LinkedIn、インタラクティブなClubhouseスタイルの音声イベント機能を2022年1月開始、動画版は今春登場予定

8億人以上の人々がキャリアを積むために仕事用のプロフィールを掲載しているLinkedInは、次のステップとして、プラットフォームをより多く使ってもらう狙いだ。同社は新しいイベントプラットフォームを展開し、インタラクティブなバーチャルライブイベントの掲載、主催、マーケティングを行う予定だ。まず、音声のみの製品をベータ版として2022年1月に発表し、その後、春に動画版を発表する。最初は、LinkedInをオーガナイザーやホストとして利用しているクリエイターをターゲットにする。

ここ数年の新型コロナ生活の中で、オンラインイベントが多くの支持を得ていることから、現在の計画では、LinkedInの新しいイベント製品はすべてオンラインで提供し、フォーマットをオープンにしてイベントの運営者自身がフォーマットを作ることができるようにする予定だ。

プロダクトマネージャーの Jake Poses(ジェイク・ポーズ)氏はインタビューで次のように答えている。「私たちの理念は、主催する人が管理できるようにすることです。オンラインの円卓会議、炉辺談話などを簡単に開催できるようにしたい。フォーマルなイベントを開催したい人もいれば、インフォーマルなイベントを開催したい人もいるでしょう。また、リスナーとコミュニケーションをとりたい、質問を受けたいという要望もあるでしょう。私たちは、プロフェッショナルな人々にインタラクティブな機能を提供し、サポートします」。

2022年1月開始するオーディオイベント機能には聞き覚えがあるかもしれない。これはClubhouseに匹敵するもので、LinkedInの取り組みが最初に記事となったのは2021年3月だった。LinkedInは2021年、このイベントサービスに追加する可能性のある他の機能を試してきた。例えば、2021年9月にテストを開始した有料のチケットオプションなどだ。しかしポーズ氏によると、今のところインタラクティブイベントは無料サービスとして開始され、現時点ではチケット制にする計画はないとしている。

(LinkedInは近いうちにチケット制を導入すると思われる。私が尋ねたところ、Clubhouseの広報担当者は「クリエイターファーストというマントラの一環として」、当スタートアップ企業は「クリエイターが自分の作品をさらにマネタイズできるよう、チケット制イベントを含む複数の選択肢を模索している」と言っていたが、時期は特定できなかった。また、動画に関しては今のところロードマップにないことも確認した。彼女は「当社は、ソーシャルオーディオ体験に引き続き注力しており、オーディオ中心の新機能がコミュニティの体験をどのように強化できるかを引き続き模索しています」と付け加えた。)

オーディオイベントのモデルはこちら。

2022年1月末に開始されるこの新しいイベントプラットフォームには、他のサードパーティ製のソフトウェアを使用せずにインタラクティブなコンテンツをエンド・ツー・エンドで実行できるツールが含まれる。ホストはLinkedInから直接イベントを記録・実行できる他、オンラインの参加者とホストがライブで会話し、議論を進行できるツールや、イベント開催中と終了後に参加者が互いにコミュニケーションするためのツールが備わる予定だ。また、LinkedInは当然ながらイベントをリストアップし、プラットフォーム間でイベントに関する情報発信のサポートを行う。

これらのイベントのホストについては、まず、LinkedInを利用してすでに多くの人々とつながっている個人、つまり、TikTokなどの他のソーシャルプラットフォームで見られるような独自のクリエイターをターゲットとし、キャリア開発、専門的な話題、その他のLinkedIn中心の専門分野に向けたコンテンツを構築していく予定である。

LinkedInはここ数カ月、より広く、より活発なクリエイターコミュニティの育成に取り組んできた。この目的のために、2021年秋には2500万ドル(約28億6407万円)の資金とインキュベーターを立ち上げた。ポーズ氏によると、現在配信製品であるLinkedIn Liveを利用できるクリエイターは150万人とのことだ。イベントの企画と開催は、その戦略を拡張するための自然な流れといえる。

LinkedInは時間とともに、企業や大きな組織にもLinkedInでイベントを構築してもらいたいと考えているとポーズ氏は付け加えた。しかし大きな組織では、より大きな予算、より高い生産価値を目指したインフラ、そしてチケットやその他のサービスが必要になることが多い。同氏は、必要な人、あるいは希望する人は、サードパーティのアプリケーションやソフトウェアを製品に統合することができるようになると語った。(実際、今のところツールのほとんどはLinkedIn自身で構築されていることも認めていた。LinkedInを所有しているMicrosoftとの統合もあるのは確かではあるが)。

フィードに表示される動画機能のモデルはこちら。

LinkedInがイベントへの尽力により大きな関心を持ったのは、やや時代をさかのぼり、パンデミックの時期より前の2019年に初めてデビューし、対面での集まりに焦点を当てていたEventsハブに始まる。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こってから数カ月後、LinkedInはバーチャルエンゲージメントを目的としたオンライン投票や配信スタイルの動画イベントの開始により、それまでオンラインイベントシナリオで使用されていた方法の一部を公式化した。

同社にとって、これらのイベントは成功を収めている。ポーズ氏は、年間のオンラインイベント作成が2021年1年間で150%増加し、同じ期間にLinkedIn Liveのバーチャルイベント参加者が231%増加したと述べた。取り上げられたトピックは、AIイノベーション基調講演ファイナンシャルプランニングライブ住宅施工メンターシップサイバーセキュリティ授賞式などだ(これらによっても、長期的にLinkedInがこれらのイベントの運営者として個人のクリエイター以上を抱え得る可能性が伝わる)。

LinkedInはまた、その規模と資金力を利用して、イベント分野で活躍する他の興味深い企業への投資や買収も行っている。2021年6月、LinkedInは、オンラインイベントの大企業であるHopin(2021年8月の直近の資金調達ラウンドで77億5000万ドル(約8874億6025万円)と評価された)に投資していることを明らかにした。また2021年8月には、クリエイターがハウツーやその他のメンタリング動画を作成・共有できるJumpropeというスタートアップ企業を買収している。(実際、これがポーズの入社の経緯であり、クリエイター、イベント、動画を網羅する製品をリードすることになった。)

これらのことは、LinkedInのコンテンツ戦略における次の論理的なステップであるだけでなく、パンデミックから2年経った今でも多くの人が在宅勤務をしており、新型コロナウイルス感染症が多くの人にとって脅威であることを考えると、明らかに時代の兆しのように感じられるのである。

だが、オンラインビデオ会議、そして率直に言ってオンラインなものすべてに対して私たちの多くが抱く疲労の影響をLinkedInはどのように受けるのか、また、オンラインイベントの選択肢が1つ増えて、結局多すぎるということが判明した場合、LinkedInは調整できるのかということを考えざるを得ない。

ポーズ氏の答えは、オンラインイベントはさらなる民主化のために必要なものであるが、イベント企画者の中にはハイブリッドなアプローチを取る人もいるかもしれない、というものだった。

オンラインやハイブリッドなものは「この先の時代」かもしれないが、インタラクティブイベントが解決しようとしているものはまったく異なるものだとポーズ氏はいう。

「物心ついたときから、私は講演やミートアップに出かけていました。これらは、社会人がコミュニケーションし、物事を学ぶ方法の主軸です。しかし、これらのイベントには、お金と移動時間、部屋に入って話す勇気、そしてイベントを運営するスペースが必要です。私たちの狙うところは、対面からバーチャルへ移行することで、実際にアクセスを民主化し、より多くの人々にそれを開放することです」と彼はいう。

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

手軽にインタラクティブなデモを体験できる動画作成ツールArcadeが約2.88億円調達

Arcadeのチーム。左から、Charlie McGeorge(チャーリー・マックジョージ)氏、キャロライン・クラーク氏、リッチ・マナラン氏(画像クレジット:Arcade)

試してみたいアプリやツールはたくさんある。大半の企業は試用したい人に対して標準的なフォームへの入力、その後にユーザー名とパスワードの作成を求める。手続きをすべてした後で、そのアプリは評判通りではないことがわかったりする。

Arcadeはこの状況を変えようとしている。米国時間1月11日に正式に発表されたこのインタラクティブデモの会社は、企業が「アーケード」と呼ばれるデモビデオを簡単に作成してツールの動作を紹介できるようにする。

以前にAtlassianの同僚だったCaroline Clark(キャロライン・クラーク)氏とRich Manalang(リッチ・マナラン)氏が創業した同社は、シードラウンドで250万ドル(約2億8800万円)を調達したことも発表した。このラウンドを主導したのはUpfront Venturesで、SequoiaとBondの他Mathilde Collin(マチルデ・コリン)氏、Laura Behrens Wu(ローラ・ベーレンス・ウー)氏、Jaren Glover(ジャレン・グラバー)氏、Eric Wittman(エリック・ウィットマン)氏、Jonathan Widawski(ジョナサン・ウィダウスキー)氏、Lenny Rachitsky(レニー・ラチツキー)氏などのエンジェル投資家も参加した。

クラーク氏とマナラン氏は2021年前半にArcadeを創業し、2021年7月にプライベートベータ版を公開した。これまでに約300社が順番待ちに登録した。そのうち90社は無料版の使用を開始し、125以上のアーケードが制作された。

Arcadeではクリックする場所を記録したデモを作り、それをプロダクトのスニペットとしてウェブサイトやブログ、ツイートに埋め込むことができる。このようにして、プロダクトを使ったことのない人が試用版を申し込む前に動作を見ることができる。

マーケティング畑のクラーク氏はTechCrunchに対し、プロダクト・レッド・グロースというコンセプトの先駆者であるAtlassianに同氏とマナラン氏が在籍していたときに、顧客の多くはウェブサイト以外のところでAtlassianのプロダクトを発見していることに気づいた。問題は、そうした発見をより良いものにするための解決策がわからないことだった。

クラーク氏は「プロダクトから何を得られるかを明確に示し、人々が簡単に楽しく発見できるようにしたいと考えました」と述べた。

顧客は購入するプロダクトやツールに常に期待を持っているが、クラーク氏によれば、やみくもにサインアップすることはもうしたくないというようにここ数年で考え方が変化しているという。

これまで販売はデモの背後に隠れて関与し、企業は誰かの情報を獲得すると「やった!」と喜んでいた。クラーク氏の説明によれば、Arcadeの顧客の1つであるClockworkは財務の専門家と関わる企業で、見込み客に対して請求書をClockworkのプロダクトと関連づければClockworkの動作を確認できると説明することが多かったが、これはハードルが高い。Arcadeを利用することでClockworkは見込み客に対して請求書のデータをアップロードすることなくプラットフォームの動作を見てもらえるようになった。CartaもArcadeを利用している企業の1つで、アーケードを自社のさまざまなソーシャルメディアで展開しているとクラーク氏は述べた。

Arcadeは新たに調達した資金でプロダクトとウェブサイトを構築し、エンジニアリングとプロダクトデザイナーも増員する。クラーク氏は、3人のチームで90社をサポートしてきたが2022年中にはスタッフを倍増したいと語る。

同社は今後、マーケティング、機能、展開に力を入れていく。

クラーク氏は「自社のデータを実際に使う前に動作がわかるようにしていきます。プロダクトのアップデート、他のプロパティとの統合、顧客がさらにパワフルなツールを作れる機能に投資する予定です」と述べた。

Upfront VenturesのパートナーであるAditi Maliwal(アディティ・マニワル)氏はメールで、クラーク氏とは数年来の友人で「5年から、長くて10年のジャーニーをともにすることを大変うれしく思っています」と記した。

マリワル氏はさらに次のように述べた。「クラーク氏はバリュードリブンで、知的で誠実な創業者です。私は力のある創業者に投資をします。ファウンダーマーケットフィットで本物のビジョンを作れる創業者です。私は極めて早い段階で、キャロライン(・クラーク氏)が何を作っているにしても投資したいと思っていました。PLG(プロダクト・レッド・グロース)の市場も成長が早く、また現在の私たちの世界はほとんどバーチャルになっています。ベンダーのプロダクトを試すために営業担当者とZoomや電話をするという考え方は、ユーザーのニーズやフローに混乱をもたらすと思います。ユーザーにとっては、ベンダーのランディングページで自分のデータの実例をシンプルに見ることができればもっとずっと手軽であるはずです。Arcadeによってクリエイターは魅力的なエクスペリエンスを作り、自分の仕事に誇りを感じられるようになります」。

Arcadeを創業した2人は顧客になる可能性のあるデザインパートナーを見つけようとしていたと、マリワル氏は最初から考えている。Atlassianで仕事をしていたころ、創業者の2人はプロダクトを見込み客や顧客に見せる効果を実際に体験していた。

マリワル氏は「2人はペインポイントを極めて早い段階で理解していました。2人は、差別化は結局デザインの楽しさであり、マーケッターとエンドユーザーにとってできるだけシンプルにすることであると認識しています。キャロラインとリッチ(・マナラン氏)は強力な会社を作ることに努めていて、まずデザインに優れたプロダクトと優秀なチームを作ることからスタートしました」と述べた。

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(文:Christine Hall、翻訳:Kaori Koyama)

ストリーミングビデオをインタラクティブにするAdventrが約5.7億円のシード資金調達

創業者でCEOのDevo Harris(ディーボ・ハリス)氏がAdventrを思いついたのは、音楽業界の大物アーティストたちと仕事をしていたときだ。

「AdventrはKanye West(カニエ・ウェスト)やBritney Spears(ブリトニー・スピアーズ)やNas(ナズ)といったアーティストのコンテンツを作っているときに思いつきました。インタラクティブな要素を導入したミュージックビデオは人気を博し、視聴者を惹きつけるのは高価な映像や編集だけではないことが証明されました」とハリス氏はいう。

そこでハリス氏は、グラミー賞まで取ったメディアプロデューサーとしての地位を捨て、一介のアーリーステージスタートアップの創業者になった。現在、Adventrはインタラクティブなメディアを作成、閲覧、共有するためのドラッグ&ドロップSaaSツールで、ユーザーはタッチスクリーンやクリック、さらには自分の声を使ってビデオを操作できる。Adventrは、「SmartListen」という音声制御技術の特許を取得し、音声コマンドに基づいてメディアコンテンツを流れの途中で変更することができる。この技術は広告に応用可能で、視聴者が「緑のシャツを買って」などということができるようになるかもしれない。また、クリエイターがAdventrで映画を作る場合、ホラー映画の主役に「あの廊下を進むな」というように、観客から登場人物に指示を出すよう呼びかけることもできる。

その特許を取ったSmartListen機能はまだ未完成だが、Harris氏によると、2022年の初めには一部のパートナーが利用できるようになる。

「これはゲームチェンジャーであり、動画内のクリックを超えたコネクテッドメディアの可能性にクリエイターの心を開くことになるでしょう」とハリス氏はいう。

関連記事:動画に話しかけることでユーザーがストーリー展開を変えるAdventrのボイスコントロール技術

立ち上げからわずか1年のAdventrは、2021年秋のTechCrunch Disrupt、Startup Battlefieldに登場し上位5社のファイナリストに残った。その後、同社はベータでプロダクトを磨き、ユーザーは8000社になっている。その中にはAsiaNet NewsやMSI Gaming、SK Interactive、そしてニューサウスウェールズ州政府もいる。これらの顧客はユーザーが動画と対話している際のアナリティクスを確認できるので、消費者についていろいろ知ることができる。

Disrupt後、AdventrはPaladin Capitalがリードするシード投資で500万ドル(約5億7000万円)を調達し、それにReinventure CapitalやIn/Visible Ventures、そしてアカデミー賞受賞者John Legend(ジョン・レジェンド)氏らが参加した。レジェンド氏はハリス氏の長年の協力者で、カレッジのルームメイトでもある。

「Disruptの直後から6桁ドルの収益が上がり、今でもオンラインでピッチビデオを見た人からインバウンドがきています」とハリス氏はいう。

Adventrは今回の資金をチームの構築に使っていきたいという。Disruptに出たときは5人の社員しかいなかった。最近同社はVimeoのゼネラルマネージャーだったPeter Gerard(ピーター・ジェラルド)氏をプロダクトのトップに招いた。Adventrはまもなくソーシャルメディア・プラットフォームとの統合を開始し、顧客がそれらのプラットフォーム上でインタラクティブビデオをネイティブに共有できるようにする予定だ。

画像クレジット:Adventr

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Hiroshi Iwatani)

動画に話しかけることでユーザーがストーリー展開を変えるAdventrのボイスコントロール技術

誰にも経験がある。ホラー映画を見ていて、主人公がその不気味な家に入ってはいけないことを、あなたは知っている。画面に向かってどれだけ叫んでも、あなたは彼の運命を変えられない。でも、もしも画面の男に、その家に近づくなと言って、彼がそれを聞き入れたらどうなるだろう?

エンターテインメント系の起業家であるDev Harris(デブ・ハリス)氏の最新のベンチャーなら、それが可能かもしれない。彼はグラミー賞を獲得し、Kanye West(カニエ・ウェスト)やJohn Legend(ジョン・レジェンド)のようなアーティストと長年のビジネス仲間だ。

2020年8月にベータでローンチしたAdventrは、ユーザーフレンドリーなインターフェースで、誰もが画面上の要素をドラッグ&ドロップしながらインタラクティブな動画を作ることができる。すでに何千ものユーザーがインタラクティブなエクスペリエンスを作っており、その中には、宇宙をテーマとする子ども向けの教育モジュールや、Marc JacobsやLVMHのようなラグジュアリーファッションのプロモーションビデオもある。

20のスタートアップが競うTechCrunch Disrupt, Startup Battlefieldでは、創業者でCEOのハリス氏は、Adventrのきわめつけの機能を披露した。それは、ユーザーがビデオの進む方向を命令できる音声コントロールの特許機能だ。

具体的には、音声認識を利用して、ビデオの途中でコースを変更する技術に関する特許だ。また、他のデータベースやアプリケーションと連携して、リアルタイムに答えを調べたり、質問に答えたりすることができる。

「これは『音量を上げろ』といった簡単な命令ではなく、『その部屋に入るな』といったものです。テレビと話せるなら、携帯電話と話せるなら、なぜビデオと話せないのでしょうか?私たちの技術により、これらのビデオは視聴者のマイクを使って、その視聴者が望んでいることを理解し、リアルタイムに対応することができます。インターネットの大部分はビデオであるため、私たちはビデオが他のスマートデバイスのように機能することを可能にしています」とハリス氏はいう。

画像クレジット:Adventr

彼のチームは現在わずか5名だが、クリエイティブを重視するだけでなく、eコマースのエキサイティングなアプリケーションもありえると考えている。彼は、2002年の映画「Minority Report(マイノリティ・リポート)」を指して、主役の Tom Cruise(トム・クルーズ)がGAPの店頭でホログラムに遭遇し、パーソナライズされたショッピング体験について質問されるシーンを、例として挙げる。

Adventrのデモビデオでは音声コントロール技術が登場し、買い物客がTargetでパジャマを買う。そのとき視聴者は「グリーンのものを着てみて」とか「Lサイズを見つけなさい」などと声で命令し、買うべき品物を決める。そしてどのパジャマを買うか決めたらTargetのウェブサイトへ移り実際に購入するが、ハリス氏は、いずれその経験過程のすべてがAdventrネイティブで行われると期待している。

現在、Adventrのツールはサブスクリプションで利用できるが、月額29ドル(約3200円)のプロプランや99ドル(約1万900円)のビジネスプランに決める前に、フリープランで試してもいい。Adventrの用途はeコマースや教育やエンターテインメントに限定されているわけではないため、今後企業やアーティストからまざまなアプリケーションが生まれるだろう。

「Adventrは、TwilioとVimeoを組み合わせたような、ビデオベースのAPIだと考えてください。基本的に、ユーザーはフレーズやキーワードを入力することで、特定のビデオクリップを再生することができます」とハリス氏はいう。

Adventrは、100万ドル(約1億1000万円)のシードラウンドでスタートしましたが、さらなる資金調達についてはまだ発表していない。しかし、このスタートアップは、すでに自社製品を加入者に販売しており、早い段階で収入源を確保している。ハリス氏は具体的な財務状況を明らかにしなかったが、顧客獲得に費用をかけずに、Adventrの収益は2021年初頭から現在まで80倍に増加しているという。

画像クレジット:Adventr

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Hiroshi Iwatani)

動画をタップして後で検索、インタラクティブ動画「TIG」が描く映像の未来

若い世代の間では動画から情報を得るのがもはや常識だ。テレビはもちろんYouTubeなどのネットサービスでの動画視聴が一般的となり、さらにコロナ禍でのおうち時間で増えた自由時間を動画視聴に充てる人も多い

ところで、僕の周りにいる人たちが動画を視聴しているところを観察してみると、ある行動パターンが存在した。大学生の僕の妹は、スマホでYouTubeを見ながら頻繁にアプリを切り替えてブラウザで何かを検索している。30歳の僕の妻は、テレビでバラエティ番組などを見ながら、手元にあるスマホで番組に出ている芸能人や紹介されたアイテムの価格などをAmazonで調べている。TechCrunch Japan読者のみなさんもよく目にする光景ではないだろうか。

動画を見ながらの検索に対して、「それって無駄だよね、もっとシームレスにしたいよね」という想いでビジネスを展開するのが日本のスタートアップのパロニムだ。同社はインタラクティブ動画と呼ばれる「触れる動画技術プラットフォーム」の「TIG(ティグ)」を展開している。同サービスにより作成されたインタラクティブ動画では、動画内に出てくる商品、観光スポット、登場人物などをタップすることで、その対象が後で検索するためのストックリストにたまっていく。タップするごとに動画再生が止まるということはなく、視聴者が動画そのものを楽しめるような設計になっている。動画視聴中または視聴後にストックされた情報をタップすることで商品情報のページなどにすぐにアクセス可能だ。

パロニムによれば、できるだけ動画の画を汚さない設計によって動画視聴完了率は全体で52%ほどと高く、ユニークユーザー1人あたりの遷移率も47%となっている。また、ある大手ECプラットフォームが通常動画とTIG動画でのCVR(コンバージョンレート)を比較したところ、TIG動画のCVRは通常動画のそれに比べて約3倍ほど高かったという。

TIGを使ってこのようなインタラクティブ動画を作成するのは簡単だ。動画の作成者はTIGのプラットフォーム上に動画をアップロードし、タップさせたい商品などを範囲指定するだけだ(同社はこの行為を「ティグづけ」と呼ぶ)。あとはTIGがその対象物を自動で追従してくれるから、コマ送りで細かくタップ箇所を指定する必要はない。このように、TIGでは既存の動画にも簡単にインタラクティブ性を持たせられることが特徴で、視聴者がどこをタップしているか(注目しているか)などの追加的なデータも取ることができる。

パロニムはこの技術を応用し、動画ECプラットフォームである「TIG Commerce」をはじめ、ライブストリーミングに対応した「TIG LIVE」、サイネージ対応の「TIG Signage」、eラーニング対応の「TIG Learning」など様々なサービスを展開中だ。また同社は今後、作成したTIG動画をLINE(ライン)のタイムライン上で配信でき、視聴者はストックされた情報にLINEからいつでもアクセスできる「TIG for LINE」や、eコマース動画に内蔵されたカートボタンをタップすると商品の購入画面に直接遷移できる「TIG for Shopify」などの新サービスを提供していく予定だ。

よく考えてみれば、スマホで動画がいつでも見られる世の中になったことは便利だけれど、動画のタップでできることといえば再生停止くらいなものだ。それではあまりにもったいない。動画のタップ操作でできることが増えれば、動画がもつ可能性も比例して広がっていくのだろう。