Carbixは煙道ガスから有用な鉱物を生成するリアクターを開発

世界中の煙突から排出される汚染物質は、大気に悪い影響を与える。しかし、その汚染物質が外に出る前に捕えられたら、排出量を減らすと同時に、貴重な物質を集めることができる。だからこそ、Carbix(カービックス)という企業は、カーボンネガティブを維持しながら排出物から鉱物を抽出するカーボン・シーケスタリング・リアクター(炭素隔離反応器)の開発を目指しているのだ。

米国時間9月22日、Disrupt Startup Battlefield(ディスラプト・スタートアップ・バトルフィールド)で発表を行ったCarbixは、脱炭素化しなければ罰金や高額の税金を課せられるという産業界の圧力を利用しようとしている。セメントの製造はそれだけで炭素排出量の約8%を占めており、経営者たちはグリーン化するために躍起になっている。

セメントをはじめとするさまざまな産業に必要な鉱物が、文字通り捨てられていることがわかっている。煙突から吐き出されると、そのままどこへともなく漂って行ってしまうからだ。実際にはこの鉱物には価値があるため、Carbixは工場に金を払って鉱物を吸い上げ、それを再販することができると考えた。

「私たちは実質的に、排出する工場が通常は風の中に捨ててしまう在庫にお金を支払うのです。彼らにはこれを断る動機がありません」と、Carbixの創業者であるQuincy Sammy(クインシー・サミー)氏はいう。

このプロセスは、大気中の二酸化炭素が、ある種の豊富な鉱物と相互作用して、石灰岩である炭酸カルシウムのような別の鉱物をゆっくりと形成するという、自然界で起こることを加速させるというものだ。二酸化炭素を石に変えることは、我々が永久的炭素隔離市場と呼ぶようないくつかのスタートアップ企業の基盤となっている。Heimdal(ハイムダル)はそのために海水を利用し、44.01という会社は反応性鉱物のフィールドに高濃度炭酸水を注入することでそれを行っている。Carbixはもちろん、人工的な装置を使う。

画像クレジット:Carbix

その仕組みは次のようなものだ。CarbixはCO2や微粒子を大量に排出する場所へ向かい、排出の流れを分析する。そうすることで、どのような炭酸塩鉱物を分離できるか、そのためには何が必要かを予測することができる。そして、その施設からの排出物は、Carbixのリアクターに送られる。この装置では、さまざまな放出物が、石膏や石灰キルンダストなど、物流への影響を少なくするために近隣で調達された反応性のある鉱物と結合され、セメントやガラスなどの原料となる有用な物質が生成される。Carbixはそれらを取り出し、本来であれば大気中に消えてしまう(最終的にはどこかの氷河に落ちてしまう)ばすだったこれらの原料を販売するというわけだ。

現在、X1と呼ばれるスケールプロトタイプに搭載されているこのリアクターは、明らかにここで最も防御力のある知的財産であり、今回のシードラウンドで調達した資金の大部分は、リアクターの容量が数百倍になる生産規模のX2の建造に充てると、サミー氏は述べている。X2は1基あたり年間約1万6000トンの炭酸ガスを処理でき、これは約8000トンのCO2に相当する。X2は並列運用が可能であり、適当な規模の工場であれば、1つの施設で10台のX2を使用することができると、サミー氏は見積もっている。

X1リアクターの試作機。X2は最低でも100倍は大きくなる(画像クレジット Carbix)

最もシンプルな計画としては、排出する企業がお互いにメリットがあることを理解し、初期費用を負担する形に持っていくことだ。Carbixは採取した原料の代金を定期的に支払うようにする。排出企業は、通常なら一銭にもならないものから利益を得ることができる上に、限度枠にカウントされる排出量を減らすことができるため、二重の利点がある。サミー氏は、利益配分する契約などの可能性を否定しなかったが、これが望ましい設定だろう。

「我々はこれらの企業と新境地を開拓するわけですから、互恵関係が重要になります」と、サミー氏はいう。Carbixのプロセスは、セメント製造業を最初のターゲットとしているものの、他の多くの産業にも適用できる。

「私たちは、特定の分野に縛られるつもりはありません。煙道ガスは煙道ガスです。だからこそ、このプロジェクトはエンド・ツー・エンドであり、私たちは人々をそこに導くのです。どのような業界にも対応できることを、私たちは示す必要があります」と、同氏は説明した。

他のハードウェア企業と同様に、産業規模での取り組みには多くの初期費用が必要になる。Carbixは、X2リアクターの製造と認証にかかる費用を調達するために、今回のシードラウンドに取り組んでいる。認証が得られれば、通常の経路で保険や融資を受けることができるようになる。そして、誰もが得をする相互利益をもたらす計画が実現するのだ。

画像クレジット:Carbix

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

再生可能エネルギーを使い、海水から二酸化炭素とセメントの原料を取り出すHeimdalの技術

大気中の二酸化炭素濃度が上昇すると、それに比例して海中の二酸化炭素濃度も上昇し、野生生物に悪影響を与えたり生態系を変化させてしまったりする。再生可能エネルギーを利用して二酸化炭素を大規模に回収し、その過程でコンクリート用の石灰石をはじめとするカーボンネガティブな工業材料を生産しようとしているスタートアップ企業がHeimdalである。同社はアーリーステージの段階でかなりの資金を集めているようだ。

コンクリートと聞いて首を傾げた読者は、次の点を考えてみたら良いだろう。コンクリートの製造は、温室効果ガス排出量全体の8%を占めると言われており、また海水にはコンクリートの原料となる鉱物が豊富に含まれているのだ。おそらく関連業界や分野に身を置いていなければこの関連性に気づくことはないだろう。しかしHeimdalの創業者であるErik Millar(エリック・ミラー)氏とMarcus Lima(マーカス・リマ)氏は、オックスフォード大学でそれぞれの修士課程に在籍していた時からこの関連性を認識していたのである。「気づいてからすぐに実行に移しました」とミラー氏はいう。

気候変動が人類の存続にかかわる脅威であると確信を持つ2人は、世界中で起きているさまざまな影響に対する恒久的な解決策がないことに失望感を感じていた。炭素捕捉は回収してもまた利用されて排出されるという循環型のプロセスになっていることが多いとミラー氏は指摘する。新しい炭素を生産するよりはましなものの、生態系から永久に炭素を取り除く方法は他にないのだろうか。

2人の創業者は、電気と二酸化炭素を多く含む海水だけで、ガスを永久に封じ込めることのできる有用な素材を製造する新しいプロセスを構想した。しかし当然、そんなことが簡単にできるのなら誰もがすでにやっているはずだろう。

画像クレジット:Heimdal

「これを経済的に実現するための炭素市場は、まだ形成されたばかりです」とミラー氏は話す。太陽光発電や風力発電の巨大な設備が、数十年来の電力経済を覆したことでエネルギーコストは大幅に低下している。炭素クレジット(この市場についてはここでは触れないことにするが、これが成功要因であるのには間違いない)と安価な電力市場には新たなビジネスモデルが生まれており、Heimdalもその1つと言えるだろう。

実験室規模(1000ガロンのタンクではなくテラリウム規模)ですでに実証されているHeimdalのプロセスは、簡単にいうと以下のとおりである。まず、海水をアルカリ化してpHを上げ、ガス状の水素、塩素、水酸化物の吸着剤を分離させる。これを別の海水と混ぜると、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムのミネラルが析出し、水中の二酸化炭素の飽和度が下がり、海に戻したときに大気中からより多くの二酸化炭素を吸収できるようになる(小規模なプロトタイプ施設の画像を見せてもらったが、特許申請中のため写真の掲載は拒否された)。

画像クレジット:Heimdal

海水と電気から水素や塩素ガス、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウムなどを生成し、その過程で大量の溶存二酸化炭素を封じ込めるという仕組みである。

1キロトンの海水に対して1トンの二酸化炭素と2トンの炭酸塩が分離されるが、それぞれに産業用の用途がある。MgCO3やNa2CO3はガラス製造などさまざまなものに使われるが、最も大きな影響を与える可能性があるのはCaCO3、つまり石灰石である。

石灰石はセメント製造プロセスの主要構成要素として常に大きな需要がある。しかし、現在の石灰石の供給方法は、大気中の膨大な炭素源となっているのも事実である。世界中の産業界が炭素削減戦略に投資しており、単に金銭的なオフセットが一般的ではあるものの、今後は実際にカーボンネガティブなプロセスが望まれるようになるだろう。

さらにHeimdalは海水淡水化プラントとの連携を見据えている。海水淡水化プラントは、淡水は不足していても海水とエネルギーが豊富にある、例えば米国カリフォルニア州やテキサス州などの沿岸部をはじめ、特に中東・北アフリカ地域のように砂漠と海が接する場所など、世界各地で見られるものである。

海水淡水化では、真水とそれに比例してより塩分を多く含んだ塩水が生成されるが、それを単純に海に戻すと地域の生態系のバランスが崩れてしまうため、一般的には塩水を処理する必要がある。しかし、例えばプラントと海の間にミネラルを集める工程があったとしたらどうだろうか。Heimdalは水1トンあたりのミネラルをさらに得ることができ、淡水化プラントでは塩分を含んだ副産物を効果的に処理することができるという考えである。

元RedditのCEOで、現在はTerraformationのCEOを務め、Heimdalに個人的に投資しているYishan Wong(イーシャン・ウォン)氏は次のように述べている。「Heimdalが海水淡水化の排水を利用してカーボンニュートラルなセメントを生産できるようになれば、2つの問題を同時に解決することになります。カーボンニュートラルなセメントのスケーラブルな供給源を作り、海水淡水化のブライン廃液を経済的に有用な製品に変換するという仕組みを、ともにスケールアップすることができれば、あらゆるレベルで革新的なものになるでしょう」。

Terraformationは太陽光による海水淡水化を推進しており、Heimdalはその方程式にまさにぴったりである。両者は現在、正式なパートナーシップを締結するために取り組んでおり、間もなく発表される予定だ。一方、カーボンネガティブな石灰石は、脱炭素化をはかるセメントメーカーが1グラムも逃すまいと買いあさることだろう。

ウォン氏は、Heimdalのビジネスにおいて、タンクやポンプなどを購入するための初期費用以外の主なコストは、太陽エネルギーにかかる費用だと指摘している。このコストは何年も前から下降傾向にあり、また定期的に巨額の投資が行われているため、今後もコストは下がると考えて良い。また、二酸化炭素を1トン回収したときの利益は、すでに約75%が500〜600ドル(約5万5000〜6万6000円)の収入となっているが、規模と効率が上がればさらに大きくなる可能性がある。

ミラー氏によると、同社の石灰石の価格は政府のインセンティブや補助金を含めると、すでに業界標準と同等の価格になっているという。エネルギーコストが下がり、規模が大きくなれば、この比率はより魅力的なものになっていくだろう。また、同社の製品が天然の石灰石と見分けがつかないというのも魅力の1つである。「コンクリート業者が手を加えなければいけないことは何もありません。採掘業者から炭酸カルシウムを購入するのではなく、当社の合成炭酸カルシウムを購入するだけのことです」と同氏は説明する。

全体的に見れば、これは有望な投資といえそうだ。Heimdalはまだ公に公開されていないが(Y Combinatorの2021年夏のDemo Dayで公開される予定)、640万ドル(約7億円)のシードラウンドを獲得している。参加した投資家は、Liquid2 Ventures、Apollo Projects、Soma Capital、Marc Benioff、Broom Ventures、Metaplanet、Cathexis Ventures、そして前述したウォン氏である。

Heimdalはすでに複数の大手セメントメーカーやガラスメーカーとLOIを締結しており、米国の海水淡水化プラントでパイロット設備を計画している。数十トン規模の試験品をパートナーに提供した後、2023年に商業生産を開始する予定だ。

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画像クレジット:Heimdal

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)