【レビュー】映画「マトリックス レザレクションズ」はテクノロジーをうまく解釈、描いているが駄作

この年末に公開されている「Matrix(マトリックス)」の新作は、ちょっとした失敗だったように思う。アクション、キャラクター、テンポ、ビジュアルなどは、ほとんどの面でしくじっていた。だが意外な点で成功していた。テクノロジーと私たちの関係について、説得力のある内容を提示している。

(この先「The Matrix:Resurrection(マトリックス レザレクションズ)」のネタバレがあるのでご注意を)

私たちの住む世界は現実ではない、というオリジナルの「マトリックス」の前提は、独創的とはいえなかった。だが、それを深くSF的にアレンジしたもの、つまり、シミュレーションを使った大衆受け狙いの「ターミネーター的ロボカリプス」は、説得力があり、上々の出来だった。当時、スマートフォンは存在せず(それゆえ、スマートフォンへの不健全な依存もなかった)、ロボットは初歩的、AIはまだSF的で、ソーシャルメディアといえばICQとチャットルームという時代であった。「Oh, blessed ignorance(無知は幸いだ)」。

つまり、恐怖や脅威がテクノロジーから生まれるというのは、表面的な見方にすぎない。人類を生きた電池に変えてしまったのが、たまたま機械だったというだけだ。結局のところ、パラノイア(極度の心配性)が不安に思ってきたのは、(秘密結社)イルミナティが世界の真実を隠しているということであり、その考えは何世紀も前にさかのぼる。

「レザレクションズ」は違う。「マトリックス」が公開後の20年間で出現したスマートフォン、AI、ソーシャルメディアなどは、単に影響力のあるテクノロジーというだけにとどまらず、それらによって可能になるものと、それらがもたらす新たな恐怖の両方において、この時代を特徴づけた。

画像クレジット:Warner Bros Pictures

「レザレクションズ」が描く根本的な脅威は、完全な欺瞞ではなく、標的を定めた偽情報だ。これはおそらく、現代における最も明白で差し迫った危険だ。その解決策は、これまでのシリーズで示されてきたように、単にベールを突き破ることではなく、純粋に、人間らしく、他者と調和し、対話しながら生きることだ。

映画の冒頭で主人公たちが置かれた状況は、私たちが陥るかもしれない罠を象徴している。オリジナル3部作がゲームのシリーズとしてメタ的に再構成されていることは、初めのうちは説得力がある。それは、半分は真実であって、嘘よりも説得力がある。称賛されながらも、仕事面でも創作面でも行き詰まったネオは、ゲームを現実として認識してしまう不健康な状態を治すためにセラピーを受けている。トリニティは、最も抵抗の少ない道として快適な日常を過ごしている。そして(新)モーフィアスは、逃れられないエコーチェンバーの中で生きている。

こうしたアイデアを、ソーシャルメディアに内在する最も悲惨な脅威である自己欺瞞、ドゥームスクローリング(悪いニュースばかりをネットで探すこと)、過激化と結びつけるのはまったく難しいことではない。ここでの「機械」は影響を及ぼす機械だ。その機械は、機械の考えが私たち自身の考えだと思わせるのだ。

これはもはや「これは現実の世界ではない」というより「私の考えは本当は私自身の考えではない」ということなのだ。自分自身の考えでないなら、誰の考えなのか。その問いに答えれば、あなたは抑圧者を見つけることができる。

他でも、私たちは「自分で考える」というアプローチに失敗していることがわかる。現実世界という「外側」で、人類は行き詰っている。革命的なオリジナルのモーフィアスはいなくなり、新しいリーダーは終末的な脅威に直面し、リスク回避のために足踏みしている。前進するために必要な大胆な行動をとることができない、非力な政府の姿が目に浮かぶ。

倉庫の中には、たとえ不格好であっても、Mervを完全に拒絶する、ある種のネオフォビア(シャレで、意図的に)的ブーマーのメンタリティーがあるのだ。「私たちには優雅さがあった、スタイルがあった、会話があった、これは違う、ピーピーピー! 芸術も、映画も、本も、すべて優れていた! オリジナリティが大事だった!」。彼は、偉大だと思われていた過ぎ去った時代に戻りたがっている。泣き虫で屈辱的な野蛮人が、自分の適応能力のなさをテクノロジーのせいにしているのだ。

そして最後に、機械たちの内戦の存在がある。持続不可能でありながら止められず、自分自身を食べ始めてしまう。

「レザレクションズ」が進むべき道として提示するのは、ある意味で陳腐な「みんなで力を合わせよう」だ。しかし、その背後にある意味が、目的を持ったメッセージでそれ自体を豊かにしている。共通の敵は本来テクノロジーに関わるものだが、テクノロジーそのものではない。もしあなたが自分自身の心の牢獄に閉じ込められているのなら、脱出は幻想だ。

この映画で重要なポイントは、私たちが自らのために採用したプログラミングを拒否すること。それが、ハイテクな敵が悪意により意図的に作ったものであれ、自己反省の欠如によってより自然にたどり着いたものであれだ。

共存こそが私たちの進むべき道であり、そのためには相手に対する自分自身の先入観を疑わなくてはならない。人間と憎き機械が共存できるとは、ネオにとっては衝撃的だ。政治的な側面から深読みするのはやめよう。筆者は、これが超党派主義の寓話だとは思わない。むしろ、映画で使われた新しい用語について考える。彼らはロボットではなく「synthient(シンシエント)」だ。これは愉快な混成語で、若干手を加えることにより、代名詞と表示の問題を反映している。ジェンダーの様相は連続している。意識がそうでないと言えるだろうか。

「レザレクションズ」では他者との共存こそが唯一の現実的な道だ。ロボットと人間がこの星を共有しなければならない「現実世界」においても、AIさえも自分の役割と主体性を押しつぶされるように管理されて息苦しくなる「マトリックス」においてもだ。

最後に必ずやってくる「愛はすべてに勝つ」という瞬間とその後の大げさなアクションシーンの後、最後の対決が1つの視点を提供した。人間に自らを縛る縄を与えた「アナリスト」は、その方が人間は幸せになれるという。ネオとトリニティは、人々が自ら選んでその上を走っているとされる、テクノロジーのトレッドミルが機能するのは、真のつながりと真の喜びを妨げるように設計されているからこそだという。

独我論的な野蛮人や楽天的な受動的リーダーシップとは程遠く「レザレクションズ」は人々が自由に学び、成長できる包摂的で協力的な世界を支持する。なぜなら、人々を無知にし、分裂させていたツールと実体は、光とつながりをもたらすものと同じだからだ。

アクション映画としては、Lana Wachowski(ラナ・ウォシャウスキー)監督の作品はめちゃくちゃで、崩壊寸前だ。(筆者は口直しに「コマンドー」を観た)。しかし、そのあやしい出来映えはともかく、この映画が描く混乱こそがメッセージなのだ。この映画には、私たち自身と現代のジレンマが不穏なほど正確に描かれている。監督は、私たちが、世界をではなく、自らが課した限界を疑えば、もっと多くのことができると思っている。その信念が、監督が提案する「赤いピル」なのだ。

画像クレジット:Warner Bros Pictures

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

始まる前から終わっていた6人のベストセラー作家によるNFTの世界、「廃墟の王国」の顛末

米国時間10月25日の朝「The Ruin stirs, and the Five Realms rumble(廃墟が復活し、五つの世界の争いが始まる)」というサイトがウェブで公開された(現在はアーカイブ化されている)。サイトには次のように記されている。「New York Timesのベストセラー作家であり、数々の賞を受賞しているMarie Lu(マリー・ルー)、Tahereh Mafi(タヘラ・マフィ)、Ransom Riggs(ランサム・リッグス)、Adam Silvera(アダム・シルヴェラ)、David Yoon(デビッド・ユーン)、Nicola Yoon(ニコラ・ユン)が共同制作したファンタジー大作「Realms of Ruin(廃墟の王国)」に、みなさまをご招待いたします」と。

著名なヤングアダルト作家である彼らは、この発表をソーシャルメディアで共有し、ファンのためにTwitter、Instagram、Discordサーバーを開いて、従来の出版業界をWeb3の新たな時代に押し上げる、話題の新しいプロジェクトについて話し合った。Web3とは、プライバシー、データの所有権、作品(ファンによる創作物も含むと考えられる)の報酬に焦点を当てた分散型インターネットの進化形である。

この共同幻想作品を進めるにあたり、まず6人の作家が、彼らが著作権を持つ架空の世界について元となる12の物語を投稿する。ファンは(それをベースに)二次創作物を書き、それをSolanaブロックチェーンでNFT(非代替性トークン)としてミント(作成・発行)し、「Realms of Ruinに提出する。作家たちがファンが書いた二次創作物をおもしろいと思えば、それをプロジェクトの公式な物語の一部として宣言する。

数時間後、ファンがDiscordサーバーでプロジェクトへの懸念を展開した。作家が作った世界についての二次創作物をファンが書いた場合、その二次創作物の所有権は誰が持つのか?二次創作物をNFTとしてミントすると、二次創作物の著作権はどうなるのか?さらに、作家たちがターゲットとする読者は、CoinbaseやGeminiのようなプラットフォームで暗号資産を購入するには若すぎることを考えると、懸念はさらに悪化するのではないか?

ハーバード大学ロースクール、フランク・スタントン憲法修正第1条の教授、Rebecca Tushnet(レベッカ・タシュネット)氏は、この状況を次のように的確に表現する。「人々が理解できないターダッキン(七面鳥にダックとチキンを詰めて焼いた料理、詰め込まれた状況の例え)のようなものだ」。つまり、一般的なNFTの問題に加えて、著作権の問題や、二次創作作家が商業的な環境で作品を収益化することに躊躇してきたという歴史的な問題が詰め込まれているのだ。

6人のヤングアダルト作家と9人の開発者チームは、2カ月間、昼夜を問わず休暇も取らずにRealms of Ruinの実現に向けて取り組んだが、発表から数時間後、大きな反響を呼んだこのプロジェクトは中止された。

TechCrunchは、Realms of Ruinプロジェクトに詳しい関係筋から匿名で話を聞いた。関係筋によると、開発者チームと協力してプロジェクトを進めていた作者たちは、得るものよりも失うものの方が大きいと判断してプロジェクトを終了したとのことだ。

プロジェクトはさまざまな要因が重なって最終的に破綻した。ターゲットとしていたユーザー層はNFTのミントによる環境への影響を懸念していたものの、NFTの仕組みを十分に理解していたわけではない。プロジェクトのさまざまな要素も事前に十分に検討されていなかった。また、ファンは自分の二次創作物を収益化することで生じる法的な問題を懸念していた。

新興技術のディストピア

「Realms of Ruin」に参加したマリー・ルーやタヘラ・マフィの作品のような、気候変動などの現実の問題に対する不安を反映したディストピア小説に惹かれるヤングアダルトの読者は多い。マリー・ルーの未来小説は、気候変動による大惨事が差し迫っていることを予見させるもので、それを読んだユーザーは、NFTをミントする際の環境コストに関心を持っていた。

イーサリアムやビットコインのようなブロックチェーンは「Proof of Work(PoW、プルーフオブワーク、暗号資産とブロックチェーンを紐づける仕組み)」という取引の正当性を検証するアルゴリズムで「計算」を行っている。この計算はエネルギーを大量に消費し、効率が悪い。

そのため、Twitterなどでは、自然災害の頻度が増加しているという投稿と、米国の平均的な家庭の1週間分の電力と同じだけのエネルギーを消費する暗号取引で高価なJPGを購入するユーザー、というニュースが混在し、認知的不協和が生じている。しかし、Realms of Ruinは、Solanaブロックチェーンを使用していることをアピールして、こういった懸念を軽視していた。

アーカイブされる前のプロジェクトのウェブサイトには次のように書かれていた。「Realms of Ruinは、環境への影響を最小限に抑えた低コストの取引を実現するためにSolana上に構築されています」「ここまで読んでくれたあなたは、Solanaブロックチェーンで物語からNFTをミントする際に必要なエネルギーよりも多くのカロリーを消費しています」。

現在イーサリアムでミントされるNFTとは異なり、SolanaでNFTをミントするための取引手数料は1セント以下になる。Solanaブロックチェーンの開発元、Solana Labs(ソノララボ)のコミュニケーション責任者であるAustin Federa(オースティン・フェデラ)氏は、TechCrunchの取材に応じ「SolanaでNFTをミントする際に必要なエネルギーは、30mlの(室温の)水を沸騰させるのに必要なエネルギーよりも小さい」と話す。これはSolanaが部分的に「Proof of Stake(PoS、プルーフオブステーク、PoWの代替システム)」という、PoWよりも検証に必要なエネルギーが少ないアルゴリズムを利用しているからだ。しかし、10代のファンがブロックチェーンの違いを十分に理解しているとは思えない。プロジェクト発表後のツイートの中には、NFTをミントすることをアマゾンの熱帯雨林の破壊に例えているものもあった。

このような理解の不足は、暗号化技術が解決しなければならない大きな問題、すなわち一般のユーザーにどのように理解してもらうか、という問題を象徴している。

フェデラ氏は次のように話す。「人はNFTと聞いて、クリスティーズ(老舗オークションハウス)で6900万ドル(約78億5000万円)で売買されるものか、非常に暗号化されたものかのどちらかを思い浮かべます」「私がRealms of Ruinにとても期待したのは、彼らがそのギャップを少しでも埋めようとしていたからです」。

計画性の欠如、説明不足による懸念

もう1つの問題は、NFTの、いわゆる「ガス代(手数料)」をめぐる誤解だった。

一般的にNFTをミントする際にはガス代がかかる。イーサリアムブロックチェーンでは、ミントにかかるコスト(ガス代)が高く未だに重大な参入障壁となっているが、Solanaブロックチェーンではわずか数円しかかからない(フェデラ氏は、Solanaネットワーク全体で長期的に手数料を低く抑えるように設計されていると付け加える)。Realms of Ruinの世界に創作物を提出する際は、NFTをミントするためにガス代の取引が発生するが、ファンの間では「二次創作物を書くために作者にお金を払わなければならない」という誤解が生じてしまった(実際は、ブロックチェーンでのミントの一環として手数料が発生する、が正しい)。

原作者がほとんど介入しない活発なファンコミュニティがオンラインで無料で展開される現在、こういった誤解は厄介だ。

ヤングアダルト作品を扱うエージェントであるMegan Manzano(ミーガン・マンザノ)氏は、TwitterでRealms of Ruinに対する懸念を表明している。「もっと検討できたのではないか、あるいはどこかに正しいことを説明するセクションが用意されていたのではないか……事前に説明できたはずの質問がたくさんあったように感じました」。

また、キャラクターのNFTを収集品として販売するというRealms of Ruinの計画も戸惑いの対象となった。プロジェクトのマーケティングでは、これらのデジタル収集品がストーリーの共同執筆という要素とどのように関わりあうかも不明瞭だった。

関係筋によると、キャラクターNFTの販売は、すでに暗号化技術に慣れている人を対象にすることを意図していて、利益は「Community Treasury(コミュニティトレジャリー)」に充てられ、ガス代の補助や、おもしろいストーリーに対する暗号化技術でのインセンティブの提供など、コミュニティが定めるあらゆるベネフィットのために利用されるという。しかし、キャラクターのNFTを持っていないとそのキャラクターが主人公の創作物を書くことができないと思い込むファンも存在し、プロジェクトの開発者はRealms of Ruinのウェブサイトで、それが誤りであることを適切に説明していなかった。

この関係筋は、Community Treasuryの内容についても説明が不十分だったと認めている。

ある開発者はDiscordで次のようにコメントした。「近いうちにコミュニティでいつ、どのようにTreasuryを利用するかを決定します。そのような決定をするための仕組みを作っていきたいと思っています」。

ファンからは次のような質問があった。「このコミュニティは現在、事実上このDiscordだけで成立していますが、仮に私たち全員がトレジャリーの収益をすべてユニセフに寄付すると決めたら、そうするのですか?」。

「はい、そうです(もう少し複雑ですが)」と開発者は答え「みなさんが知りたいと思っているすべての質問に対する答えが準備できていないことがわかりました。質問に答えられるように努力します」とコメントした。

ファンからは「発表時にこれらの回答がないのは無責任だ」という指摘があったが、関係筋によれば、このプロジェクトは11月8日から展開される予定となっていて、今回の発表は(ローンチではなく)ティーザー(宣伝したい商品の要素を意図的に隠して注目を集める広告)を目論んだものではないか、と話す。

二次創作物と所有権、NFT

二次創作物は著作権や所有権といった厄介な問題をはらみながらも肥沃な市場である。

トップクラスの二次創作作家であれば、オンラインでの成功を現実の出版へとつなげることもできる。オンラインで何万人もの読者を獲得することができれば、オリジナルのキャラクターとオリジナルのストーリーで、 New York Timesのベストセラーリストに名を連ねることができても不思議はない。

最近の例としては、2019年に出版されたTamsyn Muir(タムシン・ミューア)の「Gideon the Ninth(第九のギデオン)」があり、New York Timesは「過剰な宣伝をすべて実現した壊滅的なデビュー作 」と評している。ミューアは、自分が二次創作物を書いていたことを隠してはいない。また、二次創作物をはっきりと支持しているのが、マッカーサー財団の「ジーニアスグラント」受賞者であり、権威あるヒューゴ賞の最優秀小説賞を3年連続で受賞した唯一の作家でもあるN.K. Jemisin(N.K. ジェミシン)だ。収益面では「Fifty Shades of Grey(フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ)」シリーズのE.L. James(E.L. ジェイムズ)が、二次創作物をオンラインに投稿することでキャリアを構築した作家の最も良い例かもしれない。このシリーズが世界的にヒットする前、彼女は「Twilight」の二次創作物を書いていた。

しかし、オンラインプラットフォームを通じた二次創作物の収益化はもっと面倒な問題だ。例えばTumblrが有料のサブスクリプション商品「Post+」を展開すると発表した際、同社はこの商品で利益を得られるコンテンツクリエイターの例として、二次創作作家を挙げたが、これを見た作家たちからは、二次創作物を有料化することで法的な問題が発生するのではないか、という懸念の声が聞かれた。

「私が一番心配していたのは、(Realms of Ruinプロジェクトの作家たちが)ファンにたくさんの作品を書いてもらい、その中から自分たちの世界に合うものを選ぶ、という点でした。彼らがすでにこの世界を構築し、著作権を持っている、というのが厄介です」とマンザノ氏は話す。同氏は、二次創作作家たちが自分の作品を使って今後何をすることができるか、あるいは作品を認められたり報酬をもらえたりするかどうかが不明瞭だ、と話す。

このプロジェクトに近いTechCrunchの情報源は異なる意見のようだ。創立にかかわった6人の作家がRealms of Ruinの著作権を所有しているとはいえ、(少なくともウェブサイトのアーカイブによれば)二次創作作家はフランチャイズの所有権を持たずに大規模な出版プロジェクトに参加することで報酬を得ることができる。例えばスター・トレックの小説は850冊以上出版されているが、その作家たちは「スター・トレック」の権利を有しているわけではない。

前述のレベッカ・タシュネット教授(大手二次創作サイト「Archive of Our Own」を運営する「Organization for Transformative Works(変形的作品のためのNPO)」の法務チームのメンバー)は、こうした疑問(に対する回答)はRealms of Ruinと作家の間で実際にどのような契約が結ばれているかによって異なる、と話す。

タシュネット教授はTechCrunchの取材に応じ「プロジェクトが権利を認めているのであれば、著作権侵害の問題ではなく所有権の問題になります。これは契約内容で決定されます。しかし、一般的に予想されるのは、二次創作作家には限られた権利しかない、ということです」と話す。Realms of Ruinプロジェクトは正式に開始される前に閉鎖されたため、契約の詳細は不明である。

「二次創作の権利は最も面白みのない話でしょう」とタシュネット教授は続ける。「作家が『私が作った世界を利用して遊んで欲しい。収益の一部も支払います』ということは珍しくありません。Kindle Worldsもこのような試みでしたが、最終的には採算が合わなかったようでAmazonはKindle Worldsを閉鎖してしまいました」。

二次創作作家たちの多くは、Kindle Worldsのようなプロジェクトは「企業がコミュニティから利益を得るための見え透いた手段」であるとして懐疑的である。こういった疑念は、Archive of Our Ownの設立時にまで遡る。

2006年「FanLib」というプラットフォームがベンチャーキャピタル投資で300万ドル(約3億4000万円)を調達し、著作権者(「スター・トレック」を所有するViacomCBSなど)が二次創作コンテストを開催してファンと交流できるプラットフォームを立ち上げた。しかし、当時の二次創作作家たちは「FanLibはコンテストに入賞しなかった人も含めて、すべての応募者に作品の権利を放棄させ、FanLibによる商業目的での使用を許可するよう要求している」とこれを批判した。これらの二次創作作家が「スタートレック」の著作権を所有していないことは当然だが、これらの作家にとっては、自分がページに載せた実際の言葉を所有すること、そしてViacomCBSが自分の作品を商業化したい場合は、自分が許可するかどうかを決定できる、ということが重要だったのだ。

推理小説作家で、自身も二次創作作家であることを公表しているNaomi Novik(ナオミ・ノヴィク)は、2007年にインターネット上のペンネームで画期的なブログ記事を投稿し、後に「Archive of Our Own」となるプロジェクトを提案した。Archive of Our Ownは広告のない、寄付ベースの、二次創作作家が運営する二次創作作家のためのプラットフォームで、二次創作物の合法性を前面に打ち出している。なお、FanLibは2008年までにディズニーに売却され、すぐに閉鎖された。

Archive of Our Ownは現在、PatreonやKo-Fiのようなサイトにリンクしてチップを募ることを禁止して、収益化によって起こりうる著作権の問題から作家を守るための活動をしている。

「二次創作物を収益化しようとする試みは往々にして多くの論争を引き起こします」とタシュネット教授は指摘する。「これまでの経験から、ファンのコミュニティを活性化できる最も良い解決策の1つは、コミュニティに任せ、実際には交流を制限することだとわかっています。その方がファンダム(熱心なファンや彼らによる文化、世界)にとっても、ファンダムを生み出す作品を作った作者にとっても、一番健全な状況を作れるようです」。

Realms of Ruinプロジェクトを知る関係筋は「Realms of Ruinをブロックチェーン上に構築することにしたのは、ブロックチェーンの技術で、二次創作作家が、その作家自身の作品であると保証されたうえで、合法的に作品の対価を得られる新しい方法を実現できるから」だと説明する。

ブロックチェーン上では、ストーリーがどのようにお互いに影響したかを系統で簡単に追跡することが可能で、作家同士がお互いの作品に刺激を与え合ったことを確認することができる。つまり、誰かが誰かのストーリーに呼応するストーリーを書いて、そのストーリーに紐づくNFTが高額で売却された場合は、インスピレーションを与えた作家にも報酬が支払われることになる。また、原作者にとってのNFTの魅力は、従来の創作文化での販売とは異なり、NFTが売れるたびに、原作者にも還元されるという点にある。従来の創作文化では、原作者が1万円で絵を売った後、買い手が10万円で転売した場合、(販売額の何パーセントかを原作者を受け取るという権利を明記した契約書がない限り、)原作者に対するロイヤリティは発生しない。

しかし、タシュネット教授は、二次著作物が直面する法的問題を解決するには、ブロックチェーンの利用だけでは不十分だと主張する。

教授は次のように話す。「NFTに没頭している人たちは、何か新しい問題を解決したと思っていますが、実際にはそうではありません。興味深い法的な問題があったとしても、それとNFTとの関連はただの偶然以上のものではなく、著作権に関する問題は現実世界の法律が決めることです」「この件に関して新しいことは何もありません。自分の原稿を船で送り出し、どこの国の法律が適用されるのかを調べなければならないということは、太古の昔から変わっていないのです」。

廃墟

結局のところ、Realms of Ruinは、数時間だけ公開され、アーカイブされてしまったプロジェクトだった。しかしながらRealms of Ruinの事例は、Web3を世界に広める際に、既存のインターネットコミュニティのスピリッツがどのように守られるのかについて(当然)懐疑的なコミュニティを説得しようとして直面するであろう課題を示している。

興味深いことに、Web3の価値観は、Archive of Our Ownのような二次創作物のメッカとあまり変わらない。どちらも現在よく見られるモデル、すなわちユーザーの関心の収益化と引き換えに無料のアクセスを提供する、広告付きのインターネットサービスを超えようとしている。

「この技術は、まだ信じられないほど初期の段階にあります」とフェデラ氏。同氏はRealms of Ruinに対する反発の多くは、ユーザーがブロックチェーンベースのプロジェクトを誤解していることによるもので、事実に基づくものではなかったと考えている。「しかしながら、いずれのプロジェクトも、暗号化技術とは何か、なぜそれをベースにプロジェクトを構築することにしたのかを、もっと上手に説明するべきです」。

Realms of Ruinを知る関係筋は、Web3を出版の世界に持ち込むのは時期尚早だろう、と話す。暗号化技術推進の先駆者たちが耳当たりの良い言葉で、作者がコンテンツに対して正当な報酬を得られる広告のないインターネットの世界を説いていても、多くのユーザーはこのエコシステムに懐疑的だ。ともすれば詐欺っぽい男性中心の暗号化技術のコミュニティで、外部からのアクセスも難しいように感じられる現状では、ユーザーを責めることはできない。

マンザノ氏は次のように話す。「導入にはまだ早すぎると思います」「著作権や、作家に期待されること、権利、商品化などを結び付けて考える必要があります。一定のルールや期待値が示されていないと、どっちつかずのいい加減なものになってしまうのではないかと心配しています。出版業界がこの分野を把握し、取引や商品化、ファンへの露出という問題に適切に統合するには、あまりにも新しすぎるのです」。

関係筋は、プロジェクトに協力している開発者と作家たちは、その辺り、すなわち、たとえばファンがRealms of Ruinのストーリーをオリジナルの小説にして販売した場合にどうなるのか、ということを十分に検討していなかったことを認めている。暗号化技術との連携よりも、Realms of Ruinの展開の不透明さの方が、プロジェクトの命取りだったのかもしれない。

「10代の頃の自分だったら、好きな作家が自分も参加できる何かを作っているのを見たら飛びついていたかもしれませんね」とマンザノ氏はいう。「ファンを集結して盛り上げるには、もっと緻密な方法があるように思います」。

画像クレジット:Grandfailure / Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Dragonfly)

架空TikTokスターのネットワークを構築するFourFrontがシード資金調達

あらゆる人気ソーシャルメディアプラットフォームが新しい世代のユーザーに新しいタイプのストーリーテリングを提供してきた。ショートフォーム動画プラットフォームのユーザーベースは急速に10億人を超え、ソーシャルメディアのスターの生み出し方を一変させたため、TikTokの影響はおそらく最も迅速なものだった。

FourFrontは、TikTokで新しいタイプのストーリーテリングを定義しようとしているメディアスタートアップだ。TikTok固有の感覚で脚本された短編連続ストーリーを演じる演者のネットワークを普及させることを目指している。架空のストーリーをVlog形式で配信することは、明らかにソーシャルメディアにとって新しい展開ではないが、FourFrontはTikTokの「For You Page(FYP)」の発見力を利用して、新しいオーディエンスを着実に増やしていきたいと考えている。

同社はこのほど、Bam VenturesやSlow Ventures、BDMI、Alumni Ventures GroupそしてHustleFundから150万ドル(約1億7000万円)のシード資金を調達した。

TikTokには数十人のキャラクターが登場しており、数十万人のフォロワーがいるものもある。しかし、すべてのキャラクターがヒットしているわけではなく、FourFrontのライターとソーシャルメディアストラテジストのチームは、9人のキャラクターを決め、これらのキャラクターは、演者たちが有機的に交差する「宇宙」を作り上げることを目指している。キャラクターの筋書きはFourFrontのチームが考えるが、動画の撮影は演者たちに任されている。

脚本化されたコンテンツはメロドラマ風であることが多いが、プラットフォーム上の人気動画のフォーマットに従っている・例えば、FourFrontの人気キャラクターである「Sydney」の動画では、「watch us confront my sister’s cheating fiancecé LIVE(私たちが姉妹の浮気相手と対決するところを見てください)」というが、この動画は6月に公開されて以来、約50万人のフォロワーを獲得している。Sydneyは、姉妹の浮気相手を捕まえるだけでなく、ルームメイトが賃貸契約を早期に破棄したことによるストレスや、出会い系アプリのカスタマーサポートで学んだことなどを語る。

FourFrontの共同創業者Ilan Benjamin(イラン・ベンジャミン)氏によると、キャラクターのネットワークが本物の人間と誤解されないようにしており、彼らのプロフィールでストーリーのフィクション性を強調し、それぞれの動画には#fictional(フィクション)のタグがつけてある。「オーディエンスを混乱させたり騙したりはしたくない、楽しんで欲しいだけだ」とベンジャミン氏はいう。

FourFrontのキャラクター「Tia」(画像クレジット:TikTok)

TikTokのコンテンツづくりでは、FYPの不規則性と付き合わなければならない。視聴者の多くはストーリーの途中でSydneyのようなキャラクターを認識するが、新しい視聴者はキャラクターとわかるまで時間がかかる。しかし既存の視聴者に長時間忍耐を強いるのもよくない。そのバランスが難しい。

ベンジャミン氏によると「状況設定は繰り返しが多くなるでしょう。常にバランスが勝負です。どの動画も、それ自身で自立していなければならないし、どの動画も何度見ても新鮮でなければなりません」。

現在、同社はキャラクターのスターたちとオーディエンスのネットワークづくりに力を入れており、AIによる会話機能のあるチャットボットなどを使って、対話能力を高めようとしている。また投票機能で、ストーリーの方向性を決めることもトライしたいという。

画像クレジット:TikTok

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(文:Lucas Matney、翻訳:Hiroshi Iwatani)