ビズリーチなどを展開するVisionalグループ、クラウドリスク評価サービスAssuredを正式リリース

ビズリーチ、HRMOS等を展開するVisionalは、2022年1⽉25⽇、セキュリティ領域の新事業として、クラウドリスク評価のデータベースサービス「Assured(アシュアード)」を正式リリースしたことを発表した。

進むクラウド化と追いつかないセキュリティ管理

各産業で不可逆のデジタル化が進み、特に国内クラウド市場は2018年度から2019年度にかけて約21%拡⼤し、2024年度には約2.8倍の5.4兆円規模に拡⼤ することが予想されている(MM総研「国内クラウドサービス需要動向調査」(2020年5⽉時点) )。⼀⽅で、クラウド利⽤を起因とした重⼤なインシデントも相次いでおり、企業の新たな経営課題として、セキュリティリスクマネジメントの必要性が⾼まっている。情報セキュリティ部門の担当者は、決裁者への説明のため担当者が各サービスを比較したり、上場準備等に伴う内部監査でクラウドサービスのセキュリティに問題がないかリサーチしたりと、日々増加していく作業量に頭を悩ませている。

(検索画面イメージ)

Assuredは、そんな情報セキュリティ部門の負担軽減、生産性向上を目指すサービスだ。クラウドサービスのセキュリティ状況がオンラインで確認でき、項目ごとに更新日時や過去ステータスも追える。

(レポート画面イメージ)

現在用意されているスタンダードプランでは同サービスでの検索を制限なく利用可能。掲載されるクラウドサービスは、Assuredチームによるリサーチ、クラウドベンダー側からの追加依頼のほか、ユーザー側から追加をリクエストすることもできるという。他に、クラウド導入のアドバイザリーオプションなどを追加したメニューも策定していく予定だそうだ。

 

自社課題から生まれた新規事業

(左:Assured事業部長の大島氏、右:代表の南氏)

同社は2021年4月に上場。実はこの事業、約500のクラウドサービスを利用していたVisional自身が、その上場準備の中でも特に大変だったクラウドセキュリティリサーチの経験から生まれたそうだ。

同事業の事業部長を務める大森厚志氏は、ビズリーチに新卒入社後、ビズリーチ事業のマーケティング部、事業企画部を経て、地域活性事業などを担う組織の立ち上げに従事。その後、クラウド活用と生産性向上の専門サイト「BizHint」のマーケティング組織の立ち上げを担った後、社長直下のR&Dプロジェクトを経て、Assuredを企画立案し、事業化に至っている。大森氏曰く「自社で苦労があるということは、同じことに困っている企業もきっとあると思い、本事業を進めることにしました」とのこと。Assuredは、事業化の承認から先行リリースまで3ヶ月、正式リリースまで約1年強というスピードとなる。

同社は、「新しい可能性を、次々と。」をグループミッションに掲げている。同社代表の南壮⼀郎氏は「同事業は、新規事業を任された大森が、強い思い入れを持って立ち上げたもの。弊社は、こういった自由な組織風土を以って、どんな方にもチャンスがあるということを体現していきたいし、特定の領域に固執せず、その時に必要なものを生み出していきたいと考えている」と語った。

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ビジョナル南壮一郎氏上場インタビュー、創業から12年の道のりとこれから目指す場所

転職サイトの「ビズリーチ」や人材活用プラットフォームの「ハーモス」などを展開するビジョナルが4月22日、東証マザーズに上場した。公開価格をもとに算出した時価総額は1779億円。スタートアップ業界の内外から注目を集める「ユニコーン上場」となった。ビジョナル代表取締役社長の南壮一郎氏に上場までの道のりと、同社がこれから目指す場所を聞いた。

自身の転職活動から生まれた創業アイデア

南氏がビズリーチを創業したのは2009年のことだ。南氏は米タフツ大学卒業後にモルガン・スタンレー証券に入社。その後、2004年に楽天イーグルスの創業メンバーとなった。楽天イーグルスを離れた後、自身の転職活動で感じた経験と、米国で開催されたビジネスセミナーで出会った「LinkedIn(リンクトイン)」に影響を受けた南氏は、企業と求職者を直接つなげるというアイデアでビズリーチを創業した。

2016年、TechCrunch Japanが主催するスタートアップイベント「TechCrunch Tokyo」に登壇した南氏は、ビズリーチのアイデアが生まれた背景についてこう振り返る。

「プロ野球のドラフトでは、『僕、プロに行きたいです!』と誰かが宣言したら、全球団が手を挙げる権利がある。そのように(当時転職活動をしていた)私も、真っ白の状態からせっかく仕事を探すんだったら、『今、仕事を探しています!』と手を挙げたときに、なるべく多くの選択肢と可能性の中から選びたいなと思った。なぜそういう仕組みが転職活動にはないのかな、という自身の転職活動中の発想がビズリーチを創業するきっかけになった」とTechCrunch Tokyo 2016で南氏は話している。

しかし、2009年当時はリーマン・ショックの真っ最中だ。VCによるスタートアップへの出資も冷え込み、本記事執筆時である2021年のような活気はこの業界にはなかった。外部資金による資本の積み上げが期待できないなか、ビズリーチはある意味必要に迫られて「稼ぐ力」を身に着けてきた。それによりビズリーチは、創業から7年目で700名の従業員を抱えるまでに成長。創業から12年目の2021年第2四半期現在では117億円の現金を保有し、これまでの利益の積み上げを表す利益剰余金も61億円まで膨らんだ。直近会計年度(2020年度)の当期純利益は46億円だ。

南氏は2016年のTechCrunch Tokyoにも登壇した

上場を決めたのは2016年

自ら稼ぐ力を持つビズリーチがこのタイミングで新規上場に踏み切った理由はなんだろうか。

新規上場はスタートアップ業界では「エグジット」と呼ばれ、その言葉にはある意味で「目指すべきゴール」のような響きもある。しかし、もちろん上場企業ならではのデメリットもある。広く一般の投資家から資金を調達できる代わりに、投資家の意向によっては、非公開企業と比べ、腰を据えてビジネスの芽を育てにくくなるのも確かだ。南氏もこの点を認識していて、上場までに12年の歳月をかけた理由もそこにあると話す。

「上場を決めたのは、2016年に行ったシリーズAでの資金調達(11億5000万円)の時だ。当時、上場企業としてどうありたいのかを考えたとき、僕たちは『息を吸うように事業を作り、成長させ、社会の課題を解決するようなインパクトを与える』企業になりたいと思った。しかし、上場をすれば株主が増え、事業運営にあたり考慮しなければならない変数が増える。中長期的な視野をもって事業を成長させたいと思っていても、トラックレコードがなければ投資家は納得してくれない。だから、僕たちは2016年のシリーズAを行った際、2021年春に上場をすると決め、そこから逆算して組織や事業のトラックレコードを作りこんできた」と南氏は語る。

この「中長期」という言葉は、南氏へのインタビューのなかで何度も出てきた言葉だ。その姿勢は、今回の新規上場にともなう新株売出しの方法にも表れている。ビジョナルは新規上場にともない約1124万株を売り出すが、その約88.7%にあたる株式は海外投資家に向けて売り出す。これまでにこの「グローバル・オファリング(国内と海外への株式などの募集・売り出し)」で新規上場を果たしたスタートアップには2018年上場のメルカリ、2019年上場のフリー、2020年上場のプレイドなどがあるが、絶対数としてはまだ少ないのが現状だ。

その意図について南氏は「これまでビジョナルは中長期的な視野を持って事業の運営を行ってきたし、これからもその目線をもって経営することがとても大事になる。新規上場を決めたときから投資家についてのリサーチを行ってきたが、海外には中長期的な目線をもつ投資家が多いことがわかった。シンプルに、理由はそれだけだ」と話した。

ビズリーチとハーモス両方を持つからこそできること

では、ビジョナルが中長期的に達成したい事業成長とは何だろうか。同社は有価証券報告書の中で「HR Techセグメント」の中核として人材のマーケットプレイスであるビズリーチと人材管理クラウドのハーモスを挙げている。ビズリーチの導入企業者数は2016年の約5200社から、現在では1万5500社と約3倍に伸び、外部顧客に対する売上高は209億円で、2018年の121億円から70%以上伸びた。同じくハーモスでも、ARR(年間経常収益率)ベースでは2018年第1四半期比で約5倍、利用企業数ベースでは約4倍と急速に成長中だ。

「ハーモスは採用や人材管理などに関わる機能をモジュールとして提供し、人事が欲している機能を一気通貫で提供してきた。今後は人材管理に加え、労務や給与の分野にも広げていく」と南氏はいう。

ハーモスで提供中の機能例

人材管理のハーモスと、人材のマーケットプレイスのビズリーチの両方を企業に提供するビジョナルだからこそできることがある。例えば、人材管理のハーモス上でパフォーマンスがあまりよくない社員がいたとする。その理由はさまざまであるはずだが、採用後の人事政策(つまりハーモスのカバー範囲)にあるのではなく、そもそも採用のミスマッチが原因だということもあるだろう。その場合、導入企業がハーモスとビズリーチの両方を導入していれば、ハーモスのデータをもとに採用プロセスの見直しができるようになる。それだけでなく、ハーモスで、ある社員の「退職の可能性が高い」というデータが出れば、企業は先回りしてそのポジションにふさわしい人材の採用を行うこともできる。人材にまつわるさまざまなデータを、人材採用の川上と川下の間で相互に活用することで、よりデータドリブンな人材戦略を実行することができる。

ビジョナルは今後、今回の新規上場で新たに調達する約106億円と現在保有する117億円を合わせた220億円以上の資金を、主にこの2つの事業のさらなる成長や、領域拡大のためのM&Aに投下していくという。

変わり続ける組織へ

上場の先を見据える南氏の表情は明るい。南氏は、上場した後も「変わり続ける組織」でありたいと話す。

「上場がスタートラインです。ダーウィンの言葉に『生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである』という言葉がある。社会の変化のスピードが上がり、ビジネスモデルの賞味期限は短くなった。100年続く企業はすごいと思うが、ビジョナルは100年で100回変わる会社にする。その象徴が(2019年に行ったグループ経営体制への移行にともなう)社名の変更だった。どう考えても、知名度のあるビズリーチという社名のままにした方が良いに決まっている。でも、社員に対して、『社名ですら変えられるのだ』ということを示したかった。何かを捨ててでも、学び続けられる組織にするためだ。変わらないものは、企業ページにも載せている『ビジョナルウェイ』(企業理念)だけ。それ以外は、変わり続けていくだろう」と南氏は語った。

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タグ:ビジョナル新規上場ユニコーン
冒頭画像提供:ビジョナル

求職者にありのままの姿を、ビズリーチ創業者ファンドが2人目の支援者に伝える「採用の意識改革」

転職サイト「ビズリーチ」など人材サービスを展開するビジョナルは1月27日、スタートアップを資金面と採用面からサポートする独自のファンド「ビズリーチ創業者ファンド」の投資第2号案件を発表した。ビジョナルが投資先として選んだのは、アート作品のストレージサービスを展開するbetween the artsだ。ビジョナルからの出資額は未公開だが、between the artsが今回実施したシードラウンドの合計調達額は5500万円だという。

写真左より、between the arts代表の大城崇聡氏、ビジョナル代表の南壮一郎氏。Visionalの渋谷オフィスのエントランスにある「Visional Collection」にて、感染対策を実施し撮影(撮影時のみマスクを外した)。

ビズリーチ創業者ファンドは、2018年10月に設立されたビジョナル独自のスタートアップ支援ファンドだ。同ファンドでは、スタートアップへの資金提供はもちろん、ビジョナルが展開するビズリーチやキャリトレといった採用系サービスの無償提供、ビジョナル経営陣が持つ採用面でのノウハウの提供などを通し、創業期のスタートアップの支援を行っている。

設立時に発表された第1号投資案件は、TechCrunch Japanが毎年開催する「スタートアップバトル」の2019年王者RevComm(レブコム)だった。ビズリーチ創業者ファンドによる支援を受け、同社は創業期の6カ月で4人のエンジニア採用に成功。その後も従業員数は順調に増え、創業5年目の現在では83人が在籍している

今回、ビズリーチ創業者ファンドが第2号の支援先として発表したのは、アート作品のストレージサービスを提供するbetween the artsだ。同社はアートコレクターなどのユーザー向けに、空調が管理された自社倉庫でのアート作品預かりサービスを提供している。利用料金は作品の大きさによって500~5000円の間で設定されており、平均単価は1000円ほどだという。

コロナ禍でリモートワークが増え、ビデオチャットの背景におしゃれな絵を飾りたいなど、アートに対する需要も加速してきた。一方で、アート作品が増えるにつれて課題になるのが保管場所の確保や管理だ。between the artsが目指すのは、そういったユーザー向けに簡単に利用できるアートの管理方法を提供することで、「アートを購入して楽しむ」という市場自体を創出することだ。

「日本におけるアートの購入額は年間400円程度であるのに対して、米国では年間1万円ほど。その差は25倍にもなる。一方で、美術館を訪れる人の数を見ると、その差は3倍でしかない。アートを買う楽しさを伝えられるようなサービスを作ることができれば、その25倍という差が縮まっていき、大きな市場が生まれるのではないかと考えている」と、between the arts代表の大城崇聡氏は話す。

採用サービスと人材が増えた今、重要なのは経営者の意識改革

特に創業期のスタートアップにとって、最も大きな課題となるのは人材採用だ。2020年版の中小企業白書を見ても、依然としてスタートアップ業界に人材の需給ギャップが存在することは明らかだ。

ただ、例えばビズリーチが設立された2007年と今を比べると、人材データベースの数も増え、スタートアップも簡単にそこへアクセスできるという時代になった。それでもスタートアップ業界の人材不足が発生してしまうのは「経営者側にも責任がある」と語るのはビジョナル代表の南壮一郎氏だ。

「スタートアップ業界に流入する有能な人材は著しく増えている。ただ、それに応じて人材の見極めも難しくなっている。昔は、スタートアップで働きたいという強い信念を持ち、かつ心理的なバリアを超えてくる人材の絶対数が少なかったが、現在はより多くの人材とより多くのスタートアップがマッチングする時代になり、人材の見極めが以前よりも難しくなっている。『成長痛』みたいなものだ。そのような状況で重要なのは、自分たちのありのままの姿をいかに求職者に伝えられるかだと思っている。華々しく見えるスタートアップだが、もちろん大半の仕事はつらいものだ。そういった部分も含めて求職者に対して正直に向き合うことでミスマッチが減り、離職者も減る」(南氏)。

人材採用に利用できる各種サービスが整い、スタートアップで働きたいと思う人材も増えてきたが、そんなときにこそ重要なのが、経営者自身の意識改革なのかもしれない。それを学ぶためには単に採用サービスを利用するだけでは不十分であり、経営者同士の横のつながりや先輩経営者からの教えが必要になる。ビズリーチ創業者ファンドでは、ビジョナル経営陣や投資先の経営者とともにある種のコミュニティを構築し、今後も採用に関するノウハウを伝えていくという。

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タグ:ビズリーチ人材採用between the arts資金調達日本