noteが月額会費制コミュニティを簡単に作れる「サークル機能」公開

ついに「note」でオンラインサロンが作れるようになるらしい——昨年12月にnoteが月額会費制コミュニティを簡単に作れる「サークル機能」を発表した際には、SNSでそのようなコメントを多く見かけた。

運営元のピースオブケイクによるとこれまで発表してきた機能の中でもトップクラスの反響だったそうで、コミュニティ開設に興味を持って先行登録をしたユーザーは950名を超えたという。

そのサークル機能が本日2月5日に正式公開された。

noteのサークルは冒頭でも触れた通り、クリエイターが簡単に月額会費制のコミュニティを作れる仕組みだ。概要は以下の通りで、月額料金については100円〜1万円の間で設定でき、10%がプラットフォーム利用料となる。

  • クリエイターのnoteアカウントに「サークル」タブを付与
  • 1クリエイターにつき、1つのサークルのみ立ち上げ可能
  • サークル内で受けられる特典(活動内容)に応じて、クリエイターが最大3つまでのプランを提示
  • メンバーだけが閲覧できる「掲示板(1サークルにつき1つ)」でクリエイターとメンバーが交流
  • 主催するクリエイターは、メンバー管理が可能

サークルを開設するとクリエイターのページのタブに「サークル」が追加される

プラン一覧の例

わかりやすく言えばnote上でオンラインサロンのような場所を作れる機能なのだけれど、オンラインサロンと聞いて多くの人がイメージするであろうコミュニティよりもかなり幅広い用途で使える。

すでに多くのファンを抱えている個人がファンクラブ的に運営するのもありだが、“サークル”という名称からもわかるように、趣味のあう仲間内でサークル活動をする際に会費を集めたり交流をしたりする場所として使ったり、勉強会などのコミュニティで活用するのもOKだ。

ピースオブケイクではミュージシャンやマンガ家、YouTuber、写真家、スポーツ選手、料理家など、幅広いクリエイターに加えて、勉強会やNPOなどさまざまなコミュニティ主催者の利用も想定しているという。

開設時には一定の審査を設けているが、オーナーの拡散力や集客力に対する審査ではなく法令違反などがないかをチェックするためのもの。数人のみでひっそりと運営するサークルでもまったく問題ないそうだ。

ファンクラブの場合の例。左がプラン一覧、右が掲示板

教室の場合の例。左がプラン一覧、右が掲示板

クリエイターはメンバー向けの特典を自由に設定でき、「メンバー限定の試食会で新メニュー開発の参考に」「未発表の音源を公開して感想を聞く」「メンバーの体験をつのって創作のタネに」「メンバー限定の写真撮影会」「オンライン交流」など使い方はさまざま。3つのプランを作れるので、コアなファン向けの充実したプランと気軽に参加できるライトなプランを用意することも可能だ。

もともとnoteではクリエイターが継続的にファンから支援を受けられる仕組みとして「定期購読マガジン」機能を提供してきた。この機能は読者が毎月一定数の記事を購読できることが基本であるため、作家やライターなど執筆が得意なクリエイターを中心に活用されているという。

一方で今回のサークルでは執筆の縛りを無くすことによって、別の形でファンや仲間と継続的に繋がることができるようになった。

以前からnoteでは「クリエイターの本拠地」を作ることを目指してきたが、日常の出来事や自身の考え・作品を発表できるだけでなく、コミュニティ管理も一元化できることを強みとして、より使いやすいプラットフォームを作っていく計画。今のところサークル機能単体ではかなりシンプルだが、今後さらなる機能追加も予定しているとのことだ。

大正12年創刊の「文藝春秋」が初のデジタル定期購読版をnote上でスタート

“大正12年”と聞くと、もしかしたらいつのことだかすぐにはピンとこない人もいるかもしれないけれど、1923年の創刊から100年近くに渡り日本を代表する雑誌の1つとして存在感を放ってきた文藝春秋。その同誌が初となるデジタル定期購読サービス「文藝春秋digital」を11月7日よりスタートした。

内容は月額900円で最新号のコンテンツや過去記事のアーカイブ、そしてデジタル版オリジナルのコンテンツが読み放題というもの。今回は自社でゼロからサイトを構築するのではなく、コンテンツプラットフォーム「note」を活用して展開している点も面白いポイントで、noteユーザーとのコラボレーションなどにも取り組みながら新しい読者層の開拓を目指していくという。

100年近く続く総合月刊誌をオンライン上でより多くの読者に

「私は頼まれて物を云うことに飽いた。自分で考へてゐることを、読者や編集者に気兼ねなしに、自由な心持で云つて見たい」

これは初代編集長の菊池寛が文藝春秋の創刊号に綴った言葉だ。今から約100年前にクリエイター発の雑誌としてスタートした同誌はプロの作家が誌面上で自由に作品を発表し、人気を得たものは単行本としても創刊するスタイルを確立。内容はもちろん、ビジネスモデルにおいても多くの出版社に影響を与えてきた。

100年近くの歴史がある文藝春秋。購入したことがある人はもちろん、本屋などで見かけたことがあるという人は多いだろう

実際に雑誌を手に取ったことがある人はイメージもわくと思うが、1つの特徴は総合月刊誌として幅広いトピックを扱っていること。たとえば11月号には政治や経済の話はもちろん、エンタメ関連の対談コンテンツもあれば、LINEの金融事業に関するインタビューのようにテック関連の記事も掲載されている。

2015年7月から文藝春秋編集部で月刊誌に携わり、現在はデジタル版のプロジェクトマネージャーを務める村井弦氏によると現在の発行部数は約40万部弱(2019年1〜3月の平均)。比較的高い年代の読者が多く、50〜60代以上が全体の76%ほどを占めるそうだ。

一方で少し意外だったのだけど、作り手となる編集部には20〜30代のメンバーも多いそう。編集長やデスクはベテランだが、村井氏自身は31歳。現場のメンバーには村井氏の同期やさらに若いメンバーもいる。

「自分たちが面白いと思ったものを発信していくスタンス」だからこそ、編集部のメンバーと同世代の読者も含めてより広い年齢層にもっとアプローチしたいという考えもあるようで、それも今回本格的にデジタル版をスタートする背景にもあるようだ。

文藝春秋digitalをnote上で展開する理由

もっとも、文藝春秋がこれまで全くオンライン上の取り組みを実施していなかったわけではない。たとえば2017年にスタートしたニュースメディア「文春オンライン」には、文藝春秋の誌面で扱っているコンテンツの一部をオンライン用に編集して掲載していたりもする。

ただニュースサイトという特性上、いわゆる“文春砲”と呼ばれるようなトピックを筆頭に比較的コンパクトでPVが取れるものが好まれる傾向にあり、難しさも感じていたそうだ。

「自分たちの記事はある程度じっくり読まれることに主眼を置いて作っていることもあり、ニュースサイトのモデルに合わせて記事を最適化しネット展開していくことにはどうしても限界があると感じていた」(村井氏)

文春オンラインだけでなくKindle版の発行なども手がけてはいるが、こちらは基本的に雑誌を電子書籍に置き換えたシンプルなもので、構成やレイアウトもデジタル用に作り変えているわけではない。

今回デジタル版を作るにあたっては「雑誌コンテンツを軸に、インターネット上でもできるだけ同じような体験を提供したい」というテーマの下、以下の3つのポイントを重視したという。

  • 記事の読みやすさ
  • 使いやすさ(誰でもサクサク使える)
  • シンプルなデザイン

実は当初はゼロからサイトを立ち上げることも視野に入れて、自分たちが目指す世界観を一緒に実現してくれるデザイナーを探していたそう。そこで名前が挙がったのがUI/UXデザイナーとして様々なプロジェクトを手がけ、note(ピースオブケイク)のCXOも務める深津貴之氏だった。

村井氏たちのデジタル版のイメージはPVを重視したニュースサイトではなく、コンテンツ課金を軸にしたサブスク型のメディア。深津氏にその話をしてみたところ、ゼロからそのシステムを構築するのはハードルが高く「まずはプラットフォームとして完成しているものを活用して、実際にどれくらい売れるのかを検証したほうが良いのでは」というアドバイスと共に、noteを含む複数サービスを教えてもらったという。

自身で調べたり、詳しい人に聞いても自前でメディアを構築するとなると1億円ほどの予算が必要になることも想定されたため、まずは他のプラットフォーム上で展開することを決断。実際に触ってみる中で上述した3つのポイントに合致していたnoteを最終的に選んだ。

月額900円で読み放題、noteユーザーとのコラボ企画も

本日からスタートする文藝春秋digitalは雑誌のコンテンツをデジタル版に最適化したもの(写真を増やしたり、見出しを変えたりなど)がメインで、そこにオリジナルのコンテンツが加わる形だ。

900円で最新号だけでなく過去のアーカイブ記事も含めて読み放題。スタート時には直近の3号分が読める。また気になるコンテンツを単体で購入することもできるほか、14人の執筆者によるエッセイを始め、無料コンテンツも配信する。

冒頭でも触れた通りnoteユーザーとのコラボ企画も進めていく方針で、投稿企画を通じて集まった作品の中から良いものについては文藝春秋の誌面に掲載することも予定しているようだ。

「従来のデジタル化は紙からデジタルへの一方通行が多かったが、その逆をやれたら面白いのではないか。ウェブっぽさとこれまで通りの編集部の強みを融合させて、ゆくゆくは読者からの『こんな調査報道を読んでみたい』といった要望を踏まえた、作り手と読者が一体になったコンテンツや企画などにも取り組んでいきたい」

「またデジタルの時代だからこそ、その一方で紙の本の付加価値が高まっていくと考えている。中長期的にはnote上で始まった連載が最終的には本にまとめられて出版される流れ、ウェブ連載のアウトプット先として本がありそれが人々の手に届くという流れも作っていきたい」(村井氏)

ネットに接続されることで新たな書き手が生まれる

今回文藝春秋digitalとタッグを組むことになったnoteにとっても、この取り組みは非常に大きな意味を持つだろう。

以前からピースオブケイク代表取締役CEOの加藤貞顕氏は「クリエイターにとっての出口を増やすことで、創作活動を継続できるようなサポートをしていきたい」という旨のをしていた。9月には月間アクティブユーザー数が2000万人を超えるなど勢いの増しているnoteだが、文藝春秋のようなプレイヤーが本格的に参画してくるとクリエイターの活躍の場も広がり、読者ユーザーにとっても質の高いコンテンツが増えることにも繋がる。

加藤氏によると出版社や本の著者などとの企画、もしくはcakesで一部のコンテンツを掲載することなどは今までもあったものの、今回のようにデジタル版をnote上で本格展開という事例は初めてとのこと。

もともと個人と法人とを明確に区別することなく、自分たちのメッセージを届けたいという人たちのクリエイティブ活動を支援したいという思いがあるため「出版社に使ってもらうというのはやりたかったことそのもの」だという。

「これまで文藝春秋のようなオーセンティックなメディアのコンテンツはあまりインターネット上に出てこなかった。noteを通じてそのようなメディアのコンテンツがネット上に生まれることで、noteはもちろん、ネット自体がもっと面白い場所になり、読者も増える。そんな取り組みを一緒に実現していきたい」

「note上のクリエイターとのコラボについても楽しみにしている。そもそも多くの雑誌はいろいろなクリエイターのコンテンツを集めて掲載する形で始まっていて、100年前の文藝春秋もまさにそう。その意味では(アグリゲーションメディアなどのように)ネット的な要素があり、それがネットに接続されることによって新しい書き手が増えるきっかけにもなればいいと考えている」(加藤氏)

「みんなの文藝春秋」では読者参加型の投稿企画などを行っていく計画。自分の投稿が誌面に掲載されるチャンスもある

そもそもネットメディアの場合は紙の雑誌と比べて中身が見えやすく、単体のコンテンツにも注目が集まりやすいという特性がある。だからこそこれまでは文藝春秋を手に取る機会がなかった読者が、1本の記事をきっかけに文藝春秋に興味を持つようになるといったことが起こりえるかもしれない。

これは完全に僕個人の話だけれど、なんとなく文藝春秋に対しては「堅い」「難しそう」という先入観があって、存在自体は子どもの時から知っていたものの購入してじっくり読んだことはなかった。実際に中身を見てみると「(失礼な話だけど)意外と読みやすい」と感じたし、自分が興味を持てるコンテンツもあったので、気になるコンテンツを見つけやすいデジタル版のアプローチはアリだと思った。

noteユーザーとのコラボも含め、デジタル版を創刊することで文藝春秋にどのような変化が訪れていくのか、今後の動向に注目だ。

noteに求人情報の埋め込み機能が追加、採用用途での利用促進へ

ピースオブケイクは6月6日、メディアプラットフォーム「note」で作成した記事内に企業の求人情報(求人サイトへのリンク)を埋め込める機能をリリースした。

ピースオブケイクではブランディングや採用広報など企業がビジネス用途でnoteを使う事例が増えていることを受け、今年3月に法人向けプラン「note pro」をリリース。採用領域のパッケージとして、採用代行サービスを展開するキャスターとタッグを組み「note pro for HR」も始めている。

今回の取り組みはシンプルながら、noteを採用目的で使いたい企業にとっては重要なアップデートと言えそうだ。新機能によりnoteに求人ページのURLを貼るとリンク先の情報がリッチなカード形式で表示されるようになるとともに、募集職種や勤務地、雇用形態といった概要がnote上で見れるようになる。

noteのエディタが「Google しごと検索」が推奨する構造化マークアップを行なっているため、同サービスに対応している大手求人サイトが対象になるほか、Wantedlyのリンクも埋め込み可能だ。

またピースオブケイクでは新機能のリリースと合わせて、ミクシィ・リクルートメント運営の「Find Job!」と提携し、note pro利用企業はFind Job!の特別プランを利用できるようになったことも明かしている。

リンクを埋め込んだ際のイメージ

noteでは求人情報の埋め込み機能以外にも、説明会や採用イベントなどの参加者を募りたい場合などに使えるGoogleフォームやGoogleスライドの埋め込み機能を3月に実装済み。採用用途に限った話ではないものの、企業のメディア運営やコンテンツ制作をサポートする「note pro 編集パートナー」の取り組みも今月よりスタートしている。

note proの導入社数などは非開示とのことだが、スタートアップ界隈ではKaizenPlatformやSmart HR、Libなどがリクルーティング向けのコンテンツを積極的に発信し始めているそう。問い合わせも想定以上の数があるようで、法人向けの説明会を毎週開催しているという。

近年は社外の人材に自社へ興味を持ってもらうこと、カルチャーへの理解を深めてもらうことを目的として、理念やバリュー、サービスの裏側、社内の日常風景、会社の歴史などの情報をコンテンツ化して発信する企業が増えてきている。

note proがそれを支える代表的なプラットフォームとしてどこまで浸透していくのか、今後の機能追加なども含めて注目だ。

なおピースオブケイクCEOの加藤貞顕氏から今回の新機能についてコメントが得られたので、最後に紹介しておきたい。

「企業がメディアを運営する理由はさまざまだが、継続的に情報を発信することで、読んでくれた人に、会社や製品についての考え方や雰囲気をよく伝えることができる。目的が採用の場合は、情報発信を続けることで、お互いのミスマッチが減る効果も期待できる。大きなデータベースの中から会社を選んでもらうよりも、その企業の『人となり』を伝えて、そこに共感する人とつながれるのは、自社メディアを通じた採用のメリットではないか」

「(以前の取材で)note はクリエイターの本拠地にしていきたいと話していたが、企業のリクルーティングの拠点としても活用いただきたいと思っている。そのためには、noteの記事からストレスなく求人情報に遷移できる仕組みが必要だと考えて、今回の機能追加を準備してきた」(加藤氏)

noteが「note pro for HR」で採用領域に進出、“noteに書くと良いことが起こる”体験の拡大目指す

メディアプラットフォーム「note」を展開するピースオブケイクが、新たな取り組みとして法人向けの「note pro」をローンチしたのはつい先日のこと。そのnote proを軸とした次なる一手が、早くも明らかになった。今回の舞台は“HR”だ。

ピースオブケイクは3月15日より、採用広報業務を支援する「note pro for HR」の提供をスタートした。

同サービスはnote proを活用した外部サービスとの連携事業のひとつ。プロフェッショナルチームによる採用代行サービスを展開するキャスターと業務提携し、noteを活用した広報コンテンツ制作を含む採用支援サービスを展開する。

実はnoteが1000万MAUを突破した直後の2月上旬、ピースオブケイクCEOの加藤貞顕氏とCXOの深津貴之氏に取材した際から「ひとつの方向性として、今後HR領域で新たな発表を予定している」という構想が話に上がっていた。今回はその時の内容も踏まえて、同社がこの領域にサービスを拡張するに至った背景や、今後の展望などを紹介していきたい。

採用広報用途でnoteを活用する企業が増加

最初にnote pro for HRの概要について補足しておくと、同サービスには2種類のプランがある。ひとつが採用広報コンテンツ作成に特化した月額35万円からのシンプルなプラン。もうひとつが、記事の作成に加えて採用業務の代行もセットになった月額59万円からのプランだ。

どちらもnote proが使えるほか(オプションは別)、専属のライターと編集担当がコンテンツの企画から取材、執筆、校正などを担当する。採用業務の代行も含めたプランでは、採用のプランニングや面談の日程調整も丸っとサポートしてもらえる。

これについてはパートナーであるキャスターが「CASTER BIZ recruiting」というサービスを展開していて、そことタッグを組む形だ。

直接的な背景としては、note proローンチ時にも触れたように採用広報を目的としてnoteを使う企業ユーザーが増えてきたことが大きい。加藤氏は一例としてZaimの運営するブログを挙げていたが、従来であればWordPressや既存のCMSを使ったり、もしくは最近だとWantedlyのブログ機能を使って発信していたような情報を、note上で展開するような企業がちらほら出てきている。

Zaimがnote上で運営するブログ

note proの場合は独自ドメインの設定やメニュー・ロゴのカスタマイズをしつつ、noteのユーザー基盤やプラットフォームを用いてすぐにメディアを始められるのが特徴。

とはいえ、そもそも採用広報に力を入れたいが、リソースが不足していて実行に移せない企業もいるだろう。note pro for HRはそんな企業をバックアップするためのオプションだ。

「noteに書くと、良いことが起こる」の実現へ

ただ、HR領域のサービス展開はnoteにとって大きなアクションであることは間違いないだろうが、あくまで位置付けとしては「(note上で)ユーザーが選択できる経済活動のひとつ」にすぎないとも言えそうだ。

加藤氏と深津氏の話を聞いていて印象的だったのが「noteはまちづくりをしているようなもの」だと表現していたこと。その上で近年まちのサイズが急速に大きくなり、パートナーも増え、やれるアクションも広がったという。

深津氏は「劇場や体育館など新しい施設が生まれてきている」とも話していたが、まさにnoteという“まち”に新しく生まれた施設のひとつがnote pro for HRというわけだ。このことからもわかるように、noteとしては今後もパートナーを増やしながら、新しい取り組みを実施していく計画だという。

HRについては「各種求人サイトの埋め込み連携機能はつくりたいなと思っていて、まずは最初にしっかり組めるパートナーを見つけたい」(加藤氏)と考えているそう。また「すでにECカートとの連携は実験的にはじめているが、ウェブ上で展開できるビジネスとはだいたい連携できると思っているので、パートナーにあわせて柔軟に展開していく」方針だ。

もちろんこれは法人向けのサービスに限った話ではない。そもそも以前から加藤氏はnoteをクリエイターの本拠地にすることを目指し、本気で創作活動を継続できるような空間にするべく、様々なアプローチを行なっていると話していた。

この「クリエイターが創作活動を継続できる」ということがnoteにおいて核となる考え方であり、もっとも重要視しているKPIも「継続率」なのだという。プロダクトの改善においてはCXOの深津氏らが中心となり、大きいものだけでも年間で100件以上の施策を実施してきた。

クリエイターがnoteに来て、コンテンツを投稿し、そこに読者が集まる。それをきっかけに認知が増えて、投稿を継続する意欲が高まったり、他のクリエイターを呼び込むフックになる。「各フェーズを点で捉えるのではなく、線にする」(深津氏)ことがいいサイクルを生み出し、noteの成長にも繋がった。

創作活動を続けていく上では収益を上げることも必要なので、その手段としてコンテンツ単体の課金やサブスクリプションの仕組み、メディアとのパートナーシップやECカートとの連携などにも取り組む。

パートナーと共にクリエイターの活躍の場を増やすという観点では日経新聞社の「COMEMO」も同様だ。これはある意味「note for 経済」のような形で、日経新聞がカテゴリーオーナーとなってコンテンツを整備している。

「結局のところ『noteに書くと、良いことが起こる』と思ってほしい。そのためにいろいろな経済活動ができる場所を提供したいし、クリエイターにとっての出口を増やしたい」(加藤氏)

インターネットで1番ポジティブな言論空間を維持する

今後も引き続き継続率を高めることに重点を置きつつ、外部との連携も進めながらnoteをより強固なプラットフォームにしていく方針。

2018年12月にnote.comとnote.jpのドメインを取得したのも「検索流入を増やすこととともに、将来的なグローバル展開も見据えてnoteを一層強化していく」という決意表明の意味もあったという。

「まずは当初からやっているCtoCの部分をしっかり育てていくこと。(MAUベースでは)今は約1000万だが、数年で5倍くらいまでには伸ばしたい。Twitterのように、誰でもアカウントを持っているようなレベルを本気で目指す。それと並行しながらアライアンス面も強化していきたい」(加藤氏)

「15〜16年ずっとブログを書いていることもあり『2003〜2004年ごろのブログスフィアの空気感を2019年、2020年のテクノロジーで復活させる』というのが個人的なテーマのひとつ。当時はここで議論を交わせば、その内容を読んだ次の世代がさらに議論を上乗せして、議論がものすごい速度で成熟していくとみんなが信じていた。(その空気感を復活させるためにも)成長速度を保ちつつもインターネットで1番ポジティブな言論空間を維持することを大切にしたい」(深津氏)

1000万MAU突破のnoteが新たに法人向けの「note pro」をローンチ

メディアプラットフォーム「note」を展開するピースオブケイクは3月13日、法人向けの新サービス「note pro」を正式にローンチした。

note proはnoteの仕組みを用いて、企業が手軽にウェブメディアを運用できるサービス。2019年1月に月間アクティブユーザー数(MAU)が1000万人、会員登録者数も100万人を超えたnoteの基盤を活用できる点が大きな特徴だ。

ゼロからサイトを作るよりも立ち上げのコストを抑えられるため運用のハードルが低く、集客面でもクリエイティブへの関心が高い層を中心にnoteユーザーへのリーチが見込める。またサブスクリプションなどの課金システムを備えているほか、11サイトのECカートとも連携しているため、有料マガジンやメディアコマースのような形で収益を上げたい企業にも使いやすい。

ピースオブケイクによると、近年noteのサービス規模が拡大する中で個人のクリエイターだけでなく企業の利用も広がっているそう。たとえば昨年7月に資本業務提携を結んでいる日経新聞社では、2017年夏に立ち上げた「COMEMO」を昨年12月にnote上へ移行。noteと日経双方のユーザーやコンテンツが交わるような場所として、現在も運用を続けている。

加えて社員ブログをnote上で展開しているZaimのように、ブランディングや採用広報の文脈でnoteを活用するケースも増加。土屋鞄製造所とnote公式が実施している絵本投稿企画など、noteの基盤を活かしたブランディングの事例も生まれてきているようだ。

これまで一部企業に提供していたnote proのβ版は導入社数が150社を突破。今回正式にサービス化することでさらに多くの企業へと広げていく計画で、上述した機能のほか、独自ドメインの適用やメニュー・ロゴのカスタマイズ、SmartNewsへの外部配信機能などを月額5万円から提供するという。

“クリエイターの本拠地”目指すnoteは、日経新聞とのタッグで新たな出口を作る

「リリース当時からnoteはクリエイターの本拠地を目指してやってきた。そのために重視しているのがクリエイターの“出口を増やす”こと。言い換えると活躍の場を増やし、クリエイターが創作活動を継続できるようにすることだ。課金機能もそのひとつであり、出版社との連携も同様。今後はいろいろなジャンルのパートナーと組んで、この出口をどんどん増やしていきたい」——ピースオブケイク代表取締役CEOの加藤貞顕氏は「note」の今後についてそう話す。

2014年のサービスリリースから4年。今では作家やブロガーなどいわゆるザ・クリエイターだけでなく、幅広い層の個人が自分の趣味や考え、作品を自由に発信する場所になった。それこそTechCrunchでも紹介している起業家や経営者が、会社のビジョンやナレッジを共有する際に活用していたりもする。

そのnoteをクリエイターがさらに活躍できる場にするべく、ピースオブケイクでは8月に日経新聞社とVC2社から4億円を調達。特に日経新聞とは業務提携を締結し、双方の資産や強みを活かした取り組みを始めることを明かしていた。

noteは日経新聞とタッグを組むことで具体的に何を目指しているのか。そしてその先にはどんなプラットフォームを見据えているのか。

今回は加藤氏とピースオブケイクCXO(Chief eXperience Officer)の深津貴之氏に、同社のこれまでと今後の展望を聞いた。

ニッチなクリエイターが活躍できるインターネット的な空間を

最初にすごく簡単にnoteの紹介をしておくと、noteは個人のクリエイターが文章や写真、イラスト、音楽、映像などの形式でコンテンツを投稿できるメディアプラットフォームだ。SNSのようにユーザー間でフォローしたりコメントを通じてコミュニケーションを楽しんだりできるほか、コンテンツを販売する機能も備える。

加藤氏はリリース時の取材で「個人にブログ感覚で利用して欲しい」という話をしているけれど、最初から個人の場所にしたい、そしていろんなジャンルのクリエイターが集まる場所にしたいと考えていたという。

今noteではニッチな領域で、自分の好きなことをひたすら書いている記事がよく読まれるのだそうだ。自分の大好きなものについて熱く語れば、ちゃんと仲間が見つかって、何だったら商売にも発展する。最初から明確に描けていたわけではないというが、そういった空間ができれば「インターネット的で面白いのでは」という構想はあった。それは加藤氏が出版業界を経験していたことも大きく影響している。

「出版は物理的なものを作っていて出せる数も決まっているので、なるべくメジャーなところから順番にやるしかない。でも本当はいろんな人の声を届けられた方がいいはず。ニッチに行けば行くほど読み手や仲間が見つかる、noteはそういう場所にしたいし、徐々にそうなってきている」(加藤氏)

そしてもっと根本的な部分において、加藤氏がリリース前から大切にしていた考えがある。それが冒頭で触れた「クリエイターの本拠地」を作ることだ。今はnoteで人気になったコンテンツが書籍として出版されるケースも増えているが、これは当初から想定していた形だという。

「書籍はずっと個人のメディアとしての出口だった。それが少しずつネットに変わって言っているのが今の状況。以前は本を出版する時に宣伝媒体としてネットを使っていたが、現在はむしろ人々が携帯を見ている時間の方が長くなってきている。だったらネットを本場所にして、ネットに連載して、何なら課金もして。それを後から書籍にするアプローチがこれから広がっていくいくのではないかと考えた。その意味で、noteをクリエイターの本拠地にしたいという思いが最初からあった」(加藤氏)

クリエイターを小さく抱え込むことだけはしたくない

2017年10月には深津氏がCXOとしてジョイン。徐々にnoteで活躍するクリエイターが増えて来たのと並行して、noteのユーザー体験を向上するための取り組みを重ねた。結果としてこの1年弱でユーザー数や投稿数、検索流入数など、各指標が3倍〜5倍に成長している。

この成長のギアをさらに上げることが8月の資金調達の大きな目的で、ピースオブケイクでは事業面のシナジーも踏まえて出資先を探していたという。実際にタッグを組むことになった日経新聞社は、深津氏が約3年前から電子版アプリのアドバイザリーを務めている企業。両社が組むことで面白いことができるというイメージは以前からあったそうだ。

「noteとしてダメな戦略がクリエイターを抱え込んで、小さなユートピアを作ること。noteとしてクリエイターのキャリアを考えるなら、逆にもっとサービスを拡張して中のクリエイターがどんどん外に積極的に出ていくようになることが必要だと考えていた」(深津氏)

この積極的に出ていく場というのは、加藤氏が話す所のクリエイターの出口と同義だ。「noteに書くと出版できる、noteに書くと別の出口が開けるというのがやりたいこと。日経さんと繋がったことで新たな活躍の場を提供できる」と2人は口を揃える。

一方の日経新聞にとっても、スマホネイティブなミレニアル世代を中心に普段からnoteに訪れているようなユーザーとの接点を増やしたいという考えがあったのだろう。お互いが相手のユーザーに対して新しい価値を提供できるのではないかということで話が進み、資本業務提携に至ったのだという。

写真左からピースオブケイクCXOの深津貴之氏、ピースオブケイクCEOの加藤貞顕氏、日本経済新聞の渡辺洋之氏

日経新聞と組んで“note for ビジネス”を強化する

それでは具体的にnoteと日経新聞は今後どんなことに取り組んでいくのだろうか。加藤氏によると「まずは新聞に寄稿したり、一緒にイベントをやったり、セミナーをやったりといった人材輩出の部分がメインのパートナーシップ。その次にあり得るとしたらコンテンツ配信」だという。

「あくまでnote側の視点になるが、noteの中の才能をどうやって世の中に出していけるか。たとえばnoteで活躍している作家さんの発信や作品が日経BPさんで書籍化される。あるいはnoteで書いた論説が評価されて日経新聞や日経MJ、日経ビジネスなどで連載になる。そういったことを実現したい」(加藤氏)

もちろんその逆もある。たとえば日経新聞の記事をnoteに転載したり、もしくは新聞の記事をnoteに貼って記事に対する自分の意見を書けるようになったり。また日経に寄稿しているようなエコノミストや経済学者がnoteが書くことや、企業がIRニュースや会社の情報を発信するオウンドメディアとしてnoteを使うことも十分にありえる。

「これを機にビジネスパーソンとかがどんどん情報発信するようになれば、社会はもっと面白くなると思っている。今はまだ表に出てこない埋もれている情報がたくさんあって、そこを掘れば面白い人が絶対にいるはず」(加藤氏)

このようにクリエイターの出口を増やしつつ、並行してまだポテンシャルを発揮していない潜在的なクリエイターをnoteという場を用いて掘り起こす。この取り組みをあらゆるジャンルで展開していくことが今後のnoteの方針だ。

「『noteがビジネスに特化したものになるのでは』と心配される方もいるが決してそうではない。あくまでいろいろなジャンルがあり、その中のひとつがビジネス。そこの部分を今回日経さんとタッグを組むことでパワーアップしていく」(加藤氏)

「すごくざっくり言うと、noteは全方向。note for 小説家、note for 音楽家、note for 写真家などいろいろあるnoteのあり方の中の『note for ビジネス』について日経さんと組んでいくことになる」(深津氏)

たとえば今回の日経新聞とは少しスキームが異なるけれど、noteでは4月よりnote内で活躍するクリエイターを出版社に紹介するパブリッシング・パートナーシップを始めた。リリース時には3社だったパートナー数は8月10日時点で21社にまで増えている。

初めから終わりまでをサポートするプラットフォームへ

4年間かけて徐々に力をつけてきたnote。とはいえ理想の形からすると、まだ10〜20%ぐらいの完成度だという。

「例えば文章の場合、“文章を書く”のは全体の一部分でしかない。その前にはネタを考える工程があるし、公開した記事に対しても何かしらの反応が返ってくることもある。要は現時点でnoteを使っている時間は、note本来の守備範囲の10%くらい。手前にも後ろにもたくさんのプロセスがあるけれど、そこはまだタッチできていないところが多い」(深津氏)

noteでは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」というミッションを掲げている。このミッションを達成するためには、深津氏の言葉を借りるとクリエイターを「初めから終わりまで」サポートする仕組みが必要だ。

noteで気になる記事を見つけて、自分も発信してみようと思ってもらうことが最初の1歩目。noteに来れば文章を書くためのエッセンスが学べ、それを元に書いた文章が書籍になったり、公演に繋がったり、仕事に繋がる。そしてその文章が「自分もnoteで書いてみたい」と思う次のクリエイターを連れてくる。

この一連の流れを作り上げることが、noteが目指している理想の形だ。「新聞や出版など旧来のメディアは業界全体でこれを実現していたけれど、ネット上にはまだその仕組みがない」というのが加藤氏の見解。noteを通じてコンテンツの流通、人材の育成、ノウハウの継承といった全ての要素をカバーしていきたいと話す。

「『僕はnoteで文章を学んだ』とか『初めて書いた小説はnoteにあげた』といった人がどんどん出てくるようなプラットフォームにしたい。そのためにはクリエイターにとって活躍の場がたくさん用意されているというのが理想。ビジネスだけでなく、いろいろな領域に広げていきたい」(加藤氏)

「ある意味、現代の“トキワ荘”のようなイメージに近い。noteのクリエイターネットワークが広がっていった結果、たとえばIT系のメディアがITに詳しい書き手を探していたらすぐに紹介できる、同様にデザイン系のメディアがデザインに詳しいクリエイターを探していてもすぐに紹介できる、そうやってクリエイターをどんどん輩出する起点を作るというのが大きなチャレンジだ」(深津氏)

メディアプラットフォーム「note」運営が日経らから4億円を調達、新サービスの共同開発も

写真左からピースオブケイクCXOの深津貴之氏、ピースオブケイクCEOの加藤貞顕氏、日本経済新聞の渡辺洋之氏

クリエイターメディアプラットフォーム「note」やコンテンツ配信プラットフォーム「cakes」を運営するピースオブケイクは8月3日、日本経済新聞社、日本ベンチャーキャピタル、新潟ベンチャーキャピタルを引受先とした第三者割当増資により、約4億円を調達したことを明らかにした。

そのうち日経新聞社とは業務提携も締結(日経新聞側では今回3億円を出資したことを発表)。合わせて日経新聞社の常務取締役である渡辺洋之氏がピースオブケイクの社外取締役に就任している。

今後両社では双方の強みを生かした新しいサービスの開発・運営を共同で推進していく方針。具体的にはnote上での日経コンテンツの展開、日経上でnoteクリエイターの表現活動の展開、新サービスの共同開発などを進めるという。

ピースオブケイクは2011年の設立。代表取締役CEOの加藤貞顕氏がアスキーやダイヤモンド社で雑誌や書籍、電子書籍の編集に携わったのちに立ち上げたスタートアップだ。

2012年に公開したcakesは週150円でクリエイターの記事が読める定額制のサービス(8/3時点では2万本以上の記事が読み放題)。2014年からは個人がコンテンツを配信し、個人間で販売までできるプラットフォームnoteの運営も始めた。

特にnoteに関してはミレニアム世代を中心に月間600万人を超えるユーザーが集まるサービスに成長。多方面のクリエイターからTechCrunchにも登場したことのある起業家まで、さまざまな個人がnoteを通じて自分の意見を発信したり、コンテンツを販売したりしている。

今回日経新聞社と提携するにあたって加藤氏は「ピースオブケイクのミッションは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」ということです。創業以来一貫して、クリエイターが活躍できる場をつくることに注力してきました。今回の提携により、我々のサービスを利用するクリエイターが、ビジネスという新しい活躍の舞台を得られます。新しいものをつくる、次代のリーダーとなる人々が、活躍する場を一緒に作っていければと思います」とコメントしている。

なおピースオブケイクは2013年4月にフェムトグロースキャピタルとジャフコから3億円を調達。そのほか金額は非公開ながら、2012年から2017年の間にサイバーエージェント・ベンチャーズ電通デジタルファンドTBSイノベーション・パートナーズイードからも資金調達を実施している。