会社ではなくチームを選ぶ、Qiita発のエンジニア転職支援サービス「Qiita Jobs」が正式ローンチ

企業ではなく、実際に一緒に働くことになる“開発チーム”を軸に探す——。

エンジニア向けの技術情報サイト「Qiita」を展開するIncrementsが、新たなエンジニア就職支援サービス「Qiita Jobs」の構想を発表したのは今年3月のこと。4月に100社限定のベータ版をローンチしてから約半年、本日10月28より同サービスの正式版がスタートした。

Qiita Jobsの大きな特徴はQiitaアカウントに紐づけることでユーザーと企業双方がお互いの技術や興味分野などについて理解を深められること。そして冒頭でも触れたように開発チームに焦点をあてた上で、現場のエンジニアが主導で採用活動を行っていくことにある。

そのコンセプトは実際にプロダクトを見るとよくわかるだろう。Qiita Jobsでは通常の転職サービスと違い、「企業」ではなく様々な「チーム」の名前が並ぶ。

Qiita Jobs掲載開発チーム(一部抜粋)

たとえばIncrementsを例にあげると、「Qiita」「Qiita:Team」「Qiita Jobs」という各プロダクトごとに個別のページが作られていて、各チームのメンバーやプロダクト紹介、利用技術・開発環境、使っているツール、開発の進め方、技術面での特徴などが記載されている。

エンジニアに特化した転職支援サービスということもあり「自動化していること」「コードレビューについて」「技術的負債について」「テストについて」など具体的な開発スタイルや思想についても各チームが回答しているのは面白い。また各メンバーのQiitaアカウントを通じて、どんな技術に興味がある人が所属しているのかなど、メンバーの人となりをある程度事前に把握することもできる。

チームの詳細ページに書かれている内容の一部。実際に開発を担当しているメンバーがわかるほか、チームごとの開発スタイルや扱っている技術・ツールについても記載がある。なお添付しているのは「Qiita Jobs開発チーム」のもの

ユーザーはチームごとに掲載している求人に直接「応募」するほか、「話を聞きたい」機能を通じてもう少しカジュアルにチャットベースでコンタクトをとることも可能。気になるチームをブックマークしておける機能も9月に搭載された。

実際にコミュニケーションを取るのも開発チームのエンジニアであり、最終的に採用に至った場合にはチーム配属の確約もされる。この辺りはQiita Jobsが当初から重要視してきたポイントだ。

一方の企業視点では、各ユーザーのQiita上での活動データから得意な技術や興味領域を踏まえた上で自社に合いそうな人材を検索できるのが特徴。転職意向や居住地、経験職種に加え、Qiitaの利用動向やよく使っているタグなどを軸にエンジニアを探すことも可能だ。

転職サービスにおける「スカウト」をよりカジュアルにした「チャットリクエスト」機能も10月から一部の企業限定でテストを進めてきた。この機能は現時点で転職意欲が高いユーザーにアプローチするだけでなく、“転職潜在層”と言われるようなユーザーを社内勉強会に誘ったり、ラフに面談をしたりなど関係性を中長期的に深めていくのにも使えるという。

現在登録しているユーザー数は約6000名。直近では月に2000名〜3000名程度の会員登録がある状態とのことで、本日より企業側の上限も取っ払い本格的なサービス運用を進めていく。

なお利用料金については採用が決まった際に一律で100万円の成果報酬が発生する仕組み(業務委託の場合は30万円)。この辺りは今後アップデートの可能性もあるようだ。

企業側の画面。Qiitaの投稿内容などから自社に合ったエンジニアを探してチャット上でコミュニケーションができる

求職者起点から企業起点へ、方向性を変え正式ローンチ

今回、ベータ版を半年間運用した上で正式ローンチを迎えたQiita Jobs。大枠のコンセプト自体は変わらないものの、ユーザーの使い方やヒアリング結果を基にいくつかの変更点が加えられたという。

特に「求職者起点から、企業起点のサービスへとシフトした」のが大きなアップデート。当初はユーザー側が主体となって活発にコミュニケーションを取ることを想定していたものの、思っていたほどのアクションがなかったそう。そこでユーザーインタビューを通して、再度課題を探っていった。

「当初考えていたのは、エンジニアが入りたいと思ったチームに必ずしも入れる訳ではなく、そこに対して不満や課題を感じているのではないかということ。チーム配属を確約するとともに、一緒に働くことになるエンジニア達と気軽にコミュニケーションを取れる仕組みや、一般的な求人票以上には十分に記載されていない技術や仕事内容について知れる仕組みを設けることで、エンジニアが主体的に動くきっかけになるのではと思っていた」

「実際にユーザーの話を聞いても、気軽にコミュニケーションが取れないこと、仕事内容や一緒に働く人の実態が見えづらいという仮説はある程度正しいと感じた。一方で多くの企業がエンジニアに対して丁寧にフォローしていることもあり、配属のミスマッチで不満を抱え、転職を考えている人がそこまで多くはなかった。結果的に『チームで転職』というコンセプトは面白いと思ってもらえても、エンジニア側から積極的に行動するまでには至らなかったのではないか」(Qiita Jobs事業責任者の中島常雄氏)

転職活動を行なっているユーザーに課題を重たい順番に並べてもらっても、配属に対する不満が必ずしも上位ではないことが判明。そこからはコンセプトを維持しつつも、企業側が起点で始まるサービスへの転換を検討していったという。

1つの転機になったのは上述したチャットリクエストのリリース。企業側からリクエストを送るとだいたい30%ほどが承諾されて会話が進み、実際に内定に至るようなケースも複数件出てきた。

「自分が起点になることはあまりなくても、企業側からアプローチがあれば積極的に情報を開示していくユーザーが一定数いて、この形であれば事業としても伸ばせる手応えが掴めてきた。ユーザーの登録も加速している中で、より多くの企業にも使っていただける基盤がようやく整ってきた段階だ」(Qiita Jobs事業開発担当の田中翔也氏)

今後はQiita本体に蓄積されたデータをさらに活用することで、企業側へのレコメンドの仕組みなど双方のマッチングをサポートする取り組みを進めていく計画。Qiita Jobsで得られたフィードバックをQiitaのアップデートにも活かすなど、サービス間の連携も進めながらさらに便利なサービスを目指していくという。

GitHubをAIで解析して“スキル偏差値”算出、エンジニアのキャリア選びを支援するFindyが2億円調達

「Ruby67、Java63、トータル67」——これはエンジニア転職サービスなどを開発するファインディが算出した独自の“スキル偏差値”の一例だ。

同社ではエンジニアユーザーのGitHubをAIを用いて解析し、開発言語別の偏差値を算出している。公開リポジトリが解析の対象で、書いたコードの量や、他のプロジェクトへの貢献度、他者からのコードの支持などがベースだ。

ファインディ代表取締役CEOの山田裕一朗氏は「1番重要視しているのは、エンジニアのキャリアアップに繋がる指標になること。転職活動時などに自分のスキル偏差値を1つの武器として使ってもらえるようにしたい」と開発にかける意気込みを語る。

このスキル偏差値を活用して、エンジニアの転職や案件探しをサポートする事業を2017年より展開。現在はコアとなるアルゴリズムに磨きをかけ、さらなる事業拡大を目指している最中だ。

そのファインディは6月5日、グローバル・ブレインを引受先とした第三者割当増資により約2億円を調達したことを明らかにした。

同社は昨年PKSHA Technology代表取締役の上野山勝也氏、レアジョブ代表取締役社長の中村岳氏、クロス・マーケティング代表取締役社長の五十嵐幹氏を含む複数の投資家から資金調達を実施。今回はそれに続くシリーズAラウンドの資金調達となり、サービスやアルゴリズムの開発スピードを加速させるべく、セールス・エンジニアの採用を強化していく計画だ。

「売れなかった」求人票採点サービスからのスタート

現在ファインディではAIを活用したエンジニアのスキル評価と、それを活用したエンジニアのキャリア支援を核として事業を展開している。

主要なプロダクトは転職サービスの「Findy 転職」とフリーランスや副業の案件をマッチングする「Findy Freelance」の2つ。エンジニアとITベンチャーやデジタルトランスフォーメーションを進める大企業などを繋ぐのがファインディの役割だ。

同社は2016年7月の創業。CEOの山田氏は三菱重工業、ボストンコンサルティンググループを経て2010年に前職となるレアジョブに入社し、執行役員も務めた。

取締役CTOの佐藤将高氏は学生時代にレアジョブでアルバイトをしていたことがあり、山田氏とはその時からの付き合い。東京大学の大学院で自然言語処理やデータマイニングの技術を学んだ後、新卒で入社したグリーでのエンジニア職を経て山田氏と共にFindyを立ち上げた。

現在は2人を中心に約16名の社員・アルバイトの他、30人ほどのフリーランス・副業メンバーでプロダクトの開発を進めている。

最初のプロダクトはAIによる求人票の採点サービスだった

ファインディはもともと「Findy Score」というAIによる求人票の採点サービスからスタートしている。ただ、山田氏いわく「ある程度興味はもってもらえたけれど、一切売れなかった」そうだ。

当時は特にやることもなかったので「無料で求人票を書きます」と募集してみたところ、応募のあった10社の内9社がエンジニアの求人票に関するものだった。これが現在の主力事業にも繋がったという。

「エンジニアにヒアリングをしてみると『人事のエンジニア職種や開発言語に対する理解が不足していること』や『エンジニア自身が技術力や経験値を上手く伝えきれていないこと』などの悩みがあり、これがミスマッチの原因にもなっているとわかった」(山田氏)

この現場のペインを解消するプロダクトとして、2017年5月にスキル偏差値を軸にエンジニアと企業をマッチングするFindy 転職をリリース。2018年2月にはエンジニアのフリーランスや副業ニーズに対応したプロダクトとして、Findy Freelanceの運営も始めた。

Findy 転職は現在約1万人のエンジニア、約100社の企業が利用するサービスに成長。Findy Freelanceについても大手IT企業出身者や在職中のエンジニアを中心に約2000名が登録しているという。

ファインディのプロダクトを導入する企業

年収アップに結びつくスキル偏差値の開発へ

2つのプロダクトに共通する特徴は冒頭でも紹介したスキル偏差値だ。GitHub上で日本国内のユーザーと判定できるエンジニアの公開リポジトリ約15万件を解析し、個々のスキルを偏差値として数値化する。

コントリビューション数閲覧画面

「(技術に対する)人事とエンジニアの理解度の壁が大きかったので、その共通言語を作ることに加えて、算出した偏差値が年収とも相関してくるのが重要だと考えている。英国数理社の偏差値をあげたところで必ずしも収入に繋がるわけではないので、エンジニアのキャリアアップを支援する観点で『このスコアなら、これくらいの年収は目指せる』という目安を作りたい」(山田氏)

山田氏によると、このスキル偏差値を新卒採用などのシーンで使いたい企業もいるようだ。書類選考時など多くの候補者を判断する場合には、採用担当者が学歴(大学の偏差値など)を基準に技術力の高い学生を不採用としてしまい、有能な人材を逃してしまうケースもある。

実際、偏差値自体はそこまで高くない大学に通う学生が中退して就職するべくFindy 転職を使ったところ、数社から中途採用枠で内定が出たそう。スキル偏差値が65を超えるようなエンジニアは「学生だったとしても中途枠で内定が出るし、フリーランスとして時間単価で5000〜6000円稼ぐような人もいる」(山田氏)という。

「Findy 転職」ユーザーにアンケートを取ったところ、スキル偏差値が高いエンジニアは年収も高い傾向となった

エンジニア側のユーザーは腕試しも兼ねて登録しているケースも多く、大手IT企業からスタートアップに務めるエンジニアまで幅広い。特に副業については現職でテックリードを勤めているような人材や、マネジメント業務が多く現場でもっと手を動かしたいというベテランも多く、結果として優秀なエンジニアにアプローチできているそうだ。

スキル偏差値以外に関しては比較的シンプルなプロダクトだが、1企業あたりが1週間に押せる「いいね」の上限数に制限があったり、企業側だけでなくエンジニア側も興味を示していないとスカウトメールが送れなかったりと各機能はエンジニア目線での開発にこだわった。

「エンジニアが、エンジニアユーザー向けに機能を企画して作っているのが1番の特徴と言えるかもしれない」と山田氏が話すように、転職だけではなく普段のOSS(オープンソースソフトウェア)活動を応援する仕組みも実装している。

コントリビューションオブザイヤーの取り組み

スキル偏差値もフックとなって「そこまで積極的に転職活動をしていないエンジニア」も多数登録しているのは1つの特徴だ。ファインディのサービス上で自分が気になる企業が見つかり、転職顕在層になることなく転職するユーザーもいるという。

特にFindy 転職の場合は求人票のアドバイスなど企業側のサポートも徹底的に実施することでマッチングを後押ししている。この辺りは求人票採点サービスで培ったナレッジや経験なども活かされているようだ。

テクノロジーとビジネスを繋ぐ“接着剤”目指す

ファインディのメンバー。前列1番左が代表取締役CEOの山田裕一朗氏、1番右が共同創業者で取締役CTOの佐藤将高氏

ファインディでは今回調達した資金を活用して人材とアルゴリズムへの投資を強化する方針。「コアとなるスキル偏差値の算出やマッチングに関わるアルゴリズムの精度向上に一層力を入れていく」(佐藤氏)ほか、特に大企業の顧客獲得に向けたマーケティング活動にも資金を使っていく。

「かつて日本は技術立国としてハードウェアの領域で優れたプロダクトを生み出し、世界を驚かせてきた。今後はソフトウェアやアルゴリズムの領域でどれだけ戦えるかが重要。テクノロジーが組織に紐づいてきたハードとは異なり、ソフトやアルゴリズムでは個人の力の影響度が大きい。事業を通じて新たなテクノロジーの担い手となる個をエンパワーしていきたい」(山田氏)

現在はアルゴリズムを用いてエンジニア個人のスキルを見える化することに挑んでいるが、ゆくゆくは企業の技術力やカルチャーを評価する指標も開発していく予定。「テクノロジーとビジネスを繋ぐ接着剤になること」を1つの目標に、プロダクトの改善と拡張に取り組んでいくという。