エイチーム、プログラマ向け情報共有サービス「Qiita」提供元のIncrementsを約14億円で買収

ソーシャルゲームを始め複数のWebサービスを展開するエイチーム1222日、プログラマ向けの情報共有サービス「Qiita」などを提供するIncrementsの発行済株式の100%を取得し、連結子会社化することを明らかにした。

取得価格は総額で14億5300万円。内訳は株式が14億4600万円、アドバイザリー費用などが600万円。株式譲渡は2017年の12月25日を予定している。

Incrementsは2012年2月の創業。Qiitaに加えてチーム内情報共有ツール「Qiita:Team」の開発・運営を行っている。直近の財務状況については、以下の通りだ。

  • 平成27年2月期 : 売上3373万円、営業損失1763万円
  • 平成28年2月期 : 売上7363万円、営業損失3341万円
  • 平成28年12月期 : 売上8995万円、営業損失7871万円(平成28年3月~12月)

エイチームによると同社では資本を活用した中長期的成長の実現、企業価値の向上を加速させるために「既存事業の競争力強化につながると想定される企業や事業」や「自社で容易に参入できない、或いは参入に時間のかかる事業を持つ企業」の買収を検討してきたという。

Incrementsは「自社で容易に参入できない、或いは参入に時間のかかる事業を持つ企業」に該当するため、買収を通じて新たな事業展開を加速させることができると判断した。今後はQiitaとQiita:Teamの成長を目指すとともに、エンジニア情報を活用した新規事業も検討する。

Blue Apron、上場初日は空振り――IPO価格からほぼ動かず

Blue Apronの株主は今頃泣いているかもしれない。もちろんこれは、彼らの商品に含まれる玉ねぎのせいではない。

会員制の食材宅配サービスを提供しているBlue Apronは、1株あたり10ドルをかろうじて上回った(四捨五入すると10.01ドル)あたりで初日(現地時間6月29日)の取引を終えた。これは、当初IPO価格を15〜17ドルに設定しようとしていた同社だけでなく、10ドルのIPO価格でBlue Apron株を購入した株主にとっても大変残念な結果だ。

市場に良いイメージを与えるため、新規上場企業は取引初日に少なくとも20%程度の値上がりを狙う場合が多い。その一方で、Blue ApronはIPO価格を引き下げた上、取引初日の結果も思わしくなかったため、今後が心配される。

さらに現在の時価総額は20億ドルを少し下回っており、上場前最後の投資ラウンドで20億ドルのバリュエーションをつけた投資家はさぞ落ち込んでいることだろう。ベンチャー投資家にとって、ブレイクイーブンは失敗と同じだ。というのも、彼らは一握りの投資先の大規模なエグジットから得た収益で、その他の企業のマイナス分をカバーしているのだ。

レーターステージで株主になった投資家の中には、ラチェット条項と呼ばれるもので保護されている人たちもいる。レーターステージの投資でよく見かけるこの条項では、エグジットの際のリターンに関して最低額が保証されており、ときには他の投資家がその影響を受けることさえある。IPOに特化した調査会社のRenaissance Capitalは「Fidelityの投資の一部には、IPO価格から7.5%割り引いた金額でラチェット条項が設定されている」とツイートに残している。

逆にBessemer Venture PartnersやFirst Round Capitalは、Blue Apronの株価が数セントくらいの頃に投資していたため、IPOでかなりのリターンを得ることができた。

Bessemer Venture PartnersのパートナーであるBob Goodmanは、CEOのMatt SlazbergがいるからこそBlue Apronのことを信じていると話す。Goodmanは「市場で生き残れるビジネスをつくるためなら努力を惜しまない彼の姿勢には驚かされました」と話し、さらにBlue Apronのチームは「食品の無駄や、高品質な食材へのアクセスといった実在する問題に取り組んできました」と付け加えた。ちなみに、SalzbergはかつてBessemer Venture Partnersでアソシエイトとして働いていた。

しかし、Blue Apron以外にも食材宅配サービスを提供している企業はたくさんあり、中でもSun BasketやPlated、HelloFreshは着実にトラクションを伸ばしている。投資家の中には、AmazonによるWhole Foods買収の影響がBlue Apronにも及ぶのではと心配している人もいる。Amazonは食材宅配に関しては何も発表していないが、少なくとも生鮮食料品の配送サービスには手をだしてくるだろう。

また、IPOに際して公開されたBlue Apronの数字を見ると、リテンションに問題があることに気付く。売上額はかなりの勢いで伸びており、昨年には8億ドル近い売上を記録したが、彼らのマーケティングの費用対効果はマイナスで、チャーンレートはBlue Apronにとって大きな問題になり得る。

とはいっても、IPOにたどり着けただけでも大きな快挙だというのも事実だ。しかも、ニューヨークに拠点を置くBlue Apronは設立から5年しか経っておらず、IPOを目指すスタートアップとしてはかなり早い段階でエグジットを果たすことができた。

なお、今週はテックIPOにはなかなか不利な週のようで、ストレージサービスのTintriは本日予定していた上場を延期することにした。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Delivery Hero、取引初日に時価総額が50億ドルを突破

フランクフルト証券取引所への上場を果たしたフードデリバリー企業Delivery Heroの時価総額が、取引初日(現地時間6月30日)に50億ドルを突破した。

今月に入ってから上場の意向を示した同社のIPO価格は、1株あたり25.50ユーロに設定され(仮条件の上限値)、取引初日の最高値は27.70ユーロ(約8.6%の値上がり)だったとBloombergが報じている。つまり、設立から6年が経ち40か国以上で営業しているDelivery Heroの時価総額は、最高で47億ユーロ(53億ドル)に達したのだ。

Delivery Hero自体はIPOで4億6500万ユーロ(5億3000万ドル)を調達し、この資金は債務の返済やビジネスの成長のために使われる予定だ。一方、その24時間ほど前にニューヨーク証券取引所で上場を果たした食材宅配サービスのBlue Apronは、Delivery Heroとは対照的に前途多難なスタートを切った

IPOがうまくいったとはいえ、Delivery Heroは未だ黒字化を果たせておらず、昨年度の純損失は2億200万ユーロ(2億3000万ドル)だった。その一方で、2016年の売上高は3億4700万ユーロ(3億9000万ドル)で前年比71%の伸びを見せ、オーダー数も51%増加した。これにはRocket Internet傘下だったFoodPandaの買収が深く関係している。Delivery HeroはこのM&Aを通じて、東欧や中東、アジアを含む合計20か国への進出を果たし、その他の市場でも大きな力をつけることができたのだ。

FoodPandaの売却によってDelivery Heroの株式の35%を手に入れたRocket Internetにとっても、本日のIPOは大きな追い風となった(投資会社NaspersもIPO直前の投資を通じて、同社の株式の10%を保有している)。

ドイツのインキュベーター兼投資会社であるRocket Internetは、ポートフォリオ企業の赤字体質で批判を受けてきたが、Delivery HeroのIPOによってこれまでに合計2社をエグジットさせたことになる。さらに同社は、FoodPandのほかにも先日東南アジアのEC企業Lazadaの株式を全て売却した。逆にAlibabaは、今週10億ドルもの資金を投じてRocket InternetやTescoを含むさまざまな投資家からLazada株を買い取り、同社の持株比率は51%から83%に上昇した。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

大人の男性向けメディア「JION」、ウェブマーケティング企業へ事業売却

男性向けのエンターテインメントWebメディア「JION」を運営するJIONは6月19日、事業売却を発表した。売却先はWebマーケティング事業やSEM事業を行うミスターフュージョンだ。売却金額は非公開だが、関係者からの情報では数億円規模と見られる。2016年3月設立のJIONにとっては1年3カ月でのエグジットとなる。

売却後、JION創業者で代表取締役の成井五久実氏は、ミスターフュージョンの執行役員に就任し、メディア事業部の責任者として、JIONに加え、ミスターフュージョンが手がけるウェブメディアを統括。また、7月1日にはアラサー女性向けの新メディア「IIONNA(イイオンナ)」のローンチも予定する。

女性ライターによる“大人の男性”向けメディア「JION」

WebメディアJIONは、「女性が届ける大人の男の1分マガジン」として2016年にリリースされ、女性ライターによる記事で、男性向けに恋愛・デート・ファッションなどの情報を提供してきた。男性向けのデジタルメディアといえば、SmartNewsグノシーなどニュース中心のメディアから、男性向け雑誌から派生したものなどがあるが、これら競合の中にあって、JIONの強みは「恋愛をテーマにしたエンタメ系メディアとして、男性読者をきちんとつかんでいるところ」(成井氏)と話す。JIONの読者はは、都内在住のアラサービジネスマンが中心で、男性比率は8割。現在の月間アクティブユーザー(MAU)は100万人という。

「JIONではアフィリエイトよりは、ナショナルブランドのクライアントのタイアップ記事で収益のほとんどを上げている。Facebook広告で男性読者を確実に取り入れ、ユーザー数が伸びる中でも男性比率を落とさずに運営してきたことが、クライアントに評価されている」(成井氏)。今後はミスターフュージョンの持つSEM、リスティングのノウハウを活用してサービスを成長させるとしている。

 

JION代表取締役の成井五久実氏

9割の企業がアーリーステージでエグジット――スタートアップはどの段階で買収されやすいのか

【編集部注】執筆者のJason Rowleyは、Crunchbase Newsのベンチャーキャピタル・テクノロジー記者。

アメリカ国内のシードステージにあるスタートアップから、ランダムに1000社選ぶとしよう。この中から何社がシリーズAまでたどり着くだろうか? そして、シリーズAでの資金調達に成功した企業のうち、何社がシリーズBに到達できるのか? このように企業の段階を追って見ていくと、最後には数社だけが残ることになる。

しかし、各ラウンドまで生き残った企業の割合を求めるだけでは何も見えてこない。もっと重要なのは、途中で資金調達をやめてしまった企業に何が起きたのかということだ。もちろん、廃業も避けては通れない道だろう。しかし、事業売却やIPOのように、喜ばしい理由で次の資金調達ラウンドへ進まなかったスタートアップも存在する。それでは、どのくらいの企業がエグジットを果たしているのだろうか?

この記事では、2003〜2013年の間に設立された、1万5600社のテック企業の資金調達に関するデータをもとに、上記の問いに対する答えを探っていきたい。まずは全体的な生存率について見てみよう。テック業界でスタートアップが生き残っていくことの難しさがわかるはずだ。

急勾配を描くスタートアップの生存率

下図は、プレシリーズAで資金調達を行ったスタートアップのうち、どれだけ多くの(もしくはどれだけ少ない)企業が次なるラウンドへと駒を進めていったかを示したグラフだ。

仮に1000社が見事プレシリーズA(シード/エンジェルラウンド、コンバーチブルノート、エクイティクラウドファンディング等)をクローズしたとすると、そのうち400社ちょっとだけがシリーズAに進むことになる。つまり、私たちのデータによれば、プレシリーズAでの資金調達に成功したスタートアップの約60%はシリーズA以降には進むことができないとわかる。

均等目盛のグラフで見ると、企業数の減少度合いがかなり激しいことはわかるが、シリーズE以降の詳細がわかりづらくなってしまっている。そこで、対数目盛を使ってグラフを以下のように変換してみた。

(使われているデータは最初のグラフと同じだが、このグラフではラウンドを経るごとに企業数が指数関数的に減っていく様子がよくわかる)

上のグラフを見ると、2003〜2013年に誕生したスタートアップのうち、約1%しかシリーズFをクローズできなかったということがわかる。そして調査対象となった1万5600社のうち、シリーズHをクローズできたのは、Pivot3、Smule、Glassdoor、Aquantiaの4社だけだ。

エグジットという選択

先述の通り、企業が資金調達をやめる理由はさまざまだ。

事業をたたまなければいけない場合や、ビジネスが順調に進んで資金調達のニーズがなくなった場合を除くと、スタートアップが次のラウンドへ進まない理由は、買収かIPOのいずれかになる。それでは、企業はどの段階でエグジットする可能性が高いのかを考えてみよう。なお、買収された企業の数はIPOを果たした企業の16倍だったため、グラフでは買収された企業のデータを利用している。

用意したグラフは2つ。1つめでは、実際に買収されたスタートアップのみに焦点をあて、どの段階にある企業が1番買収されやすいのかということを分析している。そして2つめのグラフは、全ての段階を通じて、スタートアップはどのくらいの確率で買収されるのかということを示している。それでは最初のグラフから見てみよう。

どの段階にある企業が買収されやすいのか

どの段階にある企業が買収されやすいのだろうか? 恐らく直感的にもわかるように、株価が1番安いときが買い時なため、買収は比較的早い段階で起きやすい。しかし”早い段階”とはどのあたりを指しているのだろう? 驚くかもしれないが、買収された企業の90%近くが、プレシリーズAから数ラウンドの範囲にいたことがわかった。

プレシリーズA以降に進めなかった企業からシリーズHをクローズした企業を含め、買収された企業のラウンドごとの分布(累計)を示しているのが以下のグラフだ。

段階が上がるにつれて(急激に)企業数が減るため、各ラウンドでエグジットを果たした企業の数を、そのラウンドまでに買収された企業の総数で割っている。これにより、各ラウンドを終えたあとに買収された企業の割合を導き出すことができ、それぞれの段階での相対的なエグジットの起きやすさがわかるようになっているのだ。

念のため繰り返すと、上のグラフはシリーズCをクローズした企業全体の約92%が買収されると示しているわけではなく、資金調達を経てから買収された企業のうち約92%がシリーズCまでの範囲にいたことを表している。つまり、将来買収されることを目標に会社を立ち上げた場合、シリーズCかそれ以降で実際にその会社が買収される確率は10%程度ということになる。

ラウンド別の被買収企業の割合

上のグラフは、既に買収されている企業がいつ頃買収されたのかということを示しているが、さらに気になる問題が残っている。その問題に答えるため、下のグラフでは調査対象となった全てのスタートアップのうち、買収された企業の分布(累計)をまとめている。

買収された企業の割合はシリーズEの段階で約16%の最高値に達し、それ以降はあまり数字に変化がない。結果として、対象企業のうち6社に1社がどこかのタイミングで買収されたということになる。

生存率の低さの理由

繰り返しになるが、企業が資金調達をやめる理由はいくつかある。金銭的に持続可能なレベルに到達した企業や事業をたたんだ企業もいれば、買収やIPOを通じてエグジットを果たした企業も存在する。エグジットの中でも私たちは買収に注目してデータの分析を行った。というのも、実際にほとんどの企業がIPOではなく買収の道を選んでいるとともに、結論を導き出す上では買収された企業の方がデータ量が多かったのだ。

アーリーステージで姿を消す企業が多いことには複雑な背景があるが、ひとつだけ言えるとすれば、早い段階でエグジットのチャンスが訪れる可能性が高いということだ。スタートアップが失敗する要因に関しても同じことが言える。仲間割れやプロダクトマーケットフィット前の資金不足、業績の伸び悩み、単なる不運など、スタートアップの生死を分けるような問題は設立から間もない段階で起きやすい。

その他にも、レーターステージのラウンドは、参加する投資家の種類の違いから「プライベートエクイティ」と呼ばれることもあるなど、この記事で私たちが勘案していないような要素にも留意しなければならない。そのため、実際の状況は上のグラフよりも良いのかもしれないが、そこまで大きくは変わらないだろう。いずれにせよ、資金調達は厳しい戦いなのだ。

ビジネスの成長を妨げる要因の中でも、各ラウンドでの生存率の低さはもっとも大きな影響を持っているかもしれない。そのため、まだレーターステージに達していないものの、次のラウンドに進むのは難しいと感じた場合、可能なうちにエグジットを画策した方が良いだろう。そうしている企業はたくさんいるので、心配する必要はない。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

1億ドル企業は過小評価されている――身の丈にあった資金調達の重要性

【編集部注】本記事はFounder CollectiveのEric Paley(マネージング・パートナー)とJoe Flaherty(コンテンツ&コミュニティ担当ディレクター)によって共同執筆された。

ユニコーン企業中心の現在のスタートアップ界では、成功の定義が大きく変わった。10億ドル規模のエグジットがもてはやされる中、かつては成功と考えられていた数字の価値が下がってきてしまったのだ。実際、自分が設立した企業を1億ドルで売却出来る確率は、純粋な可能性としては極めて低い。しかし今日では、1億ドルという数字は成功と呼ぶには小さすぎると考えられてしまうことが多々ある。

もちろん全員がこんな歪んだ見方をしているわけではないが、驚くほど多くのVCや業界関係者が、数億ドルのエグジットでは騒がなくなった。

一方で、刺激を追い求める現代社会で上記のような変化が起きているのは、そこまで驚くべきことではないとも言える。政治記者が州政府よりも大統領や最高裁判所について書きたがるように、テック記者はミリオン企業ではなく、ビリオン企業を求めているのだ。10億ドル規模のファンドは、各スタートアップに5000万ドルをつぎ込むのもいとわず、1億ドル程度のエグジットは成功どころか残念賞くらいにしか考えていない。そう考えると、1億ドルちょっとのエグジットは大型のアクハイヤー(人材獲得を目的とした企業買収)のようにさえ見えてくる。

この考え方がどれだけ歪んでいるかを確かめるため、私たちはここ数十年間に成功をおさめたファウンダーの中でも、その後VCになった人たちにフォーカスした調査を行うことにした。さまざまな分野で活躍するVCから、起業経験を持つ63人の投資家をピックアップしたところ、10億ドルを超える金額のエグジットを経験した人の数はたった11人だった。

素晴らしいスタートアップを創設した著名投資家はたくさんいるが、今の歪んだ基準で見ると、彼らの経済的な成功度合いは”そこそこ”ということになる。例えばY CombinatorのPaul Grahamは、過去10年でもっとも影響力のあるVCの1人だが、彼が設立したViawebは”たった”4900万ドルで売却された。現実的な基準で考えると、Viawebは間違いなく成功したビジネスだったが、今日の派手なサクセスストリーや資金調達のニュースに照らすと、そうでもないように見えてくる。また、Viawebは買収されるまでに250万ドルしか調達していない。しかしGrahamはかなり大きなリターンを得ることができ、このエグジットはその後の彼の将来を左右するような出来事となった。どうやら”小規模な”エグジットでも大きなことに繋がる可能性はあるようだ。

注:このリストには抜けがあるかもしれないので、もしも漏れている人がいれば是非教えてほしい。ドットコムバブル期のエグジット額は正確に評価するのが難しいため、別途出典をまとめている。金額に関する情報が明らかになっていないケースについては、買収額が売却先のマテリアリティスレッシュホールドを下回るという仮定に基いている(出典:Founder Collective)。

過小評価されている1億ドルのサクセスストーリー

自分の会社を1億ドルで売却するというのは、VCだけでなくスタートアップコミュニティ全体からも冷笑されることがある。Mint.comのファウンダーとして有名になったAaron Patzerは、サイトの革新的なUXを評価したIntuitに同社を1億7000万ドルで売却した。彼は「大きく出るかやめるか」いう哲学を信じていなかったのだ。しかしMint.comの売却でひと財産を築いた彼は、その後批判を受けることになる。さらに、1億ドル規模の”小さな”エグジットに対する軽蔑心がスタートアップ界に蔓延するあまり、Urban Dictionaryには自分の企業を低すぎる価格で売却することを表す表現さえ登録されている。「Pulling a Patzer」というフレーズで調べてみてほしい。

私たちの投資先が大手テック企業に1億ドル強で買収されることが最近決まった。私たちは短期間で大きなリターンをあげることができ、共同ファウンダーたちは昨年のレブロン・ジェームズの年収を上回るほどの金額を手にした。現実的に見て、この売却は当該企業にとっては最善の結果であっただろうし、関係者全員にとっても大きな成功と言えるものだった。

ユニコーン企業の存在にとらわれている現代のスタートアップ関係者が、もしもこのエグジットを失敗と考えるのであれば、彼らのビジョンには問題があるし、最悪の場合は単に皮肉を言っているようにさえ映る。

「大きく出るかやめるか」という崩壊したロジック

私たちはなるべく早くエグジットを目指したほうが良いと言っているわけでもなければ、自分の会社の可能性を低く見積もれと言っているわけでもない。私たちは次なるUberやGoogleやFacebookに投資したいと考えている。しかし現実として、全ての企業が彼らのような規模になるべきだとは言えない。これほど多くの(元起業家の)VCが、ユニコーンのステータスには遠く届かないようなスタートアップで成功をおさめられたのは、早い段階でのエグジットという選択肢を残せるような評価額で、適切な額の資金を調達していたことが関係している。

シードステージで将来10億ドル規模のビジネスに成長するであろうと思えるようなアイディアも、その道中で予想外の障壁にぶつかることがある。身の丈にあった資金調達を行ってきたスタートアップにとって、この障壁が生死を分ける問題になることはほとんどない。しかし残念ながらほとんどのVCは、その規模のせいでポートフォリオ企業のいくつかを10億ドル以上でエグジットさせなければいけないのだ。そのためVCは必要以上の資金をスタートアップにつぎ込むものの、企業が思い通りに成長しなければ、現実的かつ実り多いエグジットの可能性が無くなってしまう。

例えばあなたの企業が、前年度に1000万ドルの売上を記録し、直近のラウンドで5000万の評価額がついたとしよう。人気の業界にいるこの企業は、売り上げを今年度中に倍増しようと考えているが、利益は薄く、なかなかユニットエコノミクスも成立させられないでいる。普通に考えると、この企業が次回のラウンドで達成できるのは、プレマネーの評価額が8000万ドル、そして調達額が2000万ドルといったところだろう。

”小規模な”エグジットでも大きなことに繋がる可能性があるのだ。

しかし今日のVCは、企業が成長している様子や市場の盛り上がりを見るやいなや、ファウンダーに「大きく出るかやめるか」と言い聞かせようとする。すぐにでも手元に残った2000万ドルを投資しようとしている(次なるファンドを組成するために手元資金を使いきろうとしている)このVCは、先述の現実的な数字の代わりに、2億6000万ドルの評価額で4000万ドル(うち半分を当該VCが出資)を調達するようファウンダーを説得するのだ。そうするとポストマネーの評価額は3億ドルになり、VCが求めるようなリターンを実現するには、この企業を10億ドルで売却しなければいけなくなってしまう。

1000万ドル程度の売上と薄い利益しかないにもかかわらず、この企業は5億ドルのエグジットというオプションを捨ててしまったのだ。もしも調達額が少なければ、5億ドルのエグジットでも関係者全員がハッピーになれていたはずだ。恐らくこの企業のバーンレートはその後上昇し、さらなる資金調達が必要になってくるだろう。もしもインフレした評価額を受け入れられるような売却先が見つからず、VCも輝きを失いつつあるこのビジネスへの投資をやめたとすると、かつては将来有望と考えられていた企業が倒産してしまう可能性もあるのだ。

ファンドの規模が全てを物語る

1億ドルのエグジットを実りあるものにするためには、過度な資金を調達しないように細心の注意を払わなければいけない。自由が欲しければ戦略的な資金調達を行わなければいけないのだ。これは自分の企業にあった投資家探しからはじまる。Founder Collective パートナーのDavid Frankelは「ファンドの規模が全てを教えてくれる」とよく言っている。かなり大雑把な目安として、スタートアップは少なくとも投資を受けるファンドの規模と同じくらいの金額でエグジットできるようにならなければいけない。例えば5000万ドル規模のファンドから資金を調達した場合は、1億ドルでのエグジットでなんら問題ない。しかし10億ドル規模のファンドから資金を調達したとすると、エグジット時の期待値も膨大な額になるため、投資家選びは慎重に行い、どんな契約を結ぼうとしているのかしっかり把握するようにしたい。

1億ドル規模のスタートアップは恥ずかしくない

テック企業の大半は1億ドル未満で売却されているし、実のところ、必要最低限の資金を調達し1億ドルで事業を売却できれば御の字だ。元起業家のVCの多くも、自分たちのスタートアップを売却したときはこれが成功だと考えていた。ファウンダーにとっては、数千万ドルでのエグジットの方が、数億ドル、はたまた数十億ドルのエグジットより儲かるケースさえある。

ある程度成功したスタートアップを売却すれば、ファウンダーは残りの人生を心地よく過ごせるくらいのお金を手にすることができる。中には新たな事業をはじめる人もいれば、後に世界的に有名になるアクセラレーターを設立する人もいる。実際に多くのファウンダーが、起業家の世界における”まぁまぁの”成功をおさめた後に、ベンチャーキャピタルの世界で素晴らしいキャリアを築いているのだ。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter