スマート素材はどのように世界を作り変えるのか

Plasticine planet earth on a white background

【編集部注】著者のMax Moruzzi氏はAutodeskのシニア主任リサーチサイエンティスト。

過去数年にわたり、モノのインターネット(IoT)は、激しい活動の白熱した中心になっている。物理的なもののための組み込みセンサーを製造するスタートアップは、より大きな企業に急速なペースで買収され、過去4年でIoTスタートアップをめぐる取引は合計300億ドルを越えている。

確かに、IoTは「次に来る凄いもの」かもしれないが、おそらくセンサー周辺への注目は見当違いかもしれない…

もし私たちが物体にその周辺の環境からデータを収集させるのに、センサーを埋め込む必要がないとしたらどうだろう?もし素材がセンサーを内蔵し、そのものがセンサーであったならば?

知覚素材は、まるでサイエンスフィクションのように聞こえるかもしれないが、それは急速に現実のものとなってきている。温度、圧力、衝撃、その他の変動値を感知することができる、新世代の素材が開発されていて、センサーの必要性が完全になくなる。

これらの材料はデータを取り込み、クラウドにデータを送り込むだけでなく、環境条件の変化に対応して、動的に自分自身を再構成することができる。それはまるで材料がただスマートになるというだけではなく、「生きて」いるかのようなものになることであり、物のデザインと使われ方を驚くような方向へ変化させる

等方性の時代を抜け出して

私たちはどうやってここに至ったのか?これまでのデザインとエンジニアリングは素材の「等方性(isotropic)」に注目してきた、すなわち均一的かつ予測可能であるということだ。等方性の時代には、まずデザインを行い、そのデザインの中で特定の役割を果すように素材を割り当てた。

しかし、その反対に、もし素材が設計を決定するために使えるとしたらどうだろうか?私たちはこれを常に自然の中で見ている。例えば種子は、特定の環境と連動して木を生み出す。

それはまるで材料がただスマートになるというだけではなく、「生きて」いるかのようなものになることだ。

これは、異方性(anisotropic)素材の働きを示す一例だ。等方性材料とは異なり、それらの振舞は事前には決まっていない、そのためその性能を環境に合わせて調整することができる。

異方性デザインの時代へようこそ。

輸送のための変革

以下のような飛行機の外壁を想像して欲しい、自己治癒で傷やへこみを取り除き、それによって最適なエアロダイナミクスを維持しすることができるといった外壁を。等方性の時代には、こうしたデザインは実質的に不可能だった、しかし異方性の時代には、これが可能になるのだ。

それがうまくいくのは以下のような理由だ:飛行機の部品(例えば翼)が薄いナノセンサーの層でコーティングされた複合材料から作られているとする。このコーティングは「神経系」のように働き、部品がその周囲で起きることを「感知する」ことを可能にする。圧力、温度、といったものが対象だ。

翼の神経系が損傷を感知すると、それは、ナノ結晶のコーティング中の未硬化材料の高分子微粒子に信号を送る。この信号は、高分子微粒子に素材を損傷エリアに放出するように伝え、修復が始まる。ちょうど亀裂に接着剤を埋めてそれを硬化させるようなものだ。

エアバスはすでに、ブリストル大学のNational Composites Centreでこの分野における重要な研究を行い、スマート素材によって形作られる航空業界に私たちを向かわせている。

一方、自動車業界は、損傷の感知や自己治癒だけではなく、デザインとエンジニアリング工程へフィードバックできるパフォーマンスデータを収集できるスマート素材の利用を進めている。

Hack Rodプロジェクト – 南カリフォルニアの自動車愛好家のチームと組んだ技術パートナーたち ‐ は、スマート素材を使い、人工知能でエンジニアリングを行った、史上初めての車をデザインした。

これらの材料は、私たちの周囲の世界を形作る上で、ますます重要な役割を担っている。

別の例では、EUが資金提供を行うHARKENプロジェクトのコーディネーターであり、ポルトガルの自動車テキスタイルサプライヤーBorgstenaのR&DマネージャーでもあるPaulo Gameiroが、センサーが埋められたスマートテキスタイルを使ってドライバーの呼吸ならびに心拍を計測し、ドライバーに眠気の兆候があることを警告できる、シートとシートベルトのプロトタイプを開発している。

インフラストラクチャのメンテナンスが容易になる

輸送に関するもの以外でも、多くの機会が建築や土木エンジニアリングの領域にも待ち構えている。そこではスマート素材が、構造のヘルスモニタリングを大いに助けることになる。

今日、 世界には要素の消耗や、断裂、そして経年劣化によって徐々に崩落の進んでいる道路や橋、その他のインフラが沢山存在している。多くの場合、 最も緊急に注意を必要とする項目がどれであるかが、私たちにはわからない

しかし、もしこうしたことがわかる構造を「 スマートコンクリート」で作ることができるなら?コンクリート内の「神経系」は、インフラストラクチャの状態を絶えず監視して評価し、何らかの損傷が発生した場合には即座に自己修復を発動させることができる。

マサチューセッツ工科大学(MIT)で現在進行中の、ZERO +という名のプロジェクトは、まさにこのタイプの先進複合素材を用いて、建築業界を再構成することを狙っている。

機能性織物

MITの研究者たちはまた、新たに設置されたAdvanced Functional Fabrics of America (AFFOA:米国先進機能性織物) 研究所で、日夜研究に励んでいる。彼らの目標は、新世代の機能性織物と繊維の開発である。周囲を見て、聴いて、感じる能力を持ち;コミュニケーションを行い;エネルギーを蓄積して変換し;健康をモニターし;温度を制御し;そしてその色を変化させるようなものだ。

これはハリウッド映画ではない ‐ 現実のことだ。

機能性織物は、衣服がもはや単なる衣服である必要がないことを意味している。健康と良い生活のためのエージェントであり、非侵襲的な方法で体温を測定し、さまざまな要素を対象にして汗を分析することができる。またそれらをポータブルなパワー源として使うことも可能だ、例えば太陽のような外部のソースからエネルギーを取り込み、それを保持し続けるなど。また、より迅速的かつ効率的に異なる環境に適応するために、兵士たちによって使用されることも可能だ。

そして、もし誤って衣服に穴をあけてしまったら?当然のことながら、織物内のナノセンサーはツギをあてるために、自己修復プロセスを起動する – 航空機の翼やスマートコンクリートが自身を修復したように。

素材の世界で生きる

これはハリウッド映画ではない ‐ 現実のことだ。そして如何にスマート素材が迅速に近付いて来ているかを明確に示すものだ。

これらの材料は、私たちの周囲の世界を形作る上で、ますます重要な役割を担っている。それが飛行機であろうと、建築インフラストラクチャであろうと、私たちの着る服であろうと。自分の環境に関するデータを取り込むだけでなく、そのデータに基づいて、それらのパフォーマンスを調整することができるものを作ることにより、素材はデザインの中で能動的な役割を果たし始めるようになる。

これが スマート素材の持つ可能性だ、そして私たちの周囲により良いデザインの世界を生み出すため鍵の一つなのだ。

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(翻訳:Sako)