創業百数十年の老舗食堂から生まれた飲食向けデータ分析ツール開発のEBILABがパーソルから約1億円を調達

飲食や小売向けの店舗データ分析ツール「TOUCH POINT BI」を開発するEBILABは6月1日、パーソルグループのパーソルイノベーションから約1億円を調達したことを明らかにした。

EBILABでは同じくパーソルグループでクラウド型モバイルPOSレジ「POS+」を手がけるポスタスと2020年2月に業務提携を締結済み。今後はパーソルイノベーションやポスタスとの連携を通じて販売やマーケティング面を強化するほか、飲食・小売業のデジタル変革の支援に向けた新プロダクトの開発なども検討していくという。

TOUCH POINT BIは飲食店や小売店が保有する「店舗にまつわるあらゆるデータ」を一元的に収集し、可視化するプラットフォームだ。たとえばPOSレジサービスと連携することでユーザー自身が何も入力することなく売上データを自動で収集。期間別の売上や客数のほか、顧客の年齢層、入店時間別の来客比率、メニューごとの売上比率など店舗分析に不可欠な情報をダッシュボード上に表示する。

同サービスに繋げるデータはPOSレジに限らず幅広い。天候データと紐づけることで天気や気温が店舗の状況にどのような変化をもたらしたのかを数字で把握することもできるし、店舗に設置したネットワークカメラによる「画像解析AI」機能を活用してレジシステムだけではわからなかった顧客の属性や行動を掘り下げて分析することもできる。

また過去に蓄積してきたデータを用いた「来客予測AI」もTOUCH POINT BIの1つの特徴だ。未来の来客数が予測できることによってあらかじめ発注・仕入れを最適化し食品のロスを減らせるほか、オペレーションを効率化して料理の提供時間を短縮することも可能。「45日予測」機能は早い段階でシフトや休暇を調整する際にも役立つ。

「ユーザー側で画面設計の手間がないというのが大きな特徴。これまでためてきた知見やノウハウを元に最初からベストプラクティスを提供するという考え方で、飲食や小売の現場で必要とされる項目を最初の段階で揃えている。ユーザーは導入時にポスベンダーと連携さえしておけば自動でデータが収集されるので、業務の節目に自ら入力しなくてもデータを軸とした店舗運営ができる」(EBILABでCTO兼CSOを務める常盤木龍治氏)

TOUCH POINT BIがユニークなのは、なんと言ってもこのサービスが三重県伊勢市にある創業百数十年の老舗食堂「伊勢ゑびや大食堂」の“自社ツール”として生まれたものである点だろう。長い歴史を持つ同店舗ではデータ解析の力で勘に頼らない店舗経営への移行を目指すべく、TOUCH POINT BIの前身となるツールを自社で開発した。

これが1つのきっかけとなり2012年に1億円だった売り上げは2018年に5倍近くの4.8億円まで拡大し、利益ベースでは約10倍増加。現場では来客予測システムの効果によって米の廃棄を70%ほど削減することに成功したほか、人員の稼働をうまく調整することでスタッフが休暇を取りやすい体制を実現することにも繋がった。

「多くの飲食店ではそもそもデータを使った分析などをしていないか、やっていてもエクセルなどを使って特定の人に依存する形になっているところが多かった。後者の場合、担当者が変わってしまうとまたゼロから仕組みを構築しなければならない。結果的にデータではなく勘や経験頼りでしかビジネスが回らない状態に陥ってしまい、ロスも発生するし販促も成果に繋がらないという状況が様々な店舗で起きている。もし数字を基にして根拠を持って考えられるような仕組みが作れれば、もっと確度の高い形で経営ができるのではないか。そんな思想から生まれたプロダクトだ」(ゑびや代表取締役でEBILABの代表も務める小田島春樹氏)

2018年6月にはゑびやのシステム部門をEBILABとして分社化。同時にTOUCH POINT BIという形で正式にプロダクト化し、飲食店を中心とした小売事業者へサービス提供を始めた。現在もEBILABはゑびやと同じく伊勢市に本社を置き、沖縄市に構える同社のInnovationLabのメンバー達とリモート環境でプロダクトの開発に取り組む。

飲食店向けのシステムを開発しているIT企業はいくつもあるが、実際に飲食店を運営しているところは稀だろう。TOUCH POINT BIにはドッグフーディングの形で「実際にゑびやで試してみてハマった機能」が散りばめられていて、もしかしたらこの開発体制こそがEBILAB最大の強みと言えるかもしれない。

同サービスの利用料金はデータを分析するための「店舗分析BI」が1店舗あたり月額1万9800円、そこに来客予測AIも加えた上位プランが月額2万9600円(導入費用は別途必要)。地方のSMBなどでも導入しやすいように「多くの店舗が毎月かけているWeb販促費などの範囲内で使えて、実際に効果が実感できるサービス」を目指したという。

現在は約160社が導入しているが今の所は大手デベロッパーの案件なども多いそう。今後は当初のターゲットとしていた全国のSMBへの展開を進めるべく、スマホベースで来店予測や日々の進捗管理ができるサービスの開発や販売・マーケティングの強化を進める。

冒頭でも触れた通り、パーソルイノベーションおよびポスタスともその方向で連携を強めていく計画。ポスタスと共同で2月より提供をスタートしている「POS+BI powered by EBILAB」を2022年までに1万店舗へ展開することを目指すほか、中長期的には双方のアセットを活用しながら新サービスや飲食・小売事業者のためのデジタルソリューションの企画開発などを共同で行なっていく計画だという。

リファラル採用のMyRefer、パーソル独立後3.6億円の調達ーー「つながりで日本のはたらくをアップデートする」

左から、MyRefer代表取締役社長CEOの鈴木貴史氏、USEN-NEXT HOLDINGS代表取締役社長CEOの宇野康秀氏

リファラル採用に特化したHRテックサービス「MyRefer」を提供するMyReferは8月6日、グリーベンチャーズ、パーソルホールディングス、宇野康秀氏などを引受先とする総額3億6000万円の第三者割当増資を実施したと発表した。

同社はパーソルグループの新規事業創出プログラム「0to1」発の事業。成長をより一層加速化させること、そしてパーソル全体のオープンイノベーションを更に強化していく試みとして8月1日に法人化した。同プログラム初の独立法人化案件だというだけでなく、1998年設立のサイバージェント以来のインテリジェンス(現パーソル)発のスピンアウトベンチャーとなった。インテリジェンス創業者で現在はUSEN-NEXT HOLDINGSの代表取締役社長CEOを務める宇野氏はこの動きを「非常に嬉しく感じている」とコメントしている。

「創業の頃から人と組織を元気にするインフラサービスとしてやっていた。個人的にやりたいことは、ベンチャーがチャンスを得て巣立っていくこと。大企業を脅かすような存在に進化していくことを支援したい」(宇野氏)

また、同氏は「(独立元企業にとっては)自社で抱えきれない事業もある」「独立したからと言って1が0になるわけではない」とも話している。

「自社で育てたサービスが独立してしまうと損失が多く見えるが、自社内で成長した上で独立を目指す優秀な人が増えることはメリットだと思う。逆に、サイバーはインテの中にいたら今のようにはなっていない可能性もある。独立したことでブランディング形成できるという面もある」(宇野氏)

一方、パーソルホールディングス取締役副社長COO高橋広敏氏は「パーソルグループにおいてもオープンイノベーションやインキュベーションを積極推進しており、MyReferのさらなる事業成長を支援していく」とコメントしている。

MyReferはリファラル採用を中途採用のみならず新卒、アルバイト採用でも利用が可能にするクラウドサービスだ。リファラル採用とは社員に人材を紹介・推薦してもらう採用手法のこと。社員の個人的な繋がりを活用し、より企業にマッチした人材を獲得することが可能となる。

人事担当者はMyReferを導入後、社員にマイページを配布。社員はマイページで求人情報を確認し、SNS上の友人にシェア。推薦コメントを人事担当者に送信。お誘いが届いた友人は興味があればMyReferに登録して応募する。社員の活動状況を全て可視化するアナリティクス機能により、人事担当者は社員の紹介活動や候補者応募状況、求人別の紹介状況を確認することができる。

iPhoneとAndroidに対応したアプリを使うことで社員はワンクリックで求人を紹介することが可能。同アプリでは「社内の活動状況がランキングで可視化されるのでログインしたくなる」との声もあり、社員が楽しく自発的に自社の紹介活動を行える。また、社員は活動状況によってはギフトを受け取ることも可能だ。

「エージェントとか求人広告のような職務経歴書などを用いたハード面でのマッチングではなく、人と人との繋がりによるレファランスを活用する。新卒、中途とアルバイト領域の全ての採用を人と人との繋がりによる就職・転職でディスラプトしていきたい」とMyRefer代表取締役社長CEOの鈴木貴史氏は語った。従来の履歴書や経歴書をベースとしたマッチング手法では、個人のポテンシャルを最大限活かせず、企業も外部エージェントに依存した採用に終始しがちだという。一方、MyReferは企業に対して社員の繋がりを活用したインフラを提供するので、持続可能な採用力強化を可能としている。

MyReferは日本で最も利用されているリファラル採用サービスで、2015年9月のサービス正式リリースから30カ月で370社が利用、利用社員数は10万にもおよぶ。利用企業には2018年1月の段階でUSEN-NEXT HOLDINGSやファーストリテイリング、日産自動車などが挙げられていた。

鈴木氏は調達した資金で新機能の開発や採用、マーケティングを強化していくという。退職した社員の再雇用やアルバイトからの正社員登用も含めた社内移動を可能にし、採用側が自社のニュースなどを求職者に発信できるような仕組みを構築したいと意気込んでいた。