ダイバーシティの数字遊びから脱却し、Twilioが反人種差別企業になるため取った取り組みとは

2020年5月にGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏が殺害されたとき、多くの抗議活動が行われ、米国やその他の地域における人種差別の問題にスポットライトが当てられた。これを受けて、多くの企業が有色人種を支援する姿勢こそ表明したものの、実質的な変化を起こせていないのが現状だ。そんな中、口先だけでなく実際に反人種差別企業になるための取り組みを始めたのがTwilio(トゥイリオ)であり、CEOのJeff Lawson(ジェフ・ローソン)氏の決意は固い。

取り組みの一環として、ローソンは企業におけるダイバーシティ推進に長年携わってきたLybra Clemons(リブラ・クレモンズ)をチーフダイバーシティオフィサーに採用し、クレモンズ氏および他の経営陣と連携して、同社が掲げる人種差別撤廃のビジョンを推し進めている。

個人的な偏見や制度的および社会的な人種差別を分析した上で、そうした偏見や差別を解消できる会社作りを進めるのは至難の業だが、ローソン氏とクレモンズ氏はテック業界の手本となるべく本気のようだ。

こうした取り組みの中で、Twilioのダイバーシティレポートが先日発行された。取り組みの進捗状況と、よりインクルーシブな企業を目指す中で得られた知見が示されている。

筆者は、反人種差別に対する想い、個人、ビジネス、社会の各種レベルで差別に対処する方法、そしてそれがいかに終わりのない戦いであるかについて、ローソン氏とクレモンズ氏から話を聞くことができた。

全力で取り組む

クレモンズ氏は、2020年9月に入社したとき、ローソン氏をはじめとする経営陣全体の尽力で反人種差別企業に向けて取り組むことが決まり、彼女の役割は内容の定義付けだったと語った。それには他社が行っている「その場しのぎの対応」からの脱却に加えて、従業員の採用方法や、人種、容姿、出身地に関わりなく1人ひとりを迎え、成功をサポートするためのシステムを刷新することが含まれたという。

「すべての企業でとは言いませんが、(ジョージ・フロイド氏殺害事件の後)その場しのぎの対応が多かったですね」とクレモンズ氏は述べる。「(Twilioでは)反人種差別企業になるとはどういうことか、反人種差別とは何か(を解明する)ということ、私たちが現在取り組んでいることになるわけですが、そして解明したことに基づいてダイバーシティ、公平性、インクルージョンをどのように促進できるか、こういった点に全力で取り組んでいたと思います」。

こうしたテーマについてはジョージ・フロイド氏殺害事件をきっかけに気づいたわけではなく、自身が長い間考えていたことだった、とローソン氏は述べる。Twilioの初期の支援者にKapor Capital(ケイパーキャピタル)があるが、そのプリンシパルであるMitch Kapor(ミッチ・ケイパー)氏とFreada Kapor Klein(フリーダ・ケイパー・クライン)氏は何十年も前からダイバーシティとインクルージョンの推進を説いており、Twilioの2008年の設立当初にはダイバーシティについて話し合う会議に参加するようローソン氏に勧めていた。

ケイパー・クライン氏は2017年のインタビューで、スタートアップのできるだけ早い段階でポジティブな企業文化を醸成することの重要性についてTechCrunchに語っている。会社が大きくなればなるほど、それは難しくなるからだ。

当時のインタビューで、同氏は「初めからポジティブな企業文化を意識的に醸成することの重要性を強調しすぎることはありません。価値観や理念、会社のブランディングを明確にする時間を設けることが重要です。これは本当に大変なことなんですが、大企業に企業文化やダイバーシティとインクルージョンを後付けするのはもっと難しいことです」と述べていた。

ケイパー夫妻をはじめとするスタートアップの創業者たちとの出会いにより、自分が作りたい会社のイメージが固まったとローソン氏は述べる。同氏によれば、スタートアップを軌道に乗せるためのビジネス構築に手一杯だった当初、DEIB(D:ダイバーシティ、E:公平性、I:インクルージョン、B:帰属意識)について考え始める最適なタイミングなどないこと、そして同氏の言葉を借りれば「1000人の白人男性の会社になってしまう」前に、その場で考え始めることがスタートアップのリーダーとしての責任だということに気づいたという。

この考え方が2020年の反人種差別企業に向けた取り組みへとつながっていき、Ibram X. Kendi(イブラム・X・ケンディ)の著書「アンチレイシストであるためには」にヒントを得て、ローソン氏は全力で取り組んでいるのである。

「反人種差別は、どんな社会にも特定の人種を差別する制度化されたシステムがあり、差別は意図的にも無意識的にも行われるという事実に基づいています。そして反人種差別運動とは、そのような制度が何であるかを明らかにし、それにどう立ち向かうかを考えることです」とローソン氏は語った。

証明するためではなく、変化を起こすためにデータを使う

クレモンズ氏によると、2000年代半ばまでのダイバーシティに対する標準的な考え方は、単にデータを見て、目標値を達成していたら喜んで終わりというものだった。とはいえ同氏は、Twilioがさらにその先を行って、データを活用して会社に実質的な変化をもたらせるようサポートしたいと思ったという。

「データは特定の人口層や集団が増加したか、しなかったかを示します。では、実際に企業方針や手法を変えたりシフトしたりする上で、そのデータをどのように活用すればいいのでしょうか」とクレモンズ氏は問う。

「これはレイシズム(人種主義)、コロニアリズム(植民地主義)、カラリズム、ホモフォビア(同性愛嫌悪)といったあらゆる主義に関わる米国および世界の歴史を本当の意味で理解し、それに取り組む道のりです。自社が行っている選択と、その選択における個人的な利害関係を見つめ直した上で、人種差別撤廃に向けた施策や手法を構築していくことで、ダイバーシティ、公平性、インクルージョンの戦略が実際に変化し始めるのです」。

黒人のプロフェッショナルの職場における地位向上を目的として立ち上げられたスタートアップ「Valence(ヴァランス)」について2021年初めに取り上げたが、その記事の中で同社のCEOであるGuy Primus(ガイ・プリムス)は、クレモンズ氏が指摘したような数値遊びから企業が脱却できるようサポートしたいと語っていた。

「誰もが数字を上げたくて、議題には採用、維持、昇進(という概念)があるわけです。問題は、みんなが採用パイプラインばかりに注目して、究極的には採用に影響する維持や昇進に取り組んでいないことなのです。つまり、これはパイプラインの問題ではなく、エコシステムの問題なのです」とプリムスは述べていた。

これこそTwilioが実行可能なプログラムを策定している分野である。ただ人材の採用にとどまらず、1人ひとりの働きが評価され、各自のスキルに応じて昇進でき、帰属意識を持てる会社作りに取り組んでいるのである。

同社のダイバーシティレポートでは、これを実現するための具体的なプログラムがいくつも挙げられている。

1つは、2017年に始動した「Hatch(ハッチ)」と呼ばれるプログラムだ。これはコーディングブートキャンプの参加者で異色の経歴を持つ人材を探し、6カ月間の実習プログラムに参加させるというものだ。実習プログラムでは、より高度なコーディングスキルを習得する他、コーチングやメンターシップを通じて、コーダーとして成功するために必要なことを学ぶことができる。

ローソン氏によると、2020年の時点で、このプログラムを通じて入社した社員の93%が会社に残っているという。これは、従業員の成功をサポートするシステムを導入している会社に人が集まってきていることを示す実績である。

他にも、黒人やラテン系の従業員がリーダーシップ開発プログラムを通じて管理職に就けるようサポートする「Rise Up(ライズアップ)」や、歴史的に排除されてきた集団の出身者にテック企業の面接で成功する方法を伝授して、採用に向けた第一歩をサポートする「Twilio Unplugged(Twilioアンプラグド)」といったプログラムを設けている。

こうしたプログラムは、同社が掲げる人種差別撤廃の目標を達成するために策定されたものだ。ローソン氏は同社のシステムが完璧ではないことを真っ先に認め、クレモンズ氏らのサポートを受けながら、従業員全員が成功を収め、チームの一員であると感じられる会社を作るために、Twilioの経営陣は努力と学習を続けている最中だと述べた。

Twilioは2020年時点で依然男性社員が60%、女性社員が6%増加して38%強だ。全体の人種と民族構成は概算で白人が51%、アジア人が26%、ラテン系が6.5%、黒人が5.5%となっている。アジア人の割合が高いおかげで白人と非白人の比率は上出来だが、歴史的に排除されてきた各種集団についてはまだ課題がありそうだ。

画像クレジット:Twilio

同社もそのことは理解している。ローソン氏は個人、会社、社会の各レベルで取り組んでいくことで、Twilioとしてこの点を改善していきたいと述べた。その一環として、ダイバーシティレポートで知見を共有することで、現状に満足するのではなく社外に向けて課題を発信しているのだ。

Twilioのダイバーシティレポートに添付された動画の中で、クレモンズ氏が述べている言葉に言い表されている。「誰もが良くも悪くもさまざまな経験をしてきており、それを変えることはできませんが、Twilioとしてみんながチームの一員であると感じられる空間を提供することはできます。そのためには反人種差別の枠組みとなるこのダイバーシティレポートを通して、誰もがTwilioですばらしいキャリアを積み、充実したキャリアを歩めると感じられる公平性を確保することが重要なのです」。

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画像クレジット:PeterPencil / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Dragonfly)

メルカリCEO山田氏がダイバーシティ&インクルージョン推進財団設立、高校入学時点で理系を目指す女性100名に奨学金支給

メルカリCEOの山田進太郎氏が財団設立、高校入学時点で理系を目指す女性100名に奨学金支給

メルカリ代表取締役CEOの山田進太郎氏は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進していくため、「山田進太郎D&I財団」を7月1日に設立したと発表した。第1弾として、「高校入学時点で理系を目指す女性」最大100名に対して奨学金を支給するプログラムを開始する。今後総額30億円を財団に寄贈し、D&I推進のための取り組みを行う。第2弾以降のプロジェクトとしては、第1弾の対象ではない高校へ進学した・する方も対象にできるように検討中という。

また、理系に興味のある女子中学生を対象に、理系職で活躍する女性研究者や起業家が登壇するオンラインイベントを8月22日に開催する。

メルカリCEOの山田進太郎氏が財団設立、高校入学時点で理系を目指す女性100名に奨学金支給

山田氏は、これまで企業活動を通じてD&Iの推進に取り組んできたものの、中長期な取り組みは営利企業では難しいことも多くあると感じ、一般財団法人を設立したという。ジェンダー・人種・年齢・宗教などに関わらず誰もが自身の能力を最大限に発揮できる社会の実現を目指すとしている。

同財団は、初の取り組みとして、理系職種が男性に偏り、国内の女性エンジニア比率は20%にとどまる(情報サービス産業協会「2019 年版 情報サービス産業 基本統計調査」)などジェンダーバランスが崩れているという課題に注目。この背景には、日本の大学における理工学系女性比率が18.15%とOECDの中でも最低という現状がある(令和2年度 文部科学省 学校基本調査 関係学科別 大学入学状況より)。また、中学生時点では理系科目の成績の男女差はないにも関わらず、周囲の反対やロールモデルの欠如から、進学時に文系を選択する女子学生が多くなっているという。

このような状況をふまえ、同財団は、中長期的な課題解決として中高生教育の時点で理系を選ぶ女子学生の増加に取り組む。目標として、大学における理工学部系の女性比率を2035年までに28%まで伸ばすことを目指す。

「高校入学時点で理系を目指す女性」100名に対して奨学金を支給

第1弾として「高校入学時点で理系を目指す女性」100名に対して奨学金を支給するプログラムを開始する。これにより、理系科目が好き・得意、あるいは理系職種に興味があるにも関わらず、周囲の環境からイメージがつかめない、または金銭的な問題で諦めているなどの女子学生が自身の可能性を広げるために理系を選ぶことを後押しする。

同奨学金プログラムでは、応募・選考・支給などのプロセスを極力オンライン化することで、劇的な効率化を目指し、将来的には常時1000名以上への支給を目指す。

また、より多くの方に興味を持って気軽に応募できるよう、能力主義ではなく抽選制で支給者を決定する。応募のハードルを下げるため、面接も行わない(ただし、多様性などの観点から調整を行う可能性はある)。

奨学金募集概要

  • 募集期間:2021年8月4日~9月30日
  • 対象高校:日本国内の高等学校理数科、令和3年度スーパーサイエンスハイスクール指定高等学校、または高等専門学校を受験し入学予定(中学校からの内部進学者を除く)
  • 選考方法:選考は書類審査と抽選により実施。抽選では、同財団が掲げるミッションであるD&Iなどの観点から調整を行うことがある
  • 支給金額:国公立学校25万円(年額)、私立学校50万円(年額)
  • 支給方法と時期:2022年5月頃、指定の口座への振り込みを予定。最大高校在学中の3年間、高専在学中の5年間の支給(ただし継続審査を行う)
  • 採用人数:最大100名程度
  • 応募方法:財団サイト上の「エントリーフォームより応募
  • その他支給条件:他の奨学金との併用可。休学・復学・転学・退学や、停学・除籍等の処分を受けた際、正規の最短修業年限での成業の見込みが立たなくなった場合等は給付を中止することがある。負傷、疫病などで就学が困難になった場合や、氏名・住所・電話番号・メールアドレスなどの重要事項に変更がある場合には必ず問い合わせフォームより連絡

オンラインイベント概要

  • タイトル:活躍中の先輩が語るSTEM(理系)の面白さ
  • 日時:2021年8月22日17:00〜18:00(オンライン)
  • 対象:理系に興味のある女子中学生
  • 参加料:無料
  • 内容:第1部は「理系職先輩のパネルディスカッション&QA」。登壇者は、スプツニ子!氏(アーティスト/東京藝術大学デザイン科准教授)、高橋祥子氏(ジーンクエスト代表取締役社長/ユーグレナ執行役員、農学博士(生命科学分野))、大隅典子氏(東北大学副学長・附属図書館長・大学院医学系研究科教授)、山田進太郎氏(同財団代表理事/メルカリ 代表取締役CEO)。第2部は奨学金の概要、第3部は事務局QA
  • 申し込み:「8月22日【女性中学生向け】オンライン配信イベント開催のお知らせ」より応募(学校推薦は不要)

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タグ:インクルージョン(用語)学生(用語)教育 / EdTech / エドテック(用語)ジェンダー(用語)STEM教育(用語)ダイバーシティ / 多様性(用語)メルカリ / Mercari(企業)山田進太郎D&I財団(組織)日本(国・地域)

Twitterが音声ツイートに自動文字起こし機能追加、社内にアクセシビリティ専門チームを用意し取り組む

Twitterが音声ツイートに自動文字起こし機能追加、社内にアクセシビリティ専門チームを用意し取り組む

Anadolu Agency via Getty Images

Twitter社は、音声ツイートに自動文字起こし機能を追加したことを発表しました。2020年6月にiOS版アプリに導入された音声ツイート機能ですが、ようやくアクセシビリティ(心身の機能に制約ある人でも、等しくアクセスできて利用しやすくすること)に配慮されたかっこうです。

記事執筆時点では、サポートされている言語は英語、日本語、スペイン語、ポルトガル語、トルコ語、アラビア語、ヒンディー語、フランス語、インドネシア語、韓国語、イタリア語となっています。

これらの言語でしゃべった音声は、キャプション(文字起こし)が自動生成されるようになっています。ただしTwitter社いわく、キャプションの生成にはデバイスの言語設定を使うため、その設定としゃべる言語が食い違っている場合は正確に動作しないとのことです。

文字起こしを見るには、音声ツイートの右上にある「CC」アイコンをクリックまたはタップします。しかしTwitterがテックメディアThe Vergeに語ったところによると、文字起こしは新しめの音声ツイートのみに表示され、古いツイートには表示されないそうです。

音声ツイートが開始された直後、Twitter社は文字起こし機能がないことに対してアクセシビリティ擁護団体から批判を受けていました。が、当時Twitter社内にはアクセシビリティ専門チームがなく、有志の社員がその仕事をしていることが明らかに。その後9月に、アクセシビリティに特化したチームを結成したことが発表されています。

ちなみにTwitter社は、音声チャット「スペース」では文字起こし機能を提供済みです。Twitterは文字ベースゆえに身体的な条件を超えて様々な人々が交流する場となっていますが、それだけにアクセシビリティが強く求められているのかもしれません。

(Source:Twitter Japan。Via The VergeEngadget日本版より転載)

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ミライロは6月28日、2033事業者(2021年5月31日時点)が対応するデジタル障害者手帳アプリ「ミライロID」(Android版iOS版)で障害者割引チケットをオンライン購入できる「ミライロチケット」サービスの提供開始を発表した。

これまで、障害者割引を受けようとすると、チケット販売窓口で手帳を提示する必要があった。それには時間がかかり、新型コロナなどの感染リスクも高まる。なにより、オンライン購入ができないという不便さがあった。日本政府は、2021年6月18日「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定し、「障害者の負担軽減や均等な機会の提供のため、オンラインによる施設等の障害者割引入場券の予約・購入等への対応について、民間事業者等に対して要請を行う」とした。これを受けてミライロは、「ミライロチケット」の提供に至ったという。

ミライロIDに障害者手帳を登録している人なら、クレジットカードで障害者割引チケットが購入できる。イベント会場入場時は、スマートフォンの画面にチケットを係員に表示して、「入場確認」アイコンをタップするだけでよい。第1号として、7月11日からガンバ大阪が「ミライロチケット」の対応を開始し、「ミライロID」で観戦チケットが買えるようになる。

ジタル障害者手帳「ミライロID」で障害者割引チケットのオンライ購入が可能に、第1号としてガンバ大阪が導入開始

なおミライロでは、「障害者」を「障がい者」とは表記しない方針をとっている。コンピューターの画面読み上げでは「さわりがいしゃ」と読まれてしまうことがあるためだ。「障害は人ではなく環境にある」との考えから、「漢字の表記のみにとらわれず、社会における『障害』と向き合っていくことを目指します」とのことだ。

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パラリンピック公式ゲーム「The Pegasus Dream Tour」登場、ファンの増加、多様性への理解を進める

日本のゲーム開発スタジオJP GAMESは、世界初のパラリンピック公式ゲームとなるスマートフォン用タイトル「The Pegasus Dream Tour(ザ ペガサス ドリーム ツアー)」の配信(iOSAndroid)を開始した。

本ゲームはアバターRPGだ。オンライン仮想都市ペガサスシティを舞台に、プレイヤーが心を持ったキャラクター「Mine」をサポートし、他のプレイヤーと交流しつつ、実在のパラスポーツを楽しみながら、パラアスリートとして成長させることを目的とする。プレイヤーはアバターを操作し、ゲーム内キャラクターであるMineをサポートする。自律的に動くMineに、「他のプレイヤーと話した方がいい」「今日のコンディションを改善するためにこれをやった方がいい」といったアドバイスを行う。

舞台となるペガサスシティには、アスリートカフェ、アスリートジムなど、さまざまな施設があり、プレイヤーのアドバイスでMineがどこに行くか、何をするのかが決まる。

本ゲームでは、パラスポーツで遊ぶことができる。リリース段階で遊べるのは陸上とボッチャ(ジャックボールという白いボールに、赤青各6球を投げたりすることで、どれだけ近づけるか競うスポーツ)の2種目だ。2021年8月には車いすバスケ、車いすレース、ブラインドサッカーが追加予定。以降、順次追加される予定だ。ゲームには実在のパラアスリート9名がペガサスシティで活躍する選⼿として登場する。パラアスリートとの会話や対戦ができるクエストも順次配信予定となっている。

また、ゲームには、ペガサスシティ市長代理としてドラえもんも登場する。オリジナルの秘密道具も登場し、リリース時点ではプレイヤーの写真を撮影し、ペガサスシティ上のMineを⽣み出すアバターカメラと、PEG(Personal Ecosystem Guide)という多忙な市⻑代理であるドラえもんに代わり、Mine1人ひとりにつくパーソナルガイドの2つ。リリース後、他のものも登場する予定だという。さらに、フィギュアスケート選手の羽生結弦選手が本ゲームのアンバサダーに就任している。

ゲームを通してパラリンピックの認知を広めたい

「The Pegasus Dream Tour」の配信に際し、発表会も行われた。JP GAMES COプロデューサー⾨⽥瑛⾥氏、アートディレクターの⽯崎晴美氏、同代表取締役CEOの⽥畑端氏、国際パラリンピック委員会理事⼭脇康氏、ブリヂストンオリンピック・パラリンピック推進部鳥山聡子氏がゲームに対する思いを語っている。

国際パラリンピック委員会理事の山脇氏は「パラリンピックのファンを増やす方法に課題を抱えていました。パラリンピックに興味のない層にリーチすることは非常に難しいことです」と語る。

しかし、ゲームであれば、パラリンピック自体にあまり興味がない層にリーチできる可能性がある。

「このゲームであれば、パラスポーツで楽しんでもらうだけでなく、違いや多様性を認めて共生するというパラリンピックのビジョンにも触れてもらえると思います。ワクワクしながら、楽しみながら、共生社会、ダイバーシティ&インクルージョンを理解を深めて欲しいです」と山脇氏は期待を語った。

本ゲームのファーストスポンサーであるブリヂストンの鳥山氏は「なぜブリヂストンがゲームのスポンサーになったのか、ピンとこない方もいるかもしれません。当社はオリンピック、パラリンピックのワールドワイドパートナーです。ゲームを通してパラリンピックが目指す共生社会を目指す姿勢に共感しました。このゲームでダイバーシティ&インクルージョンを直感的に感じてもらいたいと考えています。ゲームにはブリヂストン・アスリート・アンバサダーが5人参加しています。ゲーム、エンターテインメント、パラリンピックが協力すると何ができるのかを見て欲しいですね」と協力の背景を話した。

また、アートディレクターの⽯崎氏は「パラアスリートからのフィードバックもゲームの中で生かされています。例えば、ギア(義足や義手)のデザインをアスリートに見てもらったところ、「この形はパラアスリート用ではない」「このデザインは古い」といった意見が出てきました。ここからデザインを改善しています。また、ギアの動きにもこだわりました」とゲーム制作に関する話もしてくれた。

ビジネスとしてのパラリンピックゲーム

JP GAMESの田畑氏は「本ゲームを制作するきっかけは前国際パラリンピック委員会のCEOであるハビエル・ゴンザレス氏の言葉でした」と振り返る。

スクウェア・エニックス・グループを離れた後、田畑氏ゴンザレス氏から「パラリンピックのゲームを作らないか」と声をかけられた。だが同時に、ゴンザレス氏は「私自身はあまりゲームに対してポジティブなイメージはない。パラリンピックをゲームにするのはどうなのか、とも思う」と打ち明けられたという。

しかし、この言葉で田畑氏はパラリンピックのゲーム化にチャレンジすることを決めた。

とはいえ、ゲームをビジネスとして考えた時、田畑氏は楽観的な考えはなかったという。

「国際パラリンピック委員会のYouTubeチャンネルの動画の再生数を過去にチェックしたところ、大体200ほどでした。ロンドンパラリンピックなどの注目度の高い動画でも数千程度でした。この状態でパラリンピックのゲームを出しても遊んでくれる人はそんなにいないでしょうし、収益は見込みづらいと考えました」と田畑氏。

そこで本ゲームを「ゲーム」と「ビジネス」という2つの側面で回すことにした。

田畑氏は「ゲームはゲームとして世に出すのですが、本ゲームで培った技術基盤を企業向けのサービスとしてリリースすることで、長期的なビジネスとして回すことにしました。こちらは2020年ベータ版をリリース済みです」と語る。

カテゴリー:ゲーム / eSports
タグ:JP GAMESパラリンピックオリンピックモバイルゲーム多様性インクルージョン日本

生命保険の約款や学校教材における漢字の誤読を低減、正確なイントネーションで音声合成を自動生成するAIシステム

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大日本印刷(DNP)とグループ会社のDNPコミュニケーションデザイン(DCP)は6月15日、人間の音声を人工的に作り出す「音声合成」の制作時に起きる読み間違いを減らし、人が読むナレーションのイントネーションやアクセント、間合いに近い自然な音声を自動生成できるAI(人工知能)活用音声合成システムを開発したと発表した。

今回開発したシステムは、音声合成の制作時に起きる漢字の「誤読」や、「橋/箸/端」(はし)など同じ読み仮名で異なる「イントネーションの違い」に関し、読み間違いを約50~70%削減したという(従来のDNPの音声合成の制作と比較)。これにより、高齢者や身体障がいの有無に関わらず、誰でも必要な情報に簡単にたどり着けるアクセシビリティの向上が期待される。また、音声合成が利用されている学校教材や電子書籍、生命保険・損害保険の約款や契約書、e-Learningや研修教材などへも広く活用できるとしている。

現在、多様な人々にわかりやすく情報を伝達する機器やサービスの開発が進み、その利用が拡大している。例えば、文字などを読むことが困難な人のための国際標準規格DAISY(デイジー。Digital Accessible Information System)に準拠したデジタル録音図書をはじめ、様々な手法で人間の音声を人工的に作り出す音声合成は、交通情報や施設のナビゲーション、電話の自動音声ガイダンスなどで幅広く利用されている。

ただ、音声合成の精度は年々向上しているものの、漢字の誤読や発音・イントネーションの間違いが依然として発生していることが課題となっているという。この課題に対してDNPとDCDは、多くの企業のマニュアルや約款、研修用コンテンツなどで音声合成を制作してきた技術・ノウハウを活かし、「単語の読みや発音で、間違いのない音声データ」を機械学習させて、誤読が少なくスムーズな発音の音声合成を自動生成できるDNP独自のAIシステムを開発した。

具体的には、DCDが保有する読み間違いのない音声データをAIに機械学習させることで、正確な読みを自動付与できるようになった。これにより、約款や契約書、自治体・行政機関等の公式文書、製品の解説書といった正しい情報提示が必要でテキスト量が多いものへの利用に適しているという。

また、イントネーションとアクセントについて文章の文脈を加味して自動生成するため、従来の方法と比較して、人が読むナレーションに近い自然な音声を生成できる。両社は、特に正しい読みやナレーションを重視する学校教材や電子書籍などに最適としている。

さらに、既存音声データに加え、追加学習によってデータを増やすほど、読みの正確性やイントネーション・アクセントの精度が向上するという。複数の生命保険会社の約款で汎用性の検証を実施したところ、「読み」「アクセント」「間」について約85%以上の正確性を確認したそうだ。

DNPとDCDは今後、AIの精度向上と適応分野の拡大に努めるとともに、AIを活用した音声合成の付加価値を高め、幅広い分野に向けてサービスを提供するとしている。

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米アップルの一部従業員グループが9月からの週3日出社に反対、柔軟な対応を望む意見書を提出

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Pavlo Gonchar/SOPA Images/LightRocket via Getty Images

先週、米Appleのティム・クックCEOは新型コロナウィルスのパンデミックによってこれまでリモート勤務にしていた従業員に対し、9月より月、火、木曜の週3日はオフィスに出勤し、水、金の2日はリモートでの勤務とするオフィス復帰計画を従業員にメールしました。ところが、一部の従業員はオフィスへの出社をしたくない場合はそれを認める柔軟なアプローチを求めており、クックCEO宛に意見書を提出したと、The Vergeなどが伝えています。

従業員は意見書の中で「この1年間、私たちはしばしば耳を傾けてもらえないだけでなく、時には積極的に無視されていると感じました」と述べ、会社に対し誰がリモートワークをしたり、または柔軟に仕事場を選ぶことを可能にすること、またリモートやその他の仕事場にも障害者を受け入れるための「明確な行動計画」を作成するよう会社に求めています。また、Appleはこれらの問題について労働者に尋ねるアンケートを定期的に実施すべきだ、と手紙の主は記しています。

意見書を出したグループは少人数ではあるものの、リモートワーク推進の考えを持つ約2800人の従業員がSlackチャンネルを通じて集まったとのこと。

TwitterやFacebookなどは、パンデミック終息後も従業員が望めばリモート勤務を自由に選択できるようにしています。それに比べると週3とはいえ出勤を必須とするAppleは保守的な姿勢と言えそうです。

Appleと同様に、Googleもまた週3日間のオフィス出社を採用していますが、リモートだけで仕事ができるポジションも含まれており、チームのニーズに応じて変更できるようになっています。アップルは、他のIT企業の間で変化している、リモートワークに対する考え方をアップデートし、社内ポリシーを調整しなければならないかもしれません。

(Source:the VergeEngadget日本版より転載)

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【インタビュー】HPがダイバーシティに関する意欲的な目標を発表 「世界で最も持続可能性のある公正なテック企業になる」

HPは「より多様で公正かつ包摂的な」テック業界を目指すための一連の意欲的な目標を発表した。

もちろん、ダイバーシティ(多様性)を実現したいと強く主張しているのはHPだけではない。前TechCrunchレポーターのMegan Rose Dickey(メーガン・ローズ・ディッキー)が詳細に報告しているとおり、ダイバーシティとインクルージョン(包摂性)という考え方がテック企業の取り組むべき課題として上がるようになってから数年が経過している。

HPのダイバーシティ担当最高責任者Lesley Slaton Brown(レズリー・スレートン・ブラウン)氏によると、インクルージョンは、1939年の創業以来、同社が重点的に取り組んできた課題であるという。現在、HPの全世界の従業員数は約5万人にのぼり、管理職の31%、技術職の22%が女性だ。この数字は、ほとんどの業界の平均を上回っている。

この割合をさらに高めるため、HPは、経営幹部(局長クラス以上)の完全な男女平等、30%を超える技術系とエンジニアリング部門の女性社員の割合、社内の少数人種 / 民族の割合を労働市場における割合と同等以上にすることという3つの目標を発表した。スレートン・ブラウン氏によると、同社は2030年までにこれらの目標を達成する決意だという。

スレートン・ブラウン氏に、これらの目標と、その達成計画、および説明責任の履行計画について、詳細を聞いた。

【編集部注】このインタビューはわかりやすくするために編集されている。

TC:貴社がこの目標を掲げるようになったきっかけと、社内の(性別、人種、民族などに関する)平等性を高めるためにこれまでに実施してきた取り組みについてお聞かせください。

スレートン・ブラウン氏:インクルージョンとダイバーシティは当社が創業時から重点的に取り組んできた課題です。今、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大と隔離生活、およびGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏の殺害事件が米国全体に及ぼした影響により、人種的平等と既存の体系的かつ構造的差別に対する対応が一層強化されました。

これをきっかけに、当社では「人種平等と社会正義に関するタスクフォース(Racial Equality and Social Justice Task Force)」を立ち上げることができました。その目的の1つは、とりわけHP社内の黒人やアフリカ系米国人のレプリゼンテーションを高めることです。また、当社と協力関係およびパートナー関係にある黒人およびアフリカ系米国人のサプライヤーやベンダーに、より多くのチャンスを与えるために必要なことについても考えています。最終的には、どうすれば国内外のコミュニティに影響を与えることができるか、という点に尽きます。具体的には、無意識の偏見をなくすためのトレーニングを提供するための政策と法律、および市政機関との交渉などです。これらすべての活動が始まり、1年が経過した今、大きな前進が見られていると思います。

HPのダイバーシティ担当最高責任者レズリー・スレートン・ブラウン氏(画像クレジット:HP)

また当社は、Human Rights Initiativeも立ち上げ、平等と人権の保護を進めています。気候変動対策と人権保護の実現に向けて、本当に真剣に取り組んでいます。

TC:貴社は、管理職と技術職におけるバランスの是正、例えば女性比率を向上させるためにさまざまな対策を講じてきたように思います。それは人種間格差の是正だけに限定されません。こうしたさまざまな目標の具体的な内容と、ダイバーシティとインクルージョンを高めるためにこれまでに貴社が実施した内容についてお聞かせください。

スレートン・ブラウン氏:当社は、PC・プリンター部門として2015年にHP Co.から独立したとき、何よりもまず、取締役会のダイバーシティを実現することを強く意識していました。現在、当社の取締役会の構成を見ると、約45%が女性、35%が少数民族、取締役会だけでマイノリティーが60%を占めています。当社の取締役会のダイバーシティはテック業界の中でも最も高くなっています。取締役会の構成(高いダイバーシティ)が重要なのは、それによって企業のビジョンを推進し、企業戦略を導くことができるからです。

これは、私が当時この役職に就いたときに最初に行ったことの1つです。目的は、我々が行うすべての活動の中にダイバーシティ、平等性、インクルージョンを埋め込むことでした。

TC:貴社はどのようにして説明責任を果たしていますか。

スレートン・ブラウン氏:一般社員から取締役会まで、我々の業務内容について真摯にお答えできるようにしています。我々がまとめたダッシュボードやマトリックスは取締役会に回され「実施内容、監視方法、最終的にもたらされたインパクト」が伝えられます。これが我々が今構築している仕組みです。私はこれをインフラと考えています。つまり、取締役会から経営幹部チームまで誰もが説得力のある説明をする用意ができている状態です。

この目標を設定したら、アクション、プログラムを推進し、インフラとエコシステムを介して実行に移し、目標を達成します。これには、米国女性エンジニア学会(Society of Women Engineers)、米国黒人エンジニア協会(Society of Black Engineers)、米国アジア人エンジニア協会(Society of Asian Engineers)などの組織と連携することも含まれます。連携するだけでなく、そうした組織を構築したり組織に投資したりして、パートナー関係を構築し、パイプラインを確保します。

TC:社内のレプリゼンテーションを労働市場のレプリゼンテーションと同等以上にするというのは、具体的にどのような意味でしょうか。

スレートン・ブラウン氏:確かに混乱を招く表現だったかもしれません。これは、全米の人口動態に一致させるという意味ではなく、テック業界の労働市場の人口動態に一致させるという意味です。例えば、当社の管理職におけるアフリカ系米国人の割合は約4%です。当社の目標は、これを2025年までに6%以上にすることです。

TC:これらの管理職や技術職に応募する女性やマイノリティーの数が少ないために目標の割合に届かなった場合はどうしますか。例えば、資格のある白人男性を排除しますか。

スレートン・ブラウン氏:我々は人権は平等という立場に立っています。また、男女間、人種間の平等と社会正義活動を推進することにも重点を置いています。具体的には、パイプラインの多様性や人材プールを確保する方法を探っています。

私は人材の不足など存在しないと考えています。問題は人材を確保する方法にあります。従来は、スタンフォードやMITなどの一流大学から人材を確保してきました。でも、頭の良い人たちや優れた人材はどこにでもいるのです。経済的に苦しいため、コミュニティカレッジに進んでから一流校に転入する学生もいます。このように、いわゆる歴史的黒人大学(HBCU)以外の選択肢もあります。

例えば、HPでは、HBCUに質の高いプログラムを開設して、従来なら特定の職種に応募する機会さえなかった学生たちにその機会を与え、それだけでなく、HPの拠点を実際に訪れてインターンとして働く予定の部署を見学できるようにもしています。当社の目標は、もちろん、業績に基づいてインターンを正規社員に変換する(昇格させる)際に、100%の変換率を達成することです。つまり、これは学生から社員になるまでのすべてのプロセスを支援する包括的なアプローチです。

女性や少数民族に関するこうした目標を立てると、白人男性は放って置かれている印象を受けるかもしれません。ですが、テック業界では白人男性は多数派なのです。HPで行っているのは、インクルージョンと相互信頼に基づく力強い文化の構築です。ですから、白人男性も雇用していますし、有能な女性、少数民族、さらには、退役軍人や身体障害者も採用しています。

要は、採用活動の幅を広げ、学生の選択肢として当社をアピールし(これは当社の目標、つまりレプリゼンテーションの低いグループの選択先となること)、そして入社した人たちを歓迎することです。つまり、学生たちを引き付け、雇用し、保持し(会社に留まってもらい)、教育や育成に投資し、昇格を支援します。これが、当社の取り組みです。

TC:人権のために貴社が行っている取り組みには、他にどのようなものがありますか。

スレートン・ブラウン氏:今回の発表は、全従業員とその能力向上を強化する方法に関することであり、物事を実行する際には、その方法も内容と同じくらい重要であることを示すものです。それは人権を尊重し、人権を最優先するということです。当社がサプライチェーンで働く人たちに約束しているのは、当社のベンダーが現代版の奴隷制度、つまり、学位や教育のある人たちを取り込む一方で、法外な手数料を課しパスポートを取り上げるようなシステムに労働者を放り込むようなやり方に加担しないようにすることです。

当社は、環境を作り、可視性を実現し、回復力のあるサプライチェーンを作ることで、そのような現代版の奴隷制度に加担しない、人権を尊重する企業でありたいと思っています。そして、当社の製造サプライヤーにもその目的に貢献して欲しいと思っています。

TC:報道向け資料には、HPは、管理職における男女平等の実現にコミットした最初のFortune 100社テック企業であると記載されています。貴社が先例を作り、他社がそれに続くようになることを願っています。

スレートン・ブラウン氏:そうですね。これは本当に大きな目標ですし、我々が実行している戦略とベストプラクティスの中には、試しに女性を採用するといったものではなく、新しい標準の確立を目指しているものもあります。

当社の目標とビジョンは、世界で最も持続可能性のある公正なテック企業になることです。ですから、口だけではなく、実行に移す必要があります。私はこのHPの文化が好きです。議論を尽くして、実際にアクションを起こし、2030年までに持続可能性のある公正な企業になるという目標を達成したいと思います。

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

アップルが英語圏のSiriに2つの新たな声を追加、「女性」の声のデフォルト設定は廃止に

Apple(アップル)は、iOSの最新のベータ版で、Siriの英語版に2つの新しい声を追加し、これまで「女性」の声が選択されていたデフォルトを廃止した。これによって、Siriの設定をする人は誰もが自分で声を選択することになる。アップルの音声アシスタンスは初期状態で女性の声に設定されていることが、数年前から性差別的偏向として議論の的になっていた。

このベータ版はすでに公開されており、プログラム参加者には提供されているはずだ。

この種のアシスタントの中で、デフォルトの設定がなされておらず、ユーザーが自分で選ぶ必要があるというのは、おそらく初めてのことだろう。これは人々がデフォルトの設定に偏ることなく、自分で好きな声を選ぶことができるという意味において、ポジティブな一歩といえる。また、新たに追加された2つの新しい声は、Siriの声に求められていたバリエーションを増やし、ユーザーが自分で音声を選ぶ際に多様性を提供する。

一部の国や言語では、Siriはすでにデフォルトで男性の声になっている。しかし、今回の変更により、その選択が初めてユーザーのものになった。

「英語圏のユーザーのために2つの新しいSiriの声を導入し、Siriのユーザーがデバイスの設定時に好きな声を選択できるようになったことに、私たちは高揚しています」と、アップルは声明で述べている。「これは、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包括性)に対する責任を持ち、製品やサービスに私たちが住む世界の多様性をよりよく反映するという、アップルの長年にわたる取り組みの継続です」。

この2つの新しい声は、タレントの声を録音したものを音源として使い、アップルのNeural text-to-speech engine(ニューラル・テキスト・トゥ・スピーチ・エンジン)によって生成されるもので、実際に構成されるフレーズの中で、より有機的に聞こえるようになっている。

新しい声を聞いてみると、自然な抑揚でスムーズにつながり、とてもすばらしい。選択肢が増えることは、iOSユーザーに歓迎されるだろう。実際に使用されているボイスのサンプルは下のツイートで聞くことができる。

iOS 14.5でSiriに新たにラインナップされた米国人の声を録音してみました。声1と4が従来からあったもの、声2と3が新しく追加されたものです。

この最新のベータ版では、アイルランド、ロシア、イタリアのSiriの音声もNeural TTSにアップグレードされており、これで新技術を採用した音声は合計38種類になった。Siriは現在、5億台以上のデバイスで月間250億件のリクエストを処理し、36カ国の21言語に対応している。

新しい声は、世界中の英語圏のユーザーに提供される。Siriユーザーは16の言語で個人的な好みの声を選択することができる。

今回追加された2つの新しい声は、Siriの声の選択肢を広げる最初の試みである可能性が高い。声やトーン、地域の方言などの多様性が増えることは、スマートデバイスの包括性を高める上でプラスになるはずだ。ここ数年、Amazon(アマゾン)、Google(グーグル)、アップルの3社には、否定的な言葉や乱暴な言葉を使った質問に対するアシスタントの回答に偏りが現れる状況を、積極的に是正しようとする動きがようやく見られるようになった。

このような状況を改善することは、社会的に公正なトピックへの対応や、全体的なアクセシビリティの向上と並んで、ボイスファーストやボイスネイティブなインターフェースの爆発的な普及を目指す上で、非常に大事な鍵となる。特に数億人の規模となると、この種の選択が重要になるはずだ。

【更新】一部の国や言語では、Siriのデフォルトが男性の声に設定されていることがわかった。

関連記事:アップルがiOS 14.5で「デフォルト」の音楽サービスは設定できないと明言

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タグ:AppleSiriiOSインクルージョン

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(文:Matthew Panzarino、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

女性起業家の輩出目指す、世界最大の女子中高生向けアプリコンテストTechnovation Girlsが日本公式ピッチイベント

女性起業家の輩出目指す、世界最大の女子中高生向けアプリコンテストTechnovation Girlsが日本公式ピッチイベント

IT分野のジェンダーギャップの解消を目指すWaffle(ワッフル)は3月24日、世界最大の女子中高生向け社会課題解決型アプリコンテスト「Technovation Girls」(テクノベーション・ガールズ)の日本公式ピッチイベントのオンライン開催(Zoom)を発表した。開催日時は4月25日18時~20時。イベント内容は、日本出場チームによる成果物発表、授賞式、フォトセッションなどで、「Technovation Girls 2021 日本公式ピッチイベント観覧申し込みフォーム」で観覧希望者を広く募集している。

Technovation Girls日本公式ピッチイベント概要

Technovation Girlsは、米国の非営利団体「Technovation」が主催する、次世代の女性IT起業家の育成を目的としたコンテスト。2010年の開始から現在までに世界100か国以上5万人以上の女性が参加しているという。

同コンテストは、10〜18歳の女性を参加対象としており、1〜5人から編成されるチームが約3カ月間をかけて身近な課題を解決するアプリとビジネスプランの制作を行う。プログラミングなどの技術的なスキルだけでなく、社会課題の解決のためのアイディアや、ピッチ(プレゼンテーション)スキル、起業家精神などをチーム形式で競うという。また同イベントの公用語は英語で、公式の情報提供から提出物への記載に至るまで、すべて英語で実施される。

日本国内では、WaffleがTechnovation Girlsの日本公式アンバサダーとして、スポンサー企業とともに日本出場チームのサポートを行っている。各出場チームには、WaffleおよびTechnovation Girlsに賛同する2名の社会人メンターがつき、同コンテストで求められるデザイン思考やプログラミングスキルなどの習得を中心に、総合的なサポートを実施しているという。なお今回日本では、75名23チームが参加しているという。

Waffleは、IT分野のジェンダーギャップの解消を目指す非営利法人。国内の女子中高生向けにオンラインIT(コーディング)コース「Waffle Camp」(ワッフル・キャンプ)の提供、日本国内での「Technovaton Girls」(テクノベーション・ガールズ)のサポート、企業との協働による各種イベントを開催している。

Technovation Girls概要

  • 主催Technovation、Waffle(日本公式アンバサダー)
  • 日程:2020年11月〜2021年8月(予定)

実施内容

  • 2020年11月:参加登録開始
  • 12月:説明会登録および参加登録締締め切り
  • 2021年1月:チーム編成、デザイン思考ワークショップの実施
  • 2月:チームごとの社会課題と解決策の決定、プログラミング学習の実施
  • 3月:ビジネスプランの作成、アプリ開発、ピッチビデオの作成
  • 4月19日:米国本部への応募作品 提出締め切り
  • 4月25日:日本公式ピッチイベント(オンライン) 開催
  • 5月25日:ファーストラウンド審査結果発表(全体の5%)
  • 6月16日:セカンドラウンド審査結果 発表(8チーム)
  • 8月:ワールドサミット(オンライン)の開催

応募資格(日本国内)

  • 世界を変えるために成長する意欲がある
  • 2021年8月1日時点で中学2年生以上、18歳以下
  • 2021年1月から4月の3カ月間に合計30時間ほど、オンライン環境での活動時間を確保できる
  • 日本語が話せること(現時点での英語力は不問)
  • 女性アイデンティティをもつ、またはトランスジェンダー、ノンバイナリー、gender noncomformingの者

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独立系VC「ANRI」が4号ファンド投資先において女性起業家比率を20%まで引き上げると発表
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独立系VC「ANRI」が4号ファンド投資先において女性起業家比率を20%まで引き上げると発表

独立系VC「ANRI」が4号ファンド投資先において女性起業家比率を20%まで引き上げると発表

独立系ベンチャーキャピタルANRI(代表:佐俣アンリ氏)は11月24日、4号ファンド投資先において起業家が女性である企業の比率を最低でも20%に引き上げるとの投資方針を発表した。

ANRIは、多様なバックグラウンドを持つ人々が関わり合う環境や、異質な他者の存在に想像を働かせ、そして受け入れる姿勢が、従前には不可能であった様々な課題を解決する糸口のひとつであると信じているという。

この信念のもと、スタートアップ業界におけるダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(機会均等)を推進する取り組みのひとつとして、現在運用中の4号ファンド(ANRI4号投資事業有限責任組合員)では、全投資先のうち女性が代表を務める企業の比率を最低でも20%に引き上げるとの投資方針を明らかにした。

代表の佐俣アンリ氏によると、今後ANRIの社会に対する責任をより明確にし、20%という数字をきっかけに取り組みを進化させるという。

また同社はダイバーシティ&インクルージョンの取り組みとして、まずはジェンダーから取り組みを始めるものの、今後はLGBTQ+、障がい者など多様な生き方をスタートアップという手法を通じて支援するとしている。

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インクルーシブデザインの制作に役立つツールを提供するStarkが約1.6億円を調達

テクノロジーの世界では、ダイバーシティとインクルージョンは後回しにされてきた、あるいはさらに悪いことに考慮されていなかったが、この状況が徐々にゆっくりと動き出した。ダイバーシティとインクルージョンのあらゆる面が注目を集め始めていることを強調するために、米国時間10月27日、デザイナーや開発者が最終的な製品を視覚障がい者にとってアクセシブルにするためのツールを作っているスタートアップが資金調達について発表した。

ニューヨークに拠点を置くスタートアップのStarkは、デザインソフトを使って作業を行うデザイナーなどが自分のファイルをチェックし、異なる色覚特性を持つ人を考慮したガイドラインに合うように色の編集などの提案をするツールを提供している。このStarkが150万ドル(約1億6000万円)を調達した。

Starkは今回得た資金で、広く使われているデザインアプリとの統合を継続し、開発者のための統合も進めていく(コード上でガイダンスを提供する。次に予定されているのはGithubの統合だ)。ビジネス面では価格設定と利用区分を拡大して充実を図る。

現時点では、Figma、Sketch、Adobe XD用のStarkのプラグインで、コントラストチェッカー、スマートカラー提案、8種類の色覚のシミュレーション、色覚特性ジェネレータを利用でき、さらにAdobe XDではすぐにコントラストをチェックできる。

長期的にはエンド・ツー・エンドのプラットフォームを構築し、視覚障がい以外のニーズを包括的に解決する計画だ。また、アクセシビリティは物理的な形でも実現できるためソフトウェア以外についても検討し、自動で詳細を修正する方法も開発する予定だ。

Michael Fouquet(ミシェル・フーケ)氏とともにStarkを創業しCEOを務めているCat Noone(キャット・ヌーン)氏は、リモートワークのため現在はヨーロッパを拠点としている。ヌーン氏は「ソフトウェアのアクセシビリティにおけるGrammarlyになる」ことを強く望んでいるという。

このプレシードラウンドでは、幅広く興味深い支援者から資金を調達した。主導したのはDarling VenturesのDaniel Darling(ダニエル・ダーリング)氏とPascal Unger(パスカル・アンガー)氏、およびIndicator Venturesで、ほかにGithubのCTOであるJason Warner(ジェイソン・ワーナー)氏、Kleiner Perkinsのスカウトファンド、Basecamp Venturesが参加した。個人では、Atlassianのアクセシビリティ担当の製品責任者、Culture Ampのデザイン&インパクトの公平性担当ディレクター、DuckDuckGoのデザインディレクター、Oracleの元ソフトウェア開発担当バイスプレジデントなども支援した。

Starkがこうした投資家からの注目を集めた理由の1つは、その牽引力だ。

同社のソフトウェアの初期バージョンは8カ月前にSketch、Adobe XD 、Figmaのプラグインとしてリリースされ、30万人のユーザーを獲得している。ユーザーの大半は3つのデザインプラットフォームを使うデザイナーやエンジニア、プロダクトマネージャーで、現在はMicrosoft(マイクロソフト)、Oscar Health、US Bank、Instagram、Pfizer、Volkswagen、Dropboxなどの従業員も利用している。

Slackなどのプラットフォーム上の「コミュニティ」には、単にプラグインを使うだけでなくStarkともっと直接関わりたい1万人の人々が集まり、ニュースレターを受け取ったりしている。

ダイバーシティとインクルージョンは2020年の大きな話題だった。これは良いニュースだ。話題になった理由は、マイノリティが警察からひどい扱いを受けているという良くないことではあったが。そうした事件とそれに続く抗議行動が報じられたこともあり、世界の多くの人々がダイバーシティ&インクルージョンの考え方を人種的インクルージョンと深く結びつけて考えるようになった。この話は続いているが(そして問題の解決に向けたポジティブで継続的な取り組みを望むが)、Starkが解決しようとしているダイバーシティとインクルージョンはこれとは別の話だ。

見落とされがちな分野であるが、当然必要なことだ。米疾病予防管理センターの2018年時点の推計によると、米国成人の4人に1人が何らかの障がいを持っているという(この数字に子供は含まれていない)。最も多いのは認知障がいだ。実際にはデザインの多く(そしてテクノロジー全般)がこうした多くの人々に向けて作られてはいないが、かなり大きな市場だ。

テクノロジーはしきりに悪者にされている。メンタルヘルスへの影響や身体の健康のほか、経済や環境、民事、法律への影響など、理由はたくさんある。こうした時代にインクルーシブなソフトウェアやハードウェアを設計することは、テクノロジーが社会に対して(そして社会の中で)生じさせてきたギャップの一部を埋める大きな効果があるかもしれない。

ヌーン氏は「我々は、米国で最も大きなマイノリティのグループに取り組んでいます。いまの時代に車いす用スロープのない建物を建てることはないでしょう。ではなぜ、ソフトウェアデザインでは障がいのある人々について考慮しないのでしょうか」と語る。

ヌーン氏とフーケ氏が最初にStarkのアイデアを思いついたのは、他の会社で高齢者向けの緊急サービスアプリを作っていたときだった。2人はその仕事で使うために、ツールのごく初期のバージョンを作った。それを他の人に見せたところ、その人たちも使いたいといってきた。「その後、それが雪だるま式に増えたのです」とヌーン氏はいう。

それから同氏は「デザインとアクセシビリティの世界につながるウサギの穴」に落ちていき、問題を解決するために作られたツールがなく、しかも「色以外にも問題はたくさんある」ことに気づいた(色はStarkの出発点であり、高い評価を受けている)。

大きな市場には、インクルーシブデザインのような興味深いアメとムチがある。ある人は遵守しなくてはならない問題と考え、ある人は正しいことをするという信念を持っているかもしれない。そしてまたある人は大切に思っているわけではなくむしろ冷淡だが、インクルーシプであれば格好がつくと思っているかもしれない。動機は何であれ、Starkを使うことで多くの人にとってインクルーシブなものを簡単に作ることができ、最終的にバリアを減らせるならそれは間違いなく良いことだ。

ダーリング氏は発表の中で次のように述べている。「すべてのソフトウェア製品は、不利な立場にあるマイノリティのユーザーを排除してはなりません。それはビジネスとして不適切で、社会にとっても不適切です。ソフトウェアのデザイナーや開発者、経営者の間で、ユニバーサルにアクセスできる製品を出荷しようという意識が劇的に高まっています。Starkは短期間で業界の信頼を獲得し、ソフトウェアインフラの重要な一部になりつつあります。すでに世界中のソフトウェア開発を改善しているミッションドリブンの企業と連携できることを、我々はたいへん喜んでいます」。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Starkアクセシビリティインクルージョン資金調達

画像クレジット:Johannes Ahlmann / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(翻訳:Kaori Koyama)

Instagramが公平性チームを設立、ダイバーシティ&インクルージョン担当取締役を募集

Facebook傘下のInstagramは、社内の公平性を推進する取り組みについて発表した。ジョージ・フロイド氏の死をきっかけとして同社は黒人の声を抑圧するのではなく高めていくと6月に発表したが、今回の変革はそれ以降に進展があったものだ。

Instagram責任者のAdam Mosseri(アダム・モセリ)氏は同社のブログで以下のように述べている。「自分が関心を持っている人種問題、市民権の問題、社会問題などへの意識を高めるために、これまで以上に多くの人々がInstagramのプラットフォームを利用するようになってきています。これが大きな動機付けとなり、弊社では、一部のグループに対してInstagramのサービスが十分でない分野を評価すると、6月にお約束しました(Instagramブログ)。弊社には、自分たちが何をどのように構築するかを見極める責任があります。そうすることで、弊社製品の利用体験に、コミュニティの行動や願望がよりよく反映されるようになります」。

まず、Instagramはエクイティ(公平性)チームを設立して「製品開発やInstagramの利用体験における偏りをより深く理解し、それに対処する」とモセリ氏はブログで述べている。エクイティチームは公正かつ公平な製品の開発やアルゴリズムの公平性の確保に取り組む。公平性とインクルージョン担当プロダクトマネージャーの求人情報によれば、このチームは公平性とインクルージョンを専門とし、「グローバルなコミュニティに向けて公平な体験を創出する」という。

Instagramはダイバーシティの責任者もこれから雇用する。求人情報によれば、ダイバーシティ&インクルージョン担当取締役は多様なバックグラウンドを持つ人材を増やし、定着させる職責を負う。Facebookには2013年からダイバーシティ担当責任者がいるが、Facebookの企業の規模を考えればInstagram専任のダイバーシティ責任者を置く価値はあるだろう。

Instagramは、黒塗りの顔を描いたコンテンツやユダヤ人に関するステレオタイプといった暗示的なヘイトスピーチに関するポリシーを改定したことも公表した。深刻なレイプの脅迫をするアカウントは、コンテンツだけを削除するのではなくアカウント自体を停止するとも述べている。

認証については、プレスソースのリストを拡大し、黒人、LGBTQ+、ラテンアメリカ系メディアを追加した。また、フォロワー数の多いアカウントを自動で優先する認証プロセスを取りやめた。

画像クレジット:NurPhoto / Getty Images

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(翻訳:Kaori Koyama)