NASAのDragonflyが海のある土星の月「タイタン」の探査に向かう

NASAは、次に挑む大きな惑星間ミッション、「Dragonfly」(ドラゴンフライ=トンボ)を発表した。マーズローバー(火星探査車)サイズの飛行探査機を、土星の月であるタイタンの地表に送り込むというもの。タイタンには、生命を育む環境があるのではないかとも期待されている。この探査機は、タイタンの表面をあちこち飛び回り、有機物を豊富に含む地表付近の物質を採取したり、高解像度の画像を地球に送信することになっている。

Dragonflyは、2026年に打ち上げられる。すべてうまくいけば、8年後の2034年にはタイタンに到達する予定だ。もちろん、それまでには、もっと多くの詳しい情報がもたらされるはずだ。

この機体は、もやのかかったようなタイタンの大気の中をパラシュートで下降し、多くの砂丘がある赤道付近に着陸する。表面を調査するためのドリルとプローブを装備し、異郷の地の景観を撮影するための数種類のカメラも、当然ながら備えている。また、ドローンのような複数のローターを備え、飛び上がって移動することができる。

タイタン自体は、Cassini(カッシーニ)のミッションによって、すでに上空から観察されている。また、Huygens(ホイヘンス)探査機が、地表に着陸した実績もある。おそらくHuygensは、まだそこにある。しかしDragonflyによって、この魅惑的な月を、もっとずっと詳しく知ることができるはずだ。

タイタンは不思議な場所だ。表面には川や海があり、有機物も豊富に存在している。部分的には地球に似ているのだ。とはいえ、人間が住めるような環境ではない。まず、川に流れるのは液体のメタンなのだ。メタンの性質を知っている人なら、それが非常に低温であることを意味しているのが分かるだろう。

にもかかわらず、興味深いことに、タイタンは生まれたころの地球に似ているとされる。

「私たちは、タイタンの表面に豊富な有機物があり、しかもそれが非常に複雑な有機物であることを知ってます。太陽光という形のエネルギーもあります。さらに過去には、地表に水があったことも分かっています。そのような要素は、生命の誕生に必要なものなのです。そして、それらがタイタンの地表に揃っていることが分かっているのです」と、主任研究者のElizabeth Turtle氏は述べている。「タイタン上では、何億年もの間、ずっと化学実験が行われてきたようなものです。そしてDragonflyは、その実験結果を取りに行くように設計されました」。

とはいえ、メタンに生息する微生物の生存競争は期待できない。これは、生命が誕生する以前の地球に戻って、どのような条件によって、自己複製能力を持った初期の複雑な分子が生成されるのか、つまり生命の起源の、その元が生まれるのかということを調べるようなものだ。

Dragonflyの1/4スケールの模型を披露する主任研究員のElizabeth Turtle氏

そのためにDragonflyは、ちょうどトンボのように、地表のあちこちを飛び回り、さまざまに異なった場所からデータを収集する。ソファほどの大きさのあるものを飛ばすのは、難しいことのように思えるかもしれない。しかしTurtle氏によれば、タイタンでは地表を走行するよりも、飛び回るほうがずっと簡単なのだという。大気は、地球と同じようにほとんどが窒素だが、地球よりもずっと濃く、重力も地球上よりかなり小さい。そのため、空中を飛ぶというよりも、水中を潜行するのに近いのだ。

Dragonflyのローターが、なぜあれほど小さくて済むのかは、それによって理解できるだろう。もし、あれほどの大きさのものを地球で飛ばすとしたら、もっと大きくて強力なローターをずっと回し続けていなければならない。しかしタイタンでは、これらの小さなローターのうち1つを動かしただけでも、必要に応じて機体の姿勢を変えることができる。ただし、離陸の際には8つすべてのローターを使うし、予備としての意味合いもある。

近いうちに、間違いなくもっと詳しい情報が発表されるはずだ。今回の発表は、Dragonflyの開発や打ち上げなどに関して、今後数年間続くはずのNASAによる大きな発表や解説の、開始の挨拶のようなものに過ぎない。

「この回転翼を持った機体が、土星の最も大きな月の、有機物で満ちた砂漠の上を何マイルも飛行するのは、想像するだけでも素晴らしいことです。あのようなまったく異質な環境を生み出したしくみを探索するのです」と、NASAの科学担当管理官、Thomas Zurbuchen氏は述べている。「タイタンような場所は、太陽系には他のどこにもなく、Dragonflyは他のどんなミッションとも異なったものなのです」。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)