「トルコのStripe」、lyzicoがシリーズCで1500万ドルを調達

Eコマースサイトにオンライン決済機能を提供するトルコのフィンテック企業、lyzicoがシリーズCラウンドで1500万ドルを調達したと発表した。うち1200万ドルは今年初めに発表されていたものだ。

今回のラウンドにはロンドンを拠点とするVCのAmadeus Capital Partnersが加わり、300万ドルを出資している。ファーストクローズをリードしたのはVostok Emerging Financeで、その他にも既存投資家の数々、International Finance Corporation、そしてイスタンブールを拠点とするVCの212が本調達ラウンドに参加した。

「トルコのStripe」と称されることもある同社。サンフランシスコを拠点とする決済分野の有力企業であるStripeの潜在的な競合となりうる存在だ。しかし、Stripeは現在トルコでは事業を行っていない。lyzicoのターゲットはEコマースサイトなどのオンラインビジネスであり、同社はディベロッパーフレンドリーなプラットフォームを通して顧客に決済機能を提供している。

同社によれば、彼らのプラットフォームは24時間以内に導入可能で、PCI-DSSとBRSA(Banking Regulation and Supervision Agency)に準拠したセキュリティ性を備えている。2013年のローンチ以降、同社のプラットフォームは1万以上のオンラインビジネスに導入されており、登録アカウント数は20万を数える。

Amadeus Capital PartnersのJason Pinto氏はリリース上でこのようにコメントしている:

「トルコの急速な経済成長は力強い個人消費によって支えられています。そして、そのほとんどがクレジットカード決済によるものです。そのため、企業は洗練されたカード決済システムを用意し、そのニーズに応えなければなりません。モダンでかつ簡単に導入でき、急速に進化を遂げる決済システムをもつlyzicoに期待しています」。

[原文]

(翻訳:木村拓哉 /Website /Facebook /Twitter

政情不安の中にもチャンス―、私がトルコに戻ってシード投資をする理由

The Republic of Turkey flag hangs on the side of a building as show of solidarity following a July 15 Coup. (DoD Photo by Navy Petty Officer 2nd Class Dominique A. Pineiro)

【編集部注】執筆者のRina Onurは、500 Startups Istanbulのファウンディングパートナー。

トルコでビジネスを拡大したり、スタートアップを立ち上げて資金調達をしようとしているときに、「トルコは今一体どうなってるの?」と国外に住む友人や家族に尋ねられると、げんなりしてしまう。

さらに、ベンチャーファンドを組成しようとしているときに、この地域の複雑さ(さらには自分たちが提供できる価値)を説明するというのもなかなか骨が折れる。

テロ事件に悩まされ、国内や周辺地域の内政問題で不透明感が高まっているトルコが、最近世間を騒がせている。かつては、中東にある世俗的かつ民主的なイスラム国家として、希望の光のように考えられていた国が、今はこのような状態にあるのだ。

また、最近トルコで起きた政権交代によって、この国の「普通」の状態は人に不安感を抱かせるまでになった。クーデーターが発生してから数日後に、私は500 StartupsのDaveからメッセを受け取ったのを覚えている。彼はまず最初に私の安否を尋ね、その次に私たちがその数ヶ月前にローンチした、1500万ドルのアーリーステージ企業向けマイクロVCファンド500 Istanbulをどうするのかを聞いてきた。

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私は、当初の予定から変更はなく、前進あるのみだと答え、それから1週間後の7月22日に、500 Istanbulは最初のクロージングをむかえた。色んな人が私の家族の安否を尋ねるメールを送ってくれる中、私はキャピタルコールのメールを送っていた。国外からトルコを見て何かしらの結論にたどり着くのは簡単だが、トルコに拠点を置く投資家として、私はこの巨大で若く、VCの資本やインフラを貪欲に求める国には、まだ望みがあると思いたい。

未来が見えづらい国であるがゆえに、トルコのスタートアップには十分に投資が行き渡っておらず、結果として大きな成長可能性がまだ秘められているのだ。そもそも私には、この市場で社会的な活動を行う気はない。

500 Istanbulの資金やサービスは、今までにないくらい必要とされているが、それと同時に競合する投資家があまり見当たらないことから、チャンスもこれ以上ないくらいに広がっている。トルコで活動している数少ない既存の大手VCが、レーターステージの企業にばかり投資していることから、アーリーステージの企業は未だ手付かずの状態なのだ。

この背景には、オペレーション上のリスクを抑えようとする、新興国で活動中のVCの戦略もあるだろう。この地域の不確実性から、既にかなりのリスクにさらされていると感じているかもしれない彼らが、実績のあるレーターステージへの投資に専念するというのも理解できる。そこで500 Istanbulがそのギャップを(一部ではあるが)埋めようとしているのだ。

istanbul birds

イスタンブル

上記のような状態にあるトルコのアーリーステージの投資環境で、私は以下の2つのカテゴリーにチャンスがあると考えている。

現地に特化したビジネス

過去10年にわたって、トルコは既に確立された欧米のビジネスモデルを現地市場で上手くコピーしてきた。7500万人に及ぶ人口の平均年齢は26歳で、彼らは驚くくらいインターネットをよく利用しており、支払のための手段も持っている(クレジットカードの保有率はヨーロッパでは第2位)。「クローン」ビジネスを興すというのはあまり魅力的でないというのはわかるが、これは上手くやればかなり儲かる。

さらに、サービスのローカライズや現地社員の採用、サプライヤー探しや規制団体との交渉などのせいで、外資系企業は現地企業に比べて、新興市場でスケールするのが難しい。Gittigidiyor(2011年にeBayが2億1500万ドルで買収)やMarkafoni(2011年にNaspersが2億ドル以上で買収)、Pozitron(2014年にMonitiseが1億ドルで買収)、Yemeksepeti(2015年にDelivery Heroが5億8900万ドルで買収)、Mars(2016年にCJ-CGVが8億ドルで買収)といった例を見ると、グローバル企業が現地のプレイヤーからトルコ市場を奪うことができなかったというのがすぐにわかる。

これはトルコに限った話ではなく、東南アジアでも同じようなパターンが見られた。市場の拡大とともに優秀な企業が巨大化していくという、この地域のマクロ経済的な性質がその背景にある。

世界を相手にしたビジネス

ユニコーン企業のUdemy(500 Startupsが投資)を例として、500 Startupsが過去にトルコで行った、国外に目を向けたスタートアップへの投資は、幸いなことにかなり上手くいっている。このカテゴリーに含まれる企業は、全てトルコ人起業家によって設立され、資金調達やグローバルな成長を求めてアメリカに渡った。UdemyとMobile Actionに関しては、未だにかなりの数のディベロッパーがアンカラで仕事を続けており、彼らはトルコとサンフランシスコを行き来している。

このような企業にとってトルコ市場は、海外市場への進出前に、プロダクトのコンセプト化、テスト、改良を行うテストの場として大きな意味を持っている。結果的に次世代のトルコのディベロッパーは、トルコとシリコンバレー両方で技術を身に付け、将来自分たちが革新的な企業を立ち上げるときのための肥やしにすることができるのだ。

世界に目を向けているアーリーステージ企業への投資の利点は、企業のパフォーマンスとトルコ周辺地域の不確実性の間に関連性があまりないということだ。

移民ファウンダーや、海外のユーザーへプロダクトを届けようとしているファウンダーに投資するということは、トルコ発のテクノロジーの拡散や、未来のトルコのスタートアップエコシステムに寄与しているのと同じことなのだ。

世界に目を向けているアーリーステージ企業への投資の利点は、企業のパフォーマンスとトルコ周辺地域の不確実性の間に関連性があまりないということだ。

WixFiverrWazePlaytikaSimilar Webなど、数々のグローバルプレイヤーを輩出してきたイスラエルがその証拠だ。イスラエルは素晴らしい人材やスタートアップの故郷であり、私はトルコにも同じくらいのポテンシャルがあると信じている。

不確実性によって、今後トルコ周辺地域のイノベーションや投資チャンスが全て消え去ってしまう、とは私は考えていない。長きにわたる激動の時代を生き抜いてきたためか、大多数の欧米人と比較して、私達には粘り強さがあると感じることがある。悪いことが起きたとしても世界は動き続け、人々は何かをつくり、そして消費していくのだ。

これこそ、8年前に私がトルコに戻ってきた理由であり、500 Istanbulが(5年以内に85社へ投資するという目標を掲げ)過去半年の間に15社へ投資を行った理由だ。私は向こう10年の間に、トルコ人起業家の手によって、多くのトルコ発ケンタウルス企業(評価額1億ドル以上の非上場企業)が誕生すると自信を持っており、さらにはいくつかのユニコーン企業も生まれるのではないかと考えている。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ライセンス切れによるPayPalのトルコ撤退、数十万人に影響

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国内の技術事業に対する地域的支配を強めているトルコの新たな犠牲者となったのは、アメリカの大手オンライン決済企業PayPalだった。同社は、サービスライセンスの更新ができなかったことから、6月6日をもってトルコでの事業運用を中止すると発表した

PayPalはTechCrunchに対し、この事業撤退により数万社の企業と数十万人の消費者に影響すると語った。

広報担当者もTechCrunchに対して今回の撤退を認め、2回に分けて撤退の裏にある理由を明かした。

最初は、金融監督機間であるBDDKによるライセンス申請の却下についてPayPalのローカルサイトに掲載されたトルコ語のメッセージを忠実になぞった文書だった。

「残念ながら、Paypalがトルコでの事業を中止することになったことをお知らせします」と、同社の文書には述べられていた。「2016年6月6日付で、トルコのお客様はPayPalを利用した送金や金銭の受領ができなくなります。お客様は、引き続きPayPalアカウントにログインしてアカウント残高をトルコ国内の銀行に引き出すことができます」。

「PayPalは、お客様をサポートすることを非常に大切にしています。しかし、トルコにおける支払機間としてのライセンス申請が現地金融監督機間によって却下され、トルコにおける事業を中止するように指導があったため、トルコにおける支払い処理を中止せざるをえなくなりました」。

ライセンスが却下された理由を聞かれた広報担当者は、ITシステムがトルコにローカライズされることを求めた新しい規則が原因であるとした。PayPalは幾つかのグローバルハブにITを分散させている。

「当社のサービス撤退は、BDDKが監督する新しい国家規則により、PayPalがITシステムを完全にトルコ向けにローカライズすることを求められた結果です」と、広報担当者は言う。「PayPalは、国内でITインフラを展開させたいというトルコの意思を尊重しますが、200以上の市場で運用されているグローバルな支払いプラットフォームを利用しており、単独国家において専用の技術インフラを持つローカルな支払いプラットフォームを保持してはいません」。

2015年に親会社のeBayから独立し、現在は460億ドルの資産価値があるとされるPayPalが、世界に何個のデータセンターを持っているのか、あるいはトルコの事業を扱っているのがどこのハブなのかは明らかになっていない。現在同社に質問中であるため、詳細がわかり次第アップデートする。

ここ数ヶ月、技術に関連してトルコが話題になっているが、特にポジティブな理由からではない。4月には、トルコ国民およそ5000万人分(全人口8000万人の過半数)の個人データがオンラインで流出した。これはデータを公表することでトルコのITインフラの老朽化を強調し、この問題についてレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とその技術政策を非難しようとする、ある活動家(あるいは複数の活動家)の仕業とみられる。

もちろん、単純に技術の話というわけではない。トルコはテロ攻撃の標的となっており、それがエルドアン大統領の鉄拳制裁アプローチを正当化する理由となると考える人たちもいる。

エルドアン政権は、前任者たちよりも技術分野での支配力を強めようとしており、現在までのところ、特にその動きが顕著な分野がソーシャルメディアである。TwitterFacebookRedditなどのサイトは、ポルノ、ドラッグ、テロリズム、違法なファイル共有、その他トルコの初代大統領ムスタファ・ケマル・アタテュルクに関するネガティブまたは疑義のあるコンテンツをホストするサイトをブロックする権限を監督官に与えるトルコの検閲法の対象となっている。

Twitterは、削除要請を拒否したツイートについて支払いを求められている罰金について抗議するため、トルコに対する訴訟を起こすに至っている。

TechCrunchでは、引き続きこの話題について他の企業に影響があるか、あるとすればどのようなものかを監視していく。PayPalの現地競合企業であるIyzicoは、現在もサービスを提供中である。

[原文へ]

(翻訳:Nakabayashi)