サウジアラビア主催フェスに招待されたインフルエンサーと人権問題

ソーシャルメディアのインフルエンサーは、世界のイベントを適正な価格で宣伝してくれることで知られている。だが、ときどき判断が誤りでだったと判明することもある。米国人モデルでタレントのIsabella Khair Hadid(イザベラ・ヘアー・ハディド)は、あの悲惨な結果に終わったFyre Festival(ファイア・フェスティバル)の宣伝のために、他のモデルたちとバハマで休暇を過ごす様子を描いたチケット販促用の動画を撮影した。そして後に、彼女はそのイベントへの関与を謝罪することになった。

だが、インフルエンサー市場で新たな大失敗と広く認識されるようになったある問題では、謝罪しないインフルエンサーもいる。サウジアラビアのリアドで12月19日から3日間開催されたMDL Beast Festival(MDLビースト・フェスティバル)に、ギャラをもらって参加したセレブやソーシャルメディアのスターたちだ。

サウジアラビア政府が主催する、アートとカルチャーと音楽の大規模なフェスティバルという触れ込みのこのイベントには、モデルのAlessandra Ambrosio(アレッサンドラ・アンブロジオ)、Romee Strijd(ロミー・ストリド)、俳優のRyan Phillippe(ライアン・フィリップ)、Wilmer Valderrama(ウィルマー・バルデラマ)、Armie Hammer(アーミー・ハマー)、DJのSteve Aoki(スティーブ・アオキ)、ソーシャルメディアのスター、Sofia Richie(ソフィア・リッチー)とScott Disic(スコット・ディシック)らが参加した。彼らはみなイベント中に写真を撮られていた。なかには、ハッシュタグ#mdlbeastとともにInstagramなどのソーシャルメディアに写真を投稿し、その国を称賛する者もいた。

MDL Beast Festivalに参加した俳優のRyan Phillippe(画像クレジット: Daniele Venturelli / Getty Images)

このイベントはすべて、サウジアラビアの事実上の支配者であるMohammed bin Salman(ムハンマド・ビン・サルマーン)皇太子の改革努力を宣伝するためのものだ。この保守的な王国は、女性の権利、倫理、少数民族の人権の弾圧で悪名高く、大勢が飢えに苦しみ10万人以上が死亡するに至った長期化するイエメンでのサウジアラビア主導の内戦、ワシントンポスト紙のコラムニストでサウジアラビア人反体制派ジャーナーリストだったJamal Khashoggi(ジャマル・カショギ)氏を国家の命令で暗殺し遺体をノコギリで切断して捨てたとされるおぞましい疑惑、その他、体制に逆らう者を黙らせるための数々の国家的弾圧などといった悪いイメージの払拭に必死になっている。

王国がどこまで改革を進める気かを示すひとつの例として、ハロウィンにリアドで開かれたWWE女子プロレスの試合が挙げられる。アムネスティー・インターナショナル中東および北アフリカ権利擁護ディレクターはこれを「スポーツウォシュ」(スポーツによるごまかし)と呼んでいる。MDL Beast Festivalではさらに、サウジアラビアが建前ながらどれほど進歩的になったかを強調しようとしている。

王国の甘い誘いをはね除けた者もいる。ヒップポップのスターのNicki Minaj(ニキー・ミナージュ)は、7月にサウジアラビアで開かれた別の音楽祭の出演予定をキャンセルした。非営利団体Human Rights Foundation(ヒューマン・ライツ・ファンデーション)からの出演辞退の要請を受けてのことだ。そのときミナージュは、次のような声明を発表している。「私はただ、サウジアラビアのファンにショーを見てもらいたかった。(しかし)問題について勉強するうちに、私は女性の人権、LGBTコミュニティー、そして表現の自由を守る立場を明確にすることが大切だと思ったのです」。

モデルのEmily Ratajkowski(エミリー・ラタコウスキー)も、サウジアラビアの人権問題の記録を見て、MDL Beast Festivalの有償の招待を断っている。「女性の権利、LGBTQコミュニティー、言論の自由、そして報道の自由を擁護する姿勢を明らかにすることは、私にとって大変に重要です。今回のことで、あの国の権利侵害への関心が高まることを期待しています」。

ところがライアン・フィリップは、あの週末の豪華なショーへの招待を受け入れた決断について、Instagramで弁明している。彼は「素晴らしい人たちと、魔法のような日々を過ごした。旅行は大好きだ。異文化も大好きだ。ボクたち人類の調和を通じてつながる方法を探せることは素晴らしい。世界のどこであろうと、こうしたつながりによって、もっとポジティブな変化と進歩がもたらされると期待してる」と書いている。

その決断は、数日後にはフィリップ(やその他の有名人)の評判を貶める結果になってしまった。カショギ氏の事件に関する新たな発見に世界の注目が集まったからだ。

1年以上前に、CIA(米国中央情報局)はサルマン皇太子が暗殺を指示したと結論付けたが、王国は殺人へのあらゆる関与を否定し続け、サウジの工作員が土壇場の判断で行ったことだと主張してきた。なお、その言い分は「工作員は殺害を目的とし、そのための道具も持って訪れている」ことを示す十分な証拠と矛盾するとニューヨーク・タイムズは指摘している。

現在、サウジアラビアの法廷では、秘密のベールに包まれた裁判が行われ、カショギ氏殺害の罪で5人の男性に死刑が、3人に合計24年の懲役刑が言い渡された。サルマン皇太子の元顧問のトップと諜報部元副長官は、どちらも容疑者から除外されている。

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、この判決には不服申し立てができるという。ただしサウジアラビアでは死刑は公開斬首になることもあると書かれている。いずれにせよこの判決は、これからの西側諸国の王国との関わり方をさらに複雑にするだろう。インフルエンサーをはじめとする、この国から金を受け取るか否かを判断しなければならない人たちにはなおさらだ。この判決は「ホワイトウォッシュ」(隠蔽工作)だと、アムネスティー・インターナショナルの中東調査ディレクターLynn Maalouf(リン・マルーフ)氏は、多くの人権擁護団体の懸念に応え、23日早朝に声明の中で述べた。

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(翻訳:金井哲夫)

サウジアラビアの現状を見ないことが企業の成功の鍵なのか?

昨日、サウジアラビアのメディアは、Marc Andreessen、Sam Altman、Travis Kalanickといったシリコンバレーの大物が、サウジアラビアが国家計画として進めている5000億ドル(約56兆円)規模のメガシティー・プロジェクトのアドバイザーになっていることを伝えた。このプロジェクトは、未来都市がどのような世界になるか、その模範を示すものだと宣伝されている。

この発表は、1カ月前にプロジェクトへの参加を決めた19人にとって、いろいろな意味で、あまりいいタイミングではなかった。このとき、サウジの反体制派ジャーナリストJamal Khashoggi(ジャマル・カショギ)が1週間以上姿を消していた。そして、先週、イスタンブールのサウジアラビア領事館内で、サウジの王家の命令で殺害されたとトルコ当局者が話したことから、激しい批判が高まっている。彼はその後、骨のこぎりで細切れにされ、建物から持ち出されたとのこと。

想像するだに生々しく心乱される事件だが、注意すべきは、証明されていない点だ。だが、サウジアラビアの諜報機関がKhashoggiに何かをしたとする説が拡散されると(Khashoggiが建物を出たという証拠もない)、サウジアラビアの皇太子Mohammed bin Salman Al Saud(ムハンマド・ビン・サルマーン・アール・サウード)は、世界中の怒りの視線を集めることになった。たしかに、この顧問委員会の発表は、MBSという愛称で知られる皇太子が、アメリカに数多く暮らし、皇太子の実力を疑い始めていた同程度の人数のアメリカ人実力者の友人の心をかき乱すには、よい方法だったのかも知れない。

昨年6月に皇太子に即位し、MBSの名声を追い求める態度が封印されて以来、彼はずっと、批判に対してもライバルに対しても、短気になっていた。そのことを、私たちはもっと早く考えておくべきだった。MBSは、その改革派的な行動から賞賛を受けていた。「宗教指導者に反抗して、女性の自動車の運転、コンサートや映画の解禁など、息を飲むような社会改革を断行した」と、この夏のウォール・ストリート・ジャーナルの意見記事にあった。だが彼は同時に、イエメンに空爆を行い、数千人の一般人を殺害している(これはホワイトハウスが支持しているが、両政党の議員を落胆させた)。

またサウジアラビアは、この夏、女性の権利を求める活動家12名以上を拘束している。カナダ外務省が「深く憂慮している」と、逮捕に対してリヤドに激しい抗議を伝えると、サウジアラビアはカナダ大使を国外追放し、トロントとの航空路線を停止、カナダ在住のサウジ人がカナダの医療を受けることを禁止し、カナダとの数十億ドル規模の新規の貿易と投資を凍結した。さらに、サウジアラビアの奨学金でカナダに留学している学生を、カナダから退去させる計画もある。

その一方でMBSは、昨年、サウジアラビア当局に対して300人以上のビジネスマンと王家の家族を、数カ月間、監禁するように命じた。これは腐敗防止キャンペーンの一環という名目になっている。これにより、押収した1000億ドル(約11兆2000億円)の資産がMBSの支配下に入った。ニューヨーク・タイムズは後にこう報じている。拘留されている中の少なくとも17人は「身体的虐待を受け、1人は死亡したが、首がねじ曲がっているように見えた。体はひどく腫れていて、別の虐待があったことを示していると、遺体を目撃した人は語っていた」

こうした策略がアメリカのメディアで大きく報道されたが、その大騒ぎの1カ月後にMBSはアメリカを訪れ、大歓待を受けた。ドナルド・トランプは彼をホワイトハウスに招待し、両国の友好を深めた。それを国際関係学者たちは、「異常で下品」と評価した。

シリコンバレーのCEOたちも、MBSの春の訪米を歓迎した。そのときMBSは、Googleの共同創設者Sergey BrinとCEOのSundar Picha、Magic LeapのCEO、Rony Abovitz、Virgin Groupの創設者Sir Richard Bransonたちを訪ねている。彼らだけでなく多くの面々が、彼の社会的な進歩性を褒め称えた。彼らが本当に欲しているものは明らかだ。MBSは、サウジアラビアの石油依存度を下げるという野心を持っている。その手段のひとつとして、王国の資金をアメリカ企業に大量につぎ込むという考えがあるのだ。

事実、MBSのその他の振る舞いは、こと金に関する限りでは大きな障害はなかった。TeslaのElon Muskは、この夏のことは問題にしていないSoftbankも、気が咎めている様子がない。孫正義CEOは、Softbankの1000億ドル(約11兆2000億円)という巨大ファンドへの450億ドル(約5兆円)の投資を、MBSにわずか45分で決めさせたと自慢していた。そして先週、MBSは第二のビジョン・ファンドに450億円を投資すると話した。

最近までワシントン・ポストのコラムニストとして活躍していたKhashoggiの不穏な疾走で、こうした計算が狂ったとしても、それを口に出す者はいない。Softbankのビジョン・ファンドの代表者と、Softbankが支援しているおよそ10人の企業創設者に、昨日、コメントを求めたが、答えはなかった。

Softbankから資金を調達している数多くのベンチャー投資家にも、昨日、Softbankについて、また、Khashoggiの疾走がスタートアップの資金調達に対する考え方にどう影響するかについて質問したが、答えてもらえなかった。ビジョン・ファンドからレイターステージの資金を調達した2つのポートフォリオ企業(DoorDashと最近株式公開されたGuardant Health)を見てきたPear VenturesのPejman Nozadだけが、唯一返事をくれた。「技術分野では、シードからプレIPOまで、資本が溢れています。シード資金として50万ドル(約5600万円)を必要とする企業が300万ドル(約3億4000万円)を調達してしまいます。5000万ドル(約56億円)が欲しい企業は5億ドル(約560億円)を調達できます。これが健全なことかどうか、時間だけが知っています」とNozadは電子メールで答えてくれた。

長年、ボストンのFlybridge Capital Partnersでベンチャー投資家を続けてきたJeff Bussgangは、Khashoggiの件には特に触れずにMBSについて尋ねたとき、微妙なニュアンスの返事をくれた。ベンチャー投資家も未公開株式投資会社も、長い間、中東の資金源から資金を調達してきたことを踏まえ、「一般的に、起業家は政治や歴史のことを深く考えるのが好きではなく、資金の出所についても、あまり気にしていない」という。「PLOやイラン」は別として、とのことだ。

さらにBussgangは、電子メールにこう書いている。「そう、すべてのベンチャーキャピタルの金が貧しい未亡人や孤児から集まるのなら素晴らしいことだが、それはあり得ない。その金が公正な資金源からのものなのかを判断するのは、主観的な作業です。スターバックスの資金源は公正でしょうか?」

Bussgangは、フィラデルフィアのスターバックスで起きた事件のことを言っている。店員が警察を呼んだところ、店にいた2人の黒人男性が誤って逮捕されたことがあった。恐ろしいことだが、イエメンで罪のない市民が殺戮されたり、人権活動家を拘留したり、MBSの憂さ晴らしと言われているようなこととは比べ物にならない。

公正を期して言うなら、アメリカやその他の国々の多くの人たちは、Khashoggiが現れてくれることを待ち望んでいる。その可能性は、日を追うごとに低くなっているが、何が起きたかを知らずにいることは、人殺しの暴君ではなく、改革者と手を組みたいと考える多くの人間に最良の結果をもたらすに違いない。ワシントンポストのコラムニストKhashoggiの失踪は誤算だったように見えるが、日が経つにつれて、こんな言い方はなんだが、それは古新聞(過去の話)となる。そして、みんなは仕事に戻れる。

その同じ人たち、そくにシリコンバレーのリーダーたちが、性的多様性に逆行するメモを読んで激怒したという話は、まるで漫画だ。

とは言え、かなり気分が滅入る話だ。

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(翻訳:金井哲夫)