ファウンダーがVCの資金源を気にすべき理由

nesting-dollar-bill

【編集部注】Elizabeth “Beezer” ClarksonはSapphire Venturesの常務取締役。

スタートアップの資金調達は、ストレスのたまるプロセスとして有名だ。莫大な量のインクが、VCにプレゼンを行う際の注意点ひとつひとつについて書くことに費やされ、巷には起業家が契約を結ぶのに役立つとされている”コツ”が溢れている。

しかし、VCへの気遣いや、いかに彼らに印象を与えるかということばかりに労力が使われている一方、リミテッドパトナー(LP)という、ベンチャー界を動かすお金の裏に存在する資金源ついて触れられることはあまりない。

言いかえれば、LPはVCの資金の出元なのだ。LPには様々な形態や規模のものがあり、数万ドルの小切手を切る個人投資家や、1億ドル以上もの投資を行うソブリン・ウェルス・ファンド以外にも、ファミリーオフィスや”機関投資家”(基金、財団法人、年金機構や信託サービスを提供する銀行、ファンド・オブ・ファンズ、保険会社や事業会社)などが存在する。

適切な投資家を選ぶことは、スタートアップの成功において極めて重要な役割を果たす可能性がある。現実問題として、VCの資金無しでは、ほとんどのスタートアップの成長が停滞したままになるだろうし、LPなしではVCがスタートアップに投資できなくなってしまうだろう。したがって、テックエコシステムの中でめったに語られることのないLPが、実はイノベーションの原動力の一端を担っていると言えるのだ。また、ファウンダーは外部からの資金調達にそこまで依存するのであれば、ベンチャー資金についてあらゆるレベルで理解しておかなければならず、LPもその対象に含まれる。というのも、実はLPがスタートアップの役に立つかもしれないからだ。

LPは付加価値を提供していくのか?

現代のVCシステムは、Arthur RockやLaurance Rockefellerなどの大物実業家の努力の結果、20世紀中に誕生した。彼らは、科学やテクノロジーの分野に根ざした、誕生間もない企業へのハイリスクな投資を行っていたのだ。それ以来、VCは成長と共に新たな役割を担っていった。

直近の十年間で”付加価値型投資”が流行し、VCは資金を提供するたけでなく、自分たちのネットワークを通じて投資先のスタートアップに様々な利益をもたらすことが期待されるようになった。このトレンドは今後も続くのだろうか?もしもそうならば、彼らはどのようなユニークな価値を提供していくのだろうか?私は今後も付加価値型のトレンドは続くと考えており、実際にVCも既にその道を進みはじめている。

LPの付加価値とは?

最近多くのLPが、”リミテッドパートナー”という名称の中の、”パートナー”という単語を強調している。彼らは、スタートアップにとっての単なる資金供給者ではなく、信頼の置けるアドバイザーになろうとしているのだ。多くの場合、起業家は資金調達に加え、LPからテック業界や投資家の大きな動向を理解するための視点について学ぶことができる。

関係者の紹介

非常に重要なこととして、いくつかのLPは、パートナーや顧客候補となる人や企業を紹介することで事業価値を提供することができる。これによってスタートアップは、Sand Hill Roadや最近で言えばSouth ParkといったVCが密集するエリアとは全く違うコミュニティやネットワークに入り込むことができるのだ。最近の例を挙げると、Alan Feldが設立し、さまざまなファンドのLPになっているVintage Investment Partnersは、今年だけで200回も顧客をスタートアップに紹介してきた。

LPは市場のはるか上流に位置するため、さまざまな人や企業を紹介できるくらいの広範なネットワークを構築していることが多いのだ。彼らの人脈には、スタートアップのビジネスに直接関連する人や企業のほか、将来の投資ラウンドを率いることになるかもしれないVCや、ジェネラルパートナー(GP)として今後投資を行うかもしれないLPなどが含まれている。

ユニークな視点

前述のような人脈を超え、LPはより広い意味での業界の洞察や独自の視点、さらにはベスト・プラクティスを提供してくれるかもしれない。様々なファンドに参加している投資家として、LPはテック業界にいる他者よりも鋭い視点を持っているのだ。そのため、彼らは業界を観察することでトレンドをみつけだすことがき、さらには何十年もの間に培ってきた情報と経験から長期的な視点に立つことができる。

企業が低迷期を避けることはできないため、起業家は自分のVCやLPがどのくらい力を持っているか、というのを知っておく必要がある。

さまざまなVCやLPが投資に参加することで、広範囲に及ぶアドバイスが期待でき、スタートアップは十分な情報を得た上で物事を判断できるようになる。例えば、ヨーロッパまたは中国で広く投資活動を行っているLPであれば、それらの市場の変動がシリコン・バレーにどのような影響を与えうるかという情報を共有することができるかもしれない。さらには、必要応じて、ヨーロッパ市場へ拡大する際の助けとなるような人たちを紹介してくれる可能性もある。

LPのリードインベスター化

LPの多くは、GPと共に直接投資を行うことで、より積極的にスタートアップとの関わりを深めている。PitchBookのデータによれば、LPの直接投資および共同投資の額は、世界的に見て2009年以来伸び続けており、そこにはもっともな理由がある。彼らが信頼するスタートアップに対して、直接投資を行って”倍賭け”したり、VCと共同投資を行ったりすることで、LPは運用益を増やすことができる上、その分野に特化した経験を積むことができるのだ。

さらに良いことに、このトレンドの結果、LPとGP、LPとスタートアップは、より親密な関係を築いていった。直接投資を行うLPの存在によって、VCとLPの間の境界線がぼやけはじめているのかもしれない。これはつまり、特にレーターステージにあるスタートアップにとって、LPが次のラウンドのリードインベスターになる可能性があることを意味する。これだけでも、ファウンダーがLP界へ目を向ける良い理由になる。

低迷期を乗り切る強力なLP

ちょうど起業家が条件規定書を受け入れる前に、VCの沿革や強みについて細かな評価をするように、彼らは、VCの影に隠れたLPについて知ることで恩恵を受けることができるかもしれない。企業が低迷期を避けることはできないため、起業家は自分のVCやLPの力を知っておく必要があるのだ。さらに彼らは自分たちの投資家が低迷期を生き抜いていけると信じなければならない。1回投資したからといって、LPが将来的にも全てのファンドに参加するとは限らない。そのため、長期的にコミットしたLPのいない企業は、熱心で力を持ったLPのいる企業ほどは成功しない可能性が高いのだ。

透明性の向上とこれから

この新時代の到来の告げる主な要因は、VC界の透明性向上に向けた動きだ。スタートアップにとって、資金の供給源に関して議論することは一般的である。同様に、私たちは、VCが段々と資金源に関してオープンになってきていると感じる。というのも、彼らは、起業家からLPへのテックエコシステムへの理解が、ひいてはエコシステム全体の強化につながると認識しているのだ。虫のいい話だが、この話に関する私たちのお気に入りの例が、Point Nine Capitalの共同設立者兼マネージングパートナーであるChristoph Janzがツイートしていた「私たちの秘密武器は何だと思います?それは最高のLPです」という言葉だ。

さらに、起業家の中には、自分たちの利益で最終的に誰が得をして、その目的は金銭的なものか、道徳的なものかということを気にする人もいる。モラルに基づいた強い使命を持つ企業は、全くお金と関係がない理由でLPを選ぶかもしれないし、VCやファウンダーの中には、どのLPが投資成績を公表しなければならず、どのLPが公表しなくてもよいのかを知りたがる人もいるだろう。もしも、企業の売却で巨額の収益を得たのであれば、VCだけでなくLPも儲けたこととなり、起業家にはそのお金が誰の手に渡るのかを知る権利がある。

つまり、スタートアップが新たな投資家を受け入れるとき、彼らは単にVCを受け入れるだけではなく、そのVCを構成しているLPをも見据えているのだ。LPがさらに積極的な役割を担うようになってきたということは、LPとの協業について理解している起業家にとって大きなチャンスを意味する。恐らく未だ解明されていない洞察や付加価値がそこにはたくさん存在するのだ。

注:Sapphire VenturesはPoint Nine CapitalのLP。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter