SpaceX、ブラックホールを観測するNASAのX線偏光望遠鏡を打ち上げ

SpaceX(スペースX)のFalcon 9ロケットが、NASAのX線偏光観測衛星「Imaging X-ray Polarimetry Explorer(IXPE)」を搭載して飛び立った。2017年に最初に発表されたIXPEは、ブラックホールや中性子星などの宇宙線源から飛来するX線偏光を測定できる初めての衛星だ。

冷蔵庫サイズのこの衛星には、光の方向、到達時間、エネルギー、偏光を追跡・測定できる3つのX線偏光望遠鏡が搭載されている。それらすべての望遠鏡からのデータを組み合わせることで、NASAはX線を放出する謎の天体がどのように機能しているのかをより深く知ることができる画像を形成することが可能になる。例えば、超新星残骸の中心で中性子星が高速回転している「Crab Nebula(かに星雲)」の構造をより詳しく知ることができるのではないかと期待されている。

ブラックホールを観測することで、人類がまだほとんど知らない宇宙の領域について、IXPEは科学者の知見を深めることができる。ブラックホールがなぜ回転しているのか、どのように宇宙の物質を飲み込んでいるのかなどの手がかりを得られるかもしれないとともに、新たな発見につながる可能性もある。今回のミッションの主任研究員であるMartin Weisskopf(マーティン・ワイスコフ)博士は、ブリーフィングで次のように述べている。「IXPEは、宇宙がどのように機能しているかについての現在の理論を検証し、磨きをかけるのに役立ちます。また、これらのエキゾチックな天体について、これまでの仮説よりもエキサイティングな理論を発見できるかもしれません」。

SpaceXは今回の打ち上げに、前回のミッションで使用したFalcon 9ロケットを使用した。順調にいけば、ロケットの第1段はIXPEを宇宙に運んだ後、同社のドローン船「Just Read the Instructions(つべこべ言わず説明書を読め)」に着陸する。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Mariella Moon(マリエラ・ムーン)氏は、Engadgetのアソシエイトエディター。

画像クレジット:NASA

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(文:Mariella Moon、翻訳:Aya Nakazato)

理化学研究所ら日本の研究グループが参加するX線偏光観測衛星IXPE打ち上げ、ブラックホールの詳細な観測が可能に

理化学研究所ら日本の研究グループが参加するX線偏光観測衛星IXPE打ち上げ、ブラックホールの詳細な観測が可能に

理化学研究所(理研)は12月9日、X線偏光観測衛星「IXPE」(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)がケネディー宇宙センターから打ち上げられることを発表した(日本時間9日午後3時に打ち上げられた)。ブラックホールに落ち込む物質の形、ブラックホール周辺の空間の歪み具合、中性子星の強い磁場で歪められた特異な真空などの「これまでの観測とはまったく質の異なるデータが得られる」と期待されている。

これは、理化学研究所開拓研究本部玉川高エネルギー宇宙物理研究室の玉川徹主任研究員、山形大学学術研究院の郡司修一教授、名古屋大学大学院理学研究科の三石郁之講師、広島大学宇宙科学センターの水野恒史准教授らからなる共同研究。アメリカとイタリアとの国際プロジェクトである「IXPE」衛星に、理研がX線偏光計の心臓部である「ガス電子増幅フォイル」を、名古屋大学が X線望遠鏡の「受動型熱制御薄膜フィルター」を提供している。またプロジェクトには日本から20名を超える研究者が参加している。これによりIPXEは、観測例が極めて少ないX線偏光を捉え「誰も見たことがない新しい宇宙の姿」を明らかにするという。

偏光とは、電磁波の偏りのこと。偏光サングラスは、この光の性質を利用して眩しい光をカットし、風景がはっきり見えるようにしている。同じように、X線偏光を利用することで、X線を放射する天体の詳細な観測が可能となる。X線は大気に遮られてしまうため、宇宙で観測するしかない。そのためX線天文学が始まったのは、人工衛星での観測が可能になった1960年代からのこと。日本ではJAXAの宇宙化学研究所を中心に研究が進められていて、X線天文学は「日本のお家芸」ともいわれている。

試験中の「IXPE」衛星

そんな中で、X線偏光観測の手段として本命視されているのが、NASAマーシャル宇宙飛行センターが中心となって提案されたIXPEだ。この衛星のX線偏光観測能力によって観測できるものには、たとえば、恒星とブラックホールが互いの周りを回っている連星系で、恒星から流れ出した物質がブラックホールが吸い込まれる際に形成されるプラズマの円盤「降着円盤」がある。降着円盤はブラックホールに近づくほど高温になり、ブラックホールの近くではX線を放出する。そのX線の偏光を観測できれば、どんなに高性能な望遠鏡でも観測できない遠くにある円盤の構造が「まるでその場にいるように」観測できるという。

IXPEは、SpaceXのFalcon 9ロケットで打ち上げられ、赤道上空高度600kmの軌道を周回する。最初の1カ月で機能や性能の評価を行った後に観測が開始される。運用期間は2年間となっているが、衛星の機能が維持されているかぎり延長されるとのことだ。

IXPEを載せたFalcon 9は、日本時間9日午後3時、ケネディー宇宙センターから打ち上げら、3時34分ごろに衛星を無事、切り離した。

画像クレジット:NASA / BallAerospace

超新星爆発の可能性が調査されていたオリオン座ベテルギウスの減光現象は「一時的な温度低下と塵の雲」との研究報告

超新星爆発の可能性が調査されていたオリオン座ベテルギウスの減光現象は「一時的な温度低下と塵の雲」との研究報告

ESO/M. Montargès et al

2019年末、天空で最も明るい星の1つであるベテルギウスが数か月間にわたって暗くなったとき、一部の天文学者はそれが超新星爆発の徴候ではないかと述べました。しかし、その後この赤く光る星は元の明るさに戻っています。

ではなぜ、当時この”The Great Dimming”と呼ばれる減光現象が発生したのか。その理由についての研究結果が報告されています。

ベルギーのルーベン・カトリック大学の宇宙物理学者エミリー・キャノン氏は、チリにあるVery Large Telescope(VLT)を使った観測結果から、原因はほぼ確実に地球とベテルギウスの間に巨大な塵の雲がかかったからだったと結論づけています。

研究チームは偶然にも減光が発生する数か月前の2019年1月にこの星の画像を撮影しており、その画像と減光が始まってからの2019年12月、2020年1月の3月に撮影した画像を比較することができました。

研究者らは、減光はベテルギウスの表面で一様ではなく、その南半球に暗い斑点が集中していたと報告しています。これは一時的また局所的にベテルギウスの表面温度が低下したために起こった減光現象だと推測されました。

一方で別の研究者らは、我々の住む星とベテルギウスの間に塵の雲が入ったため、夜空の月に雲がかかるようにその光が遮られた可能性を考えました。

そして天体物理学者のMiguel Montargès氏は「最も自然な結論は、両方の事象が起こったということです」と述べました。

現在のチームの仮説では、2019年後半にベテルギウスの南半球表面に一時的なコールドパッチが形成され、その冷却効果で一帯が暗くなったと考えられています。さらに、このコールドパッチによって星の表面から放出されたガスが冷えたことで塵の粒子が形成され、星の光がさらに遮られることになったと考えられます。

ただ、この報告に対して懐疑的な研究者もいます。

独マックス・プランク天体物理学研究所のThavisha Dharmawardena氏は、減光の際に塵の痕跡を探したものの、見つけることはできなかったとして「塵の証拠が得られるまで議論は続くだろう」と述べています。この意見に対してMontargès氏は「塵が見えなかったという人はおそらく誤りで、彼らが手にしているデータでは塵を見ることができないだけだ」と反論しました。

超新星爆発現象を見たいと思った人には残念かもしれませんが、今回の現象はベテルギウスが寿命を迎えようとしていることを示すものではなさそうです。

ではそれはいつ起こるのか?との問にMontargès氏は「それは今日ではないでしょう」と述べつつ「毎日、その日に近づいていることは間違いありません。しかしそれは今日でも明日でもなく、われわれが生きている間でもないでしょう」と付け加えました。

天文学的な時間でいえば”もうすぐ”でも、われわれ人間の尺度ではそれが数万年、数十万年だったりする可能性は大いにあります。

(Source:Nature。Via ScienceNewsEngadget日本版より転載)

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豪大学ジョイントベンチャーICRARがはくちょう座X-1は予測より大質量と報告、ブラックホール形成の常識覆す可能性も

NASA / CXC /M.Weiss

1964年に人類が初めてに発見したブラックホール、はくちょう座X-1が、実はこれまで信じられていたよりもはるかに巨大であるとの研究結果が発表されました。これにより天文学者たちはブラックホールの形成と成長のしかたを再考しなければならないかもしれません。

連星系を成しているとされるX-1は、これまで15太陽質量、つまり太陽15個分の質量とされていましたが、ハワイ~プエルトリコ間の米国各地に設置されたアンテナで構成された超長基線電波干渉計(VLBA)を用いた6日間の観測結果は、ブラックホールは21太陽質量を持つことを示しています。そして、われわれの星からX-1までの距離もこれまでの6000光年ではなく、7200光年を少し超えるぐらいに遠いことがわかりました。

銀河の中心にあるとされる超大質量ブラックホールが数百万から数十億太陽質量とされていることを考えると、恒星質量ブラックホールであるX-1の大きさなど宇宙のなかでは大したものでないように思えます。しかし、X-1が15でなく21太陽質量となると、ブラックホール形成のときに失われた恒星の質量の推定値も考え直さなければならなくなります。

ブラックホールの質量は、主にブラックホールになったもとの恒星の大きさと、恒星風(太陽風)の形で失われる質量の量に依存します。より高温で明るく輝く星はより重く、より多くの恒星風を生成する傾向があるとされます。そのため、星の質量が大きいほど、崩壊前および崩壊中に恒星風によって質量が失われやすくなり、ブラックホールが発する電波が強くなります。

しかし一般に、天の川銀河における恒星風の強さは、元々の星の大きさに関係なく、生成されるブラックホールの質量を15太陽質量以下にとどめる程度だと考えられていました。新しい調査結果はそうした認識をくつがえすものです。

「ブラックホールをこれほど重くするには、明るい星が一生の間に失う質量の量を減らす必要があります」と研究者は述べています。

新しいブラックホールの質量と地球からの距離の数値を使って計算した結果、はくちょう座X-1が信じられないほど速く、高速に近いほどの速さで回転していることが確認できたとのこと。これは、これまでに見つかった他のブラックホールよりも高速とのことです。

研究者らは、今後もX-1の観測を続けることを計画しています。オーストラリアと南アフリカで建設が進められているスクエア・キロメートル・アレイ(Square Kilometer Array:SKA)が稼働すれば、それを使った観測でX-1やその他のブラックホールの観測でより詳しいことがわかることが期待されます。天の川には1000万から10億のブラックホールが存在する可能性があり 、それらの少なくともいくつかを研究することで、この謎を解き明かすことができるかもしれません。
(Source:Science、via:MIT Technology ReviewsEngadget日本版より転載)

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