ComcastはNASCARなどと共同でSportsTechアクセラレーターを発足

米国メディア企業のComcast(コムキャスト)とNBCUniversal(NBCユニバーサル)は、未来のオリンピックのゴールドメダリストを支援する革新的なスタートアップ企業の育成に自信を見せている。この米国のメディア大手は、一部その勢いに乗って米国時間1月13日にSportsTech(スポーツテック)アクセラレーターを発足した。

TechCrunchは、ニューヨークの30ロックフェラー・プラザにあるGEビルディングで開かれたComcastの幹部による説明会に参加し、詳しい話を聞いた。なおComcastとNBCUniversalは、NBC Sports、Sky Sports、Golf Channelの各スポーツ放送ブランドと提携している。さらに、NASCAR米国スキー・スノーボード協会、米国水泳連盟といった業界パートナーとも手を結んでいる。これらはみな、ComcastのNBCチャンネルで競技が放映されている。

本日より、プレシリーズA(シリーズA投資を受ける前の段階)のスポーツ技術スタートアップの申し込みを受け付ける。参加できるのは10社だ。参加が認められたベンチャー企業には株式ベースで5万ドル(約550万円)が出資され、SportsTechの3カ月にわたり、スポーツ業界からの支援や指導が受けられるアクセラレーター・ブートキャンプを受講することになる。キャンプは、Comcastのアトランタのオフィスで2020年8月から始まる。

SportsTechプログラムの運営にBoomtown Accelerators(ブームタウン・アクセラレーターズ)が加わるが、Boomtown AcceleratorsとComcastの両方が、選ばれたスタートアップ企業の株式を少なくとも6%を取得し分け合う。NASCARと米国スキー・スノーボード協会といった業界パートナーは、スタートアップ企業の選択の際に相談役として参加するが資金提供は行わない。

SportsTechの全体的な目標は、経営幹部と、この新しいアクセラレーターを率いることになるComcastのスタートアップ・パートナー開発部門副社長であるJenna Kurath(ジェナ・クラス)氏との会話から生まれた。Comcastとそのパートナーたちは、それぞれの事業を発展させ競争力を高めるためのイノベーションを手に入れようとしている。

マクドナルドのMcD Tech LabsやマスターカードのStart Pathなどなど、企業が主催するインキュベーターやアクセラレーターが米国の企業価値100億ドルを超える、いわゆるラージキャップ企業の間で一般的になりつつあるが、主催企業はそこで、スタートアップの新しい発想やディールフローを吸収し、デジタル・ディスラプションを受け入れ囲い込もうと目論んでいる。

SportsTechのカテゴリーは、メディアとエンターテインメント、ファンとプレイヤーの触れ合い、アスリートとプレイヤーのパフォーマンス向上、チームとコーチの成功、会場とイベントの改革、ファンタシースポーツとスポーツくじ、eスポーツ、スポーツビジネスに分けられる

その目標のために、SportsTechは、スポーツビジネス、チームとコーチの成功、アスリートとプレイヤーのパフォーマンス向上など、いくつかの望ましいスタートアップのカテゴリーを定めた。

SportsTechのパートナーであるNASCARは、より多くの観客の参加を促す革新的なアイデアを求めている。この自動車レースシリーズは(広告形態も含め)、デバイス配信への依存度が増している。NASCARのストリーム配信では、ピットやドライバーの様子など、ますます多くのレースのデータをリアルタイムで伝えるようになっている。

「スポーツの競争面で、ファンのエクスペリエンスで、そして事業の運営で、より多くのテクノロジーを取り込むには何をしたらいいのかが焦点になっています」とNASCARの最高イノベーション責任者Craig Neeb(クレイグ・ニーブ)氏は言う。「驚くほど強力でイノベーティブな企業を探し出せると、私たちは自信を持っています」とNASCARのSportsTechへの参加に彼は期待を寄せていた。

スノースポーツの米国代表チームを管理する非営利団体である米国スキー・スノーボード協会は、所属アスリートのパフォーマンスと医療技術に注目している。

「ウェアラブル技術(パフォーマンスを測定する)は興味深い分野です、また、技術的要素の理解を深めてくれるコンピュータービジョンや人工知能には大変に興味があります」と、米国スキー・スノーボード協会のハイパフォーマンス部長Troy Taylor(トロイ・テイラー)氏は話していた。

写真提供:U.S. Ski & Snowboard

こうしたテクノロジーは、2022年の北京冬季オリンピックに出場するアルペンスキーヤーのTommy Ford(トミー・フォード)とMikaela Shiffrin(ミカエラ・シフリン)のような米国のアスリートへの可能性を高めてくれる。

2014年、ComcastとNBCUniversalは、2032年までの夏と冬のオリンピックの放映権を77億5000千万ドル(約8520億円)で獲得した。「私たちは自問しました。もっとできないかと。オリンピックの前、最中、後に動き続けるイノベーションエンジンという考え方です。それが我らのチームUSAを、金メダル争奪の最前線に送り込んでくれるのか?」とジェナ・クラス氏は話していた。

その答はイエスだった。そうして、SportsTechアクセラレーターが発足した。オリンピックの成功を支援するだけでない。Comcastとこの新組織には戦略的なビジネス上の動機がある。「参加企業から早い段階で見識が得られたなら、新しい商業的な関係に発展する可能性があります。ライセンシングや買収もあり得ます」と、NBC Sportsのデジタルおよび消費者ビジネス上級副社長Will McIntosh(ウィル・マッキントッシュ)氏はTechCrunchに語った。

SportsTechは、Comcastの3つ目のアクセラレータープログラムだ。この組織には、サンフランシスコを拠点とするベンチャー投資会社Comcast Ventures(コムキャスト・ベンチャーズ)がついている。Crunchbaseのデータによれば、この投資会社はLyft、Vimeo、Slackなどを支援し、67件のイグジットを実現している。

SportsTechを卒業したスタートアップ企業は、Comcast、そのベンチャー投資会社、またはNASCARなどの業界パートナーからの投資を受けるか、買収に応じることができる。「今のところ、私たちの自然課題は当然ながら、成果物を早期に手に入れることです。しかし長期的には、今のパートナーたちと共に、このエコシステムに論理的な付加価値をもたらす者は他にいないかを話し合う予定です」と、Comcastのセントラル部門社長Bill Connors(ビル・コナーズ)氏は話していた。

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(翻訳:金井哲夫)

クラウドとデータ分析でスポーツの世界が変わる

Futuristic silver soccer ball exploding into pixels

【編集部注】執筆者のDavid Bolokerは、IBMのディスティングイッシュドエンジニア兼Emerging TechnologiesのCTO。

スマートテクノロジーは引き続き、生活のほぼ全ての側面を効率化しながら変化させている。その結果、睡眠パターンをモニタリングしたり、場所に縛られずに仕事をしたり、さらにはジカ熱のような病気の治療法をみつけたりといったことが可能になってきている。

しかし、冗長なワークフローを最適化したり、日常的な活動をゲーム化する以外にも、スマートテクノロジーは、私たちがより良いイノベーターになったり、世界に変化を起こしたりする上で必要な技術を底上げするのに貢献している。スマートテクノロジーは、これまでのパフォーマンスの限界を超越するきっかけを生むばかりか、物事の体験の仕方を変えるまでになったのだ。

プロスポーツの世界における、テクノロジーの利用例について考えてみてほしい。クラウドに接続されたセンサーやウェアラブルデバイスによって、瞬時にデータの解析が行われ、パフォーマンス向上につながるような洞察を得ることができる。今や非構造化データは、無比の成功の原動力になることさえできるのだ。

例えば、アメリカ自転車競技連盟(USA Cycling)は、これまでの手法を独自のハードウェアとソフトウェアに置き換えることで、選手のトレーニングの様子をより正確に計測できるようになり、これは今年の夏季オリンピックの結果に大きな影響を与えた。特に、IBMとの協業を通し、アメリカチームはパフォーマンス分析上の問題を解決するために、最新のテクノロジーを採用することした。彼らはもう、トレーニングごとにいちいちパワーメーターやセンサーから手動でデータを抽出したりはしていない。その代わりに、データはリアルタイムで複数のソースから収集されているのだ。使用される機器には、パワーメーターや心拍数モニターの他にも、筋肉中の酸素量をモニタリングするBSX Insight製のウェアラブルデバイスなどがある。BSX Insightのデバイスは、LEDライトと独自のアルゴリズムを使って、選手ひとりひとりのプロフィールを生成し、パフォーマンスモニタリング精度や、トレーニングの質を向上させるのに一役買っている。

その後、収集されたデータはクラウド経由でコーチのiPadに送信され、ダッシュボード上ではWプライムの減少量やエネルギー消費量といった数値が直感的な図で表示されるようになっている。さらにSolosのスマートグラスを利用することで、選手は実際の練習中にも、ヘッドアップディスプレイに表示された重要な数値を確認することができる。

クラウドやデータ分析技術は、スポーツ観戦をさらに面白くする力を持っている

前述の通り、これまでは複数のソースから集められたデータを、手作業で解析していたため、トレーニングセッションに関するフィードバックを準備するまでに、数時間または数日もかかっていた。今では、クラウドに繋がったモバイルアプリのおかげで、自転車や選手に装備されたセンサーとフィードバックの内容がリアルタイムで同期するようになっている。そのため、例えば選手がある地点で無駄にエネルギーを使ってしまっているとわかれば、少し力をゆるめることで、すぐにレース全体でのパフォーマンスを向上させることができる。また、コーチもデータを使って、選手の弱点を適時に発見し、対策を講じることができる。これは特に大きなレースに向けて練習を行っているときには重要なことだ。

自転車競技だけが、クラウドを活用したデータ分析の恩恵を受けているわけではない。NFLも2016年のシーズンを通して、センサーを利用し、ゲーム中のデータを収集・解析すると最近発表した。彼らは特別なチップをフィールドゴール時に使われるボールに埋め込むことで、キックに関するデータを集めるつもりなのだ。この研究が進めば、ゴール判定の変化、具体的にはゴールポストの幅が将来的に狭まる可能性がある。なお、NFLでは既にセンサーを活用して、選手のポジションやスピード、距離感などが計測されている。

トレーニングが効率化し、細かな改善が積み重なることで、選手のパフォーマンスが大幅に向上するという効果以外にも、データ収集によって、ファンの楽しみ方に良い影響が及ぶ可能性がある。リアルタイムでのデータストリーミングなど、クラウドやデータ分析技術は、スポーツ観戦をさらに面白くする力を持っているのだ。同様に、VR技術のスポーツへの応用例も増えてきている。

実際に、NASCAR(全米自動車競争協会および同団体が主催するレース)に参加しているドライバーやファンは、デジタルダッシュボードを利用し始めている。ラップタイムやタイヤ圧、ピットの範囲といったドライバー向けの情報をダッシュボードに表示させるだけでなく、NASCARは、同じ情報をファンにも提供したいと考えているのだ。将来的には、観客もモバイルデバイスを通じて、ドライバーと同じダッシュボードにアクセスできるようになる。そうなれば、ファンはお気に入りのドライバーと同じものを見ることができるばかりか、ドライバーがさまざまな状況にどう反応するかを含めて観戦できるようになる。

またNBCは、2016年のリオデジャネイロオリンピック期間中、VRを使って視聴者のエクスペリエンスを高めようとしていた。Samsung Gear VRのユーザーは、NBC Sportsアプリを介して、開会式や閉会、男子バスケットボール決勝といった特別コンテンツを視聴することができたのだ。この新しい視聴方法によって、会場から何百万マイルも離れた場所に住むファンも、世界最高峰のスポーツイベントを、まるでリオの会場にいるかのように体験することができた。

上記の例は、これから起きる巨大なテクノロジーの変化の序章でしかなく、今後はスポーツやそれ以外の分野でも、物事の体験の仕方が変わっていくことになるだろう。野球ファンは、一塁に滑り込む選手をさまざまなアングルから見ることができるようになるだろうし、ホッケー選手はデータを分析することで、スラップショットの精度を限りなく完璧に近づけられるようになるだろう。選手、コーチ、ファンの全員がもっと試合内容を深く理解できるようになることで、新たな戦術が生まれたり、新しい観戦のかたちが生まれる可能性もある。

スポーツ以外だと、スマートシティが各地で誕生し、エネルギー消費量からゴミ処理までさまざまなプロセスの効率化を図っている。ビジネスの世界でいえば、業界を問わず、各企業がデータを有効活用して、人員の最適化や生産性の向上など、社内の状況を改善しようとしている。このように、業界を超えた影響力を持つ、新しいテクノロジーの可能性について考えるのはとてもワクワクする。あなたは、クラウド・データ主導の未来に突入する準備がもうできているだろうか?

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter