アップルの新しい暗号化ブラウジング機能は中国、サウジアラビアなどでは利用できない

Apple(アップル)は、米国時間6月7日に始まった年次ソフトウェア開発者会議(WWDC21)において、プライバシーに焦点を当てたいくつかのアップデートを発表した。そのうちの1つである「Private Relay(プライベートリレー)」と呼ばれる機能は、すべての閲覧履歴を暗号化し、データを追跡・傍受が誰からもできないようにする。このため国家の検閲制度の下で生活している中国のユーザーが特に興味を持つものだ。

私の同僚であるRoman Dillet(ロマン・ディレット)記者が以下のように説明している

Private Relayがオンになると、あなたのブラウジング履歴を誰も追跡できない。あなたのデバイスと、情報をリクエストするサーバーの間に介在するインターネットサービスプロバイダーも追跡できない。実際、どのように機能するか詳細についてはもうしばらく待たなければならない。

だが興奮は長くは続かなかった。Appleはロイターに対して、Private Relayは中国の他、ベラルーシ、コロンビア、エジプト、カザフスタン、サウジアラビア、南アフリカ、トルクメニスタン、ウガンダ、フィリピンでは利用できないと述べている。

Appleからのコメントはまだ得られていない。

仮想プライベートネットワーク(VPN)は、中国のユーザーが「グレート・ファイアウォール」と呼ばれる検閲装置を回避して、普通の手段ではブロックされたり速度が低下したりするウェブサービスにアクセスする場合の一般的な手段だ。しかし、VPNは必ずしもユーザーのプライバシーを保護するものではない。VPNは、ユーザーのインターネットプロバイダーの代わりにVPNプロバイダーのサーバーにすべてのトラフィックを流しているだけなので、ユーザーは実質的に自分のアイデンティティの保護をVPN会社に委ねていることになる。一方Private Relayでは、Appleにさえユーザーの閲覧履歴を見せることはない。

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Appleのソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長であるCraig Federighi(クレイグ・フェデリギ)氏は、Fast Company(ファースト・カンパニー)によるインタビューの中で、新機能がVPNよりも優れていると思われる理由を説明している。

「私たちはユーザーのみなさまに、Appleを信頼できる仲介者として信じていただきたいとは思っていますが、私たちを信じるしかないようになって欲しいとも思っていません。なぜなら私たちにも、ユーザーのみなさんのIPアドレスと向かっている先の目的地を同時に知る手段がないのです。これはVPNと異なっている点です。私たちは、人々がこれまでVPNを利用しようと決めたときに求めていた多くの利点を提供したいと思いましたが、同時に単一の仲介者を信頼するという意味で、難しく危険とも考えられるプライバシーのトレードオフを強いられることは無いようにしたいと考えたのです」。

Private Relayが、中国をはじめとする制限されている国のユーザーのシステムアップグレードから除外されるだけなのか、それともそれらの地域のインターネットプロバイダーによってブロックされるのかは不明だ。また、2020年からオンライン検閲が強化されている香港のAppleユーザーがこの機能を利用できるかどうかも不明だ。

中国で事業を展開する他の欧米ハイテク企業と同様に、Appleも北京政府を敵に回すか、米国内で支持している価値を無視するかの狭間に立たされている。Appleには、北京政府の検閲圧力に抵抗しては屈してきた歴史がある。たとえば中国国内のすべてのユーザーデータを中国国営のクラウドセンターに移行したり、中国国内での独立系VPNアプリを排除したり、中国内でのポッドキャストでの言論の自由を制限したり中国のApp StoreからRSSフィードリーダーを削除したりするなどの対処だ。

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(文:Rita Liao、翻訳:sako)

Tencentが中国本土から海外の教育サイトローディングをスピードアップするサービスを展開中

新型コロナウイルスパンデミックが引き続き世界中の暮らしと航空網を一変させている中、海外の学校に入学した数十万もの中国人学生が行き詰まっている。中国の自宅で学習しながら、彼らはみな、ある1つの問題に直面している。学校のウェブサイトや他の教育リソースのローディングが耐え難いほどゆっくりなのだ。これは、すべてのウェブトラフィックが通称「グレート・ファイアウォール」という中国の検閲システムを通過しなければならないためだ。

そこに好機を見いだしたAlibaba(アリババ)のクラウド部門は、米国のサイバーセキュリティソリューションプロバイダーFortinetとのバーチャルプライベートネットワーク(VPN)手配を通じて、中国の学生を海外の大学のポータルへと結びつけたとロイターは2020年7月に報じたが、Tencent(テンセント)も似たようなプロダクトを展開しているとも指摘していた。

Tencentのサービスの詳細が明らかになった。「Chang’e Education Acceleration」というアプリはAppleのApp Storeに2021年3月に登場した。選ばれた海外の教育サービスのローディング時間をスピードアップするというものだ。Tencentはアプリについて「在宅でそして海外で学ぶ学生や研究者にインターネットアクセラレーションと教育リソースの検索サービスを提供することを目的とした、Tencentからのオンライン学習無料アクセラレーター」と簡潔に説明している。

教育使用のためのAlibabaのVPNと異なり、Chang’eはVPNではない、とTencentはTechCrunchに語った。VPNをどのように定義づけているか、あるいはChang’eがテクニカル的にどのように機能しているかTencentは説明しなかった。同社は2020年10月にアプリのオフィシャルウェブサイトでChang’eの提供が始まったと述べた。

「VPN」という言葉は中国では隠れた意味を持つ。往々にして「グレート・ファイアウォール」を不法にバイパスすることを意味する。人々は婉曲表現「アクセラレーター」あるいは「サイエンティフィックインターネットサーフィングツール」と言及する。TechCrunchが行ったテストでは、Chang’eがスイッチオンになると、iPhoneのVPNステータスは「オン」と表示される。

TencentのChang’eウェブサイト「アクセラレーター」はリモート学習を余儀なくされている中国人学生が学校のウェブサイトを早く取り込めるようにするのを手伝っている(スクリーンショット:TechCrunch)

ウェルカム画面では、Chang’eはユーザーに「アクセラレーション」のための国を米国やカナダ、英国を含む8カ国から選ぶよう尋ねる。また、各地域のレーテンシータイムとどれくらいスピードアップするかの予想も表示する。

国を選ぶと、Chang’eはユーザーがアプリのビルトインブラウザーで訪ねることができる教育リソースのリストを表示する。そこにはトップの大学79校(大半が米国と英国)のウェブサイト、Microsoft Teams、Trello、Slackのようなチームコラボツール、UDemy、Coursera、Lynda、Khan Academyといったリモート学習プラットフォーム、SSRNやJSTORなどの研究ネットワーク、Stack Overflow、Codeacademy、IEEEなどのプログラミングとエンジニアリングのコミュニティ、世界銀行とOECDが出している経済データベース、PubMed、Lancetといった医学生のためのリソースが含まれる。

これらのサービスの多くは中国でブロックされていないが「グレート・ファイアウォール」下にある中国本土でのローディングはゆっくりとしたものだ。ユーザーはリストに含まれていないサイトをリクエストすることもできる。

Chang’eを通じてスタンフォード大学のウェブサイトにアクセス(スクリーンショット:TechCrunch)

Chang’eはユーザーのスマートフォンの全トラフィックではなく、選んだサイトだけを自由にアクセスできるようにしているようだ。中国で禁止されているGoogle、Facebook、YouTube、その他のサイトはChang’eを通じても利用不可だ。AndroidとiOSの両方で無料で利用できるChang’eは現在のところユーザーに登録は求めていない。オンラインでの行動が厳しく規制されている中国では珍しい方針であり、ほとんどのウェブサイトはユーザーに実名での登録を求めている。

Chang’eを通じて利用できるサービス(スクリーンショット:TechCrunch)

AlibabaとTencentによるサービスは、違法あるいは中国の国益を損なうと思われる情報をブロックするための中国政府の検閲システムによって引き起こされた迂闊な結果だ。大学、研究機関、多国籍企業、輸出業者は往々にして、当局が無害だと考えるもののために検閲回避アプリを探すことを余儀なくされる。

VPNプロバイダーは中国で合法的に運営するために政府の承認を得る必要があり、ライセンスを取得したVPNサービスは中国の国家セキュリティを危険にさらすウェブサイトのブラウジングが禁止されている。2017年にAppleは中国政府の命令を受けて何百もの無認可VPNアプリを中国のApp Storeから削除した。

2020年10月にTechCrunchは、VPNアプリとブラウザーのTuberは中国のユーザーがFacebook、YouTube、Googleといった世界のインターネットエコシステムを垣間見れるようにしていると報じたが、記事の掲載からほどなくしてアプリは削除された。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:Tencent中国オンライン学習留学グレート・ファイアウォールVPN

画像クレジット:GREG BAKER/AFP / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi