「のど」撮影画像の解析で診断、アイリスがインフルエンザを判定可能な感染症診断AI搭載医療機器を日本初承認申請

医療機器の研究開発・製造、機械学習の技術開発を手がけるアイリスは6月16日、咽頭(のど)画像の解析を基にインフルエンザ判定を行うAIアルゴリズムを開発し、咽頭カメラを含むAI搭載システムを「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法)に基づき、厚生労働大臣宛て医療機器製造販売承認申請をしたと発表した。

今回申請した機器では、AIプログラムのみならず、AI解析に適した咽頭画像を撮影するための咽頭撮影専用カメラも自社で設計・開発。これにより既存の内視鏡などを用いずに口腔内・咽頭を鮮明に撮影することを実現した。

今回申請の機器では、専用カメラで撮影した患者の咽頭写真を基に、体温などのデータと組み合わせて人工知能(AI)がインフルエンザの「陽性」「陰性」を短時間で判定する。患者にとっては侵襲性の低い検査法となり、また医療機関での診療プロセスを工夫することで医療者が患者由来の唾液飛沫を浴びる場面を減らしながら効率よく診察できることを目指している。この仕組みには、日本人医師の宮本医師が発見したインフルエンザ濾胞(ろほう)の知見も活かされているという。

アイリスによると、前向き試験としてAI医療機器の有効性検証治験が実施し承認申請を行う日本初の事例となり、承認後は、全国の医療機関での導入や医療現場での活用が可能となる。ちなみに米国FDA(アメリカ食品医薬品局、医療機器の認可を行う機関)認可の130のAI医療機器においても、4製品のみとしている。

既存のインフルエンザ検査法は、発症早期では診断精度が十分に発揮されず、現場で実践した際の精度が6割程度との研究報告があるという。また、検査時に綿棒を鼻腔内に挿入する行為は、患者の痛みを伴うと同時に、検査時の医療者に対する飛沫感染リスクが懸念されているそうだ。

アイリスはこれら課題を解決すべく、2017年11月の創業時から研究・開発に取り組んできた。これまでに6名の医師を含む9名の医療従事者や厚生労働省・経済産業省出身者、医療AI領域に特化したデータサイエンティスト、大手医療機器メーカー出身者など多数の専門職が揃い、医療現場、技術(ハードウェア・ソフトウェア・AI)、規制を深く理解したうえでAI医療機器をスピーディに開発する体制を構築している。

2018・2019年度には、自社開発の咽頭カメラを用いて、臨床研究法における特定臨床研究として大規模な前向き研究を実施。のべ100医療機関・1万人以上の患者に協力してもらい、50万枚以上の咽頭画像を収集し、独自の咽頭画像データベースを構築した。また、同データベースの活用によりインフルエンザ判定AIプログラムを開発。これをもって2020年に治験を実施し、機器の有効性・安全性などの検証を行ったという。

アイリスは今後、機器の製造販売承認取得後に向けた販売体制の構築を進める。さらに、世界でも研究報告の前例がない、咽頭画像からインフルエンザ判定が可能なAIアルゴリズムとして、日本から世界への展開を目指す。同時に、咽頭画像を活用することでインフルエンザ以外の感染症や感染症領域以外の疾病判定が可能となるよう、大学病院、クリニック、学会などと引き続き連携の上、次なる医療機器の開発をより加速する。

アイリスは医師の技術や医療の知見を集約させ、デジタル化することで、医療技術を共有・共創できるような医療の姿を目指して、これからも研究開発を続ける。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:医療(用語)ヘルスケア(用語)アイリス日本(国・地域)

AI医療機器スタートアップのアイリスが資金調達を実施、累計調達額が約29億円に

アイリス

AI医療機器スタートアップのアイリスは8月6日、資金調達を実施し、2017年11月創業からの累計資金調達額が約29億円となったと発表した。引受先は、トヨタ自動車を主な出資者として、スパークス・グループ運営の「未来創生2号ファンド」、CYBERDYNEと同社子会社運営のCEJファンド(サイバニクス・エクセレンス・ジャパン 1号投資事業有限責任組合)。

調達した資金は、AI医療機器のさらなる研究開発の加速とグローバル展開に向けた準備、優秀な人材の獲得に利用する。

アイリスは、AI技術を用いた高精度・早期診断対応のインフルエンザ検査法の開発を進行。2019年4月には第一種医療機器製造販売業を取得、2019年5月には塩野義製薬とBeyond Next Venturesを引受先とする12.5億円の資金調達を実施。冬季には大規模な臨床試験を実現し1万人以上のデータを収集するなど成長を続けてきた。

2020年6月にはPreferred Networksとの取り組みを開始し、同社が開発するAI医療機器の上市に向けた支援を実施している。

アイリスは、技術開発と事業のさらなるスピードアップを目指しており、また、開発する機器や技術は広く世界に向けて提供できると考えているという。こうした背景から今回、知能化技術への投資に注力する「未来創生2号ファンド」および医療機器の豊富な海外展開実績を有するCYBERDYNEからの資金調達を実施した。

今後もインフルエンザAI診断支援機器だけでなく、他疾患への展開など、アイリスがミッションとして描く「すべての医師が匠の医療技術を共有し育てることのできる社会の実現」を目指すとしている。

なおアイリスは8月4日、AIエンジニアの吉原浩之氏が所属するチームが、世界的AIコンペティションプラットフォームKaggleの「Prostate cANcer graDe Assessment (PANDA) Challenge」(PANDA Challenge)においてGoldメダルを受賞したことを発表している。また吉原氏は、これまでに獲得していた3つのSilverメダルとこの受賞で、Kaggle Masterの称号を獲得した。同社は、吉原氏が参加したPANDA Challengeは前立腺癌の生体組織診断という医療分野コンペティションにあたり、参加によって得られた技術はアイリスのAI医療機器開発にも大いに活かされるとしている。

AI活用でインフルエンザの早期発見へ、アイリスが12.5億円を調達

AI医療機器を開発するアイリスは5月7日、塩野義製薬とBeyond Next Venturesを引受先とする第三者割当増資により12億5千万円を調達したことを明らかにした。

塩野義製薬側の発表によると両社では4月25日付で資本業務提携を締結済み。塩野義製薬がアイリスに12億円を出資し株式の約14%を取得するとともに、アイリスが開発するAI医療機器を対象とした将来のライセンス契約に関する優先交渉権を得たという。

アイリスではインフルエンザ患者ののどにできる「インフルエンザ濾胞(ろほう)」と呼ばれる腫れ物に注目。撮影したのどの写真をAIで解析することで、インフルエンザの高精度・早期診断をサポートするAI医療機器を開発中だ。

同社によると、2018年の国内インフルエンザ患者数は2000万人を越え、過去10年で最大の流行となった。現状の検査方法では発症してから24時間以上が経過しないと診断精度が十分ではなく、6割程度にとどまるとの研究報告もあるそう。検査法の改善は進んでいるが、抜本的な解決には至っていない段階だという。

この問題へのアプローチとしてアイリスが目をつけつけたのが、上述したインフルエンザ濾胞だ。風邪をひいている場合や健康な状態でものどの奥には膨らみが存在するものの、インフルエンザ濾胞には「インフルエンザの場合にだけ」現れる特徴があることを日本の医師が発見した。

表面の色調や艶やかさ、大きさや盛り上がり方などからインフルエンザ特有の特徴を見分けるのは、その道に精通するベテラン医師だからこそ成し得ること。アイリスでは画像解析AIを通じてこの技術の再現を目指している。

具体的には鼻の奥に綿棒を入れて行う検査の代わりに、のどの写真を撮影。その写真を解析することで高精度かつ早期にインフルエンザを診断できる機器を作る。

アイリスによると臨床研究法に則った臨床試験を既に実施しているそうで、今後は治験や薬事承認に向けて開発を加速させていく計画だ。

左からアイリス代表取締役社長の沖山翔氏、取締役副社長CSOの加藤浩晃氏