あなたの次のパソコンはデータセンターの中にあるかもしれない

パソコンのパワーや携帯性は日を追うごとに向上しており、ノートパソコンでも負荷のかかるタスクをこなせるようになった。一方で、回線速度も驚くほど速くなってきているため、データセンターにあるサーバーへ簡単にタスクの一部をアウトソースできるようにもなっている。

携帯アプリもすでにほとんどがサーバーコンポーネントを利用して、データの処理・保管を行っている。例えばFacebookに投稿された動画は、サーバー上で再度エンコードされるため、ユーザーはSDやHDなど複数のフォーマットで動画を楽しむことができる。

しかし私は、このトレンドが向こう数年間でさらに重要性を増してくると考えている。全てのデバイスは、近くのデーターセンサーのサーバー上で動いているものを映し出す、単なるスクリーンになるかもしれないのだ。

そんな未来の実現に向けたひとつめのステップが、世界中の回線速度とレイテンシーの大幅な改善だ。私は幸運にも人口が多くインフラも整備されたパリに住んでいるため、自宅の回線でも上下それぞれ250Mbps、800Mbpsの速度が出ており、有線接続であれば2ミリ秒以内にパリ中のデーターセンターにアクセスできる。

次に、私はここ何年間もスペックより携帯性を重視してきた。現在私はこの記事を、12インチの小さなMacBookで執筆している。軽くてファンレスのこのマシンは、以前使っていたMacBook Proにもほとんど負けないくらいパワフルだ。

できるだけ軽いデバイスを選びたいと思っている人は、今後しばらくはノートパソコンの劇的なパフォーマンス向上は見込めないだろう。しかし同時に、強力なGPUを必要とするタスクは増えている。クリエイティブ系の人であれば、画素数の多い写真や4K動画を編集しなければならないし、インターネットブラウザでさえ、以前よりも強力なプロセッサーを必要としている。

3つめに、企業はユーザーのコーディング経験の有無に関わらず、誰もが使えるようなサービスを開発しなければならない。例えばAdobeであれば、PhotoshopやPremiere Proといったアプリのクライアント版をリリースし、重いタスクは全てサーバー側で処理することができるだろう。希望者にこのようなサービスを提供するにあたって、Adobeのサブスクリプションモデルは完璧な土台のように感じられる。

現存するテクノロジーを使って、革新的なサービスを提供している企業も存在する。フランスのスタートアップBladeは、主にクラウドゲーム向けのShadowと呼ばれるサービスを運営中だ。彼らはサーバー向けのXeonプロセッサーを使って何千台もの仮想マシンを管理しており、ユーザーは月額32.7ドル(30ユーロ)で、Nvidia GTX 1070が1人ひとつずつ割り当てられたパーソナルインスタンスを手に入れられる。

当初私はレイテンシーや画像圧縮などの制約から、クラウドゲームが本当に成立するのか疑っていたが、彼らのサービスではWindows 10の本格的なデスクトップ環境の再現と素晴らしいネットワークパフォーマンスを実現できることがわかった。

Bladeはつい最近WindowsとAndroid向けのアプリをリリースし、現在はmacOS版アプリのほか、安価なCPUとさまざまなポートを搭載した専用デバイスの開発にも取り組んでいる。このデバイスがリリースされれば、ユーザーはパソコンを持っていなくてもShadowサーバー上の仮想マシンにアクセスできるようになる。

私もWindows機でShadowのアプリを使ってみたところ、すぐに別々の壁紙を使わなければいけないと気づいた。というのも、自分がローカルのマシンを操作しているのか、パリの近くにあるShadowのデータセンターにある仮想マシンを操作しているのか区別できなくなってしまったのだ。

Shadowインスタンスでゲームをプレイしているときは、ローカルのコンピュータには負荷がかからないので、ユーザーのノートパソコンは静かなままだ。そのため、重いタスクを外部で処理しているということを実感することができる。一方でBladeのような企業は、強固なプライパシーポリシーとセキュリティシステムを備えていなければならない。

CPUやGPU、SSDの性能は今後も向上していくだろうし、クラウド企業はそれを利用してより優れたサーバーを提供できるようになる。

逆に光ファイバーとLTEが組み合わさることで、常時接続が当たり前となる中、インフラの重要性はさらに高まっていくだろう。全てのデバイスでギガ回線を利用できるようになれば、未来に住んでいるような気分になるはずだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

IoT専用のネットワークが必要とされる3つの理由

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編集部注:本稿はBeep Networksの共同創業者であるDaniel Conradによって執筆された。彼はGoogleのAndroidとAccessのチームでプロジェクト・マネージャーを務めた経験をもつ。

 

世界中の通信キャリアがまったく新しいIoT向けのセルラーネットワークを構築しつつある。携帯電話でこのネットワークを利用することはできない。このネットワークはまだこの世の中に存在しないIoTデバイスのために構築されたものなのだ。しかも、これに取り組んでいるのは小規模のキャリアたちではない。ComcastSoftbankOrangeSKTKPNSwisscomなどのキャリアが全国規模の新しいIoTネットワークを構築している。VerizonVodafoneは彼らがもつネットワークをアップグレードし、IoTのためだけに周波数スペクトラムを用意している。CiscoSamsung、Nokia、Ericssonなどの企業は、それに必要な設備を販売している。

新しいネットワークが必要とされている理由は、携帯電話用のネットワークがIoTデバイスに必要とされる3つの条件を満たしていないからだ。その条件とは、バッテリー寿命、コスト、そしてネットワークのカバレッジだ。

新しいネットワークを構築することを正当化するためには、この条件のなかの1つをクリアするだけでも十分だ。だが、もしこの3つの条件をすべてクリアすることができるとすれば、それはIoT業界に大きな変革をもたらすことになる。そして、この変革こそ通信キャリアたちが目指しているものなのだ。

その3つの条件をこれから1つずつ見ていくことにしよう。

バッテリー寿命:月単位ではなく、年単位のバッテリー寿命が必要

携帯電話用ネットワークのエネルギー効率は高くない。そして、今後それが改善されることもない。

携帯電話用のネットワークは元々、車載電話向けに開発されたものだった。クルマが時速100キロで走行していても、通話を途切らせることなく基地局間で電波を「手渡し」するという技術は革新的なものであり、その技術によってセルラー方式のネットワークが誕生することとなった。電波を「手渡し」するためには洗練されたアルゴリズムが必要であり、電話とネットワークが継続的に通信をする必要がある。

そのため、携帯電話用のネットワークを利用するデバイスは基地局と1秒間に何度も通信をおこなう必要がある。それがバッテリーの寿命を縮める原因だ。

IoTデバイスのバッテリー寿命を年単位で伸ばすためには、大半の時間は電波を受信しない「スリープモード」にしておく必要がある。それは携帯電話用のネットワークでは不可能だ。電源を入れたり消したりすればよいのでは、と思われるかもしれないが、ネットワークに再接続するまでの数分間はかなりの電力を消費する。飛行機を降りたとき、電波をつなげるために何度も電源を入れたり消したりすれば、私がいま言ったことを実感することができるだろう。

その点において、IoT向けのネットワークでは新しいアプローチが採用されている。

まず第一に、このネットワークには低消費電力の無線通信チップが使われている。データの送受信にかかる消費電力量を極力抑えるために最適化されたチップだ。これにより、携帯電話用のネットワークよりも桁違いに低い消費電力で通信することが可能となる。

次に、このネットワークを利用すれば、デバイスを何時間ものあいだ通信を必要としない「スリープモード」にしておくことができる。ほとんどの時間を省電力モードで過ごし、データを送受信したり、センサーからの情報の取得する間のミリ秒単位の時間だけ起動させるだけでいい。

こうすることによってバッテリーの寿命を何百倍も伸ばすことができるのだ。

数年間も充電が不要なバッテリーは、IoTデバイスにとって非常に大きなメリットとなる。なぜなら、バッテリー寿命を伸ばすことにより、IoTデバイスの導入コストを大幅に抑えることができるからだ。デバイスを電源につなげる必要もなければ、バッテリーを充電する必要もない。長いバッテリー寿命のおかげで、いったんデバイスを設置してしまえば後は放っておくだけでよくなる。何千何万ものデバイスを設置しなければならないとすれば、これは特に大きなメリットだ。

これだけでも新しいネットワークを構築するための理由づけとしては十分だ。

だが、理由はこれだけではない。

コスト:できるだけ安いデバイスが必要

IoTデバイスで携帯電話用のネットワークを利用するのには高いコストがかかる。

第一に、通信キャリアがIoTデバイスに対応するためには大きなコストがかかる。割り当てする周波数を増やすのには何十億ドルもの費用がかかり、周波数はいくらあっても足りることはない。月に1ドル程度の収入にしかならないIoTデバイスのために、月に100ドルのデータ通信料を得ることができる携帯電話を犠牲にすることもできない。IoTデバイスに対応するためにかかる機会コストは高すぎるのだ。

この問題を解決するため、新しいIoTネットワークはアンライセンスバンドを利用しているか、もしくは周波数帯の間に設けられた「ガードバンド」と呼ばれる未使用の周波数帯を利用して構築されている。いずれにせよ、周波数帯の利用には事実上コストがかからない。

また、携帯電話用のネットワークを利用するのはデバイスの開発者側にとっても高いコストがかかる。複雑なLTE受信機を利用するためにはデバイスに複数のアンテナを搭載する必要があり、高価なIPライセンスを取得する必要もある。携帯電話用のネットワークに対応させるためにはデバイス1つあたり数十ドルのコストがかかる一方で、新しいネットワークに対応させるためにかかるコストは1ドルか2ドル程度で済む。

長いバッテリー寿命、低いコスト、広いカバレッジ。これらがすべて1つのパッケージとして実現される。

最後に、キャリアからネットワークの利用に関する認可を受けるのにもコストがかかる。例えば、Verizonからネットワーク使用の認可を受けるためには5万ドルから10万ドルの費用がかかり、そのプロセスには数カ月もの時間がかかる。Verizonのネットワークを利用する他のデバイスへの干渉を防ぐためにも、この認可制度は必要なものだ。彼らが慎重なのも当然なことだろう。

また、新しいIoTネットワークは干渉に強い設計となっている。共有された周波数帯を利用するこのネットワークでは、他の電波から干渉されることが当たり前だからだ。そしてほとんどの場合、Wi-Fiのアクセスポイントのように、エンドユーザーが自分自身のゲートウェイを設定することもできる。それも無料で。

このことは次に説明するテーマにも関わってくる。

カバレッジ:どんな場所でもつながる電波が必要

LTEがつながらない場所は多い。また、IoTデバイスは携帯電話用の電波がつながらない場所に設置されることがほとんどだ:地下室に設置する浸水監視センサー、地下駐車場に設置されるパーキングセンサー、地方のトウモロコシ農場に設置される土壌センサーなどだ。

新しいIoTネットワークでは、このカバレッジの問題を2つの方法で解決しようとしている。

まず第一に、IoTネットワークでは帯域幅ではなく室内でのつながりやすさを最大化するように設計されている。高周波の変調の基本ルールとして、1ビットを表すために沢山のビットを送信することで、通信速度を抑える代わりに電波の受信範囲を広げることができるというものがある。LTEがデータを大量に送受信するスマートフォン向けに最適化されている一方で、新しいIoTネットワークはより少ないデータの送受信向けに最適化されている。例えば、センサーからの情報を読み込んだり、サーモスタットで温度を設定したりというような短いメッセージだ。大抵の場合ビットレートが1Kbps以下という遅い通信速度ではあるものの、新しいネットワークでは同じ電力でも広い受信範囲を実現することができるのだ。

次に、新しいネットワークではWi-Fiのルーターのように独自のゲートウェイを設置することもできる。そのため、通信キャリアの電波が自宅の地下室まで届かないのであれば、その近くに自分でゲートウェイを設置することでIoTデバイスまで電波を届けることができる。自分でネットワークを設置することができることは、このテクノロジーを普及させるうえで重要な要素だ。とりわけ、通信キャリアによるネットワークが普及する前の初期段階ではそれが特に重要となる。

 

これこそが、これからのIoTの姿だ。長いバッテリー寿命、低いコスト、広いカバレッジ。これらがすべて1つのパッケージとして実現される。

IoTという分野に何年もの時間を費やしてきた私にとって、この新しいネットワークは見果てぬ夢のようなものだ。デバイスを設置して後は放っておくだけで、そのデバイスが至るところで働いてくれる世の中になる。

楽しみで仕方がない。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter