コンプレックスを武器に、美容医療アプリ「トリビュー」はどのようにして生まれたのか

国内の美容医療市場は右肩上がりだ。2009年の売上規模は2482億円、2014年では2833億円、2017年は2014年と比べると114.8%の3252億円に成長している。

美容脱毛サロンのミュゼプラチナムが実施した調査によると、美容医療を受けた8割の人がその事実を「隠さない」と回答。ひと昔前まで、美容医療は人知れずコソコソやるイメージが強かったが、今や“プチ整形は当たり前”の時代になりつつある。

2017年、国内で美容医療に関する情報収集がクリニックのHPやSNS上などに限られていたとき、いち早く口コミ・予約アプリ「TRIBEAU」(トリビュー)をローンチさせたのがトリビュー。代表の毛迪(モウ・デイ)氏自身も美容医療を何度か受けており、「ユーザーとして自分も使いたいアプリがほしい」という思いでサービスを開発した。アプリ立ち上げまでの道のりやコロナ禍におけるサービスの展望について話を聞いた。

毛迪(モウ・デイ)
中国生まれで5歳から日本育ち。 立教大学卒業後、2014年にリクルートへ入社。ゼクシィに配属され、国内大手企業を担当する。2016年に退職し、2016年にVCのアーキタイプへ入社。大企業向け新規事業立案や出資先の支援など行う。2017年にトリビューを設立。

ブライダル事業に興味を持てなかったリクルート時代

若いうちに仕事を任される環境で身におきたいと思いから、新卒でリクルートへ入社。ゼクシィに配属され、大手企業の広告戦略立案や広告制作ディレクションなどを任されていたが、ブライダル業界には興味を持てなかったという。

「ビジネスパーソンとしてのスキルは身に付く環境でしたが、肝心のサービスに対してはまったく熱量を持てず。部署異動も検討したのですが、リクルートの他事業で興味のある領域もなかったため、ほどなくして起業を考えるようになりました。

心から夢中になれて自分の価値を世の中に提供できる分野はなんだろう、と考えてたどり着いたのが『美容医療』でした」。

10代の頃から美容クリニックに通っていたというデイ氏。「施術を受けて見た目のコンプレックスが解消されると明るい気持ちになれます。見た目で悩んでいる人が前向きになれる選択肢の一つに美容医療がある世界を作りたいと思い、この分野での起業を決意しました」。

VCで働いて学びながら1年かけて起業準備

リクルートを退職し、起業するためのサービス案を考えるがなかなか納得いくプランが立てられない中、たまたま出会ったアーキタイプの中嶋さんから「うちで働いて勉強しながら起業準備をしないか」と提案が。

「当時、事業の進め方も知らなければ、スタートアップ業界の知り合いもほとんどいない状況。起業するは願ってもない環境だと思い、2つ返事でお世話になることにしました」。

2016年にアーキタイプへジョインし、1年間ほど大企業向けた新規事業立案や出資先の支援などを担当。アーキタイプでの経験はのちの企業や資金調達に大きく役立ったという。

「大手企業で社内ビジコンの事務局をするプロジェクトに参加したり、米国のスタートアップ企業で資金調達したところをレポートにまとめたりなど、今まで経験したことのない業務を任せてもらい大変勉強になりました。また、投資先のミーティングに参加させてもらったときは、実際にどのようなトラブルが発生するかなどケーススタディも知ることができました」。

日中はVC業務を行い、それ以外の時間は事業計画やサービス開発、資金調達などに充てた。最も苦労したのはエンジニア探しだったという。アプリ開発を依頼できるエンジニアを見つけるため、yentaやFacebookを使い100人以上にアプローチをした。

「プロダクトのない状態で会ってくれるエンジニアは本当に少ない。だから気になる人には片っぱしからメッセージを送りました。結果、yenta経由と友達の紹介でエンジニア2名が集まり、開発に半年ほどかけてローンチすることができました」。

初期ユーザーはTwitterのDMで獲得、1日100通送った

アーキタイプをめでたく「卒業」し、2017年7月に起業。同年10月にサービスをリリースした。最初の課題はユーザーの獲得。まずは整形垢(SNSで美容医療についての情報を発信するアカウント)として有名な人をリストアップし、毎日100人に「こういうサービスを作ったのでよかったら使ってください」とDMを送付した。はじめの返信率は5〜10%ほど。

「インターンの学生に作業をお願いして週次で進捗報告会を行いました。どういう文言だと返信率が高いのか、どういうアカウントだと拡散力があるのかなどのPDCAを回していました。この作業を1年ほど続けていたら、『もう使っています』という返信をいただくことが増えてきて。サービスが浸透してきていることを肌で実感できたため、この施策は終了しました」。

サービス開始から2年半。ユーザー座談会や謝礼キャンペーン、YouTubeチャンネルの開設などを経て、ダウンロード数は30万件を突破している。

今はオンライン診療で情報収集をする時期

新型コロナウイルスの感染拡大により、美容クリニックが休業したり渡韓での施術が中止になったりと美容医療業界も大きな影響を受けている。そこでトリビューは4月15日に自宅に居ながらオンラインで相談できる「TRIBEAUホームカウンセリング」機能をスタート。アプリ上のチャット機能から、美容クリニックにカウンセリングや施術の見積もりを無料で受けられる。

「外出自粛を要請されているいま、情報収集に時間をかけることをお勧めしています。TRIBEAUホームカウンセリングはリリース初日から数十人の利用があり、中には『美容医療に興味はあるけれど病院へ行く勇気がない』という人が病院予約へのワンクッションとして活用するパターンもありました。

口コミとあわせてオンライン相談も利用していただき、自分に合ったクリニックやドクターと出あう機会を増やしていけたらと思います」

美容医療の口コミアプリ「トリビュー」がW Venturesなどから3.5億円を調達

美容医療の口コミアプリ「トリビュー」を運営するトリビューは8月8日、W Venturesニッセイ・キャピタル三菱UFJキャピタルを引受先とした第三者割当増資と、日本政策金融公庫からの融資を合わせ、総額3.5億円の資金調達を実施したと発表した。

プチ整形にリピート……変わる美容医療

トリビューは健康保険適用外の美容外科、美容皮膚科、矯正歯科を対象にした、美容医療の口コミ・予約アプリ。ユーザーによる15万枚以上のビフォー/アフターを含む経過画像と7000件以上の体験談投稿を集めており、施術価格や施術する箇所、クリニックのエリア、満足度によって、クリニックやドクターが比較できる、いわば「美容クリニック版の食べログ」のようなサービスだ。2017年10月のリリースからの累計ダウンロード数は15万件を超えている。

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リリース時には口コミ機能を中心としたコミュニティの要素が強かったトリビューだが、その後、情報収集や比較に加えて、クリニックの予約申し込みができるサービスにアップデート。カウンセリング予約はチャット形式で行える。また希望する状態の写真をアプリ内のメモに保存しておき、カウンセリング時にドクターとやり取りをスムーズに行うための機能も追加された。

ひとくちに二重といっても、幅をハッキリ出したいのか、控えめにしてナチュラルにしたいのかで施術も変わる。施術内容によって術後どれくらい腫れるのか、程度や期間も違うので、社会人なら休暇を取れる期間を合わせる必要も出てくる。トリビューでは、体験談と投稿写真で具体的な施術のイメージがつかめる点と、希望する状態を客観的にクリニックに伝えられる点が、特徴となっている。

口コミ投稿時には、パーツや施術内容など、細かな条件(約120種類)をひも付けられるように設計されており、情報を検索するユーザーのための網羅性が担保されている。また、会員登録時にも興味のある施術などをアンケートし、ユーザーごとにトップ画面の表示を変更しているそうだ。

トリビュー代表取締役の毛迪(モウ・デイ)氏は、美容医療を受けようとする人たちの情報へのアクセス方法が近年変化していると話す。「以前はSNSアカウントで『整形』タグを追うのが主流だった。最近はボトックスやヒアルロン酸注射など、『プチ整形』とも言われるライトな施術が増えている。こうした施術を選ぶ人たちの中には『整形』という言葉に抵抗があるユーザーも多くなった。施術件数も増えていて、エステとの境界がぼやけてきている。隆鼻術や目頭切開術などの大きな外科手術は基本1回きりのものだが、今は軽い施術をリピートする、身近なものに美容医療が変わってきている」(毛氏)

「なりたいスタイルが伝わる」美容医療を目指して

日本国内の美容医療市場は、美容外科・美容皮膚科を合わせて約4000億円、審美歯科が約3500億円で合計すると7500億円規模となっており、そのうち20〜30%が広告市場が占める。1件の施術の平均価格は20〜30万円。ただしリスティング広告の落札価格は高騰しており、施術に至る前の予約までの案件獲得でも2〜3万円の出稿費がかかるという。

またユーザーの側から見ると、サイト検索の結果表示にはアフィリエイトサイトなどが多く、怪しいイメージが美容整形にはある。クリニック側も広告では薬機法などによる規制があり、具体的な効果はうたえない。結果として、ユーザーが自分に合ったクリニックやドクター、施術を見つけにくい状況になっている。

トリビューのビジネスモデルは、美容医療を受けたいユーザーとクリニックのマッチングだ。また最近では、クリニック探しからさらに踏み込んで、自分に合ったドクターを探す動きがスタンダードになってきていると毛氏はいう。

「美容医療ではドクターのセンスも問われるし、好みの顔のスタイルというものもある。ヘアサロンでも、相性のよい美容師を指名したり、カリスマ美容師がいたりするが、同じように美容医療の世界にも、相性のよいドクターやカリスマドクターが存在する」(毛氏)

トリビューではドクターごとに施術の体験談が見られるほか、クリニックの予約時に備考欄でドクターを指名するユーザーもいるという。自身も美容医療を10代から利用してきた毛氏は「整形を成功させるためには、情報収集とドクターとのマッチングがカギになる」と話す。

「整形の失敗はミスコミュニケーションから起こる。髪型と同じでユーザーが『思っていたのと違う』と不満に思ったとしても、ドクターの側からすれば『手術はちゃんとやった』となることも多い。これはお互いにとってもったいない、不幸なことだ。美容院へヘアカタログを持っていった客が気に入った髪型をオーダーし、美容師の側は客の髪質などから『その通りにはできないけれど』と違うスタイルを提案するのと同じように、カウンセリングでなりたいスタイルが伝わるフォーマットも提供していきたいと考えている」(毛氏)

毛氏は「コミュニティ機能からスタートしているが、ユーザーに寄り添って施術の成功に導くアプリ、サービスを目指す」と語る。また美容整形にまつわる怪しいイメージを取り除くべく、「パブリックカンパニーとして、きちんとした情報を提供していく」と話している。

トリビューのユーザーはほぼ女性で20代が中心、半数は整形の経験があるという。「会員の平均施術単価は28.5万円と高めで、中には韓国で手術を受けるユーザーも。熱量のあるユーザーが多い」と毛氏はいう。

競合サービスには「Lucmo(ルクモ)」や「Meily(メイリー)」などがあるが、毛氏は「トリビューでは口コミ機能に加えて、情報の網羅性を重視していく」と述べ、「他社も含めて情報を得られるアプリが広まっていることはいいこと。かつては怪しまれていた美容医療の世界も、インスタグラムなどで施術を公言する投稿が当たり前になってきている。そうした中でもリードカンパニーになれるよう、がんばりたい」と語っている。

中国や韓国では、日本よりかなり早い2011年ごろから美容医療関連のアプリが出回っている。例えばテンセントが出資する美容整形アプリの「SoYoung(新氧)」では、コミュニティ、マッチングに加えて、施術資金を融資するローンや、保険などの金融サービスも展開する。

トリビューでも「ユーザー向けには口コミ、マッチング・予約機能に加えて、ローンや保険サービスの提供も進めていきたい」と毛氏はいう。また、クリニック向けには集客のほか、クリニックが得意分野を伝えるブランディング機能やCRM機能も提供していきたいとのこと。美容医療関連のサービスを多角的にそろえた上で、2020年末をめどに累計会員数100万人、契約クリニック数1000院到達を、そして2022年までのIPOを目指す。

2017年7月に創業したトリビューは、今回が3回目の資金調達となる。同社が調達した金額の累計は約4.5億円となる。今回の調達資金はクリニックへの拡販やユーザー向けプロモーションの強化、コンテンツ強化に充てるという。

トリビューのメンバー。写真中央は代表取締役の毛迪(モウ・デイ)氏。

悩みは直接経験者に聞く、美容整形の術後経過を写真とテキストで共有できる「トリビュー」

「美容整形は数万円からの投資と、ちょっとした勇気で人生を変えられるもの。でも顔に注射を打ったり、メスを入れたりすることを怖いと思う人は多い。周囲には相談しにくいし、SNSや掲示板ネットでの情報収集にも課題がある。それならば、経験者に話を聞ければいい」——トリビュー代表取締役の毛迪(もう でい)氏はこう語る。同社は10月15日に美容整形の術後経過の記録・投稿アプリ「トリビュー」(iOS/Android)を正式にローンチしたばかり。

トリビューは美容整形の実施前から、術後経過、完成までの写真や体験談を投稿できるアプリだ。ユーザーは手術単位で日記を作成し、施術の内容やクリニック、写真、体験談などを投稿できる。写真や体験談は施術から「○日目」というかたちで経過日数とともに投稿できる。他のユーザーは各投稿に対して「いいね」をしたり、コメントをつけたりできる。

9月からベータ版として一部のユーザーに限定してサービスをローンチ。すでに600枚以上の写真が投稿されている。仲間と繋がりたい投稿者、情報収集のニーズが強い閲覧者ともに、モチベーションが高いそうで、テスト時には(母数は少ないとは言え)、3分の1のユーザーがダイレクトメッセージを送って、投稿者に質問するなどしていたという。

サービスを提供する毛氏は、中国出身で5歳から日本で育った。新卒でリクルートに入社したが、父親、親戚に起業家の多い家庭で育ったため、もともと将来の起業を考えていたという。そこでスタートアップ投資や新規事業コンサルなどを手がけるアーキタイプに転職。約1年後に同社を退社して2017年7月にトリビューを設立した。9月にはアーキタイプのほか、エウレカ共同創業者の赤坂優氏、ペロリ創業者の中川綾太郎氏など9人の個人投資家から合計数千万円の資金を調達している。

トリビュー代表取締役の毛迪(もう でい)氏

実は毛氏自身、10代からレーザー照射や注射といったプチ整形を受けてきたのだという。もちろん施術の程度は人それぞれだが、冒頭で語られた美容整形の課題は毛氏自身が経験してきたものでもある。「病院の口コミや料金補償、(施術後の)腫れや痛みも調べたいとなると、経験者の発信する情報がメインになる」(毛氏)。ちなみにトリビューのメンバーは、フルタイムとパートタイムあわせて5人。エンジニア1人を除いて全員が女性で、美容整形経験者もいるという。

トリビューでは今後、エンジニアを中心に人材を強化。サービスの開発と同時にクリニックへの送客などでのマネタイズを進める。「美容整形は年間2500億円の市場。単価は25万円程度で、売上の30%が広告宣伝費として使われている」(毛氏)。なお中国ではすでにSoYoung Technology(Tencent Holdingsなどが出資)やBeijing Wanmei Creative Technology(Sequoia Capital China Advisorsなどが出資)などが先行して同種のサービスを展開している。