曖昧だから良い? 米国の暗号資産規制がイノベーションを取りこぼさないワケ

曖昧だから良い? 米国の暗号資産規制がイノベーションを取りこぼさないワケ

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編集部注:この原稿は千野剛司氏による寄稿である。千野氏は、暗号資産交換業者(取引所)Kraken(クラーケン)の日本法人クラーケン・ジャパン(関東財務局長第00022号)の代表を務めている。Krakenは、米国において2011年に設立された老舗にあたり、Bitcoin(ビットコイン)を対象とした信用取引(レバレッジ取引)を提供した最初の取引所のひとつとしても知られる。

暗号資産取引所に上場するコインの数は日本の数倍。機関投資家や上場企業による積極的なBitcoin(ビットコイン)投資で今年の強気相場を牽引する。「コンテンツ大国」であるはずの日本よりも先に、アーティストやミュージシャン、スポーツ選手、セレブがデジタルアート販売やバーチャルリアリティ(仮想現実)のインフラ整備を目的としてNFT(ノン・ファンジブル・トークン)のブームを作る。そして、著名電気自動車メーカーCEOが有名なテレビ番組に出演して柴犬がトレードマークの「Dogecoin」(ドージコイン)について語る……。

上記は、2021年に入って米国の暗号資産業界が成し遂げたアチーブメント(実績)の一部です。5月はBitcoinをはじめ暗号資産マーケットは大幅に調整しましたが、米国市場に悲観ムードはあまり見られない印象です。「投機」や「ハッキング」といったネガティブなイメージから脱却できない日本とは雲泥の差で、暗号資産に対する温度差は激しいのは明らかだと思います。

一体なぜなのでしょうか?

もちろん様々な理由が考えられますが、その1つには、暗号資産を含めて新たなイノベーションに対する規制について、日米間で考え方に大きな違いがあるからと考えています。

日本は暗号資産大国だった

驚くことに実は、数年前まで日本は暗号資産のメッカでした。

Bitcoin創設者(または創設グループ)の名前がSatoshi Nakamoto(サトシ・ナカモト)であることに関係しているかどうかは定かではありませんが、Bitcoinの開発者や熱狂的なサポーターが国内外から東京に集まっていました。ニューヨーク・タイムズの記者であるナサニエル・ポッパー氏が2009年~2014年にかけて世界中のBitcoin関係者に直接取材して書いたルポタージュ「デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語」(ISBN:978-4-532-17601-3)では、東京が重要な舞台として登場します。ハッキング事件が起きるまで世界一のBitcoin取引高を誇った取引所Mt.Gox(マウントゴックス)は、東京に拠点を持っていました。実際、2018年頃までは、円建てのBitcoin取引高が全体の50%以上を占めていました。

何を隠そうクラーケンCEOであるJesse Powell(ジェシー・パウエル)も日本に魅了された1人です。当時、ハッキングを受けたMt.Goxを支援するために、たびたび東京を訪れました。

しかし、現在、東京は暗号資産のメッカとはとてもいえなくなってしましました。シェアの半分以上を占めていた円建てのBitcoin取引高は、7%未満まで落ち込みました。Bitcoin投資だけではありません。DeFi(分散型金融)やNFTブーム、ステーブルコインの台頭といった暗号資産の技術が基盤となるイノベーションについていけず、米国から大きく出遅れてしまっています。

イノベーションを定義できるのか? 日米規制の違い

突然ですが、読者の皆さんは、暗号資産やブロックチェーンの領域にかかわらず、今後、どのようなイノベーションが出現して世の中を変えていくのか完璧に予想することができますか?

どんな著名な起業家や経済学者、歴史学者であっても、答えは「NO」だと思います。また、最先端の研究に携わっている人でも、自分の分野以外のイノベーションを予測することは不可能でしょう。

それにもかかわらず、法律でイノベーションの形を厳格に定義して、基本的には、「その定義に合うイノベーションだけを認める」「定義に合わないものは認めない」といった杓子定規な運用をしている国があります。日本です。

消費者保護・マネロン対策の面では評価されている日本の規制

暗号資産の分野に関していえば、日本では、2017年の4月に資金決済法が改正され、暗号資産が法的に定義され、暗号資産を取り扱う事業者は仮想通貨交換業(現在は暗号資産交換業)としての登録が義務付けられました。この暗号資産規制は、日本が世界に先駆けて導入したものであり、導入当初は、事業者に金融機関並みの投資家保護やマネーロンダリング(マネロン)対策(AML)、テロ資金供与対策(CFT)などを求めたことが暗号資産市場に制度的な安定性を与えるものだと、おおむね好意的に評価されていました。

ただし、2014年のMt.Gox事件以降も、日本では2018年のコインチェック事件をはじめとして、巨額暗号資産の流出事件が相次ぎました。そしてこうした事件が起こる度に当局は事業者に対する規制を強化しており、現行の規制水準は、セキュリティに関するものを中心に一部金融機関の水準を上回っているのではないかと思います。

日本の法律と規制は、イノベーションを進めるという観点からは難点が多い

一方で、現状の規制では、暗号資産の商品性や技術的特殊性がほとんど考慮されていないなど課題が多いのも事実です。具体的には、日本では資金決済法で暗号資産の定義がきっちりと決められているため、定義に当てはまらない場合は、たとえイノベーションとして世界を変えるほどのプロダクトであっても、いくら海外で暗号資産として流通していても、日本国内ではそれが認められません。「やって良いこと」を毎回事前に決めてしまう日本の法律と規制は、イノベーションを進めるという観点からは難点が多いのではないかと感じています。

米国では、必要最低限の事項をリトマス試験紙のように判定し、最初から法令でがちがちに縛ることはしない

対照的に米国では、法律は「原則(プリンシプル)ベース」です。新しいイノベーションに基づくサービスが出てきた時、「すでに存在するサービスに該当しないか?」「犯罪に使われないか?」「詐欺ではないか?」「マネーロンダリングに使われないか?」など、必要最低限の事項をリトマス試験紙のように判定し、最初から法令でがちがちに縛ることはしない、というのが基本スタンスです。

例えば、2013年に米連邦捜査局(FBI)はBitcoinを使った決済を導入していたインターネット上の闇サイト「Silk Road」(シルクロード)の創業者を麻薬取引や詐欺、マネロンなどの罪で逮捕・起訴しました。また2019年、ニューヨーク州南部地方検察局は、北朝鮮で開催されたカンファレンスに参加して暗号資産に関する知識を提供したとしてEthereum Foundation(イーサリアム財団)の関係者を逮捕しました。

米国では、上記のように要所要所で取り締まるべきところは厳格に取り締まっていますが、基本的に、個別具体的なプロダクトやサービスレベルでは原理原則を守る限りは見守る方針があるようです。逆に言えば、企業やスタートアップは原理原則を守りながら新たなイノベーションにチャレンジすることが可能となっていると思います。

さらに米国では国レベルでも規制当局の数が多いこともあり、暗号資産の定義はバラバラです。米証券取引委員会(SEC)は「証券」、米商品先物取引委員会(CFTC)は「コモディティ」、米内国歳入庁(IRS)は「財産」と独自に定義づけをしています。現在の暗号資産はいまだ黎明期にあり、暗号資産というイノベーションが今後どのように進化していくのか、その全貌が把握できない中では、この曖昧さや統一感のなさが逆に柔軟性につながっているのではないかと感じています。

イノベーションを取り込む議論を!

暗号資産のイノベーションは、日進月歩ならぬ「秒進分歩」で進んでいます。日本国外では、DeFi(分散型金融)やステーブルコインといった既存金融サービスをブロックチェーン上で実装する動きが活発化しています。

DeFiの例としては、暗号資産の貸借取引(暗号資産を貸出して報酬を得る取引)のプラットフォームがあります。ここでは、暗号資産を貸出して報酬を得たい人と暗号資産を借入れたい人のマッチングばかりか、貸出・借入と報酬の授受も自動化されています。伝統的な金融では、証券会社、短資会社、証券金融会社、証券取引所といったプレイヤーが複雑に絡み合って成立している貸借取引の世界をプログラム上で実現し、さらに仕組みの改善を恒常的に行っている点は、私のような証券業界に長くいた人間からすると驚きに値します。

ステーブルコインは、法定通貨などを裏付けとして、ブロックチェーン上で発行されるもので、日本円や米ドルといった既存の法定通貨にペッグするように設計されています。こうしたステーブルコインの代表例には、テザー(USDT)やUSDC(USDコイン)があり、暗号資産市場で国際取引を行う際に、銀行を用いた国際送金の代替として活発に利用されています。銀行の国際送金は、資金の到着まで数日必要であり、手数料も高額ですが、ステーブルコインはこうした課題をブロックチェーン上で解決しています。

日本の暗号資産に関する法令が立法当時にどこまでイノベーションを意識していたか定かではありませんが、DeFiやステーブルコインの例を出すまでもなく、暗号資産におけるイノベーションは今後も加速度的に進化していくでしょう。

イノベーション、技術革新には不可逆性があります。つまり、一度誕生したら、過去にさかのぼって消すことはできず、それとうまく付き合っていくほかないのです。この点を念頭におくと、日本の暗号資産に関する法令・規制がイノベーションを取り込むという観点において、投資家の利益になっているか、国際競争上不利な状況になっていないか、法的により柔軟な対応は可能かどうかなどなど、議論を進めていく必要があるのではないかと感じています。

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マイナンバーカード活用のデジタルIDソリューション「xID」がセブン銀行アクセラレータープログラムで採択

マイナンバーカード活用のデジタルIDソリューション「xID」がセブン銀行アクセラレータープログラムで採択

マイナンバーカードを活用したデジタルIDソリューション「xID」(クロスアイディー。Android版iOS版)を提供するxIDは4月12日、セブン銀行主催の社会課題解決型アクセラレータープログラム「セブン銀行 アクセラレーター 2021」の採択企業として選出されたと発表した。今後xIDとセブン銀行ATMの連携を検討開始し、「行政のサードプレイス」として新サービス創出を目指す。

セブン銀行は、これまで「いつでも、どこでも、だれでも、安心して」利用できるATMサービスを展開しており、全国2万5000台以上のATMが利用されてきたという。

その中で、スマートフォンの普及や決済手段の多様化といった昨今の環境の変化に順応し、これまでと変わらずセブン銀行としての価値を発揮していくため、「セブン銀行アクセラレーター」を2016年より開催。

第4回目となる今回は、「高性能カメラ、顔認証、本人確認書類のスキャナー、Bluetoothなどの機能を備えた新型ATMの活用」や、「コンビニらしい、身近な金融サービスの検討」をテーマに、「身近な便利」を共創するための新たなサービスアイディアを広く募集。その結果52社の応募があり、xIDが以下協業プランを提案し採択された。なお、xIDがアクセラレータープログラムに参加するのは今回が初という。

マイナンバーカード活用のデジタルIDソリューション「xID」がセブン銀行アクセラレータープログラムで採択

xIDは「信用コストの低いデジタル社会を実現する」をミッションとして掲げ、マイナンバーカードを活用したデジタルIDソリューションを中心に、次世代の事業モデルをパートナーとともに創出するGovTech企業。情報のフェアな透明性を担保し、データ・個人・企業・政府の信頼性が高い社会をデジタルIDを通して創出する。

xIDは、マイナンバーカードと連携することで、より手軽に本人認証ができるデジタルIDアプリ。初回登録時にマイナンバーカードに格納されている基本4情報(氏名、住所、性別、生年月日)をスマートフォンのNFC経由で読み取り、公的個人認証によってマイナンバーカードとxIDを紐付ける。その後、連携するオンラインサービスのログイン用の暗証番号と電子署名用の暗証番号を設定し、利用時に認証・電子署名することで本人確認を完結し、様々なオンラインサービスの安全な利用を実現する。

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タグ:アクセラレータープログラム(用語)xID(企業)KYC / eKYC(用語)公的個人認証サービス / JPKI(用語)セブン銀行(企業)テロ資金供与対策 / CFTマイナンバー(製品・サービス)日本(国・地域)

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メルカリのスマホ決済サービス「メルペイ」がマイナンバーカードによる本人確認に対応メルペイは、フリマアプリ「メルカリ」のスマホ決済サービス「メルペイ」が、マイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)を利用した本人確認に対応したと発表しました。まずiOS版が対応し、Android版は3月中に対応します。

メルペイでは、オンライン上での本人確認機能として、運転免許証などを撮影し、名前や住所などの必要事項を入力することで本人確認が完了する「アプリでかんたん本人確認」を、2019年4月23日から提供しています。

これまでの運転免許証などの撮影に代わり、マイナンバーカードのICチップに格納されている署名用電子証明書をもとに公的個人認証サービスを利用することで、リアルタイムに本人確認を完了できるとしています。

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本人確認操作の流れ。一部の人には、必要に応じて追加の確認を行うため、オンラインでの本人確認が完了しない場合があるとのこと

メルペイによると、スマホ決済サービス事業者として本人確認にマイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)を利用するのは今回が初めてとのことです。

(Source:メルペイEngadget日本版より転載)

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LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始

LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始

暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン技術に関連する国内外のニュースから、過去1週間分について重要かつこれはという話題をピックアップしていく。今回は2020年12月20日~12月26日の情報から。

ジェーシービー(JCB)LayerXは12月22日、複数企業間をつなぐ次世代「BtoB取引履歴インフラ」に関する共同研究の開始を発表した。共同研究において両社は、プライバシーに配慮した利用者主体の商流情報の流通を実現し、それらを活用した高度なサービスを可能にする新たなデジタルサプライチェーン構築を目指す。

近年、中央銀行デジタル通貨(CBDC。Central Bank Digital Currency)をはじめデジタル通貨による決済プラットフォーム構築に向けた動きが活発化している。これらデジタル通貨に関する試みおよびメリットのひとつに、「様々な機能・ロジックを付加できるお金」という側面があり、こうした新形態のお金は「プログラマブルマネー」と呼ばれている。契約・請求・支払いなど一連のオペレーションのデジタル化・効率化、さらには自動執行が期待される。

これを受け共同研究では、JCBの強みを生かし、地域金融機関、BtoB決済に関わるソリューションプロバイダーなどとの協業も視野に入れ、BtoB取引履歴インフラの新モデルを検討していく。次世代インフラは、オペレーションの効率化に留まらず、業種・業界を超えたサプライチェーンプラットフォームならではの、商流情報を活用した高度なサービスの実現を目指すという。

LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始

また、異なる業種・業界間における取引情報の共有においては、ブロックチェーン技術を用い取引情報を記録することで改ざん困難かつ確かなデータ流通が可能になるものの、両社はこれだけでは不十分という。社会実装においては、データ保護・プライバシーの観点から、情報主体(利用者)それぞれが「金融機関など業務上必要のある事業者には開示する」「不必要な事業者には開示しない」など取引情報の閲覧権限を柔軟に設定できるデータコントロールの仕組みが、情報提供者に対して求められる。

さらに与信情報の照会・確認などでは、データを秘匿したままデータ演算を行うといった高度なプライバシー技術を必要とする。

LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始今回の共同研究では、TEE(Trusted Execution Environment)を応用しLayerXが開発したソリューション「Anonify」(アノニファイ)とブロックチェーンを組み合わせ、取引情報の秘匿性・信頼性を担保し、利用者による開示情報の取捨選択を実現する。

TEEは、PCやスマートフォンが搭載するプロセッサーのセキュリティ機能にあたり、アプリケーションを安全な実行環境で動作させるための技術。ユーザーであってもアクセス不可能なデータ領域を端末に構築し、アクセス制限をハードウェアレベルで保証する。これにより同環境下では、クラッキングやマルウェアによる攻撃などの脅威を防ぐことができる。

LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始Anonifyは、TEEを活用した、ブロックチェーンのプライバシー保護技術。ブロックチェーン外のTEEで取引情報の暗号化や復号を行い、ビジネスロジックを実行することで、ブロックチェーンの性質を活かしながらプライバシーを保護する。複数の企業や組織が共同で利用する共通基盤において、秘匿性と監査性を両立させたアプリケーションを構築可能という。詳細は、ホワイトペーパーAnonify Book(JP)ソースコードをはじめ、LayerXサイトのAnonifyに関するページを確認してほしい。

LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始LayerXとJCBが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラの共同研究開始JCBは、デジタルによる取引が増えていく社会の中で、デジタル取引・送金の履歴を蓄積し、必要に応じて取り出して参照できるインフラの必要性が高まると考え、同共同研究に挑む。両社はBtoB決済におけるトランザクションの記録・活用に加えて、デジタル通貨を用いた国内外送金などの金融取引に関するマネーローンダリング(資金洗浄)防止(AML。Anti-Money Laundering)およびテロ資金供与対策(CFT。Counter Financing of Terrorism)強化に向けたトランザクション識別と追跡性担保を可能にするといった、今後は必要不可欠となるインフラへの応用も視野に入れて、研究開発に取り組んでいく。

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