1200万人の科学者が集うソーシャルネットワーク―、ResearchGateが5260万ドルを調達

blackboard2

プロフェッショナルの世界では、LinkedInがソーシャルネットワーク最大手の座に君臨し続けているが、それぞれの業界に絞ってLinkedInに対抗しようするサービスも増えてきた。ベルリン発のスタートアップResearchGateは、科学者たちがつながり合い、研究に関する議論を交わせるようなソーシャルネットワークサービスを提供している。同社はシリーズDで5260万ドルを調達したと本日発表し、これでResearchGateの累計調達額は1億ドルを超えた。

最新のラウンドには、戦略投資家から金融機関までそうそうたる顔ぶれが揃い、Wellcome TrustやGoldman Sachs Investment Partners、Four Rivers Group、Ashton Kutcher、LVMH、Xavier Niel、Bill Gates、Benchmark、Founders Fundなどが参加していた。なお、この中には(Bill GatesやBenchmarkFounders Fundなど)以前のラウンドに参加していた投資家もいる。

ResearchGateは、既に調達資金を使ってProjectsなどの新機能を開発し、プラットフォームの機能拡大に努めている。

「既に調達資金を使って」というのは重要なフレーズだ。というのも、ResearchGateの共同ファウンダーでCEOのIjad Madischによれば、実はシリーズDは2015年の11月の時点でクローズしていたのだ(さらに、科学者が進行中の研究をアップロードしたり更新したりできる先述のProjectsという機能は、2016年3月にローンチされていた)。それにも関わらず、同社はこれまで資金調達には触れず、この度2015年の決算をまとめなければいけない段階(ドイツでは全ての企業が対象となっている)になって初めて詳細が明らかになった。

ユーザー数という観点で見れば、ResearchGateの1200万人という数字は、LinkedInのユーザー数4億6700万人には遠くおよばない(なお、ResearchGateのサービスは全て無料で、同社は求人などの広告から収益を挙げている。そして広告主はResearchGateを利用することで、自分たちがリーチしたいと考えているターゲットに直接広告を表示することができる)。

しかしユーザー数で劣っている部分は、エンゲージメントの高さや素晴らしいターゲット層、さらには科学論文に対する新たなアプローチ、情報共有といったサービスの質でカバーされている。ResearchGateのユーザーである科学者には、一般的に「科学」というカテゴリーに含まれるさまざまな分野をカバーした、営利・非営利両団体の学者や学生、研究者や博士が含まれており、月々にアップロードされる論文の数は250万本におよぶ。

Madischは同社が急速に成長を続けていると話しており、実際に250万本という研究論文の数はResearchGate設立から4年間の間にアップロードされた論文の数と同じだ。そういう意味で、同社は科学者向けのソーシャルサービスでありながら、データのレポジトリとしても利用されている。

(そう考えると、科学者にとってResearchGateは、LinkedInのようなサービスに比べると大変便利なものだ。というのも、LinkedInのコンテンツは、彼らの仕事の核となるデータよりも、仕事探しであったり、考えやイメージを形作るところに重きが置かれている)

次に重要なのがコンテンツの性質だ。科学者がアイディアを共有したり、議論を交わしたり、他の科学者の研究内容にアクセスしたりできるようなサービスは、もちろんResearchGate以外にも存在する。具体的には、オンライン・オフラインの学術誌や、Google Scholarなどが彼らの競合にあたるだろう。しかし、これまでの科学の世界では、成功した研究を公開することが重視されてきた一方で、ResearchGateは失敗した研究の内容も共有できるプラットフォームであり、そこが他のサービスとは違うのだとMadischは説明する。

「ResearchGateのファウンダーは全員科学者で、私たちは今日の学術誌の問題点を理解しています。数ある問題の中でも1番大きなものが、一般に知れ渡っている成功例ではなく、公になっていない失敗例が共有されていないことなんです。ResearchGateはまさにその問題を解決しようとしています」と彼は話す。それを可能にする機能のひとつがProjectsだ。ユーザーは現在取り組んでいる実験内容をアップロードし、その進捗を公開することができるため、結果がどうなるかは誰にもわからない。

なぜこれまで誰も失敗に終わった研究を公開してこなかったのだろうか?「それは難しい質問ですね。少なくとも言えるのは、科学者としてどの研究を発表して、どれを発表しないかというのを決めなければならず、これまでは失敗したものよりも、成功したものに価値があると考えられてきました」と彼は語る。「しかし個人的には、その考えはおかしいと思っています。失敗経験は、成功経験と同じくらい大切で、これこそ私たちが変えようとしている考え方なんです」。

ResearchGateは、これからも科学者の考え方を変えることに注力していく傍ら、将来的には他のどのような分野に進出していきたいかということについても考えはじめている。そしてターゲット候補には、教育や法律以外にも、テクノロジーなどの分野が含まれている。その一方で彼らが進出を検討している分野は決して目新しいものではなく、ある分野「専門」のソーシャルネットワークというもの自体も以前から存在しており、釣りからコーディングまで、共通のトピックについて語り合ったり、データを収集・共有したりしている強固なコミュニティは見渡せばいくらでもある。

しかし、それだけ他のサービスが存在するということはチャンスがある証拠でもあり、投資家はそこに注目しているのだ。

「ResearchGateは革新的かつ広範に利用されているプラットフォームで、世界中の研究者たちをつなぎ合わせています。研究のアイディアや結果を共有できるスペースを提供することで、彼らは科学者が研究を発展させ、社会のためになる応用方法を開発する手助けをしているんです」とWellcome Trustの投資部門のシニアメンバーであるGeoffrey Loveは声明の中で語った。

「科学の世界におけるイノベーションの発生過程は、個々人による実験からネットワークを活用したコラボレーションへと急速に変わってきています。1200万人ものユーザーを武器に、ResearchGateはこの変化を促進する主要なプレイヤーへと成長しました」とGoldman Sachs Investment Partners Venture Capital & Growth Equityの共同代表であるIan Friedmanは声明の中で語った。「研究方法と同じくらい重要な事項に変化をもたらそうとしているチームとパートナーを組むというのは、めったにない機会ですし、科学の進歩のスピードを加速させるというミッションをResearchGateが実現していく手助けができることを、大変光栄に思っています」。

「ResearchGateのように、ネットワーク効果がビジネスモデルの核にあるような企業が成功するためには、いかに提供するサービスがユーザーのためになるかということを常に念頭に置かなければいけません」とBenchmarkジェネラルパートナー兼ResearchGate取締役のMatt Cohlerは声明の中で語った。「そして同時に、彼らは収益もあげなければいけません。ResearchGateは自分たちのミッションに忠実に、科学が進歩する場としてのネットワークの成長に寄与する、持続可能なビジネスモデルをつくり上げてきました」。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

コンシューマー向けプロダクトの成功に欠かせないネットワーク効果

gettyimages-97228990

【編集部注】本記事はBattery Venturesに勤めるRoger Lee(ジェネラルパートナー)、Jeff Lu(ヴァイスプレジデント)、Deepak Ravichandran(アソシエイト)によって共同執筆された。

各分野でトップのシェアを握り、「カテゴリーキング」と呼ばれる企業が、そこまで厳しい競争にさらされているわけでもないのに、市場価値の大部分を生み出しているというケースが多く見られる。テック業界ではこの傾向が顕著で、ある調査によれば業界全体が生み出す価値のうち、70%をカテゴリーキング(小売のAmazon、ソーシャルメディアのFacebookなど)がつくりだしているとさえ言われている。

さらに私たちが最近行った調査では、カテゴリーキングによって創出された価値の6分の5が、「ネットワーク効果」を利用したビジネスによって生み出されていることがわかった(この考察は、当初Play Bigger Advisorsのコンサルタントによってまとめられた調査を、私たちが2016年12月31日時点の数値を使ってアップデートした結果得られたものだ)。なおネットワーク効果とは、利用者が増えるほど、その製品やサービスの利便性が高まることを指す。

また、ネットワーク効果についてもっと深く分析したところ、ネットワーク効果の持つ力はさまざまな観点で、私たちの想像を超えるものであることが判明した。ネットワーク効果は、販促活動の効果を高めたり、参入障壁を作ったりするだけでなく、ユーザー数の急増と共にカテゴリーキングの爆発的な成長を支えているということがわかったのだ。

AirbnbやUber、Snapなど今後12〜18ヶ月中のIPOも噂されている(既にSnapは上場を発表した)、ネットワーク効果を有効活用した企業は、それぞれの分野で自分たちがつくり上げた「勝者独り勝ち」の市場をほぼ独占している。

彼らが成功を収め、その名が世に広まっていくにつれ、私たちはコンシューマーテクノロジー市場の中でも、特にカテゴリーキングが持つネットワーク効果の価値を数値化してみたいと考えるようになった。その結果生まれたのが、Battery Ventures Network-Effect Index(詳細はウェブサイト参照)だ。この指数や関連データからは、ネットワーク効果に突き動かされている経済への洞察が得られると私たちは信じている。

ネットワーク効果を生み出すのにこれまで有効だった手段が、明日には通用しなくなるかもしれない。

そもそもBattery Ventures Network-Effect Index(BNI)とは、次の条件を満たす36社の時価総額/評価額を加重平均したものだ。1)現在上場中もしくは過去に上場していた 2)2016年12月31日時点で10億ドル以上の時価総額/評価額を記録していた 3)ビジネスモデルの全体もしくは一部にネットワーク効果が利用されている 4)コンシューマー向けネット企業。以下のチャートからわかる通り、BNIに含まれる企業の株価は過去5年間に全体で161%も伸びており、S&P 500を84%、テック系企業の多いナスダック総合指数を60%も上回っている。つまり、2011年の時点でBNIに含まれる企業群へ1000ドル投資していれば、そのお金が今では2606ドルになっているという計算になる。

さらにBNIに含まれる企業の評価総額は1兆800億ドルに及び、設立からIPOまでにかかった期間の平均は8年だった。これに対し、ベンチャーキャピタルから資金調達を行ったスタートアップ全体を対象にした場合のIPOまでの平均期間は11年だった。

image016

各月の値は、調査会社CapitalIQが公開しているデータをもとに算出されており、Y軸の数字は全体の時価総額/評価額の伸び率を表している。

以下がBNIに含まれている36社だ。

newnegraphic

印(*)のついている企業は、これまでにBattery Venturesが投資したことのある企業を表している。併記されている金額は、2016年12月31日時点での時価総額。買収の結果、非上場企業になったHomeAway、OpenTable、Kayak、Truliaについては買収額を記載している。

さらにBNIの企業は、以下の3つのカテゴリーにわけることができる。

  • 決済型マーケットプレイス:売り主と買い主が出会い、モノやサービスの売買が行われるプラットフォーム。旅行サイトのPriceline、フードデリバリーのGrubHub、中国のECサイトAlibabaなどが含まれる。
  • 広告型マーケットプレイス:このカテゴリーに含まれるZillow、Yelp、TripAdvisorなどは、消費者に対しては無料でサービスを提供しているが、売り主(不動産業者、クリーニング店、ホテルなど)から広告掲載の対価を受け取っている。
  • ソーシャル・ネットワーク:Facebook、Snapchat、WhatsAppなどがこのカテゴリーの代表的な企業として挙げられる。

そして下のチャートが、過去5年間の時価総額/評価額の推移をカテゴリー別に示したものだ。

image018

各月の値は、調査会社CapitalIQが公開しているデータをもとに算出されており、Y軸の数字は全体の時価総額/評価額の伸び率を表している。

FacebookやTencent、LinkedInといったサービスの成長をうけ、予想通りソーシャル・ネットワークのパフォーマンスが突出しており、過去5年間の伸び率は254%を記録している。広告型マーケットプレイスの成長率が他の指数を上回り、決済型マーケットプレイスにも勝っているのはなかなか興味深い。広告型マーケットプレイスの時価総額/評価額の伸び率は、S&P 500を57%、ナスダック総合指数を32%上回っており、ネットワーク効果によって彼らは株式公開後も成長し続けていたことを示唆している。

その他にも、私たちの調査から以下のような高次元の洞察を得ることができた。

市場規模の重要性 コンシューマー向け決済型マーケットプレイスは、狙っている市場の規模が500億ドル以上でないと爆発的な成長スピードに達しないことがわかっている。10億ドルの規模を持つターゲット市場というだけでも、スタートアップのピッチ上はまずまずなように感じられる。しかしBNIに含まれるコンシューマー向けマーケットプレイスを運営する企業は、10億ドル以上の評価額を達成するために、最大で500億ドル以上の規模になりえる市場を狙わなければならなかったのだ。

しかし、各企業は最初から大きな市場を狙っていたわけではない。HomeAwayは別荘、OpenTableはレストラン予約、Uberは黒塗りのタクシーというニッチな市場からそれぞれのビジネスをはじめた。その後ビジネスが成長するにつれて、彼らは既存の市場に近い市場へと進出していき、最終的にTAM(Total Addressable Market:狙いうる最大の市場規模)が500億ドルを超えたのだ。

一方TAMに関するルールは、カテゴリーによって変わってくる。私たちが調査対象として選んだソーシャル・ネットワークは、ほとんど需要に際限がないような巨大な市場(消費者全員)を相手にしている。対照的に広告型マーケットプレイスは、決済型マーケットプレイスが狙っている市場の小集団にあたるような、比較的小さな市場を相手にしている。

大きな市場を開拓するための方法のひとつが、既存の市場に隠れている「影の市場」をみつけだすということだ。

例えば、オンラインレビューサイトのYelpは飲食店をターゲットにしているが、同社の収益は広告を掲載したいと考えている各地域の飲食店によってもたらされている。つまりYelp自体は飲食サービスのやりとりには関わっていないため、同社が狙っている市場が飲食業界全体に占める割合は小さい。一方、レストランメニューの配達サービスを行っているGrubHubは、全ての注文から手数料をとっている(私たちはこちらの方が優れたビジネスモデルだと考えている)ため、飲食ビジネスの流れに食い込んだビジネスを展開していると言える。

そのため、Yelpは準独占的な立場にいて、GrubHubは厳しい競争にさらされているにも関わらず、両社の時価総額はほぼ同じ水準にあるのだ。Zillow(不動産)やTripAdvisor(旅行)のように、広告型マーケットプレイスのモデルで、高いパフォーマンスを誇るビジネスを生み出すことは今でも可能だが、そのためにはかなり規模の大きなカテゴリーで魅力あるサービスを売っていかなければならない。

  • 「影の市場」をみつける 大きな市場を開拓するための方法のひとつが、既存の市場に隠れている「影の市場」をみつけだすということだ。AirbnbとUberがその典型例だ。誰が空き部屋をホテルに、自家用車をタクシーに使えると思っていただろうか?彼らは当時まだ発掘されていなかった需要と供給をみつけだし、魔法のように新しい経済行動を消費者に植え付けることに成功したのだ。そして当然のように、この分野の企業は現在自らの功績の恩恵にあずかっている。BNIには含まれていないが、この分野で今後活躍が期待される企業としては、ペットシッター検索サービスのRoverや、スポットコンサルティングサービスのCatalantなどが挙げられる。

小規模な市場を狙っている企業でも、独占状態さえ築くことができれば、何十億ドルという評価額も夢ではない。GrubHubのイギリス・ヨーロッパ版にあたるJust Eatや、Zillowのオーストラリア版にあたるREA Groupは、小規模市場を席巻することで、今の地位につくことができている。

ビジネスモデルを考えるときには需給分析をしっかりと行う コンシューマー向けのマーケットプレイスで、10億ドルを超えるビジネスをつくろうとした場合、まず経営者はどちらの側から料金をとるかというのを決めなければならない。私たちの研究結果を参考にすると、一般的に企業は余裕のある側(単にプレイヤーの数が多い側とも言えるし、よりそのサービスを必要としている側と読み換えることもできる)からお金をとったほうが良い。

例えば300億ドルの評価額を誇るAirbnbは、設立当初より家の所有者ではなく宿泊者から手数料をとっている。というのも、ホテルがすぐに埋まってしまう(しかも高い)ような街で、泊まる場所を必死に探しているのは家の所有者ではなく、宿泊者側だからだ。一方この分野の先駆者にあたり、Expediaによる買収時の評価額が40億ドルだったHomeAwayは、物件を登録する所有者から手数料をとっていた。これこそ、先行者利益がありながら、HomeAwayがシェアを伸ばせなかった理由なのかもしれない。その反面、Airbnbは物件数をどんどん伸ばし、サービスの訴求力を高めていった。

販促費がカギ 最後に、BNIに含まれる企業に共通して見られたのが、販促費とネットワーク効果の関連性だった。ネットワーク効果を大いに発揮し、2200億ドルの時価総額を(2016年12月31日時点で)記録しているAlibabaの販促費は、売上の15%未満におさえられている。一方で育児や介護サービスのマーケットプレイスで、2億4700万ドルの評価額(2016年12月31日時点)を記録しているCare.comは、売上の48%以上を販促費に充てている。結局、ベビーシッターや介護スタッフの検索というのは、一時的に発生するニーズで、中抜きのリスクが高く、ネットワーク効果も薄い。その結果、Care.comは成長を維持するために、大金を販促費につぎ込まなければいけなくなってしまったのだ。

私たちは、ネットワーク効果が未来のスタートアップの成功に欠かせないものであると考えている。しかしルールは常に変化しているため、ネットワーク効果を生み出すのにこれまで有効だった手段が、明日には通用しなくなるかもしれず、起業家は常に新しい情報を仕入れなければならなくなるだろう。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

コンシューマー向けプロダクトの成功に欠かせないネットワーク効果

gettyimages-97228990

【編集部注】本記事はBattery Venturesに勤めるRoger Lee(ジェネラルパートナー)、Jeff Lu(ヴァイスプレジデント)、Deepak Ravichandran(アソシエイト)によって共同執筆された。

各分野でトップのシェアを握り、「カテゴリーキング」と呼ばれる企業が、そこまで厳しい競争にさらされているわけでもないのに、市場価値の大部分を生み出しているというケースが多く見られる。テック業界ではこの傾向が顕著で、ある調査によれば業界全体が生み出す価値のうち、70%をカテゴリーキング(小売のAmazon、ソーシャルメディアのFacebookなど)がつくりだしているとさえ言われている。

さらに私たちが最近行った調査では、カテゴリーキングによって創出された価値の6分の5が、「ネットワーク効果」を利用したビジネスによって生み出されていることがわかった(この考察は、当初Play Bigger Advisorsのコンサルタントによってまとめられた調査を、私たちが2016年12月31日時点の数値を使ってアップデートした結果得られたものだ)。なおネットワーク効果とは、利用者が増えるほど、その製品やサービスの利便性が高まることを指す。

また、ネットワーク効果についてもっと深く分析したところ、ネットワーク効果の持つ力はさまざまな観点で、私たちの想像を超えるものであることが判明した。ネットワーク効果は、販促活動の効果を高めたり、参入障壁を作ったりするだけでなく、ユーザー数の急増と共にカテゴリーキングの爆発的な成長を支えているということがわかったのだ。

AirbnbやUber、Snapなど今後12〜18ヶ月中のIPOも噂されている(既にSnapは上場を発表した)、ネットワーク効果を有効活用した企業は、それぞれの分野で自分たちがつくり上げた「勝者独り勝ち」の市場をほぼ独占している。

彼らが成功を収め、その名が世に広まっていくにつれ、私たちはコンシューマーテクノロジー市場の中でも、特にカテゴリーキングが持つネットワーク効果の価値を数値化してみたいと考えるようになった。その結果生まれたのが、Battery Ventures Network-Effect Index(詳細はウェブサイト参照)だ。この指数や関連データからは、ネットワーク効果に突き動かされている経済への洞察が得られると私たちは信じている。

ネットワーク効果を生み出すのにこれまで有効だった手段が、明日には通用しなくなるかもしれない。

そもそもBattery Ventures Network-Effect Index(BNI)とは、次の条件を満たす36社の時価総額/評価額を加重平均したものだ。1)現在上場中もしくは過去に上場していた 2)2016年12月31日時点で10億ドル以上の時価総額/評価額を記録していた 3)ビジネスモデルの全体もしくは一部にネットワーク効果が利用されている 4)コンシューマー向けネット企業。以下のチャートからわかる通り、BNIに含まれる企業の株価は過去5年間に全体で161%も伸びており、S&P 500を84%、テック系企業の多いナスダック総合指数を60%も上回っている。つまり、2011年の時点でBNIに含まれる企業群へ1000ドル投資していれば、そのお金が今では2606ドルになっているという計算になる。

さらにBNIに含まれる企業の評価総額は1兆800億ドルに及び、設立からIPOまでにかかった期間の平均は8年だった。これに対し、ベンチャーキャピタルから資金調達を行ったスタートアップ全体を対象にした場合のIPOまでの平均期間は11年だった。

image016

各月の値は、調査会社CapitalIQが公開しているデータをもとに算出されており、Y軸の数字は全体の時価総額/評価額の伸び率を表している。

以下がBNIに含まれている36社だ。

newnegraphic

印(*)のついている企業は、これまでにBattery Venturesが投資したことのある企業を表している。併記されている金額は、2016年12月31日時点での時価総額。買収の結果、非上場企業になったHomeAway、OpenTable、Kayak、Truliaについては買収額を記載している。

さらにBNIの企業は、以下の3つのカテゴリーにわけることができる。

  • 決済型マーケットプレイス:売り主と買い主が出会い、モノやサービスの売買が行われるプラットフォーム。旅行サイトのPriceline、フードデリバリーのGrubHub、中国のECサイトAlibabaなどが含まれる。
  • 広告型マーケットプレイス:このカテゴリーに含まれるZillow、Yelp、TripAdvisorなどは、消費者に対しては無料でサービスを提供しているが、売り主(不動産業者、クリーニング店、ホテルなど)から広告掲載の対価を受け取っている。
  • ソーシャル・ネットワーク:Facebook、Snapchat、WhatsAppなどがこのカテゴリーの代表的な企業として挙げられる。

そして下のチャートが、過去5年間の時価総額/評価額の推移をカテゴリー別に示したものだ。

image018

各月の値は、調査会社CapitalIQが公開しているデータをもとに算出されており、Y軸の数字は全体の時価総額/評価額の伸び率を表している。

FacebookやTencent、LinkedInといったサービスの成長をうけ、予想通りソーシャル・ネットワークのパフォーマンスが突出しており、過去5年間の伸び率は254%を記録している。広告型マーケットプレイスの成長率が他の指数を上回り、決済型マーケットプレイスにも勝っているのはなかなか興味深い。広告型マーケットプレイスの時価総額/評価額の伸び率は、S&P 500を57%、ナスダック総合指数を32%上回っており、ネットワーク効果によって彼らは株式公開後も成長し続けていたことを示唆している。

その他にも、私たちの調査から以下のような高次元の洞察を得ることができた。

市場規模の重要性 コンシューマー向け決済型マーケットプレイスは、狙っている市場の規模が500億ドル以上でないと爆発的な成長スピードに達しないことがわかっている。10億ドルの規模を持つターゲット市場というだけでも、スタートアップのピッチ上はまずまずなように感じられる。しかしBNIに含まれるコンシューマー向けマーケットプレイスを運営する企業は、10億ドル以上の評価額を達成するために、最大で500億ドル以上の規模になりえる市場を狙わなければならなかったのだ。

しかし、各企業は最初から大きな市場を狙っていたわけではない。HomeAwayは別荘、OpenTableはレストラン予約、Uberは黒塗りのタクシーというニッチな市場からそれぞれのビジネスをはじめた。その後ビジネスが成長するにつれて、彼らは既存の市場に近い市場へと進出していき、最終的にTAM(Total Addressable Market:狙いうる最大の市場規模)が500億ドルを超えたのだ。

一方TAMに関するルールは、カテゴリーによって変わってくる。私たちが調査対象として選んだソーシャル・ネットワークは、ほとんど需要に際限がないような巨大な市場(消費者全員)を相手にしている。対照的に広告型マーケットプレイスは、決済型マーケットプレイスが狙っている市場の小集団にあたるような、比較的小さな市場を相手にしている。

大きな市場を開拓するための方法のひとつが、既存の市場に隠れている「影の市場」をみつけだすということだ。

例えば、オンラインレビューサイトのYelpは飲食店をターゲットにしているが、同社の収益は広告を掲載したいと考えている各地域の飲食店によってもたらされている。つまりYelp自体は飲食サービスのやりとりには関わっていないため、同社が狙っている市場が飲食業界全体に占める割合は小さい。一方、レストランメニューの配達サービスを行っているGrubHubは、全ての注文から手数料をとっている(私たちはこちらの方が優れたビジネスモデルだと考えている)ため、飲食ビジネスの流れに食い込んだビジネスを展開していると言える。

そのため、Yelpは準独占的な立場にいて、GrubHubは厳しい競争にさらされているにも関わらず、両社の時価総額はほぼ同じ水準にあるのだ。Zillow(不動産)やTripAdvisor(旅行)のように、広告型マーケットプレイスのモデルで、高いパフォーマンスを誇るビジネスを生み出すことは今でも可能だが、そのためにはかなり規模の大きなカテゴリーで魅力あるサービスを売っていかなければならない。

  • 「影の市場」をみつける 大きな市場を開拓するための方法のひとつが、既存の市場に隠れている「影の市場」をみつけだすということだ。AirbnbとUberがその典型例だ。誰が空き部屋をホテルに、自家用車をタクシーに使えると思っていただろうか?彼らは当時まだ発掘されていなかった需要と供給をみつけだし、魔法のように新しい経済行動を消費者に植え付けることに成功したのだ。そして当然のように、この分野の企業は現在自らの功績の恩恵にあずかっている。BNIには含まれていないが、この分野で今後活躍が期待される企業としては、ペットシッター検索サービスのRoverや、スポットコンサルティングサービスのCatalantなどが挙げられる。

小規模な市場を狙っている企業でも、独占状態さえ築くことができれば、何十億ドルという評価額も夢ではない。GrubHubのイギリス・ヨーロッパ版にあたるJust Eatや、Zillowのオーストラリア版にあたるREA Groupは、小規模市場を席巻することで、今の地位につくことができている。

ビジネスモデルを考えるときには需給分析をしっかりと行う コンシューマー向けのマーケットプレイスで、10億ドルを超えるビジネスをつくろうとした場合、まず経営者はどちらの側から料金をとるかというのを決めなければならない。私たちの研究結果を参考にすると、一般的に企業は余裕のある側(単にプレイヤーの数が多い側とも言えるし、よりそのサービスを必要としている側と読み換えることもできる)からお金をとったほうが良い。

例えば300億ドルの評価額を誇るAirbnbは、設立当初より家の所有者ではなく宿泊者から手数料をとっている。というのも、ホテルがすぐに埋まってしまう(しかも高い)ような街で、泊まる場所を必死に探しているのは家の所有者ではなく、宿泊者側だからだ。一方この分野の先駆者にあたり、Expediaによる買収時の評価額が40億ドルだったHomeAwayは、物件を登録する所有者から手数料をとっていた。これこそ、先行者利益がありながら、HomeAwayがシェアを伸ばせなかった理由なのかもしれない。その反面、Airbnbは物件数をどんどん伸ばし、サービスの訴求力を高めていった。

販促費がカギ 最後に、BNIに含まれる企業に共通して見られたのが、販促費とネットワーク効果の関連性だった。ネットワーク効果を大いに発揮し、2200億ドルの時価総額を(2016年12月31日時点で)記録しているAlibabaの販促費は、売上の15%未満におさえられている。一方で育児や介護サービスのマーケットプレイスで、2億4700万ドルの評価額(2016年12月31日時点)を記録しているCare.comは、売上の48%以上を販促費に充てている。結局、ベビーシッターや介護スタッフの検索というのは、一時的に発生するニーズで、中抜きのリスクが高く、ネットワーク効果も薄い。その結果、Care.comは成長を維持するために、大金を販促費につぎ込まなければいけなくなってしまったのだ。

私たちは、ネットワーク効果が未来のスタートアップの成功に欠かせないものであると考えている。しかしルールは常に変化しているため、ネットワーク効果を生み出すのにこれまで有効だった手段が、明日には通用しなくなるかもしれず、起業家は常に新しい情報を仕入れなければならなくなるだろう。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter