Yazawa Ventures、女性起業家向けインキュベーションプログラム「アントレジェネレーター」採択企業発表

Yazawa Ventures、女性起業家向けインキュベーションプログラム「アントレジェネレーター」採択企業発表

独立系シードに特化したベンチャーキャピタル、Yazawa Venturesは1月17日、女性起業家を支援するインキュベーションプログラム「アントレジェネレーター」の3つの採択企業を発表した。このプログラムは、「世界に大きなインパクトを出せる事業創造に挑戦する女性」を対象に起業前後に出資を行い、専門家による起業講座やメンタリングを提供しつつ4カ月間でPMF(プロダクトマーケットフィット)を目指すというものだ。

採択起業は次の3社となる。

  • plusbase(代表:Wim.サクラ氏)
    医療業界には、もっとも就業者数が多い看護師の54%が抑うつ症状を訴えているという課題がある。これに対して、医療機関特化型メンタルサポートSaaS「+Nurse EAP」で解決を目指す
  • Josan she’s(代表:渡邊愛子氏)
    助産師、女性、家庭を結ぶマッチングサービスを展開。働き方に柔軟性がなく就業継続が困難な助産師に寄り添い、産前産後のお母さんの心身ケアを目指す。
  • Kaguya(代表:梶睦菜氏)
    メタバースで使えるバーチャル家具に特化したNFTマーケットプレイス「Kaguya」を展開。厳選されたアーティストやデザイナーの家具が購入できる。

Yazawa Venturesは、おもに働き方の改革を目指すスタートアップへの出資を行っている。投資領域は、「企業や組織の改革を目指すスタートアップ」と「個人の働き方の改革を目指すスタートアップ」とのこと。誰もが経済活動を楽しめるダイバーシティー性の高い社会を作る企業に積極的に投資、支援を行うとしている。

LGがインキュベーター「LG Nova」の第1期候補企業を発表

韓国の大手テクノロジー企業であるLGは、テレビ(CESでいくつか新製品が発表された)、洗濯機、冷蔵庫など、あらゆるものを製造している。同社が関わっていないものを列挙する方が、おそらく時間がかからないだろう。そんなLGがイノベーションに強い関心を持っていても驚くことはない。LG Nova(LGノヴァ)は、カリフォルニア州シリコンバレーのサンタクララにある同社の比較的新しい北米イノベーションセンターで、ここではLGの中核となる成長分野でのミッションを推進するために、スタートアップ企業と協力する新たな興味深い方法を模索している。

2022年1月はじめにラスベガスで開催されたCESで、LGは同社との提携を希望し、その候補に入ることができた最初の企業の一群を発表した。これらの企業には共通点がある。LGのイノベーション分野における重点領域のいくつかを強調・強化する企業であるということだ。

LG Novaが目指しているのは、もちろんこれらの企業を含めたスタートアップエコシステム全体のベン図の中心になることだ。これを、より広い投資家層、大手テクノロジー企業 、学界、起業家コミュニティ、そしてLG独自の適切な販売・マーケティングチャネルなど、LG自身が持つ強みや優位性と一体化したいと考えている。

LG Novaが現在実施しているプログラムは「Mission for the Future(未来に向けたミッション)」というもので、これは本質的に、LGのエコシステムの中でビジネスを創造するために、LGの客員起業家と協力できる最も有望な起業家やスタートアップを見つけるためのろ過システムだ。

Mission for the Futureは、LG Novaが9カ月間にわたって実施するチャレンジプログラムで、より知的で健康的、そしてよりコネクテッドな未来に向けて、生活の質を向上させる最も優れたアイデア、コンセプト、ビジネスを世界中から探し出すために設けられた。

この分野におけるLGの大きなテーマの1つはコネクテッドヘルスであり、特に施設や家庭、またはその分野のサービスを通じて人々のウェルネスニーズを満たすことに特化したヘルスケアを倍増させることに重点を置いている。LG Novaは、その最初の候補企業として、遠隔医療サービスのためのVR治療室を提供するXR Health(XRヘルス)と、LGのテレビを活用して顧客に健康に関する積極的な会話を促すデジタルAIヘルスアシスタントのMaya MD(マヤMD)を発表した。

メタバースは、LG Novaが特に注目している2つ目の広範なカテゴリーだ。そこでは人と機械が新たなインタラクションモダリティ(相互作用)で、どのようにつながることができるかを、より広範に探求しているように見える。この分野においては、メタバースで製品トレーニングを行うための企業向けアプリケーションとサービスを手がけるiQ3と、超現実的な仮想旅行・観光体験を構築しているI3Mという企業が選ばれた。

LGが「Energizing Mobility(エナジング・モビリティ)」と呼ぶ持続可能なモビリティは、同社が推進するイノベーションの第3の柱である。SparkCharge(スパークチャージ)は、持続可能性を維持しつつ、電気自動車の充電をモバイル化するという興味深い企業だ。一方、Driivz(ドライブズ)は、電気自動車の充電管理のための一種のオペレーティングシステムを構築している。

LG Novaのイノベーション円グラフの最後の部分は、同社によると「Smart Lifestyles(スマート・ライフスタイル)」に関するもので、つまりこれはLGの言葉でいうスマートホーム技術のことらしい。この分野ではまず、ユニバーサルなスマートキー技術のEveryKey(エブリィキー)が選ばれた。これは1つのデバイスで車や電話、ドアのロックを解除したり、ウェブサイトのログインを安全に保つことができるようにするという技術だ。A.kin AI(エイキンAI)は、LGのハードウェア製品にバーチャルアシスタント技術を追加しようとしている会社で、特に神経多様性を持つ人々がいる家庭の在宅介護をサポートすることを目指している。そしてChefling(シェフィング)という企業が、必要栄養量に合わせて食事を計画、購入、調理するソリューションを提供し、スマート・ライフスタイルを完成させる。

今回発表されたスタートアップ企業を見れば、LG Novaがどのようなものを求めているかを少しだけ理解できる。次回の募集は2022年末に始まる予定だ。2022年のCESで筆者はこのプログラムの責任者に、LGが何を求めているのか、このプログラムがどのようにスタートアップと協力していくのか、また、選考委員会の目に留まるにはどうしたらいいのか、などについて詳しく話を聞いてきた

画像クレジット:LG Nova

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

LGがインキュベーター「LG Nova」の第1期候補企業を発表

韓国の大手テクノロジー企業であるLGは、テレビ(CESでいくつか新製品が発表された)、洗濯機、冷蔵庫など、あらゆるものを製造している。同社が関わっていないものを列挙する方が、おそらく時間がかからないだろう。そんなLGがイノベーションに強い関心を持っていても驚くことはない。LG Nova(LGノヴァ)は、カリフォルニア州シリコンバレーのサンタクララにある同社の比較的新しい北米イノベーションセンターで、ここではLGの中核となる成長分野でのミッションを推進するために、スタートアップ企業と協力する新たな興味深い方法を模索している。

2022年1月はじめにラスベガスで開催されたCESで、LGは同社との提携を希望し、その候補に入ることができた最初の企業の一群を発表した。これらの企業には共通点がある。LGのイノベーション分野における重点領域のいくつかを強調・強化する企業であるということだ。

LG Novaが目指しているのは、もちろんこれらの企業を含めたスタートアップエコシステム全体のベン図の中心になることだ。これを、より広い投資家層、大手テクノロジー企業 、学界、起業家コミュニティ、そしてLG独自の適切な販売・マーケティングチャネルなど、LG自身が持つ強みや優位性と一体化したいと考えている。

LG Novaが現在実施しているプログラムは「Mission for the Future(未来に向けたミッション)」というもので、これは本質的に、LGのエコシステムの中でビジネスを創造するために、LGの客員起業家と協力できる最も有望な起業家やスタートアップを見つけるためのろ過システムだ。

Mission for the Futureは、LG Novaが9カ月間にわたって実施するチャレンジプログラムで、より知的で健康的、そしてよりコネクテッドな未来に向けて、生活の質を向上させる最も優れたアイデア、コンセプト、ビジネスを世界中から探し出すために設けられた。

この分野におけるLGの大きなテーマの1つはコネクテッドヘルスであり、特に施設や家庭、またはその分野のサービスを通じて人々のウェルネスニーズを満たすことに特化したヘルスケアを倍増させることに重点を置いている。LG Novaは、その最初の候補企業として、遠隔医療サービスのためのVR治療室を提供するXR Health(XRヘルス)と、LGのテレビを活用して顧客に健康に関する積極的な会話を促すデジタルAIヘルスアシスタントのMaya MD(マヤMD)を発表した。

メタバースは、LG Novaが特に注目している2つ目の広範なカテゴリーだ。そこでは人と機械が新たなインタラクションモダリティ(相互作用)で、どのようにつながることができるかを、より広範に探求しているように見える。この分野においては、メタバースで製品トレーニングを行うための企業向けアプリケーションとサービスを手がけるiQ3と、超現実的な仮想旅行・観光体験を構築しているI3Mという企業が選ばれた。

LGが「Energizing Mobility(エナジング・モビリティ)」と呼ぶ持続可能なモビリティは、同社が推進するイノベーションの第3の柱である。SparkCharge(スパークチャージ)は、持続可能性を維持しつつ、電気自動車の充電をモバイル化するという興味深い企業だ。一方、Driivz(ドライブズ)は、電気自動車の充電管理のための一種のオペレーティングシステムを構築している。

LG Novaのイノベーション円グラフの最後の部分は、同社によると「Smart Lifestyles(スマート・ライフスタイル)」に関するもので、つまりこれはLGの言葉でいうスマートホーム技術のことらしい。この分野ではまず、ユニバーサルなスマートキー技術のEveryKey(エブリィキー)が選ばれた。これは1つのデバイスで車や電話、ドアのロックを解除したり、ウェブサイトのログインを安全に保つことができるようにするという技術だ。A.kin AI(エイキンAI)は、LGのハードウェア製品にバーチャルアシスタント技術を追加しようとしている会社で、特に神経多様性を持つ人々がいる家庭の在宅介護をサポートすることを目指している。そしてChefling(シェフィング)という企業が、必要栄養量に合わせて食事を計画、購入、調理するソリューションを提供し、スマート・ライフスタイルを完成させる。

今回発表されたスタートアップ企業を見れば、LG Novaがどのようなものを求めているかを少しだけ理解できる。次回の募集は2022年末に始まる予定だ。2022年のCESで筆者はこのプログラムの責任者に、LGが何を求めているのか、このプログラムがどのようにスタートアップと協力していくのか、また、選考委員会の目に留まるにはどうしたらいいのか、などについて詳しく話を聞いてきた

画像クレジット:LG Nova

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

勢いを増すフェイスブックやDropboxの初期エンジニアが設立したアンチインキュベーター「SPC」

サンフランシスコのサウスパーク地区に数十人のエンジニアが集まるコミュニティ「サウスパークコモンズ(SPC)」ができたとき、結成から1年後の2017年にニューヨーク・タイムズ紙が紹介した以外は、ほとんど公に知られることはなかった。

SPCはFacebook(フェイスブック)初の女性エンジニアであるRuchi Sanghvi(ルチ・サングヴィ)氏が設立した。同氏は当時、SPCの野望はブルームズベリーセット(20世紀前半の英国の芸術家・学者グループ)やBenjamin Franklin(ベンジャミン・フランクリン)のジュントクラブ(フランクリンが創設した切磋琢磨のためのグループ)のようなものを、テック界にもつくることだと説明した。そこで人々は、個々人の、あるいは共通の経験を語り合い、その過程で新しいアイデアを形成するのだ。

早い話、SPCによると、この試みはうまくいっているという。2018年に5500万ドル(約62億円)のベンチャーファンドを立ち上げ、コミュニティのメンバーから生まれた複数のプロジェクトに投資した。現在、ベイエリアと世界各地に450人のメンバーがいる。テック界の著名人や機関投資家からの資金で、新たに1億5000万ドル(約170億円)のファンド組成を完了したばかりだ。

また、SPCは非常に価値の高いポートフォリオを有しているという。サングヴィ氏によれば、SPCのデビューファンドは、すでに投資家に対し、資本にいくらかの果実をつけて返還している。これは、分散型融資のためのオープンソースプラットフォームであるCompound Labsのおかげであり、そのトークンを初期の株主に一部分配した。同氏によると、SPCは他にも10~12社のいわゆるユニコーンをポートフォリオに抱えている。

TechCrunchは米国時間12月17日、サングヴィ氏とその夫でビジネスパートナーのAditya Agarwal(アディティア・アガーワル)氏と話した。アガーワル氏は、Facebookで初期のエンジニアとして活躍した後、サングヴィ氏と共同でスタートアップを設立した。同社は2012年にDropbox(ドロップボックス)に売却された。これは人材獲得を目的とした買収だったといわれている。(サングヴィ氏はDropboxにオペレーション担当VPとして2年勤めた。Dropboxのエンジニアリング担当VPとして入社したアガーワル氏は2016年にCTOに昇進し、2018年に退職、SPCのサングヴィ氏に合流した)。

ここまで、SPCのコミュニティの進化について少し長く触れた。元々は物理的な場所として始まり、パンデミック後は高度に構造化された仮想社会となった。だが、SPCは依然として、現実の世界で人々を結びつけることに重点を置く。

実際、サングヴィ氏とアガーワル氏はオフラインでの交流の力を強く信じている。そのため、サンフランシスコに加え、ニューヨークも拠点として現在計画中で、シアトルや東南アジアなど、他の拠点も続く可能性があると話す。

SPCのメンバーの約70%は「技術系」だが、残りの30%は「特定領域の専門家またはオペレーションの知見がある人、あるいは学者」だとサングヴィ氏はいう。この構成は意図的なものだ。「おもしろいのは、優秀な起業家と話すときに、他の起業家と知り合いになりたいかと尋ねると、答えはいつも『ノー』なんです」と同氏は笑いながら語る。「彼らは、AIアルゴリズムでスタンフォード大学のチームを打ち負かした専門家とは知り合いになりたいのです。だから、そうしたオペレーションの専門家がコミュニティに混ざっていることは、非常に価値があります」。

そうしたつながりは、友情と新鮮なアイデア以上のものをもたらしているようだ。アガーワル氏によると、この組織のメンバーの50%以上は、共同創業者や創業時の従業員をコミュニティ内で見つけたそうだ。SPCは、新進気鋭のチームと接触するY Combinatorや、大企業の経営幹部に目をつけているVCとは異なる。SPCが捕まえようとしているのは、明らかに才能があり、おそらく多くの需要があるにもかかわらず、最後の仕事を終えたあと、次に何をするかまだ決めておらず、それについて考えるために少し時間が欲しい、といった人だ。

ふわっとしているかもしれないが、SPCが見つけたいのは、次にしたいのは単にアイデアを自由に探ること、といった人たちだ。アガーワル氏は「私たちは『マイナス1からゼロの段階』にある人々が、会社を始めることを可能にするなるための学習コミュニティのようなものです」と言い「その過程でスタートアップが生まれれば、ファンドから投資します」。

その他に知っておくべき点として、メンバーは「卒業」するまでの9カ月間、コミュニティ内で密接に働く傾向があるということがある。卒業とはつまり、新しいスタートアップのコンセプトに対し100万ドル(約1億1300万円)以上の資金を調達するか、4人以上のフルタイム従業員を抱えるか、仕事を得るかである(アイデアの探求が、必ずしも起業につながるとは限らない)。

コミュニティメンバーが資金調達の段階に達した場合、早い段階で合意されるのが、SPCに投資の先買権を与えることである。各メンバーはSPCのファンドへの投資に招待され、多くのメンバーがこの申し出に応じる。サングヴィ氏によれば、SPCの1億5千万ドル(約170億円)の新ファンドには、100人の会員が投資家として名を連ねている。

投資の形態はといえば、ごく一般的なものである。アガーワル氏によれば、SPCは通常、70万〜200万ドル(約7900万〜2億2600万円)の範囲で、会社の7〜10%に投資する。また、SPCのネットワークが非常に貴重であるため、その後、投資に参加するベンチャーキャピタルは、自分たちの短期的な利益のためにSPCの持ち分を希薄化するのではなく、SPCが出資比率を維持できるようにするのが一般的であるという。

確かに、この方式は今、うまくいっているように見える。SPCの物理的および仮想的「廊下」を通過する企業には、Compound Labsに加え、ブロックチェーンのデータを整理するためのインデックスプロトコルであり、イーサリアム創設者のVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏から公に支持を得ているThe Graph、Sequoia CapitalとIndex Venturesが投資し、12億ドル(約1360億円)の評価額がついている会計ソフトウェアメーカーのPilot、法人向け不正行為監視ノーコードソフトウェアのスタートアップで、7月にTiger GlobalがリードしたシリーズBで3400万ドル(約38億円)を集めたUnit21などがある。

SPCは、サングヴィ氏とアガーワル氏の2人のゼネラルパートナーに加え、Dropboxで売上分析と国際展開を担当したMitra Lohrasbpour(ミトラ・ローラスブール)氏と、サングヴィ氏のチーフスタッフとして2年を過ごしたFinn Meeks(フィン・ミークス)氏を投資家に数える。

参考までに、SPCの新ファンドは前回の3倍の規模だが、アガーワル氏は、これ以上積極的に投資することはないと話す。

「私たちは量より質に重きを置いています」と同氏はいう。「質がすぐに向上するなら、それはそれですばらしいことですが、そうなるとは思っていません」。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Connie Loizos、翻訳:Nariko Mizoguchi

一度に1000社を育てるY Combinatorだって?YCの御冥福を祈ろう

ご心配ご無用。この意見全体を、「Y Combinatorに入(はい)れなかった落ちこぼれ創業者」の愚痴と思われても大いに結構だ。たしかに、見方によってはそのとおりだ。しかし最近のY Combinatorは、Y Combinatorであるだけで一種のステータスになってしまった。Y Combinatorを出た人は、そのことを、おごそかな口調で語る。まるで自分たちの頭上には神の後光があるかのような。彼らの体には、天使の翼が触れているかのような。

実際には、多くの企業にとって、Y Combinatorにいたことだけで箔が付き、YC卒業のスタンプをもらっただけで格が上がる。その選別基準は、従来からとても厳しかった。YCのデモデーがあるたびに、スタートアップのエコシステムの全体が反応し、エキサイトするのだ。プレスは鉛筆を研ぎ澄ます。投資家はもっとも将来性のあるスタートアップを真っ先に掴もうとして競う。両者が騒ぐのは、同じ理由からだ。メディアも投資家も、YCの選考過程に最後まで付き合って、終わったときまだ生きていることは、自分が一人前と評価されるための最低条件だ。

武道をよく知らない人は、黒帯の獲得をすごいことと思うだろう。たしかにそうだが、でも多くの場合それは、基本的な技能に達したことの証にすぎず、安心して練習を任せられるレベルに達していることを意味しているにすぎない。武道をよく理解している人たちは、黒帯が本格的な研鑽の始まりであることを知っている。ある意味で、Y Combinatorにも同じことが言える。入学を許され、一歩々々その教程をこなしていく。そして、黒帯をもらう。お祝いのシャンペンを開け、自分の肩をたたく。これからが、本当の仕事の始まりだ。

Y Combinatorの新しいボスであるGeoff Ralston氏が、Y Combinatorはそう遠くない将来に1回のバッチで1000社に投資すると発表したときは、私の受け取り方では、同社は武道の名門私塾から大衆的な道場に変身して、あほらしいほど大量の創業者を格闘家の空手キッズに育てようとしている、と思えた。でも、「Karate Kid」(邦題「ベスト・キッド」)を実際に見た方は覚えておられると思うが、あの映画の結論では、小さくてごみだらけのジムの方が良い場所だった。

Y Combinatorにとっては、大きな意味のある変化だろう。Ralston氏が主張するように同社が創業者の質と高い選考基準を維持できるなら、同社はスタートアップのインデックスファンドを作ることになる。Y Combinatorが投資する段階では、同社は少数の企業を低い投資額で拾い上げる。1‰(パーミル、1/1000)のスタートアップがAirbnbやDoorDash、Coinbase、GitLab、Dropbox、Amplitude、Matterport、PagerDuty、Stripe、Instacart、Cruise、Brex、Reddit、Zapier、Gusto、Flexport、Monzo、Mux、Ripplingなどなどに育つのだから、それはすごいビジネスモデルだ。ここに並んでいるスタートアップの顔ぶれもすごいが、どれも聞いたことのある名前だと思うし、全員がY Combinatorのポートフォリオ企業だ。

問題は投資家ではない。彼らはうまくやっている。問題はスタートアップだ。ネットワークが大きくなればネットワーク効果も良質である、という説は正しいだろう。でもそれは、おそろしく難解な問題だ。優秀な創業者には実際にネットワークに参加する時間がないことも、問題だ。とくに、初期ほどそうだ。彼らは自分のスタートアップを作ることに追われ、他の創業者たちを助ける余裕がない。

一人の創業者として問いたいのは、1000名を超える同級生たちと一緒に学ぶことに価値があるだろうか、ということだ。Y Combinatorのバッジを付けていることが、投資家との会見で役に立つのか? それとも、「選ばれた人」という価値が薄まり、Y Combinatorの卒業生という価値が消えてしまうのか?

私の個人的な疑念では、Y Combinatorが巨大化すれば、それはYCと一部のパートナー(YCに投資している人)にとっては良くても、やがてスタートアップの得る価値が減り始める地点があるのではないか。実はその減価の起点は、1学年が377社に膨れ上がったときすでに訪れていた。それはもはや不格好に肥大し、その急速に広がっている壁の中で起きていることの、概要記事を書くだけでもたいへんだった。

誰かが初期のY Combinatorにあったサービスと他に類のない特質を提供し始めるのは、もはや時間の問題だ。すでに数社の候補が活動を始めている。そのうちの1社が人気を獲得してその独自のポートフォリオを築き始めると、YCは着外馬のインデックスファンドとして取り残される。私が間違っていたら嬉しいが、でもこれは、シリコンバレーと呼ばれる伝説の終わりの始まりと感じられる。

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hiroshi Iwatani)
画像クレジット: Bryce Durbin/TechCrunch

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シード特化のYazawa Venturesが女性起業家向けインキュベーションプログラム「アントレジェネレーター」参加者募集

シード特化のベンチャーキャピタル(VC)「Yazawa Ventures」は11月16日、女性起業家を多数輩出すべく、起業直前・直後の女性に特化した、出資と事業計画・プロダクト構築支援をセットで提供する「Yazawa アントレジェネレーター」インキュベーションプログラムの募集を開始したと発表した。募集期間は12月5日23時59分まで。プログラム実施期間は、2022年1月15日〜4月15日の4カ月間。

Yazawa アントレジェネレーターは、起業して世界に大きなインパクトを出せる事業創造に挑戦する女性に対して、起業前もしくは起業直後に出資を行い、事業計画・プロダクト構築支援など創業期を伴走する4カ月間のインキュベーションプログラム。

アントレジェネレーターという名称の由来は、「Entrepreneur(起業家)」+「Generator(生み出す)」という。また「Entre」には「Enter」という意味もあることから、優秀な女性起業家がたくさんスタートアップへEnterできる環境を構築してきたいと思い、名付けたそうだ。

プログラムスケジュール

  • 募集期間:2021年12月5日23時59分まで
  • 審査期間:2021年12月6日〜27日
  • プログラム期間:2022年1月15日〜4月15日
  • 採択社数:3〜5社(目安)
  • 対象者:起業前・起業検討中の女性で、世界に大きくインパクトをもたらす事業を興したい女性(学生・社会人)
  • 事業テーマ
    ・「働く」を変革するスタートアップ(DX/SaaSなど産業や企業内の生産性・および効率性に寄与する事業。ヘルスケアや教育などを含め「個」の多様な活躍を推進するスタートアップ
    ・女性の社会進出における課題を解決するスタートアップ
  • 応募条件:「Yazawa Venturesからの支援によって起業し、事業価値の高いスタートアップへ挑戦したい起業前の女性」「創業して半年以内、他社からの支援を受けていない女性起業家」「解決したい課題があり、IT技術を活用した課題解決で創業しようとしていること」など。詳細は募集ページ参照
  • 応募方法募集ページを確認の上、応募フォームより申し込み

参加者のメリット

  • 採択後に500〜750万円の出資(第三者割当増資)
  • 4カ月でPMF(Product Market Fit。プロダクトマーケットフィット)の達成支援(およびメンタリング)
  • 各領域の経営者、専門家からのアドバイス
  • オフィススペースやスタートアップコミュニティの提供

またプログラムの詳細について、オンライン説明会を実施する。インキュベーションプログラムのコンセプト、募集する事業領域やスケジュールなどの詳細を説明するという。説明会の実施時期は、第1回は11月22日17:30~18:30、第2回が12月1日17:30~18:30。「『Yazawa アントレジェネレーター』始動!オンライン説明会【参加無料】」より申し込める。

オンライン説明会

忙しいテック系起業家のためのオンデマンドビジネススクール「Framework」

ビジネス教育は、率直に言って、3兆ドル(約340兆円)規模の世界的なテクノロジー系スタートアップ経済の活況に追いつくことが難しい状況にある。高成長企業は時間に追われており、それらの経営者も同様だ。だが、彼らに提供される授業は長くて退屈なものも多く、その質もさまざまである。理想を言えば、ビジネス教育はもっとオンデマンドで、ターゲットを絞り、実践的で、バイトサイズ(ひと口で食べられるサイズ)であるべきだ。

つまり、それがFramework(フレームワーク)という企業の考え方の基本だ。同社は「オンデマンドのビジネススクール」を実現するために、200万ドル(約2億3000万円)のシードラウンドを実施した。このEdtechプラットフォームによると、2022年のローンチに向けて、現在すでに2500人以上が予約リストに登録されているとのこと。

そのアイデアは次のようなものだ。Frameworkの会員は、Slack(スラック)、ASOS(エイソス)、Flo Health(フローヘルス)、Netflix(ネットフリックス)といった企業の技術管理者から、1単位15分の「フレームワーク」や、週に一度の「オフィスアワー」ライブセッションを通じて、直接学ぶことができる。メンバー同士で1対1のコネクションを作ることもできる。これは「snackable(間食のように、気軽に楽しめる)」なコンテンツと呼ばれたりする。

Frameworkは、欧州を中心とした世界のエリートテック系起業家のプライベートネットワークであるFounders Forum(ファウンダーズ・フォーラム)が作った9カ月間の「無料の代替MBA」と呼ばれるFounders Academy(ファウンダーズ・アカデミー)からスピンアウトした会社だ。

同社は、Learn Capital(ラーン・キャピタル)のシードファンドであるLearnStart(ラーンハート)、Evio(エヴィオ)、Atomico(アトミコ)やAda Ventures(エイダ・ベンチャーズ)のエンジェルプログラムからも支援を受けている。何人かのエンジェル投資家も参加しており、その中にはlastminute.com(ラストミニット・ドット・コム)やMADE.com(メイド・ドット・コム)の共同創業者であるBrent Hoberman(ブレント・ホバーマン)氏、Ada Health(エイダ・ヘルス)共同創業者のClaire Novorol(クレア・ノボロール)氏、Monzo(モンゾ)の元COOであるTom Foster-Caster(トム・フォスター・キャスター)氏、Lendable(レンダブル)の共同創業者であるVictoria van Lennep(ヴィクトリア・ヴァン・レネップ)氏、NetflixのHRディレクターであるAaron Mitchell(アーロン・ミッチェル)氏などが含まれる。

Frameworkの共同創業者であるAsha Haji(アシャ・ハジ)氏は、次のように述べている。「私たちのミッションは、世界中のスタートアップやスケールアップのための頼りになる学習コミュニティを構築することによって、新世代のテックリーダーを育成することです」。

同じく共同創業者のRiya Pabari(リヤ・パバリ)氏は「有色人種の2人の女性創業者として、VCコミュニティからもっと注目されるべきなのに過小評価されている創業者たちのために、旗を掲げるチャンスでもあります」と付け加えた。

ハジ氏は電話で私にこう語った。「長時間式の学習は、スタートアップ企業で働くほとんどの人にとって、時間的な負担が大きいために利用できません。私たちがやっているのはマイクロラーニングです。本当に毎日やること、実践的な質問をすることが大事です。コンテンツだけでなく、コミュニティも充実しています。お互いに1対1で関わることができます」。

Founders Forumの共同設立者であり、Frameworkの投資家でもあるブレント・ホーバーマン氏は次のように述べている。「Frameworkのバイトサイズのレッスン、実用的なチートシート、魅力的なコミュニティ機能は、業界が待ち望んでいたモダンな学習プラットフォームであり、リヤとアシャはそれに命を吹き込む強力なコンビです」。

画像クレジット:Framework / Framework founders, Riya Pabari and Asha Haji

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

バイオテックの巨大インキュベーター「Bakar Labs」、カリフォルニア大学に誕生

独自のインキュベーターとアクセラレーターを運営するなど、州内のスタートアップエコシステムを育んできたカリフォルニア大学。このたび、同大学はバークレー校に巨大なインキュベーター「Bakar Labs(バカールラボ)」を開設することになった。年間80ものスタートアップ企業に、大学の施設やネットワークへのアクセスを提供する場となる。

かつてバークレー美術館だった美しいブルータリスト様式のWoo Hon Fai Hall(ウー・ホンファイ・ホール)に設置されるBakar Labsは、大学内で継続的に行われている分野を横断した取り組み「Bakar BioEnginuity Hub(バカール・バイオエンジニティーハブ)」の一環という位置づけで、大学全体で起業活動を管理しているQB3(キュービースリー)によって運営される。従来バークレー校で行われていたバイオテクノロジーに特化した小規模なプログラムは廃止されることになる。

Bakar Labsは、アクセラレーターのように製品の適合性やチームの構築などのカリキュラムを提供するのではなく、世界的な研究機関であり、優れた教授陣と豊富なリソースを有するバークレー校の最高のシステムをふんだんに提供する。インキュベーター内の企業は、それらを(限定的に)利用することができる。

Bakar Labs内の研究室のイメージ(画像クレジット:UC Berkeley)

このハブは、安価なオフィスや研究室、そして前述の豊富なリソースを提供することで、世界中の創業者を誘致できるように計画され、参加条件にバークレー校との提携は含まれていない。生命体を集め、たくさんの栄養を与えて成長を見守る、まさしくインキュベーター(培養器)だ。

財源にも比較的手間のかからないアプローチが採用されている。参加する企業はラボの利用料を支払うだけで、バークレー校やその関連施設に出資したり、それらが優先権を得たりする契約はない。QB3の担当者によると、提携するVCファンドを通じて投資が行われる可能性はあるが、プログラムに組み込まれているわけではない、とのことだ。

また、バークレー校の別の起業プログラムである「Skydeck(スカイデッキ、バイオテック分野の内外で高い評価を得ている企業を輩出している大学の起業プログラム)」との関連もない。Bakar Labsの企業選考を支援するチームは、Skydeckの応募者選考もサポートしており、今後は友好的に住み分けることになりそうだ。

エントリーに際しては、企業のポテンシャル(ビジネスと科学の両方)が審査されるものの、具体的な要件や優遇措置は柔軟に対応されることになるだろう。Bakar Labsのマネージング・ディレクターであるGino Segre(ジーノ・セグレ)氏は「企業は、買収や金稼ぎよりも、もっと多くのことを考えて欲しい」と説明する。

同氏からのTechCrunchへのメールには次のように記載されている。「私たちは、人々の健康を向上させることを目的とし、利益の出るビジネスモデルを追求するという、二重の目的を持つチームの応募を奨励します。起業家精神があれば大丈夫です」「すでに、治療薬、診断薬、研究ツール、フードテック、アグテックに関心が集まっています」。

「2~15人で、少なくとも6カ月間の運転資金を持ち、プログラムを進めるために研究室を必要とする革新的な技術にてこ入れしようとしているチームが最も理想的です」と彼は続ける。Bakar Labsの利用には期限はないが、数年経てば起業に成功したかどうかは自ずと知れる。スタートアップ企業が資金を調達して、自社のオフィスや研究室に移ることが理想だが、それが可能になるまでは、ガレージや貸し会議室よりもこのインキュベーターの方がはるかに優れているだろう。

カリフォルニア大学のCarol T. Christ(キャロル・T・クライスト)学長は、バークレー校のニュースリリースで次のように述べる。「やる気にあふれ、変化を起こそうとする学生や教員、私たちの強力な研究機関、そして利益よりも社会的利益を最大化するイノベーターのコミュニティが結集する場として、Bakar BioEnginuity Hubには大きな期待を抱いています」。

自分の会社(あるいは、今、予備のベッドルームで営業しているルームメイトの会社)にぴったりだと思ったら、ここから応募してみてはどうだろうか。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:カリフォルニア大学Bakar Labsインキュベーターカリフォルニア大学バークレー校

画像クレジット:UC Berkeley

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

中国のインディーゲームを世界へ発信、明の鄭和にちなんだ「Westward」が33億円のデビューファンド調達を計画

三国時代の遺跡と今日の製造業で知られる中国の都市「合肥」。この街で、無骨な美学とダークなストーリー展開にファンも多い欧米のロールプレイングゲームを制作する小さなスタジオを発見したMaxim Rate(マキシム・レイト)氏は胸を躍らせた。

「デザインとCGが実にすばらしく、中国で作られたものとは感じさせません」と同氏は話す。

合肥のこの例のような、創業間もない中国のスタジオを見つけ出し、彼らが国際的なプレイヤーを獲得できるよう支援することがレイト氏の使命である。中国の規制当局がゲームパブリッシングに関する規則を強化しライセンスの取得を困難にしているため、小規模なスタジオの多くが苦戦を強いられている。2020年以降、Apple(アップル)は中国当局の要請により中国のApp Storeから何千もの非正規のゲームを引き上げている。このような状況下、若手開発者たちは自国以外の地域に目を向けるようになったのだ。

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「問題は、こういったスタートアップに海外展開の経験がないということです」とレイト氏。

自身も熱心なゲーマーである同氏は、2020年中国のクロスボーダー決済会社を辞めた後、中国のゲームを海外に展開するためインキュベーターと投資を兼ねた会社を立ち上げた。Westward Gaming Ventures(ウェストワード・ゲーミング・ベンチャーズ)と名づけられたこの会社は、明の時代に国の支援を受けて「西海」への航海に乗り出した中国の武将であり探検家でもあった鄭和を着想源としている。

TechCrunchのインタビューに応じた同社は、デビューファンドとして2億元(約33億円)の資金調達を計画していると話している。1スタジオあたり200万〜400万元(約3300万〜6600万円)を目安に今後3年間で資金を投入する予定で、現在幅広いジャンルの20~30チームと交渉中だという。

今回設立されるファンドは「Qualified Foreign Limited Partners(QFLP)」と呼ばれており、同氏によるとこれにより初めて外国人投資家が米ドルおよびユーロで中国のゲーム会社に直接投資できるようになる。QFLPのライセンスを保有している機関は限られており、Westwardはライセンスを保有していないものの、中国の大手金融コングロマリットのプライベートエクイティ部門と提携することで外国人による直接投資の正当性を獲得している。同金融コングロマリットは現時点では企業名を公表していない。

このような複雑な規制を乗り越えるため、Westwardは近年中国と海外のゲーム会社によって設立された最大規模の合弁事業で法的および財務的プロセスを監督したアドバイザーなどからの協力を得ている。企業名は明かされていないが、このパートナーシップも外国企業が中国のゲーム合弁事業の過半数の株主となった初めてのケースである。

中国では付加価値サービスなどの機密性の高い分野への外国投資が制限されているため、多くの企業は複雑な海外法人を設立して海外からの資金調達を行っている。こういった制限により、資金に乏しいスタジオがグローバル市場への進出を支援してくれる外国人投資家を獲得することが難しくなってしまい、結果としてTencent(テンセント)やByteDance(バイトダンス)のような中国の大手企業に買収されるか支援を受けるかという2択を迫られることになる。

中国ゲームの台頭

中国の独立系ゲーム会社が海外資本を獲得するためのハードルを下げるということだけがWestwardの目的ではない。海外展開に向けて入念に準備を整えるというのも同社の仕事である。

「中国のゲームスタジオは規模の大小にかかわらず、海外に進出する際にはユーザー獲得の術として広告に大きく依存していました。ゲームが軌道に乗ることもありましたが、その理由が分からずただテストを続けていました。失敗したスタジオはそのまま諦めてしまうこともあります」とレイト氏は話す。

ゲームの海外展開とは、翻訳して公開ボタンを押し、Facebookで広告キャンペーンを展開するだけでできるような単純なことではない。

そのゲームがRPGなのか、ターゲットとなるユーザーはカジュアルそれとも本格的なプレイヤーなのか、グラフィックはどうするのかなどゲームの開発初期段階に関わり、ゲームのポジショニングをサポートするというのがWestwardの計画だ。また開発者に対しては、ワークスペースの提供、技術支援、マーケティングやローカライズのノウハウの提供、パブリッシャーとの連携、海外での運営支援なども行う予定である。

画像クレジット:Westward Gaming Ventures

投資後のサポートを提供するため、Westwardは同社自身も本拠地としている深セン市にあるゲームのインキュベーター、V+ Gaming Society(V+ゲーミング・ソサエティ)と提携した。

地政学的な緊張が高まるにつれ、中国のテック企業は欧米においてますます多くの課題に直面している。自らを「グローバル企業」と呼ぶ企業も多く、中国のルーツを完全に否定することさえも少なくない。

しかしWestwardは、同社が制作を支援するゲームが非中国のゲームであるなどと言って装う必要はないと考えている。「本当に良いゲームなら、それがどこで制作されたかなんて事はほとんどのプレイヤーは気にしません」。

「むしろ、海外のプレイヤーにも理解できるような中国文化の要素がゲームに含まれていたら良いのではと考えています」。

レイト氏、Edward He(エドワード・ヒー)氏とともに同社のパートナーを務めるAmy Ho(エイミー・ホー)氏によると「中国的」であると同時に文化的な境界線を超えることができた数少ない中国のゲームの1つが「Chinese Parents」だという。このシミュレーションゲームはユーザーに中国での子育てを体験させるというもので、世界的なヒット作となっている。

レイト氏がベンチマークとしたのは、20〜30年前に輸出が開始された日本のゲームだという。「日本的」な精神が宿りながらもグラフィックやゲームデザインは「グローバル化」されたものだ。

Tencentの他にも、新進気鋭のスタジオであるLilith(リリス)やMihoyo(ミホヨ)など、すでに世界的に成功した中国メーカーからのタイトルは存在する。以前はSteam(スチーム)の中国ユーザーの多くが海外タイトルの中国語版を急ぐよう求めていたが、今では欧米のユーザーが中国ゲームの英語版を要求することも珍しくないとレイト氏は話している。

政治的な問題よりも、特に小規模なスタジオにとっては「現地の個人情報保護法を遵守しながら、製品の新バージョン制作に必要なキーデータをいかにして収集するか」が大きな課題だとホー氏はいう。

Westwardは資本の50~70%を中国の機関投資家が占めることになるだろうと想定している。中国からの投資があれば、嫌でもセンサーシップの問題が台頭する。ホー氏はWestwardがスタジオにリソースと資本を提供する一方で、スタジオが投資家の影響を受けないように独立性を確保することに努めると述べている。

うまく進めば、同社のサポートにより中国と世界の文化交流が促進されることになるかもしれない。北京は同国のソフトパワーを輸出しようと試みているが、ゲームがそのパイプとなってくれるのではとレイト氏は考えている。貿易戦争が続く中、中国企業に外国人が出資すれば、中国の「ブランド」にも良い影響を与えるかもしれないと、同氏は期待を膨らませている。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:Westward中国ゲームインキュベーター

画像クレジット:Westward Gaming Ventures

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(文:Rita Liao、翻訳:Dragonfly)

「日本版StartX」目指す東大1stROUNDが東京工業大など4大学共催の国内初インキュベーションプログラムに

スタンフォード大学の卒業生が運営するStartXをご存知だろうか。これまで700社以上のスタートアップを生み出したこの非営利アクセラレータプログラムは、同大学出身者からなる強力なスタートアップエコシステムの形成に寄与している。

このStartXの「日本版」を目指し誕生した、東京大学協創プラットフォーム(東大IPC)主催のインキュベーションプログラム「1stROUND」は、新たに筑波大学、東京医科歯科大学、東京工業大学の参画を発表。国内初の4大学共催のインキュベーションプログラムとして始動する。

「株を取得しない」インキュベーションプログラム

1stROUNDは、ベンチャー起業を目指す上記4大学の学生や卒業生を主な対象として、最大1000万円の資金援助と事業開発環境を6カ月間提供するインキュベーションプログラムだ。その目標は、設立後間もないベンチャーの「最初の資金調達(ファーストラウンド)」の達成までをサポートするということ。実際に、1stROUNDの採択企業34社のうち90%が、VCからの資金調達に成功しているという。

1stROUNDの大きな特徴は、最大1000万円の資金提供をするにも関わらず「株を取得しない」ということだろう。これは、採択したベンチャーが後に大成功を収めることになったとしても、1stROUONDとしては直接的な利益を享受しないことを意味する。また同プログラムには、パートナー企業としてトヨタ自動車、日本生命、三井不動産など業界を代表する大企業が名を連ねているが、これらの企業も「無償」で同プログラムに資金を提供している。

画像クレジット:東大IPC

一見したところ「1stROUNDには投資家として参加するインセンティブがないのでは」と考えてしまうが、東大IPCやパートナー企業にも大きなメリットが存在する。それをわかりやすく示す例が、2020年4月に設立されたアーバンエックステクノロジーズだ。スマートフォンカメラを活用して道路の損傷箇所を検知するシステムを開発していた同社は、1stROUNDに応募して採択された企業の1社である。

当時、創業約5カ月にすぎなかったアーバンエックスに起こったことは、1stROUNDのパートナー企業である三井住友海上火災保険との戦略的提携だった。日本最大級の損害保険会社である同社は「ドラレコ型保険」を展開しており、約300万台のドライブレコーダーを保有する。これにアーバンエックスのAI画像分析技術を搭載することで、ドラレコ付き自動車が日本全国の道路を点検できるようになった。同プログラムを創設した水本尚宏氏は「1stROUNDのネットワークがなければ、まず実現し得なかったことだと思います」と話す。

その後、アーバンエックスはVCからの資金調達を成功させるが、そのリード投資家となったのは東大IPCの「AOI(アオイ)1号ファンド」だった。同ファンドは、1stROUNDと同じく水本氏が2020年に設立し、パートナーとして運営している。つまり、1stROUNDでは採択したベンチャーの株を取得することはないものの、のちにAOIファンドで出資を行い株を取得することができるので、東大IPCとしても将来的に利益を確保することが可能になる。

1stROUNDで支援を受けるベンチャーは、無償での資金提供に加えて大企業とのネットワーク支援を受けられる。一方でパートナー企業は「誰の手にもついていない」ベンチャー企業の情報収集や、戦略的提携の可能性がある。そして、東大IPCにとっても後のファンド投資につながる可能性がある。1stROUNDは、三者にとってメリットがある見事な仕組みといえるだろう。

画像クレジット:東大IPC

AOI 1号ファンドは240億円超に増資

これまで主に東大の学生や卒業生などを対象として運営してきた1stROUNDは、今後東京工業大学・筑波大学・東京医科歯科大学を含めた4大学に門戸を広げる。また、企業の一事業や部門を新法人として独立させる「カーブアウト」を主に扱うAOIファンドも、設立時の28億円から241億円への増資を発表し、さらに勢いに乗りそうだ。

1stROUND、AOIファンドの運営を行う水本氏はこう語る。「私達は『ファンドとしてきちんとリターンを出す』ことを目指しています。当たり前と思われるかもしれませんが、上から『儲からない案件をやれ』と言われがちな官民ファンドは、この基本的な部分が緩みがちなのです。しかし私は、1stROUNDのプレシードや、AOIファンドのカーブアウトといった、一般的に難しいとされる分野で成果を出したい。『こういう投資が儲かる』ことを証明し、民間VCや企業が参入してきた結果、エコシステムが大きくなると思うからです。私たちが民間VCと同じくらい、もしくはそれ以上にきちんと儲けることが、ゆくゆくは日本のためになると信じています」。

成功事例に乏しい分野にあえて挑戦し、国益に資することを目標とする東大IPC。数年後、ここから世界を驚かせるベンチャーがいったい何社出てくるか、楽しみだ。

関連記事:「東大IPC 1st Round」第4回の採択企業5社を発表、シード期から東大発スタートアップを支援

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:1stROUNDStartX東京大学筑波大学東京医科歯科大学東京工業大学インキュベーションアーバンエックステクノロジーズ東京大学協創プラットフォーム日本ベンチャーキャピタル

米アトランタ地区にT-Mobileとジョージア工科大学のタッグによる5Gインキュベーターが新設

T-Mobileとジョージア工科大学の先端技術開発センター(Advanced Technology Development Center、ATDC)の協力により、米アトランタ都市圏に5G技術に取り組むスタートアップのための新たなインキュベーターが設立されることが米国時間2月17日発表された

これはT-Mobileのアクセラレータプログラムの拡大であり、携帯キャリア大手の同社が5Gイノベーションを後押しする取り組みの一環だ。

アトランタに隣接する準郊外都市、Peachtree Cornersのスマートシティテクノロジー開発パークを拠点とするこのインキュベーターは、T-Mobileの5Gサービスがすでに導入されており、自律走行車、ロボット、産業用ドローンアプリケーション、MRトレーニングやエンターテインメント、遠隔医療、パーソナルヘルスなどにおける5Gユースケースを開発者が構築し、テストするのを支援すると同社は述べている。

この「5G Connected Future」プログラムに参加するスタートアップは、T-Mobileのアクセラレーター、ジョージア工科大学、Peachtree CornersキャンパスのイニシアチブであるCuriosity Labのスタッフと直接仕事をすることになる。

ATDC のディレクターであるJohn Avery(ジョン・エイブリー)氏は、「5G 分野の起業家は、通常のスタートアップの問題に加え、州や地方レベルでの規制問題、 ネットワークセキュリティ、統合テストなど、独自の課題に直面します」と語る。

Peachtree Cornersのセットアップは、そうした展開をナビゲートするのに役立つかもしれない。ATDC は、その関与の一環として、プログラムの提供、スタートアップ企業の採用と評価、Peachtree Cornersでの垂直展開を管理するスタッフの雇用を行うとのことだ。

「今回のコラボレーションは、ATDCとジョージア工科大学、Peachtree Corners市とCuriosity Lab、そしてフォーチュン50社の1つであるT-Mobileにとって、これらの企業と一緒に仕事をし、アイデアをスケーラブルな企業に磨き上げ、彼らのソリューションをより迅速に市場に投入するためのユニークな集積を作りだす絶好の機会です」とエイブリー氏は述べている。

このようなパートナーシップは、「明日のテクノロジーリーダーを可能にするというジョージア工科大学のコミットメントを強調するものであり、それは、ATDCが41年前に設立されたときから変わっていません」と、ジョージア工科大学の研究担当エグゼクティブバイスプレジデントであるChaouki T.Abdallah(チャウキ・T・アブダッラー)氏は述べている。「イノベーションは孤立した状態では起こりません。起業家やスタートアップ企業は、このようなパートナーシップを通じて提供される知識とリソースを必要としています」。

カテゴリー:その他
タグ:T-Mobile5Gジョージア工科大学アトランタインキュベーター

画像クレジット:zf L / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Aya Nakazato)