スタートアップのピッチを実用化するために必要なトランスレーション(技術転換)の方法

[著者:Perry Hewitt]
マーケティング、技術、ミッションドリブンな組織の間で活躍している。

大企業に取り入ろうと、舌なめずりをしているスタートアップはいくつもある。それは悪いことではない。大きな企業は古臭いシステムや回りくどい手続きに満ちていて、それにより仕事の良い成果が出にくくなっている。こうした問題を解決する方法を、スタートアップは持っているからだ。

しかし、チッピの内容が伝わらなかったり、約束どおりに準備が進まなかったりという失敗が多い。その障害物が、はっきり見えていることもある。製品と問題とのミスマッチ、スケールの調整ができない、企業からの出資が途絶えるなどだ。だがとりわけ多いのは、スタートアップの価値が、トランスレーション(技術転換)によって失われるという問題だ。

非常に先見的な企業のリーダーたちですら、私が「GAAP(公正妥当と認められる会計原則)ベースのデジタル戦略」と呼ぶ環境下で仕事を行っている。予算編成が、たとえばソフトウエアのライセンス更新料や固定価格のサポート契約といった、特定の種類の購入だけを対象にしている。オープンソースの開発など、変化する新しいコストモデルでは、予算獲得の際に次善策を提示したり説明したりという手間が必要になり、それではやる気のある有能な社員も、時間と労力を奪われて疲弊してしまう。

そこでスタートアップは、どんな役に立つのだろう? 企業に定着した基準に沿った新しいコストモデルが導入できるよう、社内の予算管理者を手助けできれば、資金調達と財務というヒドラのように頭がいくつもある複雑な問題から、牽引力を引き出せるようになる。ひとたび、プロジェクトが軌道にに乗れば、それを推進する担当社員は予算編成を変革することもできるかも知れない。ただしその前に、パイロット版を立ち上げ、結果を見せることが重要だ。

GAAPベースのデジタル戦略には、会計上の習慣を遥かに超えるものがある。たとえば、内部報告書だ。大きな企業では、透明性を高めて仕事の成果への社員の当事者意識を持たせる目的で、上、横、下に向けて報告を行うが、そのために膨大な時間が奪われる。みなさんの部署のKPI(主要業績評価指標)はどうだろう。結果を、その会社の言葉で簡単に説明できるだろうか。顧客と直に接して、既存の報告書の枠組みに沿うよう(そしてそこで目立つよう)長い時間を共に過ごすのだ。

こうした制御システムを動かすことが大変に困難であることを、企業はよく承知している。だから、「イノベーション部門」を設置するところが増えている。一度きりの特別予算を付けて、新しい技術を試す部門だ。これが、スタートアップと新しい顧客との関係の出発地点となる。

スタートアップにとって、これは有り難いアプローチとなる。煩雑なプロキュアメントやIT要件を巡って交渉を重ねることなく、自分たちの価値を示せるからだ。ただ、こうした部門はパイロット版の試験ごとに変わることが多いため、スタートアップの技術を自社の事業のために吸収したいと考える、その分野の積極的で有能な社員と出会うのに苦労することがある。もっとも大きな課題は、イノベーションを立ち上げた後、それを実際の業務として運用できるようにする引き渡しの作業だ。そのための手順を決めていない企業が非常に多い。そのような企業では、手続きや規則とは隔離された「クリーンルーム」でテストされる場合がある。

ここに、拡張現実(AR)ヘッドセットとソフトウエアを持ち込んで、複雑な医薬品製造の環境に変化をもたらしたスタートアップの例がある。彼らはパイロット版の導入ではっきりとした結果を出した。最初は4つか5つのヘッドセットでテストを開始したが、音声を記録でき、両手が自由に使えるようになるARのワークフローが現場の作業員の大きな助けになった。

スタートアップは、その後、現場を訪れ、作業員と一緒に改良点を試し、決まりに従って組み立てられた作業手順に、どのようにその技術を合わせればよいかを話し合った。こうした直接的な関わり合いが報告書に記され、現場が求めていた30個から40個のヘッドセットの納入につながった。中間管理職の決断を待つことなく、そのスタートアップは、実務につながる草の根の足場をしっかりと築いたのだ。

同じように、CPG(一般消費財)販売企業で分析用製品を試験導入したスタートアップは、すぐさまIT部門の分析予算に組み込まれてしまった。そして、ビジネス・インテリジェンス用のダッシュボードからマーケティング技術用ツールまで、さまざまな課題を与えられて、試験導入は方向性を失いかけた。

結果をよく調べてみると、貿易推進部門に効果が出ていることが発見できたので、彼らはツテを頼ってその企業の貿易推進部門を管理する重役に会った。すると彼女は彼らの試験導入を自分の直接管理下に置き、自分の予算で進めるように言ってくれた。彼らはGAAPベースのバケツ(分析)に閉じ込められことなく、重役と直接つながることで、まったく別次元で仕事ができるようになった。

社内の有能な人間を見つけることと、GAAPに縛られずに話を進めることの他に、時間をかけて、顧客である大企業の背景事情、つまりその四半期の株主価値を高める戦略とテーマを理解することも重要だ。解決を目指す課題の周辺だけでなく、その企業全体の目標も考慮して協力する姿勢が大切なのだ。

そこでは、年次報告書が味方になってくれる。企業の目標はデジタル化、国際協力、リスク管理といろいろあるだろうが、こうした優先度の高い課題に沿うことが、内部の信頼を得ることになる。目に見える、予算のついた、CEO主導の、部門の垣根のない流ちょうな戦略を守り、自分たちのソリューションが、その企業にどれだけ役に立つものかを示すことだ。

安心して欲しい。こうした技術転換は、決して一方方向ではない。関わりを深めるほど、顧客である企業はみなさんのスタートアップの考え方から恩恵を受けるようになり、本当に理解したとき、それを活かそうと、技術、作業工程、言葉が変化してゆくものだ。そして理想的には、昔からの煩雑な手続きが衰退し、今のビジネスが被っている構造的な遅れが解消される。それまでの間は、結果を宣伝するばかりでなく、技術転換の方法についてよく考えることも重要になる。