スタートアップの成長率を追う

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。

こんにちは!先週は慌ただしいどころの話ではなかった、そのため話題がてんこ盛りだ。今回お届けするのは、ブラジルのIPO市場に関するメモ、シカゴのスタートアップシーンに関する報告、スタートアップ企業たちの最近の成長に関連する数々の数字などだ。ということで、アーリーステージレイトステージのスタートアップ、海外のスタートアップ国内のスタートアップが好きな方には、ぴったりの内容となるだろう。

先週もまた、資金調達ラウンドについてのツイッターでの会話が続いていた。簡単に言えば、他のスタートアップ活動よりも、資金調達ラウンドを優先するメディアに対する不平不満が多く聞かれたのだ。それに対する私の意見を述べるなら、私たちのようなライター稼業連中が資金調達ラウンドを取り上げる理由は、それこそがあるスタートアップがその事業の成果を実際に発表しようとする貴重な瞬間だからなのだ。

投資家は、創業者がどうやってアイデアを思いついたかを短い電話会議で聞いただけでは、その会社に投資しようとは思わないだろうということを考えると、VCが時折こうした報道に文句をいうというのは馬鹿げた話だ。しかも創業者に対しては「メディアには何もいうな」という。なんてことだ。

そんなこんなで、私はこう叫ばずにはいられない「スタートアップ企業のみなさん、データを下さい!」と。そして、それに応えてくれた企業もある!また、以前に発表されていたものの、私たちが見逃していたものについて、メモを送ってくれた企業もあった。

そこで今回は、さまざまなステージや市場などから、スタートアップの成長をダイジェストでご紹介しよう。

CopyAI(コピーAI): 最近ARR(年間経常収益)が200万ドル(約2億2000万円)を突破した。CopyAIは、ビジネスを構築するために忙しくしているが、同時にメトリクスを共有しながら進めている(それは私たち好みのやりかただ)。その一方で、外部から資金を調達して急成長を遂げており、情報を共有しスタートアップが即座に炎上することはないことを証明している。

CEOのPaul Yacoubian(ポール・ヤクービアン)氏に、期待通り成長しているのかどうかを尋ねたところ「そうだ」という答えが返された。次に尋ねたいのは、会社の規模が再び2倍になるまでにはどのくらいかかるのかという質問だ。CopyAIがARR100万ドル(約1億1000万円)に達したのは2021年の初めだったのだ。

TextNow(テキストナウ): いまやARRが1億ドル(約110億円)を超えた。同社は創業以来200万ドル(約2億2000万円)以下の資金しか調達しておらず、基本的には自力で立ち上がった企業だ。最近CFOを採用している。その意味はおわかりだろう、IPOが近いということだ。正直なところ、TextNowは私がよく知っている会社ではなかったが、情報を共有してもらえたので、もっと知りたいと思うようになった。楽しみにしておこう!

Kalendar AI(カレンダーAI): この会社は、利用者が営業会議を予約することをAIを使って支援するらしい。このモデルは一定の支持を得ていると、創業者でCEOのRavi Vadrevu(ラビ・バドレブー)氏はいう。彼は、銀行の残高や成長のチャートなどの数々の指標をThe Exchangeに示した(データ万歳!)。そしてARRは6桁(数千万円台)に達し、最近のラウンドでは70万ドル(約7680万円)を調達した。

そして、そのチャートによれば、加入者の増加が加速しているように見える。また別のデータセットによると、この8月は、同社のビジネスの主要な(非GAAP的)指標である会議予約数に関して、これまでで最も忙しい月になるようだ。同社は、この数字(予約数)が毎月30%ずつ増加しているという。

バドレブー氏自身の言葉によれば、Kalendar AIは「AWSが仮想化でイノベーションを大衆化したように、企業の成長を大衆化したい」と考えている。

Balto(バルト):Baltoはセントルイスを拠点とするスタートアップで、これまでの調達資金額が5000万ドル(約54億9000万円)を超えたばかりだ。これは、先ごろ行われたシリーズBで、3750万ドル(約41億2000万円)という良い結果を得た結果だ、同社のCOOであるChris Kontes(クリス・コンテス)氏によれば「Jump Capital、OCA Ventures、Sandalphon」がこのラウンドに参加したという。シカゴ市場に関する最近の記事を読んでいただければ、これが大変なことだとわかるだろう。

にもかかわらず、Baltoは2020年第3四半期にシリーズA調達を行って以来、顧客ベースを84%、収益を200%成長させたという。私は、同社の顧客数と売上高の伸びの違いは、NDR(Net Dollar Retention、売上継続率)や、より大口の顧客によってもたらされたものなのかと尋ねた。コンテス氏は「答は『どちらも』です、ややNDRに寄っていますけれど」と答えた。絶対的な数字は答えてもらえなかったが、Baltoの「NDRは150%を超えています」と彼はいう。すばらしい。

ちなみにこの会社はサポート要員が、コール中に何をいうべきかを知ることができる技術を開発している。どうやらそれが、大きなビジネスになっているようだ。

HostiFi(ホスティファイ): デトロイト近郊に本社を置くHostiFiは「UniFiネットワークデバイスのリモート監視と管理」をサポートしている。悲しいかな、私にはそれが何を意味するのかわからないし、今はそれを深く掘り下げる時間もない。

だがうれしいことに、HostiFiの創業者であるReilly Chase(ライリー・チェイス)氏が、私たちの受信箱にメトリクスを送ってきた。それによれば、彼の会社は「今後数週間」でARR100万ドル(約1億1000万円)に到達し「今後3年間」ではARR1000万ドル(約11億円)を達成したいと考えているということのようだ。同社は、以前私たちが取材したこともある旧Earnest Capitalグループから10万ドル(約1100万円)を調達した。HostiFiには1700の顧客がいて、完全にリモートの6人のチームで構成されている。

おもしろいね?非公開企業が財務実績をよりオープンにすることは、不透明なスタートアップの世界を少しだけ明快にするという意味で、世界にとっても良いことだと思う。

ブラジル

ブラジルのスタートアップ市場とその間近に迫ったIPOについての記事は、書いていてとても楽しいものだった。しかし記事が出た後で、TechCrunchの取材に応じたブラジルのB3証券取引所が、私たちの質問への回答を送ってきた。惜しくも締切に間に合わなかったということだが、彼らのメモを紹介しないわけにはいかない。

ブラジルのテクノロジー関連IPO市場の現状について、B3のRafaela Vesterman Araujo(ラファエラ・ベステルマン・アラウジョ)氏は次のように書いている(わかりやすくするために若干の編集を加えている)。

現在、ブラジルの資本市場は記録的な時代を迎えています。2021年8月前半までのIPO件数は44件(比較のために挙げると、2020年は全部で28件でした)で、そのうち約30%がテクノロジー企業ですが、2020年以前のB3ではテクノロジー分野の存在感が薄かったことを考えると、これは非常に興味深いことです。

これこそが、まさに私たちが強調したかったトレンドであり、それがデータによって裏付けられたことはすばらしいことだ。

次に、B3に上場するにはどれくらいの規模である必要があるのか。ベステルマン・アラウジョ氏はこういう(わかりやすくするために若干の編集を加えている)。

2020年および21年上半期のテクノロジー関連IPOの約70%は、1億1000万ドル(約120億8000万円)から3億6700万ドル(約402億9000万円)の間の調達をしていました。またこれらの企業の70%は、最大5500万ドル(約60億4000万円)の純利益を挙げています。中には、他のセクターに比べて純収入が少ないにもかかわらず、成長への期待を反映してか、多くの企業がより多くの資金を調達しているケースも見受けられました。

すごいね。成長プレミアムだ!これは、自国の市場での上場を目指すブラジルのスタートアップ企業にとって、とてもすばらしいニュースだ。Nubank(ヌーバンク)やNuvemshop(ヌービンショピ)が非上場ながら巨大化している中では、国内企業がどこに上場するかはささいな問題ではない。

シカゴ

先週私たちはシカゴのブームについて調べた。過去数四半期におけるシカゴの巨大なベンチャーキャピタルの実績を追跡し、資金調達とスタートアップ活動の波を引き起こしている正確な要因を地元の人びとに尋ねた。それを原稿に取り込んでいくなかで、読んでもらいたいまた別の答えが出てきたので共有したい。

Techstars(テックスターズ)のシカゴ事業所のマネージングディレクターであるNeal Sáles-Griffin(ニール・セイルズ・グリフィン)氏は、シカゴ地域のスタートアップが2020年後半以降資本を集めるのに長けている理由を次のように説明している。

それは(投資家が投資対象をよりリスクの低い、安全性の高いものを求める)「質への逃避」です。あまりにも長い期間、1つのハブに資本が集中してきたため、COVID(によるロックダウン)後のイノベーションの分散化にVCが流れたのです。パンデミックは、古い習慣を打ち破り、シカゴのような成熟した市場に投資家を呼び寄せました。【略】何年も前から、シカゴはスタートアップ企業にとって全米でもトップクラスの目的地として成長してきました。米国のVCコミュニティは、中西部で急速に成長している創業者のすばらしいコミュニティを探って、ようやく追いついてきたところです。

私はシカゴの学校に通っていたので、この地域の学校の密度はよく知っている。私が気にしているのは、この事実が地元のスタートアップ企業にとって有益なものなのかどうかだ。セイルズ・グリフィン氏によると、その答えは確実に「イエス」だという。

当地には、トップ5に入る2つのMBAプログラム(シカゴ大学とノースウエスタン大学)があり、トップ5に入る工学系大学(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校)と、全米で最も多様性に富んだ工学系大学の1つ(イリノイ大学シカゴ校)があります。また、この地域で最大規模のシティカレッジを擁する地区(シティ・カレッジ)や、シカゴ州立大学のような歴史的に黒人の多い教育機関もあります。どちらも複数のエンジニアリングやITのプログラムを持ち、次世代の人材を育成しています。

シカゴ発の次世代のスタートアップはどこに注目しておけばよいのだろうか?Techstarsは、ヘルスケアやライフサイエンスの他、フードテックや、より大きな輸送産業を構築する企業を重要な市場として挙げている。

他にもいろいろある!

残念ながら、このニュースレターの文字数を大幅にオーバーしてしまったので、このあたりで止めなければならない。しかし、他にも注目すべきものはたくさんあるのだ。たとえばインディアナポリスのLessonly(レッスンリー)がSeismic(サイズミック)に買収されたことなどだ。Lessonlyは、元気の塊のようなMax Yoder(マックス・ヨーダー)氏を中心に、独立運営しながら3000万ドル(約32億9000万円)弱の資金を調達してきた。また、多くの著名な俳優が支援しているAspiration Partners(アスピレーション・パートナーズ)は、SPACを利用して株式を公開する。この取引によって、同社には数億ドル(数百億円)の新たな資本が提供される。

続きはまた来週。

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文: Alex Wilhelm、翻訳:sako)

シカゴ警察の武力行使における黒人警官と白人警官の差が新データで明らかに

シカゴ警察から抽出された莫大なデータを分析した結果、黒人警官と白人警官、男性警官と女性警官の間で、実際に法を執行する方法に大きな違いがあることが明らかになった。この貴重な同一条件での比較分析は、警察における多様性を拡大することで、警察の質も向上する可能性があるという考えを裏づけるものとなった。

従来、警察署からハードデータを入手するというのは、さまざまな理由から非常に困難とされてきた。今回の調査を行った研究者らは論文の中で次のように述べている。

警官の配置や行動に関する詳細なデータが十分になく、比較対象となる警官が職務中に共通の状況に直面していることを確認することが困難、または不可能であるという理由から、警察の多様性の影響に対する厳密な評価はこれまでなされてこなかった。

……現状、米国にある約1万8000の警察機関では記録の管理法がまちまちである。またその情報開示に対する慣習もあいまって、広範な評価の実施がさらに妨げられる結果となっている。

しかし、Bocar A. Ba(ボカール・A・バ)氏らによるこの研究は、3年間にわたってシカゴ市警察に依頼し続けたことが実を結び、非常に詳細な記録に基づいたものとなっている。本件はカリフォルニア大学アーバイン校、ペンシルバニア大学、プリンストン大学、コロンビア大学の研究者による共同研究で、本日Science誌に掲載された(アクセスは無料)。

同記録には2012年から2015年までの数百万件ものシフトとパトロール歴が含まれている。それを研究グループが慎重に選別し、分析を可能にする情報が浮き彫りになるまで削ぎ落とす作業を行った。その待ち望まれた分析とは、デモグラフィック以外のすべての点で似ている警察の仕事や行動を比較するというものだ。

たとえば3月のとある月曜日、同じ地区の同じ時間帯における黒人警官と白人警官の行動に深刻な差が見られなければ、警察の仕事ぶりに大きな影響を与えているのは人種ではないと暫定的に断定できる。一方、もしそこに深刻な差があったとすれば、制度的な偏りがある可能性を示唆しているとして、さらに掘り下げた調査が行われる。

この分析では、他のすべての変数を分離した結果、予想されたとおり、警官の人種のみに関連した大きな違いがあることが判明した。この結果を明白だと感じるか、微妙だと感じるかは人それぞれかもしれないが、この研究のポイントは仮説を推測したり確認したりするものではなく、人種に関連した格差が存在し、調査と説明を必要とするというをことをデータで明確に示すことである。

具体的な結果としては、以下のようなものがある。

  • 自称黒人およびヒスパニックなどのマイノリティー警官の「パトロール任務には大きな違い」がある。これは他の調査結果との効果的な比較を提供するためには、考慮しなければならない点である
  • 黒人警官が武力を使う確率は平均的に白人警官よりも35%少なく、その差の大部分は黒人の民間人に対して使われた武力によるものである
  • 「不審な行動」を理由にした黒人警官による「職務質問」は、はるかに少ない
  • ヒスパニック系の警官も同様、または黒人よりも少ない結果となった
  • 女性警官は男性警官と比べて武力を使うことが極端に少なく、またここでも黒人の民間人に対しての差は特に顕著である
  • 引き留め、逮捕、武力の行使における格差の多くは、特に黒人が多数派の地域での軽犯罪の取り扱いに対する違いに起因している

上記を言い換えると、データによると白人男性警官は特に有色人種に対して、引き留め、逮捕、武力行使をすることが多く、それは軽犯罪や正当性が曖昧な職務質問の結果として起きることが多い。

収集されたデータのサンプリング:シカゴのウェントワース地区で行われた警官による引き留め、逮捕、および武力行使を示している(画像クレジット:Science)

パターンは決定的に見えるものの、因果関係のメカニズムについては調査されておらず解明もされていないことを理解すべきであると研究者たちは指摘している。実際、同データは2つの方向に解釈される可能性があるという。

このような格差の説明の1つには、白人警官が黒人警官よりも黒人市民に対して不必要に強い扱いをする傾向が強いという人種バイアスが挙げられる。もう1つの説明は、進行中の犯罪の様子を観察している際、黒人警官はより寛大な対応をする、ということである。

さらなる研究が必要だが、黒人警官が軽犯罪に対してより寛大な対応をするという前述の説明は公共の安全にはほとんど影響がないと指摘されている(凶悪犯罪は、人種や性別に関係なくほぼ同じように対処されている)。一方、もう1つの説明である制度的人種差別は著しく有害である。この2つの説明は、データとしてみれば「実測的には同等」であるが、結果からみると同等ではない(同等である可能性もないし、お互いにまったく相容れない)。

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論文とその意味合いについての貴重な解説で、イェール大学のPhillip Atiba Goff(フィリップ・アティバ・ゴフ)氏は、この研究結果は我々が見落としがちな重要な意味合いを含んでいるという。

このデータから示された違いの大きさは、少なくともいくつかの都市では、マイノリティー警官の数は警官の行動を予測する上で重要であると証明している。これで問題が解決するわけではないが、この研究が、警官全体に対する同一条件での比較を示していることには間違いない(その原因は救命できていないものの)。

地域の暴力に対する警官の対応においては人口統計学的な違いはほとんどないことを考えると、職務質問でここまで大きな違いがあるという事実に、読者は自問することになるに違いない。白人警官によるこれらの過剰な職務質問は必要なのだろうか?社会的に弱い立場に立たされている地域社会に対し、権力の乱用の恐れがあることが実証されていることを考えれば、警察は警官たちに職務質問をさせるべきなのだろうか?

白人警官による過剰な武力行使は必要なのか?過剰な武力行使が公共の安全のために必要でないとしたら、なぜ白人警官はこれほどまでに黒人コミュニティを標的にして武力を使うのか?こういった質問は、警察活動とその制限を目的とした幅広い取り組みの中で答えを見つけて行く以外ないだろう。

つまり、こういった問題の核心に迫るためにはさらなる研究が必要なのかもしれない。しかし警察の方でもリソースを必ずしも効果的に使用できていないと言えるのではないか。実際、もしかすると警察の仕事の多くが地域社会にとってほとんど価値のないものである可能性(またはまったく価値のないもの、さらには逆にいない方が安全かもしれないという可能性)に直面するかもしれない。ゴフ氏は次のようにまとめている。

暴力は過去30年間で減少傾向にあり、そのほとんどは一定の地域で起きている。また暴力への対処が警察活動のごく一部しか占めていない可能性がある中で、警察の役割は今後どうあるべきなのだろうか。その答えが「飛躍的に減少させるべき」であるという可能性を真剣に受け止めない限り、ほとんどの研究者よりもはるかに長い間この問題を問い続けてきた一部の研究者や一般市民の両方を苛立たせることになるだろう。

この研究は、論文の著者達とシカゴの法務当局がシカゴ警察にデータを公開するよう圧力をかけたからこそ可能になったものである。上述したように、全国規模で分析するために複数の警察署から大規模なデータを収集するということは非常に困難である。著者らは、シカゴに特化して得られたこの知見が他の都市に同様に適用されない可能性があることを認めている。

しかし、これは行動を起こすための呼びかけにはなっている。いつか実際のデータへのアクセスを得ることができ、研究者がこういった大きな問題を発見した場合、国内すべての警察は不透明性を継続することの利点とリスクを、透明性と協力的に振る舞うことの利点と比較するべきなのである。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:警察アメリカシカゴ

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)