ダイヤモンドを放熱材とする窒化ガリウム・トランジスターの製作に成功、温度上昇を約3分の1に抑え特性を改善

ダイヤモンドを放熱材とする窒化ガリウム・トランジスターの製作に成功、温度上昇を大幅に抑え特性を改善大阪市立大学は3月18日、ダイヤモンドと窒化ガリウム(GaN)の直接接合技術を活かして、ダイヤモンドをベースとした窒化ガリウム・トランジスターの製作に成功したと発表した。次世代トランジスターの素材として期待される窒化ガリウムに高い放熱性を持たせることで、レーダーやインバーターなどの高出力、大電力用途に使用範囲が広がると期待される。

次世代トランジスターとされる窒化ガリウムを材料としたトランジスターは、従来のシリコン(Si)ベースのトランジスターに比べて高周波で駆動し、高出力に対応できる利点があるため携帯電話の基地局などで使われているが、大量の熱を発生することにより性能が制限されてしまう欠点がある。現在、放熱性に優れたダイヤモンドに窒化ガリウムを接合し熱問題に対処する技術が方々で研究されているが、トランジスター製作後にダイヤモンドと接合する方式のため、大面積化が困難という弱点がある。

大阪市立大学大学院工学研究科の梁剣波准教授、重川直輝教授は、東北大学金属材料研究所 大野裕特任准教授、永井 康介教授、物質・材料研究機構(NIMS) 清水康雄博士、エア・ウォーター 川村啓介博士らからなる共同研究グループで、窒化ガリウムとダイヤモンドを接合してからトランジスターを作る技術を開発した。同研究グループは、2021年9月に窒化ガリウムとダイヤモンドの直接接合に成功し、摂氏1000度の熱処理に耐えることを実証していたが、今回はその技術を使って、ダイヤモンドに接合した窒化ガリウムを摂氏800度で熱処理し、放熱性に優れたトランジスターを製作した。

(a)(b)窒化ガリウムとダイヤモンドを接合させた試料。(c)ダイヤモンド上に作られた窒化ガリウム・トランジスターの光学顕微鏡写真。(d)ゲート電極断面の走査型電子顕微鏡像

まずはシリコン基板上に堆積させた窒化ガリウム層と炭化ケイ素バッファ層をシリコンから分離し、表面活性化接合法(真空中でアルゴン原子ビームを照射し試料同士を密着させて荷重をかける方法)でダイヤモンドに接合させた。摂氏800度の熱処理などの工程を経た後に、それを使ってトランジスターを製作。高品質な炭化ケイ素バッファ層により、トランジスターに加工した後も膜剥がれは起こらず、良好な接合が実現した。

確認のため、シリコン基板上に作られたまったく同じ窒化ガリウム・トランジスターと特性を比較したところ、同じ電力を投入したときの温度上昇は、ダイヤモンドはシリコンの約1/3であり、それによりトランジスター特性が改善することが実証された。

窒化ガリウムとダイヤモンドを接合した後にトランジスターを作る方式なので大面積化が可能になり、集積化した際の放熱特性が改善される。そのため、レーダーやインバーターなどの高出力、大電力の用途に利用範囲が拡大するとのことだ。「本研究の成果が早期に実用化され、窒化ガリウム素子、集積回路の放熱性向上、SDGs達成につながることを期待します」と梁准教授は話している。

物質・材料研究機構と筑波大学、新製法によるダイヤモンド電界効果トランジスターで高い移動度とノーマリオフ動作を実証

新製法によるダイヤモンド電界効果トランジスターで高い移動度とノーマリオフ動作を実証

(a)今回の研究で作製したダイヤモンド電界効果トランジスターの構造。正孔の密度と移動度を正確に評価するために、ゲート電圧をかけながらホール(Hall)効果の測定が可能な構造にした。(b)ダイヤモンド表面を水素プラズマにさらして水素終端化したあと、大気にさらさずArで満たされたグローブボックスに搬入し、その中で劈開(へきかい。鉱物などが特定方向に沿って割れること)した六方晶窒化ホウ素単結晶薄片を貼り付けることで、アクセプターとして働く大気由来の吸着物を低減した

物質・材料研究機構 (NIMS) と筑波大学は1月18日、新しい設計指針に基づいて作製されたダイヤモンド電解効果トランジスターで、高い正孔移動度とノーマリオフ動作を実証したことを発表した。低損失の電力変換や高速情報通信に資する素子の実現につながるという。

ダイヤモンドは、バンドギャップが広い炭化シリコン(SiC)や窒化ガリウム(GaN)と比べても、さらにバンドギャップが広いワイドバンドギャップ半導体としての特性に優れている。そのため、電力を制御するパワーエレクトロニクスや情報通信などにおいて、高電圧・高温・高速・低損失で動作する素子の材料になりえる。だが、これまで研究されてきた、表面の炭素が水素と結合した水素終端ダイヤモンドを使った電解効果トランジスターでは、移動度(電流を担う正孔の動きやすさ)が本来の1/10から1/100に低下するといった問題があった。

そこで研究グループは、これまで使われてきたアルミナなどの酸化物に代えて六方晶窒化ホウ素をゲート絶縁体に使い、水素終端ダイヤモンドの表面を大気にさらさない新しい製造方法を用い、オン状態での移動度が従来の5倍以上という高性能なトランジスターを開発。同時に、安全性の面から重要となるノーマリーオフ動作(ゲートに電圧がかからないときは電流が流れない)も実現された。これまでのダイヤモンド電解効果トランジスターでは、逆のノーマリーオンの状態が示されおり、特にパワーエレクトロニクスにおいては、安全性に問題があった。

さらに、これまで水素終端ダイヤモンドで電気伝導性を生じさせるために不可欠とされていながらトランジスターの性能を制限していた「アクセプター」が不要であることも判明した。

移動度が高くなれば、抵抗を下げて損失を低減できるため、素子の高速化と小型化が実現する。この技術を応用すれば、電気自動車やドローンなどで利用できる低損失で小型の電力変換装置や、携帯電話基地局や人工衛星などで利用できる高出力高周波増幅器などの実現が期待されるという。

産総研、シリコンを超えるGaNとSiCを一体化したハイブリッド型トランジスターの動作実証に成功

産総研、シリコンを超えるGaNとSiCを一体化したハイブリッド型トランジスターの動作実証に成功

産業技術総合研究所(産総研)は12月12日、窒化ガリウム(GaN)を用いた高電子移動度トランジスターと、炭化ケイ素(SiC)を用いたPNダイオードを一体化したハイブリッド型トランジスターの製作と動作実証に、世界で初めて成功したことを発表した。これは、産総研先進パワーエレクトロニクス研究センターパワーデバイスチームの中島昭主任研究員と原田信介研究チーム長の研究によるもの。

これは、電力エネルギーの変換や制御を行う電力変換器に使用されるパワートランジスターの一種。パワートランジスターは電気的スイッチとして用いられるため、次の3つの性能が求められる。

  1. 高効率な電力変換を実現するための、スイッチオン状態における導通損失を減らす低いオン抵抗
  2. スイッチング損失を減らすための、オンとオフの高速な切り替え性能
  3. 電力変換回路の異常動作時におけるノイズエネルギーの吸収源としての役割

現在の主流になっているシリコン(Si)トランジスターは、この3つの性能がほぼ限界に達していることから、効率の高いGaNトランジスターの研究が行われてきた。シリコントランジスターには、構造的にソースとドレインという2つの電極がPN接合されているため、本来的にダイオードの性質を持っている。ところが、GaNトランジスターにはそれがない。ダイオードは本来、片方向にだけ電流を流す性質があるが、パワートランジスターに含まれるダイオードには、過電圧がかかったときに一次的に逆方向に電流を逃して(アパランシェ降伏)、熱として消散させ、ノイズエネルギーを吸収する役割を果たす。つまりGaNトランジスターでは、求められる性質の3つ目である、異常動作時におけるノイズエネルギーの吸収が行われない。それが、普及の妨げになっていた。

産総研は、そこにSiCダイオードを追加して一体化することで、アパランシェ降伏動作を得ることができた。さらに、このハイブリッドトランジスターでは、GaNトランジスターのオン抵抗が低く、SiCダイオードの熱伝導率はシリコンの3倍と高いことが認められた。そのことから、次世代電力変換器の高効率化と信頼性向上が期待される。

今回開発したハイブリッド型トランジスターの構造

今回開発したハイブリッド型トランジスターの構造

今回製作されたのは、定格電流20mA(ミリアンペア)程度の小さなものだが、今後は10A(アンペア)程度の大きなものの動作実証に取り組むとのこと。また、GaNとSiCの融合技術は、ハイブリッドトランジスターの他にも多くの可能性が期待されるという。