Mirukuは動物ではなく植物から乳製品を生み出す

Mirukuはニュージーランドのフードテック企業で、分子農業の手法を利用して植物の細胞を小さな工場へとプログラミングし、タンパク質や脂肪、糖分など、従来は動物が作ってきた分子を生産しようとしている。

同社は2020年にAmos Palfreyman(アモス・パルフリーマン)氏とIra Bing(イラ・ビン)氏、Harjinder Singh(ハージン・ダーシン)氏そしてOded Shoseyov(オデッド・ショセヨフ)氏ら、全員が乳業や植物科学の経験があるメンバーが創業した。現在、企業や研究開発者とのパートナーシップにより、Mirukuのラボや温室で開発されており、規模を拡大し、地域横断的に実施される予定だ。

CEOのパルフリーマン氏の説明によると、同社のアプローチには植物作物の増殖と工学的手法によりその細胞を乳製品に変える工程が含まれている。これは、精密発酵のような技術を利用する同分野の競合他社とは異なっている。彼らは培養室の中で乳タンパクを醸造し、外部からの動物の細胞を利用して、培養室の中で乳のビルディングブロックを作っている。

Mirukuがそれらと違うのは、植物作物を増殖して本物の乳のビルディングブロックを植物自身の中で、太陽のエネルギーを利用して作ることだ。その意味では同社は、タンパク質を乳牛よりも効率的に生み出し、乳牛の役割をなくすことによって、畜産への依存を減らし、それにより水や土壌や環境へのダメージを抑える。

「私たちのタンパク質成分は、本物の乳製品のような味と匂いだけでなく、本物の乳製品と同等の栄養価を持つ乳製品を作ります。それらは、おいしいチーズサンドイッチを食べて消化した後に体が使うのと同じアミノ酸構成要素で体を作り、修復するのを助けます。そして、チーズケーキや上等なペコリーノチーズのようなおいしいものを作ったり焼いたりする本物の乳製品のように機能します」とパルフリーマン氏はいう。

フードテックの課題は、十分な量のタンパク質や食品原材料を作れるほどの規模を実現することにあるが、Mirukuの場合それは「植物の正しいプログラミングにより、哺乳類のタンパク質と同等の構造と機能を作り出す技術的な課題が大きい」とパルフリーマン氏は語る。

彼によると、プラントの規模拡大は単純明快だ。目的とするタンパク質を作り出せる植物を作り出せたら、その種子で生産の規模拡大はできる。それは温室用の一握りでもよいし、農場用の大量の種子でもよい。

複雑で難しいのは、特定の特徴を作り出して、それを増殖することだ。それは往々にしてエネルギーの使用量と形質のレベルとのトレードオフを要する。しかしパルフリーマン氏が信じているのは、Mirukuの計算生物学の利用と技術の経済分析で作り出される最適形質が、スケーラビリティのその部分を解決するだろうという点だ。

同社はまだ開発途上だが、パルフリーマン氏の構想では、2〜3年後には同社のプロテインが商用化されているだろう。しかし、その前にはプロトタイプと概念実証が必要だ。彼の予想では最初の製品は既存の食品企業との提携によるものになり、企業が作る食品のタンパク質成分を提供することになるだろう。

それでも、パルフリーマン氏が主張するのは、Mirukuがアジア太平洋地域では初めての、分子農業による乳製品スタートアップであることだ。同社のような企業はすでに世界各地にあって、たとえばNobell Foodsはすでに分子酪農を手がけており、NotCoClimax FoodsPerfect Dayなどは、動物を使わない技術で5000億ドル(約60兆円)の酪農市場に挑戦している。過去半年以内では、下記の各社がベンチャー資金を調達している。

  • Better Dairyは精密発酵の技術でチーズを作っている。2月に2200万ドル(約26億円)を調達
  • The EVERY Companyは、植物を使って卵を作っている。12月に1億7500万ドル(約210億円)を調達
  • Perfeggtも、植物から卵を作っている。11月に280万ドル(約3億4000万円)を調達し、3月にシードラウンドを390万ドル(約4億7000万円)に拡張した
  • Stockheld Dreameryは、さや豆の野菜からチーズを作り、9月に2000万ドル(約24億円)を調達した。

Mirukuは最初の18カ月、創業者たちの自己資金でやってきたが、このほど240万ドル(約2億9000万円)のシード資金を調達した。投資をリードしたのはMovacで、Better Bite VenturesやAhimsa Investments、Aspire Fundらが参加した。

これにより同社は、本格的に拡大できることになり、パルフリーマン氏のいう正しいパートナーを見つけて同社を顧客に結びつけ、次のラウンドのための基礎を築くことになる。パルフリーマン氏によると、次の資金調達は2023年とのこと。

新たな資金は、技術者の増員とパートナーシップの開拓、そして開発プログラムのスピードアップに充てられる。Mirukuは2022年すでに社員を増員し、パルフリーマン氏としては、毎年倍増したいのことだ。

Mirukuはすでに大手食品企業と組んで、その製品開発に協力している。また、いくつかの国で開発事業に参加し、その中には環境や気候関連の事業もある。また、生産者や調合師、そしてブランドとの協力もある。

パルフリーマン氏によると「私たち確かにアーリーステージの企業だが、すでに消費者市場に近い戦略的パートナーと一緒に急速に進歩しています。イノベーションと成長により、資本が必要になり、最初のラウンドを閉じたばかりですが、そう遠くない未来にそれによる成長を経験するでしょう」という。

画像クレジット:iStock

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(文:Christine Hall、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ビールの醸造かすを生分解性フィルムに変えるMi Terroが1.7億円調達

あるやり手の起業家が、ビール醸造大手AB Inbev(ABインベブ)と家庭用品の大手Unilever(ユニリーバ)が主催する100以上のアクセラレータープログラムに参加し、あるパターンを発見した。醸造所には大量の醸造かすがあり、家庭用消費財にはプラスチック問題がある。この2つの問題の架け橋となるべく登場したのが、農業廃棄物をタンパク質に加工し、プラスチック代替品や飼料などとして利用できるようにするMi Terro(ミテロ)だ。同社は、生産規模を拡大するために150万ドル(約1億7000万円)を調達した。

Mi Terroの創業者Robert Luo(ロバート・ルオ)氏は「洗濯洗剤ポッドTide Podsを思い浮かべてみてください」と話す。「私たちの製品は、Tide Podsで使われているポリビニルアルコールに似ています。唯一Tide Podsと違うのは、マイクロプラスチックが含まれていないことです。私たちの製品は水溶性で、室温で水に分解することができます。また、生分解性を有してもいます。当社のデータでは、自然分解には1年ほどかかるとされています。工業用堆肥化施設では、180日以内に分解できます」と説明する。

ルオ氏は2018年に、中国の叔父の酪農場を訪れたことがきっかけで、会社を立ち上げた。そこでは大量の牛乳が廃棄されていた。そして、腐った牛乳をただ捨てるのではなく、何か価値のあるものを作れないか、と興味を持った。最初に開発したのは、牛乳の搾りかすを使った繊維製品だ。この繊維は10万ドル(約1100万円)分ほど売れ、今でも日本に顧客がいる。しかし、この分野ではB2Cモデルは非常に難しいことが分かった。そこで、アクセラレータに参加し、同様のプロセスで産業用途があることを発見した。

「中国のBudweiser(バドワイザー)とつながりができ、価値の低い醸造かすを大量に抱えていることを知りました。彼らは、メタンや地球温暖化の間接的な原因となる牛の飼料として処理するよりも、もっと良い利用方法を考案したいと思っていました」とルオ氏は説明する。「そこで、私たちが以前開発した方法を用いることで、農業廃棄物を堆肥化できる包装材に変える新しい解決策を導き出すことができました。そして、これが当社が2020年からやっていることです」。

AstanorがMi Terroの150万ドルラウンドのリードインベスターで、同社の価値を1000万ドル(約11億円)と評価した。Astanorは少し前に食品と農業技術を専門者とするファンドを立ち上げ自律走行トラクターマイクロプラスチックの除去植物由来の食品気候リスクの脅威分析、そして今週初めには温室用のAI技術など、さまざまな企業への投資でこの分野において急速にその名を知られるようになってきている。

Mi Terroの従業員は現在5人で、この中には中国にいる製品専門家も含まれる。同社は中国に製造拠点を設け、また米国にオフィスを設置する計画だ。今回の投資は主に生産規模の拡大に使われる予定で、ラボでのやり方に若干の変更を加えることになる。

プラスチックに代わる生分解性フィルムに入っているMi Terroのプロトタイプの洗剤ポッド(画像クレジット:Mi Terro)

「生産規模を拡大するためには、加工の方法が変わり、設備も変わってきます。そしてもう1つ、ビール醸造所から当社の施設まで醸造かすを配送するための物流コストも考慮しなければなりません」とルオ氏はいう。「そのために最適な場所を探す必要があり、生産拡大に向けてはその点も考慮しなければなりません。輸送費がかさみ過ぎないように、慎重にならざるを得ないのです」。

Mi Terroのプロセスには2つのステップがある。農業廃棄物からタンパク質、繊維、デンプンなどのポリマーを抽出し、ポリマーを分離した後、モノマーを結合して他の製造工程で使用できるポリマーにするというグラフト化で改良を行う。このようにしてできた素材は、パスタを作るのと同じように、液体のような素材をスリットから押し出し、形成できるため、現在プラスチックが使われている多くの用途に使用することができる。ストローや容器、箱などを作ることが可能だ。同社が最初に作る製品は、ビールのラベルやTide Podsなどのパッケージのようなフレキシブルフィルムだ。

「現在、顧客向けに2つのソリューションを開発しています。1つは水溶性で、水溶性が必要な用途に適しています。もう1つは耐水性です」とルオ氏は話した。

画像クレジット:Mi Terro

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Nariko Mizoguchi

バイオ分子に照準を合わせて新薬を生み出すGandeeva Therapeuticsが46億円調達

かつて冗談交じりに「ブロボグラフィー(抽象的な芸術作品の一種)」と呼ばれていた分野が大きく進展した。

低温電子顕微鏡法は、現在、生体の最小構成要素を最も忠実に観察できる手法の1つで、バイオ分子のアモルファス(非晶質=結晶ではない)画像を提供する。米国時間1月31日、4000万ドル(約46億円)のシリーズAラウンドを完了し、その存在を世に知らしめた新しいバイオテック企業Gandeeva Therapeutics(ガンディーバセラピューティクス)は、これを重要な柱として、低温電子顕微鏡法による高解像度画像と機械学習ツールを組み合わせて、創薬のプロセスを高速化することを計画している。

共同創業者でありCEOのSriram Subramaniam(シュリラーム・サブラマニアム)氏は、TechCrunchの取材に対して次のように話す。「『電子顕微鏡でタンパク質を原子レベルの分解能で可視化する』という創業時の夢を、約15年の歳月をかけて実現しました。誰かがこの夢を実現できれば、これこそが創薬を変え、革命を起こすために必要な重要なツールになるはずだと確信していました」。

「現在の低温電子顕微鏡法の進歩を採り入れて、実際に学習するプラットフォームを作ることがGandeevaの命題である」と同氏は続ける。高解像度の画像を利用すれは、これまで観ることのできなかった結合ポケットを発見することが可能で、それに合う薬剤を見つけることができる、というのだ。

「金鉱を採掘する道具は重要ですが、その金鉱をどうするか、つまりどのような製品に変換するかを知っている必要があります。私たちの場合は、それは患者さんのための薬です」。

現在では、Insilico Medicine(インシリコ・メディスン)Generate Biomedicines(ジェネレート・バイオメディシンズ)Pepper Bio(ペッパーバイオ)Eikon Therapeutics(エイコン・セラピューティクス)Isomorphic Labs(アイソモルフィックラボ)といった数多くの企業が創薬という大きなチャレンジに取り組んでいるが、Gandeevaのアプローチは、簡単にいえば、体内のドラッガブル(druggable、ターゲット分子における低分子化合物による機能調節の可能性を意味する)なターゲットを見つけるために「実際に観てみる」といったところだ。

周りをぐるっと見ただけでも、これまで数え切れないほどの科学的ブレークスルーがもたらされてきた。しかし、身体の構成要素に関しては、特殊な顕微鏡技術がなければブレークスルーは起こり得ない。この分野の代表的な技術はX線結晶構造解析で、タンパク質や分子を文字通り結晶に詰め込んでX線を照射し、その形や大きさ、向きを近似的に再現するものである。

X線結晶構造解析の問題は、結晶化という手間と時間のかかるプロセスにある。しかし、低温電子顕微鏡法では、結晶化が不要だ。この手法では、分子を瞬間冷凍して2次元のシートを作り、それを電子銃で照射する。2次元シートは生体分子を電子から保護し、詳細な画像の撮影や、結晶化構造では観ることのできないバイオ分子の動きの撮影を可能にする。

低温電子顕微鏡法では、2オングストローム(ナノメートルの10分の1)の構造体の画像が得られる(参考までに、人の髪の毛1本の太さは約100万オングストロームである)。

低温電子顕微鏡がブームになっていることを示す証拠もある。2024年までに、低温電子顕微鏡で決定されるタンパク質構造がX線結晶構造解析を上回る、と予測する科学者もいる(2020年2月のNatureのニュース)。顕微鏡や装置が高価であるにもかかわらず、分解能が飛躍的に向上したことで、低温電子顕微鏡は主要な科学的ツールキットとなりつつある。

左:オミクロンスパイクタンパク質の低温電子顕微鏡マップ(画像クレジット:Scienceに掲載)、右:X線結晶構造解析によるAAA ATPaseのp97の画像(画像クレジット:Gandeeva Therapeutics)

一方、構造生物学という点ではGandeevaに有利な動きが他にもある。1つは、機械学習が進歩してタンパク質がどのように折りたたまれるか(タンパク質フォールディング)を正確に予測できるようになったことだ。

すでにタンパク質フォールディングを予測できるAIエンジンが2つ開発されている。アルファベット傘下のAI企業、DeepMind(ディープマインド)が開発したAlphaFoldと、ワシントン大学が開発したRoseTTAFoldである。かつてはタンパク質の構造を決定するには何時間も実験室で作業する必要があったが、RoseTTAFoldは通常のゲーム用コンピューターを使って、10分でタンパク質の構造を予測できるという。

サブラマニアム氏は、これらのツールは、タンパク質の構造と機能に関する前例のないレベルの知見を提供するが、まだ対処すべきギャップがある(AIによる予測では、要素によっては他の手法より信頼度が低いなど)と主張し、低温電子顕微鏡法では、タンパク質のある領域にズームインしたり、タンパク質のさまざまなコンフォメーション(立体配座)を撮影したりすることができるので、こうしたギャップを埋めることができるだろう、と指摘する。

「AIには革命の真っただ中にありますが、誰もが『AIって結局何?』と疑問に思っているのではないでしょうか。AIと低温電子顕微鏡の組み合わせは、実験だけでも予測だけでもない、まさしく正攻法であり、Gandeevaの命題でもあります」とサブラマニアム氏。

「AIによる構造生物学や相互作用の理解を利用して、最速かつ適切なスループットで精密なイメージングを組み合わせることができます」。

Gandeevaは現在、政府や大学がスポンサーとなっていなくても、すばやく簡単に低温電子顕微鏡を利用できることを証明しようとしている。この分野におけるサブラマニアム氏の研究の多くはこうした環境で行われてきたので、これは重要なポイントだ。

サブラマニアム氏は、キャリアの大半を米国国立衛生研究所(NIH)で過ごした。国立がん研究所(NCI)の生物物理学セクションのチーフを務め、その後、政府が運営する国立低温電子顕微鏡研究所を設立。NIHでは、Gandeevaの低温電子顕微鏡を使った創薬プラットフォームの開発を進めたいと考えていたが、ラボの開発だけで数十億円の費用がかかることが判明した。

同氏によると、当時「VCはこのようなアプローチに関心を持たなかった」という。しかし、ブリティッシュコロンビア大学(UBC)が興味を示したため、彼はNIHを退職し、UBCのCancer Drug Designのチェアマンに就任した。

「NIHで行っていたことが再現できると証明するために、UBCに来て数年間でこのプロジェクトの基本を立ち上げました。UBCで作成したプロトタイプは、この方面に迅速に進めることを投資家に確信してもらうきっかけとなりました」と同氏は話す。

この概念実証(PoC)では、短時間で作成されたオミクロン変異体のスパイクタンパク質の低温電子顕微鏡画像がScienceに掲載された。

しかしながら、Gandeevaの最終目標は、低温電子顕微鏡法をパッケージ化して生物学的に美しい写真を撮ることではなく、新薬の開発にかかる時間を短縮することを目的とした研究プラットフォームである。

サブラマニアム氏は「薬剤がどこに結合するか、タンパク質のどの表面をターゲットにしているのかを正確に観ることができるので、単純に、大幅に時間を短縮できると考えています。このような情報があれば行き止まりの経路を調べずに済むため、非常に有効です」と話す。

Gandeevaは、この技術を工業規模かつ速度で実行し、他では得られない情報を得られることを証明する必要がある。同社は、バンクーバー郊外の施設を6年間リースしており、サブラマニアム氏はここでプラットフォーム機能を構築する予定だ。

社内的には、いくつかのプログラムを進めて、潜在的な創薬ターゲットを特定できることを証明するのが目標である。サブラマニアム氏は、もしかしたらGandeevaのプラットフォームを腫瘍学に適用し始めるかもしれない、と話すが、これはまだ決まっていない。

今回のラウンドはLux Capital(ラックスキャピタル)とLEAPS by Bayer(リープスバイバイエル)が主導。Obvious Ventures(オブビアスベンチャーズ)、Amgen Ventures(アムジェンベンチャーズ)、Amplitude Ventures(アンプリチュードベンチャーズ)、Air Street Capital(エアストリートキャピタル)が参加した。

画像クレジット:Gandeeva Therapeutics

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

「生きた細胞の中」を覗ける超解像蛍光顕微鏡を活用する創薬プログラムEikon Therapeuticsが約598億円調達

Lux Capital(ラックス・キャピタル)のパートナーであるAdam Goulburn(アダム・ゴールバーン)氏は、Eikon Therapeutics(エイコン・セラピューティクス)が行った超顕微鏡による薬の開発を説明するピッチで、創業者のEric Betzig(エリック・ベッツィヒ)氏の「生きている生命を見ないで、どうしてそれを理解できるでしょうか?」というシンプルな問いかけに最初に感銘を受けた。

「それはとてもシンプルな言葉でしたが、私にとっては興味を掻き立てられるものでした」とゴールバーン氏はTechCrunchに語った。

細胞内の環境は絶え間なく動いている。タンパク質はねじれたり、回転したり、移動したりしている。しかしこの環境は、どのような顕微鏡下であっても、不可視であり続けてきた。

それは、科学者であるエリック・ベッツィヒ氏、Stefan W. Hell(シュテファン・W・ヘル)氏、William E. Moerner(ウィリアム・E・モーナー)氏の3氏が、生きた細胞の中の「ナノ領域を覗く」ことを可能にする技術を開発するまでの話である。この偉業によって、チームは2014年にノーベル化学賞を受賞した。具体的にいえば、ベッツィヒ氏は超解像蛍光顕微鏡を初めて開発した人物であり、この顕微鏡によって単一分子の動きの詳細な観察が可能になったのである。

生細胞内でのタンパク質の動き(画像クレジット:Eikon Therapeutics)

このイノベーションが、2019年の創業以来資金調達を続けてきたスタートアップの基盤となっている。ベッツィヒ氏が共同設立したEikon Therapeuticsは、超解像蛍光顕微鏡と、このような高性能顕微鏡によって収集されるデータ、そして新薬開発のためのその他数多くのツールの使用を計画しているバイオ医薬品企業である。

米国時間1月6日、同社は5億1780万ドル(約598億円)のシリーズBラウンドを発表した。これは2021年5月に発表された1億4800万ドル(約171億円)のシリーズAに続くものであり、これで同社の調達総額は6億6800万ドル(約771億円)を超えることになる。

シリーズBラウンドの新規投資家には、T. Rowe Price Associates(ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ)の助言を受けたファンドとアカウント、Canada Pension Plan Investment Board(カナダ年金制度投資委員会、CPP Investments[CPPインベストメンツ])、EcoR1 Capital(エコアールワン・キャピタル)、UC Investments(UCインベストメンツ、Office of the Chief Investment Officer of the Regents of the University of California[カリフォルニア大学理事会最高投資責任者室])、Abu Dhabi Investment Authority(アブダビ投資庁、ADIA)の100%子会社、Stepstone Group(ステップストーン・グループ)、Soros Capital(ソロス・キャピタル)、Schroders Capital(シュローダー・キャピタル)、Harel Insurance(ハレル・インシュアランス)、General Catalyst(ジェネラル・カタリスト)、E15 VC(イーフィフティーンVC)、Hartford HealthCare Endowment(ハートフォード・ヘルスケア・エンダウメント)、AME Cloud Ventures(アメ・クラウド・ベンチャーズ)などが名を連ねている。

Column Group(コラム・グループ)、Foresite Capital(フォレサイト・キャピタル)、Innovation Endeavors(イノベーション・エンデバー)、Horizons Ventures(ホライゾン・ベンチャーズ)、Lux CapitalはいずれもシリーズAラウンドの投資家であり、シリーズBに再び参加する。

「多くの人がプロプライエタリ技術という言葉を盛んに使用していますが、私の見解では、Eikonが持っているものはまさにプロプライエタリです」とゴールバーン氏は語っている。「それが新しい生物学の発見において独自のアドバンテージをもたらす力を持つことを、私たちは確実に認識しています」。

超解像顕微鏡法が大きな生物学的ポテンシャルを秘めていることは疑う余地はないが、薬剤開発への応用はどのようになされるのであろうか。

これについての1つの考え方は、タンパク質が細胞内で大部分の働きをしていることを思い起こすことである。例えば、タンパク質はシグナルを送ったり、化学反応を行ったり、より小さな分子を全身に輸送したりするのに役立っている。私たちは薬を服用するとき、その多忙なワークフォースに別のコンポーネントを導入して、それが特定のターゲットに結合し、体内ですでに起きている事象(おそらく問題を引き起こしている)を変化させることを期待する。

超解像顕微鏡のようなツールを使えば、他の種類の実験によって何が起きるかを推測するのではなく、生きた細胞に薬が導入されたときに何が起きているかを正確に知ることができる。さらには、これまで見えなかった新たなターゲットが明らかになるかもしれない。

「このように超高解像度の、細胞の中を覗くことができる単一粒子追跡顕微鏡を私たちは有しています」とゴールバーン氏は説明する。「このツールを軸に、ウェルに何百万もの細胞を加え、さらに何百万ものウェルを追加し、そのウェルに何百万もの薬のような化合物を加えることを想定すれば、生きているという意味での大規模な創薬研究に向かうことが期待できるでしょう」。

その一方で、Eikonの目下のフォーカスは、自社の創薬プラットフォームの「工業化」に置かれている。この詳細なタンパク質データを新薬の製造や既存薬のより良い理解に役立てるための、プロセスやツールの開発を進めている。

このプロセスは、業界でも指折りの人物である、Merck Research Laboratories(メルク・リサーチ・ラボラトリーズ)の元プレジデントで2020年にMerckからの引退を発表したRoger Perlmutter(ロジャー・パールムッター)氏によって監督されている。だが今回の最新資金調達ラウンドで、同社はさらに6人の経営幹部レベルの人材を迎え入れた。

最高科学責任者にRecursion Pharmaceuticals(リカージョン・ファーマシューティカルズ)で生物学担当VPを務めていたDaniel Anderson(ダニエル・アンダーソン)氏、最高技術責任者にPacific Biosciences(パシフィック・バイオサイエンシズ)の元エンジニアリング担当VPであるRuss Berman(ラス・バーマン)氏が就任する。最高財務責任者にはVeracyte(ベラサイト)でコーポレートおよびビジネス開発担当VPを務めていたAlfred Fredddie Bowie, Jr.(アルフレッド・フレディ・ボウイ・ジュニア)氏、最高人事責任者兼エグゼクティブバイスプレジデントにはPliant Therapeutics(プライアント・セラピューティクス)の元最高人事責任者であるBarbara Howes (バーバラ・ハウズ)氏を迎える。最高情報責任者としてPACT Pharma(パクト・ファーマ)の元最高情報責任者であるAshish Kheterpal(アシシュ・ケターパル)氏、ゼネラルカウンセルおよび最高ビジネス責任者としてMerck Research Laboratoriesでシニアバイスプレジデント兼BD&Lヘッドを務めたBen Thorner(ベン・ソーナー)氏が加わる。

ゴールバーン氏は、Eikonの技術はすでに工業化の準備が整っているという見方を示している。T. Rowe Priceの投資アナリストであるJohn Hall(ジョン・ホール)氏もプレスリリースの中で、Eikonの研究がすでに「タンパク質の動的挙動に関する大量の定量的情報を生み出している」ことに言及している。

「私の見るところ、現時点で工業化されています」とゴールバーン氏。「私たちは24時間年中無休で薬剤スクリーニングを行うことを考えています。それは私の心の中にある未来のバイオファクトリーです」。

同社は4つの匿名ターゲットプログラムを推進しており、パートナーは非公表の1社となっているが、ゴールバーン氏は、これらのプログラムがどのように進行しているのか具体的には明らかにしなかった。

この最新の資金調達ラウンドで、同社は100人のチーム(理想的には2倍の規模を想定しているとゴールバーン氏は述べている)を成長させ、プラットフォームの開発を加速し、すでに動きを見せている創薬プログラムの進歩を目指していく。

画像クレジット:Eikon Therapeutics

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

非動物由来のプロテイン製品開発に成功したThe EVERY Co.、卵市場に変化をもたらす

エッグプロテインという非動物由来のタンパク質を作る精密発酵技術を開発したThe EVERY Co.の2021年の業績が好調だ。

以前はClara Foodsとして知られていた同社は、4月にAB InBevの投資部門であるZX Venturesの投資先であるBioBrewと契約を結び、非動物由来のタンパク質を大規模に醸成することに成功した。EVERYの初の非動物性エッグプロテインは、2021年後半に最初の小売顧客との共同ブランド食材として発売される予定だ。

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そして米国時間12月7日、募集額以上に申し込みのあったシリーズCラウンドで1億7500万ドル(約198億8600万円)が集まったことを発表した。この投資は、新規投資機関のMcWinと既存投資機関のRage Capitalが共同で行い、ラウンドにはTemasek、Wheatsheaf Group、SOSV、TO Venturesなど、新規および既存の投資機関が参加した。EVERYによれば、Prosus Venturesも今回の資金調達に貢献しており、合成生物学への初の投資となった。

今回の投資により、EVERYの資金調達総額は2億3300万ドル(約264億8200万円)に達した。TechCrunchでは、2015年にEVERYが170万ドル(約1億9300万円)のシード資金を調達した際に紹介した。その後当社は、2019年にはシリーズAでさらに1500万ドル(約17億円)、シリーズBで4000万ドル(約45億4600万円)の資金を確保している。10月にはThe EVERY Co.に社名を変更した。

その際、CEO兼創業者のArturo Elizondo(アルトゥーロ・エリゾンド)氏は、プレスリリースを通じ「私たちの新しいブランディングは、21世紀のフードシステムを根本的に変革し、あらゆる場所のあらゆる人間が、その過程で地球や動物に害を与えることなく、慣れ親しんだ好きな食べ物を楽しむことができるようにするという私たちのビジョンを届けるものになっています」と語った。

The EVERY Co.の創業者兼CEOアルトゥーロ・エリゾンド(画像クレジット:The EVERY Co.)

社名変更に加えて、11月には初の非動物由来のエッグプロテイン「EVERY ClearEgg」を発売し、コールドプレスジュースブランドPressedとのパートナーシップによりEVERYの製品が入ったスムージーを作り、小売デビューを果たした。

エリゾンドは、これは同社の7年間の仕事の集大成だとTechCrunchに語った。そして2019年のシリーズBは技術を証明するためのもので、今回のシリーズCでは、製品を市場に投入し、資本を活用して規模の拡大を推進することができると付け加えた。

また、この2年間でEVERYは、収益予測値だった状態から収益を得るようになり、従業員が30人から60人に増え、すべての製品に対し米食品医薬品局の承認を得て、米国、欧州、アジアで販売するようになった。

今回の資金調達により、同社は生産規模の拡大、パイプラインのさらなる製品の商業化、そして技術の新たな食品用途への拡大を図ることができる。

エリゾンドはこう語る。「私たちは今、導入促進のためのスケールアップに注力しています。B2Cについては多くの報道がなされており、Kellogg’sやGeneral Millsのような企業も追いかけてこの種の製品を発売しようとしていますが、インフラが追いついていません。これらの技術が機能し、変化を可能にするためには、それに見合った規模が必要です。当社では、その配備を始めています」。

一方、卵市場はいまだに動物由来の卵に支配されている。世界で年間1兆3000億個以上の卵が生産されているが、EVERYはその卵市場に変化をもたらそうとしている。当社の調達額の大きさは、その技術が機能し、支持を得ているということを示している。

EVERYは、Simply Egglessや今夏の初めに2億ドル(約226億7600万円)を調達したEat Just、ベルリンに拠点を置くフードテック企業で、2022年第1四半期に鶏を使わないエッグ製品を発表したPerfeggtなど、同様の動物由来でないエッグ製品に取り組んでいる企業の仲間に加わっている。Perfeggtは11月に280万ドル(約3億1700万円)を調達している。

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エリゾンドは、この分野の企業が増えることは、競争ではなく「上げ潮はすべての船を持ち上げる」ものだと考えている。それよりも、認知度を高め、本物の卵と同じ割合で使用されるようにできるかが勝負だ。

「卵はほとんどすべてのものに使われている機能的な食材ですから、ただおいしいだけの製品を作っても上手くいきません。市場を席巻するためには、消費者が代わり、1:1の比率にならなくてはなりません。そうすれば既存の企業と対抗する最大のチャンスになります」と彼はいう。

Rage CapitalのマネージングパートナーであるGabriel Ruimy(ガブリエル・ルイミー)は声明文の中で「100年以上の歴史を持つ業界に革命を起こしたと確信をもって主張する企業は稀です。しかし、EVERYのアルトゥーロやそのチームは、まさにそれを実践しています」と述べている。

また、McWin Food Ecosystem Fundと世界で2300のレストランを運営するAmRestの創業者であるHenry McGovern(ヘンリー・マクガバン)は「レストラン業界は、新しい食品技術をいち早く取り入れ、消費者に紹介します。McWinは、レストランに深く根ざし、代替タンパク質のリーディングカンパニーに多くの投資を行ってきたことから、EVERYの製品を世界中のメニューに導入するという野心的な計画をサポートできる独自の体制が整っています。卵はどこにでもあるものであるだけでなく、代替することが非常に困難なものでもあります。EVERYの革新的な技術には大きな可能性を感じています」と述べている。

画像クレジット:The EVERY Co.

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(文:Christine Hall、翻訳:Dragonfly)

純粋数学もタンパク質生成も、人工知能におまかせを

人工知能(AI)が興味深い分野である理由の1つに、AIは何が得意なのかを誰も知らない、ということがある。12月2日号の「Nature」に掲載された最先端の研究所による2つの論文では、機械学習(ML)は、タンパク質生成のような技術的に難しい作業、純粋数学のような抽象的な作業のどちらにも対応し得ることが示されている。

最近話題になった、Google(グーグル)が買収したDeepMind(ディープマインド)やワシントン大学David Baker(デビッド・ベイカー)研究室による、タンパク質の物理的構造(フォールディング)の予測に対するAIの利用の実証結果を見れば、タンパク質の話はさほど驚くことではないかもしれない。偶然ではないが、この記事で紹介する論文を発表したのは、そのDeepMindとベイカー研究室である。

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DeepMindがAlphaFoldで折りたたみを行った人体のすべてのプロテオームをオンライン化

ベイカー研究室の研究によると、タンパク質配列がどのようにフォールディングされるかを調べるために作成したモデルは、本質的に反対(逆)のことをさせることができるという。つまり、特定のパラメータを満たす新しいタンパク質配列を生成し、in vitro(試験管内)のテストで想定通りに機能させることができるというのだ。

タンパク質の構造を予測するために作成されたAIが、逆に新しいタンパク質を作ることもできるという発見は重要である。なぜなら、絵の中のボートを検出するAIがボートを描けないとか、ポーランド語を英語に翻訳するAIが英語をポーランド語に翻訳することができないという例はあっても、逆のことができるかどうかは必ずしも明らかではなかったからだ。

逆方向の可能性の研究は、SalesForce Research(セールスフォースリサーチ)のProGen(プロジェン)など、すでにさまざまなラボで行われている。しかし、ベイカー研究室のRoseTTAFoldとDeepMindのAlphaFoldは、プロテオームの予測の精度という点では圧倒的に優れており、これらのシステムのテクノロジーを創造的な活動に活かせるというのは喜ばしいことだ。

AIの抽象化

一方、Natureの表紙を飾ったDeepMindの論文は、AIが数学者の複雑で抽象的な作業を支援できることを示している。これは数学の世界を覆すものではないが、機械学習モデルが数学をサポートできるということを示す、実に斬新で、これまでになかった成果だ。

この研究は、数学とは主に関係性とパターンの研究である、という事実に基づいている。例えば、あるものが増えれば別のものが減り、多面体の面が増えればその頂点の数も増える。これらの事象はシステマチックなので、数学者はこれらの正確な関係性を推測することができる。

中学校で習う三角関数は、そのシンプルな例だ。三角形の内角の和が180度になることや、直角三角形の斜辺以外の辺の二乗の和が斜辺の二乗になるというのは三角形の基本的な性質である。しかし、8次元空間にある900辺の多面体ではどうだろう。a2 + b2 = c2のような公式を見つけることができるだろうか?

結び目の幾何学的表現と代数的表現という2つの複雑な性質の関係を示す例(画像クレジット:DeepMind)

観察された事象が偶然のものではなく普遍的なものであることを確信するためには、多くの例を調べる必要があるが、数学者による作業には限界がある。DeepMindはここにAIモデルを導入し、省力化を図ることにした。

オックスフォード大学のMarcus du Sautoy(マーカス・デュ・ソートイ)教授(数学)は、DeepMindのニュースリリースの中で「コンピューターは人間が追随できない規模のデータを出力することに長けているが、(今回の場合)異なるのは、人間だけでは検出できなかったであろうデータのパターンを拾い出すAIの能力である」と説明している。

このAIシステムにサポートされて得られた実際の成果は筆者が理解できる範囲をはるかに超えているが、読者の中に数学者がいれば、DeepMindから引用された以下の内容を理解してもらえると思う。

ある有向グラフと多項式の間には関係があるはずだという「組み合わせ不変性予想」は、40年近く進歩を拒んできました。MLの技術を用いて、そのような関係が実際に存在するという確信を得ること、そしてその関係が、破れた二面体の間隔や極値反射などの構造に関連しているのではないか、という仮説を立てることができました。この知識をもとに、Geordie Williamson(ジョーディー・ウィリアムソン)教授は、組み合わせ不変性予想を解決する、驚くべき美しいアルゴリズムを予想することができました。

代数学、幾何学、量子論には(結び目について)独自の理論があります。これらの異なる理論がどのように関係しているかというのは長年の謎でした。例えば、結び目の幾何学は代数学について何を教えてくれるのでしょうか?私たちは、そのようなパターンを発見するためにMLモデルをトレーニングしました。驚くべきことに、これにより、ある特定の代数的な量(表現)が結び目の幾何学と直接関係していることがわかりました。これまで明らかではなく、既存の理論でも示唆されていなかったことです。私たちはMarc Lackenby(マーク・ラッケンビー)教授と協力し、MLの帰属手法を使って、これまで見過ごされていた構造の重要な側面を示唆する、自然な傾きと呼ぶ新しい量を発見しました。

この予想は、何百万、何千万もの例で裏づけられているが、自分の仮説を厳密に検証するよう指示するのにピザやコーヒーをおごる必要がない、というのもコンピューターの利点である。

上述の例は、DeepMindの研究者たちと教授たちが緊密に協力して(MLの)具体的な利用方法を考え出したものなので「(AIは)普遍的に純粋数学のアシスタントである」といえるものではない。しかし、ルール大学ボーフムのChristian Stump(クリスチャン・スタンプ)教授がNatureのSummaryで述べているように、これが機能するということは、そのようなアイデアに向けた重要な一歩である。

スタンプ教授は次のように記す。「どちらの結果も、その分野の研究者にとって必ずしも手の届かなかったものではありませんが、どちらも、これまで研究者が見つけられなかった真の洞察を提供しています。従って、今回の成果は、抽象的な枠組みの概要以上のものです」「このようなアプローチが広く適用できるかどうかはまだわかりませんが、Alex Davies(アレックス・デイビス)等(ら)の論文は、数学研究における創造的プロセスをMLツールにサポートさせる手法の有望性を示しています」。

画像クレジット:DeepMind

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

霜降り技術が売りの植物性ステーキ開発Juicy Marblesが5.1億円を調達

スロベニアのスタートアップJuicy Marbles(ジューシーマーブルズ)のおかげで、肉を食べる人に対し、環境にやさしい食事をするよう説得することが(それが矛盾に聞こえなければ)少し楽になるかもしれない。同社は、植物性のホールミートカット(塊肉)を作る方法を開発した。

「Fancy Plant Meat(すてきな植物性肉)」は、フィレミニョンステーキやその他の(動物)肉の「プライム」カットに代わる、ヴィーガン向けの同社製品を表現する力強い売り文句だ。

リュブリャナを拠点とするこのスタートアップは、植物性タンパク質の最高級品を市場に投入するため、450万ドル(5億1000万円)の資金調達を発表した。前述の(ヴィーガン)フィレミニョンを皮切りに、2022年第1四半期の発売を予定している。

なぜフィレスミニョンなのか。それは、独自に開発した「霜降り技術」を最もよく発揮できるカットだからだ。また、フィレミニョンを選んだのは、このカットが(肉の)ステーキの「王冠の宝石(重要部分)」と考えられているからだという。

さらに、高級フェイクミート市場は比較的競争が少ない。それに対し、ハンバーガーソーセージベーコンチキンテンダーなどの、派手さが少なく、カットがより小さい代替タンパク質製品は、製造する企業が多数存在する。そのため、大きなサイズでがっしりとしたものにすることは、盛り上がる代替タンパク質市場で目立つための1つの方法だ。

「他のホールカットに先駆け、まずはフィレスミニョンから始めることにしました。フィレミニョンはステーキ界の『王冠の宝石』であり、当社の霜降り技術が最もよく発揮されるからです。当社の明確かつ決定的なセールスポイントと言えるでしょう」とJuicy MarblesはTechCrunchに語った。

「私たちは、最も高価なカットだけではなく、サーロイン、ランプ、フィレ、トマホーク、和牛、そしてフィレミニョンで知られるようになりたいと思っています。長期的には、フィレミニョンをより手頃な価格で、植物性であることによる経済性の違いを考慮した上で、入手しやすいものにしていきたいと考えています」。

Juicy Marblesのフィレミニョンにかぶりつくとき、あるいはかぶりつくとして、実際に食べているのは何だろうか。主なタンパク質は大豆だ。大豆は栄養価が高く、環境的にも持続可能であると同社は主張している。

「大豆栽培が森林破壊を引き起こしているという問題があります。これは、大豆栽培が家畜を育てるために必要とされるからこその問題です。大豆生産量の97%は家畜の飼料として使われており、もし私たちの肉がすべて植物由来になれば、大豆栽培の悪影響は単純になくなってしまうでしょう」と同社はいう。「人間が食べるための作物として、純粋に人間が消費する大豆に必要な土地ははるかに少なく、現在必要とされている農地の3分の1以下になるでしょう」。

大豆は用途が広い。Juicy Marblesは、あらゆる形態で食べることができると指摘する。生、ドライ、プレーン、発芽、粉末、発酵といった状態の他、豆腐、ソース、スープ、デザート、飲み物などとして摂取することができる。同社は「大豆中心のフードカンパニー」となることで、より柔軟に料理を提供できると述べている。

例えば、大豆を使ったマグロのステーキなどのアイデアがある(動物性ではない、マグロ代替品を最初に市場に出す会社というわけではない。例えばYCが支援するKuleanaなどがある)。

「私たちのビジネスは、タンパク質の食感というコンセプトを基盤としています。これこそが、人々が安価な肉と比較してステーキに惹かれる決定的な要因なのです。植物性食肉のホールカットの分野では、あまり革新的な技術がなく、誰も高級品を模したステーキを開発することができませんでした」と同社は語る。「この分野でも脱炭素化や植物由来の代替品のニーズがあることを考えると、これは大きなライバル企業が開拓していない巨大な機会だと思います」。

画像クレジット:Juicy Marbles

「植物由来の製品といえば、現在はハンバーガーやソーセージ、ベーコンなどの安価なカットに限られています。また、チキンテンダーやツナ缶などの塊もありますが、ホールカットはありません」と付け加えた。

Juicy Marblesは、どのようにしてこのような大量のフェイクミートを製造できるのかを明らかにしていない(タンパク質の霜降り技術を解明しようと「多数の大手食品会社が嗅ぎ回っている」と主張している)。

しかし、同社は、自社の知的財産が確実に保護されるようになれば、より透明性が高まるとしている。

同社は、植物性ステーキが研究室で栽培されたものでも、3Dプリントされたものでもないことを明記した上で、特許出願中の独自の3D組み立て技術を使用しており、これによって「形状、食感、霜降り、味、香り、栄養を完全にコントロールした、A5等級の高級肉」を作ることができると主張している。

もちろん、これらの主張の真偽は食べることで明らかになる。しかし、Juicy Marblesは「高レベルの霜降り効果」と「大胆で豊かな風味」の両方で肉を食べる人は驚くはずだ、という。

また、発売時には「平均的な価格」のフィレミニョンと「同等」の価格を実現するが、最終的には(「2〜3年以内に」)ステーキ1枚あたりのコストがより手頃価格の肉を買うのと同じになるよう縮小していくとしている。

Juicy Marblesは、植物性ステーキには非飽和脂肪酸が使用されており、肉類に比べてナトリウムが少ないこともメリットだと指摘している。なので、植物性ステーキへの切り替えを検討する健康上の理由付けがあるかもしれない(地球上の生命の未来が十分に大きな理由ではない場合)。

今回のシードラウンドは、植林活動を行う検索エンジンEcosiaが新たに設立したWorld Fund(3億5000万ユーロ=約448億円の基金)がリードしている。同ファンドは、地球の脱炭素化に役立つテックに取り組んでいるスタートアップにフォーカスしていて、TechCrunchは2021年10月同ファンドの立ち上げを取り上げた(Juicy MarblesはWorld Fundの最初の投資先だ)。

このファンドのゼネラルパートナーDanijel Visevic(ダニジェル・ビシェビッチ)氏は、声明で次のように述べた。「近年、地球と自分の健康のために真の変化を起こしたいと願う世代によって、植物由来の代替品へのシフトが起こっています。しかし、多くの場合、代わり映えのしないものを目にしたり、ホールカット肉のようなちょっとした贅沢を諦めることができず、完全な植物性食品への移行に抵抗を感じたりしています。Juicy Marblesのチームは、これを真に理解しています。チームの現実的で熟考されたアプローチは、彼らの技術力、そして食欲(!)と相まって、植物性食品のパズルの主要な部分をついに解明しました。チームに加わり、今後数カ月、数年のうちにどれほどのインパクトを与えるかを目撃できることに興奮しています」。

今回のラウンドには、Agfunderの他、Y CombinatorやFitbitなどのエンジェル投資家が参加している。

Juicy Marblesによると、今回の資金調達は、植物由来のステーキを小売市場に投入するための生産規模の拡大に使用される。

同社は、こだわりのある食料品店やレストランだけでなく、スーパーマーケットへの販売も計画している。しかし、生鮮食品を個人の消費者に配送するための「地球に優しい」梱包は複雑であるため、消費者への直接販売は特別なオファーに限られるとのことだ。

また、同社はチームを拡大し、新しいカットの開発含むR&Dをさらに強化する予定だ。

「学習サイクルとして、次のラウンドでは、植物性肉のギガファクトリーを設立して事業規模を拡大し、植物性肉の価格をさらに下げることができます」とも話す。

ちなみに、Luka Sinček(ルカ・シンチェク)氏、Maj Hrovat(マジ・フロヴァット)氏、Tilen Travnik(ティレン・トラブニク)氏、Vladimir Mićković(ウラジミール・ミッチコビッチ)氏の創業チームにはヴィーガンと肉食のどちらもいる。

画像クレジット:Juicy Marbles

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

フードテックPerfeggtが植物由来の代替卵販売に向け3.2億円調達

世界市場では、乳製品や肉などの植物由来の代替品の売上が急増しており、Perfeggtは卵でも同じことをしたいと考えている。

ベルリン拠点のフードテック企業Perfeggtは、2022年第1四半期にドイツ、スイス、オーストリアでニワトリが存在しない卵製品をデビューさせようとしている。まず製品を立ち上げ、その後2022年後半にヨーロッパで事業を拡大すべく、同社は現地時間11月25日、初のラウンドで280万ドル(約3億2000万円)を調達したことを発表した。

このラウンドの出資者は、EVIG Group、Stray Dog Capital、E2JDJ、Tet Ventures、Good Seed Ventures、Sustainable Food Ventures、Shio Capitalだ。

PerfeggtのCEOであるTanja Bogumil(タンジャ・ボグミル)氏は、Lovely Day Foods GmbHの傘下にあるPerfeggtを、EVIGの創業者でCEOのGary Lin(ゲーリー・リン)氏、ドイツのベジタリアン・ビーガン食肉メーカーRügenwalder Mühleで長年R&D責任者を務めたBernd Becker(ベルント・ベッカー)氏と2021年初めに共同で設立した。

Perfeggtの共同設立者、左からベルント・ベッカー氏、ゲーリー・リン氏、タンジャ・ボグミル氏(画像クレジット:Patrycia Lukaszewicz)

「私たちはもっと良い食べ物を食べるべきだと心から信じています」とボグミル氏は話す。「私の母方の家系は小規模な農業を営んでいたので、私たちが食べるものがどこからくるのかを常に意識してきました。12歳のときにベジタリアンになったのは、叔父が屠殺場に連れて行ってくれて、自分が食べていたソーセージが正しい方法で作られていないことを教えてくれたからです。そこで起こっていることを完全に理解していたわけではありませんが、正しいとは思えませんでしたし、人道的とも思えませんでした」。

すでにサステイナビリティが確立されている乳製品とは異なり、卵はまだ未開発の部分が多いとボグミル氏は考えている。確かに、Simply Egglessや、2021年夏の初めに2億ドル(約230億円)を調達したJust Eatなど、同様の植物性代替品を製造する企業はある。しかし、世界では年間1兆3000億個以上の卵が生産されており、つまり成長の余地があり、用途も多様だとボグミル氏はいう。

Perfeggtの最初の植物性卵製品は、空豆から作られたタンパク質が豊富な液体の代替品だ。この製品は、フライパンでスクランブルエッグやオムレツのように調理することができる。同社はまず、外食産業向けに製品を発売する予定だ。

他の食品と同様、味が肝心だ。この製品では、口当たり、感覚、風味、食感が似ているものを目指したが、これらの要素はすべて、人々が植物性の代替品に切り替えるために必要だとボグミル氏は話す。

「これは、私たちが時間をかけて見つけ出したものです。私たちの製品は、これらの用途に必要な機能性を模倣するのに非常に適した空豆を中心に作られています」と同氏は付け加えた。

そのため、ドイツのエムスランドにあるPerfeggtの研究開発拠点では、生命科学の研究で知られるワーヘニンゲン大学・研究機関と緊密に連携し、動物性食品の栄養的・機能的特性に最も近い植物性タンパク源とその組み合わせを検証している。

今回の資金調達により、同社は本社と研究開発施設のチームを増強する。同社では現在、食品科学者、マーケティング、研究開発を担う人材を募集している。

一方、ボグミル氏は、卵の代替品の分野に参入する企業が増えることは、人々を植物性食品にシフトさせるというPerfeggtの使命につながると考えている。

「これは1人勝ちの市場ではありません」と同氏は話す。「代替タンパク質がこれほどまでにメインストリーム市場に近づいたことは、歴史上初めてのことです。明らかに、これは資本市場に反映されており、ニッチ市場の開拓だけでなく食の未来にも影響を与えています」。

E2JDJの設立パートナーであるStephanie Dorsey(ステファニー・ドーシー)氏は、声明文で次のように付け加えた。「私たちは、次世代の代替タンパク質を開発し、人間や地球、動物の健康を向上させるソリューションを見つけたPerfeggtの急速な技術進歩に、非常に感銘を受けています。卵市場は巨大な機会であり、これは始まりにすぎません」。

画像クレジット:Patrycia Lukaszewicz

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

植物由来のタンパク質を利用して安価に細胞肉を生産するTiamat Sciences

細胞培養培地とは、実験室で育てた食肉を低コストで生産する細胞農業の構成要素だ。しかしそのための成長因子すなわち試薬を作る従来からの方法はそれ自体が高費用で、大量生産が困難だった。

報道によると、実験室で育てた食肉を使ったバーガーは1個が約50ドル(約5750円)になるが、新技術はそれを2030年までにはもっとリーズナブルな1ポンド(約450g)3ドル(約340円)にまで下げるという。

Tiamat Sciencesは、高価なバイオリアクターに代わるコスト効率の良い生物分子を開発しているバイオテックスタートアップの1つだ。米国時間11月24日、同社はTrue Venturesがリードするシード投資で300万ドル(約3億4000万円)を調達したことを発表した。これには、 Social Impact CapitalとCantosが参加した。

Tiamet Sciencesの創業者でCEOのフランス-エマニュエル・アディル氏(画像クレジット:Tiamet Sciences)

CEOのFrance-Emmanuelle Adil(フランス-エマニュエル・アディル)氏は2019年に同社を創業し、独自の植物分子の育成による非動物性たんぱく質の生産を目指している。そのやり方は、バイオテクノロジーと垂直農業と、コンピュテーションデザイン(コンピューターによる設計工程)を結びつけて、独自の組み換え型プロテインを作るものだ。

「現在のものは、培地で使われている成長因子が高価です。私たちはコストを大幅に下げて、食肉と同じ価格にできます」と彼女はTechCrunchの取材に対して語った。

アディル氏の推計では、今日の成長因子は1グラム生産するのに200万ドル(約2億3000万円)必要となるが、Tiamat Sciencesなどの努力により、そのコストは今10分の1まで下がっており、2025年までには1000分の1に下げて量産を可能にしたい、という。

300万ドルのシードラウンドの前、2021年7月に小さなラウンドを行ったので、同社の総調達額は340万ドル(約3億9000万円)になる。アディル氏が大きくしたいと願う同社はベルギーに本社があったが、現在、5月にノースカロライナへ移転した。

新たな資金は、ノースカロライナ州ダラムにパイロット的な生産設備を作ることと技術開発に充てるという。同社はすでに、カーボンニュートラルに向かう途上にいる。

顧客については、まだ公表できる段階ではないが、リリースを目的とする最初のプロダクトは年内を目処に開発している。それによりTiametは顧客がテストするためのサンプルを送れるが、2022年中にはそれらの企業が何らかのかたちでパートナーになる、と彼女は考えている。

アディル氏によると、Tiamatのやり方は食品以外に再生医療やワクチンの製造などにも応用が効くという。

「その成長因子は、似たような工程の他の業界にも移せる」と彼女は語る。「2022年の終わりごろには拡張に励んでいるでしょう。プラント数の拡張は急速にできるため、その頃には、プラント数は10万に達しているはずです。このような規模拡大を助けてくれそうな企業と現在、協議しています」。

True Venturesの共同創業者であるPhil Black(フィル・ブラック)氏によると、Tiamat Sciencesへの投資はTrue Venturesの植物ベースのポートフォリオと相性が良い。最初に調達した資金で、同社の技術が有効であることを多くの人たちに証明し、プロダクトの試作を行った。そしてその次の大きなラウンドでは、リットルからガロンへと規模拡大を行なう。

「細胞肉産業はこれからも続くでしょう。そして今、人々はそれを自分たちのために利益を上げ、より多くのものを作ることに興味を持っています。限られた要素が存在しており、Taimatのソリューションはゲームチェンジャーとなるでしょう」とブラック氏はいう

関連記事:培養肉の最大の問題点に立ち向かうカナダ拠点のFuture Fields、培養を促す安価で人道的な材料を発見

画像クレジット:Tiamet Sciences

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(文:Christine Hall、翻訳:Hiroshi Iwatani)

「動物なし」のモッツァレラチーズの商品化を進めるNew Cultureが約28億円を獲得

Allied Market Research(アライド・マーケット・リサーチ)によると、チェダーやモッツァレラの販売に牽引され、米国のチーズ市場だけでも2019年には343億ドル(約3兆9300万円)、2027年には455億ドル(約5兆2200万円)に達し、年平均成長率は5.25%になると予測されている。

それに比べて、ヴィーガンチーズの業界は小さく、同社の調査によると、2019年の市場規模は約12億ドル(約1370億円)、2027年には44億ドル(約5050億円)に達すると予測されている。

しかし、このような大きなギャップにもかかわらず、シンジケートの投資家たちの「牛がいない牛のチーズ」を販売するNew Culture(ニュー・カルチャー)への、シリーズAでの2500万ドル(約28億6900万円)の資金投入は止まらなかった。それどころか、投資家たちは、ベイエリアを拠点とする設立3年目のこのスタートアップ企業が、動物を使用しないモッツァレラを通じて、市場を大きく成長させることができると考えている。投資家のSteve Jurvetson(スティーブ・ジュルベッソン)氏によれば、味も香りも伸び方もミルクチーズのようであり、彼が「これまでのところ、非常に不愉快だ」と表現したほとんどのヴィーガンチーズとは一線を画す。

ジュルベッソン氏によると、不足している成分は牛乳のカゼインタンパク質で、これまでは牛乳からしか摂取できなかったという。一方、New Cultureでは、精密な発酵プロセスにより、カゼインタンパク質を大量に生産しているという。VegNewsの記事に説明されているように、New Cultureは、巨大な発酵タンクを使って、糖液を与えた後に目的のタンパク質(αカゼイン、κカゼイン、βカゼイン)を効果的に発生させるよう微生物にDNA配列を注入しているそうだ。

その後、カゼインを回収し、水、植物性油脂、ビタミン、ミネラルなどと混ぜ合わせてモッツァレラを作る。

コレステロールや乳糖が含まれていないため、より健康的な製品ができあがる。また、環境にも優しい。実際、乳製品を使ったチーズを1oz(28.35g)生産するのに必要な水の量は56gal(約211L)といわれている。(土地の使用量もはるかに少なくて済む)。

なお、New Cultureのモッツァレラは近所の食料品店では販売されていない。まだいまのところは。計画では、まず2022年から全国のピザ屋にこのチーズを卸すことになっている。

ニュージーランド出身で、遺伝学と微生物学を学び、以前は教育関連のレビューサイトを立ち上げて販売していたNew Cultureの共同設立者兼CEOのMatt Gibson(マット・ギブソン)氏は、最終的には、ヨーグルトやアイスクリーム、さらには牛乳も作ることができるだろうと述べている。しかし、当面はモッツァレラが中心であることを強調した。

New Cultureのラウンドは、Ahren Innovation Capital(アーレン・イノベーション・キャピタル)とCPT Capital(CPTキャピタル)がリードした。また、ADM Ventures(ADMベンチャーズ)、Be8 Ventures(ビーエイト・ベンチャーズ)、S2G Ventures(S2Gベンチャーズ)、Marinya Capital(マリンヤ・キャピタル)、そしてジュルベッソン氏とパートナーのMaryanna Saenko(マリアンナ・サエンコ)が運営するFuture Ventures(フューチャー・ベンチャーズ)が新たに参加した。

今回の資金調達には、SOSVのIndieBioプログラム、Bee Partners(ビー・パートナーズ)、Mayfield(メイフィールド)、Bluestein Ventures(ブルースタイン・ベンチャーズ)、Kraft Heinz(クラフト・ハインツ)のコーポレートベンチャー部門であるEvolv Ventures(エボルブ・ベンチャーズ)など、以前からの支援者も参加している。

画像クレジット:New Culture

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(文:Connie Loizos、翻訳:Akihito Mizukoshi)

タンパク質ベースの医薬品を開発するGenerate BiomedicinesがシリーズBで422億円調達

医薬品開発の分野に引き寄せられる投資が増え続けている。米国時間11月18日には、Generate Biomedicines(ジェネレート・バイオメディシンズ)が3億7000万ドル(約422億円)のシリーズBラウンドを発表した。

同社は、プラットフォームをベースとした医薬品開発のアプローチをうたっているが、独自のひねりを加え、タンパク質に取り組んでいる。

同社の仮説はシンプルだ。自然界(あるいは多くの場合、科学的なデータや文献)にすでに存在するタンパク質とターゲットを結びつけるのではなく、全体像を理解することを目指している。つまり、どのようにタンパク質が作られ、なぜそれらがそう振る舞うのか(つまり、基本的には体内のすべてのこと)についての「基礎的な原理」の理解だ。最終的な目標は、その知識を利用し、いつの日か「生命の機能の大部分」を動かせる新しいタンパク質を作ることだ、とCEOのMike Nally(マイク・ナリー)氏はTechCrunchに語った。

この3年間で、同社はそのような基本原理を実用化することができた。

「私たちは、抗体、ペプチド、酵素、細胞治療、遺伝子治療など、あらゆるタンパク質の形状で、新しいタンパク質を生成することができました」とナリー氏は話す。

Generate Biomedicinesは、Moderna(モデルナ)の投資家であるFlagship Pioneeringが育てた、優れた企業の1つだ。Generate Biomedicinesは、2020年にステルスモードから脱け出し、Flagship Pioneeringから5000万ドル(57億円)の初期投資を受けた。新たに創業したAlltrnaのような、Flagship Pioneeringが投資する他の会社と同じ事が起きた。

この最新のラウンドは、Generate Biomedicinesにとって、初めて外部から資金調達するという重要な試みだ。このラウンドでは、Alaska Permanent Fund、Altitude Life Science Ventures、ARCH Venture Partnersや、T. Rowe Price Associatesが顧問を務めるファンドや口座の他、Flagship Pioneeringも追加で投資した。

これまでのところ、Generate Biomedicinesは関心を集めることに苦労していないようだ。

一方で、同社は一般的なトレンドの追い風を受けている可能性もある。創薬に対するベンチャーキャピタルの投資額は、2019年から2020年にかけてほぼ倍増し、162億ドル(約1兆8500億円)に達した。一方、AIによる医薬品開発への投資も雪だるま式に増えている。スタンフォード大学の2020年のレポートによると、2020年には139億ドル(1兆5800億円)に達し、2019年の資金調達の4倍以上の水準になった。2021年8月には、Signify Researchのレポートによると、資金調達額は107億ドル(約1兆2200億円)に達した。

今回のラウンドは大規模だが、Insilico Medicineの2億5500万ドル(約291億円)のシリーズCや、 Cellarity(Flagship Pioneeringが投資するパイオニア企業)の1億2300万ドル(約140億円)のシリーズBなど、類似領域の企業に2021年見られた数字からそれほど遠くはない。

Generate Biomedicinesの経営陣によると、今回の規模のラウンドが達成できたのは、タンパク質生物学やタンパク質ベースの医薬品開発に新たに取り組んできたおかげだ。

治療用タンパク質、特にモノクローナル抗体は、医薬品市場で大きなシェアを占めるようになっている。2018年に最も売れた薬トップ10のうち、7つがモノクローナル抗体だった。Bioprocess Internationalの2020年のレポートによると、過去5年間、全世界でのモノクローナル抗体の売上高は、他のバイオ医薬品よりも速く成長した。

モノクローナル抗体は、おそらく腫瘍学や免疫学の領域で最もよく知られている。しかし、使用例は拡がっている。例えば、Eli Lilly(イーライリリー)が新型コロナウイルス治療のために製造しているようなモノクローナル抗体は、治療用タンパク質の一例であり、読者はすでに耳にしたことがあるかもしれない。

Generate Biomedicinesはあらゆるタンパク質を視野に入れているが、当初は抗体の開発に注力していた。ナリー氏によると、抗体はタンパク質ベースのバイオ治療薬市場の約60%を占める。

しかし、抗体の開発は青写真のほんの一部にすぎない。共同創業者であり、チーフストラテジーイノベーションオフィサーであるMolly Gibson(モリー・ギブソン)氏は、タンパク質の機能の基本原理に着目すれば、タンパク質をオーダーメイドで設計できると語る。

スケールの大きさを理解するために、生命誕生以来、自然淘汰の過程で洗練されてきたすべてのタンパク質を思い浮かべて欲しい。そうしたタンパク質は、生命の構成要素であるタンパク質のごく一部にすぎないのだ。

「生命の歴史の中で自然界に残った配列空間の量は、地球上のすべての海に含まれる水のたった一滴に相当します」とギブソン氏は語る。

Generate Biomedicinesは、現存する未利用のタンパク質を発見するのではなく、人間が作ることのできる他の機能性タンパク質を、人工知能を使って理解するアプローチをとる。

とはいえ、治療用タンパク質は簡単に作れる薬ではない。歴史的に見ても、免疫システムは新しいタンパク質を受け入れないことが多い。しかし、ギブソン氏は、同社の技術がこの障害を克服できると話す。同社は、免疫原性とタンパク質の機能を「ともに最適化」することができるという。

「そのために、免疫系がタンパク質をどのように認識するかを測定する独自の実験手法と機械学習アプローチを開発しました。それらにより、免疫系による認識を避けることができます」とギブソン氏は語る。

全体として、Generate Biomedicinesは自らを医薬品メーカーであると同時にプラットフォームでもあると考えている。同社は、前臨床段階にあるいくつかの医薬品候補を抱える(重点的に取り組んでいるのは、感染症、腫瘍学、免疫学だとナリー氏はいう)。目標は、2023年までに治験薬として認可されることだ。

しかし、同社の最大の伸びしろは、タンパク質ベースの医薬品開発プロセス全般を円滑に進めるためのプラットフォームであることだとナリー氏はいう。同氏は過去に、提携が戦略の一部になると指摘していた。これまでのところ、同社は何も公表していない。だが同氏は、同社が深い疾患領域の専門知識や、特定のターゲットに関する専門知識を持つパートナーを探していると付け加えた。

今回の資金調達により、Generate Biomedicinesは従業員を500人に増やす予定だ(現在の従業員数は80人)。また、ウェットラボ、機械学習、データ生成能力を拡張するために、2つの施設を建設中だ。

画像クレジット:JUAN GAERTNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

ヒトタンパク質を使い母乳に最も近い乳児用ミルクを開発するHelainaが約22億円を調達

世界初となる乳児用ミルクを製造しているHelaina(ヘライナ)は、最初の製品の製造と商業化プロセスを開始して次の成長段階へ進むため、シリーズAで2000万ドル(約22億円)を調達したと発表した。

ニューヨーク大学で食品科学を教えている食品科学者のLaura Katz(ローラ・カッツ)氏は2019年に同社を設立した。「機能性ヒトタンパク質を食品用に製造する初の企業」とうたっている。

これを実現すべくHelainaは、母乳に含まれるものとほぼ同じタンパク質を開発するために酵母細胞をプログラムして製造のハブとなるように教える精密な発酵プロセスを活用している。

「私たちがHelainaを始めたとき、多くの産業に多くのテクノロジーが導入されていましたが、赤ちゃんへの栄養補給はあまり進展していませんでした」とカッツ氏はTechCrunchに語った。「どの人々の栄養と健康を向上させるかを考えたとき、乳幼児と親が真っ先に思い浮かびました」。

2026年には1030億ドル(約11兆7300億円)の市場になると言われている乳児用粉ミルク市場が成長する一方で、幼少期の子どもたちにどのような食事を与えるべきかについては、恥ずべき部分や偏見が残っている。Helainaは、誰もが手に入れやすい価格の食品を親に提供するだけでなく、親が自分の選択を検討するのをサポートすることを目指している。

Helainaは、最初にタンパク質を作り、現在は母乳のすべての成分を1つずつ作りたいと考えている。Helainaの製品はカロリーを供給するだけでなく、真菌、細菌、ウイルスなどの病気に対する免疫力を高めるのにも役立つ。

今回の資金調達はSpark CapitalとSiam Capitalが共同でリードし、Plum Alleyと Primary Venture Partnersも参加した。今回のラウンドにより、Helainaの資金調達総額は2460万ドル(約28億円)となり、その中には2019年と2020年に行われたプレシードとシードの合計460万ドル(約5億円)が含まれているとカッツ氏は話した。

シリーズAは計画的なラウンドだったが、カッツ氏が予想外だったと指摘したのは、投資家からの同社に対する「圧倒的な関心」だった。

「資金調達をしてわかったことは、私たちがやっていることに個人的なつながりがあるということです」とカッツ氏は付け加えた。「フードテックの分野では多くのことが起こっていますが、この技術を人々の心に近い製品に使うことができるのを目にするのはすごいことです。多くの人が私たちの取り組みに興味を持ってくれています」。

今回のシリーズAでは、商品化に向けて製造パートナーとの連携を強化する。その目的は、製造能力を高め、経営陣を充実させ、市場投入計画を最終決定することにある。

同社は、米国食品医薬品局から製品の承認を得ることを目指している。その後、臨床的に証明された多数の消費者向け製品に同社のタンパク質を使用する計画で、 これは本質的に栄養の定義を免疫にまで広げ、消費者部門に新たなカテゴリーを創出するものだ。

より栄養価が高く、母乳に最も近いミルクを作ろうとしているのは、Helainaだけではない。2021年初めには、ヨーロッパのブランドをモデルにしたミルク開発のためにBobbieがシリーズAで1500万ドル(約17億円)を調達した。ByHeartもミルクを開発中で、Biomilqは「世界で初めて母乳以外の細胞培養された母乳」を製造したとしている。

カッツ氏は、自社が行っているタンパク質の製造方法や、健康面でより優れた製品を作ることに注力している点が、競合他社との違いだと話す。

「Helainaは、ヒトのタンパク質を食品に導入した最初の会社です 」とカッツ氏は付け加えた。「これまで誰もやったことがありません。育ち盛りの子どもに食べさせるための技術を親に展開することで、消費者向けの免疫学のようなこの新しいカテゴリーを創出しているのです」。

一方、同社はSita Chantramonklasri(シタ・チャントラモンクラスリ)氏が新たに設立したファンドSiam Capitalの最初の投資先の1つだ。チャントラモンクラスリ氏によると、同ファンドは持続可能性と消費者のニーズが交差するビジネスに投資しているという。

チャントラモンクラスリ氏はフードテック分野に多くの時間を費やしており、カッツ氏とつながるずいぶん前にSpark Capitalのシードラウンドを担当したKevin Thau(ケビン・タウ)氏からHelainaのことを聞いた。

当時、チャントラモンクラスリ氏は母乳の分野を深く掘り下げ、Helainaの競合他社の斬新な技術に注目していた。同氏はカッツ氏と多くの時間を過ごし、カッツ氏の背景やHelainaがこの分野で何をしているのかを理解した。実験室で過ごし、同社の酵母工学の取り組みを見て、Helainaは科学的に優れた製品を提供していると感じた、とチャントラモンクラスリ氏は話した。

「ローラはすばらしい創業者で、年齢以上に賢く(29歳!)、Helainaのミッションを見届けたいと思っています」と付け加えた。「市場の競争はますます激しくなり、顧客のロイヤリティと同様にタイミングが勝負です。Helainaは、母親や家族の擁護者となるべき立場にあります。技術的な観点からは、何が起こるかを判断するのは時期尚早です。Biomilqのような他の細胞培養技術にも革新が見られますが、Helainaは進歩の面でこの分野のリーダーとなるでしょう」と述べた。

画像クレジット:Helaina / Helaina founder Laura Katz

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

バイオテックのスタートアップShiruが新規資金で植物由来原料の「発酵」を促進

タンパク質生化学者のJasmin Hume(ジャスミン・ヒューム)博士は、代替食料分野に取り組んでいる。テクノロジーを進化させることで、世界の食品産業が動物への依存を減らせる機会があると考えたからだ。


同氏は2019年にShiru(シル)を設立し、その会社では「精密発酵」プロセスを利用してし食品会社向けに植物由来原料を作り出している。その結果は味、食感、多用途性、量産した場合のコスト、いずれにおいても動物由来と同等だとヒューム氏はTechCrunchに語った。

「私が発見し、学んだのは、動物から得ている原料である卵のタンパク質や乳タンパク質が、食品ラベルのおかしな場所に現れているということでした」と彼女は語った。「例えば白い、ふわふわのパンには乳タンパク質が入っています。私たちは多くの食品部門を対象に、それらを持続可能で栄養のある原料に置き換えることが目標です。

食品原料市場と植物由来タンパク質市場は、いずれも安定した成長態勢にある。世界食品原料市場の規模は2022年に4000億ドル(約45兆4136億円)と予測されており、植物由来食品は2030年までに1620億ドル(約18兆3925億円)市場になると考えられている。

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現在、Shiruの商品カタログには、パッケージされた焼き菓子、ソース、バーガー、ヨーグルトなどさまざまな食料製品に添加できる無味無色の材料が6種類載っている。

ヒューム氏らが置き換えを狙っている食料の1つがメチルセルロースで、これは植物タンパク質ベース食品などに使用されているデンプンだ。

「メチルセルロースには植物由来のバーガーとソースにはない結合作用がありますが、ラベルには載せたくない成分です」とヒューム氏は付け加えた。「食品会社はメチルセルロースの問題を抱えていますが、誰も口にしません。この種の成分は置き換えを余儀なくされていて、私たちには置き換えるための原料があります」。

産業界からの需要を見越して、2022年の早くにこれらの原料を企業に提供するために、カリフォルニア州エメリービルのスタートアップは米国時間10月27日、1700万ドル(約19億3000万円)のシリーズAラウンドをS2G Venturesのリードで完了したことを発表した。

ラウンドには、既存出資者のLux Capital、CPT Capital、Y Combinator、およびEmles Venture Partner、新規出資者のThe W Fund、SALT、およびVeronorteが参加した。新たな資金を得て、Shiruのこれまでの総調達額は2000万ドルをわずかに超えた、とヒューム氏は語った。

投資の一環として、S2GのマネージングディレクターであるChuck Templeton(チャック・テンプルトン)氏がShiruの取締役会に加わった。S2Gは、健康食品と持続可能農業に焦点を当てた投資ファンドで、これまでに影響力があり、動物由来製品を置き換える製品をもつ会社に何度も投資してきた。

植物由来食品は進化中であり、新しいバージョンは常に良い味を目指しているが、まだ十分健康的ではない、と彼は言った。その点、Shiruの原料は「味がよい」だけでなく、置き換えようとする対象をしっかりと再現し、かつ健康的だとテンプルトン氏は付け加えた。

さらにテンプルトンは、同社はコスト構造と栄養成分、そして「顧客を喜ばせる」正しいラベリングを理解していると信じていると語った。

「あの会社は製品とタンパク質をすばやく発見し、多用途の原料を市場に提供する方法を知っています」と彼は付け加えた。「これによって彼らは、コスト構造の改善などを精査、継続していく機会を得られます。ヒューム氏のチームは、食品業界が制約を受けないように、そしてラベルと環境をきれいにする最高の原料を見つけられるようにしています」。

2022年までに材料を顧客に提供する計画を踏まえ、Shiruの成分を含む最初の商品が食料品店の並ぶのは、早ければ2023年だろうとヒューム氏は予想している。

同社はまずテクノロジーに集中して取り組み、それが検証されるとヒューム氏は、Shiruのスケーリングと基盤整備を次のフェーズに進めるために、次期ラウンドのベンチャーキャピタルを探し始めた。

彼女は新しい資金を、Shiruの22名の従業員を1年以内に2倍にし、科学、発酵、マーケティング、事業開発の人員を雇用するために使うつもりだ。また同社は、2022年にカリフォルニア州アラメダへ本社を移転し、生産規模の拡大を開始する。

「私たちがやるべき最大の仕事は、食品原料をたくさんつくることです」とヒューム氏はいう。「スケーリングへの挑戦には困難がともなうでしょうが、提携あるいは自社施設の建設によって発酵を工業規模で行うことを目指しています。そうすることで、食品会社がテストするために必要なサンプルを配れるところまで進むことができます。

画像クレジット:Getty Images under a metamorworks license.

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(文:Christine Hall、翻訳:Nob Takahashi / facebook

細胞データの「新たなレイヤー」を発見、プロテオーム解析用機器のIsoPlexisがIPO

細胞の周辺におけるタンパク質の活動を調べるツールを開発するIsoPlexisの株式が、米国時間10月8日からマーケットに出回った。同社はこのIPOで1億2500万ドル(約140億円)の調達を狙っており、資金で同社技術の商用化のためのチームを作り、精密医療の創造において重要な役割を果たすという同社の計画を進めようとしている。

IsoPlexisは2013年に創業した、薬学の研究でラボに出入りしているようなタイプの企業だ。同社は主に、シングルセルのプロテオーム解析(タンパク質とそれらの相互作用の研究)に力を入れてきた。同社は主に、免疫細胞や腫瘍細胞などの細胞が分泌するタンパク質を分析する機器やソフトウェアを開発してきている。

それらの機器を使うと、多種類のタンパク質を放出する細胞を見つけることができる。そのデータセットを利用して、新しい治療法を開発したり、既存の治療法への人間の反応を理解することができる。

CEOで共同創業者のSean Mackay氏(ショーン・マッケイ)氏は「私たちが発明した機器は、体中の、私たちがスーパーヒーロー呼んでいる細胞を見つけ出します。その細胞の小さな部分集合には、今日の既存の技術では見つけられない大量の活動があります」と説明する。

マッケイ氏によると、市場には2021年の前半で約150のIsoPlexisの装置が出回っており、顧客の中には15社の世界的大手の製薬企業がいる。またIPOのためにSECに提出した文書によると、米国の総合がんセンターの約半分に同社の機器がある。

IsoPlexisは過去にも、著名な投資家たちから相当な額の資金を調達している。

Crunchbaseによると、同社はIPOの前までに2億550万ドル(約231億円)の資金を調達している。至近のシリーズDでは、総額1億3500万ドル(約151億円)を調達した(約8500万ドル[約95億円]がエクイティー証券、5000万ドル[約56億円]が借入金)。そしてこのラウンドにはPerceptive AdvisorsやAlly Bridge Group、そしてBlackRockが管理する「ファンドと信用口座」が参加している。

本日の初値は約15ドルだったが、本稿を書いている時点では約12ドルに落ちた。

IsoPlexisの特徴は、プロテオーム解析とシングルセル生物学を利用して、細胞の機能を患者の状態に結びつけた初めての企業であることだ。言い換えると同社は、個々の細胞とタンパク質の相互作用を調べて、がん患者のような人がどれだけ良くなるかを知ることのできる、最初の企業に属している。

IsoPlexisの機器がそのために使われたことを示すエビデンスも公表されている。特にそれは、がんの治療に関するものだ。

例えばNature Medicineに2021年に掲載された論文では、IsoPlexisの機器を使って、リンパ腫の患者の免疫細胞の活動を調べている。これらの患者には、治療に抵抗するがんや、軽快後に再発したがんがあった。特に彼らは、CAR-T細胞療法を受けていた。それは、遺伝子を変えた免疫細胞を患者に注入する治療法で、がん細胞の標的化を助ける。その研究では、CAR-T細胞によるサイトカイン(細胞の信号送受に関わるタンパク質)の生産がCAR-T細胞の効果を示す指標であることがわかった。

そこでもIsoPlexisのデバイスが、CAR-T細胞の効果を示す信号を明らかにした。

「それは、私たちが見つけた特定の細胞が、患者における長期的な反応の指標になるということです。さまざまながんでの調査を公表していますが、患者にそういうタイプのユニークな免疫細胞があれば、これらは私たちがスーパーヒーローとして見つける細胞であり、患者に長期的にその結果があることがわかります」とマッケイ氏はいう。

細胞に関心がある人にとっては、IsoPlexisの技術が、細胞を蛍光色で染色して観察や計測をする、すでに確立した方法であるフローサイトメトリーに似ていると思えただろう。フローサイトメトリーの世界には、Thermo Fisher Scientificのような大企業もすでにいる。

しかしIsoPlexisは、まったく新しい情報のレイヤーを提供するとマッケイ氏は主張する。それは主に、フローサイトメトリーにはないタンパク質の情報だ。同社は、デバイスが個々の細胞のタンパク質の活動をバーコードで表す発明をライセンスした。そのコードを、IsoCodeと呼んでいる。Nature Reviews Chemistryに掲載された論文では、何千もの細胞のいろいろなタンパク質を一度で分析できるバーコードは便利さを主張している。しかも、細胞そのものは他の実験に使える。ただしこの方法で捉えられるのは今のところ、プロテオームの活動全体のごく一部だ。

マッケイ氏は「その新しいレイヤーのデータは個々の細胞に関して、現在、市場にある技術で得られるものと非常に異なっている」と付け加えた。

しかしそれでも、同社はまだ利益が出ていない。SECの文書によると、損失は過去数年間続いている。売上が750万ドル(約8億4000万円)だった2019年と1040万ドル(約11億6000万円)の2020年は損失がそれぞれ約1360万ドル(約15億3000万円)と2330万ドル(約26億1000万円)だった。

今後の成長への道は、もっと多くの機器をもっと多くの研究者の手に渡すことだ。

「私たちの目標は、現在と同じタイプのお客様を、より深く拡大しながら、速いペースで前進し続けることです。それはまさにコマーシャルチームを構築し続けることが必要です」とマッケイ氏はいう。

画像クレジット:IsoPlexis

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(文:Emma Betuel、翻訳:Hiroshi Iwatani)

タンパク質シーケンシングを超高速化、Glyphic Biotechnologiesが6.6億円調達

DeepMind(ディープマインド)のおかげでヒトのプロテオーム(ある細胞に含まれているすべてのタンパク質)はすべて自由に閲覧できるようになるようだが、バイオテクノロジーの最先端では、毎日新しいタンパク質が作られ、テストされている。ここで重要になるのがタンパク質のシーケンシング(配列決定)だ。Glyphic Biotechnologies(グリフィックバイオテクノロジーズ)は、時間のかかるシーケンシングを高速化して、医薬品の開発期間を大幅に短縮しようとしている。

関連記事:DeepMindがAlphaFoldで折りたたみを行った人体のすべてのプロテオームをオンライン化

タンパク質はたくさんの新しい治療法や製品の中核となっている。体内のどこにでもある、無限に変化するアミノ酸の鎖(タンパク質)は、細胞や体内物質、他のタンパク質とねじれて絡まりながら、DNAの複製からカリウムでは対応できない異物の排除まで、あらゆることを行っている。

創薬やバイオテクノロジーの分野において、タンパク質は無限の可能性を秘めている。適切なタンパク質があれば、がん細胞を捕らえたり、自然治癒を促進したり、有益な物質の生成を促したりすることができる。しかし、新しい分子を見つけてテストするのは簡単ではない。特に難しいのは、テストしようとしているタンパク質の正確な構造を調べるシーケンシングである。

現在、いくつかの大企業がタンパク質の同定ビジネスを展開しているが、一般的な方法は、タンパク質鎖の末端にあるアミノ酸を特定し、そのアミノ酸を切り取って次のアミノ酸を特定する、というプロセスを繰り返すものである。

この方法の問題点は、タンパク質の形状や次のアミノ酸の分子特性によって、末端のアミノ酸における結合を調べて特定するというプロセスが妨害されてしまうことだ。そのため、この方法には一定量の不確実性があり、信頼性に欠けていた。

Glyphic Biotechnologiesは、共同創業者の1人が開発したClickPと呼ばれる新しい分子を用いて、まずターゲットとなるアミノ酸を切り離し、すぐに(ClickPに)結合させるというステップを追加することで、この問題を解決する。既知の分子に固定された1つのアミノ酸は、はるかに簡単に特定することができる。1つのアミノ酸を特定したら、従来の方法と同じようにこのプロセスを繰り返す。

簡単に説明したが、この進歩は大きなものだ。現在の抗体同定技術では、(非常に高価な)機械1台で、1週間で数万個のタンパク質の配列しか生成・検査できない。多いようにも見えるが、タンパク質はその性質上無限に存在するので、これはバケツの中の一滴に過ぎない。24時間365日稼働しても、需要を満たすことはできないのだ。

Glyphic Biotechnologiesの方法では、ClickPと単一分子顕微鏡(DNAシーケンサー大手のIllumina(イルミナ)が使用しているようなもの)を利用することで、1週間に数百万から数千万個、将来的には数十億個の配列の検査が可能になる。控えめに見積もっても、桁違いの成果が得られることになる(別の方法ではB細胞を培養して対象の抗体を生成するので、数万個の情報には(ほぼ確実に)繰り返しやジャンクの情報が含まれる)。

画像クレジット:Glyphic Biotechnologies

さらに、ClickP法では隣のアミノ酸からの干渉の問題を避けることができるので、非常に高い選択性と信頼性が得られる。つまり、単にタンパク質の配列を従来の100倍、1000倍決定するのではなく、はるかに確実な結果を得ることができるのだ。

当初、Glyphic Biotechnologiesは送られてきたサンプルを処理していたが、最終的には競合他社と同じように自社の技術を他の研究室で利用してもらうことになる。同社のロードマップは、サービスからハードウェアの販売およびサポートへと進んでいる。

バイオテクノロジー分野で配列決定の需要が急増する中、すべてが触れ込みどおりに機能すれば、Glyphic Biotechnologiesの技術は、タンパク質配列決定の新しい標準になるかもしれない。しかし、そのためには、もう少し成長の時間が必要だ。

同社が開拓したプロセスは、共同創業者のJoshua Yang(ジョシュア・ヤン)氏(CEO)とDaniel Estandian(ダニエル・エスタンディアン)氏(CTO)が、MIT(マサチューセッツ工科大学)のEd Boyden(エド・ボイデン)博士の研究室で行った研究が元になっている(ヤン氏とエスタンディアン氏は「科学的創業者」としてチームに参加した)。

CTOのダニエル・エスタンディアン氏(左)と、CEOのジョシュ・ヤン氏(画像クレジット:Glyphic Biotechnologies)

ヤン氏は、同社が業界を支配する可能性を阻んでいるのは、単なる化学工学の問題だと説明する。

「共同創業者であるエスタンディアンは、ClickPを自分で開発しました。組み合わせがうまくいったのです」とヤン氏は話す。「しかし、大学の研究室から独立した私たちは、まだ20種類のバインダーすべてを開発できていません。これは既製の分子ではないのです」。

これらのバインダーは、20種類のアミノ酸のそれぞれを調べるためのアダプターのようなものだ。バインダーの開発には時間と費用がかかるので、彼らはまずいくつかのバインダーを使ってシステムを公表し、残りのバインダーを開発するための資金を得ることにした。「このシステムを世に送り出すためには、時間をかけるしかありません」とヤン氏。

今回のシードラウンドで602万5000ドル(約6億6000万円)を調達したアーリーステージの同社は、プラットフォームの構築を進めている。このラウンドは、OMX Ventures(オーエムエックスベンチャーズ、過去に10X Genomics(テンエックスゲノミクス)とTwist Bioscience(ツイストバイオサイエンス)に投資している)が主導し、Osage University Partners(オーセージユニバーシティパートナーズ)、Wing VC(ウィングブイシー)、Artis Ventures(アルティスベンチャーズ)、Cantos Ventures(カントスベンチャーズ)、Civilization Ventures(シビリゼーションベンチャーズ)、Axial VC(アキシャルブイシー)が参加し、エンジェル投資家としてMammoth Biosciences(マンモスバイオサイエンス)のCEO、Trevor Martin(トレバー・マーティン)氏が参加した。

Glyphic Biotechnologiesは、カリフォルニア大学バークレー校に新設されたバイオテックインキュベーター「Bakar Labs(バカールラボ)」に最初の拠点を置く予定。次の大きなステップを踏み出す準備が整うまで、Bakar Labsで過ごすことになるだろう。2022年にはシリーズAラウンドで資金調達してハードウェアの製造に乗り出すかもしれない。同社初の有料サービスも開始されるはずだ。巨大な抗体市場も、同社の始まりに過ぎない。

関連記事:バイオテックの巨大インキュベーター「Bakar Labs」、カリフォルニア大学に誕生

インタビューの後、ヤン氏はメールで説明をしてくれた。「抗体は単なる出発点に過ぎません。タンパク質の配列決定は多くの用途に利用できます」「もう1つの有望な分野は、産業用バイオテクノロジーです。進化させた酵素をタンパク質の配列決定に基づいてスクリーニングすれば、強化された機能や新しい機能(より優れた洗濯用洗剤や排水処理など)を特定することができます。また、診断テストの開発にもメリットがあります。サンプルに含まれるより多くのタンパク質をシーケンシングして同定することができれば、発見しにくい重要なバイオマーカーを同定したり、優れたバイオマーカーパネルを開発したりすることが可能で、それらを一緒に利用すれば、疾患の検出や予測の可能性が高まるからです」。

Glyphic Biotechnologiesのような会社は、資金力のある競合他社の格好の餌食のようにも思われるが、ヤン氏は、それを乗り越える自信はある、と話す。

「この分野の動きは非常に活発です。エスタンディアンと私は、次のIlluminaや10X Genomicsのように、プロテオミクス分野のリーダーになりたいと思っています」。競合他社が切り札を隠していなければ、ヤン氏の野望が成就する可能性も高い。

画像クレジット:Glyphic Biotechnologies

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

DeepMindがAlphaFoldで折りたたみを行った人体のすべてのプロテオームをオンライン化

DeepMind(ディープマインド)と数社の研究開発パートナーは、人体を構成するほぼすべてのタンパク質の3次元構造が格納されたデータベースをリリースした。この3次元構造は、2020年実証された画期的なタンパク質フォールディングシステムAlphaFoldを使って、コンピューター上で算出したものだ。無料で利用可能なこのデータベースは、数百の分野や領域に及ぶ科学者たちに大幅な進歩と利便性の向上をもたらし、生物学と医学において新しい段階の礎を形成する可能性が高い。

AlphaFoldタンパク質構造データベースは、DeepMind、欧州バイオインフォマティクス研究所、その他の研究機関が協力して構築したもので、 数十万のタンパク質アミノ酸配列について、その構造をAlphaFoldによって予測した結果が格納されている。最終的には、さらに数百万を追加して「世界のタンパク質年鑑」を作成する計画だ。

「この取り組みは、科学知識を高めるためにこれまでにAIが行った最も重要な貢献であると確信しています。また、AIが社会にもたらすことができる利点のすばらしい一例でもあります」とディープマインドの創業者兼CEOであるDemis Hassabis(デミス・ハサビス)氏はいう。

ゲノムからプロテオームへ

無理もないことだが、プロテオミクス全般について馴染みのない方もいると思うので、簡単に説明しておく。プロテオミクスのイメージを把握するには、別の大きな取り組みであるヒトゲノムの解読作業について考えてみるのが一番良い。ヒトゲノムの解読は、1990年代から2000年代にかけて、世界中の多数の科学者グループや組織が長年に渡って取り組んだ一大作業だ。そして遂にヒトゲノムが解読されたおかげで、数え切れない症状の診断と理解に大いに役立ち、そうした症状の治療薬や治療法の開発が進んだ。

しかし、ヒトゲノムの解読はこの分野における取り組みのほんの始まりに過ぎなかった。喩えていえば、巨大なジグゾーパズルの縁のピースがようやくすべて埋まった段階だ。当時、誰もが注目していた次の大きなプロジェクトは、人のプロテオーム、つまり、人体で使用されており、ゲノムにコード化されるすべてのタンパク質を把握することだった。

プロテオームを把握するときに問題となるのは、ゲノムの解読よりもはるかに複雑であるという点だ。タンパク質はDNAと同様、既知の分子の配列だが、DNAでは、アデニン、グアニンなど、お馴染みの4種類の塩基しか存在しない。しかし、タンパク質では、20のアミノ酸が存在する(各アミノ酸は遺伝子を構成する複数のベースによってコード化される)。これだけでも、DNAに比べてはるかに複雑だが、それは一端に過ぎない。アミノ酸の配列は単なる「コード」ではなく、実際には、編み込まれ、畳み込まれて小さな分子折り紙マシンを形成し、これが人体であらゆる種類のタスクを遂行する。ちょうど、2進コードから、実世界のモノをあらわす複雑な言語に翻訳されるようなものだ。

これは事実上、プロテオームが数百のアミノ酸の2万個の配列で構成されているだけでなく、その各配列に物理的な構造と機能が備わっていることを意味する。プロテオームの最も難解な部分は特定の配列からどのような形状が形成されるのかという点だ。この解析は一般に、X線結晶構造解析などを使用して実験的に行われるが、1つのタンパク質を解析するのに、数カ月またはそれ以上の長く複雑なプロセスを要する。たとえ、最高の実験室と実験技術が使えるとしてもである。タンパク質の構造はコンピューターでも予測できるが、これまでは十分に信頼性の高い予測結果が得られていなかった。が、AlphaFoldの登場でそれが一変したのだ。

関連記事:Alphabet傘下のAI技術企業DeepMindがAIベースのタンパク質構造予測で歴史的なマイルストーン

構造生物学の分野に驚きをもたらす

この記事ではコンピューターによるプロテオミクスの歴史について深く立ち入ることはしないが、基本的には、15年前の分散型の力技方式(Folding@homeを覚えているだろうか)から、この10年間でより洗練されたプロセスへと移行してきた。そこにAIベースのアプローチが登場し、DeepMindのAlphaFoldが世界中の他のシステムを一足飛びに追い抜いて世界を驚かせた。2020年にはさらに大きな前進があり、一部の専門家たちに、任意のアミノ酸配列を3次元構造に変換する問題は解決されたと言わしめるほどの高い精度と信頼性が達成された。

私がこの長い歴史を上記の1段落にまとめたのは、詳細な説明は以前の記事で行ったからだが、今回の前進がいかに突然でなおかつ完全なものだったことは強調しても強調しすぎることはない。数十年に渡って世界中の最高の頭脳を悩ませてきた問題が、1年のうちに「使えるアプローチはあるかもしれないが、極端に遅く、コストが極めて高い」というレベルから「正確で、信頼性が高く、市販のコンピューターで実行できる」というレベルにまで進歩したのだから。

画像クレジット:DeepMind

今回DeepMindが実現したブレイクスルーの詳細とその達成方法については、コンピューターバイオロジーとプロトテオミクスの分野の専門家たちにおまかせすることにする。彼らが、今後数カ月および数年かけて、今回の進歩の内容を分解して繰り返し説明してくれるだろう。我々が今懸念しているのは実際の結果だ。DeepMindは現在、AlphaFold 2(2020年時点のバージョン)の公開以来、彼らが入手できるあらゆるタンパク質のアミノ酸配列について、今回のモデルの微調整だけでなく実行に時間を費やしている。

同社によると、その結果、人体プロテオームの98.5%の「たたみ込み」を完了したという。つまり、AIモデルが充分な信頼性があると判断した(そして何より、我々が充分に信頼できる)予測結果が、現実になったということだ。同社は、人体以外にもイーストやE. colなど、20の有機体についてプロテオームのたたみ込みを完了しており、合計で35万のタンパク質の構造が明らかになった。これはもちろん、これまでのレベルをはるかに凌ぐ、最大かつ最高のタンパク質構造コレクションだ。

これらはすべて無料でブラウジング可能なデータベースとして公開される予定だ。研究者は、アミノ酸配列またはタンパク質名を入力するだけでその3次元構造を即座に表示できる。プロセスとデータベースの詳細については、雑誌ネイチャーに掲載されている論文をお読みいただきたい。

「このデータベースは、見ていただければ分かるとおり、検索バーになっています。タンパク質構造のグーグル検索のようなものと考えてください」とTechCrunchのインタビューでハサビス氏はいう。「3次元構造を3Dビジュアライザーで表示して、各部を拡大縮小したり、遺伝子配列を質問したりできます。EMBL-EBIと連係しているため、EMBL-EBIの他のデータベースともリンクされています。ですから、関連する遺伝子に即座に移動して表示できます。他のすべてのデータベースとリンクされているため、他の有機体の関連する遺伝子、関連する機能を持つ他のタンパク質などを確認できます」。

「私自身科学者として、計り知れない奥深い機能を備えたあるタンパク質の働きに取り組んでいます」とEMBL-EBIのEdith Heard(エディス・ハード)氏はいう(同氏は具体的なタンパク質の名前には触れなかった)。「現時点の、特定のタンパク質の先端部の構造を即座に確認できるのは、本当にすばらしいことです。これまでは何年もかかっていましたから。タンパク質の構造を調べて「なるほど。これが先端部か」と納得して、その先端部が実際に行っている仕事の研究に集中できます。これによって科学の進歩が数年単位で加速されるのではないかと思います。20年ほど前に、遺伝子配列を決定できるようになったときと同じように」。

こういうことが可能になったのは本当に画期的なことなので、この分野の研究全体が一変し、それと並行してこのデータベースも変わっていくのではないか、とハサビス氏はいう。

「構造生物学者たちはまだ、ほんの数秒でタンパク質の構造を調べられるという状況に慣れていません。これまでは、実験で何年もかけて調べていたわけですから」と同氏はいう。「これによって、質問の立て方とか実験のやり方という点で、これまでとはまったく異なる新しいアプローチが生まれるのではないかと思います。そうしたことができることが分かってくると、例えば1万のタンパク質を特定の方法で関連付けるとどうなるのか確認したい、などというセレンディピティ(偶然の発見)的な質問にも答えることができるツールが構築されるようになるかもしれません。今は誰もそんな質問を立てることもありませんから、そんなことをする通常的な方法もありません。ですから、我々は新しいツールの作成を開始する必要があると思います。研究者たちがこのデータベースの使い方に慣れてくれば、そうしたツールの需要はあるでしょう」。

これには、長い開発の歴史の中でオープンソース形式でリリースされてきたソフトウェアの派生バージョンと改善バージョンも含まれる。ワシントン大学のベイカー研究室の研究者によって独立に開発されたシステムRoseTTAFoldもすでに存在している。このシステムは2020年、AlphaFoldのパフォーマンスを上回り、同じような構造をより効率的に作成できるようになった。ただし、DeepMindは最新バージョンで再度トップの座を取り戻したようだ。いずれにしても、こうした秘密兵器が誰でも使えるようになったということだ。

関連記事:DeepMindのAlphaFold2に匹敵するより高速で自由に利用できるタンパク質フォールディングモデルを研究者が開発

現実的なマジック

構造生物情報工学者にとって一番の夢が実現する見込みがあるのはすばらしいことだが、DeepMindとEMBL-EBIが実現したシステムが即座に現実の利点をもたらすことも重要な点だ。その利点が明らかに見てとれるのは、Drugs for Neglected Diseases Institute(DNDI)とのパートナーシップだ。

DNDIは、その名前から想像できるように、稀であるがために、治療法の発見につながる可能性のある大手の製薬会社や医療研究機関からの注目や投資の対象とならない病気に焦点を当てている。

「これは臨床遺伝学の分野では極めて現実的な問題です。この分野では、症状のある子どもに遺伝子配列の異常が疑われる場合、その特定の遺伝的疾患の原因となっている可能性の高い遺伝子を特定する必要があるからです。タンパク質の構造情報が広く利用できるようになれば、そうした作業が大きく改善されることはほぼ間違いありません」と、DNDIのEwan Birney(イワン・バーニー)氏は今回のリリースに先立って報道陣に語った。

特定の問題の根本原因であることが疑われるタンパク質を調べる作業は通常、大変な費用と時間を要する。ましてや実際の患者が少ない病気の場合、癌や認知症といったより一般的な患者数の多い症状が優先され、お金と時間はますます不足する。しかし、10の正常のタンパク質と10の配列異常のあるタンパク質の構造を簡単に比較できれば、これまでのように何年にも渡って綿密な実験作業を行わなくても、ものの数秒で原因が明らかになるかもしれない(治療薬の発見と臨床試験には数年かかるが、それでも、たとえばシャーガス病の原因究明を、2025年からではなく明日からすぐに始めることもできるのだ)。

RNAポリメラーゼII(タンパク質)がイースト内で機能しているところ(画像クレジット:Getty Images / JUAN GAERTNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY)

実験的に結果が確認されていない構造について、コンピューターの予測に頼りすぎているのではないかと思われるといけないので、まったく別のケースを紹介しよう。このケースでは厄介な実験による確認作業の一部をすでに終えていた。ポーツマス大学のJohn McGeehan(ジョン・マクギーハン)氏(別の潜在的な使用事例でDeepMindと連携した)は、同氏のチームのプラスチック分解の取り組みにどのような影響があったかを説明してくれた。

「最初我々はDeepMindに7つのアミノ酸配列を送りました。そのうちの2つは実は、実験による構造解析をすでに終えていたのです。ですから、結果が返ってきたときにその2つについてはテストできました。そのときは正直、身の毛がよだつような興奮を覚えました」とマクギーハン氏はいう。「DeepMindが作成した構造は、我々が実験で確認した結晶構造と完全に一致していたのです。いえ、場合によっては、結晶構造から分かるよりも詳細な情報が含まれていました。我々はその情報を使って、より高速に作用するプラスチック分解酵素を直接開発することができました。その酵素の実験は、すでに始まっています。ですから、我々のプロジェクトは数年分前進したと言えるでしょう」。

DeepMindの計画は、今後1、2年の間に、あらゆる既知の配列済みタンパク質の3次元構造を予測することだ。その数は1億近くにもなる。その大部分について(数は少ないがこのアプローチでは対応できない構造もある。それについては、まもなく公開されるようだ)生物学者たちは予測結果を信頼できるはずだ。

3次元の分子構造を調べるのは数十年前から可能だったが、そもそもその構造を見つけること自体難しい(画像クレジット:DeepMind)

AlphaFoldが構造の予測に使っているプロセスは、ある意味、実験的な方法よりも優れている。AIモデルがその予測結果に達する過程については不明確な部分も数多くあるものの、ハサビス氏にとって、これは単なるブラックボックスではないことは明白だった。

「このケースの場合、説明可能性は、プラスチックの分解というその用途の重要性を考えると、機械学習に対してよく言われるように、『あればいい』というものではなく、『なくてはならない』ものだったと思います」と同氏はいう。「ですから、このケースについては、説明可能性が確保されるように、特定のシステムに対してできることはすべてやったと思います。アルゴリズムの粒度という意味での説明可能性、出力、予測結果、構造という観点からの説明可能性、そしてそれらの信頼性、予測された領域のうち信頼可能な部分という意味での説明可能性があります」。

にもかかわらず、同氏はシステムの説明に「奇跡的」という言葉を使っていたため、私の見出し語に対する特殊感覚が引きつけられた。ハサビス氏によると、このプロセス自体には奇跡的な部分は何もないが、その処理によって作成されるものがあまりにパワフルなので少し驚いたのだという。

「これまでで最も困難なプロジェクトでした」と同氏はいう。「コードの動作方法、システムの動作方法については詳細部分まで明確であり、すべての出力も確認できるのですが、システムが行っていること、つまり、この1次元のアミノ酸の鎖を取り込んで美しい3次元構造を作成するのを見ると奇跡的という言葉を使いたくなるのです。しかもその構造の多くは審美的にも信じられないくらい美しく、科学的および機能的にも価値のあるものでしたから。ですから、あれはある種の感嘆の言葉だったと思います」。

大量のたたみ込みの実行

AlphaFoldとプロテオームデータベースがもたらしたインパクトはすぐに広く伝わらなかったものの、初期のパートナーが証言しているように、これが短期的にも長期的にも重大なブレイクスルーになることはほぼ間違いない。しかし、だからといってプロテオームの神秘が完全に解決されたわけではない。それどころか、解決にはまだほど遠い。

前述のとおり、基本的なレベルでのプロテオームの複雑さに比べれば、ゲノムの複雑さなど何でもないが、このDeepMindがもたらした大きな進歩を以ってしても、プロテオームの上っ面をなでただけに過ぎない。AlphaFoldは、非常に限定的だが、非常に重要な問題を解決する。すなわち、アミノ酸の配列を受け取って、その配列が実際に実現する3次元形状を予測する。しかし、タンパク質は真空中に存在するわけではない。構造を変え、破壊と再生を繰り返し、さまざまな条件、および要素や他のタンパク質の存在に反応し、それらに応じて自身も形を変える複雑でダイナミックなシステムの一部だ。

実際、人体を構成する多くのタンパク質の中には、AlphaFoldがその予測結果に中くらいの信頼性しか与えられなかったものが大量にある。こうしたタンパク質は、基本的に「無秩序な」タンパク質であり、あまりに可変的であるため静的なタンパク質のように特定することができない可能性がある(静的なタンパク質の場合、AlphaFoldは非常に精度の高い予測システムであると評価されることになる)。このように、解決しなければならい問題はまだまだ山積みの状態だ。

「新しい課題に目を向けるときがきています」とハサビス氏はいう。「もちろん、まだ課題は山積みです。それでも、先程触れたタンパク質の相互作用、複雑さ、リガンド結合といったさまざまな問題に我々は取り組んでおり、こうした課題を解決する極めて初期段階のプロジェクトも立ち上げています。しかし、今回の大きな前進は少し時間を取って取り上げる価値はあると思います。それはコンピューターを使った生物学のコミュニティで20年から30年にも渡って取り組みを続けてきた問題であり、今回ようやくその最重要部分が解決されたと考えています」。

画像クレジット:DeepMind

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

タンパク質探索プラットフォームのAbsciが市場デビューを果たす

バンクーバーを拠点とし、多面的な医薬品開発プラットフォームを開発するAbsci Corpは米国時間7月22日、株式を公開した。一般的にリスクが高いと言われている医薬品開発事業だが、これはこの分野における新しいアプローチへの関心が著しく高まっていることを示唆するニュースである。

Absciは前臨床段階での医薬品開発の加速化に注力しており、薬の候補を予測し、潜在的な治療ターゲットを特定し、治療用タンパク質を何十億もの細胞でテストして、どれが追求する価値のあるものかを特定することができる複数のツールを開発、取得している。

Absciの創業者であるSean McClain(ショーン・マックレーン)氏は、TechCrunchのインタビューに応じ「我々は医薬品開発のための完全に統合されたエンド・ツー・エンドのソリューションを提供しています。タンパク質創薬とバイオマニュファクチャリングのためのGoogle検索だと想像してみてください」と話している。

IPOの初値は1株あたり16ドル(約1760円)。S-1ファイリングによると、プレマネー評価額は約15億ドル(約1650億円)となっている。同社は1250万株の普通株式を提供し、2億ドル(約220億円)の資金調達を計画しているが、Absciの株式はこの記事を書いている時点ですでに1株あたり21ドル(約2300円)にまで膨らんでいる。同社の普通株は「ABSI」というティッカーで取引されている。

同社がこのタイミングでの株式公開を決めた理由は、新たな人材を獲得して維持する能力を高めるためだとマックレーン氏は話している。「急速な成長と規模拡大を続ける当社にとって、トップクラスの人材の確保が欠かせません。IPOによって、優秀な人材の確保と維持のために必要な知名度が得られることでしょう」。

2011年に設立されたAbsciは、当初から大腸菌でのタンパク質の生産に着目。2018年には複雑なタンパク質を構築できるバイオエンジニアリングされた大腸菌システムである「SoruPro」という初の商用製品を発売した。2019年、同社は「タンパク質印刷」プラットフォームを導入することで、このプロセスをスケールアップさせている。

創業以来、今では170人の従業員を抱えるまでになり、2億3000万ドル(約253億円)を調達した同社。Casdin CapitalとRedmile Groupが主導して2020年6月にクローズした1億2500万ドル(約138億円)のクロスオーバーのファイナンスラウンドが最近の資金流入だ。しかしAbsciは2021年になって2つの大きな買収を行い、タンパク質の製造・検査からAIを活用した医薬品開発まで、提供するサービスを完成形へと近づけたのである。

2021年1月、AbsciはディープラーニングAIを用いてタンパク質の分類と挙動予測を行うDenoviumを買収。Denoviumの「エンジン」は、1億個以上のタンパク質で学習されたものだ。また6月には、特定の病気に対する免疫系の反応を分析するバイオテック企業、Totientを買収した。買収当時、Totientはすでに5万人の患者の免疫系データから4500の抗体を再構築していた。

Absciはすでにタンパク質の製造、評価、スクリーニング技術を保有していたものの、Totientの買収により新薬の潜在的なターゲットを特定することが可能になった。また、Denoviumの買収によりAIベースのエンジンが追加され、タンパク質の発見がこれにより容易になったのである。

「我々が行っているのは、ディープラーニングモデルに(自社のデータを)投入することで、それがDenoviumを買収した理由です。Totientを買収する前は創薬や細胞株の開発を行っていました。今回の買収により統合が完全になったため、ターゲット発掘もできるようになりました」とマックレーン氏は話している。

この2つの買収によって、Absciは医薬品開発の世界でとりわけアクティブかつニッチな位置に身を置くことになったわけだ。

数十年もの間、医薬品の研究開発はローリターンとされてきたにもかかわらず、医薬品開発における新たなアプローチの開発には注目すべき財政的関心が寄せられている。Evaluateの報告によると、新薬開発企業は2021年上半期、欧米の取引所でのIPOで約90億ドル(約9900億円)を調達している。医薬品開発は一般的にハイリスクであるにもかかわらずだ。バイオ医薬品のR&Dリターンは、2019年に1.6%と過去最低を記録し、現在も約2.5%までにしか回復していないとDeloitteの2021年の報告書は指摘している

医薬品開発の世界ではAIの役割がますます大きくなってきている。「ほとんどのバイオファーマ企業が、AIを創薬、開発プロセスに統合しようとしている 」と、同じくDeloitteのレポートは伝えている。また、スタンフォード大学のArtificial Intelligence Indexの年次報告書によると、2020年に創薬プロジェクトはこれまでで最も多くのAI投資を受けていたという。

最近では候補化合物を前臨床開発の段階へと進められた企業によって、医薬品開発におけるAI活用の将来性が高められているようだ。

6月、香港のスタートアップInsilico MedicineはAIが特定した特発性肺線維症の薬剤候補を前臨床試験の段階にまで進めたことを発表。この成果により2億5500万ドル(約280億円)のシリーズCラウンドが成立した。創業者のAlexander Zharaonkov(アレクサンダー・ジャラオンコフ)氏はTechCrunchに対し、PI薬の臨床試験を2021年の終わりか2022年初めに開始する予定だと話してくれた。

関連記事:開発期間も費用も短縮させるAI創薬プラットフォームのInsilico Medicine、大正製薬も協業

AIとタンパク質生産の両方をてがけるAbsciは、誇大広告が多く、混み合った空間ですでに確固たる地位を確立している。ただし、ビジネスモデルの詳細については今後詰めていかなければならないだろう。

Absciは医薬品メーカーとのパートナーシップによるビジネスモデルを追求している。つまり、自社で臨床試験を行うことは考えていないわけだ。医薬品の開発過程のある段階に到達することを条件とした「マイルストーンペイメント」や、医薬品が承認された場合に販売額に応じたロイヤルティで収益を得ることを想定している。

これにはいくつかの利点があるとマックレーン氏はいう。何百万ドル(何億円)もの研究開発費を投じて試験を行った後に新薬候補が失敗するというリスクを回避でき、また一度に「数百」もの新薬候補の開発に投資することができるのだ。

現時点でAbsciは製薬会社との間で9つの「アクティブなプログラム」を行っている。同社の細胞株製造プラットフォームは、Merck、Astellas、Alpha Cancer technologiesを含む8つのバイオファーマ企業の薬剤試験プログラムで使用されている(残りは非公開)。これらのプロジェクトのうち5つは前臨床段階、1つは第1相臨床試験、1つは第3相臨床試験、最後の1つは動物の健康に焦点を当てたものであると同社のS-1ファイリングに記載されている。

現在Absciの創薬プラットフォームを使用しているのはAstellasのみだが、マックレーン氏がいうように、創薬機能は2021年展開したばかりである。

しかしこれらのパートナーはいずれも、Absciのプラットフォームを正式にライセンスして臨床または商業利用しているわけではない。マックレーン氏は、9つのアクティブなプログラムの中には、マイルストーンやロイヤリティの可能性があると考えている。

確かに同社の収益性に関しては、まだ改善の余地がある。2021年の時点でAbsciは約480万ドル(約5億3000万円)の総収入を得ており、2019年の約210万ドル(約2億3000万円)から増加傾向にある。それでもコストは高止まりしており、S-1ファイリングによると過去2年間で純損失を計上。2019年には660万ドル(約7億3000万円)の純損失、2020年には1440万ドル(約16億円)の純損失を計上しているという。

同社のS-1によると、これらの損失は、研究開発費、知的財産ポートフォリオの構築、人材の雇用、資金調達、およびこれらの活動に対するサポートに関連する支出とされている。

マックレーン氏によると同社は最近、7万7000平方フィートの施設を完成させたという。今後事業規模を拡大していく可能性があるという意味なのだろう。

当面はIPOで調達した資金を使ってAbsciの技術を使用するプログラム数を増やし、研究開発に投資し、同社の新しいAIベース製品を継続的に改良していく予定だ。

画像クレジット:CHRISTOPH BURGSTEDT/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

世界の食糧難に対処するためBeta Hatchは家畜の飼料となるミールワームを生産

筆者がこの前、香港に行ったとき、あるスタートアップ企業がおやつにミールワームの瓶をくれた。見た目は少々奇妙だが、食べるとパリパリとしている(焼いた幼虫の入った瓶から想像するとおり)。だが、味はあまりしないので、自分で調味料を用意したほうがいいかもしれない。

持続可能な社会を実現するために、人間やその他の生物にとっての代替タンパク源には、大きな関心が寄せられている。Beta Hatch(ベータハッチ)という会社は、明らかにその後者、つまり家畜やペットを主要な対象とし「実質的に廃棄物を出さない」農法に取り組んでいる。

セントルイスを拠点とする同社は米国時間8月18日、Lewis & Clark AgriFood(ルイス&クラーク・アグリフード)が主導するラウンドで1000万ドル(約11億円)の資金を調達したと発表した。この投資ラウンドには、以前から出資していたCavallo Ventures(カヴァロ・ベンチャーズ)とInnova Memphis(イノーヴァ・メンフィス)も参加した。Beta Hatchは、ワシントン州カシミアにある旗艦農場の拡大を視野に入れ、今回の資金調達を実施したという。

「私たちは、ワシントン州の農業コミュニティの一員として、農業の未来を築く一翼を担えることを誇りに思います」と、創業者でCEOのVirginia Emery(バージニア・エメリー)氏は、リリースで述べている。「増加する世界の人口に食糧を供給するために、私たちはこれらのコミュニティの人々を雇用し、協力し合うことで、米国の農村における私たちの存在感が高まることを期待しています」。

同社によると、この新しい施設は北米で最大規模のものであり、Beta Hatchの生産量を今後1年間で現在の10倍に増やす計画に貢献するという。この施設は現在、再生可能エネルギーで運営されている。

ミールワームは、2019年にフランスのŸnsect(インセクト)という企業が1億2500万ドル(約137億円)もの資金を調達したことでも証明されたように、食糧供給源の食糧供給源として(つまり家畜の飼料として)興味深いことが認められている。

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画像クレジット:Beta Hatch

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

代替タンパク質開発の豪v2Foodがアジアや欧州進出に向け約58億円調達

v2Food(ブイツーフード)は代替タンパク質分野で競争を展開している数多くの新規参入社の1社だ。創業地はオーストラリアだが、いま欧州やアジア、その他の地域に狙いをつけている。同社は競争においていくつかの鍵となる有利点を持っていて、新たに調達した4500万ユーロ(約58億円)でユーロ圏参入の道筋をつける。

同社はオーストラリアで大きく成長し、まず最初の目標は同国トップとなることだとCEOで創業者のNick Hazell(ニック・ハゼル)氏は話した。同氏はMasterFoodsとPepsiCoのR&D部門で働いた経歴を持つ。一方でv2Foodは、パートナー企業のBurger Kingがv2Foodのパティを使ったWhopperの提供を開始したアジア、そして疑わしい材料を最小限にすることが重要である欧州でも存在感を高める計画だ。

現在v2Foodは植物ベースの牛ひき肉とパティ、ソーセージ、調理済みのボロネーズソースを作っている。明らかに同社は、大半の代替タンパク質企業がまず参入するそうした部門で激しい競争に直面している。しかしv2Foodは2つの点で他社に優っている。

まず、v2Foodの製品は「どの基準の食肉生産施設」ででも作られる。少なくとも作ることができる。これは事業拡大するためには大きなプラス点であり、コストという点ではマイナスだ。というのもスケールメリットがすでに働いてきるからだ。植物ベースの物質や、代替タンパク質を構成する一般的な他の人工物質を作って混ぜる工程は、既存のインフラが受け入れることができたわけではない。これは工程の切り替えをしなければならないことに尻込みしてきた従来の食肉会社との提携に道を開いている(ちなみに、v2Foodが目指すのは、新たな地域でのマーケット成長であり、従来の肉の置き換えはさほどではない、とハゼル氏は指摘した)。

2つめは、資金調達発表のプレスリリースに書かれている点だ。「v2Foodの製品にはGMO(遺伝子組み換え作物)、防腐剤、着色剤、香料が含まれていません。そのため、欧州マーケットに理想的な製品となっています。多くの大手競合社が厳しい規制のために欧州マーケットに参入できていません」。これはまた店舗で2つの植物由来の製品のどちらにしようか迷う購入者を引きつけるのにも少なからず有利に働く。防腐剤などの不使用を誇らしげに宣伝する、ごく限られた材料から作られているものを最終的に選ばない人はいるだろうか。代替タンパク質を購入する層は特にこうしたことを考慮するだろう。

4500万ユーロのラウンドは欧州インパクトファンドのAstanorがリードし、Huaxing Growth Capitol Fund、Main Sequence、ABC World Asiaも参加した。調達した資金はR&Dと事業拡大にあてる。

「今回の資金調達は、世界が食糧を生産する方法を変革するというv2Foodの目標に向けた重要なステップです」とハゼル氏は話す。「こうしたグローバルの問題は早急な解決策を必要としているため、当社がすばやく事業を拡大するというのは責務でもあります」。

そのために、調達した資金のかなりの割合を、需要に応えるために十分な製品を作ることに向ける。v2Foodはまた新製品開発の加速と既存製品の改良のためにR&D支出を倍増させる。必要な材料をオーストラリアに輸入するより、同社はローカルの製造施設を建設できるか模索している。幸運と、植物由来のものの製造で、そうした地域は純輸出国となるかもしれず、そうなれば地域経済の下支え、v2Foodのレジリエンス強化やコスト削減につながる。

欧州への事業拡大は同社(とAstanor)にとってまだひらめきにすぎず、v2Foodの元来のシンプルさと非GMOでもってしても、欧州マーケットで新製品を展開するというのは簡単なことではない。

カテゴリー:フードテック
タグ:v2Foodオーストラリア植物由来肉タンパク質資金調達

画像クレジット:v2Food

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

大きな塊にもできる植物由来肉を開発したPlanted、シュニッツェルはじめさまざまな料理に

スイスの代替プロテイン企業Plantedが2021年の2度目のラウンドで、1900万スイスフラン(約23億円)を「プレB」の成長資金および製品開発資金として調達した。米国進出も予定にはあるが、当面はPlantedの顧客はヨーロッパに限定され、彼らだけが新製品の純植物性シュニッツェルを味わうことができる。

関連記事:スイスの代替肉メーカーPlantedが製品の多様化と市場拡大に向けシリーズAで約19.8億円を調達

Plantedは2019年に、スイスのチューリッヒ工科大学からのスピンオフとして登場した。同社の共同創業者たちは、植物のタンパク質と水分を、本物の肉のような繊維状の構造へ抽出する独自の技術を開発した。その後同社はそのタンパク源を多様化し、えん麦やヒマワリも加えて、プルドポークやケバブの代替製品も開発した。

その後、工程も改良された。CEOで共同創業者のChristoph Jenny(クリストフ・ジェニー)氏はTechCrunch宛のメールで「発酵やバイオテクノロジーの技術を加えて、味と食感を改良しました。それは(1)どんな形や構造でも作れる、(2)多様な風味を実現できるということです」。

同社の最新の進歩はシュニッツェルだ。これはもちろん、叩いて薄くした肉にパン粉をつけて揚げたもので、世界中で人気があるが、特に主な市場であるドイツとオーストリアとスイスでよく食べられている。ジェニー氏によると、Plantedのシュニッツェルは、細切れ肉を寄せ集めて押し固めたものではなく、一片の肉だ。「発酵により味と食感が良くなり、おいしそうな匂いとジューシーな食感が得られました」というが、残念ながら私はまだ食べていない。シュニッツェルの一般市販は、2021年第3四半期だという。

関連記事:スイスの代替肉メーカーPlantedが製品の多様化と市場拡大に向けシリーズAで約19.8億円を調達

どんな料理でも作れる大きな肉の塊としての代替肉はさまざまなところで計画されているが、Plantedのチームが主張するのは、同社の製品ならどんな形状も可能だとのこと。その形は、本物の肉をカットしたものとまったく変わらない。現在は大きな肉の塊を消費者にテスト、試食してもらってる。最終製品の味や形が決まれば、大量生産へ移れる。

今回のラウンドは、Vorwerk VenturesとGullspång Re:food、Movendo Capital、Good Seed Ventures、Joyance、ACE & Company(SFGの戦略的投資)、そしてBe8 Venturesが参加し、3月に行われた1700万スイスフラン(約20億円)のシリーズAの、続きのようなものだ。いうまでもなく、代替プロテインの爆発的需要急増と競争の激化が、Plantedの投資家たちの、もっと攻撃的な成長と開発戦略への欲求をかき立てている。

第3四半期と第4四半期にかけていくつかの新市場に進出する計画だが、新型コロナウイルスで旅行が制限されている間は、米国には疑問符が付く。ジェニー氏によると、可能な市場ならどこへでも出ていくが、現状のPlantedは主にヨーロッパ市場にフォーカスしているという。

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カテゴリー:フードテック
タグ:Plantedスイス資金調達代替肉プロテインチューリッヒ工科大学

画像クレジット:Planted

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)