業による買収の中でもとくに自動車領域が活発であると宮田氏は述べ、ユニス氏は「ソフトウェア、機械学習が自動車業界に必要とされ、(ハードに強い)大企業による買収が行われた。自動車業界は10〜20年で大きな変化が起きる」と話した。ちなみにユニス氏のキャリアは、自動車業界出身で、GMやBoschでプロダクトマネージャーも経験している。また、他の業界についても、今後スタートアップの持つ技術が必要となり、今日自動車業界で多く見られた買収・連携の動きは現れるとユニス氏は話した。

スタートアップが持っているものとは何だろうか。予算や人員で考えると、当然ながら大企業が強いのだ。この点について、「従業員と起業家は異なる。いかに利益をあげるのか(=従業員の役割)というのはイノベーション(=起業家の役割)ではない。」と言い、「Googleは検索サイトに始まり、その後は様々な事業を展開をしているが、ほとんどが買収によるものだ。これをGoogleの終わりと批判する人もいるが、イノベーションを会社(大企業)のなかで行うことは難しい」と話す。その理由として、「新しい会社にはレガシーなどなく、5000人よりも20〜30人が勝る」とユニス氏は述べた。

では、大企業はどのように動くべきかという宮田氏の問いかけに対し、ユニス氏は続けてGoogleを例に挙げながら、「キャッシュフローを戦略的に使っていくべき」と言い、資金を既存事業の成長にあてることは、未来に価値を生み出さないと話した。営利企業である以上、利益を出すことは大前提であり、当然ながら、利益は重要でないと言っているわけではないが、イノベーションが最も尊敬される、まだにシリコンバレーの考えのように思われる。ユニス氏のメッセージは、半分は失敗覚悟ででも、戦略的に買収を進めるべきだというものだ。

起業家をヒーローとして扱うべき

最後にユニス氏はメッセージとして二つ述べた。一つは、スタートアップを産み出していく全体へのメッセージとして、「エコシステムの中で起業家をヒーローとして扱うべきだ。大企業の経営者がヒーローなのではない」と話した。もう一つは、今日日本でも度々話題にあがる働き方について、「長時間オフィスにいることが生産的でないと気づくべきだ。1日4〜5時間のほうが生産的という調査もある」と話していた。

実家に帰った気分になれる「バーチャン・リアリティ」は、未来の食事のあり方なのかもしれない

自分の作った食事や買ってきたご飯を狭いワンルームで細々と食べる。一人暮らしで、一番寂しいのは食事の時間ではないだろうか。田舎の大家族とみんなでわいわいしながら美味しく食事したいと思う日もある。今回、南あわじ市がふるさと納税のプローモーションの一環としてリリースした「バーチャン・リアリティ」は、まさにそんな体験が味わえるVR動画だ。

バーチャン・リアリティ」ではその名が示す通り、おばあちゃんが登場し、自慢の手料理をふるまってくれる。ただ、このVR体験を最大限楽しむためには、動画と同じ料理を食べながら、VRを見るのが一番だ。南あわじ市は料理のレシピを公開していて、ふるさと納税をした人にご当地の新鮮な食材を届けている。その食材で動画と同じ料理を作り、VRを楽しむことができるのだ。南あわじ市はこのVRで田舎暮らしの魅力を伝え、ふるさと納税者に訴求することを目指している。

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食事を一人で食べる「孤食」は、栄養バランスが偏りがちになり、楽しくもなく、心身ともに悪影響のある問題でもある。VRは孤食問題を解決するのに効果的と名古屋大学大学院の情報科学研究科博士、中田龍三郎氏はいう。中田氏は今回のプレスリリースに以下のようにコメントを寄せている。

「一人で食事をする時に鏡を見ながら食べると、よりおいしく感じることが実験で確かめられました。実際に家族や友人と食事をしていなくても、“誰かと一緒に食べている”と感じることで疑似的な共食によっておいしさが増すと思われます。バーチャルリアリティによる体験でも、鏡の場合と同じ効果を得られると考えられます」。

 

ただ、実際やってみようとすると視野が半分以上ふさがる上、簡易型のVRビューアーだと片手も使えない。VR動画を見るとおばあちゃんが話しかけてくれて確かにほのぼのするが、VR見ながらの食事は今のところちょっと難しそうだ。

ちなみに、海外でもインターネットを介して食事を共有する体験がにわかに注目を集めている。ゲームストリーミングサービスTwitchでは、ユーザーが自分の食事の様子を配信する「ソーシャル・イーティング」の専用カテゴリーがある。これは韓国発祥の文化で、配信するユーザーも視聴するユーザーもお互い食事をしながら、チャットしたりしてコミュニケーションを楽しんでいるのだとTwitchは説明している。

そう考えると、VRで遠隔の人と食事する未来が来るのもそう遠くないのかもしれない。

TechCrunch Tokyoハッカソンから「プチエグジット」―、オフィス受付アプリ「Kitayon」がトレタ通じて譲渡

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ハッカソンから出てきたアプリやアイデアが元となってスタートアップが生まれることは少ない。たとえ良いアイデアでMVPとして良くできていたとしても、開発メンバーの多くがフルコミットに踏み切れないまま時間が経つうちに、初期の熱気が徐々に失われることが多い。

本気で起業するか諦めるしかないのか? というのに、ちょっと違う答えを示してくれる事例が出てきた。

スモールビジネス向けに予約顧客台帳サービスを開発するトレタは今日、オフィス受付アプリ「→Kitayon」(キタヨン)を、ディライテッドに譲渡したと発表した。ディライテッドは追加開発を経て「RECEPTIONIST」(レセプショニスト)というサービス名での提供を開始した。

キタヨンはTechCrunch Tokyo 2015のハッカソンで、トレタCTOの増井雄一郎氏が有志メンバーら5人ともに夜を徹して開発したオフィス受付のためのiPadアプリだ。アメリカのスタートアップ事情に詳しい人なら「Envoy」と同ジャンルのプロダクトと言えば分かるかもしれない。

多くのオフィスの受付はいまだに旧態依然とした内線電話などになっている。受付に何人も専任スタッフがいる伝統的大企業でもなければ、ハッキリ言って担当者に直接LINEかFacebookでメッセするほうが早いという状況。受付に人間がいるのは21世紀になったことに、15年以上も経ってまだ気付いていないところだけだ。

RECEPTIONISTは予め発行した6桁の数字を受付のiPadアプリで入力するだけで、社員の持つiPhoneアプリに通知が送れるアプリだ。呼び出し時には当該社員の顔写真を表示する。ChatWorkやSlackと連携できる。ローンチ時はiPadアプリのみだが、近日中にAndroidタブレット版も公開予定という。

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主な機能は以下の通り:

・担当者を名前で検索して呼び出し
・来客のお知らせはチャットツールを使って直接担当者に
・アポイントメントを事前登録すると、受付コードを発行してさらに受付が簡単に
・来客者リストはデータで管理、社内で共有。公開範囲の設定も可能
・カスタマイズボタン機能で、採用者向けに人事直通ボタン、配達業者専用ボタンなど作成が可能
・待ち受け画面デザインは自由にカスタマイズ可能
・初期工事不要、初期費用無料、即日利用開始可能

このキタヨンは、TechCrunch Tokyo 2015ハッカソンの場で、普段は自社サービスの開発をしている有志のエンジニアたち6人が集まって1泊2日体制で開発したアプリだ。もともとトレタ社内で受付システムがほしいという声があがっていたそうだ。エンジニアというのは「オレ(私)たちならもっと良いのが作れるのに」というストレスを常に感じているものだ。

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ディライテッド株式会社 代表取締役CEOの橋本真里子氏

今回の譲渡というのは、このアプリをいったん開発チームからトレタが引き取り、それをオフィス受付サービスを展開するディライテッドに譲渡した形だ。ディライテッドは2016年1月創業で、代表の橋本真里子氏は大手企業での10年以上にわたる受付勤務の経験があるそうだ。譲渡にともなってディライテッドはトレタから出資も受けている。トレタの中村仁CEO、増井雄一郎CTOはディライテッドのアドバイザーとなる。アプリの譲渡額や出資額は非公開。

今回企画・開発で中心的役割を果たしたトレタCTOの増井氏は「ハッカソンからエクジットするケースはほとんど聞いたことがない。無料配布か起業しかないっていうのも極端だなと思っていました」と譲渡という道を選んだ背景をTechCrunch Japanに語った。譲渡益は増井氏をのぞく開発メンバーで分けるそう。譲渡金額については非公開ということだが、まだユーザーベースがそれほど存在していないということを考えると、いわゆる「エグジット」から想像される金額感ではなさそう。「ハッカソンで奮闘したエンジニアたちにとっては良いボーナスになった」という感じではないだろうか。とはいえ、意義のあるアプリを世に送り出せた達成感もあるだろうし、ディライテッドにとってもヘタな開発会社に外注するよりもはるかに良いスタートが切れるアプリだろうから、とても良い話だと思う。ハッカソンを主催したTechCrunch Japanとしてもうれしいところだ。

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社員のパフォーマンスを可視化する目標・評価管理サービス「HRBrain」が資金調達、正式版も公開

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半期、あるいは年に1回は上司と仕事の成果を確認し、人事考課を受ける人も多いのではないかと思う。社員にとっては昇給や昇格に影響する点で重要だが、会社にとっても配置転換などの人事戦略を立てるのに重要な指標となる。モスキートーンが提供する「HRBrain」は、社員の目標と評価をクラウドで一元管理するためのサービスだ。本日、モスキートーンはジェネシアベンチャーズとBEENEXTから数千万円規模の資金調達を実施したことを発表した。また、資金調達と同時にHRBrainの正式版も公開した。ちなみにジェネシアベンチャーズはサイバーエージェント・ベンチャーズの元代表取締役社長、田島聡一氏が新たに創業したベンチャーキャピタルで、モスキートーンへの出資が第1号案件となる。

HRBrainを利用するには、まず初めに組織の部署や役職、各社員の情報を登録する。社員の情報は1名づつ入力することも、エクセルシートをアップロードして登録することも可能だ。会社によって目標管理の方法は異なるだろう。HRBrainでは目標管理のためのテンプレートを用意していて、OKRや360度評価などに対応している(OKRは「Objective and Key Result:目的と主な結果」の意味で、グーグルなどで用いられている目標管理の手法だ)。

企業はテンプレートをカスタマイズして利用することができる。また、人事情報はセンシティブな内容を含むため、HRBrainでは被評価者に評価者のコメントなどを表示するかどうかや社員の評価結果の閲覧権限など細かく設定することができる。設定が完了したらあとは、期首に各社員が目標を入力して提出し、期末になったら担当者が評価を入力するサイクルを行う流れだ。

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OKR用の目標シート

 

モスキートーンのファウンダーで代表取締役の堀浩輝氏はサイバーエージェントのAmebaの事業部長を務めた経歴を持つ。そこで組織の目標管理の難しさを体験したのがHRBrainを開発したきっかけという。会社が小さいうちは紙やエクセルシートでも十分だが、50名以上の組織になってくると管理の手間が増えてくる。会社では人事異動で組織編成が変わることもあるが、紙やエクセルだと社員の過去の情報にアクセスしにくい。HRBrainはこうした人事考課の作業を効率化するために開発したと堀氏は言う。

社員のモチベーションアップに活かす

人事考課や目標管理の分野でサービスを提供するスタートアップには他にも人材周りでサービスを提供する「CYDAS」や社員の顔と名前を軸に置く人材マネジメントサービス「カオナビ」などがあるが、HRBrainの利点は人事データを活用できることと堀氏は説明する。HRBrainでは、クラウド上に集約した人事データを分析することで、例えば社員の自己評価と評価者からの評価の乖離が大きい社員を特定することができる。乖離の原因は社員の自己評価、あるいは評価者の評価が甘いケースなどがあるが、いずれにしろ被評価者と評価者の目標のすり合わせや評価基準の設定が十分にできていないことが考えられる。優秀な人材を正当に評価していないのなら社員のモチベーションを下がり、最悪離職することにもなりかねない。HRBrainのアナリティクス機能は部署ごとや社員ごとの視点からも、全社的な視点からも人事評価を見ることができ、 従業員の評価設計や適材適所の配置転換、育成計画といった人事戦略に役立てることができると堀氏は言う。

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HRBrainのアナリティクス機能

モスキートーンは2016年3月に創業し、スタートアップアクセラレーター「TECH LAB PAAK」の第5期の参加企業だ。2016年9月に開催された「TECH LAB PAAK」のデモデイではTechCrunch Japan賞を受賞した。HRBRainは2016年11月からベータ版をリリースしていて、すでに十数社が利用しているという。HRBrainは本日、正式版をリリースした。料金体系はユーザー数別の従量課金モデルで、1ユーザーあたり600円から900円だという。

「会社にとって重要なのは社員のパフォーマンスであり、多くのことは社員のパフォーマンスを引き出すための手段です」と堀氏は話す。HRBrainでは一番重要なパフォーマンスを測り、それを他の指標を比較することで社員のスキルやカルチャーフィット、モチベーションが分かるようにしたいと堀氏は言う。HRBrainで社員のパフォーマンスの領域を抑えたら、ゆくゆくは周辺領域である労務管理や給与管理にも展開していく計画だと堀氏は話している。

日本のCAMPFIREが約3億円を調達:レンディング事業参入とAIの研究開発へ

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クラウドファンディング・プラットフォーム「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIREは本日、第三者割当増資を実施し、合計で3億3000万円を調達したと発表した。

今回の資金調達に参加した投資家は以下の通りだ:D4V1号投資事業有限責任組合、GMOインターネット株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社、East Ventures、株式会社iSGSインベストメントワークス、株式会社サンエイトインベストメント、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社ディー・エヌ・エー、株式会社フリークアウト・ホールディングス、ほか個人投資家3名。

また今回の資金調達に伴い、お金のデザインを立ち上げた谷家衛氏が取締役会長に、フリークアウト・ホールディングス代表取締役の佐藤裕介氏が社外取締役に、富士山マガジンサービスCTOの神谷アントニオ氏が社外取締役に、データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤーの原田博植氏が執行役員CIOに就任する。

支援金の総額は16億円

CAMPFIREがクラウドファンディング・プラットフォームを立ち上げたのは2014年6月のこと。その後、2016年2月に共同代表である家入一真氏が代表取締役に就任し、同時期にサービス手数料をそれまでの20%から5%にまで大幅に引き下げた。同社によれば、この手数料率は国内最安値の水準であり、これがCAMPFIREの特徴1つでもある。

実際、手数料率を引き下げた頃から掲載プロジェクトへの「支援金」が急速に伸びた。現在の支援金総額は16億円で、過去4年間の支援金総額を2016年の1年で上回るほどに急成長している。

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レンディング事業への参入と、人工知能のR&D

今回調達した資金を利用して、CAMPFIREはレンディング事業への参入と、機械学習を中心とした人工知能の研究開発を行う。

レンディング事業への参入を決めた背景について代表取締役の家入一真氏は、「現状の購入型のビジネスモデルにとらわれないところにチャレンジしたかった。お金をよりなめらかに流通させることが目的」と語る。

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CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏

もう1つの資金の使い道は、人工知能の研究開発だ。家入氏によれば、CAMPFIREはこれまでにも機械学習の研究開発を進めていたという。

具体的にはプロジェクトの審査にこのテクノロジーを利用しているようだ。家入氏は、「機械学習を利用して目視による審査を自動化することで、手数料を下げることができると考えた。これから参入するレンディングビジネスでは難しいとは思うが、これまでの購入型のクラウドファンディングでは審査をほぼ全自動化することも可能だと考えている」と話す。

機械学習の活用方法はもう1つある。それは、掲載するプロジェクトの「見た目」の改善だ。プロジェクトの支援金額はタイトル付け方や本文の構成によって大きく左右される。CAMPFIREはこれまでに同社に蓄積されたデータを分析し、支援を受けやすいタイトルの付け方やコンテンツの構成方法を提案していく。

国内におけるクラウドファンディングの市場規模は約480億円。CAMPFIREによれば、そのうちの8割が貸付型であり、今後は数千億円規模の成長が見込まれるという。CAMPFIREが次に狙う領域はここだ。

「お前が言うな」の声も想定していた——キュレーション騒動を受けてNAVERまとめが新方針を打ち出した理由

LINE上級執行役員 メディア担当の島村武志氏

2016年末ネット業界を揺るがした話題と言えば、ディー・エヌ・エー(DeNA)が手がける「WELQ」をはじめとした、キュレーションプラットフォームの騒動だろう。

医療情報に特化したWELQ。このサイトに掲載されていたコンテンツには医学的に誤った情報や不正確な内容が多く、問題視されていた。また、「誰もが投稿できるキュレーションプラットフォーム」とうたうものの、その実態はDeNAがクラウドソーシングを使ってコンテンツを作成する、というものだった。またコンテンツ作成においては、他サイトのコンテンツの盗用を指示すると言っても過言ではないマニュアルの存在があったことも明らかになった。結果、DeNAは自社で展開していた全てのキュレーションプラットフォームの記事を非公開化するに至った(詳細はこちら)が、この問題を契機として、各社のキュレーションメディアやキュレーションプラットフォームはコンテンツの見直しや非公開化が相次いだ。

そんな騒動の中、元祖とも言えるキュレーションプラットフォーム「NAVERまとめ」を運営するLINEが動いた。同社は2016年12月5日、LINE NEWSに関する発表会において、まとめの作成者にオーサーランクを適用するほか、一次コンテンツ作成者へのインセンティブや権利保護を行うといった新方針を発表した。NAVERまとめのサービス開始は2009年。サービスから6年以上経過したこのタイミングでなぜ新方針を打ち出したのか。LINE上級執行役員 メディア担当の島村武志氏に話を聞いた(編集注:取材は2016年12月8日に実施した)。

今のままでいい、と思っていたわけではない

——改めて、このタイミングで新方針を発表した意図について教えて下さい。

もともと(一連の騒動を受けてNAVERまとめの対応について)黙っているつもりはありませんでした。本当は発表会でLINE NEWSの取り組みについて発表する予定だったのですが(編集注:新方針の発表はもともと予定されていたLINE NEWSの発表会の中で行われた)、今回の騒動を受けてインターネットの信憑性や著作権まわりの問題、記事の制作プロセス、また“キュレーション”という言葉の定義も曖昧なものになっていました。

「これは先にNAVERまとめの話をしなければ、質疑応答が成り立たなくなるな……」という思いもあり、このタイミングで社内で相談して新方針について発表することを決めました。

振り返ってみると、NAVERまとめの理念についてしばらく話していなかったので、良い機会だなと思いましたし、もちろん今のままでいいと思っていたわけでもないのです。

——具体的にどこに課題を感じていたのでしょうか。

昔から議論していることなのですけど、そもそもNAVERまとめは検索エンジンの問題から始まったサービスです。Googleには「美味しいラーメン屋さん」が分からないと思っています。なので、美味しいラーメン屋さんを知っている人こそが「美味しいラーメン屋さん」をおすすめすることが、検索エンジンの「次」につながるのではないかと思っていました。

ただ、専門家ではない人がネットに落ちている情報をもとに「美味しいみたいですよ」と記事をまとめるケースが増えてきました。「よく分からないけどそういうモノが載っている」では検索エンジンと変わりがありません。やはり、「ラーメンを食べ続けて30年の私がオススメする」といった身元が保証されている人がまとめた記事の方が読みたくなるし、価値があります。

引用される、されないの定義に関しても、どこの誰かは分からない人に引用されているから権利者は怒るのであって、ネット界隈で有名な人に引用されたら「ありがとうございます」となるのではないでしょうか。だからこそ、誰がどう評価しているのかを明確にすべきだと前から思っていました。

また、まとめサービスをやっていく中で、一次コンテンツ作成者のおかげで成り立っているのに、コンテンツを二次的に利用して流通させている人にインセンティブを与えているだけなのはどうなのかと。立ち上げの頃からずっと議論してきました。

——NAVERまとめの立ち上げは2009年。今まで一次コンテンツ作成者への施策は着手できていませんでした。

言い訳がましく聞こえてしまうかもしれませんが、サービス立ち上げ期の2009年と今では状況が全く異なっています。

当時はブログ全盛の時代であり、ネットコンテンツが元気な時代でした。サービスを立ち上げるにあたっては、スタンダードなユーザー投稿型のサービスを考えていました。

ただ、すでに他のサービスがあり、たくさんコンテンツが発信されているという事実がありました。後発で参入しても成功しない、その次に何をするかを考えなければいけない、という議論をさんざんしました。それでリンク記事とTwitterの声を見せるようなただリスト記事ではないもの、DJで言えばサンプリングして新しいクリエイティブが作れるようなものがないか、といったところからセカンドメディア的な構想が始まりました。

「ユーザーは簡単には書いてくれないんじゃないか……」という思いは抱えたまま、NAVERまとめを開始してみたのですが、結果は想像通り。実際に誰も書いてくれなくて、1年くらい何の成果も出せませんでした。「NAVERまとめは最初から上手くいっている」という文脈で語られがちですけど、全然そんなことはありません。

それで最初に、(まとめ作成者への)インセンティブをやろうとなりました。最初は広告収益を全額分配するというところからです。そのあとに東日本大震災が起こって、情報が錯綜する中で輪番停電のまとめなどもできたりして、そういったところから知られるようになっていきました。2011年に(コミュニケーションサービスの)LINEができて、会社が大きくなっている中で、NAVERまとめの存在意義が求めらるようになったのが2012年頃です。つまりそれまでは全てを作成者に返してしまっているので赤字の運営です。その頃からまとめのページビューも増え始めたのですが、一方では検索サービスのNAVERも閉じてしまったので、独立して事業を回さないといけないという状況になりました。

——NAVERまとめは広告商品(スポンサードまとめ)でビジネスをしています。

PV至上主義から脱却したかったのです。自分たちの作っているものに誇りがあるのですが、ネット広告は結局アドネットワークになっていきます。でもそれだけで終わりたくなかったのです。単価を上げ、より多くインセンティブを返す方法を考えたのです。

当時はライブドアと会社も1つになり、一緒になって商品を作ろうとなっていました。ちょうどNAVERまとめは人が来てみて頂けるようになってきたので、アドネットワークだけでできない、うちでないとできない商品を…というので野心的に作りました。

NAVERまとめは自分たちの実力とは別に、評価が一人歩きしているところもあったのですが、決して順風満帆ではありませんでした。ですが、今回の一連の騒動を受けて、「今ここで対応すべきだ」と強く思えたので新方針を発表しました。

さまざまな“まとめ”が掲載される「NAVERまとめ」のトップページ

さまざまな“まとめ”が掲載される「NAVERまとめ」のトップページ

「お前が言うな」の声、言われると思っていた

——今回の発表について、ネット上では評価する声があると同時に「お前が言うな」という批判の声も大きいです。

それは言われると思っていました。ただ絵に描いた餅、ポジショントークで言うのではありません。新方針にチャレンジすると言い切ることが、自分たちの進むべき道を明確にしてくれるのではないかとも思いました。どういうことをやってきたかまず知って欲しいし、これからをどう考えているかを知って欲しい、と。

——ホワイトリストを作るのでプラットフォームに乗って欲しいという新方針は、NAVERまとめが「Googleになりたい」と言っているような印象を受けます。

Googleというと語弊があるのですが、「検索」になりたいんです。コンテンツを必要としている人とコンテンツを持っている人をいかにつなげるか、ということなのです。

一連の騒動で少しだけ違和感があるのは、検索エンジンについてどう考えるかということです。

権利侵害という意味でいうと、法律的には検索エンジンだけが免責されていて(編集注:検索サービスにおける「複製」は、著作権法上は適法となっている)、自社のサーバー内に保持しています。また中身が分かるレベルでの引用、画像もサムネイルの使用は認められています。

それを踏まえて、ロボットは良くて、ロボット以外がはダメな理由(まとめが検索サービスと認められない理由)はそもそも何だったのかと。例えばロボットが信頼性を評価できないことが今回の騒動につながりました。彼らは2014年頃にドメインを判定する、オーサーランクを導入する、と言っていましたが、それがきちんと適用されていれば問題は起きなかったかもしれません。一番人の目に触れている検索エンジンがどんなルールを設けているか、それがその先のコンテンツのあり方を大きく定義していることには違いありません。

「ウェブの記事はタイトルが9割」という話を耳にすることがあると思いますが、これは中身の信憑性は置いておいていい、人はタイトルしか見ないという今までの仕組みがそうさせているところがあります。

——「検索」において実質的にロボット検索のGoogleしか選択肢がないことが問題だということですか。

1つの選択肢しかなければ、すべてのコンテンツはその評価軸に沿って作られるようになってしまいます。だから、今回のような問題が起きてしまったと思いますし、記事の内容よりタイトルにこだわる傾向にになったのではないでしょうか。

ただ、大学教授であろうとその分野で優れた知識を持っている人でもタイトルのつけ方がうまいかどうかというと、決してそんなことはありません。タイトルをつけるのが上手な人と協業するかたちはないのか……と模索したのがNAVERまとめです。検索エンジンという概念はありつつも、それだけではない接点を上手く作っていくことを考えました。

みんなが検索しようと思ったときに最初に開くページではないので、プラットフォームとして拡大しようとしても難しい部分はあるけれども、LINEのスマートポータル事業と繋がる部分はあります。LINEは“あらゆることはLINEにつながる”と考えているので、将来的にはLINE上で医療のことを知りたいと思ったとき、その医療情報を誰がどのように作ったのか、そこまでつなげる必要が出てくるでしょう。

やり方に関しては見切り発車な部分もありますが、根拠なく新方針を発表したわけではありません。LINEのスマートポータル戦略が進んでいることを踏まえて、私たちはロボット検索とは違ったルールで権利をきちんと守ってコンテンツを届けることができると思っています。NAVERまとめで閉じる話でもないと思っているので、LINE IDでの認証を設けることにしました。LINE IDは(変更できないので)ウソを言ってあとから直す、ということはできません。

そもそも何も担保しない状態だったので、まずは少しでもフィルターがかかる状態にすれば、身元が保証されるようになっていき、検索する意味も変わっていくと思います。

——ロボット検索より以前にあったディレクトリ検索(編集注:「サーファー」と呼ばれる担当者がウェブサイト1つずつにカテゴリを付けて登録するタイプの検索エンジン。かつてはYahoo!検索でもこちらが主流だった)に近い印象も受けます。

私はディレクトリ検索全盛の時代から、ロボット検索が席巻するところまでを、身をもって体験しているので、あのとき多くのモノが失われたのを知っています。

当時はサイトが「その人自身」を表すものでした。今よりもサイトを作るのにハードルは高かったのですが、「好きな情報を発信したい」という情熱がフィルタにかけられて検索エンジンに登録されていました。そこには、ファンの人同士が作っている「リンク集」なんかもあって。そうすると自分の好きなことから新しい興味へ、「横に横に広がっていくインターネット」になっていました。ですがロボット型の検索は「ドリルダウン」しかありません。

例えばフェラーリが好きで調べたい人は、実はスポーツカー全体が好きなことがあります。そうすると他のメーカーのスポーツカーについても派生して調べたいし、興味がある。ディレクトリ検索はそういったものをカテゴリで辿っていけました。そのルールが正しかったかというと異論もありますし、これまで何度もレギュレーションはアップデートされてきました。ですが、(登録される情報は)機械をだませても人の目はだませません。例えば「肩こり 幽霊」なんていうキーワードは(人の目であれば問題があると)分かります。

例を挙げると——最近は事情が違ってきましたが——一般的にはコンピューターが写真を見て、その写真に写っている人物を男性か女性か判断するということは難しかったのです。処理の効率化にコンピューターを使うことはできますが、人間の経験をもとにしないと判断できないこともあります。そんな判断があるので安心できる、信頼できる場所を作る、それを広げる、という手法として「NAVERまとめ」があるのじゃないかとも思っています。

——プロバイダ責任制限法について言及されることが多いですが、NAVERまとめはプラットフォームなのでしょうか。自らコンテンツを発信するメディアになるのでしょうか。

NAVERまとめはプレーヤーになるつもりはありません。LINE社としてはLINE NEWSのチームでやりますが、NAVERまとめではやりません。エクスキューズしておくと広告商品のまとめだけは違いますが、いわゆる情報を発信する立場になることはありません。

—— WELQの騒動ではSEOの手法にも話題が及びました。NAVERまとめもSEOが強いサービスです。

実はNAVERまとめはSEOが本当に弱かったんですよ。初期の段階では韓国のNAVERから開発の支援を受けていたのですが、韓国にはSEOの概念がありません。それは韓国ではNAVER検索が最強の検索サービスで、ウェブ検索ではなくコンテンツ検索が主流だからです。

NAVER検索は知恵袋のようなQ&Aサービスを作って、ハンゲームのコイン配布キャンペーンを実施し、ユーザーにたくさんコンテンツを作ってもらった。できあがったコンテンツはGoogleから遮断し、NAVER内でしか読めないようにすることで、ユーザーを囲い込んでいきました。そういった経験もあり、人とテクノロジーが調和した「探しあう検索」(NAVER検索のテーマ)という根底の考え方を持っています。

しかしSEOを意識しないわけにもいかないので、「最低限インデックスしてもらえるように記述してください」ということは言っていました。もちろん最優先事項は作成者の数を増やすことなので、SEOの対応はすごく遅れていて、今の状態は本当に棚から牡丹餅みたいなものです。

——2015年5月のGoogleのアップデート以降、NAVERまとめは検索順位を落としたと聞きます。Googleに目をつけられるほどSEOが強かったとも言えるのではないでしょうか。

検索順位を落とされたと言われるのですが、私はそれが適切だったと思っています。そもそも検索上位にあることが本意ではありません。コンテンツがオリジナルじゃないし、ある種のリンクの集合体。コンテンツファームに見えるかも知れません。もちろんまとめによっては価値があるのですが、それが検索の1位、2位になることが適切かという悩みはありました。

あくまで私の推論ですが、最近のアルゴリズム変更でページランクと被リンクランクをドメインに返す割合が変わってきているので、その結果、まとめも良いものが残り、そうでないものの順位が下がってきてるだけではないかと思います。

残る著作権問題、どう取り組むか

——著作権に関する問題、情報の信頼性に関する問題は残っています。現在どんな取り組みをしていますか。

著作権侵害に関して残っている課題は事後対応のことだと思っています。結局、掲載後に権利者から連絡をいただかなければ分からない種類の権利侵害がある。我々が見て分かる権利侵害の記事や間違った情報が載っている記事はすぐに落とします。

——ライセンスの必要そうな画像を排除しているのですか。

画像の著作権って一番分からないのです。権利元が分からないですし、媒体がどこまで許諾をとっているのかも分かりません。

以前、宇多田ヒカルさんの楽曲がYouTubeから削除された問題があって、一時期大騒ぎになったんです。権利者から申告があったから消したと思いきや、実が権利者から「なんで消したんだ?」と言われたみたいで、本当に権利者が誰かが分かりづらい。

著作権に関しては申告制になっていることがそもそも問題だと思っているのですが、それを解決するためにあらかじめ「一次コンテンツ作成者が誰なのか」が分かる仕組みが入らないと確認のしようがありません。とにかく、そこがすべてだと思います。

なのでまず「これが私の著作です」と教えてもらう、本当にその人のものであるかを確認する、その人がどういう経験をしてきた人であるかを承認することが1つのステップだと思います。そうすることで私たちがコンテンツを紹介するときは、(一次コンテンツの作成者から)「使っていいですよ」と言われているので使うということができます。

それがNAVERまとめの中で、こういう範囲であれば使って大丈夫という形でどんどん共有していければと思っています。以前から「Getty Images」などとホワイトリスト的な取り組みをしており、権利の所在が明確なものをユーザーは自由にまとめに使えるようにしています。それを一般に広く解放していくイメージですね。

こういう仕組みを構築することで、ユーザーも使っていいものが増えればまとめの量が増えるし、権利の所在も明確になるのでインセンティブの還元もしやすくなる。これは一つの形として考え始めています。

権利者が誰で、どんなことを望んでいるのか。一次コンテンツ作成者に向き合って、彼らが情報を発信していくことに対して助けとなる形で入っていきたいのです。「具体的にいつやるんですか?」といった声もあると思うのですが、まずは始めなければ意味がない。どれくらいの人に賛同していただけるか分からないですが、少なくとも賛同していただいたときに、やってよかったと思っていただけるようにすることが、私たちができることだと思います。

そして、それをやり続けていけば、少しずつ価値が分かってもらえて、「今まではSEOを意識してタイトル付けをしていたけど、これからは中身にこだわればいいんじゃないか」という風に思ってもらえるかもしれません。

——とはいえ、すでに著作権が侵害されているコンテンツも見受けられます。それは権利者に対して「申請して下さい」と言うことになるのでしょうか。

そこはオプションをいくつか考えています。権利の範囲を一緒に設定していければと考えています。まとめられたくない権利も保証するし、まとめられたい権利も保証する。理想的には、その中間も保証したい。権利のコントロールができることが大事だと思っていますが、コンテンツをいただかないことには分からない部分もある。

——著作権を違反しているものがあれば、権利者から申請して欲しいと。

そうですね。申請していただくこともそうですし、明らかに著作権を違反しているものがあれば、こちらから「御社のものですよね? もし宜しければホワイトリストとして取り込ませていただければと思うのですが……」とお声がけする形もあると思います。もちろんNGな場合は断っていただければいいですし、そういったコミュニケーションを取っていけるようにしたいですね。

可能性としてはあらゆる方法が考えられるのですが、まずは追跡可能なデータベースを作ることが最初の一歩になり、後手ではなく能動的に対応できるようになるんじゃないかと思います。「お前が言うな」という声は受け止めるしかない。NAVERまとめには価値のあるものもあるが、もちろん課題があることも事実。きちんと現状を認識しているからこそ、発信するときに身元が分かるようにする方法しか解決の手立てがないと思っています。

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島村氏へのインタビューはここまで。冒頭にあるとおりこのインタビューは12月8日に実施したものだが、それ以降もNAVERまとめに関してネット上ではさまざまな議論が起こっている。TechCrunchでは(1)著作権上の引用について、引用物が主従関係の従になるべきという文化庁見解がある。その観点でNAVERまとめは正しい引用と言えないケースが見られるがどう考えるか、(2)著作権者からの発信者開示請求を拒否したことを契機に、広告配信の停止を要望する動きがあるがどう考えるか——という2点の追加質問を行ったところ、「コーポレートサイトに掲出した当社見解を回答とさせて頂く」(同社広報)とのコメントを得た。

LINEの見解は多くの項目にわたるため、質問に関わる点だけを抜粋すると(1)については、権利者より著作権侵害の申告があった時点で当該「まとめ」の非表示処理を行ったのちに作成者に正当性の証明・掲載再開を行う「みなし非表示対応」を開始したほか、発信者の情報開示体制の運用改善を実施するなどして権利者保護に努めているとしている。また(2)については、個別の事案についてのコメントは差し控えるとした上で、あらためて今回の新方針によって権利者保護、権利者へのメリット提供を行うとしている。ただし、(1)の引用の主従関係に関する具体的な回答はない。

チャットをカスタマーサービスの主流にー、ニューヨーク発のReply.aiがトランスコスモスと資本業務提携

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カスタマーサポートに電話してもなかなかつながらず、イライラした覚えはないだろうか。近い将来、会社の問い合わせフォームや電話番号は全部ボットに置き換わり、必要な時にカスタマーサポートが受けられるようになるかもしれない。Reply.aiは法人向けにカスタマーとやりとりするためのボットの制作と運用をするツールを提供している。本日Reply.aiは、トランスコスモスとの資本業務提携を発表した。また、トランスコスモスはReply.aiの日本での独占販売権を取得し、日本でもReply.aiの展開を進める。

2016年はFacebook MessengerやLINEなどのボットAPIが公開されたことで、ボットの活用に注目が集まっている。Reply.aiはB2B2Cモデルで、法人がカスタマーサポートやマーケティングに使えるボットの構築と運用のためのツールを提供している。Reply.aiではFacebook messenger、SMS、Twitter、LINE、ウェブサイトのウィジェット、Kikのボットが制作可能だ。

Reply.aiではフローチャートを作る要領で、カスタマーのやり取りを想定したボットを作ることができる。開発者はゼロからボットを作る必要はなく、一回作った後でも簡単にボットの内容を変えることが可能だ。

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ボットは効率化、人は人にしかできない親身なサポートを担う

Reply.aiの最大の特徴は、ユーザーの対応をボットとオペレーターで切り替えることができる点だ。カスタマーサポートのボットなら、まずボットがカスタマーの課題を聞き取り、ボットで対応可能な質問はボットが対応する。カスタマーの質問が分からなかったり、対応できない内容の場合、ボットはオペレーターの応対に変えることをカスタマーに提案する。カスタマーがそれを承認するとオペレーターが同じチャットのスレッド内で応対を続ける流れだ。オペレーターはそれまでのカスタマーとボットとのやり取りを確認できるので、改めてカスタマーが問題を説明しなくともスムーズに対応することができる。カスタマーの課題が解決したらオペレーターはスレッドから抜け、チャットボットの機能が戻る。

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企業はReply.aiのダッシュボードからカスタマーとのやり取りを管理でき、ボットに関するアナリティクスデータも見ることができる。そこではどのくらいの頻度でボットが利用されているかやカスタマーの何割がオペレーターと話したかといった情報が分かる。それをもとにカスタマーの課題を知ったり、サービス改善やボットの最適化に役立てたりすることができるとReply.aiはいう。

Reply.ai のファウンダーでCEO、オメール・ペラ氏は「カスタマーにはこれはボットであると明示し、人が応対しているかのような誤解を与えないことが重要だと考えています」という。将来的にはボットは自然言語で様々なカスタマーの要望に対応できるようになるかもしれない。しかし、現状ではボットで効率化が図れる部分と人による親身な対応が必要な部分とを分け、それぞれが得意な部分を担うのが最適なカスタマーサポートの形であると考えているとペラ氏は説明する。

2015年8月にニューヨークで創業したReply.aiは、すでに自動車、金融、エンターテイメント、家電製品など幅広い業界の80社以上の企業で導入されているそうだ。また、Reply.aiはカスタマーサポートソフトウェアZendeskとも連携可能で、今後も他社のカスタマーサポートサービスと連携できるようにしていく計画だという。今回のトランスコスモスとの資本業務提携も、トランスコスモスが長年培ってきたカスタマーサポートの領域での知見を活かしたサービス展開をしていくためとペラ氏は説明する。

日本では、LINEが今年11月に法人向けのカスタマーサポートサービス「LINE Customer Connect」を来春にも提供を開始すると発表している。いよいよ、消費者はどこの法人と連絡を取るにもMessengerやLINEなどのチャットアプリを使うようになるかもしれない。

FOVEがついに視線追跡VRヘッドセット「FOVE 0」の出荷を開始

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FOVEはラスベガスで開催されているCESで、視線追跡VRヘッドマウントディスプレイ「FOVE 0」の発送を開始すると発表した。FOVEが2015年5月に実施したKickstarterのクラウドファンディングにおける当初の出荷時期は2016年3月だったが、その後パーツ調達の問題に直面し、発送を延期していた。それから8ヶ月近く経って、ようやく出荷の準備が整ったようだ。また、FOVEは今回出荷の発表と同時にリラクゼーションを促すVR体験「LUMEN」のコンテンツ追加とVRアナリティクスサービスcognitiveVRへの対応を発表した。

まずは数千台の「FOVE 0」を出荷するという。Kickstarterの更新情報を見てみると、工場からの出荷日は1月8日とある。

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出荷延期などの問題はあったものの、プロダクト開発は順調に進んでいたようだ。2016年11月にはヘッドセットの予約販売にこぎ着けた。価格は599USドルで、今から購入すると2月の発送予定とある。ただ、FOVEは現在、白と黒のヘッドセットを用意しているが、黒色は1月末までの限定販売で、以後白色のみに注力するという。

今回、FOVEは製品出荷の他にコンテンツについてもいくつか発表を行った。1つは、VRスタジオFramestoreが開発しているリラクゼーション体験「LUMEN」が利用できるようになる。LUMENは木々を見ることで育ち、花が咲き、色が変わる幻想的な世界観のVRアプリだ。LUMENは当初Time inc.のVRプラットフォーム「LIFE VR」のみで提供していたものだ。

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もう一つ、FOVEはVRに特化したアナリティクスサービスを提供するcognitiveVRに対応する。cognitiveVRを使用することで、VR上のユーザーの移動経路や視線のヒートマップなどを得ることができる。例えば、VRのコマースアプリであればユーザーが良く立ち寄る場所を特定したり、不動産の内覧するVRアプリであればユーザーが物件で気になっている箇所を特定したりすることができるだろう。

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2016年はOculus Rift、Playstation VRなど主要なVRヘッドセットが出揃い、ようやくそこにFOVEも並んだ。視線追跡はFOVEの特徴的な機能だが、VRヘッドセットに取り組む企業はどこも視線追跡技術の開発を急いでいるようだ。昨年12月、Oculusは視線追跡技術を開発するThe Eye Tribeを買収しているし、同様にGoogleも2016年10月にアイトラッキングのEyefluenceを買収した。GoogleはVRヘッドセットの開発に乗り出すとも発表している。今後数年でVR領域にどのような発展があるか目が離せない。

DeNAが自動運転でZMPとの提携を解消、新たに日産との協業が明らかに

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DeNAは本日、ロボットタクシーを共に手がけるZMPとの業務提携解消を発表した。ZMPはコンシューマ向けのロボットの開発・販売を手がける企業で、2015年5月にDeNAと合弁会社「ロボットタクシー」を設立した。ロボットタクシーでは、DeNAのネットサービス運営ノウハウとZMPの自動運転に関する技術を連携させ、自動運転車両による旅客運送事業を確立する計画だった。

解消の理由についてDeNAは「このたび、ロボットタクシーの運営方針の違いから、両社は別々の取組みを行うことが最善であるという考えに至り、業務提携を解消する運びとなりました」とリリースに記している。

ZMPは自動運転制御開発車両プラットフォーム「RoboCar」や車載コンピューターなどを開発する成長企業で、DeNAと業務提携を発表した頃から上場目前と噂されていた。実際2016年11月にはマザーズ市場への上場を発表したが、翌月にはインターネット上に一部顧客情報が流失したことにより、上場手続きの延期を発表している。

ZMP側のコメントは以下の通りだ。

このたび、ロボットタクシーの運営方針の違いから、両社は別々の取組みを行うことが最善であるという考えに至り、業務提携を解消する運びとなりました。

ロボットタクシーは、当社代表の谷口が「高齢者や子供たち、障害を持つ方など、運転ができない方々に移動手段を提供したい。交通弱者を交通楽者にしたい。」との想いから 2012 年に生み出した「ロボットタクシー」構想を実現するために設立した会社です。当社としましては、今後も「ロボットタクシー」構想を実現のため、新たな枠組みで尽力していく所存です。

ロボットタクシーでの合弁は解消したものの、DeNAは自動運転領域での攻勢をゆるめるつもりはないようだ。本日DeNAは新たに日産と自動運転車両の交通サービスプラットフォームの開発を発表した。年内には日産の自動運転車両を用いた実証実験を実施し、商業利用を目指すという。

就職相談の代わりに学生がOBの依頼に応えるコミュニティーサービス「Matcher」が資金調達

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就職活動を終えた先輩やOB・OGに会って話を聞くことは、学生にとって志望業界を絞り込んだり、就職活動のアドバイスを聞いたりする貴重な機会となるだろう。「Matcher」はOB・OGが学生に会う敷居を低くし、学生とOBをつなぐためのマッチングサービスだ。Matcherは、本日コロプラネクストより資金調達を実施したことを発表した。金額は非公開だ。また資金調達と合わせ、企業の人事向けに学生のスカウト機能も同時にリリースしている。

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Matcherは単に学生とOB・OGをつなげるのではなく、OB側から学生に何かしらの依頼ができるのが特徴だ。OB・OGは、「就活相談にのるので、〇〇してくれませんか?」といったかたちで就活相談のプランを作成する。サービスを見てみると、就職相談にのるのでテニスをしよう、自社製品の企画を一緒に考えてほしいといった様々なプランが掲載されている。学生は気になったプランを申し込み、OB・OGが承認するとマッチングが成立する。OB訪問を実施したら、その後互いのレビューを残すことができる。

Matcherのファウンダーである西川晃平氏は、自分の就職活動の経験をきっかけにMatcherを立ち上げたと話す。大学のキャリアセンターに行ってOB訪問をしようとする場合、紙の書類から会いたい社会人を探さなければならない。書類にはOB・OGの卒業学部や勤め先といった簡単なプロフィールしか掲載しておらず、話を聞きたい人を探すのが難しいと西川氏は言う。また、2017年卒から就職活動の広報解禁の時期がこれまでの12月から翌年3月に変更され、学生が就職活動できる時間は短くなっている。Matcherでは学生が学年や大学を問わず、希望業界や職種の社会人を見つけ、短い時間の中でも有意義な就職活動ができるようにしたいと西川氏は説明する。

ただこうしたOB訪問サービスは学生にとってのメリットは大きいが、OB側のメリットが少ない。Matcherを通じてOB側が学生に何か依頼ができる形にすることで、OB・OGが学生に会うハードルを下げることを考えたと西川氏は話す。西川氏はMatcherは単にOB訪問をするためのツールだけではなく、新しい出会いを提供するコミュニティーサービスと位置付けていると話す。今後プロフィールを元にオススメのユーザーを表示するなどマッチングを高める施策を進めていくという。

Matcherは2015年11月に創業し、サービスは2016年2月にローンチした。現在、登録している社会人は2000名以上で、サービス開始10ヶ月でマッチング数は2万件を達成したという。

今回Mathcerは新たに企業の人事向けに学生のスカウト機能を追加した。これは、企業が学生を検索して、月に30通までメッセージが送れる機能だ。法人はメッセージ機能を使って自社の採用イベントなどに学生を招待することができる。スカウトした学生の選考管理も可能だ。

現在、中途採用ではダイレクトリクルーティングやリファラル採用が広まっているが、新卒採用にもその流れが広がるだろうと西川氏は話す。今後もそれに対応できるように機能を充実させていく考えだという。

Matcherの競合サービスにはOB訪問プラットフォーム「VISTIS OB」やビズリーチが提供する「ビズリーチ・キャンパス」などがあり、どこも企業が情報発信をしたり、採用イベントの告知をしたりと学生と接点を持つための機能を提供している。こうしたOB訪問サービスは登録人数やマッチング率を高めることの他に、いかに企業にとって新卒採用に役立つツールや機能を提供できるかが他社サービスとの差別化における重要な要素となりそうだ。いずれにしろ新卒採用のあり方は着実に変わりつつあるようだ。

日本のVC・エンジェル投資家が予想する2017年のスタートアップ・トレンド(後編)

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2016年もあと数日で終了する。今年もさまざまなスタートアップ企業が登場、活躍したが、2017年はどんな1年になるだろうか。毎年恒例となった本企画では、ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家などを中心にして2017年のテック業界とスタートアップのトレンドに関するアンケートを実施している。本記事はその後編だ。

アンケートの内容は2つ。「2016年を振り返って、最も盛り上がったと感じる分野について挙げて下さい(自由回答)」と「2017年に盛り上がりが予想される分野やプロダクトについて、理由とともに教えてください(自由回答)」というものだ。今回はアンケートの回答順に前後編でご紹介する。なお各VCから回答を得ているとはいえ、キャピタリストは通常カバー範囲が決まっている。各回答が必ずしもそのVCを代表する意見ではないことはご了承頂きたい。

前編はこちら:日本のVC・エンジェル投資家が予想する2017年のスタートアップ・トレンド(前編)

アイ・マーキュリーキャピタル

新 和博(代表取締役社長)
2016年のキーワード:動画、FinTech
2017年のトレンド:スマホ登場以降、消費者の生活を便利にするコンシューマー・インターネット分野が一気に盛り上がり、領域ごとのビッグプレーヤーがほぼ固まってきた印象がある。複数いる勝ち組プレーヤーの中から頭ひとつ抜け出すには、動画やAIを駆使していかに圧倒的なユーザー体験を提供できるか、企業側の課題にも目を向けていかに商流に入り込めるかが今後の戦い方になってくるのではないかと考える。

また、コンシューマー・インターネットの次の波としてここ数年は企業の生産性を高めるエンタープライズSaaSが盛り上がってきた。企業がSaaSを活用するメリットは、コスト削減と付加価値創造の両方を同時に満たせること、さらに従業員にとってのユーザー体験も良くなる。企業が何かのソリューションを検討するときにSaaS型のソリューションを候補に入れない理由はほぼないため、不可逆的な波としてまだまだ続くと考える。

そして2017年に盛り上がって欲しいと考える分野は、社会全体を支えるシステムの効率化。具体的には、医療、介護、物流、教育、少子化対策、食品など。現場に目を向けるとアナログなオペレーションや非効率な情報共有、市場原理を無視した意思決定などがまだ当たり前になっており、ITによって効率化できる余地が大変大きい。規制緩和や改革の動向を的確に読み、持続可能な社会を創るための次の一手を考える骨太なテーマへのチャレンジを期待したい。

PT. CyberAgent Ventures Indonesia

鈴木 隆宏(CEO & Head of Indonesia & India Investment)
2016年のキーワード:インドネシアでは、Fintech(主にLending領域)、Helth Tech、EduTechへの投資や注目が高まっていたと感じています
2017年のトレンド:“特定の分野では無いですが、2017年Q1にAmazonがシンガポールでサービスを開始予定で、2017年以降はEC領域においてAlibaba & Ant FinancialとAmazonの東南アジアでの熾烈な争いが開始する可能性が高まっています。そんな中で各国のローカルEC事業者がどのような戦略で、EC業界の二大巨頭に対抗して行くのかが見物です。

また資金調達環境に関しては、新しいVCファンドが組成され、また他地域のVC/PEが東南アジアへの投資を開始しており活況を見せている。一方で2015年末頃から投資家がユニットエコノミクスを今まで以上にしっかりと見始めている為、B2C領域よりB2B領域のスタートアップの増加が見込まれると考えています。

個人的には、広義の意味で【“あるデータ”が一定閾値を超えると、 加速度的に価値が高まる。そんなデータを収集&活用出来るプラットフォーム】をあらゆる産業分野で注目しています。

伊藤忠テクノロジーベンチャーズ

河野純一郎(パートナー)
2016年のキーワード:FinTech、VR
2017年のトレンド:2017年に盛り上がりが予想される分野は「AI」です。

2016年は、定義や技術レベルの分類が混同されたまた「AI」という言葉が独り歩きし、期待感と危機感から過剰ともいえる盛り上がりをみせました。スタートアップのサービスやプロダクトにも「AI」と形容されるものが溢れ、資金の出し手の数的増加と多様化も重なり、多くの資金が当該領域に流入した1年であったと思います。

2017年は、過剰な盛り上がりが沈静化しつつ、それらの真価が問われるのと同時に、ディープラーニングを取り入れたAIの実用化進展、あらゆる産業での利活用の促進が進むと予想される。当該領域におけるスタートアップの質的、量的充実に期待したい。

また、ほぼ趣味に近いですが、個人的に注目している分野は「BioTech」です。ゲノム編集技術の「CRISPR-Cas9」の特許闘争の行方、老化のメカニズム解明や長寿命療法を目指す「Calico」、「Human Longevity Inc.」、微生物エンジニアリングの「Ginkgo Bioworks」、「Zymergen」等の企業の動向を注視しています。昨年本企画で言及した「農業」についても、引き続き注目していきたい。

DGインキュベーション

林口哲也(マネージング・ディレクター)
2016年のキーワード:IoT、B2B SaaS、VR、AIなど
2017年のトレンド:いずれも定義が重要ですが、VRやAIは2016年を通じて事例が多く出てきました。なので、2017年以降は、実際に効果があるのか? 事業として対価を得られるものなのか? といった点が実用例を通じて検証されるのではないかと考えております。

​B2B SaaSは2016年に引き続き、既存スタートアップの取引も増えるでしょうし、新規参入組も現れると考えられます。SaaSプロダクトの有用性は米国等をはじめ、既に十分に例示されており、日本ではまだまだチャンスがあると思います。

最後に、分野軸ではありませんが、ここ数年のM&Aを経て再び起業されるシリアルアントレプレナーの方々が、除々に増えてくるのではないかと見ております。2016年中、弊社では実際に数社、シリアルアントレプレナーの新たなチャレンジに出資させていただきました。​

YJキャピタル

堀新一郎(代表取締役社長)
2016年のキーワード:動画、IoT、バーティカルメディア
2017年のトレンド:“1)VR/AR/MR:PC、ガラケー、スマホとアプリが走るスクリーンがデバイスの発展とともに推移してきました。Google、Facebook、Apple、Microsoftと、メガネ型のデバイスビジネスへの投資は2016年に積極的に進みました。2018〜2019年ごろに本格普及していくことが予想され、スマホ時代にLINEやFacebookが大ヒットしたように、新たなアプリケーションが2017年以降に誕生していくのではないか、と予想しています。

2)ヘルスケア:シリコンバレーを中心に、ヘルスケア×Techの起業が盛んです。この波は日本にもやってくると思われます。ウェアラブルやスマホを通じて身体情報を収集し、予防医療に役立てるようなサービスが出てきて欲しいと個人的に願っています。

3)動画メディア:2016年、KURASHIRUを運営するdelyとLINE LIVEに動画コンテンツを提供するCandeeに出資させて頂きました。両社ともに自社コンテンツを制作しています。BuzzfeedやNetflix然り、自社コンテンツを持っているメディア企業が最終的にメディア競争に勝っていると見ています。中国では動画×投げ銭メディアが急成長しています。2017年以降も、インターネットを活用した面白い暇つぶしメディアが沢山出てきて欲しいと願っています。

TLM

木暮圭佑(General Partner)
2016年のキーワード:決済、メディア、動画
2017年のトレンド:“個人的に一番推したいのは「音声」だと思っています(あんまり評価されてないんですが)。

radikoのDLランキングの高さやSiri、Amazon Echo、Google Home等の音声認識技術も盛り上がってますし(Echoに関しては米国では9ヶ月だけで200万台売れているくらいの人気)、通勤もしくは仕事中のながらにおける情報収集(娯楽)はありえそう。今ある既存のプラットフォームに載せるという意味ではなく、上記の音声プラットフォームに適した形のコンテンツを作っていければいいのかなと思います。

ベンチャーユナイテッド

丸山 聡(ベンチャーキャピタリスト)
2016年のキーワード:Pokémon GOをはじめとした拡張現実やVRなどのサービスは社会的な認知が広まった1年だったと思います。
2017年のトレンド:既存産業において、SaaSやIoTなどを組み合わせた産業革新がこれまで以上に大きく推進されると予想します。

IT革命といわれてはや20年が経ちますが、特に日本においてはITと相性のいい業界を除いてはなかなかIT化が進んでこなかったところにここ数年くらいの日本企業のオープンイノベーションが推進されている流れや、スマートフォンの普及や、通信コストの低減、チップセットやセンサーなどの価格低下による専用端末の開発・量産コストの低減などによって、これまでIT化が進展していなかった多くの業界においてIT化が進展していくことになるのではないかと思います。

弊社の投資先であるHacobuが提供しているMOVO(ムーボ)はトラック業界を対象としていますが、それ以外にも畜産業界のファームノート、建設業界のCONCORE’Sといった会社をはじめとした企業が既存産業の生産性を劇的に向上させるような取り組みをしており楽しみです。

グローバル・ブレイン

百合本安彦(代表取締役CEO)
2016年のキーワード:AI、VR 、ロボティクス、ビッグデータ
2017年のトレンド:EC:KDDIによるDeNAショッピングの買収等、大資本を投下できるプレーヤー主導による合従連衡が進んだが、2017年以降も同様の流れは加速化していく。

AI:Deep Learningの自然言語処理への応用も進んできており、引き続きDeep Learningをベースとしたベンチャーが注目を集めるであろう。

IoT:BtoBの存在は高まっており、工場のみならず、自動車分野やIoTプラットフォームを提供するXSHELLなどのプレイヤーが存在感を増している。

ロボティクス:協働ロボットの導入が進んでおり、ライフロボティクスの協働ロボットは吉野家での導入が進んでおり、安全性と導入の容易さで高い評価を得ている。

Fintech:PFM領域において、銀行の資金移動系のAPI開放により口座間の振替を行うトランザクション系のサービスが本格化し、利便性の高いサービスが登場する。

BigData:クラウド技術の領域では、自動運転・IoTの発達により、位置情報やセンサー情報を大量にさばくことのできる新しいタイプのデータベースや、サーバレスアーキテクチャを用いたベンチャーなどに注目が集まっている。

最後に、2020年東京オリンピック・パラリンピックを見据え、観光・インバウド、地方創生等に関連する領域でCtoC、シェアリングエコノミー、OtoO等をテーマにしたサービスに注目したい。

プライマルキャピタル

佐々木浩史(代表パートナー)
2016年のキーワード:動画、FinTech、B2B
2017年のトレンド:・ハードウェア(IoT/ロボティクス、ドローン等)
ここ数年の環境整備により、参入障壁が比較的下がってきた分野なのではないでしょうか。先行プレーヤーが蓄積したノウハウの共有や大手によるオープンイノベーション活動が進んでいったりすると、更に活性化すると思います。付随して、画像や音声のセンシング/解析、AI、セキュリティ等のプレーヤーも非常に重要になってくると考えています。
※ウィンクル、フューチャースタンダード等

・ソフトウェア(B2B/SaaS、動画)
特定業界での知見を持った起業家が、ソフトウェアを活用して業務課題を改善するスタートアップには引き続き注目しています。活用はおろか電子化すらできていないデータが多々ある産業は多く、業務プロセスを理解している方にITソリューションが加わると産業の前進に大きく寄与すると考えています。

また、動画についてですが、視聴環境が整備されつつある中で、コンテンツ制作や流通といった領域に事業機会が大きいのではないか?と考えています。
※CONCORE’S、Crevo等

・非IT領域(メーカー、医薬品、食品、ファッション、物流等)
製造方法や流通チャネル、テクノロジーの変化を上手く活用し、多様化する顧客ニーズに上手くアジャストできる企業は、大企業に独占されている市場に切り込んでいけるかもしれません。
※LaFabric(ライフスタイルデザイン)等”

サイバーエージェント・ベンチャーズ

白川智樹(シニア・ヴァイス・プレジデント)
2016年のキーワード:Fintech、動画、AI
2017年のトレンド:・「業界目線」スタートアップ
スマホやソーシャルメディアの登場を契機に、あらゆるサービスをユーザー目線で再定義する動きがここ5〜6年で収穫期を迎えてきています。ユーザー目線のサービスは出揃いつつあるので、特定産業とITに精通したチームが「業界(事業主)目線」でのサービスに新たな着想があるように思います。支援先:favy

・「分散型」インフルエンサー
今年は、動画分野が盛り上がりを見せましたが、個人的には若年層がYouTubeに注目していたと感じました。要因はインフルエンサーの影響力拡大と多様化にあると考えています。今後伸びていくであろう、ライブ動画(LINE LIVE)、自社制作動画(AbemaTV)、SNS(Instagram)においてもその重要性が一層高まり、メディアをまたいで活躍する、いわば「分散型」のインフルエンサー(もしくは事務所)が盛り上がるのではないでしょうか。支援先:VAZ

・「モバイルハイエンド」VR
2016年は、Google Daydream、中国勢のXiaomiのMi VR、HTCのVIVEPORT M、そしてfacebook(Oculus)&SamsungのGearVRなど、モバイルハイエンドVRのプラットフォーム争いが一気に活発になってきました。技術的な課題はありつつも市場の拡大が予測される中、コンテンツ制作や配信支援を行う企業がさらに増えてくると思います。支援先:ワンダーリーグ

グロービス・キャピタル・パートナーズ

高宮慎一(パートナー/Chief Strategy Officer)
2016年のキーワード: 2016年はスマホにおいて、メッセーンジャー、ゲーム、フリマの寡占化、音楽ストリーミングの鼎立、テキストおよび動画メディアの乱立など、デバイスシフトのゴールドラッシュ終盤の盛り上がりを見せた年だった。また、AI、IoT、VR/ARなど『テクノロジードリブンなイノベーション』も、“魔の川(技術開発後の製品化の壁)”に挑む段階での投資が活況だった。
2017年のトレンド:短中期テーマとして、「ファンビジネス」、「リアルに染み出すネット」が盛り上がるだろう。

スマホで残されたフロンティアの1つが「ファンビジネス」だ。ユーザ母数としては限定的だが、偏愛的なファンのエンゲージや課金性向が高い領域におけるコミュニティサービスだ。プレミアリーグやAKB48のモデルのネット化とも言え、アイドル動画配信コミュニティのShowroomが好例で、エンタメ、スポーツ、趣味など多様な領域に展開する上でのヒントを示している。

「リアルに染み出すネット」は、ネットを活用した旧態依然とした産業の変革のことだ。泥臭い業界の現場とネットの知見を兼ね備えることが必要だ。例えば、ラクスル(印刷、運送)、みんれび(葬祭)などがある。また、Fintechもこのコンテキストだと考えている。無為に既存大企業と戦うのではなく、うまく巻き込み業界を変えていくのが肝要だ。

中長期のNext Big Thingとしては、AI、IoT、VR/ARなど「テクノロジードリブンなイノベーション」の“死の谷(製品開発後の事業化の壁)”への挑戦が挙げられる。今まではテクノロジーやプロダクトアウト視点が強かったのが、「どんな負を解決するのか? 日々の生活にどんな便利さをもたらすのか?」というマーケットイン視点との融合が求められる。“発明”から世の中を変える“イノベーション”に脱皮できるのかの試金石のフェーズだ。

大和企業投資

平野清久(取締役)
2016年のキーワード:AI、Big Data、FinTech、IoT、Inbound
2017年のトレンド:2013年頃から始まったベンチャー投資の盛り上がりは5年目となる。2017年は良くも悪くも結果が出てくる年となろう。成長してIPO、M&Aに成功する企業、期待に応えられず厳しい結果となる企業など、いろいろと出てくるだろう。

国策としてのベンチャー支援気運はさらに高まると予想するが、一方でベンチャー企業に対しても社会の一員としてのモラルがより求められてくる。今まで以上にコンプライアンスにコストを掛ける必要が出てくるだろう。

人気領域については構想、実証実験の段階から、実用レベルのプロダクトを出す企業が出てくるだろう。ここでも優劣の差が広がってくると予想する。

私自身が興味を持っている領域は必ずしも世間的に盛り上がっている分野と一致しない。2017年も世間からあまり注目されていないビジネスモデルに捻りのある企業、地方企業などを発掘していきたい。

セールスフォース・ベンチャーズ

浅田慎二(Japan Head)
2016年のキーワード:SaaS、AI
2017年のトレンド:SaaS(クラウド)分野が、引き続き大きく成長すると期待しています。

MM総研調査でも2015年に1兆円を突破したとされる国内クラウド市場は、2020年までに3兆円を超えると予想されており、その中でもSaaS分野の成長が見込めると考えています。米国に次ぐ世界第2位のEnterprise Software市場を持つ日本にて、SaaSベンチャーには大きな成長機会が目前にあると思います。SaaSテクノロジーを積極的に業務に活用さえすれば、圧倒的に生産性の向上が見込める事を、私自身の体験からも断言できます。働き方改革の必要性が叫ばれている今、精神論だけでは何も変わりません。

SaaSの中でも、HR Tech(BizReach社が提供するHRMOSやチームスピリット、CYDAS)、Fintech(マネーツリーが提供するMT LinkというアカウントアグリゲーションSaaS)、ERP(Freee)、Retail Tech(トレタ、Abeja、ユビレジ)、CommerceTech(Yappli)を活用すれば、名実ともに働き方改革が進むと確信しております。テクノロジーの力で業務改善を実現したいです。

photo by Tony Webster

日本のVC・エンジェル投資家が予想する2017年のスタートアップ・トレンド(前編)

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2016年もあと数日で終了する。今年もさまざまなスタートアップ企業が登場、活躍したが、2017年はどんな1年になるだろうか。毎年恒例となった本企画では、ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家などを中心にして2017年のテック業界とスタートアップのトレンドに関するアンケートを実施している。

アンケートの内容は2つ。「2016年を振り返って、最も盛り上がったと感じる分野について挙げて下さい(自由回答)」と「2017年に盛り上がりが予想される分野やプロダクトについて、理由とともに教えてください(自由回答)」というものだ。今回はアンケートの回答順に前後編でご紹介する。なお各VCから回答を得ているとはいえ、キャピタリストは通常カバー範囲が決まっている。各回答が必ずしもそのVCを代表する意見ではないことはご了承頂きたい。

グリーベンチャーズ

堤達生(General Partner)
2016年のキーワード:Fintechと動画系サービス
2017年のトレンド:2016年もそうでしたが、2017年も引き続き大きなトレンドはない状態が続くと思います。一方で、そろそろ広告ビジネスの新しい動きが出てくるのではないかと期待を込めて思っています。といいますのも、広告ビジネスの勃興には周期があると考えているからです。

1996年前後、インターネット黎明期にいわゆるバナー広告が誕生しました。それから7年後の2003年前後にリスティング広告が普及し始めました。そしてさらに7年後の2010年前後には、RTBを中心としたいわゆる“アドテク”が普及しました。この7年サイクルから考えると2017年は、新しい広告フォーマットや広告ビジネスが出てくるのではないかなと考えています。具体的には、インターネットで流れるコンテンツの多くが動画が占めるようになり、なかでもライブ動画が急速な盛り上がりを見せると思います。

今は、ライブ動画のマネタイズの多くは、いわゆる”投げ銭”的なものが主流ですが、それだけですと限界があります。そこで、ライブ動画における新しい広告フォーマットや広告ビジネスが生まれてくるのではないかと考えています。

エンジェル投資家/Tokyo Founders Fund

有安伸宏
2016年のキーワード:トレンド、あまりなかったですね!ニュースは色々あったけど・・・
2017年のトレンド:技術トレンドとしては、machine learning、自動運転、ロボット、VR/AR/MR、などは引き続き面白いと思います。(マクロ感把握したい方には、「Mobile is eating the world」というBenedict Evansの記事がオススメ。インスパイアされます)。日本国内での起業ネタ探しと言う意味では、みんなが飛びつくようなわかりやすいトレンドのない状態が2017年も続くと思います。

個人的に注目しているマクロトレンドは、日本の少子高齢化です。より具体的には、就労人口の強烈な減少。働く人が減るので、人件費が上がる。人件費が上がるので、AIやロボットなどの自動化・無人化テクノロジーの商業化のチャンスが高まる。2016年も、そういった会社複数にご縁をいただいて、シード期にエンジェル投資させていただきました。

このような領域は、数年後にGoogleやFacebookなどの巨人に殺されないように、レイヤー選択と参入障壁作りを慎重にやる必要があるので、初期の市場選択にかなり気を使うのですが、そういった議論を創業間もない起業家とさせてもらえたことは大変刺激的でした。日本国内で起業して、より上を目指すのであれば、シリコンバレーの文脈で競争するのではなく、日本ならではの機会と資源をベースにして頑張るしかないよな!と思う今日このごろです。僕もがんばります!

F Ventures

両角将太(代表パートナー)
2016年のキーワード:FinTech、AI、VR、Chatbot
2017年のトレンド:VRデバイスの普及によってVR事業の増加も期待できます。ゲームコンテンツだけでなく、コミュニケーション、ファッション、教育、映画、会議、不動産、旅行、医療、介護、出会いなどの分野でVRの導入が進みそうです。

また、2016年半ば頃にFacebookやLINEがBotプラットフォームを発表しており、F VenturesでもすぐにBot HackathonやBot Meetupなどを開催しましたが、残念ながらChatbot単体ではビジネスになりにくいのではないかという印象を得ました。ただ、チャットUIを活かしたプロダクトはUXを高めることができるため、どの領域の事業でもチャットUIを使うメリットはあると思います。その周辺領域は2017年も引き続き注目していきます。

一方、レガシーな領域としては、物流、農業、建設、医療、介護などの産業領域で、陳腐化された仕組みのリプレイスが徐々に起きてくるのではないでしょうか。また、金融も引き続き新たなプレーヤーが現れると思いますが、2014年に成立した改正金商法法案により、株式投資型クラウドファンディングが本格稼働になる企業もそろそろ複数出てくる頃ではないでしょうか。

最後に、ユーザーの潜在的なニーズにいち早く気付けるか、も大事ですが、参入のタイミングは非常に大事だと感じています。早すぎて時代が追いついていなくても、遅すぎでもNGでしょう。

エウレカ

赤坂優(Founder)
2016年のキーワード:SaaS、動画メディア、VR
2017年のトレンド:

■SaaS
e-Gov APIを利用した電子申請など、SmartHRやGozalなどの労務管理SaaSは更に成長。海外でもアナリティクスやシステム管理など様々なSaaSソリューションがあり、この領域は継続。

■ネット+α
医療遠隔相談の小児科オンラインや、農家や漁師からの産直サービスのポケットマルシェなど、ネット完結でなく、既存産業×インターネットが更に成長。

■動画メディア
DELISH KITCHEN、KURASHIRU、CChannelやもぐーがソーシャルを流入経路として成長したが、各社アプリをリリースした事で、2017年はリテンション勝負。

■個人間決済
メルカリや楽天、BASEやSTORESなどの普及を背景に、SmallB向けの決済サービスも堅調に伸び、銀行や利用店舗など成長環境が整った所でLINE PayやAnyPay(&Paymo)、Kyashなど個人間決済が伸びる。

■サロン予約
スマホを通じソーシャル発信が増え、WEARでもスタッフ発信が増加し、minimoやpopcornなどサロン予約でも従来型の店舗の広告掲載モデルが崩れリクルート市場のディスラプトがあるかも。

■ミールキット
“インスタ映え”などソーシャル慣れした新ママ世代の登場で、従来型の食材配達市場に変化。BlueApronが普及するように、日本でもKitOisixやTastyTableが成長。

Draper Nexus Ventures

倉林陽(Managing Director)
2016年のキーワード:SaaS、AI
2017年のトレンド:SaaS分野については、引き続きSales & Marketing分野にてcustomer Adoptionが進んで行く。特に国内市場が急拡大しているMarketing Automationの分野では、salesforce.comやMarketo等米国大手も参入し市場は加熱している。投資先のフロムスクラッチ、toBeマーケティングは運用支援、伴走力にも強みがあり、更に事業を拡大させていくだろう。

今後はインフラとしてAIの実装が進み、結果予測、最適行動の提案等が提供されるようになるため、サイカ、マツリカといった分析力やUI/UXに強みのある投資先のソリューションが求められる。また、エンジニアや管理者向けのPaaSソリューションが更に充実し、サーバーコストの最適化や運用管理コストの削減が進んで行く。Mobingiのようなサーバー&アプリケーション管理Platformに期待したい。

またUPWARDが提供するフィールド業務で使われるMobile CRMや、KAKEHASHIが手がけるようなヘルスケアSaaSのような所謂産業系SaaSアプリケーションも、既存のオンプレミスソフトウェアやSI事業をリプレースする形で拡大し国内のSaaSの経済圏を広げていくだろう。

サムライインキュベート

矢澤麻里子(インキュベーター)
2016年のキーワード:AI、 IoT、VR、Fintech、動画、インフルエンサー・マーケティング
2017年のトレンド:2016年はVR元年といわれましたが、2017年はVR/AR市場がさらに加熱すると思います。VRはヘッドセットの普及に依存してしまう部分もありますが、GoogleのDaydreamやPixelの発売も予定され、利用しやすい環境が整うことでさらに参入が増えていくと思います。

また、これまでHealth-TechやMedi-Techも盛り上がりを見せましたが、2017年はBrainTechも盛り上がりが予想される分野ではないかと注目しています。AIやロボティクスなどの技術の発展とともに、我々人間の脳からリバースエンジニアリングをして、新しい技術やサービスにつなげていくスタートアップが増えてくるのではないか、と予想しています。

個人的に注目している領域はFintech、特にブロックチェーン技術です。ブロックチェーン技術はBtoB市場においての活用が多いですが、2017年は一般の人の日常に溶け込み、当たり前に使われるサービスの下支えとして多用されていくのではないかと思います。

サムライインキュベートとしては、まだITが入りきれていないレガシーな産業のリプレイスや、ニッチな中でも深い課題を解決するサービスに対して、2017年も積極的に投資をしていきます。

慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)

山岸広太郎(代表取締役社長)
2016年のキーワード:AI、ビッグデータ、ロボティクス、ドローン
2017年のトレンド:2017年は医療・ヘルスケア関連のベンチャーが盛り上がると予想します。特に、バイオとデジタルヘルス関連の投資が盛り上がると考えています。

バイオ関連は、リーマンショック以降のバイオ投資冬の時代から、京都大学・山中伸弥教授のiPS細胞によるノーベル賞受賞と、薬機法と再生医療新法の改正施行、そしてペプチドリームやヘリオス、サンバイオなどのIPO成功により、再び投資マインドが戻りつつあります。京都大学や大阪大学、慶應義塾大学など、再生医療分野で優れた研究成果を持つ大学から近年スピンオフされたバイオベンチャーが、今後、外部資金の調達を拡大することが予想され、公的資金や大企業の異業種算入なども絡め、この分野への投資が加速するものと予想しています。

デジタルヘルス関連は、米国での盛り上がりを受けて国内でも注目が高まっています。医療・ヘルスケア分野は安全性や信頼性の観点から規制対応もあり、他のIT分野とくらべて急成長は難しいですが、高齢者の増加や労働力人口の減少、国民医療費の増大など、解決した場合のインパクトが大きいテーマが多く、公的資金も事業会社もVCも支援先を物色しています。一方で、この分野のベンチャーは、全体としての数は少ないが、若くてスペックの高い「大人受け」する創業メンバーを擁する企業が多いので、事業が立ち上がるまでの資金をうまく調達していけると予想しています。

iSGSインベストメントワークス

五嶋一人(代表取締役 代表パートナー)
2016年のキーワード:AI、IoT、ブロックチェーン、Fintech、VR、等
2017年のトレンド:2016年から続く流れで、「インターネット完結型」のビジネスモデルより、「インターネット+デバイス」、「インターネット+リアルのサービス」、「インターネット+ヒト・モノ・場所」、といった「インターネット+α」領域での起業や事業の成長が、より活発になると期待します。

日本のスタートアップコミュニティや起業家の中で、自分が実現したい世界や成し遂げたい事業を検討し、スタートするに際し、インターネットの世界に閉じる必要は全く無い、ということがかなり浸透したのが2016年だった、と感じます。さらに2017年は「インターネット+第一次産業」、「インターネット+第二次産業」の動きが、より活性化していくと考えます。

これらの広がりの結果として、事業が立ち上がるまでに必要な時間やコストはより大きくなり、また成功の難易度もより高くなっていくケースが増加すると予想しますが、上記の領域に挑戦する起業家に対しても、iSGSはベンチャーキャピタルとして成すべき支援をしっかりと続けて参ります。

BEENEXT

前田ヒロ(Managing Partner)
2016年のキーワード:分散型動画メディア、HR Tech、C2C
2017年のトレンド:ハードウェア、ロボテイックス、そして機械学習を大きく活用したB2B向けSaaSソリューションがまだまだ増えていくと思っている。

特に古い産業や物理的な資産を管理する必要があるソリューションはソフトウェアだけでは完結しづらい。例えばVerizonが$2.4Bで買収したfleetmaticsはハードウェアを活用したトラッキングデバイスとソフトウェアを組み合わせて車両の管理ソリューションを提供していたり、Ceresimagingは画像認識、機械学習を活用した農業生産向上のソリューションを提供をしていたり、GeckoRoboticsは発電所の点検を画像認識と物理的なロボットを使って無人化している。

農業、製造業、不動産、自動車産業、運送業、保険業は特にSaaS + αのソリューションで次々と面白いソリューションが出てくるだろう。

D4V

伊藤健吾(Founder/COO)
2016年のキーワード:産業xIT、インターネット
2017年のトレンド:インターネットが登場したころからアイデアとしてはあったサービスやプロダクトが既存産業と連携するところで増えてきています。やはりスマートフォンが普及したことでユーザーとして自然に使う環境になったこと、AIやIoT、クラウドといった技術が進化したことで既存産業において適用できるレベルにサービスやプロダクトを引き上げたことが大きいのだと思います。

こうした流れは2017年以降も引き続いていくでしょうが、既存のビジネスの取引がデジタル化されることにつながっていくので、これによって取引を担保するメディアであった貨幣を中心とする貨幣経済から大きく変化し、新しい価値を産むサービスが出てくる元年になるのではないかと予測しています。

Mistletoe

足立健太(シニア・ディレクター)
2016年のキーワード:AI
2017年のトレンド:昨年のアンケートでは「2015年は『IoT』という言葉が根付いた年となったが、IoTスタートアップの多くはハードウェアがネットにつながった段階にとどまっている」とコメントしたが、2016年はそこから一歩進み、ネットにつながったハードウェアから得られる情報を活用したサービスの立ち上がりが見られた。

IoTの本質は「ハードがネットにつながる」というハード側の進化ではなく「ネットがエッジデバイスやセンサといった身体や感覚器官の獲得により賢くなる」ことにあると思う。人間の知性は、情報処理する脳、情報伝達する神経網、情報獲得する身体・感覚器から構成されるが、2016年はネットがこれら3要素を大規模に獲得して知性をそなえ始めた年であり、従来、ネットがリーチしきれなかったリアルの世界における影響力を増してきた。

その萌芽として、冒頭にも書いたサービスの立ち上がりが見られたが、この流れは2017年に入って加速するであろう。中でも特にインパクトが大きな分野、例えば、都市、交通、金融、医療、教育、食といった分野への応用が盛り上がるであろうし、Mistletoeとしても注目している。実際、これらの分野におけるイシュー選定ならびに解決へ向けた取り組みをまさに2016年から開始し、自らをCollective Impact Studioと称して、社内外はもちろん国籍を問わず、様々な技術・知見を結集しているところである。

グロービス・キャピタル・パートナーズ

今野穣(ジェネラルパートナー COO)
2016年のキーワード:Fintech、動画
2017年のトレンド:2017年に非連続にと言うわけではなく、2016年からの引き続きになるとは思いますが、以下の類型で盛り上がるかと思います。
1.テクノロジー進化
(1)産業変革型Tech
金融・教育・医療や不動産・建築など、様々な業種が更にテクノロジーが進化するでしょう。成否は、オープンイノベーションが進むか否かにかかっているように思います。
(2)企業内・企業向けTech
企業内のオペレーションにもテクノロジーの波が浸食するように思います。HR Techなどは、分解すると領域も多岐に渡りますが、注目領域です。
(3)第一次産業Tech
2016年は、農業などの第一次産業に優秀な人材が流入しているのを実感しました。2017年は事業として立ち上がることを期待しています。

2.サービス進化
(1)設備投資レス・所有レスサービス
大局的に不可逆な流れでしょう。結果、シェアリングエコノミーやサプライチェーンの変動化が更に進む領域は沢山あると思います。
(2)CtoC・ファンサービス
スマートデバイスの普及やインフラ整備により、誰でも共有者として参加できるようになっています。結果、ユーザーの粘着の仕方も見直されるでしょう。

アーキタイプ

鈴木大貴(ディレクター)
2016年のキーワード:AI、インバウンド、FinTech
2017年のトレンド:大きなトレンドが一段落しているtoC向けサービスと比べ、AIなどを活用することで顧客の課題解決を行うB2B SaaS全般の注目度が相対的に高まると考えています。労働人口の減少や長時間残業など大企業中心に高まる生産性追求ニーズを捉えるサービスを出すスタートアップが一層増えるのではないでしょうか。

個人的にはHR Techに注目しており、優秀な人材をどのように見極めるのか、採用後いかに人材を早期に戦力化するか、高いパフォーマンスで仕事を行ってもらうためにどうするか、を解決する手段としてのテクノロジーを提供できるプレイヤーがちらほら日本でも現れてきそうだと感じています。

photo by frankieleon

自宅でできる腸内フローラ検査サービスのサイキンソー、総額2.7億円を調達

mykinso

人間の腸内に住み着くさまざまな細菌の集合体「腸内細菌叢(そう)」、別名・腸内フローラ。健康な人も含め、あらゆる人の体に存在する腸内フローラについての研究は、ここ5年ほどで大きく進み、腸内フローラを構成する細菌のパターンを分析することによって、体質や生活習慣、特定の病気になりやすい/なりにくいといったことが分かるようになってきた。

この腸内フローラを自宅で、郵送で検査できる個人向けサービス「Mykinso(マイキンソー)」を提供するスタートアップ、サイキンソーは12月28日、総額2.7億円の第三者割当増資を発表した。引受先はREVICキャピタルとAGSコンサルティングが運営する、地域ヘルスケア産業支援ファンド、ほか事業会社だ。

腸内フローラ分析を支えるビッグデータ解析

腸内フローラ研究の近年の目覚ましい進展は、実は遺伝子解析テクノロジーの向上とリンクしている。ゲノムを読むために利用されてきたビッグデータ解析の技術を、腸内菌のDNA調査に応用することで、従来の技術では乳酸菌やビフィズス菌など、ごく少数の特定の菌の動向しか把握できなかった腸内フローラの環境の全体像が分かるようになり、そこから腸内フローラのパターンが、病気の発症に関わる重要なデータであることも分かってきている。

サイキンソー代表取締役の沢井悠氏は前職で、遺伝子解析を手がけていたバイオベンチャー、ジナリスの取締役経営企画室長として参画していた。残念ながらジナリスは2016年7月に破産しているが、遺伝子解析については、ジーンクエストやDeNAライフサイエンスのMYCODEといった検査キットが提供され、個人向けにもサービスが広がっている。

沢井氏は、研究が進む腸内フローラの解析についても「遺伝子検査サービスと同じようにサービスが提供できるのでは」と考え、2014年11月にサイキンソーを設立。2015年秋からは、郵送検査型の腸内フローラ検査キット・Mykinsoの提供を開始した。Mykinsoでは、腸内フローラを解析するためだけでなく、顧客の問診アンケートと解析データを突き合わせ、体質や生活習慣を読み解くためにも、マイニングをはじめとしたビッグデータ解析を利用しているという。

調達によりデータ収集と開発を強化

Mykinsoはサービス開始から1年少々経過した現時点で、累計約2000キットを出荷。個人向けに検査キットを販売するほか、企業向けに、機能性食品などの摂取による腸内フローラの変化を検査結果としてデータ提供したり、医師らヘルスケア専門職向けに、生活習慣改善のための提案材料となるようなデータやアドバイスの提供を行う「Mykinso Pro」も展開している。サイキンソー取締役の小河原大輔氏によれば「検査キットは個人向けのものと同じだが、Mykinso Proでは、ビッグデータを統計的に見やすくする機能をSaaSとして提供している」とのことだ。

今回の資金調達によりサイキンソーでは、腸内フローラのデータ取得を加速させ、生活習慣病や消化器疾患の発症リスク評価に、もっと活用できる質・量の情報を得たい、としている。沢井氏は「現在はキットを販売することによりデータも蓄積する形を取っているが、事例として腸内フローラデータを使いたいというところ(企業や調査機関)には、戦略的に検査サービスを提供していきたい」と話す。また、Mykinsoのサービス向上を図るため、開発も強化するという。「データそのものの質に加え、データを見やすくするためのインターフェイスの質も上げていく」(小河原氏)

「直近では、今後1年以内に検査件数1万件に到達することが目標だ。桁が上がることで、サービスのステージが変わると考えている。ただ数を集めればよい、ということでもなく、我々としては質の良いデータを集めて、数と質を追求していく」(沢井氏)

サイキンソー代表取締役の沢井悠氏(左)、取締役の小河原大輔氏(右)

サイキンソー代表取締役の沢井悠氏(左)、取締役の小河原大輔氏(右)

腸に良い生活習慣を普及させたい

「日本人の生活習慣は、生活習慣病との関連で海外でも注目されている。日本人の腸内フローラと問診アンケートのデータを集めた上で分析を進め、アジアやヨーロッパなどの海外でもサービス提供することには、意味があると考えている」と、沢井氏は海外進出にも意欲を見せる。

「腸に良い生活習慣を普及させることが、Mykinso事業の中長期的な目的」と語る沢井氏。「健康で長生きできる環境を人々に提供するために、腸内フローラの検査にとどまらず、食べ物の提案や、相談に対するアドバイスなども将来的に展開することを考えている」(沢井氏)

Mykinsoの検査キット販売価格は、1万8000円(税抜)と決して安くはない。遺伝子や腸内フローラの解析ではなく、血液検査のカテゴリーになるが、KDDIの提供するスマホdeドックやケアプロのセルフ健康チェックなど、健康状態をセルフチェックするという目的だけであれば、より安価なサービスも存在している。

こうした“健康セルフチェック”関連の競合サービスについて尋ねたところ、沢井氏は「検査にもクオリティがあって、我々は質の高いデータを取ることに重きを置いてきたので、現状ではこの価格で提供している。ただ今後は、検査キット自体の販売価格は抑えて、生活習慣改善のアドバイスといった周辺サービスをより強化して、そちらで付加価値を出していくことはあり得る」と話してくれた。

ヘルスケア関連の情報提供といえば、このところDeNAの「WELQ」で正確性に欠ける記事が掲載されていた件が問題になっていたが、このあたりの情報の正確性や医療倫理についても質問してみた。「我々が生活習慣改善のための指導を情報提供する場合には、医師などの専門家の監修を受けている。AIに頼るのではなく、正しい、質の高い指導やサービスを提供している」(沢井氏)。腸に良い生活習慣を普及させる、という目的からぶれる動きは考えていない、ということのようだ。

個人からの引き合いだけでなく、医療機関からの紹介でキットを提供することも増えているというMykinso。「医療機関やヘルスケア関連の専門職の方々とも連携して、情報提供を強化していきたい」と沢井氏は言う。「現在利用している方からは、腸内フローラが可視化できて面白い、と言われている。お腹の悩みを継続的に抱える人に利用してもらって『助かった』という声もある。もっとアドバイスがほしい、という期待もいただいているので、応えていきたい」(沢井氏)

多様化するスタートアップ企業の技術チャレンジ、CTO Night登壇10社のピッチをご紹介

スタートアップといえばWebサービス、という時代はもう過去のものになりつつあるかもしれない。ハードウェアを開発したり、金融のようなお固い業界で新しいサービスを作り出したりと、その幅は大きく広がっている。

2016年11月17日に「TechCrunch Tokyo 2016」の中で行われたイベント「CTO Night powered by AWS」では、スタートアップ企業のCTO、10名が登壇し、それぞれのビジョン実現に向け、テクノロジーの観点から成長にどのように寄与してきたのかを語った。限られた時間でのプレゼンテーションながら、技術面からの掘り下げあり、チームマネジメントや組織作りの工夫ありといった具合に、多様なチャレンジが紹介された。

以下ピッチ内容と審査の結果選出されたCTO・オブ・ザ・イヤーを紹介するが、イベント全編の様子は、こちらの動画でもご覧いただける。

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人やチームを動かすのは「ユニークな仕事と生きるのに必要なお金」ーープレイド 柴山CTO

すでに1300社以上に導入されているというWeb接客プラットフォーム「KARTE」は、自社のサイトにどんなユーザーが来ているか把握できるよう支援するサービスだ。年間の解析流通金額は3000億円に達しているというが、これを数兆規模にまで伸ばしていくことが目的という。

その実現に向けて奮闘している柴山直樹氏は、元々は「人」というものを研究するため工学部に進学し、神経科学やロボティクス、機械学習などを研究してきた経歴の持ち主だ。「人を作りたい」と考えてきた同氏が見るところ、「結局のところ人間やチームをドライブするのは、ユニークな仕事と生きていくために必要なお金に尽きると思っているし、CTOの仕事もそれに尽きると思っている」という。

KARTEでは「今来ているユーザーはどんなユーザーか」を知ることができるインターネット横断型のミドルウェアを作り、すべてのインターネットサービスに入れていくこと」をミッションにしている。柴山氏のCTOとしての役割は、この目的、つまり「やりたいこと」とやれること、稼げることの中間地点をビジョンとして設定していくことだ。「CTOの仕事の80%はビジョンを作ること。面白いビジョンやプロダクトと、力強い事業を作りお金にしていくことにフォーカスすることが、熱狂的な組織を作る」と同氏は述べた。

逆に「組織やフロー、文化についてはなあなあで進めていくほうが、他を縛ったりしないのでいいのではないかというポリシーでやっている」そうだ。「いろんな考え方の人がいるので、一番良いものを探すのが難しい。課題があったら毎回その場で考えるのがいいかなと考えている」という。

3人体制のころからスクラムを導入し、進捗を共有ーークフ 佐藤大資CTO

クラウド労務アプリケーション「SmartHR」を提供しているクフは、ちょうどCTO Nightの翌日、11月18日に1周年を迎えるという。年末調整機能をはじめ次々に機能追加、強化を行っているが、それを支えるのはデザイナーも含め7名体制のチームだ。同社CTOの佐藤大資氏は、この少人数で次々開発を可能にした秘訣を紹介した。

最初はカンバン方式で、Trelloを用いてタスクを管理していたが、「おのおのが黙々と開発を行っていて、互いの進捗が分からない」という課題に直面した。「機能ごとにタスク管理を行っているが、工期が伸びてしまうことがあったし、ディレクターはヒアリングのため外回りが多く、進捗が分かりにくかった。営業にも機能追加の時期を伝えにくくなっていた」。そこで見積り精度を高め、進捗状況を共有するために採用したのが「スクラム開発」だった。

スクラム開発を導入した当初、開発チームはわずか3名。その規模でもはじめはスケジュール調整やタスク粒度調整に手間取り、3回目くらいからようやくスクラムが回り始めたという。結果として「綿密な工数出しで工期が正確になり、朝会でタスクごとの進捗や問題点が共有できるようになった。機能追加時期の精度も高くなった。何より最大のメリットとして、経営も週一単位のスプリントで見直しと改善ができるようになった」と述べた。

もう1つ課題となったのは、いかに価値観を共有するかだ。メンバーが増えるにつれて「やるべきこと」と「やらないこと」の区別や機能の優先度がバラバラになってしまう問題が生じた。そこで、30秒程度の短い時間でサービスの全体像を明確に言語化する「エレベーターピッチ」と、機能を段階的に整理する「ホールプロダクト」を取り入れることで優先順位のずれをなくし、会議でも率直な意見が出せる環境にしていった。

「一番大切なことは、サービスについてチームでよく話し合い、サービスの価値観をしっかり共有すること。そしてその場を会社が提供すること。そうすることで、エンジニアも含めすべての職種がサービスに向き合い、自律して行動できるようになる」(佐藤氏)

コミュニティの力を借り、公開できる成果は公開するーーRepro 橋立CTO

フリーランスのエンジニアとして活動した後Reproにジョインし、2016年7月にCTOに就任したばかりという橋立友宏氏は「何をやっていたらCTOになってしまったのか」というタイトルでプレゼンテーションを行った。

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Reproはモバイルアプリケーションに特化したアナリティクス/オートメーションツールを提供している。サービスは急速に成長しており、「入社当初は1日の生ログが100MBくらいだったのが、今は1日15GB程度へと、150倍になっている。単純に同じようなやりかたをしていては、とっくに破綻しているだろう。ビジネスの成長に合わせて技術者とアーキテクチャも一緒に成長していくことが求められる」(橋立氏)

破綻を避けるため、CTOやエンジニアには「ビジネスが重大な課題に直面しても、継続して環境を維持し、成長を妨げないこと。そのために技術者は常に適切なアーキテクチャを選定し、それを実際に形にしていく能力が必要だ。コトが起こってからでは遅いので、先を読んで調査し、それを実際に形にしていく開発力を持っていなければならない」という。実際に同氏は、「fluentd」を活用したスケーラブルなバッチ基盤の構築と高速化、「Embulk」を用いたデータ処理効率化、アプリケーションのコンテナ化といった取り組みを進めてきた。

しかし橋立氏は自らを「僕自身は凡百のプログラマーだと思っている」という。「なぜこのような活動ができたかというと、オープンソースソフトウェアのコミュニティをはじめとするエコシステムの力を借りることに慣れていたから」と述べ、限られたリソースの中でスピード感を持ってサービスを形にしていくには「先達の知識」を借りる必要があると語った。

Rubyコミュニティなどで「Joker1007」として知られる同氏は、ただ先人の力を借りただけではない。バッチ処理改善の過程で、fluentdのプラグイン「BigQuery」のメンテナーになるなど、公開できるものは公開し、コミュニティに還元できるものは還元してきた。

「オープンにできるもの、公開できるものは積極的に公開してコミュニティに還元する。それがエンジニアの世界をよくすることにつながる。そしてエンジニアの世界がよくなれば、世の中全体をよくしていく力になるはず」(同氏)。言うはやすし、行うは難しのこの言葉を、仕事の中で当たり前に実行し、続くエンジニアに背中で見せるのが「僕のCTOの仕事として大事なこと」だという。

ユーザー参加型のテストを採用し、激しい変化に対応ーーOne Tap BUY 山田氏

「投資をもっと身近に」というビジョンのもと、スマホ証券サービスを提供しているOne Tap BUY。さまざまな規制への遵守が求められる金融システムと連携したサービスである以上、いわゆる「Webサービス」とは異なる苦労があったという。

同社システム部 執行役員 システム部長の山田晋爾氏は、「スマホアプリの開発以外に、証券システムも開発する必要があるが、証券業務を回すために必要な注文処理、約定処理、入出金処理、出庫処理、法定帳簿や権利処理など、いろいろと作らなければならないシステムがあった」と振り返った。

スマホアプリのデザインについても試行錯誤してブラッシュアップしていったが、「スマホ側のデザインが変われば、証券システムのサーバ側の処理も変えなければいけない。お客様が入力する情報が変われば、証券業務をどう回していけばいいかも変わっていく」(同氏)。しかし、激しく変更が加わるスマホアプリに応じて対応に当たる開発担当者は当時2名しかいなかった。

「いろいろ悩んだ挙げ句、ユーザー参加型のテストを採用して開発を進めた。通常ならば、システム部でテストを行って保証したものをユーザー側に渡すが、今回はトライアルアンドエラーで、ユーザー部門にデバッグ、テストまでやってもらう形を取った」(山田氏)。全社を取り込んだテストを行うことで品質もかなりの程度高めることができ、おかげでシステムリリース以降、顧客に迷惑をかけるようなクリティカルな障害は出ていないという。

成功体験にとらわれず、「逆説」で課題を乗り越えるーーフロムスクラッチ 井戸端氏

フロムスクラッチのCTOである井戸端洋彰氏は、あらゆるデータソースから企業のマーケティングに必要なデータを取得し、メールやCMS、アナリティクス、MAといったあらゆるマーケティング施策に活用できるプラットフォーム「B→Dash」のアーキテクチャ設計や開発に携わってきた。その中で直面した課題には、常識とされている事柄への「逆説」で解決してきたという。

1つ目の逆説は「多機能開発」。たいていはキャパシティやリソースが限られている中で「選択と集中」を考えるところだが、「自分たちは必要な機能、お客様の要望は全部やります、というスタイルでやってきた」(井戸端氏)。TDDやマイクロサービスを採用し、インターフェイスにもこだわりつつ、「ペルソナを作りながら、どういうユーザーがどういうふうに使っていくか、開発メンバーも社内もしっかり認識を合わせながら開発に取り組んできた結果、順調に伸びている」という。

2つ目は、ウォーターフォールベースで開発しながら、短いときは2週間でリリースするというスタイルだ。「Web系はアジャイルでやっているところが多く、『ウォーターフォールって時代遅れじゃないの』と言われるけれど、逆に業務システムにはアジャイルを適用するのはまだ難しい部分がある。そこでわれわれは適材適所で、ところどころアジャイルの手法を取り込みながら開発をガンガン進めてきた」(井戸端氏)。しっかり要件定義を行いながら、実現時期もコミットし、タイムリーに機能を届ける体制を実現したという。

「マーケティングプラットフォーム市場にはグローバルなビッグ企業が競合として存在し、かなりレッドオーシャンな市場。後発かつベンチャー、フルスクラッチで開発する会社が戦っていくためには、こうせざるを得なかったと思う」(井戸端氏)

最後の逆説は、外部の業務委託エンジニアの比率が高く、一時期は8割を占める体制で開発を行ったことだ。外部エンジニアが増えすぎると、コントロールや効率、モチベーションの面で困難が生じると言われがちだ。しかし「テクノロジーやビジネスが急激に変化している中で、開発組織が柔軟な体制を維持しなければ、圧倒的な開発効率は得られなかった。リスク志向でできない理由を並べるのは簡単だが、たくさんのエンジニアの方とお会いして、会社として実現したい世界観を腹を割って惜しまず話すことで、プロパー、外部エンジニア関係なく仲間としてやる雰囲気作りにこだわってきた」(同氏)という。

「エンジニア、人は、どうしても過去の成功体験にとらわれてしまい、非常識と言われていることに対して『無理だよね』と考えがち。でも、われわれには実現したいものが明確にある。不可能や非常識を常識に変えながら、世界を変えるプロダクトを日本発信で作っていきたい」(井戸端氏)

時にはシビアな意思決定も下しつつ、企業文化を育てるーーカラフル・ボード 武部CTO

カラフル・ボードでは、当初ターゲットにしていたファッションをはじめ、映画や音楽などさまざまな領域で個々人の好みを理解したパーソナルAI「SENSY」を作り、プラットフォーム化して提供している。2016年10月には単月黒字化に成功し、イベントと相前後してチャット型パーソナルAIの「SENSY Bot」や、クローゼットアプリケーション「SENSY Closet」をリリースした他、AI技術をAPI化して「SENSY AI API」としてクローズド公開した。

しかし「戦犯としてのCTO」と題してプレゼンテーションを行った取締役CTO、武部雄一氏によると、道のりは平坦ではなかった。特に武部氏の場合は「カラフル・ボードに参画早々、大きな意思決定を求められる場面があった。当時、コンセプトアプリの域を出ていなかったSENSYにもう一度大きなリバイズをかけるか、それとも別の選択肢を選ぶのか。しかもこの時点で赤字経営となっており、体力の限界が見える中、どこで事業収益を上げ、経営基盤を安定させるという課題もあった」という。

結局武部氏は、「将来性のある新しいサービスに着手する」という判断を下した。新しいサービスで収益を上げ、経営基盤を安定させた上で、パーソナルAIとプラットフォーム化というビジョンに最短経路で結びつける狙いがあった。「入社してすぐ、せっかくみんなががんばって作ってきたアプリに、これから先はそんなに注力しないと宣言した。タイトルに『戦犯』という言葉を使ったとおり、恨まれても仕方がないけれど、そういうシビアな判断をした」。

その実現に向け、マイクロサービス化や開発プロセス、ツールの見直しなど、さまざまな工夫を凝らしたという。「ただ、発明はしてない。当たり前のことを当たり前にやってきた」と同氏は振り返る。チームビルディングについても同様だ。「企業文化やチーム文化を育てて守ることを何より大事にしようと決めた。そのためチームが大切にしたいことを言語化し、『クレド』として明文化した」(武部氏)

最後に武部氏は、次世代のCTOに向けて「リスクテイクしてほしい。それまでのキャリアを捨てて新しいスタートアップに飛び込んでみたり、事業戦略ならば思い切って全然違う方向を選択してみたり、技術ならばこれまでの既存技術の延長線上にないものを選択してみる。そうでなければ大きな成果は望めない」と述べた。さらに「自分は、生き甲斐と仕事がマージできているか、いつも振り返っている。ここが乖離してdiffがある状態だと、あとでconflictしてつらいこともある。コードと違って、自分の人生のpull request権限は自分にしかない」とも述べている。

多様なバックグランドを持つ専門家をまとめるのは「共感」ーーBONX 楢崎CTO/COO

今回のCTO Nightで目立ったのは、ソフトウェア以外領域で成長しているスタートアップだ。その1つ、ウェアラブルトランシーバー「BONX」の開発を行っているBONXの共同創業者でCTO/COOの楢崎雄太氏は、「よく『ハードウェアスタートアップって大変?』と尋ねられるので、今日はその現実を伝えられれば」と、自らの経験を紹介した。

ハードウェアの開発には、ソフトウェアとは桁違いの時間がかかる。BONXの表面仕上げを決めるだけで、デザイン作成と構造設計、素材の選定、仮金型に基づく確認、本金型の作成と調整……、という具合で、約4カ月の時間を要したという。

「ハードウェアの開発って、全然終わらないんです。ものの開発が終われば部材を調達し、倉庫を手配し、どんな物流網で届けるかなど、とにかくやることがいっぱい出てくる。経験がないと分からない分野も多く、専門性が高い。これら全てをやらなくてはならないのが、ハードウェアスタートアップの現実」(楢崎氏)。もちろん、並行してサービスやアプリの開発も必要だ。

これらを形にするために同社では「物語を全ての起点とした製品開発とモノ作りを意識している。『物語』とは、プロダクトビジョンやユーザー体験、カスタマージャーニーといった事柄とおそらく同じことで、要は、モノを通じてどんな価値観を伝えるかが一番大切だと考えている」(同氏)。目指すべき姿が明確になり、一致すれば、エンジニアのモチベーションが沸き、自律的に「次はあれを作るべき」「これはいらないよね」と動くようになり、技術的なチャレンジにも取り組んでくれるという。

photo03もう1つ、組織作りの上では「共感」が大事だと感じているそうだ。「ハードウェアスタートアップは、多様なバックグラウンドのある専門的な人が集まらないとなかなか実現できない。共感してもらうことによって、どんどんいろんな人がきてくれる」(同氏)。

事実BONXには、アプリやサーバだけでなく、音声処理やハードウェア、構造設計や工場管理など、さまざまな専門性を持った人材が集まっている。ただ「その人たちが集まれば自動的にBONXができるかと言うとそうではなく、CEO、CTOのようなゼネラリストの立場の人間が横串をしっかり通し、ストーリーを伝えていくことによってはじめてものができる」(楢崎氏)。ちなみに同氏が、専門性の高いメンバーと話すときに心がけているのは「100%理解しにいかないこと。でも70%は絶対に理解すること。自分はコードは書けないし、CADも書けないけれど、誰とでも同じレベルで議論できていうる自負はある」そうだ。

全てが分かるCTOがいないなら、皆で役割分担すればいいーーチカク 桑田氏

続けて、同じくハードウェアスタートアップであるチカクの共同創業者でまごチャンネル事業部の桑田健太氏がステージに立った。チカクは、スマホとテレビを遠隔で連携させ、孫の写真を遠くにいる祖父・祖母が簡単に見られるようにするコミュニケーションIoT「まごチャンネル」を開発している。

やはりハードウェアスタートアップには独自の苦労があるようだ。「ソフトウェアスタートアップならば結構ノウハウがたまってきており、システム構成や開発プロセスがぱっと思い浮かぶと思うが、ハードウェアスタートアップとなるとなかなかそうはいかない。しかもハードウェアは一度出荷すると、後からの機能アップデートはハードウェア的には行えないため、スペック決めやスケジュールなど、考えることがたくさんある」と同氏。ソフトウェア開発に求められる技術の選択だけでなく、ハードウェアの開発、製造、出荷管理、法律関連の知識に組み込みソフトウェアなど、求められる事柄は倍以上になるという。

「そんなことができる完璧超人は、世の中にはそんなにいない。でもいないからといってハードウェアスタートアップをあきらめるわけにはいかない。そこで、いいことを思いついた。一人でできないなら、皆で役割分担すればいいじゃないかと」(桑田氏)

チカクでは現在、ハードウェアや製造の担当とソフトウェア担当、サーバサイドと出荷管理という分担で3人で技術選択を担う「Chikaku Triad Development」体制を取っている。「一人で全てについてレベルの高い専門知識を持つのは難しいんですが、3人寄ると、それぞれ詳細に突っ込めるので、深めな技術的視点からの指摘ができる。3人いると人的冗長性もできるし、話し合うことで専門分野以外のことにも詳しくなれる」(同氏)。

チカクでは、ビジネスが成長する中で長期的にこの体制を続けるわけではないとしながらも、「CTOがいないからといってやめるのではなく、何とか手持ちのコマで頑張って、みんなでCTO的機能を実現していくのもありじゃないかな」という。

品質とスピードのバランスを重視ーーフューチャースタンダード 鈴木CTO

photo02フューチャースタンダードでは、「気楽にカメラ映像を活用したい」という声に応えるべく、映像解析IoTサービス「SCORER」を提供している。カメラによる映像の取り込みから映像解析、BIツールへのつなぎこみまで、映像解析に必要なものを、クラウドサービスも含めて提供するものだ。

同社のCTO、鈴木秀明氏は「光学系センサーは使うのにいろいろノウハウが必要だが、SCORERの特徴の1つはさまざまなカメラを活用し、多様なシチュエーションに対応できること。また、映像解析アルゴリズムの開発は、自分でやろうとすると莫大な費用がかかるが、弊社が代理で一括して利用権を取得することで、高度なアルゴリズムをリーズナブルに、簡単に利用できる」と説明した。

「IoTの目になる」というビジョンを掲げる同社。かつてNECで15年ほど製品開発・保守を行ってきた経験を持つ鈴木氏が、CTOとして重視してきたのが「品質とスピードのバランス」だったという。「品質というものは、結局は使い方で決まる。そのため、プロトタイプと製品とをしっかり分けることで、どちらも満足させる方法をとってきた」(同氏)。特に製品バージョンの設計は、将来のスピードを殺さないと言う意味で重要だととらえ、時間をかけて検討したそうだ。その経験から「技術的負債の返済は、多少時間をかけてもあとで必ずもとが取れる」という。

金融機関なのに、半数以上がエンジニアーーウェルスナビ 井上CTO

資産運用を自動化する「ロボアドバイザー」によって資産管理を支援するサービス「WealthNavi」を提供しているウェルスナビ。同社は「次世代の金融インフラを構築し、働く人が豊かさを実感できる社会を作る」ことをミッションに掲げてサービスを開発しているが、やはり、証券会社ならではの課題に直面したという。取締役CTOでプロダクト開発ディレクターも務める井上正樹氏は「スタートアップが証券会社って作れるの? と思うかもしれませんが、大変です」と率直に述べた。

例えば、画面上の項目を1つ減らしたいだけなのに、金融証券取引法、日証協、税法などさまざまな法令や取り決めを確認したり、時には弁護士と相談したりで簡単にはいかず、あっというまに1週間やそこらの時間がかかってしまう。オペレーションにしても、障害管理にしても数百ページにわたる安全基準が定められており、遵守が求められる。万一、顧客に影響があるような障害が発生すれば大ごとで、金融庁に報告にいかなくてはならない、という具合だ。

さらにコスト削減を図りつつ、証券や銀行、勘定系といった「固い」システムとの連携が求められたりと、さまざまな難しさがある中で、「既存の金融サービスをいかにネットのサービスにしていくかが私たちのミッション」だと井上氏は述べ、そんな中でもほぼ毎月新機能をリリースするという、普通の金融機関ではあまり考えられないペースで開発サイクルを回しているという。

中でもこだわっているのは、社員の半数以上がエンジニアという金融機関として、システムを内製していることだ。「フィンテックの最終形が何かが分からないうちに、システム作りの外注は難しいと思っている。そこで、フィンテックをちゃんと作れる開発チームを作ろうということをテーマにしている」(同氏)。それも、誰かが作った仕様通りに実装のではなく、現場のエンジニアも企画に入り、効果があるのかどうかを考えながら作れる組織にしようとしているそうだ。

既存のプレイヤーに正面から喧嘩を売るつもりもなく、「きちんと金融機関とコミュニケーションし、既存のものを生かしつつ、次世代のフィンテックインフラを一緒に作っていきたい。そこにもエンジニアが活躍できる場があると思う」(同氏)。

エンジニアが開発プロセスの中で自然となじんでいる論理設計やモジュール化といった考え方は、情報整理や組織設計といったプロジェクトマネジメントにも大いに発揮できるだろうと井上氏。その意味からも「これからのCTOは、テクノロジーを駆使するのはもちろんですが、プロダクトを作って、かつ事業まで入ることが大事」と呼び掛けた。

CTO of the year 2016はReproの橋立氏に

こうして、時に時間的負債を蓄積しつつ行われた10人のCTOのプレゼンテーション。審査委員による審査の結果、今回の「CTO of the year」にはReproの橋立氏が輝いた。

審査員を代表してコメントした藤本真樹氏(グリー 取締役 執行役員常務 CTO)は、「事業もそうだし、CTOとしてのタイプもそうだが、今年は幅が広がっていると感じた。スタートアップやCTOの世界が成熟していることは間違いないと思う」と述べ、互いに交流を深め、学び、より早く成長して競争し、業界が盛り上がれば、と期待を述べた。

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