オンライン広告をもっとプライベートするアップルの提案

長年にわたり、オンライン広告のおかげでウェブのほとんどが無料で使えるようになっている。ただ問題は、広告がみんなに嫌われていることだ。無神経に画面全体を占領したり、自動的に表示されたりするとき以外も、インターネット上のどこへ行こうと、彼らは私たちの動きを見張っている。

広告は、私たちがどこへ行き、どのサイトを訪れたかを追跡でき、個人の特徴を蓄積できる。広告をクリックしなくてもだ。もしクリックすれば、何を買ったかが相手に知られて、他のサイトにも報告される。だから、あなたが夜更かしをしてアイスクリームやネコの餌や、もうちょっとプライベートなものを買っていることが知れ渡ってしまうのだ。

簡単な対策として、広告ブロッカーという手がある。しかし、それではインターネットの発展や利便性の向上は望めない。そこでApple(アップル)は、評判の悪い広告トラッキング能力は使わずに、広告を存続させる中間地点を見つけ出した。

巨大ハイテク企業のアップルが考え出したのは、Privacy Preserving Ad Click Attribution(プライバシー保護型広告クリック・アトリビューション)。舌を噛みそうな名前だが、その技術的な能力は確かなようだ。

背景を簡単に説明しておこう。インターネットで何かを買うごとに、広告を掲載した店舗は、あなたが何かを買ったことを知り、同時に、同じ広告を掲載している他のサイトにそれが伝わる。広告がクリックされると、店舗は、どのサイトで広告を継続させるべきかを考えるために、それがどのサイトの広告なのかを知る必要がある。これがいわゆる広告アトリビューションだ。広告はよく、トラッキング画像を使う。見えるか見えないかのピクセルサイズの微小なトラッカーがウェブサイトに埋め込まれていて、どこでウェブページが開かれたかを監視している。この画像にはクッキーが仕込まれていて、ページからページへ、またはウェブサイト全体にわたるユーザーの移動状況を簡単に追跡できるようになっている。この目に見えないトラッカーを使うことで、広告をクリックしてもしなくても、その人が訪れたいくつものサイトを通じて、興味や何を欲しがっているかといった個人的な特徴の数々を、ウェブサイトが蓄積してゆく。

その概要を説明した米国時間5月23日公開のアップルのブログ記事によると、広告は、オンラインストアで何かを買ったことを他人に知らせる必要はないと、同社では考えているようだ。広告に必要な情報は、誰か(個人は特定しない)が、どのサイトの広告をクリックして何を買ったかという情報だけだという。

個人の識別などはもってのほか。その新技術を使えば、広告キャンペーンの効率を落とすことなく、ユーザーのプライバシーが守れるとアップルは話している。

アップルeのこの新しいセブ技術は、間もなくSafariに組み込まれることになっているが、大きく分けて4つの部分で構成されている。

1つ目は、広告をクリックしても、個人が特定されないようにするものだ。広告には、ユーザーがどのサイトを訪れ何を買ったかを認識するための、長大な一意のトラッキングコードが使われていることが多い。なので、キャンペーンIDの数を数十個に限定すれば、広告主はその一意のトラッキングコードをクリックごとに割り当てることができなくなり、ウェブ上で特定の個人ユーザーのトラッキングがずっと難しくなる。

2つ目は、広告のクリック回数の測定は広告がクリックされたウェブサイトだけで許可されるというもの。これによりサードパーティーは排除される。

3つ目は、ユーザーがサイトに登録したときや何かを買ったときなど、ブラウザーは広告のクリックとコンバージョンに関するデータの送信を最大で2日間、不特定な時間だけ遅らせるというもの。そうすることでユーザーの行動をさらに見えにくくする。そのデータは、他の閲覧データが関連付けられないように専用のプライベートな閲覧ウィンドウを通して送られる。

最後に、アップルによれば、これらをブラウザーレベルで行うということだ。それにより、広告ネットワークや業者が取得できるデータが大幅に制限される。

誰が何をいつ買ったかを正確に調べるのではなく、アップルのブライバシー広告クリック技術は、個人を特定せずにクリックされたこととコンバージョンのデータを送り返す。

「サイトを超えたトラッキングによる問題を訴えるブラウザーが増えているため、私たちは、プライバシーを侵害する広告クリックのアトリビューションを過去のものにしなければなりません」と、アップルのエンジニアであるJohn Wilander氏はブログ記事に書いていた。

この技術の中核となる機能の1つに、広告が収集できるデータの量を制限する技術がある。

「今日の広告クリック・アトリビューションの実践方法には、データ量に実質的な制限がなく、クッキーを使用するユーザーの、サイトをまたいだ完全な追跡が可能になります」とWilander氏は解説する。「しかし、アトリビューションデータのエントロピーを十分に低く保つことで、報告はプライバシーを保護した状態で行えると信じています」。

要約すれば、キャンペーンとコンバージョンのIDの数を64個に限定すれば、サイトを超えて移動するユーザーの追跡を可能にする一意の識別子となる長い一意の値を、広告主が使えなくなるということだ。アップルによれば、この数を制限しても広告主は広告の効果を知るための十分な情報が得られると言っている。それでも広告主は、例えば特定のコンバージョンIDを使い特定のサイトで48時間以内に行った広告キャンペーンのうち、どれがもっとも顧客の購入に結びついたかを知ることができる。

アップルは、この技術が広く普及すれば購入のリアルタイムの追跡は過去のものになると考えている。広告のクリックとコンバージョンの報告を最大2日間遅らせることで、広告主は誰が何をいつ買ったかをリアルタイムで知ることができなくなる。アップルによれば、誰かが何かを買った途端にアトリビューションの報告が送られる間は、ユーザーのプライバシーを守る手立てはないという。

アップルは、このプライバシー機能が今年の後半にSafariのデフォルトに切り替わるよう設定しているが、それだけでは不十分だ。同社は、他のブラウザーのメーカーもこの松明を手に取って一緒に走ってくれるよう、この技術をワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアムで規格化するよう提案した。

最近のことを憶えている人なら、ウェブの規格はすべて成立するわけではないと思うだろう。哀れな運命を背負ったDo Not Track(トラッキング拒否)機能は、ブラウザーのユーザーからウェブサイトと広告ネットワークに追跡するなという信号を送れるようにするものだった。主要なブラウザーのメーカーはこの機能を受け入れたものの、議論が泥沼化して規格にはならなかった

アップルは、今回の提案は通ると見ている。その主な理由は、プライバシー広告クリック技術は、Do No Trackと異なり、他のプライバシー保護のための技術と協力してブラウザー内で効果を発揮できるからだ。Safariにはintelligence tracking prevention機能がある。GoogleのChromeMozillaのFirefoxなどの他のブラウザーも、プライバシーにうるさい人たちに対処するためにプライバシー機能を強化している。アップルはまた、ユーザーが積極的にこのプライバシー機能を欲しがると踏んでいる。その一方でこれは、広告やコンテンツのブロッカーをインストールするなどのユーザーの思い切った行動によって閉め出されることを恐れる広告主の懸念にも配慮している。

この新しいプライバシー技術は、先週公開になった開発者向けのSafari Technology Preview 82に搭載されている。ウェブ開発者向けには、今年後半に提供される。

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(翻訳:金井哲夫)