会計事務所向けクラウドシステムのA-SaaSが総額6億円超の資金調達を実施

アカウンティング・サース・ジャパン(以下、A-SaaS)は会計事務所向けのクラウドSaaSシステムを提供している。会計事務所業界は40年程前からコンピュータ化に先駆的に取り組んできた業種であるが、クラウド化に関しては遅れている点を同社は解決しようとしている。

このA-SaaSがセールスフォース・ドットコムグリーベンチャーズモバイル・インターネットキャピタル、既存株主(個人株主)から第三者割当増資で総額6億2500万円を調達した。

A-SaaSは今までは事務所内のPCサーバーや専用機サーバーにあった財務、税務の業務ソフトや顧問先のデータを全てクラウド上で管理する。冒頭でも述べたが、会計事務所業界はクラウド化が遅れているそうで、既存のソリューションではハード・ソフト双方のコストが高くついてしまうし、クライアントと顧問先でデータを共有することにも手間がかかるなど、不満な点が多いとA-SaaS代表取締役社長の森崎利直氏はいう。

そこで、A-SaaSでは会社設立から4年間クラウドによるSaaSシステムの構築に取り組んできた。クラウド上でリアルタイムにやり取りでき、コストも削減できる。現在では会員登録ベースでは1,350件、アクティブに利用しているユーザー(会計事務所)は550件となっている。他のBtoB向けサービスと比べると4年で550件と聞くと、少なく感じてしまうかもしれないが、サービスの特性上、会計事務所がシステムを移行することに時間がかかることに加え、買い替え時期の関係もあることは考慮しておきたい。なお、営業活動をした会計事務所は1万3,200件だというから、そのうちの10パーセント以上が会員になっている。

今後の展開で気になるのは競合との差別化だ。会計事務所向けのサービスを提供している競合としては上場企業であるTKC、JDL(日本デジタル研究所)、MJS(ミクロ情報サービス)などが主である。

だが、森崎氏はこれらの企業がA-SaaSのようなクラウド型のシステムを構築できるか疑問であるという。というのも、彼らがすでに数十年にわたり積み上げてきたものに加えて新たにシステムを構築するとなると二重投資しなくてはならないし、既存の顧客と価格帯の隔たりがあり、この状況で今の収益が成り立っている。そのため、その5分の1ほどの料金で利用できるA-SaaSのような仕組みにすると収益構造がガラっと変わるため、難しいのではないかと森崎氏は予測する。

とはいえ、現状のマーケットでは上記の大手3社が全体の7割から8割ほどのシェアを占めている業界だから、A-SaaS側としてもこれまで慣れ親しんだものから乗換えてもらうには大変だろう。

ユーザーにとって、スタートアップが提供するクラウド上で企業内情報を取り扱うサービスに乗換える際の大きな懸念点の1つはセキュリティだろう。この問題に関して、今回のセールスフォースとの資本業務提携は大きな意味をもつという。セールスフォースはクラウド領域のパイオニアであり社会的な信頼も厚い。そして、A-SaaSは独自に開発していたプラットフォームからセールスフォースのクラウドプラットフォームであるForce.comへの移管をすることで、セキュリティという懸念点は大幅に改善されることになるだろう。

今回調達した資金をA-SaaSのシステム完成に向けての開発費や、プロモーション、Force.comへの移行に伴いカスタマーサポートの人員などに充てるという