【コラム】DAOに未来を任せられるか?今のところは無理だ

Coinbaseといった暗号資産取引所が、伝統的経済体制の支持者の目を暗号資産が提供する利益に目を向けさせるようになったのは、つい昨日のことのようである。

暗号資産などの分散型テクノロジーは、信頼を確立するための自動化された方法を提供することにより本当の社会的価値を生み出すことを約束するアプリケーションを生み出してきた。しかも、このアプリケーションは信頼を独占してきた従来の介在者(銀行や政府)によるサービスよりずっとコストがかからない。

前向きな思考の持ち主たちは、分散型テクノロジー革命に基づき、次なる大きなブレイクスルー、自律分散型組織について議論している。これは組織レベルでの信頼を保証できる可能性のあるテクノロジーである。しかし、DAOによる問題解決が現実的なものである一方、DAOの支持者はこれらの問題の性質を誤解し、利益よりも害をもたらすツールを提供しているのではないか。

分散型アプリケーションは、スマートコントラクトと呼ばれる、あらかじめ定められた条件が満たされた時に実行されるアルゴリズムで成り立っており、そのようにすることで一般的な意思決定を自動化する。スマートコントラクトは予測性を保証することで信頼を確立しており、あらかじめ定められた一連の動きが発生すると、トークンで支払いが行われる。

こうしたやり方を熱心に支持する人々は、DAOを信頼構築プロセスの次なるステップとみなしている。彼らは、一連のスマートコントラクトを統合して、彼らがスマートな「組織」と呼ぶものを作り出そうとしている。そこでは在庫管理、現金管理、価格設定といった事業上の決定や雇用さえも、あらかじめ定められたインプットを元に行われる。

極端な例として、Amazonのサードパーティセラーについて考えてみよう。このセラーは、さまざまな商品に対する関心のレベル、さまざまな施設での原料や生産コスト、配送コストといった一連のシンプルなインプットに基づいて事業を運営している。これらのあらかじめ定められたインプットをベースにすると、投資家にとって価値は、非常にシンプルに判断できるものであり、DAOはマネージャーが間違った、または自分の利益に基づく判断をする可能性を排除する。

事業者は、投資家の視点から見ると最適ではない意思決定をさまざまな理由(これはよくいっても不透明なもので、自己利益のためであることが非常に多い)でするものだ。例えば、よりコストの高いメーカーに切り替えるといった決定は、品質が低いことで製品が返品されることへの対策であるかもしれないし、あるいは、その新しいメーカーの経営者が自分のいとこだから、という理由によるかもしれない。

DAOを用いると、事業は一切人間の手を経ず運営され、すべての判断はスマートコントラクトによって行われる可能性がある。ある製品シリーズが売れなければ、生産量は自動的に削減され、価格も在庫が減るまで引き下げられるだろう。販売量が増えれば、生産量も増加する。生産コストが上がれば、それにあわせて価格も引き上げられる、といった具合である。そして、事前に定められた(そして事前に承認された)スマートコントラクトに基づき投資を決定したDAO投資家が利益を受け取ることになる。

しかし、小さな問題を解決するためにスマートコントラクトへ大きく依存すると、エッジケースと呼ばれるものの影響を受けることになる。仮に、メーカーでストライキや火災が発生したらどうなるだろう?注文を再開しても安全かどうかマネージャーが判断するよりも優れた判断をスマートコントラクトができるとは想像し難い。

これこそが、事業者がスマートコントラクトに加え従来のコントラクトを用いる理由である。現実には、ビジネスにおける関係性とういうのは、一連のスマートコントラクトで予測可能な範囲をはるかに超えて混沌として複雑な要素で成り立っている。もちろん、DAOはこうしたエッジケースの解決に社員やコンサルタントの形で人の手をかりることができるが、私が疑問に思うのは、人がスマートコントラクトが引き起こした問題を解決するのに招集されるのを快く受け入れるかどうか、ということである。

分散型ファイナンスは、定量化可能な経済的決定をより効果的に検証することで価値を生み出している。これが成功を収めてきたのは、単純な(または複雑なものでも)取り引きのための自動化信用メカニズムには、決定の利益を測定する単純な指標(経済的価値)しかいらないためである。

しかし、組織やコミュニティではいうまでもないが、取り引きにおける信用を解決するのと、関係性の中に信頼を確立するのとでは、大きな違いがある。人は取り引きから経済的価値を得るが、関係性や組織の一部であることから、また別の価値を得ている。私たちは、組織の一部であることからここが居場所であるという感覚を得、この場所の感覚から、最終的には自己感覚を得るのである。

この場所の感覚は、お互いにそしてグループ内で常に再交渉が行われている、相互関係の網から得られるものだ。そして組織的な関係においては、私たちは常に意思決定において競合する価値を常に比較検討する必要がある。「経済的な意味はないが、将来だれかが私を助けてくれることが期待できるような意思決定をすべきだろうか?」といった具合に。

Pierre Bourdieu(ピエール・ブルデュー)氏は、こうした価値の総体をフィールドと説明し、各人のフィールドはそれぞれが積み上げてきた歴史的環境や文化的環境に基づき異なるものからでき上がっていることを強調している。ブルデュー氏によると、これらの関係性をマスターするには、人はすべてに適用できるアルゴリズムではなく、彼が「ゲーム感覚」と呼ぶ直感が必要である。

このゲーム感覚は、夢想家と優れたビジネスマンを区別するものである。そして、もっと重要なことは、それが単なる良い人間と優れたマネージャーを分けるものであることだ。私にとって、DAOが欠陥のある既存のビジネス組織に取って代わることができるかを最終的に証明するには、スマートコントラクトがいつ従業員に休日を与えるのが最適がを判断できるようになることが必要だ。あなたがDeFi支持者なら、それを実現できるか努力してみて欲しい。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Bob Greenlee、翻訳:Dragonfly)

メガバンク3行など参加のデジタル通貨フォーラムが「プログラムを書き込める」円建てデジタル通貨DCJPY(仮称)概要公開

メガバンク3行など参加のデジタル通貨フォーラムが「プログラムを書き込める」円建てデジタル通貨「DCJPY」(仮称)概要公開

Matteo Colombo via Getty Images

メガバンク3行やNTT・KDDIら通信企業、JR東日本、関西電力、ヤマトホールディングスなど国内74の企業および団体が参加する「デジタル通貨フォーラム」が、ブロックチェーン技術を使った日本円連動型デジタル通貨「DCJPY」(ディーシージェイピーワイ。仮称)の概要(ホワイトペーパー)を公開しました。

デジタル通貨フォーラムは「民間預金との競合といった問題を回避することができ、また、これにより民間主導のイノベーションを促し、コスト削減や効率化に貢献できる」とそのメリットを説明しています。一方でBitcoinやEthereumなどのいわゆる暗号通貨が銀行との関連を持たない独立した「暗号資産」であるのに対し、DCJPYは民間銀行が発行する「デジタルな通貨」だという点には注意が必要です。

具体的には、DCJPYは「預金(つまり銀行の債務)という形をとることで円建てでの価値を安定化し、共通領域を通じた相互運用性の確保、付加価値領域を通じたさまざまなニーズへの対応」を実現することを想定しているとのこと。共通領域とは、デジタル通貨DCJPYの発行や償却といったやりとりが行われる領域のこと。各銀行は現実の預金口座にひも付けられた共通領域口座を用意し、預金口座から処理に必要な金額を引き落として、共通領域の口座に入金します。そして共通領域内にある他の顧客の口座へと送金処理を行うことで決済処理を完了します。

一方、付加価値領域とは「決済と物流・商流等とのリンクや、モノやサービスと資金との同時受け渡しなど」といったニーズに対応するためにカスタマイズした「プログラムの書き込みを可能とする」領域と説明されます。たとえば企業が特定のサービスのために専用の送金プラットフォームを用意でき、ユーザーは付加価値領域上の口座で取り引きを行います。付加価値領域口座は共通領域の口座と対応しており、実際には付加価値領域で送金の指図が発行されると、それに同期して共通領域でDCJPYによる送金が処理される格好になるとのことです。そのため「付加領域における移転の記録は、共通領域内に存在する付加領域用口座のDCJPYの移転を行うための指図の記録」を意味することになります。

と、ここまで力を振り絞って難解な説明を読んでいただいた読者の方々には感謝しかありませんが、とりあえず、このデジタル通貨がすぐにもわれわれの日常生活での買い物などに関わってくるかといえば、そうでもなさそうです。

DCJPYはどちらかといえば企業間、銀行間の決済をよりスムーズかつ円滑化、低コスト化するためのシステムと言えます。年度内に概念実証実験を開始し、早ければ2022年度のうちにも実用化と伝えられているものの、その実証実験は、まずは電力取引などを対象に行うとされています。

ただ将来のDCJPYの利用シーンとしては、産業流通における決済から、電子マネー連携、地域通貨への活用、サプライチェーンでの活用、エンタメ領域との連携などといったアイデアが出ているとのことなので、いずれはわれわれ一般市民にも関わりが増えてくるかもしれません。

ちなみにDCJPYは民間銀行が発行するデジタル通貨ではあるものの、フォーラムのオブザーバーには金融庁、総務省、財務省、経済産業省、そして日本銀行が参加しています。

また日本銀行は2020年10月9日付の中央銀行デジタル通貨(CDBC)の取り組みに関する公表資料において「CDBC発行の計画はないが、今後のさまざまな環境変化に的確に対応できるようしっかり準備しておくことが重要」とし、その上で「一般利用型CBDCを発行する場合、中央銀行と民間部門による決済システムの二層構造(「間接型」発行形態)を維持することが適当」と述べていました。さらに「システム的な実験環境を構築しCBDCの基本機能を検証する」概念実証実験についても「2021年度の早い時期の開始を目指す」としています。メガバンク3行など参加のデジタル通貨フォーラムが「プログラムを書き込める」円建てデジタル通貨「DCJPY」(仮称)概要公開

(Source:DCJPY(仮称)ホワイトペーパーデジタル通貨フォーラムプログレスレポート。Coverage:日本銀行Engadget日本版より転載)

日本発パブリックブロックチェーン開発のStake Technoloigesが約11億円調達、「世界で勝つ事例つくる」

「パブリックブロックチェーンこそが『未来』だと思います。私たちは日本発のプロダクトで、世界級のユニコーンを目指しています」。そう力強く話すのは、日本発のパブリックブロックチェーンであるPlasm Network(プラズムネットワーク)Shiden Network(紫電ネットワーク)の開発をおこなうStake TechnoloigesのCEO渡辺創太氏だ。

Stake Technoloigesはこれまで、世界最大級の暗号資産取引所であるBinanceからの資金調達や、「Microsoft for Startup」への採択など、ブロックチェーン業界の最先端を走ってきた。同社は2021年6月11日、中国のブロックチェーン特化VC大手のFenbushi Capitalなどから総額約11億円の資金調達を発表した。

今は「インターネットの黎明期」の段階

渡辺氏が率いるPlasm Networkは、Polkadot(ポルカドット)上でスマートコントラクトを扱うことに特化したブロックチェーンだ。Polkadotは、異なるブロックチェーン同士をつなげる「インターオペラビリティ(相互運用性)」を持つ。

この「インターオペラビリティ」の必要性ついて、渡辺氏はこう説明する。「例えば、私たちの生活に欠かせないインターネットも、本格的な普及以前は企業や研究機関が独自のプロトコルやネットワークを使用しており、互換性がなかったのです。でも、共通のレイヤーができ上がることで、各ネットワーク同士に相互運用性が生まれて、世界中どこにいてもつながることができるようになりました」。

「一方で、今世の中に数百あるともいわれるブロックチェーンは、基本的に個々のネットワーク別に運用されていて、つながっていません」。例えば、Bitcoin(ビットコイン)とEthereum(イーサリアム)は完全に別のネットワークであるため、イーサリアム上のDeFiなどでビットコインを利用することはできない。ビットコインの保有者はイーサリアムのそれより圧倒的に多いと予想されるため、現状の機会損失は大きいと言わざるを得ない。

ブロックチェーン同士がつながり合う世界

この課題を解決するのが、Polkadotが持つインターオペラビリティ(相互運用性)だ。Polkadotは、リレーチェーン(心臓部分)と、パラチェーン(手足の部分)に分かれており、約100個あるパラチェーン(手足)同士がつながることで、相互運用が可能になる。わかりやすいメリットの例としては「Polkadotを経由することで、ビットコイン(のバリュー)でイーサリアム上のNFTを購入できたり、ビットコインをイーサリアム上でステーキングできるようになる」と渡辺氏はいう。

Plasm Networkは、このPolkadotのパラチェーンの1つに入ることを目指している。ただ、パラチェーンの枠は約100個と限りがあり、今後、オークション形式で世界中のブロックチェーンプロジェクトと競い合うことになる。しかし渡辺氏は「Plasm Networkは現在、上から2、3番目という位置にいる」と自信を覗かせる。

スマートコントラクトに特化するPlasm Networkは、今後DeFiやNFTゲームといった数多くのdApps(分散型アプリ)が開発される基盤となる存在だ。いわば、Plasm Network上に築かれた「国」と、他の99個のパラチェーンの「国」が、Polkadotを経由して相互に交わり合うという「世界」が実現する。なんだか凄そうではあるが、うまく想像しづらいのが正直なところ。

渡辺氏は「『今できないこと』ができるようになるので、これはイノベーションです。だからこそ、将来的なユースケースやメリットを、現時点で具体的に想像することは少し難しい(笑)。でも、このインターオペラビリティによる変革の波は、この1、2年で一気に来ると思っています」と話す。インターネットが相互につながり世界を一変させたように、ブロックチェーンも今後「相互運用」が常識になると、我々が今想像することもできない使い方が発見されていくのかもしれない。

「日本が世界で勝つ」成功例となる

「日本発の企業が世界級のユニコーンになるためには、DXだけでは難しい。世界と戦うには、やはりプロダクトで勝負するしかないと思っています」。こう話す渡辺氏は、慶應義塾大学在学中の2014年にブロックチェーンと出会った。「黎明期から関わることができるイノベーションって珍しいと思うんです。インターネットが始まった頃、僕は生まれてもいなかったし、モバイルの時は中学生だった。でもブロックチェーンは、2008年から全員が『よーいどん』でスタートしたので、これはチャンスだと」。

渡辺氏は、大学を休学してシリコンバレーのブロックチェーン関連企業で1年間働いた後、日本に帰国してStake Technologiesを設立。総勢13名のチームは日本、韓国、中国、シンガポール、欧米と世界中に散らばっており、将来は法人をなくしてDAO(自律分散型組織)で運営する予定だという。

「日本がグローバルで勝つための『How To』が、まだまだ足りていません。米国では最近上場を果たしたCoinbaseが、過去にCompoundUniswapに投資しています。これらのプロジェクトはすでに育ってきていて、そこからさらに次のプロジェクトに投資するという段階。一方で日本は、まだこの最初の段階さえも完成していない。だから、私たちが先陣を切ってグローバルで勝つ成功例をつくり、日本のブロックチェーン業界に良い循環をつくっていきたい」と同氏は想いを語る。

いよいよ、6月15日からPolkadotのR&DチェーンであるKusamaの第1回パラチェーンオークションが始まり、Shiden Networkが参加する。さらにその後は、本丸であるPolkadotのパラチェーンオークションが始まり、Plasm Networkが参加する予定だ。執筆時点で2兆円を超える時価総額を持つPolkadotは、暗号資産業界全体でもトップ10に入るビッグプロジェクト。そのPolkadotの代表的なパラチェーンへの道を歩むPlasm Networkは、日本だけでなく世界を代表するパブリックブロックチェーンになる可能性さえも秘めているといえるだろう。

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タグ:Stake Technoloiges資金調達Polkadotブロックチェーン日本スマートコントラクト

ディーカレットが67億円調達、民間発行デジタル通貨と企業独自のスマコン実装が可能なプラットフォーム開発目指す

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暗号資産(仮想通貨)などデジタル通貨の取引・決済を担う金融サービス事業を手がけるディーカレット(DeCurret)は3月23日、第三者割当増資による総額67億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、筆頭株主のインターネットイニシアティブ、KDDI、日本電信電話(NTT)、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、ゆうちょ銀行、綜合警備保障(ALSOK)、三菱商事、SBIホールディングス、セコムの計10社。

調達した資金により、民間発行デジタル通貨の実現と企業独自のスマートコントラクトの実装を可能にする二層構造デジタル通貨プラットフォームや、ブロックチェーンを利用したあらゆるデジタル価値の交換プラットフォームの開発体制を強化し、事業加速につなげる。

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日本におけるデジタル通貨のリーディングカンパニーを目指す同社は、2020年6月よりデジタル通貨勉強会、その後継となるデジタル通貨フォーラム(現在の参加企業数55社以上)の事務局を務め、デジタル通貨実現のための取組みを実施してきた。

世界では中央銀行デジタル通貨(CBDC)や法定通貨を価値の裏付けとした暗号資産の発行など、デジタル通貨の実現に向けた動きが拡大しているという。デジタル通貨プラットフォーム開発や企業とのパートナーシップをさらに強化し、一体となってデジタル通貨の世界を実現するべく、今回の増資を実施した。

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