原子間力顕微鏡を用いて世界で初めて個別のDNA損傷を直接観察することに成功、がんや老化のメカニズム解明に期待

世界で初めて個別のDNA損傷を直接観察することに成功、がんや老化のメカニズム解明に期待

今回の技術を用いて撮像したさまざまなDNA損傷形態の原子間力顕微鏡(AFM)画像。糸状に見えるDNA鎖に、明るいドット(損傷に結合しているアビジン・卵白に含まれるタンパク質の一種)が確認できる。これを観察することで、DNA損傷の位置を可視化できた。観察の結果、通常の孤立した塩基損傷以外に、塩基損傷が集中して生じた領域であるクラスター損傷、DNAの末端に塩基損傷があるタイプの損傷、塩基損傷が複数個固まったような高複雑度クラスター損傷など、多彩なDNA損傷を見ることができ、損傷の「種類分け」に成功した

量子科学技術研究開発機構(QST)は3月22日、生きた細胞内の60億塩基対のDNA鎖上にある、たった1つの損傷を見つけ出して、直接観察できる技術を世界で初めて確立したと発表した。DNAの損傷を可視化し個別に観察することが可能になったことから、損傷が自然に修復される様子や修復されにくいタイプの損傷の構造が明らかになり、DNA損傷の修復エラーが原因とされるがんや細胞老化のメカニズムの解明、効率的ながん治療に貢献すると期待されている。

量子科学技術研究開発機構量子生命・医学部門量子生命科学研究所DNA損傷化学研究グループの中野敏彰氏、赤松憲氏、鹿園直哉氏らと、広島大学の井出博名誉教授からなる共同研究グループは、長いDNA鎖から損傷部分を取り出し、原子間力顕微鏡(AFM。Atomic Force Microscope)で直接観察することに成功した。細胞内のDNAは、放射線など様々な要因で傷つくが、その傷には細胞の働きで自然に修復されるものと、されないものとがある。その修復されない損傷が、細胞死やがんにつながるとされている。老化やがんのメカニズムを解明し、効果的な治療方法を確立するためには、DNA損傷を1つずつ詳しく観察する必要がある。ところが、従来用いられていた蛍光顕微鏡のマイクロメートルレベルの解像度では、その可視化は原理的に不可能だった。

そこで研究グループは、ナノメートルレベルの解像度を持つ原子間力顕微鏡を使った観察を目指した。まずは長いDNAを観察可能なサイズに切り分け、膨大な量のDNAの断片から、損傷を含むものだけを集める手法を開発。損傷部分のみを探し当てて直接観察できるようにした。実験では、放射線を照射したヒトリンパ芽球細胞からDNAを取り出し、塩基に生じた損傷を特殊な酵素で切り出した。そして、その切り出した部分の塩基欠損部位に特異的に化学結合する薬剤で標識を付けた。これを原子間力顕微鏡で観察可能な長さに切断すると、損傷を含むDNA断片と含まないDNA断片が作られるので、標識に結合する磁性粒子で損傷のあるDNA断片だけを集めた。

細胞中の長いDNAから損傷を含むDNA領域のみを集めてAFM観察する方法

細胞中の長いDNAから損傷を含むDNA領域のみを集めてAFM観察する方法

個々の損傷が可視化できたことから、DNA損傷を、周辺に損傷のない「孤立塩基損傷」や複数の損傷が集中して起きる「クラスター損傷」などと種類分けができるようになった。また、それぞれの修復の速度も解析できるようになった。たとえば、重粒子線を当てた細胞では、損傷が6時間で8割修復された。エックス線の場合は1時間で約半数、6時間で約8割が修復された。しかし、二本鎖切断と呼ばれる損傷はなかなか修復されないことがわかった。

こうして修復されにくい損傷の形態がわかり、重粒子線による損傷と修復されにくさを解析できるようになったことが、がんの放射線治療の効果向上に役立つと期待される。またこの技術を発展させることで、発がんメカニズム、老化の原因の解明なども可能になるという。今後は、DNA損傷の特徴に合わせて、どのような修復メカニズムが働きやすいか、または働きにくいかを明らかにしてゆくとのことだ。

次世代型mRNA創薬の実用化に向けた名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology設立

次世代型mRNA創薬の実用化に向けた名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology設立

名古屋大学は3月18日、メッセンジャーRNA(mRNA)の製造、分子設計・医学に関する知見、AI、データサイエンス、シンセティックバイオロジー(合成生物学)などの最先端技術を融合し、次世代型mRNA創薬を目指す名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology(クラフトンバイオロジー)を3月1日に設立したと発表した。国産mRNAワクチンの速やかな供給をはじめ、がんや遺伝子病の治療、再生医療にも応用されるmRNA創薬に取り組むという。

Crafton Biotechnologyは、名古屋大学、京都府立医科大学、早稲田大学、理化学研究所、横浜市立大学の共同研究を実用化することを目的に設立された。10年以上にわたりmRNAワクチンと医薬品の開発に取り組んできた名古屋大学大学院理学研究科の阿部洋教授と京都府立医科大学大学院医学研究科医系化学の内田智士准教授らが、AI、データサイエンスを専門とする早稲田大学の浜田道昭教授、シンセティックバイオロジーを専門とし進化分子工学の手法を採り入れた次世代mRNAの製造法と設計法を開発する理化学研究所の清水義宏チームリーダー、さらに、副反応の少ないmRNAワクチンの開発を進める京都府立医科大学大学院医学研究科麻酔科学の佐和貞治教授と横浜市立大学眼科学の柳靖雄教授らが連携し、「強固なベンチャーエコシステム」を構築するという。そのとりまとめを行うのが、代表取締役を務める名古屋大学大学院理学研究科の金承鶴特任教授。そのほか、安倍洋教授が最高科学責任者、内田智士准教授が最高医療責任者に就任した。名古屋大学インキュベーション施設に拠点を置き、各研究機関の技術をライセンス化して一元的に集約。mRNA技術の事業基盤を確立し開発を促進する。

同社は数年以内に国内でmRNAを製造できる体制を整備し、安定供給を目指す。また独自の創薬技術を整備して、新型コロナウイルスに限らず、感染症のパンデミック時に独自開発したmRNAワクチンの迅速な供給を可能にすると話す。また、治療技術の海外依存度が大変に高くなっている現在、医薬品産業における日本の国際競争力を高める上で非常に重要な「ワクチンを超えた医薬品としてのmRNAの応用」として、がんや遺伝性疾患、再生医療への応用にも取り組むとしている。

4000年かかるヒト遺伝子の網羅的探索を富岳と「発見するAI」利用し1日で完了、肺がん治療薬と耐性の因果メカニズム抽出

富岳と「発見するAI」利用し4000年かかるヒトの遺伝子の網羅的探索を1日で完了、肺がん治療薬と耐性の因果メカニズムを抽出

東京医科歯科大学富士通の研究グループは3月7日、スーパーコンピューター「富岳」と、富士通が開発した「発見するAI」を用いて、肺がん治療薬の耐性の原因と思われる遺伝子の、新たな因果メカニズムの抽出に成功したと発表した。これは、2万変数ものデータを1日以内で超高速計算し、1000兆通りの可能性から未知の因果を発見できる技術の開発によるもの。

がんの原因となる分子だけに作用する「分子標的薬」は、投与を続けると、それに対する耐性を持つがん細胞が増殖し再発するという課題があり、そのメカニズムを解明するには、精緻なデータと解析技術が不可欠となる。また、薬の臨床治験では、効果が期待できる患者を選ぶ必要があるが、個人の遺伝子やその発現量により薬剤効果が異なり、遺伝子の発現量の組み合わせパターンは1000兆通りを超える。がんに関係することが判明している主な50個の遺伝子の組み合わせに限定し、各遺伝子の発現量を2分類(遺伝子の発現の「高い」「低い」など)とした場合でも、条件数は2の50乗となり、1000兆通り以上となるそうだ。

そのため、効率的な探索技術が求められており、その有力な候補となるのが富士通が開発した「発見するAI」だ。これは、判断根拠を説明でき、知識発見が可能なAI技術「ワイドラーニング」(Wide Learning)を用いて、特徴的な因果関係を持つ条件を網羅的に抽出する技術なのだが、2万個あるとされるヒトの全遺伝子を網羅的に探索しようとすると、通常の計算機では4000年以上かってしまう。

そこで研究グループは、富岳に条件探索と因果探索を行うアルゴリズムを並列化して実装し、計算能力を最大限に引き出した。そこに「発見するAI」を活用したところ、ヒトの全遺伝子に対する条件と因果関係の網羅的探索が1日以内で実現した。そして、肺がんの治療薬に耐性を持つ原因となる遺伝子の特定に成功した。

研究グループは、今後、薬効メカニズムやがんの起源の解明といった重要課題に取り組むとしている。また東京医科歯科大学は、この技術を用いてがんや難病の攻略法の研究を推進する。富士通は、マーケティングやシステム運用などで複雑に交錯する因子を発見し、意志決定を支援する取り組みを進めるとのことだ。

がん患者のためのデジタルサポートと研究開発向けのSaaSを提供する英Vinehealth、米国でのローンチを目指して6.2億円調達

2018年にロンドンで設立されたデジタルヘルスのスタートアップVinehealth(ヴィネヘルス)は、がん患者のためのパーソナル化されたサポートを提供すると同時に、薬の開発や臨床試験を含む患者報告アウトカム(PRO:Patient Reported Outcome)データの収集を容易にするアプリを構築した。同社は米国進出の準備を進める中、550万ドル(約6億2000万円)のシードラウンドを完了した。

共同創業者でCTOのGeorgina Kirby(ジョージナ・カービー)氏が「後期シード」と呼ぶこのラウンドは「今後12〜18カ月の間に」予定されているシリーズAに先立って行われたもので、Talis Capital(タリス・キャピタル)がリードし、既存投資家のPlayfair Capital(プレイフェア・キャピタル)とAscension(アセンション)が参加した。

AXA PPP Healthcare(AXA PPPヘルスケア)の元CEOであるKeith Gibbs(キース・ギブズ)氏をはじめ、多くのエンジェル投資家もこのラウンドに参加している。Newhealth(ニューヘルス)のパートナーPam Garside(パム・ガーサイド氏)、Wired(ワイアード)の創刊者兼編集者David Rowan(デビッド・ローワン)氏が率いるVoyagers Health-Tech Fund(ボイジャーズ・ヘルス-テック・ファンド)、ヘルスケア起業家でPI Capital(PIキャピタル)の創業者David Giampaolo(デビッド・ジャンパオロ)氏、Speedinvest(スピードインベスト)とAtomico Angel(アトミコ・エンジェル)のベンチャーパートナーDeepali Nangia(ディーパリ・ナンジア氏)、Bristol Myers Squibb(ブリストル・マイヤーズ・スクイブ)のVP兼元医療ディレクターFaisal Mehmud(ファイサル・メフムード)氏、King’s College London(キングス・カレッジ・ロンドン)とKing’s College Hospital NHS Foundation Trust(キングスカレッジ病院NHS財団トラスト)およびGuy’s and St Thomas’ NHS Trust(ガイズ&聖トーマスNHS財団トラスト)のコラボレーションであるKHP MedTech Innovations(KHPメドテック・イノベーション)が名を連ねている。

このスタートアップは、2019年に創業者たちがEntrepreneur First(アントレプレナー・ファースト)のデモデーにピッチしたとき、私たちが「注目すべき」と評した企業だ。同社は、行動科学とAIを組み合わせて、患者にタイムリーなサポートとナッジ(薬の服用を促すリマインダーなど)を提供することで、患者が自分の治療をより簡単に自己管理できるようにしている。

Vinehealthのプラットフォームは、患者が症状に関するフィードバックを提供したり、治療の副作用を報告したりする際に、臨床医が患者をリモートで監視できるチャネルとしても機能する。

このアプリは2020年1月に公開されて以来、これまでに約1万5000回ダウンロードされている。カービー氏が確認したところによると、そのダウンロード数はこれまですべて利用に及んでおり、純粋な患者サポートと試験・研究の両方が含まれているという。

同社の患者支援アプリは、がん患者が自分でダウンロードできるように無料で提供されている。現在は英国とアイルランドで利用可能となっている。

製薬業界向けには、VinehealthはそのプラットフォームをSaaSとして提供しており、製薬会社が試験のために患者を募集したり、研究開発や医薬品開発のためにPROを集めたりするのを支援している。

「私たちは最初から製薬業界に注力してきました。トラクションを豊富に獲得しており、多くの機会を見出しています」とカービー氏は語る。「患者支援プログラムと臨床試験は極めて類似性が高い(プロダクト)です【略】製薬業界向けのものは、薬の開発プロセスの一部であるという点で異なりますが、ソフトウェアの提供という観点では、そのプロセスを通じて患者が必要とするものであり、非常に類似しています。そのため、こうしたライフサイエンスのオファリングに的を絞っています」。

同氏は、Vinehealthがヘルスケアサービスに直接売り込む調達ルートを進んではいないことを強調した。つまり基本的には、患者への支援ソフトウェアの無償提供にライフサイエンス研究が資金を提供する、という考え方だ(ただし、現時点では製薬業界の顧客名を公表することはできない)。

収益化に関しては、製薬会社のニーズに応えることに焦点が置かれている。Vinehealthは患者中心のアプリとして見られることも同様に切望しており、より良い患者アウトカムを促進する重要な臨床医サポートの役割を果たすことを目指している。

「どのブラウザからでもアクセス可能なウェブダッシュボードを用意しています。患者をリモートで追跡したいと考えている臨床医や医師は、調査研究の実施を通じて、あるいは臨床試験の中でも、それを行うことができます」とカービー氏。「こうした医師や看護師はデータをリアルタイムで見ることができる一方、それをケア経路の適切なポイントのいずれかに送り込むことも可能になっています。もちろん、彼らは1日中ダッシュボードの前に座っているということはありませんが、特定の危険信号を確認してどの患者を最初に診察すべきかを把握することや、そのようなリアルタイムのデータを使ってより良い臨床判断を下す方法を知ることは、通常(隔週や月ごとの患者追跡)よりも非常に有益な場合があります」。

「これまでに得たことのないコンテキストと豊富な長期的データを提供するものです」と同氏は付け加えた。

Vinehealthは従来の紙ベースの質問票をデジタル化した。がん患者が臨床チームを訪問する際、症状を報告し、より広範なフィードバックを提供するために記入するよう一般的に求められるものだ。

その前提は、レガシープロセスを専用のユーザーフレンドリーなデジタルインターフェイスに移行することで、より良い患者の自己管理、治療アウトカム、そしてがんとともに生きる人々の生活の質の向上をサポートすることにある。アプリ経由でデータを報告するのが相対的に簡単であることに加えて、同社はそこにより幅広いサポートパッケージを組み合わせている(アプリにサポートコンテンツを提供するために慈善団体Macmillan[マクミラン]およびBowel Cancer UK[バウエル・キャンサーUK]と協力している)。

例えば、A/BテストとAIを利用して、適切なリソースを抽出するためのパーソナライズされたタイムリーなレコメンデーションの設定、患者の薬の服用に対する注意喚起や動機づけの最善方法の決定、がん治療のための複雑な投薬レジームとなり得るものの管理などを行っている、とカービー氏は説明する。

Vinehealthのアプリラッパーは、患者にPROを提供するよう促すポジティブなフィードバックを施すこともできる。

カービー氏は、患者がPROのデータを効果的に追跡すれば、生存率が最大20%上昇する可能性があるというエビデンスを挙げている。「より良い自己管理は、生存に多大なインパクトを与える可能性があります」と同氏は話す。「私たちは生存率の改善だけではなく、生活の質の向上も提示したいのです」。

行動科学とデータ駆動型サポートを融合したVinehealthのアプローチは、共同創業者たちの専門知識を組み合わせたものだ。

「レイナ(Rayna Patel[レイナ・パテル]氏、共同創業者兼CEO)の経歴はまさに行動科学にあり、私の経歴はデータ科学にあります」とカービー氏は語る。「私たちが協働を始めたとき、ここで双方を有効に活用できると考えました。データを使用することで、人々がどのような状況に置かれているかを把握し、そのナッジが最も効果的なのはどこかを特定することができます。また、行動科学を利用して、適切なタイミングで重要なポイントを的確な言葉で提供することで、人々が習慣を身につけ、よりコントロールできるようになり、何が起こっているのかを実際に理解し、自分のケアのためにより良い決定を下せるようになります」。

「アプリにはいくつかのナッジがあります。大小さまざまです。実際に効果があり、患者に見過ごされてしまうことのない、特定の方法で提供される薬のナッジやリマインダーを開発しています。特定の症状や、それが何につながるのかを記録するためのナッジであり、特定の支援コンテンツを形成するものです。特定のレベルで懸念を記録していくことができます。ここには、具体的な症状や薬の副作用に対処するのに本当に役立つ支援コンテンツがあるのです」。

「時によって、タイミング、言葉の使い方、そしてそのナッジを届けることに関する要素に配慮します」と同氏は言い添えた。「一度にあまりにも多くのことを変えようとすると、何も変えられないという研究結果が出ています。ですから私たちは、どのように患者を少しずつ動かしていくか、どのように患者がより良い習慣を身につける手助けをするのか、またそれをどのくらいの頻度で行うのかについて、慎重に検討を重ねています」。

カービー氏によると、AIを利用して、将来的には予測症状のログ記録など、より高度な提案をプラットフォームに組み込むことも目標に据えているという。例えば「この特定の患者に対して、この特定の薬で何が起こり得るか」といったことだ。

現在のところ、Vinehealthは腫瘍学に特化し、患者に合わせてカスタマイズされたコンテンツレコメンドシステムを構築している。患者の診断に合わせて調整し、患者の継続的なインプットに適応し、他の同様の患者が閲覧し支持しているコンテンツを考慮に入れていくものである。

研究面では、9つのNHSトラストと300人の患者が関与する進行中の研究がこれまでに同プラットフォームで利用された中で最大の研究であり、これはVinehealth自身が行っている研究の一部でもあるとカービー氏は述べている。

健康データはもちろん非常に機密性が高く、Vinehealthが医療情報を処理してサービスを提供し、個別化された治療サポートを行うためには、患者支援プロダクトのユーザーに求められる同意とは別に、第三者による研究目的のための同意が求められることをカービー氏は認めている。

「そのデータは誰とも共有されないものです。ただし、明示的に同意した場合を除きます。プラットフォームにサインアップするだけで、臨床試験の一環としてデータを共有することに同意することにはなりません。これはまったく別の同意です」と同氏はいう。

「私たちはそれを極めて明確にしており、いかなる形であっても共有を隠すことを望んではいません。それは患者にとって真に明白かつ明確でなければなりません。最終的には誰もが患者をサポートしたいと考えています。患者が臨床試験に参加する機会を増やし、そのデータを収集し、例えば自宅で関連する副作用に苦しんでいて、製薬会社に戻ることがないような状況でもそのデータをフィードバックできる方法を提供したいと思っているのです。だからこそ私たちは、自分たちが何をしているのか、なぜそれをしているのかを真に明確にし、患者に選択肢を提供していこうと努めています」。

将来的には、同スタートアップは、患者から提供され、純粋に集計されたインサイトに基づいて「適切に匿名化された」データセットを提供できるようになるかもしれないことをカービー氏は示唆した。例えば、特定の薬剤の特定の副作用を経験している人口統計学的グループをハイライトすることができるかもしれない。しかし現時点では「臨床試験と患者支援プログラムに重点を置いているため」それは行っていないと同氏は付け加えた。

短期的には、Vinehealthは米国でのローンチを通じた成長に向けて準備を進めており(「2022年の早い時期」に実現したいと考えている)、18人強のチームは今後6カ月ほどで倍増する見込みで、最初の米国人雇用者はすでに確定している。

「資金調達を行って以来の私たちの主要な焦点は、優秀なチームを採用して成長させ、チームを築き上げることに時間を投資すること、そして全員がミッションに整合し、この新規市場に参入できる拡張性の高いプロダクトを私たちが実際に構築しているのだと明確に認識することに置かれています」とカービー氏。「スタートアップを立ち上げるには優秀な人材が必要です。優れたテクノロジーを持つことはできますが、優秀な人材がいなければ意味がありません」。

Talis CapitalのプリンシパルであるBeatrice Aliprandi(ビアトリス・アリプランディ)氏は声明の中で次のように述べている。「レイナ(・パテル氏)やジョージナ(・カービー氏)と提携することを非常に楽しみにしています。私たちは、ヘルスケアのアウトカムが財務的なアウトカムと直接的な相関関係にあるという独自のバリュープロポジションを考慮して、投資を行う数カ月前からVinehealthの成長に注目していました。これは患者、病院、製薬会社にとってWin-Win-Winの関係であり、医療業界ではほとんど見られないものです」。

「最初のミーティングから、創業者たちのレジリエンスとミッション主導の姿勢はすぐに明らかになり、そのことがこのオポチュニティを非常に魅力的なものにしました。レイナもジョージナも、がん患者の生活と生存を改善することへの極めて強い動機を持っていることは間違いありません。チームとして、彼らはVinehealthを成功に導くための専門知識、スキル、動機の独自の組み合わせを備えています」。

画像クレジット:David Albatev / under a license

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

患者と医師、両方からデータを得てがん治療をよりパーソナライズする仏Resilience、約51.6億円調達

フランスのスタートアップであるResilience(レジリエンス)は、中央ヨーロッパ時間1月25日、Cathay Innovationが主導するシリーズAラウンドで4000万ユーロ(約51億6000万円)を調達したと発表した。同社は、がんと診断されたときの治療の道のりを改善し、より健康で長い人生を送れるように支援することを目指している。

このラウンドには、Cathay Innovationに加え、既存投資家であるSingularも参加した。Exor Seeds、Picus Capital、Seaya Venturesなどのファンドもこのラウンドに参加している。さらに、Fondation Santé Service、MACSF、Ramsay Santé、Vivalto Venturesといったヘルスケア分野の投資家も参加している。

Resilienceについては2021年3月にすでに紹介しているので、ぜひ前回の記事を読んで、この会社のことをもっと知っていただきたい。同社は、シリアルアントレプレナーであるCéline Lazorthes(セリーヌ・ラゾルテス)氏とJonathan Benhamou(ジョナサン・ベンハモウ)氏が共同設立した会社で、がん治療において患者と医療提供者の両方を支援したいと考えている。

関連記事:ITでがん治療を支援するフランスの意欲的なスタートアップ「Resilience」

患者側では、Resilienceはがんやがん治療の影響や副作用を測定し、理解し対処するのに役立つ。ユーザーはアプリ内でさまざまなデータポイントを追跡し、自分の病気に関するコンテンツや情報を見つけることができる。

だが、Resilienceは自宅で使用するアプリだけではない。病院が治療をよりパーソナライズするための、病院向けのSaaSソリューションでもあるのだ。Resilienceは、世界有数のがん研究機関であるGustave Roussy(ギュスターヴ・ルシー研究所)とのパートナーシップにより設立された。

医療関係者は、患者がアプリを使って集めたすべてのデータを活用できるようになる。これにより、がん治療施設は患者をよりよく理解し、より迅速にケアを適応させることができる。ResilienceはBetteriseを買収することで、データ駆動型のがん治療に関して先陣を切ることができた。

長期的なビジョンは、それよりもさらに野心的だ。がん治療施設で働く医療提供者に話を聞くと必ず、時間がいくらあっても足りない、という。

しかも、ますます専門化していく新しい治療法を把握するのはさらに困難だ。Resilienceは、医師に取って代わるものではない。しかし、医師が盲点を克服する手助けをしたいと考えている。

その結果、患者はより良い治療を受けることができ、Resilienceアプリによって追加サポートを受けられるようになるはずだ。がんの治療は長く苦しいものなので、プロセスを改善することができれば、それは良いことに違いない。

画像クレジット:Resilience

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(文:Romain Dillet、翻訳:Aya Nakazato)

「栄養」をがん治療の柱にすることを目指すFaeth Therapeuticsが約23億円調達

目の前に熱々のパッタイがある。その味と食感は、手軽なテイクアウトの夕食から想像できるものだ。しかし、これは単なる食事ではなく「薬」だ。

この仮説上のパッタイは、スタートアップFaeth Therapeutics(フェイス・セラピューティクス)が開発した、がんと闘うための食事療法の一部だ。食事そのものは、科学者によってすでに遺伝学的に精査されて「腫瘍を飢えさせる」ように特別に作られ、既存の抗がん剤や治療法と組み合わせて使用される。がん治療に対するこの「プレシジョンニュートリション(個別化栄養)」アプローチは確かに新しいものだが、2019年に創業されたFaeth Therapeuticsは、このアプローチを臨床に持ち込む最初の企業となることを望んでいる。

「会社設立の本当のきっかけは、世界的な科学者の3つの独立したグループが、私たちが基本的にヒト生物学とがんの治療の大部分を無視していることにそれぞれ気づいたことです」とFaeth Therapeuticsの創業者でCEOのAnand Parikh(アナンド・パリク)氏は話す。

「私は冗談で、これをがん生物学のマンハッタン計画と呼んでいます。科学者たちはそれぞれこの問題に異なるアプローチをしていましたが、既存の治療薬を増強するだけでなく、これらの栄養素の脆弱性をターゲットにした新しい治療薬の開発をサポートするために、がん患者の栄養を変えなければならないという考えに至りました」

Faeth Therapeuticsは米国時間1月18日、2000万ドル(約23億円)のシードラウンドを発表した。従業員15人を擁する同社にとって初の外部資金調達ラウンドだ。同ラウンドはKhosla VenturesとFuture Venturesが共同でリードした。また、S2G Ventures、Digitalis、KdT Ventures、Agfunder、Cantos、Unshackledが参加している。

Faeth Therapeuticsについてまず注目すべき点の1つは、同社を支える科学的なチームだ。Faethの共同設立者は次のとおりだ。2011年ピューリッツァー賞一般ノンフィクション部門を受賞した「The Emperor of All Maladies(病の「皇帝」がんに挑む 人類4000年の苦闘)の著者でコロンビア大学の腫瘍学者であるSiddhartha Mukherjee(シッダールタ・ムカージー)氏、Weill Cornellのメイヤーがんセンター所長でPI3Kシグナル伝達経路の発見者であるLewis Cantley(ルイス・キャントリー)氏、英国がん研究所の主任研究者でフランシス・クリック研究所のグループリーダーであるKaren Vousden(カレン・ボーデン)氏。ボーデン氏は、がん抑制タンパク質p53の研究で知られている。

特にキャントリー氏とボーデン氏は、代謝とがん治療の関係を深く追求した最初の人物だ。

例えば、PI3Kは細胞の代謝、成長、生存、増殖に影響を与える細胞シグナル伝達経路だが、がん患者ではしばしば制御不能に陥ることがある。この経路を標的とした薬があるが、キャントリー氏の研究は、患者によっては高血糖に陥り、この経路の制御異常を誘発する可能性があることが示唆されている。同氏は、その代わりに食事療法によってインスリンレベルを下げることで、再活性化を回避し、薬の効果を高めることができることを明らかにした。例えば、ネイチャー誌に掲載されたマウス研究では、ケトン食(低炭水化物、高脂肪)にすると、グリコーゲンの貯蔵量が減り、薬の効果を妨げる可能性のあるスパイクを防ぐことができることが示された。

これまで前臨床研究は断続的に有望視されてきたが、まだ多くの作業を必要としている(ムカジー氏がキャントリー氏の研究を説明する自身の論説で述べているように)。しかし、パリク氏は、この研究を改善し、よりターゲットを絞った方法で栄養学に基づく医療にアプローチする余地がまだたくさんあると指摘している。

「多くの人が、ケトン食で膠芽腫を治療しようといっていると思います。しかし、それよりも深いレイヤーがあるのです」と同氏は話す(注意:ケトン食[低炭水化物、高脂肪]食は、特定の膠芽腫の症例にも展開されている)。

「膵臓がんの場合、膵臓の腫瘍の働きによって、特定の栄養素に対するニーズが高くなる可能性があることがわかってきました。この場合、アミノ酸が必要かもしれません。そこで、特定のアミノ酸が不足するような食事を作るのです」。

Faethの使命は、今回調達した資金を利用して、この分野の研究を拡大・深化させることだとパリク氏は付け加えた。

栄養と健康は明らかに関連しており、栄養はがんの転帰に影響を及ぼす。しかし、この分野の研究は、当然のことながら懐疑的な見方をされることがある。食事と健康に関しては、科学的事実から、かなり簡単に神話の領域に入ってしまうことがある。はっきりいえば、この研究はがんのための「奇跡の食事」や「食事ベースの治療法」を宣伝しているわけではない。むしろ、栄養学ががん治療の「5本目の柱」になりうるかどうかを、科学的な研究を通じて検証することを目的としている。

Faethは、前臨床試験で明らかになった関連性を検証するために、すでに3つの試験の準備を進めている。ゲムシタビンとナブパクリタキセル化学療法にアミノ酸低減食を組み合わせた転移性膵臓がんの試験を開発中で、また、転移性大腸がんを対象とした別の試験も準備している。最後に、パリク氏によると、インスリン抑制食に関する試験が今後数週間のうちにclinicaltrials.govに掲載される予定だ。

もし、治療を保証するほど強力な結びつきが証明されれば、(前述のパッタイのような)高品質の食事と抗がん剤が一緒になってより良い治療結果をもたらすようながん治療をパリク氏は想像している。放射線治療や化学療法を受けながらも、家に帰れば医師が処方した食事が玄関まで届く(パリク氏は「世界的なシェフが開発した食事」だと付け加えた)。そして、心配な点が出てきたら栄養士に相談する。

しかし当面はこの研究を臨床の場に持ち込むことにほぼ全力を注ぐと同氏はいう。

「前臨床でできる限りのことをやってきたので、今回、臨床に移行するために資金を調達しました。安全性の確認はもちろんですが、有効性のシグナルがあるかどうかも確認するために、初期段階の試験を行っています」と、パリク氏は述べた。

画像クレジット:JESPER KLAUSEN / SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

世界中のファクトチェック団体がYouTubeに誤報・偽情報対策を要求

世界中の80以上の著名なファクトチェック団体が、YouTube(ユーチューブ)に新型コロナウイルスに関する誤報への対策を求めている。この誤報は新型コロナウイルス感染拡大から2年が経過した現在でも、依然としてこの動画共有サイト上で広まっている。

「ファクトチェック機関の国際的なネットワークとして、私たちはオンラインでどのように嘘が広がるかを監視しています。そしてYouTubeがオンラインの偽情報や誤報を世界に広める主要な導線の1つとなっていることを、毎日私たちは目の当たりにしているのです」と、ファクトチェック機関の連合はPoynter(ポインター)に掲載された公開書簡で述べている。「これは、世界のファクトチェッキングコミュニティの重要な懸念事項です」。

この公開書簡に署名したファクトチェック機関は、PolitiFact(ポリティファクト)、The Washington Post Fact Checker(ワシントンポスト紙のファクトチェッカー)、PoynterのMediaWise(メディアワイズ)といった米国を拠点とする団体に加え、アフリカのDubawa(ドゥバワ)とAfrica Check(アフリカ・チェック)、インドのFact Crescendo(ファクト・クレッシェンド)とFactly(ファクトリー)、さらにはインドネシア、イスラエル、トルコといった国々の団体など、世界中に広がっている。

同グループは、YouTubeが長年にわたって健康に関する誤った情報の温床になっていると指摘。その中には、がん患者に非科学的な治療法で闘病を促す内容も含まれている。

「2021年は、いくつもの陰謀集団が繁栄し、国境を越えて協力し合うのを、我々は目にしてきました。その中には、ドイツで始まった活動がスペインに飛び火し、ラテンアメリカにまで広がった国際的な運動も含まれます。これらはすべてYouTubeで展開されているのです」と、書簡には書かれている。「その一方で、何百万人ものYouTubeユーザーが、予防接種を拒否するよう勧めたり、ウイルス感染症をインチキな治療法で治すことを奨励するギリシャ語やアラビア語の動画を見ています」。

この書簡では、英語以外の言語の動画で誤った情報が広がるという特殊な危険性も強調している。Facebook(フェイスブック)の内部告発者であるFrances Haugen(フランシス・ハウゲン)氏は、英語圏以外でのコンテンツモデレーションに十分な投資を行っていないFacebookでも、同様の懸念があることに注意を促していた。ファクトチェック団体グループは、YouTubeに対して「国や言語ごとのデータや、あらゆる言語に対応した字幕サービスを提供する」ことで、英語以外の言語から誤報の流出を防ぐよう働きかけている。これはYouTubeが注力しているモデレーションの方法だ。

ファクトチェッカー団体は、問題点を指摘するだけでなく解決策も提示しており、YouTubeは誤報や偽情報に関するポリシーの透明性を高め、それらの問題を専門とする独立した研究者を支援すべきだと指摘している。また、同グループはYouTubeに対し、誤報を否定して迅速にその件に関する事情や背後関係をプラットフォーム上で提供する取り組みを強化するようにも求めている。この2つの取り組みは、ファクトチェック機関との連携を深めることで実現可能だ。

FacebookやTwitter(ツイッター)は、プラットフォーム上での誤った情報の拡散について、長い間、世間の厳しい目にさらされてきたが、YouTubeはしばしばそれらの監視の目をかいくぐっている。YouTubeの推薦アルゴリズムは近年、危険な主張を広めることに能動的な役割を果たしているが、TikTok(ティックトック)と同様にテキストベースではなく動画であるため、一般的に研究者にとっては調査が困難で、テクノロジーの説明責任に関する公聴会を開いている議員たちにとっては理解することが難しい。

「YouTubeは、不謹慎な行為者が他人を操って利用したり、組織化して資金調達したりするために、自社のプラットフォームを武器にすることを許している」と、ファクトチェッカー団体はいう。「現在の対策では不十分です」。

画像クレジット:Olly Curtis/Future / Getty Images

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

バーチャルアシスタントが慢性疾患に関する質問に答える仏Wefight、約13.2億円調達

Wefightはフランスのスタートアップ企業で、慢性疾患に苦しむ人々を支援するために10種類以上のアプリを開発している。基本的なチャットボットのインターフェースを使って、人々は自分の病気について質問し、答えを得ることができる。

同スタートアップはこのたび、Digital Health VenturesとImpact Partners、そして既存の投資家であるInvestir&+とBADGEのビジネスエンジェルから1160万ドル(1000万ユーロ、約13億2000万円)の資金調達を実施した。

Wefightは、慢性疾患ごとに異なるアプリを開発した。それらはすべて、Vikという同じバーチャルアシスタントをベースにしている。現在、うつ病、喘息、複数のタイプのがんなどに関するアプリが10数種類ある。

Vikは基本的に、患者とWefightのコンテンツとの間のインターフェースとして機能する。自然言語処理技術から、Wefightが新しいアプリを作るために活用するフレームワークまで、すべて自社で開発している。

患者が質問をするたびに、このサービスは質問の意味を理解しようとし、知識データベースから関連する情報を見つけ出す。

そして、コンテンツを中継して患者に提供する。コンテンツはプロの薬剤師によって書かれており、できるだけ情報を提供し、中立的な立場であることを心がけている。これにより、必ずしも次の診察日を待たずに、自分が持っている質問のリストを見ていくことができる。

共同設立者兼CEOのBenoit Brouard(ブノワ・ブルワール)氏はこう語った。「Vikは、ケア経路の誰かを置き換えるものではありません。ギャップを埋めるためにあるのです」。

ギャップがあるのは確かなようだ。これまでに、40万人以上の人がこのサービスを利用している。Vikは500万件の回答を配信しているという。Wefightでは今、70人のスタッフが働いている。Wefightは、患者団体とつながることで、新しいユーザーを見つけようとしている。

ビジネスモデルとしては、製薬会社と協力して新しいアプリに資金を提供している。治療法を商業的に成功させるためには、患者が自分の患っている慢性疾患を特定できるようにする必要がある。そして、Vikはトップオブファネルのコンテンツプロバイダーとしての役割を担っている。

「当社は、臨床的惰性(Clinical Inertia)を減らします。臨床ラボが『Vik Asthma』への融資を決定した場合、そのラボは私たちが作成するコンテンツに影響を与えることはありません」とブルワール氏はいう。「そうしたラボ(製薬会社)は、喘息に苦しむ患者さんに呼吸器科医の診察を受けてもらいたいと思っているのです」。

そうすれば、特定の薬を購入する可能性のある患者の数が増える。製薬会社にとっては複雑な販売戦略だが、Vikのような方法は、患者の生活の質を向上させる可能性がある。

10月25日の資金調達により、同社はベルリンに新しいオフィスを構え、他の国への進出を計画している。Wefightは、新しい市場でアプリを発売するたびに、現地の医療従事者を雇用し、現地の患者団体と関係を作る。長いプロセスだが、そうやってWefightは世界中の患者に正しい情報を提供することができるのだ。

画像クレジット:Wefight

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(文:Romain Dillet、翻訳:Aya Nakazato)

金沢大学などが乳がん発症の超早期兆候を作り出す仕組み発見、がん予防・超早期がんの診断治療への活用に期待

金沢大学などが乳がん発症の超早期の兆候を作り出す仕組みを発見、がん予防・超早期がんの診断治療への活用に期待

金沢大学がん進展制御研究所/新学術創成研究機構などによる研究グループは10月19日、乳がん発症の際に必ず表れる超早期の微小環境を作り出すメカニズムを発見したと発表した。癌予防、超早期がんの診断治療への活用、ひいてはがん撲滅への寄与が期待される。

乳がん発症の超早期には、間質細胞、免疫細胞などが集まり、がん細胞を取り囲む微小環境が作り出される。その微小環境から生み出されるサイトカイン(免疫細胞から分泌されるタンパク質)が、がん幹細胞様細胞に影響を与えていることはわかっていたが、実態は不明だった。この研究では、そのメカニズムを分子レベルで明らかにした。さらに、この微小環境がFRS2βといいう分子によって整えられ、がん細胞の増殖が始まることも突き止めた。

FRS2βの影響で炎症性サイトカインが生み出され、細胞外に放出されると、そこに間質細胞や免疫細胞が引き寄せられる。マウスを使った実験では、この状態の乳腺に乳がん幹細胞様細胞を移植すると、1カ月以内に大きな腫瘍ができた。だが、FRS2βのない乳腺に乳がん幹細胞様細胞を移植しても、まったく腫瘍はできなかった。

この研究を発展させることで、乳がん発症前に整えられる乳腺微小環境を標的とした治療が可能になり、乳がんの発症予防、早期治療が実現するという。

研究グループのおもなメンバーは、金沢大学がん進展制御研究所/新学術創成研究機構の後藤典子教授、東京医科大学分子病理学分野の黒田雅彦主任教授、東京大学医科学研究所の東條有伸教授(研究当時)、東京大学特命教授・名誉教授の井上純一郎教授、国立がん研究センター造血器腫瘍研究分野の北林一生分野長、九州大学病態修復内科学の赤司浩一教授、慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御研究部門の佐谷秀行教授ほか。

【コラム】何千年も前から続く人類と「乳がん」との戦いにAIはどう貢献するのか

この40年、毎年10月の「乳がん啓発月間」は、地球上で最も多く発生する癌であり、毎年約25万人の命を奪っている「乳がん」の認知度を高めることに貢献してきた。

乳がんは、古代エジプトにまでさかのぼる記録があるにもかかわらず、何千年もの間「口に出せない病気」と考えられてきた。女性は黙ったまま「尊厳」を持って苦しむことが求められていたのだ。

このような偏見が教育上の無知を助長し、ほんの数十年前まで乳がんは比較的研究が進んでいない病気だった。20世紀のほとんどの期間、他のがん治療が発展する一方で、乳がんを患った女性は、放射線治療や手術を受けることになるのだが、しばしば根治的な手術が行われたものの、大した効果が得られないまま、患者が傷つくことも多かった。

乳がんの死亡率は、1930年代から1970年代までほとんど変化がなかった。しかし、フェミニストや女性解放団体の努力により、乳がんの研究と治療は、男性優位の病院や研究機関の中で、正当な地位を得られるまでになった。その治療法は、一世代でがらりと変わったのだ。

1970年代には、乳がんと診断された女性が、その後10年間を生き延びられる確率は、およそ40%に過ぎなかった。それが今では、新薬や最先端の検診法、より繊細で効果的な手術のおかげで、その確率がほぼ2倍に伸びた。

このような変化に不可欠なのが、早期診断の重要性だ。乳がんの発見が早ければ早いほど、治療はしやすくなる。人工知能は、この乳がんの発見において、ますます重要な役割を果たすようになっている。2021年、英国の国民保健サービス(NHS)は、AIを用いて乳がんをスクリーニングする方法の研究を発表した。この方法は、人間の医師に代わるものではなく補完するものだが、放射線技師の不足を解消するのにも役立つ。新型コロナウイルスの影響からNHSが抱える検査の滞りを解消するためには、さらに2000人の放射線技師が必要とされているという。

いくつかのスタートアップ企業も、AIを使ってこの人手不足に取り組んでいる。英国のKheiron Medical Technologies(ケイロン・メディカル・テクノロジーズ)は、AIを使って50万人の女性の乳がんをスクリーニングすることを計画している。スペインのthe Blue Box(ザ・ブルー・ポックス)は、尿サンプルから乳がんを検出できる装置を開発中だ。インドのNiramai(ニラマイ)は、農村部や準都市部に住む多くの女性のスクリーニングに役立つ低コストのツールをてがけている。

しかし、生存率を高めるためには、再発のリスクが高い患者を特定することも同じくらい重要だ。乳がん患者の10人に1人は、初期治療後に再発し、生存率が低下すると言われている。

そのような患者を早期に特定することは、これまで難しかった。しかし、筆者のチームは、フランスのがん専門病院であるGustave Roussy(ギュスターヴ・ルシー)と協力して、再発のリスクが高い患者
の10人に8人を発見することができるAIツールを開発した。AIは、患者が必要とする治療を早期に受けられるようにすると同時に、リスクの低い患者が頻繁に不安な検診を受けなくて済むためにも役立つ。一方、製薬会社はリスクの高い患者をより早く募集することによって、乳がんの治験を加速させることができる。

だが、患者のデータのプライバシーは、迅速な研究の妨げとなる可能性がある。病院はデータを外部に送信することに慎重であり、製薬会社は貴重なデータを競合他社と共有したくない。しかし、AIはこのような問題の解決に役立ち、新しい治療法をより早く、より安全に、より安価に開発することを可能にする。

Federated learning(連合学習)は、データを病院から集約することなく、複数の機関のデータを使ってトレーニングを行う新しい形のAIで、研究者が必要不可欠でありながらこれまでアクセスできなかったデータにアクセスできるようにするために、欧州全域で使用されている。

我々はまた、最も侵攻性の高い乳がんがなぜ特定の薬剤に耐性を示すのかについて、AIを用いて理解を深め、化学療法よりも健康な細胞と腫瘍細胞との識別に優れた、新しい個別化された薬剤の開発に役立てている。

AIの影響力はますます大きくなっているものの、成果を向上させるために同じくらい重要なことは、医療は基本的に人間が行うものであるという認識である。どんなアルゴリズムでも、患者の最も暗い瞬間を慰めることはできないし、どんな機械でも、すべての患者が病気に打ち勝つために必要な回復力を植え付けて鼓舞することはできない。

私だけでなくすべての医師は、病気の治療と同じくらい患者を理解することが重要であると知っている。臨床医の共感は、患者の満足度の高さや苦痛の少なさに関係し、患者が困難な治療コースを続ける動機となり得る。ありがたいことに、乳がん治療にますます役立っているAI技術は、医師の能力を補完し、高めてくれる。

毎年、乳がんと診断される何百万人もの人々にとって、乳がんはもはや「口に出せない」病気ではない。10月の始まりを告げるピンクリボンの海は、最古の敵の1つである乳がんとの戦いにおいて、私たちがどれだけ進歩したかを示している。私たちは現在、この戦いに打ち勝ちつつあるのだ。乳がんを完全に根絶することはできないかもしれない。しかし、AIが患者の早期診断を助け、治療法の迅速な開発を可能にすることによって、数十年後には、もはや「乳がん啓発月間」の必要性がなくなるかもしれない。

編集部注:本稿を執筆したThomas Clozel(トーマス・クローゼル)医学博士は、Owkin(オウキン)の共同設立者兼CEOであり、パリのHôpital Henri-Mondr(アンリモンドール病院)の臨床非血液学の元助教授、ニューヨークのWeill Cornell Medicine(ワイル・コーネル・メディスン)のMelnick(メルニック)ラボの元研究員でもある。

画像クレジット:NYS444 / Getty Images

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(文:Thomas Clozel、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ヘルスケアデータを構造化するScienceIOがステルス状態から脱出

Gaurav Kaushik(ガウラブ・カウシク)氏は、混乱した医療データの世界を整えるために今回立ち上げたステルス事業の数年前からすでに、より良い視覚化が医療結果にどのような影響を与えるかについて、少しずつ構想を深めていた。2018年にこの新進起業家は、ボストンのがん研究企業ならびにFlatIron Health(フラットアイアン・ヘルス)と協力して、がん患者、がんの変異、健康状態の結果のすべてがどのように関連しているかを調べていた。

最終的には、特に有色人種の女性に酷い結果をもたらすトリプルネガティブ乳がんの患者が、免疫療法によく反応するという分析結果を得た。

カウシク氏は、整理されていない患者データを治療計画に結びつけることのインパクトを理解して、元ティールフェローでDorm Room FundのマネージングパートナーであるWill Manidis(ウィル・マニディス)氏と共同で、新しいスタートアップScienceIO(サイエンスIO)を創業した(マニディス氏がCEOを務めている)。このスタートアップは、自然言語処理とデータ分析を用いて患者データの巨大なデータベースを構築し、関係者が患者をよりよく理解し、総合的に治療することに役立てようとしている。

「地図がなければ旅ができないのに、医療には地図がないのです。例えば、どの患者さんが切実で満たされていないニーズを抱えていて、特別な配慮や新たなソリューションを必要としているのか、あるいは希少疾患に対する新しい治療法を見つけようとしているのかなどの、基本的なことを理解しようとすると、何千時間もの労力と何年もの期間が必要になるのです」とマニディス氏は述べている。

ヘルスケアデータの状況をなんとかしようとするスタートアップは、ScienceIOが初めてではない。そして、それはおそらくこれが最後のものでもないだろう。だが、このスタートアップの差別化ポイントは、何年もかけて、最も代表的なデータを集めたデータベースを構築してきたことだ。

カウシク氏は「私たちは過去2年間をかけて、この種のものとしては初のヘルスケアAIプラットフォームを構築しました。私たちは、データファーストのアプローチを人工知能に適用し、バラバラのヘルスケアデータを高品質で計算可能なデータに変えるために必要な技術を開発しています。ヘルスケア分野では、データを活用したソリューションを構築する機会が非常に多く、当社のプラットフォームや幅広い自然言語処理ルネッサンスから恩恵を受ける、企業のエコシステムが生まれることを期待しています」という。

関連記事:断片化された医療データの統合で患者の命を救え

NLP(Natural Language Processing、自然言語処理)とは、人間の音声をコンピュータが理解しやすくするための最新技術だ。同社は、ソーシャルメディアの投稿を見て、その投稿を行った人間がどのように感じているかを予測する技術であるセンチメント分析に、NLPがどのように利用できるかを説明した。ScienceIOのNLPアプリケーションは、機械学習と組み合わせられることで、900万以上の医療条件、薬剤、機器、遺伝子を潜在的な手がかりとして、患者の健康に影響を与える変数を見つけ出す。

ScienceIOの動作画面(画像クレジット:ScienceIO)

幅広いというのは、その製品がさまざまな潜在的顧客に適用できるということを意味する。例えば臨床医が患者の背景に基づいて患者の全体像を把握できるようになると、カウシク氏は考えている。

「扱う患者さんにはさまざまなヘルスケアイシューがありますので、それに対してがんをよく理解しているとか、社会経済状況を別途理解しているというだけでは十分ではないのです」とカウシク氏はいう。「あらゆる分野に驚くほどの深さがありますし、そうした問題を最小化することなく患者全体を把握することが必要なのです」。

さらに彼は「3年間、世間には公表しないままこのデータセットを構築してきた理由は、患者をバイオリスクに還元するのではなく、患者を医師が見るべきものとして表現するためだったのです」と付け加えた。

マニディス氏は、保険会社が毎日、莫大な数の医療プランや、請求コード、コスト、症状などのデータを受け取っていることを例に挙げた。

マニディス氏は「そこでは、請求をどのように優先させるか、裁定に回すか、不正行為の検出などを行うかで常に悩まされています。そこでScienceIOを使えば、データを構造化し、請求内容を理解して、患者への保険金をより早く、正確に支払うことができます」という。

注目すべきは、ScienceIOはトラッキングを行うのではなく、データをより検索しやすくし、有用な洞察を生み出すことのできる分析結果を作成するのだということだ。ScienceIOは、現在いくつかの顧客とパイロットプログラムを行っているということだが、具体的な名前は明かしていない。カウシク氏によれば、これらのパイロットの結果によって、一般公開までの現実的なスケジュールが左右されるということだ。

これまでの進展によって、これまで秘密裏に行われていたビジネスが、800万ドル(約9億1000万円)のシード資金を調達することができた。今回のラウンドには、Section 32やSea Lane Venturesなどの機関投資家の他、Lachy Groom(ラッチー・グルーム)氏やJosh Buckley(ジョシュ・バックリー)氏といった起業家も参加している。

関連記事:Healthcare is the next wave of data liberation

画像クレジット:Getty Images

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:sako)

細胞データの「新たなレイヤー」を発見、プロテオーム解析用機器のIsoPlexisがIPO

細胞の周辺におけるタンパク質の活動を調べるツールを開発するIsoPlexisの株式が、米国時間10月8日からマーケットに出回った。同社はこのIPOで1億2500万ドル(約140億円)の調達を狙っており、資金で同社技術の商用化のためのチームを作り、精密医療の創造において重要な役割を果たすという同社の計画を進めようとしている。

IsoPlexisは2013年に創業した、薬学の研究でラボに出入りしているようなタイプの企業だ。同社は主に、シングルセルのプロテオーム解析(タンパク質とそれらの相互作用の研究)に力を入れてきた。同社は主に、免疫細胞や腫瘍細胞などの細胞が分泌するタンパク質を分析する機器やソフトウェアを開発してきている。

それらの機器を使うと、多種類のタンパク質を放出する細胞を見つけることができる。そのデータセットを利用して、新しい治療法を開発したり、既存の治療法への人間の反応を理解することができる。

CEOで共同創業者のSean Mackay氏(ショーン・マッケイ)氏は「私たちが発明した機器は、体中の、私たちがスーパーヒーロー呼んでいる細胞を見つけ出します。その細胞の小さな部分集合には、今日の既存の技術では見つけられない大量の活動があります」と説明する。

マッケイ氏によると、市場には2021年の前半で約150のIsoPlexisの装置が出回っており、顧客の中には15社の世界的大手の製薬企業がいる。またIPOのためにSECに提出した文書によると、米国の総合がんセンターの約半分に同社の機器がある。

IsoPlexisは過去にも、著名な投資家たちから相当な額の資金を調達している。

Crunchbaseによると、同社はIPOの前までに2億550万ドル(約231億円)の資金を調達している。至近のシリーズDでは、総額1億3500万ドル(約151億円)を調達した(約8500万ドル[約95億円]がエクイティー証券、5000万ドル[約56億円]が借入金)。そしてこのラウンドにはPerceptive AdvisorsやAlly Bridge Group、そしてBlackRockが管理する「ファンドと信用口座」が参加している。

本日の初値は約15ドルだったが、本稿を書いている時点では約12ドルに落ちた。

IsoPlexisの特徴は、プロテオーム解析とシングルセル生物学を利用して、細胞の機能を患者の状態に結びつけた初めての企業であることだ。言い換えると同社は、個々の細胞とタンパク質の相互作用を調べて、がん患者のような人がどれだけ良くなるかを知ることのできる、最初の企業に属している。

IsoPlexisの機器がそのために使われたことを示すエビデンスも公表されている。特にそれは、がんの治療に関するものだ。

例えばNature Medicineに2021年に掲載された論文では、IsoPlexisの機器を使って、リンパ腫の患者の免疫細胞の活動を調べている。これらの患者には、治療に抵抗するがんや、軽快後に再発したがんがあった。特に彼らは、CAR-T細胞療法を受けていた。それは、遺伝子を変えた免疫細胞を患者に注入する治療法で、がん細胞の標的化を助ける。その研究では、CAR-T細胞によるサイトカイン(細胞の信号送受に関わるタンパク質)の生産がCAR-T細胞の効果を示す指標であることがわかった。

そこでもIsoPlexisのデバイスが、CAR-T細胞の効果を示す信号を明らかにした。

「それは、私たちが見つけた特定の細胞が、患者における長期的な反応の指標になるということです。さまざまながんでの調査を公表していますが、患者にそういうタイプのユニークな免疫細胞があれば、これらは私たちがスーパーヒーローとして見つける細胞であり、患者に長期的にその結果があることがわかります」とマッケイ氏はいう。

細胞に関心がある人にとっては、IsoPlexisの技術が、細胞を蛍光色で染色して観察や計測をする、すでに確立した方法であるフローサイトメトリーに似ていると思えただろう。フローサイトメトリーの世界には、Thermo Fisher Scientificのような大企業もすでにいる。

しかしIsoPlexisは、まったく新しい情報のレイヤーを提供するとマッケイ氏は主張する。それは主に、フローサイトメトリーにはないタンパク質の情報だ。同社は、デバイスが個々の細胞のタンパク質の活動をバーコードで表す発明をライセンスした。そのコードを、IsoCodeと呼んでいる。Nature Reviews Chemistryに掲載された論文では、何千もの細胞のいろいろなタンパク質を一度で分析できるバーコードは便利さを主張している。しかも、細胞そのものは他の実験に使える。ただしこの方法で捉えられるのは今のところ、プロテオームの活動全体のごく一部だ。

マッケイ氏は「その新しいレイヤーのデータは個々の細胞に関して、現在、市場にある技術で得られるものと非常に異なっている」と付け加えた。

しかしそれでも、同社はまだ利益が出ていない。SECの文書によると、損失は過去数年間続いている。売上が750万ドル(約8億4000万円)だった2019年と1040万ドル(約11億6000万円)の2020年は損失がそれぞれ約1360万ドル(約15億3000万円)と2330万ドル(約26億1000万円)だった。

今後の成長への道は、もっと多くの機器をもっと多くの研究者の手に渡すことだ。

「私たちの目標は、現在と同じタイプのお客様を、より深く拡大しながら、速いペースで前進し続けることです。それはまさにコマーシャルチームを構築し続けることが必要です」とマッケイ氏はいう。

画像クレジット:IsoPlexis

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(文:Emma Betuel、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円調達

ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円のシリーズB調達

ナノテクノロジー応用がん免疫薬(ナノ免疫薬)に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」(UI)は9月7日、シリーズBラウンドにおいて、第三者割当増資による約5億円(4.995億円)の資金調達を実施したと発表した。引受先は、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、KISCO。

2017年11月設立のUIは、京都大学大学院工学研究科と三重大学大学院医学系研究科の長年の医工連携研究の成果を実用化すべく設立され、次世代ナノ免疫薬の基礎研究から臨床応用まで幅広く取り組んでいるという。

独自のナノ粒子型免疫デリバリーシステム(プルランナノゲルDDS)を活用した免疫活性化の基盤技術を活用し、難治性がんの治療薬や新型コロナウイルスワクチンの研究開発を手がけているそうだ。

調達した資金により、免疫チェックポイント阻害剤でも十分な薬効を示せない難治性がんの治療を目指す抗がん剤「T-ignite」、新型コロナウイルスワクチンの臨床試験実施の準備(どちらもAMED CiCLE事業の支援で研究開発を推進中)、および他の自社研究開発プログラムの加速化を推進する。また、アステラス製薬子会社のXyphosと実施中の共同研究の加速、人材獲得を含めた経営体制の強化を推進する。

UIによると、今までの治療法が効かない免疫的難治性がん(cold tumor)の原因となっているがん組織内のマクロファージの機能をうまく調節できれば、免疫的難治性がんを治療感受性の(T細胞が豊富に存在し免疫的に活性化した)「hot tumor」に変換して、治療効果を発揮する可能性があるという。そこで同社は、治療成分を搭載したプルランナノゲル型ドラッグデリバリーシステム(DDS)を「T-ignite製品」と名付けて鋭意開発している。

例えば、静脈内投与されたT-igniteは、プルランナノゲル型DDSの働きによってがん組織内のマクロファージに選択的に取り込まれる。そこで、T-igniteに含まれる薬剤がマクロファージの機能で抗がん免疫を活性化する方向に調節することで、がん組織の中から免疫が活性化して、がんを難治性から治療感受性へ変換できると考えているという。搭載する薬剤や適応疾患の種類を変えることで、多様なT-ignite製品をシリーズ化するとしている。ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円のシリーズB調達

放射線治療を最適化する「スマート放射線がん治療室」がNEDOの研究開発型スタートアップ支援事業に採択

放射線治療を最適化する「スマート放射線がん治療室」がNEDOの研究開発型スタートアップ支援事業に採択

「小型陽子線がん治療装置」の開発を進めるビードットメディカルは9月6日、国立成育医療センターとの共同研究「スマート放射線がん治療室の実用化開発」が、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究開発型スタートアップ支援事業「Product Commercialization Alliance」(PCA)に採択されたことを発表した。

陽子線治療は腫瘍をピンポイントで狙い撃ちにできる高度な治療法だが、誤って腫瘍周囲の臓器に照射すると大きなダメージをもたらすというリスクがある。そのため、治療前に照射位置を決める「患者位置決め」という作業が重要になる。しかし、それが治療時間の大部分を占め、治療室の占有時間も長い。特に子どもやお年寄りの場合は、さらに時間がかかる傾向にあるという。

ビードットメディカルによる「スマート放射線がん治療室」は、患者位置決めを治療室とは別の場所で行うという新たな試みで、AIスケジューラー、患者を自動走行で運ぶシャトル治療台、位置決めを行う3次元カメラなどの技術を組み合わせたシステムとなっている。これが実用化されれば、治療室の1人あたりの占有時間を短縮でき、より多くの患者の治療が可能になる。

今回、PCAに採択されたことで、ビードットメディカルはこの「スマート放射線がん治療室」の開発に着手し、同時に「小型陽子線がん治療装置」の開発も加速するとのこと。

放射線治療を最適化する「スマート放射線がん治療室」がNEDOの研究開発型スタートアップ支援事業に採択

ビードットメディカルは、量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所認定のベンチャー企業。開発中の「小型陽子線がん治療装置」の開発は、NEDOとAMED(日本医療研究開発機構)の支援を受けた事業で、既存のX線治療室に収まるよう、大幅に小型化され、低価格化されるという。

がん免疫細胞療法に向け細胞医薬品の開発に取り組む九州大学発スタートアップ「ガイアバイオメディシン」が1億円調達

がん免疫細胞療法に向け細胞医薬品の新規開発に取り組む九州大学発スタートアップ「ガイアバイオメディシン」が1億円調達

大阪大学ベンチャーキャピタル(OUVC)を無限責任組合員とするOUVC2号投資事業有限責任組合(OUVC2号ファンド)は6月4日、ガイアバイオメディシン(GAIA BioMedicine)に対し、1億円の投資を実行したと発表した。大阪大学以外の国立大学の研究成果を活用したスタートアップ企業に対する投資が可能になったOUVC2号ファンドでの初の他大学案件という。

ガイアバイオメディシンでは、調達した資金により、非小細胞肺がん患者を対象とした第I相臨床試験を完了させるとともに、2ndパイプラインの治験に向けた準備も進める。OUVCは、同社事業について、有効な治療薬が存在しない創薬の開発につながるものであり、医学的・社会的な意義が大きいと判断し、投資を実行したとしている。

2015年10月設立のガイアバイオメディシンは、九州大学大学院薬学研究院・米満吉和教授の研究成果を活用し、新規細胞医薬品の開発に取り組む九州大学発のスタートアップ企業。

細胞医薬品とは、近年注目されている新たな創薬モダリティ(手法)にあたる、細胞そのものを人に投与して治療効果を得る薬剤を指し、もともと人に備わるT細胞やナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞をベースにがん細胞への攻撃力を増強させた細胞が利用される。ガイアバイオメディシンでは、NK細胞と形質上類似するNK様細胞(GAIA-102)を開発し、患者本人の細胞ではなく健康なドナーから採取した細胞「他家細胞」を用いることによりスケーラブルな医療を可能とする新たながん免疫細胞療法の開発に取り組んでいるという。

GAIA-102は、死亡数の最も高い肺がんの中でも8割を占める「非小細胞肺がん」への高い有効性が見込まれており、T細胞を遺伝子改変したCAR-Tなど他の細胞医薬品に比べて固形がんに対し有望な免疫細胞療法となることが期待されるという。また、他の細胞医薬品と異なり、極めてシンプルな製造・投薬プロセスが可能となることから、商業利用の点でも優れた競争優位性を有するとしている。

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カテゴリー:バイオテック
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バイデン大統領が「がんを撲滅」するために医療高等研究計画局の設立を提案

Biden(バイデン)米国大統領は、現地時間4月28日に議会で行った演説において、ワクチン接種の取り組みについて国民に報告するとともに、政権の野心的な目標を説明した。

バイデン大統領が就任してからの100日間は、何百万人もの米国民を貧困から救い、気候変動に歯止めをかける、広範な立法措置が印象的だった。だが、議会の上下両院合同会議で初めて行った施政方針演説では、それより規模は小さいものの劣らず野心的なもう1つの計画を強調した。それは「我々が知っている限りのがんを撲滅する」というものである。

「これ以上に価値のある投資はありません。これ以上に党派を超えた取り組みもありません」と、水曜日の夜に語ったバイデン大統領は「それは私たちの力でできることです」と続けた。

この発言は突然出てきたものではない。ホワイトハウスは2021年4月初め、画期的な健康研究のための新しい政府機関を設立するために、65億ドル(約7075億円)の予算要求を発表した。この機関は「ARPA-H(Advanced Research Projects Agencies for Health、医療高等研究計画局)」と呼ばれ、NIH(National Institutes of Health、国立衛生研究所)の中に設置される。当初はがん、糖尿病、アルツハイマー病などを対象とするが、さらに医療研究を根本的に変えるような「変革的イノベーション」を追求することになる。

この65億ドルの投資は、NIH予算の510億ドル(約5兆5520億円)の一部だ。しかし、ARPA-Hは、NIHの中に置くのではなく、保健福祉省の下に置くべきだと批判する専門家もいる

ARPA-Hは、国防省の高等研究計画局(DARPA)をモデルにしている。DARPAは、国防への応用を目的としてムーンショット的な技術を開発している機関だ。DARPAの目標は、科学というよりも空想科学のように聞こえることが多いものの、これまでに、GPSの前身となる技術や、現代のインターネットに発展したコンピュータネットワークであるARPANETなど、現在のさまざまなユビキタス技術に貢献したり、その基礎を作り上げてきた。

DARPAは、保守的で漸進的な研究チームとは異なり、他の政府機関よりもシリコンバレーに近い形で、大きな科学的進歩を積極的に追求している。バイデン大統領は、DARPAのモデルを最先端の医療研究に用いることで、米国がバイオテクノロジーの分野で後れを取ることはないようにしようと考えている。

「中国や他の国々が急速に迫ってきています」と、バイデン大統領は演説の中で述べた。「私たちは、未来の製品や技術となる、高度なバッテリー、バイオテクノロジー、コンピューターチップ、クリーンエネルギーを開発し、優位に立たなければなりません」。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:ジョー・バイデンがん医療アメリカ

画像クレジット:Melina Mara/The Washington Post/Bloomberg / Getty Images

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

血液ゲノム解析でがん再発を早期発見するソフトウェア開発のC2i Genomicsが108億円調達

もしあなた自身、あるいはあなたの愛する人ががん治療の一環で腫瘍摘出の手術を受けたことがあるのなら、その後にくる不安定な時期と不安な気持ちを知っているだろう。がんは再発するだろうか、再発するとしたら医師は初期段階で気づくだろうか。C2i Genomicsは残存病変(がん治療後に残存するごくわずかながん細胞)の感知で100倍敏感なソフトウェアを開発し、投資家らはそのポテンシャルに飛びついている。C2iは米国時間4月15日、Casdin Capitalがリードした1億ドル(約108億円)のシリーズBラウンドを発表した。

「がん治療の最大の疑問は、『うまくいっているのか』ということです。効果のない治療を受けて副作用に苦しむ患者もいれば、必要な治療を受けていない患者もいます」とC2i Genomicsの共同創業者でCEOのAsaf Zviran(アサフ・ズヴィラン)氏はインタービューで語った。

これまで手術後のがん検知の主なアプローチはMRIやレントゲンだった。しかしどちらの手法もがんがある程度進行するまで精度は高くない。その結果、患者はがんを再発するかもしれないが、医師がとらえられるまで少し時間がかかるかもしれない。

C2iのテクノロジーを使うと、医師はDNAをチェックするための採血であるリキッドバイオプシーをオーダーできる。そこから全ゲノムを解析してC2iのプラットフォームにアップロードできる。そしてソフトウェアが配列を調べてがんの存在を示すかすかなパターンを特定し、がんが成長しているのか、あるいは縮小しているのかを示す。

「C2iは基本的にがんの発見とモニタリングができるソフトウェアをグローバルスケールで提供しています。解析機械を持つあらゆるラボがサンプルを処理してC2iのプラットフォームにアップロードし、患者にがんの発見とモニタリングを提供できます」とズヴィラン氏はTechCrunchに語った。

C2i Genomicsのソリューションは、ズヴィラン博士が、ニューヨークゲノムセンター(NYGC)の職員でワイルコーネル医科大学(WCM)の助教授であるDan Landau(ダン・ランドウ)博士とともにNYGCとWCMで行った研究に基づいている。ランドウ博士はC2iの共同創業者であり、同社の科学諮問委員会のメンバーでもある。研究と発見は医学雑誌Nature Medicineに掲載された。

C2iのプロダクトはまだ米食品医薬品局(FDA)の承認を受けていないが、ニューヨーク大学ランゴーン医療センター、シンガポール国立がん研究所、オーフス大学病院、ローザンヌ大学病院での臨床研究と医薬品開発研究ですでに使われている。

もしFDAに承認されれば、ニューヨーク拠点のC2iは臓器保存の分野も含めてがん治療を大きく変えるポテンシャルを持つ。例えばがん再発を防ぐために機能する膀胱や直腸などの臓器を切除し、不自由になった人もいる。しかし不必要な手術を避けることができるとしたらどうだろうか。それは、ズヴィラン氏と同氏のチームが達成したいと考えている目標だ。

ズヴィラン氏にとって個人的な事情もある。

「私はがんや生物学とはかけ離れたところでキャリアをスタートさせました。そして28歳のときにがんと診断され、手術と放射線治療を受けました。私の父、そして義理の両親もがんに罹り、亡くなりました」と同氏は話した。

分子生物学で博士号を持つ同氏は以前イスラエル国防軍といくつかの民間企業でエンジニアとして働いた。「エンジニアとして自身の経験をみると、患者と医師の両サイドの不確実さは私をかなり不安にさせるものでした」と述べた。

今回調達した資金は、C2-Intelligence Platformの臨床開発と商業化の加速に使う。本ラウンドに参加した他の投資家にはNFX、デュケーヌ家のファミリーオフィス、シンガポールのSection 32、iGlobe Partners、Driehaus Capitalが含まれる。

カテゴリー:バイオテック
タグ:C2i Genomicsがん医療資金調達

画像クレジット:C2i Genomics

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(文:Marcella McCarthy、翻訳:Nariko Mizoguchi

山口大学および国立がん研究センター発スタートアップのノイルイミューン・バイオテックが23.8億円調達

山口大学および国立がん研究センター発スタートアップのノイルイミューン・バイオテックが23.8億円調達

固形がんに対するCAR-T細胞療法の研究開発を行うノイルイミューン・バイオテックは3月22日、シリーズCラウンドにおいて、第三者割当増資による総額約23億8000万円の資金調達を発表した。

引受先は、新規引受先の第一生命、Binex Holdings、澁谷工業、ヘルスケア・イノベーション投資事業有限責任組合、KD Bio Investment Fund 4、また既存株主のBinex、BiGEN。

ノイルイミューン・バイオテックは、山口大学および国立がん研究センター発スタートアップとして2015年に設立。同社のコア技術PRIME(proliferation inducing and migration enhancing)を利用したCAR-Tを主とする遺伝子改変免疫細胞療法の自社パイプライン事業および共同パイプライン事業を推進してきた。今回調達した資金により、自社パイプライン事業におけるリードパイプラインNIB-101の臨床開発を促進する。

NIB-101は、特定のがん細胞の表面に存在する糖脂質の一種であるGM2を標的としたPRIME CAR-T細胞であり、現在、年内の臨床試験開始を目指して準備を進めているという。

山口大学および国立がん研究センター発スタートアップのノイルイミューン・バイオテックが23.8億円調達

CAR-T細胞とは、遺伝子を導入する技術を用いて作製する細胞で、がんを高感度に見つけ出し、かつ強力に攻撃する能力を持つという。白血球の一種T細胞を血液から取り出して、そこにキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor: CAR)と呼ばれるがん細胞を見つけるアンテナの役割をもつ人工的な遺伝子を導入し、1~2週間程度体外で培養して増やした後に患者に投与する。すると、CAR遺伝子を導入されたCAR-T細胞は、がん細胞の目印となるがん抗原を認識し、これを標的として攻撃する。

ただ、CAR-T細胞療法はがんに対する有効な治療法となる可能性が示されているものの、血液がん以外の固形がんに関しては優れた治療効果を示せていないという。固形がんを標的としたCAR-T細胞療法は各国の研究機関や製薬企業において開発が進められているが、いまだ承認されたものはないそうだ。固形がんと血液がんでは特徴が異なる点があり、固形がん局所へのCAR-T細胞の送達性および固形がんの不均一性 (tumor heterogeneity)が課題となっているという。

この解決策として、ノイルイミューン・バイオテックはPRIME (Proliferation-inducing and migration-enhancing) 技術の研究開発を実施。CAR-T細胞およびその他の免疫細胞のがん局所への送達性を向上させ、生体内において宿主の免疫システムを活性化することにで、多様ながん抗原に対する免疫応答を誘導して固形がんの不均一性に対応するとしている。

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ITでがん治療を支援するフランスの意欲的なスタートアップ「Resilience」

新しいスタートアップのResilience(リジリエンス)は、がん治療施設とがん患者を、治療のあらゆる段階で手助けしたいと考えている。これはフランスの有名な起業家2人が立ち上げた意欲的なプロジェクトだ。彼らは自分たちのIT技術をこの新たな医療スタートアップに活用したいと思っている。

Céline Lazorthes(セリーヌ・ラゾルテス)氏とJonathan Benhamou(ジョナサン・ベンハモウ)氏の2人が共同CEOを務める。Nicolas Helleringer(ニコラス・ヘレリンジャー)氏とMatthieu Pozza(マシュー・ポッツァ)氏が残り2人の共同ファウンダーで、それぞれCTO(最高技術責任者)とCPO(最高人事責任者)に就いている。ラゾルテス氏は以前、フランスで有数の「Money Pot(個人がお金を集める仕組み)」の会社であるLeetchiを共同設立した。さら、スピンアウト企業としてマーケットプレイス決済ソリューションのMangoPayも立ち上げている。どちらの企業もCrédit Mutuel Arkéa(クレディ・ミュチュエル・アルケア)に買収された。

ベンハモウ氏は、クラウドベースの人事サービスPeopleDocを共同設立した。2018年、同社はUltimate Softwareに買収されている。同氏は、買収後も上場企業である同社の幹部を務めた。その直後、非上場株式投資会社のHellman & Friedman Capital PartnersがUlitimate Softwareを買収した。

2020年、2人はかなりの時間を割いてProtegeTonSoignantという非営利団体で一緒に仕事をした。140名の人々とともに、同組織は740万ユーロ(約9億6000万円)の寄付を集め、個人防護具を購入して必要としている病院に届けた。寄付金集めと物流面、両方の挑戦だった。

医療専門家と長い時間話す機会を得た2人は「少なくとも次の10年を命を救う人たちに自らを捧げる」決心をした、とラゾルテス氏はいう。

それは野心的な挑戦と思われ、彼らもそれを知っていた。「医療に関しては何も知りません、人事や金融のことを知らないのと同じように。私たちは非常に規制の厳しい市場に参入しようとしています」。

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だから彼らは1つの分野、がん治療に特化しようと決めた。研究機関が過去数年間に著しい進歩を遂げてきた結果、がん治療はますま複雑化している。例えば次の3年間に300種類の新たな治療法が出てくる、とベンハモウ氏は推測する。治療は広域療法から標的療法へと徐々に移りつつある。

現在、がん治療施設は3つの課題に直面している。第1に「人間の脳はこの全データを吸収できません」とベンハモウ氏はいう。第2に、平均余命が伸びるにつれ、がん症例は毎年増えている。腫瘍委員会は個々の患者の治療方針の決定に1分半から2分間費やすことになる。

第3に、前の2つの問題の結果、患者は自己裁量に任されることになる。例えば治療における投与量の調節がなされなかったために副作用に苦しむ患者もいる。

画像クレジット:Resilience

Resilienceは、医療チームと患者療法のためのがん治療の多面的ソリューションになることを目指している。開業医に対しては、Resilienceが治療決定を支援する「サービスとしてのソフトウェア」ソリューションになる。同社は科学文献を分類し、機械学習を利用して過去の症例との類似性を調べ、さまざまな条件に基づく臨床試験を見つけ出す。

患者に対しては、自分のがんに関するコンテンツや情報をアクセスできるウェブとモバイルアプリを提供する。具体的に、例えばResilienceは患者が副作用を理解して治療する手助けをする。

「私たちのゴールは、このアプリが患者のクオリティ・オブ・ライフを改善できると証明することです」とラゾルテス氏はいう。Resilienceはアプリを使って質問をして、治療を改善するためのデータを集めることも考えている。

すでに同社はデータサイエンスチームを結成している。そこでは自然言語処理を使って科学文献を解析する。さらに、医療チームと協力してあらゆる部分を二重チェックする。

患者間の類似性を見つけるために、同社は複数の病院と提携して過去の症例データを入手する予定だ。

Resilienceは、調達ラウンドで600万ドル(約6億5000万円)を調達した。元AlvenのパートナーであるRaffi Kamber(ラフィ・カンバー)氏とJérémy Uzan(ジェレミー・ウザン)氏が設立したVCのSingularがラウンドをリードした。テックビジネスのエンジェル投資家であるLa RedouteのNathalie Balla(ナタリーバラ)氏、Xavier Niel(グザビエ・ニール)氏、AlanのJean-Charles Samuelian(ジャン-シャルル・サミュリアン)氏、Sation FのRoxanne Varza(ロクサーヌ・バルザ)氏らも参加した。

同日の調達ラウンドには、医療投資家であるAstraZenecaのCharles Ferté(チャールズ・フェルテ)氏、BioclinicのPhilippe Dabi(フィリップ・ダビ)氏、OwkinのThomas Clozel(トーマス・クローゼル)氏などの名前もあった。

Resilienceはミッションに向かって行動する会社だ。同社は科学委員会、患者委員会と提携を結んでいる。世界有数のがん研究施設であるGustave Roussy(グスタフ・ルッシー)がん研究所もResilienceの共同ファウンダーに名を連ねている。

かなりの数の利害関係者がいるが、これは医療会社を作るためには正しい行動だ。Resilienceは今、自分たちのプロダクトを洗練し、がん治療を実際に改善する可能性のあるプロダクトを展開するために最適な抑制と均衡のシステムを手に入れた。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Resilienceがん医療

画像クレジット:Resilience

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(文:Romain Dillet、翻訳:Nob Takahashi / facebook

同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの開発・事業化を手がける大阪大学発スタートアップ「クオリプス」が20億円調達

同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの開発・事業化を手がける大阪大学発スタートアップ「クオリプス」が20億円調達

同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの開発・事業化を行う、大阪大学発スタートアップ「クオリプス」は3月16日、総額約20億円の第三者割当増資に関する契約を締結したと発表した。引受先は、JICベンチャー・グロース・ファンド1号投資事業有限責任組合(JICベンチャー・グロース・インベストメンツ)、ジャフコSV6投資事業有限責任組合、ジャフコSV6-S投資事業有限責任組合(ジャフコ グループ)、京大ベンチャーNVCC2号投資事業有限責任組合、阪大ベンチャーNVCC1号投資事業有限責任組合(日本ベンチャーキャピタル)、富士フイルム、セルソース他。

同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートとは、ヒトiPS細胞から作製した心筋細胞(iPS心筋)を主成分とした他家細胞治療薬で、シート状に加工したものを心臓に移植するという(他家とは、第三者提供のiPS細胞から作った細胞を使うことを指す)。有効な治療法がない重症心不全の患者を対象とし、心機能の改善や心不全状態からの回復等の治療効果が期待されている。

今回調達した資金により、同社はこの同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの実用化を一層加速化させ、様々な細胞製品の培養・加工を通じ、画期的な細胞治療薬の創生に貢献するとしている。

富士フイルムは、同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートを用いた心筋再生医療研究開発の促進を、またセルソースは、同種由来間葉系幹細胞および同種由来iPS細胞由来エクソソームの利活用を通じた再生医療分野での協業を期待し資本参加したという。

クオリプスは、大阪大学の技術・研究成果をベースに、同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの開発・事業化を行うことを目的とする、2017年3月設立の大阪大学発スタートアップ。同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの製造方法に関する研究開発を推進し、さらに効率的な生産技術を確立して、世界に先駆けて再生医療等製品として製造販売承認を取得することを目指す。

同社は2020年夏、同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの早期実用化を進めるべく、現在大阪大学で実施中の医師主導治験を支援するとともに、同製品の製造・供給体制を構築するため商業用細胞培養加工施設を大阪府箕面市において稼働させている。

また今後、3年後の上市に向けて、研究開発の加速化や商業用細胞製造施設の安定稼働を図り、事業化体制を構築するとともに、海外展開のための準備、第2、第3プロジェクトの探索研究を推進するため、第三者割当増資の実施に至ったという。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:医療(用語)大阪大学がん / がん治療(用語)クオリプス再生医学・再生医療細胞療法資金調達(用語)日本(国・地域)