暗黒物質の候補となりうるアクシオンなど未知素粒子を探索する国際共同実験「SAPPHIRES」が始動

広島大学、暗黒物質を探索摺る国際共同実験「SAPPHIRES」を始動

広島大学は、国際共同実験「SAHHPIRES」(サファイアズ)において、2色の強力なレーザーを用いた暗黒物質の探索を始動したことを発表した。目標とするのは、暗黒物質の候補となりうるアクシオンなどの未知の素粒子。波長の異なる強力な2つのレーザー光を真空中で混ぜ合わせることで、未知粒子(アクシオン的粒子)を介した散乱を誘導し、未知粒子を生成、崩壊させるという実験を開始し、その探索結果を公表した。

実験では、真空容器内に波長の異なる2つのレーザー光を照射し光子を衝突させ、そこで起きる未知粒子の生成と崩壊を介した散乱から生じる信号光を観測した。真空容器内に残る原子を排除するために徐々に圧力を下げながら信号光の有無を検証したところ、大気圧の10万分の1以下で残余原子からの寄与が消失し、さらに圧力を下げると信号光が見えなくなった。今回の探索では未知粒子の介在は確認されなかったものの、その結果から、未知粒子の質量と結合に対する棄却領域(反対の仮説が正しくないとされる領域)の提示が可能になったという。

SAHHPIRESは、Search for Axion-like Particles via optical Parametric effects with HighIntensity laseRs in Empty Space(真空中の高強度レーザーによる光学的パラメトリック効果を通じたアクシオン的粒子の探索)の略。拠点はルーマニアのExtreme-Light-Infrastructure原子核部門(ELI-NP)。広島大学大学院先進理工系科学研究科物理学プログラムの本間謙輔准教授らによる研究チームが参加している。ちなみにチタン・サファイアが、高強度レーザーの増幅媒体に使われている。複数の高強度レーザー施設を渡り歩く国際共同研究であるため、この名前が冠されたという。

千葉大学と国立天文台が世界最大規模のダークマター構造形状シミュレーションに成功しデータを公開

千葉大学と国立天文台が世界最大規模のダークマター構造形状シミュレーションに成功しデータを公開

千葉大学の石山智明准教授を中心とする国際研究グループは9月10日、国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイII」を使った世界最大規模のダークマター構造形成シミュレーションに成功し、おおそ100TB(テラバイト)のシミュレーションデータを公開した

国立天文台では、すばる望遠鏡などを用いた大規模な天体サーベイ観察(特定の天体ではなく宇宙の広い範囲を観測するもの)を行っているが、その観測結果から情報を引き出して検証するためには、銀河や活動銀河核の巨大な模擬カタログが必要になるという。模擬カタログとは、理論的な枠組みで構築された銀河や活動銀河核などの天体のさまざまな計算上の情報を含むデータセットで、実際の観測データと比較することで、観測結果から数多くの情報を引き出すことができるというもの。今回公開されたデータは、その基礎データとなるもので、宇宙の大規模構造と銀河形成の解明に向けた研究に役立てられるとのこと。

この研究の目的は、宇宙の大規模構造の形成という天文学上の大きな謎の解明に関わるもの。そのためには、大規模天体サーベイ観測から情報を引き出すのに必要な巨大な模擬カタログの構築と、その土台となる大規模の構造形成シミュレーションを実現する必要がある。宇宙の構造形成には、ダークマターと呼ばれる目に見えない物質が大きく関わっており、その働きをシミュレートするには、宇宙初期の微小なダークマターの密度の揺らぎ(ムラ)を粒子で表現し、粒子間で働く重力を計算することによりハロー(銀河を球状に包み込む希薄な星間物質などの星の成分)や大規模構造がどのように形成され進化してきたかを見るという方法が用いられている。

  1. 「Uchuu」シミュレーションで得られた現在の宇宙でのダークマター分布。図中の囲みは、このシミュレーションで形成した最も大きな銀河団サイズのハローを中心とする領域を、順々に拡大しており、最後の図は一辺約0.5億光年に相当する(クレジット:石山智明)

    「Uchuu」シミュレーションで得られた現在の宇宙でのダークマター分布。図中の囲みは、このシミュレーションで形成した最も大きな銀河団サイズのハローを中心とする領域を、順々に拡大しており、最後の図は一辺約0.5億光年に相当する(クレジット:石山智明)

動画は、シミュレーションで形成した、最も大きな銀河団サイズのハローを中心とする領域の、ダークマター分布を可視化したもの。初期密度揺らぎが重力で成長し、無数のダークマターハローが形成する様子と(47秒まで)、現在時刻におけるそのハロー周辺の様子(47秒以降)(クレジット:石山智明、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)

そこでは、ダークマターを示す粒子の数が多いほど広い空間を表現でき、粒子の質量を小さくするほど高い分解能が得られるのだが、これまで世界中で行われてきたシミュレーションでは、コンピューターやプログラムの制約により、そのどちらかが不足していたため、観測結果と直接比較することが難しかった。そこで千葉大学とスペインのアンダルシア天文物理学研究所を中心とする国際研究チームは、国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイII」の全システム(4万200の CPUコア)を投入し、世界最大規模のシミュレーションを行った。

このシミュレーションは「Uchuu」(宇宙)と名付けられ、一辺96億光年という広大な空間で、粒子2兆1000億体という高精度模擬カタログに必要な質量分解能を両立させた。このシミュレーションのデータ量は3PB(ペタバイト)にのぼるが、これを100TBまで大幅に圧縮し、クラウド上で公開。これにより、有用な模擬カタログの整備が加速されるという。

アテルイIIは、Cray製のXC50スーパーコンピューター。論理演算性能は3.087ペタフロップスを誇る(1ペタフロップスは毎秒1000兆回演算を行えることを指す)。岩手県奥州市水沢星ガ丘町の国立天文台水沢キャンパスに設置されている。

天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」(クレジット:国立天文台)

天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」。CPUはIntel Xeon Gold 6148 Processor(20コア、2.4GHz)で、システム全体のコア数は4万200(クレジット:国立天文台)

フェルミ研究所暗黒エネルギーサーベイチームが宇宙におけるダークマター分布の最大・詳細なマップを発表

フェルミ研究所暗黒エネルギーサーベイチームが宇宙におけるダークマター分布の最大・詳細なマップを発表

N. Jeffrey et. al/Dark Energy Survey Collaboration

米フェルミ研究所の暗黒エネルギーサーベイ(DES)チームが、宇宙における暗黒物質(ダークマター)の分布について、最大かつ最も詳細なマップを発表しました。

ダークマターとは宇宙の85%を占めるとされる「質量はあるものの光学的に観測できない」物質のこと。あくまで仮説上のものでありながら、それが存在しなければ一部の天文学的な現象が説明できない重要な物質です。ダークマターそのものは観測できないものの質量があるため、遠くの星の光を歪ませる作用があります。また歪みが大きければ大きいほど、その間に存在するダークマターの濃度が高いと考えられます。

DESが発表した新しい宇宙マップは、2013年から2019年にかけ、チリにあるビクター・M・ブランコ望遠鏡を使って1億個の銀河を分析した結果として発表されました。この地図は、暗黒物質が宇宙にどのように分布しているかを示しています。

研究では弱い重力レンズ効果を拾うことで宇宙の比較的近い部分にある暗黒物質の大きな分布を分析しました。そしてその結果は現在もっとも信頼される理論で予測されているよりも、ダークマターの分布がわずかに滑らかで、より拡散していることを示しています。またそれは、アインシュタインの一般相対性理論から逸脱しているように見えることから、天文学者たちに驚きと混乱をもたらしています。

マップ作成に関わったパリ高等師範学校(École Normale Supérieure:ENS)のNiall Jeffrey博士は、この結果は物理学にとって「非常に問題」であると述べ「もしこの(一般相対性理論との)不一致が正しければ、アインシュタインが間違っていたことになります。これは物理学が壊れてしまうことを意味するかもしれません。しかし、物理学者たちにとってこれはエキサイティングなことでもあります。なぜなら宇宙の真の姿についてなにか新たな発見があるということも意味するからです」としました。

一方、アインシュタインらの理論をもとにして現在の宇宙理論を構築した科学者のひとり、ダラム大学のカルロス・フレンク教授はこの結果が自ら「人生を捧げて研究してきた理論が崩壊させられるのは見たくない」としつつ「しかし私の頭の中では、測定結果は正しかったのだから、新しい物理学の可能性に目を向けなければならないと考えている」と述べました。そして「私たちは、宇宙の構造に関する根幹的な何かを発見したかもしれません。現在の理論は、砂で作った非常にいい加減なつくりの柱に基づいています。そして、私たちが目にしているのは、その柱のひとつが崩れ落ちるところです」としています。

DESの結果はまた、ダークエネルギーが一定であるという現在の理論をほぼ裏付けています。しかし今回発見された矛盾点は、研究者らにこれまでの認識を改めさせるかもしれません。実際の宇宙は、実はこれまで科学者が考えていたようには振る舞わない場面がある可能性があります。このダークマターの分布を記すマップから、これまでの仮定を覆すような新しいモデルの発見にもつながるかもしれません。

チリにあるビクター・M・ブランコ望遠鏡。Photo: Reidar Hahn、Fermilab

チリにあるビクター・M・ブランコ望遠鏡。Photo: Reidar Hahn、Fermilab

(Source: Nature、Via:FelmilabEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:宇宙
タグ:ダークマター / 暗黒物質(用語)