LINEで質問に答えるだけで車の一括査定や購入相談、フリークアウトが新サービス

車や不動産を売却する際、引っ越しを検討する際などに複数の業者に対してまとめて見積もりを依頼できる“一括査定サービス”。各社のサイト上で毎回同じような条件を入力する手間を省き、手軽に複数社を比較できる手段として様々な業界で広がってきた仕組みだ。

ただその便利さの一方で、実際に使ってみると「次から次へと電話がかかってきて対応が大変」「電話口で同じようなことを聞かれるのでだんだん疲弊する」といった課題もある。僕も過去に引っ越しの一括査定サイトを利用した経験があるが、想像以上に何件も電話がかかってくるのに疲れてしまって、申し訳ないけれど途中でそっと電源を切ってしまった。

さて、今回は“車の買取”領域において、そのような従来の一括査定サイトが抱えている課題を解決しようというプロダクトを紹介したい。

サービス名は「ビッドナウ車買取」。広告技術を軸に様々なプロダクトを展開してきたフリークアウトが、新規事業として本日5月9日にローンチしたものだ。

LINEを活用、質問に答えるだけで一括査定や購入相談

ビッドナウ車買取はLINEのチャットを活用することで手軽に、かつ負荷なく車の一括査定や購入相談ができるサービス。ユーザーがチャットボットの質問に答えていくだけで、複数の業者による査定金額を比較したり、車の購入サポートを受けられるのが特徴だ。

たとえば車の売却を考えている場合、車のタイプ(国産車or輸入車)、メーカー、車種、年式、走行距離、事故歴や車の状態などを提示される選択肢の中から選んでいく。回答にかかる時間はだいたい45秒程度。ここで登録した情報を元に、LINEのトーク上に各買取業者からコメントと査定金額がどんどん届く仕組みだ。

電話を受ける手間なく複数社の提案をパッと比較し、気になる業者が見つかれば個別でより具体的に内容を詰めることもできる。電車移動中など、ちょっとした空き時間に手軽に使えるのも利点。なお提案がくるのは最大で4社までとなっていて、エリアに応じて買取業社が決められているという。

車の購入相談に関しても大枠のフローは同様だ。基本的にチャットボットの質問に答える形で条件やニーズを絞り込み、ユーザーに合った業者をマッチングするのがビッドナウ車買取の役割。売却や購入意欲のあるユーザーを送客することで企業側からフィーを得るビジネスモデルのため、ユーザーは無料で使うことができる。

ローンチ時は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、山梨県、愛知県、大阪府、兵庫県からのスタート。ただし上記エリア内でも一部利用できないエリアがあるとのこと。

またLINEチャットによる一括査定・購入相談サービスと並行して、Webメディア上でカーライフ全般における情報発信にも取り組む。

電話で発生していた「不」をLINEで解消

これまで車の一括査定は、年間3兆円を超えると言われる中古車の小売販売市場における重要なチャネルのひとつとして機能してきた。

ただ冒頭でも触れた通りユーザーにとっては「電話がしつこい」「複数社との交渉が手間」といった点で改善の余地があり、買取業社にしても「電話連絡の体制が整った業者が一人勝ちで他社は電話も繋がらない」「ユーザーの取り合いが激化し、顧客獲得率が低下」「セールス担当者が疲弊したり、(ネガティブな口コミなど)電話営業によるリピテーションリスクも高まる」といった課題を抱えているという。

「最初に電話が繋がった企業が他社に顧客を奪わせないために長電話をしたり、強引な営業をしようとするケースも少なくない。買取業者に話を聞くと、2番目以降になった際は顧客の機嫌が悪く『まずなだめる所からスタートする』こともあるという。他よりもいい提案ができるのに、繋がった順番や電話スキルの問題で決まってしまうのは、双方にとってもったいない」(ビッドナウ車買取の責任者を務める胡桃沢精一氏)

上述したようにLINEを用いれば、ユーザーにとって負担となっていた「電話の問題」も解消できるほか、企業側も顧客と繋がった順番だけで大きく有利・不利が決まることなく、自分たちの提案内容で勝負しやすくなる。

近年コミュニケーションプラットフォームとして広い層に普及しているLINEにすることで、そもそも電話は使わないという世代にアプローチできる可能性もあるだろう。以前紹介した「確定申告の書類診断 by freee」やSBI損害保険の事故報告サービスなど、LINEをベースにしたプロダクトもどんどん増えてきている。昨年リリースの「ズボラ旅 by こころから」もまさにその一例だ。

ゆくゆくは他の領域への展開も検討

胡桃沢氏によると、昨年の夏頃からビッドナウ車買取の簡易版を作り、ユーザーテストに取り組んできたという。複数社の査定を比較すると見積もり金額に2倍の差がついたようなケースもあり、手応えも感じているようだ。

特に同サービスのキモとなるチャットボットとの質疑応答の部分については、質問数や質問内容、回答の選択肢のチューニングを継続的に実施。当初は実際に顧客と買取業者が個別でやりとりをするに至った割合は全体の50%ほどだったが、ローンチ前には70〜80%ほどにまで改善された。

まずは引き続きチャットボットの精度向上や機能拡充、外部ツールとの連携などに取り組みながら、車の一括査定と購入相談を軸にサービスを運営する計画。ゆくゆくは保険やローンなどクルマ領域で幅を広げていくことや、不動産など別ジャンルへの横展開も検討していくという。

JapanTaxiとフリークアウトが進める“新世代タクシー広告”「Tokyo Prime」が全国展開、決済機能付き新端末も

2018年に入ってから、国内タクシー業界の競争が激化している。

日本交通の子会社で、国内ではトップシェアを誇るタクシー配車アプリ「全国タクシー」運営元のJapanTaxiが2月にトヨタから75億円未来創生ファンドから10.5億円の資金調達を実施。タクシー向けのコネクティッド端末や配車支援システムの共同開発など、今後のチャレンジを明らかにした。

競合他社も黙ってはいない。中国を中心に配車アプリを展開する滴滴出行(DiDi)はソフトバンクとの協業を発表。Uberも第一交通と提携の協議を進めているし、ソニーがタクシー会社6社と組んでAIを使った配車サービスに取り組むことも明らかになった。

ユーザーにとってみれば、健全な競争によって少しでも日本のタクシーが使いやすくなることを期待したいところであろう。

利便性という観点では、配車だけではなく車内の設備やサービスも含めた「乗車中の体験」も重要だ。この「タクシーの乗車体験の向上」というチャレンジに、タブレット端末と広告という観点から取り組んでいる企業がある。JapanTaxiとフリークアウト・ホールディングスの合弁会社として2016年に設立されたIRISだ。

同社が展開するのはタクシー搭載のデジタルサイネージ「Tokyo Prime」。これまで都心を走る日本交通のタクシー4500台に端末を設置、動画広告を配信してきたが、2018年6月より日本交通以外の車両も対象に全国展開を開始する。

2020年までに5万台のネットワークを目指す

IRISが手がけるTokyo Primeについては、会社設立時にTechCrunch Japanでも詳しく紹介している。従来は「コンプレックス商材」が多かったタクシー広告。その概念を変え、都心でタクシーを利用する高所得者層をターゲットにした「プレミアム動画広告」を2016年にスタートした。

同社取締役COOの飽浦尚氏によると、立ち上げ当時は従来のイメージもあって顧客の開拓に苦労したそう。流れが変わったのは、トヨタが父の日キャンペーン(「Loving Eyes – Toyota Safety Sense」はSNSでも話題となった)の広告を出向したタイミングだ。これをきっかけに大手企業からの引き合いも増加。2017年9月以降は満稿状態が続き、10~12月の販売額は前年比で14.4倍に成長しているという。

「最初は(車内の広告について)邪魔くさいだけでは?という意見も周りからはあった。ただ実際にやってみると反響が大きく、ユーザーにもきちんと見てもらえるという手応えを感じている」(飽浦氏)

すでに述べたように、IRISでは6月から「日本交通のタクシー」「都内」という枠を超えて、Tokyo Primeの全国展開を始める。3月9日の時点で7都道府県、約1.5万台のタクシーへ端末の導入予定があり、2020年末までに合計5万台のネットワークを目指すという。

飽浦氏の話では、全国展開を通じて実現できることが大きく2つあるそうだ。1つは広告の観点で、(広告主にとって)リーチできる層が全国に広がるということ。もう1つは(ユーザーにとって)地方のタクシーの利便性向上だ。

Tokyo Primeでは主にナショナルクライアントの利用を見込んでいるため、全国規模で商品展開をしたい広告主にとってはより魅力的な広告商材になりえる。これはシンプルな話かもしれない。

一方で、地方のタクシーがより使いやすくなるという点についてはどういうことか。「(IRISの端末を導入することで)広告を流すだけではなく、アプリを通じた決済にも対応できる。決済端末として期待してもらっている側面も強い」(飽浦氏)

同社の端末を導入すると全国タクシーアプリ内の「JapanTaxi Wallet」機能だけでなく、スマホ決済サービス「Origami Pay」や「Alipay」からQRコードを用いてスムーズに代金を支払えるようになる。

開発中の新端末スクリーンの右側がカードリーダー

地方のタクシーに乗った際に、クレジットカードで支払いができなくて焦った経験のある人もいるかもしれない。対応できた方がいいことはわかっていても、決済端末の価格や決済手数料がネックとなって、地方にはカード決済を導入していないタクシー会社も多いという。

IRISの場合は端末の初期費用を抑えることに加えて、広告収益の一部をタクシー会社に分配(レベニューシェア)している点が特徴。まだ先の話にはなるかもしれないが、今後広告収益が増えれば「その収益で(端末導入費や決済手数料といった)コストを相殺できるようになるところまで目指したい」(飽浦氏)そうだ。

なお端末に関しては、これまで外部(レノボ)から調達していたものの、今後はオリジナルの新端末に変更。全国に展開していく予定だという。新端末はスクリーンの横にカードリーダーを搭載。クレジットカード決済やICカード決済にも対応する。また同時に、バッテリーを排除して車両から給電する。実はタクシーの車内というのは意外とハードな環境だ。毎日20時間ほど振動し、季節によっては温度上昇も大きい。これに耐えられる設計になっているという。

「決済機と戦うつもりはなく、新しい乗車体験を提供して、タクシーの全国の利用を変えていきたい。タクシー会社はこれまで決済費も通信費も手数料も、すべて『支払う側』だったが、広告での収入も得ることができる。さらに決済も、乗務員はタブレットで作業を見ているだけでいい。実は乗務員の高齢化は課題。日本交通では新卒を採用しているが、東京以外では厳しいところもある。機械に慣れていない乗務員が(新しい決済手段を)覚えるのも課題になっている」(IRIS代表取締役社長であり、JapanTaxiの取締役CMOでもある金高恩氏)

タクシー広告をデジタル広告に近づける

IRISでは全国展開に加えて、新たに2つの取り組みを始める。1つ目はGoogleが提供する「DoubleClick Bid Manager」から動画広告の買付をできるようにすること。つまり屋外・交通領域のタクシー広告をデジタル広告のようにオンライン上で買付、効果検証できるようにすることだ。

従来の屋外・交通広告では「表示回数やリーチ人数、購入人数などをログベースで計測できない」「データを活用した広告の出しわけや絞り込みができない」といった点が課題となってきた。

「たとえばFB広告と比べてどちらが良かったのかなど、デジタル広告と横並びで比較することができなかった。つまりROIがわかりづらく『(タクシー広告は)結局効果があったのか?』と言われる部分があった。(今回の取り組みにより)段階的にではあるが、デジタル広告のいいところを屋外広告にも取り入れられるようになる」(飽浦氏)

大手ブランドが最初の広告主としてすでに掲載を開始していて、今後本格的に拡大していく方針だ。

日経電子版の記事配信も

またもう1つの取り組みとして、4月2日よりTokyo Prime内で「日本経済新聞電子版」の新着記事をリアルタイムに近い状態で配信する。これは「タクシーの乗車体験を向上させたい」という同社の目的を考えると、もっともわかりやすい取り組みかもしれない。

現在Tokyo Primeではのべリーチ人数が月間で300万人を超えるが、その半数以上は都内勤務のビジネスパーソン。日経新聞を普段チェックしている人も多いだろうから相性はいいはずだ。

日経電子版がデジタル・サイネージに記事を提供するのは本件が初めてとのこと。Tokyo Prime内で配信される日経電子版の新着記事への広告掲載も4月2日週より開始するという。

全国展開、オンライン上での広告買付と効果測定、日経電子版記事の提供——。これらの取り組みを通じてIRISが目指すのは「タクシーの乗車体験を全国規模で変えていく」(金氏)こと。

加えて、日本語、英語、中国語、韓国語の4言語への対応や、音声、パネルタップ操作による翻訳通訳機能なども予定中。こちらは都内を拠点にする日本交通のタクシー100〜200台でテストを行うという。

「タクシー業界としてもこれまで乗車体験の向上にはずっと取り組んできたが、もっと改善できる部分もある。毎回の決済を楽にしたり役に立つコンテンツを届けたり、タブレットは(ユーザーの)乗車体験を良くすることに活用できる。普段からタクシーを利用する国内のユーザーだけでなく、これから増えるインバウンドのユーザーにもいい体験を提供できるように取り組んでいきたい」(金氏)

タクシーで「コンプレックス商材NG」な動画広告、日本交通とフリークアウトが新会社設立で

フリークアウトの本田謙社長(左)と日本交通の川鍋一朗会長(右)

フリークアウトの本田謙社長(左)と日本交通の川鍋一朗会長(右)

タクシーの広告といえば、消費者のコンプレックスに訴求するリーフレットを思い浮かべる人は多そう。例えば、飲むだけで痩せたり薄毛が治ることを謳うチラシ。僕も「ハゲの99%が治るって本当?」といったコピーに釣られ、手に取ったことはある。

いわゆる「コンプレックス商材」ではなく、大手のブランド広告を獲得しようと、都内タクシー最大手の日本交通がデジタルサイネージ事業に乗り出した。東京都心のタクシー100台にタブレット端末を設置し、全国規模で商品やサービスを展開する「ナショナルクライアント」の動画広告を配信する。

翌年に日本交通のタクシー3500台、2020年までに全国のタクシー5万台への導入を見込む。全国のタクシー会社に対してはタブレットを無償配布し、広告収益を分配することで普及を図る。

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大手ブランド広告を取り込む

日本交通とフリークアウトが合弁会社「株式会社IRIS」を設立し、動画広告商品「Tokyo Prime」を開発。都心でタクシーを利用する高所得者向けの「プレミアムメディア」という位置づけで、フリークアウトの顧客である航空会社や飲料メーカー、トイレタリー企業などを中心に販売していく。

デジタルサイネージは前部座席背面にタッチパネル対応の10インチタブレットを設置。乗客が運転手に行き先を告げてメーターが稼働した時点(つまり、もっともアテンションが集まるタイミングらしい)で、最長3分の動画広告を流す。丸の内や六本木のタウン情報なども提供する。

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僕も試してみたが、座って一息ついたタイミングで動画が流れると目を奪われる。見たくない場合はタブレットを操作して動画を消すことも可能だ

日本交通によれば、都内のタクシー平均乗車時間は18分間。その間に動画広告を流すことで、企業のブランドを深く浸透させられるとアピールする。

日本交通の川鍋一朗会長は、「都心のタクシー利用者は可処分所得が高く、繰り返し乗車するのが特徴。これまではこうした高所得者層へのマーケティングに注力できていなかった」と語る。

合弁会社のIRISでは広告掲載基準を厳格化。「コンプレックス商材」「ギャンブル」「美容整形」などの広告を掲載不可とし、大手のブランド広告を取り込む狙いだ。

デジタルサイネージ参入を支えた格安MVNO

ビーコンを使った「Physical Web(フィジカルウェブ)」にも対応し、車内で視聴した動画に関連するURLをスマートフォンにプッシュ通知する。この機能はスマホのGoogle Chromeで「フィジカルウェブ」とBluetoothを有効にしている場合のみ有効だ。

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タブレットはインターネット常時接続で、データ通信にはIoT向けの格安MVNOサービス「SORACOM Air」を採用した。通信料金が安い深夜に動画をダウンロードしたり、昼間はAPI経由で帯域制限するなどして、通信料を1台につき月額1000円以下に抑える。

このように低コストで運用できるサービスがあったことが、デジタルサイネージに参入できた要因でもあるようだ。

タクシーならではのターゲティング

日本交通とフリークアウトは今年1月、位置情報と連動するマーケティング事業で提携。日本交通子会社のJapanTaxiが提供する配車アプリ「全国タクシー」の位置情報を、フリークアウトの広告配信に活用する取り組みを始めていた。

フリークアウトにとって、デジタルサイネージは初の事業領域となる。本田謙社長は「今から行く場所がわかれば、乗車中に目的地に関連する広告が配信しやすくなる」と、タクシーならではのターゲティングに期待を寄せる。

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「全国タクシー」の位置情報をもとに、特定エリアにいる訴求したいターゲット層のみに対して、即座にオンライン上で広告を配信できる

フリークアウトは、広告主が広告を配信したいユーザー層を定義し、必要な広告枠をリアルタイム入札で買えるDSP(デマンドサイドプラットフォーム)を手がける。広告主は購買データや性別年齢、興味などでユーザーを絞り込めるが、これらに「今から行く場所」が加われば、より効果的な広告が打てるというわけだ。

ただし、「乗車時に目的地がわかる」というのは、配車アプリで降車地点を指定した場合に限られる。今後は、乗車時に運転手に目的地を伝える際、タブレットの音声認識で目的地を推定することも視野に入れている。

2020年までに多言語化、売上高100億円へ

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富士キメラ総研の予測によれば、2020年の国内デジタルサイネージ交通広告の市場規模は800億円。IRISは2020年までに全国5万台に導入し、売上高100億円を見込んでいる。インバウンド需要に向けて、デジタルサイネージの多言語化や決済対応も進める。

IRISは日本交通子会社のJapanTaxiが51%、フリークアウトが49%を出資。代表取締役には、JapanTaxi CMOの金高恩氏とフリークアウト経営企画室長の溝口浩二氏が就任した。