デジタルツインの社会実装を目指すDataLabsが1.3億円のシード調達、点群データの自動3次元モデリングツールを3月末公開

デジタルツインの社会実装目指すDataLabsが1.3億円のシード調達、点群データの自動3次元モデリングツール公開に向け体制強化

DataLabsは2月16日、シードラウンドとして、第三者割当増資による総額1億3000万円の資金調達の実施を発表した。引受先は、東京大学協創プラットフォーム開発、ディープコア。調達した資金は、点群データの有効活用に向けたプロダクト開発および機能の拡張、それらの開発に適したリサーチエンジニア・ウェブエンジニアなどの人材採用にあてる。

また同社は、点群データの「自動モデリングツール」、三次元データや二次元CAD図面の「クラウド型共有・可視化ツール」の2プロダクトのリリースを近日予定しているという。

まず2月末には、点群データ・三次元モデル・二次元CAD図面などを、誰でも閲覧・共有できる「点群三次元モデル可視化・共有ツール「Linked Viewer」を公開予定。URLの共有のみでブラウザー上で閲覧可能としており、生データをダウンロードすることもできる。デジタルツインの社会実装目指すDataLabsが1.3億円のシード調達、点群データの自動3次元モデリングツール公開に向け体制強化

 

もう1点は、3月末にリリース予定の「点群データの自動モデリングツール「Modely」(モデリー)。計測した点群データをDataLabsのプラットフォームにアップロードすると、クラウド上で自動解析するというもの。対象を画面上でクリックするだけで、自動で寸法精度100%(パラメトリックモデリングを採用した場合)の三次元モデルが完成する。

なお現在、Modelyの要素技術を用いて、現場での配筋状況の自動モデル化による検査の効率化などを目指した実証実験を東日本旅客鉄道と進めているそうだ。鉄道をはじめ、あらゆる施工現場における配筋検査等の効率化のため、全国の建設業界の企業などに向けてサービス展開も図るとしている。

2020年7月設立のDataLabsは、「デジタルツインの社会実装」を通じ最適化された社会の実現に資することをミッションとするスタートアップ。三次元計測のほか、点群データの自動三次元モデリング(BIM/CIM化など)、熱流体や気流、構造解析などの各種シミュレーション(CAE解析)機能をSaaSで展開。UI・UXを充実させ、デジタルツイン実現のハードルを極限まで低減するという。

「臓器もどき」とAIで、医薬品開発のスピードアップと動物実験の削減を目指すイスラエルのQuris

創薬のプロセスに動物実験は必要悪だ。マウス(ハツカネズミ)は特に人間に近いとはいえないものの、マウスを代替するものはないようにも思える。イスラエルを拠点とするQuris(クリス)は「チップ上の患者(複数のオルガノイドをリンクさせたシステム)」のデータとAIとを組み合わせて、マウスを必要としない新開発の本格的な方法で、低コストで極めて信頼性の高い試験と自動化を実現する、と主張している。

同社は、試験運用から実際の生産に移行するために900万ドル(約10億3000万円)を資金調達した。また、錚々(そうそう)たる後援者およびアドバイザーたちも、同社のアプローチが持つ利点を示す有望な指標となっている。

ベースとなるのは非常に理にかなったアイデアだ。これまで以上に優れた人体の小規模シミュレーションを構築し、それを使って機械学習システムが解釈しやすいデータを収集する。もちろん「言うは易し、行うは難し」だが、研究者たちのそんなアイデアを受けて、Qurisはすぐさまこれを実行に移した。

Qurisのアプローチは、ハーバード大学で行われた、いわゆる「organs on a chip(生体機能チップ)」の使用に関する大規模な研究に基づいている。まだ比較的新しいが、この分野ではすでに確立されたシステムで、少量の幹細胞から作られた組織(オルガノイド、臓器もどき)を薬や治療法の実験台として使用し、例えば人間の肝臓がある物質の組み合わせに対してどのように反応するかを調べることができる。

ハーバード大学では、複数の臓器(肝臓、腎臓、心臓の細胞など)の生体機能チップをリンクさせることで、驚くほど効果的に人体のシミュレーションが可能になるということが発見された。本物(の人体)にはかなわないとはいえ、複数のオルガノイドをリンクさせたシステム=「チップ上の患者」は、マウス実験に代わる真の手段となる可能性がある。というのも、マウスでの実験に合格した分子が人での実験に合格する確率は10%未満という事実にもかかわらず、マウスでの実験は未だに行われているからである。

Qurisの共同設立者でCEOのIsaac Bentwich(アイザック・ベントウィッチ)氏は、同氏と同僚はこの研究結果が発表された直後にこの研究が持つ将来性に気づき、実験的なシステムから規模を拡大するために、エンジニアリングとAIという点で何が必要かを考え始めたという。Qurisが取り組むのは単なるマウスの代替ではない。制約のある、人を使った実験を、人を使わずに、かつマウスの不確実性を排除して(比較的)安価に行う方法である。

自動化された「チップ・オン・チップ」デバイスの全体像(画像クレジット:Quris)

ベントウィッチ氏はインタビューで次のように話す。「あなたが製薬会社だと仮定しましょう」「理論上では効果がありそうな分子があるとします。実際に効果があるかどうかを調べるのに、臨床試験を行う寸前まで待ちますか?ゲノム情報をいくら集めても、マウスの実験で失敗する確率は90%です。Qurisの手法があれば、レースに出る前にうまく機能する(しそうな)分子を選別することができるのです」。

医薬品候補が臨床段階に到達するまでに何百億円もの費用がかかることを考えると、失敗する(はずの)候補を除外するために、わずかな費用(数十億円程度)を費やす価値は十二分にある。手法が正確であれば(おそらく正確なはずだが)、リスクは実質的にゼロであり、高額を費やしながらも失敗する(はずの)医薬品候補を1つ除外するだけで元が取れる。ベントウィッチ氏によれば、要はソフトウェア産業における「Fail fast, fail cheap(損害の少ないうちにさっさと失敗しよう)」という考え方を、こういう考え方がまったく存在しなかった医薬品という領域に持ち込んだのだ。

Qurisのシステムでは、チップオンチップという技術を使用する。つまり、複数のオルガノイド(チップ)を並べて(別のチップ上に)配置するのだが、最新の研究室のシステムと比べてはるかに小さく、効率的である。ハーバード大学で行われた実験方法で100人分のオルガノイドを調査するには何億円もかかるが、Qurisのシステムでは100万円以下で済む。Qurisの自動システムには適切に訓練された機械学習モデルが採用され、使用する生体物質の量も少ないからだ。

機械学習モデルはQurisのもう1つの特徴である。実験を理解し、実験の実行と解釈をサポートするQuris独自のAIを機能させるには、同社だけのデータセットが欠かせない。同社のAIは、既存の医薬品や今後発売される医薬品の一部を学習済みで、物質の安全性にとってさまざまなセンサーからの信号がどのような意味を持つかを学習する。これにより(500匹のマウスの代わりに)一握りのチップで効果的な実験を行えるようになる。

チップ自体もすべて同じではない。幹細胞や組織を慎重に操作・選択することで、人のさまざまなタイプ、さまざまな状態や表現型を検査することができる。効果は十分だが10%の確率で副作用が起こる医薬品があり、その原因がわからないとしよう。自動化された環境で異なる遺伝的素質や複雑な要因に対するテストを行えば、どのような要素がその副作用を引き起こすのかを調べることができるかもしれない。

ラボで作業するQurisチームのメンバー(画像クレジット:Quris)

AIはこれらすべてを認識し、カタログ化しているので、比較的少数の自動テスト(数千ではなく数十のテスト、コストも数億円ではなく数十万円)で、その医薬品候補を臨床試験に持ち込めるかどうかを判断できるようになるはずだ。AIによる解釈がなければ、データの解析は(何種類もの博士号が必要なぐらいの)難しい問題になる。しかし、ベントウィッチ氏は、生物学的な側面を排除してAIだけに頼ることは決して想定できないとすぐに気づいたと言い「『AIは生物という相手と連携する必要がある』というのが、哲学、生物学という点での私たちの見解です」と話す。

科学諮問委員会に参加しているModerna(モデルナ)の共同設立者、Robert Langer(ロバート・ランガー)氏は、このTechCrunchのインタビューでベントウィッチ氏の見解に同意し、この技術はすぐに採用されるだろうが、(本質的に)保守的な大手製薬会社がどうするかはわからない、と予測している。

ランガー氏は次のように話す。「これは非常に大きなチャンスだと思います」「私は他の化学分野でも『AIを使ってこれらの予測を行うことができる』という類似のアイデアを持っています。(動物での、あるいは人での)試験に置き換わるものではありませんが、候補を絞ることで、プロセスを爆発的な速さで進めることができるだろうと思っています」。

ランガー氏やノーベル賞受賞者のAaron Ciechanover(アーロン・チカノーバー)氏のような人物を味方につけるのは良いことだが、ベントウィッチ氏は、Qurisのビジネスはランガー氏やチカノーバー氏の特許ポートフォリオとこの分野における優位性に依存している、と話す。Qurisはニューヨーク幹細胞財団と契約を締結し、財団の幹細胞ワークフローを特別に利用している。

このビジネスモデルには2つの柱がある。1つは、製薬会社に医薬品候補をスクリーニングするサービスを提供し、その結果が正確であると証明された場合(例えばQurisのシステムによって絞り込まれた医薬品が、予測通りに所定の試験をクリアした場合)に支払いを受け取るというものであり、もう1つは、自社の医薬品の開発だ。現在、同社は自閉症に関連する脆弱X症候群の治療薬を開発中で、来年には臨床試験を開始すると予定している。

ベントウィッチ氏は、AIを活用した創薬が急増し、投資が行われているにもかかわらず、自社の研究成果である分子が臨床試験に入ったといえる企業はほとんどない、と指摘する。この理由としては、たとえば企業が、特定の生物活性を持つ分子やその効率的な製造方法を公表するなどの主張を行っていないからではなく、(医薬品候補となる分子の)発見、試験、承認のプロセスには他にも時間のかかる多くのステップがあり、AIなどを利用することで以前よりは高くなったとはいえ、成功する確率はまだまだ低い、ということにある。

シードラウンドでの900万ドルの資金調達について、ベントウィッチ氏は「私たちの装置を製品化し、一層の効率化、自動化を図り、AIを訓練するために最初の100~1000種類の薬をテストするための資金として非常に有効です」と話す。プレスリリースによると、今回の資金調達ラウンドは「心血管治療のパイオニアであるJudith Richter(ジュディス・リヒター)博士とKobi Richter(コビ・リヒター)博士が主導し、データストレージの革新的技術の先駆者であるMoshe Yanai(モシェ・ヤナイ)氏と複数の戦略的エンジェル投資家が参加した」という。機関投資家からの投資が見当たらない点については読者の判断に委ねたい。

ベントウィッチ氏は、Qurisの未来を「完全にパーソナライズされた医療」という自身が持つ大まかな未来像の一部として捉えている。幹細胞のコストが下がり続ければ(数億円だったものがすでに数十万円に下がっている)、まったく新しい市場が開拓されるだろう。

「製薬会社が高価な実験をするだけという状況は変わるでしょう。5年後、10年後には、何億もの人々が創薬をしているかもしれません。考えてみれば、私たちの今の生活は、野蛮なものとも言えるのです」とベントウィッチ氏。「薬剤師は起こりうる可能性のある副作用を教えてくれますが、はっきりとしたことはわかりません。自分はモルモットだと思いませんか?私たちは全員がモルモットです。しかし、それこそがこの状況からの脱却の第一歩です」。

画像クレジット:Andrew Brookes / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

心と体はどのように進化し成功するのか、スタンフォード大学がAI生物でシミュレーション

人工知能は、プログラムされた心を持ち、デジタルな空間に浮かんでいる実体のないものと考えられがちだ。だが人間の心は体と深く結びついている。今回紹介する、仮想生物がシミュレーション環境でタスクを実行する実験は、AIが心と体を与えられることで、何らかの恩恵を受ける可能性を示唆している。

スタンフォード大学の科学者たちは、私たちが未開の状態から道具を使う類人猿へと進化する際の、物理的・精神的な相互作用について興味を持っていた。脳が身体の機能から影響を受けたり、またその逆の現象も起きたりするのだろうか。実際には、これは以前から指摘されていたことだ(1世紀以上前から指摘されていた)。確かに、モノをつかむことのできる手を使うほうが、それほど分化していない付属器官を使うよりも、より早く物体を操作することを学ぶことができることは明らかだ。

同じことがAIにも言えるかどうかは、開発がより構造化されているので直ちにはわからない。とはいえ以下のような考えがもらたす疑問には説得力がある。つまり、AIが初めから世界に適応するように進化していけば、AIはよりよく学び世界に適応できるのではないだろうか。

今回科学者たちがデザインした実験は、何十年も前から進化アルゴリズムのテストに使われてきたシミュレーション環境に似ているところがある。仮想空間を設定して、そこにシンプルなシミュレートされたクリーチャー(生物)を配置する。この段階では複数の連結された幾何学的形状がランダムに動くだけだ。そんな千匹のうごめく個体の中から、一番遠くまでのたうちながら移動した10匹の個体を選び出し、そこから千匹のバリエーションを作り出して、それを何度も繰り返す。ほどなく、ひと握りの多角形が仮想表面を、まずまず滑らかに横切って歩くようになる。

しかし、それはもう古い話だ。研究者たちが説明するように、シミュレーションをより堅牢で可変的なものにする必要があった。単に歩き回る仮想的な生物を作るのではなく、それらの生物が行動をどのようにして学習したのか、そして他の個体よりも良く学習したり速く学習したりするものがあるのかを調べようとしているのだ。

それを確かめるために、研究チームは、以前のものと同様のシミュレーションを作成しunimals(ユニマルス、universal animal=「普遍的な動物」の意、果たしてこの用語が市民権を得られるかどうか)と呼ばれる生物たちを、まずは歩くことを学ばせるためにシミュレーションに投入した。このシンプルな形状たちは、球状の「頭」と数本の枝状の関節を持つ手足を持ち、それらを使っていくつものおもしろい歩き方を編み出した。ある個体はよろめきながら前進し、ある個体はトカゲのような関節歩行を身につけ、ある個体は陸上のタコを思わせるようなバタバタとした、しかし効果的なスタイルを身につけた。

見よこの動き!(画像クレジット:スタンフォード大学)

ここまでは以前の実験と同じだが、似ているのはそこまでだ。

これらのユニマルスの中には、起伏のある丘や低い障壁を乗り越えることが強いられる、いわば異なる母星で育ったものもある。そして次の段階では、これらの異なる地形出身のユニマルスが、しばしば言われる「逆境こそが適応力の母」という言葉が正しいかどうかを観察するために、より複雑な課題で競い合った。

論文共著者のAgrim Gupta(アグリム・グプタ)氏は「この分野の先行研究のほとんどは、単純な平地でエージェントを進化させてきました。さらに、環境との直接的な感覚運動の相互作用を通じて、エージェントの制御や行動が学習されていないという意味では、学習は行われていません」とTechCrunchに説明した。「この研究は初めて、段差、丘、尾根のある地形のような複雑な環境で、進化と学習を同時に行い、複雑な環境での操作を可能にするものです」。

各環境の上位10匹のユニマルは、新しい障害物の出現、ボールをゴールに運ぶ、箱を丘に押し上げる、2つの地点の間をパトロールするといった課題が与えられた。ここでは「グラディエーター 」(ローマの剣闘士)たちが、真にバーチャルな根性を発揮したのだ。変化に富んだ地形の上を歩くことを学んだユニマルは、平地で育ったユニマルよりも、新しい作業を早く覚えて上手にこなすことができた。

画像クレジット:スタンフォード大学

米国時間10月6日、学術誌「Nature」に掲載された論文で著者らは「要するに私たちが発見したのは、進化は学習速度の速い形態を急速に選択することで、初期の祖先が一生の後半で学んだ行動を、子孫が一生のうちで早い段階で発現させることを可能にしていることです」と述べている。

単に速く学習することを学んだだけでなく、進化の過程で、より速く適応し、より速く学習を生かすことができるような体型が選択されたのだ。平坦な場所では、タコのようにジタバタしても同じように早くゴールできるかもしれないが、坂道や尾根では、スピード、安定性、適応性に優れた体型が選択された。この体をグラディエーターの闘いの場に持ち込んでみると、苦境を乗り越えたユニマルスたちは競争に強かった。彼らの汎用性のある身体は、頭で考えたことを実践するのに適しており、ジタバタするだけの競争相手にすぐに大差をつけた。

3Dの棒人間がバーチャルな地形を疾走するGIFを多少楽しめること以外に、これは何を意味するのだろうか。論文によると、この実験は「環境の複雑さ、形態的な知性、制御タスクの学習可能性の間に、学習と進化がどのように協力して高度な関係を作り出すのかについて、科学的な洞察を得るための、大規模な仮想実験を行うための扉を開くものです」ということだ。

例えば、4本足のロボットで階段を上るような、比較的複雑なタスクを自動化したいとしよう。動きを手動で設計したり、カスタムメイドのものとAIが生成したものを組み合わせたりすることもできるが、一番の解決策は、エージェントが自分の動きをゼロから進化させることだろう。この実験は、身体とそれをコントロールする心を連動させて進化することに、潜在的に大きなメリットがあることを示している。

コーディングに精通していれば、自分のハードウェア上ですべての操作を行うことができる。研究グループが、すべてのコードとデータをGitHubに無償で公開しているからだ。そして、ハイエンドのコンピューティングクラスターやクラウドコンテナも用意しておこう。なにしろ「デフォルトのパラメーターでは、16台のマシンでコードを実行することを想定しています。各マシンが72個以上のCPUを持つことを確認してください」とのことなので。

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画像クレジット:Stanford

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(文:Devin Coldewey、翻訳:sako)