企業を“卒業”したアルムナイとの新しい関係づくりをSaaSで支援、ハッカズークが資金調達

人事・採用に携わる人やHR Techの関係者なら、「アルムナイ(alumni)」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないだろうか。もともと学校の「卒業生」「同窓生」といった意味だが、企業のOB・OGの意味でも使われるようになっている。

HR Techスタートアップのハッカズークが提供するのは、そんなアルムナイと企業との関係性を退職後もつなぐためのプラットフォーム「Official-Alumni.com」だ。1月16日、ハッカズークは、ドリームインキュベータと複数の個人投資家を引受先として第三者割当増資による資金調達を実施したことを明らかにした。

企業とアルムナイとの新しい関係性を築く

「採用活動から勤務中の人事管理で、候補者や社員との関係性を築いてきた企業が、退職後も退職者との人的リレーションを保ち、企業と退職者との新しい関係性を築こう、というのがアルムナイリレーションの考え方だ」ハッカズーク代表取締役CEOの鈴木仁志氏は、このように同社のサービスについて説明する。

人材不足の折、アルムナイリレーションシップは再雇用やリファラル採用など、採用活動の場面で注目されることが増えている。だが、鈴木氏によれば「現在、当社のサービスを利用する顧客企業はみんな、再雇用だけでなく、アルムナイを業務委託パートナーとして活用したり、退職した企業のお客さんになるアルムナイもいる」とのこと。

元社員の再雇用やリファラル採用での口コミ・紹介といった制度をアルムナイ向けに用意することのメリットは、採用に直接関係する部分でもあり、想像が付きやすい。さらに、ともに仕事をする相手として、また顧客としても、その企業をよく知るからこそ接点を持ち続けるメリットがあるそうだ。

そのほかにも「アルムナイと取り組むオープンイノベーションは、うまくいきやすい」と鈴木氏はいう。「アルムナイは一度社外に出ることで、古巣にどのような変革が必要かは分かっている。一方で社内の政治力学も知っているので、全くの他人が推し進めるのとは違い、よい提案になる」のだそうだ。

アルムナイリレーションでは「会社だけが得をする形は絶対うまくいかない、といつもクライアントにも伝えている」と鈴木氏は述べ、アルムナイとの関係性を続けることの効果を説明している。

「アルムナイは、社外にいながら古巣の良さを一番知っている。組織の中で一度は折り合いが付かずに辞めてしまったとしても、そこでの仕事自体は好きだったり、サービスには愛着があったりする人も多い。そうした人たちと企業が互いにポジティブな関係性を育むことで、働き方改革ならぬ“辞め方改革”が進むはずだ」(鈴木氏)

鈴木氏は「退職したら関係が切れる、という前提では、退職者はきれいな辞め方をしないこともある。退職後もつながる前提なら、きれいに辞め、企業にもメリットが大きい」という。

アルムナイ特化型SaaS「Official-Alumni.com」

アルムナイリレーション専用SaaSのOfficial-Alumni.comは、2018年1月にベータ版がリリースされた。ハッカズークでは、このシステムに加え、制度の企画・設計コンサルティング、運用サポートをサービスとして提供している。

Official-Alumni.comは、企業がアルムナイとの接点を作り、「今アルムナイがどうしているか」を知るためのウェブアプリだ。チャット形式のメッセージ機能で、アルムナイとのコミュニケーションの接点を保ち、データを蓄積。実名でのやり取りだけでなく、「意見箱」のように匿名でアルムナイが情報発信する機能も備えている。

「匿名メッセージは、例えば企業がよいと思って取り入れた人事制度に、社員が実は不満を抱えている、といった本音の評判をOB・OG経由で聴き取る、というような形で利用されている」(鈴木氏)

それぞれのメッセージ機能は1対1のやり取りが基本だが、グループチャットができる「ルーム機能」も備えている。

「SNSなどでOB・OGグループを作ると、メンバー間で迷惑メッセージの発信リスクが生まれるが、Official-Alumni.comでは個々のメンバーの検索はできないので、その心配がない。一方で『○○年退職組のグループ』というように目的や属性ごとにグループが作れるので、活発なコミュニケーションは行える」と鈴木氏。「SNSやチャットツール、CRMといった非特化型のほかのサービスとは違う、アルムナイ特化型システムとなっている」と話している。

システムにはNPS/eNPSを活用して、アルムナイのエンゲージメントを測定する「Gauge(ゲージ)」も採用されている。管理画面はCRMライクな見た目だが、こうした機能を取り入れ、やはりアルムナイ管理に特化したつくりになっているという。

「アルムナイ」への理解を進めて成長加速を目指す

「アルムナイという言葉が浸透してきた今、言葉は広がってきたが『企業が退職者をも搾取するためのもの』といった誤解もある」と鈴木氏は語る。こうした風潮を変えていくことで、ハッカズークの成長を加速させたい、という思いが資金調達の背景にはあるそうだ。

ハッカズークは2017年7月の設立。鈴木氏は人事・採用のコンサルティング・アウトソーシングのレジェンダ・グループのシンガポール法人で代表取締役社長を務めていた人物だ。海外のHR Tech動向に明るく、TechCrunch JapanにHR Tech Conferenceのレポートを寄稿したことや、イベントTechCrunch Schoolで海外HR Tech市場のトレンドを解説してもらったこともある。

今回の資金調達は2018年5月に実施した、複数のエンジェル投資家による調達に続くもの。ドリームインキュベータのほかに、ポケラボ創業者でジラフ執行役員の佐々木俊介氏、ほか個人投資家1名から出資を受けた。調達金額は明らかにされていないが、関係者によれば数千万円規模だということだ。

新たに株主となったドリームインキュベータについて鈴木氏は「調達金額の多寡よりも、戦略コンサルティングとインキュベーションで力のあるVCのドリームインキュベータの支援を得ることで、事業拡大を加速したいと考えた」と話している。

調達資金は、PR、プロダクト開発、そしてコンサルティングやカスタマーサクセスのための人材採用に充てる。「PRに関しては、アルムナイリレーションが企業にとっても、個人にとっても必要で、なくてはならないものになるということを伝えたい。企業がアルムナイとつながること、アルムナイも企業とつながることが当たり前で、メリットになるということを発信していく」(鈴木氏)

「Official-Alumni.comの熱狂的ファンをつくるのが、2019年の目標」と鈴木氏は語る。「顧客の中には、後輩のために熱心にコミュニケーションを取るアルムナイがいる企業もあって、チャットで使える『アルムナイスタンプ』まで作っている。そういう機能を入れられるのは、特化型サービスの強みだ。強いカルチャーは、熱量のあるカルトを醸成する。その中でアルムナイと企業が永続的につながることができる」(鈴木氏)

現在の顧客企業は規模も業種も、アルムナイリレーションを取る目的もさまざまだと、鈴木氏はいう。「システム開発や人材系企業ではオープンイノベーションのために利用している例がある。また飲食・小売などでは、店舗のディスプレイなど“ビジュアルマーチャンダイジング”やメニューの新商品開発などで、アルムナイから意見をもらうケースも」(鈴木氏)

どういった規模や目的でサービスの利用が進み、どこでOfficial-Alumni.comがスケールするかは、今後見極めていくという鈴木氏。直近では、辞めた人が何をしているかを把握することができて、アルムナイへのメリット提供や関係性が作れるように、システムに加えてコンサルティングで対応していくと話していた。

写真左端:ハッカズーク代表取締役CEO 鈴木仁志氏