AI学習サービスのアイデミーが8.3億円調達、法人向けのAIプロジェクト内製化支援を強化へ

AI学習プラットフォーム「Aidemy」や同サービスを活用した法人向けのAI研修サービスなどを展開するアイデミーは1月30日、UTEC(東京大学エッジキャピタル)など複数の投資家を引受先とする第三者割当増資により総額8.3億円を調達したことを明らかにした。

アイデミーにとっては2018年5月にUTECと個人投資家9名から9200万円を調達して以来の資金調達。今回は事業会社やVC、数名の個人が新たに加わり累計の調達額は9.4億円となった。なお具体的な投資家リストは以下の通り。

  • UTEC(リード投資家 / 既存投資家)
  • 大和企業投資
  • ダイキン工業
  • テクノプロ
  • 東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)
  • 千葉道場ファンド(前回ラウンドでは千葉功太郎氏が個人で出資)
  • Skyland Ventures(既存投資家)
  • 松永達也氏(アイデミー社外取締役)
  • 河野英太郎氏(アイデミー非常勤執行役員)
  • 鈴木智行氏(元ソニー副社長)
  • 鈴木悠人氏(JapanWork代表取締役)

ダイキン工業はアイデミーが展開する法人向けサービスの顧客であり、テクノプロとは昨年11月に事業提携を締結済み。アイデミーでは今後両社との取り組みを加速させるとともに、法人向けサービスの拡充に力を入れていく計画だ。

法人事業が成長、製造業を中心に40社以上が有償導入

アイデミーは2014年に当時東京大学の学生だった石川聡彦氏(代表取締役CEO)が創業したスタートアップ。何度かピボットを繰り返した後、2017年12月にAIプログラミング学習サイトのAidemyをローンチした。

同サービスはディープラーニングや自然言語処理などの技術を、ブラウザ上で手を動かしながら学べるのが1つの特徴。開始約2年で登録ユーザー数は5万人を超える。エンジニアが自分の仕事の幅を広げるために使っているケースが多いという話は以前も紹介した通りだ。

現在アイデミーではこのAidemyの基盤を軸にB2B事業へと徐々にシフトしつつある。

2018年にベータ版としてスタートした「Aidemy Business」はAidemyをAI教育研修ツールとして使いやすいように、管理者機能などを追加したもの。昨年4月には正式版をローンチするとともに、オンライン学習サービスに加えてリーダー向けのコンサルティングサービスなどの提供も始めた。

現在は製造業のエンタープライズ企業を中心に金融系や人材系、SIerなど約40〜50社が有償でアイデミーのサービスを活用。石川氏によると約半数近くの顧客がアップセルやクロスセルに繋がっているという。

「特に製造業のニーズが強い。AIを活用したプロジェクトを進める中でコアな部分はできれば内製化したい、もしくは外注するにしても社内にAIに詳しい人材がいないと上手く進まないというのが課題。クラウド教育研修サービスを導入してもらうと半年程でかなり人材が育ってくるため、そのメンバーを軸に新規事業や既存事業の改善に取り組む目的で、予想以上にクロスセルやアップセルに繋がっている」(石川氏)

「AIの内製化支援」テーマに新プロダクトの開発も

今後は「AIの内製化支援」というコンセプトで法人向けのサービスをさらに拡充させていく方針だ。

最近はいろいろな所で「DX」というキーワードを目にする機会が増えてきたが「その中の大きなテーマの1つがAIの活用であり、日本を代表する企業のAI活用やDX支援をしていきたい」とのこと。今回調達した資金を人材採用やマーケティングへ投資し、2年後には現在の10倍となる400社以上へのサービス提供を目指すという。

今は比較的規模の大きい企業が中心となっているが、導入ハードルを下げた安価なプランも作っていくことで中小規模の企業のサポートにも取り組んでいく計画もあるようだ。

また既存事業の強化に加えて、新プロダクトの開発にも取り組む。石川氏の話では「AIに特化したHerokuのようなPaaS」などを法人向けに展開していく予定なのだそう。AIを組み込んだ製品を実運用する際にはメンテナンスや監視、管理といった業務が必要になる。それらの一部を自動化することで現場をサポートしていくことが狙いだ。

「どの企業にとってもゴールはAIの教育研修ではなく、それを現場で運用して利益につなげていくこと。人材育成は最初のステップでしかなく、そこから実運用に至るまでの事業定義や試作品の開発も含めて一気通貫で支援していきたい。特にAIに詳しい人材が社内で増えてくると、今はまだ顕在化していない運用に関する課題も浮き彫りになってくるはず。その負担を減らすプラットフォームを作っていく」(石川氏)

AIを社内の一般教養に、製造業など50社が使うオンラインAI研修サービスをアイデミーが正式公開

AIプログラミング学習サービス「Aidemy」を提供するアイデミーは4月16日、これまでβ版として展開していた企業向けのオンラインAI研修サービス「Aidemy Business」を正式ローンチした。今回のタイミングよりリーダー層に対するコンサルティングサービスも提供する。

Aidemyの基盤を研修用として企業に提供

Aidemyは2017年12月にリリースされたオンラインプログラミング学習サービスだ。特徴はAIを軸にブロックチェーンやネットワーク分析など先端技術に特化していること。前回も紹介したように、プログラミング初学者や未経験者よりも、現役のエンジニアが「日常業務にAIの知識を応用する」目的で使っているケースが多い。

実践重視で実際にコードを書きながら学んでいくスタイルで、プログラミング学習は全てブラウザ上で完結。特別な環境を用意することなくすぐに始められるスピード感もウリだ。

現在の会員登録数は3万5千人を突破。「Python入門」「ビジネス数学」「ディープラーニング基礎」「異常検知入門」など33のコースを提供している。

このAidemyを社内研修用として企業に展開しようというのが「Aidemy Business」の位置付けだ。昨年6月にβ版とローンチしていたものにアップデートを加えて、本日正式ローンチを迎えた。基本的な特徴はAidemyと同様で、環境構築の手間をかけずにブラウザ上ですぐに学習をスタートすることができ、33コースを全て受講可能だ。

法人版ならではの機能としては管理者向けのものがいくつかある。たとえばエンドユーザー(社員)向けにオーダーメイドのカリキュラムを設計したり、管理画面を通じて各メンバーの進捗を確認したり。

面白いものだとAidemy Businessの導入企業が自社のオリジナル教材をアップロードできる機能もある。たとえば社内の勉強会などで使っているようなコンテンツや、外部のエンジニア向けイベントで話すような内容を動画に撮影しておけば社内リソースとして使える。

また撮影した動画コンテンツは通常のAidemy内でリリースすることもできるので、技術プロモーションの一環として活用することも可能だ。

アイデミー代表取締役CEOの石川聡彦氏によると、今後は同社が作成する教材に加えて、企業が提供する教材や本をベースにした教材(著者が講師となる)を開発しながらコースを拡充していく予定。外部の講師が作成するコースについては収益を分配する仕組みで、「Udemy」ほどオープンな形にはならずとも、今後はプラットフォーム型に近づいていく計画のようだ。

ちなみに先日アイデミーのオフィスを訪ねる機会があったのだけど、オフィスとは別の場所に撮影用のスタジオが開設されていた。そこでオリジナルの教材だけでなく、企業が作成する教材の撮影も行えるという。

製造業を中心に約50社が導入、リーダー向けの新サービスも

Aidemy Businessのβ版が公開されてから約10ヶ月。すでに製造業や情報通信業を中心に約50社が同サービスを導入している。IT系の企業名がほとんどかと思いきや、ダイキン工業や三菱重工など非IT系の大手企業も多いという。

もう少し掘り下げると、まずは研究開発部門など一部門に導入されるケースが一般的だそう。背景には現場のAIリテラシーがネックとなり、AIを活用したプロジェクトの進捗がイマイチな点に課題意識を持っている企業が少なくないようだ。

「SIerから提案を受けたり、AIベンチャーに発注したりするような形でAIの活用を始めるものの、なかなかPoC(試作品)の域を脱しないことが1つの課題となっている。プロジェクトを上手く進めるには、発注者側が『AIで何ができるのか、AIを用いて解くべき課題は何か』を明確に理解できていることが重要だ」(石川氏)

今回新しくスタートしたリーダー向けのコンサルティングサービスもまさにそのニーズに応えるためのもの。通常のAidemy Businessが社内でAIエンジニアを育てるためのツールだとすれば、こちらはAIビジネスリーダーを育成するための短期集中型ブートキャンプだ。

課題の設定方法や投資対効果の見極め方、実際の運用フローなどAIプロジェクトを企画する際に必要なスキルを独自のフレームワークを使いながらレクチャーしていくのが特徴。オンラインレッスンに加えて対面のコンサルティングプログラムも提供する。

元々はコンシューマー向けのAIプログラミング学習サービスとして始まったAidemyだが、その受講者が所属先で法人版の導入を主導するなど、両サービスが上手く作用しながら成長を続けてきた。

今後もコンテンツの数を増やしつつ、ビジネスの核としてAidemy Businessを中心に法人向けのサービスを強化していく計画だ。