元Salesforce Ventures浅田氏が独立系VCのOne Capital設立、1号ファンドは50億円規模でスタート

6月30日に東証マザーズに上場したばかりのグッドパッチに、名刺管理のSansan、会計・人事労務クラウドのfreee、アプリ開発SaaSのヤプリ、マニュアル作成「Teachme Biz」を提供するスタディスト、そしてイベントサービスのEventHub、受付システムのRECEPTIONIST……これらのスタートアップには、SaaS提供企業であることのほかにもう1つ共通項がある。セールスフォース・ドットコムの投資部門、Salesforce Venturesから資金調達を実施していることだ。

Salesforce Ventures Japan Headとしてこれらの企業への投資を行ってきた浅田慎二氏が、今年3月にセールスフォース・ドットコムを退職し、4月に独立系ベンチャーキャピタルOne Capitalを設立した。同社は7月7日、1号ファンド「One Capital 1号投資事業有限責任組合」の組成と投資活動開始を発表している。

写真左からOne Capital代表取締役CEO・General Partnerの浅田慎二氏、取締役COO・General Partnerの坂倉亘氏

スタートアップ投資に加え事業会社の変革も支援

One Capitalの創業者は、浅田氏と、ボストン・コンサルティング・グループでManaging Director & Partnerを務めていた坂倉亘氏の両名だ。

浅田氏は伊藤忠商事、伊藤忠テクノロジーベンチャーズを経て、2015年にセールスフォース・ドットコムに入社。Salesforce Ventures Japan Headに就任して、述べ10年以上にわたりスタートアップ投資と投資先の支援を行ってきた。また坂倉氏はボストン・コンサルティング・グループで戦略コンサルタントとして、大企業のデジタル変革を約20年間、支援してきた人物だ。

One Capitalでは、VCとしての投資の機能を主に浅田氏が受け持ちつつ、「大企業がイノベーションにアクセスできるように、長期間伴走して、企業変革の手伝いをしたい」(浅田氏)ということで、一部の出資者には坂倉氏がハンズオンで企業の変革を支援するという。

「これまでの日本のスタートアップでは、大企業を足がかりに成長する、あるいはエグジット候補として事業を成長させていくといったオプションは、広がってこなかったところがある。米国では7割のスタートアップを大企業が買収してエグジットする。日本でもそういう選択肢をつくっていきたい。また、大企業と取り組むマーケティングやPoCの成功例が少ない。技術力のあるスタートアップを大企業をきちんとつなげて、スタートアップの成長を支援すると同時に、大企業の変革も推進していくということができないかと考え、サービスを提供し始めている」(坂倉氏)

「VCとしてスタートアップへの出資はもちろん行っていく。同時にLPからお金を集めて出資し、スタートアップのIPOを目指すというだけでなく、出資いただく日本の事業会社に対して、スタートアップにアクセスするという以上、情報提供以上のバリューを出せないかということを考えていた」(浅田氏)

日本のスタートアップ・出資者は「メソッド不足」

浅田氏はSalesforce時代、投資先に対して、SaaS業界でも最も成功した企業の1つであるSalesforceの成長メソッドとして書籍にもなった、SaaS企業が取り入れるべき営業オペレーションの方法論「THE MODEL」を伝えてきたという。

「SaaSを売るときには“営業部”というくくりではなく、4つの役割に分けましょう、というのがTHE MODELの形。日本のアカウント営業はこの対極にあって、ある企業の担当になったら最初から最後までやるのが美徳となっている。これは間違ってはいないが、効率が悪い。特に中堅・中小企業を相手とするスタートアップで、顧客数百社に対して集客・電話営業・クロージング・フォローの4つの営業プロセスを1人でやろうとすると、スケールしない」(浅田氏)

浅田氏は「Salesforceの成長の方法論は、先進的で科学的だった」と述べている。「グローバルで成長している会社のメソッドを投資先に注入してきて、実際に急成長したファクトがあった。Sansanやfreee、ヤプリ、TeachmeBizなど、投資してから5年で売上高が20〜30倍に伸びている」(浅田氏)

浅田慎二氏

Salesforceでは、CVCを運用する他の事業会社からも「参考にして運用したい」との相談もあったという浅田氏は「グローバルでCVCを10数年運用してきたSalesforceは、サステナブルな方法論でやっている。つまり打ち上げ花火を1発上げて終わりというのではなく、会社の従業員、役員、顧客のすべてに沿う方法論を採っている。こういうやり方は、時価総額100兆円といった信じられない数字を持つ、欧米の企業からまだ日本企業が学べることがあるのではないかと考えた」と話している。

「日本からグローバル企業が出ない理由には諸説あるが、僕は“メソッド不足”だからだと考えている。スタートアップも大きな事業会社もそうだが、欧米の先進的なIT会社が伸びている理由をかみ砕く形で、出資者にも伝えるし、スタートアップにも伝えたい。成長メソッドをスタートアップにも大企業にも提供するような、新しいVCを立ち上げたいと思ったのが、今回の創業の背景だ」(浅田氏)

スタートアップと事業会社との関わりといえば、6月30日、公正取引委員会が「スタートアップの取引慣行に関する実態調査」として、スタートアップを対象としたアンケート結果等、中間報告を発表している。この報告によれば、スタートアップの約15%が他社から納得できない行為を受けた経験があると回答している。

スタートアップと事業会社、CVCとの関係について浅田氏は「CVCの5年間では、なぜ投資するのかを大切にしていた」と述べ、「Salesforceでは、既存顧客に役に立つ追加機能を持つ会社を発掘して、業務提携し、投資していた。自社ではグローバルで追加できないが必要な機能がSansanの名刺管理やfreeeのクラウドにはあった。自分たちでは作らないが、必要な企業を探すのが僕の役割だった」と振り返る。

「パクりなどの問題が発生する根本的な問題は、事業会社側がなぜ投資しているのか、誰のためにやっているのかの定義が顧客を向いていないから。自社のターゲット顧客のためのベンチャー投資という位置付けにするのが、長期的にCVCが日本に根付いて反映する、絶対的な法則だと思っている」(浅田氏)

また補完的な提携・出資でなく、圧倒的に欲しい事業があるなら「100%買収でやるべき」と浅田氏。「買収をしたら、買収した会社の統合のため、PMI(Post Marger Integrate:買収後統合)の組織が必要。これを欧米の企業、ウォルマートやディズニーといった企業は戦略投資部門というのを立ち上げてやり始めている。(今の日本では)誰のためのCVCなのか、何のための買収なのかが極めてあいまいな状況になっているように見える」と述べ、「そこをやはり定義すべきではないか」と話している。

坂倉亘氏

坂倉氏からは「テクニカルには、ベンチャーが企業とコラボレーションしながら知財を守る、特にハードウェアが絡まない、ソフトウェアのビジネスで守るのは難しい。だから技術ないしはデザインのどちらかで自分たちの知財を守りながら、大企業と連携していくのが重要」とのコメントがあった。

「ただ、あまりアーリーステージで知財を守ることに投資できるスタートアップはいないだろう。私の感覚ではシリーズBぐらいのタイミングで、最低限の技術とデザインの知財のプロテクトをかけておかないと危なくなるということはあるのではないか」(坂倉氏)

逆にスタートアップ側から見た時に、どの企業と何の事業でどこまで成長するために、どこまでの提携をするのか、ということをきちんと定めることで、「逆に自分たちで一生懸命に知財を守らなくても、大企業から守ってもらうという戦略もある」と坂倉氏は言う。

「例えば名刺管理のSansanの場合でいえば、Salesforceという知財の侵略や転用などの心配がないメガプレーヤーと完全にタッグを組むことで、自分たちのプロダクトの補完となるSansanを守ってくれる。Sansanのビジネスモデルやデザインを真似たいところも、Salesforceを敵に回すとなるとやりにくくなる。本質的に大事なのは、どの企業と一緒に事業を伸ばしていくか、本当にタッグが組めるかというところだと思う」(坂倉氏)

「儲かりそうだから参入するという動機はビジネスではあり得る。でも自社のプロダクトのアイデンティティを考え、それに共感してくれる顧客がハッピーかどうかというのが判断基準になるのが自然。FacebookでもTikTokやSnapchatのモノマネをやって、ことごとく失敗している。あれだけ大きく、ヒトもお金もあって投資予算も旺盛に使っていても、スタートアップに負けるという事実はある。オリジナルのイノベーターとしてプロダクトを作り込んでいけば、絶対に勝てるというのを、理論上かもしれないしフィロソフィーかもしれないけれども、僕は信じている」(浅田氏)

「日本のSaaSはまだまだ伸びしろがある」

1号ファンドの投資対象はB2B SaaSに特化、アーリーステージが中心となる。4月の会社設立から営業を開始、5月のファンド設立と、コロナ禍で市況は厳しい状況にあった時期の立ち上げだったが、ファーストクローズで約50億円の出資が確定しているという。

ファンドへの出資には、みずほ銀行、FFGベンチャービジネスパートナーズ、YJキャピタルといった機関投資家や金融機関のほか、事業会社ではエーザイ、Sansan、日本アジアグループなどが参加。People Fund、Harris Family Foundation、Darhan Investment Corporationといった海外投資家も参加している。

また、投資先起業家へのアドバイスには、日米のSaaS事業家がアドバイザーとして賛同し、参加を予定しているという。

One Capitalが投資対象とするSaaS市場は人口減少・DXの課題解決ソリューションとして、今後の伸びも期待され、コロナ禍の渦中にあっても全般に堅調に評価されている。

「欧米のVCによる投資は年間13兆円でそのうち40%がSaaSに投資されている。それに比べると、日本ではSaaSへの投資は、VC投資の14%しか占めていない。ECやD2Cなど、まだコンシューマー系ビジネスへの投資が多いのが日本の特徴だ」(浅田氏)

欧米でもユニコーンと呼ばれるSaaS企業が出てきたのは最近のことで、2018年には55社となっているが、2008年時点ではゼロだったと浅田氏。「日本でも欧米の5年遅れでSaaS事業は花開く」と語る。

「政府がクラウドファースト政策を2020年から実行する。政府が調達するシステムをクラウドにしていくということで、レギュレーションが発表され、セキュリティ、安心・安全が強化されている。政府にクラウドが入れば、民間へも波及するだろう」(浅田氏)

また、米国のSaaS市場は2018年の時点で年間5兆円規模と言われているが、これはエンタープライズIT市場全体の15%に当たる。日本ではSaaS市場が5000億円規模との推定があるが、これはエンタープライズIT市場全体の10兆円に対し、5%ほど。

浅田氏は「日本のエンタープライズIT費用の大半は、Sierが法人へスクラッチでソフトウェアをつくり、開発・サーバー運用・保守なども含めた費用になる。そのうちの5%しかまだSaaSが占めていないということは、まだまだ伸びしろがあると考えている」と語っている。

元Salesforce Ventures浅田氏が独立系VCのOne Capital設立、1号ファンドは50億円規模でスタート

6月30日に東証マザーズに上場したばかりのグッドパッチに、名刺管理のSansan、会計・人事労務クラウドのfreee、アプリ開発SaaSのヤプリ、マニュアル作成「Teachme Biz」を提供するスタディスト、そしてイベントサービスのEventHub、受付システムのRECEPTIONIST……これらのスタートアップには、SaaS提供企業であることのほかにもう1つ共通項がある。セールスフォース・ドットコムの投資部門、Salesforce Venturesから資金調達を実施していることだ。

Salesforce Ventures Japan Headとしてこれらの企業への投資を行ってきた浅田慎二氏が、今年3月にセールスフォース・ドットコムを退職し、4月に独立系ベンチャーキャピタルOne Capitalを設立した。同社は7月7日、1号ファンド「One Capital 1号投資事業有限責任組合」の組成と投資活動開始を発表している。

写真左からOne Capital代表取締役CEO・General Partnerの浅田慎二氏、取締役COO・General Partnerの坂倉亘氏

スタートアップ投資に加え事業会社の変革も支援

One Capitalの創業者は、浅田氏と、ボストン・コンサルティング・グループでManaging Director & Partnerを務めていた坂倉亘氏の両名だ。

浅田氏は伊藤忠商事、伊藤忠テクノロジーベンチャーズを経て、2015年にセールスフォース・ドットコムに入社。Salesforce Ventures Japan Headに就任して、述べ10年以上にわたりスタートアップ投資と投資先の支援を行ってきた。また坂倉氏はボストン・コンサルティング・グループで戦略コンサルタントとして、大企業のデジタル変革を約20年間、支援してきた人物だ。

One Capitalでは、VCとしての投資の機能を主に浅田氏が受け持ちつつ、「大企業がイノベーションにアクセスできるように、長期間伴走して、企業変革の手伝いをしたい」(浅田氏)ということで、一部の出資者には坂倉氏がハンズオンで企業の変革を支援するという。

「これまでの日本のスタートアップでは、大企業を足がかりに成長する、あるいはエグジット候補として事業を成長させていくといったオプションは、広がってこなかったところがある。米国では7割のスタートアップを大企業が買収してエグジットする。日本でもそういう選択肢をつくっていきたい。また、大企業と取り組むマーケティングやPoCの成功例が少ない。技術力のあるスタートアップを大企業をきちんとつなげて、スタートアップの成長を支援すると同時に、大企業の変革も推進していくということができないかと考え、サービスを提供し始めている」(坂倉氏)

「VCとしてスタートアップへの出資はもちろん行っていく。同時にLPからお金を集めて出資し、スタートアップのIPOを目指すというだけでなく、出資いただく日本の事業会社に対して、スタートアップにアクセスするという以上、情報提供以上のバリューを出せないかということを考えていた」(浅田氏)

日本のスタートアップ・出資者は「メソッド不足」

浅田氏はSalesforce時代、投資先に対して、SaaS業界でも最も成功した企業の1つであるSalesforceの成長メソッドとして書籍にもなった、SaaS企業が取り入れるべき営業オペレーションの方法論「THE MODEL」を伝えてきたという。

「SaaSを売るときには“営業部”というくくりではなく、4つの役割に分けましょう、というのがTHE MODELの形。日本のアカウント営業はこの対極にあって、ある企業の担当になったら最初から最後までやるのが美徳となっている。これは間違ってはいないが、効率が悪い。特に中堅・中小企業を相手とするスタートアップで、顧客数百社に対して集客・電話営業・クロージング・フォローの4つの営業プロセスを1人でやろうとすると、スケールしない」(浅田氏)

浅田氏は「Salesforceの成長の方法論は、先進的で科学的だった」と述べている。「グローバルで成長している会社のメソッドを投資先に注入してきて、実際に急成長したファクトがあった。Sansanやfreee、ヤプリ、TeachmeBizなど、投資してから5年で売上高が20〜30倍に伸びている」(浅田氏)

浅田慎二氏

Salesforceでは、CVCを運用する他の事業会社からも「参考にして運用したい」との相談もあったという浅田氏は「グローバルでCVCを10数年運用してきたSalesforceは、サステナブルな方法論でやっている。つまり打ち上げ花火を1発上げて終わりというのではなく、会社の従業員、役員、顧客のすべてに沿う方法論を採っている。こういうやり方は、時価総額100兆円といった信じられない数字を持つ、欧米の企業からまだ日本企業が学べることがあるのではないかと考えた」と話している。

「日本からグローバル企業が出ない理由には諸説あるが、僕は“メソッド不足”だからだと考えている。スタートアップも大きな事業会社もそうだが、欧米の先進的なIT会社が伸びている理由をかみ砕く形で、出資者にも伝えるし、スタートアップにも伝えたい。成長メソッドをスタートアップにも大企業にも提供するような、新しいVCを立ち上げたいと思ったのが、今回の創業の背景だ」(浅田氏)

スタートアップと事業会社との関わりといえば、6月30日、公正取引委員会が「スタートアップの取引慣行に関する実態調査」として、スタートアップを対象としたアンケート結果等、中間報告を発表している。この報告によれば、スタートアップの約15%が他社から納得できない行為を受けた経験があると回答している。

スタートアップと事業会社、CVCとの関係について浅田氏は「CVCの5年間では、なぜ投資するのかを大切にしていた」と述べ、「Salesforceでは、既存顧客に役に立つ追加機能を持つ会社を発掘して、業務提携し、投資していた。自社ではグローバルで追加できないが必要な機能がSansanの名刺管理やfreeeのクラウドにはあった。自分たちでは作らないが、必要な企業を探すのが僕の役割だった」と振り返る。

「パクりなどの問題が発生する根本的な問題は、事業会社側がなぜ投資しているのか、誰のためにやっているのかの定義が顧客を向いていないから。自社のターゲット顧客のためのベンチャー投資という位置付けにするのが、長期的にCVCが日本に根付いて反映する、絶対的な法則だと思っている」(浅田氏)

また補完的な提携・出資でなく、圧倒的に欲しい事業があるなら「100%買収でやるべき」と浅田氏。「買収をしたら、買収した会社の統合のため、PMI(Post Marger Integrate:買収後統合)の組織が必要。これを欧米の企業、ウォルマートやディズニーといった企業は戦略投資部門というのを立ち上げてやり始めている。(今の日本では)誰のためのCVCなのか、何のための買収なのかが極めてあいまいな状況になっているように見える」と述べ、「そこをやはり定義すべきではないか」と話している。

坂倉亘氏

坂倉氏からは「テクニカルには、ベンチャーが企業とコラボレーションしながら知財を守る、特にハードウェアが絡まない、ソフトウェアのビジネスで守るのは難しい。だから技術ないしはデザインのどちらかで自分たちの知財を守りながら、大企業と連携していくのが重要」とのコメントがあった。

「ただ、あまりアーリーステージで知財を守ることに投資できるスタートアップはいないだろう。私の感覚ではシリーズBぐらいのタイミングで、最低限の技術とデザインの知財のプロテクトをかけておかないと危なくなるということはあるのではないか」(坂倉氏)

逆にスタートアップ側から見た時に、どの企業と何の事業でどこまで成長するために、どこまでの提携をするのか、ということをきちんと定めることで、「逆に自分たちで一生懸命に知財を守らなくても、大企業から守ってもらうという戦略もある」と坂倉氏は言う。

「例えば名刺管理のSansanの場合でいえば、Salesforceという知財の侵略や転用などの心配がないメガプレーヤーと完全にタッグを組むことで、自分たちのプロダクトの補完となるSansanを守ってくれる。Sansanのビジネスモデルやデザインを真似たいところも、Salesforceを敵に回すとなるとやりにくくなる。本質的に大事なのは、どの企業と一緒に事業を伸ばしていくか、本当にタッグが組めるかというところだと思う」(坂倉氏)

「儲かりそうだから参入するという動機はビジネスではあり得る。でも自社のプロダクトのアイデンティティを考え、それに共感してくれる顧客がハッピーかどうかというのが判断基準になるのが自然。FacebookでもTikTokやSnapchatのモノマネをやって、ことごとく失敗している。あれだけ大きく、ヒトもお金もあって投資予算も旺盛に使っていても、スタートアップに負けるという事実はある。オリジナルのイノベーターとしてプロダクトを作り込んでいけば、絶対に勝てるというのを、理論上かもしれないしフィロソフィーかもしれないけれども、僕は信じている」(浅田氏)

「日本のSaaSはまだまだ伸びしろがある」

1号ファンドの投資対象はB2B SaaSに特化、アーリーステージが中心となる。4月の会社設立から営業を開始、5月のファンド設立と、コロナ禍で市況は厳しい状況にあった時期の立ち上げだったが、ファーストクローズで約50億円の出資が確定しているという。

ファンドへの出資には、みずほ銀行、FFGベンチャービジネスパートナーズ、YJキャピタルといった機関投資家や金融機関のほか、事業会社ではエーザイ、Sansan、日本アジアグループなどが参加。People Fund、Harris Family Foundation、Darhan Investment Corporationといった海外投資家も参加している。

また、投資先起業家へのアドバイスには、日米のSaaS事業家がアドバイザーとして賛同し、参加を予定しているという。

One Capitalが投資対象とするSaaS市場は人口減少・DXの課題解決ソリューションとして、今後の伸びも期待され、コロナ禍の渦中にあっても全般に堅調に評価されている。

「欧米のVCによる投資は年間13兆円でそのうち40%がSaaSに投資されている。それに比べると、日本ではSaaSへの投資は、VC投資の14%しか占めていない。ECやD2Cなど、まだコンシューマー系ビジネスへの投資が多いのが日本の特徴だ」(浅田氏)

欧米でもユニコーンと呼ばれるSaaS企業が出てきたのは最近のことで、2018年には55社となっているが、2008年時点ではゼロだったと浅田氏。「日本でも欧米の5年遅れでSaaS事業は花開く」と語る。

「政府がクラウドファースト政策を2020年から実行する。政府が調達するシステムをクラウドにしていくということで、レギュレーションが発表され、セキュリティ、安心・安全が強化されている。政府にクラウドが入れば、民間へも波及するだろう」(浅田氏)

また、米国のSaaS市場は2018年の時点で年間5兆円規模と言われているが、これはエンタープライズIT市場全体の15%に当たる。日本ではSaaS市場が5000億円規模との推定があるが、これはエンタープライズIT市場全体の10兆円に対し、5%ほど。

浅田氏は「日本のエンタープライズIT費用の大半は、Sierが法人へスクラッチでソフトウェアをつくり、開発・サーバー運用・保守なども含めた費用になる。そのうちの5%しかまだSaaSが占めていないということは、まだまだ伸びしろがあると考えている」と語っている。

KDDIが5G時代に向けて200億円規模の新ファンド、ソラコムら3社と「投資プログラム」でタッグ

KDDIは4月5日、独立系VCのグローバル・ブレインと共同で新ファンド「KDDI Open Innovation Fund 3号」を設立したことを明らかにした。5G時代におけるKDDIグループとの事業シナジーを見据え、有望なベンチャー企業への出資を加速させる方針だ。

同ファンドではAI、IoT、ビッグデータなど5G時代に重要性が高まる分野のスタートアップに対して、今後5年間で約200億円の投資を行う予定(運用総額は1号、2号ファンドの50億円から拡大)。

特徴的なのはグループ会社が持つネットワークや知見を活用した「投資プログラム」という枠組みを設けていること。まずはAI、IoT、データマーケティングの分野において、ソラコムなど3社とタッグを組み、スタートアップの発掘や事業共創を目指す。4月5日時点で設定されている投資プログラムは次の通り。

  • ARISE analytics AI Fund Program
  • SORACOM IoT Fund Program
  • Supership DataMarketing Fund Program

投資プログラムは今後追加される可能性があるほか、投資の判断自体はファンド運営者であるグローバル・ブレインが行う。

なおKDDIは本日ファンドの設立と合わせて、今夏に5G時代のビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」を虎ノ門に開設することも発表している。

SV Angelが5300万ドルの第6号ファンドを組成

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シードステージのスタートアップに特化したVCがさらなる資金調達を完了したようだ:SECに提出された資料により(情報源はDan Primack)、ベイエリアを拠点とする著名なアーリーステージVCのSV Angelが、第6号ファンドを組成したことが明らかとなった。資金規模は5300万ドルだ。ただ、今年3月にSECへ提出された資料では、同社はこのファンドの規模を4600万ドルと予定している。また、それ以前に行なわれたインタビューでは、彼らは新ファンドの規模が4000万ドル程になるだろうとも話していた。

同ファンドを運営するRon ConwayとTopher Conway(写真の人物)親子は、2015年9月のインタビュー時点で今後はより小規模のビジネスやアーリーステージの投資にフォーカスしていきたいと語っている。おそらく、彼らは当時同社が行っていた投資の規模と比較してこのように話していたのだろう。前回組成したファンドの規模は7500万ドルで、同ファンドではPinterestのラウンドのような大規模投資も行っていた。

しかし、第6号ファンドが当初の予定よりも多い5300万ドルを調達したところを見ると、SV Angelを支援する投資家たちはアーリーステージ投資よりも大きなチャンスを望んでいるようだ。

また、最近ではシードラウンドにおける調達金額が上昇傾向にあることも、彼らがこの金額を調達した理由の1つだと考えられる。以前と同規模の投資を行うには、より多くの金額が必要となる。

1つだけ確かなことは、SV Angelはあまり多くを語りたがらないということだ。以下のコメントを除いては:「資金調達に関するコメントは控えさせてください」。これは、私のEメール取材に対するTopher Conwayからの返信だ。この後、彼は同ファンドが5312万5000ドルを調達したことを認め、「これまでのファンドと同じように、私たちは今後もアーリステージのスタートアップへの投資にフォーカスしていきます」とコメントしている。

2009年創立のSV Angelは、テック業界の中でも投資案件の多さで有名なVCであり、CrunchBaseにリスト化されている投資案件は695件にものぼる。SV Angelのポートフォリオ・リストは、さながらスタートアップ業界の名士録のようだ。なかでも有名なのが、Airbnb、Pinterest、Dropboxに対する投資だろう。IPOを果たした投資先企業は11社、買収によるエグジットは200件を越している。

現在、同ファンドを運営するのはTopher Conwayであり、SECに提出された最新の書類には彼の名前しか記載されていない。General Partnerを務めるのは、Brian Pokorny、Kevin Carter、Robert Pollackの3名だ。Ron Conwayと共にSV Angelを設立したDavid Leeは、今年3月に自身の投資会社であるRefactor CapitalをLAで立ち上げている。同社は5000万ドルの資金調達を目標に活動中だ。

アップデート:SV Angelからのコメントを追加

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter